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漏水およびパイピングが発生している既設砂防堰堤での対策工法の検討 国土交通省 北陸地方整備局 飯豊山系砂防事務所 山本悟,吉田克美,高村清和,椙本陽介 アジア航測株式会社 ○堀口礼顕,澤陽之,中島達也,中鉢信幸,黒田直樹 株式会社 村尾技建 江村剛,波形治 1.はじめに 国土交通省北陸地方整備局飯豊山系砂防事務所で は昭和 42 年 8 月の羽越災害を契機として昭和 44 年 から砂防事業に着手し,現在まで 200 基以上の砂防 堰堤を建設してきた. 事業着手から現在まで 48 年が経過し,その間建設 された堰堤についても徐々に老朽化が進行し,損傷 が発生し始めている.これら老朽化が進行しつつあ る砂防堰堤のある地域で安心して暮らせるようにす るためには,適切な時期の的確な補修・補強により, 健全度を回復させる必要がある. 本検討では,損傷が発生している既設砂防堰堤に ついて,健全度を回復させるための対策工法を検討 した事例を紹介する. 2.報告対象施設の概要 対象とした既設砂防堰堤は,飯豊山系砂防事務所 管内の荒川流域内に位置する,竣工年が平成 2年(経 過年数 26年)の堰堤である.施工は,平成元年度に着 工し年度をまたいで翌年度に竣工している. 表.1 既設砂防堰堤の概要 【計画諸元】 【構造諸元】 流域面積:1.23km 2 ダムサイト地質:凝灰岩 洪水流量:21m 3 /s 貯砂量:27,200m 3 元河床勾配:1/19 堤高:14.0m,堤長:49.2m 天端幅:2.0m 副堤高:6.0m,副堤長:37.0m 側壁護岸:6.0m 水叩き:1.5m 図.1 対象施設の全景 3.施設の損傷状況 過年度の施設調査などから,本堰堤では主に「漏 水」と「パイピング(湧水)」が発生していることが 確認されており,本検討ではその状況を詳細に調査 した. 3.1漏水状況 漏水箇所は,例えば水褥池の上など,人が侵入して 長さなどを確認することが困難な場所が多かった. このため,UAV(無人航空機)により施設やその周辺 を撮影し,3次元モデルを作成(図.2)した.そのデ ータを基に漏水箇所を確認(図.3)した. その結果,漏水は3箇所から発生していることが 確認された. 図.2 3次元モデルから作成した堰堤正面写真 図.3 3次元モデルを利用した施設損傷図 3.2パイピング状況の確認 本堰堤におけるパイ ピングは堤体左岸袖部 と地山境界(図.4 参照) から発生していた. パイピングで発生し ている流水の流下量は 非常に多く,上流が湛水 した状況で 200~300ℓ /min が確認された. これ以外の周辺地山 からのパイピングは確 認されず,パイピングは 当該箇所のみで発生し ていることが確認され た. 湧水箇所 図.4 パイピング発生箇所 図.5 流水流下状況 漏水確認位置 Pb-91 - 784 -

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漏水およびパイピングが発生している既設砂防堰堤での対策工法の検討

国土交通省 北陸地方整備局 飯豊山系砂防事務所 山本悟,吉田克美,高村清和,椙本陽介

アジア航測株式会社 ○堀口礼顕,澤陽之,中島達也,中鉢信幸,黒田直樹

株式会社 村尾技建 江村剛,波形治

1.はじめに

国土交通省北陸地方整備局飯豊山系砂防事務所で

は昭和 42 年 8 月の羽越災害を契機として昭和 44 年

から砂防事業に着手し,現在まで 200 基以上の砂防

堰堤を建設してきた.

事業着手から現在まで 48 年が経過し,その間建設

された堰堤についても徐々に老朽化が進行し,損傷

が発生し始めている.これら老朽化が進行しつつあ

る砂防堰堤のある地域で安心して暮らせるようにす

るためには,適切な時期の的確な補修・補強により,

健全度を回復させる必要がある.

本検討では,損傷が発生している既設砂防堰堤に

ついて,健全度を回復させるための対策工法を検討

した事例を紹介する.

2.報告対象施設の概要

対象とした既設砂防堰堤は,飯豊山系砂防事務所

管内の荒川流域内に位置する,竣工年が平成 2年(経

過年数 26 年)の堰堤である.施工は,平成元年度に着

工し年度をまたいで翌年度に竣工している.

表.1 既設砂防堰堤の概要

【計画諸元】 【構造諸元】 流域面積:1.23km2 ダムサイト地質:凝灰岩 洪水流量:21m3/s 貯砂量:27,200m3 元河床勾配:1/19

堤高:14.0m,堤長:49.2m 天端幅:2.0m 副堤高:6.0m,副堤長:37.0m 側壁護岸:6.0m 水叩き:1.5m

図.1 対象施設の全景

3.施設の損傷状況

過年度の施設調査などから,本堰堤では主に「漏

水」と「パイピング(湧水)」が発生していることが

確認されており,本検討ではその状況を詳細に調査

した.

3.1漏水状況

漏水箇所は,例えば水褥池の上など,人が侵入して

長さなどを確認することが困難な場所が多かった.

このため,UAV(無人航空機)により施設やその周辺

を撮影し,3次元モデルを作成(図.2)した.そのデ

ータを基に漏水箇所を確認(図.3)した.

その結果,漏水は3箇所から発生していることが

確認された.

図.2 3次元モデルから作成した堰堤正面写真

図.3 3次元モデルを利用した施設損傷図

3.2パイピング状況の確認

本堰堤におけるパイ

ピングは堤体左岸袖部

と地山境界(図.4 参照)

から発生していた.

パイピングで発生し

ている流水の流下量は

非常に多く,上流が湛水

した状況で 200~300ℓ

/min が確認された.

これ以外の周辺地山

からのパイピングは確

認されず,パイピングは

当該箇所のみで発生し

ていることが確認され

た.

湧水箇所

図.4 パイピング発生箇所

図.5 流水流下状況

漏水確認位置

Pb-91

- 784 -

4.損傷の発生原因の推定

4.1漏水の発生原因

施設の損傷状況を確認した結果,当該砂防堰堤で

発生している漏水は全てコンクリートの打ち継ぎ目

で発生していることが確認された.

当該砂防堰堤は,年度をまたいで2箇年にわたっ

て施工を実施していることから,年度をまたいだコ

ンクリートの品質の違いによることが想定された.

そのため,当時の施工資料などから,起工年と竣工

年のコンクリートの打設状況と,現在の漏水状況を

重ねて因果関係を確認した(図.6).

この結果,施工年度の打ち継ぎ目と漏水発生箇所

に因果関係は確認できなかった.

図.6 対象施設の正面模式図

一方,打ち継ぎ目以外のコンクリートの状態は比

較的良好な状態を保っていた.

以上のことから,コンクリート打ち継ぎ目から発

生している漏水の発生原因は,レイタンス処理など

コンクリート打設時の打ち継ぎ面処理の不足による

ものと考えられる.

4.2パイピングの発生原因

湧水の発生原因については,「①.地山からの自然

の地下水」「②.堰堤の湛水の回り込み」「③.地山の

湧水と湛水の混在」が考えられた.

原因の推定のために,施工当時の資料,現場透水試

験,トレーサー調査,堰堤水位と湧水量の関係,水質

分析を実施した.原因として顕著であったのは堰堤

水位と湧水量の関係であり,堰堤の湛水位に応じて

堰堤袖部の湧水量が 0~300ℓ/min まで変化している

状況が確認された.

表.2 堰堤湛水位と湧水量の関係

堰堤水位 WL(m) 堰堤袖部の湧水量 Q(ℓ/min)

257.0m 以上 200~300 ℓ/min 強(急激に増加)

255.8~257.0m 0~36 ℓ/min(増減漸移)

255.8m 未満 0 ℓ/min

これらの結果から,総合的に判断して,湧水の発生

原因は「②堰堤の湛水の回り込み」である可能性が

最も高いと考えられる(図.7 参照).

図 7 湛水の回り込み模式図(正面図)

5.対策工の検討 5.1漏水対策工

漏水対策工法は,漏水原因を踏まえ確実な防水

性・水密性を回復させるとともに,耐久性も考慮した

工法を選定した.本検討では上流に土砂が堆積して

いることや砂防堰堤の漏水に対して実績のある「第

4案:背面止水膜形成注入工法」を採用した.

表.3 湧水対策工法の比較 工 法 注 入 材 評価

第 1 案 高圧注入止水工法 アクリル樹脂系

第 2 案 高圧注入止水工法 超微粒子高炉スラグ系セメント

第 3 案 高圧注入止水工法 グラウト樹脂系

第 4 案 背面止水膜形成注入工法 超微粒子ファインセラミック ○

5.2パイピング対策工

パイピングに対する対策工については,対策箇所

の部位ごとの対策工法や仮設なども考慮して検討し,

適用性が高いと判断された「第3案:既設堰堤残置

+可塑性グラウト注入+上下流間詰めコンクリート

+既設スリット」案を採用した(表.4参照).

表.4 パイピング対策工法の比較

湧水対策工法 第1案 第2案 第3案 第4案

堤体下部の透水箇

所に対する対策

コンクリートによる基礎地盤の置き換え

可塑性グラウト 注入

可塑性グラウト 注入

可塑性グラウト 注入

堤体下流面側での

湧水対策 間詰めコンクリートの設置

間詰めコンクリートの設置 根継ぎ工の設置

間詰めコンクリートの設置 根継ぎ工の設置

間詰めコンクリートの設置 根継ぎ工の設置

堤体上流面側での

湧水対策 間詰めコンクリートの設置

間詰めコンクリートの設置 根継ぎ工の設置

間詰めコンクリートの設置 根継ぎ工の設置

施工実施のための

仮設工の検討

既設堰堤 スリット化

既設堰堤 スリット化

既設堰堤 スリット化

遮水グラウトの 実施

本堤袖部の対策 袖部本体の 打替え

袖部本体の打替え 目地位置考慮

袖部本体は そのまま

袖部本体は そのまま

評 価 ○:選定

図 8 パイピング対策工模式図(左:正面図,右:側面図)

6.おわりに

砂防堰堤の老朽化が進行する中,本報告のような

既設堰堤の健全度を回復させる検討は,今後さらに

重要となる.

本報告が,これからの砂防堰堤の健全度回復の一

助となることを期待する.

年度打継目

起工年度施工

竣工年度施工

漏水箇所

間詰工

可塑性グラウト

根継工 根継工

間詰工

湧水発生位置

255.8m

257.0m玄武岩

Zb[CL-CM]

玄武岩

Zb[D-CL]

湛水の回り込み位置

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