地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

21
1 2014/7/14 ~地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析~ 慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科 医療マネジメント専修 神戸

Upload: tsubasa-kambe

Post on 04-Aug-2015

128 views

Category:

Documents


2 download

TRANSCRIPT

Page 1: 地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

1

2014/7/14

~地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析~

慶應義塾大学大学院 健康マネジメント研究科 医療マネジメント専修

神戸 翼

Page 2: 地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

2

目次

1 はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P3

2 病院概要 ~小牧市民病院~・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P4

3 平成 24 年度決算の前年度、前々年度比較・・・・・・・・・・・・・・ P6

4 経常損益分析、医業損益分析・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P7

5 収益性評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P11

6 生産性評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P13

7 機能性評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P16

8 安全性評価・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P18

9 総括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P20

10 参考文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ P21

Page 3: 地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

3

1.はじめに 病院や診療所などの医療機関(以下、病院等という)を取り巻く経営環境は、目まぐる

しく変化しており、このような変革期にあって、病院経営は今後さらに厳しい状況が続く

ものと予想される。事実、地域医療の中核である自治体病院の実に六割以上が赤字 1)と言わ

れており、自治体病院の効率化と経営改善が叫ばれている。しかしながら、自治体病院の

中には、不採算医療や僻地医療の問題を抱え、国や自治体からの補助金等を除いた医業収

支単体での黒字化は困難な状況が見受けられる。 このような状況のなかで、もはや従来のような経営管理者の経験と勘に頼った病院経営

は通用せず、経営管理者は常に有用で迅速な会計情報等の収集・分析を実施し、病院経営

の実態を適時に把握して、的確な意思決定を行う必要がある。 経営分析とは、財務諸表のデータを加工し、分析することによって、当該組織の経営実

態を明らかにする技術であり、収益、利益、あるいは総資産といった数値を用いて、他の

経営組織との比較や当該組織の期間比較を行うこと、また、比率分析を利用した比較分析

が行われることを指す。とりわけ病院経営の状況を把握していくためには、一般的な財務

諸表による財務指標に基づく分析のみならず、病床利用率や平均在院日数など、医事統計

資料による非財務指標に基づく分析(医療管理指標)も重要となってくる。2)そのため、本

分析では、公営企業年鑑(平成 17 年度~平成 24 年度)のデータを基に、財務指標に基づ

く分析及び非財務指標に基づく分析を行っている。また、評価に当たっては(1)収益性、

(2)生産性、(3)機能性、(4)安全性、の四つの視点から同規模自治体病院とベンチ

マーク分析を行っている。加えて、分析対象医療機関は、地域医療の中核病院として 500床以上の病床数を持つ自治体病院の内、昭和 61 年度から 20 年間黒字経営を続け、平成 18年度、平成 19 年度と 2 年連続赤字決算、翌平成 20 年度より再び黒字経営に返り咲いた医

療機関として、愛知県小牧市に所在する小牧市民病院(病床数:558 床)を取り上げている。 上記を踏まえ、本分析では小牧市民病院の経営状況を継時的且つ客観的に評価するとと

もに、課題を提起することを目的とする。加えて、地域医療の中核となる地方自治体病院

の健全な病院経営に向けたヒントの抽出を試みている。

Page 4: 地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

4

2.病院概要 ~小牧市民病院~ 2-1.病院概要 小牧市民病院(以下、「当病院」という)は、昭和 38 年設立の愛知県厚生農業協同組合

連合会の病院を前身とした、一般病床 558 床を持つ自治体立総合病院である。尾張北部医

療圏で唯一の救命救急センターを持ち、地域医療の中核として機能している。標榜診療科

目は 25 診療科にのぼり、災害拠点病院、臨床研修指定病院、地域がん診療連携拠点病院等

の機関指定を受けている。従業員数は平成 24 年度 744 人となっている。

写真1:小牧市民病院の外観 2-2.尾張北部医療圏の状況 2-2-1.人口動態 小牧市が含まれる尾張北部医療圏(以下、「当医療圏」という)は、愛知県の北部に位置

し、5 市 2 町(小牧市、春日井市、犬山市、江南市、岩倉市、大口町、扶桑町)からなり、

南北約 23.2 ㎞、東西約 24.1 ㎞、圏域面積は 295.92km2 である。 当医療圏の人口は、平成 24 年 10 月 1 日 731,433 人となっている。昭和 60 年に比べて

高い増加率を示すが、これは大都市周辺地として宅地造成、企業進出が活発に行われ、急

激に増加したことによると考えられる。平成 19 年との比較では、大きな人口増加は確認さ

れなかった。(表1) 表1 人口の推移 3)

年 小牧市 春日井市 犬山市 江南市 岩倉市 大口町 扶桑町 圏域計 昭和 60 113,284 256,990 68,723 92,049 42,508 17,247 27,822 618,623 平成 19 148,801 300,099 75,181 99,938 48,107 22,040 32,968 727,134 平成 24 146,855 306,818 75,061 99,579 46,741 22,637 33,742 731,433

Page 5: 地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

5

当医療圏の人口推移予測について、総人口では 2010年 730,973人に対し 2035年 680,459人となっている。また、65 歳以上では 2010 年 150,683 人に対し 2035 年では 206,760 人、

75 歳以上では 2010 年 59,830 人に対し 2035 年では 118,547 人となっている。各カテゴリ

ーにおける増加率を見ると、総人口では-7%、65 歳以上では 37%、75 歳以上では 98%とな

っている。これは、超高齢社会の状態を如実に表していると考えられ、医療機関は老年人

口の増加を如何にして病院経営と関連づけるかが今後のカギとなってくると考えられる。

(表2) 表2 人口の推移予測 4)

2010 年 2015 年 2020 年 2025 年 2030 年 2035 年 10⇒35年

増加率

総人口 730,973 729,982 725,435 714,740 699,195 680,459 -7% 65 歳以上 150,683 182,843 194,911 195,742 198,184 206,760 37% 75 歳以上 59,830 79,405 101,291 121,273 123,791 118,547 98%

当医療圏の年齢別人口分布について、0 歳~65 歳人口の 2010 年から 2035 年の増加率は

-18%、65 歳以上 75 歳未満の増加率は-3%、75 歳以上の増加率は 98%となっている。また、

高齢化率(65 歳以上)については、2010 年 21%から 2035 年 30%へ 9%の上昇となってい

る。これは、表2の結果と同様、超高齢化社会の状態を如実に表しており、特に 75 歳以上

の人口分布が 98%であることから、当医療圏内における潜在患者数の増加、それに伴う医

療費高騰の可能性が示唆される。(表3) 表3 年齢別人口分布 5)

2010 年 2015 年 2020 年 2025 年 2030 年 2035 年 10⇒35年

増加率

0 歳~65 歳 580,290 547,139 530,524 518,998 501,011 473,699 -18%

65 歳以上

75 歳未満 90,853 103,438 93,620 74,469 74,393 88,213 -3%

75 歳以上 59,830 79,405 101,291 121,273 123,791 118,547 98%

高齢化率

(65 歳以上) 21% 25% 27% 27% 28% 30% -

Page 6: 地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

6

3.平成 24 年度決済の前年度、前々年度比較 平成 24 年度の経営成績は次表の通りであった。医業収益は 18,486,974 千円(前年度比

99.2%)と減少したものの、医業費用の削減に成功した結果、医業収支は 1,226,417 千円

(前年度比 122%)となった。医業外収支が伸び悩み、経常損益は 1,388,386 千円(前年

度比 115.4%)となった。特別損益の減少、及び地方自治体病院のため税金費用計上が存

在しないため、当期純損益は 1,189,906 千円(前年度比 120.1%)となった。(表4) 表4 財務諸表(平成 24 年度会計)6) 単位:千円・% <用語説明> ・医業収益:入院収益や外来収益などの医業活動から生じる収益 ・医業外収益:国、県からの補助金、小牧市からの負担金、補助金など医業以外の収益 ・医業費用:給与費、材料費、経費などの医業活動に要する費用 ・医業外費用:企業債利息など医業以外の費用 平成 24 年度の財務状態は次表の通りであった。資産合計は、176,450 千円減少し、

34,593,660 千円となった。これは固定資産の減少によるものである。負債合計は、954,169千円減少し、2,373,006 千円となった。これは流動負債の減少によるものである。純資産

合計は、777,719 千円増加し、32,220,654 千円となった。これは主に自己資本金の増加と

利益剰余金の増加によるものである。(表5) 表5 財務諸表(資産、負債及び純資産の状況)6) 単位:千円・%

前々年度 前年度 平成24年 前年度比医業収益 A 18,148,592 18,634,312 18,486,974 99.2医業外収益 B 983,934 889,108 760,111 85.5経常収益 C =A+B 19,132,526 19,523,420 19,247,085 98.6医業費用 D 17,222,482 17,629,351 17,260,557 97.9医業外費用 E 658,625 691,135 598,142 86.5経常費用 F =D+E 17,881,107 18,320,486 17,858,699 97.5経常損益 G =C-F 1,251,419 1,202,934 1,388,386 115.4経常収支比率 - =C/F*100 107.0 106.6 107.8 101.1特別収益 H 51,989 2,996 1,308 43.7特別損失 I 277,040 214,826 199,788 93.0特別損益 J =H-I △ 225,051 △ 211,830 △ 198,480 93.7

純損益 純損益 - =G+J 1,026,368 991,104 1,189,906 120.1

収益

費用

特別損益

経常損益

前々年度 前年度 平成24年 前年度比固定資産 K 17485578 17465381 16969299 97.2流動資産 L 14457245 17304729 17624361 101.8繰延勘定 M - - - -資産合計 N =K+L+M 31942823 34770110 34593660 99.5固定負債 O 626447 897097 1188891 132.5流動負債 P 1119692 2430078 1184115 48.7負債合計 Q =O+P 1746139 3327175 2373006 71.3自己資本金 R 13139810 13787209 14520352 105.3借入資本金 S 4887507 4940109 4206967 85.2資本剰余金 T 1710145 1705632 1707232 100.1利益剰余金 U 10459222 11009985 11786103 107.0資本合計 W =R+S+T+U 30196684 31442935 32220654 102.5

資産

負債

純資産

Page 7: 地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

7

4.経常損益分析、医業損益分析 4-1.経常損益分析 当病院における、平成 17 年度から平成 24 年度までの経常損益に関する指標は次表の通

りであった。(表6) 表6 経常損益に関連する指標 6) 単位:千円・%

H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

経常収益 16,802,849 17,018,854 16,837,285 17,325,851 18,329,941 19,132,526 19,523,420 19,247,085

経常費用 16,466,529 16,951,146 17,032,747 17,103,711 17,539,896 17,881,107 18,320,486 17,858,699

経常損益 336,320 67,708 △ 195,462 222,140 790,045 1,251,419 1,202,934 1,388,386

経常収支比率 102.0 100.4 98.9 101.3 104.5 107.0 106.6 107.8

※経常収支比率:経常収益/経常費用×100

当病院における、経常収支比率の増減を次の図で示した。経常収支比率とは、収支の状

況を経常的な収入と経常的な支出の比率で捉え、この比率が高ければより安全性が高いと

みなすことが出来る指標である。基準として、少なくとも 100%を越えていることが求めら

れる。 平成 18 年度まで経常収支比率 100%以上を保持していたが、平成 19 年度には 98.9%ま

で減少している。これは、平成 17 年度より経常費用が増加し続けたため、また、平成 19年度の経常収益が減少したことによるものである。平成 20 年度以降は経常収支比率 100%以上に再び増加し、その後、平成 24 年まで 100%以上を保持している。尚、平成 23 年度に

一時的に経常収支比率の減少(106.6%)が認められるが、これは経常費用の増加が影響し

ていると推測される。(図1) 図1 経常収益・費用、経常収支比率の年度推移 6) 単位:千円・%

102.0

100.4

98.9

101.3

104.5

107.0 106.6 107.8

94.0

96.0

98.0

100.0

102.0

104.0

106.0

108.0

110.0

14,500,000

15,000,000

15,500,000

16,000,000

16,500,000

17,000,000

17,500,000

18,000,000

18,500,000

19,000,000

19,500,000

20,000,000

H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

経常収益

経常費用

経常収支比率

Page 8: 地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

8

4-2.医業損益分析 当病院における、平成 17 年度から平成 24 年度までの医業損益に関する指標は次表の通

りであった。(表7)

表7 医業損益に関する指標 6) 単位:千円・% H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

医業収益 16,355,405 16,314,338 16,021,526 16,384,445 17,125,594 18,148,592 18,634,312 18,486,974

医業費用 15,639,769 16,097,320 16,292,911 16,230,995 16,784,987 17,222,482 17,629,351 17,260,557

医業収支 715,636 217,018 △ 271,385 153,450 340,607 926,110 1,004,961 1,226,417

医業収支比率 104.6 101.3 98.3 100.9 102.0 105.4 105.7 107.1

※医業収支比率:医業収益/医業費用×100

当病院における、医業収支比率の増減を次の図で示した。医業収支比率とは、医業活動

によってもたらされた収入と支出を比率で捉え、この比率が高ければより業務能率が高い

とみなすことが出来る指標である。基準として、少なくとも 100%を越えていることが求め

られる。 平成 18 年度まで医業収支比率 100%以上を保持していたが、平成 19 年度には 98.3%ま

で減少している。これは、平成 17 年度より医業費用が増加し続けたため、また、平成 19年度の医業収益が減少したことによるものである。平成 20 年度以降は経常収支比率 100%以上に再び増加し、その後、平成 24 年まで 100%以上を保持している。尚、前項の経常損

益分析にて、平成 23 年度に一時的に経常収支比率の減少(106.6%)が認められたが、医業

収支比率については、平成 23 年度 105.7%と減少は認められていない。これは平成 23 年度

の経常収支比率減少の理由は、医業外収支が影響していることを示唆している。(図2)

図2 医業収益・費用、医業収支比率の年度推移 6) 単位:千円・%

104.6

101.3

98.3

100.9 102.0

105.4 105.7

107.1

92.0

94.0

96.0

98.0

100.0

102.0

104.0

106.0

108.0

14,000,000

14,500,000

15,000,000

15,500,000

16,000,000

16,500,000

17,000,000

17,500,000

18,000,000

18,500,000

19,000,000

H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

医業収益

医業費用

医業収支比率

Page 9: 地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

9

医業収益と医業費用の関係について考察する。平成 17 年度から平成 19 年度に掛けて医

業収益は減少している。それと比較して医業費用は平成 17 年度から平成 19 年度に掛けて

増加している。また、3 項「はじめに」にて記載した通り、平成 18 年度、平成 19 年度は

赤字決済に至っている。これらを踏まえ、平成 18 年度付近の院内の環境変化を検討してみ

ると、平成 18 年 4 月に電子カルテを導入していることが分かっている。つまり、電子カル

テ導入に伴うコストとそれに慣れるまでの日常業務の不都合が相重なって、医業収支率の

低下(医業収益の低下と医業費用の増加)を招いていたと推測される。 次に、平成 19 年度以降に掛けて医業収益が増加している。医業費用は増加しているもの

の、医業収支比率の継時変化では年ごとに約 2%の上昇を示している。これは電子カルテ導

入の効率的な運用が成功した事だけに要因があるとは考えにくい。そのため、再度平成 19年度以降の院内の環境変化を検討してみると、平成 19 年度に医業コンサルタントの受け入

れ、平成 20 年度に DPC 導入、平成 21 年度に小牧市民病院改革プロジェクト(以下、「病

院改革プロジェクト」と言う)の施行が確認された。これらの複合的な相乗効果にて医業

収支比率の増加が導かれたと推測される。(図2) 上述してきた医業収益に関して、その内訳の変化について考えてみたい。当病院におけ

る、平成 17 年度から平成 24 年度までの医業収益に関する指標は次表の通りであった。(表

8)

表8 医業収益の内訳 6) 単位:千円 H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

入院収益 9644719 9768470 9808864 10108753 10571803 11312088 11648329 11428834

外来収益 6035146 5848630 5498392 5560778 5805180 6106226 6242836 6312570

その他医業収益 675540 697238 714270 714914 748611 730278 743147 745570

当病院における医業収益は平成 19 年度を境に増加している。その背景の推察は前述した

とおりであるが、医業収益を構成する入院収益と外来収益、その他医業収益と言う観点よ

り検討すると、外来収益は若干の増加は認められるが、大きな変化とは言えない。それに

引き替え、入院収益は大幅な増加が認められており、平成 19 年度 9,808,864 千円から平成

24 年度 11,428,834 千円へと 2,465,448 千円(年度比 122%)の増加となっている。平成 19年度から平成 24 年度にかけて当医療圏の環境変化は特に確認されず、また当病院における

病床数に大きな変化はない。そのため、入院収益増加の原因は前述と同じくして、電子カ

ルテ導入や DPC 導入、はたまた病院改革プロジェクトが影響していると推測される。尚、

平成 24 年度のタイミングで 14 床のみ増床を行っていることが分かっているが、平成 24 年

度に入院収益が少し減少したのは、この影響だと推測される。(図3)

Page 10: 地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

10

図3:医業収益の内訳とその年度推移 6) 単位:千円・%

0

2000000

4000000

6000000

8000000

10000000

12000000

H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

入院収益

外来収益

その他医業収益

Page 11: 地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

11

5.収益性評価 収益性評価は、医業活動によって獲得された収益と費用の関係をみることで、一定期間

の経営成績を明らかにするものである。病院は営利企業とは異なり営利を追求するもので

はないが、医療サービスを永続的に継続していくためには収益性を向上させていく必要が

ある。収益性指標は経営上重要な指標の一つである。2) 当病院における、平成 17 年度か

ら平成 24 年度までの収益性評価指標は次表の通りであった。(表9) 表9 収益性評価指標 6) 単位:-

H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

医業収益 対 医業利益 率 4.38 1.33 △ 1.69 0.94 1.99 5.10 5.39 6.63

医業収益 対 経常利益 率 2.06 0.42 △ 1.22 1.36 4.61 6.90 6.46 7.51

医業収益 対 純利益 率 1.83 0.08 △ 1.61 0.90 4.26 5.66 5.32 6.44

医業収益 対 人件費 率 39.67 39.87 41.97 41.47 42.65 41.20 41.61 41.62

医業収益 対 材料費 率 32.16 32.84 31.89 29.09 29.01 28.67 29.51 28.42

医業収益 対 経費 率 16.62 18.33 20.04 20.36 19.07 18.68 17.16 17.71

医業収益 対 委託費 率 0 0 0 0 0 0 0 0

医業収益 対 研究研修費 率 0.23 0.25 0.29 0.27 0.28 0.26 0.27 0.29

医業収益 対 減価償却費 率 6.82 7.18 7.21 7.63 6.89 5.84 5.40 5.20

医業収益 対 資産消耗費 率 0.12 0.20 0.29 0.25 0.12 0.25 0.66 0.12

経常収益 対 経常利益 率 2.00 0.40 △ 1.16 1.28 4.31 6.54 6.16 7.21

経常収益 対 支払利息 率 1.86 1.72 1.62 1.47 1.27 1.08 0.93 0.81

経常収益 対 補助金等 率 0.52 0.55 0.84 1.04 1.11 0.44 1.27 1.18

総収益 対 純利益 率 1.77 0.08 △ 1.52 0.85 3.96 5.35 5.08 6.18

500 床以上の自治体病院群(以下、比較対象群と言う)の平均値を比較対象の基準値とし

て、収益性評価指標について検討した。その結果、医業収益対医業利益率は、平成 17 年度

から平成 24 年度まで基準値-5.3 以上の値を示し、高評価を示した。医業収益対経常利益率

は、平成 17 年度から平成 20 年度まで基準値 2.2 を下回ったものの、平成 21 年度より基準

値 2.2 以上の高評価を示した。(図4)

Page 12: 地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

12

図4 収益性評価指標のベンチマーク分析(医業収益の検討) 6) 単位:- 収益性評価指標としての医業費用比率について、その結果を次の図に示した。尚、比較

対象群の基準値を 50 と設定したため、それに応じて当病院の数値を変換している。 人件費、減価償却費、委託率は基準値 50 以下の高評価を示した。材料費については、基

準値 50 と同程度を示したが、経費については、基準値 50 を大きく上回り、対象群に比べ

低評価を示した。このことから、今後の改善点として、経費の検討が示唆された。

図5 収益性評価指標のベンチマーク分析(医業費用の検討) 6) 単位:-

△ 6.00

△ 4.00

△ 2.00

0.00

2.00

4.00

6.00

8.00

10.00

H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

医業収益 対 医業利益 率

医業収益 対 経常利益 率

医業収益 対 純利益 率

基準値:医業収益対経常利

益率(他院:同規模)

基準値:医業収益対医業利

益率(他院:同規模)

0.0020.0040.0060.0080.00

100.00120.00

医業収益 対 人件

費 率

医業収益 対 材料

費 率

医業収益 対 経費 率

医業収益 対 委託

費 率

医業収益 対 減価

償却費 率 自院(H24) 他院(同規模)

2.2

-5.3

Page 13: 地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

13

6.生産性評価 生産性評価では、特に人的資源の投入と産出の関係を明らかにし、医業経営の中心的な

資源である「ヒト」の活用の程度を評価する。経営資源である労働力や設備の投入に対し

て、経営成果である付加価値をどれだけ生み出したかという効率性の分析である。7) 当病

院における、平成 17年度から平成 24年度までの生産性評価指標は次表の通りであった。(表

10) 表10 生産性評価指標 6) 単位:人・千円・%

H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

職員数 687 687 681 680 700 709 709 744

職員 1 人当

たり年間給

与費 9,445 9,468 9,875 9,992 10,434 10,545 10,937 10,343

職員 1 人当

たり年間医

業収益 23,807 23,747 23,526 24,095 24,465 25,597 26,283 24,848

付加価値額 7,204,393 6,721,420 6,453,397 6,947,745 7,644,639 8,402,861 8,759,008 8,921,532

給与費 6,488,757 6,504,402 6,724,782 6,794,295 7,304,032 7,476,751 7,754,047 7,695,115

労働生産性 10,487 9,784 9,476 10,217 10,921 11,852 12,354 11,991

労働分配率 90.1 96.8 104.2 97.8 95.5 89.0 88.5 86.3

※労働生産性:(医業収益-(材料費+経費+委託費+減価償却費+その他の費用)) / 従事者数

※労働分配率:(給与費*100)/(医業収益-(材料費+経費+委託費+減価償却費+その他の費用))

H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

医師 1 人 1 日当

たり診療収益 299,012 279,221 270,887 277,317 274,943 279,669 286,190 282,714

看護師 1 人 1 日

当たり診療収益 90,884 89,631 87,650 86,938 88,032 92,636 94,477 88,727

検査部門 1 人当

たり検査料収益 48,733 44,463 45,547 39,232 38,211 38,983 37,972 36,626

放射線部門 1 人当

たり画像診断収益 46,500 44,033 42,623 37,800 38,679 38,469 37,903 35,800

比較対象群の平均値を基準値として、生産性評価指標について検討した。その結果、職

員 1 人当たり年間給与費は、平成 17 年度から平成 24 年度まで基準値 7880 千円を超える

値を示した。職員1人当たり年間医業収益は、平成17年度から平成24年度まで基準値14977千円を超える値を示し、高評価となった。(図6)

Page 14: 地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

14

図6 生産性評価指標のベンチマーク分析 6) 単位:千円 労働生産性について、その結果を次の図に示す。労働生産性とは、従事員 1 人がどれだ

けの付加価値を生み出したかをみる指標であり、労働生産性が高ければ、各々の従事員が

効率よく価値を生み出し、円滑な運営管理が行われているといえる。(図7) 図7 労働生産性とその構成要素の年度推移 6) 単位:千円・%

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

職員1人当たり年間給与費

職員1人当たり年間医業収

基準値:職員1人当たり年

間給与費(他院:同規模)

基準値:職員1人当たり年

間医業収益(他院:同規模)

5,000,000

6,000,000

7,000,000

8,000,000

9,000,000

10,000,000

5,0006,0007,0008,0009,000

10,00011,00012,00013,000

H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

付加価値額

労働生産性

640

660

680

700

720

740

760

5,0006,0007,0008,0009,000

10,00011,00012,00013,000

H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

職員数

労働生産性

7880

4977

Page 15: 地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

15

次に、労働分配率について、その結果を図に示す。労働分配率とは、付加価値が人件費

にどれだけ分配されているかをみることで、経営の効率性を把握することが出来る。人件

費を支払原資(付加価値額)のなかで収めるのは当然のことであるが、質と意欲に関係す

るため、必ずしも低ければ良いというものではない。(図8) 図8 労働分配率とその構成要素の年度推移 6) 単位:千円・%

5,000,0005,500,0006,000,0006,500,0007,000,0007,500,0008,000,0008,500,0009,000,0009,500,000

70.0

75.0

80.0

85.0

90.0

95.0

100.0

105.0

110.0

H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

付加価値額

労働分配率

5,000,0005,500,0006,000,0006,500,0007,000,0007,500,0008,000,0008,500,0009,000,0009,500,000

70.0

75.0

80.0

85.0

90.0

95.0

100.0

105.0

110.0

H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

給与費

労働分配率

Page 16: 地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

16

7.機能性評価 病院の経営における機能性評価とは、当該施設がどのような機能を有しているか、自ら

に与えられた機能をどのように果たしているか、有限な医療資源を効率的に活用している

かどうかという観点から評価を行う。2) 当病院における、平成 17 年度から平成 24 年度ま

での機能性評価指標は次表の通りであった。(表11) 表11 機能性評価指標 6) 単位:人・千円・%

H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

入院患者 1 人 1 日当たり診療収入 48672 48933 49365 52594 56422 60692 60676 61885

入院患者数 543 547 543 527 513 511 525 506

医師 1 人当たり入院患者数 3.80 3.60 3.50 3.40 3.10 3.00 3.10 2.90

平均在院日数 14.1 13.6 13.3 12.2 11.7 11.7 12.3 11.9

病床利用率 99.8 100.5 99.8 96.8 94.4 93.9 96.4 90.7

外来患者 1 人 1 日当たり診療収入 11816 12914 12101 12395 13322 14265 14890 15814

外来患者数 2093 1849 1855 1846 1801 1762 1718 1629

医師 1 人当たり外来患者数 9.70 8.10 8.00 7.90 7.30 6.90 6.70 6.40

外来/入院比率 257.8 226.9 228.7 233.4 232.6 229.7 218.4 216.1

病床数 544 544 544 544 544 544 544 558

病床 100 床当たり全職員 144.1 147.3 150.7 153.6 157.6 161.5 163.3 168

病床 100 床当たり医師数 26.5 27.7 27.9 28.1 29.9 30.8 31.3 30.6

病床 100 床当たり 看護人員数 86.2 86.6 88.1 90 92.4 94.8 95.3 101.4

看護人員/医師人数比 3.25 3.13 3.16 3.20 3.09 3.08 3.04 3.31

比較対象群の平均値をの基準値として、機能性評価指標について検討し、その結果を次

の図に示した。尚、比較対象群の基準値を 50 と設定したため、それに応じて当病院の数値

を変換している。 入院診療に関する機能性評価指標として、入院患者 1 人 1 日当たり診療収入は基準値 50

以上となり高評価を示した。医師 1 人当たり入院患者数については、基準値 50 以下となっ

た。平均在院日数については、基準値 50 以下となり高評価を示した。最後に病床利用率に

ついては、基準値 50 以上となり高評価を示した。 外来診療に関する機能性評価指標として、外来患者 1 人 1 日当たり診療収入は基準値 50

以上となり高評価を示した。医師 1 人当たり外来患者数については、基準値 50 同等となっ

Page 17: 地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

17

た。(図9)

図9 機能性評価指標のベンチマーク分析 6) 単位:-

010203040506070

入院患者1人1日

当たり診療収入

医師1人当たり入

院患者数

平均在院日数

病床利用率

外来患者1人1日

当たり診療収入

医師1人当たり外

来患者数

自院(H24)

他院(同規模)

Page 18: 地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

18

8.安全性評価 安全性評価は、財政状態を見るものであり、投下総資本や保有資産の観点から機能性や

収益性をみるとともに、財務の安全性を確認するものである。営利企業であれば、利益の

極大化を目的として成長を目指すのが通常であり、安全性に代えて成長性を重視する場合

もある。しかし、病院の場合は、財務的な数値の成長というよりも、良質の医療を適切か

つ効率的に提供しており、その施設がいかなる機能をはたしているかの方が重要といえる。

したがって、病院の経営指標の場合は、成長性ではなく機能性を評価する項目が中心とし

て挙げられ、また成長性に代えて安全性の指標を重視する事となる。2) 当病院における、

平成 17 年度から平成 24 年度までの安全性評価指標は次表の通りであった。(表12) 表12 安全性評価指標 6) 単位:千円・%

H17 H18 H19 H20 H21 H22 H23 H24

流動比率 1277.8 1402.6 786.1 1262.9 1324.7 1291.2 712.1 1488.4

固定比率 137.7 126.8 148.3 137.4 141.7 133.1 126.7 116.9

固定長期適合率 135.1 126.7 147.8 136.4 138.7 127.0 118.9 108.0

1 病床当たり

総資産額 55703 54769 56087 55216 55950 58718 63916 61996

1 病床当たり

利益剰余金 19080 18695 17735 17698 18201 19227 20239 21122

1 病床当たり

固定資産額 26204 25176 30727 29675 32120 32143 32105 30411

自己資本比率 73.8 75.9 74.3 77.0 78.7 79.2 76.2 81.0

比較対象群の平均値を基準値として、安全性評価指標について検討しその結果を次の図

に示した。尚、比較対象群の基準値を 50 と設定したため、それに応じて当病院の数値を変

換している。 当病院の流動比率については、組織における短期的な支払能力を判断する指標であり、

基準値 50 以上の値を示し、高評価となった。固定長期適合率については、固定資産に投資

した資金が長期資金でどれだけまかなわれているかを判断する指標であり、一般企業では

100%以下が理想であるが、自治体病院は比較的大きい傾向がある。そのため、一概に判断

は困難であるが、基準値 50 以上で低評価を示している。1 床当たり固定資産については、

基準値 50 と大きな変化はなく、同評価と考えられる。最後に自己資本比率については、総

資本の内どの程度が自己資本でまかなわれているかを示す指標であり、高いほど経営が安

定していると判断される。当病院は基準値 50 を上回り、高評価であった。(図10)

Page 19: 地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

19

図10 安全性評価指標のベンチマーク分析 6) 単位:-

0

50

100

150流動比率

固定長期適合率

1病床当たり固定

資産額

自己資本比率 自院(H24)

他院(同規模)

Page 20: 地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

20

9.総括 当病院では、昭和 61 年度より 20 年間、黒字経営を続けてきた背景があった。しかしな

がら、電子カルテ導入に伴って、赤字へと一転した経緯がある。このような事象はどの病

院にでも起こりえることであり、時代の流れと考えられる。また、その赤字に対する迅速

な対応は目を見張るところがある。電子カルテの運用から DPC の導入へ繋げ、更に自治体

本部との連携をとり、医療の質の方向からだけでなく、経営的な視点からのテコ入れを実

施した。そして、その効果は最終的に 24 年度決算にて 1,189,906 千円の純利益に繋がった。 自治体病院の赤字経営が問題視されている現在、病院を取り巻く環境は厳しくなりつつ

ある。民間病院のみならず、自治体病院までものが倒産する時代を迎え、今後の自治体病

院の経営のあり方を検討する必要があると考えられる。そんな中、当病院のように自治体

本部と病院とが協力し経営改善に乗り出し、見事黒字経営を成し遂げ、継続する事例はそ

んなに多くはない。このような点を踏まえ、事例検討の有用性を病院管理者は理解する必

要があるだろう。そして、社会として医療経営の重要性をより広く叫んでいく必要がある

だろう。経営の効率化、再編・ネットワーク化、経営形態の見直しの 3 つの視点に立った

改革を推進すること。これこそが、今の病院経営には不可欠なのだと言えるのではないだ

ろうか。

Page 21: 地方自治体病院「小牧市民病院」の経営分析 (公開用)

21

10.参考文献 1)医療施設調査 2010 年(厚生労働省) 2)財務会計/資金調達(1)(橋口 徹:日本医療企画) 3)市区町村別推計人口調査

(愛知県県民生活部統計課ホームページ:http://www.pref.aichi.jp/0000063829.html) 4)、5)2 次医療圏サマリーデータ (㈱ウェルネス:http://www.wellness.co.jp/siteoperation/msd/)

6)公営企業年鑑(総務省:http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/c-zaisei/kouei_kessan.html) 7)医療経営データ集(日本政策投資銀行ヘルスケア室、日本経済研究所:日本医療企画)