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Title C 林業 : 東南アジアの林業(<特集>東南アジア農業技術シ ンポジウム特集号) Author(s) 四手井, 綱英 Citation 東南アジア研究 (1968), 5(4): 749-760 Issue Date 1968-03 URL http://hdl.handle.net/2433/55431 Right Type Departmental Bulletin Paper Textversion publisher Kyoto University

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Page 1: Title C 林業 : 東南アジアの林業(東南アジア農業技術シ ......C林 業 東南 アジアの林業 四 手 井 綱 英 は じ め に 東南アジア研究センターの研究計画の一環として,東南アジアの森林に関する調査を行なっ

Title C 林業 : 東南アジアの林業(<特集>東南アジア農業技術シンポジウム特集号)

Author(s) 四手井, 綱英

Citation 東南アジア研究 (1968), 5(4): 749-760

Issue Date 1968-03

URL http://hdl.handle.net/2433/55431

Right

Type Departmental Bulletin Paper

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Kyoto University

Page 2: Title C 林業 : 東南アジアの林業(東南アジア農業技術シ ......C林 業 東南 アジアの林業 四 手 井 綱 英 は じ め に 東南アジア研究センターの研究計画の一環として,東南アジアの森林に関する調査を行なっ

C林 業

東 南 ア ジ ア の 林 業

四 手 井 綱 英

は じ め に

東南アジア研究センターの研究計画の一環 として,東南アジアの森林に関する調査を行なっ

たのは,1963年11月から64年 2月にわたる約 3カ月のただ 1回であるが,それ以前に筆者は,

1961-62年に大阪市立大学, タイ国チュラロンコソ大学 との合同調査に参加し,また荻野が 1

カ年 タイ国カセツァー ト大学に留学 し,森林調査にあたっている。 ここには,それ らの調査か

ら得た知見の範囲で,林業の概要を述べよう。

これらの調査はタイ国に限られていたこと,また主に森林の生態学的基礎調査のみを行なっ

たので,直接林業については十分な知見を得ていないから,東南アジア全域の林業をのべるこ

とが.出来ないことを,おことわ りしておこうo

I タイ国の森林と林業

ごく大ざっばにいえば, タイ国の主要部は乾燥熱帯である。 従って森林の主体 もいわ ゆ る

MonsoonForest(雨緑林)である。 この森林の主体をなす ものはフタバガキ科 (Dli,te7T'CarPa-

ceae)の樹木で, 一部の雨緑林にはチーク (Tectonagrandis)が混生する. チークは材質の

良さが,古 くからみとめられていたので,タイではチークを主とし,フタバガキ科の大径木を

従とする,採取林業がはじまり,近年 ようや くそれらの育成林業が開始された段階といえよう。

1.Foresttype(Fig.1)

熱帯の森林の Foresttypeの類別は地域により異なり定説は出ていない。 ここにはタイ国森

林局の分類をあげ,小川 (大阪市大)の分類を併記しておこうo

A 森林局の分類

1)EvergreenForests(全森林面積の約30%)

a.TropicalEvergreenForests(TEF orTRF)

b.HillEvergreenForests(REF)

C.ConiferousForests(CF)

d.MangroveForests(MF)

- 91- 749

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射南 ア ジ ア研 究 第5巻 第4号

7h/'GU/f

.5y-tAa272arai

棚 LAYS/A

750

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他ko72PAanom

CAHBOD/A

rwestTwes/'n粘/'/a兜J戊披耕 0 50 伽

E:=ヨ TfF既 盟PI'neF巳≡ヨDDF圧≡Z】〝DF

=sMaav"a?n諾ve F

Fig.1 ForestTypesinThailand

一一92-

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用手井:東南アジアの林業

e.DryEvergreenForests(DEF)

2) DeciduousForests(全森林面積の約70%)

f.MixedDeciduousForests(MDF)

g.DeciduousDipterocarpusForests(DDF)

h.Othertypes(BeachForests,SwampForests)

B Ogawaの分類

1) SavannaForests

a.DipterocarpusSavannaForests

b.MixedSavannaForests

2) TallDeciduousorMonsoonForests

3) EvergreenGalleryForests

4) SubtropicalSemievergreenForests

5) TemperateEvergreenForests

6) TropicalEvergreenForests

小川の分類の 1は DDF,2は DDF と MDF,

ものと思われ, 4は森林局の分類に入っていない。

5は HEF に,3と6は TEF に対応する

ここでは便宜上,森林局の分類に従って説

明しようLl

タイ国での常緑林は半島部の TEF と 1000m を越える山地の HEF が主体で,小川の分

類の3の多 くは農地,屠任地におきかえられつつあるから将来林業地 としてはあまり多くは期

待出来ないであろうOまた河Uをふちどる MF やLlけ也の一部にしか存在しない CF も資源的

には大きなものではないが, MF は良質の炭材, タンニ ンを生産し, CF はマツ林 (PinzLS

kha53,a,P.merkusii)が主でマツヤニ採取に利用されているほか,近年パルプ原料材としてこ

れらのマツの人工造林が考えられているようである。

常緑林は面積的に約30%を占めるにすぎず, HEF は山地民の焼畑として利用されている以

外,ほとんどが未利用林であ り,TEF も平地部が耕地化されているのと, ゴム園に利用 され

ているぐらいで全般的に資源としてはもちろん,林業地としても十分活用 されていないようで

ある。 タイ国の TEF は Tablel の降水量をみればわかるように, 3カ月に近い乾期があり,

RainForestとしてはそれほど立派ではないoわれわれが Trangの近郊のKhaoChongで伐

採 した森林では最高木が 40m 以下であった) (マレーでは 50m, ボルネオでは 60m とい

われるO)

タイ国林業 として重要なのは残 りの70%を占める東北,北,中部 タイの落葉林すなわち雨緑

林であろう。特に中,北 タイの MDFはタイ国主要林産物であるチークを産する。DDF は全

森林の約45%,雨緑林の65%を占めていて,北,東北,中部 タイに広 く分布する森林であるが,

- 93- 751

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東 南 ア ジ ア研 究 第5巻 第4号

Tatlle1 Meanannualandmonthlyrainfall(mm)andraindays

station…l aJ Feb Mar AprIMay Jin~~元 ~巾 pt oct Nov DK i

Thailand

ChiangMa主(North)

KhonKaen〔Northeast)

Saraburi(Center)

Chanthaburi(GulfofThai,

HuaHimEast-C)

(Gulf。fThai,

SongkhlaWesトC)

(Glllfr'fThai,

RanongWest-C)

(South,West-C)

Trang(S()uth,West-C)

Malaya

Penang(Northwest)

Malacca(Westcoast)

Kep()ng(Inland-West()f

mainrange)KotaBharu

(East-coast)

J。horeBahru(Inland-Eastof

mainrange)MaxwellsHill

(3400ft)(Mountain)

6.6 10,9 14.9 50.81.0 1.2 1.6 5.0

6.0 20.0 29.0 72.50.8 2.0 3.2 5.7

3.9 19.5 48.7 84.50.3 1.2

20.7 37.62.() 3.8

14.0 19.71.2 2.6

159.5 58.014.4 7.4

24.6 25.23.3 3.2

38.6 25.53.4 1.4

2.8 4.3

65.6143.16.8 9.5

19.5 63.92.5 5.0

57.3 9〔).77.1 9.8

58.9228.95.1 ll.6

64.2176.93.6 8.8

97.0 78.5141.5200.99 8 12 16

103.4 98.3140.0182.110 8 11 14

174.0167.4261.1289.0

250.2139.2172.2116.317 9 10 9

295.4204.7281.4286.813 11 15 15

289.6225.8374.1532.615 13 19 23

139.0154.2182.5220.012.3 15.5 18.3 21.0

184.9176.2168.3175.6ll.9 10.9 13.6 14.0

157.1234.3229.4247.98.8 10.2 10.6 12.()

352.0494.3533.8491.819.3 23.8 24.3 22.9

108.2 79_1 79.1 89.012.4 14.8 15.5 17.0

118.5100.3 92.1 91.013.9 12.1 12.1 12.6

548.6839.0832.2845.518.8 21.9 22.1 23.1

214.2216.8238.8254.910.9 10.7 9.9 11.6

292.3124.4 38.2 9.717.7 9.8 3.7 1.3

273.7 91.1 8.6 2.615.5 7.5 1.4 0.4

280.1 99.8 41.8 3.412.5 7.3 2.3 0.2

526.7271.3 78.5 9.623,2 16.0 7.3 1.3

136.9267.4131.8 9.818.1 16.6 8.4 2.2

102.9325.2509.5456.38.9 21.7 23.1 19.8

955.3456.1209.9 82.122.9 19.8 13.3 5.4

282_23〔)41255.1106.212.9 14.1 1O.9 5.3

281.4185.2190.5294,217 13 13 15

178.6198.6205.2245.913 13 14 15

236.0122.9124.7188.7

160.0152.4141.7164.613 12 14 14

225.3178.6157.7212.913 11 11 12

495.4359.9275.6394.221 14 13 17

1248.5108.5

1208.586.9

1450.472.5

3025.2160.2

1018.4116.3

2231.3162.6

5106.3170.5

2177.7103.5

389.4428.5303.5139.218 22 19 11

226.6262.1213.9178.315 17 17 14

226.3335.8319.5247.1

212.6284.0614.7659.417 20 21 22

216.7223.8265.4265.711 15 16 13

497.3659.4571.8397.017 24 23 17

2728.0172

2232.9162

2692.7

3067.6179

2814.3156

5072.92ユ6

出所 :ClimatologicalData,MeteorologicalDepartment,RoyalThaiNavy と MalayanForest

RecordsNo.23:∫.W yatt-Smith,1963による

この森林からは国内で使用 される燃材,建築資材が多 く生産され,国民に最 も広 く利用されて

いる森林といえる。 小川の分類で Savanna Forest といわれる森林が この森林で, 上部が疎

林 (Table2,3,4参照)で,下草がグラスである場合が普通であるが,この組成は DDFが

里山に多いため,人為的な火人の影響を年 々うけて成立したものと考えられる場合が多い。乾

期にこの地帯を通ると,いたるところ下草が燃えている。

この Foresttype の地域は畠作地として転用される可能性が強 く,かんがいが進めば,かな

りの部分が農地化するであろう。

これらの Foresttype外に内陸の Swamp Forestが,中,南部タイに点々とあり,農業用

資材,燃材などを産する。海岸には Casuarina Forestがあるが,保安効果が主で林業の場で

はなかろう。 いずれ も面積的に問題になるほどのものとは思われない0

752 - 94-

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四手井 :東南アジアの林業

また BambooForestが近年熱帯におけるパルプ資源 として注 目され,今までの各種国内消

費以外に,小規模ではあるが, タイその他の国でタケを原料 とするパルプ工業が開発 されてい

る。 タイでは Kanchanaburiにかな りの面積のタケの純林があ り,小パルプ工場がある。

タケは広 く常緑,落葉樹林を通 じて分布 し,その種類 も豊富であるが,長大なタケの純林は

Table2 Biomassofforestsintropicalregion

Foresttype

1DDF (p-1)

2 (pp-1)

3DDF (p-2)

4 (pp-2)

5TRF(ⅠⅤ()ry-C)

6Dipt.FSavannaF

7MonsoonFSavannaど

8MonsoonF

9TRF

10TRF

1菜.IgZ甘 …喜;≡

i(nhda?,:heaaF恩 語 芸53;mac, i(toEi,ha,

Yt/H

_二二 ~~

8・59i

3・2!

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1

3.0∃

( 1 7.8)

9.9

( 19.5)

215・55

14.4(9.5)

388・2日 :冒

294CU1050122リ〕

6

3

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2

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3

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7

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8

1

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7

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8

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3

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1

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9

1

2

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3

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6

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2

2

日H

HH

出所:1-4荻野和彦ほか「タイ国森林の第一次生産力」『東南アジア研究』第5巻第1号,1967.

5DMiilleret∫.Nielsen,"ProductionBrute,PertesparRespirationetPro-

ductionNettedanslaForetOmbrophileTropicale,〟DetFo7・StligeFo′・叩g5-7,,a,SelliDanma7-i,,Vol.29,1965.

6-10H・Ogawaeta1.,日II,PlantBiomass,HNat〟/-ea′ldI-Lji,inSoutheastAsia, Vol.

4,1965.

Table3AnnualincrementoftropicalforestsinThailand(tons/ha・ya)

Foresttype Istem lBranchls+B 巨 eaf F・B・LLs.tleumm。 i Remarks

+2.58- 0.22

+0・94: +3・52;+0106r+3158

∴ こ-- _- : ~_

∑Aw:Totalincrementof

livlngtrees

∑㍑*:Sum ofdeadtrees

amount

Ay: Annualincrement

ofastand

1

ー 95- 753

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東 南 ア ジ ア研 究 第 5巻 第 4号

Table4 Annualincrementandpirmayproductionoftropicalforests

inThailand(tons/ha.yr)

Foresttypestem IBranchis+B I Root tE?n,aarstsiー巨 eaf Es't訂 LLs.'RBT記録 Author

〔注〕 L:Litteramount, PN:Netprimaryproduction,Ry:Lossbyrespiration, PG:GrossprimaryProduction.

MDF 地帯に生じるようで,この種の純林は火人跡,山火跡などの二次林のようである。里山

の荒廃林が落葉性のタケ林に変わっているところはしばしばみられる。

2.Biomass(Standingcrop)

筆者らの日本国内の各種の typeの森林の測定結果から分かったことであるが,森林の Bio一

mass(現存量)は林分密度が十分密であるとき,すなわち十分に閉鎖した森林では,単位平均

樹高,単位面積 (m.ha)当 りの林分地上部現存量, いいかえると,単位面積当りの林分地上

部現存量 (YT)を主林木の平均樹高 (H)で除した商 (YT/H)を乾物重量であらわすと,組成

樹種いかんにかかわらず,ほぼ一定の値を示すのである。この一定値はだいたい 10-13tons/

m.haである。

荻野,小川 らがタイ国で調査した各 Foresttype の現存量を Table2に示 したが,この表で

YT/H をみると,DDF,SavannaF.を除 く外,おおよそ上記の値に近い数値を示す。DDF は

上記のように疎林が多 く,密度が小さいので,かなり小さい値を示 している。

YT/H が熱帯の森林でも温帯林に近い値を示 していることは注目すべきことであって,十分

に閉鎖した森林の Biomass を決める主因子はその森林の樹高であることを示 しているのであ

754 - 96--

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四手井 :東南アジアの林業

る。この点熱帯の森林で樹高の高いのは TEF であ り,TEF が最 も大 きな Biomassをもっこ

とは当然であろう。 タイ国の TEF は前記 したように,TropicalRainForestのなかでは,

上位にぞ くするものではないが,それでもかな り高い蓄積を示 している。

熱帯の森林は林業の発達 した亜寒帯,温帯の森林に比べ,Biomassでは決 しておとらないの

であるが,樹種組成 がはなはだ複雑であるため,現状では,木材としての利用率が 苦しく低い

点に問題がある。

3.Productivity

吉良,荻野らが推定 した年生良基,純生産量, 総生産量などを Table3,4に示 したが, い

ずれ も天然林であって,施業林ではないので,ほぼ安定 した平衡状態にたっしてお り,幹の年

生長は DDF,DEF でわずかに 2tons/ha,TRF (TEF)で 3ton強汗二すぎない,,純生産量

(年総同化量から年呼吸量を差 し引いたもの) もほぼこれに近いllflIを示 し, DDF,DEF の幹

では 2ton,幹+枝の非同化部分はそれぞれ 4ton,9ton を示 し,TRF の幹では 4ton,地

上部の非同化部分 (幹+枝)では 17ton になっている.。 また林木全休 (葉十枚+幹+根)の

純生産量を見て も,DDF 約 7ton,DEF 約 18ton,TRF 約 30ton とい う値は亜寒帯,温

帯の森林に比べ決 して大きな値 とはいえない。

年生長量は成熟 した天然林であるため,す くないのは当然であるが,熱帯の森林の純生産量

が,他の帯に属する森林に比べ, さほど大 きい値を示 さないことは注 目する必要があろう。

総生産量 (総同化量)は TRFでしか推定 されていないが,北海道の トドマツ林で約 50ton

/ha,九州の常緑広葉樹林で約 73ton/haからみる と, TRF の 125ton/haは著 しく大きい

値である。総同化量が大であるにかかわ らず,純生産量がさほど大 きくならないのは熱帯での

呼吸消費が大 きいからである。

年生長,生産量については,資料がす くないので,まだはっきりしたことばのべられないが,

今まで一般に想像 されていたほど,熱帯の森林が大 きな値を示すとは考えられない。その主な

原因は呼吸消費の大 きさによるものである。

4.RegenerationofForest

タイの森林はごく一部を除 くほかすべてが国有である。 このことはマレーシアその他の国々

でもほぼ同様であろう。

現在チ-クをふ くむ MDF では回帰年30年の択伐天然更新が行なわれていて, チ-ク, そ

の他主要な樹種 (D¢te7-OCarPus,Shorea など)では最小胸高周囲を決め (チークは 6ft.),公

的には伐採許可制をもうけて施業 している。DDF では中林作業, すなわち,用材は高林 (天

然下種更新), 燃材は低林 (前芽更新)の混合 した施業が行なわれ, 他の常緑林では保護が主

で積極的な施業はしていないようである。

タイ国の林政は今世紀初め英国の森林官 (H.A.Sladeなど)によって,イン ド, ビルマに

- 97- 755

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東 南 ア ジ ア研 究 第 5巻 第 4号

近似した政策が導入されたようで,森林局 もその頃設立された。

この政策は主 として MDF のチークの乱伐を規制するものであった。 それにより, 一時チ

ークの乱伐,盗伐が著しく減少したのであるが,第二次大戦後,ふたたび盗伐がふえたようで,

盗伐 と無許可開こん,焼畑をやめぬかぎり, タイのチーク資源は近い将来枯渇するであろうと

い う警告 もあるぐらいである。

森林局の組織,営林の監督などの諸法律は確立してはいるが,実際の運営には種々の欠かん

があるようである。

全般的には,はじめに記したように,採取林業の域を脱 していない。育成林業 として現行の

天然更新がどれだけ うまくいっているかについては不明である。 皆伐人工植栽による更新は第

二次大戦後とくにチークについてかなり熱心に行なわれ はじめ, 北部 タイの MDF 地帯の各

地にチークの若い造林地がみられる。 しかし面積的には試験造林の域を出ていない。チークは

硬粒で,苗畑での実生養苗がはなはだむつかしい。現在の苗木の大部分は分根養成である。

その他試験場で HEF にマツ煩の人工植栽,TEF に Hopeaの人工植栽が試みられている

程度で積極的な育成林業は今後の課題であろう。熱帯樹種には硬粒や移植困難なものが多いよ

うで, これが人工造林をはばんでいる一つの重要な原因である。

Ⅱ マ レーシア の林 業

マレー,ボルネオについては未調査で, ごく短 日 Kepongの林業試験場 と KualaLumpur

に近い Gombakの保護林をみたにすぎないので, ここには, MalayanRweSterのなかから

得たい くらかの情報のみを述べておこう。

1.Foresttype(Fig.2)

タイ国では乾燥地帯の森林が主体であったが,マレー半島を南下すると,次第に乾期がへっ

て,マレーシアに入ればほぼ完全な湿潤熱帯になる。TablelでもPenangでは月雨量が 100

mm以下の月が 2カ月あるが,その他では乾期を認めがたい。従 って,マレーはごく一部を除

くほか全部が TropicalRainForestである。 その結果,Foresttypeはほぼ,海抜高と地形

により変化する樹種組成により類別されている。∫.Wyatt-Smith(1963)は次のように分類 し

ている。

o Lowlandevergreenrainforests

D LowlandDipterocarpForests

2) WhiteMeranti-Gerutu(Seasonal)Forests

3) H̀eath'Forests

4) HillDipterocarpForests

5) UpperDipterocarpForests

756 - 98-

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四手井 :東南アジアの林業

F7:

ト 、・、 正 ∴ T

‡ -_∴ - - 二 二(a) (b) (C) (a)

Fig.2 AltitudjnalforestformationseriesinMalaya.Eachsectionrepresentsanactual

stripofforestlOOft.×25ft.Thefirsttwo(aandb)belongtothelowlandformation.

DominatedbyDipterocarpaceae(opencrowns),theformationincorporatesmanyforesttypesdifferinginstatureandflorjsticcompositionbutneverthelessexhibitsthreetree-layersorstratathroughoutitsrangefrom thelowlandplainstothe

upperhillzone. Thethirdsection(C)showsthetwotreelayeredlowermontanef()restf()rmation,whilstthelastis(Jfthesingle-layered lowermontaneforestformati()n.

(a) Redmeranti-keruingforest500ft.a.S.I.JenkaForestReserve,Pahang

(b) Upperdipterocarpforest.2600ft.a.S.I.KedahPeak,Kedah(C) Lowermontaneoak-laurelforest,5000ft.a.S.1.GunongBerembun,Cameron

Highlands,Pahang

(a) Montaneericaceousforest.6000ft.a.S.1.GunongBerembun,CameronHigh・lands,Pahang

oLowermontaneforests

6) MontaneOakForests

。Uppermontaneforests

7) MontaneEricaceousForests

oSwampandlow⊥yingforests

8) MarineAlluvial(Mangrove)SwampForests

9) PeatSwampForests

lO) FreshwaterAlluvialSwampForests

lD RiparianFringes

o Miscelleneousforestsonsitewith severedrainage and on those de丘Cientin available

moistureduetoviolentwindsortolow temperature

12) Beach (Strand)Forest

13) LimestoneVegetation

14) VegetationofQuartzDykes,Quarzite Ridgesand OtherSterileHabitatswith

SevereDrainageorLackingAvailableMoisture

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東 南 ア ジ ア研 究 第 5巻 第 4号

また林業試験場の造林, 生態部で天然林係を している MokSiamTuanが近年マレー全域

の森林資源調査を行なっているが,これによると次のように大別 している。

(1) SwampForests(Mangrovef.,Riverinei.,Seasonalswampf.,Freshwateralluviali.)

(2) LowlandDipterocarpForests

(3) HillDipterocarpForests

(4) MontaneForests

(5) EdaphicForests

また森林資源の利用の観点から, その森林がふ くんでいる有用樹種の Basalareaで森林の

productivityを区分している。 すなわち, 1)Highlyproductive:->50f2/acre, 2)Produc-

tive35-50f2/acre, 3)marigina120-35f2/acre, 4)unproductive<20f.2/acre(50fll≒11

m'-'/ha,35f.2≒8.1m'3/ha,20f2/acre≒4.6m2/ha)。

林業試験場長の話ではマレーの森林の有用樹種の積は 500cf/acreが平均であるとい う。す

なわち 35m3/haであるから, Basalareaと考えあわすと, 全蓄積のせいぜい20%しか利用

されていないのではないかと思 う。

ボルネオに関しては資料が十分でないが,サバの Foresttypeを W .Meijerは次のように

分類していて,大体マレーの分類に近いようである。

oWetlandForests

。Dryland Forests

i

i

(1) SwampForests

(2) RiverineDipterocarpusForests

(3) LowlandandHillForests

(4) UpperDipterocarpusForests

しかし同氏の著書をみると,同名の SwampForestsでもボルネオの SwampForestsはタ

イやマレーと異なり, Shorea,Hopeaなどの有用樹種が, かなりふ くまれているようである

から, SwampForestもかなり利用率の高い森林であるようである。 マレーでは J・Wyatt・

smithの Lowlandevergreenrainforests,Mokの LowlandandHillDipt・Forestsの分

布が最 も広 く,有用樹種の比率 も高いようであるが,その一部の肥沃な平地林はゴム園,その

他農業用地 としてすでに開発され, さらに開発が進むであろうから,林業地が次第に上部-お

いやられることは,わが国などの既開発国と同様であろう。

2.BiomassandProductivity

Biomass,Productivityともに未調査で,今後の重要な課題である。Fig・2に一連のForest

typeの linetransect図を引用 しておいたが,この図で,最良の森林では最高樹高 150ft・であ

り,montaneの Ericaceousforestでも 50ft.あるから,前記の 10-13tons/ha を用いて推

定すると,400tons/haから 150tons/haの問の Biomassがあるものと考えられる。 幹のみ

で300-120tons/ha ぐらいであろう。

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四手井 :東南アジアの林業

3.Regeneration

マレーシアの森林もすべて国有であり,公的には原木の輸出を禁止してい るようであ る。

KualaLumpurに連邦森林局があり, 各州に州森林局がある。 州の局長は連邦政府から任命

されるが,林政には各州の独特のものがあるという。しかし大綱は連邦で決められる。 現在連

邦森林局は農林省所属でなく,国土,鉱山省に属している。マレーシアの一般の施業は皆伐天

然更新である。皆伐を行なう地域は,あらかじめ,その森林が更新に必要な種子を供給しうる

か否か,利用上必要な蓄積をもつか否かなどが Linetransectにより調査される。 その後 0-

2年間に有用樹種の伐採が行なわれるが, 伐採後更新がよく行なわれるように残存した利用不

能木を整理する。

これには6年以上かかるという。この際有用樹種の更新のさまたげになる他樹種の萌芽によ

る再生をふせ ぐために,枯殺剤が用いられているようである。 更新期間内で,3-5年 目, 5-

10年目に2回の Linetransectによる更新状況調査が行なわれる。 そして更新が十分に成功し

た場合のみ Generatedarea とされる。更新不良地はさらに作業がつづけられる。現在この種

の更新地で最 も古いものは48年生であるという。 この他,択伐 も考えられている。 これは今次

の大戦中, 日本軍が必要な材のみ乱伐的にぬきぎりした跡地が,偶然にもうまく更新している

ところから考え出されたのであるという (以上 Kepong の林業試験場長の談話と文献よる)。

人工造林は荒廃林である錫鉱山跡地や都市周辺の乱伐地を対象に試験的に行なわれているが,

錫鉱山跡はかなり施肥しないと成功しないので,現在は中止している。 パルプ工業から均質材

を要求されるので,外国樹種特にマツ類の人工造林が重点的に試験され,各地のマツが導入さ

れたが, 有望なのは Pinusmerkusii,P.inshularis,P.calibaea,P.ponderosaなどである。

養苗法を林業試験場西畑で見たが, ビニールポット(直径 10-15cm,高さ 20-30cm)に,

赤土,川砂,森林表土の混合したものをつめて, 種子をまきつける。 半年 もたつと 1-1.5m

ぐらい生長する。 これをそのまま植栽地へはこび植えつける。

マレー南部ではこの方法でマツ類の人工植栽が行なわれている。 サノミの報告にも同様のマツ

の人工植栽試験がある。北部の3カ月以上 Dryseasonのある地域ではチ-クの造林が可能な

ので,チーク造林をはじめているとのことである。マツ類の Pilotplantation の造成を1965年

から始めて5カ年で 3000acre(750ha)にする予算が通ったが, チークもマツも種子の輸入

が十分でないとのことである。これらの方法は植民地時代の英国の指導によるものと考えられ

る。マレーシアもタイ国同様採取林業の段階であって,育成林業としては,ごく初期の時代に

あるものといえよう。

Ⅲ 総 括

以上,はなはだ浅い知識でタイ,マレーの林業をのべたが,世界的にみて熱帯産木材は近代

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東 南 ア ジ ア研 究 第5巻 第4号

的木材工業にとって必要不可欠なものになっている。特に合板工業は温帯,亜寒帯に大径優良

材がなくなった今日,先進木材工業国では熱帯材に依存せざるを得なくなっている。

わが国では近年まで主としてフィリピンからこれらの熱帯材を輸入していたが,フィリピン

では既に有用材資源が著しく減少し,またフィリピン自体にも合板工業が発達したので,日本

-の輸出が減少し,主な輸入国はボルネオへうつ りつつあるようである。

前記のように熱帯の森林はその構造が多層であり,組成樹種がはなはだ多いのが特徴である

が,現在利用されているのは主として Dtbterocarpaceaeに属する大径のものと,小数の家具

材 としての硬木のみであるので,面積当 りの生産量が著しくす くなく,合板工業のような大量

に木材を消費する工業を支えるためには,広大な熱帯林が伐 り荒らされることになる。その上

前記したように,林分生長量はそれほど多 くは期待出来ないとなると, どうしても,樹種的に

利用可能な範囲を拡大すると同時に次代の新生林分の育成的な造成を出来るだけすみやかには

じめねばならないであろう。熱帯材の用途の拡大は林産学研究者に期待するとして,われわれ

は跡地更新について十分な研究調査をする必要があるであろう。

更新方法は天然更新と人工造林に分けられる。熱帯の森林で天然更新を期待するためには,

どうしても有用樹種の範囲をまず拡大する必要がある。 ごく限られた樹種のみの天然更新は,

組成のはなはだ複雑な熱帯では非常にむずかしいと思われる。 現在タイ,マレーで行なわれて

いる天然更新がどれだけうまくいっているかをまずよく調査しなければならない。人工更新の

ためには,熱帯樹種の養苗,山地植栽の困難さがさまたげになる。現在各地で外国樹種の植栽

が行なわれているのは,こうした郷土樹種の特性が大いに関係しているものと思われる。さら

に人工造林になると,土壌の性質の複雑さが もう一つの条件として入ってくるものと思われる。

温帯,亜寒帯では,Foresttypeと土の性質が大よそ一致しているが, 雨量 と温度にめ ぐま

れた熱帯では,同一 Foresttypeでも土壌は決 して一様ではない。人工更新では初期の育成に

この土壌の性質の違いが,はなはだしくきいて くるのではないかと考えられる。現状では更新

方法に困難性が多いとしても天然更新を主として採用すべきであろう。 そしてマレーシアが実

施しているように,なるべ く不良樹種のす くない二次林の造成に努力し,人工造林は有用樹種

をかぎられた地域に植栽することに限定すべきではないかと思 う。

われわれはタイで, 各 Foresttypeの構造組成, 生長量, 土壌の性質などについて研究し

てきたが, これ もまだ不十分であるので,今後 もさらに,これらの生態学的な研究を深 くすす

めるとともに,マレー,ボルネオ,などの TropicalRainForestに調査範囲を広げ, また林

業上必要な二次林の構造,組成,生長量,生産量などの測定をあわせて行なわねばならないと

思っている。また主要樹種の育苗,山地植栽方法の研究 も今後の実際林業としては重要な課題

であろう。

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