事 業 名 称 官民npo 協働の空き家活用でセ-フティネット形成の … ·...

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1 官民 NPO 協働の空き家活用でセ-フティネット形成の多様化を図る 事業主体名 特定非営利活動法人コレクティブハウジング社 京都府 こども総合対策課・男女共同参画課、豊島区居住支援協議会 事務局 東京都、京都府 事業の特徴 官民NPO連携による空き家活用でセーフティネット形成の多様化を図りコミュニティ 再生する ①新たな社会的住宅の創出×運営の試み~13 の事例紹介(冊子+HP) ②『居住支援』と地域福祉との連携体制の提案 ③CH 居住者アンケート調査分析による CH の可能性の考察と公的空き家活用での CH 実現の提案(HPにて公開) 成果の公表先 ①冊子:連携団体及びその関係者を始め、希望者に配布(郵送) ②HP:http://www.chc.or.jp/ 冊子(PDF)及びアンケート調査分析結果 1.事業の背景と目的 これからどのような居住環境を創るべきかを再考したとき、今後想定される問題は、単に空き家 問題にとどまらず、人口減少、少子高齢化、家族の変容、一人世帯の増加、人と人の関係性の希薄 化、コミュニティの崩壊など、様々な課題が複合的・重層的になると予測され、今回の事業背景と なっている。 空き家は、ハードとしての建物の利活用や相続対策などの域を超え、困難な社会現象と重なる。 空き家は、活かせる建物から、地域の負荷となって活用できない建物、また過疎地域をどのように すべきかという課題までも含んでいる。 今回の研究目的は、都市部の地域の住環境や住ま いはどうあるべきかを基本に置き、活かす空き家活 用を検討する。特に多様な人が暮らす地域コミュニ ティの再生と安心快適な住環境づくり、及びその持 続可能性を視野に入れ考察する。 具体的には、1.セーフティネット形成を図る多 様な住まいの事例研究を行い、その安定化を図るた めに、官民 NPO で連携・協働・役割分担のあり方を 見いだす。2.空き家活用によるハード供給と、暮 らし方のイノベーションいわばソフトの仕組みを両 輪にしたコレクティブハウジングの活用を提案する。 ここでは、官民 NPO 連携によりセーフティネット 形成を目指す住まいを「新たな社会的住宅」と呼称 することとする。 2.事業の内容 (1)事業の概要と手順 今回の研究では、都市部における空き家活用として、居住の社会的課題に対応した「新たな社 会的住宅」を提案し、その実現の方法としてa,b2つの仮説を立て、その可能性と課題につい 図 1 官民 NPO 連携による住まいの セーフティネット形成の多様化を図る枠組提案

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1

事 業 名 称 官民NPO協働の空き家活用でセ-フティネット形成の多様化を図る

事業主体 名 特定非営利活動法人コレクティブハウジング社

連 携 先 京都府 こども総合対策課・男女共同参画課、豊島区居住支援協議会 事務局

対 象 地 域 東京都、京都府

事業の特 徴 官民NPO連携による空き家活用でセーフティネット形成の多様化を図りコミュニティ

再生する

成 果

①新たな社会的住宅の創出×運営の試み~13の事例紹介(冊子+HP)

②『居住支援』と地域福祉との連携体制の提案

③CH居住者アンケート調査分析による CHの可能性の考察と公的空き家活用での

CH実現の提案(HPにて公開)

成果の公表先 ①冊子:連携団体及びその関係者を始め、希望者に配布(郵送)

②HP:http://www.chc.or.jp/ 冊子(PDF)及びアンケート調査分析結果

1.事業の背景と目的

これからどのような居住環境を創るべきかを再考したとき、今後想定される問題は、単に空き家

問題にとどまらず、人口減少、少子高齢化、家族の変容、一人世帯の増加、人と人の関係性の希薄

化、コミュニティの崩壊など、様々な課題が複合的・重層的になると予測され、今回の事業背景と

なっている。

空き家は、ハードとしての建物の利活用や相続対策などの域を超え、困難な社会現象と重なる。

空き家は、活かせる建物から、地域の負荷となって活用できない建物、また過疎地域をどのように

すべきかという課題までも含んでいる。

今回の研究目的は、都市部の地域の住環境や住ま

いはどうあるべきかを基本に置き、活かす空き家活

用を検討する。特に多様な人が暮らす地域コミュニ

ティの再生と安心快適な住環境づくり、及びその持

続可能性を視野に入れ考察する。

具体的には、1.セーフティネット形成を図る多

様な住まいの事例研究を行い、その安定化を図るた

めに、官民 NPO で連携・協働・役割分担のあり方を

見いだす。2.空き家活用によるハード供給と、暮

らし方のイノベーションいわばソフトの仕組みを両

輪にしたコレクティブハウジングの活用を提案する。

ここでは、官民 NPO連携によりセーフティネット

形成を目指す住まいを「新たな社会的住宅」と呼称

することとする。

2.事業の内容

(1)事業の概要と手順

今回の研究では、都市部における空き家活用として、居住の社会的課題に対応した「新たな社

会的住宅」を提案し、その実現の方法としてa,b2つの仮説を立て、その可能性と課題につい

図 1 官民 NPO 連携による住まいの セーフティネット形成の多様化を図る枠組提案

2

て検討した。(図1参照)

方法a.民間NPO主導の事業に、公的支援をするハウジング

方法b.官民NPO協働で事業を行うハウジング

検討方法としては、下記の1)『居住支援』の観

点から見た空き家活用、2)住まい手のセーフテ

ィネットを築く空き家活用 の2つの切り口か

ら、先見事例を取り上げ、分析や考察を行った。

それぞれの調査研究に必要な専門家と協働し、

調査内容、分析、検討、考察等を行った。事業推

進体制は右の通り。

1)『居住支援』の観点から見た空き家活用

① NPO等の多様な支援による住まいのセーフティネット形成

13の事例をヒアリングし、住まいの多様なセーフティネット形成を図る空き家活用の可能

性と持続的に運営されるための条件について考察した。

②「居住支援」の実態と「居住支援」を支える仕組みの提案

地域の福祉の現場は、非常に多くの悩みを抱えている。豊島区居住支援協議会の活動の中

で行ったモデル地域の福祉の現場で居住支援の実態調査をまとめ、福祉と居住支援の連携の

ための仕組みの提案を行った。

2)住まい手のセーフティネットを築く空き家活用

①コレクティブハウスの可能性の提案

ⅰ)暮らしに関するセミナーとグループ討議ⅱ)コレクティブハウスの居住者を対象とし

たアンケート調査を行い、コミュニティ再生力を持っているコレクティブハウスの可能性に

ついて提案する。

② 公的空き家等活用によるコレクティブハウスの実現

京都府及び東京都における公的建物の活用の可能性の検討とともに、民間主導で公的支援

を伴う事例、官民協働による事例から、可能性と実現の課題についてまとめた。

8 9 10 11 12 1 2 3 月

1)「居住支援」の観点から見た空き家活用

①多様なセーフティネット形成事例調査

②「居住支援」の実態と仕組み提案

2)住まい手のセーフティネットを築く空き家活用

①CHアンケート調査分析

②公的空き家活用によるCH実現

事業推進体制

■CHCプロジェクトメンバー

狩野三枝、宮前眞理子、矢田浩明、渡邉喜代美、

宮本諭、大橋徹平

■冊子編集デザイン

有限会社プランB 岩渕妃才代

■調査設計協力 稲見直子、高桜善信

■調査分析協力 並木恵祐((合)INs ソリューションズ)

■アンケート集計 新谷理恵

表1 事業の実施工程

執筆・編集・印刷

(豊島区居住支援協議会での調査) まとめ

京都府との共同研究

関東圏ヒアリング

まとめ

調査票作成 データ入力・集計 分析・加工

取材先選定 13 ヶ所取材

アンケート設計 回答・回答内容確認 結果の解釈とまとめ

3

(2)事業の取組詳細

1)『居住支援』の観点から見た空き家活用

① NPO 等の多様な支援による住まいのセーフティネット形成

NPO等が支援を行っているセーフ

ティネット形成に資する住まいの先見事

例を紹介する。事例は小冊子にまとめた。

事例は、居住対象者、居住支援の内容、

住まい方、住居形態、事業者・運営者、

事業・運営方法のバリエーションを一定

網羅するよう選定した。

選定した事例の建物規模と立地から見

た分布も、図2のように、広がりを持っ

たものとなっている。

以下、事例の概要を居住対象者別に記す。

ⅰ)ひとり親世帯(3事例)

ひとり親世帯を対象としたシェアハウスの事例。シングルマザーのみのハウスと、

単身者用居室とが混在するハウスがある。

ひとり親世帯への支援としては、低所得などの困難があるシングルマザーを対象に、

生活・仕事・住宅といった暮らし全般を支援している事例と、高所得層のシングルマ

ザー向け住まいとして、子育てに関する支援の仕組みを最低限確保し、自立できるま

での準備期間に短期間居住する住まいとして提供している事例を取り上げた。

事例名称等 場所 居住対象者 住居形態 事業者/運営者

(建物所有者)

ペアレンティングホーム 関東圏 シングルマザー シェアハウス 一般社団法人

スタイリオウィズ代官山 渋谷区 シングルマザー・単身者 シェアハウス 企業

(自治体)

NPO法人リトルワンズ 東京都内 シングルマザー シェアハウス他 NPO法人

ⅱ)低所得者向け居住支援(2事例)

ホームレスを対象に、一定期間個室シェルターを提供し、生活保護を受け住まいを

確保する支援を行い、自立後の地域での暮らしが孤立しないようにつながりを持った

り仕事を得られる場づくりを行っている事例と、高齢期や収入が不安定な女性中心の

シェルターとしてシェアハウスを運営している事例を取り上げた。

■取材協力

一般社団法人ペアレンティングホーム、東急ライフィア株式会社、NPO法人リトルワンズ、奥山たえこ、

一般社団法人つくろい東京ファンド、NPO法人 COCO 湘南、株式会社コミュニティネット、もちよる暮らし舎、

一般社団法人日本土地資源協会、NPO法人ハートウォーミングハウス、ホームシェア・シモキタ オーナー、

京都府建設交通部住宅課、社会福祉法人つくりっこの家

図2 建物規模と立地から見た 13事例の分布

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事例名称等 場所 居住対象者 住居形態 事業者/運営者

(建物所有者)

つくろいハウス 東京都中野区 ホームレス 個室シェルター 一般社団法人

(個人)

柏あさひハウス 千葉県柏市 女性 シェアハウス 個人

ⅲ)高齢者(3事例)

高齢者のセーフティネットを備えた暮らしとして、高齢者グループリビング及び団

地の空き住戸を活用したサービス付き高齢者住宅を取り上げた。その他、地域に開く

場を持つことで高齢期の暮らしをオーナー共々支え合い、持続的な事業としての仕組

みを持つ事例を取り上げた。

事例名称等 場所 居住対象者 住居形態 事業者/運営者

(建物所有者)

COCO湘南台 神奈川県藤沢市 高齢者 グループリビング NPO法人

ゆいま~る 東京都・名古屋市 高齢者 共同住宅 企業

(UR、住宅供給公社)

笑恵館 東京都世田谷区 オーナー

賃貸居住者 住み開き空間+アパート

一般社団法人

(所有権賃貸)

ⅳ)ホームシェア(2事例)

高齢者の空き部屋を活用し、学生などの若者に安価な住まいを提供する住まい方と

して、ホームシェアを取り上げた。この形態は、マッチングと居住後の支援の内容は

事例ごとに様々であるが、当事者の関係性の中でお互いの助け合いが起こる可能性を

もつ住まい方である。空き家予防・空き家活用へのスムーズな移行、地域活性化の可

能性を持つものでもある。

事例名称等 場所 居住対象者 住居形態 事業者/運営者

(建物所有者)

ホームシェア・シモキタ 東京都世田谷区 若年女性 シェアハウス(1階)

オーナー住居(2階)

個人オーナー/

NPO法人

京都ソリデール 京都府 学生 他 オーナー宅の間貸し

個人オーナー/

※マッチングの仕組

みづくり:京都府

ⅴ)多世代コミュニティ(3事例)

コレクティブハウス、タウンコレクティブ、コミュニティハウスなど、居住者が自

分たちのやり方で暮らせる自由と運営の責任を負い、コミュニティでの助け合いがで

きる暮らしを取り上げた。

事例名称等 場所 居住対象者 住居形態 事業者/運営者

(建物所有者)

コレクティブハウス 東京都内 多世代 コレクティブハウス 個人・企業等/NPO 法

人・居住者組合

タウンコレクティブ 東京都内 多世代の単身者 シェアハウス 個人/NPO法人・居住

者組合

5

ウェル洋光台 神奈川県横浜市 多世代 シェアハウス 個人

ⅵ)障がい者(1事例(CH に含む))

障がい者グループホームがコレクティブハウスの中に組み込まれることで、施設で

はなく住まいとして隣人との助け合いの中で暮らす事例となっている。健常者と障が

い者の共同認識も高め、相互理解が育つ環境ともいえる事例である。

事例名称等 場所 居住対象者 住居形態 事業者/運営者

(建物所有者)

みなとや 東京都練馬区 多世代 グループホーム

(コレクティブハウスに内蔵)

企業/社会福祉法人

(企業)

② 「居住支援」の実態と「居住支援」を支える仕組みの提案

福祉との連携による居住支援のあり方を提案するために、豊島区内のモデル地域にお

いて、福祉現場の専門家等(CSW(社協)、高齢者総合相談センター、民生委員・児童

民生委員)の業務を通して、住宅確保要配慮者に対する居住支援の実態を探った。

具体的には、福祉の現場の専門家等が今まで対応した主な事例についてヒアリング

を行うとともに、新たに発生した居住に関する相談事例とその対応についてその都度

情報提供をしてもらった。

事例を通して、福祉の現場での対応の中で住宅に関する専門的支援が必要になる場

面や状況、専門的支援を受けたい内容やそれに対しての有効な方法などについて福祉

現場の専門家と意見交換を行った。

2)住まい手のセーフティネットを築く空き家活用

多様な住まい手のセーフティネット形成を空き家活用により築くことを検討するにあたり、

地域社会のコミュニティの共助・互助関係を再生することが、公助のみに依存しない安心安全

を生み、さらにコミュニティの持続性につながると考え、そのための一つの具体的方法として、

コレクティブハウスの活用をしていくことの有効性を居住者アンケート等から明らかにし、官

民 NPO及び住まい手の協働による実現の可能性を検討し、提案する。

① コレクティブハウスの可能性の提案

多様な人がお互いを支援し合う暮らしについてコレクティブハウスに住んでいる人やCH

の推進者・CHC会員などがどのように考えているかを調査することで,コレクティブハウス

の可能性を明らかにし、地域社会で失われつつあるコミュニティの共助、互助関係を再生して

いくことを提案したい。そのためにi)セミナーとグループ討議、ⅱ)コレクティブハウス居

住者アンケートをおこなった。

<コレクティブハウスとは>

ここで、コレクティブハウスについて簡単に解説しておく。

コレクティブハウスとは、多世代、多様な居住者が賃貸で暮らす集合住宅である。住まいの

特徴としては、個々の独立した住戸の他にコモンルームという共用の空間をもつ。暮らしの特

徴としては、居住者が居住者組合をつくり 集合住宅全体を自主運営・自主管理することで、

6

ちょっとした支え合いや助け合いなどを可能にするつながりを生むコミュニティを育む仕組

みをもつ。具体的には、居住者が自主運営の話し合いなどをする毎月1回の居住者組合定例会、

日常の食事づくりを共同化するコモンミール、コレクティブハウスの暮らしを支える多様な活

動グループなどの仕組みがある。

現在、CHCが支援してつくったコレクティブハウスが東京に4つ、群馬県前橋市に公社住

宅として1つあり、これら5つのハウスで100名余の多世代の居住者が暮らしている。

<アンケート回答・協力>

コレクティブハウスかんかん森居住者組合 森の風、

コレクティブハウス巣鴨居住者組合 スガモンズ、コレクティブハウス聖蹟居住者組合、

コレクティブハウス大泉学園居住者組合、コレクティブハウス元総社コモンズ居住者組合

i)暮らしに関するセミナーとグループ討議

『あなたにとって豊かな暮らしとは?』をテーマにコレクティブハウジングに関心を持

つ多世代の参加者50名を募集した。

セミナーの参加者募集方法は CHC会員だけでなく、今まで CHCのセミナーやイベント、講

座などに参加した人、CH 事業や NPOの支援者などを中心に直接参加募集のメールを送り、後

は HPで参加を呼びかけた。

プログラムはコレクティブハウスについての短いセミナー+ワールドカフェ方式のグル

ープ討議を行い、各自がこれからの自分の暮らしをどう想定するか、話し合いを行った。

日時 :2018年 11月5日(日)

会場 :豊島区目白第一区民集会室

参加者:30代から80代まで35名

ⅱ)コレクティブハウス居住者アンケート

コレクティブハウス居住者アンケートは自主運営型コレクティブハウス 5ヶ所の居住者9

2名へのアンケート調査をおこない分析した。

また、京都府は少子化を打開するという視点から、コレクティブハウスを血縁によらず子

育てや家事を居住者が共助しあう仕組みを持つ住まいとしてとらえ、ハウスの子育て世帯に

アンケートを行った。

ⅱ- 1) コレクティブハウス居住者アンケート 1

配 布 数 92 (5ハウス合計)/ 回収数 61 回収率 66.3%

<5ハウスの内訳>

・CHCが立上げから現在まで支援しているハウス 3箇所

・CHCが立上げ・初期支援の後、現在支援していないハウス 1箇所

・CHCが立上げ・初期支援の後、群馬県住宅供給公社が支援しているハウス 1箇所

実施期間 2018年10月1~10月30日

質問項目 40問

a.被検者属性に関する項目 10 問(年齢、性別、未婚既婚、家族構成、就業形態、

勤務時間、通勤時間、年収、居住年数)

b.入居動機など入居の経緯に関する項目 6問

c.入居後の暮らしの満足度など暮らしの変化についての項目 12 問

7

d.コレクティブハウスの集団生活やコミュニティ運営の項目 8 問

e.コレクティブハウスの可能性についての項目 4問

コレクティブハウスでの暮らしが、どのような居住者の生活を可能にし、どのような

課題や難しさも持っているのか、コミュニティのある暮らしの特徴をできるだけ引きだ

せるような内容ということで、アンケート項目作成に関しては「社会学・社会調査の専

門家でコレクティブハウジングに長年携わっている研究者」と「社会学・マーケティン

グの専門家」の2名にアンケート設計を相談し作成した。

<調査設計協力者>

稲見 直子 日本学術振興会 特別研究員 RPD

高桜よしのぶ 大阪大学大学院人間科学研究科博士後期課程単位取得退学。現在、欧州や日本など

の研究者と IT化に関する共同研究のほか、社会学の学術文献の翻訳業務など遂行中

アンケート依頼と主旨に関しては、CHCが直接コーディネートをしているスガモフラ

ット、CH聖蹟、CH大泉学園については、各コーディネーターが居住者及び居住者組合

に説明をして、配布は郵送で行った。CHかんかん森と元総社コモンズについては、メー

ルで居住者組合の担当者にアンケート依頼し、居住者組合の定例会などで周知してもら

い、配付は郵送で行った。

配布回収に関しては被験者の希望に即して、郵送とコンピュータによるデータでの送

付回収の2通りの回収方法をとった。

また、アンケートの集計、解析に関しても「統計解析の専門家」の指摘をうけつつ、

曖昧な回答は被験者にはヒアリングを行う事で精度を高め、偏りのない解析を行えるよ

うに努めた。

ⅱ- 2) コレクティブハウス居住者アンケート2(京都府)

京都府によるアンケートは少子化対策や女性の社会進出の支援として、コレクティブハ

ウスが子育て世帯の家事労働の軽減や共助による安心安全な暮らしの構築、地域社会とも

連携してつながりを造り得るかなどを調査する目的でスガモフラット、CH 聖蹟の2つハウ

スに居住する子育て世帯に調査を行ったものである。

配 布 数 17 /回収数 16 回収率 94%

実施期間 8月15日〜25日

質問項目 34問

a. 被検者属性に関する項目 10問(年齢、性別、未婚既婚、家族構成、就業形態、

通勤時間、勤務時間、年収、賃料、居住年数)

b.入居動機など入居の経緯に関する項目 3問

c.入居後の暮らしの満足度など暮らしの変化についての項目 4問

d.コレクティブハウスの集団生活やコミュニティ運営の項目 6問

e. コレクティブハウスの子育環境、家事分担に関する項目 11問

配布回収は被験者の希望に応じたが、全員がデータによる配付、回収を選択した。

② 公的空き家等活用によるコレクティブハウスの実現

コレクティブハウスの実現のために、京都府では公営住宅や公的空き家等について、東京都

8

では条例住宅に着目して住宅部門にヒアリングを行い、公共及び公的に立てられた建物の空き

家・空き室の活用を検討した。

更に、公的空き家の活用事例のヒアリングを行い、公的な空き建物や、空き住戸が散在する

ようなマンションなどを活用する方法として先見事例からその特徴と課題をまとめた。

検討の目的:コミュニティを重視しつつ多様な人の暮らしの場をつくることを、新たな社

会的住宅という視点で検討したいと考えた。特に公的住宅は、その本来の使命

からも社会的な資産としての活用があると考え、実現のための問題や課題を探

った、

検討の対象:公営住宅、都民住宅、公的施設、雇用促進住宅

検討の内容:活用の可能性と、課題についてヒアリング、先見事例からの情報収集

ⅰ)公的空き家活用の検討

ⅰ-1)公営住宅の場合

公営住宅は地方都市では空き住戸が目立つ。一方、東京などの大都市圏では一杯で待

機がでているものもあり、立地環境により地域格差が大きい。また入居には所得制限が

あるためそれが活用の幅を狭めている側面もある。

京都府では、空き府営住宅を活用して『京都版コレクティブハウス』の開設を検討し

た。京都府の公営住宅は非常に入居率が高く、特定優良賃貸住宅を「準公営住宅」に転

換して数を増やしているほどである。従って公営住宅は空室があっても郡部に位置する

ものだけで、子育て期の家族の支援にそぐう立地ではなく、活用が難しかった。

さらに、ハウス運営を分担し合うために一定以上の大人の人数の確保、これらの住民

全員が同時に利用できる広さのコモンルームの確保、こどもの移動時の安全の観点から、

同一建物内でのコモンルームの設置などの要件を満たす整備が必要となる。だが現在の

府営住宅では空き住戸が点在しており、連続した空き部屋がないことからも活用が困難

であった。

また、府営住宅の建て替え時期が数年後に予定されているため、現時点での改修も難

しかった。今後の可能性としては、商店街活性化、地域活性化と合わせたコミュニティ

再生としてのコレクティブハウスの実現が考えられる。

先見事例として、京都市内の「堀川団地」のように、商店が1階にある併存建物で商

店街の活性化と合わせた形で子育て家族やアーティスト向けに住まいを再生させる先

行プロジェクトなどがある。

コレクティブハウスがこうしたプロジェクトで実現される可能性は大いにあると思

われる。

■ヒアリング協力 京都府 健康福祉部 こども総合対策課・男女共同参画課

建設交通部 住宅課

豊島区居住支援協議会 事務局

東京都 都市整備局 住宅政策部 民間住宅課 都民住宅管理担当

都営住宅経営部 経営企画課

群馬県住宅供給公社 事業部

(株)コミュニティネット、ゆいま〜る高島平、ゆいま〜る大曽根

9

ⅰ-2)公的住宅等の場合

京都府では公営住宅の他に、公的な資産として所有しているが活用していない建物も

あり、その活用も検討した結果、公的資産の活用に関しては公平性の担保、職員住宅は

福利厚生などにかかわる課題があるなど、現時点ではハードルが高かった。

ⅰ-3)都民住宅(条例住宅)の場合

都民住宅は、国と東京都から入居者の家賃負担を軽減するために建設費と家賃の一部

補助が行われている住宅である。東京都は、都内の住宅が高騰し、東京都の隣接県に住

居を求めて人口が流出したバブル期に都民住宅(特定優良賃貸住宅)をつくり、中堅所

得者層向けの良質の住まい供給としての施策をとった。

都民住宅の供給方式は表2のように4通りある。都民住宅は20年経過後、借り上げ

や家賃補助が終了し、都施工型都民住宅以外は、一般の賃貸住宅になる。現在、20年

を迎えた建物が返還されはじめている。目的を持った施策として供給された都民住宅が、

社会情勢の変化の中でセーフティネット形成に寄与する住宅に転用されることが望ま

しい。しかし、20年を終えた都民住宅が新たに社会的な課題を解決するために活用さ

れるための橋渡しの制度がなく、その多くが民間企業の営利目的の賃貸住宅として活用

されている。また、都施工型都民住宅は、都の所有であるため、20年経過後も同様の

運営が続けられる予定である。ちなみに、現時点では、新たな住宅セーフティネット制

度の登録住宅とする方針はないとのことであるが、コレクティブハウスとして、コミュ

ニティを持つような住まい方を活用する可能性は十分あるとおもわれる。

表2 都民住宅の型別管理戸数(平成 29年 3月 31日時点)(出典:東京都 HP)

種別 概要 家賃補助

(原則管理期間) 団地数 (戸数)

東京都施行型 東京都が、自ら建設するもの。 あり 66 団地

(3,875 戸)

公社施行型 東京都住宅供給公社が建設し、管理するもの。 あり 43 団地

(6,613 戸)

公社借上型 民間の土地所有者が建設した建物を、東京都住宅供給公社が 20 年間借り上げるもの。

あり(20 年間) 85 団地

(3,054 戸)

法人管理型 民間の土地所有者が建設した建物を、東京都の指定した民間の管理会社(指定法人)が管理するもの。

あり(20 年間) 406 団地

(7,904 戸)

ⅰ-4)雇用促進住宅の場合

全国にある雇用促進住宅は 安く売りに出されており、すでに、新たなセーフティ

ネットの住宅として、活用されているものもある。今後、コレクティブハウスとして

活かせる可能性があると思われる。

ⅱ)公的空き家活用の仕組みの事例調査

集合住宅の空き家は1棟丸ごと空いているもの、虫食い状に空き住戸があるものなど2通

りが想定される。ここではまだ事例が非常に少ない集合住宅の虫食い状の空き住戸を活用し

た(株)コミュニティネットの「ゆいま~る高島平」、「ゆいま~る大曽根」の事例をヒアリ

10

ング調査しその仕組みを調査した。

また、空き家活用ではないが『参考事例』として、元総多機能社公社賃貸住宅(群馬県住

宅供給公社)の中に作られ、NPOコレクティブハウシング社(CHC)がコーディネートした

コレクティブハウス元総社コモンズの仕組みと課題を紹介する。

ⅱ-1)ゆいま~る高島平(東京)、ゆいま~る大曽根(名古屋)((株)コミュニティネット)

株式会社コミュニティネットは、日本で初めてURや住宅供給公社の分散型空き住戸

をサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)に転用しており、集合住宅の分散型空き住戸

活用の先見事例である。

○ ゆいま~る高島平

築40年のURの既存団地に点在する空き住戸をサービス付き高齢者向け住宅とし

て活用し、店舗の一つを改修してスタッフの常駐フロントを整備した事業。

分散型として初の試み。2014年 30戸でスタートした。

1室の改修費補助 450 万円を、国・都・URが1/3ずつ出している。50戸をまで

増やす予定。(現在 42 戸がサ高住)。分散型の住戸1戸1戸をサ高住として認めてもら

うのに1年半くらいかかった。

団地内で普通に横のつながりをつくって暮らすという前提で居住者は自治会へ入会、

それぞれが独立して暮らす自由度の高さが分散型の魅力となっている。

○ ゆいま~る大曽根

築45年の愛知県住宅供給公社「大曽根併存住宅」の空き住戸を定期建物賃貸借契約に

より長期に(20年間以上)賃貸し、「サ高住」として活用。2017年10月オープン。

富裕層のためでなく、安くて安心できる高齢期の暮らしの場として、第1期40戸、第2

期30戸の計70戸を活用し、生活支援サービスを提供。

この団地は高齢化し空室が増え、スーパーも撤退していたため、その空き店舗も借り上

げ、地域のコミュ二ティ拠点を整備。サポート付きで自立的に暮らす高齢者の住まいで

あるが、高齢化している団地にさらに高齢者が入居する企画に自治会からも不安の声

があった。そこで、既存居住者のサポートも含めて、コミュニティ拠点をケアシステ

ムの拠点かつ多世代が楽しめるまちづくりの拠点として整備し、地域のNPOや地域

住民などが運営に参加する仕組みをつくり、多様な連携を進めている。

〇(参考事例)元総社多機能公社賃貸住宅(群馬県住宅供給公社)

この事業は空き家活用ではなく新

築されたものであるが、多機能住宅と

いうコンセプトによって計画された。

多機能な要素の中のつながりを作るに

はどのような仕組みが必要であったか

を紹介する。

元総社多機能公社賃貸住宅は群馬

県住宅供給公社による日本で初めての

一般向け公的賃貸として“コレクティ

ブハウス元総社コモンズ“を内蔵して図3 元総社多機能型公社賃貸住宅の構成

11

いる。2013 年 6月にオープンした。2、3階にサービス付き高齢者向け住宅 60戸、

1階にはデイサービスと保育園とコレクティブハウス 12戸。

敷地内には畑もあり、隣地には県営住宅も立地している。多機能住宅は、高齢者の

安心な暮らしだけでなく、コレクティブハウスを併設することで、多世代、多様な人

が助け合って暮らすコミュニティの構築を目指し、広く地域や社会福祉に貢献するこ

とを目的としている。

<自主運営型コレクティブハウスを実現するための仕組みの工夫>

○入居者募集の工夫

a.地元でCHを知ってもらうための公社による説明会やセミナーを実施する。

b.公的住宅ならではの、公募の原則を広く捉えて、事前の誰でも参加できる説明

会を随時開催し、コレクティブハウスに興味のある人はコレクティブハウスの

「居住者の会」準備会に登録してもらう。

c.事前からCHCが第三者という立場でコーディネートする。登録した会員は、暮ら

しのルールづくりやコミュニティの運営の話し合い(ワークショップ)に定期的に

参加。

d. 公募の際には説明会に参加して準備会の会員となっていることを応募の条件とする。

○入居後の自主運営支援の工夫

a.入居後に居住者は居住者組合を結成し自主運営を開始。

b.CHCは第三者として、居住者組合が円滑に自主運営をしていけるように、定例会

の開催の支援、新しい入居者への暮らしの説明、様々な話し合いのためのワークシ

ョップなどを行い、コミュニティとして自主運営が円滑に行える支援をする。

(3)成果

1)『居住支援』の観点から見た空き家活用

① NPO 等の多様な支援による住まいのセーフティネット形成

NPO等の居住支援は実に多様であり、取り上げた 13事例はその一部に過ぎない。しかし、

一つ一つの事例は実にその分野において示唆に富んだ事業・活動となっている。

ⅰ)事例紹介冊子のページの概要

今回、事例を基礎情報として下記の様に小冊子「新た

な社会的住宅の創出×運営の試み~事例紹介」にまとめ

た。13 事例は既に様々なメディアで紹介されているが、

ここでは、セーフティネット形成の視点を持って空き家

を活用する参考となるよう、分かりやすい読み物として

まとめることを心がけた。

12

ⅱ)対象者別の居住支援の特徴と運営の持続性

対象者別に居住支援の方法は大きく異なる。住まいのセーフティネットを持続的にして

いくためには、より効果的な公的支援を行う必要がある。そのためには、居住支援を行う

NPO等への公的支援の内容や制度を現場に

即したものにしていく必要がある。

○一定期間安心して子育てできる環境づくり

ひとり親世帯のシェア居住は、家賃の低

廉化に加え、同じ立場の者同士の助け合い

や、集まって暮らすことで子育て支援サー

ビスを提供しやすいという利点があり、短

期間居住する場として評価できる。

ひとり親の住まい探しは、子どもの保育

園との兼ね合いで立地やタイミングに大き

く縛られる。そのため、なるべく便利な場

所に住み、仕事と子育てを両立させる必要

がある。

ある程度の所得層のひとり親は、短期間

で自立していく傾向にあり、低所得など

外観写真

注目すべき点をタイトル化

し、短い文章で事例の特徴

を記載

建物概要または団体概要

屋内写真などの画像情報

本文: 事業の経緯・建物の状況・事業の特徴・

事業の現状・今後の課題や展望など

平面図または仕組み図

図4 住まいのセーフティネット形成事業領域

13

の困難があるひとり親には、住まいだけでなく、生活面や仕事面の支援をし、でき

るだけ早期の自立を目指すことが必要と思われる。

○安易なシェアの危険性

ホームレスは軽度の知的障害や精神障害のある人が多いことが近年の調査で分かっ

てきた。賃貸住宅を借りるまでの一時的な入所施設としてシェルターがあるが、行政か

ら紹介される民間の宿泊所は、人とのコミュニケーションが苦手で集団生活ができない

ためにホームレスになった人にとっては安心できる場とならない。

シェアであっても独立性の高い個室を確保することが必要である。また個々の頑張り

だけでは持続的な事業・支援はできないため、NPO等支援事業者への公的支援が欠か

せない。(図4の②の領域)

○高齢者の生活支援(ケア)と住居を分けて考える

生活のケアを住居に組み込んだ途端に、施設となり融通が利かない運営になっていく。

ゆいま~るはケアと住居を分離することによって自由度のある高齢者の低廉な住まいを

供給しており、幅広いニーズに対応できるモデルとなっている。

さらに、ケアのあり方として、医療機関やNPO等との連携により、地域ぐるみの助

け合いのできる人間関係づくりにも寄与し、地域での持続的な支援に展開していける可

能性をもつと考えられる。

○高齢者グループリビングの理想と現実

高齢者グループリビングは一般的に知られていない住まい方のため、事業の成功は立

地や事業者の知名度に大きな影響を受ける。基本的に居住者の自立や意志を尊重する暮

らしのため、高齢者施設と違って介護サービス等は外部からの在宅支援を受けることに

なる。そのため、本人の希望とは別に子世代が入居を反対するケースも少なくない。

グループリビングは居住者が10人ほどの規模のものが多く、地域の人との交流など、

風通しの良い人間関係を育む運営の工夫をすることは、高齢者の健康にとっても良いと

考えられ、暮らしの質を保った持続的運営のためには重要な要素と考えられる。

また、今回の事例ではないが、高齢者だけの暮らしに福祉を学ぶ学生を住まわせるな

ど、暮らしに活力をもたらす運営の工夫も参考となる。

○土地建物の”所有”を事業として引き継ぐ工夫

所有権賃貸という新たな方式で、地域の財産として土地建物を引き継ぐ方法を、空き

家空き室を活用して事業化している事例では、地方に住む子世代が土地でなく『事業』

を引き継ぐことにつながっており、今後、地域資源として住宅を活用し続ける持続的仕

組みとして注目したい。

○ホームシェアは広報・マッチング・アフターケアが大切

ホームシェアは、家主が自分のライフスタイルとして、若い世代を応援しながら暮ら

していく意志を基盤に成り立つ住まい方である。そのため、家主の意思を尊重しつつ、

借り手の自由な暮らしとのバランスをとるために、第三者によるコーディネートが重要

な役割を持つ。

多くの新しい住まい方同様、まだ一般的に認知されていないため、広報やマッチング

14

の仕組みづくりを行政が支援している京都府の事例が、他地域にも広がることを期待し

たい。事業規模が小さい割にコーディネートの手間・暇・スキルが必要であるため、持

続的運営のためには行政の支援が必要な事業と考えられる。しかし、高齢期の家主がま

だ自立的に暮らしている時期から、他人とほどよい距離で暮らすことは、空き家予防、

住宅地でのセーフティネット形成において十分行政が支援するに値する効果があると

考える。

○多世代居住はコミュニティ運営の支援で

多世代居住は、それを望む居住者が暮らすことが第一である。多世代で暮らす事は、

家族も単身者も共に暮らすことになるため、老い、子どもの育ち、親としての振るまい、

働き方、子どもと大人の暮らしの両立など、暮らし全般に渡る様々な調整を居住者同士

で行うからこそ、日々変化する状況に対応できる。

家族の変容に対して、他人とのつながりや助け合いで安心・快適な暮らしを持続的に

するオルタナティブなセーフティネット形成をハウジングに組み込むことで、問題解決

能力を持つ居住者・コミュニティが育ち、様々な波及効果をもたらすと考える。

当事者による柔軟な運営を担保する持続的な事業運営には、それを理解する事業主と

第三者によるコーディネートが必要である。助け合いを可能にするコミュニティの構成

人数をが住める規模の建物も必要である。その点を官民NPOの連携・協働・役割分担

によって支える仕組みが必要である。

○障がい者も地域で共に暮らす

みなとやの事例は、コレクティブハウスという小さな「地域」の中に、障害のあるな

しにかかわらず気心知れた仲間として暮らすことで助け合いの関係を生みだし、セーフ

ティネット形成を図る住まいとして、今後、大きな可能性を持つものと考える。

みなとやを特殊事例として捉えるのでなく、障害者施設という選択肢のオルタナ

ティブとして捉え、日常の暮らしの一部を共有できる場・コト・モノを生み出し地

域の中で共に生きる形として空き家活用できるよう、第三者によるコーディネート

が大切となるモデルである。

② 「居住支援」の実態と「居住支援」を支える仕組みの提案

モデル地域での居住支援事例を見ると、住まい・暮らしについて支援を必要とする当事者

は一人暮らしの高齢者ばかりではなく、家族自体に支援が必要となる場合も多く、課題が複

雑でかつ、行政、一般住宅市場の縦割りの対

応では、当事者の意志を尊重した居住支援を

行う事は難しいことが分かった。

例えば、図5の事例では、支援があれば家

族で一般の賃貸住宅に住めると考えられ当事

者もそれを望んでいる場合でも、行政の対応

では、制度に合わせて個々人で施設に入る対

応にならざるを得ない。

更に、問題が表面化する時には、かなり緊

急度が高い状況であることも多く、居住支援図5 居住支援に対する考え方と具体的対応

15

の仕組みが整っていない現状では、結果的に現場の支援者が不動産事業者を数十件も周り、

住まいを探す事態となっている。

表3 相談事例と対応(例)

支援対象者 状況 相談経路 具体的対応や課題

親(70 代)

緑内障による視覚障がい

子(40 代)統合失調症

大家の代替わりにより

契約終了、住宅の清掃

業務解雇。近隣とのトラ

ブルあり。

大家・管理人・近

隣→高齢者総合

相談センター→

民生委員・CSW

介護保険、生活保護受給手続

き 支 援 → 一 時 施 設 ・ 通 院

→CSW と民生委員で賃貸探し、

地元不動産業者の協力で元の

地域に居住継続。

外国籍の親(40 代)

子(10 代)中学生

母親がアルコール依存

症。数日帰ってこず、口

論の末に、子に暴行し

拘留。

東京地検→CSW 地域に戻るためにアルコール依

存症の通院、生活保護受給手

続きを支援。賃貸を探しても外

国人・シングルマザーで困難。

親(20~30 代)

子(幼児)

夫と離婚したいが、区

内で暮らしたい。

NPO を通じて(子

ども食堂にて)

CSW に相談

区営住宅を希望していたため、

行政窓口につないだ。入居でき

たかどうかは分からない。

被災者(60 代)

被災後離婚し東京に避

難。区が補助する民間

賃貸の退居期限が迫

る。

区から委託→社

協の被災者訪問

で相談受ける

公営住宅は望んでも狭き門で、

民間の賃貸アパートを自分で探

し入居した。

一人暮らし(40 代)

軽度知的障がい

同居の両親が他界後、

親族のマンションのた

め賃料上がりトラブル。

大家(親族 )→

CSW

引っ越し先が見つかり、地域で

暮らしているため緩やかに見守

っている。

一人暮らし高齢者(80 代) 2 階のアパート暮らし

で、1 階に下りることが

困難になった。

高齢者総合相談

相 談 セ ン タ ー

→CSW→本人

民生委員とCSWで借りられるア

パートを探し、移転。

一人暮らし高齢者(70 代)

道路拡幅により立ち退

きをせねばならない。

高齢者総合相談

センターの見守り

訪問→本人

考えたくない未来のことを話す

と、ケアも拒絶されるため、相談

に乗るのが難しい。

表3のように、複雑でかつ緊急度の高い対応が求められる場合に於いて、下記の居住支援

に係る業務を行っている○ア 行政各関係課、 ○イ 社協、高齢者総合相談センター、民生委員・児

童委員、各部門別支援センターなど ○ウ NPOなど の関係各機関・組織は、住宅確保要配慮

者に対してどのような対応をとるかの横の連携が必ずしも十分とれているとは言えない。

以上のことから、緊急性のある事案も多いことを考えると、居住に関する人権をどのよう

に考えるかなど、対応の理念や方針をあらかじめ日常的に共有していることが重要であると

考える。

また、個人情報保護の観点から、DV被害者、認知症、障がい者などの情報は、行政から

NPOなどの現場に直接提供できず、行政から委託を受けて福祉的業務を行っている社協や

各分野の支援センターなどの力量によってできることに限りが生じる。逆に、地域の特性を

活かして力のあるNPOセクター存在するのであれば、直接行政から情報を得て支援できる

ような協定を結ぶなどの仕組みの検討が必要となってくる。

16

さらに、実際、居住支援が必要とされる場面において、行政窓口を除いた福祉の現場での

相談は以下のように様々な場面で発生するため、必ずしも当事者が訪ねてこられる居住支援

の総合相談窓口を設けても、簡単には機能しないことが想像できる。

○ア 生活支援等を行う中で必要性が発生

○イ 地域や大家から社協や民生委員に相談

○ウ 子ども食堂や炊き出し・アウトリーチなど、NPO等の支援活動の中から

○エ その他

以上のことから、相談窓口の設置については、当事者への窓口の一本化が必ずしも有効な

わけではなく、地域ごとに福祉分野と住宅分野の専門家連携をはかれる仕組みが必要である

ことが分かった。

そのための現場コーディネーターの人材育成及び、その活動を支え持続させるための財政

基盤については行政の支援や連携、多様な専門家間の連携体制が必要と考えられる。(図6)

2)住まい手のセーティネットを築く空き家活用

① コレクティブハウスの可能性の提案

i) 暮らしに関するセミナーとグループ討議

セミナーの参加者は 年代も幅広かった

が、住まいの形態も(戸建持ち家、マンシ

ョン、賃貸アパートや、シェアハウス、コ

レクティブハウス)と多様、家族の形も、

(未婚、既婚、子供あり、なし、パートナ

ーや他人と暮らすシェア、一人暮らし)多

様な人たちで、状況に関わらず、これから

の自分の暮らしが、どのようでありたいか

をコレクティブハウスのレクチャーの後に

図6 地域における居住支援のネットワーク体制(提案)

写真 グループ討議の記録

17

話し合った。話し合いの内容は模造紙に記録してもらったが、参加者の多くが、理想の暮

らしとして『家族にとらわれすぎず、自分らしい暮らしを楽しむが、コミュ二ティの中で

役割を持ち、地域社会とのつながりを常に持ち続ける暮らし』としてコレクティブハウジ

ングを評価できるという発表を行った。

ⅱ)コレクティブハウス居住者アンケート

コレクティブハウジング居住者アンケート調査は、全体のアンケート対象者が100人程

度であり、その数によって何かを言えるということはないが、現存する自主運営型コレクテ

ィブハウスの居住者全員を対象としたアンケートとしては日本で初めてのものである。

住まい手が仕組みを持ってコミュニティを自主運営しながら暮らすという居住形態は1

5年という継続期間はあるが、まだ日本ではパイロット的な存在であり、一般的に認知され

ているとはいえない。しかし今回、CHC独自で初めて全居住者を対象にアンケートを行い、

血縁、地縁によらず、年代も多世代であり、世帯構成も多様である人たちが暮らす実態が把

握されたことはコレクティブハウスによって営まれる暮らしの特徴や質を明らかにし、今後

の人口減少社会や少子化、非婚化などが社会問題化する未来への一つの可能性を開く提言と

もなると思う。

今回の居住者アンケート調査で把握できた内容を分析した結果、コレクティブハウスの持

つ暮らしの可能性について、以下に示す a,b,cの3つの点をあげたい。

a.多様な人の住まいとして機能するコミュニティであること

図7は、コレクティブハウス居住者の年代・世帯構成及び居住年数である。

コレクティブハウスが年齢層は 30代・40代を中心としつつ多世代で多様な世帯の住ま

いとなっている。また、居住者が若者だけ、高齢者だけ、子育て世帯だけになりがちな今

の日本の住宅供給あり方の中では居住年数も偏りがちであるが コレクティブハウスで

は非常に多様となっている。こうした基礎データからも、コレクティブハウスが小さな社

会、多様な人のコミュニティとなっていることがわかる。

さらに、年代と仕事の形態(図8)の分布をみると、30代、40代の年齢層の居

住者がもともと多くその年代は正規雇用されている人が多いが、年代を問わずみると

様々な雇用形態で仕事をしている人が暮らしていることがわかる。

図7 年代構成・世帯構成・居住年数

18

多様性に関する居住者の意識に着目すると、多様

性を許容し合う暮らしであることがこの暮らしに

は必要かという質問には、90%近い人が『多様性

が必要である』と回答している。(図9)

自分がコレクティブハウスに暮らす意味(図 11)

でも『いろいろな考え方や意見があることがわかる

こと』が一位となっており、居住者自身がコミュニ

ティにとって、多様な人がメンバーとなっているこ

とが重要であると考えていることがわかる

さらに、多様であるためには

何が必要かという問い(表4)

には『コミュニケーションを大

切にしようとする気持ちと話

し合いの場』、『人への気遣いや

配慮』、『人を受け入れようとす

る気持ち』が大切であると答え

ている。

こうした結果からも、」コレ

クティブハウスが様々な要素で多様な人の住まいとなっている実態と同時に、住まい手自

身によっても、多様であることがコミュニティの価値と捉えられていることがわかる。

b.助け合いやつながりを生みだす暮らし

アンケートからみると、居住者組合をつくり、

居住者全員で行う自主運営の暮らしについての満

足度は高い(図 10)。また、コレクティブハウス

の暮らしを選ぶ最も決め手になった動機について

の問いでは『居住者同士交流があること』一番の

動機となっている。さらに、コレクティブハウス

で暮らす意味(図 11)でも『助け合いできること』

や『楽しみや安心や信頼関係がうまれる』という

必要

87.9%

図8 年代と仕事の形態

図9 多様性が必要だと思うか

表4 多様であるためには何が必要か

図 10 現状の暮らし全般の満足度

19

ことが居住者のコレクティブな暮らしの価値として評価されていることがわかる。

図 11の上位の項目の多くが「他者との交流」に関連するものが多い。他者との思考や

意見の交換によって、安心できる信頼関係が構築され、助け合いや楽しみが生まれるのだ

ろうと考えられる。また、下位の項目は「個人の成長」に関連するものが多く、個人のス

キル向上のような自己成長や自己発見、他者承認による自己受容などの重要度は低いこと

が伺えた。

これらの項目にて、「刺激があること」に関しては中程度であることが興味深い。他者

との交流に重きを置いているものの、それを「刺激」ではなく、「安心」の場としての重

要度の方が高いと捉えている。これは、コレクティブハウスでの他者との生活が、「刺激」

ではなく「安心」の場として機能しているのだろうと推測できる。居住者の年齢に刺激を

求めるような 20代などの年齢層が少ないこともあるだろうが、あくまでも「ゆったりと

した生活の場」であることが伺える。

さらに、この暮らしで生まれる助け合いは、様々な助け合いであることが見られる。多

様な年代、多様な世帯の形がある中で、助け合いも多様なニーズ、内容を持っていると思

われるが、世代構成と助け合い(図 12)、年代と助け合い(図 13)の関係を見ると、子育

図 11 自分がコレクティブハウスに暮らす意味

図 12 世帯構成と助け合いができる

いろいろな考えや意見があることを知ることができる

助け合いができる

楽しみがある

安心をもたらす

信頼関係が生まれる

人のためにすることがあるのでやりがいが生まれる

孤立しない

許容する力が上がる

刺激がある

さまざまな知恵や力があることで自分の可能性が広がる

話し合いの能力が上がる

日々の暮らしの中で、ありのままの自分を認めてもらえる

自分と同じような考えの人がいることが分かる

その他

特に意味を感じない

図 13 年代と助け合いができる

20

て世帯の助け合いの評価は高いが、シングル世帯の若い世代と高齢の世代それぞれ助け合

いがあると答えている。

こうした助け合うこと、つながり合うことへの評価はコレクティブハウスに暮らす意味

となっていると考えられ、この暮らしが居住者自身によって多様な助け合いとつながりを

生み出すことができる 暮らしといえる。

c.自主運営(自治)によって高まる持続可能性

暮らしへの満足度が高い一方で自主運営に

関しては『難しいしいことがある』と82%の

人が答えている。(図 14)

さらに、CHでの集団生活の維持で重要なも

のを見てみる。(図 15)

上位 5項目をまとめると、「フラットな雰囲

気で多様な話し合いをすること」とまとめられ、

その他以外の下位 4項目は「自己責任と役割意

識」と捉えることができる。これらを比較すると、何を話すか、というトピックの問題よ

りも、対等な関係で話すことそのものの重要度が高いと考えられる。

その上で、自主運営で何が難しい

と感じるか(表5)を見ると、「人

による温度差」、「生活スタイルの違

い」などが上位にあり、自主運営の

難しさは、居住者同士がフラットに

お互いの考えや行動の違いを認め

あい尊重する関係を大切にしてい

るからこそ起こっていると考えら

れる。

図 14 自主運営に関して 難しいことがあるか

表5 自主運営で何が難しいと感じているか

図 15 集団生活の維持で重要なもの

21

さらに、CHの生活で得た変化(図 16)を見てみると、全般的にポジティブな変化が見

られている。90%以上が「人のために何かすることが増えた」と答えており、先述のフラ

ットな人間関係が、自然と助け合いを増やしているのではないかと考えられる。

コレクティブハウスでは居住者が組合

をつくり暮らしを自主運営している。大家

となる事業主とコレクティブハウジング

事業の支援者としてのNPO(CHC)の

三者は、パートナーという意識を持って力

を合わせて事業を推進していくという関

係性を提案している。

このパートナーシップの中で、NPOは

第三者の役割を持ち、居住者自治の支援と事業主への事業運営の支援を行っている。 居

住者自治において、第三者の必要性についての問いでは居住者自治に満足していると答えた

人も、不満・わからないと答えた人も、第三者の必要性があると考えている。(図 18)

基本的に、居住者自治に満足

している人の多くは第三者の

必要性を感じている傾向が比

較的強いと言える。また、居住

者自治に満足していないが第

三者は必要と感じている 12名

に関しても、自由記述回答の内

容の一例として、「何を持って

満足しているとも捉えられな

い」や「満足という完成をしな

いのが CH」というような意見、

「満足はしてないけどそれこ 図 18 居住者自主運営満足と第三者の必要性

図 17 三者のパートナーシップ事業

図 16 CHの生活で得た変化

22

そが CHでの暮らしである」との記述もあり、概ね、居住者自治と第三者の存在はセット

であると考えられる。

コレクティブハウスでの居住者自治には第三者の存在は効果的なものであり、その結果

としてフラットな関係の構築が達成していれば、居住者自主運営は多様な意見が混ざり合

い、良好な関係は自然な助け合いを生み、安心できる生活を持続可能にすると言える。

d.まとめ

コレクティブハウスの暮らしは a多様性の中の b 助け合いやつながりであり、c人によ

る考え方や生活スタイルに違いがあることを認識した上で、フラットな関係を大事にしつ

つ暮らしの自主管理・自主運営上の難しい問題にもパートナーである NPO や大家とも連携

しながら,当事者だけでない第三者の存在を定義しつつ取り組んでいる。こうした居住者

自身の自立的な暮らしづくりが、柔軟な関係性を育むことで多様な人々がお互いの暮らし

の安心や楽しさを創造し、コミュニティの持続可能性を高めているといえる。

ⅲ)京都版コレクティブハウスの提案

京都府による子育て世帯へのアンケートは、票数も非常に少ないものであったことから、

統計的な集計よりも自由回答を中心にし

てまとめられ、コレクティブハウスの暮ら

しが様々な助け合いを生むことで、夫婦だ

けの孤立した育児の負担や家事労働の負

担をいかに軽減しているかを分析し、それ

を元に地方自治体の少子化対策や女性の

活躍する社会づくりなどの課題を解決す

コレクティブハウス活用提案として「京都

版コレクティブハウス」の提案としてまと

められた。

② 公的空き家活用によるコレクティブハウスの実現

今回、空きビル、空き集合住宅などを活用してのコレクティブハウス事業化の可能性を探

る取り組みの中で、公的セクターや民間企業にヒアリングし、少子化対策や孤立を防ぐため

の方策としてのコレクティブハウスの検討など試みた京都府とのシミュレーションなどから、

空き家の活用には地域社会をまきこんだつながり創りや雇用の創出など、疲弊している地域

図 20 京都府 庁内ベンチャー知事提案内容

図 19 コミュニティの自治機能の持続可能性の3要素

23

コミュニティそのものへ働きかける多様なソフト、ハードの仕組み作りが必要であることが

確認できた。その中でも、多様な人のコミュ二ティを作っていく、「コレクティブハウス」の

実現は、空き家を活用しつつコミュニティを再生する為の数少ない重要な要素となると考え

られる。

ⅰ)公的空き家活用の検討

戸建でない空き家の活用にはまだほとんど手がつけられていない現状がある。特に公

的住宅はハードとしての耐震などの建築物の基準を満たしており、検査済み証がないと

いうようなこともなく、その上、全体の戸数も多く、敷地や住宅の広さなども広いもの

が多い。これらは、人口減少社会のなか、家族の変容、少子化、高齢化、子育て支援、

地域コミュニティの崩壊、貧困、孤立など、地域の抱えるさまざまな課題を解決するた

めの重要な暮らしの場=基本的な資源として、再活用が最も可能である。再活用にあた

っては、人のつながりや助け合いの核となるコレクティブハウスを活かしていくことは、

コミュニティ再生、暮らしの場の再生につながるといえる。

ⅱ)公的空き家活用の仕組みの事例調査

ⅱ-1)ゆいま〜る高島平(東京)、ゆいま〜る大曽根(名古屋)((株)コミュニティネット)

○事例からみるコレクティブハウスの可能性

ゆいま〜る方式が運営上で他と違う点は 高齢者の住まいとケアや医療を分離し、それぞれを

地域の中のネットワークによってアウトソーシングしようというところで、そのために福祉や

医療やNPOとの連携をつくっていこうとしている点である。

さまざまな連携ができるためには、地域コミュニティを再生させ、持続可能にすることが求め

られる。「ゆいま〜る大曽根」では空き店舗をコモンスペースとして地域に開き、NPOに

運営をしてもらうなど、子供から高齢者まで地域の住民も来られるようにし地域の力を再

生していこうとしている。さらに、さまざまなニーズを繋げることで仕事づくりにもなり、

そのことが地域の活力をあげることにもなる。

こうした空き家活用は、多様な人の連携する暮らしづくりであり、コレクティブハウスと非常

に親和性が高いことが確認できた。

〇(参考事例)

元総社多機能公社賃貸住宅(群馬県住宅供給公社)コレクティブハウス元総社コモンズ

公的住宅として、日本初の誰もが入居可能な賃貸コレクティブハウスが実現したこ

とは非常に大きな成果である。

3)検討の結果を受けての提案

民間、公共を問わず、虫食い状に空き家がある集合住宅や、団地などの大規模化した空き

家活用に関しては、ハード活用だけではなく、地域社会をまきこんだ、つながり創り、雇用

の創出など、疲弊している地域コミュニティそのものへの多様なソフト、ハードの仕組みづ

くりが必要であることが、確認できたことは、大きな成果であった。

また、居住者アンケートの結果からは、コレクティブハウスがコミュニティ創造の力を持って

24

いるといる。このような結果から空き家を活用し、官民 NPOが連携して、コミュニティ再生を必

要とする地域で、コレクティブハウジング事業を実施することを提案したい。

コミュニティ再生を推進し、自立的な運営と持続可能な地域社会づくりの核としてコレ

クティブハウジングを位置づける。

市民(居住者や地域住民)にこのような考えを普及し計画にも参加してもらうことで、

地域で事業の担い手としてのNPOを育成し、事業主を探す。

準備段階から行政によるバックアップを行う。

このような連携を作り上げることで、空き家が安心安全なつながりのある地域づくりに有効に活

用されていく仕組みを作る。

空き家対策・空き家活用による事業推進のための3つの柱

●NPO(コミュニティの持続可能性、事業の持続可能性を担保)

●行政・公社(事業の信頼性、継続性を担保)

●民間事業主<企業・UR・個人>(事業の実施主体)

3.評価と課題

1)『居住支援』の観点から見た空き家活用

2017年 10月 25日に、住宅セーフティネット法が一部改定され、住宅セーフティネットに関

する公的支援が拡充された。居住支援に関する公的支援としては、各自治体に居住支援協議会

を設置して推進していく他、新たに居住支援団体が居住支援法人として登録することによって、

居住支援の役割の一端を担っていくことになり、ますます、官民 NPOの連携・協働・役割分担

による居住支援の仕組みが重要となってくる。

評価:住宅セーフティネットとは、経済的な危機に陥っても最低限の安全を保障する社会的な

制度や対策の一環として、住宅に困窮する世帯に対する住宅施策のことであるが、本調査にお

いては、人が安全で安心して暮らすためのつながりや仕組みづくりをセーフティネット形成と

呼び、この認識から空き家活用が地域のセーフティネット形成に寄与する可能性が大きい事を

示唆した。そのような視点から、居住支援の実例において、福祉の現場や NPOなどの支援がき

め細かくかつ多岐に渡る対象者への対応がなされていることが明確になったことは、本調査の

評価すべき点である。

課題:その一方、そのような居住支援を持続的・安定的に行うための公的支援策は、手薄と言

わざるを得ず、居住支援の現場に対する必要な支援策をボトムアップで制度に反映させて行く

ことが課題である。その基本には、誰もが望む地域に住み続けられるような基本的な人権とし

ての住まい・暮らしの保障という理念があり、を今一度その理念に立ち戻り、真摯に丁寧に確

認しておく必要がある。

25

2)住まい手のセーティネットを築く空き家活用

① コレクティブハウスの可能性の提案

評価:・コレクティブハウジングの仕組みはコミュニティを作り育て、多様な人が安心安全な

住環境を自らつくり育てる、新しい社会住宅として地域の核となっていく可能性を十分持っ

ていることが、居住者している人たちの暮らしの現場からの生の声としても確認できた。

・私たちが安心快適に暮らすための環境を、いかに今あるものを生かし、再生し、持続可能と

するかは多様な人々が連携して、今あるものをつなぎ合わせ、やりがいや生きがいや、収入

も生みだしつつ、自立的に、お互いがやれることをみんながやるということによって成り立

つということがかなりイメージ出来たと思う。

・人が繋がりをつくって暮らすということは、お互いが多様で違いがあることを認めることで

あり、お互い受け入れあう努力無くしては成り立たない。そういった当たり前のことが様々

なコミュニティづくりの基盤となることが示された。

課題:・活用できる住まいの仕組み、コミュニティの仕組みとして、もっとコレクティブ

ハウスを多くの人に知らせる必要がある。

・コミュニティの支援や地域との連携を推進するNPOやコーディネーターなど、『つな

ぐ人』の養成も大きな課題となっている。

② 公的空き家等活用によるコレクティブハウスの実現

評価:空き家対策が単なる建物のハード活用ではなく、もっと大規模な地域の課題であるとい

う視点がより明確になった。

京都府をはじめとして自治体の抱える課題は、空き家問題だけでなく、少子化対策や男女平

等や女性の活躍、子育て支援、さらにはきめ細かな様々な福祉ケアの充実、人の孤立の防止、

といった課題と表裏をなし、公的な空き家の活用はそうした暮らしの環境全般の問題も解決す

る可能性を持つ資源として捉える必要があるいうことが言える。

コレクティブハウスをそうした空き家活用の事業の柱となる『新しい住まい方』として導入

していくことは居住者自らがコミュ二ティの可能性と持続性を高めるものとなると言える。

また、集合住宅の分散した空き住戸の活用と地域のコモンスペースづくりなどの空き商

業施設の活用や NPOとの連携、公的であるが故の公募の原則と事業に事前から参加するコ

レクティブハウス、コミュニティづくりの両立、第三者として NPOの支援、といった幾つ

かのブレイクスルーの紹介は、今後の公的住宅の空き住戸でのコレクティブハウス実現の

可能性をさらに開くものと考える。

課題:公的住宅の空き家対策には様々な法律的なハードルもあり変更には時間がかかる。

しかし国をはじめ各自治体が先延ばしにせず対策を考える必要がある。

さらに『つなぐ人=コーディネーター』の人材育成も重要な課題となる。特に育成のた

めの経費や第三者としての位置付けや賃金の確保などが事業に盛り込まれる必要がある。

元総社の多機能住宅のように複合的な事業をすることはハード整備としてはできても、

地域コミュニティを緩やかなつながり、運営をするには、民間企業や福祉ケアサービスの

部門、NPOなど社会的活動をするセクター、地域住民、空き家の近隣居住者など、多く

のステークホルダー(関係者)に関わってもらえる事業としていくことが重要で、仕事づ

くりも含め柔軟な仕組みづくりが課題となる。

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4.今後の展開

次年度は、以下のステップに移り、モデル地域での実践から他地域に広げる仕組みにつなげる。

①京都府で官民 NPOの協働で行うコレクティブハウジングの事業スキームを引き続き検討し、

少子化や子育て世帯の支援、女性の活躍できる社会をめざし、実現化していく中で、幅広

い地域で活用可能な仕組みづくりを目指したい。

②豊島区で、引き続き、モデル地域での居住支援の仕組みづくりを進める中で、官民 NPOの

協働と役割分担を整理し、仕組みの提案を行う。

③コーディネーターなど、つなぐ人の人材育成なども行いたい。

■事業主体概要・担当者名

設立時期 2000年 10月 10日設立、2001年 2月 27日 NPO認証・登記

代表者名 代表理事 宮本諭

連絡先担当者名 理事 狩野三枝

連絡先 住所 〒171-0031 東京都豊島区目白 3-4-5アビタメジロ 302

電話 03-5906-5340

ホームページ http://www.chc.or.jp/