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WOMマーケティングにおける企業と消費者の課題
2013年3月6日インターネット消費者取引連絡会
慶應義塾大学商学部
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内容
クチコミの定義と特徴消費者行動とクチコミ
受信発信
企業のマーケティングとクチコミ消費者の相互依存性を活用したマーケティング様々な課題
環境変化とマーケティングの変化まとめ
消費者の課題企業の課題行政(と社会全体)の課題
参考文献
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クチコミの定義と特徴
「クチコミ」の定義佐藤(1971)
『(くちコミとは)俗語、口頭によるコミュニケーションをいう。パーソナルコミュニケーションの一種。』
Arndt(1967)「Word-of-Mouth Communication」"Oral, person-to-person communication between a receiver and a communicator whom the reciever percieves as non-commercial,regarding a brand,a product,or a service.”次の3条件を満たすコミュニケーション
(i)話し手と受け手の間のコミュニケーションであること。(ii)ブランド、製品、サービス、店に関する話題であること。(iii)受け手が非商業的な目的であると知覚していること。
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図表 マス広告とクチコミの違いマス広告 クチコミ(eクチコミ)
情報の伝達方向 一方向 企業→消費者
双方向 送り手<->受け手
情報の発信、受信のきっかけ
企業が発する 送り手から話す場合受け手から聞く場合
情報のValence(価) 企業にとって有利な情報がほとんど
客観的な情報のみでなく正負の判断を含む
情報の量、内容 CMなどで伝達できる情報の量には限界がある
受け手の必要な情報を選択できる
情報の送り手の動機 経済的動機自社製品などの認知度や売上などの向上のため
非経済的動機が中心 (ポイントなどが動機になることも多い)。
送り手と受け手の関係
企業と消費者 社会的関係によって結びついている(関係のない場合も多い)。
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テレビ広告
テレビ番組
新聞広告
折り込みチラシ
新聞記事
雑誌広告
雑誌の記事
ラジオ広告/ラジオ番組
通販カタログ
ダイレクトメール
企業からの電子メール
企業のホームページ
消費者・個人のブログやホームページ
クチコミサイト
ショッピングサイト
バナー広告
友人、家族からのクチコミ
店頭で実際にみたりさわったりする 店員 その他
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消費者行動とクチコミ図表 情報源の利用状況(全カテゴリ平均)
出所)濱岡、 里村(2009)
メディアは多様化したがクチコミは依然として重要。ブログ、クチコミサイトなども利用されている。
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クチコミの重要化(情報化の逆説?)
出所)濱岡、田中(2004)
図表 企業からの情報への不満(複数回答)企業からの情報は信頼されていない。
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クチコミのもう一つの側面(発信)図表 経験別(満足、不満、中立)クチコミの発信、対象者(全製品カテゴリ)
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購入/利用した店の店員に話した
その企業に電話や手紙で連絡した
その企業にメールで伝えた
その企業のホームページに投稿
友人・家族に口頭・電話で話した
友人・家族にメールで伝えた
掲示板やNG、自分のブログ等に投稿
メーリングリストに投稿した
国や自治体の消費者相談窓口に連絡
雑誌や新聞に投稿した
その他
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出所)濱岡、里村(2009)
満足経験あり 72%不満経験あり 34%
不満の方が積極的に企業に伝達する。満足、不満とも身近な者への伝達が中心。ただし、ブログなどに投稿する者も存在。
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図表 製品カテゴリ毎の不満経験と企業、他社への伝達割合
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携帯電話や関連サービス
出所)濱岡、里村(2009)
製品カテゴリによって不満経験率、その差異の企業、他社への伝達割合は異なる。
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図表 (映画についての)消費者意識の日米中比較
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3""
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***知識
***関与
***早期採用
***オピニオン・リーダー
***eオピニオン・リーダー
***映画についてのクチコミの楽しさ
***自己効力感
***一般的交換
***映画についてのクチコミ発信行動
***映画についての
eクチコミ発信行動
***(不満時の
)企業への苦情
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日本の消費者は米中と比べて(e)クチコミの発信については消極的。
出所)濱岡、里村(2009)のデータに基づいて作成。9
図表(オンライン行動などに関する)消費者意識の日米中比較
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**見知らぬ者への不信
***メッセージの正しさを見抜く能力
***経済的報酬
***コミュニケーションストレス
***感情の発露
***情報共有の便益
/他者への配慮
***アイデンティティ
***ネットにおける資源の量と多様性
***一般的信頼
***知識に基づく信頼
***企業への信頼
***企業への苦情
***スノッブ/バンドワゴン効果
***社会関係資本
***e社会関係資本
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出所)濱岡、里村(2009)のデータに基づいて作成。
日本の消費者は米中と比べて(e)クチコミの発信については消極的。
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図表 (e)クチコミ発信の規定要因
出所)濱岡、里村(2009,ch.11)
クチコミの発信クチコミの発信クチコミの発信 eクチコミの発信eクチコミの発信eクチコミの発信 企業への苦情企業への苦情企業への苦情
知識ポジティブ感情の開放ネガティブ感情の開放コミュニケーションの楽しさeコミュニケーションの楽しさ
e経済的報酬一般的交換eアイデンティティ自己効力感社会関係資本e社会関係資本
日本 米国 中国 日本 米国 中国 日本 米国 中国+++ +++ +++ ns ns +++ +++ +++ ++++++ + +++ ns ns ns -- -- ---ns ns ns ns +++ ns +++ +++ ++++++ +++ +++
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eクチコミは経済的報酬(ポイントなど)に基づいて発信される。11
企業のマーケティングとクチコミ
消費者間の相互作用を活用したマーケティング 消費者間の相互作用言語によるもの→クチコミ+ 視覚によるもの
古典的な例タクシー運転手に自社のクルマのことを誉めさせる。サクラを行列させる。自社のファッションアイテムを身につけさせた者を歩かせる。
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図表 1990年代以降の(e)クチコミ・マーケティングへの注目の高まり米国1994年7月 Cadabra.com開設(後のAmazon.com)
レコメンデーションシステム 1995年 eBay設立
その後、評判システムなどを導入
1999年 epinions.com 1999年 BuzzMetrics
2002年 BzzAgent
Vocalpoint (TREMOR.com=P&Gのdivision)2006 WOMMA設立2009 FTC ガイドライン
日本
1997年頃 インターネットの商用サービスの低料金化(月4万円程度)1997年12 月 CORE PRICE開設(後の カカクコム)
2000年 @コスメ
2006年 buzzlife2009年WOMマーケティング協議会設立2011年10月 消費者庁 景品表示法上の問題点及び留意事項2012年5月 同ガイドライン改訂
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図表 (最近の)クチコミを活用したマーケティング自社の製品やキャンペーンによってWOMを刺激
他者を活用してWOMを広めてもらう(自社との関係は比較的わかりやすい)
同(分かりにくくなることが多い)
製品によってクチコミを刺激バイラルマーケティング
話題性のある映像、CMなどの提供
種まきプログラム試供品、新製品などの優先提供
草の根マーケティングマス広告に頼らず、各地を巡回して丹念に普及活動
エバンジェリスト(伝道師)活用
発掘、コンテスト
インサイダー・プログラム
優先的に情報や製品を提供。開発などに協力
紹介プログラム友人を紹介
アフィリエイト
クチコミ・エージェント
プロモーションに参加してもらう。
オピニオン・リーダー、インフルエンサーの活用
消費者からみると、より企業の存在を識別しにくい。→14
いくつかのトラブル
2005年11月 「メカ音痴の女の子の体験日記」携帯音楽プレイヤーの写真、素人っぽく撮ってあるが、影がふたつあることから、タングステンハロゲンランプとスタンドを使っていると見破られた。ただし、企業はブログ内の体験レポート記事はあくまで"各モニター個人の体験"に基づくものという。
2006年 女子大生ブログの炎上1日に1万人が見るブログを運営する女子大生(雑誌の読者モデル)らの活動をテレビで紹介。映画の試写会にでかけたり、レストランでタダで食事をする様子や、企業から提供された化粧品や飲料を手渡され、「上手なブログの書き方」を指導されている様子も放映された。
2011年末ごろ 「やらせ書き込み」業者が飲食店から報酬をもらい書き込み。
2012年12月ごろ芸能人ブログによるペニーオークションやらせ。
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不正防止のための企業の対応方法
制度面規約による禁止施設内設置端末からの場投稿の禁止(例 Google place)
活動方法の指定、支援自分で気に入ったもののみを推奨するように(Bzzmetrics, elife)WOMマーケティングに参加していることを伝えやすいカードの配布(同)
(情報)システム事前のチェック
投稿をすぐに公開するのではなく、ある程度目視してチェック(例 tripadvisor)評判システム (例 ebay, amazon.com)
投稿者や投稿の信頼性などを評価自動レビュースクリーニングシステム(例 yelp.com)
やらせ/広告的な投稿を自動で検出
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業界の倫理ガイドライン
WOMMA(Word-of-mouth Marketing Association)(米国)クチコミマーケティング協会
2004年初頭Balter(BuzzAgent)、Blackcap(Intelliseek)
クチコミマーケティングの将来について語り始める。(倫理的に?)問題のあるクチコミマーケティングなども行われる。
Carson(BuzzMetrics)も加わり、クチコミマーケティングをプロモートし、その効果を測定し、倫理的な基礎を構築するための業界団体が必要であることに合意。
Ethics FirstEthical Leadership 倫理の確立Measurable ROI 効果測定Best Practice よい事例の共有。
Sernovitz, Andy(2006)”Word of Mouth:Choose your future”, WOMMA/WOMBAT2http://womma.org/wombat2/presentations/womma_wombat2_sernovitz.pdf17
環境変化とマーケティングの変化
インターネット、ケータイの普及による変化 消費者間の相互作用が大規模に。情報がより速く伝達されるようになった。
ユーザー層の拡大ほとんど誰もが携帯含めてインターネットを利用リテラシーの低い者の増大
ホームページ、ブログからツイッターへより容易に投稿
写真、動画など多様な情報の共有
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図表 マーケティングやコミュニケーションの変化
F コンテンツ メディア
C
C
C
C
C コンテンツ
メディア
Cコンテンツ
マスコミュニケーション
CMC
古典的なクチコミC コンテンツ
Cコンテンツ
出所) Hoffman and Novak (1996) 19
発信者、受信者の区別が明確であり、責任も明確。クチコミも相手は社会的関係に結びつけられている者が中心。
出所) Hoffman and Novak (1996) より作成
C コンテンツ
メディア
Cコンテンツ
C C
FF
コンテンツ F
F コンテンツ
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メディアと企業、メディアと消費者、消費者と消費者、企業と消費者がダイレクトにコミュニケーション。これによって責任などが曖昧になった。
図表 Hyper-media-CMCにおけるコミュニケーション
まとめ
消費者の課題情報の受信者として
経済的報酬によってeクチコミが発信されることもあり、必ずしも真実ではない情報がeクチコミとして発信されていることに注意すべきである。「見知らぬ者からのメッセージを見抜く能力」が比較的低い。
情報を利用する消費者としても、多くの情報源からより信頼できる情報を見分ける能力を高めることが必要。
発信者としてクチコミ、eクチコミとも利用(受信)と比べて発信をしている割合が低い。「クチコミ発信」「eクチコミ発信」の動機としても「ポジティブ感情の開放」「コミュニケーションの楽しさ」「経済的利益」といった個人的な利益に基づく。
情報を共有することによって消費者にとって、よりよい製品やサービスを得る可能性を高めるといったことを意識して情報を発信(共有)することが必要。
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企業の課題 クチコミの理解
クチコミの効果の源泉は中立、自発的な情報であること。これを冒すようなマーケティングは無意味。負のクチコミがあることの理解
不正が露見した時のコストは大きい。また、多様な消費者が存在するので、彼(女)らによって不正を発見される可能性も極めて高い。
クチコミ・マーケティングの課題eクチコミについては「経済的報酬」も正で有意。ポイントなどの経済的なインセンティブを与えて書き込みを促進できることを意味するが、本来のクチコミの影響力が低下する可能性が高いことに注意。倫理 自社との関係を明示するように注意。実行 刺激、促進するような状況をつくることは可能かもしれないが、 管理することは逆効果。効果測定 WOMマーケティングは安上がりではない可能性が大きい。
マーケティング=顧客志向の原点へ売りたいものではなく、顧客が欲しがるようなモノ・サービスを提供する。
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政策立案者(+社会全体)の課題指針について
現在の制度である程度対応可能。不正行為者についての情報公開促進。相談先としての告知の必要性
不満などの伝達先としての「国や自治体の消費者相談窓口に連絡した」の利用率は1.2%。なにかあったときの相談先としての活動の告知などが必要。
リテラシー教育の必要性若年層、高齢者など比較的リテラシーの低い者への効果的な教育が必要。
不正を見抜く能力。
社会関係資本の再構築日本は米国、中国と比べると一般的信頼が低い、社会関係資本が少ないといった状況が明らかとなった。これらにいかに対応するか、個人レベルだけでなく、政策レベルでも取り組む必要がある。
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参考文献
濱岡豊(2002)「アクティブ・コンシューマーを理解する」『一橋ビジネスレビュー』冬号, Vol. 50, No. 3, pp.40-55濱岡豊(2004)「共進化マーケティング 消費者が開発する時代におけるマーケティング」『三田商学』Vol. 47, No. 3濱岡豊(2006)「消費者間の相互作用 クチコミを中心に」清水、田中編著『現代のマーケティング戦略シリーズ4 消費者行動』有斐閣濱岡豊、田中秀樹(2006)「コミュニケーションインテグリティの確立にむけて あなたは消費者の声に応えているか?」『マーケティング・ジャーナル』,Vol.25, No.3,p.54-70濱岡豊(2007)「共進化マーケティング2.0 コミュニティ、社会ネットワークと創造性のダイナミックな分析に向けて」『三田商学』, Vol.50,No.2 濱岡豊、里村卓也(2009)『消費者間の相互作用についての研究 クチコミ、eクチコミを中心に』慶應義塾大学出版会(2008年度科学研究費研究成果公開費・学術図書)濱岡豊 (2012), "Twitterにおけるリツイート(RT)回数の規定要因," 慶應義塾大学/京都大学GCOEディスカッション・ペーパー濱岡豊(2012)「クチコミ・プロモーションの効果の規定要因」『マーケティング・ジャーナル』夏号
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