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平成 27 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅱ 皮膚外用剤における薬物の経皮吸収促進の手法とその効 Techniques of the transdermal absorption promotion of the drug in the skin external preparation and their effects 物理薬剤学研究室 6 10P001 青木大和 (指導教員:飯村菜穂子)

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平成 27 年度新潟薬科大学薬学部卒業研究Ⅱ

皮膚外用剤における薬物の経皮吸収促進の手法とその効

Techniques of the transdermal absorption promotion of the drug in the skin external preparation and their effects

物理薬剤学研究室 6 年

10P001 青木大和

(指導教員:飯村菜穂子)

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要旨

製剤学的に医薬品には投与経路がいくつも存在しているが、近年全身性の作用を期待する新た

な経皮吸収型製剤として変化を遂げてきた。これにより、無痛で中断が容易で比較的副作用の少な

いなど、さまざまな利点が生まれるようになった。そのため、薬物の有効性と安全性、利便性が優れ

た新しい投与経路として皮膚の重要性が再認識されはじめた。しかし、この経皮吸収型製剤には、

皮膚を介するという点に大きな問題点がある。皮膚には角質バリアがよく機能していることもあり、分

子量が 500Da 以下、水溶性物質よりも脂溶性物質の方が基剤から皮膚に分配しやすい等、皮膚か

ら薬物を吸収させることは難しいとされている。

そこで、この問題を解決するために物理的な手法と化学的な手法が用いられるようになった。後者

は特殊な装置を必要とせずに比較的安全性の確保された手法として知られている。この手法には吸

収促進剤とエマルション型製剤の 2 種類の化学的な吸収促進法が主流で、この研究が進むことで、

より経皮吸収促進技術が発展し、経皮吸収型製剤が汎用されるようになると思われる。しかし、皮膚

を介する薬物の吸収はとても複雑で容易でないこと、吸収促進剤にはテルペン類や界面活性剤、脂

肪酸類、アルコール類など種類が非常に多く、薬剤に吸収促進剤を組み合わせる選択肢は非常に

多岐にわたること、エマルションによる薬物透過性の改善は全ての薬剤に対して一律に行うことがで

きないなど課題も多く残されているのが現状である。

皮膚を投与経路として薬物の吸収を促進させる手法を開発するため、吸収促進剤を使用する方

法、エマルション製剤とする方法を利用し検討を行った。薬物には近年注目が高まっているポリフェ

ノールに類似する化合物であるピロカテコール、またニキビの治療等にも積極的に用いられているサ

リチル酸を選択した。経皮吸収実験ではヒト皮膚細胞の代替品として取り扱われているメンブランフィ

ルターで予備実験を行い、その後本試験としてヒト 3 次元培養皮膚モデル細胞で行った。

実験の結果、特にピロカテコールに対する L-メントールの吸収促進効果が高く、エマルションの利

用はサリチル酸の吸収に効果があった。

本研究から、吸収促進剤が効果的に働くケース、エマルション製剤化が良い場合と様々あることか

ら今後、医薬品の脂溶性や溶解度、皮膚との相互作用を詳しく検討する必要がある。また吸収促進

剤の種類も数多く存在することから、使用する医薬品に最適なものを選択する必要があると思われ

る。

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キーワード

1.医薬品の投与経路 2.皮膚 3.経皮吸収

4.経皮吸収型製剤 5.吸収促進剤 6.エマルション

7.経皮透過実験 8.ピロカテコール 9.サリチル酸

10.L-メントール 11.オレイン酸 12.ポリオキシエチレンソル

ビタンモノオレエート 13.皮膚モデルメンブランフ

ィルター 14.ヒト 3 次元培養表皮モデ

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目次

1. はじめに p1,2

2. 実験 p2~6

3. 実験結果 p7~9

4. 考察 p10

5. 謝辞 p11

引用文献 p11

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1. はじめに

医薬品には錠剤、散剤、注射剤などのさまざまな剤形が規定されており、薬物の使用目的に

合わせた投与経路を選択し、それに応じて様々な剤形が用いられている。例えばステロイド薬

の場合、全身性の炎症に対しては錠剤や散剤などの経口投与や注射剤の静脈内投与が選

択され、局所的な皮膚の炎症に対しては軟膏剤の経皮投与が選択される。経口投与は錠剤

や散剤などを飲み込むだけなので服用が簡便で、用量を容易に調節することができるが、消

化管から吸収されるため肝臓で初回通過効果の影響を受けやすい。静脈内投与は血管内に

直接薬物が到達するので、効果発現時間が早く、肝臓で初回通過効果を回避できるが、投与

部位において痛みを伴うことや副作用の発現頻度が高い。この二つは広く利用されている投

与経路であるが、吸収性や副作用などさまざまな問題点がある投与経路と言える。一方、局所

的な作用を目的に用いられるだけだった経皮投与は、近年、全身性の作用を期待する新たな

経皮吸収型製剤として変化を遂げ、①肝臓の初回通過効果を避けることができ、薬物の使用

量が少量で済むこと、②急激な血中濃度の上昇がないので比較的副作用が発現しにくいこと、

③経口投与不可な患者にも簡単に投与可能なこと、④薬物の緩やかな長期連続投与が可能

で、中断も簡単に行えること、⑤コンプライアンスが得られやすいことなどのさまざまな利点が

生まれるようになった。そのため、薬物の有効性と安全性、利便性が優れた新しい投与経路と

して皮膚の重要性が再認識されはじめた。しかし、この経皮吸収型製剤には、皮膚を介すると

いう点に大きな問題点がある。ここで挙げた皮膚とは外層から角質細胞層、顆粒細胞層、有棘

細胞層、基底細胞層からなる重層扁平上皮であり、この表皮部分が複雑なバリアとして働くこ

とで、薬物ですら外界からの異物としてブロックしてしまう。一般的に経皮投与が可能な条件は、

分子量が500Da以下で、水溶性物質よりも脂溶性物質の方が基剤から皮膚に分配しやすいと

されている。そのため、皮膚から薬物を吸収させることはやはり難しい 1,2,3,4,5)。

この問題を解決するために現在は、物理的な手法と化学的な手法が用いられるようになった。

物理的な促進法には、イオンフォレシスやエレクトロポレーション、無針注射器、マイクロニード

ルが知られている。イオンフォレシスとは電気エネルギーを使って皮膚透過性を促進する方法、

エレクトロポレーションとは高電圧の付加により脂質構造やタンパク構造を一時的に乱す方法、

無針注射器とは薬液を高圧で発射する装置を用いて針を使わずに薬物を皮膚から吸収させ

る方法、マイクロニードルとは微小な針により角質層に小孔を開けて透過性を改善する方法で

ある。また化学的な促進法には、吸収促進剤法やエマルション・リポソームといった製剤学的

なアプローチが知られている。吸収促進剤とはテルペン類や界面活性剤、脂肪酸類、アルコ

ール類などの特定の物質を吸収促進剤として用いることで薬物透過性のバリアとなる角質に

作用し、バリア能を減少させることで薬物透過性を改善する方法、エマルション・リポソーム法と

は薬物を封入したエマルションやリポソームといった微粒子キャリアが薬物の皮膚分配性や皮

膚中の拡散性の増大させることによる方法である。後者の化学的な促進法は、前者の物理的

な促進法に比べ特殊な装置を必要としない分、簡便でかつ安心して使用できる製剤技術であ

ると考えられる。そのため、今回は吸収促進剤による方法とエマルション型製剤による方法の 2

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種類の化学的な吸収促進法に焦点を当てて経皮吸収実験を行う。この化学的な促進法の研

究が進むことで、より経皮吸収促進技術が発展し、経皮吸収型製剤が汎用されると思われる。

しかし、すでに述べたが皮膚を介する薬物の吸収はとても複雑で容易でないこと、吸収促進

剤にはテルペン類や界面活性剤、脂肪酸類、アルコール類など種類が非常に多く、薬剤に吸

収促進剤を組み合わせる選択肢は非常に多岐にわたること、エマルションによる薬物透過性

の改善は全ての薬剤に対して一律に行うことができないなど課題も多く残されているのが現状

である 6,7)。

皮膚を投与経路として薬物の吸収を促進させる手法を開発するため、吸収促進剤を使用す

る方法、エマルション製剤とする方法を利用し検討を行った。薬物には近年注目が高まってい

るポリフェノールに類似する化合物であるピロカテコール、またニキビの治療等にも積極的に

用いられているサリチル酸を選択した。経皮吸収実験ではヒト皮膚細胞の代替品として取り扱

われているメンブランフィルターで予備実験を行い、その後本試験としてヒト 3次元培養皮膚モ

デル細胞で行った。

2. 実験

化学的な経皮吸収促進法として知られる吸収促進剤を用いる方法とエマルション製剤を用

いる方法について経皮吸収実験で比較実験する。試料には 5mM の主薬を加えた①主薬の

単剤のみ、②吸収促進剤製剤併用、③O/W型エマルション、④W/O型エマルションの4種類

を用意し、薬剤の皮膚透過量や皮膚中の蓄積量を比較・検討する。

2.1 試料

吸収促進剤にはテルペン類で香料としても世間で広く活用され、エタノール共存下で経皮

吸収促進効果を示すことが報告されている L-メントール:L-Menthol(和光純薬)を用いる 8,9)。

エマルション作製に用いる油層にはオレイン酸:Oleic Acid(OLA)(和光純薬)、水層には蒸留

水、界面活性剤にはポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート:

Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monooleate(Tween80)(和光純薬)、溶解補助剤にはエタノール

(EtOH)(ヨシダ製薬)をそれぞれ選択した。なお、エタノールは皮膚に対する刺激性が強いた

め使用を低容量にとどめることとした 10)。

作製した吸収促進剤製剤とエマルション製剤に加える主薬にはピロカテコール:

Pyrocatechol(和光純薬)とサリチル酸:Salicylic Acid(和光純薬)を選択した。

2

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CH3

HO

H3C CH3

HOO

L-メントール:L-Menthol オレイン酸:Oleic Acid(OLA)

H2C

H O(C2H4O)wH

H(OC2H4)xO H

H

H H(OC2H4)yO

CH2O(C2H4O)z

O

OC(CH2)7CH CH(CH2)7CH3

w+x+y+z=� 20

ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート

:Polyoxyethylene(20)Sorbitan Monooleate(Tween80)

OH

OH

OH

COOH

ピロカテコール:Pyrocatechol サリチル酸:Salicylic Acid

図1 今回の実験に用いた物質の化学構造

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2.2 吸収促進剤を添加した試料とエマルション製剤の調製

吸収促進剤を用いた試料は全量(10mL)に対して 3mM となるように秤量した L-メントールと

全量の 5mM となるように秤量した主薬にエタノールを加え、溶解したことを確認した後、蒸留

水を加える。なお、エタノールの量は全量:エタノール=100:5 となるように調製を行う。

エマルション製剤では油層と水層が対比になるように W/O 型エマルションと O/W 型エマル

ションの 2 パターンを調製し全量を 10mL とする。W/O 型エマルションは、油層である OLA を

秤量し、スターラーで撹拌しながら乳化剤の Tween80、溶解補助剤のエタノールの順で加え

いく。このとき、エタノールの分量は吸収促進剤含有試料と同じ比率になるように調製を行う。

その後、水層の蒸留水を少量ずつ滴下し、白濁しないように混和調製する。最後に、エタノー

ルが揮発しないよう栓で密閉し、アルミホイルで遮光をしながら約 40 分間撹拌を続ける。O/W

型エマルションは、乳化剤である Tween80 を先に秤量し、スターラーで撹拌しながら水層の蒸

留水を少量ずつ滴下、W/O 型エマルションと同量のエタノールを加える。その後、油層である

OLA を加え白濁しないように混和調整し、エタノールが揮発しないよう栓で密閉し、アルミホイ

ルで遮光をしながら約 40分間撹拌を続ける。どちらの型のエマルションにも、主薬が全量に対

して 5mM となうように、あらかじめ水層である蒸留水に溶解させて調製を行い、混和調製に際

しては完全に混和したものを試料として扱う。

主薬単剤のみの製剤は全量 10mL に対して 5mM となるように秤量した主薬にエタノールを

加え、溶解したことを確認した後、蒸留水を加える。なお、エタノールの量は今までと同様に全

量:エタノール=100:5 となるように調製を行う。

以上調製した試料 8 種類について混成比率で表わした一覧を下記の表1にまとめた。

表 1. 調製試料の混成比率一覧

OLA Water Tween80 EtOH 主薬

3mM

L-メントール 0 95 0 5 ピロカテコール

W/O 型 30 5 60 5 ピロカテコール

O/W 型 5 30 60 5 ピロカテコール

ピロカテコール

alone

0 95 0 5 ピロカテコール

3mM

L-メントール 0 95 0 5 サリチル酸

W/O 型 30 5 60 5 サリチル酸

O/W 型 5 30 60 5 サリチル酸

サリチル酸 alone 0 95 0 5 サリチル酸

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2.3 実験方法

2.3.1 皮膚モデルメンブランフィルターを用いた Franz 型セル皮膚透過実験

皮膚モデルメンブランフィルターは非動物由来の合成品で、安全性や保管の制限がなく、ヒ

ト皮膚における拡散の予測が可能な皮膚モデルである 11)。皮膚モデルメンブランフィルターに

は皮膚拡散用 Strat-M®メンブレン(メルクミリポア社製)を使用した。この皮膚モデルメンブラン

フィルターで薬物の透過性と蓄積性についてあらかじめ傾向を観察することとした。実験方法

は Franz 型セル【写真1】の下部セルにリン酸緩衝液を表面張力で溢れない程度まで加え、皮

膚モデルメンブランフィルターを乗せた後、上部セルで挟み込むようにしてクリップで固定し、

37℃に温浴をセットする。Franz 型セルの準備が完了した後【写真2】、上部セルの内部にマイ

クロピペットを用いて[2.2]で調製しておいた 8 種類全ての試料をそれぞれ 1mL ずつ加える。

試料投入後Franz型セルは、試料が蒸散しないように栓をしてアルミホイルで遮光し、6時間ス

ターラーで撹拌する。

【写真1】Franz 型セル 【写真2】Franz 型セルの経皮吸収システム

6 時間後、先に下部セルからリン酸緩衝液(PBS)を吸い出し、紫外可視吸光光度計

(UV-1800)で測定することで薬物の透過濃度を測定する。その後、挟んでいた皮膚モデルメン

ブランフィルターを取り出し、付着した余分な試料をリン酸緩衝液で洗い流し、乾燥させる。乾

燥させた皮膚モデルメンブランフィルターは重量を量った後に、MeOH10mL で皮膚中の薬物

を抽出し医療用ハサミで細かく粉砕、紫外可視吸光光度計(UV-1800)を用いて皮膚中に存在

する薬物の蓄積濃度を測定する。

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2.3.2 ヒト 3 次元培養皮膚モデルを用いた Franz 型セル皮膚透過実験

ヒト 3 次元培養表皮モデルはヒト細胞を用いているため種差がなく、再現性の高い皮膚モデ

ルである [12]。このヒト 3 次元培養表皮モデルには LabCyteEPI-MODEL(ジャパン・ティッシュ・

エンジニアリング社製)を用いて実験を行った。実験方法は Franz 型セルの下部セルにリン酸

緩衝液を表面張力で溢れない程度まで加える。直径約 8mmに穴を空けたシリコン製の固定

板で培地から切り抜いたヒト 3 次元培養表皮モデルをずれないように挟み込む。さらにその上

から、上部セルを乗せてクリップで固定し、37℃に温浴をセットする。Franz 型セルの準備が完

了した後、上部セルの内部にマイクロピペットを用いて[2.2]で調製した主薬をピロカテコールと

する 4 種類の試料をそれぞれ 1mL ずつ加える。試料投入後 Franz 型セルは、試料が蒸散し

ないように栓をしてアルミホイルで遮光し、6 時間スターラーで撹拌する。

6 時間後、先に下部セルからリン酸緩衝液(PBS)を吸い出し、紫外可視吸光時計(UV-1800)

で測定することで薬物の透過濃度を測定する。その後、挟んでいたヒト 3次元培養表皮モデル

を取り出し、付着した余分な試料をリン酸緩衝液で洗い流し、乾燥させる。乾燥させたヒト 3 次

元培養表皮モデルは重量を量った後に、MeOH10mL で皮膚中の薬物を抽出しホモジナイザ

ーで細かく粉砕、紫外可視吸光光度計(UV-1800)を用いて皮膚中に存在する薬物の蓄積濃

度を測定する。

2.3.3 ヒト 3 次元培養皮膚モデルを用いたスクリュー管皮膚透過実験

ヒト 3 次元培養表皮モデルには LabCyteEPI-MODEL(ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング

社製)を使用した。今回使用するスクリュー管を用いた皮膚透過実験は、[2.3.1]の Franz 型セ

ル皮膚透過実験に比べて操作手順が比較的簡単かつ一度に多くの実験を行うことができる

簡易的な皮膚透過実験方法である。実験方法はスクリュー管にリン酸緩衝液 11.5mLと撹拌子

を加え、ヒト 3 次元培養表皮モデルのカップの下部がリン酸緩衝液に触れるようにセットし【写

真3】、マイクロピペットを用いて[2.2]で調製しておいた 8 種類全ての試料それぞれ 1mL ずつ

加え蓋をする。37℃に設定した恒温器(IC101W)の中で、アルミホイルで遮光しながらスターラ

ーで 6 時間撹拌する。

6 時間後、スクリュー管のリン酸緩衝液(PBS)を紫外可視吸光時

計(UV-1800)で測定することで薬物の透過濃度を測定する。そ

の後、ヒト 3 次元培養表皮モデルのカップから培養皮膚のみを

切り取り、付着した余分な試料をリン酸緩衝液で洗い流し、乾

燥させる。乾燥させた皮膚は重量測定後に、MeOH10mL で皮

膚中の薬物を抽出しホモジナイザーで細かく粉砕、紫外可視

吸光光度計(UV-1800)を用いて皮膚中に存在する薬物の蓄積

濃度を測定する。

【写真3】スクリュー管による経皮吸収システム

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3.実験結果

[2.3.1] 皮膚モデルメンブランフィルターを用いた Franz 型セル皮膚透過実験について

図2 皮膚モデルメンブランフィルターを用いた Franz 型セル皮膚透過実験のピロカテコール

とサリチル酸の薬物透過濃度

ピロカテコール(110.11g/mol)とサリチル酸(138.12g/mol)の 2 種類の主薬単剤のみを用いて

皮膚モデルメンブランフィルターの透過性を比較した結果、サリチル酸が約 6 倍も透過濃度が

高かった。また、サリチル酸に関して、吸収促進剤併用やエマルション製剤化行っても単剤の

みの吸収性が最も優れている結果となり、エマルション製剤化のみで比較した場合は W/O 型

よりも O/W 型の方が 2 倍近い透過性増加効果が見られる。ピロカテコールに関して、3mM の

L-メントールの吸収促進剤との併用は約 1.5 倍程度の透過性増加効果が見られた。単剤と

W/O 型ではほぼ横ばいの結果となった。ピロカテコールに関しては吸収促進剤による透過性

の増強が見られた。

平均透過濃度 w/o 3.29o/w 2.093mML-メントール 4.27ピロカテコールalone 3.23

w/o 4.31o/w 8.213mML-メントール 17.48サリチル酸alone 19.79

0.00

5.00

10.00

15.00

20.00

25.00

PBS中

の平

均透

過濃

度[1

0-5

mol

/L]

ピロカテコール

サリチル酸

7

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図 3 皮膚モデルメンブランフィルターを用いた Franz 型セル皮膚透過実験のピロカテコール

とサリチル酸の薬物蓄積濃度

ピロカテコール(110.11g/mol)とサリチル酸(138.12g/mol)の二種類の主薬を用いて皮膚モデ

ルメンブランフィルターの蓄積性を比較した結果について。

ピロカテコールに関して、透過性と同様にサリチル酸と比較して蓄積濃度が低くなった。ま

た、透過性が最も低かったO/W型はW/O型よりも蓄積性が高い結果に変わった。エマルショ

ン製剤化した試料の蓄積性はほとんどなかった。

平均蓄積濃度 w/o 2.05o/w 2.593mML-メントール 3.22ピロカテコールalone 3.26

w/o 0.25o/w 0.253mML-メントール 8.64サリチル酸alone 9.19

0.001.002.003.004.005.006.007.008.009.00

10.00皮膚モデルメンブランフィルター中の

均蓄積濃度

[10-5

mol

/L]

8

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[2.3.2] ヒト 3 次元培養皮膚モデルを用いた Franz 型セル皮膚透過実験のピロカテコールの

薬物透過濃度、薬物蓄積濃度について

図 4 ヒト 3 次元培養皮膚モデルを用いた

Franz 型セル皮膚透過実験のピロカテコー

ルの薬物透過濃度

図 5 ヒト 3 次元培養皮膚モデルを用いた

Franz 型セル皮膚透過実験のピロカテコー

ルの薬物蓄積濃度

ヒト 3 次元培養表皮モデルはヒト細胞を用いているため種差がなく、再現性の高い皮膚モデ

ルである。ヒト3次元培養皮膚モデルを用いたFranz型セル皮膚透過実験のピロカテコールに

ついて上記のような結果を得ることが出来た。

透過性に関して、吸収促進剤を併用した時と単剤のみのときでは透過性に大きな違いが現

れなかった。しかし、皮膚モデルメンブランフィルターの時に比べエマルション製剤化の透過

性の低下が顕著にみられる結果となった。蓄積性に関して、エマルション製剤化を行った試薬

では優位に蓄積性が増加する結果となり、透過性の高い単剤のみや吸収促進剤併用は比較

的蓄積性が低い結果となった。皮膚モデルメンブランフィルターの時とは全く異なる結果とな

ったが、透過性の向上による蓄積性の低下という相関性が実験から見える結果となった。

[2.3.3] ヒト 3 次元培養皮膚モデルを用いたスクリュー管皮膚透過実験について

透過性に関してピロカテコールでは単剤と比較して吸収促進剤併用の方が、約 1.2 倍の透

過性増加効果が現れた。サリチル酸に関してはほぼ横ばいの結果となった。

平均透過

濃度 w/o 0.72o/w 0.893mML-メン

トール 2.72

ピロカテ

コールalone 2.74

0.000.501.001.502.002.503.003.504.00

三次

元モ

デル

ピロ

カテ

コー

平均

透過

濃度

[10-

4 mol

/L]

平均蓄積

濃度 w/o 2.57o/w 2.663mML-メン

トール 1.49

ピロカテ

コールalone 2.01

0.000.501.001.502.002.503.003.50

三次

元モ

デル

ピロ

カテ

コー

平均

蓄積

濃度

[10-

5 mol

/L]

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4.考察

透過性に関してサリチル酸(単剤)の方がピロカテコール(単剤)に比べて約 6 倍近くの差があ

った。ピロカテコールの水に対する溶解性は 430g/L(20℃)で非常に水溶性の高い物質である

が、サリチル酸の水に対する溶解性は 2g/L(20℃)で難溶性の物質であることを考慮すると皮

膚への透過性は難溶性物質つまり脂溶性の高い物質の方がよいことが強く示唆された。皮膚

からの透過性に関して分子量が 500Da 以下の小さいものの透過性には構造の特徴に応じた

物性の違いが大きな影響を示す可能性が考えられる。また、吸収促進剤を併用した時、ピロカ

テコールは透過性が多少増加する結果になったがサリチル酸ではほとんど増加が見ることが

出来ないことから、吸収促進剤として使用した L-メントールは今回の主薬に対してあまり有効

な吸収促進剤とは言えないことが考えられる。つまり、優れた吸収促進効果を持つとされてい

る吸収促進剤でも組み合わせる薬物によって効果が出にくいものがあるということがこの実験

からわかった。

一般的に透過性のあまり高くない物質の吸収を改善するために向いているとされるエマル

ション製剤化だが、今回の実験で扱った物質に関しては劇的な効果は見られなかった。これ

はエマルション製剤にすることで皮膚と薬剤の接触面の減少が起こり、透過等に影響したため

今回の実験における薬物の適用時間において見かけ上、透過性が低くなる結果になったと考

えられる。しかし、ヒト 3 次元培養皮膚モデルの実験では蓄積性が顕著に向上し、薬物には透

過性が高いタイプと蓄積性が高いタイプの薬物があり、さらに薬物の適用時間等、実験条件に

ついてもう少し詳細に検討する必要性があると思われる。

皮膚からの薬物の吸収は非常に複雑で、分子量の大小だけでなく、適切な吸収促進剤や

エマルション製剤化を選択することが重要であることを今回の実験から明らかになった。今後

今回使用した吸収促進剤やエマルション以外についても広く研究が進むことが望ましい。

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5.謝辞

本研究の作成にあたり、様々な指導をいただきました物理薬剤学研究室飯村菜穂子准教授、

桐山和可子助手に心から感謝申し上げます。

引用文献

1. 北村正樹,薬剤の剤形と投与経路,45:5:381-384,(2002).

2. 杉野雅浩,藤堂浩明,杉林堅次,YAKUGAKUZASSHI,129(12),1453-1458,(2009).

3. 北島康雄,Drag Delivery System,22-4,(2007).

4. 杉林堅次,J.Soc.Cosmet.Japan,Vol.41,No.4,(2007).

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