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1
図説薬理学Pictured Pharmacology
アゴニストとアンタゴニストの関係
宮崎大学農学部獣医薬理学講座伊藤勝昭
禁:無断転載
Copyright: Katsuaki ItoVeterinary PharmacologyUniversity of Miyazaki
このファイルは学生が講義で聞いた内容を正確に、より深く理解するために作られたもので、教科書の補助資料です。ファイルの内容の無断転載を防ぐため、プロテクトがかかっています。したがってコピー、印刷はできません。
伊藤勝昭(宮崎大学農学部家畜薬理学講座)
2
受容体へのリガンドの親和性と内活性はどこで変わるか
反応
アゴニスト(作動薬) 結合
解離
神経伝達物質、ホルモンなど受容体アゴニストやそれらの拮抗薬(アンタゴニスト)を総称してリガンドと呼ぶ。リガンドの受容体への作用はその物質が持つ2つの性質、親和性と内活性で決まる。親和性はどのくらい受容体へ結合しやすいかを示し、アゴニストもアンタゴニストも親和性はある。親和性が低いアゴニストは作用するのに高濃度が必要となる。内活性は受容体に結合したあと、どのくらい受容体を活性化できるかを意味する。アンタゴニストは内活性をもたない。
3
用量反応関係(低濃度アゴニスト)
アゴニスト
レセプター占拠率 30%
反応 30%
薬の用量と反応の関係 アゴニストはレセプターへの結合、そこからの解離を繰り返している。アゴニストがレセプターに結合する確率は細胞の周りに存在するアゴニスト濃度に依存し、平衡状態では[アゴニストが結合していないレセプター濃度]x[レセプターに結合していないアゴニスト濃度]/[アゴニストが結合したレセプター濃度](これを解離定数という)はアゴニストによって一定である(詳細はあとのスライドを参照)。反応はレセプターに結合したアゴニストの量と比例関係にある。
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用量反応関係(高濃度アゴニスト)
アゴニスト
レセプター占拠率 70%
反応 70%
アゴニストの濃度と反応の関係をグラフにすると次の図になる。
5
平衡状態では
]][[][
RDDRKa =
フリーの薬物濃度 [D] フリーのレセプター濃度 [R] は一定だから薬が結合しているレセプター濃度 [DR]
が成り立つ
Kd:解離定数 単位はM (モラー) Mはmol/LKdの逆数 1/Kd=Kaを結合定数という通常は薬のレセプターへの結合のしやすさは解離定数(Kd)で表す
理由:結合定数は単位が逆数(1/M)になるからKdが小さいほど薬は結合しやすい)
dはdissociation(解離)、aはassociation(結合)を表す
][]][[
DRRDKd =
リガンドの受容体への結合が平衡状態にあるとき、上の式が成り立つ。解離定数(Kd)が小さいほどそのリガンドの受容体への親和性は高い。
6
0 5 10 15 20 25 300
20
40
60
80
100
対数用量(μM)
反応
の大
きさ
(%
)
50% 反応
50%有効量(ED50)
アゴニストの量、反応の大きさを共に普通目盛のグラフにプロットしたものである。最大反応の50%の反応を引き起こすアゴニストの用量を50%有効量(ED50)あるいは50%有効濃度(EC50)で表す。このグラフでは用量反応関係がもっとも大きく変化する部分(0.3μMから2μMの間)が狭い範囲で描かれ、ED50が正確に把握できない。
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0.1 1 10 1000
20
40
60
80
100
対数用量(μM)
反応
の大
きさ
(%
)
50% 反応
50%有効量(ED50)
シグモイド曲線
前のグラフで横軸(用量)を対数化すると→対数用量反応曲線
50
用量を対数で表したグラフ(対数用量反応曲線)である。この曲線の形をシグモイドという。薬理学では通常このグラフでデータを解析する。ED50を中心として曲線が対称となっていることが分かる。このグラフではED50を決定しやすい。
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0.1 1 10 1000
20
40
60
80
100
対数用量(μM)
反応
の大
きさ
(%
)
A 親和性 高 B 親和性 低
50% 反応
50%有効量(ED50)
1 μM 2 μM
内活性が同じで親和性が異なる二つのアゴニストの対数用量反応関係を示す。用量が高くなれば、同じ最大反応に達するので2つの曲線は平行関係にある。ED50(またはEC50)を比較することで親和性を比べることができる。 AのED50は1μMで、BのED50は2μMであるから、AはBより2倍親和性が高いという言い方をする。
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pD2
AのED50 1 μM=1x10-6 M∴ AのpD2は6
BのED50 2 μM = 2x10-6 M = 10-5.7 M∴BのpD2は5.7
pD2が大きい薬ほど作用が強い
(親和性が高いとpD2は大きい)
ED50(またはEC50)を10-x Mと表したとき x をpD2とする
理解するために: 血液のpH 7.4とはH+濃度が10-7.4 Mということ
薬のレセプターへの親和性を表すとき、pD2という値をよく用いる。前の図でA,BそれぞれのED50からpD2を計算するとAのpD2は6,BのpD2は5.7となる。計算法をよく理解すること。
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0.1 1 10 1000
10
20
30
40
50
60
70
80
90
100
対数用量(μM)
反応
の大
きさ
(%
)
親和性 1内活性 1
50%反応
100%
50%反応 100%
親和性 1内活性 0.5
2 μM
親和性 0.5内活性 0.5
部分アゴニストは内活性が0より大きく、1より小さい
一方、内活性が低いと対数用量反応グラフで最大反応が抑制されているのが分かる。オレンジの線で示した薬は親和性は変わらず、内活性が低いアゴニスト、および紫色の線の薬は親和性も内活性も低いアゴニストである。対数用量反応曲線がどうなるかを理解すること。
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アゴニストとアンタゴニスト
アゴニスト アンタゴニスト
アンタゴニストはアゴニストの作用をじゃまする
競合拮抗薬(アンタゴニスト)はアゴニストと同じレセプターに結合し、アゴニストの結合を妨害する。アゴニストと同様、アンタゴニストもレセプターへの結合/解離を繰り返すが、結合してもレセプターを活性化することはできない(内活性がゼロ)。したがってどちらがどのくらいレセプターを占拠できるから両者の濃度のバランスで決まる。
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アゴニストとアンタゴニスト
アゴニスト アンタゴニスト
レセプター占拠率 70%→30%
反応 70%→30%
アンタゴニストがレセプターに結合すると、その分だけアゴニストの作用は低下する。この例では、アンタゴニストがないときは70%のレセプターを占拠できたアゴニストがある濃度のアンタゴニストが存在すると占拠率が30%に低下した。
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競合拮抗薬であるための条件
1.アゴニストと同じレセプターに結合する
2.レセプターへの結合・解離を繰り返す
3.レセプターを活性化する作用がない
competitive antagonist
アンタゴニスト存在下でアゴニストによってどのくらいの作用が出るかはそれぞれの量(濃度)で決まる
競合的アンタゴニストであるためには上の3つの条件を満たさなければならない。受容体に結合したまま解離しない薬は競合拮抗薬ではなく、非競合拮抗薬である。
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0 5 10 15 20 25 300
20
40
60
80
100
用量(μM)
反応
の大
きさ
(%)
アゴニスト
アゴニスト+アンタゴニスト
アンタゴニストが存在するときの用量反応関係を普通目盛のグラフにプロットするとこのようになる。このグラフでは二つの曲線の違いがあまりよく分からない。
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0.1 1 10 1000
20
40
60
80
100
対数用量(μM)
反応
の大
きさ
(%
)
アゴニスト
アゴニスト+アンタゴニスト
ED50 1 μM 2 μM
対数
競合拮抗薬
前のグラフのデータを対数用量反応曲線として描いたものである。競合アンタゴニストが存在すると用量反応曲線は右に平行移動するという特徴がある。アンタゴニストによってED50が増大したことがよく分かる。
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pA2とpD2
pD2はアゴニストの親和性を表す
最大効果の50%の反応を起こす濃度を10-x Mで表すと pD2 = xpA2はアンタゴニストの親和性を表す
アンタゴニスト存在下でアゴニストによって反応を起こすときアゴニスト単独に比べて2倍のアゴニストが必要となるアンタゴニストの濃度を10-y MとするとpA2 = ypD2は大きいほどレセプターへの親和性が高い
pA2は大きいほど強いアンタゴニスト
pD2がアゴニストのレセプターへの結合の強さを表す指標であるのに対して、pA2は競合的アンタゴニストの結合の強さ(拮抗の強さ)を表す指標である。
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0.1 1 10 1000
20
40
60
80
100
対数用量(μM)
反応
の大
きさ
(%
)
アゴニスト単独(EC50=1 μM) アンタゴニスト前処置
3x10-7 M 1x10-6 M3x10-6 M
アゴニストアンタゴニスト EC500 1 μM 3x10-7 M 1.3 μM1x10-6 M 2 μM →pA2 = 53x10-6 M 3 μM
pA2
教科書 p.13 シラバス p.9
競合的アンタゴニストの効力を評価するために、様々な濃度のアンタゴニスト存在下でアゴニストの用量反応関係を観察する。アンタゴニストの用量が増加するにしたがって、曲線が右へ平行移動することが分かる。アンタゴニスト存在下でのアゴニストのED50を求め、そのデータを元にSchildプロットを描かせるとアンタゴニストの強さ(pA2)を計算することができる。
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pA2の求め方 (Schildプロット)
1.様々な濃度のアンタゴニスト存在下でアゴニストの用量反応関係を観察する
2.アンタゴニスト存在下でのアゴニストのEC50(またはED50)を求める
3.アゴニスト単独のときの
[EC50]0とアンタゴニスト
存在下での[EC50]から
DR=[EC50]/[EC50]0を計算する
4.次のグラフを描く
5.横軸の切片がpA2となる
(この例ではpA2=6)
2
1
0-6 -5 -4
log [アンタゴニスト濃度] (M)
log[
DR
-1]
pA2
pA2の求め方は実習で練習する(その方が理解しやすい)。
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部分アゴニスト(部分アンタゴニスト)
反応1
完全アゴニスト(完全作動薬)
反応0.5
部分アゴニスト(部分作動薬)
内活性高い 内活性低い
競合拮抗薬(競合アンタゴニスト)はレセプターを全く活性化することができないが、アゴニスト(完全アゴニスト)ほどではないが、部分的にレセプターを活性化できる薬がある。これを部分アゴニスト(partial agonist)という。部分アゴニストは内活性がゼロではないが、完全アゴニストほど高くはない。
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完全アゴニストだけなら
反応1
完全アゴニスト(完全作動薬)
2
反応1
完全アゴニスト(完全作動薬)
完全アゴニスト同士を組み合わせれば1+1=2の反応が起こる。→次のページへ
21
部分アゴニストは部分アンタゴニストにもなる
反応1
完全アゴニスト(完全作動薬)
反応0.5
部分アゴニスト(部分作動薬)
1.5
完全アゴニストと部分アゴニストが同時に存在すると、部分アゴニストが結合したレセプターからは弱い反応しか起こらない。そのため全体でみれば、完全アゴニストだけの場合に比べて部分アゴニストが共存すると反応は弱化する。したがってこの場合、部分アゴニストは部分アンタゴニスト(partial antagonist)として働いているわけである。
22
0
20
40
60
80
100
120
0.1 1 10 100
反応の大
きさ
(%)
対数濃度 (μM)
*一定濃度の部分アゴニストを先に処置してから完全アゴニストを処置した場合
完全アゴニスト
部分アゴニスト
部分アゴニスト+
完全アゴニスト*
部分アゴニストだけによる反応、完全アゴニストと部分アゴニストが共存するときの反応を完全アンタゴニストだけによる反応と比べる。
部分アゴニストだけを累積的に加えていくと最大濃度(ここでは10 μM)で頭打ちとなり、完全アゴニストによる反応の50%が最大となる。
部分アゴニストを一定濃度処置した後、完全アゴニストの各濃度を処置したグラフは赤線で示す。部分アゴニストはそれ自身で反応を起こすから、ここでは完全アゴニストを加える前に、すでに20%の反応が起きている。完全アゴニストを処置するとそれに対して部分アゴニストがレセプターを競合するため、完全アゴニスト単独より反応は小さくなる。しかし十分量の完全アゴニストを投与するとほぼ100%のレセプターを占拠することになり、反応は最大に達する。
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非競合拮抗アンタゴニストがレセプターに非可逆的に結合
アゴニスト(ノルエピネフリン)
フェノキシベンザミン
もう離れない
非競合拮抗 競合アンタゴニストのレセプターへの結合は可逆的であるが、レセプターに非可逆的に結合するアンタゴニストがある。たとえばフェノキシベンザミンはα1レセプターに結合するとレセプターをアルキル化し、フェノキシベンザミンが結合したレセプターにアゴニストは結合できなくなる。そのためいくらアゴニストの量を増やしても、フェノキシベンザミンが結合したレセプターは活性化することがない。フェノキシベンザミンのようなアンタゴニストを非競合拮抗薬という。
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特殊な非競合拮抗(1)反対の作用を示すレセプターが活性化
心拍低下
ムスカリンレセプター
相殺
心拍上昇
βレセプター
心臓でアセチルコリンがムスカリンレセプターに結合すると心拍数が低下する。一方、ノルエピネフリンがβレセプターに結合すると逆に心拍数が上昇する。したがってノルエピネフリンはアセチルコリンの作用に拮抗しているように見える。これも広い意味での非競合拮抗で生理学的拮抗ともいう。
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特殊な非競合拮抗(2)レセプター下流のシグナルを阻害
サイクリックAMP
βレセプター
プロテインキナーゼA
ノルエピネフリン Ca2+チャネル
収縮力増強
Ca2+
ベラパミル
収縮抑制
リン酸化
心臓でノルエピネフリンによるβレセプターの活性化は電位依存性カルシウムチャネルの開口を促進し、Ca2+が流入しやすくなり、強心作用が現れる。ベラパミルはそのカルシウムチャネルをブロックするため、現象的にはノルエピネフリンの作用に拮抗している。これも広い意味での非競合拮抗である。