2-6 人材ポートフォリオno.129 apr---- may 2015 35 人事企画室 2-6...

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34 No.129 APR ---- MAY 2015 人事企画室 不要な能力と必要な能力の入れ替えによって 組織の肥大化や人件費の硬直化を防ぎ、 環境変化にフレキシブルに対応できる体制をつくれ Works はどう って たか 人 材 ポ ートフォリオ 1980年代以降日本企業有期雇用 比率鰻上りだったその背景には人件 抑制したい企業思惑があったうしたなか1990年代半以降戦略目標達成するために能力処遇用形態なる社員活用しようとする 人材ポートフォリオという普及 していったWorks 独自人材ポートフォリオ 提案した人件費圧縮のためにむやみ 有期雇用化推進するのではなく期雇用である正社員有期雇用役割分 明確にし最適配置 わせ をすべきという原点にあった結果的にそれは正社員中心雇用シス テムをした多様雇用モデルとなった 200040戦略的 HRM 人材ポートフォリオ』」)。 基本フレームとしてつの設定 したつはたな事業商品創造する人材既存仕組みを 運用する 人材もうつは組織成果最大化人材個人成果最大化このわせによってされる のが創造的かつ組織的人材 エグゼクテ ィブ」、 創造的かつ個人的人材 スペシャ リスト」、 運用的かつ組織的人材 マネジ ャー」、 運用的かつ個人的人材 オペレー ターであるこのつのタイプを正社員有期雇 にそれぞれけるとつのタイプが できる企業戦略沿ってこれらを 最適配置それぞれに適切人材ネジメントをとることが有効だとべたどんな仕事有期雇用せるのかと いう判断基準した 200359れる正社員」)。 競争優位源泉となる知的資本外部流出およびマネジメントコスト 上昇がなく外部化 有期雇用社員 によりコストのアップもじない有期雇用せたほうがいいいえばいずれかがつでも想定できる 場合正社員構成された組織がその 仕事うのが現実的さらに考察競争優位性価値稀少性模倣困難性側面 から内部マネジメントコストの高低 判断難易度結果のインパクトからそして外部コスト発生有無はアウ トソーシングの可能性仕事繁閑度いった観点からることを提案するWorks はこの議論、「正社員けたその役割2 - 6 ■人材ポートフォリオ・マトリックス システム 非正社員 企業特殊性 企業特殊性 アウトソース 正社員 正社員 正社員 非正社員 ハイパー 契約社員 アウトソース マネジメント必要小 システム化できる システム化できない マネジメント必要大 マネジメント必要小 マネジメント必要大 出典:Works 2004年62号

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Page 1: 2-6 人材ポートフォリオNo.129 APR---- MAY 2015 35 人事企画室 2-6 人材ポートフォリオ 境変化に対応できる柔軟性の確保、組織 の核となる知的資本の構築と発展、組織

3 4 N o . 1 2 9 A P R - - - - M A Y 2 0 1 5

人事企画室

不要な能力と必要な能力の入れ替えによって組織の肥大化や人件費の硬直化を防ぎ、環境変化にフレキシブルに対応できる体制をつくれ

Worksはどう語ってきたか

人材ポートフォリオ

1980年代以降、日本企業の有期雇用

比率は鰻上りだった。その背景には人件

費を抑制したい企業の思惑があった。そ

うしたなか、1990年代半ば以降、戦略や目標を達成するために、能力や処遇、雇

用形態が異なる社員を活用しようとする人材ポートフォリオという考え方が普及

していった。

Worksも独自の人材ポートフォリオ

を提案した。人件費圧縮のためにむやみ

に有期雇用化を推進するのではなく、無

期雇用である正社員と有期雇用の役割分

担を明確にし、最適な配置・組み合わせ

をすべきという考え方が原点にあった。

結果的にそれは、正社員中心の雇用シス

テムを脱した多様な雇用モデルとなった(2000年40号「戦略的HRMを生み出す『人材ポートフォリオ』」)。

基本フレームとして2つの軸を設定

した。1つは新たな事業や商品を「創造」

する人材か、既存の仕組みを「運用」する人材か。もう1つは組織成果の最大化を狙う人材か、個人成果の最大化を狙う人

材か。この組み合わせによって示される

のが創造的かつ組織的人材「エグゼクテ

ィブ」、創造的かつ個人的人材「スペシャ

リスト」、運用的かつ組織的人材「マネジ

ャー」、運用的かつ個人的人材「オペレー

ター」である。

この4つのタイプを、正社員、有期雇

用にそれぞれ分けると、8つのタイプが

できる。企業の戦略に沿って、これらを最適に配置し、それぞれに適切な人材マ

ネジメントをとることが有効だと述べた。

どんな仕事を有期雇用に任せるのかと

いう判断基準も示した(2003年59号「揺

れる正社員」)。

①競争優位の源泉となる知的資本の外部流出および、②マネジメントコスト

の上昇がなく、③外部化(有期雇用社員

化)によりコストのアップも生じない場

合、有期雇用に任せたほうがいい。逆に

いえば、いずれかが1つでも想定できる場合は、正社員で構成された組織がその仕事を担うのが現実的だ。

さらに考察を進め、①競争優位性は知

識の価値と稀少性、模倣困難性の3側面

から、②内部マネジメントコストの高低

は判断の難易度と結果のインパクトから、

そして、③外部コスト発生の有無はアウ

トソーシングの可能性や仕事の繁閑度と

いった観点から探ることを提案する。

Worksはこの議論を通じ、「正社員と

は何か」を考え続けた。その役割を、環

2 -6

■人材ポートフォリオ・マトリックス

システム非正社員

企業特殊性 高

企業特殊性 低

アウトソース

正社員

正社員

正社員

非正社員ハイパー契約社員アウトソース

マネジメント必要小

システム化できる システム化できない

マネジメント必要大 マネジメント必要小 マネジメント必要大

知識レベル

 高

知識レベル

 低

出典:Works 2004年62号

Page 2: 2-6 人材ポートフォリオNo.129 APR---- MAY 2015 35 人事企画室 2-6 人材ポートフォリオ 境変化に対応できる柔軟性の確保、組織 の核となる知的資本の構築と発展、組織

3 5N o . 1 2 9 A P R - - - - M A Y 2 0 1 5

人事企画室2-6 人材ポートフォリオ

境変化に対応できる柔軟性の確保、組織

の核となる知的資本の構築と発展、組織

の協働基盤の構築という3つに置いた。

2軸で仕事を分類 外部化が容易な仕事とは

最終的に、人材ポートフォリオの効用

を「不要な能力と必要な能力を入れ替え

ることにより、組織の肥大化や人件費の硬直化を防ぎ、企業が環境変化にフレキ

シブルに対応できる体制がつくれるこ

と」とする。人事部にも新たな役割が生

じる。派遣や業務委託を含めた多様な人

材をうまく活用できるよう、事業部門に

適切にアドバイスできる存在になること

が求められると考えた。

上記のポートフォリオ理論はさらに深化した(2004年62号「進化する人材

ポートフォリオ」)。必要な知識のレベル、

知識の企業特殊性の度合いという2軸で仕事を分類し、さらに内部マネジメント

の必要性の大小、システム化可能か否か、

という2つの観点から、有期雇用または

アウトソースに任せる仕事を決めるとい

うものだ。必要な知識レベルも企業特殊

性の度合いも低く、内部マネジメントの必要性が小さい、しかもシステム化可能

な仕事ほど、外部化が容易ということだ。

そして今、こうとらえる

知識に偏ったポートフォリオ 新たな法制を考慮して再構築

「知識」を軸とした人材ポートフォリオ

をWorksが提案してから10年以上が経

過した。本格的な人材不足の時代を迎え

たことや、有期労働契約5年で無期雇用

に転換させることが企業に義務化される

などの労働法制の変化を考慮すると、新

しい人材ポートフォリオを提案すべきと

きが来ている。どうすれば多様な人材を生かすことができるのか。その原点に立

ち返りたい。

二宮 大祐氏 イオンリテール 執行役員 人事・総務本部長私の結論

ポートフォリオは2次元で考えるべきだろうか。労働法制という枠が抜け落ちてしまわないか

Worksは人材を2つの軸でタイプ分けし、それぞれをうまく活

用する人材ポートフォリオの概念を提示しました。わかりやすい

と思った反面、その軸でいいんだろうか、そもそもこの問題を2

次元で考えていいのだろうか、という疑問も湧きました。

イオンの場合、あえて2次元で考えると、軸となるのは雇用期

間と働き方です。無期雇用で、フルタイムで働ける人が正社員、そ

うではない人が非正規社員です。もう少し正確にいうと、正社員

とは次の5つの条件を満たした人だと私は考えます。命じられた

仕事には何でも就き、どこへの転勤も受け入れ、毎日フルタイム

で働き残業も辞さず、定年まで雇用される、優秀な働き手、です。

これに対して、最近は限定正社員という議論が起き、必ずしも5

つすべてを満たす必要はない、といわれているのはご承知の通り

です。流通業の場合、その論議を深めていかなければならないき

っかけとなったのが社会保険制度と労働契約法の改正です。前者

に関しては、これまで週30時間以上働く人のみ加入が義務づけ

られていた健康保険と年金が、2016年10月からは週20時間か

ら30時間未満の労働者にも必須になります。そうなると、20時

間から30時間未満の労働者は、手取りが少なくなり、働く時間を

増やしたいと思う人は多いでしょう。もう一方の労働契約法改正

では、契約更新を重ね5年以上の勤務となった場合、労働者が希

望すれば無期雇用に転換できます。この2つの影響で、限定「正

社員」の存在が俄然、クローズアップされるようになったのだと

思います。ところが、こうした雇用法制の問題がWorks流の2次

元では捨象されてしまうのです。ポートフォリオの軸は、各社が

独自の軸を工夫すべきではないでしょうか。

人材ポートフォリオを考えると、正社員とは何か、という問

題に行き着きます。そういう意味で、2003年59号のタイトル

「揺れる正社員」は秀逸でした。日本の正社員は、過去3度くらい、

“揺れ”てきました。男女雇用機会均等法が施行され「総合職」が

登場した1986年、「成果主義」が入ってきた1990年あたり、そ

してダイバーシティという言葉がメジャー

になってきた2002年前後です。最近は正社

員という呼称をなくそうという議論まで出て

きた。4度目の“揺れ”なのでしょう。容易に

は結論が出ないこの問題をWorksには追いか

けてほしいですね。

本コラムの関連動画をwww.works-i.com/works20/でご覧いただけます。

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