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粉末X線回折パターンのシミュレーションによる 結晶成分の同定 Bristol-Myers Squibb社の医薬研究所では,結晶モデリング ツールを使用して医薬品などのバルク材料の結晶成分を同定 しました。 この研究では,相の同定と定量的な分析に,シミュレーショ ンによる粉末X線回折パターンを標準値として利用すること を例示しています。 医薬産業ではバルク材料の結晶構成要素の同定が不可欠で すが,これは意外なことではありません。医薬品有効成分 API)の結晶構造が,安全性,有効性およびユニットプロ セスなどの重要な特性を決定するからです。結晶性物質の性 質を知り,APIが単一相かどうかを把握することは極めて重 要です。その主な確認方法が,粉末X線回折手法(PXRDです。 PXRDは,バルク材料の結晶成分の同定に用いられる従来技 術であり,実験値と参照パターンとの比較を基に実施しま す。標準値は,データベースに保存されている実験パターン であっても,各所の合成研究室で集められた実験パターンで あってもかまいません。一方,単結晶構造が既知であれば, 均質なバルク試料に予想される粉末パターンは原子パラメー タから一般的なアルゴリズムによってシミュレートできま す。シミュレートされたパターンは,確実に相を同定するた めの「判断基準」として利用できます。 Bristol-Myers Squibb社の研究者達は,多形,溶媒和化合物 および塩といった個々の結晶形に関する参照標準値として PXRDパターンをシミュレートするために結晶回折ソフトウ ェアツールを利用しました 1,2 。この研究チームは,実験で得 られたPXRDパターンとシミュレートしたPXRDパターンとの ちょっとした違い,例えば,新しいピークやショルダーピー クの出現,ピーク位置のずれ,異常な強度分布などが,別の 結晶形(多形や溶媒和化合物など)や選択配向または誤って 較正された装置の存在を示唆すると言うことを見いだしまし た。 さらには,単結晶構造の決定やPXRD実験での温度の相違が 原因で生じる問題を回避するために,いわゆる「ハイブリッ ド」リートベルト精密化法も用いました。このシミュレーシ ョンはまた,バルクの相転移の熱力学的検討における標準値 としても、温度に関する実験や顕微鏡検査と比較することに より活用されました。 この研究は,シミュレーションによるPXRDパターンが相の 同定に有効に利用できることを証明しています。このアプロ ーチは簡単かつ高速であり、製造工程の品質管理や品質保証 にも利用できるものです。 References 1. S.Yin, R.P.Scaringe, J.Dimarco, M.Galella, J.Z.Gougoutas,American Pharmaceutical Review, 80-85, Summer 2003. 2. M. Davidovich, J. Z. Gougoutas, R. P. Scaringe, I. Vitez, S. Yin,Bristol-Myers Squibb Pharmaceutical Research Institute,American Pharmaceutical Review, 10-16, January/ February2004. Crystalline Component Identification FromSimulated Powder X-Ray Diffraction Patterns Industry Sector 医薬 Organization 大鵬薬品工業株式会社 京都大学 Products BIOVIA Materials Studio Reflex Plus

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粉末X線回折パターンのシミュレーションによる結晶成分の同定Bristol-Myers Squibb社の医薬研究所では,結晶モデリング ツールを使用して医薬品などのバルク材料の結晶成分を同定しました。この研究では,相の同定と定量的な分析に,シミュレーションによる粉末X線回折パターンを標準値として利用することを例示しています。医薬産業ではバルク材料の結晶構成要素の同定が不可欠ですが,これは意外なことではありません。医薬品有効成分(API)の結晶構造が,安全性,有効性およびユニットプロセスなどの重要な特性を決定するからです。結晶性物質の性質を知り,APIが単一相かどうかを把握することは極めて重要です。その主な確認方法が,粉末X線回折手法(PXRD)です。PXRDは,バルク材料の結晶成分の同定に用いられる従来技術であり,実験値と参照パターンとの比較を基に実施します。標準値は,データベースに保存されている実験パターンであっても,各所の合成研究室で集められた実験パターンであってもかまいません。一方,単結晶構造が既知であれば,均質なバルク試料に予想される粉末パターンは原子パラメータから一般的なアルゴリズムによってシミュレートできます。シミュレートされたパターンは,確実に相を同定するための「判断基準」として利用できます。Bristol-Myers Squibb社の研究者達は,多形,溶媒和化合物および塩といった個々の結晶形に関する参照標準値としてPXRDパターンをシミュレートするために結晶回折ソフトウェアツールを利用しました1,2。この研究チームは,実験で得られたPXRDパターンとシミュレートしたPXRDパターンとのちょっとした違い,例えば,新しいピークやショルダーピークの出現,ピーク位置のずれ,異常な強度分布などが,別の結晶形(多形や溶媒和化合物など)や選択配向または誤って較正された装置の存在を示唆すると言うことを見いだしました。さらには,単結晶構造の決定やPXRD実験での温度の相違が原因で生じる問題を回避するために,いわゆる「ハイブリッド」リートベルト精密化法も用いました。このシミュレーションはまた,バルクの相転移の熱力学的検討における標準値としても、温度に関する実験や顕微鏡検査と比較することにより活用されました。この研究は,シミュレーションによるPXRDパターンが相の同定に有効に利用できることを証明しています。このアプローチは簡単かつ高速であり、製造工程の品質管理や品質保証にも利用できるものです。

References1. S.Yin, R.P.Scaringe, J.Dimarco, M.Galella, J.Z.Gougoutas,American Pharmaceutical

Review, 80-85, Summer 2003.

2. M. Davidovich, J. Z. Gougoutas, R. P. Scaringe, I. Vitez, S. Yin,Bristol-Myers Squibb

Pharmaceutical Research Institute,American Pharmaceutical Review, 10-16, January/

February2004.

Crystalline Component Identification FromSimulated Powder X-Ray Diffraction Patterns

Industry Sector医薬

Organization大鵬薬品工業株式会社京都大学

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