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PWV、AB Iに関するQ&A
Question 4虚血性心疾患のスクリーニングとしてのPWVの可能
性について教えてください。虚血性心疾患発症予測
におけるPWVの限界を教えてください。
Answer 冨山博史、山科 章(東京医大第二内科)
脈波伝播速度(PWV)は動脈壁の性状変化に伴う動脈の硬さの指標です。動脈の硬さ亢進には加齢と動脈硬化に伴う動脈壁の器質的変化が大きく作用します。粥状動脈硬化は動脈内膜側の病変が主であり、動脈の硬さは動脈中膜の変化が主です。粥状動脈硬化では中心動脈(弾性動脈)に早期変化が生じ、動脈硬化性心血管疾患発症の主病変である伝導血管に波及するとされます。すなわち、中心動脈の硬さ亢進(脈波伝播速度高値)は粥状動脈硬化の早期病変に関連した指標と考えられています。ゆえに、いくつかの臨床研究で冠動脈重症度と動脈の硬さの関連が報告されています。図1はわれわれの検討の結果ですが、冠動脈疾患精査のため冠動脈造影が施行された連続472例において、上腕-足首間PWVが高値の群では冠動脈疾患の有病率が高いことが確認されました。われわれの研究も含め、これまでの研究の対象は冠動脈疾患リスクが高く冠動脈造影検査を実施された症例です。すなわち、複数の冠動脈疾患リスクを有し、胸部症状があり、その他の検査所見から冠動脈疾患を強く疑う症例では、PWVがその存在をさらに示唆する検査法となると考えられます。 一方、冠動脈疾患リスクの低い症例での冠動脈疾患評価の有用性は明確ではありません。最近のRotterdam
研究では、高齢者一般住人コホートにおいてPWVが冠動脈石灰化と有意な関連を示し、一般住民でも冠動脈疾患スクリーニング指標となる可能性を報告しています(J
Hypertens 2006; 24; 2371-6.)。しかし、この研究はCTにて冠動脈石灰化を評価しています。CTにて得られる冠動脈石灰化は予後予測指標ですが、冠動脈の石灰化自体は、心筋梗塞発症に関係する冠動脈粥状硬化巣を反映してはいません。前述のごとく動脈の硬さには粥状動脈硬化だけでなく加齢も大きく影響し、動脈の硬さは動脈内膜でなく動脈中膜の変化を反映しています。最近のわれわれの検討でも、メタボリックシンドロームでない症例ではPWVと冠動脈病変数には有意な関連を認めて
います。しかし、メタボリックシンドロームでは両者に有意な関連を認めず、必ずしも動脈内膜の動脈硬化性病変の進行と動脈壁硬化の性状変化が密接に関連して進展する病態でないことが示唆されました。ゆえに、一般健診や日常診療で冠動脈疾患リスクを有するが、胸部症状もなく心電図変化も明らかでない症例において、PWV
は冠動脈疾患を判別する絶対的指標ではないと考えます。しかし、こうした症例でPWV亢進を認めた場合は、詳細な胸部症状の聴取、心電図記録、その他の動脈硬化性病変(脳動脈疾患、末梢動脈疾患、腎機能障害など)の存在の有無を確認することは重要と考えます。また、上腕-足首間PWV測定では同時に足首/上腕動脈血圧比(ankle-brachial pressure index;ABI)が測定されます。ABI 0.95以下ではPWVの精度が低下しており、注意が必要です。そして、このABI低下の症例では閉塞性動脈硬化症および冠動脈疾患合併の精査が必要です。上述のわれわれの研究においても、ABI低下の症例では冠動脈疾患の有病率が高いことが確認されています(図2)。 高血圧症例および糖代謝障害症例では、PWV亢進が冠動脈疾患発症の予測因子であることが示されています。冠動脈疾患既往歴を有する場合、冠動脈疾患再発率が年5%ですが、PWVの亢進した症例では冠動脈疾患の発症率は年1.2%程度とされ、頸動脈超音波検査にて得られる内膜中膜壁肥厚と同等のリスクとなることが示されています。動脈の硬さ亢進が冠動脈疾患のリスクとして作用する機序として、①動脈の硬さ亢進と冠動脈病変進行は共通の進展因子を有する、②動脈の硬さ亢進に伴う脈圧の増大は動脈壁のshear stress障害を増悪させ、直接的に粥状動脈硬化進展に作用する、が推測されています。ゆえに、日常診療で冠動脈疾患合併は否定的だが、冠動脈疾患危険因子を有しPWVが亢進した症例の場合、危険因子のより積極的なコントロールと経過観察が重要と考えられます。
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この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちらClick "Arterial Stiffness" web site for more articles.
図1 上腕-足首間脈波伝播速度と冠動脈疾患の有病率
冠動脈疾患有病率(
%)
上腕-足首間脈波伝播速度4分位
1st 2nd 3rd 4th
80
60
40
20
**
*
*:p<0.05 vs 4分位最下位。
冠動脈疾患有病率(
%)
100
足首/上腕動脈血圧比4分位
1st 2nd 3rd 4th
80
60
40
20
*
* *
*:p<0.05 vs 4分位最下位。
図2 足首/上腕動脈血圧比と冠動脈疾患の有病率
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