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CONTENTS 監修� 大阪大学大学院医学系研究科� 小児発達医学講座(小児外科学)教授巻頭言� Nutrition Support Journal 発刊に際して.... p.2大阪大学大学院医学系研究科小児発達医学講座(小児外科学)教授 岡田 正NST/ASSESSMENT NETWORK� 静脈・経腸栄養から経口まで,� 栄養療法をトータルに� コンサルトできるNSTをめざす...................................... p.3─5天理よろづ相談所病院 腹部一般外科部長 松末 智� REVIEW DISEASE-SPECIFIC� 褥瘡患者に対する栄養管理................................................ p.6─8岡崎三田病院 院長 鈴木 定� DEVICE NOW� 経腸栄養剤と細菌汚染........................................................... p.9出水市立病院 院長 大熊 利忠� NUTRITION CASE STUDY� 糖尿病............................................................................................. p.10─11鈴鹿中央総合病院栄養サポートチーム� エグゼクティブディレクター 宮澤 靖� EVIDENCE BASED NUTRITION� 経管栄養を投与し褥瘡が軽快した2症例.................... p.12─13因島総合病院 総婦長 片島 由美子� 経管栄養患者に発症した銅欠乏症の検討.................. p.14─15博愛病院 内科 湧田 森明 ほか� MEETING REPORT� TNT全国展開始まる.............................................................. p.16 岡田 正� Medical Magazine 2000 July, Vol.1 No.1 創刊号� 1 2000年7月発行(年4回 1,4,7,10月発行)第1巻第1号(通巻1号) ISSN 1345-7497

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Page 1: NSJ01 巻頭言 p02 05.3.25 15:40 ページ 2 巻頭言products.abbott.co.jp/medical/library/NSJ/NSJ-01.pdf2 巻頭言 この度,メディカルレビュー社の依頼により学術情報誌「Nutrition

C O N T E N T S

監修�大阪大学大学院医学系研究科�小児発達医学講座(小児外科学)教授�

巻頭言�

Nutrition Support Journal 発刊に際して.... p.2�大阪大学大学院医学系研究科�小児発達医学講座(小児外科学)教授 岡田 正�NST/ASSESSMENT NETWORK�

静脈・経腸栄養から経口まで,�栄養療法をトータルに�コンサルトできるNSTをめざす...................................... p.3─5�天理よろづ相談所病院 腹部一般外科部長 松末 智�REVIEW DISEASE-SPECIFIC�

褥瘡患者に対する栄養管理................................................ p.6─8�岡崎三田病院 院長 鈴木 定�DEVICE NOW�

経腸栄養剤と細菌汚染........................................................... p.9�出水市立病院 院長 大熊 利忠�NUTRITION CASE STUDY�

糖尿病............................................................................................. p.10─11�鈴鹿中央総合病院栄養サポートチーム�エグゼクティブディレクター 宮澤 靖�EVIDENCE BASED NUTRITION�

経管栄養を投与し褥瘡が軽快した2症例.................... p.12─13�因島総合病院 総婦長 片島 由美子�経管栄養患者に発症した銅欠乏症の検討.................. p.14─15�博愛病院 内科 湧田 森明 ほか�MEETING REPORT�TNT全国展開始まる.............................................................. p.16

岡田 正�

Medical Magazine 2000 July, Vol.1 No.1

創刊号�

12000年7月発行(年4回 1,4,7,10月発行)第1巻第1号(通巻1号) ISSN 1345-7497

第一巻第一号�

二○○○年七月発行�

(年

発行 株式会社メディカルレビュー社�

〒 -541�0046大阪市中央区平野町 -

 -

 吉田ビル�

1�7�3

-

6223-

1468

06

本書の内容を無断で複製または転載すると、出版権・著作権の侵害になることがあります。�

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NSJ01_表1/4 05.3.25 15:26 ページ 1

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巻 頭 言

この度,メディカルレビュー社の依頼により学術情報誌「Nutrition SupportJournal」の監修を担当させて頂く事となった。本小冊子の目的とするところは一般医療施設における「Nutrition Support」の普及であり,専門家による論文を収載するだけではなく第一線で働く臨床医の積極的な執筆への参画を呼びかけている。いささか唐突な依頼ではあったが,日頃私の考えているわが国における臨床栄養のあり方に一致していると考えたので,お引き受けする事とした。さて,それでは一般に考えられる「Nutrition Support」とはどのようなものと定義されるであろうか。これが単に通常の経口摂取の延長線上にある栄養補給・栄養療法を指すものではなく,静脈栄養(主として中心静脈栄養)及び経腸栄養(主として経管栄養)などのように精製された化学物質配合液を体内に留置されたカテーテルを通じて投与する方法と定義づけられるであろう。そもそも健康人において摂食量或いは質が食欲によって調節されている事は衆知である。しかしひと度疾患に罹患した場合,食欲は低下する上に病態によって惹き起こされる代謝異常が栄養バランスを崩し,栄養障害が進行する。これに対し従来医療施設において各種の病態治療食が用意され,多くの患者に対し用いられて来た。しかし最近の静脈・経腸栄養=Modern Nutrition Supportの進歩・普及は任意の配合組成をもった栄養素材を病態に応じて調整し,正確且つ確実に投与する事を可能とした。その代表例が分岐鎖アミノ酸richな肝障害用経管栄養剤,またグルタミンrichな腸管栄養剤などである。これらが食欲を無視するような形ではあるが強制的に投与されて体内で利用され,ひいては病態治療,健康維持に大きな役割を果たしている。このような新しい栄養法が進歩・普及し従来の「栄養」に対する概念を大きく修正した事は紛れもない事実である。そして次の段階として今までに得られた知見を整理して標準化し,これらを更に普及し,わが国医療施設において誰でもがいつでもどこでも安全,且つ効果的に「Nutrition Support」を享受する事が出来る方向で検討が進められている。そのためには解決すべき医療保険,医療法制上の問題点も多い。経腸栄養剤を例にとってみても一部は薬品として登録され他は食品として取り扱われている。このような問題の整備もまた早急になされる事が必要であろう。医療の根本とも言える栄養療法が先端医学の進歩に支えられて装いも新たに我々の前に明確な姿を現す事が期待される。

Nutrition Support Journal発刊に際して

大阪大学大学院医学系研究科

小児発達医学講座(小児外科学)教授

岡田  正

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当院(写真1)では,1984年に,院内すべてのIVH

を1ヵ所で管理するためにIVH(in t r avenou s

hyperalimentation)センターが設置されました。常

駐している専任ナースを中心に,医師,薬剤師など

が有機的に連携し,活動しています(写真2)。特に

薬剤部では,IVH調製室を設け,専属薬剤師がIVH

の調製を行っています(写真3)。

当院でIVHを施行する場合はすべて,このIVHセ

ンターおよび薬剤部に報告しなければならず,主治

医のみの判断だけでIVHは実施できないシステムに

なっています。あくまでもIVHに関して十分な知識

をもったセンターのスタッフが,IVH適応患

者を厳選し,ほかの栄養療法を考慮したう

えで,IVHを施行するか否かを決定するよう

にしています。

たとえば,経腸栄養の患者さんが下痢を

起こしたため,主治医がIVHに変更しようと

考え,IVHセンターへ連絡してきたとします。

IVHセンターでは,経腸栄養が本当に適応不

可かどうか,IVHでなければならない理由が

あるかどうかを判断します。もし,IVH施行

に絶対的な理由がなければIVHの許可はしま

せん。実際のところ,経腸栄養の投与方法

が悪いために下痢が生じていることが多く,

センターのスタッフが,主治医や病棟ナースに経腸

栄養の正しい管理方法を指導し,患者さんに最良の

栄養療法を提供するようにしています。

このような活動を続けていくなかで,今日では,

IVHセンターはIVHの管理だけでなく,末梢静脈栄

養,経腸栄養,IVH,経口などすべての栄養摂取方

法から,個々の患者さんに最もふさわしいと思われ

るものをどのように選び,どう実施すればよいのか

を院内スタッフに教育することを介して,患者さん

を栄養面からサポートする役割を担うようになりま

した。

IVHセンターは,世間でいうところのNST

(Nutrition Support Team)という呼称では活動して

いませんが,NST的機能を十分に果たしているので

はないかと思います。

Profile まつすえ さとる

’47年兵庫県生まれ。’72年京都大学医学部卒業。同第一外科入局。’73年天理よろづ相談所病院腹部一般外科へ。’77年米国Massachusetts GeneralHospital研修。’90~’91年JohnsHopkins大学薬理学教室留学。帰国後,天理よろづ相談所病院腹部一般外科副部長,’97年より現職。専門は膵臓外科。

NST/ASSESSMENTNETWORK

NST/ASSESSMENTNETWORK

Nutrition Support Journal 1

静脈・経腸栄養から経口まで,栄養療法をトータルにコンサルトできるNSTをめざす

天理よろづ相談所病院 腹部一般外科部長 松末  智

早くから臨床栄養の重要性に目を向け,IVH管理システムの構築に力を注いできた天理よろづ相談所病院腹部一般外科部長松末智先生。「消化管機能にダメージがなければ,経腸栄養が最善で最良の栄養ルート。にもかかわらず,IVHを安易に実施する傾向がみられる。IVH適応症例を厳選する一方で,経腸栄養の正しい管理方法を啓発し,さらには経口の食事メニューにまで踏み込んだ栄養療法を実践し,患者さんを栄養面からサポートしていきたい」と話す。今回は,松末先生に同院で行われている栄養療法と今後の方向性をお話しいただいた。

IVHセンターがNST機能を果たし,患者さんを栄養面からサポート

写真1 天理よろづ相談所病院

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ところで,IVHセンターの栄養管理方針はそのネ

ーミングとはまったく逆で,「できる限りIVHは実

施しない」です。実際,当院のIVH施行患者は年間

わずか150例程度で,1,001床規模の急性期病院にし

ては少ない数字だと思います。

臨床栄養の考え方は,何らかの疾患に伴う低栄養

状態を的確に診断し,それを効率よく改善して,元

の疾患の治療結果によい影響を与えるというのが基

本です。まず原疾患を治すことが必須なのに,患者

さんの本来の疾患ではない低栄養状態を改善しよう

として合併症を生じさせることは,本末転倒です。

したがって,栄養ルートは可能な限り安全で,かつ

生理的な方法を選ばなければなりません。

当院では,2週間以内に経口摂取が可能となるの

であれば,末梢静脈栄養を行っています。2週間以

上経口摂取が不可能な場合は,消化管が機能してい

れば,経腸栄養を原則としています。IVHはいわゆ

る低栄養状態を改善するための最終手段として位置

づけており,2週間以上の経口摂取が不可能で,か

つ消化管が機能していない場合にのみ実施していま

す。

なぜなら経腸栄養は,患者さんの病態に応じた経

腸栄養剤を処方すれば,消化管機能が保たれ,栄養

素の代謝も生理的に行われるので,IVHに比べ栄養

の吸収効率,投与効果は優れており,合併症が少な

く管理しやすい栄養ルートだからです。それに対し

てIVHは,医療チームで厳密に管理しなければ,カ

テーテル敗血症はもちろん,代謝性合併症など予期

せずして重篤な合併症を併発する可能性が非常に高

い栄養療法で,しかも,決して生理的な栄養補給方

法ではないからです。

にもかかわらず,一般的に,経腸栄養よりIVHを

行う傾向が強いようにみえます。実際,当院でも

IVHを医療チームで管理して合併症を減少させた

1978年頃,院内全体がIVHの有用性を実感し,患者

さんの栄養面に目を向けるようになりました。この

ことは臨床栄養の大切さに理解が得られていない頃

に比べれば,大きな前進だと思いますが,同時に,

栄養状態をアセスメントして,悪化していると判断

すると,安易にIVHを実施しようとする傾向がみら

れるようになったのです(表1)。

そもそも当院のIVH導入は早く,Dudrick SJが

IVHの臨床応用についての論文を発表した1969年の

暮れです。当時は,IVHを問題なく施行し終わる症

例は少なく,実施症例の3分の1,言い換えれば3

人に1人が発熱,顆粒球増加などの感染症状を合併

するという状況でした。

幸いなことに,私は1977年に,ボストンにある

Massachusetts General HospitalでIVHセミナーを

受講する機会を得ました。そこで,医師,看護婦,

薬剤師などで組織された医療チームが院内全体で統

一された管理システムに基づきIVHを実施すれば,

合併症を大幅に減少できることを学びました。

私は帰国後すぐに,あくまでも私に共感してくれ

る有志の看護婦さん,薬剤師さん,臨床検査技師さ

んたちとIVH管理チームをつくり,ルーチンの仕事

と兼任でIVHの管理を開始しました。医師はカテー

テルの挿入,IVH適応の決定,代謝栄養に関する研

消化管が使えるなら経腸栄養が基本

多大なコストと厳密な管理が要求されるIVH

写真2 在宅経静脈栄養法(HPN)に向けての指導 写真3 調製準備

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究,看護婦は日常の管理,dressing change,患者

さんの教育,無菌的管理の研究,薬剤師は調剤,配

合の研究を担いました。臨床検査技師はカテーテル

感染に関する微生物を培養する方法を用いて,無菌

的管理を監視しました。

そして,感染性合併症の減少と代謝性合併症の早

期発見をめざし,「院内全体で統一されたプロトコ

ール」に基づいてIVHを実践した結果,1977年当時,

30.9%もあったカテーテル発熱の頻度は,チーム医

療による統一管理システム開始後1年で5%にまで

減少することができました。現在,IVHのカテーテ

ル発熱は0.5%程度になっています。

結果だけをみれば,IVHは容易に施行できるよう

に思いますが,そこには,多大な労力と時間を注ぎ

込んで,厳密な管理プロトコールを厳格に遵守した

医療スタッフの努力があるのです。

臨床栄養の考え方に基づけば,IVHの合併症ほど,

患者さんに多大な不利益を与えるものはありませ

ん。「IVHを実施するならば,完璧にする」――こ

れが原則です。IVHの安易な適応拡大は,管理シス

テム内の物理的・人的限界を超えて漏れる患者さん

を生じさせ,合併症の危険性を高くします。

そこで,当院では,先ほど述べたIVHセンターに

よる集中管理システムを導入し,IVHの安易な実施

に歯止めをかけました。同時に,学部教育で学ぶ機

会のなかった臨床栄養や経腸栄養療法の考え方を啓

発しています。

難しいとされている経腸栄養の投与方法は,実際

のところ,健康な人の食事の取り方に非常に近いの

で,自分自身にあてはめて考えれば,投与方法の大

原則を容易に理解することができます。たとえば,

健康な人が一度にドカ食いをすれば下痢や腹痛を起

こすのと同じように,一度に大量に栄養剤を投与す

れば下痢になるでしょう。また,健康な人でも,お

腹が一杯のときに無理矢理食べれば吐きそうになる

ように,胃の中に栄養剤が残っている状態で,さら

に栄養剤を投与すれば逆流するのはあたりまえで

す。こう考えれば,どのように経腸栄養剤を投与す

ればよいかわかると思います。

21世紀は,ますます,薬物治療の前に栄養療法あ

りきの社会になってくると思います。経腸栄養も,

IVHも,患者さん個々の病態により処方は異なりま

すが,栄養状態を改善するという目的も,方法論も

すべての患者さんに共通しています。各診療科ごと

で栄養療法に違いはありません。今後,当院では,

IVHセンターをやがて栄養療法部門という独立した

部署に発展させ,静脈・経腸栄養はもちろん,経口,

つまり院内の食事(給食)までをトータルにコンサル

トし,質の高い栄養療法を実践する組織にしていき

たいと考えています。

経腸栄養療法は健康な人の食事摂取と同じ

NSTASSESSMENT

NETWORK

NSTASSESSMENT

NETWORK

原 則

中心静脈栄養(CIVH)

CIVHチームによるシステム管理

合併症の減少

問題点

適応の拡大……何でもCIVH

システム管理内の人的・物理的限界を越える

システム管理より漏れる例が出る

合併症の危険大

対 策

1.Unit化……?2.適応の厳密化3.他の栄養法を組合せ,総合的な栄養補給を考慮

●ED●PPN………

表1 CIVHの適応の拡大による問題点

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褥瘡とは床ずれともいわれるように,寝たきりの患者

が一定時間以上体位を一定にしたときに,自身の体重の

圧迫により,体の特定の部位に,一定以上の圧が加わる

ことによって発生する局所の阻血性壊死である1)。この

ように褥瘡の直接の原因は圧迫であり,ベッドの表面か

ら体表に加わる圧を体圧という。しかし,同じように圧

が加わっていても褥瘡がすぐに発生する患者もいれば,

そうでない場合もある。これは,褥瘡の発生は患者の全

身状態や組織の耐久性に左右されるからである。不十分

な栄養は全身状態の悪化と組織の耐久性の低下をもたら

す。特に高齢者や慢性疾患患者では栄養上の問題点が多

い。褥瘡の予防や治療において,栄養管理は体圧分散や

スキンケアとともに非常に重要な事項である。ここでは

褥瘡の予防と治療に必要な栄養管理について,なるべく

具体的に記述したい。

先に述べたように,褥瘡発生の身体的要因として低栄

養状態がある。低栄養が貧血や浮腫を生じる程度まで悪

化すると,圧迫への耐性も悪くなり褥瘡が発生する。褥

瘡が発生した場合,その創傷部位から血清蛋白,アルブ

ミン,ヘモグロビンなどを含む体液が滲出し,さらに栄

養状態が悪化する。このような悪循環により,発生した

褥瘡はさらに難治化する2)(図1)。

6

REVIEWDISEASE-SPECIFIC

REVIEWDISEASE-SPECIFIC

褥瘡患者に対する栄養管理

岡崎三田病院 院長 鈴木  定

Profile すずき さだむ

’49年愛知県生まれ。’75年日本医科大学医学部卒業。’76年名古屋保健衛生大学医学部内科学教室にて研修。’78年同大学医学部助手。’87年岡崎中央病院院長,’91年より現職。医学博士。専門は内科学一般,リウマチ学,感染症学。

褥瘡の予防と治療において栄養管理はきわめて重要である。特に重要な栄養素として蛋白質,各種ビタミン,鉄のほか亜鉛や銅などの微量元素が挙げられる。また十分なカロリーと適度な水分補給も必要である。このような観点から,一般的に全身状態が不良であることの多い褥瘡患者においては,経口ないしは経管栄養として,必要な栄養素を十分含有した経腸栄養剤を投与することが望ましい。

褥 瘡 栄養管理

経腸栄養剤

はじめに

褥瘡の発生,悪化と栄養状態

Summary

Key Words

褥 瘡�

長期寝たきり患者�

摂食能力の低下�(食思不振,嚥下困難など)�

栄養状態の悪化�

栄養状態の悪化�

〔難治化〕�

貧血,浮腫など�

組織への栄養供給障害,�外圧に対する耐性低下�

創傷部位からの体液※滲出�(※血清蛋白,アルブミン,ヘモグロビンなどを含む)�

図1 栄養状態からみた褥瘡発生過程

Nutrition Support Journal 1

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褥瘡の予防と治療には蛋白質,摂取カロリー,ビタミ

ン,ミネラルの関与が大きい。栄養素の欠乏を早期に発

見し,補充すべきである。ここでは,褥瘡の予防と治療

において特に注目すべき栄養素と,その動態を知るため

に必要な検査値および栄養管理上の目安を示す3)。

1.蛋白質1)アルブミン

褥瘡患者の血清アルブミン値が低いことはよく知られ

ている。低値ほど褥瘡の発生率が高く,また深い褥瘡が

できる可能性も高い。褥瘡発生の危険ラインは血清アル

ブミン値2.5g/d�といわれるが,それ以上でも発生する

こともあり,最低でも3.0g/d�,できることなら3.5g/d�

以上の確保が望ましいとされる4)。摂取量としては,蛋

白質1.1~1.2g/kg/日を確保する。

2.摂取カロリー・水分1)カロリー

摂取カロリーの減少は代謝を低下させるうえに活動性

や可動性を鈍くする。さらに摂取エネルギー減少によっ

て発生する「るいそう」は皮下における骨の突起や同部

位の皮膚圧迫の原因となる。また高齢者では食事の内容

が炭水化物に傾きがちである。食事の摂取量だけでなく,

蛋白質が十分に摂取されているかどうかのチェックも必

要である(蛋白エネルギーの摂取量は,血清アルブミン,

総リンパ球数などに反映する)。1日に必要なエネルギ

ー量は患者の年齢,体重,全身状態,活動性によっても

大きく異なるが,褥瘡発生予防には25~30kcal/kg/日で

ある4)5)。

2)水分

水分は通常,体重の55%を占め,高齢者ではそれより

も少ない。あらゆる生理機能を支える最も重要な物質で

あって,不足すると,ほかの栄養素の欠乏に比べて直接

的に衰弱や死に結び付く。特に高齢者は水分の補給量低

下から脱水を起こしやすいが,脱水の症状を見落とされ

ることがしばしばある。また逆に,過剰の水分補給によ

る浮腫は,皮膚の耐久性を低下させ褥瘡の発生原因とな

る。通常,成人では食品中の水分以外に1日1�以上の

水分を補給するが,嚥下障害のある高齢者には,増粘剤

を使ってとろみをつけるなどの工夫も必要である。

3.ビタミン1)各種ビタミン

創傷治癒だけでなく,褥瘡の予防に関してもビタミン

は大きな役割を果たす。ビタミンAはコラーゲンの合成

に必要であり,ビタミンCもまた膠原線維の生成に必要

とされる。ビタミンCの不足によりコラーゲンの抗張力

の低下が起きる。ビタミンB2の低下は全身倦怠感や無

力感を招き可動性を低下させる。ビタミンB6,ビタミ

ンB12,葉酸の欠乏は貧血や蛋白合成の減少を招く5)。

4.ミネラル1)鉄

血清鉄の低下はヘモグロビン値の低下につながる。ヘ

モグロビン値の低下はヘマトクリット値や赤血球数よ

り,褥瘡発生に深く相関する。低ヘモグロビン血症によ

る組織の酸素利用の低下は皮膚や軟部組織の脆弱化を招

く。ヘモグロビン値の危険ラインは11.0g/d�であり,血

清鉄は80~160μg/d�に保つ。鉄の1日の必要量は15mg

である。

2)亜鉛

亜鉛欠乏の場合は,亜鉛の添加により外傷,熱傷,皮

膚潰瘍などの創傷治癒が著しく促進される。しかし欠乏

がない場合に亜鉛を投与しても褥瘡予防の効果は期待で

きない。また,亜鉛欠乏による皮膚炎から皮膚の統合性

に障害をきたしたり,味覚障害から慢性的な食欲減退を

招き,低栄養状態をもたらす可能性がある。血清亜鉛は

70~150μg/d�を保ち,1日の必要量は15mgである。

3)その他のミネラル

銅,カルシウムなどの不足は褥瘡の治癒過程に影響を

及ぼす。

5.その他1)血糖

栄養素ではないが,血糖値は褥瘡の発生や治癒に大き

な影響を与える。糖尿病などで高血糖をきたすと,末梢

循環不全,末梢神経障害,免疫機能低下,易感染性,炎

症反応の抑制などが起こり褥瘡が発生しやすくなる。ま

た血糖コントロールが悪い場合は難治化する。

1.経口摂取経口から栄養摂取が可能であることは,最も生理的で

望ましい栄養摂取の形である。しかし経口摂取が可能で

あるからといって安心していてはいけない。褥瘡患者の

多くは経口摂取が可能な場合でも,流動食から3分粥食

程度のことも多く,栄養バランスとしては糖質が多く蛋

白質が不足する。またビタミンB1,ビタミンC,鉄,

亜鉛,銅などのミネラルも不足する。この場合,エンシ

ュア・リキッド�のような経口・経管両用の経腸栄養剤

を補食として用いるのがよい。

2.経管栄養 嚥下障害のある場合には経管栄養法を行う。最近では

比較的簡単にPEG(経皮内視鏡的胃瘻造設術)が行われる

褥瘡の予防と治療に必要な栄養管理

栄養管理の実際

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*:成分表示なし

8

ようになり,在宅でも十分に経管栄養の管理が可能とな

った。経腸栄養剤は各社から多くの製品が販売されてい

る。個々の褥瘡患者には必要な栄養素を十分に含んだエ

ンシュア・リキッド�が望ましい(表1)。

3.経静脈栄養消化管に問題がある場合など,やむを得ないときには

高カロリー輸液や持続点滴などで経静脈的に栄養を与え

る。この場合もビタミンやミネラルの不足に注意し,経

時的に評価を行い,可能な場合には,より生理的な栄養

法に変更する(図2)。

高齢社会に入り,寝たきり患者の褥瘡に対する社会的

関心は高まっている。また高齢者における栄養管理の重

要性も認識されてきた。今後さらに多くの医師や看護婦

そして栄養士が褥瘡患者の栄養管理についての知識を修

得し,臨床の場に還元されることを切望する。

文 献

1)鈴木 定:医師とナースのための褥瘡診療指針.東京,医学書院,6-9, 1999

2)鈴木 定:写真で見る褥瘡処理マニュアル.名古屋,日総研出版,23-25, 2000

3)厚生省老人保健福祉局老人保健課 監:褥瘡の予防・治療ガイドライン.東京,照林社,40-43, 1998

4)美濃良夫:褥瘡予防のための栄養管理.看護技術 42:24-29,1996

5)Agency for Health Care Policy and Reseach:Treatment forPressure ulcers. Clinical Practice Guideline, No. 15. Maryland,AHCPR Publication, 4-8, 1994

ラコール�

ツインライン�

ハーモニック�-M

ライフロン�-PZ

L-6PM�

テルミール�F

エフツー�

エンシュア・リキッド�

製品名

4.38

4.1

4.8

5

5.3

5

5

15.62

14.7

13.5

13.8

13.8

15

15.1

2.23

2.8

3

2.8

2.7

2.2

2.2

207

207

160

250

200

250

210

28.1

22.5

20

25

17

30

18

62.5

63

3.86

3.85

20

0.62

0.63

0.72

1.2

1.6

0.85

1.2

133

160

78

270

15

30

23

125

23

64

13

10

10

17

0.64

0.94

0.7

0.6

0.43

0.4

0.4

0.5

0.8

1.7

3.52 13.72 3.52 250 15.2 7 15.2 52 0.9 200 100 1.5 *

蛋白質(�)

炭水化物(�)

脂質(�)

ビタミンA(IU)

ビタミンC(m�)

ビタミンK(μ�)

ビオチン(μ�)

コリン(m�)

Fe(m�)Mn(μ�)Cu(μ�)Zn(m�)Fib(�)

経管栄養�経口食�困難�

食事の内容や摂取量により�エンシュア・リキッド�を補食とする�

困難�

可能� 可能�経静脈栄養�

褥瘡治療に必要な栄養素を�含有したエンシュア・リキッド�が�望ましい�

常に生理的な栄養法に�変更の可能性を検討する�

おわりに

表1 経腸栄養剤の微量成分(100kcal あたりの栄養量)

図2 褥瘡患者の栄養管理法

NSJ01_REV_p06-8 05.3.25 15:43 ページ 8

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9

経腸栄養法(EN:enteral nutrition)は今日の普及にも

かかわらず,いまだに給食の延長上の栄養法ととらえら

れることが多く,その実施には幾多の問題を含んでいる。

そのひとつに経腸栄養剤の細菌汚染がある。

図1は液状製剤の細菌汚染について経時的にみたもの

である。Closed systemで投与できる500m�バッグ製剤

では24時間後も細菌の汚染はみられないが,缶入り製剤

を投与バッグ(コンテナー)に移した場合には6時間後か

ら細菌の増殖がみられた。細菌汚染率は剤型により異な

るがWagner1)らは24時間後の細菌培養で≧104CFU/m�

の陽性率は液状の缶入り製剤で60%,粉末製剤では83%

と報告した。われわれの缶入り製剤についての調査では,

投与終了時≧103CFU/m�の汚染率は調製方法の改善前

が75%に対し,改善後は20%に減少した(p<0.001)2)。

栄養剤の細菌汚染により,悪心,嘔吐,腹痛,下痢な

どの消化器症状はもとより,肺炎,敗血症など重篤な病

態を引き起こす3)。一般に≧104CFU/m�の細菌汚染で

合併症が発生する。われわれの調査でも投与終了時の細

菌汚染≧104CFU/m�で下痢の発生率と有意の相関が確

認された4)。

現在われわれの施設で行っている調製方法および注意

点を列挙する。

①病棟に経腸栄養剤専用の調製場所を確保する(ない場

合には配膳室を代用)。

②帽子,マスクを着用し,調製時に十分に石豚で手洗い

し,ディスポーザブルの手袋(非滅菌性)を使用する。

③粉末製剤の調製容器は煮沸消毒したものを使い,溶解

には滅菌水,または沸騰水を冷ましたものを用いる。

④調製後の栄養剤は使用するまで専用の冷蔵庫に保管する。

⑤コンテナーは1回の投与時間を6時間以内とする。コ

ンテナーは週に2回新しいものと交換する。

⑥コンテナーは流水で十分洗浄し,0.01%ミルトン液

(次亜塩素酸ナトリウム)に1時間浸し調製室で乾燥さ

せる。

⑦定期的に栄養剤の細菌培養を行う。

⑧栄養剤をコンテナーに移し替えるときには,栄養剤そ

のものには絶対に手を触れない。

⑨調製手順はできるだけ少なくする。

⑩液状製剤を使う場合にはclosed systemで投与できる

RTH(ready to hang)バッグ製剤を使用する。

多発外傷や,大手術後,放射線治療,化学療法施行患

者など免疫能の低下症例では,特に注意が必要である。

最も重要なのはスタッフの意識改革である。なお,細菌

汚染とは直接関係ないが,経腸栄養法の成功の鍵は経腸

栄養専用ポンプを使用し,低速度でゆっくり投与するこ

とであると付け加えておく。

文 献1)Wagner DR, Elmore MF, Knoll DM:Evaluation of “closed”vs“open”systems for the delivery of peptide-based enteraldiets. JPEN 18:453-457, 1994

2)大熊利忠,中村元和,遠竹日出子:経腸栄養剤の細菌汚染による病態とその予防.JJPEN 20:997-1001, 1998

3)Levy J, Laethem YV, Verhaegen G, et al: Contaminatedenteral nutrition solutions as a cause of nosocomialbloodstream infection;A study using plasmid fingerprinting.JPEN 13:228-238,1989

4)Okuma T, Fukunaga Y, Nakamura M, et al:Microbialcontamination of enteral feeding formulas and diarrhea.Nutrition(in press)

DEVICE NOWDEVICE NOWNutrition Support Journal 1

経腸栄養剤と細菌汚染出水市立病院 院長 大熊 利忠

はじめに

細菌汚染の実態

細菌汚染の病態

おわりに

細菌汚染の防止対策

107CFU/m��

106

105

104

103

102

10

0 2 4 6 8 10 12 24 時間�

A

B

図1 エンシュア・リキッド�の細菌培養試験(室温放置)A:缶入り製剤をコンテナーに移し替え放置B:500m�RTHバッグ製剤にラインを接続して放置

NSJ01_DEV_p09 05.3.25 15:49 ページ 9

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10

【出題】糖尿病

鈴鹿中央総合病院栄養サポートチーム エグゼクティブディレクター 宮澤  靖

Nutrition Support Journal 1

NUTRITIONCASE STUDY

NUTRITIONCASE STUDY

症例 77歳 男性 身長167cm 体重58.5kg診断名:糖尿病(2型糖尿病),くも膜下出血,遷延性意識障害15年前に糖尿病を近医にて指摘されるが放置。7年前より口渇感,銭怠感が出現し,体重が6kg減少する。再び近医を受診し投薬を受けるが,服薬は患者が面倒がったり,忘れたりして不定期であった。2年前にくも膜下出血を発症し水頭症によるV-Pシャント術が施行され,以後,意識障害に伴う経口摂取不能でさらに寝たきりとなる。現在の処方薬は,ヒューマリン�N注を朝12U,夕方8U(表1)。

Q1 この症例の場合に最も適している栄養管理法,ならびに投与量の算出,栄養管理のポイントは何ですか?

Q2 欧米には,耐糖能異常患者向けの経腸栄養剤があると聞きましたが,それはどのようなものでしょうか?

図1 PEGを造設し経腸栄養剤を投与

図2 フィーディングポンプを用いて持続投与法とする

AlbGOT

2.922

�/d�IU/�

検査項目 単位

白血球数(WBC) 9900 /μ�赤血球数(RBC)血色素量(Hb)ヘマトクリット値(Ht)血小板数(PLT)TP

GPTLDH総ビリルビン(T.Bil)γ-GTPコリンエステラーゼ(ChE)BUNクレアチニン(Cr)NaKCaCl空腹時血糖HbA1c

3048.126.637.35.2

212300.91620612.10.61364.38.1962848.4

×104/μ��/d�%

×104/μ��/d�

IU/�IU/�m�/d�IU/�IU/�m�/d�m�/d�mEq/�mEq/�m�/d�mEq/�m�/d�%

表1 臨床検査値

NSJ01_NCS_p10-11 05.3.25 15:52 ページ 10

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11

A1

A2

この症例の場合に最も適している栄養管理法は「経腸栄養法」です。これはこの症例の場合,消化管は安全に使用できるためです。腸管は消化管ホルモンの産出,免疫機能の調節,細菌やエンドトキシンに対する防御機構など重要な働きを行っています。これらの機能を維持させながら栄養管理を行うためには経腸栄養法がよいとされています。また,この症例のように長期経腸栄養管理が必要な症例は,内視鏡下胃瘻造設術(PEG)が推奨されます。実際にこの症例では第36病日にPEGが造設されました(図1)。投与量の算出ですが,糖尿病の場合は「標準体重×労作=指示エネルギー」とされていますので,この症例の場合は1,400kcalが妥当だと思われます。また,Harris-Benedictの式を利用し算出する方法もあり,BEE(基礎エネルギー消費量)は1,185kcalでREE(安静時エネルギー消費量)は約1,400kcalとなり同じ数値を示します。栄養管理のポイントは,いかに血糖値の上昇を抑えるか,合併症を防ぐかということになります。そのために食物繊維が豊富な経腸栄養剤を利用し,急激な血糖値の上昇を抑制する,投与速度を検討し,1日のなかで血糖値の高低を激しくしないために連続投与(図2)にする(ただしこの場合,常に高血糖が続いてしまうため症例によっては慎重に投与しなくてはならない)などの考慮が必要あります。また,検査値からみても血糖値のコントロールが不良ですので,混合型インスリンに換え,スライディングスケールを用い血糖値を150~200mg/d�以下に保てるよう配慮します。

欧米には,耐糖能異常患者向けの経腸栄養剤のほかにも「疾患別経腸栄養剤」が多数あります。特に耐糖能異常患者向けの経腸栄養剤は需要が大きく,臨床で用いられています。現在米国で市販されているものは4種類で,私の使用経験があるものは「グルセルナ�」という経腸栄養剤であり,最近日本でも発売されたものです。特徴は,脂質・炭水化物調製の濃厚流動食である,MUFA(オレイン酸)を特に多く含む,ショ糖を含まない,大豆多糖類由来の食物繊維を14.1g/�含む,乳糖とグルテンを含まないなどです。特にMUFAを多く含むことはとても大切なポイントで,MUFAには,血清コレステロールの減少,多価不飽和脂肪酸のようにHDL-コレステロールを低下させない,血中ブドウ糖濃度・中性脂肪,VLDL-コレステロールを低下させる作用が報告(図3,4)されており,臨床的にもその有用性が実証されていて,今後日本においても適応患者が増えてくるものと期待しています。

文 献1)Peters AL, Davidson MB, Isaac RM : Lack of glucose elevation after simulated tube feeding with a low-carbohydrate, high-fat enteral formula in patients with type Ⅰ diabetes. Am J Med 87 : 178-182, 1989

2)Harlety JR, Pohl SL, Isaac RM : Low carbohydrate with fiber versus high carbohydrate without fiber enteral formulas ;Effect on blood glucose excursion in patients with type Ⅱ diabetes. Clin Rev 37 : 141A, 1989

3)Craig LD, Nicholson S, Silverstone FA, et al:Use of a reduced carbohydrate, modified-fat enteral formula for improvingmetabolic control and clinical outcomes in long-term care residents with type 2 diabetes ; Results of a pilot trial. Nutrition14 : 529-534, 1998

100

120

140

160

180

200

220

240

260

-30 0 30 60 90 120 150 180 210 240

血清グルコース(m�/d�)�

時間(分)�

* : P<0.02, ** : P<0.01

グルセルナ��

**�

**�*�

**�**�

**�

standard formula

200

180

160

140

120

1000 30 60 90 120 150 180 210 240

*� *�*� *� *� *� *�

* : P<0.03

血清グルコース(m�/d�)�

時間(分)�

グルセルナ��

standard formula

図3 Type 1 DM患者1)

対象:type 1 DM患者(n=10),毎15分に20m�摂取結果:グルセルナ�群で糖尿減少

図4 Type 2 DM患者2)

対象:type 2 DM肥満患者(n=10),毎15分に20m�摂取

結果:グルセルナ�群で糖尿減少

NSJ01_NCS_p10-11 05.3.25 15:53 ページ 11

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12

可能なかぎり褥瘡の発生を予防するのが,看護者の責

任と自覚している。真田氏1)は褥瘡予防ケアにおける看

護者の専門的アプローチとは,①褥瘡発生の予測,②体

位変換方法や体圧分散寝具の使用による圧迫の解除,③

栄養状態の整え,④湿潤や摩擦・ずれに対するスキンケ

アに大別されると示している。褥瘡を予防するために,

体位変換や体圧分散寝具の使用で圧迫,減圧に努めてい

るが,栄養状態には目が届きにくい。また必要性はわか

っていても,具体的にどのような援助方法が効果的か,

わからない場合もある2)。褥瘡形成の要因には貧血や浮

腫,耐糖能異常が挙げられるが,皮膚本来の働きを維持

するためには,亜鉛,銅などの微量元素の存在が不可欠

である2)。

根津氏ら3)は,亜鉛の主たる排泄経路である消

化液の大量喪失に加え,長期にわたり経口摂取不

良あるいは吸収障害を伴っており,さらに治療と

して長期にわたる静脈栄養・経腸栄養を必要とす

る場合が多く,このような症例では亜鉛欠乏の準

備状態にあるものと考えるべきであろう,と述べ

ている。臨床でわれわれは,患者の状況に応じた

適切な褥瘡予防を講じても,褥瘡の形成を防ぐこ

とができないことを経験する。また褥瘡の処置に

おいても,同じ処置や,褥瘡の経過に応じた処置

を行っていても,治癒の過程において,個人差を

経験することがある。このことは,亜鉛欠乏症状

の1つである創傷治癒遅延が考えられる。実際に

は,栄養評価は行っていないため,断定はできな

い。しかし患者の食事摂取状況を観察し,経口摂

取が困難な場合,経口摂取が進むような援助が必

要である。そして必要に応じて,経静脈栄養法か

経管栄養法かの検討をする必要がある。長期経静

脈栄養では微量元素不足になるため,当院では食

事摂取不足の患者に対して,1995年よりPEG(経

皮内視鏡的胃瘻造設術)を施行している。

今回,経管栄養に変更し,栄養を確立したこと

により,褥瘡が軽快した2症例について報告する。

95歳女性,基礎疾患:巨大褥瘡・食欲不振・痴呆

1997年8月29日,巨大褥瘡にて入院。入院時経口摂取

困難を認めた。総蛋白質5.6g/d�,アルブミン2.1g/d�と

栄養状態は不良であり,赤血球255万,ヘマトクリット

24.2%,リンパ球13.5%で貧血を認めた。10月20日PEG

による経管栄養開始(エンシュア・リキッド�500m�2パ

ック朝・夕,1,000kcal/日),1998年10月20日総蛋白質

6.6g/d�,アルブミン3.3g/d�,赤血球324万,ヘマトク

リット34.5%,リンパ球18.3%となり栄養状態が改善す

ると,褥瘡の状態は黄色期から赤色期となり,肉芽形成

の促進がみられた(図1)。

83歳男性,基礎疾患:慢性呼吸不全・肺気腫・気管支

喘息

EVIDENCEBASED NUTRITION

EVIDENCEBASED NUTRITION

経管栄養を投与し褥瘡が軽快した2症例

因島総合病院 総婦長 片島 由美子

はじめに 症例

(�/d�)

総蛋白量�

(�/d�)�

血中アルブミン値�

PEG施行�(1997/10/20)�

↓�

5

4

3

2

1

0 0

5

6

7

8

9 10 11 12 '98.1 '99.2↑�入院�

(8/29)�

三分粥� エンシュア・リキッド��

1,000kcal /日�エンシュア・リキッド��

750kcal /日�

症例1

経過

図1 症例1

Nutrition Support Journal 1

症例2

NSJ01_EVI2_p12-13 05.3.25 15:59 ページ 12

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13

1999年1月27日,発熱あり,肺炎で入院。入院時呼吸

困難あり,経口摂取困難を認めた。総蛋白質6.3g/d�,

アルブミン3.2g/d�と軽度の栄養状態不良,赤血球332万,

ヘマトクリット31.9%,リンパ球6.3%で貧血を認めた。

2月10日,総蛋白質4.8g/d�,アルブミン2.7g/d�で,栄養

状態不良傾向強く,赤血球356万,ヘマトクリット34.0%,

リンパ球9.8%,褥瘡が出現した。褥瘡悪化傾向あり,3

月4日,PEGによる経管栄養開始(エンシュア・リキッド�

500m�2パック朝・夕,1,000kcal/日)。6月22日,総蛋

白質7.0g/d�,アルブミン3.6g/d�,赤血球324万,ヘマト

クリット29.3%,リンパ球33.4%,褥瘡の状態は黄色期か

ら赤色期となり,呼吸状態安定し,在宅療養となる。8月

11日,貧血あり,CRP(C-reactive protein)褥瘡の感染の

可能性もあり,再入院する。貧血はPEGチューブによる

潰瘍形成あり,別の場所にPEG施行し,赤血球361万ヘマ

トクリット32.8%,リンパ球26.7%,貧血改善傾向あり,

在宅療養に再度移行する(図2)。

栄養状態を改善することにより褥瘡が軽快したと考え

られる2症例を報告した。症例1は老人ホームに入居中

の褥瘡形成であったが,症例2は明らかに,根津氏らの

いう亜鉛欠乏の準備状態にあるものと考えるべきであっ

たため,早期の褥瘡予防を講じる必要があった。PEGの

施行について担当医は話を進めていたが,家族の同意が

得られず,約1ヵ月栄養不良の状態で,褥瘡は悪化して

いった。PEGを行ったことで栄養状態が改善され,褥瘡

の軽快がみられたことは評価できる。栄養剤の選択は,

創傷の治癒に亜鉛が不可欠であることから,成人の亜鉛

の必要量は約1mgであるが,経腸的に吸収される量は

その10%とされるため,10mgが必要となる。経腸栄養

剤としては,亜鉛の最も多く含まれているエンシュア・リ

キッド�500m�を使用した。本剤には亜鉛1.5mg/100m�が

含まれているため,1日摂取カロリーは1,000kcalで,亜

鉛を15mg/1,000m�/日摂取したことになる。必要十分量

は満たされていると思われる。

杉山らは,高齢者施設において,血清アルブミン値が

3.5g/d�以下の人たちは30~40%と高頻度であった。ま

た,血清アルブミン値が3.5g/d�以下では,ヘモグロビ

ン濃度も低下して貧血傾向にあるものが観察されたと報

告している4)。高齢者というだけで栄養不良のリスクを

もって入院してくる。入院早期に栄養のアセスメントを

行い,効果的な栄養のアクセスを確立し,合併症・褥瘡

の予防に努める必要を感じている。

1)真田弘美:褥瘡予防法におけるEBNの有効性について.かんご52 : 031-036, 2000

2)西田壽代,佐藤エキ子:褥瘡予防の観点からみた栄養アセスメントと栄養管理.照林社 編,褥瘡予防・ケアガイド.東京,照林社,86-87, 1995

3)根津理一郎,小林秀幸,岡田 正,他:亜鉛栄養状態の評価.輸液と栄養 20 : 7-9, 1996

4)杉山みち子,斎藤正身,加藤隆正,他:高齢者のエネルギー代謝ならびに低栄養状態の評価.栄養-評価と治療 13 : 389-395,1996

5)高木洋治,山東勤弥,岡田 正,他:経腸栄養・静脈栄養と微量元素.臨床栄養 84 : 396-404, 1994

6)花田勝美:皮膚と亜鉛.皮膚病診療 15 : 761-765, 19937)野中 静,星野和子,阿蘇貴久子,他:高齢者アセスメント表(MDS)と栄養スクリーニングとの関連.かんご 51 : 115-121, 1999

経過

考察

おわりに

(�/d�)� (�/d�)5

4

3

2

8

7

6

5

0

1

0

血中アルブミン値�

総蛋白量�

PEG施行�(1999/3/2)�↓�

三分粥� エンシュア・リキッド�1,000kcal /日� エンシュア・リキッド��

1,000kcal /日�

↑�入院�

(1/27)�

↑�退院�

(6/27)�

↑�退院�

(2/11)�

↑�再入院�(8/11)�

'99.2 '00.33 4 5 6 8 9 412

図2 症例2

参考文献

NSJ01_EVI2_p12-13 05.3.25 15:59 ページ 13

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近年,静脈栄養や経腸栄養による栄養管理が進歩し,

非経口栄養のみで長期間の生存が可能となった。しかし,

その製剤に含まれない,あるいは,わずかにしか含まれ

ていない微量元素のため,欠乏症例が散見されるように

なった。銅欠乏症は,いわゆる微量元素欠乏症の1つで

あり,好中球減少や貧血をきたすことはよく知られてい

る1)-7)。今回,経管栄養食により発症した銅欠乏症を6

例経験したので,そのうち1症例を呈示するとともに,

若干の知見を報告する。

63歳女性,脳梗塞後遺症,脳血管性痴呆による嚥下障

害で入院,1989年7月以来経管食に頼っている。総摂取

量1,200kcal/日を継続,特に体重の変動はみられなかっ

た。1992年1月より顆粒球減少がみられ,徐々に増悪,

6月より貧血も進行してきた。精査目的に,同年10月,

12月,翌年3月と骨髄穿刺を行った。所見は,myelodys-

plastic syndrome疑いであった。貧血と好中球減少に対

して,鉄剤投与,数回の輸血やG-CSF投与で対症療法を

行っていた。その間,微熱はみられたが,血小板減少や

皮膚症状,下痢症状はみられなかった。1993年4月血清

銅測定により著明な低値を認め,銅欠乏症と診断した。

経管食は1991年9月からメディエフ・リキッド�(銅含

量0.06mg/100kcal)が使用され,1日の銅摂取量は

0.72mgであった。銅の経口摂取最小必要量は,2mg/

日3)4)とする報告から,診断後より銅補充目的に,銅含

有量の多いエンシュア・リキッド�(銅含量0.1mg/100kcal)

を追加投与,好中球数,ヘモグロビン値をみながら投与

量を徐々に増やすこととし,1日の銅摂取量を1.22mg

に増量してみた。増量から約20日後,好中球数,ヘモグ

ロビン値ともに改善傾向がみられたため,同量で継続投

与を行った。血清銅値の著しい上昇もみられ,好中球数

やヘモグロビン値は約1ヵ月で正常値に達した(図1)。

銅欠乏症と診断した4月の検査値を表1に示す。骨髄所

見は前年10月の所見である。著しい白血球減少と大球性

正色素性貧血,および血清銅の著明な低値,血清鉄の低

14

EVIDENCEBASED NUTRITION

EVIDENCEBASED NUTRITION

経管栄養患者に発症した銅欠乏症の検討博愛病院内科 湧田 森明

同検査 我如古江津子

はじめに

症例

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

0

0246810121416

010

708090100110

02004006008001,0001,2001,4001,6001,800

89.7月�90.1月� 7月� 91.1月� 7月� 92.1月� 7月� 7月�93.1月�

グラン�

輸血�

骨髄穿刺�

L-1��

銅含有量0.72mg/日�クリニフード��

銅含有量1.00mg/日�

メディエフL��

銅含有量0.72mg/日�

銅含有量0.5mg/日�エンシュア・リキッド��

好中球�

ヘモグロビン�

血清銅�

総キロカロリー�

個/mm3

�/d��

μ�/d��

kcal

末梢血所見RBCHbHtMCVMCHMCHCPLTWBCst.Seg.Lym.Mon.Eo.Baso.ESR

生化学所見TPAlbT.ChoChEZTT

260×104/mm3

8.0�/d�26.1%100.4f�30.8p�30.7%

23.8×104/mm3

900/mm3

1%3%58%31%4%3%

8mm/hr

6.4�/d�3.7�/d�

156m�/d�0.56 △pH

5.4U

有核細胞数巨核球数M/Emyeloblasterythroblast

48,500/mm3

50/mm3

1.642.6%32.5%

GOTGPTALPLDHFeCuZnMnVit.B12葉酸

bloodprot.glu.uro.

8 IU/L4 IU/L

193 IU/L227 IU/L34μ�/d�2μ�/d�81μ�/d�0.3μ�/d�

1,026p�/m�5.5n�/m�

(-)(+)(-)(±)

骨髄所見

尿所見

表1 銅欠乏症診断時の検査値(93年4月)

図1 症例63歳女性,好中球・ヘモグロビン・血清銅の推移。

NSJ01_EVI_p14-15 05.3.25 16:02 ページ 14

Page 15: NSJ01 巻頭言 p02 05.3.25 15:40 ページ 2 巻頭言products.abbott.co.jp/medical/library/NSJ/NSJ-01.pdf2 巻頭言 この度,メディカルレビュー社の依頼により学術情報誌「Nutrition

値を認める。亜鉛やマンガンは正常,血小板も正常であ

った。骨髄所見は,低形成で各系統の細胞に低頻度なが

ら異形成を認め,環状鉄芽球や芽球細胞質の空胞化もみ

られた(図2)。

銅欠乏症6例のうち,貧血例は5例であった。5例中

3例は,大球性正色素性貧血,ほかの2例は,正球性正

色素性貧血であった。

銅欠乏症例に対し,銅含有量の多い経管食としてエン

シュア・リキッド�を追加投与した。図3は,エンシュア・リキ

ッド�投与後の好中球数変化を表している。最上段の2症

例は,1日あたりの銅摂取量を0.72mgから1.22mgに増量

している。2段目の症例は,0.72mgから0.97mgに増やし

たが,好中球数低値が続くため4ヵ月後に1.22mgに増量

している。同様に3段目は,0.6mgを1.1mgに,4段目は,

0.54mgを1.22mgに増量している。6症例とも,1日あた

りの銅摂取量を1.1mg以上に増量することにより約10~

20日目で正常値に戻っている。図4は,1日銅摂取量を

増量した後のヘモグロビンの変化を表している。どの段

の症例も増量後約2ヵ月目には正常値へ戻っている。

経管栄養患者6例の銅欠乏症を経験した。6例中,好

中球減少および貧血の両方を示した症例は5例,好中球

減少のみを示した症例は1

例だった。銅欠乏による貧

血のタイプは,大球性正色

素性貧血3例,正球性正色

素性貧血2例であった。経

管栄養開始後,好中球減少

や貧血を生ずるまでの期間

は6~18ヵ月(平均12.2ヵ

月)だった。銅欠乏症例に

対し,1日あたりの銅摂取

量を1.1mg以上摂取させる

ことにより,好中球数は10

~20日目で正常値に,ヘモ

グロビン値は約2ヵ月目に

正常値へ回復した。

経管食はメディエフ・リキッド�

(銅含量0.06mg/100kcal)を

使用していた。現在市販さ

れている経管栄養食の銅含

有量は,多くが当院で使用

する経管食と同じか,それ

以下である。比較的手軽に

血清銅を測定できるように

なった今日,銅測定を行う

ことにより経管栄養患者に

好中球減少や貧血を起こさせてはならない。

1)Dunlap WM, James GW, Hume DM:Anemia and neutropeniacaused by copper deficiency. Ann Intern Med 80:470-476, 1974

2)Lee GR, Williams DM, Cartwright GE:Role of Copper in IronMetabolism and Heme Biosynthesis. Trace Elements in HumannHealth and Disease(academic Press)1:373-390, 1976

3)浦部晶夫,高久史磨:必須金属の欠乏症.病態生理 3:187-192,1984

4)藤田宗行,板倉丈夫,白井忠義,他:高カロリー輸液時にみられた銅欠乏症の3例.外科と代謝 21:60-68, 1987

5)樋口重典,東 明正,柳辺安秀,他:抗白血球抗体が存在した銅欠乏症に伴う好中球減少症.小児診療 51:449-456,1988

6)Hirase N, Abe Y, Sadamura S, et al:Anemia and neutropenia in acase of copper deficiency;Role of copper in normal hematopoiesis.Acta Haematol 87:195-197, 1992

7)津川信彦,佐藤正昭,横田裕介,他:長期胃瘻栄養管理に見られた銅欠乏症と微量元素について.日内会誌 82(臨時増刊号):143,1993

15

結果

まとめ

+�

+�

+� +�

+�

+� +�

+� +�

前� 1 2 3 4 5 6ヵ月�

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

0

個/mm3

銅摂取量0.72mg/日→1.22mg/日�

銅摂取量0.72mg/日→0.97mg/日�

銅摂取量0.97mg/日→1.22mg/日�

銅摂取量0.6mg/日→1.1mg/日�

銅摂取量0.54mg/日→1.22mg/日�

エンシュア・リキッド 投与後の期間�R

U.K.T.A.

K.M.

R.K.

M.N.

T.I .

図2 治療前の骨髄穿刺標本環状鉄芽球および芽球細胞質の空胞化がみられる。

図3 エンシュア・リキッド�投与後の好中球の変化

図4 エンシュア・リキッド�投与後のヘモグロビン値の変化

鉄染色 メイギムザ染色

+�

+�

+�

+�

+�

+�

+�+� +�

+�

+�+�

+�

前� 1 2 3 4 5 6ヵ月�

�/d��

銅摂取量0.72mg/日→1.22mg/日�

銅摂取量0.72mg/日→0.97mg/日�

銅摂取量0.97mg/日→1.22mg/日�

銅摂取量0.6mg/日→1.1mg/日�

銅摂取量0.54mg/日→1.22mg/日�

エンシュア・リキッド 投与後の期間�R

U.K.T.A.

R.K.

M.N.

K.M.T.I .

14�13�12�11�10�9�8�7�6�5

14�13�12�11�10�9�8�7�6�5

14�13�12�11�10�9�8�7�6�5

14�13�12�11�10�9�8�7�6�5

文 献

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16

C O N

監修�

巻頭言�

Nutrit大阪大学小児発達NST/AS

静脈・経栄養療コンサ天理よろREVIEW

褥瘡患岡崎三田DEVICE

経腸栄出水市立NUTRIT

糖尿病鈴鹿中央エグゼクEVIDEN

経管栄因島総合経管栄博愛病院MEETINTNT全

2000年7月発

第一巻第一号�

二○○○年七月発行�

(年四回発行)�

発行 株式会社メディカルレビュー社�

〒 -541�0046大阪市中央区平野町 -

 -

 吉田ビル�

1�7�3

-

6223-

1468

06

本書の内容を無断で複製または転載すると、出版権・著作権の侵害になることがあります。�

1

M E E T I N G R E P O R T

TNTでの症例検討風景

このたび,日本静脈経腸栄養学会(理事長

小越章平)とダイナボット株式会社共催による

医師のための臨床栄養治療講座,TNT(Total

Nutritional Therapy)の全国展開が開始しました。

TNTとは,アメリカ静脈経腸栄養学会

(ASPEN)の前会長のJohn Rombeau教授が監

修され立ち上げられた教育プログラムで,すで

に世界30ヵ国以上で同じ資材を使い展開してい

ます。本邦では,日本静脈経腸栄養学会のメン

バーを中心にTNT実行委員会が結成され,テキ

ストの翻訳,講師の育成が終了しており,各地

での研修会の準備が整いました。

プログラムは11章の講義と,インターアクテ

ィブな討議を基本とする症例検討とカテーテル

やPEG増設などのデモンストレーション等から

構成されています。講義の内容は,栄養アセス

メント,静脈栄養の適応と禁忌,経腸栄養の適

応と禁忌,病態別の栄養管理のキーポイントな

どで,臨床栄養の全てが学習できるようになっ

ています。また,症例検討やデモンストレーシ

ョンは小グループ形式で行われるため,より奥

の深い理解と知識が身につくようになっていま

す。

なお,TNTは厚生省,文部省,日本医師会が

後援しております。ぜひ,お近くで開催される

研修会にご参加ください。各地域での研修会の

開催スケジュールに関しては日本静脈経腸栄養

学会内TNT実行委員会(幹事 岩佐正人)もしく

はダイナボット株式会社(�0120-06-8262)

までお尋ねください。

■TNT全国展開始まる

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