p-72 リボ核タンパク質複合体酵素rnase p 生命科学 の構造 ......rnase...

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SATテクノロジー・ショーケース 2019 RNAは、生体内において遺伝情報を伝達するための中 間産物として働くだけでなく、RNA自身が酵素として機能 し遺伝子の発現調節等に関与している。多くはRNAとタン パク質から構成される「リボザイム」あるいは「リボ核タンパ ク質複合体酵素」であり、タンパク質サブユニットの協同的 な相互作用によりRNA分子が活性化されることで機能を発 揮する。リボザイムの一種であるRibonuclease P(RNase P) は、タンパク質の生合成に重要であるtRNAの成熟化に関 与し、すべての進化系統ドメインに存在が確認されている (図1)。RNase Pに関する研究は、RNase Pの分子進化に 関する知見を得るだけでなく、報告例の少ないリボ核タン パク質複合体酵素におけるタンパク質のRNA活性化機構 を研究する上で非常に重要である。本会では、研究対象 としてきたアーキアRNase Pについて、これまでに得られ た結果からその構造と機能の相関について議論したい。 1.背景・目的 アーキアRNase Pは、Type-AあるいはType-Mに分類さ れる1分子のpRNAと、4~5種のタンパク質サブユニットか ら構成される。我々のグループでは、これまでにType-A に属する超好熱性アーキアPyrococcus horikoshii PhoRNase Pに着目し、構造および機能相関に関する研究を 行ってきた。現在までに、pRNAの持つステムループ構造 の活性への寄与 [1] 、およびタンパク質サブユニットの機能 と相互作用部位の解析を行うことでPhoRNase Pの三次元 再構成モデルを作製した [2] 。本グループでは、より幅広い 視野でRNase Pについての研究を進めるためにType-Mに 分類されるpRNAを持つ好熱性アーキアArchaeoglobus fulgidusAfuRNase Pを研究対象として扱うこととした。再 構成系における活性測定とサブユニット交換における活 性測定を検討することで、Type-AおよびType-Mにおける 活性化機構の相違を見出すこととした。 2.実験材料 PhoRNase Pの5種類の構成タンパク質( PhoPop5 、 PhoRpp30、PhoRpp21、PhoRpp29、PhoRpp38)とホモログ 遺伝子であるAfuPop5、AfuRpp30、AfuRpp21、AfuRpp29、 AfuRpp38について、種々のカラムクロマトグラフィーを用 いて精製を行った。RNase Pの触媒中心であるpRNAと前 駆体tRNA基質については試験管内転写法で作製した。 3.結果および考察 ●再構成系におけるAfuRNase Pの活性測定 精製したAfuRNase Pのコンポーネントを用いて前駆体 tRNAの切断活性を測定した結果、切断活性能を持ち、最 適活性温度が75℃付近であることが明らかになった。 ●サブユニット交換における活性測定 両タイプにおけるタンパク質サブユニットの交換が可能 であるかについて切断活性を行った結果、Rpp38につい ては両反応系において交換可能であったが、他のコンポ ーネントについては有意な活性を示さなかった。また、複 合体毎でのサブユニット交換を行った結果、Type-Aのタ ンパク質サブユニットではType-MのpRNAを活性化できな いことが示唆された。逆に、Type-Mのタンパク質サブユニ ッ ト で は Type-A の pRNA を 、 AfuRpp21-AfuRpp29 、 AfuPop5-AfuRpp30-AfuRpp29の条件で交換した時に活性 を示した。これらの結果から、Type-MのRNase Pは、 Type-AのRNase Pで見られたRNA-タンパク質間相互作 用と異なり、タンパク質-タンパク質間相互作用が活性化 機構に重要であることが示唆された。 [1] Ueda et al ., J B i o c h e m . , 155(1):25-33, 2014 [2] Gao et al ., B i o c h e m B i o p h y s R e s C o m m u n . , 493(2):1063-1068, 2017 1ボザイム・リボ核タンパク複合体酵素 (2)アーキア(古細菌) (3)前駆体 tRNA の成熟化 中島 崇 1), 2) 、 進 和稀 2) 1) 九州大学大学院 生物資源環境科学府 生物機能科学専攻 2) 九州大学大学院 システム生命科学府 システム生命科学専攻 表発表1 2 P D 問合せ先 3 0 5 - 8 5 6 5 1 - 1 - 1 5 5 - 4 1 4 2 0 8 : 2 3 4 - 5 8 5 5 0 , : 0 3 - 3 5 9 9 - 8 5 5 0 e - m a i l : t o s h i f u m i - u e d a @ a i s t . g o . j p R N a s e P P-72 74

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  • SATテクノロジー・ショーケース2019

    ■ はじめに RNAは、生体内において遺伝情報を伝達するための中

    間産物として働くだけでなく、RNA自身が酵素として機能し遺伝子の発現調節等に関与している。多くはRNAとタンパク質から構成される「リボザイム」あるいは「リボ核タンパク質複合体酵素」であり、タンパク質サブユニットの協同的な相互作用によりRNA分子が活性化されることで機能を発揮する。リボザイムの一種であるRibonuclease P(RNase P)は、タンパク質の生合成に重要であるtRNAの成熟化に関与し、すべての進化系統ドメインに存在が確認されている(図1)。RNase Pに関する研究は、RNase Pの分子進化に関する知見を得るだけでなく、報告例の少ないリボ核タンパク質複合体酵素におけるタンパク質のRNA活性化機構を研究する上で非常に重要である。本会では、研究対象としてきたアーキアRNase Pについて、これまでに得られた結果からその構造と機能の相関について議論したい。 ■ 活動内容 1.背景・目的

    アーキアRNase Pは、Type-AあるいはType-Mに分類される1分子のpRNAと、4~5種のタンパク質サブユニットから構成される。我々のグループでは、これまでにType-Aに属する超好熱性アーキアPyrococcus horikoshii(Pho) RNase Pに着目し、構造および機能相関に関する研究を行ってきた。現在までに、pRNAの持つステムループ構造の活性への寄与[1]、およびタンパク質サブユニットの機能と相互作用部位の解析を行うことでPhoRNase Pの三次元再構成モデルを作製した[2]。本グループでは、より幅広い視野でRNase Pについての研究を進めるためにType-Mに分類されるpRNAを持つ好熱性アーキアArchaeoglobus fulgidus(Afu) RNase Pを研究対象として扱うこととした。再構成系における活性測定とサブユニット交換における活性測定を検討することで、Type-AおよびType-Mにおける活性化機構の相違を見出すこととした。 2.実験材料

    PhoRNase Pの5種類の構成タンパク質(PhoPop5、PhoRpp30、PhoRpp21、PhoRpp29、PhoRpp38)とホモログ遺伝子であるAfuPop5、AfuRpp30、AfuRpp21、AfuRpp29、AfuRpp38について、種々のカラムクロマトグラフィーを用いて精製を行った。RNase Pの触媒中心であるpRNAと前駆体tRNA基質については試験管内転写法で作製した。

    3.結果および考察 ●再構成系におけるAfuRNase Pの活性測定

    精製したAfuRNase Pのコンポーネントを用いて前駆体tRNAの切断活性を測定した結果、切断活性能を持ち、最適活性温度が75℃付近であることが明らかになった。 ●サブユニット交換における活性測定 両タイプにおけるタンパク質サブユニットの交換が可能であるかについて切断活性を行った結果、Rpp38については両反応系において交換可能であったが、他のコンポーネントについては有意な活性を示さなかった。また、複合体毎でのサブユニット交換を行った結果、Type-Aのタンパク質サブユニットではType-MのpRNAを活性化できないことが示唆された。逆に、Type-Mのタンパク質サブユニッ ト で は Type-A の pRNA を 、 AfuRpp21-AfuRpp29 、AfuPop5-AfuRpp30-AfuRpp29の条件で交換した時に活性を示した。これらの結果から、Type-MのRNase Pは、Type-AのRNase Pで見られたRNA-タンパク質間相互作用と異なり、タンパク質-タンパク質間相互作用が活性化機構に重要であることが示唆された。 ■ 関連情報等(関連論文、特許関係、施設) [1] Ueda et al., J Biochem., 155(1):25-33, 2014 [2] Gao et al., Biochem Biophys Res Commun.,

    493(2):1063-1068, 2017

    ■キーワード: (1)リボザイム・リボ核タンパク質複合体酵素

    (2)アーキア(古細菌) (3)前駆体 tRNA の成熟化 ■共同研究者: 中島 崇 1), 2)、 進 和稀 2) 1) 九州大学大学院 生物資源環境科学府

    生物機能科学専攻 2) 九州大学大学院 システム生命科学府

    システム生命科学専攻

    代表発表者 上田 敏史(うえだ としふみ) 所 属 産業技術総合研究所 創薬基盤研究部門 イノベーションスクール 12 期 PD 生

    問合せ先 〒305-8565 茨城県つくば市東 1-1-1 つくば中央第 5 5-41 棟 4208 室 内線: 234-58550, 外線: 03-3599-8550 e-mail: [email protected]

    生命科学

    リボ核タンパク質複合体酵素 RNase P の構造機能相関に関する研究

    P-72

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