2006年 第7巻増刊号(通巻18号) issn...

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NST活動の中心は経管栄養に伴う下痢対策から� 人工呼吸器の離脱へ� 今後は,病棟での栄養管理の成果を外来,地域に還元していきたい� 株式会社麻生 飯塚病院 救命救急センター 所長 鮎川 勝彦 ほか電子カルテ導入によりNST活動の効率がアップ幅と深さのある栄養管理が可能に� トヨタ自動車株式会社トヨタ記念病院内分泌科科部長,栄養科科部長 篠田 純治NST活動の場を院内から外来へ拡大� 地域連携で医療圏全体の栄養管理の質向上を目指す� 伊達赤十字病院 消化器科 副部長 日下部 俊朗後期高齢者に対するケアの質は栄養管理抜きにして向上せず� 医療法人溪仁会 西円山病院 院長 峯廻 攻守 ほか褥瘡対策チーム,嚥下チームなど,� すでに活動している医療チームを軸に栄養管理を推進� 財団法人宮城厚生協会 泉病院 神経内科 科長 関口 すみれ子� 巻頭言� NSTの動向および抱えている問題点大阪大学名誉教授 岡田 正栄養管理の必要性・重要性が増してくる時代だからこそ� 息の長い活動にするために,NSTにかかわるすべての人の意思を尊重� 関西電力病院 院長 清野 裕 ほかPPM-ⅠからPPM-Ⅱ,そしてPPM-Ⅲへ� NSTを設置・稼働させる病院が増えた今,次の課題はその質の保証へ� 藤田保健衛生大学 外科学・緩和ケア講座 教授 東口  志病棟ごとにNSTを稼働ブロック方式� 栄養管理の質は『NSTソフト』で保証し,症例報告中心の勉強会で向上させる� 昭和大学病院 小児外科 教授 土岐 彰病院内外の臨床栄養管理に役立つ情報を栄養局から発信する� ─この試みが自然にNST活動へと発展─� 高知県・高知市病院企業団立 高知医療センター 院長 瀬戸山 元一 ほか栄養管理“食べられる”ようにサポートすることが� 癌と有利に闘い,よりよい結果をもたらす� 癌研究会 有明病院 消化器外科 比企 直樹� 監修� 大阪大学名誉教授 岡田 正� 2006年 第7巻増刊号(通巻18号) ISSN 1345-7497 増刊号� NST 施設取材特集�

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NST活動の中心は経管栄養に伴う下痢対策から�人工呼吸器の離脱へ�今後は,病棟での栄養管理の成果を外来,地域に還元していきたい�株式会社麻生 飯塚病院 救命救急センター 所長 鮎川 勝彦 ほか�電子カルテ導入によりNST活動の効率がアップ�幅と深さのある栄養管理が可能に�トヨタ自動車株式会社トヨタ記念病院 内分泌科 科部長,栄養科 科部長 篠田 純治�NST活動の場を院内から外来へ拡大�地域連携で医療圏全体の栄養管理の質向上を目指す�伊達赤十字病院 消化器科 副部長 日下部 俊朗�後期高齢者に対するケアの質は栄養管理抜きにして向上せず�医療法人溪仁会 西円山病院 院長 峯廻 攻守 ほか�褥瘡対策チーム,嚥下チームなど,�すでに活動している医療チームを軸に栄養管理を推進�財団法人宮城厚生協会 泉病院 神経内科 科長 関口 すみれ子�

巻頭言�NSTの動向および抱えている問題点�大阪大学名誉教授 岡田 正�

栄養管理の必要性・重要性が増してくる時代だからこそ�息の長い活動にするために,NSTにかかわるすべての人の意思を尊重�関西電力病院 院長 清野 裕 ほか�PPM-ⅠからPPM-Ⅱ,そしてPPM-Ⅲへ�NSTを設置・稼働させる病院が増えた今,次の課題はその質の保証へ�藤田保健衛生大学 外科学・緩和ケア講座 教授 東口  志�病棟ごとにNSTを稼働─ブロック方式�栄養管理の質は『NSTソフト』で保証し,症例報告中心の勉強会で向上させる�昭和大学病院 小児外科 教授 土岐 彰�病院内外の臨床栄養管理に役立つ情報を栄養局から発信する�─この試みが自然にNST活動へと発展─�高知県・高知市病院企業団立 高知医療センター 院長 瀬戸山 元一 ほか�栄養管理─“食べられる”ようにサポートすることが�癌と有利に闘い,よりよい結果をもたらす�癌研究会 有明病院 消化器外科 比企 直樹�

監修�大阪大学名誉教授 岡田 正�

2006年 第7巻増刊号(通巻18号) ISSN 1345-7497

増刊号�NST施設取材特集�

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巻頭言�NSTの動向および抱えている問題点  p.3�大阪大学名誉教授 岡田 正��栄養管理の必要性・重要性が増してくる時代だからこそ�息の長い活動にするために,NSTにかかわるすべての人の意思を尊重  p.4─7�関西電力病院 院長 清野 裕ほか��PPM-ⅠからPPM-Ⅱ,そしてPPM-Ⅲへ�NSTを設置・稼働させる病院が増えた今,次の課題はその質の保証へ  p.8─11�藤田保健衛生大学 外科学・緩和ケア講座 教授 東口  志��病棟ごとにNSTを稼働──ブロック方式�栄養管理の質は『NSTソフト』で保証し、症例報告中心の勉強会で向上させる  p.12─15�昭和大学病院 小児外科 教授 土岐 彰��病院内外の臨床栄養管理に役立つ情報を栄養局から発信する�─この試みが自然にNST活動へと発展─  p.16─19�高知県・高知市病院企業団立 高知医療センター 院長 瀬戸山 元一ほか��栄養管理──“食べられる”ようにサポートすることが�癌と有利に闘い,よりよい結果をもたらす  p.20─23�癌研究会 有明病院 消化器外科 比企 直樹��NST活動の中心は経管栄養に伴う下痢対策から人工呼吸器の離脱へ�今後は,病棟での栄養管理の成果を外来,地域に還元していきたい  p.24─27�株式会社麻生 飯塚病院 救命救急センター 所長 鮎川 勝彦ほか��電子カルテ導入によりNST活動の効率がアップ�幅と深さのある栄養管理が可能に  p.28─33�トヨタ自動車株式会社 トヨタ記念病院 内分泌科 科部長,栄養科 科部長 篠田 純治��NST活動の場を院内から外来へ拡大�地域連携で医療圏全体の栄養管理の質向上を目指す  p.34─37�伊達赤十字病院 消化器科 副部長 日下部 俊朗��後期高齢者に対するケアの質は栄養管理抜きにして向上せず  p.38─41�医療法人溪仁会 西円山病院 院長 峯廻 攻守ほか��褥瘡対策チーム,嚥下チームなど,�すでに活動している医療チームを軸に栄養管理を推進  p.42─45�財団法人宮城厚生協会 泉病院 神経内科 科長 関口 すみれ子�

増刊号�

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巻 頭 言

NSTの動向および抱えている問題点

大阪大学名誉教授 岡田 正

去る5月12~13日,岐阜市の長良川国際会議場において岐阜大学の森脇久隆会長

の下,第29回日本栄養アセスメント研究会が200名を超す出席者を集めて盛大に開

催された。私自身,発起人の一人として常日頃から本研究会の運営に関係し,その

動向に関心を持っているものであるが,この数年間は参加者も比較的少なく,尻す

ぼみの感がなきにしもあらずであった。それが今回は充実したプログラムに加えて

多くの栄養士の参加を得て,きわめて活発な質の高い議論が会場を飛び交い,参加

者に十分な満足感を与えた。一方,発表された演題はというと,全24題の一般演題

のうち約半数が療養施設における高齢者を対象とした栄養アセスメント(スクリー

ニング)であり,かつて本研究会が開設された初期の頃,外科・内科領域でダイナ

ミック・アセスメントすなわち鋭敏な指標を求めて討議を行った頃と比べ,対象患

者が一変しつつある感を強く持った。しかし,過去における研究会での発表・討論

内容を参会者が記憶にとどめておき,それをもとに研究を発展させていくならば,

これこそ研究会の存在価値ありということにならないだろうか。

さて,本誌18号ではわが国のさまざまな医療施設(10施設)におけるNSTへの取

り組み状況が紹介されている。紹介施設自体に大小の差はあれ,いずれのNSTも

それなりによく機能しているように思われ,各施設におけるリーダー(責任者)の識

見が伺える。日本静脈経腸栄養学会を中心としたNST啓蒙活動が次第に功を奏し,

着実に普及し始めているあらわれとみてよいであろう。またこれには2004年度におけ

る病院機能評価項目(V5)への記載や,2006年度における栄養管理実施加算の設定

が追い風となって栄養士を臨床の場に駆り立てていることが関係しているであろう。

今回紹介されている施設はいわゆる大病院が多いが,扱う患者数からみても,活

動に要するメンバーの労力たるや大変なものになることが想像される。そこで自ず

から当該施設に最も適した方法が選択されなければならない。藤田保健衛生大学の

東口先生が提案したPPM‐Ⅲは,まずNST活動の中心となるコアメンバーを選出し,

各病棟にそこから選出したサテライトチームを作る方式である。いわば二段構えの

システムであるが,コア・サテライト両チームの緊密な連携が必須と考えられる。

昭和大学の土岐先生はNST活動にコンピューターの導入を図り,NSTソフトを作

り活用することによって効率化に成功している。一方,NST活動が療養患者群に

及ぶとともに新たな問題が析出している。外来患者,あるいは在宅療養中の患者の

栄養評価・治療を適正に行う必要があるが,実際には知識や技術の点で担当医間に

相当のレベルの差がみられることが多い。伊達赤十字病院の日下部先生は,地域連

携による医療圏全体の栄養管理の教育が火急の問題であると主張している。

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今後,栄養管理はますます重要にその中心を担う医師,管理栄養士の連携を深めたい清野先生が約10年前に日本病態栄養学会を設立した当

時は,食生活の欧米化による生活習慣病の増加傾向がみ

られる一方で,高齢化や脳・心血管系疾患や癌などを背

景にした栄養不良患者の増加といった問題が注目されは

じめた頃だった。糖尿病学や栄養学に造詣の深い清野先

生は,「今後,予防や治療の基本となる食事療法や栄養

管理はますます重要な位置を占める」と実感していたと

いう。しかし,その当時,食事療法や栄養管理で中心的

役割を担うはずの医師は栄養学に関する知識や意識が低

く,管理栄養士も栄養管理に不可欠な患者の病態の把握

が不十分であった。また,管理栄養士の多くは診療部門

ではなく医事課(事務部門)に所属しており,医師と管理

栄養士の連携が難しかった。

そこで清野先生が当時勤務していた京都大学病院は,

1981年全国に先駆けて,管理栄養士の所属を医事課(事

務部門)から診療部門へと変更し,管理栄養士がより積

極的に診療へ携われる環境をつくりあげていた。そこで,

医師と管理栄養士の連携を強めて病態栄養学の学問レベ

ルを向上させるため,また医師や管理栄養士の資質を高

めるために日本病態栄養学会を設立した。設立当初は200

名程度だった学会員も,2006年4月現在で約6000名(内

科系を主として医師が3分の1を占める)となっている。

社会のニーズに合致した栄養管理の実践は管理栄養士の育成から始まる日本病態栄養学会の活動の1つに,臨床での栄養状態

の評価,栄養補給,栄養教育などの栄養管理能力を有す

る管理栄養士(病態栄養専門師)の育成がある。その目的

について,「病院,クリニック,老人福祉施設,地域に

おいてこれからニーズが高まってくる食事療法や栄養管

理の実践のため,病態栄養専門師は必要かつ重要な役割

を果たすからだ」と清野先生は話す。さらに,「予防と

治療を目的とする食事療法,栄養管理において中心的役

栄養管理の必要性・重要性が増してくる時代だからこそ息の長い活動にするために,NSTにかかわるすべての人の意思を尊重

関西電力病院 院長1),同 糖尿病・栄養内科 部長2),同 栄養管理室 室長3)

清野 裕1),谷口 中2),北谷 直美3)

関西電力病院(写真1)は,1953年に関西電力社員の福利厚生を目的として創設された。その後,現在地への移転

をきっかけに“地域医療への貢献”を掲げ,社員中心の診療体制から地域住民に開放された病院として,急性期医療

を中心とした診療活動を展開している。

現在の院長である清野裕先生(写真2)は日本糖尿病学会常務理事,日本病態栄養学会理事長,日本糖尿病協会理事

長,糖尿病対策推進協議会副会長,栄養療法推進協議会副理事長を務める,言わずと知れた糖尿病学,栄養学の第一

人者である。今回は清野院長のもとで実践されているNST活動についてお話を伺った。

写真2 清野裕先生’67年京都大学医学部卒業。’96年京都大学大学院医学研究科糖尿病・栄養内科学教授,’01年同附属病院副病院長を経て,’04年より現職。

写真1 関西電力病院4

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割を果たすのは医師と管理栄養士。昨今注目を集めてい

るNST(Nutrition Support Team)のようなチーム医療は

重要だが,各職種が等間隔にNSTに携わる必要はない

だろう」とつけ加えた。つまり栄養管理をNSTで行う

場合,その中心は管理栄養士と医師であり,その他の職

種(看護師,薬剤師,臨床検査技師,理学療法士など)が

必要に応じて彼らを支援するという考えである。

「すべての職種が一同に会してNST回診を行う必要

はない。医師と管理栄養士,その他に加わるならば病棟

看護師が一緒に回診を行い,問題があれば,それを解決

できる職種にフォローしてもらうという体制がよい」と

清野先生は話す。また,「入院中に栄養状態を改善して

も,退院後に急激に栄養状態が悪化して再入院する,と

いうのが現実だ。地域医療では,多職種が一同に会して

栄養管理を行うNSTを組織するのはきわめて困難だ。や

はり,地域医療で患者さんの栄養状態を守るために先頭

に立つのは管理栄養士だ」と付け加え,病院,クリニッ

ク,地域における栄養管理の重要性や必要性,そこで果

たす管理栄養士の役割の重要性についても強調した。

ちなみに同院の管理栄養士は,個々に栄養に関連する

学会で年3回以上の発表,栄養管理に関連する雑誌に英

文を含めて年2~3編の投稿が義務づけられている。清

野先生は,「NSTの普及により,栄養管理の重要性が広

く認識されるようになった。だからこそ,管理栄養士は

自ら資質の向上に務めるべきだ」と話す。

1989年より糖尿病・栄養内科で実施されている糖尿病教室の経験を基盤にNSTを設立同院のNSTは,現在のNSTリーダーを務める糖尿病・

栄養内科部長の谷口先生(写真3)が同院着任当時の1989

年より開始した“糖尿病教室”の経験をベースにしてい

る。

この糖尿病教室は,すべての糖尿病入院患者を対象に,

医師,看護師,薬剤師,臨床検査技師,管理栄養士らが

チーム回診を行い,個々の患者の状況に応じて個別,集

団(大規模,小規模)で糖尿病に関する知識を提供すると

いうもの。チームメンバーである医師は清野先生や谷口

先生といった糖尿病指導医の資格を有した医師で,看護

師,薬剤師,管理栄養士および臨床検査技師についても

糖尿病療養指導師の資格を有している糖尿病のエキスパ

ートチームであった。チーム医療のメリットについて谷

口先生は,「患者さんには『医師に嫌われたくない』と

いう思いがあるため,医師に対する食事制限やインスリ

ン注射の報告では『できている』と見栄をはることが少

なくない。これは医師と患者さんの関係だけでは気づか

ないことも多いが,看護師,薬剤師,管理栄養士,臨床

検査技師などが治療に参加することによって患者の本音

を引き出せるため,介入しなければならない問題を明確

にできる」と話す。

同院の糖尿病教室は個別,大規模集団,小規模集団と

さまざまな規模を取り揃えている。その理由について

「集団が苦手な人,あるいはみんなとワイワイすること

が好きな人など,患者さんには個性があるので,教室の

形態はさまざまに揃えておいたほうがよい。とにかく糖

尿病治療は長く続けることが大切。そのためには患者さ

んもスタッフも楽しめるものでなければ」と話す。たと

えば,大規模集団の糖尿病教室では,「フランス人の糖

尿病患者は何を食べているか」という発想から糖尿病患

者のためのフランス料理(700kcal)が提供され,大好評

とのこと。その他にも,同院のスタッフだけでなく,大

学や他病院から第一線で活躍する糖尿病の専門家と協力

して糖尿病学,栄養学の臨床研究のみならず,運動療法,

食事療法,薬物療法,その他最新療法に関する講演も行

っている。一方,小規模集団の糖尿病教室としては,患

者からの質問にスタッフが回答する“糖尿病Q&A”を

実施している。

さらに4年ほど前からは糖尿病教室の活動範囲を地域

へと拡大し,地域の開業医や看護師,調剤薬局の薬剤師

とともに糖尿病の勉強会や講演会を開催して糖尿病に関

する講義を行うほか,治療中の悩みについての相談を受

けているという。

しかし,食事療法や栄養管理が必要な患者は糖尿病患

者だけではなく,クローン病,脳・心血管系疾患,肝硬

変,癌のほか,食事が思うように食べられず栄養不良状

態に陥っている高齢者もおり,これらの患者に対しても

食事療法や栄養管理を行うことが求められている。谷口

先生は,「これらの患者さんを対象に栄養管理を行うと

なると,栄養学に詳しいといっても糖尿病専門医だけで

は手に負えない」と考え,糖尿病教室の実績,経験をも

とにNSTを立ち上げることになった。

月1回の症例検討会でNSTメンバーが意見交換2004年1月より,院内の医師,看護師,薬剤師,管理

栄養士,臨床検査技師を対象に“NST勉強会”を開始

し,院内スタッフにNSTや栄養管理の重要性をある程

度認識してもらい,同年7月からより実践的なものを目

指して,NSTメンバーによる“NST症例検討会”を開

始した。この症例検討会では栄養管理が問題ではないか

写真3 谷口中先生’79年愛媛大学医学部卒業,’87年京都大学大学院医学研究科修了。’89年からの関西電力病院第一内科勤務を経て,’02年より現職。京都大学臨床教授。

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★  :褥瘡がある�

★  :総コレステロールが160m�/dL未満�

★  :Hb値が10m�/dL未満�

★★ :血清アルブミン値が3m�/dL未満�

★★ :経口摂取ができない�

★★★:BMI 18.5k�/m2未満�

★★★:1日のカロリー摂取量が1000kcal未満の状態が5日以上�

    (経口・経管・経静脈を問わない)�

以下の要領で評価を行う�

【スクリーニング結果】� 1.NST評価依頼へ(★3つ以上)� 2.NST活動なし(★2つ以下):ただし上記内容に変化が生じた場合はNST介入へ�

スクリーニングシート(1次評価)�

記載日:平成  年  月  日�

患者氏名�

ID�

入院日�

病名�

緩和医療�

身長(cm)�

体重(k�)��

褥瘡�

T-cho(m�/dL)�

Hb(m�/dL)�

Alb(m�/dL)�

経口摂取�

栄養ルート�

あてはまるものを�○で囲む�

BMI(k�/m2)�

体重減少�

その他�

あてはまるものを�○で囲む�

歳�

男・女�

平成  年  月  日�

している・していない�

*緩和医療をしていない患者を対象とする。�

無 ・ 有�

できる・できない�

経口(食種     kcal)�

経腸        kcal�

経静脈(TPN/PPN) kcal

無 ・ 有(     k�/日)�手術予定あり�

食欲不振あり�

誤嚥の危険あり�

ターミナル�

病棟�

科�

主治医�

担当看護師�

号室�

 判定�

★�

★�

★�

★★�

★★�

★★★�

★★★�

NST調査依頼�

NST報告は医師の監修のもとスタッフが記入�

NST評価シートの作成・身体所見の記入(NSTチーム)�

関西電力病院 NST実施委員会�

報告�

報告�

監視�

NST回診継続�

終了�NST回診�

全入院患者への検査義務づけ�

栄養不良患者の判断基準�

・生化学検査�

  アルブミン・ヘモグロビン・総コレステロール�

・身体所見�

・BMI・摂食状況�

★   :褥瘡がある�

★   :総コレステロールが160m�/dL未満�

★   :Hb値が10m�/dL未満�

★★  :血清アルブミン値が3m�/dL未満�

★★  :経口摂取ができない�

★★★ :BMI 18.5k�/m2未満�

★★★ :1日のカロリー摂取量が1000kcal未満の状態が5日以上�

     (経口・経管・経静脈を問わない)�

スクリーニングシート記入�(記入者:主治医・担当看護師)�

★3つ以上� ★2つ以下�

NST活動依頼なし�

と感じた症例を提示し,メンバー全員でその症例の栄養

管理を考えるというものだ。なお,NSTメンバー(写真

4)には糖尿病教室のスタッフに加え,消化器内科医2

名,消化器外科医1名,病棟看護師が加わった。

2005年1月,NST症例検討会を通じてNSTメンバー

の栄養管理の知識や技術がある程度のレベルに達したと

いうことで,“NST実施委員会”としてNST活動が開始

された。そもそも同院ではNST活動に関係なく,全入

院患者に対して生化学検査(アルブミン,ヘモグロビン,

総コレステロール),身体所見,BMI,摂食状況の調査

が義務づけられている。これによって管理栄養士は入院

患者の栄養状態を把握し,臨床検査技師とともに作成し

た栄養管理介入基準に則って栄養障害がある患者を抽出

し,食事指導や栄養管理を行っている。つまり,NST

活動を実施しなくても栄養管理は行われていたわけだ

が,糖尿病教室の経験からチーム医療のメリットを十分

理解していたNSTメンバーは,メンバーの医師が主治

医となっている入院患者を対象にNST活動を行うこと

にした。

同院のNSTの流れは次のとおりである。主治医ある

いは病棟担当看護師がNST介入のためのアルゴリズム

(図1)に則って栄養スクリーニング表(図2)を記入し,

NST介入が必要と判断された症例について月1回の

“症例検討会&勉強会(写真5)”で栄養管理の方針を検

討する。NST栄養評価シート(図3)作成後,主治医や

NSTメンバーの病棟看護師,患者の担当看護師のほか,

NSTメンバーの管理栄養士や薬剤師が個々の専門性か

ら栄養管理に携わり,患者の栄養状態の推移は主治医の

回診でフォローする。また,その患者の状況は“症例検

討会&勉強会”で他のメンバーにフィードバックするこ

とになっている。

写真4 NSTメンバー

図2 栄養スクリーニング表

写真5 月1回の症例検討会&勉強会の様子図1 NST介入のための基本アルゴリズム

(処理手順)

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患者氏名�

ID�

入院日�

病名�

歳�

男・女�

平成   年   月   日�

病棟�

科�

主治医�

担当看護師�

号室�

安静時エネルギー�

必要エネルギー�

現在の摂取エネルギー�  経口摂取�  経腸摂取�  経静脈�

kcal/日�kcal/日�kcal/日��

kcal/日�

kcal/日�

NST栄養評価シート�記載日:平成  年  月  日�

NSTからの提案�

 □摂取エネルギー量が不足しています。�

   □病院食の変更(           )�

   □栄養補助食品(           )�

   □点滴へ(           )�

   □経管栄養(           )�

 □摂取たん白質量が不足しています。�

   □病院食の変更(           )�

 □処方の追加・変更をお願いします。�

 □現状把握のために採血のオーダーお願いします。�

 □その他�

  主治医の先生,担当看護師,病棟のご理解,ご協力よろしくお願いいたします。�

                        関西電力病院 NST実施委員会�

着実にNST活動を重ね,将来的には全入院患者を対象に同院では患者の目前でNSTメンバーが集まって回診

したり,栄養管理を行ったりすることはない。NSTメ

ンバーが集まるのは月1回の“症例検討会&勉強会”

で,それ以外では管理栄養士が核となって各職種が連携

し,栄養管理を実践するという方法をとっている。この

理由には,前述した清野先生の考え方に加えて,「NST

対象患者さんは身体的・精神的に厳しい状況にある。栄

養障害があるからといって,突然NSTチームがベッド

の横に来て『こうだ,ああだ』といえば,患者さんは強

い不安をおぼえるだろう」という,常に患者の立場を考

える谷口部長の診療ポリシーがあるからだ。

「今後,予防や治療の基本となる食事療法や栄養管理

はますます重要な位置を占める」という清野先生の言葉

どおりに時代は進んでいくだろう。だからこそ,「ゆっ

くりと着実にNST活動を行ってNSTメンバーの知識と

経験を積み重ね,将来的には全入院患者さんを対象にし

たNST活動を行っていきたい。また,地域の栄養管理

にも貢献していきたい」と谷口先生は抱負を語った。図3 NST栄養評価シート

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Nutrition Support Journal 18 NST/ASSESSMENT NETWORKNST/ASSESSMENT NETWORK

病院長�NST

Chairman

Director Nursing director

院内総合メンバー�管理部,臨床検査部,�歯科,ケースワーカー�

各病棟担当メンバー�Satelite director,Link nurse,�看護師,薬剤師,管理栄養士�

病院の規模,特徴に適したPPMが必要藤田保健衛生大学 外科学・緩和ケア講座の東口先生

は,各病院に適したシステムでNST設立・運営するこ

とが重要だと話す。東口先生が500床前後の中規模病院

である鈴鹿中央総合病院で考案したPPM‐Ⅰと250床前

後の小規模病院である尾鷲総合病院で考案したPPM‐Ⅱ

では,時間はかかるものの,全スタッフが栄養管理の必

要性と重要性を認識し,その知識と技術を取得するシス

テムによってNST(Nutrition Support Team)を育てるこ

とが可能だ。しかし,700~1000床前後の大規模病院で

は,組織の人数が多いため,PPM‐Ⅰ,PPM‐Ⅱのよう

に全スタッフを対象にした運営システムでは情報伝達が

うまくいかず,その運営は困難なことが多い。まして大

学病院などのように関連病院への医師の派遣や研修医の

教育を行うような施設では,メンバーの入れ替わりが激

しく,情報伝達はさらに難しくなる。

500床前後までならば,1つのNSTで全入院患者を対

象にしてスクリーニングを行い,栄養障害のある患者を

抽出して回診,必要に応じて栄養プランを立ててフォロ

ーアップするというNST活動が可能だが,700~1000床

以上の大規模病院では,1つのNSTでそのような活動

を行うことは難しい。

各病棟にNSTのサテライトチームを設置栄養管理は病棟単位で実施するのが基本そこで東口先生が同大学七栗サナトリウムで考案した

のが,大規模病院でもNSTの設立・運営が可能である

PPM‐ⅠからPPM‐Ⅱ,そしてPPM‐ⅢへNSTを設置・稼働させる病院が増えた今,次の課題はその質の保証へ

藤田保健衛生大学 外科学・緩和ケア講座 教授 東口 �志

1998年,藤田保健衛生大学 外科学・緩和ケア講座教授の東口�志先生は,当時勤務していた鈴鹿中央総合病院で,栄養管理を担うNSTを,欧米型の専属チームとしてではなく,わが国の実情に対応した兼業兼務で運営する持ち寄り

パーティー方式(Potluck Party Method;PPM)を考案した(PPM‐Ⅰ)。その後,東口先生は尾鷲総合病院で全職員

がメンバーとなり,このメンバーから各部門別に実稼働するスタッフを選出するPPM‐Ⅱを考案するが,PPM‐Ⅰは

500床前後の中規模病院に,PPM‐Ⅱは200~300床前後の小規模病院に適したシステムであるため,700~1000

床を超えるような大規模病院ではうまく運営できないという問題点があった。

そこで,東口先生は同大学七栗サナトリウム(写真1)において,大規模病院でもNSTを運営することが可能なシス

テム,PPM‐Ⅲを考案した。今回は同教授にPPM‐Ⅲの概要と,NSTの次の課題についてお伺いした。

Profile ひがしぐち たかし

’81年三重大学医学部卒業,’87年三重大学大学院医学研究科終了。’90年Cincinnati大学Research Fellow。’94年三重大学医学部第1外科講師。’96年鈴鹿中央総合病院外科医長,’00年尾鷲総合病院外科手術部部長,’03年同副院長・外科部長を経て,’03年10月より現職。専門は消化器外科,代謝栄養,緩和医学。

図1 藤田保健衛生大学七栗サナトリウムNSTの組織図(運営システム:PPM‐Ⅲ)写真1 藤田保健衛生大学七栗サナトリウム

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NSTアセスメントシート�

計算表�

標準体重(k�)=身長2(m)×22  BMI=体重(k�)/身長2(m)�

BEE(男性)=66+(13.7×体重)+(5×身長)-(6.8×年齢)�

BEE(男性)=655+(9.6×体重)+(1.7×身長)-(4.7×年齢)�

AMC=AC-3.14×TSF/10�

補正BEE:標準体重から算出したBEE�

体重減少率=体重減少/平均時体重×100�

※%TSF,%AMCなど専用計算機にて算出�

ラウンド抽出基準:A,B,Cのうち2項目以上該当�

A:BMI<16  BMI≧30  体重減少率≧10%/2ヵ月�

B:%TSF<40  %AMC<80�

C:Alb≦3.0  TLC≦1000  Hb≦10

身長   cm 平均時体重   k�� 標準体重   k��

測定�日�

補正�BEE

体重�BMI身 体 測 定� 血液データ�

%TSFTSF AC AMC %AMC Alb TLC HbBEE

藤田保健衛生大学七栗サナトリウム�

ID   -   -   -   病棟  階�氏名          様  男 ・ 女�生年月日     年   月   日  歳�疾患名�併存疾患  高血圧  糖尿病  高脂血症�入院日:平成   年   月   日�評価日:平成   年   月   日��

NSTスクリーニング〔入院時の血液データ〕�

身長   cm�体重   k� 平常時体重   k��BMI     BEE   kcal�TSF   mm  %TSF�AC    cm   AMC  cm  %AMC

片麻痺患者のみ利き腕側も記入�利き腕側 右  左�TSF   mm  %TSF�AC    cm  AMC  cm  %AMC�(麻痺側 : 右  左)�

Alb:         (�/dL):3.1以上(0)・2.5~3.0(2)・2.4以下(3)�総リンパ球数:     (μL):1001以上(0)・801~1000(2)・800以下(3)�Hb:         (�/dL):10.1以上(0)・8.1~10.0(2)・8.0以下(3)�

記載者          主観的判定:良・やや不良・不良�

日常生活自立度 J( 1 . 2 ) A ( 1 . 2 ) B ( 1 . 2 ) C ( 1 . 2 )

Self assessment

栄 養�

床ずれ�(褥瘡)�

 飲み込み� (摂食・嚥下)�

 歯の状態�

呼 吸�

栄養状態:良好(0)・やや不良(1)・不良(2)・わからない(1)�食事摂取:とれる(0)・少ない(1)・とれない(2)�体重減少:なし(0)・あり(2)・わからない(1)�体重増加:なし(0)・あり(2)・わからない(1)��

虫歯の有無:なし(0)・あり(1)�入歯の有無:なし(0)・あり(1)�入歯の状態:良好(0)・やや不良(1)・不良(2)・わからない(1)�噛む力:良好(0)・やや不良(1)・不良(2)・わからない(1)�

歩行時の息切れ:なし(0)・他人と同じ速さで歩くと息切れあり(1)・�        休み休みでないと息が切れて歩けない(2)�タバコ:吸わない(0)・吸う,または以前は吸っていた(1)�

食事のむせ:なし(0)・時々ある(2)・常にある(3)・わからない(1)�肺炎の既往:なし(0)・時々ある(2)・何度もある(3)・わからない(1)���

日常生活:自分でできる(0)・助けが必要(1)・寝たきり〔B・C〕(2)�床ずれ(現在):なし(0)・あり(2)・わからない(1)�ありの場合 部位     褥瘡発生日    年  月  日�床ずれ(過去):なし(0)・あり(2)・わからない(1) 部位��

JとAランクは記入の必要がありません.�

自力体位変換�座位保持除圧�

できる     できない�できる     できない�

病的骨突出� なし   あり�

なし   あり� なし   あり�

関節拘縮� なし   あり�

皮膚湿潤�多汗・尿失禁�便失禁�

浮腫�局所以外の部位�

原則的に2点以上の項目が1項目でもあればNST症例�

主治医判定 NST症例  登録 ・ 否  主治医:�

PPM‐Ⅲ(図1)である。PPM‐Ⅲの特徴は,NST活動の

中心を担うNSTコアメンバー(院内の各部署・病棟から

栄養管理に造詣の深いメンバーを選出)を設定するとと

もに,各病棟にそこのスタッフから選出したメンバーで

NSTのサテライトチーム(サテライトディレクター:病

棟医師,サテライトサブディレクター:病棟師長,メン

バー:病棟看護師,病棟薬剤師,病棟管理栄養士,臨床

検査技師など)をつくることだ。基本的に栄養管理は,各

病棟に設置されているNSTのサテライトチームによっ

て,全入院患者を対象にルーチン化されている。

NSTのサテライトチームは,病棟に新しい入院患者

が入るとすぐに入院時初期評価(図2)を行う。なお,こ

の初期評価は,医師,看護師,薬剤師,管理栄養士,臨

床検査技師がそれぞれの専門性に応じて分担し行ってい

る。初期評価によって栄養障害がある,あるいは現在,

栄養障害が明確でなくても手術,化学療法などの治療開

始後に栄養障害を併発し,それにより感染症や褥瘡,摂

食嚥下障害などをきたすことが危惧されると判断された

患者を対象に,NSTのサテライトチームが週1回のプ

レミーティング,プレラウンドを行いながら,栄養プラ

ンの作成→経過アセスメント(図3)と栄養プランの評価

→栄養プランの追加・変更→経過アセスメントの作成と

栄養プランの評価→栄養プランの追加・変更→というサ

イクルで栄養管理を行っている(すべての記録はNSTカ

ルテに保管されている)。

NSTのサテライトチームによる栄養管理で栄養状態

に改善がみられない場合や特殊な栄養管理が必要な場合

は,週1回のNSTコアメンバーによる全病棟を対象と

した総合ラウンドに症例を提出する。NSTコアメンバ

ーとサテライトチームがミーティング(写真2)とラウン

ド(写真3)を行い,患者の栄養プランを検討・作成する。

現在のところ,同院では,全入院患者の約60%がNST

サテライトチームによる栄養管理の対象者となってお

り,そのうちの半数がNSTコアメンバーによる総合ラ

図3 NSTアセスメントシート

図2 入院時初期評価票

写真2 NSTコアメンバーとサテライトチームによるミーティングの様子

写真3 NSTコアメンバーとサテライトチームによるラウンドの様子

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2001年5月�2002年5月�2003年5月�2004年5月�2005年5月�2005年12月�

9312

157

39

255

100

438

189

681

372

920

684

1000�

900�

800�

700�

600�

500�

400�

300�

200�

100�

0

プロジェクト参加施設  NST稼働施設�

ウンドに持ち込まれているそうだ。

東口先生は「大規模病院だと,診療科を越えて1つの

NSTが渡り歩くのは各科の専門性を考えると容易では

ない。しかし,病棟ごとのNSTであれば,それぞれの

担当スタッフが患者さんの病態や背景を熟知しているた

め,スムーズなNST活動が可能である。PPM‐Ⅰ,PPM‐Ⅱ

よりPPM‐Ⅲのほうが速やかにNST設立・運営を行える

ので,今後,新規にNSTに取り組もうという病院は,大

規模病院に限らずPPM‐Ⅲのほうがよいのでは」と述べ

た。

そのほか,同院のNSTは,�褥瘡委員会,�感染対策委員会,�給食委員会も統括しており,属する各病棟,外来看護師長はすべてのチーム,委員会に属してリンク

ナースとして活動している。褥瘡対策にしろ,感染対策

にしろ,給食にしろ,栄養管理抜きに語れないからだ。

とはいえ,NSTをはじめ,3つの委員会がすべて集ま

る合同ミーティング(写真4)は月1回,1時間程度。ス

タッフ個々の負担を可能な限り減らすことが大事だと東

口先生は強調した。

日本静脈経腸栄養学会のNSTプロジェクト参加施設は約1000施設,NST認定施設は約700施設東口先生が考案してきたPPM‐Ⅰ~Ⅲや日本静脈経腸

栄養学会がNST普及のために取り組んできたNSTプロ

ジェクトなどによって,今日では多くの施設でNSTが

設立,運営されている。2005年12月末現在,日本静脈経

腸栄養学会NSTプロジェクト参加施設数は920施設,う

ち実際にNSTが設立・運営されている施設は684施設あ

り,そのなかの658施設が同学会のNST認定施設になっ

ている。また,日本病態栄養学会でもNST施設認定を

行っており,こちらは2005年度末現在で約137施設。つ

まり,両学会の重複を考慮しても,全国で700以上の施

設が学会のNST施設認定を受け,800近い施設でNSTが

実際に設立,運営されていることになる。その施設数は,

約5年前と比較して60~70倍に増加している(図5)。ま

た,2004年5月に公表された病院機能評価項目V.5.0で

NSTが記載されていることや,平成18年度診療報酬点

数などの改訂において栄養管理実施加算(1日につき12

点,120円)が新設されたことにより,さらにNSTを設

立,運営する施設が増加すると予測される。

しかしその一方で,平成18年度診療報酬点数などの改

訂には,病院経営に大きなダメージを与える項目もある。

特に入院時の食事にかかわる費用は1日単位ではなく1

食単位に改められたほか,特別食加算が1日350円から

1食76円(1日あたり228円)に減額,適時・適温の食事

提供の特別加算1日200円が廃止など,軒並み減収へつ

ながる改訂であった。病院としては,たとえ実質減算に

なるとしても,それを最小に食い止めようとするならば

栄養管理実施加算をとるよう努力しなければならない。

栄養管理実施加算の施設基準は,栄養管理を担当する常

勤の管理栄養士が1名以上配置されており,医師,管理

栄養士,薬剤師,看護師,その他の医療従事者が共同し

て患者ごとの栄養管理を実施していることだが,その実

施内容が確認できる文書がなければならない(表1)。

「栄養管理計画に基づく入院患者さんの栄養管理の実

施内容とは,まさにNST活動そのもの」と東口先生は

述べ,「NSTは診療報酬のために設立,運営するもので

はないが,今回の加算はすべての入院患者さんを対象と

しており,実際にはNST活動を行わないと,この栄養

管理実施加算の真の意味での取得は難しいのでは」と付

け加えた。

第三者評価機構を活用して常にNSTの質の向上に努めることが重要このような状況のなか,東口先生は「今後は自分たち

のNSTの質を常に改善,向上させていく努力が必要に

なる」と話す。2004年9月,日野原重明先生(聖路加国

際病院 理事長),大柳治正先生(近畿大学 医学部長),

清野裕先生(関西電力病院 院長)らによって,NSTの質

を保証する第三者機関として“日本栄養療法推進協議

会”が設立された。同協議会は,適切な栄養管理の推進

や啓発(NSTに関する情報提供・交換,NST設立・運営

の教育・研修,栄養療法実施基準の設定など),および

NSTに関する認定業務(NST施設認定業務,NST専門療

法士認定業務など)などを介して,NSTメンバーの知識

写真4 すべてのNSTが集まる合同ミーティングの様子

図4 日本静脈経腸栄養学会・NSTプロジェクト参加施設およびNST稼動施設数の推移

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や技術のさらなる向上,資材や素材の適正化などを図り,

NSTの質を保証することで医療の質の向上に貢献して

いくという。

東口先生は「現在,栄養療法推進協議会のNST稼働

施設暫定認定に全国の多くの医療機関から申請書類が提

出されている。こうした第三者機関の評価を活用して,

自分たちのNSTの質を見直し,改善し,そして向上し

ていくことが重要だ」と今後への課題を示した。

� 栄養管理実施加算に関する事項新設 入院基本料 栄養管理実施加算 1日につき12点

○ 留意事項等A233 栄養管理実施加算・栄養管理実施加算は,入院患者ごとに作成された栄養管理計画に基づき,関係職種が共同して患者の栄養状態等の栄養管理を行うことを評価したものである。

・当該加算は,入院基本料,特定入院料又は短期滞在手術基本料2を算定している入院患者に対して栄養管理を行った場合に算定できる。

・栄養管理士をはじめとして,医師,薬剤師,看護師,その他の医療従事者が共同して栄養管理を行う体制を整備し,あらかじめ栄養管理手順(栄養スクリーニングを含む栄養状態の評価,栄養管理計画,定期的な評価等)を作成すること。

・栄養管理は,次に掲げる内容を実施するものとする。ア 入院患者ごとの栄養状態に関するリスクを入院時に把握すること(栄養スクリーニング)。イ 栄養スクリーニングを踏まえて栄養状態の評価を行い,入院患者ごとに栄養管理計画(栄養管理計画の様式は別紙様

式4又はこれに準じた様式とする)を作成すること。ウ 栄養管理計画には,栄養補給に関する事項(栄養補給量,補給方法,特別食の有無等),栄養食事相談に関する事項(入

院時栄養食事指導,退院時の指導計画等),その他栄養管理上の課題に関する事項,栄養状態の評価の間隔等を記載すること。

エ 栄養管理計画を入院患者に説明し,当該栄養管理計画に基づき栄養管理を実施すること。オ 栄養管理計画に基づき患者の栄養状態を定期的に評価し,必要に応じて当該計画を見直していること。

・当該栄養管理の実施体制に関する成果を含めて評価し,改善すべき課題を設定し,継続的な品質改善に努めること。・当該保険医療機関以外の管理栄養士等により栄養管理を行っている場合は,算定できない。

[官報および点数評価改正点の解説(白表紙)より一部抜粋]

表1 平成18年度診療報酬点数等の改定について(栄養管理実施加算について)

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NST委員会�

NST・栄養委員会�

病院運営委員会�

病院長�昭和大学病院NST�(ブロック方式)�

NST委員会メンバー�医師�(外科系2名,内科系4名,� 小児科系1名)�看護師2名�管理栄養士2名�薬剤師2名�臨床検査技師2名�

27 ブロック(病棟,部門)�

NSTメンバー(医師,看護師,管理栄養士,薬剤師,臨床検査技師)�

病棟� 病棟� 病棟� 病棟� 各部門�

院長の要請から大学病院NSTを設立2004年1月に昭和大学小児外科教授に就任した土岐彰

先生は,就任後間もなく昭和大学病院院長の飯島正文先

生からある要請を受けた。それは,昭和大学病院NST

設立に対するものであった。

当時,すでに全科型のNSTを稼動させ,TPN施行率

やカテーテル敗血症の減少,在院日数の減少など成果を

あげている病院もあったが,その数はまだまだ少なく,

成果をあげている施設の多くは小~中規模病院で,700

~1000床前後の大規模病院や診療科ごとに独立した大学

病院で全科型NSTを稼動させることは困難とされてい

た。

土岐先生は,以前に勤務していた香川医科大学附属病

院(現 香川大学附属病院)において全科型NSTを立ち上

げた実績があり,その経験を活かして,昭和大学病院・

東病院での全科型NST設立に向けて構想を描き始めた。

それは,1チームのNSTが病院全体を管理するのでは

なく,病棟単位(ブロック単位)でNSTチームを立ち上

げ,その上に全体のまとめ役としてchairperson,chief

director,相談役としてsupervisor,総監督として病院

長を置く方式で,診療科ごとの独立性を保持しようとす

るものであった。

全科型NST稼働へ向けて──大学病院でも短期間で実現可能2004年11月,NSTの中核を担うであろう栄養に造詣

の深いスタッフでNST準備委員会が発足し,2005年3

月まで毎月1回,NSTに関する勉強会が実施された。同

年4月には病院長直属の院内組織としてNST委員会が

設立され,27病棟それぞれにNSTメンバー(総勢140~

病棟ごとにNSTを稼働──ブロック方式栄養管理の質は『NSTソフト』で保証し,症例報告中心の勉強会で向上させる

昭和大学病院 小児外科 教授 土岐 彰

昭和大学病院・東病院(写真1)では,2005年8月より全27病棟(1100床)で,病棟ごとに結成されたNST(ブロ

ック方式)がその活動を開始した。各NSTを統括するNST委員会の委員長である小児外科教授の土岐彰先生は,「NST

が1つのチームであれば,すべての入院患者さんが同じレベルの栄養管理を受けることができる。しかし,NSTが数

チームあるブロック方式では,そうはいかない」と指摘。その問題を解消するために,最低限の質を保証するコンピ

ューターソフトを開発した。また,今後は各NSTのポテンシャルをさらに高めるため,症例報告中心の勉強会を開催

していく予定とのこと。今回は,土岐先生に同院でのNST活動を概説していただき,大学病院など病床数の多い大規

模病院においてNST活動を成功させるコツを探ってみた。

Profile とき あきら

’78年岡山大学医学部卒業,’82年岡山大学大学院医学研究科修了。’82年順天堂大学医学部外科学助手,’84年香川医科大学小児外科助手,’90年同講師。’92年高知県立中央病院外科医長,’00年香川医科大学手術部助教授・副部長を経て,’04年より現職。専門は小児外科。

写真1 昭和大学病院・東病院 図1 昭和大学病院NST(ブロック方式)12

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B CA

150名)が結成された(図1)。各NSTは,医師1名,看

護師2名,薬剤師1名,管理栄養士1名,臨床検査技師

1名で構成され,混合病棟など複数の診療科がある場合

は医師を各診療科より1名ずつ選出し,薬剤師,管理栄

養士,臨床検査技師はいくつかの病棟を兼任するかたち

となっている。

以降2005年7月まで,NSTメンバーを対象に講習会

を4回実施し,すべてのNSTメンバーが4回とも受講

できるよう配慮した。講義内容は,『NSTソフト(後述)』

の使い方,アディポメーターの使い方とその意義,TNTC

(シミュレーション)を用いた症例検討であった。このよ

うな講習会を経て,同年8月より全科でNSTを稼働さ

せた。

土岐先生は,「病院長がNSTの必要性・重要性を理解

し,その考えをスタッフに浸透させていたことと,ブロ

ック方式をとることによって,NST結成から全科稼働

までを短期間のうちに実施できた」と振り返る。

ブロック間格差をなくすため,栄養管理レベルを最低限保証する『NSTソフト』を開発ブロック方式は大学病院のような大規模病院において

NSTを稼働させる1つのシステムだが,栄養管理レベ

ルにブロック間格差が生じる危険性もあると土岐先生は

話す。「あっちの病棟では栄養管理をきっちりしてもら

えたのに,こっちの病棟では全然だ,と患者から苦情を

もらいかねない」というわけだ。

そこで土岐先生は,栄養管理の質を最低限保証するた

めの『NSTソフト(図2)』を開発した。『NSTソフト』

はSGA(主観的包括的栄養評価)シート,ODA(客観的ア

セスメント)シート,PEN(経静脈・経腸栄養摂取量評

価)シートの3枚から構成される,NST管理に使用する

パソコン上のプログラムシートである。

これらシートの使い方,すなわちNST活動の流れに

ついて紹介する。まず,毎週月曜日の午前中に,入院前

1ヵ月間で入院時に最も近い測定日のアルブミン値が

3.0mg/dL未満の患者,褥瘡のある患者がパソコン上に

リストアップされる(約450名/週)。このなかから,NST

メンバーや主治医がNSTの介入が必要と考えた症例に

ついてSGA(図2A)を行い,栄養状態を4段階で評価(毎

月のべ約160名,図3A),この評価でC(中等度栄養不

良)およびD(高度栄養不良)と判定された患者について

NST回診を行う(図3B)。

回診時には,患者の状態を把握し,身長,体重,上腕

周囲長(写真2),上腕三頭筋皮下脂肪厚(写真3),膝高

などを測定したうえで病棟にあるパソコン端末前に集ま

り(写真4),『NSTソフト』を用いた症例検討・カンフ

ァレンスを行う。具体的には,ODA(図2B)により推

奨栄養摂取量を算出してPENでそれを現在の栄養摂取

量と比較し,NSTとして推奨される栄養管理方法を提

言する(図4)。最後にパソコン上のSGA,ODA,PEN

シートを印刷し,回診を行ったすべてのNSTメンバー

がサインをして(写真5)カルテ内に保管し,主治医がサ

インをしたうえで栄養管理の指示を出すことになる。な

お,この流れでも栄養状態が改善しない場合は,パソコ

ン上でNST内の責任者がNST委員会に栄養管理を依頼

することになっている。

図2 NST管理に使用するPC上のプログラムシート(大人用,小児用)A:SGAシート,B:ODAシート,C:PENシート

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180�

160�

140�

120�

100�

80�

60�

40�

20�

08月�9月�10月�11月�12月�1月� 8月� 9月� 10月� 11月� 12月� 1月�

のべ件数�施行件数�

A B140�

120�

100�

80�

60�

40�

20�

0

A�B�C�D

1つのNSTの経験をすべてのNSTが共有することでNST個々のポテンシャルを最大限に引き出す土岐先生は「『NSTソフト』により栄養管理の質は最

低限保証された」と思うと述べる一方で,「『NSTソフ

ト』では最低限しか保証できない。どうしてもNST間

に格差が生じてしまう」と苦しい胸のうちを明かす。格

差を拡げないためにはどうすればよいのか,拡がった格

差はどうすれば縮まるのか──土岐先生は「やはり,

NSTメンバーが一堂に会する勉強会しかない」と考え

た。その内容が症例報告である。

症例報告を介して,1つのNSTが経験した栄養管理

の優秀症例を他のNSTが共有すれば,栄養管理の知識

が増えるだけでなく,NST活動に対するやる気を沸き

起こしたり,励みになったりするだろうというのが土岐

先生の考えだ。NST稼働後も,毎月1回“昭和NST知

って得する勉強会”を開催してきたが,この勉強会はミ

ニ講演会と連絡事項の役割を果たしていたが,2006年4

月以降は,この勉強会で各NSTから症例を報告しても

らう予定だと土岐先生は話す。また,地域の医療スタッ

フが参加できる“昭和NST知って得する講演会”を年

2~3回のペースで実施し,地域全体でNST活動を盛

り上げていきたいという。

昭和大学病院・東病院の成果を明らかにするほか,口腔リハビリとの連携,地域連携を進めたい同院NSTの今後の展望だが,それについて土岐教授

は次のことをあげた。

1つ目はデータの解析である。同病院のサーバーに保

存されている膨大なNST対象症例のデータを利用して,

大学病院におけるNST活動のアウトカムを示していき

たいという。

2つ目は,摂食・嚥下障害のリハビリテーションに定

評のある昭和大学歯科病院口腔リハビリテーション科と

NSTのコラボレーションである。NSTの稼働前から同

科は摂食・嚥下障害の患者に対してリハビリテーション

を行っており,多くの成果をあげている。ここへNST

がどのように交わるか。そのベストな方法を見つけ出し,

早急に稼働させたいと土岐教授は話す。

3つ目は地域連携である。その具体的方法の1つが前

述した“昭和NST知って得する講演会”の開催となる

図3A:月別NST施行例数B:月別NST栄養評価区分別例数

写真2 上腕周囲長計測の様子

写真3 上腕三頭筋皮下脂肪厚計測の様子

写真4 PCの前で症例検討・カンファレンスを行う小児外科病棟のNST

写真5 シートをすべて打ち出し,メンバー全員がサインする

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求めた推奨量と比較する�静脈栄養�

経腸栄養�

が,このほかにも東邦大学医療センター大森病院のNST

[ディレクター:鷲澤尚宏先生(消化器センター外科講

師)]と協力して立ち上げているプロジェクトがある。こ

れは,2つの大学が地域の医師会(品川区,荏原,大田

区,蒲田,田園調布の各医師会)メンバーを対象とした

研究会を開催し,大学病院と医師会メンバーの連携を強

化するとともに,地域における栄養管理の質の向上を目

指すというものだ。

「栄養状態がよくなって退院した患者さんが,2~3

ヵ月後に低栄養状態で再入院するというケースもときど

き見受けられる。地域全体の栄養管理の質を高めていか

なければ意味はないと,東邦大学医療センター大森病院

のNSTとともに地域連携を強化するシステムを作って

いく予定だ」と土岐先生は抱負を語る。ブロック方式と

いうシステムを考案し,大学病院において全科型NST

を成功させた土岐先生。今後は,アウトカムの輩出,口

腔リハビリテーション科とNSTのコラボレーション,地

域連携などの面で新たな成果を示してくれるだろう。

図4 PENによる推奨量と現在の栄養摂取量の比較

15

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近隣医療機関が有する医療機能を有さないことで地域連携型急性期病院としての存在意義を明確化瀬戸山元一先生(写真2)は,1982年,弱冠37歳にして

市立舞鶴市民病院の病院長に就任して以来,今日までの

20数年間,自治体病院の病院長として活躍されてきた。

これまでの業績が高く評価され,高知県立中央病院と高

知市立市民病院の統合,すなわち県と中核市の基幹病院

の統合というわが国初のプロジェクトを任されることに

なった。そのようななかで,瀬戸山先生は先進諸国で積

極的に推し進められている病院医療のグローバル・スタ

ンダード──“病院間の統合”,“病床数の縮小”,“診療

機能の特化”を強く意識したという。

実際,両院は統合されるにあたり,病床数は合計が810

床であったところを,648床(一般病床590床,結核病床50

床,感染症病床8床)へと縮小された。同時に自己完結

型の病院のあり方を全面的に否定し,医療連携を積極的

に推進することを前提にした紹介(地域連携)型急性期病

院として,診療機能の特化が図られた。具体的には,①救

命救急センター,②総合周産期母子医療センター,③が

んセンター,④循環器病センター,⑤地域医療センター

の5つのセンター機能を備え,総合的で高度な医療を提

供しているが,近隣の医療機関ですでに実施されている

最新の検査,治療に必要な医療機器──たとえば,癌の

診断に有用とされるPETや尿路結石などの治療に有効

な破砕機器などは導入されていないことが特徴としてあ

げられる。また,同センターは,近隣の医療機関が有す

る医療機能,すなわち検診や人間ドック,施設を使って

の慢性期リハビリテーションには取り組まず,緩和ケア

病棟や療養型病床も設けなかった。

このことについて,瀬戸山先生は「いずれの医療機能

も重要であることは承知している。しかし,本当の意味

で同センターが地域連携型病院として近隣医療機関と共

存するため,『近隣の医療機関が実施していることは基

本的に行わない』ということを意識して病院機能を特化

させた」と説明する。

医療,看護,薬剤,栄養,医療技術,事務の6局体制専門性を発揮しやすい動的横断組織で運営このような病院機能の運営組織として,瀬戸山先生は

医療局,薬剤局,看護局,栄養局,医療技術局,事務局

病院内外の臨床栄養管理に役立つ情報を栄養局から発信する─この試みが自然にNST活動へと発展─

高知県・高知市病院企業団立 高知医療センター 病院長1),同 栄養局長2)

瀬戸山 元一1),河合 洋見2)

2005年2月,高知県立中央病院と高知市立市民病院との統合により新しく創設された高知県・高知市病院企業団

立 高知医療センター(写真1)が開院した。同センターの病院長として病院長歴20数年の瀬戸山元一先生が就任し,現

在,病院医療のグローバル・スタンダードの実践,言い換えれば21世紀に適応する病院づくりが進められている。そ

の具体例として,本誌では栄養管理にスポットをあて,瀬戸山先生と栄養局長の河合洋見先生からお話を伺った。

写真2 瀬戸山元一先生’70年京都大学医学部卒業,’00年より現職(’05年病院長)。

写真1 高知県・高知市病院企業団立 高知医療センター16

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病院長�

副院長�

医療局�薬剤局� 看護局� 栄養局� 医療技術局�事務局�

喫食状況入力画面�

01

病  室� 患者番号� 患者氏名� 食  種�喫食率(割)�

主食�0�10�10�10�10�10�10�10�10�10�10�

10�

10�

7�8�

1�

10�10�9�10�10� 10�10�10�10�10�10�10�

10�0�9�

0�

6�9�5�7�5�10�10�10�10�10�10�

10�3�5�

6�

主菜�副菜�付加食�

0101020202

全粥ハーフ食�エネルギー1600食7g

エネルギー1600食7g

エネルギー1600食7g

エネルギー1600食7g

エネルギー1600食�

常食2000�

常食2000�常食1800�

常食2200�常食1800�

常食1800�

低残渣3分粥食�

常食1600�

低残渣米飯食�欠食�

2005/09/14 1 朝食� 担当フロア�配膳日付�主食・主菜・副菜・付加食�

別に毎食入力�任意� 入院棟� クリア�

行クリア�

印刷�

菜�

確定� 閉じる�

喫食率セット�

の6局体制をとった(図1)。これには,チーム医療の実

践において,各職種がそれぞれの専門性を発揮しやすい

ようにするねらいがあるそうだ。わが国の病院では,組

織そのものが医師を頂点としたものになっていることが

少なくない。その結果,チーム医療の実践だといって,

確かに医師,看護師,薬剤師,栄養士など多職種がチー

ムとなって患者にかかわっているものの,実際には,医

師による指示でチームが動いている状況に陥っているこ

とが多い。そこで,瀬戸山先生は「組織そのものを動的

横断組織にすることにした」と話す。

なかでも特筆すべきことは,栄養局が医療局,薬剤局,

看護局などと並列に位置づけられていることで,この組

織体制はわが国初の試みである。これについて,瀬戸山

先生は「臨床栄養管理において,その専門家である管理

栄養士が果たす役割は大きい。しかし,これまで管理栄

養士の多くが医師や看護師の指示のもとで動くことに甘

んじてきた。そこで,これからは管理栄養士自らがチー

ムの一員として積極的に活動するのだという意識を高め

るために栄養局を独立させた」と説明。そして,「病院

長の仕事は組織づくり。戦術論に関しては各局に任せて,

口を出さないことにしている」と付け加えた。

“局”として栄養局が存在する意義は“情報発信”にありこのような環境のなかで,現在,栄養局は河合洋見先

生(写真3)を中心にさまざまな業務に取り組んでいる

(写真4)。いずれの業務においてもコンセプトは“情報

発信”である。なぜなら,河合先生らは「栄養局が医療

局,薬剤局,看護局などと並列に位置づけられた以上,

管理栄養士はこれまでのように医師や看護師の指示で動

くのではなく,管理栄養士から積極的に他の医療スタッ

フに患者さんのために役立つ情報を発信しなければなら

ない」と考えたからだ。

では,どのような情報を発信するのか。河合先生らは

その1つとして“摂取栄養量の発信”に取り組んでいる

という。多くの場合,管理栄養士は提供時の栄養量がい

くらかという情報を発信するにとどまる。その後の喫食

調査は看護師や患者の自己申告に任せ,正確な摂取栄養

量が不明なのだという。だが,臨床栄養管理を行うにあ

たってはもちろんのこと,医師が治療方針を立てるにあ

たって求められる情報は摂取栄養量である。

そこで河合先生は,まず病棟配膳方式を復活させ,各

病棟に管理栄養士1名を含む栄養局のスタッフを常駐さ

せた。これにより,栄養局が責任をもって喫食調査を行

写真3 河合洋見先生’77年甲子園大学栄養学部栄養学科卒業,’03年より現職(’05年栄養局長)。

図1 高知医療センターの6局体制栄養局の業務は,①フードサービス,②臨床栄養管理,③管理栄養士の養成,④栄養分野の調査研究である。

図2 喫食状況の入力画面17

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入 院 棟 �患者番号�かな氏名 �患者氏名 �

コメント �

性  別�

病 室 � 入院日�食 種�

年 齢� 身 長� cm 体 重� k��

標準体重� BMI %標準体重�k�� %� %�欠食入院�

□ OPのため  □ 検査のため  □ 摂取不能�

NST 主 観 的 評 価 顔   色  □ 良い    □ 普通       □ 悪い�(視診)   表   情  □ 普通    □ 苦しそう��   体   型  □ ふくよか  □ 標準的      □ 痩せている��   皮   膚  □ 異常なし  □ 乾燥  □ 鱗状  □ パラフィン状��   年   齢  □ 標準的   □ 老けて見える��   レスポンス  □ あり    □ 反応あるが不明瞭 □ なし�

� 栄 養 状 態 □ 良好(0)  □ やや不良(1) □ 不良(2)  □ わからない(1)� 食 事 摂 取 □ とれる(0) □ 少ない(1)  □ とれない(2)� 体 重 減 少 □ なし(0)  □ あり(2)   □ わからない(1)� 体 重 増 加 □ なし(0)  □ あり(2)   □ わからない(1)�

日 常 生 活 □ 自分でできる(0)  □ 助けが必要(1)   □ 寝たきり(2)� 褥 瘡(現 在)□ なし(0)      □ あり(2)� 褥 瘡(過 去)□ なし(0)      □ あり(2)� タ  バ  コ □ 吸わない(0)    □ 吸う・以前吸っていた(1)�生化学検査(入院時あるいは入院前外来時検査)� アルブミン(�/dL)  □不明(0) □ 3.1以上(0)□  3.0~2.5(2)□ 2.4以下(3)� 総リンパ球体(/mm3)□不明(0) □ 1001以上(0)□ 1000~801(2)□ 800以下(3)� ヘモグロビン(�/dL) □不明(0) □ 10.1以上(0)□ 10.0~8.1(2)□ 8.0以下(3)�

NCT

 血 圧(mmH�)�

 血糖値(m�/dL)  � HbA1c(%)  �

 T-Cho(m�/dL)� TG(m�/dL)�

尿酸値(m�/dL)� BUN(m�/dL)� クレアチニン(m�/dL)�

� �

AST(GOT)(IU/L)� ALT(GPT)(IU/L)� γ-GPT(IU/L)��

� �

スクリーニング表�

□ 不明(0) □ 低値(1) □ 正常(0) □ 高値(2)�

□ 不明(0) □ 低値(1) □ 正常(0) □ 高値(2)�□ 不明(0) □ 低値(1) □ 正常(0) □ 高値(2)�

□ 不明(0) □ 低値(1) □ 正常(0) □ 高値(2)�□ 不明(0) □ 低値(1) □ 正常(0) □ 高値(2)�

□ 不明(0) □ 低値(1) □ 正常(0) □ 高値(2)�□ 不明(0) □ 低値(1) □ 正常(0) □ 高値(2)�□ 不明(0) □ 低値(1) □ 正常(0) □ 高値(2)�

□ 不明(0) □ 低値(1) □ 正常(0) □ 高値(2)�□ 不明(0) □ 低値(1) □ 正常(0) □ 高値(2)�□ 不明(0) □ 低値(1) □ 正常(0) □ 高値(2)��

い,正確な摂取栄養量を他医療スタッフに発信しようと

いう。その流れを以下に簡単に説明する。

入院患者はベッドサイド端末より,①日替わりメニュ

ー,②定番メニュー,③スペシャルメニュー,④嗜好飲

料(主治医の許可必要)のなかから好みの料理メニューを

選択する(日替わりメニューでは主食,主菜にもいくつ

かの選択肢が設けられている)。こうして選択された料

理内容から,まずは患者個々の提供栄養量が算出され,

次に病棟の栄養局スタッフが患者個々に配膳,下膳する。

下膳後,主食・主菜・副食・付加食に分けて摂取量を調

査し(図2),正確な摂取栄養量が算出される。河合先生

は,「摂取栄養量が病棟端末で閲覧可能な電子カルテ上

に反映するようになっており,臨床栄養管理の実践をは

じめ,診療に役立つ情報として他医療スタッフに経時的

に提供できている」と話す。

管理栄養士によるスクリーニングと喫食調査2方向から栄養アセスメントが必要な患者を抽出臨床栄養管理の実践において,前述した喫食調査の結

果,9食分の平均摂取栄養量が60%以下であれば,管理

栄養士は栄養アセスメント対象として抽出する。また,

管理栄養士は入院患者全員に栄養スクリーニング(図3)

を実施し,栄養アセスメント対象を抽出している。同セ

ンターでは,病棟での管理栄養士による栄養スクリーニ

ングと喫食調査から導かれた摂取栄養量によって栄養ア

セスメント対象が抽出され,アセスメント後,必要に応

じてNST(Nutrition Support Team,写真5)が介入する。

NSTは,栄養アセスメントに基づいて栄養ケアプラ

ンを作成,実施し,モニタリングおよび栄養評価を行い

ながら必要に応じて栄養ケアプランを追加,変更してい

る。管理栄養士は栄養ケアマネジメントの経過をコンピ

ューターに入力し,他医療スタッフが必要なときに電子

カルテ上からいつでも閲覧できるようにしている。この

システムで強調しておきたい点として,河合先生は「栄

養ケアマネジメントが確実に実行されているかどうか

を,栄養管理カレンダー(図4)により把握している」こ

とをあげた。

同センターは急性期病院であるため,患者の入院期間

は短い。そのため,時に栄養ケアマネジメントが中途半

端なままとなり,栄養管理の評価を行うことなく患者が

退院していたという問題が起こっていたと河合先生は明

かす。同センターは地域連携型急性期病院に特化してい

写真4 臨床栄養士の病棟活動

写真5 NSTメンバー

図3 栄養スクリーニング票

18

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るので,ここで行われた栄養ケアマネジメントは退院後

も実践されなければ意味がない。むしろ,退院後のほう

が長期にわたる栄養ケアマネジメントを必要とするた

め,栄養管理の評価は非常に重要な意味を持つ。栄養管

理の評価を作成する前に患者が退院していたのではすま

されないことである。

そこで入院期間が決まった段階で栄養管理カレンダー

を作成し,予定入院期間内で栄養ケアマネジメントを実

践できるようなケアプランを作成する。「栄養管理カレ

ンダーにより,退院前に栄養管理の評価を確実に行える

ようになった。今後は,栄養管理の評価を作成して地域

連携を深め,高知県全体の臨床栄養管理のレベルを高め

ていきたい」と,河合先生は抱負を語る。

管理栄養士が他医療スタッフと同じフロアに常駐する,これにより自然とチーム医療,すなわちNST活動が行われる現在NSTはTNT(Total Nutritional Therapy)を受講し

た小児科医と消化器外科医の所属している周産期母子病

棟,消化器外科病棟において正式に発足しているが,現

在NSTが発足していない病棟でも,管理栄養士を中心

として栄養管理活動は行われている。つまり,いずれの

病棟においても,NST同様の活動が行われているわけ

だ。

管理栄養士は病棟のスタッフステーションに常駐し,

さまざまな業務をこなすようになった。その結果,管理

栄養士は医師や看護師,薬剤師などの会話を耳にするこ

とで自然にその病棟で実施されている医療を学び,他医

療スタッフと自然と会話できるようになり,チーム医療

のなかに溶け込んでいった。現在では,臨床栄養管理に

関する問題の多くは,主治医と管理栄養士の間で解決し

ているという。河合先生は,「管理栄養士は他の医療ス

タッフと常に病棟で活動する,という環境がチーム医療

を育むと感じた。将来,NSTをどのように稼働させる

かは今のところ思案中だが,患者さんに望まれる臨床栄

養管理が実践できるようなシステムを構築していきた

い」と結んだ。

図4 栄養ワークステーション(栄養管理カレンダー)

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癌治療ばかりに目を向けていてもよい結果は得られない癌の治療中に食事が摂取できなくなることは少なくな

く,その理由には癌そのものの増大のほか,治療方法や

その副作用があげられる。比企先生は,「これまでは『手

術したから』,『治療の副作用だから』という理由から患

者さんが食事を摂れなくなっても仕方ない,あたりまえ

だという風潮があり,食事を食べられるように工夫する

努力を怠ってきた」と,自分自身に対する反省の意味を

込めながら苦言を呈した。治療が癌細胞に対してどれほ

ど効力を有していたとしても,患者は低栄養状態に陥っ

てPS(Performance Status)が低下し,治療が継続でき

なくなる。その結果,免疫力が低下してさらに癌が増大

し,ますます食事が摂れなくなって低栄養状態が悪化し,

死に至るということが少なからずあったからだ。消化器

内科・内視鏡部副部長の星野先生も,「患者さんは『癌

を治したい』と治療を受けに来ているのに,治療を受け

たばかりに,癌ではなく低栄養を介した全身状態の悪化

で死ぬ,こんなことが許されるはずはない」と厳しい意

見を述べ,癌と闘う環境を整える重要性を強調した。

看護部や栄養科が独自に栄養管理を実践NSTの立ち上げ前から,同院では癌患者における栄

養管理の重要性が認識されており,それに対する取り組

みが行われていた。

栄養科では,化学療法や放射線療法中に悪心・嘔吐,

食欲不振,臭いなどで食事が思うように摂れない患者に

対して院内特別食を考案した。これは患者の意見を取り

入れて考えられた献立で,主食は半量,魚・肉・卵の量

を減らし,果物や麺類,酸味のあるもの(酢の物やフレ

ンチサラダなど)を多く取り入れる,味覚に変化のある

患者には味付けを濃くするといった工夫がなされてい

る。また,頭頸科手術後の食事についても種々の工夫が

なされており,頭頸科病棟の看護師らが栄養科とともに

『給食委員会』をつくり,頭頸部癌患者の栄養管理に努

めていた。病棟看護師らは持ち回りで『嚥下訓練係』を

担当し,術後嚥下障害に対する嚥下訓練を精力的に行う

ほか,『給食委員会』で栄養科とともにゼリー食を取り

入れた嚥下訓練食の開発や,頭頸科手術後に経口摂取可

能となった患者に対しては食事形態を工夫した献立を提

供していた。

しかし,このような栄養管理は栄養科や看護部が中心

で,病院全体で行われているわけではなかった。NST

栄養管理──“食べられる”ようにサポートすることが癌と有利に闘い,よりよい結果をもたらす

癌研究会 有明病院 消化器外科 比企 直樹

1934年に癌研究所ととともにわが国初の癌専門病院として癌研究会附属病院(現 癌研究会 有明病院,写真1)が

開設されて約70年が経過したが,同院はこれまで一貫して“癌の医療には先駆的対応を,癌診療には全人的対応を”

をモットーに,わが国の癌治療を牽引してきた。このような歴史を持つ同院が,昨今,力を入れているのが栄養管理

である。2005年6月にNSTに関するワーキンググループが立ち上げられ,同年10月から全科型NSTが活動した。今

回は同院のNST活動の中心的役割を担っている消化器外科の比企直樹先生に,癌専門病院のNSTについてお話しいた

だいた。

Profile ひき なおき

’90年東京大学医学部第3外科,’91年帝京大学医学部救命救急センター,’92年Ulm大学Research Fellow,’93年青梅市立総合病院外科。’99年東京大学大学院医学系研究課程を修了後,’99年同大学消化管外科学研究室を経て,’05年より現職。専門は腹腔鏡補助下胃切除,外科侵襲学,代謝栄養学,エンドトキシン研究。

写真1 癌研究会 有明病院20

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A B

C

の立ち上げ前は癌に対して現在ほど有効な方法が十分に

確立していなかったため,特に医師は栄養管理の重要性

を認識していたとしても,その前に何よりも有効な治療

法の確立に必死だったようだ。

“良好な栄養状態の維持によって治療成績は向上”その意識のもとNSTが設立2005年4月,同院のNSTは腹腔鏡手術のほか栄養管

理にも造詣が深かった比企先生を中心として動き始め,

同年6月にはNSTコアメンバーが決定し,NSTに関す

るワーキンググループが本格的にスタートした。NST

コアメンバー(写真2)は医師(2~4名),看護師(4名),

管理栄養士(2名),薬剤師(1名),臨床検査技師(2名),

医事課事務職員(1名)で構成され,このメンバーを中心

に,同年8月から消化器外科病棟で,同年9月から頭頸

科病棟でNST活動がテストケースとして開始された。そ

の経験をもとにシステムの修正・改善が加えられ,同年

10月から全科型NSTが稼働した。

「NSTをスムーズに設立,稼働できた背景は,武藤

徹一郎院長,山口俊晴消化器センター長からのトップダ

ウンとNST委員からのボトムアップの両方があったこ

とだ」と比企先生は話す。看護師や管理栄養士らはもち

ろん,医師も薬剤師も,癌治療に携わる医療スタッフ全

員が“栄養管理なくして癌治療は語れない”ということ

を十分認識していたため,トップダウンによるNST設

立の動きが契機となり,ボトムアップで加速的にNST

設立・稼働の気運が高まったという。

NST継続のポイントは,コンピューターシステムなどを利用してスタッフの負担を軽減すること全科型NSTが始まって約半年,同院のNST活動はま

図1 1次および2次スクリーニングのテンプレートと電子カルテA:1次スクリーニングのテンプレート身長,体重,アルブミン値,BMIなどは電子カルテとリンクしているため自動的に入力され,リンパ球実数や体重減少率などは自動計算されて表示される。2次スクリーニングの必要性についてコンピューターが自動的に判定し,必要がある場合は右下に星印が表示されるようになっている。

B:2次スクリーニングのテンプレートC:電子カルテ上に保管された1次および2次スクリーニングの結果

写真2 NSTコアメンバー

21

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NSTスクリーニング集計報告� 病棟     年  月  日~  年  月  日�

新規入院患者�1次スクリーニング実施�1次スクリーニングチェック�2次スクリーニングチェック�

再実施�

検討・継続�

名�名�名�

名�

名�

名�ID 診療科� 疾患・入院目的� 検討・継続理由�

ID 診療科� 疾患・入院目的� 再実施理由�

ID 診療科� 疾患・入院目的�

すますパワーアップしている。これはスタッフの強い思

いとともに,「コンピューターシステムを用いるなど,

NST活動に携わるスタッフの負担をできる限り軽減す

るように配慮しているからだ」と比企先生は話す。

同院のNST活動は,各病棟のNSTリンクナースが全

入院患者に対して1次スクリーニング(図1A)を行うこ

とから始まる。NSTリンクナースが患者IDと氏名を入

力して電子カルテ上にある1次スクリーニングのテンプ

レートを開き,リンパ球数や褥瘡の持ち込み,日常生活

自立度といったわずかな項目を入力すれば,2次スクリ

ーニングの必要性が判明する。2次スクリーニング(図

1B)でも,身体計測値(上腕三頭筋部皮下脂肪厚,上腕

周囲長,上腕筋周囲長)を入力すれば栄養障害の有無を

自動的に判定するようプログラムされている。

NSTカンファレンス(写真3)では,新規入院患者の

うち1次および2次スクリーニングを実施した患者

(NST介入後の継続症例も含む)について,まずは病棟

のリンクナースが電子カルテを用いてスクリーニング結

果,入院目的,現在の病状,病棟で実施している栄養管

理について概説し,そのうえでNSTメンバーのほか病

棟のリンクドクターや主治医らを交えて,個々の症例に

最も適切な栄養管理のあり方が検討されている。病棟ス

タッフだけではどのように栄養管理をすればよいかわか

らない症例,栄養管理を行っているが難渋しているとい

う症例に関してのみNST回診を行い,その症例をNST

症例検討会へ持ち込むため,症例数は限定され,NST

メンバーの負担は軽減されることになる。

NSTカンファレンスの実施方法も,全病棟の全スタ

ッフがカンファレンスの最初から最後まで同席するので

はなく,病棟ごとに時間を決め,その時にのみカンファ

レンスに参加する時間割形式だ。「病棟スタッフがカン

ファレンスに参加する時間は10分程度。病棟をあける時

間が少ないため,スタッフはカンファレンスを苦痛に思

わない。これも継続するための1つのポイントだと思う」

と比企先生。また,病棟リンクナースが病棟業務でカン

ファレンスに参加できない場合は別の病棟看護師がかわ

りを務めてもよいことになっているので,NSTスクリ

ーニング集計報告一覧表(図2)や各病棟独自のNSTノ

ートを活用して,NST対象候補と介入患者の情報を共

有している。

NST回診はNSTメンバーが医師とコメディカル数名

のチームに分かれて,病棟リンクナースや病棟看護師,

病棟のリンクドクター,主治医などと実施し(写真4),

その後のNST症例検討会は,NSTメンバーと検討症例

に関係するすべての病棟のリンクナースや看護師,リン

クドクター,主治医などが集まって実施されている(写

真5)。NST症例検討会でも症例検討

ワークシート(図3)や投与経路別栄養

プラン作成シート(図4)を利用して1

症例ごとの検討時間をできる限り短縮

し,検討会を1~1時間半で終了する

ように配慮しているそうだ。

癌専門病院として,栄養管理のアウトカムを示していきたい以上のように,非常に合理的に全科

型NSTを運営している同院だが,人

と人の繋がりに関しては十分な時間を

割いているそうだ。「NSTカンファレ

ンスやNST回診では,NSTメンバー

を除くと,違う病棟のスタッフと顔を

写真3 NSTカンファレンスの様子隔週ごと,14時より1~1時間半行われている。NSTコアメンバーのほか,病棟リンクナースやリンクドクター,主治医らが参加して,電子カルテを利用したチャート回診が行われる。1ヵ月に800症例の1次スクリーニング患者をカンファレンスで扱う。

図2 NSTスクリーニング集計報告一覧表22

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あわせることが少ないため,病棟間に温度差

が生まれてくる可能性もある。また,NST

カンファレンスやNST回診に主治医が参加

することは時間的な問題から難しいことも多

い。それでは主治医の本音を聞くこともでき

ないし,NST側の思いも伝わらず,双方に

誤解を招くこともあるだろう。人と人が理解

しあうにはやはり顔をつきあわせることが大

切だ」と比企先生は話した。

そこで,NST症例検討会ではNST活動に

関連するメンバーすべてが同じ時間,同じ空

間,同じ症例を共有することにしている。特

に,リンクドクターにNST症例検討会への

参加を促し,NST症例検討会で決定された

栄養管理方針に関して,リンクドクターが主

治医に治療方針を伝えることになっているそ

うだ。

同院で,病院スタッフが疲れ果てることな

くNST活動に取り組めている理由は,人と

人の繋がりを大切にしながら,効率性を求め

たシステムの構築にあることがわかった。今

後,比企先生らは,「病院スタッフ全員と協

力して,癌専門病院における栄養管理のアウ

トカム(経済効果,在院日数の短縮効果,TPN

実施率の減少効果,カテーテル敗血症発生率

の低下効果,PSの向上効果など)を癌患者さ

んに特化して示していきたい」と結んだ。

写真4 NST回診の様子NSTカンファレンスでNSTの介入が必要と判断された患者に対して実施される回診。回診時,必ず患者と握手するという比企先生。握手することで,筋力(握力),脱水,皮膚の張りなどを確認し,栄養状態を確認しているという。

写真5 NST症例検討会の様子NSTカンファレンス,NST回診と同日の17時半より約1時間,NST新規介入症例および継続症例について,NSTメンバーと病棟リンクナース,リンクドクター,主治医など,関係者が一同に会して検討会を実施する。

図3 症例検討ワークシート必要なデータは電子カルテから抽出される。現在の栄養摂取量,現状を維持するために必要な栄養摂取量,理想体重に近づけるために必要な栄養摂取量が自動的に算出される。

図4 投与経路別栄養プラン作成シートあらかじめ同院で採用されている輸液製剤や経腸栄養剤の種類,成分などの情報がインプットされており,患者の病状に合わせて適切な投与経路,輸液製剤,経腸栄養剤,食事形態,食事メニューを選び,現状維持あるいは理想体重に近づけるために必要な栄養摂取量にあわせていく。エネルギー量,水分量,栄養素(たん白質,脂質,糖質)別必要量ごとに過不足が示されるようになっており,栄養プランが適切かどうか%表示で判断できる。

23

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Nutrition Support Journal 18 NST/ASSESSMENT NETWORKNST/ASSESSMENT NETWORK

病院全体の入院患者の約45%,ICU入室患者の50%以上が救命救急センターからの入院患者株式会社麻生 飯塚病院の開設の精神は,“郡民のため

に良医を招き,治療投薬の万全をはからんとする”であ

る。その精神は1909年の着工以来,今日まで変わらず受

け継がれ,同院は地域住民の需要に応えるべく,ハード

面,ソフト面ともに病院機能を拡充してきた。2005年10

月現在,病床数1116床,スタッフ1561名を有する大規

模な地域医療支援病院として,また急性期病院として,

地域医療に大きく貢献している。

なかでも,救命救急センターは筑豊地区50万人の1次

救急から三次救急を担う唯一の医療機関として,年間平

均50000人の患者を受け入れている。そのため,入院患

者の約40%,ICU入室患者の50%以上が救命救急センタ

ーからの入院で,各診療科にはきわめて重篤度の高い患

者さんが多く入院している。このような特徴から,救命

救急センターの鮎川勝彦先生(写真2)は「救命救急医が

できる入院患者さん全体を対象にしたリスクマネジメン

トとは何か」を日頃から考えていたそうだ。そして,同

所長はその1つとしてNST(Nutrition Support Team)に

注目した。なぜなら,患者のなかには,ICU,HCUから

一般病棟に移れたにもかかわらず,栄養管理がうまくで

きていなかったために病状が悪化し,再びICU,HCUへ

戻ってくる場合が少なからずあったからだ。もちろん,

一般病棟の看護師も栄養管理の問題に気づいており,そ

の質を何とかして高めたいという気持ちを持っていた。

時を同じくして,薬剤部の林勝次先生(写真3)も同院

にNSTを立ち上げたいと考えていた。林先生は,横浜

で開催された第16回日本静脈経腸栄養学会のNST教育

セミナーに参加した後,鮎川所長にNSTに対する思い

を告げた。こうして,鮎川先生と林先生,看護師らの栄

養管理に対する思いが1つとなり,“株式会社麻生飯塚

病院NST”の構築に向けた活動が始まった。

NST活動の中心は経管栄養に伴う下痢対策から人工呼吸器の離脱へ今後は,病棟での栄養管理の成果を外来,地域に還元していきたい

株式会社麻生 飯塚病院 救命救急センター 所長1),同 薬剤部主任2)

鮎川 勝彦1),林 勝次2)

株式会社麻生 飯塚病院(写真1)のNSTは,2002年11月に院長直轄の院内常設委員会の1つとして設置された栄

養管理委員会の下部組織として誕生し,2002年12月より活動を開始した。その後,約3年が経過した現在,NSTの

活動内容は開始当初に比べると,病棟での栄養管理の質が高まることを背景にかなり異なってきたという。今回は,同

院救命救急センター所長の鮎川勝彦先生と薬剤部主任の林勝次先生に,NST活動の開始の経緯,これまでと現在,お

よび今後の展望をお伺いした。

写真2 鮎川勝彦先生’81年,九州大学医学部卒業,’99年より現職。

写真3 林勝次先生’88年,福岡大学薬学部卒業,’88年より現職。

写真1 株式会社麻生 飯塚病院24

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� �□1. 明らかに低栄養状態にあると判断される症例(別紙SAG結果=CorD)�□2. %IBW<80%の症例(IBW=22×(身長m)2,%IBW=実側体重/IBW×100)�□3. 総リンパ球数TLC<1000の症例(TLC=WBC×Lymp%/100)�□4. 血糖コントロール不良症例(HbA1c≧8.0)�□5. 消化管使用可能で長期静脈栄養管理されている症例�□6. その他(                      )��のため,NSTを依頼します。�

NST Dr.NST Ns.

  年  月  日 主治医�

依頼理由�

上記患者は�

●治療経過:�

●特記事項:�

年齢   歳�身長   cm�体重   k��

病棟�ID         患者名�病名(既往歴,合併症)�

※1.依頼書提出の際には必ずSGAシートのコピーを添付してください�※2.下記依頼理由の□はチェックしてください�

NST依頼書�

NST介入のゴール�

栄養療法勉強会やTNTの開催など,約1年間の準備期間を経て栄養管理委員会を設置まずは院長を伴い,鮎川先生,林先生および栄養管理

に興味のある看護師ら有志数名が鈴鹿総合中央病院の

NST見学を行った。NSTの成果をあげるためには,院

長直轄の組織のほうが有利であることはよく知られてい

る。同院でも,この見学によって院長がNSTの構築に

前向きになったという。

その後,全職員を対象にした“飯塚病院栄養療法勉強

会”を立ち上げ,毎月1回(全10回),院内講師を募って

輸液や栄養管理についての基礎的な講義を行った。また,

医師向けの栄養管理のグローバルスタンダードである

TNT講習会が開催され,10数名の医師が受講した。

このようにして約1年間の準備期間を経て,2002年11

月,院長直轄の院内常設委員会として,医師7名,薬剤

長,管理看護師長,栄養課課長,医事課職員1名,資材

課職員1名からなる栄養管理委員会(事務局:薬剤部)が

設置された。その委員会の下部組織として75名からなる

NSTが構築され,2002月12月からNST活動を開始した。

なお,2005年5月現在,NSTメンバーは112名となった。

病棟看護師が全入院患者を対象としてSGAでスクリーニング,主治医の依頼を受けてNST活動を開始同院のNST活動の一般的な流れを以下に簡単に説明

する。まず,病棟看護師がすべての入院患者を対象に

SGA(Subjective Grobal Assessment,栄養状態の主観

的包括的評価)を用いて低栄養があるかどうかのスクリ

ーニングを行い(状況を年3回集計・解析,2005年7月

現在の実施率88%),その結果,“低栄養がある”と判断

された場合は主治医に報告される。次に,主治医が病棟

のNSTドクターやNSTナースと相談して「NST介入の

必要あり」と考えた場合,NSTに依頼書(図1)を提出

する。NSTはこの依頼書に基づいて回診を始め,主治

医をはじめとした病棟スタッフに対して栄養管理のコン

サルテーションを行う。

NSTの回診は週2回(水曜日と金曜日の15時より),

参加メンバーは鮎川先生,林先生ほかNSTメンバー(看

護師,管理栄養士,臨床検査技師など)と主治医,病棟

看護師,病棟薬剤師である。回診前にミーティングが行

われ,NSTは主治医,あるいは病棟のNSTドクターや

NSTナース,看護師などから対象患者の現状について

の報告を受ける。そのミーティングで対象患者の問題点

を整理し,各専門家からの意見をまとめて栄養管理方法

の方向性を定める。そのうえで回診を行い(写真4),患

者の訴えや状態をみながら最終的に栄養管理方法を決定

する。回診終了後,NSTは主治医をはじめとした病棟

スタッフに対する栄養管理のコンサルテーションを口

頭,および病棟カルテの記載を通じて行う(写真5)。こ

写真5 NST回診後のミーティング病棟カルテにコンサルテーション内容を記入する鮎川先生。その横でNSTメンバーの管理栄養士がNSTカルテに同様の内容を記入している。

図1 NST依頼書

写真4 NST回診の様子

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100�

80�

60�

40�

20�

0

88症例� 65症例� 55症例�

低栄養�嘔吐(注入後)�呼吸器離脱�経口不良�TPN離脱�DMコントロール�褥瘡�栄養処方適正化�経管栄養に伴う下痢��

2003年� 2004年� 2005年�

(%)�

感染数�

感染率(1000カテーテル日数あたり)�

CV留置患者数(人)�

閉鎖回路導入�

現状把握�効果確認�

15�

10�

5�

0

150�

100�

50�

0

(%)� (人)�

2004年4月� 2005年1月� 2005年12月��

TQM

のコンサルテーションを参考に病棟スタッフがフォロー

アップし,次の回診で栄養状態を評価して現状の栄養管

理方法を継続,あるいは必要があればその変更・追加な

どを行う。なお,この一連の活動はすべてNSTカルテ

にも記載される。

1人の患者に対する回診の所用時間は,回診前のミー

ティングと回診がそれぞれ約15~20分,回診後の報告が

約5~10分で,合計約20~30分である。回診の間隔は患

者さんの状況によって異なり,1回の回診で平均3~4

名の患者をみているという。

このような活動のなかで最も気をつけていることは

NSTと病棟スタッフとの“情報の共有化”,つまり患者

に対して質の高い栄養管理を提供することはもちろん,

個々のスタッフの栄養管理に関する知識,技術を高める

ことだという。「主治医はNSTの回診に立ち会えないこ

とも少なくない。また,『カルテに記載しているのでみ

ておいてください』というのも一方的すぎる。そこで,

主治医に対しては必ず,直接的に回診後のミーティング

で病棟スタッフに伝えた栄養管理のコンサルテーション

と同様の内容を伝えるようにしている」と,鮎川先生は

話す。同様に,病棟看護師や病棟薬剤師がNSTのラウ

ンドに立ち会えない場合は,NSTナースや林先生が直

接的に栄養管理のコンサルテーション内容を伝えてい

る。

まずは経管栄養に伴う下痢対策でスタッフの信頼を獲得,病棟の栄養管理の質が高まるにつれてNSTはバリアンス症例に介入活動開始後から現在までの約3年間,特に力を入れて

きたことは,①経管栄養に伴う下痢対策,②不適切な

TPN(Total Parental Nutrition)をなくす,③経管栄養患

者の血糖コントロール,④栄養士の活動の認知度アップ,

⑤RST(Respiration Support Team)とのコラボレーショ

ンの5つである。ただし,それぞれに対する活動比重は,

NST活動開始当初と現在では大きく異なってきた(図

2)と林先生は話す。

活動開始当初,院内スタッフのNSTに対する信頼度

は当然だが決して高いものではなかった。「栄養士の活

動の認知度アップを含め,院内スタッフからNSTに対

する信頼を得るために,がむしゃらに突っ走った。回診

は多いときで約10名,15時から始めて19時を過ぎても終

わらない,ということもしばしばあった」と,林先生は

当時を振り返る。また,NSTが院内スタッフの信頼を

獲得した大きな理由としては,“低栄養”以外で依頼理

由の半数を占めていた“経管栄養に伴う下痢”に対して

確実な効果をあげたからだと付け加えた(その具体的な

対策は,下痢が感染性か,薬剤性か,栄養管理上の問題

で生じているのかという原因別にストラテジーを組み立

てたほか,寒天による栄養剤固形化を図るというもの

だ)。

また,カテーテル感染症を惹起するTPNからの離脱

も当初からの大きな課題で,病棟からNSTへの依頼も

多かった。そこで,NSTはTPN施行全症例をピックア

ップし,その施行理由と期間を調査して不必要なTPN

症例の撲滅とTPN施行期間の短縮を図った。その結果,

経管栄養は倍増してTPNは半分に減少し,カテーテル

感染症も激減,閉鎖式輸液ライン導入以降は1000カテー

テル日数あたりほぼ1以下になってきている(図3)。

活動開始当初は特に①や②,④に比重が置かれていた

が,NSTの真摯な活動を通じてNSTに対する病棟スタ

ッフの信頼度が高くなるとともに,①や②のほとんどは

病棟スタッフだけでも改善できるようになった。その一

方で,NSTに対しては呼吸器からの離脱や経口不良の

改善,糖尿病管理の依頼が大きく増え,現在のNST活

動の中心は,RSTや嚥下チームと協力して,経口摂取不

良の改善や人工呼吸器からの離脱となっている。

同院の人工呼吸器の1日平均使用台数は32台で,人工

呼吸器を使用する患者さんをICUとHCUにすべて収容す

ることができず,一般病棟にも収容している。一般病棟

ではリスクマネジメントの観点からも,できるだけ早期

に人工呼吸器からの離脱を図ることが望ましい。また,

同院は地域支援型の急性期病院であることから,患者を

図2 NST依頼理由の変化

図3 カテーテル関連敗血症(院内)

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できるだけ早期に地域に戻すことも重要な課題である。

しかし,人工呼吸器をつけたままの患者を引き受けてく

れる施設はほとんどなく,地域に患者を戻すためにも早

期に人工呼吸器から離脱させなければならない。そのよ

うな理由からRSTが設置され,その活動支援の1つとし

て人工呼吸器をつけた患者の栄養管理をNSTが担い,

徐々に成果をあげ始めている。

「病棟での栄養管理の質はこの3年間で飛躍的に向上

し,それに伴ってNSTには対応に苦慮する患者さんの

依頼が増えてきた。1人の患者さんにかける回診前のミ

ーティングや回診時間が1時間近くになることもある」

と,林先生は話す。また,鮎川先生も「脳神経外科・神

経内科病棟をはじめ,簡単な栄養管理パスを作成して稼

働させている病棟もあるほど栄養管理の質は向上してい

る。実際,私がNSTを作りたいと考えた当初の問題,す

なわち栄養管理が悪くて再びICUやHCUに患者さんが戻

ってくることは皆無になった。現在,NSTへ依頼され

る患者さんは,栄養管理パスに適応しないバリアンスの

高い患者さんのみ,といってもよいほどである」と話す。

最近は同院でしかできない特殊な方法を用いて栄養管

理を行うことが増えているというが,そのような特殊な

方法でしか栄養管理ができなければ,患者は退院して地

域に戻ることはできない。鮎川先生は「今のNSTの課

題は,どれほどバリアンスの高い患者さんであっても

『どこでも実施可能なシンプルな栄養管理方法』が行え

るようにすることだ」と強調した。

病棟でのNST活動を外来へ,そして地域へ拡充していきたい以上のように,病棟におけるNSTの活動は,時々生

じてくる課題をクリアしながら大きく発展している。今

後,鮎川先生,林先生らは,NSTの活動を外来,さら

には地域に定着させていきたいと話す。そこで,外来の

NST活動の事始めとして,栄養相談室に併設して外来

NSTを設置した。ここでは,NSTと連携をとりながら,

栄養課のスタッフが中心となり,退院後の患者の栄養管

理のフォローアップを行っていくという。

また,地域にNST活動を定着させる1つの方法とし

て,前述したように同院では毎年TNT(Total Nutritional

Therapy)講習会を開催して地域の医師の参加を募るほ

か,同院からも毎回10~20名の医師(研修医含む)が参加

して,地域の医療機関にTNT受講医師を輩出している。

その他,2005年9月からは,毎月1回開催されてきた院

内スタッフ対象の“飯塚病院栄養療法勉強会”が,地域

の医療機関のスタッフが参加できるオープンな勉強会

“筑豊臨床栄養研究会”に変更された。

最後に,「地域に対するNSTの働きかけは始まったば

かりで,まだまだ手探り状態。同院は地域の医療機関と

連携をとる立場にあることから,外来,さらには地域で

のNST活動をぜひとも成功させたい」と,鮎川先生は

今後の展望を語った。

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世界水準の高度医療,ホスピタリティ,ヘルスケアの町を目指してトヨタ記念病院の歴史は,1938年に開設されたトヨタ

自動車株式会社の診療所(内科,外科)から始まった。1942

年,同診療所は診療科目8科目,病床数37床のトヨタ病

院となり,1957年に総合病院の承認を受け,1987年に

トヨタ記念病院(病床数513床)となった。以後,同院は

“世界水準の高度医療,ホスピタリティを提供し,世界

水準のヘルスケアの町をつくる”べく,西三河北部医療

圏の基幹病院としてその機能をハードおよびソフトの面

から拡充してきた。

具体的にいうと,ハード面では第三次医療にも対応で

きる24時間救急外来“ERトヨタ”や新生児集中治療室

(NICU)を擁した“地域周産期母子医療センター”の開

設,PETなど最新鋭の検査装置や臓器別センター制(心

臓病,呼吸器,消化器,脳卒中),トータルITシステム

の導入などがあげられる。一方,ソフト面としては,診

療の質の向上を目指した病院長直轄のさまざまなプロジ

ェクトがある。その1つにNST(Nutrition Support

Team)活動がある。

つまり,NST活動は診療の質を向上させる上で非常

に重要となるチーム医療の実践──すなわち職種の垣根

を取り払い,医師,看護師,管理栄養士,薬剤師,理学

療法士,臨床検査技師など,それぞれの専門職がそれぞ

れに有する知識・経験や患者の情報を結集し,患者個々

に最適な医療を提供することに他ならないからである。

褥瘡対策・NST分科会の発足や単科でのプレ活動がスムーズな全科型NST活動に同院のNSTの立ち上げは,2002年度の診療報酬改定

で褥瘡対策未実施減算が設定された時期と重なった。栄

養管理は褥瘡対策の1つとして非常に重要な位置を占め

る。そこで2002年4月,院内組織として褥瘡対策・NST

分科会が発足することとなった。その半年後の10月には

NST院内規定およびNSTメンバーが決定され,呼吸器

科病棟でのNSTプレ活動を経て,12月より全科型NST

電子カルテ導入によりNST活動の効率がアップ幅と深さのある栄養管理が可能に

トヨタ自動車株式会社 トヨタ記念病院 内分泌科 科部長,栄養科 科部長 篠田 純治

トヨタ記念病院(写真1)では,2002年2月よりNST(写真2)の設置を目指した動きが始まり,同年12月より全科

型NST回診が開始された。2003年9月,同院に電子カルテシステムが導入されたことから,NSTも紙カルテではな

く電子カルテで運営されるようになった。NST立ち上げからその運営に今日まで深くかかわっている篠田純治先生は

「電子カルテ導入直後,NSTの運営に多少の混乱がみられたが,今では電子カルテのメリットを生かしたNST活動が

展開できている」と話す。

Profile しのだ じゅんじ

’89年名古屋大学医学部卒業。’89年名古屋第一赤十字病院,’93年名古屋市立東市民病院,’94年名古屋大学第一内科,’96年トヨタ記念病院内分泌科医長を経て,’02年より現職。NSTチェアマン,栄養科科部長兼務。

写真1 トヨタ自動車株式会社 トヨタ記念病院

写真2 NSTメンバー

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入院時:主治医�栄養スクリーニングの入力�

YES

NST回診へ�

身体情報�の入力�

No

※入院後,絶食期間が5日間以上続く,� または食事摂取量半分以下が5日間� 続いている患者様はNST回診対象��経過観察し,必要と感じたらNST回診へ�     (職種は問わず)�

シートの選択�

右クリック�↓�

新規シート�↓�

評価シート�↓�

《栄養スクリーニング》��

右クリック�↓�ツール�↓�

テンプレート�↓�共通�↓�

01評価�↓�

栄養スクリーニング��

回診が開始された。

このように同院においてNST立ち上げから発足まで

の期間が比較的短く,全科型のNST活動をスムーズに

開始できたことについて,篠田先生は「褥瘡対策と絡め

てNSTを早期に院内の正式な組織にできたこと,また,

単科でのNSTプレ活動が同院における最適なNST運営

システムの構築をもたらしたことにある」と説明した。

スクリーニングは医師が行い,アセスメントは看護師,栄養士,薬剤師,回診メンバーが分担では,同院における最適なNST運営システムとは具

体的にどのようなものなのか。図1にNST対象患者の

フローチャートを示す。同院のNST活動は,まず医師(主

治医)が,患者の入院時あるいは術後に栄養不良,また

はその可能性がある否かをスクリーニングすることから

始まる。スクリーニングは簡便な方法がとられており,

スクリーニング用のテンプレートを用いて,検査データ,

食事摂取状況,体重変化のうち2項目以上あてはまるか,

見た目で明らかに栄養不良と思われる場合にNST介入

対象患者と判断するだけでよい(図2)。「医師によるス

クリーニングが基本だが,入院後に絶食期間が5日間以

上続く,または食事摂取量半分以下が5日間続いている

患者さんはもちろん,そのような基準に当てはまらなく

ても経過観察中にNST介入が必要だとスタッフの誰か

が感じれば,職種を問わず,NST回診を依頼できるこ

とになっている」と篠田先生。

こうして医師あるいは他の職種がNST介入対象患者

を抽出すると,電子カルテ上の外来予約システムを用い

て,NST回診(週3回実施)の依頼を行う(図3,上)。

すると,その情報が電子カルテの予約画面上,および

NSTが回診を行った/行う患者一覧表(図3,下)に記

録される。これによりNSTは回診が必要な患者を確実

に把握でき,また,回診を行った患者を振り返ることも

できるわけだ。篠田先生は「NSTは当初2002年12月~

2003年8月まで紙カルテで運営されていたが,2003年

9月,電子カルテシステムが導入されて以降,電子カル

テで運営されるようになった。紙カルテ時代と現在の電

子カルテ時代のNST運営システムそのものは大筋では

変わらないが,予約システムを用いたNST回診依頼な

どをはじめ,紙カルテではなく電子カルテだからこそ可

能になったことがいくつかある(後述)」と,電子カルテ

でのNST運営の1つのメリットとして強調した。

NSTは回診依頼があった患者について栄養アセスメ

ント(図4)を行う。このときも各職種の負担を減らすた

め,看護師は身体情報(図4A)を,薬剤師は栄養提供量・

摂取量の評価(図4C,上)を,NST回診メンバーは栄養

パラメーターや栄養必要量の算定(図4B),および栄養

計画の提案(図4C,下)を行うといったように明確な役

割分担がなされている。なお,看護師,薬剤師が担当し

ている身体情報,栄養提供量・摂取量の評価はNST回図1 NST対象患者のフローチャート

図2 栄養スクリーニング(医師が入力)

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シートの選択�

右クリック�↓�

新規シート�↓�

評価シート�↓�

《NST評価》�

右クリック�↓�

ツール�↓�

テンプレート�↓�共通�↓�

01評価�↓�

《NST記録》�

診前までにテンプレート上にデータを入力,電子カルテ

上に保存しておくこととされた。その後は,NSTが経

過観察として定期的に回診と検討会を行い,栄養計画を

追加・変更し,その記録を“NST回診・継続(図5)”

のテンプレートに入力,電子カルテ上に保存する。

以上のようなNST活動マニュアルはすべて専用のフ

ァイルに記され,すべての病棟に設置されている(写真

3)。「NSTは栄養計画を提案するが,それを実施する

のは病棟スタッフ。病棟スタッフが栄養管理に取り組み

やすいよう,NSTの活動とはどのようなものか,栄養

管理は実際どのように行えばいいのかなど,一目見れば

わかるようにすべての資料を専用ファイルに保存するよ

図3 NST回診予約(上)とNST回診予約一覧(下)

図5 NST回診・継続

30

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シートの選択�

右クリック�↓�

新規シート�↓�

評価シート�↓�

《NST評価》�

右クリック�↓�ツール�↓�

テンプレート�↓�共通�↓�

01評価�↓�

《NST記録》�

図4 NST回診・初回A:身体情報(看護師が入力),B:栄養パラメータ・必要量(NST回診で入力),C:摂取量(管理栄養士が入力)・栄養計画の提案(NST回診で入力)

31

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うにした」と篠田先生は話す。実際に同ファイルには,

先に示した図1のNST対象患者のフローチャートや図

2~5のNST活動(電子カルテの操作方法含む)のほか,

絶食期間が短期(1週間未満)の場合と長期(1週間以上)

の場合に分けた経腸栄養剤の投与スケジュール(表

1,2)などがわかりやすく記載されている。

NST活動の一環として嚥下訓練や口腔ケアにも力を注ぐまた,NSTは食事,経腸栄養,点滴など栄養補給方

法を中心とした栄養計画の提案のみならず,よりよい栄

養管理を目指して,脳卒中後の患者あるいは高齢者など

に多くみられる誤嚥性肺炎防止のための嚥下訓練や口腔

ケアにも力を注いでいる。前者については,絶食期間を

経て食事を再開する患者のうち,70歳以上で5日間以上

の絶食期間あり,または既往歴に脳血管障害・誤嚥性肺

炎ありの患者を対象に,褥瘡対策・NST分科会が作成

した嚥下機能評価フローチャート(図6)に則り,意識レ

ベル,嚥下機能レベルに応じた栄養管理が嚥下訓練とと

もに実施されている。一方,後者の口腔ケアについては,

褥瘡対策・NST分科会のなかに“口腔ケア・ワーキン

ググループ”をつくり,言語聴覚士や歯科衛生士が中心

となって各病棟において口腔ケアの道具や薬剤の選択,

使用など,統一した手順やルールづくりを徹底している

という。

なお,嚥下機能評価フローチャートや口腔ケア・ワー

キンググループの活動内容なども前述した病棟のNST

専用ファイルに収められている。

電子カルテのメリットは大きいが,導入直後は栄養管理に対する意識を高める努力が必要先に少し触れていることもあるが,篠田先生は,「電

子カルテが導入されたことによって,①いつでもどこで

もカルテにアクセスでき,必要な情報だけを速やかに選

択できる(検討会などで利用)ので,多職種によるチーム

医療の効率化が図られた,②栄養パラメーター・栄養必

要量に関するテンプレート(図4B)を作成することによ

って,電子カルテ上に保管されている患者さんの基礎デ

ータ(身長,体重など)が自動的に抽出されるとともに,

栄養必要量を求める際に算出が必要となってくるデータ

白湯:沸騰させたものを冷まして使用,EN:Enteral Nutrition(経腸栄養)

白湯:沸騰させたものを冷まして使用,EN:Enteral Nutrition(経腸栄養)

開始日 Step 1 Step 2 Step 3 Step 4

投与量(朝) EN 100mL EN 200mL EN 300mL EN 400mL EN mL

(昼) EN 100mL EN 200mL EN 300mL EN 400mL EN mL

(夕) EN 100mL EN 200mL EN 300mLEN 400mL

【白湯は適宜】EN mL

【白湯は適宜】

投与カロリー投与濃度目安投与容量/日

300kcal1.0kcal/mL以下300mL

600kcal1.0kcal/mL以下600mL

900kcal1.0kcal/mL以下900mL

1200kcal1.0kcal/mL以下1200mL

kcal1.0kcal/mL以下mL+白湯付加分

投与時間投与速度目安

2.5時間40mL/時間以下

2.5時間80mL/時間以下

2.5時間120mL/時間以下

2.5時間160mL/時間以下

時間200mL/時間以下

開始日 Step 0 Step 1 Step 2 Step 3 Step 4 Step 5 Step 6

投与量(朝)白湯 100mL EN 100mL

白湯 100mLEN 200mL白湯 100mL

EN 200mL EN 400mL EN 400mL EN 400mL EN mL

(昼)EN 200mL EN 200mL

白湯 100mLEN 400mL EN 400mL EN mL

(夕)白湯 200mL EN 100mL

白湯 100mLEN 200mL白湯 100mL

EN 200mL EN 200mL白湯 100mL

EN 200mL白湯 200mL

EN 400mL【白湯は適宜】

EN mL【白湯は適宜】

投与カロリー投与濃度目安投与容量/日

0kcal

300mL

200kcal0.5kcal/mL以下400mL

400kcal0.75kcal/mL以下

600mL

600kcal1.0kcal/mL以下600mL

800kcal1.0kcal/mL以下1000mL

1000kcal1.0kcal/mL以下1200mL

1200kcal1.0kcal/mL以下

1200mL+白湯付加分

kcal1.0kcal/mL以下mL+白湯付加分

投与時間投与速度目安

2時間 2.5時間80mL/時間以下

2.5時間120mL/時間以下

2.5時間120mL/時間以下

2.5時間160mL/時間以下

2.5時間160mL/時間以下

2.5時間200mL/時間以下

時間200mL/時間以下

表1 経管栄養投与スケジュール(短期up)

表2 経管栄養投与スケジュール(長期up)

写真3 NSTの取り組みは専用ファイルに記録して病棟に設置している

32

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JCSⅠ(清明)�

意識レベルのチェック�

JCSⅡ~Ⅲ�

水飲みテスト�

常食�

開始食��

嚥下治療食�1�

嚥下治療食�2�

嚥下治療食�3�

移行食��

軟菜食�超きざみ食�

ST評価�

消化管出血・悪心・嘔吐�

TPN

経管栄養�

チェック項目�

反復唾液飲みテスト�

改訂水飲みテスト�(原則医師が実施)�

(原則医師が実施)�

あり�

なし�

問題あり�

リハビリ処方�

VFなしで食事可� VF後食事検討�

食事可� 食事不可能�

VFしても多分食事不可�問題なし�

問題なし�

問題あり�

(%標準体重,%TSF,%AMC,BEEなど)が自動計算

されるため,煩雑な作業が軽減された,③予約システム

(図3)を利用してNST介入対象患者さんの把握が容易

になった,④カルテ情報の保存性が向上された,⑤テン

プレートを活用することで,EBMを実践していくうえ

で必要な症例データの蓄積・分析ができるようになっ

た」など,大きなメリットを得たと話す。

しかし,実は電子カルテシステム導入直後,NST運

営に少なからず混乱が生じたと篠田先生は当時を振り返

る。たとえば,1つは電子カルテシステム導入直後の一

時期,医師によるスクリーニング率やNST回診実施数

が減じたことだ。その原因について,篠田先生は「電子

カルテ導入当初は,最低限の日常業務でも混乱をきたし

てNSTに対する意識がどうしても低下してしまう。そ

れに加えて,紙ならばスクリーニングシートをカルテに

はさみこんで目立たせることができるが,電子カルテで

は『スクリーニングシートを使う』という意志がなけれ

ばその画面にたどりつかない」と説明し,電子カルテシ

ステム導入直後は,紙ベースでNSTを運用していた時

以上に栄養管理に対する意識を高める努力が必要だと述

べた。現在,篠田先生らもそのような努力を行った結果,

2005年度のNST活動の実績は,医師による栄養スクリ

ーニング実施率は80%台で,NST回診実施数は266名に

549回となっている。

また,篠田先生らは当初,紙ベースのNST活動シス

テムを踏襲するかたちで電子カルテシステムを構築した

という。入力など,活動の実際で使いやすいことをまず

考えていた。ところが,これだけでは電子カルテのメリ

ットである横断的な症例やデータの集積・抽出がシステ

ム上やりにくいそうだ。「システムを構築する場合,こ

のような症例やデータを集積・抽出して,『こういうエ

ビデンスをつくるぞ』ということをあらかじめ考えてお

かなければならない」と篠田先生は反省する。同病院の

電子カルテシステムの場合は,図2~5に示したように

テンプレートを作成し,入力はフリーではなく定型で行

うかたちにするとデータの集積・抽出・分析が可能にな

るらしい。

このように大なり小なり電子カルテ導入直後はNST

運営に問題が生じたようだが,電子カルテシステムでの

NST運営が軌道に乗れば,NST活動は効率化され,広

く,深くなるため飛躍的に発展する。「今後,電子カル

テシステム下でNSTを運営する予定がある病院があれ

ば,私たちの体験談を活かして欲しい」と篠田先生は結

んだ。

図6 嚥下機能評価フローチャート

33

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Nutrition Support Journal 18 NST/ASSESSMENT NETWORKNST/ASSESSMENT NETWORK

長期療養型や高齢者施設に入院・入所している高齢者が多く,PEGによる栄養管理が普及した地域伊達赤十字病院の医療圏である北海道胆振西部地区は

4市町村からなり,高齢化率(65歳以上が占める割合)が

26.5%と比較的高齢化が進んだ地区である。また,同地

区は道内でありながら雪も少なく,長期療養型病院や高

齢者施設が多いなど高齢者にとっては住みやすい環境と

なっており,最近は道内外の定年退職者が移住してます

ます高齢化に拍車をかけているという。このように高齢

化した地区で問題となるのが,脳卒中後遺症や認知症,

精神疾患などが引き起こす摂食・嚥下障害による“たん

白質・エネルギー低栄養状態”である。

同地区では,胃瘻(PEG)がわが国に導入された当初よ

り,同病院の消化器内科が中心となってPEGによる栄養

管理を積極的に推進してきた。その他にも,①PEG外来

を開設してPEGの適応を判断する,クリティカルパスに

則ってPEGを造設,PEG造設後の管理(定期的なボタン

交換,合併症への対応など),②同地区の医療機関や高

齢者施設の医療スタッフ,介護者などを対象にした勉強

会を開催,③PEGケアの悩みを改善するために意見交換

を行う,マニュアルを作成するなど,PEG普及のための

活動を行っている。

このような背景もあって,同地区の医療機関や高齢者

施設のスタッフはもちろん,患者やその家族もPEGに対

する抵抗感は少なく,同院のPEG新規造設患者数は,

NST(Nutrition Support Team)設立以前でも全国平均と

比べて多かった。実際,摂食・嚥下障害のために食事の

経口摂取が十分にできず,低栄養となるリスクが高い症

例に関しては,伊達赤十字病院でPEG造設を行い,栄養

管理ができるようになってからの入所を推奨する療養型

施設もあるという。

幅のある栄養管理を実施するためにNSTが必要──有志でNSTを設立し,アウトカムを蓄積PEGによる栄養管理だけでは不十分で,幅広い栄養管

理を行わなければならないと感じていた日下部先生は,

院長ら周囲の理解を得てNSTの設立を目指した。

2003年1月より栄養療法に関する院内勉強会“伊達

Metabolic club”を開始。同年3月に持ち寄りパーティ

ー方式(Potluck Party Method;PPM)によりNSTを結

成し,消化器内科のほか,栄養管理をあまり得意として

いなかった整形外科や耳鼻咽喉科などを中心にNST活

NST活動の場を院内から外来へ拡大地域連携で医療圏全体の栄養管理の質向上を目指す

伊達赤十字病院消化器科 副部長 日下部 俊朗

伊達赤十字病院(写真1)がある北海道胆振西部地区は高齢化が進んでいる地区で,長期療養型病院や高齢者介護施

設が多数存在している。そのため,低栄養から引き起こされる合併症の問題が少なからず生じており,同病院の消化

器科は胃瘻(PEG)による栄養管理を積極的に推進してきた。しかし,栄養管理はPEGだけで十分かといえば,そうで

はない。

消化器科副部長の日下部俊朗先生は2003年3月に有志によるNSTを結成し,同科を中心に活動を開始したが,院

内の活動だけでは限界があると感じていた。その後,2004年4月に正式な院内組織として全科型NSTを稼動すると

ともにNST外来が開設され,地域全体の栄養管理の質向上が目指されるようになった。今回は,この一連の経緯につ

いて,日下部先生に詳しくお話をうかがった。

Profile くさかべ としろう

’70年北海道生まれ。’95年札幌医科大学卒業後,同第四内科入局。’96年東札幌病院,’99年洞爺温泉病院,’70年輪厚三愛病院を経て,’01年より現職。専門は消化器病学,腫瘍学。

写真1 伊達赤十字病院34

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経過観察�

入 院�

経過観察�

経過観察�

特に問題なし�

②から依頼�の場合�

①から依頼�の場合� YESの�

場合�NOの�場合�

病棟より栄養課へ配達�される�

栄養課より病棟へ返信�される�

これより従来どおりの�NSTの流れになります�

*1~3:別紙参照�

その後,NST�介入が必要に�なった場合�

<①主治医または②看護師>�

a),b),c)ともになし� a),b),c)1つでもあり�

NST依頼書を作成し,栄養課へ提出�

<主治医>�

NST介入の判定�

<看護師>�*2栄養アセスメントシートを作成(前半)�

<看護師>�*2栄養アセスメントシートを作成(前半)�

入院患者様全員を対象に「*1褥瘡に関する危険因子評価表」�でスクリーニングを行う�

褥瘡に関する危険因子評価表の項目のうち�a)褥瘡がある�b)(血液データがあれば)Alb3.0g/dL�  またはHb9.0g/dL以下�c)1週間以上,食事を通常の半分以上摂れない�

<看護師>�

<管理栄養士>�

栄養アセスメントシートを作成(後半)�

<NST>�

NST介入後の報告(*3NSTワークシートの作成)�

<主治医>�*3NSTワークシートを受け取る�

<NST>�

NST介入;ランチタイムミーティングの開催�(NST介入の際は電話にて栄養課に御一報� 願います)�

褥瘡に関する危険因子評価表�

氏   名�

(別紙様式5)�

褥瘡の有無�1.現在    なし   あり  ( 仙骨部,座骨部,尾骨部,腸骨部,大転子部,踵骨 )�

2.過去    なし   あり  ( 仙骨部,座骨部,尾骨部,腸骨部,大転子部,踵骨 )�

生年月日�明 ・ 大�

昭 ・ 平    年    月    日  (    歳) �記入担当者�

評価実施日  年    月    日�

殿� 病棟�

日常生活�

自立度�

・基本的動作能力(ベッド上 自力位変換)�

 (記載上の注意)�1.日常生活自律度の判定にあたっては「障害者老人の日常生活自律度(寝たきり度)判定基準」の活用について� (平成3年11月18日 厚生省大臣官房老人保健福祉部長通知 老健第102-2号)を参照のこと。�

・病的骨突出�

できる�

できる�

できない�

できない�

なし� あり�

・関節拘縮� なし� あり�

・食事が通常の半分以上�

・アルブミン3.0g/dL以下,またはヘモグロビン9.0g/dL以下�

摂れる�

なし�

摂れない�

あり�

・皮膚湿潤(多汗,尿失禁,便失禁)� なし� あり�

・浮腫(局所以外の部位)� なし� あり�

(イス上 座位姿勢の保持,除圧)�

正常 J1(障害あるが自立)�

A1(1人で歩行器など使用)�

B1(1人で車椅子使用)�

C1(1人で寝返り)  �

J2(一部自立)�

A2(介助により歩行器など使用)�

B2(介助により車椅子使用)�

C2(完全寝返り)�危

褥瘡発生日  年    月   日�

栄養アセスメントシート�

SGA(栄養状態の主観的包括的評価)�

入院日: 平成   年   月   日�

身長:     cm・体重:     kg

主治医�担当看護師�記入日 平成   年   月   日�

1.患者の記録�体重の変化  :□なし  □あり(□増 □減 いつ頃から           )�                (以前の体重:                )�食物摂取の変化:□なし  □あり(通常と比較して    割程度しか摂取できない)��消化器症状  :□なし  □あり(□悪心 □嘔吐 □下痢 □食欲不振 □その他)��機能状態   :□機能不全なし�        □機能不全あり(タイプ:□日常生活可能 □歩行可能 □寝たきり)�2.身体所見�体型     :□重度の瘰痩   □経度の瘰痩   □普通   □肥満�蓐瘡:□なし         浮腫:□なし         腹水:□なし�   □あり(        )   □あり(        )   □あり�3.栄養経路� □経口   □経鼻   □胃瘻   □腸瘻   □中心静脈   □末梢静脈�4.主観的包括的評価� □栄養状態良好  □軽度の栄養不良  □中等度の栄養不良  □重度の栄養不良�

   栄養課記入欄(記入日 平成   年   月   日:管理栄養士      )�理想体重(IBW):     kg(BMI:     )�血液データ:□TP≦6.0g/dL   □AIb≦3.0g/dL   □Hb≦9.0g/dL�基礎エネルギー(BEE):      kcal「標準体重を用いてハリスーベネディクト式より算出」�必要エネルギー(TEE):      kcal(ただし,活動係数:    ストレス係数    とする) �必要たん白量:       g (ただし,理想体重×係数    とする)�必要水分量:       mL(ただし,理想体重×係数    とする)�現在の食事:                現在の静脈栄養:�(  月  日現在)                   (  月  日現在)�エネルギー      kcal               エネルギー      kcal�たん白質       g                 アミノ酸       g

主治医先生御机下�上記 患者様は,栄養不良を認める可能性が高いと考えられます。�NSTによる栄養介入を希望されますか?�

       YES      ・      NO

疾患名:�合併症:�特記事項:�

NST介入にYESの場合のみ病棟にて記入をお願いいたします。(上腕周囲長:   cm, 上腕三頭筋皮下脂肪厚:   mm)�

ランチタイムミーティング時に御持参下さい�

伊達赤十字病院 NST

動を開始した。

NST業務の流れを以下に解説する(図1)。まず,入

院患者全員を対象に「褥瘡に関する危険因子評価表(図

2)」の栄養評価に関連する項目を用いて問題症例を抽

出する。問題症例とは,①褥瘡がある,②アルブミン値

3.0g/dLまたはヘモグロビン値9.0g/dL以下,③1週間以

上,食事を通常の半分以上摂れない,という3項目のう

ち1項目でも満たす症例である。次に,問題症例につい

て看護師と管理栄養士が栄養アセスメントを実施し(図

3),その結果に基づいて主治医がNSTの介入を判定す

る。NSTの介入が決定した患者について,NSTはラン

チタイムミーティングやNST回診を行い,NSTワーク

シート(図4)を作成して主治医に報告する。

以上のNST活動を介して,院内栄養アセスメント法

の啓発と確立,輸液や栄養ラインの改善,経腸栄養剤の

選択方法の是正など,さまざまな成果が得られた。経腸

栄養剤の選択にあたっては,病態に応じる(例:糖尿病

症例ならグルセルナ�など)ほか,退院後も経腸栄養療法

が継続できるように退院先の状況を考慮することもあ

る。

院内組織としてのNST発足とともに地域の栄養不良患者の窓口となるNST外来を開設2004年4月より,NSTは病院長直属の院内組織とし

て正式に発足し(写真2),経腸栄養の増加,TPN(Total

Parental Nutrition)調剤数の減少,抗生物質購入量の減

少など,さらなる成果をあげるようになった。

また,NSTが正式な院内組織になったと同時に,従

図1 NST業務フローチャート

図3 栄養アセスメントシート

図2 褥瘡に関する危険因子評価表

35

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NSTワークシート1�

SGA(栄養状態の主観的包括的評価)�

身長�体重�

理想体重�BMI�

上腕周囲長�上腕三頭筋�皮下脂肪厚�

体型�以前の体重1�(いつ頃�

以前の体重2�(いつ頃�

156.0 cm� 45.0 kg� 53.5 kg� 18.5� 22 cm� � 8 mm� �重度の瘰痩� 48.0 kg�    3週間前    ) �  - kg�      0      )

食事摂取の変化 あり(減少)� (いつ頃から     3週間前     )�食事摂取状況  摂取できない�消化器症状   あり(食欲不振)�機能不全    あり(寝たきり)� (いつ頃から 入院時は車椅子      )�代謝需要・ストレス あり(軽度)�浮腫      なし�(部位        -         )�褥瘡      なし�(部位        -         )�腹水      なし�

診断名�

今まで�の経緯�

風邪にて守谷内科に受診後,高K血症(K=7)のため,GI療法施行し,当院に入院となる。�食事形態は経口がメインであるが,朝2~3口,昼小~1/2量,夕1/2量しか食べておらず,�補助としてラコール 1本,TPNが施行されている。�

CRF�HT�

高K血症�既往歴�

測定日  H17.9.13

   病棟  8F�  担当医 日下部 医師�記載年月日  H17.9.15�入院年月日  H17.8.26

判   定�

C.中等度の栄養不良�

ODA(客観的栄養評価)�

WBC�RBC�HGB�HCT�LYMP�

�PA�Tf �

RBP �CRP�

総たん白�アルブミン�

CHE �総コレステロール �

232�290�8.7�25.7�7.5�17�9.6�-�-�

12.07�5.7�2.9�-�-�

×100/μL(40~85)�×104/μL (M400~550,F350~500)�g/dL (M13.5~17,F11.5~15)�% (M40~52,F33.5~45)�%�×100/μL(20~35)�mg/dL (21~45)�mg/dL (190~320)�mg/dL (2.9~7.9)�mg/dL (0.30未満)�g/dL (6.5~8.2)�g/dL (3.8~5.3)�U/L (185~430)�mg/dL (130~220)�

総ビリルビン�ALP�AST�ALT�LD�

γ-GTP�尿酸 �BUN�

クレアチニン�Na�K�Cl�Ca �

24CCr �BS �

HbA1c �

0.4�318�33�60�172�57�-�75.6�3.47�136�2.6�107�-�-�-�-�

mg/dL (0.2~1.0)�U/L (104~338)�U/L (8~38)�U/L (4~44)�U/L (106~211)�U/L (73以下)�mg/dL (M4~7,F3~5.5)�mg/dL (8~20)�mg/dL (0.5~1.1)�mEq/L (135~147)�mEq/L (3.5~5.0)�mEq/L (98~108)�mg/dL (8.4~10.4)�L/day�mg/dL�%

判   定�

C.中等度の栄養不良�

患者番号     12-3456-7�フリガナ     ニッセキ タロウ�

  氏名     日赤 太郎  様�生年月日   T11.1.1  生まれ(  83  歳)�  性別    M

NSTワークシート2�患者番号     12-3456-7�フリガナ     ニッセキ タロウ�

  氏名     日赤 太郎  様�生年月日   T11.1.1  生まれ(  83  歳)�  性別    M

栄養アセスメント�

基礎エネルギー量�

  活動係数� ストレス係数�

1日必要エネルギー量�

1日必要たん白量�

1日必要水分量�

�<静脈栄養>�50%ブドウ糖�キドミン�ソリタ T3号�ビタメジン�

-�-�-�

�100 mL�400 mL�1000 mL�- mL�- mL�- mL�- mL�

熱量�糖質�76%�脂質�0%�アミノ酸�24%�NPC/N

487 kcal� 93 g�372 kcal� - g� - kcal� 29 g�115 kcal� 93

水分�Na�K�Mg�Ca�Cl�P�Zn

1500 mL� 36 mEq� 20 mEq� - mEq� - mEq� 35 mEq� - mg� - μmol

<経腸栄養/食事>�たんコン1600 P-40�    -��<経腸栄養/流動事>�ラコール(医薬品)�    -�    -�

�����

200 mL�- mL�- mL

熱量�糖質��脂質��たん白��NPC/N�  水分�食物繊維�塩分�

1800 kcal� 251 g�1005 kcal� 64 g� 580 kcal�  49 g� 195 kcal�  -�  0 g�  0 g�  5 g���

Na�Cl�K�Mg�Ca�P�Fe�Mn�Cu�Zn�Se

148 mg� 234 mg�1776 mg� 39 mg� 88 mg� 88 mg� 1 mg� 0 mg� 0 mg� 1 mg� 0 mg

<薬剤チェック>�      -      -       -       -      -�

今後の�方針�

1020 kcal�

1.2� 1.0�

1224 kcal�

54 g�

1338 mL

たんコン1600は必要なく,1400に減。投与経路は今まで通り,できる限り経口で。半分量しか食べられないのは認知症,難聴も関与しているかもしれない。量を減らして補助食品へ移行していくことも検討する。その場合,たん白量が少ないリーナレン�やアイソカル があげられる。熱もあり,不顕性誤嚥の可能性もあるので,嚥下の評価もしていく。療養型→在宅を目標とする。�

3.5�

3.0�

2.5�

2.0�

1.5�

1.0�

0.5

9/11g/dL�(Alb)�

mg/dL�(PA)�

11.13.1

2.99.6

9/12 9/13

12.0�

10.0�

8.0�

6.0�

4.0�

2.0

PA�Alb

来はPEG外来であったものをNST外来として新たに開

設した。この理由について,「NSTの介入により栄養状

態が改善して退院した患者さんは再入院が少ない一方

で,栄養状態に介入がなされなかった患者さんは再入院

が多い,といったことを転院先あるいは転所先の長期療

養型病院や高齢者施設が感じるようになり,われわれの

NSTの活動を評価して栄養管理の重要性を認識するよ

うになった。『自分たちがみている患者さんの栄養管理

について考えるようになったものの,NSTは入院患者

さんが対象で,どの部門に相談すべきかわからない』と

いう声を聞き,NST外来を開設することにした」と日

下部先生は説明する。

NST外来の対象は,PEG外来が担っていたPEG造設

患者や在宅静脈栄養患者など継続的な栄養管理が必要な

患者に加え,食欲低下などで栄養障害リスクのある患者

を含むようになった。このような患者がいれば,地域の

主治医から同院の地域医療連携室を介してNST外来に

診療予約が入る。外来では,医師,看護師,管理栄養士,

薬剤師,臨床検査技師,リハビリテーションなどから構

成されるNSTが栄養評価と問題点の解析を行い(写真

3),患者の栄養状態に応じて,外来で対応可能な場合

図4 NSTワークシート

写真2 NSTチームのメンバー

写真3 NST外来での様子

36

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在宅・施設・療養型病院�

栄養不良リスク患者�

訪問看護ステーション�

在宅看護�

栄養サポート外来�

栄養評価・問題の解析�NST医師・看護師・管理栄養士・薬剤師・�臨床検査技師・リハビリテーション�

NST回診・ミーティング�

栄養評価・問題の解析�NST医師・看護師・管理栄養士・薬剤師・�臨床検査技師・リハビリテーション�

栄養課・薬局�

栄養指導・服薬指導�

リハビリテーション�

PT・OT・ST

内科系専門外来�

疾病の精査・治療�

主治医より紹介�

地域医療連携室�

診療情報提供・予約業務�※申し込みから30分以内に予約のFAX

診療部門�

入院�

外来�

�は紹介先施設に栄養管理方法をコンサルテーションす

る,あるいは心不全や呼吸器不全など疾患の治療が必要

な場合は専門診療科に紹介する,入院が必要な場合は入

院してNSTが引き続き介入するといった流れ(図5)を

とる。これまでのNST外来の患者数は平均20~25件/月

で,その80%を施設入所者が占めている。「NST外来を

開設して以後,地域の栄養管理に対する関心が高まった

ように思う。実際,外来への紹介患者さんも増えている」

と,日下部先生は嬉しそうに笑った。

ネットワークの構築や地域連携パス,マニュアルの作成で地域における栄養管理の質を高める一方で,地域で栄養管理を積極的に行っていこうとす

ると,施設によって栄養管理方法や指導が異なっている,

施設で採用している栄養剤がさまざまで時に不適切なこ

ともある,施設により緊急時の対応が異なる,PEGのボ

タンやチューブが混在していて統一されていない,など

の問題が浮かび上がってきた。日下部先生も「今後は,

医療圏内で継続した栄養管理を実施できるよう,その方

法論を統一していくことが大きな課題だ」と強調してい

る。

そこで,医療圏内の急性期病院(同院と洞爺温泉病院,

洞爺協会病院)が連携して“洞爺湖NSTネットワーク”

が設立された。このネットワークの目的は,統一された

質の高い栄養管理を地域に提供するとともに,栄養管理

における情報を共有化し,退院後も入院時と同じレベル

の栄養管理を患者が受けられるようにすることだ。2005

年7月からネットワーク活動の1つとして,各病院持ち

回り制の主催で,医療圏内の医療・介護スタッフを対象

にした定期勉強会(2ヵ月に1回)が始まった。会場は各

病院の施設を利用し,毎回80~140名前後が参加してい

る。形式にはこだわらず,各病院の“NSTの現状と問

題点”や“嚥下機能評価と口腔ケア”など,毎回テーマ

を決めて実施されている。

このほかにも地域連携パスや栄養管理トラブル対処マ

ニュアルなどの作成を目指して,医療圏内の60機関を対

象にした“地域における栄養管理の実態調査アンケー

ト”を実施した。現在,44施設(73.3%)から回答が得ら

れ,データ解析中だという。この調査の背景について,「パ

スやマニュアルを作成して地域一体型のNSTを目指す

ならば,急性期病院退院後の受け入れ側の医療機関,施

設の実態(栄養管理に関する取り組み,医療体制,食事

体制など)やニーズ(提供してほしい情報内容など)を把

握する必要がある」と日下部先生は話す。

NSTの活動範囲を着実に拡大している伊達赤十字病

院。地域一体型NSTによってどのようなアウトカムが

導き出されるのか,それが示される日も近いだろう。

図5 栄養サポート専門外来の流れ

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MDSによる評価に基づくケア─ケアの質を向上させるための方法論を模索─医療法人渓仁会 西円山病院は療養病床主体の大規模

病院(病床数918床)で,入院患者の多くは後期高齢者で

老人症候群(要看護・介護老年病症候群)を有している。

老人症候群のケアにあたっては老年医学的総合機能評価

が重要であり,その評価は米国で開発されたMDS(Mini-

mum Data Set)を利用することで可能である。わが国で

は日本語版MDSが開発されており,同院でも1993年か

ら看護部が日本語版MDSを用いて老人症候群を評価し,

それに基づいたケアプランを作成・実践(Resident As-

sessment Protocols;RAPs)している。

峯廻先生は同院のケアの質を向上させるための方法論

を模索しているなかで,看護部がこれまでに蓄積してき

たMDS-RAPsの膨大なデータに着目したという。「MDS

-RAPsでは高齢者が抱える問題を具体的に示す指標とし

て18にわたる問題領域(表1)が設定され,このデータを

利用することで多くの高齢患者さんが共通して抱えてい

る問題領域がわかった」と峯廻先生は話す。調査の結果,

問題領域の上位5つは“認知症”,“ADL”,“失禁”,“転

倒”,“栄養”であり,なかでも栄養のRAPs出現率は疾

患群間で有意差がみられず,いずれの疾患でもRAPs出

現率が約80%と高頻度であった(表2)。以上の調査から

峯廻先生は,「老人症候群には認知症,ADL,失禁,転

倒に加えて,その基盤に栄養という問題が存在している

ことを含めるべきだ」として,同院の5つの基本的ケア

(図1)を掲げた。

また,峯廻先生は「寝たきりのリスクを増大させる転

倒,認知症,失禁の背景要因は栄養障害であり,栄養障

害がある状態で転倒や認知症,失禁のケアを行っても効

果は期待できない。栄養障害に対するケアが最も基本的

で重要なケアと位置づけ,NST(Nutrition Support

Team)を立ち上げた」とNST設立の理由を説明する。同

院のNSTは2001年4月に院長直属の組織として発足し,

内科医,歯科医,管理栄養士,看護師,作業療法士,言

語聴覚士,歯科衛生士,薬剤師,臨床検査技師のほか,

医療ソーシャルワーカー,医事科スタッフなどを含む約

40名で構成されている。

後期高齢者に対するケアの質は栄養管理抜きにして向上せず

医療法人渓仁会 西円山病院 院長1),同 歯科診療部長2),同 診療技術部栄養科長3),同 診療技術部栄養科4)

峯廻 攻守1),藤本 篤士2),柴原 知子3),加藤 華奈子4)

医療法人渓仁会 西円山病院(写真1)は,1979年に渓仁会グループが最初に開設した病院で,同グループの「保健・

医療・福祉のトータルサポート」を目指した歴史はここから始まったといっても過言ではない。現在,同院はグルー

プ内において療養型病院としてその役割を果たしている。同院の入院患者の平均年齢は82歳,平均要介護度が4.2~

4.3という老人症候群で,その多くは同院で最期を迎えるという。

このような療養型病院において,ケアの質を高めるには何をすればよいのか──峯廻攻守院長(写真2)は同院に蓄

積されていた膨大なデータを解析し,「ケアの質の向上は栄養管理抜きに語れないことに気づいた」と話す。そこで,

2001年4月,すでに栄養科が中心となって展開していた院内栄養管理サービスを基盤としてNSTを立ち上げた。

写真2 峯廻攻守先生’69年,札幌医科大学医学部卒業,’98年より現職。

写真1 医療法人渓仁会西円山病院38

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QOL(生命・生活・人生そしてターミナルケア)�

5.栄養状態の検討とケア�

1.認知症のケア�

身体抑制の検討�

3.転倒防止のケア�

身体抑制の検討�

2.ADL維持・向上のケア�

リハビリテーションの工夫�

4.失禁のケア�

清潔・感染予防�

記入者氏名�

要介護度�

現在状況�

病棟�

生年月日�年  月  日 (   歳)�

患者ID

身長(cm)�

(測定日)�

(cm)�

(   年 月 日)�

体重(kg)�

(測定日)�

(kg)�

(   年 月 日)�

(   年 月 日)�

(g/dL)�□3.6g/dL以上� □3.0~3.5g/dL □3.0g/dL未満�

□経管栄養法�

□静脈栄養法�

□褥瘡�

BMI □18.5~29.9 □18.5未満�

体重減少率(%)�

血清アルブミン値�(g/dL)�

(測定日)�

(  )ヵ月に�

(  )%(増・減)�

□変化なし� (減少率3%未満)�

□1ヵ月に3~5%未満�

□3ヵ月に3~7.5%未満�

□6ヵ月に3~10%未満�

□1ヵ月に5%以上�

□3ヵ月に7.5%以上�

□6ヵ月に10%以上�

食事摂取量�

栄養補給法�

褥  瘡�

特記事項�

□良好(76~100%)�□不良(75%以下)�

内容�

低リスク� 中リスク� 高リスク�

自立度�

特記事項�

(フリガナ)�

氏 名 �男 女�

作成年月日:� 年  月  日�

栄養スクリーニング書�

低栄養リスクのレベル�

NSTの基盤となった院内栄養管理サービス同院では,1995年からNSTと同様の活動──院内栄

養管理サービス(Nutrition Care and Management;

NCM)が栄養科を中心として展開されている。同院の

NSTはこのNCMを基盤として立ち上げられた。

NCMではまず栄養科栄養士がすべての入院患者につ

いて入院後1週間以内に栄養スクリーニング(図2)を行

い,栄養障害リスク患者が抽出される。入院2週間目頃

から栄養アセスメント(図3)を行い,同時に医師,看護

師,リハビリテーション科(作業療法士),医療ソーシャ

ルワーカーなどが患者の問題点を抽出し,各職種がそれ

らを持ち寄ってケアカンファレンスが行われる。そのう

【問題領域の概要】「問題領域別検討指針」は,約350項目に及ぶ「高齢者アセスメント表」で把握される情報から,高齢者が抱える問題を具体的に示す指標として18にわたる問題領域を設定している。そして,それぞれの問題領域について,具体的な問題の所在と,それに対しケアプランを策定する際に検討すべき課題や着目すべき点が提示されている。

●設定されている18の問題領域領域1 せん妄の兆候領域2 認知症状態・認知障害の検討領域3 視覚機能(障害)の検討領域4 コミュニケーション障害の検討領域5 日常生活動作(ADL)とリハビリテーションの可能性領域6 尿失禁および留置カテーテルの検討領域7 望ましい人間関係(心理社会的充足)の検討領域8 気分と落ち込みの検討領域9 問題行動の兆候領域10 アクティビティ(日常生活の活性化)の必要性領域11 転倒の危険性領域12 栄養状態の検討領域13 経管栄養の検討領域14 脱水状態・水分補給の検討領域15 口腔内ケアの検討領域16 褥瘡の兆候領域17 向精神薬の使用上の注意領域18 身体抑制の検討

脳血管障害アルツハイマー病を主とする老人性痴呆(認知症)

骨・関節疾患

パーキンソン病

その他 合計

RAP2(%)#

(認知症)82.7 96.3 61.4 81.6 65.9 79.9

RAP5(%)*

(ADL)83.6 72.2 73.7 84.2 68.9 79.1

RAP6(%)*

(失禁)67.1 69.4 63.2 65.8 54.3 64.8

RAP11(%)#

(転倒)71.6 55.6 59.6 78.9 51.2 65.7

RAP12(%)(栄養)

79.1 77.8 80.7 81.6 79.9 79.3

RAPs該当数*

(平均値)6.2±2.4 6.2±2.4 5.5±2.6 6.0±2.4 5.7±2.6 6.1±2.5

表2 対象入院患者の疾患群別上位5位までのRAPs出現率と該当数平均値*:p<0.05#:p<0.001

図1 5つの基本的ケア

表1 RAPs「問題領域別検討指針」の概要

図2 栄養スクリーニング書

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要介護度�特記事項�(家族構成,キーパーソン,家事担当者等)�

身体状況、栄養状況、食事・栄養補給�に関する利用者および家族の意向�

主観的な栄養感・意欲�(心身の訴えを含む)�

入院日� 年  月  日�

記入者�

(フリガナ)�

氏 名 �

病 名�

経 過�

実施日� 年  月  日�

男 女�

病棟�

生年月日�

患者ID

年  月  日(   歳)�

栄養アセスメント書�

【Ⅰ】�

主病名および経過�

食事形態�

コメント�

食事内容�

項   目� 年  月  日� 年  月  日� 年  月  日� 年  月  日�

血清アルブミン(g/dL)�

総たん白質(g/dL)�

コリンエステラーゼ(IU/L)�

総コレステロール(mg/dL)�

BUN(mg/dL)�

クレアチニン(mg/dL)�

BUN/CRE

血糖値(mg/dL)�

CRP(mg/dL)�

ヘモグロビン(mg/dL)�

白血球数(103)×LYM(%)�

=リンパ球数�

     �

=�

     �

=�

     �

=�

     �

=�

臨床検査�

身体機能・身体計測�

項   目�

身長(cm)�

体重(kg)�

通常体重(kg)�

標準体重(kg)�

体重変化率(%)�

上腕周囲長(cm)�

上腕三頭筋皮脂厚(mm)�

上腕筋面積(cm2)�

年  月  日�

(    ) �

(    %)�

(    %)�

(    %)�

(    ) �

(    %)�

(    %)�

(    %)�

(    ) �

(    %)�

(    %)�

(    %)�

(    ) �

(    %)�

(    %)� (    %)� (    %)� (    %)�

(    %)�

(    %)�

年  月  日� 年  月  日� 年  月  日�

摂取栄誉素量�

主食(割)�

副食(割)�

汁物(割)�

エネルギー(kcal)�

たん白質(g)�

水分(mL)�

エネルギー(kcal)�

たん白質(g)�

水分(mL)�

エネルギー(kcal)�

たん白質(g)�

水分(mL)�

エネルギー(kcal)�

たん白質(g)�

水分(mL)�

年  月  日� 年  月  日� 年  月  日� 年  月  日�

【Ⅱ】�

食  事�

経管・静脈栄養補給�

合計�

必要栄養素量の充足率�

 エネルギー(%)�

 たん白質(%)�

 水分(%)�

特記事項�

  栄養補助食品など�

項 目� 年  月  日� 年  月  日� 年  月  日� 年  月  日�

栄養補給法の�

移行の可能性�

食事形態に�

関する評価�

専門職アセスメ�

ントによる結果�

特記事項�

総合評価・判定�

食事行為に関する事項�

 利用者および家族などの�

 知識・技術・意欲の状況�

 日常の食習慣など�

項   目� 年  月  日�

/�

/�

/�

年  月  日�

/�

/�

/�

年  月  日�

/�

/�

/�

年  月  日�

/�

/�

/�

NMスケール�

N-ADL�

日常生活自立度�

精神機能、身体機能評価尺度�

項   目� 年  月  日�

/�

年  月  日�

/�

年  月  日�

/�

年  月  日�

/�

安静時エネルギー消費量(kcal)�

必要エネルギー(kcal)�

必要たん白質(g)     �

必要水分(mL)�

体重/BMI

栄養補給量の算定�

初回実施日�

具体的に記載�

年   月   日�

低栄養状態関連問題�

□ 1 皮膚�

□ 2 口腔内の問題�

  □ 痛み    □ 義歯の不都 □ 口臭�

  □ 味覚の低下 □ 口が渇く  □ むせ�

□ 3 食欲低下�

□ 4 摂食・嚥下障害�

□ 5 嘔気・嘔吐�

□ 6 下痢(下剤の常用を含む)�

※特記事項�

□ 7 便秘�

□ 8 浮腫�

□ 9 脱水(液下・口唇の乾き)�

□ 10 感染�

□ 11 発熱�

□ 12 経管栄養�

□ 13 静脈栄養�

□ 14 医薬品の種類と数、投与法、食品との相性�

多職種による栄養ケアの課題�

項   目�

嗜好�

禁忌�

アレルギー�

療養食の指示�

食事摂取行為の自立�

形態�

環境�

特記事項�

食事の提供のための必要事項�

栄養モニタリング表�

氏名�

3ヵ月後�の目標�

サービス提供前�

数値�

無 ・ 有� 無 ・ 有� 無 ・ 有� 無 ・ 有� 無 ・ 有�

年  月  日�

週・月日�

数値�

年  月  日�

週・月日�

数値�

総合評価�

年  月  日�

週・月日�

数値�

年  月  日�

週・月日�

達成率�

年  月  日�

病棟� 記入者�患者ID

アウトカム�

リスク分類�

体重�

BMI�

体重減少率�

Alb値�

喫食状況�

体重増加�

要介護度�

生活機能�

�主観的健康感�(意欲)�

食事に対する�満足度�

補給率(充足率%)�

エネルギー�

たん白質�

水分�

その他の項目�

評価�

計画の修正�

えで管理栄養士が栄養ケア計画書を作成し,定期的にモ

ニタリング(図4)を行い,必要に応じて多職種によるケ

アカンファレンスを実施し,栄養ケア計画を変更・追加

している。

NCMはまさにNST活動だといっても過言ではないが,

厳密には異なる。NCMとNST活動が異なるのはケアカ

ンファレンス以降で,NCMでは病院を構成している一

部の専門職(主に栄養科,看護部,リハビリテーション

科,歯科)でケアカンファレンスが実施されるのに対し,

NSTでは構成メンバー全員で実施される点が異なる。

NSTのチェアマンは歯科医が担当NSTのチェアマンを務めるのは歯科診療部長の藤本

篤士先生(写真3)。一般的に,NSTのチェアマンは消

化器外科,消化器内科,呼吸器内科などの医師が多いが,

「藤本先生は『老人症候群の患者さんの栄養問題と口腔

要因は大きく関与しており,栄養問題を改善するには日

常的に適切な口腔ケアが行われるべきだ』という立場か

ら日常臨床,研究を続けていたので,チェアマンをお願

いした。歯科医がNSTのチェアマンであることは同院

のNSTの1つの特徴だ」と峯廻先生は話す。

藤本先生は同院に赴任した当初,義歯が合わずに食事

できない高齢者が多くいることをみて,適切な義歯の提

供に努めていたという。しかし,それでも徐々に低栄養

に陥って死亡する患者が多く,「適切な義歯さえ入れれ

ば食事が摂れるようになるわけではないと気づいた」と

当時を振り返る。その原因を探るべく,1999年1月~2001

年2月に調査可能であった65歳以上の入院患者1240例を

対象として食物形態別に生存分析を行った結果,摂食可

能な食物形態の粉砕の程度が進むほど生命予後が悪化

し,身体精神機能も低下することを実証した。藤本先生

は「歯科医による歯科治療,口腔ケアは,栄養摂取を介

写真3 藤本篤士先生’86年,北海道大学歯学部卒業,’96年より現職。

図3 栄養アセスメント書(記入フォーム)

図4 栄養モニタリング表

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人工栄養非選択(自然死)�21.9%�

癌のターミナル�12.3%�

急速悪化・死亡�26.5%�

人工栄養選択�39.4%�

経管→死亡(887±637日) 21.1%�

経管→中心静脈栄養→死亡(578±343日) 22.8%�

中心静脈栄養→死亡(228±257日)�21.1%�

して生命維持の根幹にかかわっていることを実感した」

と話す。

以上のような研究を経て,藤本先生は看護師や管理栄

養士とともに“食べる”ための歯科的治療法,口腔ケア

と看護・介護法の構築を目指し,“食べる”機能の評価

法(咀嚼嚥下機能,食物の認知能力,姿勢保持能力,上

肢の機能,手指の巧緻性などを総合的に評価する方法)

を確立し,それに基づいて摂食可能な食物形態を予測す

る方法を開発した。また,高齢者の味覚は苦み,甘み,

酸味の順で低下し,特に甘みに対する感覚の低下が大き

いことも明らかにしており,このような研究データをも

とに,藤本先生はNCMのケアカンファレンスで管理栄

養士に対してアドバイスを行っている。

療養型病院のアウトカムを示すため今後はNST活動を積極的に展開前述のとおり,同院にはNSTという組織はなかった

もののNCMとしてNST活動が行われているため,2005

年度の同院におけるNST活動は6件であった。「同年の

NCMは615件で栄養管理が行われていないわけではない

ので,NST活動件数が少ないことは臨床的に問題にな

らない」と峯廻先生は話す。ただ,これまで発表されて

いるNSTのアウトカムの多くは急性期病院のもので,急

性期病院と療養型病院では患者背景や病院機能も異なる

ため,今後は療養型病院のNSTのアウトカムを明らか

にしていく必要がある。その一方で,「中心静脈栄養の

実施率も,療養型病院ではNSTの介入によってさまざ

まな問題が絡んでくるためにアウトカムとして評価しに

くい」と峯廻先生は苦しい胸のうちを明かす。

同院で2005年度に死亡した155例を対象として,栄養

摂取経路別に平均生存日数を検討したところ,平均生存

日数は人工的な栄養補給を行わない自然死群が94±100

日,経管栄養の死亡群が887±637日,経管栄養から中心

静脈栄養に変更した死亡群が578±343日,中心静脈栄養

の死亡群が228±257日であった。経管栄養の死亡群だけ

が自然死群に比べて有意に生存期間が長かったが,中心

静脈栄養の死亡群と自然死群の生存期間に有意差はなか

った。つまり,生存期間という観点からいえば,消化管

が使える患者に対して経管栄養を行うことは延命につな

がるが,消化管が使えない患者に中心静脈栄養を行って

も延命にはつながらないということになる。155例のう

ち自然死の選択は20%,人工栄養の選択が40%と,人工

栄養の選択が自然死選択の倍であった(図5)。また,2006

年2月の人工栄養の経路別頻度をみると,中心静脈栄養

が7.3%,経鼻が4.2%,胃瘻が18.6%,腸瘻が0.2%と,経

管栄養の割合は高いが中心静脈栄養の割合も決して低く

はないという結果であった。

「患者さんが意識不明の場合,治療法の選択は家族に

委ねられる。この時,家族は『どんな状態であれ,生き

ていて欲しい』と願い,多くの場合は中心静脈栄養を選

択するため,われわれはエビデンスだけを取り上げて中

心静脈栄養の実施率を強引に減らすことはできない。こ

の点が病気を治して患者さんを早期に退院させる急性期

病院と,最期を看取る療養型病院との違いだろう」と峯

廻先生は話す。今後,NST介入とMDS-RAPsの問題領

域(表1)の発生数との関係などを解析し,療養型病院に

おける栄養管理のあり方とは何かを示したいのだとい

う。そのためには症例数が必要で,峯廻先生は「日常臨

床的にはNCMでも問題ないが,今後は療養型病院にお

けるNSTのアウトカムとその意義を明らかにするため

にもNSTの活動を積極的に展開し,症例数を増やした

い」と抱負を語った。

図5 西円山病院における死亡症例の検討

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病院の特徴から,嚥下障害や麻痺による活動性低下で低栄養となった高齢者が多い泉病院は1982年に脳卒中専門病院として開設され,脳

神経内科,脳神経外科,リハビリテーション科を中心に,

脳神経系疾患の急性期から回復期,慢性期というすべて

の時期において,診断と治療のみならず,リハビリテー

ション(以下,リハビリ)や在宅医療まで適切に対応でき

るよう病院機能を拡充してきた。現在は生活習慣病の診

療のために内科を強化しており,企業健診や住民健診,

動脈硬化検診など,健康増進や予防医学にも積極的に取

り組んでいる。

入院患者は,脳卒中,脳腫瘍,頭部外傷による脳挫傷

や頭蓋内出血など脳神経外科系の急性期,脳梗塞後遺症,

神経変性疾患など各種の神経難病,認知症などが多く,

また高齢者が多いのが特徴だ。つまり,嚥下障害や認知

障害,麻痺や活動性低下などをもつ患者が多く,低栄養

状態に陥りやすい,褥瘡を発生しやすい患者が多いとい

うことだ。脳神経内科長の関口先生は「内科が強化され

たこともあり,脳神経系疾患をベースに持っている患者

さんが肺炎などの感染症で入院してくるケースも増えて

いる」と付け加える。特に感染症が流行する冬季などは,

その傾向が強いという。

質の高い医療を提供するために──必要に迫られて構築された医療チームが院内組織へと発展同病院では以前より,医師,看護師,薬剤師,管理栄

養士,リハビリスタッフなどのチーム医療によって,褥

瘡,嚥下障害,感染症,栄養障害などの予防に努め,質

の高い医療を提供してきた。時代の流れのなかで必要に

迫られて構築された多職種による医療チームは,褥瘡対

策委員会,感染対策委員会,クリニカルパス委員会とい

った院内組織へと発展し,その機能を発揮している。な

かでも褥瘡対策委員会は関口先生が委員長を務め,管理

栄養士,薬剤師および病棟看護師らによって始められた

褥瘡回診の発展型である。「褥瘡回診を始めたきっかけ

は,2~3ヵ月ごとにローテートでやってくる研修医に

『高齢者医療とは何か』を学んでもらう1つの足がかり

になれば,と考えたから」と関口先生は話す。2002年か

ら病棟看護師から報告を受けた褥瘡患者を対象に医療チ

ームと研修医で回診を行い,褥瘡の評価や処置の検討を

行っていた。

その後,2002年4月の診療報酬改訂で褥瘡対策未実地

減算と褥瘡患者管理加算が認められたことを受けて同年

10月に褥瘡対策委員会が結成され,これまで実施されて

いた褥瘡回診は委員会活動の1つとなった。関口先生は,

褥瘡対策チーム,嚥下チームなど,すでに活動している医療チームを軸に栄養管理を推進

財団法人宮城厚生協会 泉病院神経内科 科長 関口 すみれ子

財団法人宮城厚生協会は宮城県内最大の私的医療経営体として,4病院11診療所(附属診含む)12訪問看護ステー

ション,5ヘルパーステーションの事業を展開している。そのなかで,泉病院(写真1)は94床の脳卒中の専門病院と

して仙台市泉区の長命ヶ丘団地内に開設され,脳卒中はもちろん,各種の神経難病や認知症などの診療において確固

たる実績を作ってきた。この実績は,さまざまな医療チーム(褥瘡対策,嚥下リハビリ,感染対策,クリニカルパスな

ど)による,急性期からリハビリテーション,退院後の外来・在宅医療までの一貫した診療によるものだという。また,

このようなチーム医療では,NSTの結成なくともその機能が発揮されているようだ。今回は神経内科科長の関口すみ

れ子先生に,NSTが設置されていない状況で質の高い栄養管理が可能となった理由と今後の展望を伺った。

Profile せきぐち すみれこ

’69年埼玉県生まれ。’93年東北大学医学部卒業,宮城厚生協会 坂総合病院でローテート研修開始。’97年東北大学神経内科,’00年宮城厚生協会泉病院神経内科を経て,’01年より現職。専門は神経内科。

写真1 財団法人宮城厚生協会泉病院42

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A

B

C

D

E

「研修医と回診することはできなくなったが,院内組織

として認められたことにより,以前よりもシステマティ

ックに活動できるようになった」と話す。

また,嚥下チームの結成は,病棟看護師が「少しでも

口から食事を摂ってほしい」と,嚥下障害の認められる

患者に対してベッドサイドで嚥下訓練を行っていたこと

が始まりである。

2004年4月に言語聴覚士が複数名採用されたことか

ら,嚥下訓練はこれまで中心的役割を担っていた病棟看

護師に代わって主に言語聴覚士が行うようになり,嚥下

訓練に関連する病棟看護師と言語聴覚士の役割分担を明

確にする必要が出てきた。「病棟看護師と言語聴覚士の

人間関係が悪いわけではなく,お互いが思いついたとき

に思いついたことをやっているとうまく行かないことが

少なからず出てきたため」と,関口先生は当時を振り返

る。そこで,病棟看護師,言語聴覚士,管理栄養士およ

び作業療法士という嚥下チームが結成され,月1回の会

議で嚥下リハビリをよりよいものにするために必要な業

務を検討するとともに,各職種の担うべき役割を整理し

ていった。「94床の小規模病院なので業務の振り分けを

きっちり決めず,気づいた人が気づいたときに行うこと

も不可能なことではない。ただ,小規模病院であっても,

多職種によるチーム医療の実践にあたっては運営方法を

詳細に取り決めておいた方が,しかるべき人が役割を担

うことになるので,全体がスムーズに動く」と関口先生

は付け加えた。

褥瘡対策委員会での栄養管理の取り組みからソフトを利用してつくる“おすすめ栄養メニュープラン”が誕生同病院では嚥下チームや褥瘡対策委員会,感染対策委

員会,クリニカルパス委員会などによってチーム医療が

実践されているが,「チーム医療それぞれでNST(Nutri-

tion Support Team)は結成されていないが,栄養管理は

当然のように推進されている」と関口先生は話す。

褥瘡対策委員会では栄養に対する取り組みとして,“褥

瘡に関する危険因子評価表”で食事量が半分以下,アル

ブミン値3.2mg/dL以下,ヘモグロビン値11g/mL以下の

いずれかに該当する場合,みるからに痩せている場合に

定期的な体重測定を徹底するほか,アボットジャパン株

式会社東北支店仙台2課がエクセルソフトで作成した栄

養アセスメント(エネルギー計算表)をベースにし,同病

院仕様に改良した栄養サポートシステム(図1)を用いた

おすすめ栄養メニュープラン(図2)を主治医に提案す

る,ということを行っている。

嚥下チームでの栄養管理の取り組みから“お食事回診”が誕生嚥下チームは“口から食べること=経口摂取”を最終

目標として,栄養管理に積極的に取り組んでいる。その

取り組みの1つが隔週で行われている“お食事回診”

だ。この回診では患者の食べ方を直接観察することで,

図1 栄養サポートシステムの画面と使用方法①性別,体重,身長,年齢,活動係数,ストレス係数を入力し,必要エネルギー量を算出する(A)。②たん白質必要量,脂質エネルギー投与量を入力し,必要栄養素の割合を算出する(B)。③必要なエネルギー量,たん白質,脂質,炭水化物,水分量を満たすように食事,経管栄養剤,静脈栄養を組み合わせて必要栄養素投与計画を立てる(C)。経管栄養剤(D)や静脈栄養(E)に関しては,別のワークシート(同病院の採用品目があらかじめ入力されている)で投与計画を検討することが可能になっている。

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たん白質(kcal)�脂質(kcal)�

炭水化物(kcal)�水分量(mL)�

188�307�733�1227

0�0�0�0�

0�0�0�0�

174�392�685�800

174�392�685�800

15.3%�25.0%�59.7%�

氏名            ID

身長(cm)�

年齢(歳)�

体重(kg)�

1�

146 46.9

75 性別  女�

活動係数�ストレス係数�たん白質必要量�脂質投与量(%)�

1.2�1�1�

25%�

泉 太郎�

12511227必要エネルギー量� 投与エネルギー量�

○処方例��2�2�

静脈栄養�

必要�エネルギー�

エネルギー�比率� 食事�

経腸菅�栄養剤� 静脈栄養� 合計�

自力歩行�不可能�軽労作�中労作�重労作�

�1.2�1.3�1.4~1.5�1.5~2.0

活動係数� ストレス係数�

 外傷� 複合外傷�(人工呼吸器使用)� 筋肉� 頭部� 骨折� 悪性新生物�

手術後:大手術�小手術�

ステロイド使用� 1.6~1.71.2�1.1

褥瘡� 熱傷:�0~20%体表面積�20~40%体表面積�40~100%体表面積�

�1.0~1.5�

1.5~1.85�

1.85~2.05

感染症:�軽症(流感など)�重症(敗血症など)�

�1.2~1.5�1.5~1.8��

1.2~1.6

�1.5~1.7��1.25~1.5�1.6�1.15~1.3�1.1~1.45

(個)� (個)�

(本)� (本)��ピーエヌツイン○-2号(1100)�R

経腸菅栄養剤�エンシュア◯・H(250)�

エンシュア・リキッド◯・H(250)�

R

R

回診日�体重�Alb Hb VF所見� 食事内容� 看護師� ST PT・OT 食養(係数など)� 薬局ほか� 観察� 方針�

提案された理由�

終了日と理由�

ID 9999999 氏名� テスト深田恭子�

年・性別�31 女�生年月日�昭和49年12月31日�身長�175.0 標準体重�60.3

病名�脳梗塞� 発症日�2006/12/31 合併症�

3/10 100.3 4.3 14.0

お食事回診シート� 初回記入日: 平成18年12月31日� 宮城厚生協会 泉病院�

患者個々が抱えている“口から食べることができない問

題”を抽出し,その改善を図ることを目的としている。

回診では,関連するスタッフ誰からでも“回診してほし

い”と希望を出してよいことになっており,提案された

患者について昼食前に検討した後,嚥下チームに薬剤師

と調理師が加わったメンバー(写真2)が昼食を食べてい

る患者のそばへ行き,口から食べることの障害を確認し,

その場で解決できることはその場で解決していく(写真

3)。最後に,患者個々について各職種それぞれの立場

からの意見を述べ合ったうえで,今後の方針を立て,そ

れをお食事回診シート(図3)に記録していく。

この回診が始められた理由は次のとおりである。同病

院の嚥下造影は,主に“嚥下リハビリをするためのリス

クを判断する”という位置づけで医師・言語聴覚士が実

施しており(2~3件/週,10~12件/月),対象患者は医

師から依頼されてくる患者で,重度な嚥下障害を有した

患者が多い。そのため,嚥下造影検査を行うまでもない

が嚥下障害がある患者は嚥下リハビリを受け損ねてしま

写真3 食べ方を確認する言語聴覚士と薬剤師嚥下そのものには問題がないが,認知障害などで食事のペース配分がわからなくなって早く食べてしまい,誤嚥するケースも少なくないという。

図2 おすすめ栄養プラン例

写真2 お食事回診チーム

図3 お食事回診シート44

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A

B

C

D

発赤�表皮剝離�重症�新規発生�

9�

8�

7�

6�

5�

4�

3�

2�

1�

0�4月�5月�6月�7月�8月�9月�10月�11月�12月�1月�2月�3月�

35�

30�

25�

20�

15�

10�

5�

0

95�90�85�80�75�70�65�60�55�50

A B

 2004年3月  2004年8月~2005年4月平均�

(%)� (%)�

81.892.6 32.0

14.3

う可能性があった。また,嚥下造影検査を行った患者で

も,嚥下機能的には問題がないが別の問題で嚥下がうま

くいかない場合(例:嚥下状態は悪くないが,脳梗塞後

遺症などにより食事のペース配分がうまくできず,口の

なかに食事を詰めこんでしまうためにむせる)も,嚥下

リハビリ対象者から外れてしまう可能性があった。「嚥

下リハビリと聞くと,嚥下訓練だけに注目が集まるが,

要は『口から食事をうまく摂るようにすること』。した

がって,道具(写真4)や姿勢の工夫なども嚥下リハビリ

の1つで,そのためには食事をしている姿を直接みるこ

とが必要不可欠」と関口先生は付け加えた。

既存の医療チームとの兼ね合いを考慮し,近い将来,新しくNSTを組織したいこれまで述べてきた褥瘡対策委員会や嚥下チームのほ

かにも,同病院では栄養管理に関する積極的な取り組み

が多くみられる。具体的には,栄養サポートや経腸栄養

剤をテーマにした栄養関連の学習会が定例化されている

こと,クリニカルパス委員会では経腸栄養パスやPEGパ

スの普及,経腸栄養剤の適正化,脳卒中急性期各種パス

へのアルブミン検査の組み込みなどを確立してきたこと

があげられる。

「NSTという新たな組織を立ち上げなくても,既存

の医療チームの栄養に関する活動によって入院患者さん

の栄養状態は確実に改善している」と関口先生は話す。

実際,院内において重症の褥瘡の発生はなくなり,発赤

を含めた褥瘡発生率も数%程度まで減少した(図4)。栄

養に関しても,全入院患者における栄養不良状態(アル

ブミン値3.2mg/dL以下)の頻度は2004年3月の43.3%か

ら同年9月の8.3%へと大きく改善された(図5)。しか

し,今後,栄養管理をシステマティックに行っていくた

めにはNSTの設立が必要になってくるだろう。関口先

生は,「すでに活動している医療チームでの栄養管理と

NSTでの栄養管理の関係を整理し,そのうえでNSTを

設立していきたい」と抱負を語った。

写真4 嚥下リハビリで使用するさまざまな道具A:持ちやすくしたもの。持ち手を熱で温めると,患者の手に合わせて形状を変化させることができるスプーン。握力がなくてもスプーンを持つことができる。

B:実際の使用例。C:一口量を調節できるもの。D:片手でも食べ物がすくいやすいようスプーンの先が上向きになっており,食器の底はすくいおわりを知覚しやすいよう斜めになっている。

図4 褥瘡発生件数(2004年4月~2005年3月)4,5月は新規発生分の件数のみ。6月から発生件数が増えているようにみえるが,発赤・表皮�離などの軽症のものが増えている。発赤も褥瘡という意識づけが高まったことによって早期発見が可能となり,重症例はほとんどなく,軽症例もほぼ治癒に至る。

図5 アルブミン採血率(A)とアルブミン値3.2mg/dL以下の患者の割合(B)

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