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SEM TEM 相当画像が観察できる特殊試料ホルダーを知って, 体験して,その実力を紹介 髙井章治*,永田陽子*,日影達夫*,西村真弓*,荒井重勇* *名古屋大学全学技術センター工学系技術支援室分析・物質技術系 1. 本報告の表題に示す特殊試料ホルダー(写真-1aとは,我々が平成 19 年度実 験実習技術研究会(徳島大学)の聴講で知り,平成 20 年度総合技術研究会(京 都大学)で見聞したものであり,浜松医科大学の技術職員村中祥悟氏らにより開 発され,両研究会等で報告・発表された同試料ホルダーのことである。 時期を同じくして名古屋大学工学系技術支援室分析・物質技術系では,各種分 析機器の操作トレーニングを系の研修に取り入れ,各個人が将来を見据えて担当 機器はもちろんのことあらゆる分析機器の分析操作を学び,分析や測定に対応出 来る技術職員を目指すことを目的として,本系研修を行って来た。現在も各担当 の枠を越えて情報交換・分析指導の継続に努めている。平成 20 年度総合技術研究 会(京都大学)以後,本ホルダーの特許と市販化(写真-1bを待ち購入することが決まった。平成 21 11 月に調査と 体験実証を目的として村中氏らのご好意により技術情報交換会・勉強会を経て,入手後の準備を行った。 入手後は,現状我々の技術系において使用可能な SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて,本試料ホルダーを使った操作 条件を検証し,有効性が導き出せたと同時に,大学全体に広めるべく,系研修,技術職員研修などに取り上げた。その結 果,本ホルダーの活用を技術職員各自が SEM の一新技術として習得することができ,本ホルダー使用の有用性が実証で きたので,その成果を報告する。 2. 観察準備と条件 2-1. SEM 用特殊試料ホルダーは,高解像度用の試料ホルダー(写真-1aEDX (写真-22 種類を使用した。条件設定の検討では,主に高解像度用の試料ホルダーを用いた。 2-2. 使用 SEM 装置は,日本電子 6060 (写真-3,日立 SEMEDX-TypeH (写真-4,日立 S-800 (写真-53 機種を使用した。 TEM (透過型電子顕微鏡)像との比較では, TEM 装置として日立 H-800200kV)を使用した。 2-3. 観察試料は, SEM 分解能評価用標準試料(10100nmSn 粒子)と TEM 用カーボングレーティング(X:1000,Y:2000 mm),生物系試料(マウスの小腸,心筋等),カーボンナノチューブ(40nmφ)等を用いた。 写真-1 a:特殊試料ホルダー, b:同市販品と特許出願 a b 写真-2EDX 用試料ホルダー 写真-3:日本電子 6060 写真-4:日立 SEMEDX-TypeH 写真-5:日立 S-800

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SEM で TEM 相当画像が観察できる特殊試料ホルダーを知って,

体験して,その実力を紹介

髙井章治*,永田陽子*,日影達夫*,西村真弓*,荒井重勇*

*名古屋大学全学技術センター工学系技術支援室分析・物質技術系

1. 概 要

本報告の表題に示す特殊試料ホルダー(写真-1a)とは,我々が平成 19 年度実

験実習技術研究会(徳島大学)の聴講で知り,平成 20 年度総合技術研究会(京

都大学)で見聞したものであり,浜松医科大学の技術職員村中祥悟氏らにより開

発され,両研究会等で報告・発表された同試料ホルダーのことである。

時期を同じくして名古屋大学工学系技術支援室分析・物質技術系では,各種分

析機器の操作トレーニングを系の研修に取り入れ,各個人が将来を見据えて担当

機器はもちろんのことあらゆる分析機器の分析操作を学び,分析や測定に対応出

来る技術職員を目指すことを目的として,本系研修を行って来た。現在も各担当

の枠を越えて情報交換・分析指導の継続に努めている。平成 20 年度総合技術研究

会(京都大学)以後,本ホルダーの特許と市販化(写真-1b)を待ち購入することが決まった。平成 21 年 11 月に調査と

体験実証を目的として村中氏らのご好意により技術情報交換会・勉強会を経て,入手後の準備を行った。

入手後は,現状我々の技術系において使用可能な SEM(走査型電子顕微鏡)を用いて,本試料ホルダーを使った操作

条件を検証し,有効性が導き出せたと同時に,大学全体に広めるべく,系研修,技術職員研修などに取り上げた。その結

果,本ホルダーの活用を技術職員各自が SEM の一新技術として習得することができ,本ホルダー使用の有用性が実証で

きたので,その成果を報告する。

2. 観察準備と条件

2-1. SEM 用特殊試料ホルダーは,高解像度用の試料ホルダー(写真-1a)と EDX 用(写真-2)

の 2 種類を使用した。条件設定の検討では,主に高解像度用の試料ホルダーを用いた。

2-2. 使用 SEM 装置は,日本電子 6060 型(写真-3),日立 SEMEDX-TypeH 形(写真-4),日立

S-800 型(写真-5)の 3 機種を使用した。TEM(透過型電子顕微鏡)像との比較では, TEM

装置として日立 H-800(200kV)を使用した。

2-3. 観察試料は,SEM 分解能評価用標準試料(10~100nmSn 粒子)と TEM 用カーボングレーティング(X:1000,Y:2000

/mm),生物系試料(マウスの小腸,心筋等),カーボンナノチューブ(40nmφ)等を用いた。

写真-1 a:特殊試料ホルダー,

b:同市販品と特許出願

a b

写真-2:

EDX用試料ホルダー

写真-3:日本電子 6060型 写真-4:日立 SEMEDX-TypeH形 写真-5:日立 S-800型

2-4. 観察条件として,以下の項目の検討を行った。

① グリッド試料観察操作範囲:SEM ステージの傾斜・回転・XY 方向移動で検討した。

② 加速電圧:15kV~30kV の範囲で検討した。

③ 作動距離(WD)5~20mm の範囲で検討した。

④ 電子プローブ径(スポットサイズ:照射電流が追随)20~50SPS の範囲で検討した。

⑤ 各 SEM 装置での比較:標準試料による分解能評価と生物系試料像による画質の比較を行った。

⑥ TEM 像との比較:日本電子 6060 型で得られた画像データと比較を行った。

⑦ EDX 分析の試行:SEM 仕様での対試料ステージの位置は,EDX 用 WD30mm で,日立 SEMEDX-TypeH 形,日

立 S-800 型の両機種で試行的にデータをとったが,EDX 分析のための条件の検討は行ってい

ない。

3. 観察条件検討結果

① グリッド試料観察操作範囲

図-1に示すように,SEM ステージの傾斜・回転・

XY 方向移動を使って観察視野を検証した。写真

6-A~Dに示すようにほぼ全域をカバーできる

が,図-2 のイメージに示すように切り込み部分

の対角部分(C~Dの外より部分)に若干暗い

部分が観察される。これは,図-1-左側の状態で

ある。つまり二次電子発生面の上部に透過電子

線が照射されている状態である。しかし,コン

トラスト,ブライトネスで充分な調整ができる。個々の SEM 装置の最適観察条件を一端導き出せば,この条件は大

きな影響を及ぼすものではなかった。

写真 6:中央視野位置 写真 6-A~D:試料ステージの移動(図-1)によるグリッド域中の観察視野位置

図-2

写真 6-A~Dの明るさイメージ

A B

C D

図-1:SEM試料ステージの移動による試料ホルダーの動き

切り込み

表-1.SEMの一般的観察条件による影響

加速電圧 作動距離(WD) 電子プローブ径(スポットサイズ)

= 照射電流

大 小 大 小 大 小

高分解能が得られる 分解能が減 高分解能が得られる 分解能が減 分解能が減 高分解能が得られる

表面構造が不鮮明 鮮明 視野深度が深い 浅い ダメージが大きい 小さい

エッジ効果が大きい 小さい 像がざらつく 滑らか

チャージアップが易い 減る

ダメージが大きい 小さい

② 加速電圧

15kV~30kV の間で検討したが写真

-7に示すように20kVと30kVのSEM

でみられるほどの大きな違いは,確

認できなかったが,加速電圧が大き

い方が,高倍率では試料へのダメー

ジはやはり大きかった。

③ 作動距離(WD)

作動距離は 5~20 で検討したが,

20mm 程度で加速電圧が低いと観察

像が捉え難い。10mm~5mm で,加

速電圧 20 kV~30kV の間では,ほと

んど違いは見受けられなかった。(写

真-8)

④ 電子プローブ径(スポットサイズ:照射電流が追随)

低倍率(×500 以下)で写真-9に示すようにグリッド上の薄膜試料の存在が

確認できなければ,観察試料象が捕らえ難い,本報告ではこの因子が観察条

件に大きな影響を与えた。検討結果スポットサイズは,40~50 前後からが

最適であった。

⑤ 各 SEM 装置の分解能の評価と生物系試料像での比較

SEM 装置分解能評価をするために標準試料(10~100nmSn 粒子)で 5 万倍

程度の観察をし,100nm 程度の解像度は確認できた。

強いて見やすさで順位をつけるとすれば,日立 S-800 型(写真-11)>日本電子 6060 型(写真-10)>日立

SEMEDX-TypeH 形(写真-12)となった。生物系試料(写真-15,16,17)でも○枠内の細胞の線状模様を比較する

と前述の評価と同様の結果が得られた。写真-13,14は日本電子 6060 型にてカーボングレーティング(X:1000,Y:2000

/mm)とカーボンナノチューブ(40nmφ)を観察したもので,数十 nm の確認が可能なことが判った。

⑥ TEM 像との比較

写真-18・19は,生物系以外の試料で,80nmφの Latex 球の TEM 像と比較したものである。写真-20・21は,マウ

スの小腸の TEM 画像と比較したものである。両者とも TEM 像の解像度には劣るものの実用性では,充分な結果を

示すことができた。

写真-7-A:

30kV,WD5,×10000,SS-50

A B

写真-8-A:

30kV,WD5,×10000,SS-50

A B

写真-9:20kV, WD5,×500,SS-50

写真-7-B:

20kV,WD5,×10000,SS-50

写真-8-B:

30kV,WD10,×10000,SS-50

30kV,WD:20,×50000

写真-10:日本電子-6060

20kV,WD:15,×50000

写真-11:日立 S-800

20kV,WD:15,×60000

写真-12:日立 SEMEDX-TypeH

30kV,WD:5,×30000,SS50

20kV,WD:20,×30000,SS25

写真-13:日本電子-6060

カーボングレーティング

写真-14:日本電子-6060

カーボンナノチューブ 40nm程度

20kV,WD:5,×15000,絞り 2 30kV,WD:5,×14000,SS50 25kV,WD:5,×10000,絞り 2

写真-15:日立 S-800 写真-16:日本電子-6060 写真-17:日立 SEMEDX-TypeH

TEM-200kV,×20000 SEM-30kV,WD:5,×20000,SS50

写真-18:日立 H-800 写真-19:日本電子-6060

TEM-200kV,×20000 SEM-30kV,WD:5,×20000,SS50

写真-20:日立 H-800 写真-21:日本電子-6060

⑦ EDX 分析の試行

本報告では,生物系試料について SEM 装置における WD 等の条件でそのまま EDX の分析を

試行している。最適条件を検討したものではない。特殊試料ホルダーの C,Al,Cu の影響が

まちまちであったことからも覗える。今回の結果は,染色液中(酢酸ウランと鉛染色の二重染

色)の Pb は存在が認められた(図-3,図-4)が,U については,確定しがたい。Al の影響に

ついては,現在では,改良ホルダーが市販されている。(写真-19)

図-3:日立 SEMEDX-TypeH,20kV-WD15-×3000 図-4:日立 S-800,20kV-WD30-×3000

⑧ 各研修で各々の研修生が日本電子 6060 型 SEM で特殊試料ホルダーを用い,マウスの小腸を観察したときの走査透

過二次電子画像を下に示す。多くの研修生に成果が得られた。

30kV-WD5-×10000-SS50 30kV-WD5-×15000-SS50 30kV-WD5-×10000-SS50

30kV-WD5-×10000-SS50 30kV-WD5-×10000-SS50 30kV-WD5-×20000-SS50

写真-19:EDX用ホルダー

C

Cu

Al

Pb

C U

C

Cu

Al

Pb U

4. 特殊試料ホルダーの紹介

特殊試料ホルダーの構造を図-5に示す。

① 本体は,ジュラルミン。

② 二次電子発生面は,#20000 研磨,金コーティングガラス蒸着,

面角度 60°と 45°

③ 対物絞り(散乱電子遮蔽):高解像度用 Mo 箔 60μm,高視

野用 Mo 箔 300μm

④ 購入市販価格(平成 22 年 8 月現在)は,高解像度用と高視

野用は 80,000 円,EDX 用旧型で 120,000 円であった。

5. まとめ

本報告では,今までに報告されている特殊試料ホルダーの観察

性能が以下のように実証できた。

・ SEM に対するある程度の知識と操作技術を習得していれば,

SEM 用特殊試料ホルダーを使って,TEM 像相当の観察像が

得られる。

・ SEM の性能が上がれば,TEM 相当画像も追随して向上する。

・ グリッド試料のほぼ全域で観察が可能である。

研修に取り上げたことで,各々に興味を持ち SEM の操作技術の向上も図れた。

また,研修では超薄切片試料作製も体験することができ,今後の活用が期待される。

今後は,この SEM 用特殊試料ホルダーの附随性能としての反射電子による観察,EDX 分析等の検証と自作の可能性を

課題とした。

6. 謝 辞

本報告を遂行するに当たり,平成 21 年 11 月の情報交換会,本年 8 月の名古屋大学技術職員研修準備において多大なる

ご協力と丁寧なるご指導をいただきました浜松医科大学の村中祥悟氏はじめ,同様にご協力頂いたスタッフの皆様に心よ

り感謝の意を表します。また,名古屋大学技術職員研修等にて試料提供および超薄切片試料作成にご指導ご協力頂いた名

古屋大学全学技術センター医学系技術支援室の藤田芳和氏,水口幾久代氏,三澤伸明氏の方々にも心より感謝の意を表し

ます。

7. 参考文献

・ 村中祥悟:走査電子顕微鏡による透過二次電子像観察のための試料ホルダー開発と試用成績,徳島大学実験・実習

技術研究会報告集,231-236,2008.3

・ 村中祥悟:走査電子顕微鏡による透過二次電子像観察のための試料ホルダー開発と改良,京都大学総合技術研究会

報告集第Ⅱ分冊,30-31,2009.3

10φ 5φ

3.2φ

2.5φ

1.5φ

60°

45° M4 4.0

8.0 15.0

3.0

1.0

1.0

1.0 0.5

Aperture disk

0.5

図-5:特殊ホルダー構造図