シ ン ポ ジ ア...

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昭 和36年10月20日 505 1.腸 内 細菌 の 多 剤耐 性 の遺 伝 的研 究 慶大細菌 渡辺 現 在 問 題 に な つ てい る多 剤 耐 性 の本 態 は,わ わ れ の研 究 に よ り,多 剤 耐性 因子 が あ る種 の エ ピ ゾームによつて運ばれるものであることが明らか になつた. わ れ わ れ は まず,多 剤 耐性 因子 が接 合 に よつ て 宿 主 染 色 体 とは無 関係 に伝 達 され る こ と,少 数 の 多 剤 耐性 菌 と多数 の感 受 性 菌 とを混 合 培 養 す る と 大 多 数 の感 受 性 菌 が速 か に多 剤 耐性 を獲 得 す る こ と,及 びアクリジン色素によつて多剤耐性因子が 除 去 され て感 受 性 菌 を生 じ る こ とを実 験 的 に 明 ら かとし,多 剤耐性因子が 宿主染色体 とは無関係 に,い わ ゆ る 自律 的 に ふ え る こ とを推 論 した. 接 合 に よ る伝 達,ア クリジン色素による除去に 際 して,多 剤耐性因子は相 ともなつ て行動 す る が,導 人 の際 に は しば しば 分 離 が 見 られ た.こ に ネ ズ ミチ フス 菌LT-2株 とフ ァー ジP-22の で は,耐 性因子は必 らず分離 し,し か もこれ らの 導入株 の大多数 は接合により耐性 を伝達 できな い.こ れらの導入株では耐性因子が宿主染色体に 付着 ない しは組みこまれた状態に あ る と推定さ れ,耐 性 因 子 が 自律 的 にふ え て他 の細 胞 に 伝 達 さ れ ない 理 由 は,耐 性 因子 を運 ん でい る エ ピ ゾー ム (耐性 伝達 因 子resistance transfer factor,RTF) が 耐性 因 子 に と もな つ て導 入 され に くい た め と考 え られ る.わ れ わ れ は導 入 の成 績 か ら次 の よ うな 模型 を提定 した. SA- SM- CM- TC- RTF この模 型 は,耐 性 因子 の 自然 分 離(spontaneous segregation)の 際 の耐 性 因子 間 の リ ンケー ジ と も よ く一 致 す る.わ れ わ れ は 自然 分 離 の機 序 を これ ら耐 性 因子 と宿 主 染 色体 との 間 の遺 伝 子交 換 に よ る と考 え て い る. われわれの考 えでは,耐 性因子自体は伝達能を もた ず,単 にRTFに 運 ばれてい る に す ぎ ない が,一 方,耐 性 因 子 自体 が 伝 達 能 を もつ とす る説 (中谷 ら)も あ る.し か しこ の説 で は,上 にのべ た ネズ ミチ フ ス菌 で の導 入 の成 績 を説 明 で きな い し,又 わ れ わ れ が発 見 した と ころ の,多 剤耐性の 伝 達 能 が 一 挙 に して失 なわ れ,し か も耐性 因子 が 自律 的に与 え得 る とい う変異 の説 明に も苦 しむ も の で あ る.こ の変 異 はRTFの 変 異(フ ァー ジの defective mutationに 相 当 す る)と して説 明 る. 次 にわ れわ れ は,RTFを もっK-12のHfr 株 か らF-株 へ の染 色 体 及 びRTFの 移入 を,フ ァー ジ及 び ミキサ ー で一 定 時 問 ご とに 中 断 して, 各 時 点 の組 み換 え株 を し らべ た と ころ,RTFの 存 在 に よつ てHfr株 の染 色 体 移 入 の順 序 が 変 化 しない こ と,及 び特 定 の部 位 が移 入 され た 時 にR TFが 高 率 に移 入 され る こ と を見 出 した.し たが つ てRTFは この付 近 で宿 主 染 色体 に付 着 す る も の と考 え られ る.一 方,RTFが 自律的にふえて い るHfr細 胞 で は染 色体 の移 入 が 抑 え られ る こ とが わか つ た が,RTFが 染 色体 に付 着 した 状 態 のHfr細 胞 で は,上 に の べ た よ うに 染 色 体 の移 入 が抑 え られ ない.そ こでRTFを もつHfr株 か ら ル プ リカ法 に よ り,組 み 換 え を高 頻 度 に 行 な う ク ロー ン を分 離 す る こ とに よ り,RTFが 宿主 染 色 体 に安 定 な 状 態 で 付 着 した株 を得 る こ とが で きた. 以 上 に よつ てRTFが エ ピ ゾー ム で あ る こ とが 実 証 され た と考 え られ る が,RTFは 本 来 のF- 株 に 移 され て も染 色 体 の移 入 を行 な わ ず,コ リシ ン産 生 を ひ きお こす こ と もな く,ま た細 胞 外 に感 染 性 の 粒 子 と して出 て くる こ と もな い の で,従 知 られ てい るF因 子,コ リシ ン産 生 因子,及 びテ ンペ レー ト・フ ァー ジのい ずれ とも異 な る新 しい エ ピ ゾー ム と考 え て よい で あ ろ う.多 剤 耐性 因 子 の起原についてはなお不明とい うほかないが,わ

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Page 1: シ ン ポ ジ ア ムjournal.kansensho.or.jp/kansensho/backnumber/fulltext/35/...昭和36年10月20日 505 シ ン ポ ジ ア ム 赤 痢 1.腸 内細菌の多剤耐性の遺伝的研究

昭 和36年10月20日 505

シ ン ポ ジ ア ム

赤 痢

1.腸 内細菌の多剤耐性の遺伝的研究

慶大細菌 渡辺 力

現在問題になつてい る多剤耐性の本態は,わ れ

われの研究により,多 剤耐性因子がある種のエピ

ゾームによつて運ばれるものであることが明らか

になつた.

われわれはまず,多 剤耐性因子が接合によつて

宿主染色体 とは無関係に伝達 されること,少 数の

多剤耐性菌と多数の感受性菌 とを混合培養すると

大多数の感受性菌が速かに多剤耐性 を獲得するこ

と,及 びアクリジン色素によつて多剤耐性因子が

除去 されて感受性菌を生 じることを実験的に明ら

かとし,多 剤耐性因子が 宿主染色体 とは無関係

に,い わゆる自律的にふえることを推論 した.

接合による伝達,ア クリジン色素による除去に

際 して,多 剤耐性因子は相 ともなつ て行動 す る

が,導 人の際には しばしば分離が見 られた.こ と

にネズ ミチフス菌LT-2株 とファージP-22の 系

では,耐 性因子は必らず分離 し,し か もこれ らの

導入株 の大多数 は接合により耐性 を伝達 できな

い.こ れらの導入株では耐性因子が宿主染色体に

付着 ない しは組みこまれた状態に あ る と推定さ

れ,耐 性因子が自律的にふえて他の細胞に伝達さ

れない理由は,耐 性因子 を運んでいるエピゾーム

(耐性伝達因子resistance transfer factor,RTF)

が耐性因子にともなつて導入 されにくいためと考

えられる.わ れわれは導入の成績か ら次のような

模型 を提定 した.

SA- SM- CM- TC- RTF

この模型は,耐 性因子の自然分離(spontaneous

segregation)の 際の耐性因子間のリンケー ジとも

よく一致する.わ れわれは自然分離の機序 をこれ

ら耐性因子 と宿主染色体 との間の遺伝子交換によ

ると考えている.

われわれの考 えでは,耐 性因子自体は伝達能を

もたず,単 にRTFに 運ばれている に す ぎ ない

が,一 方,耐 性因子自体が伝達能 をもつ とする説

(中谷 ら)も ある.し か しこの説では,上 にのべ

たネズ ミチフス菌での導入の成績 を説明できない

し,又 われわれが発見 したところの,多 剤耐性の

伝達能が一挙にして失なわれ,し かも耐性因子が

自律的に与え得るとい う変異の説明にも苦 しむも

のである.こ の変異はRTFの 変異(フ ァージの

defective mutationに 相当する)と して説明され

る.

次にわれわれは,RTFを もっK-12のHfr

株からF-株 への染色体及びRTFの 移入 を,フ

ァージ及びミキサーで一定時問 ごとに中断して,

各時点の組み換え株 をしらべたところ,RTFの

存在によつてHfr株 の染色体移入の順序が変化

しない こと,及 び特定の部位が移入 された時にR

TFが 高率に移入 されることを見出した.し たが

つてRTFは この付近で宿主染色体に付着するも

のと考えられる.一 方,RTFが 自律的にふえて

いるHfr細 胞では染色体の移入が 抑えられるこ

とがわかつたが,RTFが 染色体に付着 した状態

のHfr細 胞では,上 にのべたように 染色体の移

入が抑えられない.そ こでRTFを もつHfr株

からルプリカ法により,組 み換えを高頻度に行な

うクロー ンを分離することにより,RTFが 宿主

染色体に安定な状態で付着 した株 を得ることがで

きた.

以上によつてRTFが エピゾームであることが

実証されたと考えられるが,RTFは 本来のF-

株に移されても染色体の移入 を行なわず,コ リシ

ン産生をひきおこすこともなく,ま た細胞外に感

染性の粒子 として出てくることもないので,従 来

知られているF因 子,コ リシン産生因子,及 びテ

ンペ レー ト・ファージのいずれとも異なる新 しい

エピゾームと考えてよいであろ う.多 剤耐性因子

の起原についてはなお不明とい うほかないが,わ

Page 2: シ ン ポ ジ ア ムjournal.kansensho.or.jp/kansensho/backnumber/fulltext/35/...昭和36年10月20日 505 シ ン ポ ジ ア ム 赤 痢 1.腸 内細菌の多剤耐性の遺伝的研究

506 日本 伝染病学会雜誌 第35巻 第7号

れわれはおそ らくある種の細菌の染色体上の遺伝

子が,RTFに よつてとりこまれたものと想像 し

ている.つ まり多剤耐性伝達の機序は,わ れわれ

の考えはF-ductionに 相当するものといえよう.

2.耐 性伝達因子(Rta)の 遺伝生化学的研究

予研細菌1中 谷林太郎

腸内細菌の耐性伝達現象 を遺伝学的 に 検討 し

た結果,次 の諸事実か ら本現象 が 耐性伝達因子

(Resistamce trransfer agent;Rta)に よるもので

あるとした1)2).(1)混 合培養による耐性伝達は生

菌 と生菌 との接触による.耐 性化された菌は2次

伝達性 をもつ.(2)耐 性伝達は菌がほとん ど増殖

しない状態で混合 したときも急速かつ高頻度でお

こる.(3)諸 種の耐性パター ンを異にする赤痢菌

同志 を混合接触 させることにより,感 受性 を示 し

た薬剤に対 して耐性化することができる.(4)腸

内細菌のすべての種属間に広 く伝達 されうる.(5)

耐性化された菌は耐性以外の点では も と の感受

性菌の性質をそのまま保有 し,抗 原構造や生化学

的性状な どに変化がない.(6)バ クテリオファー

ジによつて感受性菌に耐性およびその伝達性 を導

入できる.(7)耐 性化された菌の耐性度は与体耐

性菌のそれと同じルベルに一足跳びに上昇 し,ま

た自然耐性菌が感受性化する場合には一段 で低い

レベルにおちる.(8)細 菌の接合を支配するF因

子によつて耐性伝達は支配されない.(9)自 然界

に分布 しているような耐性パター ンを示す種々の

耐性菌が,混 合培養や導入によつて解離する.そ

こでR如 を定義 して 「細菌細胞内に存在 し,細

胞にCM,TC,SM,SAに 対する一定度の耐

性 を与 え,原 則的には細胞から細胞へ伝達 される

遺伝的因子を綜合 して,耐 性伝達因子 とい う」 と

した.

R如 の物理化学的性状の研究 として次の三っの

成績 を報告 した.(1)Rtaは 紫外線(UV)に

対 して宿主細胞の集落形成能より感受性 が ひ く

く,ま たRtα+菌 にUV照 射 を行つても伝達頻度

の上昇 または伝達能の誘発がおこらない.(2)U

V,ア クリジン,お よび両者の併用によりRta+

菌の一部は 命α-になる.(3)Rta-菌 とRta+菌

の核酸含有量,RNA:DNA比 は相違 しない.

これらの事実はR彪 がPlasmidの 一面 をもつこ

とを裏づけるとともに,そ の構造中に核酸部分を

もつことを想定させるが,細 胞全体の核酸量に く

らべれば微量であることを意味 していると考えら

れる.

R如 の遺伝学的微細構造の研究の一部 として,

混合培養による伝達性 を欠 く赤痢菌株 を用 い た

成績を紹介 した.本 菌 はCM・SM・SA耐 性

をもち,本 菌で増殖 したファージPIkcに より

その耐性 をE・coliK-12に 導人すると,導 入面

は低頻度ながら耐性伝達能 をもつ.ま た本菌 に

T-R雄(TC耐 性伝達因子)を 混合培養でうつす

とCM・SM・SA・TCの4剤 耐性 となりこれ

らは伝達性をもつ.こ のときT-R如 とCS-R如

とは,あ たかも結合 したごとく単一のCTS-R如

として行動する場合 と,そ れぞれ独立 した ま ま

の行動 をとる場合とがみられる.こ れ らの事実か

ら本菌のもつ耐性はdefective Rtaに よるものと

結論 した.な お現在 までの研究により,耐 性をめ

やすとしたRtaの 基本構造 を次のような模型で

示 し,そ の他の種々の変異型 を提示 した.

な お,R如 をエ ピ ゾー ム と す るた め の 根 拠 を

あげ,外 来 性 ・感 染 性 因 子 お よ び 自発 増 殖 性 の

Plasmidと して の 証 拠 は 多 い が,染 色 体 に附 着 な

い し組 み こ まれ た 状 態 に 対 す る確 証 は今 後 な お追

求 され ね ば な い との べ た.

また渡 辺 ・深 沢 の"エ ピ ゾー ム性 耐 性 因 子"説

の批 判 を行 い,RTFと 耐性 因 子 を分 け る根 拠,

RTF耐 性 因子 リン ケー ジ模 型 の 不 合 理性 な どに

つい て指 摘 した.

流 行 赤 痢 菌 の薬 剤 耐 性 獲 得 の機 序 に つ い て は文

献3)に ゆず りふ れ なか つ た.

文 献

1) 中谷林 太郎: 医学衛生物学最近 の展望, 1: 109,1960. -2) Nakaya, R., Nakamura, A.,& Mu-

rata, Y.: Biochem. Biophys. Res . Comm., 3:654, 1960. -3) 中谷林太郎: 日本 臨床, 19: 1151.1961

.

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昭和36年10月20日 507

6.多 剤耐性赤痢菌の発生機序

東大細菌

秋葉朝一郎,横 田 健,小 山恒太郎

栃木県衛生試験所 木村 貞夫

横浜市立万治病院 加藤 貞治

落合 ら及び秋葉 らによつて発見された腸内細菌

欄 における耐性伝達の現象 をもつて,自 然界にお

ける薬剤耐性赤痢菌の発生機序を充分説明 し得る

かどうか,耐 性菌の耐性機構に関する生化学,動

物実験,及 び疫学的観察などの面か ら種々検討 し

た.

同一薬剤に対する同一菌株の耐性菌 で あ つ て

も,患 者又は健康者か ら分離される自然耐性大腸

菌 と,薬 剤含有含地上に継代 し人工的に耐性 を上

昇 させた人工耐性大腸菌 とでは,種 々の点に大 き

な相違があることが,生 化学的研究により明らか

になり,両 者の起源は異 るものであることが考 え

られた.す なわち,自 然耐性菌の多 くのもの,特

に多剤耐性大腸菌又は多剤耐性赤痢菌は,接 合に

より,そ の耐性形質 を薬剤感性腸内細菌へ伝達で

きるものが多いが,薬 を用いて生体外で作つた人

工耐性菌の中には現在 までのところ,伝 達可能な

耐性因子 を有するものは1株 も発見 されていない

点,自 然耐性大腸菌の薬剤耐性機構は菌の薬剤に

対する透過性の低下が主たるものであるが,人 工

耐性大腸菌のそれはSA(ス ルホンア ミド)に 対

しては葉酸合成能の上昇,TC(テ トラサイクリ

ン)に 対 しては内部代謝機構の変化であるな ど,

自然耐性菌 と人工耐性菌 とは異つた生化学的耐性

機構 を有する点,更 に 自然耐性菌は無機塩,ブ ドー糖培地中では耐性 としての表現形 を表 し難い点

などが明らかにな り,疫 学的な耐性菌に関する諸

現象 を説明するための,モ デル実験に人工耐性菌

を用うると,多 くの誤 りを犯す危険性があると考

えられた.

動物実験については,マ ウスを使用し,多 剤耐

性大腸菌か ら感性腸炎菌又は感性赤痢菌への耐性

伝達を検討 したところ,試 験管内における耐性伝

達に くらべ,遙 かに困難 且つ低頻度 で は あ る

が,起 り得ることを立証 した.生 体内における耐

性伝達が困難な理由の一つ として,生 体の腸管内

に存在する胆汁成分(胆 汁酸誘導体),及 び脂肪酸

塩のあるものが試験管内においても強力に耐性伝

達 を阻止することを発見 し,生 体腸管内に耐性伝

達阻止物質のあることを明 らかに した.

更に耐性赤痢菌の発生 と,耐 性大腸菌の腸管内

入院後の赤痢菌耐性化例 と耐性大腸菌 との関係

註1.備 考 カ ツ コ外 は 例数 カ ツ コ内 は 耐性 化 赤 痢 菌 の検 出 され た入 院 後 の 日数

2.約800例 の赤 痢 患 者 に お い て29例 に耐 性 化 例 を認 め た

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508 日本伝染病学会雜 誌 第35巻 第7号

における存在 との関係 を疫学的に観察 した と こ

ろ,横 浜万治病院における赤痢患者中,薬 剤感性

赤痢菌排菌者は12.7%に,耐 性赤痢菌排菌者 は

58.3%に 耐性大腸菌を保有 しており,両 者の明 ら

かな差が,耐 性赤痢菌と耐性大腸菌の間に密接な

関係があることを示唆していた.

入院時感性赤痢菌が証明され,入 院後,赤 痢菌

か耐性化 した例について,耐 性大腸菌の存在ない

しは出現時期 をしらべると表に示すごとく,29例

中10例 のものは入院時既に耐性大腸菌 を保有 して

お り,赤 痢菌の耐性化は入院後2~21日 目に起つ

ていることがわか り,入 院時耐性大腸菌が陰性で

赤痢菌の耐性化が2~16日 目におこつ た もの で

も,入 院4日 目にしらべた時は耐性大腸菌を全例

が保有 していて,5例 を除 き,29例 中24例 におい

ては耐性赤痢菌出現にさき立つて耐性大腸菌がC

琶又はTC投 与の結果出現することが確認 されて

い る.以 上の結果,少 数の例外 を除いそ,特 に

多剤耐性赤痢菌発生の機序は秋葉が既に提出 した

「耐性大腸菌から耐性が伝達することにより赤痢

菌が耐性化する」 とい う機構によるものと考 えら

れた.

4.赤 痢菌の薬剤耐性の伝達

名古屋市立東市民病院

落合国太郎,山 中 敏樹,木 村 勝直

薬剤耐陸赤痢菌 と感性赤痢菌 とをブイヨン中に

混合培養 し,耐 性が感性菌に伝達 されることは既

に報告 した.こ の現象は赤痢菌,大 腸菌サルモネ

ラ菌簇等の間にみ られ,そ の逆のコースを辿つて

も行われる.耐 性の伝達は菌株によつて難易があ

り,耐 性赤痢菌 とコレラ菌又はブ ドウ球菌 との間

及び耐感ブ ドウ球菌相互の間では起 らない.抗 生

剤単独耐性か ら2種 ない し,3種 耐性かずれも伝

達加能で,特 にSM・CM・TC・ST耐 性,す

なわち多剤耐性及びTC耐 性は容易であるが,S

M耐 性はや ゝ困難 で,ST耐 性は伝達されない.

耐性伝達菌はその形態並びに諸種の生物学的性

状において感性原株のそれ とほとん ど差異 がな

い.

その耐性度は大体与体Do初 プ耐性菌のそれと

一致 し,こ れを普通寒天高層に保存すれば耐性が

ほ 安ゞ定に保たれ,ブ イヨン又はペプ トン水に30

~50代 継代培養 しても耐性が安定 しているものが

ある.こ れを感性菌ど混合培養すれば更に耐性 を

二次伝達することが出来,こ の場合も各種の菌種

菌型の間に種々なる薬剤耐性が伝達 される.

異る2種 の単独耐性菌 を混合培養すれば両者の

二重耐性菌,単 独耐性菌 と二重耐性菌からは3種

耐性菌が得られ,こ の組合せ耐性菌 も更に感性菌

に伝達することが出来る.

耐性の伝達は培養1時 間後か らみ られるが(恐

らくは更に短時間)耐 性菌のブイヨン培養濾液,

菌体の凍結融解液,加 熱死菌液及びDNA溶 液 を

加えたブイヨン中に感性菌 を培養 しても成功 しな

い.ま た食塩液中で耐感両菌を混合 した の で は

37.0℃ に保温 しても耐性の伝達は起 らな い.す

なわち,耐 性の伝達には耐性菌 と感性菌の発育 し

つつある生 きた菌体の接触が必要なものとみられ

る.

耐感両菌 を混合培養 し,こ れを不完全柴養培地

に移 し,更 にペニシリン ・スクリーニングを行え

ば,耐 性菌から耐性が脱落 して感性化することが

ある.し かし耐性の脱落は単に耐性菌の不完全栄

養培地内培養,ア クリジン系色素の作用,ブ イヨ

ン又はペプトン水中継代培養によつても起る.

抗生剤単独耐性や2重 耐性菌はST感 性のもの

と耐性のものとがあるが,SM・CH・TE3種

耐性菌は必ずSTに も耐性,す なわち多剤耐性で

ある.こ れを混合培養による耐性の伝達からみて

も,抗 生剤単独耐性や2重 耐性ではST耐 性 を伴

う場合 と伴わない場合 とがあるが,多 剤耐性では

必ずST耐 性 も随伴 して伝達 される.ま た耐性が

脱落する場合にもST耐 性が一緒に脱落 して完全

に感性化する場合 とST耐 性が残 る場合がある.

そ して耐性の伝達にも脱落にもST耐 性は常にS

T耐 性 に随伴 して動いている.ST耐 性にはSM

耐性に結合 して伝達 または脱落するものと,こ れ

と異 り,そ の菌本来のST耐 性の二種類があるよ

うである.こ のほか,耐 性の部分的伝達 ない し部

分的脱落におけるST耐 性の動 きを精細に検討す

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昭 和36年10月20日 509

れば,SM・CM・TC・ST耐 性,す なわち多

剤耐性は単独耐性に耐性が順次組合わさつて出来

るのではな く多剤耐性 として一気に出現するもの

と思われる.

腸内細菌相互の間に薬剤耐性の伝達が生体腸管

内でも行われるとしたら重大な問題である.わ れ

われは赤痢,疫 痢及びその疑い患者366名 につい

て糞便 を普通SS及 びSM, CM, TC3種 の薬

剤をそれぞれ25γ/mlの 割に加 えたSS及 び遠藤

都合7種 の培地に塗抹 して発育 した集落について

抗生剤及びSTに 対する耐性 を測定した.薬 剤培

地に大腸菌が発育 したのは耐性菌赤痢患者88例 中

83例94.3%,感 性菌患者173例 中156例90.2%,

赤痢菌陰性者でも6g例中60例87.0%で,各 患者群

の間に大 きい差がない.各 患者群 と もにSM,

CM, TC3種 の薬剤加培地に生 えた場合が最 も

多 くTC培 地がこれについで多い。

その薬剤耐性は4,668株 中SM, CM, TC3

種耐性菌が最 も多 くTC耐 性菌がこれにつ ぎ,C

M耐 性菌は一株 もなかつた.な お抗生剤単独耐性

や二重耐性菌はST耐 性のものと感性のもの とが

あつたが,SM・CM・TC3種 耐性菌は必ずS

Tに も耐性で多剤耐性であつた.

同一患者の同一糞便から検出された大腸菌と赤

痢菌 とは大体耐性が一致 していたが,必 ずしもそ

うとは限 らない.ま た大腸菌は耐性でも赤痢菌は

感性の場合が少な くない.こ れに よつてみれば,

人体腸管では赤痢菌 と大腸菌 との間に試験管内の

ように耐性の伝達が簡単に行われるか否かは決定

出来ない.

5.腸 内細菌の薬剤耐性に関する研究,特 に大

腸菌の薬剤耐性の調査と伝達性ある耐性因子のタ

イプについて

群大微生物

三橋 進,原 田 賢治,橋 本 一

江川 龍起,近 藤 学子

北本 らによつてクロラムフェニコール(CM),

ス トレプトマイシン(SM),テ トラサイクリン系

薬剤(TC),及 びスルフォア ミド剤(SA)に 高

度耐性の赤痢菌が分離報告せられ,そ の特異な耐

性は多 くの注意をひ くに至つた.

たまたま著者 らは昭和35年 群馬県内において4

剤耐性(r4)のSh. flex. 3aに よる集団流行 を経

験 し,同 時に患者 よ り4剤 耐性大腸菌 を分離 し

た.別 の流行例でCM・SM・SA3剤 耐性Sh.

flex.2aに 対 し,同 じく3剤 耐性のE.coliを,

4剤 耐性赤痢罹患家族から4剤 耐性のcitrobacter

が分離 された.

以上の事実から,多 剤耐性は赤痢菌のみに限 ら

れる問題ではなく,広 く腸内細菌全般に関係する

現象 と考 え,群 馬県内居住者の大腸菌の薬剤耐性

を調査 し,併 せて細菌遺伝学的研究を開始 した.

一般健康者か らE .colir4(CM・TC・SM

・SA)又 はr3(CM・SM・SA)が 約1 .4

%の 割に検出された.特 に赤痢罹患者,結 核入

院患者及びCM治 療者から著 るしく高率に多剤耐

性大腸菌が分離 された.つ いで結核入院患者109

名の大腸菌の薬剤耐性 を詳細に調査 し,72名(66

%)が なんらかのタイプの耐性菌を保菌しておる

ことを知つた.そ の72名 の内16名 は2~4種 の耐

性大腸菌 を重複保菌 していた.こ れらの重複保菌

者 を10カ月後に5名 再検すると2名 が相変 らず重

複耐性菌保持者であつた.そ の内の1名 は日によ

つて異なる組合せの耐性菌 を排出し,分 離された

4剤 耐性菌もきわめて不安定であつた.生 体内に

おいては耐性因子の分離segregation結 合linkase

が広 く行われていることを予想させる.

以上のような調査か ら得 られた多 くの耐性大腸

菌及赤痢菌か ら,伝 達性ある耐性因子(R因 子 と

略)を 調査 し,R(CM.TC・SM・SA), R

(CM•ESM•ESA), R (TC• SM•ESA),R

(CM•ETC), R (SM•ESA), R (TC), R

(SM)の7種 類の伝達性 ある耐性因子を分離す

ることが出来た.更 に実験的にR(CM・TC)

か らR(CM)が 得 られ,合 計8種 類のR因 子が

得 られた.

これらのR因 子は菌相互の接触により腸内細菌

科のあらゆる属間に伝達が 可能で あ る.又,E.coli K-12株 間では,Fの 極性polarityと 無関係

に伝達 される.R因 子の伝達頻度の高い こと,アク

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510 日本伝染病学会雑誌 第35巻 第7号

リジ ン系 色 素 で容 易 に脱 落 せ しめ うる こ とよ り,

R因 子 の菌 体 内 で の存 在 は,cytoplasmicな もの

と考 え られ た.R因 子 の伝 達 性 及 び 安 定 性 は,与

体 及 び受 体 の菌 種 に よ り異 な り,Salmonella E

群 で は 増 殖 期 にお い てR(CM・TC・SM・S

A)の 自然 脱 落 及 び分 離 が高 度 で あ る.

一 方1剤2剤 耐 性 菌 よ り多 剤 耐 性 菌 を相 互 伝 達

に よ り得 る こ と も可 能 で あ り,R(TC)と,R

(CM・SM・SA)よ り4剤 耐 性 が え られ,こ

れ は再 伝 達 に際 して分 離 せ ぬ こ と,Pl kcフ ァー

ジ を用 い て の導 入 で も4剤 耐 性 と して導 入 され う

る こ と等 に よ り,Rの 結 合,す な わ ち,R1とR3

よ りR4の 形 成 が証 明 され た.し か し,Rの 感 染

に お い て,い わ ゆ る干 渉 現 象 と し て,相 互 伝 達

頻 度 の低 下,も と も と受 体 の所 有 してい たRの 脱

落 等 が み られ る. CM, TC, SMの1剤 耐 性 菌

を用 い て み る と,そ の干 渉 現 象 はCMとTC相 互

間 の関 係 で あ る こ とがわ か り,SMな い しはSM

・SA耐 性 は ,CMやTCと 結 合 し易 い.多 剤 耐

性 菌 発 現 の 背 景 に,SM・SA耐 性 の参 与 す る可

能 性 も あ る こ とを考 え させ られ る.

これ らのR因 子 は,菌 と菌 の接 触 に,す なわ ち

接 合conjugationに よ らず とも フ ァー ジに よ る導

入 が 可 能 で あ る.8種 類 のRは すべ てPlkcに

よ りK-12株 に 導入 され るが,こ の 場 合TC耐 性

を含 む す べ て の多 剤 耐 性 はTCだ け を分 離 して導

入 し易 い.こ の こ とはRの 構 造 にお い てTC耐 性

の特 殊 性 を考 え させ る.

R因 子 は 又 ε系 フ ァー ジ を用 い て,Salmonella

E群 に も導 入 され る.こ の場 合4剤 耐 性 は 全 くT

C1剤 とOM・SM・SA3剤 耐 性 に 別 れ て導 入

され る.し か し,citrobacterに はCM・TC・

SAと して導 入 さ れ る例 が み られ た.ε フ ァー ジ

で 導 入 さ れ た耐 性 菌 は溶 原 化 してい て再 伝 達 性 が

な く,フ ァー ジ のみ を脱 落 せ しめ て も耐性 は残 存

し伝達 性 が 出 ない.こ れ らは εフ ァー ジ を用 い て

の み 再 導 入 出 来,ア ク リジ ン系 色 素 で耐 性 因子 の

除 去 も出 来 ない.従 つ て こ の場 合R因 子 の細 胞 内

の 存 在 様 式 は,cytoplasmic stateと は異 な る状 態

に あ る と考 え られ る.

6.耐 性 菌 赤 痢 症 例 の観 察

都 立駒込病 院 小 張 一 峰,御 簾 納 孝 次 郎

● 序 言

● 健康人お よび内科 外来患者におけ る耐性大腸

菌 出現頻 度

● 赤痢患 者における耐性大腸菌 出現頻度

● 感性大 腸菌 の抗生剤投与後 の抗生剤感受性

● レプ リカ法に よる集落 の感受性検査

i)赤 痢菌

ii)大 腸菌

● 感性赤痢菌感染例 の耐性菌1回 証 明例

● 感性赤痢菌 よ り耐性赤痢菌 に変わった例

● 感性1b菌 および耐性2a菌 同時証 明例

● 要約考察 と結論

序 言

多剤耐性赤痢菌の発生機序に関する観察 と実験

の中で,

(1)赤 痢患者に抗生剤 を投与すると,感 性赤

痢菌 が耐性赤痢菌にかわる.

(2)試 験管内において感性赤痢菌 と耐性大腸

菌を混合培養すると,大 腸菌か ら赤痢菌へ耐性が

伝達 される.

とい う2つ の事実が特に注目されている.こ の

2つ の事柄を相互に結びつける実験 と推論が可能

になつたならば,耐 性菌発生機序の解明が容易に

行なわれるであろうことは想像できる.し かしな

がら,第1の 事実は,患 者の便培養の際に培地上

にみられた所見 であつて,腸 管内においてこれと

同 じ現象がおこつているとい う確かな証拠はない

し,第2の 事柄は試験管内における細菌遺伝学の

実験成績であつて,腸 管内の自然現象の再現でな

いことは明らかである.

従つて,両 者の間に相関を見出だす とい うこと

が耐性菌発生機序解明のための,最 短で唯一の道

と断定することは早計であろうと考える.現 在の

段階においてはなお,こ の2つ の事項に関連 ある

と思える事象の観察を更に広め,そ れにもとずい

た実験を行なうことが必要であると考える.

われわれはこうした見地か ら,赤 痢患者 を主に

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昭和36年10月20日 511

した人体材料について次のような観察 を行 な つ

た.

健康人集団および内科外来患者における耐性大

腸菌の出現頻度

某会社の従業員98名 について,昭 和35年1月 か

ら36年5月 までの闇に5回 以上の便の培養検査 を

行ない,耐 性大腸菌の出現状況 をみたのが図1の

カーブである.

C,T,Sい ずれかに耐性 を示 した腸内細菌の出現

頻度 を百分率で示 してある.こ の曲線の示すとこ

ろで最 も注 目されるのは,耐 性菌は冬に少な く,

5月 頃より急激に増加 し,6月 から11月 まで100

%近 くの高率に検出されているとい うこ とで あ

図1

る.36年 度 も1月3月 は下 降 し,5月 に な つ て再

び 曲線 は上 昇 してい る.

これ らの主 と して腸 内細 菌 の分 類 は 表1で あ

る.E.coliが い ず れ の月 も最 も多 く検 出 され てい

る が,8,9月 の夏 期 お よび11月 に は,E.col以

外 の菌 が 多 く検 出 され,冬 お よび春 に は,E.coli

以 外 の 菌 がほ とん どみ られ てい ない.す なわ ち,

これ らの 月,主 と して 夏 期 の耐 性 菌 の内 訳 に は,

Klebsiella, Proteusな どが相 当数 に 含 まれ てい

るが,冬 季 の そ れ は ほ とん どがE.coliで あ る と

い う相 違 が み られ る.

次 に,本 年3,4,5月 の内 科 外 来 患 者 の耐 性

菌 出 現 状 況 お よ び分 類 は 図2で あ る.3月 よ り

図2

表1健 康人(某 集 団)腸 内細菌叢 に於 ける耐性菌

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512 日本伝染 病学 会雑誌 第35巻 第7号

図3

4,5月 にかけて耐性菌の出現がふえ,か つ5月

になるとその種類 も多様になつている.前 述の健

康人集団におけると大体同様の傾向がここにもみ

られているわけである.

これらの耐性菌の一部の耐性パターンをみたの

が図3で ある.す なわち,大 多数のものがT単 独

耐性であり,10%程 度に3者 耐性,S単 独耐性菌

がみ られている.

赤痢患者におけ る耐性大腸菌 の 出現頻度(図

4)

感性赤痢菌症例の入院時便培養検査に,Cお よ

びT50mcg/ml含 有平板培地 を併用 した81例 につ

いてみると,こ の中Cお よびT含 有培地に全 く大

腸菌集落 をみなかつたものが60例 あり,T含 有培

地にのみ大腸菌集落 を認めたものが11例,Cお よ

図4

図5

びT両 方にみられたものが10例 あり,Cの みに認.

めたものは1例 もなかつた.

耐性赤痢菌症例について は,C,T,S3剤 耐性

菌症例15例 の中,8例 はCTS3者 耐性大腸菌を

入院時にすでに認めてい る.4例 のみが耐性大腸

菌を証明せず,他 はTあ るいはS単 独耐性菌 を検

出 している.

また,T単 独耐性赤痢菌 を証明した2例 の中,

1例 は3剤 耐性大腸菌,他 の1例 はT単 独耐性大

腸菌を検出 している.(図5)

すなわち,耐 性赤痢菌症例において,感 性赤痢

菌症例 あるいは健康者 または外来患者グループよ

りも,は るかに高率に耐性大腸菌を証明 した.

感性大腸菌の抗生剤投与後の抗生剤感受性

入院時検出された大腸菌がC,T,Sに 感受性で

あつた100例 について,約3週 間の入院期間の後

退院時の大腸菌の抗生剤感受性 を,投 与抗生剤別

に調査 したのが表2で ある.

C投 与 を行なつた39例 中23例 は感性のままであ

表2

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昭 和36年10月20日 513

つ た が,そ の他 は7例 が3剤 耐性,6例 がCS耐

性,T単 独 耐性 が2,CT耐 性 が1例 み られ て い

る.CS耐 性 を示 した6例 は 同 一集 団 の患 者 で あ

り,こ の外 に はCS耐 性 は み られ て い な い.

T投 与 例 の30例 の 中,12例 がT単 独 耐性 に な つ

て い る.5例 が3剤 耐 性,2例 がTS耐 性 を 示

し,11例 が感 性 大 腸 菌 の み を検 出 して い る.

Cお よ びTを 投 与 した20例 の 中,9例 は3剤 耐

性 に な り,6例 がT単 独,3例 がTS耐 性 を 示

し,感 性 の ま まで あつ た も のが2例 に 過 ぎ なか つ

た.

メタ ンス ル フ ォ ン酸 コ リス チ ン(コ リマ イ シ ン

S)お よび フ ラヂ オ マ イ シン(デ キ ス トロマ イ シ

ン)を 投 与 した5例 お よび6例 は,投 与 後 数 日間

大 腸 菌 の全 く出 現 しない 期 間 をみ る の が常 で あつ

た が,そ の後 に は 出 現 して くる 大 腸 菌 はC, T, S

感 性 の もの のみ で あつ た.

図6に み る よ うに,症 例1は フ レキ シネ ル 菌

2a感 染 例,第2病 日 よ り2日 間C,第4病 日 よ

り2日 間Tを 投 与 してい るが,投 与 中止 後3日 目

よ り3剤 耐 性 サ イ トロ バ ッター が出 現 し,更 に第

9病 日 よ り症 状 再 発 が み られ た た めに,Tを 再 び

投 与 す る と,投 与3日 目か ら3剤 耐 性 のE.coli

が 出現 して い る.

症 例2は 第14病 日か ら2日 間Tを 投 与 した2a

感 染 例 で あ るが,投 与2日 目か ら3剤 耐性 大 腸 菌

が 出現 して い る.

図7は 入院 時 の感 性 大 腸 菌 がCS耐 性 菌 にか わ

つ た7人 の 同一 集 団 の例 で あ る.あ る工 場 の寄 宿

図6

図7

舎に起居 し,同 一賄の食事 をとつていた7人 が,

ほ とんど同 日に発病 し,送 院 された.い ずれもフ

レキシネル菌2a感 染による中等症および軽症患

者である.入 院当 日の便培養により,4名 はSS

培地上にフレキシネル菌2aを 証明 し,全 員BT

B培 地上に大腸菌E.coliが 見 られたが,Cお よ

びT 50mcg/ml含 有培地上には1つ も集落はみら

れなかつた.す なわち,こ れらの例にみられた大

腸菌はCお よびT感 性大腸菌であつた.

ところが,入 院直後か ら7名 にクロラムフェニ

コール250mgを1回 量 として1日4回 内服投与 を

開始 した ところ,次 の日の便培養において,分 離

された大腸菌はすべてCお よびS2剤 耐性大腸菌

になつていた.そ の後連 日の便培養において退院

まで連続 このCS耐 性菌のみが培地上にみられて

いた.そ して,耐 性パターンCお よびSと い う大

腸菌は他からは1例 も証明されていない.

このように,他 の例か らは1度 も見 られない耐

性パターンが,同 一場所に居住する7名 全部に出

現 したことは興味深い.し かも,は じめは感性大

腸菌であり,ク ロラムフェニコール投与1日 目に

全例があたかも待つていたかのようにCS耐 性菌

になつている.同 一家屋に起居 し,寝 食を同じく

する人達が,同 一菌型の大腸菌を保有するとい う

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514 日本 伝染病学会雑誌 第35春 第7号

ことはありうることであるが,こ の場合は,CS

耐性に容易にかわ りうる大腸菌を共有 していたも

のと考 えられる.

そ して,特 異な耐性パターンを生ずるとい うこ

とは,外 来の影響たとえば抗生剤投与 とい うこと

も当然関係があろうが,そ の大腸菌にすでに備え

られている条件がある,と い うことをこの集団例

から推定できよう.

レプ リ力法による集落の感受性検査

SS培 地 あるいはBTB培 地に出現 した赤痢菌

の集落,お よびBTB培 地上の大腸菌の集落 を,

レプリカ法によつてSS培 地,BTB培 地,お よ

びCとTを それぞれ50mcg/ml含 有 しているBT

B培 地にプリントした結果が表3で ある.

赤痢菌がほとん どあるいは全 く純培養の状態に

出現 しているSS培 地 あるいはBTB培 地78例 に

ついてみると,BTBに そのままプリントできる

が,Cお よびT含 有培地には全 く集落 をみられな

かつたものが71例,Cお よびT含 有培地にも集落

の出現 をみた例が7例 あつた.後 者7例 の中,3

例は3培 地の集落数は全 く同 じであつたが,4例

はCお よびT含 有培地上の集落数がBTB培 地の

それよ りも少数であつた.

その4例 について,更 に12.5,25,50,100,

200mcg/ml Cお よびTを 含有 した平板上にプリ

表3レ プ リ カ法 に よ る検 査(1)

赤 痢 菌78回

大腸菌184回

表4レ プ リカ法 に よ る検 査(2)

-赤 痢 菌-

ン トした成績は表4で ある.

50mcg/ml含 有培地上の集落数がBTBの それ

と不均一であるといつても,伊 東,小 林例 はC

100mcg/ml上 の集落数が半数であつたにすぎず.

岡例はC50お よび100mcg/ml上 の集落数の減少

があつたので,T含 有培地は不変である.す なわ

ち,Cの50mcg/ml以 上の感受性に多少の異同が

あつたわけである.し かし,佐 藤例のみはBTB

培地上に20個 の集落がみられたが,抗 生剤含有培

地には5個 以下の集落が算えられたにすぎない.

この例は,感 性菌の中に耐性菌の少数が混在 して

いたと考えてよいだろう.

大腸菌については184回 レプリカ法による検査

を行なつた.そ の結果,Cお よびT培 地に全 く集

落のみられない ものが51例,3培 地に大腸菌集落

をみた ものが69例 あつた.こ の外,Cの み が22

例,Tの みが42例み られた.

C培 地のみに大腸菌のみられた22例 中8例,9

培地 のみの42例中20例,す なわち半数近 くはB歴

B培 地 よりも集落数が少な く,従 つて,便 中の大

腸菌の一部がC耐 性,T耐 性 を示 したものが多か

つた とい うことである.と ころが,Cお よびTい

ずれの培地にも大腸菌集落をみた69例 に つ い て

は,こ の中5例 のみに集落数の異同がみ られたに

すぎない.こ のような多剤耐性菌が腸内に存在す

る場合には,他 の感性菌の棲息を許さず,こ れの

みが腸内大腸菌叢を占めている場合が多いのでは

ないかと想像 される.

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昭和36年10月20日515

感性赤痢菌感染例の耐性菌1回 証明例(図8)

佐藤例は,あ る小工場の使用入宿舎におこつた

フレキシネル菌1bに よる集団赤痢の中の1例 で

ある.悪 寒 と共に発熱 し,下 腹部痛 を覚えると共

に下痢がはじまり,数 回の水様便ののち,膿 血の

混入に気づ くようになり,し ぶ り腹 を伴つた.同

日赤痢 として送院 された.同 日6回 次の日15回の

膿血便があ り,便 状のものの排出をみず,し ぶ り

腹がはげしかつた.入 院当日の便培養によりSS

培地およびBTB培 地上に純培養にフレキシネル

菌1bが みられた.こ のSS培 地上の集落 をレプ

リカ法によりBTB培 地およびCとT含 有培地上

にプリン トしたところ,C, T培 地には1個 の集

図8

落 もみずすべて感受性菌であつた.次 の日もSS

培地上にほとんど純培養に1bを 証明したが,第

3病 日直腸鏡検査施行時に採取 した直腸内容のS

S培 地上の所見か ら,前 述のような耐性菌の混在

がみられたのである.

治療はフラン誘導体 を1日 量160mg,3日 間用

いたが,解 熱,便 回数減少,便 状回復など一応の

効果はみられたが,赤 痢菌の排出はとまらず,16

病 日よりテ トラサイクリン剤 を投与 して19病 日よ

り排菌が停止 している.5病 日より16病 日まで6

回菌 を検出してい るが,す べて感受性菌 で あ つ

た.

すなわち,こ の例は第3病 日の直腸内容の培養

か ら耐性菌が少数混入 しているのが1回 だけみら

れたのであつて,そ の外8回 にわた り赤痢菌を検

出 しているが,す べて感性菌であつた.

もしも,赤 痢菌に対する政撃力の弱いフラン誘

導体のかわ りに,Cあ るいはTの ような抗生剤を

用いた とするならば,感 性菌の増殖 はそのために

抑制 され,代 わ りに少数の耐性赤痢菌が勢 をえて

増殖 し,耐 性菌症例にかわる可能性 も考えられな

くはない.

なお,こ の例および同一集団の中で同時に発生

した他の例は入院時すでにCお よびT含 有培地上

に大腸菌の集落多数 を認めており,多 剤耐性大腸

菌 をすでに腸管内に保有 していた.し かし,こ の

1例 にみるように,フ ラン誘導体が排菌停止に対

して効果 を示 さず,治 療後 も数回にわたつて菌を

証明しているが,こ れらの菌はすべて感性菌であ

つた.他 の3例 にも耐性菌はみられていない.

この症例は,耐 性大腸菌が増殖 している腸管内

で,感 性赤痢菌に少数の耐性赤痢菌の混在が証明

されなが らも,そ の後検出される赤痢菌は感受性

にとゞまつた例 として示 したものである.

感性赤痢菌より耐性赤痢菌に変わつた例

この症例(図9)は 前の例 と反対に,感 性赤痢

菌が,抗 生剤投与後耐性赤痢菌にかわつた例であ

る.

図9

患者は24才 の男子,発 熱,頻 回の下痢,血 便,

しぶ り腹を主訴 として,第3病 日に入院 した.同

日は算えきれない位頻回の便通があり,少 量の膿

血 を排出し,し ぶり腹に苦 しんだ.同 日のSS培

地上に純培養にフレキシネル菌2aの 集落がみら

れた.BTB培 地,Cお よびTを50mcg/mlに 含

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516 日本 伝染病学会雑 誌 第35巻 第7号

有するBTB培 地上にC, T, S耐 性の大腸菌 を証

明 した.

入院直後か ら2時 間 ごとにC250mgず つ を投

与,1日12回 計3.09を 投与 した.便 回数は翌 日

より著 しく減少 し,か つほ とんど平温にまで解熱

した.SS培 地上にも次の日から赤痢菌集落は姿

を消 したが,耐 性大腸菌は連日検出されていた.

便の性状 も治療後5日 目頃から回復 してきたが,

第10病 日に至つて再びSS培 地上にかな りの数の

赤痢菌集落 を証明した.こ のSS平 板 をBTB,

Cお よびT含 有培地にレプリカ法によりプリント

すると,全 集落が耐性菌であることが判明した.

入院当日のSS培 地は同 じ方法に より,全 集落が

感受性菌であることを確かめてある.す なわち,

この例は最初感性菌のみを検出 したが,僅 か1日

の間Cを 内服投与 した後1週 間経過して,全 部耐

性 と化 した赤痢菌が証明されたのである.

感性1b菌 および耐性2a菌 同時証明例

図10は 抗生剤感受性のフレキシキシネル菌1b

と多剤耐性菌2aを 同一患者から証明した例であ

る.血 液 を混える下痢,発 熱があり,第2病 日に

赤痢 として送院された.同 日5回 の膿血を混ずる

図10

泥 状 便 が あ り,夜 発 熱 は39℃ 近 くに まで達 した.

この 日のSS培 地 上 の集 落 の 中,20個 が フ レキ シ

ネ ル菌1bで あ つ た が,他 に1個2a菌 が混 在 し

て い た.こ れ に気 ず い た の は,Cお よびT50mc

g/ml含 有BTB培 地 上 に そ れ ぞ れ4個 と3個 の集

落 が あ り,こ れ らは す べ て2aで あ つ た た め で あ

る.す な わ ち,こ の2aはC, T, Sに 耐性 を示 し,

1bは 抗生剤培地上に全 く姿 を現わさず,感 性菌

であつた.

治療は入院当日よりコサ ・テ トラシンを250mg

ずつ毎6時 問1日4回 投与 を2日 間つづけ,更 に

次の2日 間は125mgず つを1日4回 投与 した.治

療開始の次の日にSS培 地上に数個の赤痢菌集落

をみたが,す べて1bで あり,抗 生剤含有培地上

にも耐性2aは1個 も出現しなかつた.治 療後症

状は急速に軽快 し,第6病 日にはすでに有形便 の

排出をみているが,そ の日に行なつた直腸鏡検査

の所見は,粘 膜の著明な充血,浮 腫,混 濁の状態

であり,直 腸内容の培養により感性1bを 証明し

ている.

この例は,感 性1bに 少数ではあるが耐性2a

の混在 を証明で きたもので,し かもテ トラサ イク

リンの投与後 も,感 性菌は数日間を経て検出 され

たが,耐 性菌は全 く証明されなかつたので ある.

一般の推測 とは逆の結果 のようにも思えるが,1

bに 比べて2aの 数がはるかに少な く,感 染の主

役は1bが 果たし,耐 性2aは 病原菌 としての意

味がほ とんどなかつたか も知れない.従 つて,2

aは 抗生剤投与の有無にか わゝらず 自然 に 消滅

し,感 性1bは 感染の治癒傾向と共に消失 した と

も考えられる.

また,こ の例 も入院時すでに多剤耐性大腸菌の

存在が証明されている.

耐性赤痢菌が存在 し,そ こへ抗生剤の投与が行

なわれたとしても,そ の菌数がきわめてわずかで

あれば,自 然に消滅 して行 くこともありうる,と

い う例である.

考察と結語

以上の観察 を要約 して,こ れに若干の考察 を加

えてみよう.

大腸菌について

1)健 康人便中の耐性大腸菌出現頻度は年間 を

通 じて相当の変動があり,特 に夏期に高い.こ の

時期は,E. coli以 外の腸内細菌,プ ソイ ドモナ

スな どの耐性菌が多 くみられた.耐 性パターンは

T単 独が最 も多 く,3者 耐性は少ない.

2)耐 性赤痢菌症例は3者 耐性大腸菌が半数以

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昭和36年10月20日 517

上にみられた.

3)入 院時感性大腸菌を証明 した例に,各 種の

抗生剤 を投与 した場合 と比較すると,TはT単 独

耐性大腸菌 をみることが多 く,C投 与例は約20%

が3者 耐性になつたが,CとTを 併用 した例では

約 半数が3者 耐性にな り,感 性のままであつたも

のは10%に すぎなかつた.

4)CS耐 性大腸菌は7人 のある集団生活の全

員にCi投 与後みられ,他 の例にはみられ なか つ

た.

5)レ プリカ法によつて培地上の集落の感受性

の異同をみると,CTS3者 耐性大腸菌は他にく

らべて,そ れのみが培地上 を占めていることが多

かつた.

これらの所見にみられるように,CTS3者 耐

性菌は健康人の間にそれ程広 く分布 していない.

それに くらべてT単 独耐性菌のその出現頻度は高

く,特 に夏期にみられるが,夏 期はE. coli以外

の耐性菌が多い.こ れは耐性のE. coli以 外の腸

内細菌が高温時に腸内に増殖 し易いためか,あ る

いはこれらが培地上に発育 し易いためか,あ るい

は これが培地上に発見 し易いためか判然とはしな

い.

抗生剤投与は耐性大腸菌の発現 を誘 うようにみ

えるが,全 例ではない.T投 与によりT単 独耐性

菌 がみられることが多 く,CはCTS耐 性菌 をみ

ることが比較的多 く,Cお よびTを 併用すると,

3者 耐性菌の出現率が高 くなる.他 の抗生剤は,

これ らの耐性菌出現 を助長 しない.

CS耐 性のような特異なパターンの発生がある

集団にみられた.同 じ〇投与によつても,そ の大

腸菌によつては特異なパター ンが 生 ず る.従 つ

て,耐 性菌ができるかできないか,ど のような耐

性菌ができるかとい うことはすべての大腸菌,す

べ ての人が均一な条件下にあるのではな く,特 異

な耐性菌発生の因子がある集団生活者の間に濃厚

に存在することもあ りうる.す なわち,こ うした

因子の分布は均等ではな く,局 地的に濃厚に分布

していることが推定される.

赤痢菌について

1)感 性フレキシネル菌1b感 染例の直腸内容

か ら1回 のみ少数の耐性菌混在 をみたが,そ の後

は感性菌のみが数回にわたつて検出された.も し

も本例に抗生剤が投与 されていたら,感 性菌は駆

逐 されて耐性菌症例と化 したかも知れない.

2)人 院当 日は感性菌2bを 純培養に証明 した

例に,1日3.09Cを 投与 し,1週 問菌陰性の期

間をおいてか ら全集落が耐性菌 となるのがみられ

た.こ のように抗生剤が一時排菌 を抑制 したよう

にみえてから,再 び耐性菌 となつて排菌のつづ く

例は度々みられる.抗 生剤投与後生残 していたき

わめて少数の耐性菌が漸次その数をまして,あ る

時期になつて培地上に証明されるようになるとい

う可能性が考 えられる.前 の例に抗生剤が投与 さ

れていたならば,こ れ と同様の結果がみ られたか

も知れない.

3)感 性1b菌 に少数の耐性2a菌 の混在を証

明した例に,抗 生剤が投与されたが,耐 性菌は消

失 し,感 作菌が後 まで残つた.お そら く この 場

合,炎 症の主役は感性菌によつて演 じられていた

のであろう.そ して少数共存 していた,い わば随

伴菌的存在であつた耐性菌は,抗 生剤投与の有無

と関係なく自然消滅 したものであろう.

赤痢菌が腸内に相当期間 とどまるとい うこ と

は,少 なくとも起炎菌 としての意義においてであ

ろ うと思 う.抗 生剤投与により感性菌が耐性菌に

なる機会があるとすれば,そ の菌が病原的な意義

を有するために,腸 内に長 くとどまるか らであろ

う.従 つて,病 原性 と関係のない,随 伴菌的存在

であつた赤痢菌は,た とえ抗生剤耐性,抗 生剤投

与 とい う条件がそろえられても,腸 内で増殖 をつ

づけることは不可能であろうと推定 される.

すなわち,赤 痢菌感染のないところに耐性赤痢

菌の発生はない.赤 痢菌感染の流行と抗生剤服用

の普及 とい う2つ の条件の重複が耐性赤痢菌の発

現 を誘 う要因 として,当 然重視 さるべ きものと考

える。

以上述べたようなわれわれの断片的な観察の結

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518 日本伝染病学会雑 誌 第35春 第7号

果を,ど のように配列 してみても,は じめに述べ

た2つ の事項 を相互に関連させるような筋道をつ

くることはできなかつた.し かしながら,2つ の

事項の個々について,原 因的にあるいは結果的に

関連あると思えるい くつかの所見を,わ れわれの

観察の中に見出すことができた.そ れに正 しい,

精細な意味づけを与えるためには,今 後より多角

的な方向により広い範囲にわたる観察 を重ねる必

要があろう.

7.耐 性菌赤痢の臨床

名古屋市立東市民病院 戸谷 徹造

1)抗 生剤耐性菌赤痢は昭和26年 頃より報告が

あるが昭和33年 頃より急激に増加 してきている.

名古屋市においては昭和28年SM耐 性菌2株 を検

出 したのが最初で,そ の後昭和31年 まで は毎年

1,2株 を検出するに止 まつたが,32年 以降,旭 丘

高校の集団発生(2a菌TC耐 性)以 後に急激に

増加 し,昭 和32年57株,33年66株,34年159株,

35年281株 を検出し,SM・CM・TC3種 耐性

が最も多 く,次 いでTC耐 性,SM・CM耐 性の

順 となり,菌 型別には3a菌,2b菌,2a菌 の

順に日常検出する菌型のほ とんどすべてに認めら

れてい る.

2)耐 性菌が どのように して拡がつて行 くか と

い うことについて昭和34年5月 市の南部南区,港

区,熱 田区にSM1.56γ/ml,TC 100γ/ml,CM

0.39γ/ml ST 100mg/dlのTC耐 性菌患者の散

発があ り,続 いてその中心にある住友金属工場で

同一耐性菌による集団発生があり,次 いで市の南

部に同一耐性2b菌 の散発があつたので追及 した

が,こ れら地域以外の散発例もすべて港区 と関係

のあるものであつた.

3)耐 性菌集団,家 族発生例において原則 とし

て1集 団,1家 族発生,1流 行1菌 型であり,そ

の薬剤耐性 もほ とん ど同一であるの が 原則 で あ

る.し かるに集団発生6例 中2例 に感性菌患者 を

混 じたものがあ り,家 族発生例40例 中5例 に感性

菌患者が混 じていた.逆 に感性菌集団1g例 におい

ても耐性菌患者 を混 じていた.ま た,入 院時感性

菌であつた家族発生例で治療中に耐性の上昇 した

ものが5例 あつた.

4)耐 性赤痢菌の発現には抗生剤の服用による

耐性化 と常在大腸菌に既に耐性大腸菌が存在 し感

染 した赤痢菌がこれら耐性大腸菌 と腸管内で結合

し耐性赤痢菌が出来るとい う考えがある.TC耐

性赤痢集団発生例である住友金属例の50例 につい

て第1病 日より連日大腸菌の薬剤抵抗性 を検査 し

たところ,第1病 日には37.5%が 耐性大腸菌であ

り他はいずれも感性菌であつたのが,日 を追つて

増加 し第3病 日より第6病 日には57.1%な い し

65.7%に 耐性大腸菌 を検出 し,以 後減少 した.散

発例についても同様の経過を示 した。以上のこと

か ら,必 ず しも耐性大腸菌 との結合のみにより耐

性赤痢菌は発現するものではないようである.

5)抗 生剤耐性 とスルファチアゾール耐性 との

間には一定の関係がある.す なわち,落 合は抗生

剤感性菌が耐性化する時,使 用抗生剤以外の抗生

剤にも耐性 とな り一挙に多剤耐性になる事実を指

摘しているが,こ の場合,STも 同時に耐性にな

る.昭 和34~35年 に入院 した耐性菌患者のST耐

性 を見ると,TC耐 性患者169例 中8例 からST

感性で,そ の他の耐性菌患者はすべてST耐 性で

あつた.耐 性上昇例39例 中,入 院時にST感 性の

ものが6例 あつたが,そ の内TC耐 性になつた1

例 を除き他のSM耐 性,SM・ 〇M耐 性,SM・

CM・TC耐 性になつた5例 はすべてSTも 耐性

になつた.こ の事実はさきに落合 ・山中の実験に

よる耐性の組合せの場合,SMとSTは 交叉耐性

を持つ事実 と一致 している.

6)赤 痢 の治療で最 も問題になることは後排菌

の問題であ る.後 排菌 は 抗生剤治療1ク ール後

3.1%~7.9%の 間であつたが,耐 性菌の増加 と

共に昭和34年 度9.3%,昭 和35年 度12.6%と 高い.

これを薬剤耐性別に昭和34~35年 の患者について

見 ると,感 性菌では6.3%で あ る が耐性菌では

34.3%で,特 にSM・CM・TC耐 性菌では53.6

%の 高率であつた.

7)治 療剤別耐性別治療成績ではSM・ 〇M・

TC耐 性に後排菌又は排菌持続例多 く,ニ トロフ

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昭和36年10月20日 5191

ラン系製制の無効率22.3%, KM26.4%で 他のC

M系 製剤, TC系 製剤は85.1%,46.8%と 高率に

無効であつた.そ の他の耐性菌でも無効例が多か

つた.

しかし,タ オシンを赤痢治療に用い有効な成績

を得たので今後の追試が望 まれる。

8)死 亡例は感性菌1,124例 中3例0.26%,耐

性菌231例 中1例0.43%計1,355例 中4例0.22%

で,こ れらはいずれも入院12時 間以内の死亡例の

みであつた。

以上耐性菌赤痢の現況 を述べた.

討論 札医大微生物 植竹 久雄

1.横 田氏討論(1)

2.渡 辺氏答弁

3.植 竹:渡 辺さんはRTFが 菌染色体 に

integrateさ れた状態を証明 したとおつしやるの

に対 し,中 谷さん,横 田さんはそれをお認めにな

らない.こ ゝに問題があると思われますが,中 谷

さん,横 田さん,何 故お認めにならないか,そ の

辺 を御説明いただけませんか?

4.横 田氏発言(2),(3)

5.渡 辺氏答弁

6.中 谷氏発言

7.渡 辺氏答弁

8.植 竹:渡 辺 さんは4剤 耐性から(SA・

SM・CM)耐 性 とTC耐 性への分離(混 合培養

で伝達可能の形で)を 報告 されているのに対し,

中谷 さんはTC以 外の薬剤についても,単 独耐性

が分離(混 合培養で伝達可能の所で)さ れると報

告されたよ うに理解 していますが,こ の差異につ

いてどうお考えでしようか?

9.中 谷氏発言

10.渡 辺氏発言

11。 中谷氏簡単に発言

討論 東大医細菌 横 田 健

(1)耐 性伝達の機序に対 しては,1960年 始め

の秋葉,木 村 らの日本医事新報における報告にお

いて,形 質転換,形 質導入,染 色体接合以外のも

のであろ うことがすでに実験データを伴つて報告

されていた と記憶する、

(2)渡 辺氏のRTFが エピゾームであるとす

る考 え方 を諒承するためには実験的事実が不充分

と思われる.特 に,エ ピゾームと耐性因子が別で

あるとする点,及 びエピゾームの1つ の重要な性

質である宿主染色体上にある状態の存在には疑義

があると思われる.

(3)エ ピゾームが宿主の染色体上にある耐性二

伝達支配遺伝子をとり込むと考えることは作用の

異なる4つ の薬剤の耐性麦配遺伝子が1カ 所にま

とまつて存在すると考えるのは遺伝学上無理があ

ると思われるがどうですか?た とえ透過性が4

つの薬剤耐性の主要機構であつても,普 通透過性

支配遺伝子は作用に関する生化学的遺伝子の近 く

にあるのが普通である、

答 東大細菌 横田 健

多剤耐性大腸菌の起源は不明であるが,多 剤耐

性大腸菌が突然発見 されたという事実と,耐 性因

子の耐性支配部分の起源が菌の染色体上にあると

する考 え方の間には関係はない と思われる.真 の

起源は不明である.

質問 栃木衛研 木村 貞夫

多剤耐性赤痢菌の発生には,耐 性大腸菌 を介 さ

ないで薬剤投与のみで出現する場合あ りと御考え

ですか.

アジ アかぜ

1.ア ジアかぜの疫学

札幌医大 金光 正次

アジアかぜの疫学にはまだ多 くの不明な問題が

残つているが,そ のうち,罹 患の年令素因と,非

流行期における病原ウイルスの生態についての我

々の研究を述べる.

1.年 令素因 アジアかぜが 出現す る以前 に

は,高 年者 を除 くと本ウイルスに対する抗体を保

有 している老が 全 くなかつた ことか ら,こ れ が

1957年 の世界的流行を誘発 した最大の原因 とされ

ている.換 言すると,これは処女地流行であつた.

しかし,60才 までの者がこのウイルスに対する免

疫 を持つていなかつたとすれば,そ れまでの年令

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520 日本伝染病学会雑誌 第35巻 第7号

の者は等 しくその感染 を受け,罹 患率に年令差が

現 われない筈である.と ころが周知のように,ア

ジアかぜの第1波 の流行における罹患率は5~15

才に最も高 く,以後は年令 と共に急激に低下 し,著

しい年令差があつた.こ れは我国のみでなく世界

各国に も共通に認められている.そ の理由として

上記の年令群は幼稚園や学校に通学する者に該当

し,そ こで密接な接触が行われたためと説明され

ている.し かし,よ り年長の者でも,上 級の学校

や家庭,職 場などにおいて患者 と密接に接触する

機 会は少 くないから,環 境因子のみでこの年令差

を説明することは困難 と思われる.我 々は第1波

での罹患率が成年以後においては,年 令が長 じる

と共に低下する事実か ら,既 往のA型 イ ・ウイル

スに対する抗体がアジアかぜの感染を或る程度抑

制 するのではないか と考 えた.こ の仮説を験する

ために,ア ジアかぜの流行に曝露された老人の集

団についてその前後の血清 を採取 し, A, A1,

A2型 の代表的ウイルス株に対する血球凝集抑制

抗 体 と補体結合抗体 を測定 し,流 行前における各

抗 体の保有 とアジアかぜの感染(特 異抗体の4倍

以上の上昇)の 関係 を観察 した.そ れによると豚

型及びA1型 ウイルスに対する抗体の有無はアジ

アかぜの感染 と何 らの関係 もないが,感 染 を免れ

た者はA型WS, PR 8及 びWeiss株 に対する

抗体 を保有する率が明かに高いことを知つた.こ

れ と同 じことは弱毒アジア型 イ・ワクチンを用い

た実験的感染でも認められ,以 上の成績は古いA

型ウイルスに対する抗体は,ア ジアかぜの感染に

抑制的に作用 したことを暗示する.し か し,そ れ

がA型 抗体 自身の作用によるか,他 の因子が介在

するかは解 らない.イ ・ウイルスの抗原構造 と,

それに対する同型及び異型抗体の産生の問題に対

して,こ の成績は多 くの示唆を含んでいると考え

られる.な お,上 述のアジアかぜの年令差は第2

波 の流行においてはほ とんど消失 したが,こ れに

は環境条件が大 きく影響 していると思 う.

2.非 流行期におけるイ・ウイルスの生態

イの非流行期に病原ウイルスがどこに存在 し,

いかに して生存を続けているか とい うことはよく

解つていない.そ れは非流行期にウイルスの分離

がはなはだ困難なことに起因 している.し かし,

これは必ず しもイ ・ウイルスが存在 しない ことを

意味 しない.我 々はアジアかぜの流行のない期間

に,健 康者 と外来患者 を合せ240名 か らウイルス

の分離 を試みたが全例陰性であつた.と ころが,

同 じ期間に種 々の集団についてアジア型 ウイルス

に対する抗体の変動 を観察 した結果,い ずれの集

団においても初めに低い抗体は上昇 し,高 い抗体

は低下することを認めた.こ の抗体変動の方向が

転換する点は1:20~30(初 期抗体の高さ)に あ

り,そ の値は集団の年令,季 節,及 び観察期間の

いかんにか ゝわ らずほ とん ど一定 していることは

きわめて興味深い。これは非流行期においても病

原ウイルスが存在 し,感 受性者を絶えず不顕性に

感染 していることを意味 している.と ころが,同

じ期間にA型 抗体 もB型 抗体 もほ とん ど変動せ

ず,ま たA1型 抗体は大多数において低下 してい

ることが証明された.こ れはアジア型ウイルスの

出現に伴い, A1型 ウイルスが消失 したことを意

味 している.

2.1960年 のA2型 インフルエンザの流行にお

ける抗原原罪説の検討

予 研 福見 秀雄

オランダのMulderは,つ とにA2型 インフ

ルエンザウイルスの免疫体がアジア風邪の流行前

に高年令層の人々の若干の者に所有 されているこ

とを指摘した。そのことは別の面ではDavemport

等が抗原原罪説に基づいて検討 し,結 論 と して

はMulderの 所見のうらづけ を提供 したことに

なつてい る.こ れらの所見 をふえんして,ア ジア

風邪の病原ウイルスA2型 は,か な り以前に一度

地球上に現れ,そ して永い年月の間 どこかに潜伏

した後1957年 に地球上に再登場 したとい う考 えが

構成 される.

アジア風邪の流行の第一波 と第二波では,既 に

発表 されている通 り,そ の好発罹患、年令が学童を

中心としたものであつて,6才 から30才位 までの

年令層が圧倒的に多 く罹患 した.高 年令層,主 と

して60才 以上の者では罹患状況 が 散発的 で あつ

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昭 和36年10月20日 521

て,わ ずかにDavemportが 症例を集めるのに努

力のあとを示 しているがあまり好適な例を集める

ことは困難であつた.ア ジア風邪の流行が漸次進

行 して第三波,第 四波に進むにつれて感染による

免疫の成立のために罹患令層が変動することは当

然考えられる.第 三波は1959年 の1月 か ら3月 頃

に起つたが,そ のスケールはあまり大 きなもので

はなく,ま た調査の範囲内では罹患年令層の変動

を大 きく反映 したとは思われない.と ころが1960

年の1月 か ら4月 にかけて再燃 したアジア風邪の

第四波は比較的大 きなスケールのものであつて,

しか も罹患年令層の変動 を如実に反映 したものと

してはなはだ興味のあるものであつた.

その時の流行では普通のインフルエンザの流行

の場合 とはなはだ対照的に学校流行があまり目立

たない割合に罹患者の数が多 く,家 庭の流行が目

立つ と同時に養老院における惨禍が一部注目を惹

いた.養 老院における収容者の年令層は概 して60

才以上であつて,こ の 点か らすればDavemport

の提唱するA型 ウイルスの抗原原罪論 を検討する

には好個の対象である.私 達は流行期間中に一つ

の養老院を詳細に疫学的並びに血清学的に研究 し

また別の数カ所の養老院 を流行後約3ヵ 月に採血

した.こ のことによつて抗原原罪説 を検討せんが

ためである.

流行中に調査 した一養老院では,血 清学的並び

にウイルス分離によつてその流行がA2型 インフ

ルエンザ ・ウイルスによるものであるのを確認 し

た.罹 患率は血清学及び疫学調査 を綜合判断する

と50%を や 上ゝ回るものであつた.流 行が完全に

終つた後約2週 間でその収容者の全員(但 し若干

名の事故欠は止得なかつた)の 採血 を行つた.そ

して疫学調査並びに血清検査の結果か ら罹患者 と

非罹患者に分けて血清抗体の価による分布 を調査

してみた.そ の結果,罹 患 しなかつた者の内,抗

体が16倍以下の者 を除いて抗体保有者だけについ

て平均 をとつてみると,そ のモー ドは抗体価1:

64の ところにあるが,罹 患者では(こ のグルー プ

では16倍以下の者がないのは当然である)そ のモ

ー ドは1:512或 いはそれよりや ゝ高い価 を示 し

ている.一 体,我 々の測定法では過去の経験から

推 して,普 通の年令層では罹患後の免疫体は平均

して1:128か 或いは精 々1:256程 度 で あ つ

て,そ のモー ドが1:512を 越すことはない.こ

れによつてみると私達がこの養老院の血清検査で

得た結果は一応は抗原原罪説 を支持するものと考

えてしかるべ きものと思 う.

このように一つの養老院では,一 応,抗 原原罪

説 を支持するデータを得たのであるが,他 の養老

院では結果は余 り明瞭なものとはならなかつた.一つには採血の時期が流行終了後3カ 月も経つて

いたこと,流 行中の詳細な実験室的検討がないた

めにインフルエンザ患者 と称 しながら他の病気の

混入のかなり多いことが血清反応の結果から推定

されること,そ れらのことが重 り合 つ て,も し

Davemport効 果があるとしても多少不鮮明化 され

る恐れもある.要 するに我々のデータでは一養老

院ではDavemport効 果 と思われるものを認知 し

たが,こ の効果の一般性についてはなお将来にも

慎重に検討すべきものと考える.

3.ア ジアかぜ-臨 床の面から-

九大山岡内科 加地 正郎

昭和32年 のClevelamdに おける流行,昭 和35年

の福岡地方における流行に際 して得た経験から,

アジアかぜの2,3の 問題についてのべた.

まず,ア ジアかぜの基本的な臨床像は,急 激な

発病,発 熱,頭 痛,腰 痛,全 身倦怠などの全身症

状 と,そ れにや ゝお くれて咽頭痛,咳,痰,鼻

汁,鼻 閉などの呼吸器症状 を訴え,他 覚的所見は

一般に乏 しく,顔 面紅潮,紅 膜充血,咽 頭発赤,

咽頭後壁 リンパ濾胞の腫脹,頚 部 リンパ節腫大な

どを認める程度で,胸 部異常所見は少 く,経 過 も

短い.こ れを従来のイA, A1と 比較すると,各 症

状の出現頻度に多少の差はみ られるが,全 体 とし

て, A2とA, A1に よる臨床像 とは同様であり,

A2ウ イルス感染による基本的な臨床像は従来か

らいわれている単純型イに属するものと考えられ

た.

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522 日本伝染病学会雑誌 第35巻 第7号

た ゞ,昭 和32年 の流行において は 肺炎 を合併

して死亡する例が多かつたが, Clevelamdに おい

て,昭 和32年9月 から12月 までの間に,イA2に

よる死亡例33例 について検討する機会 を得た.

これらの例の大部分は典型的なイの経過中に肺

炎 を合併 し,発 病後1週 間以内に死亡 した例であ

り,電 撃性の経過 を示 した例,脳 症状が著明であ

つた例 も含 まれている.

病理解剖所見 としては,肺 には鬱血,浮 腫,出

血 が認められ,肺 は暗紫色 を呈し,斑 状の硬変部

は 限局性或は融合 して一般には気管支肺炎の様相

を呈 し,組 織学的にはフ ィブリン,多 核白血球,

単核細胞の浸潤がみられ,好 酸性の硝子様膜の形

戒 も認められ,硬 変部以外では出血性の肺浮腫が

主な所見であつた.こ のほか,気 道粘膜全体にわ

光 つて粘膜下出血 を伴 う充血から粘膜の破壊 まで

の種々の程度の炎症性変化がみられた.

呼吸器以外の臓器では,症 例の約1/3で心筋に種

々 の程度の炎症性変化が認められたことが注意を

ひ き,脳 では瀰漫性の充血,浮 腫が認 め られ た

が,組 織学的に炎症性の所見はみられなかつた.

細 菌 学 的検 査 で は,肺 炎 の 二次 感 染 菌 と して は

ブ ドウ球 菌 が最 も多 く,つ い で 肺 炎球 菌,イ ン フ

ル エ ン ザ 菌 が証 明 され た.

これ ら33例 の うち,肺,気 管 支 か らA2ウ イル

ス が証 明 され た の は25例 で あり た が,更 に そ の う

ち の15例 に つい て は,脾 臓,腎 臓,肝 臓,心 臓,

脳,脊 髄,扁 桃,リ ン パ節 か らウ イル ス の 分 離 を

こ ころ み た.こ れ らの組 織 の採 取 及 び ウ イル ス 分

離 に あ た つ て は,汚 染 を さけ るべ く極 度 の 注 意 を

拂 い,ウ イ ル ス陽 性 例 に お い て は,分 離 試験 を3

回 く りか え して,そ の結 果 をた しか め た.

こ の15例 の うち,3例 か らA2ウ イル ス を証 明

し得 た(表).第1例 で は脾 臓 及 び リン パ節 か ら,

第2例 で は肝 臓,脾 臓,腎 臓,心 臓 か ら,第3例

で は扁 桃 か らA2ウ イル ス が分 離 され た.脳 か ら

ウ イ ル ス が分 離 され た例 は な か つ た.ウ イル ス 陽

性 の臓 器 の組 織 学 的 検 査 で は,特 有 の変 化 は認 め

られ なか つ た.

以 上 の結 果 は,少 く と も重 症 例 に お け る ウ イル

ス血 症 の存 在 を示 唆 す る もの と考 え られ る.

この よ うな イ肺 炎,ウ イル ス血 症 或 い は 心筋

各組織 か らの ウイルス分離成績

NT:検 査 せず

Page 19: シ ン ポ ジ ア ムjournal.kansensho.or.jp/kansensho/backnumber/fulltext/35/...昭和36年10月20日 505 シ ン ポ ジ ア ム 赤 痢 1.腸 内細菌の多剤耐性の遺伝的研究

昭和36年10月20日523

炎,脳 症状の問題などは今後更に検討を要するも

のであり,臨 床的な立場か らもイには多 くの問題

が残 されている.

(この講演の機会を与えられた中村豊会長,長年御指

導をいたぼいた操担道名誉教授,山 岡教授及びDr. J. H.

Dingleに 御礼申し上げ,ま た協力いた団いた教室の同

僚各位に感謝いたします).

追加 公衆衛生院 野辺地慶三

アジアかぜの第1波 の年令別罹病率では中年の

異常波が見 られましたが,こ れはスペインかぜで

も見られた特徴に一致 しますが,流 行性脳脊髄膜

炎の流行なども,異 常に強い流行の時は同様の現

象が見 られます.こ れは新 しい型の病毒の流行の

時は住民の免疫が弱いので中年の社会活動の強い

階層に見られる高い感染発病例(発 疹チフス,腸

チフス,癩 等によく見 られる)が あらわれるもの

ではないか と考えられる.

追加 道立衛研 中村 豊

私は昭和7年 秋の大流行について研究 したとこ

ろと照合 して申述べ る.

当時 インフルエンザ肺炎で多 く死んだが,そ の

肺の変化は同じようである.た ゞ,ブ ドウ球菌の

検出は少なく,主 としてパイフェル菌 と肺炎双球

菌 であつた.ま た大流行がすんだ後数年一般の入

に出血性体質が残つた.

ポ リ オ

1.昭 和36年 北海道に流行 したポ リオの臨床的

な らびにウイルス学的検索成績

北大小児科 山田 尚達

作昭和35年 北海道にポリオの大流行があり,年

鷲届出患者数1,651,転 症 したもの等 を差引いた

患者実数1,588(人 口10万対約31),そ のうち死亡

106に及んだ.発 病年令は82%が4才 未満で,ま

た二相性発熱 を示すものが此較的多かつた.

患者糞便(224検 体)か らウイルスの分離 を試

みた結果,北 大病院入院患者から直接採便 したも

のでは47中34(72%),道 内各地から検査のため我

々の所へ送られたものでは177中89(50%)に ウ

イルスを分離 し,そ の大多数は1型 ポリオウイル

スであつた.

患者家族糞便103検 体のうち29検体(28%)に

ウイルスを分離 した.そ のうち28は1型 ポリオウ

イルスであつたが,こ れを年令別にみると,10才

未満の小児に最 も高率であつたほか,20才 台,30

才台 という患児の両親の大部分が含 まれる年令群

においてもかな り高率にウイルスが分離 された.

ソー クワクチン接種児で,今 回の流行前に比 し

流行後における血中の中和抗体価 が著明 に 上昇

し,こ の間に不顕性感染を経過 したと考えられる

例を少なからず経験 した.ま た今回の流行期に不

明熱性疾患患児 とその周囲の小児計130名 の糞便

を検 し,そ の一部に1型 ポ リオウイルスを分離 し

た.

本年当初(即 ち昨年の流行終了後)の 北海道各

地における5才 未満 のワクチン未接種乳幼児664

名の血清 を検 し,昨 年の流行地における3才 未満

児では非流行地に此 し,1型 ポリオ中和抗体保有

率が高かつたが,3才 以上のものにおいては両者

間にほとんど差のないことを認めた.

2.呼 吸障害型ポリオについて

札幌医大小児科 南浦 邦夫,山 内 豊茂

昭和35年 の北海道におけるポリオ流行では,我

々は多数の呼吸障害型ポリオ(respiratory polio-

myelitis)を 経験 した.す なわち,札 幌医大小児

科入院患者134例 中,そ の27%に 当る37名 が,本

病型であつた.死 亡例は17例 である。

37例 の内,脊 髄型18例,延 髄型2例,脊 髄延髄

型は16例 で,後 者の内15例 は呼吸筋麻痺 を合併 し

てお り,14例 が死亡 した.な お,脳 炎型が1例 あ

つた.

各病型別の呼吸障害発生頻度は,脊 髄型17%,

延髄型25%,脊 髄延髄型94%で,延 髄型では,全

例に顔面部神経麻痺が認められた.

年令別分布では,入 院例総数のそれ と同様で,

3才 以下が多かつた.呼 吸障害型では,発 熱の持

続期間が長 く,麻 痺発現後早期の検査で,髄 液の

細胞増多が著明であり,120/cmmを 示す例が多

かつた.

本病型では,四 肢の麻痺 も高度な例が多 く,四

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524 日本 伝染病学会雜 誌 第35巷 第7号

肢麻痺 を示す例が多 く,麻 痺の進行は,上 行性及

び下行性が略々半ばしている.麻 痺出現 より死亡

までの日数は,1日 が4例 で,大 多数が1週 以内

に死亡 した.

死因は,多 く分泌物による気管閉塞で,他 に肺

炎合併の1例 がある.

剖検例12例 では,病 変は中枢神経系の各部に特

有 乃変性 と,炎 症反応を認めたが,脊 髄型 と考え

られる1例 でも,延 髄,脳 髄,小 脳,基 底核等に

変化が認められた.ウ イルスの分離は,糞 便及び

中枢神経系各部より陽性であつたが,死 亡 までの

経過が延びて10日 以後 となつた例か らは,後 者よ

りの分離は成功 しなかつた.

鉄の肺使用例は19例 で,そ の 内11例 が 生存 し

た.大 多数は9~12日 でこれを脱することができ

た.一 方,死 亡例ではほ とん ど1週 以内に死亡 し

ている.い わゆる湿潤型wet typeに 対する治療

は,患 児が乳幼児の場合は特に困難で,気 管切開

術を行なつた全例が死亡 した.

以上,呼 吸障害型ポリオに関する我々の経験 を

述べた.

質問 岩手県衛研 中野 弥

岩手県 では昨35年 度に県北 に多数の患者をみ,

今年(36年)に また同地区に集団発生をみてお り

ます.こ のことは中和抗体面より観察 し,か なり

抗体が上昇 しているにもかかわらず発生 している

ことは他のウイルスのことも考 えてみな くてはな

らぬことと思います.

臨床的にみても前年度に比 し軽いようでありま

す.昨 年の北海道のポリオと本年のポ リオでかか

る状態がみられないでしようか.

質問 国立公衆衛生院 松田 心一

昨年の北海道ポリオ流行は,異 常に大 きな規模

のものであつたが,こ れには,疫 学的に見て,病

原体側が最 も大きな役割 を演 じたようにおもわれ

る.す なわち,昨 年の北海道流行 をきたしたポリ

オ1型 ウイルスは,特 異的に病原性の強い もので

あつたことが,少 くとも諸種の疫学現象か ら推測

される.

これについて各位の御意見 をうかがいたい.

討論 予 研 北岡 正見

ポリオは国民 の死亡率の面か らみて低位に位す

るとしても肢体不自由者 となる点で社会的悲劇 と

なる.し か し昨今ポリオの流行が叫ば れ て い る

が,そ の診断についていま一度検討する必要はな

かろうか?た とえば,顔 面神経マヒや無菌性髄

膜炎な どが直ちにポ リオとして届けることは慎重

であるべきである.ま たマヒや無菌性髄膜炎を起

すものとしてポ リオウイルスの他にECHO,Co-

xsackie,adeno等 のウイルスのあることを念頭

に置 くべきである.岩 手県 くず町に昨年に引き続

き,Salkワ クチンの使用にも拘 らず,今 年 もポ

リオの流行が起つたとの点については慎重な検索

を待つべきである.

答 予 研 北岡 正見

北海道において患者家族か らのウイルス分離成

績 をみると,一 見健康な成人や親からもウイルス

が分離 されている.こ れは既に不顕性感染 を蒙つ

たものとしては説明出来ない.も ち論,Melnick

も指摘 しているように,ポ リオでも再感染はあり

得るのであるから,再 感染 とすれば説明がつ く.

またそれらの成人が小児 と同様始めてポリオウイ

ルスの感染 を蒙つたとすればウイルス排泄は当然

なことである.そ してそれら成人がウイルス撒布

の役割を演ずるであろ うことは申すまでもない.

答 予 研 北岡 正見

自然界に撒布侵淫 しているポリオウイルス株の

神経毒性は必ず しも一様に強力でない.分 離 した

ウイルスをマウスや猿に注射 しても株によつて,

それらの動物にマヒを起 さない ものがある.そ の

ような弱毒株は生 ウイルスワクチンとして用い ら

れる.従 つて昨年北海道 を侵淫 した1型 ポリオヴ

イルスが強毒であつたと考えることは否定出来な

い.

ポリオウイルスの侵襲に対する個体の防禦は同

型ウイルスに対する特異的抗体が主役 を演ずるこ

とは申すまでもない.し か し異型ポリオウイルス

に対する抗体や,そ の他の非特異的抵抗 も感染後

の発症マヒの防遇に或る程度に作用することは立

証明されている.

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昭和36年10月20日525

急性灰 白髄炎の疫学

厚生省公衆衛生局防疫課

高部 益男,山 本 宜正

死亡統計,病 院 の患者統計の分析 によつてわが

国の急性灰白髄炎(以 下ポリオと略)の 流行は,

戦前においてもい くつかあり,古 くは明治末葉,

大正末期,昭 和12~13年 頃に各地 で 患者 が多発

し,死 亡数 もその時期に多かつたことは諸学者の

報ずるところである.

図APolio罹 患率分布の累積曲線 人口の大きさの相違によるちがい(昭35)

図BPolio患 者 の夏期集 中度 と年 間数 との関連

伝染病 としての患者届出統計が作成 されるよう

になつたのは昭和22年9月 以後である.そ れによ

ると昭和26年4,233を 山 とし昭和30年1,314を 谷

図C年 令別Polio罹 患率 の比較(日 本 と米国)

表APolio患 者数年令別 百分率

()内 は東京都

表BPolio流 行 の継 続 期 間(昭33~35)

とするがさらにその後昨年5,606と,N字 型の年

次傾向をた どつている.死 亡数は年々漸減の傾向

にあり最近では年問300名 前後にとどまり致命率

も10%以 下 となつている.一般にポリオの多発は地域集積性が高いといわ

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526 日本伝染病学 会雜誌 第35巻 第7号

れ る.都 道府県,保 健所,市 町村 とい う人口のサ

イズの異なる各段階で罹患率が どう異なるか をみ

た.昭 和35年 の全国の市町村,保 健所,都 道府県

別 の人 口10万対罹患率 を算出 し,横 軸に罹患率 を

片対数目盛にとり,縦 軸に累積度数 を%を もつて

とる.図Aに はさらに市町村の揚合 を北海道 と,

北海道以外に分けてあるが,90%あ るいは95%バ

ルクラインをとつてみると,人 口のサイズの小な

る揚合程,そ の点の罹患率は高率になつている.

すなわちポリオ患者の多発についての地域のサイ

ズの相違による罹患率の相違を量的に評価 しうる

わけである.

季節的にポリオが夏期多発する疾病であるが,

過去12年 間についてみると7~8月 の2カ 月間に

は年聞患者の30~40%が,6~9月 の4ヵ 月間に

は同『じく50~70%が 集中する.こ れは日本脳炎程

ではないが赤痢よりも夏期集中性は高い.さ らに

年間患者発生数 と夏期集中との聞には特に相関は

ないので,多 発率 とい うのは,年 闇全季にわたり

患者の多いこととなる(図B).

次に季節変動が,地 域で どう異なるかをみるた

めに,東 北,関 東,北 陸地方,東 海,近 畿,山 陰

地方,山 陽,四 国,九 州地方の3地 方について昭

和33~35年 の月別患者分布 をみると,日 本 という

かなり狡い地域でも南方程流行が早 く来て早 く終

り,北 方程おくれることがいえる.

流行の予測については昭和35年 厚生科学研究に

よる松田の予測指数があるが,昭 和33~35年 の府

県別統計によつて追試 してみたが,必 ずしも一致

をみない場合 もある.

ポリオの年令別の分布はわが国の場合表Aの よ

うに1才 でもつ とも多 く32~39%を 占めてお り,

この関係は大都会の場合 もその他の地域の場合も

変 りがない.し か し,諸 外国 と比較すると,図C

のように著 しい相違を示 し,こ の米国型に類似す

る国は,イ ギリス,フ ランス,ス イス,カ ナダ,

オース トリア等で,日 本型に類似するのは,イ タ

リア,エ ジプトなどである.諸 外国の場合も20~

30年以前にはわが国のような幼児に高率の疾患で

あつたのが,逐 次年令の後退 を来たしたのである

けれども,わ が国の揚合昭和26年 と35年では全 く

同 じでいささかの変化 もみせていない.

地域 のサイズによつて流行の継続期間が相違す

る状況は表Bに みるように,町 村 とい う挾い地域

では,1~2カ 月で流行は終憶 しあまり長 く続か

ないことがわかるであろう.

以上すべて患者の届出統計 を基礎においてみた

わが国のポリオの疫学像であるが ポ リオ の よ う

に,マ ヒ型,非 マヒ型,不 顕性感染 と病像のスペ

ク トル も多彩である疾病について現在のような統

計資料ではなしに,今 後はマヒ型,非 マヒ型の区

別 を行つた統計の作成 と,さ らには病原的検索に

よる確定診断を併せ行 うことによつて観察する事

の必要性 を痛感するとともに,こ れ ら病原的検査

機能 を有する各検査機関の数的,質 的向上 を願つ

て止 まない.