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東北大学 工学部 材料科学総合学科 工業数学 II(小原)
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6.ベクトル解析2 本章では主にベクトルの積分について述べる。本講義では、スカラー場およびベクトル場におい
てベクトル関数の軌跡が描く曲線 Cに沿って積分をする線積分のほか、2重積分、面積分、体積分
について解説する。このほかのベクトルの積分として、被積分関数がベクトル関数である場合や、
積分変数がベクトル関数である場合の積分についても概説する。
6-1.線積分と 2 重積分
a) スカラー場の線積分
空間における曲線 に沿った積分を線積分という。 が 上の距離 (弧の長さ)により
(6.1)
で示されるとする( 上の の点を A、 の点を B)。
, , は の各点で定義される与えられた関数であって、 の連続な関数とするとき、
, , , , (6.2)
を に沿った点 Aから Bまでの関数 の線積分という。
Fig.6‐1向きづけられた曲線 Fig.6‐2二次元領域 平面 における線積分
が任意のパラメータ により表わされている場合には、
, , , , (6.3)
ここで、
に沿った点 Aから Bまでに曲線が , , ⋯ , の順とすると、関数 の線積分は次式で表される。
, , , , , , ⋯ , , (6.4)
と逆向きの点 Bから Aまで経路を とすると、関数 の線積分は次の関係が成り立つ。
, , , , (6.5)
A
B
C
A B
C
x
y
f (x, y) f
A
B
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【演習問題】
6‐1 cos sin 0 2⁄ で表される円弧の上で、 , 2 を積分せよ。
6‐2 Cが 平面上の直線 2 を A: ‐1,‐2,0 から B: 1,2,0 までに区切った線分であると
き、 を求めよ。
6‐3 曲線 cos sin 3 の A : 1, 0, 0 から B : 1, 0, 6 までの線分における
の積分を求めよ。
6‐4 変化する力 がある粒子に作用している場合を考える。粒子が空間に与えられた軌道 Cに沿
って動かされたとすると、この変位で がした仕事 は、線積分
∙
で与えられる。今、 4 8 2 で示されるベクトル場において、粒子が以下の軌
道を通過する場合の仕事量を求めよ。
a 直線 2 , 2 に沿って、 0,0,0 から 3,6,6 まで
b 放物線 2 3⁄ , 0に沿って、 0,0,0 から 3,6,0 まで
b) 2 重積分
空間における 2 次元領域(平面) における積分を2重積分
という。閉領域 が
,
の形の不等式で記述できるとするとき、次式を閉領域 におけ
る , の2重積分という。
Fig.6‐32重積分の計算
Fig.6‐4
, , (6.6)
右図(Fig.6‐4)において、領域 の面積 は、
(6.7)
曲面 , 0 の下方で 平面における閉領域 Rの上
方の体積 Vは、
, (6.8)
となる。
c) 2重積分の変数変換
, , , なる新しい変数 , を導入した場合の2重積分は、
, , , , | | (6.9)
x
y
R
h(x)
g(x)
a b
x
y
f (x, y)
z
R
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ここで、Jはヤコブ行列式(ヤコビアン)と呼ばれ、次式で与えられる。
,,
≡ ∙ ∙ (6.10)
変数変換の頻繁な例としては、デカルト座標系から極座標系への変換
cos , sin とするとき、
,,
cos sinsin cos
となるので、
, cos , sin (6.11)
【演習問題】
6‐5 極座標を用いて、 : 9, 0の領域における関数 2 の積分を求めよ。
6‐6 極座標を用いて、 :0 √1 , 0 1の領域における関数 の積分を求め
よ。
d) 平面におけるグリーンの定理(2重積分-線積分間の変換)
平面上に単純閉曲線(自分自身が交わることのない閉曲線) で囲まれた領域 Rの2つのスカ
ラー場 , と , に対して、次式が成り立つ(ただし、 の向きは反時計まわり)。
(6.12)
【演習問題】
6‐7 グリーンの定理を用いて、積分路 上の反時計回りの積分 を求めよ。
a 3 , 4 , : 0, 0 , 1, 0 , 0, 2 を頂点とする3角形の境界
b 2 , 3 , : 1
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6-2.面積分
a) 面要素によるスカラー場の面積分
空間スカラー場 , , の曲面 Sにおける微小面積
(面要素)による積分を面積分とよぶ。
Fig.6‐5
Fig.6‐6
, , (6.13)
空間スカラー場 , , に2つのパラメータ(媒介変数)
, を用いて曲面 Sが、
, , , , (6.14)
, は領域 内を動く点
で与えられているものとする。
スカラー関数 , , の曲面 における微小面積要素
(面要素) ∆Aは、右図(Fig.6‐6)のように2つの微小
ベクトル ⁄ ∆ , ⁄ ∆ の外積の大きさに等
しい。∆ → 0, ∆ → 0とすると、
(6.15)
よって、スカラー関数 , , の曲面 における面要素 による面積分は、次のように定義される。
, , , , , , , (6.16)
【演習問題】
6‐8 下記の空間スカラー場 の曲面 S をパラメータ表示(媒介変数表示)して面積分
∬ , , を求めよ。
2, S: 1, 0 1
b) 面積分-2重積分間の変換
空間スカラー場 , , の曲面 Sが , ( , は
領域 を動く点)で与えられているとき、スカラー関数
, , の曲面 における面積要素 による面積分は、
平面における平面領域 の2重積分に変換できる。
Fig.6‐7
, , , , ,
, , ,
(6.17)
【演習問題】
6‐9 空間スカラー場 であり、半球面Sが で与え
られているとき、面積分∬ , , について極座標変換を用いて求めよ。
x
y
f (x,y,z) z
S r
uu
r
vv
v 一定
u 一定
A r
u r
vuv
(u, v)
(u+Δu, v+Δv) (u, v+Δv)
(u+Δu, v)
ΔA
ru
u
rv
v
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6-3.ガウスの発散定理(体積分-面積分間の変換)
閉曲面 で囲まれた領域 がベクトル場 であるときの体積分と
面積分について、
Fig.6‐8閉領域 と閉曲面 の
単位法線ベクトル
∙ (6.18)
が成り立つ。ここで、 は の体積、 は の表面積とし、 は曲
面 上の面積要素ベクトルである。
ここで、 が曲面 の単位法線ベクトルであるならば、 を曲面
の に関して外向きの法線ベクトルにおける の成分とすると、
∙
であるから、(6.18)式は以下のように表せる。
(6.19)
一般に、ガウスの発散定理の右辺よりも左辺の計算のほうが楽なので、右辺の計算の代わりに
左辺を計算するような問題が多い。
【例題6−1】空間ベクトル場 2 , 2 , 0 に2つの曲面 S : 4 0 と
S : 4 0 でできる閉曲面 Sが与えられている。
このとき、∬ を求めよ。
(解答)
閉曲面 Sは右図のとおりであり、Sに囲まれた領域を Rとする。
ガウスの発散定理より、∬ の代わりに ∭ を
計算する。 4 より、次式を計算すればよい。
Fig.6‐9
4 ①
, , の積分範囲は、曲面 S1と S2の方程式より、
0 4 , √4 √4 , 2 2 よって、式①は以下のように書ける。
4√
√
2 4√
√②
ここで、 cos , sin とおいて変数変換(極座標変換)すると、 平面では、
0 2,0 2 であり、ヤコブ行列式 、4 4 なので、式②は、
2 4
x
y
z 閉曲面S
領域R
0
n
n
n
x
y
z
2 2
2
-2
-2
S1: x2 +y2 +z2 =4 (z ≥ 0)
S2: x2 +y2 ≤ 4 (z = 0)
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【演習問題】
6‐10 空間ベクトル場 , , において、3つの座標平面と平面2x 2y z 2 0とで囲ま
れる領域を とし、 を囲む閉曲面を とする。このとき、∬ を求めよ。
ガウスの発散定理を直感的に理解をするために、以下のような物理現象を考える。
ベクトル場 を水の流れとする。ベクトルの発散( )は,湧き出しや吸い込みを意味するので、
定理の左辺の意味は『領域 内全体で、新たに増えたり減ったりする流れの総量』を表わす。今、
水の圧縮性を考えていない(非圧縮性流体)ので、もし、湧き出しや吸い込みが全くなければ、領
域 に流入する水量と流出する水量は同じになるはずである( 0)。もし湧き出しがあれば、
流出する水量の方が多くなり( 0)、吸い込みがあれば流入する水量が多くなる( 0)。
(領域 内にある水道の蛇口か何かによる湧き出し口をイメージしてみよう。)領域 全体での、水
量の増減がガウスの発散定理の左辺を意味する。
一方、右辺の中の ∙ は『この領域 の曲面 における、 の法線方向成分 』であるので、定
理の右辺は『領域の曲面 全域に渡る、曲面 を通過する流れの総量』を表わす。従って、ガウスの
発散定理の意味を現象論として記述すると以下のようになる。
(領域全体での増減)= (領域表面で出たり入ったりした量の差)
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6-4.ストークスの定理(面積分-線積分間の変換)
a) ベクトル場の線積分(接線線積分)
6−1節ではスカラー場の線積分について説明した。ここでは空間
ベクトル場の線積分について述べる。(さまざまな線積分が定義でき
るが、ここでは最も良く使われる接線線積分について定義を示す。)
空間ベクトル場: , , , ,
に、右図のような
曲線 : , ,
が与えられているとき、 と の内積の曲線 に沿った接線線積分
を次のように定義する。 Fig.6‐10接線線積分
∙
(6.20)
上式は、
∙ ∙ ∙ ′ (6.21)
とも表され、 ′ は接線ベクトル , , であることから、接線線積分と呼ばれる。
ベクトル場の接線線積分においても、スカラー場の積分と同様に次の式が成り立つ。
∙ ∙ : → , : → (6.22)
∙ ∙ ∙ ⋯ ∙ (6.23)
【例題6−2】空間ベクトル場 , , 2 , , 2 、曲線 : , , 1 0 1 の
とき、ベクトル場の(接線)線積分 ∙ を求めよ。
(解答)
曲線 : , , 1 0 1 より、求める接線線積分は、
∙ 2 2
曲線 上のベクトル関数は、
, , 2 , , 2 2 , , 2 1
曲線 上に沿った について
1 , 2 , 1
であるから、
∙ Fig.6‐11
x
y
z
p'(t)
p(t)=[x(t), y(t), z(t)]
P
0 A
B 曲線C
p (t)
(t=b)
(t=a)
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2 ∙ 1 ∙ 2 2 1 ∙ 123
2 ∙12
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b) ストークスの定理
ベクトル場 , , において閉曲線 で囲まれた曲面 について、面積分と線積分の関係を表
すストークス定理は、以下の公式で与えられる。
∙ ∙ (6.24)
ここで、曲面 の単位法線ベクトル 方向の の成分を とすると、
∙
また、
′
より、閉曲線 の接線ベクトル ′ 方向の の成分を とすると
Fig.6‐12ストークスの定理 ∙ ′ (6.25)
左辺はベクトル場 の回転と面の法線との内積の面積分であり、
右辺はベクトル と接線の内積の線積分であることを意味する。
ストークスの定理の場合、ガウスの発散定理と違って、左辺または右辺のどちらか一方が計算し
やすいというわけではない。
ストークスの定理を 平面で考えれば(ベクトル場を , , 0 と考える)、平面におけるグ
リーンの定理が導かれるので、ストークスの定理はグリーンの定理の曲面版と言える。
【例題6−3】 が原点から見て反時計回りに向きつけられた円 4, 3であって、右
手系のデカルト座標系に関して、 であるとき、 を求めよ。
(解答)
で囲まれた平面 4, 3を Sとする。平面 の法線ベクトル kなので、
∙ 1
であり、 3なので、 28
したがって、ストークスの定理を用いると、
28 28 4
(∵ ∬ は平面 の面積なので、4)
【演習問題】
6‐11 空間ベクトル場 , , 0 において、閉曲線 : 1 0 と で囲まれる平面
( 平面上の円板) がある。このとき、ストークスの定理の(6.24)式における
左辺および右辺をそれぞれ計算し、一致することを確かめよ。