湿潤土壌でも高速・高精度作業が可能な ディスク …–付け(rm)、0.65m/s...

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湿潤土壌でも高速・高精度作業が可能な ディスク式中耕除草機の紹介 農研機構 生研センター 企画部 後藤隆志 0 5 10 15 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 わが国における大豆栽培面積の推移 田作 畑作 都府県における大豆栽培の労働時間 0 20 40 60 80 1973 1978 1983 1988 1993 1998 2003 その他 乾燥 刈取り・脱穀 防除 中耕除草・培土 播種・定植 施肥 耕うん整地 研究の背景 (1) 1.適期作業が困難 大豆の中耕・培土は梅雨時が多く、土壌が湿っ ていると作業が困難で、適期逃す。 研究の背景 (2) 2.大規模作業の増加 受託作業の増加により、高能率化の要望強い。 研究の目的 2.能率向上 高速化による能率の向上。 1.湿潤土壌時の精度向上 湿潤な土壌でも作業精度を確保し、 作業可能に。 研究の経過 2.20062008年度 農水省の「農業機械等緊急開発事業 (緊プロ)」で、小橋工業()、井関農機 ()、鋤柄農機()と共同研究 1.20022005年度 生研センターで基礎的研究 平成 25 年度東海大豆現地検討会 2013 8 9 1

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湿潤土壌でも高速・高精度作業が可能な

ディスク式中耕除草機の紹介

農研機構 生研センター 企画部 後藤隆志

0

5

10

15

1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010

わが国における大豆栽培面積の推移

年 次

田作

畑作

都府県における大豆栽培の労働時間

年 次

0

20

40

60

80

1973

1978

1983

1988

1993

1998

2003

その他

乾燥

刈取り・脱穀

防除

中耕除草・培土

播種・定植

施肥

耕うん整地

研究の背景 (1)

1.適期作業が困難大豆の中耕・培土は梅雨時が多く、土壌が湿っ

ていると作業が困難で、適期逃す。

研究の背景 (2)

2.大規模作業の増加

受託作業の増加により、高能率化の要望強い。

研究の目的

2.能率向上

高速化による能率の向上。

1.湿潤土壌時の精度向上

湿潤な土壌でも作業精度を確保し、

作業可能に。

研究の経過

2.2006~2008年度

農水省の「農業機械等緊急開発事業

(緊プロ)」で、小橋工業(株)、井関農機

(株)、鋤柄農機(株)と共同研究

1.2002~2005年度

生研センターで基礎的研究

平成 25年度東海大豆現地検討会 2013年 8月 9日

-1-

0

1000

2000

3000

4000

5000

1980 1990 2000 2010

従来機の概要

チゼル式ロータリ式

年 次

ロータリ式

チゼル式

作業速度: 2~3 km/h 作業速度: 3~6 km/h

従来機(ロータリ式)の問題点

・株元への培土量が不足することがあり、株間の除草効果が劣る

・湿潤土壌では土を圧縮し、株元への土移動が不充分

逆転ロータリ (R)正転ロータリ+培土板 (Rm)

ディスク式中耕除草機 (平面図)

前方ディスク

後方ディスク ディスク角調節部

進行方向

ディスク間隔調節部

ディスク式中耕除草機 (側面図)

前方ディスク

スクレーパ

後方ディスク

チゼル 残耕処理刃

進行方向

ディスク式中耕除草機の作用 (1)

通常仕様 (培土作業)

ほ場断面図

通常仕様(培土作業)時の作業状況

-2-

ディスク式中耕除草機の作用 (2)

作物生育初期仕様 (中耕作業)

ほ場断面図

生育初期仕様(中耕作業)時の作業状況

開発機の外観

トラクタ用 乗用管理機用

本日の実演機

除草剤散布装置付きディスク式中耕除草機

新潟クボタ大豆研究会ウェブサイトより

トラクタ用 乗用管理機用2009年6月より市販化

約900台普及2010年6月より市販化

約130台普及

09年10月 秋田農機ショー 10年9月 山形農機ショー

開発機の普及状況

計 約1,000台普及

作業速度の比較

ディスク式 ロータリ式(従来機)

1.2m/s (4.5km/h) 0.6m/s (2.2km/h)

-3-

燃料消費量試験の方法 (2006年度)

1.試験区開発機区:ディスク式中耕除草機(D)

対照機区:ロータリ式中耕除草機(R)

2.試験ほ場大豆跡2年目転換畑(土性:L)

3.試験方法

作業速度を3段階に変え、容積式

の流量センサで燃料消費量を測定

流量センサ

0

20

40

0.0 0.5 1.0 1.5 2.0

燃料消費量試験の結果

・実用作業速度で、ロータリ式の約5割減

● ロータリ式(R)■ ディスク式(D)

作業速度(m/s)

実用作業速度

両機とも、トラクタ機関回転速度1,900rpm

<供試ほ場>2年目転換畑(土性L)液性指数 0.58

1.作業内容

大豆栽培中のほ場で、中耕培土作業を2回実施

2.試験区(各区2反復)

1)開発機区:2回ともディスク式(D)、1.2m/s

2)対照区1:1回目は逆転ロータリ式(R)

2回目は正転ロータリ式に培土板

取付け(Rm)、0.65m/s

3)対照区2:2回とも逆転ロータリ式(R)

0.65m/s

作業精度・栽培試験の方法(05~08年度)

作業精度・栽培試験の条件

1.供試ほ場1)秋田転換畑:土性SL~CL、排水不良、3年2)新潟転換畑:土性LiC、排水不良、4年3)新潟普通畑:土性L、排水良、4年4)埼玉転換畑:土性L、排水不良、1年5)埼玉転換畑:土性SiC、排水良、2年

2.作業時のほ場水分条件1)28回中、8回が湿潤な土壌条件で試験

2)14試験中1回以上湿潤土壌条件で作業したのは6回

3.供試大豆の品種

リュウホウ(秋田)、エンレイ(新潟)、タチナガハ(埼玉)

湿潤土壌での作業後の状態例 (新潟県長岡市)

ディスク式

作業後のほ場状態の例

ロータリ式

0

1

2

3

4

5

0 1 2 3 4 5

砕土性能

** 危険率1%で有意差あり* 危険率5%で有意差あり

開発

機区

の平

均土

塊径(cm)

対照区(Rm)の平均土塊径(cm)

記号

作業時土壌

開発機 対照機 比

● 湿潤 2.2** 2.8** 0.78

● 非湿潤 1.3* 1.5* 0.89

合計 1.6** 1.9** 0.84

平均値(cm)とその比

・湿潤土壌作業時の平均土塊径は、対照機区より約20%小

-4-

後列ディスクの仕様と砕土性能

平形ディスク 花形ディスク

大土塊発生 大土塊発生少

スクレーパスクレーパ

作業後の畝断面形状 (1回目後)

中心からの横方向距離(cm)

高さ

(cm)

0

10

20

-40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40

0

10

20

-40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40

高さ

(cm)

対照機(R)

対照機(R)

乗用管理機用(6回の試験の平均)

トラクタ用(4回の試験の平均)

0

10

20

-40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40

0

10

20

-40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40

作業後の畝断面形状 (2回目後)

中心からの横方向距離(cm)

高さ

(cm)

高さ

(cm)

対照機(R)

対照機(R) 開発機(D)

開発機(D)

対照機(Rm)

対照機(Rm)

乗用管理機用(6回の試験の平均)

トラクタ用(4回の試験の平均)

50

60

70

80

90

100

50 60 70 80 90 100開発

機区

の培

土成

功率(%

)

対照区(Rm)の培土成功率(%)

記号

作業時土壌

開発機 対照機 比

● 湿潤 92 86 1.07

● 非湿潤 100 97 1.03

合計 97*** 93*** 1.04

平均値(%)とその比

*** 危険率10%で有意差あり

・開発機は対照機と同程度の培土性能

培土性能 –培土成功率-

収穫前の雑草繁茂状況の例

新潟3年目転換畑(土性:LiC、作業時液性指数:0.46)

ディスク式(D-D) ロータリ式(R-Rm)

除草性能 –条間雑草乾物重-

開発

機区

の条

間雑草

乾物

重(g/㎡)

対照区(R-Rm)の条間雑草乾物重(g/㎡) ** 危険率1%で有意差あり

0

10

20

30

40

0 10 20 30 40

平均値(g/㎡)とその比

記号

作業時土壌

開発機 対照機 比

● 湿潤 4.7** 14.1** 0.33

● 非湿潤 3.6 4.1 0.87

合計 4.1** 8.4** 0.48

・湿潤土壌作業時の条間雑草乾物重は、対照区の1/3程度

・合計で約半分

● 1回以上湿潤土壌で作業● 2回とも非湿潤土壌で作業

-5-

除草性能 –株間雑草乾物重-

開発

機区

の株

間雑

草乾

物重

(g/㎡

)

対照区(R-Rm)の株間雑草乾物重(g/㎡)

平均値(g/㎡)とその比

記号

作業時土壌

開発機 対照機 比

● 湿潤 5.5 9.6 0.57

● 非湿潤 11.4* 19.0* 0.60

合計 9.2** 15.4** 0.59

・平均株間雑草乾物重は、合計で対照区より約40%減

** 危険率1%で有意差あり* 危険率5%で有意差あり

0

20

40

60

0 20 40 60● 1回以上湿潤土壌で作業● 2回とも非湿潤土壌で作業

25

30

35

40

25 30 35 40開発

機区

土壌

の固

相率(%

)

対照区(R-Rm)の土壌の固相率(%)

平均値(%)とその比

土壌物理性 –表層の固相率-

** 危険率1%で有意差あり* 危険率5%で有意差あり

記号

作業時土壌

開発機 対照機 比

● 湿潤 29.8** 31.5** 0.95

● 非湿潤 33.4 33.7 0.99

合計 32.1* 32.9* 0.97

・湿潤土壌作業時の土壌固相率は、対照区より約5%小

● 1回以上湿潤土壌で作業● 2回とも非湿潤土壌で作業

開発

機区

土壌

の矩

形板

沈下

量(cm)

対照区(R-Rm)土壌の矩形板沈下量(cm)

平均値(cm)とその比

土壌物理性 –矩形板沈下量-

** 危険率1%で有意差あり* 危険率5%で有意差あり

記号

作業時土壌

開発機 対照機 比

● 湿潤 4.3** 3.2** 1.35

● 非湿潤 2.9* 2.5* 1.17

合計 3.4** 2.8** 1.24

・湿潤土壌作業時の矩形板沈下量は、対照区より約35%大

0

2

4

6

8

0 2 4 6 8● 1回以上湿潤土壌で作業● 2回とも非湿潤土壌で作業

開発

機区

土壌

の含

水比(%

)

対照区(R-Rm)土壌の含水比(%)

平均値(%)とその比

土壌物理性 –表層土壌の含水比-

** 危険率1%で有意差あり* 危険率5%で有意差あり

記号

作業時土壌

開発機 対照機 比

● 湿潤 44.5** 40.6** 1.10

● 非湿潤 30.3 29.9 1.01

合計 35.4* 33.8* 1.05

・湿潤土壌作業時の土壌含水比は、対照区より約10%大

20

30

40

50

60

20 30 40 50 60 ● 1回以上湿潤土壌で作業● 2回とも非湿潤土壌で作業

開発

機区

の大

豆被

害粒数

率(%)

対照区(R-Rm)の大豆被害粒数率(%)

平均値(%)とその比

大豆の品質 –被害粒数率-

** 危険率1%で有意差あり* 危険率5%で有意差あり

記号

作業時土壌

開発機 対照機 比

● 湿潤 19.1** 24.0** 0.79

● 非湿潤 19.4 20.7 0.94

合計 19.2* 22.2* 0.87

・湿潤土壌作業時の被害粒率は、対照区より約20%少ない

0

20

40

60

0 20 40 60 ● 1回以上湿潤土壌で作業● 2回とも非湿潤土壌で作業

被害粒の内訳等

1.対照区(R-Rm)全体の被害粒数率の内訳

1) しわ粒数率 : 7.8%

2) 未熟粒数率: 5.3%

3) 虫害粒数率: 4.6%

2.湿潤土壌作業時における、対照区(R-Rm)

に対する開発機区の被害粒数率の比

1) しわ粒数率 : 0.95(同程度)

2) 未熟粒数率: 0.57(45%減)

3) 虫害粒数率: 0.77(25%減)

-6-

20

40

60

80

100

20 40 60 80 100

開発

機区

の大

豆大

粒重

率(%

)

対照区(R-Rm)の大豆大粒重率(%)

平均値(%)とその比

大豆の品質 –大粒(7.9mm以上)重率-

** 危険率1%で有意差あり

記号

作業時土壌

開発機 対照機 比

● 湿潤 60.9** 54.8** 1.11

● 非湿潤 72.7 70.6 1.03

合計 67.2** 63.3** 1.06

・湿潤土壌作業時の大豆大粒重率は、対照区より約10%大

● 1回以上湿潤土壌で作業● 2回とも非湿潤土壌で作業

100

200

300

400

100 200 300 400

開発

機区

の大

豆収

量(kg/10a)

対照区(R-Rm)の大豆収量(kg/10a)

平均値(kg/10a)とその比

大豆の収量 (子実重-被害粒重)

記号

作業時土壌

開発機 対照機 比

● 湿潤 258** 224** 1.15

● 非湿潤 228 224 1.02

合計 242* 224* 1.08

・湿潤土壌作業時の大豆収量は、対照区より約15%高い

** 危険率1%で有意差あり* 危険率5%で有意差あり

● 1回以上湿潤土壌で作業● 2回とも非湿潤土壌で作業

モニタ試験の方法(07~08年度)

1.調査対象秋田県、岩手県、宮城県、新潟県、埼玉県、福岡県の

大豆生産組合、大規模農家等

2.調査方法試作1号機、試作2号機で作業していただき、所定

の設問と自由回答欄を設けたアンケート調査実施

3.回答数 27名

4.作業面積延べ約160ha/8台 (最大77ha/1台)

モニタ農家の評価

0

0

0

1

1

1100

80

60

40

20

0

■ 不満

■ やや不満

■ まあ満足

■ 十分満足

培土の精度

適湿応潤性土

除草効果

悪土化壌の物低理減性

作業能率

回答

者の

割合

(%

)

92%88% 81%81%

67%

導入したい

:70%

モニタ農家の自由回答例(1)

1.利点

・排水不良田に適して

いる。

・畝立て播種でも、土

の上がりが良い。

・播種条が曲がってい

ても、作物を傷めにく

い。

モニタ農家の自由回答例(2)

1.利点 大きな石があるほ場でも作業可能。

-7-

モニタ農家の自由回答例(3)

2.問題点

・ディスクへの土付着を減らしてほしい。

・乾燥した硬いほ場では、ディスクの食込

みと砕土が悪い。

・大きな雑草に対する破砕作用が不十分で

ある。

ロータリ式(R-R/R-Rm)の比較

1.平均土塊径:湿潤時0.78、非湿潤時0.88

2.条間雑草乾物重:湿潤時0.60

株間雑草乾物重:湿潤時1.72

3.土壌の膨軟度:大差なし

土壌含水比:湿潤時1.07

4.大豆被害粒率:湿潤時0.84

5.大粒率:湿潤時1.09

6.収量:湿潤時1.09、非湿潤時0.97

問題点

作業の進め方と留意点(1)

1. 耕うん時に耕深を確保(12cm程度以上)

2. 後列ディスクの間隔(※)を40~45cmに

※ ※

作業の進め方と留意点(2)

3. 土壌条件や作物条件に応じ適切な

作業速度を選択(標準:4~6km/h程度)

4. 土が硬い時は

チゼルを下向

きに

チゼル 残耕処理刃

作業の進め方と留意点(3)

5. 適切な培土量になるよう、後列ディスクの角度を調節

6. 培土状態が変動する時は、作業速度を調節しながら作業

後列ディスク

1. 湿潤土壌作業時の土壌物理性悪化

抑制による、大豆増収

2. 高能率化で負担面積拡大、燃料費の

軽減、ディスクの摩耗が少なく保守管

理費が安いことによる、機械利用費の

低減

開発機の利用効果(1)

-8-

3.作業面積の拡大による、受託収入の

増加

4. 雑草減少による、手取り除草の人件費、

除草剤費の低減

開発機の利用効果(2)

協力機関

現地試験 秋田農技セ、秋田県農林部、新潟農総研、埼玉農総研

協定研究 福島農試、兵庫農技セ、福岡農総試

モニタ試験 新農機(株)、中央農研(協定研究)、

岩手農研セ、新潟市、

JAあきた湖東、JAおんが

1. <質問> 開発機のメリットとデメリットは?

2. <メリット>1) 湿潤土壌への適応性大、高速作業可能で、適期作業の実現が期待できる

2) 畝立て播種や曲がった条への適応性大3) 大きな石のあるほ場への適応性大

3.<デメリット>1) 乾燥した硬いほ場でディスクの食込みと砕土が悪い

2) 大きな雑草の破砕作用が不足

事前質問への回答(1)

1. <質問> 難防除雑草対策の中での開発機の活用方法は?

2. <回答>1) 開発機は湿潤土壌でも土を練りにくく、高能率

→適期(雑草が小さな時期)作業が可能

2) 開発機は土壌の反転が良好で、雑草の埋没性能が良い

3) 雑草が小さなうちに作業し、雑草をより深く埋没させることで、難防除雑草に対しても防除効果が期待できる

事前質問への回答(2)

1. <質問> トラクタ用と乗用管理機用の特徴は?

2. <トラクタ用の特徴>1) トラクタは汎用機なので、低コスト2) 乗用管理機(17~23PS)よりエンジンの大きなトラクタでは、安定して高速作業が可能

3) 2・3(乗用管理機用は3連のみ)・5連から選択可能

3.<乗用管理機用の特徴>1) 車体の最低地上高が高いので、大きくなった作物を傷めにくい

2) 幅の狭いタイヤを利用すると、湿潤土壌時でも車輪跡条間の土を練ることが少ない

3) 4輪操舵なので、旋回部での作物の踏み倒しが少ない

事前質問への回答(3)

-ご静聴ありがとうございました。-

以上

-9-