ssh 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分...

32
1 学校設定科目「SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分析(第 1 期) 群馬県立高崎高等学校 SSH 1 目的 幅広い科学的素養を基に,分野融合課題を解決するための科学的な知識・技能を活用する能力を育成 する。 2 仮説 分野融合的な指導の中で,生徒が教科・科目相互間の関連性をとらえることができるようになること で,幅広い科学的素養を基に知識を活用できるようになり,分野融合的な課題を解決する能力が育成で きると考えられる。 また,電子黒板や各種端末などの ICT 機器を利用しながらグループディスカッションや発表などのア クティブ・ラーニングの手法を活用すれば,生徒の主体的な学習が喚起され,上記の資質・能力がより 効果的に身に付くと考えられる。 3 期待される効果 物理と他教科・科目のクロスカリキュラムの実践を基に,生徒は分野融合課題に対して幅広い科学的 素養を基に知識を活用することができる。 また,アクティブ・ラーニングを取り入れた分野融合的な課題解決学習の授業の展開を一般化し,SSH クラス以外の理系クラスや他教科・科目同士でも実践できる基礎をつくることができる。 4 実施方法 クロスカリキュラムは実験や演習の中での課題を既習の知識・技能を用いて論理的に考察し,課題解 決へ導く一連のプロセスの実践を行うものとする。クロスカリキュラムの授業を実施する際の基本的な 流れを示す。 クロスカリキュラムの授業の際には生徒の知識・技能の活用を深化させるため,電子黒板等の ICT 機器を積極的に活用する中でグループディスカッションや発表を行い,生徒が主体的・協働的に活動し, 既習の知識や技能を未知の課題に活用するようにする。また,ディスカッション等の生徒の活動はワー クシート内に残すようにし,授業の最後に生徒の学習意欲や自己の取組を評価したルーブリックにより 授業の振り返りを行う。 上記の方法を実践するために学校設定科目として「SSH 物理Ⅰ」「SSH 物理Ⅱ」を開講する。SSH 物理におけるクロスカリキュラムは実験や演習の中での課題を既習の知識・技能を用いて論理的に考察 し,課題解決へ導く一連のプロセスの実践を行うものとする。 アクティブ・ラーニ ング(A・L)の実施 ○ICT 機器を用いた 考察・グループデ ィスカッション 考察結果の発表 知識・技能の確認 課題解決に必要な 知識・技能の整理 分野融合課題の把握 課題に関する資料 やデータの確認 既習知識・技能の活 用を意識 リフレクション 課題解決の過程の 整理 自己評価・相互評

Upload: others

Post on 17-Jan-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

1

学校設定科目「SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分析(第 1 期)

群馬県立高崎高等学校 SSH 部

1 目的

幅広い科学的素養を基に,分野融合課題を解決するための科学的な知識・技能を活用する能力を育成

する。

2 仮説

分野融合的な指導の中で,生徒が教科・科目相互間の関連性をとらえることができるようになること

で,幅広い科学的素養を基に知識を活用できるようになり,分野融合的な課題を解決する能力が育成で

きると考えられる。

また,電子黒板や各種端末などの ICT機器を利用しながらグループディスカッションや発表などのア

クティブ・ラーニングの手法を活用すれば,生徒の主体的な学習が喚起され,上記の資質・能力がより

効果的に身に付くと考えられる。

3 期待される効果

物理と他教科・科目のクロスカリキュラムの実践を基に,生徒は分野融合課題に対して幅広い科学的

素養を基に知識を活用することができる。

また,アクティブ・ラーニングを取り入れた分野融合的な課題解決学習の授業の展開を一般化し,SSH

クラス以外の理系クラスや他教科・科目同士でも実践できる基礎をつくることができる。

4 実施方法

クロスカリキュラムは実験や演習の中での課題を既習の知識・技能を用いて論理的に考察し,課題解

決へ導く一連のプロセスの実践を行うものとする。クロスカリキュラムの授業を実施する際の基本的な

流れを示す。

クロスカリキュラムの授業の際には生徒の知識・技能の活用を深化させるため,電子黒板等の ICT

機器を積極的に活用する中でグループディスカッションや発表を行い,生徒が主体的・協働的に活動し,

既習の知識や技能を未知の課題に活用するようにする。また,ディスカッション等の生徒の活動はワー

クシート内に残すようにし,授業の最後に生徒の学習意欲や自己の取組を評価したルーブリックにより

授業の振り返りを行う。

上記の方法を実践するために学校設定科目として「SSH 物理Ⅰ」「SSH 物理Ⅱ」を開講する。SSH

物理におけるクロスカリキュラムは実験や演習の中での課題を既習の知識・技能を用いて論理的に考察

し,課題解決へ導く一連のプロセスの実践を行うものとする。

アクティブ・ラーニング(A・L)の実施 ○ICT 機器を用いた考察・グループディスカッション

○考察結果の発表

知識・技能の確認 ○課題解決に必要な知識・技能の整理

分野融合課題の把握 ○課題に関する資料

やデータの確認

○既習知識・技能の活用を意識

リフレクション ○課題解決の過程の整理

○自己評価・相互評価

Page 2: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

2

5 学校設定科目の設定

(1) 科目設定上の特例

SSH クラスの教育課程において「物理基礎」の3単位を学校設定科目「SSH 物理Ⅰ」に代替し,「物

理」の5単位を学校設定科目「SSH 物理Ⅱ」に代替する。

(2) 科目設定の理由

「物理基礎」及び「物理」の学習内容は「SSH 物理Ⅰ」及び「SSH 物理Ⅱ」で扱い,さらに研究課題

1の取組を実践するために,学校設定科目「SSH 物理Ⅰ」及び「SSH 物理Ⅱ」を開講した。

(3) 設定科目の目標と内容

本科目の目標は「物理基礎」及び「物理」の目的に研究課題1の目的を追加したものである。内容は

研究課題1の内容と同様となる。

(4) 設定科目の対象

平成 30 年度は「SSH 物理Ⅰ」を2年次 SSH クラス(41名),「SSH 物理Ⅱ」を3年次 SSH クラ

ス(41名)を対象として開講した。以下では,平成28年度入学生である3年次 SSH クラスに対して開

講したものを第1期,平成29年度入学生である2年次 SSH クラスに対して開講したものを第2期と示す。

(5) 設定科目の実施日程

物理基礎・物理のカリキュラムをベースにしながら,以下の日程でクロスカリキュラムを実施する。

(第1期) 4 月 5 月 6 月 7 月 夏季 休業

9 月 10 月 11 月 12月

冬季 休業

1 月 2月

3 月

SSH 物理Ⅰ (平成 29年)

物理 × 数学

物理 ×

数学

物理 ×

化学

物理 ×

世界史

SSH 物理Ⅱ (平成 30年)

物理 × 数学

物理 × 地理

物理 × 地学

量子力学入門

※物理基礎・物理の授業を基盤として,他教科科目との進度に合わせてクロスカリキュラムを実施する。

Page 3: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

3

6 クロスカリキュラム 物理×数学(SSH物理Ⅰ)に関する検証

(1) 目的

物理と数学の分野融合課題を物理の知識と数学の知識を活用して解決するための科学的思考力・判断

力・表現力の基礎を育成する。

(2) 仮説

物理と数学の分野融合課題として物体の運動の時間追跡を微分積分の考え方でとらえる方法を指導す

るとともに,電子黒板やデータロガーを利用しながらグループディスカッションや発表などの手法を活

用することで,数学の課題を物理の知識を活用して解決するための科学的思考力・判断力・表現力の基

礎を育成することができる。

(3) 方法

以下のルーブリックを基に,等加速度直線運動の数学的理解を基に空気抵抗を受ける物体の運動につ

いて微積分を用いて考察する活動を行う。

クロスカリキュラム物理×数学(SSH 物理Ⅰ)(第 1 回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

載する欄がある)

具体的な課題は次の①②である。

① 空気抵抗力を受ける物体の微分積分による説明(ルーブリック項目1)

② 空気抵抗力を受ける物体の加速度が𝑎 = 𝑎0 − 𝑘𝑡と仮定した場合の問題点の議論(ルーブリック項目2)

活動の際には,電子黒板とタブレット(データロガー機能付)との連携の取れる WiFi 環境下において,

生徒の発表がスムーズに行えるようにした。

Page 4: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

4

<日程・実践記録>

日程 活動 実践の記録

1 時間目

6 月 19 日 知識・

技能の

確認

ルーブリックを用いて評価規準を確認する。

微分を用いて𝑣 − 𝑡グラフから𝐹 − 𝑡グラフを記述できることを確認する。

例として,データロガーを用いて自由落下の𝑣 − 𝑡グラフの接線が約 9.8m/s2である

ことを示し,自由落下は重力のみがはたらいていることを確認する。

課題①

の提起

グループ毎に段ボール片(B4)の落下運動についてデータロガーを用いて測定を

行い,得られたグラフの特徴を数学的に説明する課題を提起する。

A・L の

実施①

𝑥 − 𝑡グラフの接線の傾きを調べるよう指針を与えて活動を行う。

運動開始時は2次曲線,運動終了時は直線となっており,その結果が𝑣 − 𝑡グラフ

の結果と一致することを,電子黒板を活用して確認した。

課題の

提起

課題①の 𝑣 − 𝑡 グラフと 𝐹(𝑡) = 𝑚(𝑑𝑣/𝑑𝑡)から,空気抵抗が働く物体が受ける力

の式を予想し,妥当性を説明する課題を提起する。

まとめ

生徒から意見が出なくなったことと,授業の残り時間が少なくなったことから,今

回の結果は𝑎 = 𝑔 − 𝑘𝑣であることを教員が全体で示し,教員主導でその妥当性につ

いて微分積分を用いて説明した。(A・L の実施に至らず)

2 時間目

6 月 20 日

前回の

復習

𝑎 = 𝑔 − 𝑘𝑣となることを確認し,その数学的な意味について微分積分を用いて説明

できることを確認した。

課題②

の提起

前日に回収したワークシートから𝑎 = 𝑎0 − 𝑘𝑡と考える意見が見られた。

𝑎 = 𝑎0 − 𝑘𝑡では空気抵抗を受ける物体の運動として説明がつかないことを説明す

る課題を提起する。協議時は以下の観点を踏まえた。

「𝑥 − 𝑡グラフ,𝑣 − 𝑡グラフ,𝑎 − 𝑡グラフの微分の関係性を満たすか。」

「その関数は𝑎 − 𝑣図が直線であることも説明ができるか。」

A・L の

実施②

グループ協議を行った後,考え方がまとまった班が全体説明を行う。

生徒からは10グループ中3グループの発表があった。

グループ A:接線の作図で定性的に 𝑥 − 𝑡 グラフがうまく説明できないとしよう

としたが,微分の関係は問題なかった。微分のとらえ方に誤解があった。

グループ B:3次関数+1次関数で 𝑥 − 𝑡 グラフが表せることを示したが,数式

でも微分の関係性は問題なかった。

グループ C: 𝑣 − 𝑡 グラフの結果から𝑣 ≠ 𝑙𝑡であることを仮定し,𝑎 = 𝑝 − 𝑞𝑡 の仮

定では(𝑝 − 𝑎)/𝑔 = 𝑡 ≠ 𝑣/𝑙となってしまい,𝑎 − 𝑣グラフが直線になりえないことを

示した。

リフレ

クショ

課題解決の一連の過程を振り返り,活動の主体性・協働性をルーブリックで評価す

る。

発展として𝑎 = 𝑔 − 𝑘𝑣/𝑚の解析的な解法を紹介し,すべてにおいて妥当であるこ

とを確認した。

Page 5: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

5

(4) 結果・考察

まず,課題①「空気抵抗力を受ける物体の微分積分による説明」の取組の

評価を示すルーブリックの項目1「物理の課題に対する微分の知識活用」に

ついての生徒の自己評価と教員評価の結果を,縦軸に生徒評価,横軸に教員

評価としてプロットしたものを図 1 に示す。

図 1 の表を見ると,教員が評価値を「4」と判断した生徒は 40 名中 21

名であり,実験で得られたグラフを微分で理解し,運動状態を説明すること

は取組みやすく,約半数の生徒が取り組めたと考えられる。しかし,その中

で 10 名の生徒の自己評価が3であり,どのようになれば生徒は微積分を用

いた分析ができる段階に達したかを意識できていないと考えられる。

次に,ルーブリックの項目2「実験データによる仮説設定」についてはクラス全体の評価は「1」と

した。これは授業実践の 1 時間目において,ほとんどの生徒が仮説を立てることができなかったため,

今回の実践では代表生徒 1 名の示した仮説を全体で共有し,2 時間目の実践を行うこととなったことから

判断した。生徒が自分で𝑣 − 𝑡グラフの傾きを調べ,傾きの変化を表す数式を予想し,立式するプロセス

ができるようになるには,数学Ⅱの微分積分の範囲終了段階の知識を活用するだけでは不十分であり,

現時点では設定難易度が高すぎる課題であったと考えられる。

最後に,課題②「空気抵抗力を受ける物体の加速度が𝑎 = 𝑎0 − 𝑘𝑡と仮定し

た場合の問題点の議論」の取組の評価を示すルーブリックの項目3「仮説の

妥当性の論証」について,ルーブリックによる生徒の自己評価の結果のみを

図 2 に示す。教員の評価が行えなかった理由は,授業実践の A・L の実施②

において,クラス全体で 10 のグループのうち,3 つのグループによる議論

がつながった結果,ようやく1つのグループが数式を用いた仮説検証の一例

を示すことができたという状況であり,生徒の提出した個別のワークシート

も班単位で思考過程のメモがまとまったものしかない状態であったためで

ある。また,図 2 の数学的な説明ができたと考える生徒は 5%しかいない状況から考えても,現状では数

学的な仮説の妥当性の論証は本校においてクラスの上位生徒のみがようやくたどり着く段階であると分

かる。

以上より,実験で得られたグラフを微分で理解し,運動状態を説明することは比較的取り組みやすい

課題であるが,数学的な思考を基に数式による仮説を立てることや仮説で立てた数式の妥当性を実験結

果のグラフを用いて論証することは,単純に数学の知識を物理に活用することとは異なるため,クロス

カリキュラムを通して具体的な指導方法の開発が必要である。

例えば,数学的知識を用いて論証する課題の解決の指導の際には概念を示したうえで,生徒の表現を

集約する。このことにより生徒がグラフと微分を用いて論証するための思考力の向上につながると考え

られる。また,その際には効果的に実施するため物理と数学の教員とのチームティーチングを組む。

4 3 2 0 11

3 3 2 0 10

2 1 0 0 3

1 0 0 0 0

1 2 3 4

生徒の評価値

教員の評価値

項目3「微積分と運動方程式の関連」

図 1ルーブリック項目1「物理の課題に対する微分の知識活用」に関する評価プロット

図 2 ルーブリック項目3「仮説の妥当性の論証」に関する生徒の自己評価

Page 6: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

6

(5) 仮説の再構築

上記の考察を踏まえ,物体の運動の時間追跡の問題を数学教員が数学の問題としてとらえる解説を行

った後に生徒が説明を行う形態で授業を実施することで,課題解決のために適用するべき数学的知識が

明確になり,仮説の設定した段階から数学的知識を用いて論証する課題を解決するための思考力を育成

することができると考える。

(6) 方法

実力テストの問題に以下に示す課題を提起する。

実力テストの解説の際に以下のルーブリックを基に物理の教員と数学の教員とチームティーチングを

組み,微分と合成関数の数学的理解と運動方程式の知識を活用する方法を示すことで,生徒自身の表現

で課題の解決方法を説明する。

Page 7: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

7

具体的な日程と実践内容を以下に示す。

<日程・実践記録>

(7) 結果・考察

ルーブリックの項目 1「運動方程式の立式」については運動方程式の立式は

約 95%の全員の生徒がテスト後では正答しており,運動方程式に関する理解

は問題ないと考えられる。

ルーブリックの項目 2「𝑥 − 𝑡グラフと運動方程式を用いた論証」についての

生徒の自己評価と教員評価の結果を,縦軸に生徒評価,横軸に教員評価として

プロットしたものを図 3 に示す。

5%の生徒しか論証ができたと回答していない 6 月の実践と比べると,今回

は 22%の生徒が教員も認める形で数学的な論証をすることができた。数学教

員が数学の知識を活用する際の論点を具体的に指導した効果が大きく,物理

の問題の数学的とらえ方が明確になった結果であると考えられる。

しかし,8 割の生徒が論証できていないことは課題である。物理と数学のクロスカリキュラムでは数

理モデルを論証するためのプロトコルを学ぶために段階的なカリキュラムの開発を行うとよいと考え

る。実践の際は物理の教員と数学の教員とのチームティーチングを行いながら実践していき,少しずつ

生徒の論理的思考力を向上させていく。

また,図 3 において多くの生徒の自己評価が教員評価と一致した。今回の取組では課題を明確にし,

活動を一本化したことで,生徒がどのような状況であれば論証したことになるのかを明確に意識するこ

とができたためと考えられる。

日程 活動 実践の記録

8 月 29 日

知識・

技能の

確認

まず,水中から水上に出る間の運動方程式について物理教員が説明する。

次に,数学教員が与えられた𝑥 − 𝑡グラフと𝐹と𝑥の関係式から,合成関数と微分係

数の知識のみを用いて,正しい答えとその理由を解説する。

数学教員には模範解答のように板書を写すだけの形式ではまとめず,概念図を板

書してもらう。

課題提

起 数学教員の概念の解説を踏まえ,実力テストにおける模範解答を作成する

A・L の

実施

知識・技能を踏まえ,生徒毎に個人で解答を作成する。

ペアワークを行い,考え方を共有し,ペアで一つの解答を作成する。

4 ペアで 1 グループになり,ペア毎に作った解答の発表を行い,最適と思われる解

答をグループで1つ選出する。

1 グループに発表を行い,生徒・教員全体で協議を行う。

協議の際には電子黒板とタブレットを用いることでスムーズに発表及び協議を行

うことができる。

リフレ

クショ

課題解決の一連の過程を振り返り,合成関数と微分係数を用いて, 𝑥 − 𝑡 グラフ

と 𝐹と𝑥 の関数の関係から, 𝐹 − 𝑡 グラフの挙動を説明できるようになったかを

確認する。

理解状況や共働性はルーブリックで評価する。

4 0 4 83 4 12 4

1 1 31 3 4

項目2「x-tグラフと運動方程式を用いた論証」

生徒の評価値

教員の評価値

図 3ルーブリック項目 2「𝑥 − 𝑡グラフと運動方程式を用いた論証」の評価プロット

Page 8: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

8

最後に,ルーブリックの項目 3「協働性」の生徒の自己評価について,6

月の実践(実験実習中心)と 8 月の実践(講義中心)の比較を行った結果を

図 4 に示す。

「(4)主体的かつ協働的に取り組めた」生徒はどちらの実践でも 60%であ

り,「(3)主体的であったが,協働的に取り組めなかった」生徒が 32%から

26%へと変化したものの高い数値のまま推移している。個人→ペア→グルー

プの順に段階的に協議を行う実践は,講義形式であっても生徒の協働的・主

体的活動を誘起する効果が高いと考えられる。

また,本授業を 1 時間で完結できことは電子黒板とタブレットを利用することで,議論に時間を割

くことができたことによると考えられる。

7 クロスカリキュラム 物理×化学に関する検証

(1) 目的

化学の課題を物理の知識を活用して解決するための科学的思考力・判断力・表現力の基礎を育成する。

(2) 仮説

気体の法則における物理と化学の関連性について知識を整理した上で,実在気体が理想気体として扱

える条件を物理の観点で考察する方法を指導するとともに,電子黒板を利用しながらグループディスカ

ッションや発表などのアクティブ・ラーニングの手法を活用することで,化学の課題を物理の知識を活

用して解決する際にための科学的思考力・判断力・表現力の基礎を育成する。

(3) 方法

以下のルーブリックを基に,気体の法則における物理と化学の関連性について知識を整理した上で,

実在気体が理想気体として扱える条件を物理の観点で考察する活動を行う。

クロスカリキュラム物理×化学(SSH物理Ⅰ)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記載する欄がある)

4 3 2 1項目1「理想気体の状態方程式の立式」

知識・技能判断力

理想気体の状態方程式を正しく立てることができる

□P-V図を読み取り、状態方程式を用いて,指定の状態における気体の圧力や体積、物質量、温度を表すことができる

□P-V図を読み取り、状態方程式を用いて,指定の状態における気体の圧力や体積、物質量、温度を表すことができない

項目2「実在気体の振る舞いの物理的説明」

思考力表現力

□分子間力、気体自身の体積の影響を考慮し、実在気体の振る舞いを物理的に説明できた

□分子間力、気体自身の体積の影響を考慮し、実在気体の振る舞いを説明したが、物理的な説明に乏しかった

□分子間力、気体自身の体積の影響を考慮できず、実在気体の振る舞いを説明できなかった

項目3「協働性」

主体性協働性(コミュニケーション力)

実験実習や考察を主体的かつ協働的に取り組むことができる

□今回の授業に主体的かつグループで協力して取り組むことができた

□今回の授業に主体的に取り組むことができたが、グループで協力して取り組むことができなかった

□今回の授業にグループ全体としては協力して取り組むことができたが、主体的に取り組むことができなかった

□今回の授業には主体的かつグループで協力して取り組むことはできなかった

化学の課題を物理の知識・技能と結び付けて思考することができる

NO 観点 規準評価

図 4 ルーブリックの項目 3「協働性」に関する生徒の自己評価の比較

Page 9: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

9

具体的な課題は以下の①②である。

① (ルーブリック項目1)理想気体の状態方程式を活用して指定の状態の圧力,体積,温度を P-V 図か

ら読み取る。

② (ルーブリック項目2)実在気体(H2,N2,CH4,CO2)におけるZ = PV 𝑛𝑅𝑇⁄ と温度のグラフ,Z =

PV 𝑛𝑅𝑇⁄ と圧力のグラフから実在気体が理想気体に近づく条件を考察し,理由を物理の知識を用いて説

明する。

活動の際には,電子黒板とタブレット(データロガー機能付)との連携が取れる WiFi 環境下において,

生徒の発表がスムーズに行えるようにした。

また,具体的な日程と実践内容を以下に示す。

<日程・実践記録>

日程 活動 実践の記録

1 時間目

10 月 12 日 知識・

技能の

理解

化学教員がボイルの法則とシャルルの法則をそれぞれ説明する。

物理教員がボイルシャルルの法則の導出過程を説明する。

ボイルシャルルの法則の演習を行い,生徒の理解を確認する。

標準状態におけるボイルシャルルの法則から気体定数を決定する際に,物理と化

学とで単位系の違いから値が変わることをそれぞれ確認する。

2 時間目

10 月 13 日

前回の

復習

ボイルシャルルの法則と標準状態における体積の測定から状態方程式が導かれ

ることを確認する。

課題①

の提起

と解決

与えられた P-V 図から,指定の状態の圧力,体積,温度を表す課題を提起し,状

態方程式に対する生徒の理解を確認する。

代表生徒に説明をしてもらい,全体で理解を共有した。

課題②

への導

化学における理想気体の状態方程式の活用例として分子量測定について化学教

員が説明を行う。

標準状態における実在気体 1mol の体積を比較するグラフを観察し,分子量測定

をする際に理想気体の仮定のまま測定をしてよいか問題提起をする。

実在気体における 𝑍 = 𝑃𝑉/𝑛𝑅𝑇の測定値と温度のグラフと𝑍 = 𝑃𝑉/𝑛𝑅𝑇の測定値

と圧力のグラフを示す。

物理教員から理想気体において気体をモデル化していた部分として「気体を質点

として扱い,互いの分子間力を無視していたこと」を確認し,今回は「実在気体

への近似として,気体を剛体として扱い,互いの分子間力を無視しない」条件で

考察することを補足した。

課題②

の提起

実在気体(H2,N2,CH4,CO2)における𝑍 = 𝑃𝑉/𝑛𝑅𝑇と温度のグラフ,𝑍 =

𝑃𝑉/𝑛𝑅𝑇と圧力のグラフから実在気体が理想気体に近づく条件を考察する。また,

そのようになる理由を定性的に説明する。

A・L の

実施

知識・技能を踏まえ,生徒毎に個人で解答を作成する。

ペアワークを行い,考え方を共有し,ペアで一つの解答を作成する。

4 ペアで 1 グループになり,ペア毎に作った解答の発表を行い,最適と思われる

解答をグループで1つ選出する。

Page 10: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

10

(4) 結果・考察

ルーブリック評価の結果・考察

まず,課題①「理想気体の状態方程式を活用して指定の状態の圧力,体積,

温度を P-V 図から読み取る」の取組の評価を示すルーブリックの項目1「理

想気体の状態方程式の立式」についての生徒の自己評価は 98%の生徒が理解

できたと示した。代表生徒の説明と物理教員の解説で教科書レベルの問いに

対する理想気体の状態方程式の活用は十分にできると生徒は認識できる。

次に,課題②「実在気体(H2,N2,CH4,CO2)におけるZ = PV 𝑛𝑅𝑇⁄ と温度の

グラフ,Z = PV 𝑛𝑅𝑇⁄ と圧力のグラフから実在気体が理想気体に近づく条件を

考察し,理由を物理の知識を用いて説明する。」の取組の評価を示すルーブリ

ックの項目2「実在気体の振る舞いの物理的説明」についての生徒の自己評

価と教員評価の結果を,縦軸に生徒評価,横軸に教員評価としてプロットしたものを図 5 に示す。

ここで,41 名のうち個人でワークシートをまとめることができた 30 名に対して自己評価の妥当性を

物理教員が評価した。

図 5 を見ると,教員が評価値を「4」と判断した生徒は 30 名中 18 名であり,60%の生徒は実在気体

が理想気体として扱える条件を物理の観点で考察することができている。これは電子黒板を利用した発

表・協議を繰り返すことで徐々に生徒の思考がまとまっていったものと考えられる。生徒の自己評価が

3および教員の評価が3の生徒については,ワークシート及びルーブリックの評価理由の記述を分析す

ると,「高温の条件と定圧の条件を混在させて考察している」「片方の条件のみを議論して終わっている」

「分子間力の物理的影響を理解できなかった」という状況があったようである。これらの生徒の理解度

を向上させるために,授業の最後には課題②の解決にあたっての論理をまとめ,改めて各自で表現させ

る時間を設けることで,思考を整理させる必要があると考える。

最後に,ルーブリックの項目3「協働性」に関する生徒の自己評価の

結果を図 6 に示す。協働性に関してはクロスカリキュラムも 5 回目に達

すると,生徒もペアワークやグループワークに慣れ,主体的協働的に活

動することができるようになると考えられる。

1 グループに発表を行い,生徒・教員全体で協議を行う。

協議の際には電子黒板とタブレットを用いることでスムーズに発表及び協議を

行うことができる。

リフレ

クショ

課題解決の一連の過程を振り返り,実在気体が理想気体に近づく条件が「高温・

低圧」であることを 𝑍 − 𝑇グラフ及び 𝑍 − 𝑃とグラフから読み取ることができ,

その理由を物理的に説明できたかをルーブリックを用いて評価する。

4 2 153 3 7 3

1 01 3 4

項目2「実在気体の振る舞いの物理的説明」

生徒の評価値

教員の評価値

図 5 ルーブリック項目2「実在

気体の振る舞いの物理的説明」の

評価プロット

図 6 項目 3「協働性」に関する

生徒の自己評価

Page 11: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

11

授業実践後の定期テストにおいて「実在気体の振る舞いの物理的説明」に関する図 7 のような設問を

化学基礎において出題した。その際の正解率の SSH クラスと普通理系クラスの比較を図 8 に示す。

図 7 「実在気体の振る舞いの物理的説明」に関する化学の定期テストの問題

図 8 の結果から,今回の取組で扱った「実在気体が理想気体として扱える条件」についての設問であ

る[11](3)(4)についてのSSHクラスの生徒の正解率は普通理系クラスの生徒の正解率と比べた際にそれ

ぞれ 25 ポイント以上の差がついた。クロスカリキュラムの取組において,深い議論を行った結果,知識

を活用する際の技能が向上したものと考えられる。

意識調査の結果・考察

理科の各分野のとらえ方に関する生徒の意識調査をアンケートによって実施した結果を図 9 に示す。

図 9 の結果から,クロスカリキュラムの取組を経験した SSH クラスは化学と物理の関係を意識できるよ

うになっているとともに,他の分野とも関連しあう事項は複合的な視点をもつことが重要だと強く意識

するようになったことがわかる。

また,全校で実施している授業アンケートについて,クロスカリキュラムの取組を実施していない平

成 28 年度の 2 年 1 組とクロスカリキュラムの取組を実施した平成 29 年度の 2 年 1 組(SSH クラス)と

図 9 理科の分野のとらえ方に関する SSHクラスの生徒と普通理系クラスの生徒との意識調査の比較

図 10 平成 28年度 SSクラスの生徒と平成 29年度 SSHクラスの生徒との授業アンケートの比較 評価は 4はい → 1いいえの順である。

図 8 化学基礎定期テスト「実在気

体の理解」に関する設問の SSHクラ

スと普通理系クラスの正解率

Page 12: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

12

の物理基礎の授業(平成 29 年度は SSH 物理Ⅰとして実施)に対する意識調査を比較したものが図 10

である。(授業者はどちらも同一の担当者である。)

平成 28 年度と比較をすると,クロスカリキュラム実施後の生徒は物理基礎の内容に対して学習意欲を

高めており,授業に対する生徒の主体性も大きく向上していることがわかる。このことはクロスカリキ

ュラム導入の効果は一過性ではなく,年間のカリキュラムにおいて生徒の主体性向上に寄与する可能性

があることを示唆すると考えられる。

8 クロスカリキュラム 物理×世界史 に関する検証(SSH物理Ⅰ)

(1) 目的

科学者の功績を物理の知識としてまとめることを契機として、歴史的な背景を踏まえながら科学が発

展を遂げることができた理由を考察することで、科学的思考力・論理的思考力・表現力の基礎を育成す

る。

(2) 仮説

物理担当教諭が知識構成型ジクソー法を用いて授業構成をした上で,生徒が各科学者の功績に関する

物理の知識・技能をまとめ、世界史担当教諭が各科学者の生きた時代背景や時系列について指導した後

に各生徒が授業の要旨をまとめることで、科学的思考力・論理的思考力・表現力の基礎を育成すること

ができる。

(3) 方法

以下のルーブリック並びに指導案(指導記録)を基に,各科学者の功績に関する物理の知識・技能を

まとめる活動を行う。具体的な課題は以下の①②である。

① 科学者の物理学における功績の理解及び,その物理的な内容の説明(ルーブリック項目1)

② 歴史的な背景を踏まえながら科学が発展を遂げることができた理由の説明(ルーブリック項目2)

活動の際には,以下に示すワークシートを使いながら知識構成型ジクソー法を用いて授業を構成するだ

けでなく、電子黒板とタブレットとの連携の取れる WiFi 環境下において,生徒の発表がスムーズに行え

るようにした。

4 3 2 1

1知識・技能判断力思考力

科学者の物理学における功績を理解し,その物理的な内容を説明できる

□担当した科学者について,物理学における功績を理解し,その物理的な内容を説明できる

□担当した科学者について,物理学における功績を理解しているが,その物理的内容は説明できない

□担当した科学者について,物理学における功績を理解していない

2思考力表現力

物理学の発展の歴史について時系列でまとめ,どのような発展をたどったかを説明できる

□中世から19世紀にかけて科学がめざましく発展した理由について,中世ヨーロッパと18・19世紀のヨーロッパの状況を比較した上で,論じることができた

□中世から19世紀にかけて科学がめざましく発展した理由について,18・19世紀のヨーロッパの状況だけに注目して,論じることができた

□中世から19世紀にかけて科学がめざましく発展した理由について論じることができなかった

3

主体性協働性(コミュニケーション力)

実験実習や考察を主体的かつ協働的に取り組むことができる

□今回の授業に主体的かつグループで協力して取り組むことができた

□今回の授業に主体的に取り組むことができたが、グループで協力して取り組むことができなかった

□今回の授業にグループ全体としては協力して取り組むことができたが、主体的に取り組むことができなかった

□今回の授業には主体的かつグループで協力して取り組むことはできなかった

教員評価

理由NO 観点 規準評価 生徒

評価

Page 13: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

13

実施日時 平成30年3月16日(金) 実施場所 物理講義室 単元(教材) 物理の世界史視点を含めたまとめ 本時の ねらい

18世紀から19世紀に活躍した科学者に注目して,その科学者の科学的功績に関する知識・技能をまとめることで,今までの物理の知識をまとめる。

学習内容 学 習 活 動 指導上の留意点

導 入

整理するべき事項の確認 (5分)

・以下のA~Dについて物理学者の( )内の分野の功績について調べ、その物理的意味を説明すると共に,物理の発展を世界史の観点を踏まえてまとめることを伝える。 A「ホイヘンス(力学)(熱力学)(光)」 B「ニュートン(力学)(光)」 C「ケプラー(力学)(光)」 D「ヘルムホルツ(熱力学)(光)」

・教科書順は時系列順になっていないことに留意させる。

展 開

物理と世界史の課題の提示 活動班の形成 (5分) 専門班で調査 (15分) 基礎班で共有 (20分)

・A~Dの科学者に関するワークシートを配布する。 ・4人1班を形成し,クラスで10班をつくる。(基礎班) ・基礎班の中でA~Dの担当を決める。 ・A~D毎に班を形成し直す。(専門班)A~Dはそれぞれ5名の班を2つずつつくる。 ・A~Dの班ごとに科学者の「調査した科学者の国籍」「調査した科学者のいきた時代」(力学)(熱力学)(光学)のそれぞれの「物理的功績」「功績の物理的意味」について調査する。 ・基礎班に戻って、調査結果を共有する。 ・A~Dの担当者が発表し、共有する際には各科学者についてワークシートを埋めながら話しあう。

・専門班に分かれるとA~D5人の班が2班ずつできる。 ・教諭は机間指導を行いながら,班の進捗状況を確認する。

ま と め

専門班で発表準備 (20分)

・再び専門班に戻り,2時間目に専門班ごとに全体で内容の共有を行うことを伝える。専門班のうち一方がプレゼン担当、一方が質問担当とする。 ・<プレゼン担当の専門班>発表準備は力学・熱力学・光学のそれぞれについて「物理の功績の概要」「物理的意味」及び「備考(調査の中で発見したこと)」について担当を決めて発表する。 ・<質問担当の専門班>調査の中で疑問になったことを各班ごとにまとめておき、質疑の際に質問できるように準備する。

・アップルTVを用いてスマフォやタブレットは電子黒板に投影できることを伝える。

Page 14: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

14

実施日時 平成30年3月16日(金) 実施場所 物理講義室 単元(教材) 物理の世界史視点を含めたまとめ 本時の ねらい

科学がどのような歴史をたどって発展していったかを,科学の発展内容を踏まえて考察することで,物教科横断的な視点も含めた物理の確かな知識・技能の獲得を目指す。

学習内容 学 習 活 動 指導上の留意点

導 入

科学者の生きた時代の内容確認 (5分)

A~Dの科学者を時系列順に並べると,C「ケプラー」・A「ホイヘンス」・B「ニュートン」・D「ヘルムホルツ」の順になることを確認する。 ※ホイヘンスとニュートンは同時代なので順序はどっちが先でも良い。

・全体に投げかけて発表順を時系列順とする。

展 開

専門班毎による課題の発表準備 (40分) 科学の発展の歴史のまとめ (10分)

・発表順にプレゼン担当の専門班がワークシートの内容の発表(4分)し,質問担当の専門班が質疑(5分)を行うサイクルで行う。 ※質問班以外の質問も積極的に行うよう伝える。 ・「調査した科学者の国籍」「調査した科学者のいきたい時代」(力学)(熱力学)(光学)のそれぞれの「物理的功績」「功績の物理的意味」の順に発表を行い,必要に応じて電子黒板や黒板を活用する。 ・発表が終了したら,基礎班に戻る。 ・発表を踏まえ,以下の論題について論述を考える。 「なぜ,ヨーロッパにおいて中世から19世紀にかけて科学がめざましく発展した理由について,中世ヨーロッパと18・19世紀の状況を比較しながら論じよ。」

・アップルTVの使い方は教諭がフォローする。 ・質疑の全体の流れを見て適宜物理教諭はフォローを行う。 ・世界史Aの教科書135p,98p,62pを踏まえるように伝える。

ま と め

科学の進展と世界史の流れを横断的理解(10分)

・論述について,2~3班の発表を行い,科学の進展と世界史の流れを横断的に理解する。

・科学の進展と世界史の動きをリンクできるようにする。

物理的功績 物理的功績

功績の物理的意味

功績の物理的意味

物理的功績 物理的功績

功績の物理的意味

功績の物理的意味

物理的功績 物理的功績

功績の物理的意味

功績の物理的意味

備考(調査の中で発見したこと)

調査した科学者の生きた年代

力学

光学

熱力学

調査した科学者の国籍

物理×世界史A クロスカリキュラム ワークシート1 2年1組   番 氏名                  

科学者名 ホイヘンス 科学者名 ニュートン調査した科学者の国籍

調査した科学者の生きた年代

力学

熱力学

光学

備考(調査の中で発見したこと)

Page 15: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

15

物理的功績 物理的功績

功績の物理的意味

功績の物理的意味

物理的功績 物理的功績

功績の物理的意味

功績の物理的意味

物理的功績 物理的功績

功績の物理的意味

功績の物理的意味

備考(調査の中で発見したこと)

力学

熱力学

物理×世界史A クロスカリキュラム ワークシート1 2年1組   番 氏名                  

光学

調査した科学者の国籍

調査した科学者の生きた年代

科学者名 ケプラー調査した科学者の国籍

調査した科学者の生きた年代

科学者名 ヘルムホルツ

力学

熱力学

光学

備考(調査の中で発見したこと)

物理×世界史 A クロスカリキュラム ワークシート2

学籍( )氏名( )

課題「なぜ,ヨーロッパにおいて中世から19世紀にかけて科学がめざましく発展した理由につ

いて,中世ヨーロッパと18・19世紀の状況を比較しながら論じよ。」

上記の課題の論述においては,自身の物理の知識を活用することはもとより,世界史 Aの教科書

(62p,98p,135p)を参考にすること。

<解答欄>

Page 16: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

16

(4) 結果・考察

ルーブリックの評価規準及び基準を示すとともに、ルーブリックの教員の評価と生徒の評価のクロス

分布表を示す。

90%の生徒自身が担当して調査を行った科学者の物理的功績をその科学的な意味も含めて説明できて

いるといえる。実際に、全体で発表する際にも、自分の言葉で科学的にもある程度正しく表現ができて

いたことが観察された。

32%の生徒自身が中世と 18・19 世紀のヨーロッパの比較をした上で、科学の発展することができた理

由を論じることができ、63%の生徒が中世と 18・19 世紀のヨーロッパの比較を行うことなく、18・19 世

紀のみに注目して論じていることがわかる。直近の調査や発表において 17 世紀から 19 世紀の科学者の

功績について論じていたことや、中世の信仰中心の考え方から近代の人間中心の考え方に変遷していた

過程を十分に理解できなかったことが要因であると考えられる。しかし、近代以降の歴史的背景と科学

の発展を結びつけて論理的に思考しようとする生徒は 95%を超える結果となり、物理と世界史のクロスカ

リキュラムの目的である「科学者の功績を物理の知識としてまとめることを契機として、歴史的な背景

を踏まえながら科学が発展を遂げることができた理由を考察することで、科学的思考力・論理的思考力・

表現力の基礎を育成する。」ことはある達成できたと考える。

今回、知識構成型ジクソー法を活用して授業実践を行った結果、主体的かつ協働的に取り組むことが

できた生徒は 81%となった。学びあいながら知識を深める形態をつくることが可能な指導方法として知識

構成型ジクソー法は有用であると考える。

4 3 2 1科学者の物理学における功績を理解し,その物理的な内容を説明できる

□担当した科学者について,物理学における功績を理解し,その物理的な内容を説明できる

□担当した科学者について,物理学における功績を理解しているが,その物理的内容は説明できない

□担当した科学者について,物理学における功績を理解していない

規準評価

4 3 2 1物理学の発展の歴史について時系列でまとめ,どのような発展をたどったかを説明できる

□中世から19世紀にかけて科学がめざましく発展した理由について,中世ヨーロッパと18・19世紀のヨーロッパの状況を比較した上で,論じることができた

□中世から19世紀にかけて科学がめざましく発展した理由について,18・19世紀のヨーロッパの状況だけに注目して,論じることができた

□中世から19世紀にかけて科学がめざましく発展した理由について論じることができなかった

規準評価

4 3 2 1実験実習や考察を主体的かつ協働的に取り組むことができる

□今回の授業に主体的かつグループで協力して取り組むことができた

□今回の授業に主体的に取り組むことができたが、グループで協力して取り組むことができなかった

□今回の授業にグループ全体としては協力して取り組むことができたが、主体的に取り組むことができなかった

□今回の授業には主体的かつグループで協力して取り組むことはできなかった

規準評価

Page 17: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

17

9 クロスカリキュラム 物理×数学(SSH 物理Ⅱ)に関する検証

(1) 目的

物理と数学の分野融合課題を物理の知識と数学の知識を活用して解決するための科学的思考力・判断

力・表現力の基礎を育成する。

(2) 仮説

数学Ⅲで履修する微積分学を習熟した状態で,物理と数学の分野融合課題として,直流 RC 回路の電

流の過渡現象を扱う際に,電流と電圧の時間追跡を微分積分の考え方でとらえる方法を指導するととも

に,電子黒板やデータロガーを利用しながらグループディスカッションや発表などの手法を活用するこ

とで,数学の課題を物理の知識を活用して解決するための科学的思考力・判断力・表現力を深化させる

ことができる。

(3) 方法

以下のルーブリック並びに指導案を基に,直列 RC 回路における電流と電圧の時間変化を直接測定し,

その結果の分析について微積分を用いて考察する活動を行う。具体的な課題は以下の①②である。

① (ルーブリック項目1)コンデンサーに流れ込む電流の時間変化のグラフの妥当性に関する微分に

よる説明

② (ルーブリック項目2)コンデンサーの電圧の時間変化のグラフの妥当性に関する微分またはグラフ

分析による説明

活動の際には,以下に示すワークシートを活用すると共に電子黒板とタブレット(データロガー機能付)

との連携の取れる WiFi 環境下において,生徒の発表がスムーズに行えるようにした。

4 3 1

項目1「回路方程式と実験結果を用いた論証」

思考力

□回路方程式とIーtグラフの実験結果から、時間に対する電流の関数形を予想し、その関数を表すことができた(表し方を理解できた)

□回路方程式とIーtグラフの実験結果から、時間に対する電流の関数形を予想できたが、その関数を表すことができなかった(表し方を理解できなかった)

□回路方程式とIーtグラフの実験結果から、時間に対する電流の関数形を予想できなかった(予想の仕方を理解できなかった)

項目2「電流の式を用いた電圧の時間変化のグラフの推定」

思考力

□時間に関する電流の式と回路方程式から電圧を時間の関数式として表すことができ、電圧と時間の変化のグラフを記述できた

□時間に関する電流の式と回路方程式から電圧を時間の関数式として表すことはできたが、電圧と時間の変化のグラフを記述できなかった

□時間に関する電流の式と回路方程式から電圧を時間の関数式として表すことはできなかった

教員評価

物理の課題を数学の知識・技能と結び付けて思考することができる

評価理由NO 観点 規準

生徒評価

Page 18: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

18

実施日時 平成30年6月15日(金) 実施場所 物理講義室

単元(教材) コンデンサーの充電過程(過渡現象) 本時の ねらい

直流RC回路の電流と電荷の時間変化を測定することによって,理論と実験の整合性を理解する。また、変数の設定による探究の過程を学ぶ。

学習内容 学 習 活 動 指導上の留意点

導 入

問題の設定 (10分)

直流RC回路において,コンデンサーの充電過程にかかる物理量を挙げ,定数・独立変数・従属変数を決定する。その上で,これまでの経験や回路方程式を踏まえて,I-tグラフの概形を予想する。(仮説を立てる)

・独立変数と従属変数の関係を理解させる。

展 開

実験の実施 (30分) 数理モデルを活用した考察 (20分)

以下の実験は4人班で行う。 ・前回の授業では乾電池(起電力1.5Vの単3電池)の内部抵抗モデルを実験的に示すと共に,実際の電池の内部抵抗が1Ωオーダーであることを測定している。 ・前回測定した乾電池とコンデンサーを直接つなぎ,コンデンサー(1F)に流れ込む電流の時間変化を測定する。また,コンデンサーの端子電圧も同時測定する。

・1サンプルあたりの測定回数を5回として,実験を行う。 ・測定結果から,I-tグラフの概形と充電完了とみなせる時間を記録する。

・𝐸 = V + RI,𝐼 = 𝑑𝑄 𝑑𝑡⁄ 及び𝑄 = CVを用いて,これらを整

理すると,𝐼 = −1

𝑅𝐶

𝑑I

𝑑𝑡となることを導く。

・数学Ⅲの微分の知識を用いて,𝐼 = 𝐼0𝑒−𝑅𝐶𝑡を見出す。

以上より以下の考察が見いだせる。

① 実験結果が指数関数であることが妥当であること

② 時定数1

𝑅𝐶の時間で𝐼 =

𝐼0

𝑒となっていることを実験結果か

らも確認できること

・随時,机間指導を行いながら,班の進捗状況を確認する。 ・図の回路を測定していることを意識づける。 ・exp関数以外の一般の指数関数を仮定しても初期条件からexp関数となることにも触れる。

ま と め

※次の授業の10分間 展望(10分)

・𝐼 = 𝐼0𝑒−𝑅𝐶𝑡を回路方程式𝐸 = V + RIに代入して電圧の時間変化のグラフを書かくと,空気抵抗を受ける物体の速度の時間変化と同じグラフ概形であることに気づく。 ・微分方程式が同型ならば,同じグラフ概形となることから,既知の現象の定式化から未知の現象の予想を行うことが物理の考え方であることを伝える。

・ルーブリックを用いて今回の活動の自己評価させる。

Page 19: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

19

<SSH物理Ⅱ 実験レポート「RC直列回路」>

3年 1組 番 氏名

「RC直列回路の電流の時間変化測定」

目的

抵抗とコンデンサーの直列回路(RC 直列回路)の電流について、実験と理論を通して時間に対する電流

の関数を決定する。

モデリングの手順 ワークリスト

1 仮説

問題を解決するた

めの物理量を設定

する

定数:

独立変数:

従属変数:

仮説:

2 方法

分析手法を選ぶ

以下の回路をつくり、コンデンサーに流れ込む電流の時間変化を測定する。

サンプル数:1( Fのコンデンサー)(1.5V,内部抵抗 1Ωの単 3電池)

サンプルあたりの測定回数:5回

3 結果

分析する

タブレットと電流センサを用いて I-t図を作成する。

※V-t図も測定しておくと良い。

4 数理モデル

モデルを定式化す

RC直列回路においては、以下のような式が成立する。

𝐸 = V + RI

𝐼 =𝑑Q

𝑑𝑡

𝑄 = CV

これらを整理すると,𝐼 = −A𝑑I

𝑑𝑡 とできる。ここで、A=

𝐸

C R

I

V

時間: t

t[s]

I[mA]

0

○A

Page 20: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

20

5 考察

結果と数理モデル

からの解答を考え

3の実験結果と4の理論から電流は時間の関数として以下のように仮定で

きる。

6 展望

考察を発展させる

5で電流の時間変化が分かったので、コンデンサーの電圧は𝑉 = E − RIより

決定することが出来る。

(1)Vをtの関数で表せ。(E,R,C,tを用いる)

(2)V-tグラフを示せ。

t

V

0

Page 21: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

21

(4) 結果・考察

2学年時におけるルーブリックによる評価と 3学年時におけるルーブリックを比較すると,同じ微積分

をテーマにしたクロスカリキュラムであるが,生徒の達成度が圧倒的に上昇することがわかる。この結

果から,クロスカリキュラムはある程度生徒が習熟した状態で実践するならば,効果的になることがう

かがえ,教師側がある程度の数学力があれば,一人でも実践が可能なことを示唆すると考える。

<2年生 クロスカリキュラム物理×数学(1回目)>

<2年生 クロスカリキュラム物理×数学(2回目)>

<3年生 クロスカリキュラム物理×数学(2回目)>

4 3 2 1物理の課題を数学の知識・技能と結び付けて思考することができる

□変位・速度・加速度の関係を微分で説明でき、加速度と力の関係を運動方程式で説明できる

□変位・速度・加速度の関係を微分では説明できないが、加速度と力の関係は運動方程式で説明できる

□変位・速度・加速度の関係を微分で説明できるが、加速度と力の関係は運動方程式で説明できない

□変位・速度・加速度の関係を微分で説明できないし、加速度と力の関係も運動方程式で説明できない

規準評価

4 3 2 1物理の課題を数学の知識・技能と結び付けて思考することができる

□運動方程式とxーtグラフから物体の受ける力を自分の言葉で数学的に説明できた

□運動方程式とxーtグラフから物体の受ける力を自分の言葉で説明したが、数学的な説明に乏しかった

□運動方程式とxーtグラフから物体の受ける力を自分の言葉で説明できなかった

規準評価

4 3 2 1物理の課題を数学の知識・技能と結び付けて思考することができる

□回路方程式とI-tグラフの実験結果から、時間に対する電流の関数形を予想し、その関数を表すことができた。(表し方を理解することができた。)

□回路方程式とI-tグラフの実験結果から、時間に対する電流の関数形を予想できたが、その関数を表すことができなかった。(表し方を理解することができなかった。)

□回路方程式とI-tグラフの実験結果から、時間に対する電流の関数形を予想できなかった。(予想の仕方を理解できなかった。)

規準評価

4 3 2 1物理の課題を数学の知識・技能と結び付けて思考することができる

□時間に関する電流の式と回路方程式から電圧を時間の関数式として表すことができ、電圧と時間の変化のグラフを記述出来た。

□時間に関する電流の式と回路方程式から電圧を時間の関数式として表すことができたが、電圧と時間の変化のグラフを記述出来なかった。

□時間に関する電流の式と回路方程式から電圧を時間の関数式として表すことはできなかった。

規準評価

Page 22: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

22

なお,平成 30 年 6 月下旬までに、クロスカリキュラムを実践し続けてきた SSH クラスに対して育成

してきた物理の探究能力がセンター試験の後に,実施される共通テストにおいてどの程度通用するのか

を確認するため,平成 29 年度に実施されたプレテストを SSH クラス及び非 SSH クラスに対して実施し

て比較を行ったところ,図 11 のような結果が得られた。

<検証結果・考察>

・ 図 11 のグラフにおける「考察中での仮説設定」は本校 SSH クラスの生徒の正答率と全国の平均正答

率が同じであった。このことは,課題研究・SSH 物理の授業において考察の指導を十分行えていなか

った可能性がある。しかし、普通理系クラスにおいては平均正答率が全国正答率を下回っている。こ

のことは、本校の平均的な生徒は考察中での仮説設定に関する技能は全国的に低い傾向にあるが、SSH

クラスはその中でも課題研究・SSH 物理の授業を通してある程度の能力伸長が望めたと考えることも

できる。

・ 図 11 のグラフにおける「グラフの取り扱い」においては,SSH クラスの正答率が本校普通理系クラ

ス・全国平均正答率に対して高くなっている。このことは、課題研究・SSH 物理の授業においてグ

ラフ処理を十分に行ってきたことによってどのようにすると適切なデータ処理が可能であるのかを

把握できるようになってきた可能性がある。しかし,SSH クラス内の55%程度の正答率であるの

で,実験技能の定着については 4 割程度の生徒が身に付いていないと考えられ、今後の課題と考えら

れる。

・ 図 11 のグラフにおける「モデル化」について、SSH クラスは普通理系クラス・全国平均正答率と比

べると高い。しかし、全体として「考察中での仮説設定」の次に低い正答率であり、現実の対象物を

モデル化する技能が十分に身についていない可能性がある。

・ 図 11 のグラフにおける「知識の活用」や実験方法を覚えて,一般常識で解くことが可能な「データ

処理」については高い正答率であり,探究的な活動において「思考力」「判断力」を要する問題につ

いては今までの知識詰め込み型では高い正答率は挙げられないことが改めて分かった。

今後もこのような探究型思考力を問う問題に対応するより高度な学力を育成するべく,数学とのクロ

スカリキュラムを続けていくとともに,問題の開発とその実践を続けていきたいと考えている。

図 11 共通テスト物理(プレテスト)大問 2 における本校 SSH クラスと普通理系クラスの生徒及

び全国との平均正答率の比較

Page 23: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

23

10 クロスカリキュラム 物理×地理×地学(SSH 物理Ⅱ)に関する検証

(1) 目的

地理の課題を物理の知識と地学の知識を活用して解決するための科学的思考力・判断力・表現力の基

礎を育成する。

(2) 仮説

地理の気候に関する課題を扱う際に,物理のエネルギーや正射影の考え方や地学のコリオリ力の考え方

を導入するとともに,電子黒板やタブレットを利用しながらグループディスカッションや発表などの手

法を活用することで,地理の課題を物理の知識と地学の知識を活用して解決するための科学的思考力・

判断力・表現力の基礎を育成することができる。

(3) 方法

以下のルーブリック並びに指導案を基に,太陽光エネルギーの緯度による違いを把握し,コリオリ力

の考え方を踏まえて海流の動きを考察し,ヨーロッパ西岸が冬でも暖かい理由を考察する活動を行う。

具体的な課題は以下の①②である。

① (ルーブリック項目1)単位面積あたりの太陽光の放射エネルギーが緯度によって異なることを,

放射エネルギーの射影の観点から科学的に説明する。

② (ルーブリック項目2)冬のヨーロッパ西部地方の気候が暖流によることを理解し,暖流がヨーロッ

パ西部にもたらされるメカニズムを科学的に説明する。

活動の際には,以下に示すワークシートを活用すると共に電子黒板とタブレットとの連携の取れる WiFi

環境下において,生徒の発表がスムーズに行えるようにした。

3 2 1

1

□単位面積あたりの太陽光の放射エネルギーが緯度によって異なることを理解し,放射エネルギーの射影の観点から科学的に説明することができる。

□単位面積あたりの太陽光の放射エネルギーが緯度によって異なることを理解できたが,放射エネルギーの射影の観点からは科学的に説明することができない。

□単位面積あたりの太陽光の放射エネルギーが緯度によって異なることを理解できない。

2

□冬のヨーロッパ西部地方の気候が暖流によることを理解し,暖流がヨーロッパ西部にもたらされるメカニズムを科学的に説明できる。

□冬のヨーロッパ西部地方の気候が暖流によることを理解できたが,暖流がヨーロッパ西部にもたらされるメカニズムは科学的に説明できない。

□冬のヨーロッパ西部地方の気候が暖流によることを理解できない。

3

主体性協働性(コミュニケーション力)

各問いの考察を主体的かつ対話的に取り組むことができる

□今回の授業に主体的・対話的に取り組み,自己の考えを深めることができた

□今回の授業に主体的・対話的に取り組んだが,自己の考えを深めることができなかった

□今回の授業には主体的・対話的に取り組めなかった

NO 観点 規準評価 生徒

評価

知識・技能の活用判断力思考力

地理の課題を物理の見方や考え方を用いて,科学的に説明することができる

教員評価

理由

Page 24: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

24

実施日時 平成30年9月11日(火) 実施場所 物理講義室 単元(教材) 地理(ヨーロッパの気候)物理(熱力学)・地学(地球の熱平衡・大気・海水の循環) 本時の ねらい

ヨーロッパが高緯度にもかかわらず温暖である理由を物理や地学の考え方によって,科学的に説明ができる。

学習内容 学 習 活 動 指導上の留意点

導 入

問題の設定 (5分)

高緯度にもかかわらず,ヨーロッパ西部は冬でも暖かく夏冬の寒暖差が少ない理由を「科学的に」説明することを動機づける。(地理)

・当たり前のことを,今まで習った知識で改めて説明する力を見ると伝える。

展 開

物理・地学と地理の課題の提示

以下の協議は2人→4人班→全体発表の順で行う。 ・高緯度では赤道付近よりも太陽光のエネルギー密度が小さいことを物理の知識を活用して説明する。(物理) 問①「地球を球体でモデル化したときに,赤道付近(θ=0°)と(θ=60°)付近とで1m21sあたりの太陽光エネルギーP〔W/ m2〕の比較をせよ。」 ・1m2あたりの太陽光のエネルギー量は高緯度では少ないので,ヨーロッパ西部が暖かいことを説明するには,熱エネルギーの供給が気流や海流によってもたらされる必要があることを確認する。(物理) 問②「ヨーロッパの西部が冬でも暖かい理由を北大西洋海流の海流の流れと赤道付近の海域の持つ熱エネルギーに注目して説明せよ。」 ・コリオリ力の影響から偏西風によって赤道付近で暖まった海流がヨーロッパ西海岸に達すること=「偏西風と気体大西洋海流の影響を受けるため冬でも寒さは厳しくない」という教科書の記述になることを確認する。(地学・地理) ・ヨーロッパ西側の暖流による熱エネルギーの供給だけでは,ヨーロッパ西部の夏と冬の寒暖の差が小さいことは説明できないことを確認する。(物理)

・随時,机間指導を行いながら,班の進捗状況を確認する。 ・アップル端末は電子黒板に投影できることを伝える。 ・太陽光のエネルギーの全体量は同じであることに留意させる。 ・偏西風によって北大西洋海流の向きが決まることも情報として伝える。 ・必要に応じて偏西風は「コリオリ力」という慣性力によって向きが決まることも伝える。

ま と め

まとめ (5分) ヨーロッパ西部の地域の気候条件を物理と地学、地理とで横断的に説明ができたかどうかを振り返る。

・ルーブリックを用いて自己評価させる。

Page 25: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

25

(4) 結果・考察

ルーブリックの評価規準及び基準を示すとともに、ルーブリックの教員の評価と生徒の評価のクロス分

布表を示す。

単位面積あたりの太陽光の放射エネルギーが緯度によって異なることを,正射影の考え方を適用して

考えることができた生徒は全体の 97%であった。机間指導を行ったところ,直近の単元がファラデーの

電磁誘導の法則であったため,コイルの法線と磁束の正射影の考え方が想起された生徒が多かったよう

である。

3 2 1地理の課題を物理の見方や考え方を用いて,科学的に説明することができる

□単位面積あたりの太陽光の放射エネルギーが緯度によって異なることを理解し,放射エネルギーの射影の観点から科学的に説明することができる。

□単位面積あたりの太陽光の放射エネルギーが緯度によって異なることを理解できたが,放射エネルギーの射影の観点からは科学的に説明することができない。

□単位面積あたりの太陽光の放射エネルギーが緯度によって異なることを理解できない。

規準評価

クロスカリキュラム(物理×地理×地学)ワークシート

学籍( )氏名( )

テーマ:高緯度にもかかわらず①,ヨーロッパ西部は冬でも暖かい

②理由を科学的に説明する。(定

性的説明でよい。)

問①「地球を球体でモデル化したときに,赤道付近(θ=0°)とヨーロッパ付近(θ=60°

)とで単位時間単位面積あたりの太陽光エネルギーP〔W/ m2〕の比較をせよ。」

(参考)太陽から地球の大気圏上層へ届く単位時間単位面積あたりの放射エネルギーを計算する

と1.37kW/m2(太陽定数)となる。

問②「ヨーロッパの西部が冬でも暖かい理由を北大西洋海流の海流の流れと赤道付近の海域の持

つ熱エネルギーに注目して説明せよ。」

Page 26: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

26

全体の 52%の生徒はコリオリ力によって赤道付近では北東貿易風,高緯度付近では偏西風であり、海

流の向きは風との摩擦より亜熱帯寒流では時計回りとなることを理解し,さらに,赤道付近で海流は太

陽光による熱エネルギーで暖められながら西に進むが,北アメリカ大陸にぶつかることで高緯度へ移動

し、偏西風によってヨーロッパ西岸へ達するため、ヨーロッパ西部が冬でも温暖となることを理解して

いる。

この到達段階の前の段階が授業の全体協議において見られた。授業の全体協議においては、コリオリ

力の影響を加速度直線運動における慣性力として考える生徒が現れたが、地学の教諭による説明によっ

てコリオリ力に関する正しい考え方を学ぶことができ,コリオリ力の地球上におけるベクトル図及び、

風と水面の摩擦の関係から生徒は正しい科学的観点をもって考察を進めることができたようである。

今回、地理の教科書内の記述「(ヨーロッパ西岸は)偏西風と気体大西洋海流の影響を受けるため冬で

も寒さは厳しくない」ということの科学的根拠を物理や地学の考え方を用いて考察する活動を行った。

その結果、知識構成型ジクソー法等の手法を活用しなくても、自発的に議論が進む様子が観察された。

主体的対話的な取り組みによる自己の考えが深化したかどうかの自己評価に関しては全体の 96%がその

ように取り組むことができたと答えている。

なお、授業実践の後、担当者で授業検討をした際には以下のような指摘があった。今後のチームティ

ーチングによるクロスカリキュラムの際には改善して実施していきたい。

・1 時間で実施するにはボリュームがありすぎた。

・最後に地理の教諭に戻る流れの方が生徒に振り返りをさせることができるのでよい。

・チームティーチングを組むのではなく、リレー授業も手法として考えられる。

・ICT 機器を活用する際に、機器のトラブルが見られた。ICT 機器は生徒の発表の際に図録の写真やグ

ラフを写すために使うなど活用目的を明確にしておくと効果的である。

3 2 1地理の課題を物理の見方や考え方を用いて,科学的に説明することができる

□冬のヨーロッパ西部地方の気候が暖流によることを理解し,暖流がヨーロッパ西部にもたらされるメカニズムを科学的に説明できる。

□冬のヨーロッパ西部地方の気候が暖流によることを理解できたが,暖流がヨーロッパ西部にもたらされるメカニズムは科学的に説明できない。

□冬のヨーロッパ西部地方の気候が暖流によることを理解できない。

規準評価

3 2 1各問いの考察を主体的かつ対話的に取り組むことができる

□今回の授業に主体的・対話的に取り組み,自己の考えを深めることができた

□今回の授業に主体的・対話的に取り組んだが,自己の考えを深めることができなかった

□今回の授業には主体的・対話的に取り組めなかった

規準評価

Page 27: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

27

11 クロスカリキュラム 物理×数学×地学(SSH 物理Ⅱ)に関する検証

(1) 目的

物理の課題を数学の知識を活用して解決するための科学的思考力・判断力・表現力の基礎を育成する。

地学の課題を物理の知識を活用して解決するための科学的思考力・判断力・表現力の基礎を育成する。

(2) 仮説

放射性同位体の原子核の個数の時間変化のグラフから数理モデルを作成し、放射性同位体の原子核の個

数の時間追跡を微分積分の考え方でとらえることで、物理の課題を数学の知識を活用して解決するため

の科学的思考力・判断力・表現力の基礎を育成することができると考える。

また、地学分野で用いられる放射性年代測定の事例による年代を推定する課題を、物理で習得した放

射性同位体の原子核の個数の半減期の式を用いることで、地学の課題を物理の知識を活用して解決する

ための科学的思考力・判断力・表現力の基礎を育成することができると考える。

(3) 方法

以下のルーブリック並びに指導案を基に,放射性同位体の原子核の原子核の個数の時間変化に関する

数理モデルを設定して,微積分の考え方を用いて、コリオリ力の考え方を踏まえて海流の動きを考察し,

放射性同位体の原子核の個数の半減期の式を導出する活動を行う。また、地学分野で用いられる放射性

年代測定の事例を地学教諭と協議して課題を作成し、物理で習得した放射性同位体の原子核の個数の半

減期の式を用いることによってその課題の解決をはかる活動を行う。具体的な課題は以下の①②である。

① (ルーブリック項目1)放射性同位体の原子核数の時間変化のグラフから数理モデルを設定し、関

数形を予想した上で、原子核数の時間変化の式を導く。

② (ルーブリック項目2)地学分野の放射性同位体を使った年代測定に関する問題文を読解でき、原子

核数の時間変化の式を活用して求めるべき年代を推定する。

活動の際には,以下に示すワークシートを活用し、今回は黒板を使った発表形態での実践を行った。

4 3 2 1

項目1「数理モデルを活用した原子核の崩壊数の式の導出」

思考力

物理の課題を数学の知識・技能と結び付けて思考することができる

□授業を通して、放射性同位体の原子核数の時間変化のグラフから数理モデルを設定し、時間に対する原子核数の関数形を予想できるようになった。

□半減期の条件から教科書で定義される原子核数の時間変化の式を導くことができるようになった。

□授業を通して、放射性同位体の原子核数の時間変化のグラフから数理モデルを設定し、時間に対する原子核数の関数形を予想できるようになった。

□半減期の条件から教科書で定義される原子核数の時間変化の式を導くことはできるようにはならなかった。

□授業を通して、放射性同位体の原子核数の時間変化のグラフから、数理モデルを設定できるようになったが、時間に対する原子核数の関数形を予想できるようにはならなかった。

□授業を通して、放射性同位体の原子核数の時間変化のグラフから、数理モデルを設定できるようにはならなかった。

項目2「地学等をテーマにした放射性同位体を用いた年代測定の課題の解決」

判断力思考力

地学の課題を物理の知識・技能と結び付けて思考することができる

□発展レベルまでの放射性同位体を使った年代測定に関する問題文を読解でき、原子核数の時間変化の式を活用して求めるべき年代を推定できるようになった。

□標準レベルまでの放射性同位体を使った年代測定に関する問題文を読解でき、原子核数の時間変化の式を活用して求めるべき年代を推定できるようになった。

□基礎レベルまでの放射性同位体を使った年代測定に関する問題文を読解でき、原子核数の時間変化の式を活用して求めるべき年代を推定できるようになった。

□どのレベルの放射性同位体を使った年代測定に関する問題文を読解できず、原子核数の時間変化の式を活用して求めるべき年代を推定できなかった。

NO 観点 規準生徒評価

教員評価

評価理由

Page 28: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

28

実施日時 平成30年11月5日(火) 実施場所 物理講義室 単元(教材) 物理(原子・原子核)・数学(微分積分)・地学(放射性年代測定)

本時の ねらい

① 放射性同位体の原子核数の時間変化のグラフから数理モデルを設定し、関数形を予想した上で、原子核数の時間変化の式を導く。

② 放射性同位体を使った年代測定に関する問題文を読解でき、原子核数の時間変化の式を活用して求めるべき年代を推定する。

学習内容 学 習 活 動 指導上の留意点

導 入

問題の設定 (10分)

・放射性同位体の原子核の個数の時間変化のグラフから,原子核の個数が多いときほど,単位時間あたりの原子核の崩壊数が多いことに気づかせる。 ・単位時間あたりの崩壊する確率を𝜆として∆𝑡あたりの原子核の崩壊数を差分によって表現すると、以下の式になることを説明する。

𝑁(𝑡 + ∆𝑡) − 𝑁(𝑡) = −𝜆𝛥𝑡 × 𝑁(𝑡)

・数理モデルの設定自体は教員の説明で行うが、立てた数理モデルが「原子核の個数が多いときほど,単位時間あたりの原子核の崩壊数が多いこと」の表現として妥当であることを考えさせたい。

展 開

物理の課題の提示及び・数学での解決 (20分)

・数学の極限の考え方を用いて,導入において設定した数

理モデルは𝑑𝑁(𝑡)

𝑑𝑡= −𝜆𝑁(𝑡)と表現できると気づかせる。

・微分して元の関数形になるのは指数関数であることに気

づかせる。

・初期条件及び半減期の条件から,放射性同位体の原子核

の個数の時間変化が𝑁(𝑡) = 𝑁(0) (1

2)

𝑡

𝑇となることを導出す

る。

・一斉授業の形態をとるが発問しながら、全体で協議をするように配慮する。

地学の課題の提示及び・物理での解決

・以下の①~③協議は個人→4人班→全体発表の順で行う ① 物理分野の放射性同位体を使った年代測定に関する課

題(炭素14法を模した問題) ② 地学分野の放射性同位体を使った年代測定に関する課

題(ウラン-鉛法を模した問題) ③ 地学分野の放射性同位体を使った年代測定に関する課

題(カリウム-アルゴン法を模した大気組成推定問題) ・①は復習として簡単に扱う。 ・②③は量的関係について読解が難航すると考えられるので、適切に発問し、生徒の考察がスムーズに進むよう配慮する。

・②③の解答については、原則として生徒に発表させるが、

量的関係の読解の仕方や整理の仕方については必要に応じ

て解説を行う。

・随時,机間指導を行いながら,班の進捗状況を確認する。 ・机間指導の際に理解の深いと考えられる生徒には全体発表を依頼する。

ま と め

まとめ (5分) ・設定した数理モデルを数学の微分の知識で解くことができることの理解を振り返る。 ・地学分野の放射性同位体を使った年代測定に関する問題文を読解し、物理の半減期の知識で年代を推定できることの理解を振り返る。

・ルーブリックを用いて自己評価させる。

Page 29: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

29

<放射性同位体の崩壊モデル>

放射性同位体の崩壊は確率的に起こる。ある放射性同位体の原子

核数の時間変化を十分な量のサンプル数で繰り返し測定を行うと

右図が得られた。右図から以下の条件(1)(2)が読み取れる。

(1) 単位時間あたりの減少量は原子核の数が多い時は大きい。

(2) 単位時間あたりの減少量は原子核の数が少ないときは小さい。

問 1:独立変数を t,従属変数をNとし,放射性同位体が毎秒崩壊する確率をλで表す。(1)(2)の

条件をふまえて,Nと t の関係をλを含めた数式で表せ。

問 2:問 1 で得られた数式から,N(t)の関数形を予想せよ。必要に応じて定数を定義せよ。

問 3:問 2 の関数に対して、以下の条件(3)~(4)を用いることで,放射性同位体の原子核数の時間

変化の式𝑁 = 𝑁0 (1

2)

𝑡

𝑇を示せ。

(3) 𝑡 = 0における原子核数は𝑁0である。

(4) 𝑡 = 𝑇における原子核数は𝑁0

2である。

<放射性同位体の原子核数の時間変化の式の活用+読解力養成>

①(基礎レベル)

ある気体元素Cには安定な同位体C1 と放射性同位体 C2 の 2 種類がある。放射性同位体であ

るC2 は崩壊し,その半減期は 5730 年である。通常の自然環境中では,宇宙線の影響で元素N

がC2に変換させられることで一定の数に保たれており,現代も古代も大気中の全Cに対するC

2 の割合は1.2 × 10−10%で一定であるとする。

古代のある遺跡から発掘された木片中の全Cに対する C2 の割合が8.5 × 10−11%とすると,こ

の木片は今からおよそ何年前に生存していたものと考えられるか。

②(標準レベル)

ある元素Uの放射性同位体U3 は、半減期 20 億年で崩壊し、崩壊した質量と同じ質量の安定な

元素Pを生じる。マグマが冷えて火成岩ができるとき、元素U3 は鉱物 a にはあまり含まれない

が、鉱物 b には多く含まれる性質がある。また、元素Pは鉱物の違いによる含まれやすさに違い

はない。

今、鉱物 a と鉱物 b の質量の割合が 1:1 の鉱物 a と鉱物 b のみからなる火成岩が1 × 105kg あ

る。この火成岩の鉱物 a 中の元素 U3 は 0.5g,元素Pは 16.5g であり,鉱物 b 中の元素U3 は 2.0g,

元素Pは 21.0g であった。この火成岩は何年前のものか。

③(発展レベル)

ある元素Kの放射性同位体K4 の半減期は 12.5 億年で,崩壊をして 11%は電子を捕獲して安

定な気体元素Aを生じ,89%は電子を放出して金属元素 Ca を生じる。現在の地球に存在するK4

の全原子数は1.08 × 1042個,現在の地球の大気中の気体分子数は8.95 × 1043個とし,現在の大気

中に含まれる気体元素Aの含有量は 0.93%であるとする。

この気体元素Aは全て地球内の K4 の反応で生じ,この反応で生じた気体元素Aは全て大気中

に蓄積されると仮定したとき、気体元素Aが現在の量になるまでに何年必要か。

Page 30: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

30

(4) 結果・考察

ルーブリックの評価規準及び基準を示すとともに、ルーブリックの教員の評価と生徒の評価のクロス分

布表を示す。

平成 29 年度の 2 年次の実践において、生徒の理解が難しかった「数理モデルの作成の仕方」「数理モ

デルの解き方(微分方程式の解法)」について、確認を行った。教員の評価はまずは理解ができたものを

「4」とした。生徒の評価は「自分自身で再現できなければ評価をしない」と考える生徒が多く、「3」

または「2」の生徒も多かった。しかし、2 年次のような限られた生徒のみが理解をする状況ではなく、

活用が難しいと意識しているとしても理解していると考えている生徒は 94%に達するようになった。数

学の習熟にあわせてクロスカリキュラムを実践することの重要性を再確認することとなった。

ワークシートのどの段階まで読解・情報整理・知識の活用ができるようになったのかを課題の中で試し

た。ルーブリックの最高水準(全問理解)に達した生徒は全体の 69%であった。20%の生徒が地学のラ

ン-鉛法を模した問題で情報整理ができなくなっているようであった。また、結果として基礎学力の差に

よって読解・情報整理の部分に差が現れる傾向が観察された。

4 3 2 1物理の課題を数学の知識・技能と結び付けて思考することができる

□授業を通して、放射性同位体の原子核数の時間変化のグラフから数理モデルを設定し、時間に対する原子核数の関数形を予想できるようになった。

□半減期の条件から教科書で定義される原子核数の時間変化の式を導くことができるようになった。

□授業を通して、放射性同位体の原子核数の時間変化のグラフから数理モデルを設定し、時間に対する原子核数の関数形を予想できるようになった。

□半減期の条件から教科書で定義される原子核数の時間変化の式を導くことはできるようにはならなかった。

□授業を通して、放射性同位体の原子核数の時間変化のグラフから、数理モデルを設定できるようになったが、時間に対する原子核数の関数形を予想できるようにはならなかった。

□授業を通して、放射性同位体の原子核数の時間変化のグラフから、数理モデルを設定できるようにはならなかった。

規準評価

4 3 2 1地学の課題を物理の知識・技能と結び付けて思考することができる

□発展レベルまでの放射性同位体を使った年代測定に関する問題文を読解でき、原子核数の時間変化の式を活用して求めるべき年代を推定できるようになった。

□標準レベルまでの放射性同位体を使った年代測定に関する問題文を読解でき、原子核数の時間変化の式を活用して求めるべき年代を推定できるようになった。

□基礎レベルまでの放射性同位体を使った年代測定に関する問題文を読解でき、原子核数の時間変化の式を活用して求めるべき年代を推定できるようになった。

□どのレベルの放射性同位体を使った年代測定に関する問題文を読解できず、原子核数の時間変化の式を活用して求めるべき年代を推定できなかった。

規準評価

Page 31: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

31

12 高大連携講座「量子力学入門」に関する検証

(1) 目的

前期量子論における科学的理解の深化をはかるともに,最先端の量子に関する研究に対する科学的な

探究心を養う。また,量子力学を用いた研究の最先端に触れ,生徒の興味関心を高める。

(2) 仮説

第一線で活躍する研究者から,量子力学の基礎及び実社会での活用が強く期待されている最先端の量

子に関する研究(量子センシング)を学ぶことで,前期量子論における科学的理解の深化をはかるとも

に,最先端の量子に関する研究に対する科学的な探究心を養うことができる。

(3) 方法

本講義では第一線で活躍する研究者から,量子力学の基礎及び実社会での活用が強く期待されている

最先端の量子に関する研究(量子センシング)を学ぶ。

講師: 東京工業大学 理学院 物理学系 教授 上妻 幹旺 氏

日程:平成 30年 11月 15日(木)

(4) 実施結果

生徒の意識の変容については意識調査で評価した。調査対象は SSH クラス物理選択者 37 名であり,

意識調査は 4段階で調査を行い,4・3・2・1の順に肯定から否定となる。

(4,3:肯定 2,1:否定)

「量子とはどんな存在といえるのか,記述せよ」という質問項目に対して,講義前は表面的な記述が

目立ったが,講義後は「状態の重ね合わせができる」といった具体的な記述をする生徒が増えた。

また,講義の感想の抜粋を示す。(感想)「教科書の内容がさらに深く理解できた。」「専門分野を極め

ながらも広い視点を持つことが重要であると学んだ。」「高崎高校で SSHをやってきてよかった。」

また,講師アンケートの抜粋を以下に示す。

『講義中,「ジャイロスコープの性能を向上させるためには,何を変えればよいと思うか?」という

大変難しい質問をさせて頂きましたが,それに対し二人の学生さんが,「波長と速度です」と答えられ

たのには本当にびっくりしました。また 30 分間にわたる質疑応答の時間では,沢山の,かつ量子力学

の本質に迫る質問を頂き,とにかく驚きの連続でした。一体どうすればこんなに優秀な学生さんが育つ

のだろうか,それが率直な感想でした。』

Page 32: SSH 物理」におけるクロスカリキュラムの実践と分 …1st).pdfいて微積分を用いて考察する活動を行う。 クロスカリキュラム物理×数学(SSH物理Ⅰ)(第1回)のルーブリックの一部(実際は評価理由を記

32

(5) 考察

量子の本質である「状態の重ね合わせ」について理解が深まったことが,生徒の意識調査からわかる。

講義の中で量子力学が社会で役に立つ実例を見せてもらえ,高度な技術の実践の中にも課題研究とリ

ンクする部分を感じ取ることができ,感銘を受ける生徒が多く見られた。また,講師アンケートに記述

から本校生徒の物理的思考力の高さを評価している部分から,SSH 物理の成果の1つが現れたものと考

える。

(6) 成果・課題・改善点

【成果】東京工業大学と連携し,具体的な例を最先端の研究を交えながら学ぶことで生徒は量子の性質

の理解を深めるとともに,量子分野に強く興味をもち,大学への学びに対する興味関心が高くなった。

【課題】量子に対する生徒の理解度の分析が質問事項の記述分析で留まり,詳細な分析ができていない。

【改善点】講義で触れられた内容についてのより深い理解を問うための調査を行う。