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PHP Policy Review サイボウズに学ぶ 新しい組織、新しい経営 PHP Policy Review 2019.8.6 Vol.13-No.78 山田花菜 やまだ かな 政策シンクタンクPHP総研主任研究員 Talking Points 1. 社会の変化を敏感に捉え、国の動きに先駆けて新しい組織経営に取り組む サイボウズのチャレンジから、 ワークスタイルの多様化と組織としてのパフ ォーマンスや業績の向上の両立のヒントを探る 2. サイボウズの多様なワークスタイルと、 それを可能にしている人事システム やツール、 風土を詳細にひもとく ・100 人 100 通りの働き方をかなえる人事制度 ・多様な働き方を可能にする評価と給与 ・個性と自主性を重んじる人材配置 ・情報共有を支えるさまざまなツール ・個人の希望とチームワークを両立させるコミュニケーション ・多様性のベースにある価値観 3. サイボウズの取り組みから、ワークスタイルの変革を組織の競争力の向上に つなげるための留意点を確認する ・「制度」「ツール」「風土」を三位一体に改革する ・理念、 事業、 組織メカニズムの歯車とかみ合わせる ・組織のあり方を企業理念からゼロベースで見直す 4. 個人と組織が対等なパートナーシップを結び、 それぞれの幸福に配慮しなが ら、 互いにチームとしての総合力を高めるために協力し合うという組織と個 人の新しい関係を体現する企業として、 サイボウズには多様な働き方の実 現以外にも学ぶべき点が多い

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PHPPolicyReview

サイボウズに学ぶ新しい組織、新しい経営

PHP Policy Review2019.8.6

Vol.13-No.78

山田花菜 やまだ かな

政策シンクタンクPHP総研主任研究員

Talking Points

1.�社会の変化を敏感に捉え、国の動きに先駆けて新しい組織経営に取り組むサイボウズのチャレンジから、ワークスタイルの多様化と組織としてのパフォーマンスや業績の向上の両立のヒントを探る

2.�サイボウズの多様なワークスタイルと、それを可能にしている人事システムやツール、風土を詳細にひもとく・100人 100通りの働き方をかなえる人事制度・多様な働き方を可能にする評価と給与・個性と自主性を重んじる人材配置・情報共有を支えるさまざまなツール・個人の希望とチームワークを両立させるコミュニケーション・多様性のベースにある価値観

3.�サイボウズの取り組みから、ワークスタイルの変革を組織の競争力の向上につなげるための留意点を確認する・「制度」「ツール」「風土」を三位一体に改革する・理念、事業、組織メカニズムの歯車とかみ合わせる・組織のあり方を企業理念からゼロベースで見直す

4.�個人と組織が対等なパートナーシップを結び、それぞれの幸福に配慮しながら、互いにチームとしての総合力を高めるために協力し合うという組織と個人の新しい関係を体現する企業として、サイボウズには多様な働き方の実現以外にも学ぶべき点が多い

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PHP Policy Review  Vol.13-No.78 2019.8.6  PHP総研

■はじめに 2019年 4月より、働き方改革関連法が順次施行開始

となった。これらの法律の施行に伴う人事向けの法律セミ

ナーなども散見されるが、各企業は、「法律が変わったこ

とによって、うっかりコンプライアンス違反をしないために何

に注意しなければならないか」「何が変わるのか、それ

に合わせて自分たちはどう対応するのか」といった受け身

の姿勢ではなく、「なぜ変わるのか、そうした背景を受け

て自分たちはどうしていきたいのか」を主体的に考える能

動的な姿勢で臨むべきではないだろうか。

 そうしたロールモデルとして、本レポートでは、社会の

変化を敏感に捉え、国の動きに先駆けて新しい組織経営

に取り組むサイボウズのチャレンジを取り上げる。

 グループウェアの開発・販売を手掛けるサイボウズは、

「100人 100通りの働き方」を掲げた多様で柔軟な働き

方の実践などの先進的な取り組みで注目を集めている。

 サイボウズで実践されている多様な働き方は、戦後定

着したメンバーシップ型雇用を取っている日本企業からす

ると実現不可能なものにも見えるが、サイボウズは日本で

創業し、日本の法律の範囲内で活動している、従業員

数 500名を超える東証一部上場の大企業である。日本

の法律や規制は改革を阻む理由にはならないことを示す

事例としてサイボウズの挑戦を取り上げるとともに、さまざま

な改革を実行する上で押さえるべきポイントを、同社の実

践事例から探りたい。

 サイボウズでは在宅勤務をはじめとしたリモートワークの

導入はもちろん、勤務時間や出社日は従業員一人ひとり

による完全個別の申告制を取っている。副業も推奨し、

週に 4日間はサイボウズで勤務し、週 1日は別の仕事を

している従業員もいる。

 離職率が 28%に達したり、業績の下方修正を重ねたり

といった苦難の時代から、手当り次第に買収した事業の

大半を売却してグループウェアに事業を絞り込み、「100

人 100通りの働き方」を目指すようになるまでの紆余曲折

は、青野慶久社長の著書『チームのことだけ、考え

た。』(ダイヤモンド社)に詳しいが、2015年の同書発刊

から、サイボウズはさらなる進化を遂げている。

 サイボウズの働き方については、2017年 5月および

2019年 5月発行の PHP Policy Review(「経営戦略とし

ての働き方改革」「人口減少時代に選ばれる組織になる

ために」)でも取り上げているが、本レポートでは、進化

し続ける組織づくりのヒントとしてサイボウズの従業員の多

様な働き方を支える組織のあり方についてさらに詳細に取

り上げる。

 満員電車を避けて通勤したい、自宅で仕事をしたい、

転勤はしたくない、といった働き方に関する従業員の「わ

がまま」を認めていては、従業員は喜んでも組織として機

能することは難しいと考える人は多いだろう。しかし、サイ

ボウズはワークスタイルの多様化と組織としてのパフォーマ

ンスや業績の向上を両立できている。

 サイボウズで「働きやすさ(働く人の幸福)」と「組織

としての競争力の強化」が両立しているのは、多様なワ

ークスタイルを支える使い勝手のいいツールと従業員の個

性や主体性を尊重する柔軟な人事制度があり、その背

景にそうしたツールや制度を存分に活用できるような、多

様性を認め合う風土があるからだ。

 そして、そのさらに根底には「チームワークあふれる社

会を創る」という従業員共通の理想である理念への共感

と、理想に最短距離で到達するためにグループウェアの

開発と販売に絞り込まれた事業があり、市場競争力のあ

る製品を生み出して業績を伸ばしている。

 柔軟で多様なワークスタイルが注目されがちなサイボウ

ズだが、それは同社の多層的な取り組みの一面に過ぎ

ず、ワークスタイルの部分だけを見て真似ようとしても難し

いだろう。働く人々の希望に応じてワークスタイルを多様化

しつつ、組織としての競争力を強化するためには、理

念、事業内容、人事システムのすべての歯車がかみ合

っている状態であることが求められる。

 以下、サイボウズという組織においてこれらの要素がど

のように実践されているのか詳細にひもとき、最後にそれら

の実践事例から、さまざまな取り組みが場当たり的、表

層的なものに留まらず、真に組織に変革をもたらすものと

するための留意点に論及する。

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PHP Policy Review  Vol.13-No.78 2019.8.6  PHP総研

第一部:サイボウズの多様なワークスタイルを支えるしくみ

ワークスタイル

■100人100通りの働き方をかなえる人事制度【特徴】

・ 従業員一人ひとりが働く時間と場所を自ら選んで宣

言する「新・働き方宣言制度」

・短時間勤務以外は全員裁量労働制

・複業自由

・育児休業は男女問わず最長 6年間まで取得可能

・出戻り歓迎制度「育自分休暇」

 かつてサイボウズでは、働く時間(A:長い⇔ C:短い

で 3段階)と場所(1:オフィス⇔ 3:自由で 3段階)の

柔軟性によって、A1からC3に 9分類した中から働き方

を選択していたが、2018年度にこの制度を廃止し、完

全に自由記述で自らの働き方を宣言する制度へと移行し

た。

 理由は、枠を設けることに合理性がないという結論にな

ったことだ。9つのそれぞれの枠のボーダーライン周辺の

働き方を選んだ人が、どちらの領域の働き方になるかに

厳密な根拠はなく、感覚的に決められていたため、そもそ

も枠の中に無理にはめ込む必要がないのではないか、と

いうことになったのだという。

 9種類の働き方から選択していた頃は、給与の概念

が、時間区分とリンクしていた。しかし、たとえば A1の

働き方を選んでいた人が、B1の働き方に変更する場

合、給与をどうするのか、という問題が出てくる。Aから

Bへの変更は、働く時間を短くするということを意味する

が、実際には 1週間で 3時間短くなっただけ、という場

合、週 3時間分だけ給与を減らすのかどうか、その判断

は難しい。

 これが週 5日勤務から4日勤務への変更であればまだ

分かりやすく、給与も5分の 4をベースに検討することが

できるが、週 3時間の短縮では、アウトプットは減りそうな

「気がする」ものの、給与に反映させるときにいくらが妥

当なのか算出しにくい。結局はA1からB1に変更しつつ

も、給与は一旦そのまま据え置きにして様子を見て、半期

に 1度の評定会議で再検討、ということになっていた。

 枠を取り払って完全に個別管理ということになると、管

理業務がより複雑になり、人事部の負担が増すのではな

いかと思われるが、実際には「このくらいの勤務時間で

あれば、枠はこちら」ということを考えなくてよくなったた

め、人事部としてはむしろ楽になったという。

 現在では、たとえば「月火水木金・9時-18時オフィ

ス」「月火木金・10時-19時オフィス/水曜は在宅」

「月火水木金・満員電車を避けるため 9-10時は在宅

/ 11時-19時オフィス」「月火水木・9時-18時オフィ

ス/金曜日は複業」など、完全にフリーに自らの働き方を

宣言している。ライフステージの変化などによる変更も、

上司と相談の上随時可能だ。

 時間ばかりでなく、働く「場所」の自由度も幅広い。

在宅勤務を選択している従業員の大半は、通勤圏内に

住み、通勤時間の削減や家事・育児・介護などのため

に週に数回在宅勤務を行うかたちをとっているが、親の

介護のために事業所のない県へ帰郷して在宅で働く従業

員や、配偶者の転勤に同伴してヨーロッパで在宅で働く

従業員もいる。どちらもはじめは優秀な人材に働き続けて

もらうためにやむを得ずとった手段だったが、これらの遠隔

地勤務を認めたことで、嬉しい誤算が生まれた。

 介護のため帰郷したのは優秀な SEだったが、帰郷先

で中型・大型案件の受注率が一気に上がった。もともと

エース級の人材であったことに加え、人脈がある、ローカ

ルトークができるといった地元出身ならではの強みが生き

た。これを機に、サイボウズでは「ふるさと営業部」が

創設され、東京や大阪のオフィスで働く従業員も、月に 1

回程度、出身地での営業が促されるようになっている。ヨ

ーロッパでの在宅勤務では、時差の存在がメリットになっ

た。クラウドサービスは 24時間止めることができない。日

本で夜中にあたる時間帯に無理なく稼働できる人材がヨ

ーロッパにいるのは好都合だということに気づいたのだ。

どちらも従業員の個人的な事情を認め、それぞれが幸せ

に働けるかたちを探ったことが、企業としての強みとなっ

た例である。

 サイボウズでは、短時間勤務を選択した人や契約社員

以外は、全員が「専門業務型裁量労働制」もしくは

「企画業務型裁量労働制」を適用されている。裁量労

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PHP Policy Review  Vol.13-No.78 2019.8.6  PHP総研

働制の適用拡大に反対する意見では、「定額働かせ放

題」と揶揄されるように、裁量労働が残業代を支払わな

い大義名分に使われることが懸念されている。裁量労働

と言いながら業務の内容や量を主体的に選ぶことができ

ない職場では、そうした歪みが起きるリスクはたしかに高

い。しかし、サイボウズではどんな働き方をしたいかを自

分で選ぶことができるため、求められるパフォーマンスと働

く時間、それに対する報酬の間に、大きな乖離は生まれ

にくい。

 個々に宣言する勤務時間は、月の労働時間というより

も、「在オフィスの予定」であり、それとは別に、裁量労

働のみなし労働時間も含めて市場価値に基づいた給与を

決めている。時間管理はあまり重視されていないが、本

人が宣言しているみなし労働時間よりも実際の労働時間

が長くなることはめったにない。しかし、評価対象は働い

た時間ではなくパフォーマンスであるため、パフォーマンス

が上がっていれば、「宣言した時間より働いている時間が

短い」ことはまったく問題にされず、裁量労働制度の本

来のメリットがしっかり生かされていると言える。

 サイボウズでは副業も原則自由で、週に 4日はサイボウ

ズで働き、残り1日は副業に充てるという働き方も選択でき

る。リクルートキャリアによる2018年 9月の調査結果で

は、日本の大企業の 7割が副業を禁止していたが 1、そ

の理由としてよく挙がるものの中には、従業員の過重労働

の防止や情報漏えいリスクの回避と並んで、人材流出や

本業への悪影響の懸念がある。しかし、実は副業解禁

によって、人材の定着率の向上(離職率の低下)や従

業員のスキルやモチベーション向上に加え、本業の会社

への忠誠心が向上するという効果が見られるという調査

結果も出ている 2。副業禁止の企業の場合、従業員が

業務外のことにチャレンジするためには退職しなければな

らないが、副業可の企業であれば、本業の仕事を続け

ながらでもそうしたチャレンジが可能になる上に、副業によ

る学びを本業に活かすことも期待できる。厚生労働省は

2018年 1月に「副業・兼業の促進に関するガイドライ

ン」を作成し、企業が就業規則作成の際に参考とする

モデル就業規則からも「許可なく他の会社等の業務に従

事しないこと」という規定を削除した。日本経済新聞社に

よる大手企業を対象とした調査結果(2019年 3月末~ 4

月上旬)では、約 5割が副業を認めるスタンスを示す 3

など、副業人材は今後拡大することが予想される。サイ

ボウズでは、メインとサブというニュアンスの含まれる「副

業」ではなく、パラレルキャリアという意味の「複業」が

用いられ、ほかに仕事を持ちながらサイボウズでも働く複

(副)業人材の募集も行っている。

 さらには「育自分休暇」というものがある。これは、一

旦サイボウズを退職した後、6年以内であれば再入社を

認めるものだ。「育自分休暇」を申請して認められると、

退職時に「パスポート」が発行され、期限内に復職の

意思表示をすれば、採用選考を受けることなく再雇用さ

れる。退職しているので、当然給与はもらえないが、報

告義務などもなく、「育自分休暇」の期間中は、転職、

起業、留学、ボランティア、長期旅行など、何をするのも

本人の自由である。2012年の運用開始以降、20名ほ

どが育自分休暇を宣言して退職し、ベンチャー企業や外

資系コンサルティング会社に転職したり、青年海外協力

隊に参加したりしてきた。サイボウズへの復帰が義務付け

られているわけではないが、戻ってきて再入社した実例も

出始めている。

 サイボウズで働くのが嫌になったわけではないが、ほか

にもチャレンジしてみたいことがある場合、育自分休暇を

利用すれば、やりたいことを我慢しながら働き続ける必要

はなく、思い切って社外に飛び出してみることができる。

自社とは違う環境の中で成長した元メンバーが、新しいス

キルや文化を身につけて帰ってきてくれるのであれば、そ

れは素晴らしいことであり、社外での経験はきっとサイボウ

ズの仕事でも活かせると同社は考えている。失敗しても戻

る場所があるという安心感によって独立や転職のハードル

が下がり、離職率が高まるのではないかとも考えられる

が、それはその人材がより活躍できる場を見つけたという

ことだ。優秀な人材の定着を図ることはサイボウズにとって

ももちろん大切なことだが、選択肢を奪うことで人材を内

1 https://www.recruitcareer.co.jp/news/pressrelease/2018/181012-01/2 https://rc.persol-group.co.jp/news/201902150001.html3 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO45004150Z10C19A5MM8000/

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PHP Policy Review  Vol.13-No.78 2019.8.6  PHP総研

部に囲い込むのではなく、外の世界にチャレンジする機会

があっても、また戻ってきたくなるような求心力を持ち続ける

ことをサイボウズは目指している。

 また、育児休業は法で定められた期間を大きく超える

最長 6年間まで取得可能だ。これは厳密には休業期間

が 3年以上となる場合は一度退職するが、6年以内であ

れば再雇用が約束されている、というものである。一度

退職する理由は、育児休業期間に子が 3歳に達するま

では、企業も本人も免除される社会保険料が、それ以降

は発生するからだ。サイボウズには退職金制度がなく、

年功序列制度もないため、勤続年数のカウントが中断さ

れることに不安を抱く必要もない。三児の父でもある青野

社長が 3度とも育児休業を取得し 4、第三子の誕生時に

は、毎日16時に退社する短時間勤務を半年間取り入れ

たこともあり、男性従業員が 3ヶ月の育児休業を取得する

事例のほか、休みではなく毎日15時に退社する事例も見

られるようになってきた。法定の育児休業のあり方にこだわ

らず、それぞれの従業員が望むかたちを選べるのがサイ

ボウズ流だ。

 ブラック企業に対してホワイト企業という言葉があるが、

サイボウズが目指すのは「カラフル企業」だという。「全

員一律に残業をしない」「全員一律に育児休業を取得す

る」のではなく、「全員が自分らしく働ける」企業を目指し

ている。

 上記のようなさまざまな多様性が認められているもの

の、実際には、週に 5日間、出社時間は人によってばら

つきはありつつも、それぞれがある程度決まった時間にオ

フィスに出勤する働き方を選択している従業員が多いとい

うが、全体から割り戻した組織に都合のいいかたちに個

人をはめ込むのではなく、バラバラで多様な個人の合計

がチームという発想の組織づくりを進めてきたとも言える。

そのことによって、硬直化した人事制度の組織では難し

い短時間勤務者やパラレルワーカーを戦力として取り込む

ことに成功しているが、こうした完全に個別の働き方が可

能な背景には、日本企業には珍しい完全個別の給与シス

テムがある。

人事システム①

■多様な働き方を可能にする評価と給与【ポイント】

・年棒制

・内定者ごとに異なる初任給額

・給与テーブルなし

・ 給与は「市場性」×「信頼度」で年度ごとに個

別に決定

・降給あり

・退職金なし

 

 日本企業で一般的なのは、新卒で入社すると同期と同

額の初任給からスタートし、ある程度の年次・役職まで

は、年度ごとに横並びで定期昇給していく年功序列の給

与システムだ。手当や考課の差で多少の違いはあって

も、同期であれば、基本給は年次に紐づいたいわゆる給

与テーブルの狭いレンジに収まっているケースが多く、退

職金は勤続年数に応じて支払われるため、転職すると退

職金の受取額が小さくなり、生涯賃金にマイナスの影響

を与えると言われてきた。

 しかし、サイボウズには給与テーブルも退職金制度もな

く、年功要素が一切存在しない。給与は年棒制で、個

人の市場性と信頼度に基づいて、完全個別に決定され

る。市場性とは、「その人が転職した場合、転職市場で

どのくらいの値がつくか」ということだ。転職サイトなどの

求人条件を参考にしたり、他社からサイボウズに転職して

くる人材の前職の給与などの情報を蓄積したりしてきたこと

で、人材の市場性の相場感のようなものも積み上がってき

ている。しかし、たとえば転職サイトに登録してオファーが

来たとしても、その金額がそのままサイボウズでの給与とな

るわけではない。参考にはするが、社内での需給状況な

ども考慮し、あくまでも「サイボウズとしてその人材をいくら

で買いたいか」という価格が、サイボウズにおけるその人

材の市場価値となる。

 3年以上の育児休業や育自分休暇の制度を利用して

退職した人材が再入社する際には、通常の中途採用と

同じように、その時点でのその人材の市場価値に基づい

4 経営者は労働者ではないため、厳密には育児休業ではないが、会社業務から離れて育児に専念するため、2週間の休みを取った。

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て、給与や働き方を話し合って決定する。2018年から

は、新卒採用の初任給も人によってばらばらの金額になっ

た。まだサイボウズで働いたことがなく、実績のない内定

者をどう評価するのか。差がつきやすいのはエンジニア

だ。高い専門性を身につけていることが期待される院卒

は大卒より市場価値が高く見込まれるし、アプリ開発の経

験の有無も判断材料のひとつになる。文系の多い非エン

ジニア職の場合はエンジニアと比べると条件の差はつきに

くいが、たとえば内定の取得状況は指標のひとつとなる。

競合企業から内定をもらっている場合は、サイボウズにと

っても市場価値の高い人材である可能性がある。

「信頼度」はサイボウズの共通の価値観を表すキーワー

ドのひとつで、「覚悟」×「スキル」が信頼度となる。

「覚悟」と「スキル」は下記のようにサイボウズで評価さ

れる価値観で構成されていて、「信頼度が高い」というこ

とは、サイボウズの「Action5+1」で求められている各

項目を高いレベルで満たしているということだ。

「信頼度」は、厳密な数値化がされているわけではな

いが、サイボウズの従業員の間には「信頼度は高いほう

がいい」という共通認識がある。

 実は、市場価値も信頼度も、客観的な指標をもって厳

密に数値化することを目指してはいない。市場価値には

幅があり、信頼度は間違うことがあるからだ。まさに「適

当」に決められていて、市場価値も信頼度も、想定した

ものと違っていたら、「間違っていたね、次は間違えないよ

うにしよう」と反省を共有する。

 また、こうした「市場価値」×「信頼度」に基づく年

棒の額は、会社側が決めたものが一方的に従業員に通

知されるのではなく、会社と従業員の双方の合意によって

年度ごとに決められる。

 たとえば、A従業員の年棒は、まず本人と部長の間で

希望額などをやり取りし、それも考慮しながら部長と本部

長で本部案をつくり、一度目の評定会議にかける。ここで

は本部と人事部で話し合い、人事部は外部の人材市場

の相場や、最近転職してきた人材の相場、他部門の相

場などを見ながら助言・議論し、第一次案を決定する。

全従業員の一次案が出来上がると、社長を含む役員に

よる評定会議で再度検討し、最終的なプライシングが決

定する。こうして決定した給与額が本人に伝えられる

が、希望があれば、それぞれの段階でどのようなやり取り

を経てその値段となったのかという経緯も本人にフィードバ

ックされる。

 一連の議論は、交渉というほどでもなく、和やかに行わ

れることが多い。評定会議前の本人と上司の面談では、

「今後どのようなスキルを磨き、どのように仕事をしたいか」

「給与についてはどのように考えているか」といったことを

気軽に話し合い、たとえば本人からは「子どもが二人い

るので、給与額はこのくらいあれば嬉しい。転職などを考

えずに安心して働けるのはこのくらいだと考えている」とい

うリクエストがあり、上司はそれに対して「あなたに対して

図表1【Action5+1】※太枠内が5つのAction。+1は「公明正大」

あくなき探求(考える) スキル 問題を深く探求し、課題を設定する

知識を増やす(知る) スキル 役割(課題)を果たすために必要な知識を身につける

心を動かす(伝える) スキル周囲の協力を得るためにコミュニケーションを行い(課題

を伝え)、相手の行動を引き起こす

不屈の心体(続ける) スキル 任された役割(課題)をやめずに取り組み続ける

理想への共感(する) 覚悟 理想に共感し、理想に向かって課題を実行する

公明正大 覚悟公に明るいところで、正しいと大きな声でいえる行動、また

は言えること

※サイボウズ資料より筆者作成

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PHP Policy Review  Vol.13-No.78 2019.8.6  PHP総研

は今後はこのような働きを期待している。いまはいいペー

スでやっていると思うので、いま話したような希望で大丈夫

だと思う」といったことを伝えるかたちだ。

 稀に、本人の希望と評定会議の結果がかみ合わない

こともある。その場合は、納得できるまで対話を繰り返

す。本人の考える自分の市場価値と、サイボウズがつけ

る市場価値にギャップがあるのであれば、「あなたが自分

の市場価値はここだという理由はなんですか?」ということ

を確認し、認識の相違をひもといていく。不満が生まれる

要因のひとつは、他社からより高額なオファーがあること

だ。

従業員「この会社ならこれだけ出すと言っているの

に、評定会議の結果の給与額は低すぎると思います」

人事部「ではなぜそちらに行かないのですか」

従業員「いまの仕事が好きだし、あちらは残業がとて

も多いと聞いているからです」

人事部「そうでしょう? あちらの提示する給与は、

残業も含めてそれだけの働きを求めて提示しているも

のです。やりたいこととは違う仕事になるかもしれな

い可能性も含めてのプライシングです。サイボウズ

で、あなたがいまやりたいことや望む働き方ができて

いるのであれば、それも含めてのこの金額です」

といったやり取りを重ねると、不満を示していた従業員も大

抵は納得する。ときには、「とは言ってもたしかにもう少し

上げてもいいね」ということになり、本人の希望と評定額

の間で落ち着くこともある。

 サイボウズでは、給与額という金銭的な条件のほか、

同意のない異動や転勤がないことや、勤務時間や場所な

ど希望する働き方を選べるということも含めて、仕事から

得られる報酬と考えている。そうした考え方を丁寧に伝え

ることで、厳密さや客観性以上に、本人やチームの納得

度を高めることを大切にしている。

 定期昇給制度はなく、給与は市場価値がベースになる

ため降給もありうる。しかし、降給となるのは、ライフステ

ージの変化などにより、前年より仕事の比重やペースを落

としたいという本人の希望があるケースが多く、年度ごと

に給与が乱高下することは基本的にはない。仕組み上は

降給も当然ありうるとは言っても、人事部にとっても本人に

とっても、やはり望ましい状態とは言い難いからだ。

 実際の給与システムの運用は、昨年と今年、今年と

来年といった短期的な実績や成長よりも、5年後、10年

後の中長期的なキャリアプランを重視して行われており、

定期昇給ではないものの、多くの従業員の給与はゆるや

かに上昇していく。ときおり生まれる給与フィードバックでの

不満の中には、長期に描いているキャリアプランや賃金

曲線が、本人と上司や人事部の間で食い違っていたこと

に起因するケースもある。上司や人事部のほうでは、「こ

の人は 5年後 500万円、10年後 700万円の人材」と

考えていたが、本人は「5年後で 700万円、10年後で

1,000万円」を希望していたといったケースだ。こうした

場合には、お互いの描いている曲線のイメージを合致さ

せ、「そうであれば、もう少し成長ペースを上げてがんば

る必要がありますね」といった話し合いを行う。

 現在では若手を中心に、「下げる場合は思い切り下げ

てもいいから、上げるときも思い切り上げてほしい」「5年

後や 10年後のことは分からないから、いま上げてほし

い」と希望する従業員も出てきたため、それを望む人材

に対しては、そうした給与評定にもチャレンジしていく方針

だと言う。

 退職金制度は創業時から存在しなかったため、制度を

なくすことへの困難もなかったが、現在のような市場性に

基づく給与システムが定着するまでには、さまざまな試行

錯誤があった。

 創業メンバーのみの時代の給与は売上と完全に連動し

ていて、完全無給だった時期もあるという。人を採用する

ようになると、前職の給与額を参考に個別に決定するよう

になった。人が増えてくると、成果主義を採用し、半年ご

とに立てる目標の達成率を点数化して順位をつけ、上位

半分は昇給し、下位半分は昇給なしとした。すると、目

標を低く設定したほうが達成率が上がるため、低い目標を

設定したほうが有利ということになってしまい、問題になっ

た。そこで、目標達成率に加え、事業部長クラスのメン

バーによる投票や、360度評価を取り入れた。今度は上

司と他部署の評価が割れることもあり、評価フィードバック

の納得度が著しく下がってしまった。

 こうした紆余曲折を経て、多様な人材が活躍している

以上、社内でメンバー同士を比較して評価することは難

しいという結論になり、社外の市場性を評価に取り入れる

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PHP Policy Review  Vol.13-No.78 2019.8.6  PHP総研

ことになったのが、現在のサイボウズの評価制度の原点

である。

 とはいえ、市場性による評価への切り替えもスムーズに

進行したわけではない。現在のような市場価値の考え方

が従業員に浸透し、相場感やコミュニケーションが安定し

てくるまでには、5~ 6年はかかったという。市場価値の

考え方が定着する以前には、「がんばっているから」とマ

ネージャーがかわいがっている部下の給与を上げ続け、

市場価値という観点から見ると、実際の働きぶりと給与が

乖離してしまっている人材もいた。そうした人材に対して

は、「厳しいけれど、お給料は適正価格まで下げましょ

う」というフィードバックを行った。「降給が納得いかない

のであれば、希望する給与を出してくれる他社に転職して

ください」ともとれる給与フィードバックは一見厳しいものに

思えるが、現在の給与額を希望額として転職市場に出て

も、その価格でその人材を買いたい企業はおそらくない。

その人の人生を本気で考えると、「サイボウズ以外に行き

場がない」という状態を維持し続けることは、必ずしもそ

の人のためにはならない。適正な市場価値をつけた上

で、「ほかにも行くところはあるけれど、選んでサイボウズ

にいる」という状態が、本人にとっても、サイボウズにとっ

ても望ましいはずだ。解雇しないことにこだわって社内に

押し込めるのではなく、市場の中で大きくその人の存在価

値や居場所を捉えていると言える。

 下げられた当初は本人も葛藤があったというが、実際

の働きと給与が見合っていなかったことは本人が一番よく

分かっているため、1年ほどかけて納得し、その後どのよ

うな給与カーブを目指していくかを再度マネージャーや人

事部と話し合って決めたという。

 こうした給与交渉や市場価値に合わせた降給はほとん

どの企業では行われておらず、休職や欠勤さえしなけれ

ば、成長しようがしまいが定期昇給し、年次が同じであれ

ば給与もだいたい同じくらいもらえるというケースが多い。こ

うした職場では、どこかの段階で給与が市場価値を上回

り、給与分の仕事をしなくなる人材が生まれがちだが、サ

イボウズでは構造的にそうした状況は生まれない。仕事を

しなければ、しないなりのプライスになるからだ。

 一方で、ボーナスについては個別の査定は一切行わ

れない。売上などの目標を達成すれば、基本給に全員

一律の割合をかけたものがボーナス金額となる。たとえ

ば、売上目標を達成すれば基本給の 1.2か月分、そこか

らさらに一定ラインを越えるごとに 1.3か月、1.4か月と全

員一律に係数が増えていく。

 これは、総売上をチームワークの集大成と考えているか

らである。サイボウズの製品やサービスが売れたのは、

営業メンバーによる顧客への営業の成果であり、開発メン

バーが優れたプロダクトをつくった成果であり、人事部が

それらのメンバーを採用した成果であり、そうした活動を

支えるバックオフィスの働きの成果である。総売上は間接

部門を含むチームの総合力で上げるものであり、貢献度

合いを特定の個人や部署で切り分けることはできない、と

いうのがサイボウズの考え方だ。

 成果主義をうたっていても基本給ではなくボーナスの考

課と支給額に差をつける企業が多い中、サイボウズでこう

したボーナスの計算が可能なのは、上述したような売上に

対する考え方に加えて、基本給が市場性に応じて個別

に設定されているからでもある。係数は全員一律でも、

基本給が市場価値にしたがって一人ひとりバラバラなた

め、実際に受け取るボーナスの金額も市場価値を反映し

たものになる。

 サイボウズでは部門別の予算が部門や個人の評価に

影響を及ぼすことがない。部門ごとの予算が独立してい

ないので、部門間で人件費を押し付け合ったり、実績や

利益を取り合ったりすることもない。

 人件費は固定費の予算の枠を切り分けるのではなく、

あくまでも一人ひとりの市場価値ありきで決めているが、他

社と比べてとくに人件費率が高いということはない。市場

価値を積み上げているので、売上や利益に対して総人

件費が適正なバランスになるのは当然ではあるが、年功

序列の給与テーブルに従う企業と違うのは、一人ひとりの

人件費に対する納得度が高いことだ。「あの人は全然仕

事をしないのに、どうしてあんなに給与をもらっているの

か」といった、年功序列制度にありがちな若手の不満

や、「働かない高コスト人材問題」は生まれない。

 また、最長 6年間の育児休業制度や育自分休暇のよ

うな従業員の主体的なキャリア選択を支える背景には、

退職金や年功制のない賃金体系がある。サイボウズでは

評価や賃金は勤続年数と関係なく、長期に勤め続けるこ

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と自体が有利になるような制度は一切存在しないため、一

度退職するということに、過剰な不安を抱く必要がない。

勤め続けていようが、休業や退職でブランクが生じよう

が、ポジションや給与は、年次と関係なく適性や市場性に

よって完全個別に決定されるため、「育児休業を取ってい

る間に同期から遅れをとる」といった心配を、本人も組織

側もする必要がないのである。

 逆に言えば、長く勤め続けてさえいれば退職時にまとま

ったお金がもらえる退職金制度のある企業と違い、退職

金という「恩給」がないからこそ、従業員も自らの市場

価値を高め続ける意識を持ちやすいという面もあるだろう。

 一方で、サイボウズでは従業員の資産形成の支援を目

的とし、従業員持ち株会の制度を運用している。奨励金

の拠出金額 100%という従業員持ち株会への入会率は

80%を超えているという。サイボウズの企業としての価値を

高めることが、個人の資産形成に直接つながるため、組

織への貢献意欲を高めることにも一役買っている施策と言

えるだろう。

人事システム②

■個性と自主性を重んじる人材配置【ポイント】

・ 上司と部下は役割が違うだけで、上下関係ではな

い。

・一方的な命令による異動や転勤なし

・ モチベーション3点セットの共有(本人の「やりた

いこと」×「できること」×「やるべきこと」の 3つ

が重なり合うところに役割をもつことが、もっともモチ

ベーション高く働ける)

・マイキャリで「やりたいこと」アピール

 

 サイボウズの組織は非常にフラットである。承認や決裁

など意思決定に関する縦のラインはあるが、「プロジェクト

マネジメント」「人材マネジメント」「個別スペシャリスト」

に必要なスキルはそれぞれ違い、それらのスキルに優劣

はないという認識が共有されているため、「部長はその部

下より偉い(優れている)」といった価値観はなく、それ

ぞれの得意なことを活かした役割分担として認識されてい

る。上司と部下という言葉自体がほとんど使われず、役

職で呼び合うことはない。チームのマネージャーがほかの

メンバーよりも若いこともあれば、メンバーの給与がマネー

ジャーより高いことも、当然のようにある。

 人材マネージャーには、「人材マネジメントができる人」

としての市場価値がつくが、それは役職手当として上乗

せされるようなものではない。昇進に伴って役職手当がつ

くことで給与が上がるのではなく、あくまで市場価値が上

がることによって基本給が上がるのがサイボウズ式だ。給

与明細の項目は非常にシンプルで、各種手当の複雑な

加算はない。たいていの従業員が支給されるのは、「基

本給」と「通勤手当」のみで、ほかに「調整支給」

「特別手当」といった欄があるが、ほとんど空欄だ。情

報システム部門のメンバーなどには、サーバーの不具合

が出たときなどの緊急対応時の手当として「深夜残業手

当」「緊急業務対応手当」が支給されることはあるが、

大半の従業員が裁量労働者として残業代込みの給与を

決めているので、月ごとの残業時間を管理して「残業手

当」が支払われることも基本的にない。

 部長など部門の責任者クラスの役割を担うことは、メン

バーからも社長を含めた役員からも信頼度が高く、事業

や部門を任せたいという評価を得ているということであるた

め、敬意のようなものはあるが、マネジメントの役割につい

たからといって必ずしも給与が上がるわけでもないことか

ら、妬みなども生まれにくい。

 誰がマネージャーになるかは、自然発生的に決まる。

年次にしたがって半自動的に昇格することはもちろんな

く、試験をパスした人が昇格するというものでもない。給与

を上げるために、マネージャーへの昇進を目指す必要もな

い。そもそも、どんな人数でどんな単位でチームをつくるの

かは、そのときどきの都合によって変わる。状況に応じて

チームができ、必要があればリーダーを立てるという考え

方であるため、チームができたからといって必ずマネージ

ャーを置かなければならないということではないし、なんら

かの理由でマネージャーがいなくなっても、必ず人材を補

充しなければならないということもない。

 マネージャーを置く場合、最終的には本部長による決

定があるが、本部長がひとりで人選を考えて欲しい人材

を指名するというものでもなく、チームのメンバーが必要に

応じて話し合う中で決まる。そのプロセスは部活のキャプ

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PHP Policy Review  Vol.13-No.78 2019.8.6  PHP総研

テンを決めるのに近いようなイメージで、日常的に一緒に

仕事をする中で、なんとなくとりまとめの得意な人が出て来

て、自然とリーダーを任される。その状態になるまでに、

一緒に仕事をしてきたバックグラウンドがあるため、「なんで

この人がリーダーになるのか」、あるいは「自分はリーダー

なんてやりたくないのに」といった不協和音は起きにくい。

 したがって、中途採用の人材をいきなりマネージャーに

することもない。過去にそうした事例がないわけではない

が、やはり信頼関係のある状態から自然とリーダーの役割

を務める人が出てくるほうがうまくいくことが多いことが分か

ってきたからだ。

 次年度の給与を決める人事フィードバックの際に、コメ

ントを書いたり、メンバーと給与について話し合いをしたり

するのが人材マネジメントの役割だが、それも本人─グル

ープリーダー─部長の三者で行う部門もあれば、部長以

上だけと話をする部門もあるなど、「〇〇の役職だから××

をする」というルールで縛られることもなく、それぞれの必

要に応じて運用されている。

 開発系のエンジニア職では、マネージャーになるとコー

ディングなどの業務はやめて 100%人材マネジメントに注力

する人材が多いというが、人材マネージャーの役割を担う

ようになってからも、プレイングマネージャーとしてもともとの

仕事も続ける人もいる。

 人事部で主催するマネジメント研修には、50~ 60人

ほどが参加する。部長・副部長の役職についている20

~ 30人に加え、各部門から人材マネージャーやグループ

リーダーも必要に応じて参加している。マネジメント研修の

中身は、人材マネジメントに関する悩みや解決策、実践

事例を共有しあう相談会だ。講師を招いて体系的に理論

を勉強するといったものではなく、たとえば「ネガティブフィ

ードバックが得意じゃないんですが、どうしたらいいでしょう

か」といった悩みや課題を相談し、経験を共有し合う。

あくまで学び合いの場であり、マネージャーという役割を決

めつけ、一方的に「教える」というものではない。

 チームのメンバーによるマネージャーへのフィードバックも

年に 1度行われている。もともとは従業員が経営陣を評

価するものとして始めた「経営者評価」の対象を副部長

以上へ拡大したものだ。

 まず、従業員がマネージャーや役員について、それぞ

れに続けてほしい良いところと直してほしいところを書く。

マネージャーと役員は書かれたものを持って合宿を行い、

従業員からのフィードバックを受けてどうするかを話し合

う。合宿後、「こういう意見を受けて、こうします」といっ

たことを従業員に向けて発表する。

 従業員によるフィードバックの内容を公開するかどうか

は、それぞれに任せられている。すべての内容を公開し

て、「これについてはこうします」「こういう意見をもらいま

したが、これについては信念があるのでこのまま続けま

す」といったかたちで逐一やり取りを公開する人もいれ

ば、要約して「こういう主旨の意見があったので、こうし

ます」とおおまかに伝える人もいる。フィードバックの目的

はマネージャーの成長や改善のための課題設定であり、

書かれた内容が次年度の役割や信頼度評価、給与評

価などにダイレクトに反映されるわけではないが、ネガティ

ブなことが書かれていた場合、それが事実であるという確

認が取れれば、当然そのままでいいということはないの

で、フィードバックの内容は当然影響力はある。

 フィードバックにあたって、従業員の側は記名か匿名か

を自身で選択する。経営者のみを対象としていた頃は匿

名にしていたが、匿名だとフィードバックの内容として書か

れたことについて事実確認をしたくてもできないため、記名

も選択できるように変更された。このフィードバックを採り入

れた初期は、匿名だったこともあり、辛辣な意見が書か

れることもあったが、あまりに直情的な表現では、受け取

った側もかえって反省することが難しくなる。このフィードバ

ックが単に従業員の不平不満を発散させるための場では

なく、役員やマネージャーの成長のための場であるという

認識が浸透することで、従業員側も伝え方を考えるように

なったといい、双方にとって学びのある機会となっている。

 サイボウズには、定期昇進がないことに加え、会社側

の一方的な命令による異動や転勤もない。名古屋の営

業所のマネージャーのポストは、前任者が台湾の事業所

に転勤した後、行きたいというメンバーが現れないため、

営業本部の副本部長が兼任するかたちで東京と名古屋

を頻繁に行き来して対応していたこともある。会社としては

新たなマネージャーを欲してはいたが、希望していない人

を無理に転勤させるようなことは絶対にない。

 転勤に限らず、従業員が自身の意志に反した異動をす

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ることもない。自発的な異動希望が出ていない人材に対し

て、会社側から異動を打診すること自体少ないが、たと

えば新規に営業所を設立することを企画し、その責任者

としてこれぞという人材に声を掛けて断られた場合は、本

人の意志を最優先し、営業所の設立を当面諦めることさ

えある。それでも、結果的に人材配置の偏りや事業への

支障は出ていないという。

 サイボウズには、「モチベーション創造メソッド」と呼ば

れる考え方がある。本人の「やりたいこと」「やれること」

「やるべきこと」を「モチベーション3点セット」と呼び、

3つが重なり合う領域に役割を持つことが最もモチベーショ

ン高く働けると考えられていて、従業員はみなこれを意識

して仕事を選択している。やりたいことがなんでもやれるわ

けではないが、この 3つの円を重ね合わせられるように意

識して働くことで、モチベーション高く、楽しく働ける環境

をつくることができる、という考え方だ。

 2014年からアメリカにオフィスを構え、海外進出を本格

化する中で、アメリカ駐在を希望している従業員は多い

が、全員が行けるわけではない。しかし、ビジネスレベル

で英語が話せるか、それぞれの持っている営業やプログ

ラミングのスキルが十分なものかといったことを自ら考えるこ

とで、希望の通る人と通らない人の間に理不尽な不公平

感が生まれることもない。

 従業員の意志を尊重した人材配置で、組織としてのバ

ランスは保てるのだろうか。たとえば名古屋の営業所のよ

うに、欠員が出たのにいつまでも人が補充されないと、チ

ームに負荷がかかり続けないのか。組織が主体的に人

材配置を決めている場合でも、育児休業や介護休業によ

る欠員が出た場合の人員補充に頭を悩ませている企業は

多い。退職者が出た場合は異動や新規採用で人員を補

充するケースが多いが、復職前提の一時的な欠員、とく

に当人が同じ部署に復帰することを希望している場合

は、復職後に部門として過剰人員を抱えることになる事態

を避けるために、人の補充には慎重にならざるを得ない。

 そうした事態に、サイボウズではどのように対応している

のだろうか。その答えは、「従業員一人ひとりの幸福度と

チームの生産性をバランスさせることを、全員が考える」

というものだった。このバランスがきれいに 5:5にはできな

くても、1:9、あるいは 8:2といった偏りのあるものではな

く、せめて 4:6や 6:4になるように、チームの全員が考

える。育児休業は権利として当然取得するが、人事部

やマネージャーに任せきりにせず、休みを取る本人も自分

がいない間のチームのことも考えて対応を練っておく。

 そもそも、部門別の予算がないサイボウズでは、「〇〇

部で欠員が出た」という概念があまりなく、異動せずとも

部門を越えたサポートが自然に生まれやすい。とは言えそ

れぞれの部門で担当業務は分かれているので、チーム

内で育児休業の取得が重複するなど明らかに人手が足り

ない場合は、マネージャーが動く。人事部に採用や異動

の相談をし、異動の場合は、白羽の矢を立てた本人に

マネージャーから打診する。本人から承諾が得られれば

いいが、断られた場合は、「やくわリスト」を更新し、求

人をアピールすることもある。「やくわリスト」は「こんなこ

とをやっている部門です。これをやりたいという人はぜひ手

を挙げてください」という社内求人票のようなアプリだ。自

部門の仕事をいかに魅力的に語ることができるかどうか

が、マネージャーの腕の見せどころとなる。

 一方で、従業員のほうは「マイキャリ」というアプリ

で、自分が将来どの部門に行きたいか、どのような仕事を

したいか、キャリアの希望をアピールできる。マイキャリに

書かれた内容は、全従業員に対してアクセス可能な情報

となるため、育成プランを考える人事部や、自部門のマネ

ージャーはもちろん、異動希望先の部門のマネージャーな

どさまざまな人が見ており、実際の異動につながることもあ

る。

 あるいは、「大人の体験入部」というしくみも、一時的

に人手が足りていないチームのサポートに活用できるかもし

れない。「大人の体験入部」は従業員が現在とは違う部

門の仕事を体験してみるもので、本人が異動を考えてい

るという場合もあれば、違う部門の仕事が分かればいまの

部門での仕事に役に立ちそうだからといった場合もあるな

ど、目的はさまざまだ。目的に応じて、「体験入部」の時

間や期間もさまざまで、数時間の場合もあれば、1日、あ

るいは 1か月に及ぶ場合もある。これは、「大人の体験

入部」を希望する本人が、自分で自部門と体験入部先

の部門のマネージャーに相談し、自部門ではいつ頃なら

抜けられそうか、体験入部先ではいつ頃なら受け入れら

れそうか、当事者同士で話し合って調整する。混乱が生

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じた場合は人事部がサポートに入るが、人事部が時期を

決めたり、促したりすることはない。「大人の」と謳ってい

るように、希望する人が自立した大人として自ら主体的に

取り組むのが大人の体験入部である。

 こうした当事者同士のやり取りによって比較的気軽に部

門の壁を越えられるため、部門内で休業取得者が重複

するなどして一時的にバランスが崩れても、またなんとなく

調和した状態になることが大半だ。現場が主体的かつ柔

軟に課題に対応し、経営陣や人事部も現場に丸投げす

ることなく必要に応じてサポートする体制が整っているサイ

ボウズは、さまざまな環境や状況の変化に対応できる、非

常にレジリエンスの高い組織であると言える。

 

ツール

■�情報共有を支えるさまざまなツール(ソフトウェア/ハードウェア)

【ポイント】

・デバイスは必要に応じて貸与。複数台の貸与も可

・ さまざまなアプリケーションの活用(スケジュール共

有、メールワイズ、マイキャリ、やくわリスト、ピープ

ルなど)

・ 社内のさまざまな議論はグループウェアで経緯公

開、掲示板のように誰でも議論に参加可能

・ 経営会議も個人情報とインサイダー以外はアジェン

ダ・議事録をグループウェア上で公開

 

 サイボウズではさまざまなアプリケーションが活用されて

いる。自身のキャリアプランを表明する「マイキャリ」や、

社内求人票の「やくわリスト」のほか、「ピープル」とい

う従業員一人ひとりのページもあり、多くの従業員がここを

日報のように使っている。「今日はこんなことをやりました。

明日はこんなことをします」といったことを書く人もいれば、

フェイスブックやツイッターに投稿するような感覚で、「今日

はもう帰ります!」といったことを書き込む人、「今日はこんな

ことで迷ってしまった」といったことを書き込む人など、厳

密なルールはなく、本人や部署の自主性に任せて運用さ

れている。入社 3年目に行われる研修など、社内で行わ

れる各種研修の中身も、グループウェアで共有されてい

る。わざわざ全従業員に向けて配信するわけではない

が、アクセス権は全員にあるため、見たい人はいつでも見

られる。

 また、ほとんどの仕事がグループウェア上で行われるた

め、なにかしらの成果につながるものである限り、「隠れ

残業」「サービス残業」は必ず見つかってしまう。夜中

の 2時に内容が更新されていれば、記録に残ってしまう

からだ。一時的に集中して仕事をすることもあるだろうし、

夜中にふと目が覚めて、思いついたことを記録しておこう

と思ったのかもしれないが、それが毎日続いているようなこ

とがあれば、マネージャーや人事部から「大丈夫か」と

声をかけることになる。だから、誰かが倒れるまで誰も気

が付かないなどということは起こらないし、知らなかったふ

りをすることもできない。そもそも、「質問責任」という考え

方があり、意見はきちんと言うべきという空気が醸成されて

いるため、大変なときは、当事者がヘルプを求めることが

できる。

 スケジュールはそれぞれの宣言している働き方を含めて

全員に公開されていて、スケジュールの空いている部分

には、誰でも勝手に予定を入れてもいいことになってい

る。上下関係の厳しい組織であれば、たとえば役員を交

えた会議を開くために、上司に空いている日程を聞き、秘

書にメールや電話で役員の空いている日程を聞き、全員

が参加できる日程を探して会議室を押さえ、といった調整

に時間をかけることも珍しくない。役員のスケジュールを確

認するための電話やメールの返事を待っている間に、上

司側に予定が入って調整を一からやり直すはめになること

さえある。しかし、サイボウズで行われる会議の日程調整

は、出席者のスケジュールの空いている欄をクリックして、

会議の予定を入力するだけだ。「〇〇の会議を開きたい

ので、空いている日を教えてください」あるいは「ここに

会議を入れてもいいですか?」といったやり取りは一切必

要ない。予定を押さえた後、なにかしらの理由で日程を

変更する必要が出て来ても、いちいち全員にメールで断

る必要はなく、スケジュールを見て別の空いている時間に

予定を移し、変更の旨をコメント欄に書き込むだけでい

い。それを失礼だと怒るような従業員はひとりもいない。もち

ろん社長も例外ではなく、新入社員でも社長の空き時間に

会議や面談の予定を入れることが当たり前とされている。

 スケジュールに入力された会議の予定には、スレッドの

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PHP Policy Review  Vol.13-No.78 2019.8.6  PHP総研

ようにコメントを書き込んだり資料を添付したりすることがで

きるようになっていて、たいていはここで事前に資料が共

有され、目を通した人が資料の追加や修正をコメントで要

望するなどのやり取りを経てから会議に臨む。必ずしも全

員が目を通しているとは限らないため、会議の冒頭で議論

したいポイントの説明や提案も行われるが、情報共有に時

間をかけることなく、会議の時間の大半をディスカッション

に使うことできる。資料のフォーマットは固定されておら

ず、パワーポイントのこともあれば、テキストが箇条書きに

なっていることもある。後述する問題解決メソッドのフレー

ムワークに沿って伝わりやすいものになっていれば形式は

なんでもよく、社内資料のつくり込みは求められていない。

 毎週火曜日と木曜日に行われている経営会議の情報

も、同様にグループウェア上で公開されている。火曜日の

事業戦略会議は、製品をどうするかなど、事業に関する

ディスカッションを経て最終的な決定を社長が下す場であ

り、本部長以上の役員のほか、製品のプロジェクトマネー

ジャーや開発のプロジェクトマネージャーが出席する。木

曜の本部長会には、本部長以上のほか人材マネージャ

ーが出席し、人事に関連することや全社に関連する事項

の決定や報告が行われる。両会議とも、プライバシーとイ

ンサイダーの情報を除いて、議事録はほぼ話し言葉その

ままの発言録のようなかたちで社内グループウェア上で公

開されている。

 経営会議については、自社製品でもあるプラットフォーム

「キントーン」上にフォーマットがあり、部門ごとに事前に

「報告」「連絡」「相談」といった枠にアジェンダを入力

していく。このフォーマットへの入力は前日までに完了させ

ることになっているため、会議の場ではディスカッションや

決定に注力することができる。プライバシーとインサイダー

情報だけはアクセス制限をかけてあるが、このフォーマット

は全従業員に公開されているため、内容を見て興味を持

てば、経営会議の参加メンバー以外の従業員が会議に

参加することもある。興味のあるテーマだけ傍聴して退席

する人もいるし、傍聴している人が意見を求められることも

ある。オブザーバーなので発言権がない、ということはな

い。議事録が公開されると、読んだ人から意見が書き込

まれることもある。

 さまざまなアプリケーションを充実させるとともに、従業員

へのハードウェアの貸与も手厚い。2年ほど前、サイボウ

ズが従業員に貸与しているパソコンの標準機のスペックが

高すぎるとエンジニアの間で話題になったことがある。エ

ンジニアだけでなく、バックオフィスの従業員も32GBのメ

モリを搭載したパソコンを使っている。一般的な法人向け

の業務用パソコンのメモリは 4~ 16GBと言われており、

バックオフィス業務に 32GBのメモリは無駄ではないかとい

う意見も、インターネット上で見られた。

 しかし、スペックの異なるパソコンを数種類管理するより

も、ハイスペックなパソコン1種類に統一したほうが、結

果的に管理コストがかからない上に、バックオフィスの従

業員が頻繁に使うワードやエクセルでの作業がスムーズに

なり、生産性の向上にもつながった。

 業務内容やそれぞれの希望に応じて、デスクトップを使

用する人もいれば、ノートを使用する人もいるが、必要に

応じて複数のパソコンの貸与も認められている。エンジニ

アでは 3台を使い分ける人も珍しくない。オフィスで作業

するときには複数のディスプレイと開発用のハイスペックな

デスクトップを使い、ミーティングには身軽なノートパソコン

で臨み、在宅勤務用に自宅にもハイスペックなパソコンを

置いているというケースだ。

 エンジニアでなくても、急に在宅勤務の必要が生じたと

きなどのために、自宅にノートパソコンを置いている人も多

い。もちろん、全員ではなく希望した人、かつ必要性を

認められた人のみだが、「オフィス外でできる仕事はありま

せん」という人はまずいないため、大半は承認される。

風土①

■個人の希望とチームワークを両立させる� コミュニケーション

【ポイント】

・自立と議論─質問責任と説明責任

・問題解決メソッド─議論のフレームワーク

 働き方の宣言、市場性と信頼度に基づいて個別に決

まる給与、「マイキャリ」での自身のキャリアプランのアピ

ール、みんなの意見で自然と決まるマネージャーといったし

くみがきちんと運用される前提として、従業員が高いレベ

ルで自立していなければならない。

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PHP Policy Review  Vol.13-No.78 2019.8.6  PHP総研

 サイボウズで大切にされている価値観には、「多様性」

「公明正大」に加えて、「自立と議論」というものがある。

 働く時間や場所をはじめ、働き方に驚くほどの多様性

が認められつつも、組織としてきちんと機能しているのは、

「公明正大」と「自立」が従業員全員に求められ、公

明正大に反している、あるいは自立していないと見なされ

た場合には、きちんとフィードバックがなされるからだ。

 たとえば、働き方の宣言では在宅勤務を宣言している

が、どうも家では仕事が進んでいないように思われる従業

員がいたとする。その場合、その従業員は言っていること

とやっていることが異なっている、つまり「公明正大」に

反していると見なされるため、宣言している在宅勤務を認

め続けるかどうか、マネージャーや人事部と話し合いが行

われることになる。改善が見られない場合は、在宅勤務

は認められず、働き方の宣言を見直すこともある。

 または、育児中の短時間勤務者の多い部門で、自分

に業務の負荷が偏っていると感じている独身従業員がい

たとする。しかし、この独身従業員が飲み会で別の部門

の同期に愚痴をこぼすことは許されない。この場合、独

身従業員に対して求められるのは、自分の抱えている不

満や課題をチームのメンバーに話して解決に向けて話し合

う、「自立と議論」だ。不公平感を抱えながらもほかのメ

ンバーからこぼれた業務をケアしている従業員に対して厳

しい態度にも感じられるが、できないことをできないときちん

と言うことは、自立した従業員に求められる態度のひとつと

して考えられている。チームとして業務を完遂することは

大切なことだが、メンバーがこぼしたものを黙って拾い続

け、ひとりで抱え込んで苦しい状態をつくってしまったのは

自分でもある。それは自立した姿とは言えない、ということ

だ。

 独身従業員が自分が抱えている違和感や不満をチー

ムのメンバーに告げれば、課題が顕在化し、チーム全体

での議論が促される。短時間勤務のメンバーたちも、「自

分が帰った後に誰かがカバーしているのではないか」「こ

ぼれる業務があるのはしかたないとしても、それを受け止

めた人がもやもやしていないか」ということを考えるようにな

れば、チームの全員がお互いの仕事の仕方に配慮し合う

ことができる。

 あるいは、不満の中身をマネージャーや人事部が丁寧

に聞いてあげることも大切だ。不満の本当の原因は、業

務負荷の偏りそのものではなく、フルタイム勤務時と比較し

たパフォーマンスの低下や業務負荷の偏りがそれぞれの

評価や報酬に反映されていないと思っていることかもしれ

ない。短時間勤務の場合は時給制になっている人もいる

ため、裁量労働のメンバーとは違って、早く帰れば帰った

後の給与は発生していない。その事実を伝えるだけで

も、不公平感が軽減されることもある。

 小さな子どもを育てていると、子どもの急な発病などで

早退せざるを得ないことも珍しくない。そうしたコントロール

のしようのない事情のあるメンバーに、独身のメンバーが

自分の負担が重いと伝えるのは勇気のいることでもある。

思いやりがない人だと思われないかと不安になる人もいる

だろう。

 しかし、子育てでも、妊娠でも、親の介護でも、二日

酔いによる頭痛でも、同情すべき理由か否かの違いはあ

っても、チームに対して生産性のあるアウトプットを出してい

ないという事実に優劣はない。サイボウズではその考えを

徹底している。リモートワークの適用についても、育児や

介護に限定することはなく、満員電車での通勤を避けた

いといった理由であっても認められている。どんな理由で

あれ、「その場にいない」という事実と、それがチームに

与える影響は変わりがないからだ。

 だから、人に対して「ずるい」と感じる必要がない。

「ずるい」という感情が生まれるのは、実際の働きと処遇

が連動していなかったり、そのフィードバックがきちんとされ

ていなかったりするからだ。あるいは結果として生まれてい

る状況は同じなのに、理由によって認められるかどうかに

差をつけるからだ。さまざまな選択や行いの責任も自分で

負うこと、そしてそれが本人にも周囲にも説明されているこ

と。それがサイボウズで求められる「自立」であり、多様

な働き方のメンバーが共働する中で「ずるい」を生まない

コツだ。

 また、サイボウズには「質問責任」と「説明責任」と

呼ばれる責任がある。なにか気になることやおかしいと感

じることがあったときには、質問して、オープンな議論の俎

上にあげるのが「質問責任」であり、それらの他人から

の質問に対して答えたり、自分の行った意思決定につい

て説明するのが「説明責任」である。

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 さらに、そうした議論をする場での共通のフレームワーク

として「問題解決メソッド」というものがある。

 問題解決メソッドでは、解釈と事実、理想と現実という

言葉を定義し、図表 2のようなマトリックスに「いま起きて

いる事象」を分解して相手に伝え、理想と現実のギャッ

プである「問題」を分析する。「現実」を引き起こして

いる原因はひとつではないので、それぞれの因果関係を

整理しながら、原因をひもといていく。キーとなる原因を突

き止めたら、「理想」に向かうための「課題(ネクストア

クション):誰が何をどのように実行するのか」を設定す

る。

 ポイントは、原因と課題を「行動」に絞ることだ。もの

ごとがその状態に「なっている」のは、必ず誰かが「な

にかをした」あるいは「しなかった」からだ。

 これは、過去の役員合宿でまったく議論がかみ合わな

かったことから編み出されたメソッドだ。あまりの不毛さ

に、青野社長、山田理副社長が危機感を覚え、シンプ

ルなロジカルシンキングを徹底するために、こうしたメソッド

をサイボウズのオリジナルでつくった。

 過去の議論が全くかみ合わなかったのは、各々が

「解釈」に基づいて議論をしていたからだ。解釈は人に

よって異なるため、いくら自分の解釈を主張しても、事実

が共有されなければ議論がかみ合うことはない。

 新卒の従業員は入社直後の新人研修で、中途入社

の従業員は入社から1か月以内に、これらの言葉の定

義について説明を受け、どちらも入社から1年以内に実

際にこのフレームワークを用いた議論を経験する。3年目

研修やリーダー研修、マネジメント研修、役員の合宿とい

った場での議論はもちろん、日常的な会議でもこのメソッド

が用いられている。

 また、サイボウズでは、社内で実践されているさまざま

な取り組みやメソッドを提供する研修事業も行っており5、

他社への研修でもこの問題解決メソッドを用いた議論を行

うことがあるが、「理想と現実」「解釈と事実」のマトリッ

クスで整理すると、たいていはほとんどの発言や認識が

解釈に偏っていることが浮き彫りになる。ところが、せっか

く事実と解釈を区別できたのに、原因の探求が進まないこ

とが多い。原因を探っていかなければ、課題(ネクストア

クション)も当然決まらないのだが、犯人捜しになってしま

うことを避けようと、忖度しはじめる人が続出する。自分、

あるいは上司や同僚の誰かが犯人にされると、評価が下

げられてしまうかもしれないことを恐れているのだ。

 原因の探求は進んでも、課題(ネクストアクション)の

設定で止まってしまうことも多いという。とくに若手を対象と

した研修の場合、「これは上が決めることで、自分たちが

決める話ではない」としり込みしてしまうのだ。問題を解

決するために、本当は上司や隣の部署を動かしたり変え

なければならないケースでも、無理やり自分ひとりで完結す

る行動に納めようとして、本質からずれた課題が設定され

てしまったりすることもある。

「自立と議論が大事」「質問責任と説明責任が大事」

「議論を避けてはいけない」という考えが徹底しているサ

イボウズでは、こうしたことはありえないが、議論のフレー

ムだけを使ってみても、忖度の文化や風土がしみついた

職場では有効に活用されないということだ。

 サイボウズでは、自部門だけで完結しない課題(ネクス

トアクション)を設定する場合にはどうしているのだろうか。

とくに、時間や費用や人手が必要なものである場合は、

図表2【問題解決メソッド】

解釈(自分が「思った」こと) 事実(実際に「起こった」こと)

理想(望む状態)

現実(現在の状態)

※サイボウズ資料より作成

5 チームワーク総研https://teamwork.cybozu.co.jp/

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部門間の調整に手間がかかることも考えられる。

 サイボウズの場合、こうした部門を越えた課題が設定さ

れるような大きな問題に関する議論は、マネージャー研修

でされることが多い。サイボウズのマネージャー研修で

は、教材をつかった一方的な学びではなく、ほぼ一日問

題解決メソッドを用いた議論が行われる。社内のほぼ全

部門のマネージャーが集まっているため、自部門だけで解

決できないような課題に関しては、該当部門のマネージャ

ーを議論に呼んでしまうのだ。その場で一緒に議論するこ

とで、解決策も見つかりやすくなる。

 もちろん、コストや効果に関する検討が必要なケースも

あるため、常にその場でネクストアクションが決定するわけ

ではない。専門部隊でデータ等も参照しながら検討する

ため、担当部門で持ち帰ることもあり、その場合は結論

は別途発表されることになる。

 また、前述したように、サイボウズでは予算を部門別に

割り振っていないため、部門をまたがる課題になっても、

費用や収益のつけかえなどの調整は発生しない。誰もや

りたくないことであれば、やらないという結論になるだけ

だ。自らやりたいと考えている人が最も主体的に行動する

ので、どこかの部門にやらせる、誰かに言われてやらされ

る、ではなく、やりたい人が主体的に仕上げていくことを

大切にしている。

 該当する部門がなかったり、予算が必要になるのであ

れば、自分で起案して申請すればいい。「理想の状態は

こうですが、現実はこんな状態で、こんなギャップがありま

す。このギャップを埋めるために、〇円かけてこんなことを

したいです。そうするとこんな効果が期待できます」とい

ったプレゼンを行うことになる。

 サイボウズでは、実際にこうした研修で議論した結果

設定された課題で、制度が変わったこともある。3年目研

修で、「ネクストアクションとして、ボーナスの指標を変更

する」という課題が設定されたことがある。「自分が社長

に言いに行きます」と手を挙げるメンバーがいて、青野社

長にプレゼンを行った。社長も納得して、人事部や財務

部、経理部にも確認し、本部長会を経て、実際にその

年のボーナスの指標が変更された。こうした実例が出てく

ることで、単なる発散のための議論ではないということが

腹落ちし、みんなが真剣に向き合うようにもなる。

風土②

■多様性のベースにある価値観【ポイント】

・ホワイト企業よりカラフル企業

・公平より幸福

・石垣をつくるように人を活かす

・唯一求めるのは理念への共感

・変化への前向きな姿勢

 以上見てきたように、サイボウズでは「日本企業で常識

とされてきたこと」に縛られない働き方を可能にしている。

伝統的な日本企業が同様のチャレンジをしようとするとすぐ

に思い浮かぶ「できない理由」を、サイボウズはことごと

く潰してきた。

 その根底には、「ワークスタイル」の項目で述べた「ホ

ワイト企業よりカラフル企業」という考え方、言い換えれば

公平より幸福を重視するという姿勢がある。公平と幸福は

言うまでもなく別物であり、公平を追求することは時として

不幸を招くことにさえなる。サイボウズではよくケーキの分

配に例えられる。

「ケーキがひとつあって、Aさん、Bさん、Cさん

の3人で分けることになった。このとき、公平に分け

るのであれば、3等分することになる。だけど、Aさ

んはお腹がいっぱいで、一口だけでいいと思っている

かもしれない。Bさんは甘いものが苦手で、ほかの2

人で分けて欲しいと思っているかもしれない。Cさん

は甘いものが大好きで、お腹も空いていて、たくさん

食べたいと思っているかもしれない。だとすれば、A

さんに一口だけあげて、Cさんが残りを全部食べれ

ば、全員幸せになれる。でも公平に3等分してしまう

と、3人とも不幸になってしまう。だから、ケーキを

切る前に、まず全員の希望を聞きましょう」

 人が望むものは千差万別で、自分が本当に欲しいもの

を受け取ることができれば、要らないものは望まない。だ

が、個人の望みは、言わなければわからない。だから、

サイボウズは、「わがままは言わなければならない」という

ことになっている。その人が何を求めているのかと知らな

い限りは、組織としてその人の幸福のために尽力すること

ができないからだ。

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 組織や全体像を先に決めて、それを個人に均等に切り

分けるのではなく、でこぼこのある個人を積み上げて全体

をかたちづくる。サイボウズでは「石垣をつくるように人を

活かす」と表現している。同じかたちのブロックを機械的

に積み重ねるのではなく、ひとつひとつ異なる石のかたち

や大きさを確認しながら、組み合わせを考えて積み上げて

いくことで、ブロック塀よりも強靱な石垣ができる。

 そうして多様性を追求するサイボウズが、ひとつだけ多

様性を認めていないことがある。それが、「理念に共感し

ているかどうか」だ。どんな働き方をしている従業員でも、

「チームワークあふれる社会を創る」という理念への共感

は求められる。組織の目指すものと個人の目指すものが

100%一致するということはなくとも、ある程度でも重ね合わ

せることができれば、従業員の求める働き方を実現するこ

とが、組織にとって悪いことにはならない。仲間になる条

件は、一律のルールではなく、理念を守ること。そうした

考えがあるからこそ、従業員から出されるさまざまな希望

は、組織の進化のヒントとして受け止められている。

 もうひとつ、さまざまな取り組みを可能にしている背景

に、変化への前向きな姿勢がある。働き方に関しても、

既存の制度やルールに合致した働き方ができる人材を獲

るのではなく、多様な人材が自分らしく働けるように、ルー

ルや制度のほうを変えたり増やしたりしてきた。

 それを可能にしているのは「いままでこうしてきた」「み

んなこうしている」ではなく、「(チームワークあふれる社会

を創るために)自分はこうしたい」が優先される文化だ。

多様な従業員の特性や要望を丁寧にヒアリングしてサンプ

リングしても、それをパターン化して違う従業員に押し付け

るようなことはしない。前例にとらわれることなく、自分たち

のやりたいこと、それをやるためにすべきことを考え続けて

いるため、思考停止することがなく、変化に強い組織にな

っている。

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第二部:ワークスタイルの変革を 組織の競争力の向上につなげるための留意点

■「制度」「ツール」「風土」を三位一体に改革する 以上、サイボウズの多様なワークスタイルを支える要素

を、「人事システム」「ツール」「風土」に分けて詳細に

見てきたが、これらの施策が場当たり的、あるいは部分

的なものに留まることなく、組織に生きた変革をもたらすも

のとするためのポイントを探りたい。

 サイボウズは、ワークスタイル変革の要件として、「制

度」「ツール」「風土」を挙げている。重要なことは、こ

れらをうまく組み合わせて改革していくことだ。サイボウズ

が一人ひとり完全に個別に宣言する多様な働き方をするこ

とが可能なのは、給与が一人ひとりの市場価値をベース

に個別に設定されているからであり、多様性を認め合う風

土があるからであり、さらに多様性を保ちながらも組織とし

ての団結力や一体感が強固なのは、理念への共感をベ

ースに日ごろから活発で丁寧なコミュニケーションが行われ

ているからであり、それらを可能にするツールが充実して

いるからである。

 テクノロジーの発達によって、連絡や情報共有の手段

は大きく変化したが、そうしたツールを活用しきれていない

場面は多い。たいていは難しくて使いこなせないというより

も、ツールの便利さに使う側の価値観や感情が追い付い

ていない。また、制度をつくったり変えたりするのは大切な

ことだが、制度はつくれば自動的に活用されるとは限らな

い。きちんと運用・活用されるためには、従業員に対する

継続的な働きかけが必要だ。

 制度があっても、風土が運用を阻害している例も多

い。男性の育児休業の取得はその最たるものだ。女性

による育児休業の取得は 83.2%と進んでいるが、男性に

よる取得は 5.14%とほとんど進んでいない(平成 29

年)。男性の育児休業の取得率は、平成 27年度の

2.65%と比べると大幅に伸びているが、平成 27年度時

点ではその期間は 5日以内というものが 56.9%を占めてい

る 6。女性の取得者の 31.1%が「10 か月~ 12 か月未

満」、27.6%が「12 か月~ 18 か月未満」の育児休業を

取っているのとは対象的である。5日間の休みは、育児

休業と呼べるものだろうか。

 先例がないので申請しにくい、申請しても認められにく

い、昇進に影響することを恐れて従業員側が取得したが

らない、などの理由があるだろうが、その根底には男性

従業員も企業側も、また社会全体も「育児は女性がメイ

ンで担うもの」という考えを無意識にでも持っており、男性

の長期間の育児休業の取得に後ろ向きな空気があると考

えられる。

 サイボウズでは男性の育児休業の取得も進みつつある

が、これは青野社長本人が育児休業を取得してみせた

影響が大きいだろう。経営者自らが率先垂範すれば、従

業員にもそれが企業としてありたい姿であることが明確に

伝わり、後に続く者も出やすい。

 前述したような会議のスケジュール調整も同様だ。全社

でスケジュールを共有したり、自分以外の従業員の予定を

ブロックできるようなツールを利用している企業でも、「偉い

人」のスケジュールに断りなく会議の予定を入れることに

は抵抗のある従業員が多いだろう。こうした職場では、

「作法より効率が大事」というように価値観を変えていか

なければならない。部内の会議用の部員のスケジュール

のブロックを上司の指示でやらせて、それを大げさに褒め

るようなことも、最初のうちは必要になるかもしれない。

 文化や風土は日常のコミュニケーションを土台に形成さ

れていくものではあるが、制度が文化や風土をつくる面も

ある。とくに働き方に関わる施策であれば、従業員の考え

方や行動を変えるためには、評価制度や給与制度の見

直しがもっとも近道だと言える。評価制度や給与制度は、

「自社の従業員にどのような働き方をしてほしいと思ってい

るか」「自社で評価されるのはどんな従業員か」という価

値観を伝える、企業からのメッセージでもある。だから、

評価制度や給与制度を変えることは、社内の文化や風

土、価値観を変えることとほぼイコールとなる。逆に言え

ば、どんなに文化や価値観の変容だけを掲げても、評価

制度が一致していなければ、文化が変わることは期待で

きない。

6 厚生労働省 雇用均等基本調査 https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-23c.html 平成 29年度は取得日数の統計がとられていない。

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 たとえば、残業を減らすことにどの企業も躍起になって

いるが、「残業をすればするほど手取りが増える」というし

くみのままでは、「残業をしないと手取りが減る」ため、仕

事を早く終わらせて早く帰ろうというモチベーションは上がり

にくい。これが「残業しなくても手取りは減らない」しくみ

になれば、早く帰るモチベーションが上がる従業員が多い

はずだ。ところが、定時になれば仕事が終わっていなくて

もとりあえず帰る、それでも給与は満額支払われるというこ

とでは、事業に支障が出てしまう。これは結局、仕事の

中身ではなく働いた時間が給与を決める基準、評価の指

標になっているからだ。「一日〇時間、週で●時間」と

一律に固定した労働時間を前提にするのではなく、その

従業員に求める仕事の質や量(成果や価値)をベース

にして必要な労働時間や給与を決めるようにすれば、真

面目に努力した従業員が損することもなく時間当たりの生

産性を高められる、本来あるべき働き方改革にも近づいて

いくはずだ。

 本来、裁量労働制度はそうしたメリットを活かせる働き

方のはずだが、「定額働かせ放題」と揶揄される等、残

業代を支払わない方便として利用されている面も否めな

い。これは、そもそも長時間の残業を前提とした業務量

を設定していたり、業務遂行の手段や時間配分について

本来してはならない指示をしていたり、「働いた時間に応

じて給与を支払う」という概念から抜け出せず、裁量労

働制を適用された人材が、求められていた仕事を所定労

働時間よりも短い時間で終わらせた場合、「余裕があるよ

うだから」といった理由で、さらに仕事を増やしたりするこ

とがあるからだ。給与額の見直しを伴うのであれば、業

務の質や量を後から変更することも考えられるが、「仕事

を早く終わらせればその分違う仕事を増やされ、給与は

変わらない」という状態では、裁量労働制のメリットは生

かされない。裁量労働制のメリットを生かして、生産性向

上への従業員のモチベーションを高めるためには、評価

や給与の制度整備に加え、「評価指標は働いた時間で

はなく仕事の成果」であると、経営者や上司等の評価者

の考え方を根底から変える必要がある。

 評価した結果の報酬への反映のさせ方も見直す必要

がある。多くの日本企業では昇進と昇給は一体になってお

り、評価した人材への報い方としては、マネージャー職な

どに昇進させ、それに伴って昇給させることがしばしばで

ある。しかし、プレイヤーとしての個別スキルは高いが、

マネジメントには向いていない人材もいる。そうした人材に

対しては、マネージャー職に「昇進」させる必要はない

が、昇給によって高いスキルに報いる必要があるし、反

対に個別スキルはそこまで高くなくともマネジメントが得意な

人材は、給与はそのままにしてマネージャー職につけると

いった対応も必要になるだろう。後者はマネジメントに集中

することで、プレイヤー時代にはなかった価値を発揮し、

マネジメントスキルの評価が上がることによって市場価値

が伸びていくこともあるかもしれない。このように、評価の

報酬への反映のさせ方も多様化しなければ、多様な人

材の多様な活躍の場の創出に対応できない。

 評価の仕方や報酬への反映のさせ方が多様化し、

「週 5日、一日8時間フルタイム勤務こそ望ましい標準的

な働き方である」という固定観念から脱却することができ

れば、多様な事情、多様な能力、多様なモチベーショ

ン、多様な希望を持った多様な人材を戦力として巻き込

みやすい組織になる。そのためには、個人は自分はなに

がしたいのか、なにができるかといった希望に加え、何が

足りないのか、どんなサポートを必要としているのかを、自

立した大人としてしっかり発信する必要があり、組織側は

「これまでこうしてきたから」という前例踏襲主義と、「み

んな同じでなければならない」とする平等主義を捨てて、

個人の主張を受け止める必要がある。

 組織と個人がそれぞれどうありたいかをゼロベースで考

え、こまやかな情報共有と対話を通じて方向性を重ねあ

わせていくことが、個人の幸福を高めながら、組織はチー

ムとして大きな力を発揮できるようにするための前提条件で

はないだろうか。

■理念、事業、組織メカニズムの歯車は� かみ合っているか

 組織の競争力を上げるためには、ワークスタイルの多

様化を推進するだけでは不十分だ。組織としての競争力

を強化するためには、理念と事業ドメインから見直さなけ

ればならない 7。

 ワークスタイルを多様化し、働きやすくなっても、みんな

で力を合わせて向かうべき方向が定まっていなければ、

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チームとして力を発揮することはできない。また、ワークス

タイルの多様化がそうした働き方を希望する優秀な人材の

獲得につながる面はあるが、理念や事業内容が明確に

定義されていなければ、そもそも自組織にとっての優秀な

人材、求める人材という定義もぶれてしまう。例えるなら

ば、強い野球チームをつくるために獲得すべきは優れた

野球選手であり、アスリートであれば誰でもいいわけでは

ないということだ。

 サイボウズの場合、「チームワークあふれる社会を創

る」という理想に向かって、「世界一使われるグループウ

ェアメーカーになる」ことを事業ドメインとして定義してい

る。そして、この事業のために力を発揮できる人材が求

める人材像であり、それらの人材がよりパフォーマンスを発

揮しやすい環境をつくるために、ワークスタイルの多様化

に取り組んでいると言える。さらに、これだけワークスタイ

ルを多様化し、個々人が異なる働き方をしていても、情報

共有やコミュニケーションを円滑にするツールがあれば問

題なく組織として機能できるということを身を以て示すこと

は、サイボウズの商品であるグループウェアの開発や宣伝

につながる一面もある。

 このように、組織が向かうべき方向性を定める「理

念」と、理念の実現のために誰に何をどのように提供す

るのかを定める事業ドメイン、そしてそれをどのような組織

で実行するのかという「制度」「ツール」「風土」といっ

た組織メカニズムという歯車がしっかりとかみ合ってこそ、

組織は全体としてパフォーマンスを発揮することができる。

 サイボウズは、ワークスタイルの多様化に取り組む前提

として、理念の再定義と事業の絞り込みを行ってきた。離

職率が 28%に達していた頃のサイボウズは、創業時のグ

ループウェア事業に加え、人材派遣、中小企業のコンサ

ルティングなどの事業も行っていた。ソフトウェア分野に限

らない手当り次第のM&Aによって、売上は拡大したもの

図表3

事業

理念

ワークスタイル 人事制度

風土

ツール

世界一使われるグループウェアメーカーになる

チームワークあふれる社会を創る

デバイスの貸与アプリの活用

議論のフレームワーク

自立と議論公明正大公平より幸福

時間も場所も選べる人 通りの働き方

一方的な命令による異動や転勤のない人材配置市場性に基づく完全個別給与

※筆者作成

7 PHP Policy Review No.77「人口減少時代に選ばれる組織になるために─挑戦事例に見るキーポイント─」 https://thinktank.php.co.jp/policyreview/5698/

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の、もともとのグループウェア事業の業績は伸び悩み、も

はや何をしている会社なのか分からなくなっていた。

 子会社の業績悪化による業績の下方修正や、深夜の

帰宅や徹夜が当たり前の働き方が続き、共同創業者もサ

イボウズを離れ、社内の雰囲気は最悪な中、「社長を辞

めたい」「死にたい」とさえ考えていた青野社長は、ある

言葉に出合う。休日出勤の朝に立ち寄ったコンビニで、

何気なく手に取った『松下幸之助 日々 のことば』に書

いてあった「本気になって真剣に志を立てよう。強い志

があれば事は半ば達せられたといってもよい」という言葉

だった。

 その言葉に衝撃を受けた青野社長は自らを振り返っ

た。これまで、真剣にサイボウズの事業に取り組んできた

か。失敗したら死ぬくらいの覚悟を持って、本気で事業を

してきたのか。答えはNOだった。創業から数年間、売

上は伸び事業は順調だったが、「それなりに頑張った」

程度で、真剣ではなかった、ということに気がついたのだ

と言う。

 命を懸けて真剣にサイボウズを復活させるために、青

野社長はまず、サイボウズで働くメンバー共通の理想を設

定することにした。それは、「世界で一番使われるグルー

プウェア・メーカーになる」というものだった。サイボウズの

グループウェア製品を使ってもらうことで、そのチームのチ

ームワークを高める。それによって、チームワークあふれる

社会を創る。これはサイボウズ全社共通のミッション、す

なわち理念となった。

 この理想に向けて集中して取り組んでいくためには、事

業領域をグループウェアに絞り込むしかない。青野氏の

社長就任以来、1年半で 9社を買収していたが、利益

の出ていたものも含めて事業を次 と々売却していった。こう

してサイボウズは、理念を再定義し、事業をグループウェ

アに絞り込み、再スタートを切った。

 サイボウズに倣って表面的なワークスタイルの多様化だ

けを取り入れようとしても、固定的な給与体系のままだった

り、どこで仕事をしていても情報共有を可能にするツール

が整備されていなかったり、多様性を認め合う風土がな

かったりする職場では、なかなかうまくいかないだろうし、

多様なワークスタイルを共存させることに成功しても、理念

や事業戦略が練り込まれていなければ、組織のパフォー

マンス向上にもつながらない。

「組織の歯車」という表現は、一人ひとりの個性を尊重

せず、代替可能な部品として人材を使い捨てにするような

ネガティブなイメージで使われることが多いが、本稿で

「歯車」と表現するのは、組織のパフォーマンスを構成す

るさまざまな要素である。それぞれの歯車がかみ合ってい

ないと、空回ったり、組織全体に無理な力がかかったりす

る。

 いずれかひとつの歯車を動かせば、必ずほかの歯車に

も影響が出るため、自組織にとって最適と思われる組み合

わせを選択していかなければならない。大切なのはあくま

でも歯車同士がしっかりかみ合っていることであり、全組

織にとってベストな歯車のかたちが存在するわけではな

い。

 人材もやはり組織の歯車のひとつであると言えるが、現

状の組織に合わせて本来多様である人材を同じかたちの

歯車にはめ込むのではなく、凹凸や大小のさまざまな多様

な歯車を、かみ合うように工夫して組み合わせることが重

要だ。どれかひとつの歯車の形状や回し方を変えるので

あれば、ほかの歯車もかみ合うように組み合わせや回転

を見直さなければならないと言えるだろう。

■経営者が変われば理念も変わっていい サイボウズが多様性を認める取り組みを始めるきっかけ

となったのは、離職率が 28%まで高まってしまったことだっ

た。4人にひとりは 1年後にはいなくなるという状況では、

補充人員の採用の負担も大きくなる。採用や教育のコスト

を考えれば、人材流出の食い止めは急務だった。

 退職を引き留めようとして気がついたのは、退職する理

由は人それぞれだという事実だった。長時間労働が嫌に

なった人、もっと高い報酬を望む人、勤務時間よりも場所

にこだわりのある人、ほかにやってみたい仕事が見つかっ

た人、友人の起業を手伝いたい人など、多種多様な理

由があった。人によって退職理由が異なるのであれば、

一律的な対応では離職率を下げることはできない。

 そこで、「100人いれば 100通りの人事制度」をスロ

ーガンにかかげ、「これからは働き方をパーソナライズして

いく。個性を重んじるから、思っていることを言って欲し

い」と従業員に伝えたところ、さまざまな意見が出てきた。

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PHP Policy Review  Vol.13-No.78 2019.8.6  PHP総研

 ITベンチャーとして、終電帰りどころか徹夜も日常的だ

った中、まず「残業をしたくない」という希望が出され、

宣言した人は残業をしなくてもいいことになった。次の希

望は短時間勤務で、これも受け入れた。さらに、「週 3

日だけ働きたい」という希望が出てきた。戸惑いがなかっ

たわけではないが、これまでの 6割は残るので、退職し

て 0になるよりいいということで、これも受け入れた。

 時間の次は場所の希望が出てくるようになった。ワーキ

ングマザーから「家事がたまっていくので、週に 1回在

宅勤務をさせてほしい」という希望が出され、「月4回ま

では誰でも理由不問で在宅勤務可」という制度をつくっ

た。すると、今度は「基本的に出社しないで働きたい」

という希望が出てくるようになった。働くのはいいが、通勤

が苦痛だというのだ。これも退職されるよりいいということ

で、在宅をはじめとするリモートワークを拡大して認めるこ

とになった。

 さらに、育児休業を最大 6年間まで延長したり、預け

先が見つからない場合に子連れ出勤を認めたり、副業を

自由化したりと、希望が出るたびに制度を増やし、辞める

理由を一つずつ潰していった結果、働き方は多様化し、

離職率は下がって行った。リーマンショックや米大手グー

グルのグループウェア事業参入などによって、業績の伸び

ない時期が続いても、社内の雰囲気はよく、離職率は下

がり続けた。この頃に従業員からの提案で取り組み始め

たクラウド化や、同時期に生み出された新製品は、現在

のサイボウズの売上を支える主力商品となっている。

「人事制度を変える」ではなく、「人事制度を増やす」

という表現の通り、サイボウズの人事制度には多様な選

択肢があり、従業員全員に一律に適用するのではなく、

それを望む人が使えるような制度になっている。望まない

人はその制度を使わなければいい。

 たとえば男性の育児休業取得の義務化が議論されて

いるが、収入減を避けたいなどの理由で取得を望まない

家庭に強制するのはナンセンスだ。収入の減る育児休業

よりも、毎日の定時帰宅の保障を望む家庭もあるだろう。

大切なことは、育児休業を取得したい人ができることであ

り、望まない人まで一律に育児休業を取らせることではな

い。

 働き方の多様化について、「一人ひとりのわがままを聞

けば、従業員は喜ぶかもしれないが、会社がもたない」

と及び腰の反応を示す経営者が多いというが、一人ひと

りの希望を受け入れて働きやすい環境をつくり、それによっ

て自分の会社を好きな従業員が増えれば、職場をもっと盛

り上げようとするし、危機が訪れても新しいアイデアやチャ

レンジに前向きに取り組み、事業を強化していく、というの

がサイボウズが実際に経験したことだ。

 このように、サイボウズのさまざまな改革や挑戦は、従

業員から出てきた希望や意見を経営陣が受け入れるかた

ちで進められてきた。注目すべきは、事情のある人を例外

として特別扱いするのではなく、仕組みに落とし込んでき

たことだ。現場の改革はトップダウン・ボトムアップの両方

が大切だと言われるが、サイボウズの場合はボトムアップ

の比重が大きいようにも見える。しかし、ボトムアップの意

見が部分最適に陥らないように、全体最適を考えて環境

を作り上げるのは、意思決定の役割を担うトップの仕事

だ。

 しかし、そもそもトップとボトムを分けて考える感覚のない

サイボウズの場合は、「みんなで」考えているという言い

方がもっとも適切かもしれない。組織の現状には適合しな

いものでも、自分の「こうしたい」という希望は主張すべ

きという風土があり、自分の意見によって議論が生まれ、

実際にものごとが変わっていくことを日常的に経験している

から、「言っても無駄」だと思うようなこともない。だから誰

もが自分事として当事者意識をもって主体的に意見やアイ

デアを出せる。

 これまでのやり方を変えるような主張をすることを職場に

波風を立てるものとしてネガティブに評価するような現状維

持バイアスの強い職場では、本音の意見も出てこない

し、新しいアイデアは生まれにくい。あるいは主張すること

を否定こそしないものの、前提となっている制度や価値観

の中でできる範囲でしか検討されないなど、実際の制度

や事業に反映されないようなことが続くと、言っても無駄だ

と諦められ、思い切った意見は出て来なくなる。ボトムアッ

プで意見やアイデアが出てくるためには、トップが「聞く」

だけでなく、実際にそうした意見によって職場が変わる体

験が共有されていなければならない。

 サイボウズの経営陣が現場の希望を受け入れて大胆

な施策を実行することができる背景には、変化への前向

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きな姿勢、「“変えてはいけないもの”など存在しない」と

いうマインドセットがある。サイボウズでは働き方や給与体

系ばかりでなく、多くの企業で不変であるとされている企

業理念さえ変わっていいと考えられていて、企業理念には

“バージョンナンバー”がついている。

 現在のサイボウズは、現社長を含む創業メンバーが、

「誰でも使えるグループウェアをつくりたい」という目標を持

って創立し、それに賛同する人々が集まってできているも

のだ。現在の理念はあくまで現社長を含む創業メンバー

のやりたいことを掲げているので、青野社長が去った後は

企業理念もゼロベースで見直してよい、サイボウズは解散

してもいいとさえ考えられていて、「理念は石碑に刻む

な」と言われている。

 企業は存続すること自体が目的であるという考え方もあ

るが、サイボウズはその前提自体に疑問を呈し、前提を

更新しようとしている。雇用を守ることは企業の社会的責

任であり、だから企業は存続しなければならないという考

え方もあるが、サイボウズは決して雇用の責任や従業員

の生活を軽視しているわけではない。サイボウズは、自社

で人材を囲い込むことで雇用を守り続けるのではなく、従

業員一人ひとりの市場性を高めることによって、サイボウズ

が仮に解散したとしてもどこででも価値を発揮できる人材と

することで、雇用を守っているとも言える。

 ただし、理念は組織にとっても経営者にとっても不可欠

であり、そのときに掲げられている理念に共感するメンバ

ーで組織が構成されるべきだとしている。理念に共感しな

いのであれば、サイボウズにいるべきではない。多様な人

材が力を合わせてチームワークを発揮できるのは、多様な

個人が理念という共通点で結節しているからだ。

 理念への共感を求めるエントリーマネジメントは厳格でさ

えあるが、理念への共感がある限り、変えてはいけないも

のなどない。働き方やキャリア形成を含め、企業としての

あり方、組織と個人の関係まで融通無碍に変化し続けて

いるのがサイボウズだ。

 理念や事業は組織内だけでなく、社会ともかみ合って

いなければならない。しかし、社会の要請も時代や環境

によって変化するものであり、組織のパフォーマンスを構成

するどの歯車も、変えてはいけないものなどないと言える。

図表4

事業

理念

ワークスタイル 人事制度

風土

ツール

時代や社会の要請

※筆者作成

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PHP Policy Review  Vol.13-No.78 2019.8.6  PHP総研

もちろん、経営者が変わったからといって、必ずしも理念

から変えなければならないというものではないが、テクノロ

ジーも価値観も変化する社会の中では、つくりあげたシス

テムを維持することに心血を注ぐのではなく、環境の変化

に応じて優位性を見直し、組織をゼロベースで再構築す

る視点も必要となる。

 とは言え、歴史のある大企業ほど、変革に対する抵抗

も大きいことが考えられる。サイボウズの場合は、もともと

業界も組織も従業員も若いベンチャー企業であったという

点は、変革に有利に働いただろう。

 だが、歴史や伝統のある組織だから変えられないと言

っていては、時代に取り残されていくばかりだ。サイボウズ

の場合は、離職率が高まったことが変革のトリガーとなっ

た。すべての歯車のかたちやかみ合わせについて、最

初から最適な組み合わせを見つけることは難しいかもしれ

ないが、それぞれの組織において、もっとも変革の必要

性や危機感が共有されている課題を変革のトリガーとし、

それと隣り合った歯車を順に変革していくことも考えられる。

 歴史と伝統ある大企業では、とくに年功システムという

壁が高く分厚い。定期的に昇格、昇給するという流れに

慣れてしまった組織と人材では、年功序列の給与テーブ

ルの概念を取り払って従業員の給与を個別に設定するこ

とにとまどいもあるだろうが、サイボウズのように市場性を取

り入れるのは一案だろう。人材の流動があまり盛んではな

い業界の場合は、市場性も測りにくいかもしれないが、転

職市場で似たような条件の求人と比較してみることはでき

るはずだ。

 組織内のすべての歯車を一気に入れ替えることは難しく

とも、変革のトリガーとなりうる歯車を見極め、そこから一

つひとつ歯車のかたちや動き、かみ合わせを変え、試行

錯誤していくことが重要だ。現状維持バイアスの強すぎる

職場においては、働き方改革関連法が 2019年 4月から

順次施行となったいまこそ、法律の施行によって影響を受

ける領域を変革のトリガーとしてうまく利用するチャンスと言

えるだろう。

■おわりに ─組織と個人の対等なパートナーシップを

 サイボウズの挑戦は、本稿の冒頭で述べたように、日

本の法律や規制は日本企業の改革を阻む理由にはならな

いことを示す事例であると同時に、個人の幸福の追求

が、結果的に組織の競争力につながることを、実践的に

示す事例だと言える。他方で、サイボウズの実践が必ず

しもすべての企業に適合するとは限らないし、サイボウズ

のようなかたちで従業員に多様な選択肢を認めることが唯

一の正解というわけでもない。決められたルールの中で規

則正しく働くことが性に合う個人もいるだろうし、急成長や

高い報酬を期待してハードワークを望む個人もいるだろ

う。理念への深い共感や主体的にやりたいことはなくとも、

「役割として与えられた仕事は責任をもってまっとうする」

という働き方も認められてもいいはずだ。従来のような均一

化した働き方や、ハードワークを従業員に求める企業もあ

ってよく、社会全体で働き方の多様性が担保されていれ

ば、あとは個人の選択次第である。誰も望まない働き方

を強いる組織は人材獲得競争に敗れ、淘汰されていくこ

とになるはずだ。重要なのは、そうした自社のスタンスが

求職者に対して明示されていること、また外に向けて発信

した情報が組織の実態と一致したものであることだ。

 従来の日本では、企業が親で従業員が子という疑似

的な家族のような関係を結んできた企業が多い。それも

従業員は、自分でものごとを決めることができないような幼

い子どもで、親たる企業の庇護と支配の下にあるような関

係だった。言うまでもなく、実際の従業員は、それぞれに

事情や希望があり、それを自ら主張できる自立した大人で

あるはずだ。

 少子高齢化に伴い、労働力の減少が深刻化していく

中では、組織と個人の力関係も、疑似的な親子関係か

ら、より対等なパートナーシップへと変化していくと考えられ

る。従業員一人ひとりが自立した大人として企業とパート

ナーシップを結び、企業は個人の個性を活かし、それぞれ

の幸福に配慮しながら、互いにチームとしての総合力を

高めるために協力し合う。そうした組織と個人の新しい関

係を体現する企業として、サイボウズには多様な働き方の

実現以外にも学ぶべき点が多くあるのではないだろうか。

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PHP Policy Review  Vol.13-No.78 2019.8.6  PHP総研

【著者プロフィール】

山田花菜(やまだ・かな)政策シンクタンクPHP総研主任研究員

2008年、東京大学文学部卒業。同年、PHP研究所入社。書籍出版部、雑誌編集部を経て現職。2013年 11月にインタビュー企画「変える人」を立ち上げ、取材を重ねる中でNPOが抱える共通の課題を知り、非営利組織の経営課題の解決を目指した「NPOマネジメントスクール」をNPOマネジメントラボ(現 株式会社 PubliCo)山元圭太氏と共催。2016年より働き方改革の先進事例の調査に携わる。【主な論稿】「経営戦略としての働き方改革」『PHP Policy Review』2017年 5月「人口減少時代に選ばれる組織になるために」『PHP Policy Review』2019年 5月

*本稿に関するお問合せは、㈱PHP研究所までご連絡ください。(E-mail:[email protected]

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PHP Policy Reviewバックナンバー

Date/No. 分野 タイトル・著者

2019.5.29(Vol.13-No.77) 経済・社会 人口減少時代に選ばれる組織になるために�―挑戦事例に見るキーポイント―� 主任研究員 山田花菜

2018.11.20(Vol.12-No.76) 経済・社会 消費増税に反対するのは誰か?�―シルバーデモクラシー論を超えて―� 公益財団法人中部圏社会経済研究所研究部長 島澤 諭

2018.5.31(Vol.12-No.75) 経済・社会 デフレ脱却と財政健全化�―消費増税をめぐる「総括的検証」―� 上智大学経済学部准教授 中里 透

2018.3.30(Vol.12-No.74) 外交・安全保障トランプ政権と対米ヘッジング�―ダイナミックスとシステム・インパクト―� 新潟県立大学大学院国際地域学研究科長、政策研究センター教授、PHP総研研究顧問 山本吉宣

2017.5.19(Vol.11-No.73) 経済・社会 経営戦略としての働き方改革�―先進事例に見るキーポイント―� 研究コーディネーター 山田花菜

2016.5.18(Vol.10-No.72) 外交・安全保障 本格化する日本の科学技術外交� 首席研究員 金子将史

2015.11.05(Vol.9-No.71) 地域政策 地方創生を深化させる「当たり前」の3原則10カ条�―拠点都市を育成し、地域連携を強化せよ―� 主席研究員 荒田英知

2015.8.28(Vol.9-No.70) 外交・安全保障 中国の台頭と国際秩序の観点からみた「一帯一路」�� 新潟県立大学大学院国際地域学研究科長、政策研究センター教授、PHP総研研究顧問 山本吉宣

2015.7.16(Vol.9-No.69) 外交・安全保障競争的相互浸透秩序の可能性�―北東アジアの安全保障環境をめぐって―� 新潟県立大学大学院国際地域学研究科長、政策研究センター教授、PHP総研研究顧問 山本吉宣

2015.3.30(Vol.9-No.68) 外交・安全保障武器輸出管理の課題�―我が国の安全保障を確保する制度と運用―� 慶應義塾大学 SFC研究所�上席所員(訪問) 森本正宗

2015.1.09(Vol.9-No.67) 外交・安全保障 デトロイト復活の胎動�―財政問題に悩む日本が学ぶべき破綻と再生のプロセス―� 在デトロイト日本国総領事 片山和之

2014.5.30(Vol.8-No.66) 政治 憲法改正はなるのか�―与野党試案を比較する―� 研究主幹 永久寿夫

2013.9.26(Vol.7-No.65) 教育 いじめ防止対策推進法の問題点を考察する� 主席研究員 亀田 徹

2013.9.10(Vol.7-No.64) 政治 『許認可等の統一的把握』をチェックする�―規制改革の基盤となるデータベースとして再構築せよ―� 主席研究員 熊谷 哲

2013.9.02(Vol.7-No.63) 地域政策 「道州制基本法」はいかにあるべきか�―自民党骨子案を読み解く―� 主席研究員 荒田英知

2013.7.31(Vol.7-No.62) 地域政策 首長の経営方針に基づいた地域経営の確立に向けて<2>�―マニフェストと総合計画をいかに調整するか―� コンサルタント 茂原 純

2013.7.23(Vol.7-No.61) 外交・安全保障 パブリック・ディプロマシーへの関心を強めるインドネシア� 国際交流基金東南アジア総局長/ジャカルタ日本文化センター所長 小川 忠

2013.6.12(Vol.7-No.60) 地域政策 首長の経営方針に基づいた地域経営の確立に向けて<1>�―マニフェストと総合計画の連動モデルとは―� コンサルタント 茂原 純

2013.5.23(Vol.7-No.59) 地域政策 デフレ脱却への経済・金融政策と地域経済・地方財政の展望神奈川大学指定管理者モニタリング・評価研究所客員教授/ファイナンシャルプランナー 伊藤敏孝

2013.3.27(Vol.7-No.58) 経済 アベノミクスによる政治的景気循環の行方�―憲法改正を視野に入れた財政再建戦略を描け―� 主任研究員 宮下量久

2013.2.13(Vol.7-No.57) 外交・安全保障 日本の外交と科学技術の創造的なサイクル形成を� 主席研究員 金子将史

2013.1.30(Vol.7-No.56) 地域政策 首都圏における高齢者急増に対する施設とサービスの絶対的不足コンサルティング・フェロー/㈱ファインコラボレート研究所代表取締役 望月伸一

2013.1.30(Vol.7-No.55) 地域政策 公共施設マネジメントにおける合意形成の進め方�~総論賛成、各論反対を突破するために~� 主任研究員 佐々木陽一

2012.11.22(Vol.6-No.54) 地域政策[緊急提言]東京都知事選を政策本位で考えるための8つの視点

主席研究員 荒田英知

2012.11.13(Vol.6-No.53) 教育 教育委員会廃止を提案する�―政治的中位性をいかに確保するか―� 主席研究員 亀田 徹

2012.10.24(Vol.6-No.52) 外交・安全保障[緊急提言]新段階の日中関係に適合した多面的なパブリック・ディプロマシーの展開を� 主席研究員 金子将史

2012.07.11(Vol.6-No.51) 外交・安全保障 日本の外交・安全保障政策の知的基盤をいかに強化するか�―政策シンクタンクのあり方を中心に―� 主席研究員 金子将史

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2012.06.19(Vol.6-No.50) 地域政策 スマート化する都市と第4世代(4G)地方自治の展開神奈川大学指定管理者モニタリング・評価研究所客員教授/ファイナンシャルプランナー 伊藤敏孝

2012.04.06(Vol.6-No.49) 外交・安全保障 第一次大戦から100年中国の台頭と日・ベルギー関係の展望在ベルギー日本国大使館公使 片山和之

2012.02.02(Vol.6-No.48) 外交・安全保障 中国における国益論争と核心的利益� 主任研究員 前田宏子

2011.10.17(Vol.5-No.47) 教育学校の災害対応マニュアルにPDCAサイクルを導入せよ�~文科省「東日本大震災を受けた防災教育・防災管理等に関する有識者会議 中間とりまとめ」に追加すべきポイント~� 主席研究員 亀田 徹

2011.9.30(Vol.5-No.46) 外交・安全保障 日米同盟は深化しているか�―日米安保共同宣言以降の変化から―� 主席研究員 金子将史

2011.7.12(Vol.5-No.45) 経済 東日本大震災後の電力政策に関する4つの視点� 研究員 宮下量久

2011.6.17(Vol.5-No.44) 地域政策 東日本大震災100日の課題について�~復興を軌道に乗せるための3つの取り組み~� 主席研究員 荒田英知

2011.5.27(Vol.5-No.43) 教育 『教育委員会による点検評価』をチェックする�~形式主義を打破するための制度は機能しているか~� 主席研究員 亀田 徹

2011.5.17(Vol.5-No.42) 地域政策 「東日本大震災からの復興に向けた第二次提言」について�~被災市町村は「復興ビジョン」の早期策定を~� 主席研究員 荒田英知

2011.5.6(Vol.5-No.41) 外交・安全保障 リビア情勢と中国�―中国の海外利益増大に伴う新たな課題―� 主任研究員 前田宏子

2011.4.15(Vol.5-No.40) 地域政策 「東日本大震災からの復興に向けた第一次提言」について主席研究員 荒田英知

2011.4.6(Vol.5-No.39) 地域政策 新東京都知事が取り組むべき3つの課題� 研究員 宮下量久

2011.3.7(Vol.5-No.38) 地域政策 地域主権時代の基礎自治体のあり方について�~大都市の部分最適から国全体の最適へ~� 主席研究員 荒田英知

2010.12.10(Vol.4-No.37) 福祉・教育 児童虐待事例の検証結果を再発防止に生かすには� 主席研究員 亀田 徹

2010.10.8(Vol.4-No.36) 地域政策 高速道路の料金体系はいかにあるべきか�~無料化・上限制よりも地域に応じた弾力的な料金設定を~� 特任研究員 松野由希

2010.9.10(Vol.4-No.35) 外交・安全保障 的確な指針示した「新安保懇報告書」�―民主党政権は提言を活かしうるか―� 主任研究員 金子将史

2010.8.23(Vol.4-No.34) 地域政策 ポストサブプライム時代の地方財政ガバナンス体制横浜市地球温暖化対策事業本部課長補佐/ファイナンシャルプランナー 伊藤敏孝

2010.7.30(Vol.4-No.33) 地域政策 国の出先機関と特別会計の道州移管に関する試論�~国家公務員12万人が削減可能に~� 特任研究員 松野由希

2010.7.7(Vol.4-No.32) 教育 PT方式による学校運営改善の進め方�~学校評価を活用する「学校運営改善モデル」の新たな展開~� 主任研究員 亀田 徹

2010.6.21(Vol.4-No.31) 地域政策 沖縄の都市戦略からみた普天間問題�~県内移設は沖縄の利益に適う~� 主席研究員 荒田英知

2010.5.26(Vol.4-No.30) 地域政策 公共施設経営の現状と今後コンサルティング・フェロー/㈱ファインコラボレート研究所代表取締役 望月伸一

2010.5.19(Vol.4-No.29) 地域政策 地域主権型道州制における新たな税財政制度� 研究員 金坂成通

2010.5.10(Vol.4-No.28) 地域政策 政令市「相模原」を地域主権社会の試金石とせよ� 研究員 宮下量久

2010.4.21(Vol.4-No.27) 外交・安全保障 米国の新しい核戦略と「核の傘」� 主任研究員 金子将史

2010.4.16(Vol.4-No.26) 外交・安全保障 民主党流の防衛大綱は可能か� 主任研究員 金子将史

2010.4.8(Vol.4-No.25) 地域政策・教育 子どもの未来を拓く地域からの挑戦前・恵庭市長/「子育てと教育を考える首長の会」事務局長 中島興世

2010.2.23(Vol.4-No.24) 地域政策 指定管理者制度から公共施設のあり方を見直すコンサルティング・フェロー/横浜市立大学教授・エクステンションセンター長 南 学

2010.2.18(Vol.4-No.23) 外交・安全保障 「米国国防見直し:QDR2010」を読む� 主任研究員 金子将史

2010.2.3(Vol.4-No.22) 地域政策 ハコモノ改革を自治体経営自立化への突破口とせよコンサルティング・フェロー/前・志木市長 穂坂邦夫

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『PHP Policy Review』 Web誌『PHP Policy Review』は、政策シンクタンクPHP総研の研究員や各界の研究者の方々の研究成果を、ホームページ上で発表する媒体です。各号ごとに完結した政策研究論文のかたちで公開しています(https://thinktank.php.co.jp/policyreview/)。 21世紀に入り、中国をはじめとする新興国の台頭により、これまでの国際政治の地図が大きく塗り替えられようとしています。グローバル化の進展は、世界の多くの人 を々豊かにすると同時に、グローバルに波及する金融経済危機の頻発を招くなど、新たな問題を惹起してもいます。国内に眼を転じれば、少子高齢化社会の進行、公的債務の増加、地域の衰退、教育の荒廃など、将来に向けて解決すべき課題が山積しています。 これらの問題の多くは、従来の発想だけでは解決できないものです。官民の枠を超え、様 な々智恵が求められています。『PHP Policy Review』では、「いま重要な課題は何か」「問題解決のためには何をすべきか」を問いながら、政策評価、政策分析、政策提言などを随時発表してまいります。

『PHP Policy Review』(Vol.13-No.78)

2019 年 8月発行発行責任者  金子将史

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