p-86 高効率水素液化用磁気冷凍材料開発 · (研究代表者:西宮...

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SATテクノロジー・ショーケース 2020 液体水素は気体水素の1/800の体積であるため、大量 輸送、大量供給、大量貯蔵、省スペース等の特長があり、 水素エネルギーの本格的な普及には欠かすことができな いエネルギーキャリアの1つである。しかし、液化温度が 20K-253℃)の極低温のため、液化には相応のエネルギ ー投入が必要であり、大幅なコストダウンを図るには、高 効率化が不可欠となる。既存の気体冷凍技術は、圧縮機 や液化方法に原理的な非効率性が内在しており、 50を超える液化効率の達成は容易ではない。磁気冷凍は、 磁性体内の磁性原子が持っているスピンを磁場で磁化 (消磁)を行う事で、発熱(冷却)を行っている(図1参照)。 磁気冷凍では気体冷凍のよう大型のコンプレッサー等を 使わないため、原理的に50%以上の高い液化効率が期待 できる。 我々はJST未来社会創造事業大規模プロジェクト型 「磁気冷凍技術による革新的水素液化システムの開発」 (研究代表者:西宮 伸幸NIMS招聘研究員, 2019年度~最 10年間)に取り組んでいる。このプロジェクトには、NIMS金沢大学、大島商船高専、京都大学、九州大学、 ()川製作所、日本イットリウム()、住友重機械工業()、岩 谷産業()が参画している。具体的には、原理的に高い 冷凍効率が期待できる磁気冷凍法を用い、磁気熱量効果 の大幅な増加(従来比3)、ナノレベル表面改質による熱 交換やコーティング技術、および高効率と大容量を両立さ せる新しい磁気冷凍サイクル等のボトルネック課題に挑戦 する。これらを解決することにより、①液化効率50%以上、 液化量100kg/day以上を実現する中・大型高効率水素液 化機、②液化水素ゼロボイルオフを目指した小型・省電力 な冷凍機を開発し、この分野での国際競争力を高めるとと もに、我が国における水素基本戦略を大きく加速させる事 を目指している。本発表では、革新的磁気冷凍材料開発 活動内容を紹介する。 1.磁気冷凍材料の探索と創製 20K77Kの間に大きな磁気エントロピー変化-S mag 示す材料探索を行っている。例えば、水素液化温度に近 20Kで、0から5Tの磁場変化で-S mag = 0.15 J/cm 3 K非常に大きな磁気エントロピー変化を示す材料Er 5 Pd 2 を開 発している。一方、1300個の磁気冷凍材料データベース をもとに、機械学習から-ΔS mag の最大値を評価出来るモ デルを構築し、新材料の検討を開始している。 2.バルク機能評価 巨大磁気熱量効果発現メカニズムの解明に不可欠な、 中性子散乱法や高精度磁化測定等によるスピン構造解析 や量子振動効果等による電子構造評価等の最先端計測 技術と、これらの評価に耐える高品位試料の合成技術、 理論・シミュレーションとを組み合わせた高度な多面的バ ルク機能評価法の確立を目指している。例えば、従来は 磁気熱量効果を計測するのに、数mgの試料が必要であ ったが、新手法の開発により、100μg以下の試料でも評 価が可能となった。 3.表界面制御 磁気冷凍材料の劣化対策方法、熱交換向上のための 表面形状加工法を確立するとともに、液体水素のボイル オフの主原因の1つとしてオルソ・パラ変換の原理解明・ 飛躍的に高める触媒を提案する。例えば、材料中の水素 を実働環境下で可視化出来るオペランド水素顕微鏡の開 発に成功している。また、磁気冷凍材料DyAl 2 球へのバレ CVD装置による均質な水素バリアコーティング膜の開 発に着手した。 [1] 特開2016-529633磁気冷凍装置 [2] 特開 2015141016 磁気冷却器およびこれを含む冷 却装置 (2015) 他多数 本研究は、JST、未来社会創造事業、JPMJMI18A3 の支援を受けたものです。 代表発表者 ( N I M S ) 問合せ先 3 0 5 - 0 0 0 3 3 - 1 3 T E L 0 2 9 - 8 5 9 - 2 8 1 8 F A X 0 2 9 - 8 6 3 - 5 5 7 1 K I T A Z A W A . H i d e a k i @ n i m s . g o . j p 1)液体水素 2)磁気冷凍 3)磁性体 西宮伸幸(NIMS) 清水 (NIMS) 沼澤 健則(NIMS) 間宮広明(NIMS) 武田良彦(NIMS竹屋 浩幸(NIMS) 神谷 宏治(NIMS) 西島 (NIIMS) 図1.磁気冷凍の原理図 P-86 88

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Page 1: P-86 高効率水素液化用磁気冷凍材料開発 · (研究代表者:西宮 伸幸nims招聘研究員, 2019年度~最 大10年間)に取り組んでいる。このプロジェクトには、nims、

SATテクノロジー・ショーケース2020

■ はじめに 液体水素は気体水素の1/800の体積であるため、大量

輸送、大量供給、大量貯蔵、省スペース等の特長があり、水素エネルギーの本格的な普及には欠かすことができないエネルギーキャリアの1つである。しかし、液化温度が20K(-253℃)の極低温のため、液化には相応のエネルギー投入が必要であり、大幅なコストダウンを図るには、高効率化が不可欠となる。既存の気体冷凍技術は、圧縮機や液化方法に原理的な非効率性が内在しており、 50%を超える液化効率の達成は容易ではない。磁気冷凍は、磁性体内の磁性原子が持っているスピンを磁場で磁化(消磁)を行う事で、発熱(冷却)を行っている(図1参照)。磁気冷凍では気体冷凍のよう大型のコンプレッサー等を使わないため、原理的に50%以上の高い液化効率が期待できる。

■ 活動内容

我々はJST未来社会創造事業大規模プロジェクト型「磁気冷凍技術による革新的水素液化システムの開発」(研究代表者:西宮 伸幸NIMS招聘研究員, 2019年度~最大10年間)に取り組んでいる。このプロジェクトには、NIMS、金沢大学、大島商船高専、京都大学、九州大学、 (株)前川製作所、日本イットリウム(株)、住友重機械工業(株)、岩谷産業(株)が参画している。具体的には、原理的に高い冷凍効率が期待できる磁気冷凍法を用い、磁気熱量効果の大幅な増加(従来比3倍)、ナノレベル表面改質による熱交換やコーティング技術、および高効率と大容量を両立させる新しい磁気冷凍サイクル等のボトルネック課題に挑戦する。これらを解決することにより、①液化効率50%以上、液化量100kg/day以上を実現する中・大型高効率水素液化機、②液化水素ゼロボイルオフを目指した小型・省電力な冷凍機を開発し、この分野での国際競争力を高めるとともに、我が国における水素基本戦略を大きく加速させる事を目指している。本発表では、革新的磁気冷凍材料開発活動内容を紹介する。

1.磁気冷凍材料の探索と創製

20K~77Kの間に大きな磁気エントロピー変化-∆Smagを示す材料探索を行っている。例えば、水素液化温度に近い20Kで、0から5Tの磁場変化で-∆Smag = 0.15 J/cm3Kの非常に大きな磁気エントロピー変化を示す材料Er5Pd2を開発している。一方、1300個の磁気冷凍材料データベース

をもとに、機械学習から-ΔSmagの最大値を評価出来るモデルを構築し、新材料の検討を開始している。 2.バルク機能評価 巨大磁気熱量効果発現メカニズムの解明に不可欠な、

中性子散乱法や高精度磁化測定等によるスピン構造解析や量子振動効果等による電子構造評価等の最先端計測技術と、これらの評価に耐える高品位試料の合成技術、理論・シミュレーションとを組み合わせた高度な多面的バルク機能評価法の確立を目指している。例えば、従来は磁気熱量効果を計測するのに、数mgの試料が必要であったが、新手法の開発により、100μg以下の試料でも評価が可能となった。

3.表界面制御

磁気冷凍材料の劣化対策方法、熱交換向上のための表面形状加工法を確立するとともに、液体水素のボイルオフの主原因の1つとしてオルソ・パラ変換の原理解明・飛躍的に高める触媒を提案する。例えば、材料中の水素を実働環境下で可視化出来るオペランド水素顕微鏡の開発に成功している。また、磁気冷凍材料DyAl2球へのバレルCVD装置による均質な水素バリアコーティング膜の開発に着手した。

■ 関連情報等(特許関係) [1] 特開2016-529633号 磁気冷凍装置

[2] 特開 2015141016 号 磁気冷却器およびこれを含む冷

却装置 (2015) 他多数

謝辞:本研究は、JST、未来社会創造事業、JPMJMI18A3の支援を受けたものです。

資源・エネルギー

高効率水素液化用磁気冷凍材料開発

代表発表者 北澤 英明(きたざわ ひであき) 所 属 国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)

エネルギー・環境材料研究拠点

問合せ先 〒305-0003 茨城県つくば市桜 3-13 TEL:029-859-2818 FAX:029-863-5571 [email protected]

■キーワード: (1)液体水素 (2)磁気冷凍 (3)磁性体 ■共同研究者:西宮伸幸(NIMS)

清水 禎(NIMS) 沼澤 健則(NIMS) 間宮広明(NIMS) 武田良彦(NIMS) 竹屋 浩幸(NIMS) 神谷 宏治(NIMS) 西島 元(NIIMS)

図1.磁気冷凍の原理図

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