2007年 第8巻第1号(通巻20号) issn...

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監修� 大阪大学名誉教授� 岡田 正� NS PHARMACIST薬剤師のNSTへのかかわり方..................................................... p.15 ─17独立行政法人労働者健康福祉機構旭労災病院薬剤部 中尾 耕治 ほかREVIEW NUTRITION & DISEASE癌悪液質の病態 ─特に免疫能の関与と免疫療法の可能性─.............. p.18 ─21公立阿伎留医療センター外科 柴田 昌彦 ほか栄養障害と感染症............................................................................... p.22 ─25東邦大学医療センター大橋病院第二小児科 教授 四宮 範明REVIEW HOME-NUTRITION� 在宅経管栄養患者の栄養管理....................................................... p.26 ─29医療法人財団ファミーユ 理事長 駒形 清則 ほか� 巻頭言� 大学病院におけるNST活動─愛媛大学の成功例─............................ p.2大阪大学名誉教授 岡田 NST/ASSESSMENT NETWORK� 消化器内科・外科を中心に全科型へ発展 電子カルテを活用して� チームの意志を統一, 患者個々の病態に応じた栄養管理を実践........................... p.3─6愛媛大学大学院医学系研究科先端病態制御内科学 教授 恩地 森一 ほかCURRENT TOPICS栄養と医療経済 無作為抽出による, 血清アルブミン値からみた� 栄養マネージメントの入院日数, 総医療費の検討.................................................. p.7─8� 浜松大学健康プロデュース学部健康栄養学科臨床栄養学研究室 准教授 金谷 節子亜鉛の種類による吸収の差について................................................ p.9─11京浜会京浜病院 副院長 志越 n-3脂肪酸と大腸癌の関連について................................................. p.12─14大妻女子大学家政学部食物学科公衆栄養研究室 准教授 小林 実夏 ほか� 2007年 第8巻第1号(通巻20号) ISSN 1345-7497

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  • 監修�大阪大学名誉教授�

    岡田 正�

    NS PHARMACIST�薬剤師のNSTへのかかわり方..................................................... p.15─17�独立行政法人労働者健康福祉機構旭労災病院薬剤部 中尾 耕治 ほか�

    REVIEW NUTRITION & DISEASE�癌悪液質の病態 ─特に免疫能の関与と免疫療法の可能性─.............. p.18─21�公立阿伎留医療センター外科 柴田 昌彦 ほか�

    栄養障害と感染症............................................................................... p.22─25�東邦大学医療センター大橋病院第二小児科 教授 四宮 範明�

    REVIEW HOME-NUTRITION�在宅経管栄養患者の栄養管理....................................................... p.26─29�医療法人財団ファミーユ 理事長 駒形 清則 ほか�

    巻頭言�大学病院におけるNST活動─愛媛大学の成功例─............................ p.2�大阪大学名誉教授 岡田 正�

    NST/ASSESSMENT NETWORK�消化器内科・外科を中心に全科型へ発展─電子カルテを活用して�チームの意志を統一, 患者個々の病態に応じた栄養管理を実践........................... p.3─6�愛媛大学大学院医学系研究科先端病態制御内科学 教授 恩地 森一 ほか�

    CURRENT TOPICS�栄養と医療経済─無作為抽出による, 血清アルブミン値からみた�栄養マネージメントの入院日数, 総医療費の検討.................................................. p.7─8�浜松大学健康プロデュース学部健康栄養学科臨床栄養学研究室 准教授 金谷 節子�

    亜鉛の種類による吸収の差について................................................ p.9─11�京浜会京浜病院 副院長 志越 顕�

    n-3脂肪酸と大腸癌の関連について................................................. p.12─14�大妻女子大学家政学部食物学科公衆栄養研究室 准教授 小林 実夏 ほか�

    2007年 第8巻第1号(通巻20号) ISSN 1345-7497

  • 巻 頭 言

    大学病院におけるNST活動―愛媛大学の成功例―

    大阪大学名誉教授

    岡田 正

    2007年2月8~9日,愛媛県松山市の愛媛県民文化会館において第22回日本

    静脈経腸栄養学会が小林展章会長のもと,5000人を超える参加者を集めて華々

    しく開催された。今回,本学会の副題が“臨床栄養における教育と実践とその

    評価――次に期待できること”と銘打って示され,NST実践をいかに無駄な

    く効率的に行うかが中心的話題となった。

    さて,今号の冒頭を飾るのは小林会長のお膝元である愛媛大学医学部附属病

    院のNST訪問記である。本NSTはちょうど3年前に栄養代謝管理を重要視す

    る消化器内科の恩地森一教授と消化器外科の小林展章教授による十分な協議を

    経て結成され,それを全学あげて支援することから出発した全科型NSTであ

    る。現在は約70名のスタッフから構成され,病棟の構造上の特徴(1号館――

    消化器内科など,2号館――消化器外科など)より止むを得ず2チームに分か

    れて活動している。今のところ2チームに分かれていること自体による弊害は

    みられず,それは患者情報やNST活動記録などを電子カルテ上にそのつど記

    録し,それを全員が常時確認できるようにしている,また栄養上の問題点をメ

    ンバーが自由に書き込むことができるフリーシートシステムを採用しているな

    どの工夫がなされていることによるものと考えられる。

    恩地教授によれば,この3年間のNST活動によって院内全体に病態別栄養

    (例えば糖尿病,COPDなど)の概念が少しずつではあるが浸透しつつあり,そ

    れが特別食の増加につながっていると考えられる。さらに2006年3月,栄養療

    法外来の開設による退院後の継続的な栄養管理の実施,また愛媛NST研究会

    の立ち上げによる家庭,地域社会での栄養管理への関心の高まりが全体的な栄

    養管理の底上げにプラスとなっている。

    一般に,大学病院のNSTは所帯が大きいこともあってまとまりにくいとい

    う通念があったが,愛媛大学医学部附属病院NSTがかくのごとく円滑に導入

    され,運営されている背景には,コアメンバーのなかでも恩地教授の熱い熱意

    による強力なリーダーシップ,またNST活動が大学病院内にとどまらず,地

    域社会に溶け込んで発展しつつあることが関係しているのであろう。

    今後の課題として,大学病院におけるNSTの役割をさらに追求する一方,臨

    床研究,また専門職の育成面などにおいても新機軸を発揮し,わが国のリーダ

    ーとしての役割を担っていただきたい。

    2

  • Nutrition Support Journal 20

    病院長,副病院長のトップダウンと管理栄養士のボトムアップでNST発足へ

    愛媛大学医学部附属病院では,2003年5月より,

    NSTの発足を目指し,コアメンバーとして選出され

    た医師,管理栄養士,看護師,薬剤師,臨床検査技

    師,医事課スタッフなどによる勉強会が開始された。

    これは当時の副病院長で消化器内科医の恩地森一先

    生と消化器外科医の小林展章先生(写真3)が結束し

    て当時の病院長であった大橋裕一先生(現 愛媛大学

    理事)に働きかけ,トップダウンで始まったもので

    あるとともに,管理栄養士らを中心とした病院スタ

    ッフらがNSTの必要性を訴えるボトムアップで始ま

    ったものでもあるという。

    NNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTT//////////////////////AAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAASSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEESSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEENNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEETTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOORRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKKK

    消化器内科・外科を中心に全科型へ発展──電子カルテを活用してチームの意志を統一,患者個々の病態に応じた栄養管理を実践

    愛媛大学大学院医学系研究科先端病態制御内科学 教授 恩地 森一同 器官制御外科学 教授 小林 展章

    現在,愛媛大学医学部附属病院(写真1)では2つの栄養サポートチーム(Nutrition Support Team;NST)が稼働している。電子カルテやミーティング,カンファレンスを活用してチーム間,スタッフ間の情報共有・情報交換を図り,常時40名/週ほどの患者の栄養管理を実施している。全科型NST活動が始まって3年目を迎えた今日,「食事オーダーにしろ,栄養法や栄養剤の選択にしろ,患者個々の病態にあわせたきめ細やかな配慮がみられるようになった」と,NST発足・稼働に尽力してきた1人である恩地森一先生(写真2)は誇らしげに話す。今後は,このノウハウを入院患者(点)だけでなく,外来患者(線)へ繋げ,家庭・地域社会(面)へ拡げていくそうだ。

    写真2 恩地森一先生’73年鹿児島大学医学部卒業後,岡山大学第一内科へ入局,’77年愛媛大学第三内科へ。’86年ロンドン大学留学を経て’02年より現職。専門は肝臓病学,免疫学。

    写真3 小林展章先生’68年京都大学医学部卒業後,同大学第2外科へ入局。’80年同大学医学部第2外科助手を経て,’87年よりメリーランド大学へ留学。帰国後は京都大学医学部第2外科講師を経て,’91年より現職。2007年2月に開催された第22回日本静脈経腸栄養学会では会長を務めた。専門は消化器外科,肝・胆・膵外科。

    写真4 NSTコアメンバー上段左から児島洋先生,松浦文三先生。下段左から大久保郁子先生,恩地森一先生,利光久美子先生。写真1 愛媛大学医学部附属病院

    3

  • そのためか,病院スタッフのNST発足・稼働に対

    する受け入れは良好で,コアメンバー(写真4)とし

    て各診療科から医師1名ずつ(19診療科19名),各病

    棟から看護師2名ずつ(16病棟32名),および病院長,

    副病院長を含めた16名[管理栄養士5名(写真5),

    薬剤師3名,医事課1名,臨床検査技師1名など]

    の合計約70名のスタッフが選出されたが,「誰も何

    も苦情は言わなかった」と恩地先生は当時を振り返

    った。

    消化器内科,消化器外科を中心とした2つのNSTが活動

    その後,全科型NSTは勉強会を開始して1年が経

    った2004年4月から始まった。NSTや栄養管理に対

    する病院スタッフの理解が得やすかったことから,

    NSTへの依頼件数は徐々に増加した(週40~50名)。

    また,新病棟は2つの独立した建物(1号館,2号

    館)となったこともあり,NSTは,①消化器・内分

    泌代謝・糖尿病内科の医師と管理栄養士,看護師,

    薬剤師から構成される1号館(内科,婦人科,耳鼻

    科,皮膚科,精神科など)NSTと,②消化器外科の

    医師と管理栄養士,看護師,薬剤師から構成される

    2号館(外科,脳神経外科,歯科口腔外科,循環器

    科,呼吸器科など)NSTの2チームに分かれて活動

    するようになった。

    各館の病棟構成上,1号館NSTの対象患者は消化

    器内科疾患(うち肝疾患,炎症性腸疾患などが80%)

    の患者が60~70%を占める。そのほかには,耳鼻科

    や婦人科領域の悪性疾患で化学療法中の患者や褥瘡

    患者(皮膚科),精神疾患患者(食欲不振症など)など

    がみられる。また,これらの低栄養患者だけでなく,

    過栄養・偏栄養性疾患[糖尿病,非アルコール性脂

    肪性肝炎(NASH),メタボリックシンドロームなど]

    に対しても積極的に介入しているという。

    一方,2号館NSTの対象患者は,悪性腫瘍の術後

    あるいは再発で化学療法や放射線療法を受け長期入

    院している患者や,脳神経外科疾患あるいは歯科口

    腔外科疾患で摂食が不可・困難なため低栄養状態に

    陥っている患者が多い。

    全入院患者を対象に看護師がNST対象患者をスクリーニング

    このように1号館と2号館は対象患者が異なる

    が,いずれも,全科(全病棟)において,患者の入院

    時点で看護師が身長,体重,体重変化,上腕筋囲,

    臨床検査値(蛋白,尿素窒素,クレアチニンなど),

    基礎疾患,自立度,消化器症状,浮腫,褥瘡,摂取

    量などを総合的にみて栄養状態を評価し,NST対象

    症例を抽出する(図1)。NSTは抽出患者に関して毎

    週月曜日にミーティングとラウンドを行い,栄養評

    価,問題点の抽出と改善策の立案,主治医への提案,

    栄養状態の再評価などを実施するという流れをとっ

    ている。

    なお,1号館では時間を決めてスタッフを集め,

    ミーティング後にラウンドを行っている(写真6A)

    が,2号館ではフロアごとにミーティングを実施し

    てラウンドを行っている(写真6B)。この理由につ

    いて,2号館NSTのコアメンバーの1人である消化

    器外科医の児島洋先生(写真4)は「2号館には循環

    器科や呼吸器科などの内科系病棟もあるが,多くは

    手術や処置が多い外科系でNSTメンバーが一堂に会

    することが難しく,ミーティングとラウンドは病棟

    (フロア)単位で行うことにしている」と説明した。

    電子カルテのフリーシートシステムを活用してNSTスタッフが患者情報を共有

    同大学医学部附属病院では2つのNSTが病棟業務

    に支障をきたすことなく効率的に稼働しているが,

    チーム間,メンバー間の情報共有,意志統一に支障

    をきたすようなデメリットはないのだろうか。

    写真5 A:栄養部,B:認定証の数々

    A:2004年4月の全科型NST開始時に医事課から独立して栄養部となった。

    B:「質の高い管理栄養士の育成が大切だ」と恩地先生は語る。

    A B

    4

  • これに関して,1号館NSTコアメンバーの1人で

    ある消化器,内分泌・代謝内科医の松浦文三先生(写

    真4)は,「患者情報やNST活動記録,推奨される栄

    養管理方法などは電子カルテ上に記録して全メンバ

    ーが常時確認できるようにしているため,メンバー

    間の情報共有,意志統一は図られている」と述べた。

    また,チーム間の情報共有,情報交換は月1回のNST

    勉強会で積極的に行っているそうだ。

    そのほか,同大学医学部附属病院では,各メンバ

    ーがそれぞれの専門の立場から気づいた患者の栄養

    上の問題点を自由に電子カルテに書き込むことがで

    きるフリーシートシステム(図2)を採用。ミーティ

    ングでは,メンバーが収集して持ち寄った患者情報

    だけでなく,フリーシートシステムに書き込まれた

    患者の栄養上の問題点を参考にして栄養管理プラン

    を検討している。管理栄養士の利光久美子先生(写

    真4)は「同システムは,メンバー間の情報共有,意

    志統一に役立つだけでなく,患者個々の病態に即し

    たきめ細やかな栄養管理方法を設定するためにも有

    用だ」と話した。

    ID: 氏名: 性別:女性 生年月日: 年齢 77

    1.作成日

    2.担当医師

    3.担当看護師

    患者(家族)説明 実施済 実施済 実施済 実施済

    4.

    入院時栄養状態

    身長(Ht) cm 155 155

    現体重(Bw) kg 51 47

    通常体重 kg 53 56

    BMI kg 21.2 19.6 #DIV/0! #DIV/0!

    IBW kg 52.9 52.9 0.0 0.0

    %IBW % 96.5 88.9 #DIV/0! #DIV/0!

    %UBW % 96.2 83.9 #DIV/0! #DIV/0!

    急激な体重変化(1~3ヶ月間:5kg減) 無 0 有 -200 無 0 無 0

    測定体位 座位 座位 座位 座位

    AC cm 24.5 20

    TSF mm 12 8

    AMC cm 20.7 17.5 0.0 0.0

    %AC男性選択

    1 女性61歳以上

    25.3 96.7 79.0 0.0 0.0

    %TSF 1 16.8 71.6 47.7 0.0 0.0

    %AMC 1 20.1 103.2 87.0 0.0 0.0

    Alb g/dL 3.1~3.5 -100 2.6~3.0 -300 3.6以上 0 3.6以上 0

    Hb mg/dL 5.0以下 -500 10.1~12.0 -100 12.1以上 0 12.1以上 0

    基礎疾患 糖尿病等代謝疾患 -200 高血圧等循環器疾患 -200 特になし 0 特になし 0

    自立度

    正常,J1,J2選択 正常

    A1~A2,B1~B2,C1~C2選択C1:自力寝返可,ベッド上排泄,食事,着替,介助要

    消化器症状 無 0 下痢 -200 無 0 無 0

    浮腫 無 0 無 0 無 0 無 0

    褥瘡 無 0 有 -1500 無 0 無 0

    部位

    腹水 有 -300 無 0 無 0 無 0

    食欲 有 0 無 -200 有 0 有 0

    発熱 37℃台 -100 37℃台 -100 37℃以下 0 37℃以下 0

    その他

    栄養補給方法 食事のみ 0 中心静脈栄養のみ 1600 食事のみ 0 食事のみ 0

    食事形態 普通 普通 普通 普通

    食種 一般治療食 エネルギーコントロール食 エネルギーコントロール食 エネルギーコントロール食

    設定エネルギー kcal 1200 1600 0 0

    摂取率 % 100 100 100 100

    備考 テルミールミニ1本(200kcal)含む

    推定摂取エネルギー kcal 1200 1600 0 0

    5.

    栄養評価

    JudgmentA:1000点以上 定期評価(経過確認)B:0~1000点未満 要注意C:0未満 NSTへ依頼例:-200=(200) 表示

    (161) (1312) #DIV/0! #DIV/0!

    6.目標 現状維持 現状維持 現状維持 現状維持

    8.

    総設定栄養量

    BEE(※性別選択) kcal 女性 1069.05 1030.81 294.74 294.74

    活動係数 ベッド上安静 1.1 ベッド上安静 1.1 寝たきり 1 寝たきり 1

    ストレス係数 1.3 1.5 1.2 1.2

    発熱によるエネルギー付加量 100 100 0 0

    四肢損傷調整 無 0 無 0 無 0 無 0

    エネルギー kcal 1629 1801 354 354

    たん白質 g 68.9 84 0 0

    水分 g フリー フリー フリー フリー

    塩分 g 10 10 10 10

    備考

    9.目標(改善評価) 目標達成 目標達成 目標達成 目標達成

    10.入院時栄養指導の必要性 必要あり 必要あり 必要あり 必要あり

    11.退院時指導の必要性 必要あり 必要あり 必要あり 必要あり

    確認者(管理栄養士)

    (備考)栄養管理に際する注意等

    Nutrition Support Team Seat 氏名 性 別 男性 生年月日 年齢 72

    日付(入力例:7/3)

    内容 薬剤輸液 経管 食事 Total

    サインE(kcal)

    P(g)

    E(kcal)

    P(g)

    E(kcal)

    P(g)

    E(kcal)

    P(g)

    2006/12/11 11/24 慢性膵炎加療・腹痛精査目的で入院。絶食・CVC管理 アミノトリパ�2号1.8L

    アミノレバン�EN2包 1640 53.8 400 25.6 530 19.4 2570 98.8

    12/9 夕より食事開始,CVC(アミノトリパ�2号)+アミノレバン�EN 0 0

    12/8 CRP 2.06↑HGB 9.1↑ALB 2.1↓GOT 62↑ 0 0

    LIP 58↓ CRE 1.6→(CRE 55↑) 0 0

    食事摂取量の増加に伴いCVCの調整 0 0

    経過観察 0 0

    2006/12/17 食事摂取量↓。ボルタレン�による疼痛コントロール。 393 10.4 393 10.4

    2006/12/18 痛みと吐き気があり食事摂取量はむらがある。食べられる時は

    全量食べるが全然食べられない時もある。ペインコントロールで

    点滴内にセレネース�1/2A混注しており,そのせいか1日中

    うとうと寝ている。38℃台の発熱も持続している。

    アミノトリパ�2号1.8Lアミノレバン�EN2包 1640 53.8 400 25.6 393 10.4 2433 89.8

    0 0

    0 0

    0 0

    12/18 CRP 8.47↓WBC 10.7↓HGB 7.9↓ALB 1.8↓GOT 164↓ 0 0

    K 4.9↑BUN 66↑CRE 1.7↑Ccr≒35.3 0 0

    カンファ VK補充を検討依頼 0 0

    12/5時点では,腹水なし 0 0

    ターミナルとしての対応?栄養管理は在宅のIVHの管理を検討。 0 0

    2006/12/24 「ご飯みただけでも吐きそうな」嘔気あり食事は摂取できていない。 0 0

    アミノレバン�も内服できていない。 0 0

    2006/12/25 CVS管理(アミノトリパ�2号900mL+50%TZ200mL)・強ミノ継続 (アミノレバン�EN2包) 1220 27 0 0 1220 27

    12/20 腹水穿刺,/18-20 アルブミン補充25g/日 0 0

    /21 CRP 10.03↑HGB 7.4↓ALB 2.5↑GOT59↓K 3.7↓ 0 0

    BUN 57↓CRE 1.4↓ Ccr≒43(BW62.6) 0 0

    アミノレバン�ENの服用できていない栄養量の補充を検討する。 0 0

    2006/12/30 嘔気強く,点内にプリンペラン�1A混注しているが内服もできない 0 0

    ほどの嘔気あり。経口からは水分(クリームソーダ)を少量摂取 0 0

    するのみ。 0 0

    2007/1/8 「吐き気は治まった。」嘔気消失している。本日食事を2割摂取 0 0

    ひさしぶりに行う。食後腹痛増強あり,オプソ�内服。意欲の減退 0 0

    あり,すべてに対する意欲なし。死に対する言動聞かれる。 0 0

    2007/1/9 食事進まず。 アミノトリパ�2号 820 30 0 0 820 30

    900mL 0 0

    50%TZ 800 0 800 0

    400mL 0 0

    1640 30 1640 30

    2007/1/15 アミノトリパ�2号 820 30 820 30

    900mL 0 0

    50%TZ 800 0 800 0

    400mL 0 0

    1640 30 330 10 1970 40

    図1 栄養評価とプランニング 図2 電子カルテ上のフリーシートシステム

    写真6 NSTのラウンドとミーティングの様子

    A:1号館NST。ミーテングでは各フロアスタッフが集合して実施される。ラウンド終了後は今後の方針を話し合う。

    B:2号館NST。ミーテングはナースステーション内で行う。主治医も積極的に参加している。

    A

    B

    5

  • 食事も経腸栄養剤も患者個々の病態にあわせて選択

    以上のようなNST活動が始まって3年目を迎える

    今日,病院内ではどのような変化が起きたのだろう

    か。

    児島先生は「NST活動が普及・拡大するにつれ,

    消化管に問題がない患者が中心静脈栄養を漫然と続

    けるというケースは全くみられなくなった」と,中

    心静脈栄養の適応が厳守されるようになったことを

    あげた。恩地先生はアルブミンの使用量が減少した

    ことを指摘し,「以前は栄養状態がとことん悪くな

    るまで介入せず,苦し紛れにアルブミンを使用する

    というケースが多かったが,現在は早め早めに栄養

    管理を行っているのでアルブミンを使わなければな

    らないケースが少なくなったのだろう」と話した。

    また,管理栄養士の大久保郁子先生(写真4)は,

    「患者個々の病態にあわせた食事,いわゆるかつて

    は特別食と呼ばれていた食事が占める割合は,大学

    病院の場合で一般的に20~30%程度であるが,当院

    ではNST活動が普及・拡大するにつれて増えてい

    き,今では45%超となっている」ことや,「以前,経

    腸栄養剤といえばいくつかの医薬品に限られていた

    が,種類の多い食品を利用するようになり,患者の

    嗜好にあわせたり,COPDなどの呼吸器疾患を有す

    る患者ならプルモケア�,糖尿病を合併した患者な

    らグルセルナ�といったように病態で使い分けるケ

    ースが増えてきた(写真7)」ことなどをあげ,病院

    スタッフが栄養管理に興味を持ち始めたのではない

    かと示唆した。

    NST活動を入院から外来へ繋げいずれは地域社会へ

    このように,NST活動がもたらしたメリットは大

    きく,NST活動を支援している日本病態栄養学会理

    事の立場でもある恩地先生は「これからは,NST活

    動を入院中の“点”だけでなく,外来に“線”とし

    て繋げ,そして家庭・地域社会の“面”へと展開し

    ていくことが大切だ」と,そのモデルケースづくり

    に意気込む。

    すでに同大学医学部附属病院では,点(入院)から

    線(外来)へ繋げる試みである『栄養療法外来』を

    2006年3月から稼働している。これは,入院中だけ

    でなく,退院後も継続的に栄養管理が必要で,かつ

    管理栄養士が主体で行っている『通常の栄養指導

    (1~3ヵ月に1回,食事摂取状況を把握して指導

    するなど)』では対応できない患者を対象にしたも

    のだ。同外来には,肝疾患,NASH,炎症性腸疾患

    のほか,肥満や高血圧,糖尿病などの生活習慣病を

    抱えた患者が多く,医師と管理栄養士が2週間ごと

    に3ヵ月間,栄養療法,運動療法を含めた生活全般

    の評価と指導を行っている。

    また,線(外来)を面(家庭・地域社会)にする試み

    として『愛媛NST研究会』を立ち上げ,地域の医療

    機関とともにNST活動の情報交換を行っている(年

    2回)。恩地先生は「今のところ参加している医療

    機関の多くは外科系の急性期病院。今後は慢性期病

    院の参加も増やしていきたい」と話した。

    児島先生は「当院の内科から外科に手術目的で転

    科してきた患者は,栄養管理がなされているため栄

    養状態は比較的良好だ。しかし,家庭・地域社会か

    ら入院する場合,栄養状態が非常に悪い患者も少な

    くない。術前の入院期間は短く,NSTが介入するこ

    とは不可能で,低栄養状態のまま手術をするケース

    もある。結局,術後にNSTの介入が必要となり,後

    手後手になっている。この点からも,家庭・地域社

    会におけるNST活動は早急に確立していく必要があ

    る」と訴えた。恩地先生がお話しされたように,点

    が線へ,そして面になることを期待したい。

    写真7 同大学病院で扱っている経腸栄養剤を写真つきで閲覧できるシステム医師はこれによって経腸栄養剤の使い分けがうまくなった。

    6

  • 3.5g/d�以上�2.8~3.4g/d��2.1~2.7g/d��2.1g/d�未満�

    22.9

    33.5

    46.1 49.160�

    50�

    40�

    30�

    20�

    10�

    0

    入院日数(日数)�

    血清アルブミン値分類�

    Nutrition Support Journal 20

    はじめに毎年約1兆円の医療費が増加傾向にあり,高騰する医

    療費の抑制は緊急課題となっている。1874年(明治7年)

    にわが国初の国立病院として開設した「国立佐倉病院」

    が2003年3月1日に聖隷佐倉市民病院へ移譲されたこと

    に伴い,栄養療法の実証研究を行うことができた。2004

    年7月末までの15ヵ月間で,栄養科のハードとソフトを

    全面的に入れ替えた。食事栄養療法は医療経済的に高効

    率の費用対効果があることが示唆されている。そのなか

    から,血清アルブミン値分類による栄養マネージメント

    との関連,加齢の総医療費への影響について報告する。

    方法聖隷佐倉市民病院の入院患者から無作為に1017名を抽

    出して,血清アルブミン値(Serum Albumin Concentra-

    tion;Alb)の分類から退院時の入院日数,総医療費を検

    討した。低栄養改善に対応した食事を生体成分分析機

    InBoby(株式会社バイオスペース)により身長,体重な

    どの22項目を測定し,個々人別の基礎代謝量,生活活動

    強度に基づいて必要エネルギー量,たん白質量(g),酸

    化ストレス消去を目的にビタミンA,B1,B2,B6,B12,

    C,D3,E,ミネラルなどの成分栄養管理とした。調

    理方法は酸素を99.6%以上カットしたantioxidant cook-

    ing(真空調理)を使った。真空調理では調理による損失

    量が低く,ビタミンC量を約4%分解するだけで,計算

    値との誤差が少なく,調理中の過酸化物価は通常の調理

    法と比べて45分の1ときわめて少ない1)。これにビタミ

    ンC500mg,亜鉛30µg,セレン50µgなど,ビタミンや

    ミネラルが豊富な微量栄養補助飲料を食事として提供し

    た。総医療費には差額ベッド料,病室テレビ料,食費な

    どの自己負担分は除いた。血清アルブミン値分類による

    入院日数と総医療費は,One-Way ANOVAで検定した。

    統計処理にはSPSS ver. 10.08 E for Macを使用し,p<

    0.05未満を有意とした。

    結果全体の平均入院日数は,血清アルブミン濃度が良好

    (3.5g/d�以上,22.9日)から軽度(3.4~2.8g/d�,33.5日),中等度(2.7~2.1g/d�,46.1日),高度(2.1g/d�未満,49.1日)になるにつれて入院日数平均値の増加がみられた(p

    <0.01,図1)。

    総医療費は血清アルブミン濃度が良好(3.5g/d�以上,73.6±90.8万円,n=589)から軽度(3.4~2.8g/d�,99.5±97.9万円,n=274),中等度(2.7~2.1g/d�,113.2±94.2万円,n=111),高度(2.1g/d�未満,124.3±151.6万円,n=20)になるにつれて総医療費は増加した(p<0.01,図2)。

    総医療費は血清アルブミン濃度(3.5g/d�未満,n=405)の低下とともに増加した(p<0.05,図3)。

    CCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUURRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRREEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEENNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTT TTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIICCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS栄養と医療経済無作為抽出による,血清アルブミン値分類からみた

    栄養マネージメントの入院日数,総医療費の検討浜松大学健康プロデュース学部健康栄養学科臨床栄養学研究室 准教授 金谷 節子

    図1 血清アルブミン濃度による低栄養者と入院日数Y軸は入院日数,X軸は血清アルブミン値分類2)

    (p<0.01,n=982,One-Way ANOVA)。Alb 3.5g/d�以上の入院日数はAlb 3.5g/d�未満の各分類より少ない。

    7

  • 3.5g/d�以上�2.8~3.4g/d��2.1~2.7g/d��2.1g/d�未満�

    73.6

    99.5113.2

    124.3140�120�100�80�60�40�20�0

    総医療費(万円)�

    血清アルブミン値分類�

    4.0�

    3.5�

    3.0�

    2.5�

    2.0�

    1.5�

    1.00 100 200 300 400 500 600 700

    総医療費(万円)�

    血清アルブミン値3.5g/d�未満�

    考察国立佐倉病院の聖隷佐倉市民病院への移譲に伴い,調

    理法をantioxidant cookingに変更し,入院時に栄養外来

    受付で患者の栄養情報を食事・栄養にフィードバックす

    ることによって病棟レストランを改造確保し,ベッドサ

    イドの栄養マネージメントによる血清アルブミン値の改

    善によって入院日数が短縮して,平均総医療費が低減す

    ることが示唆された。

    ① 血清アルブミン値は入院日数,医療費費用,1人

    あたりの費用に強力に重相関するパラメータである3)。

    図1,2より,血清アルブミン値を2.7~2.1g/d�(中等度栄養不良)から2.8~3.4g/d�(軽度栄養不良)に改善すると平均入院日数は12.6日低減し,その平均総医療費で

    は5.1%削減できる。

    ② 開始時の入院血清アルブミン値3.5g/dL未満の低

    栄養患者は56.6%であったが,管理栄養士が栄養介入を

    行い,個々の患者に対応した食事栄養療法を行うことに

    よって,13ヵ月後には入院時低栄養者比率が40%(16.6

    %低減)となった。これは29.3%の低栄養改善にあたり,

    総医療費では約10%(約1兆円)の低減に相当し,毎年膨

    張する医療費をストップできるかもしれない。

    文 献

    1)佐藤理園子,金谷節子,池谷昌枝,他:低栄養患者と非低栄養患者の入院日数の比較─栄養と医療経済.第27回日本臨床栄養学会講演集,422,2005

    2)川西秀徳 監(聖隷三方原病院・コア栄養管理チーム):SEIREI栄養ケア・マネジメントマニュアル.東京,医歯薬出版,2003

    3)Reilly JJ Jr,Hull SF,Albert N,et al:Ecomonic impact ofmalnutrition:a model system for hospitalized patients.JPENJ Parenter Enteral Nutr 12:371-376,1988

    図2 血清アルブミン濃度による低栄養者と総医療費(万円)Y軸は総医療費,X軸は血清アルブミン値分類(p<0.01,n=994,One-Way ANOVA)。Alb 3.5g/d�未満の総医療費はAlb 3.5g/d�以上より高額である。

    図3 総医療費と血清アルブミン濃度3.5g/d�未満の回帰直線Y軸は血清アルブミン値3.5g/d�未満,X軸は総医療費(p<0.05,n=405)。

    8

  • はじめに亜鉛は,日本人の食事摂取基準において推奨量が策定

    されるなど,栄養素としての重要性が認識されるように

    なった微量ミネラルであり,経管栄養患者に対して使用

    する流動食中にも添加されるなどの配慮が行われるよう

    になった。流動食に利用されている亜鉛の種類に注目す

    ると,処方が必要な経腸栄養剤中の亜鉛は無機化合物で

    あるが,処方が不要である濃厚流動食では食品衛生法に

    より無機亜鉛が利用できないため,酵母由来の亜鉛など

    が添加されている。このように,あまり意識されてはい

    ないが亜鉛の種類には相違がある。亜鉛を含有したサプ

    リメント類が各種製品化され,欠乏状態時の補充や味覚

    障害や褥瘡の治療にも応用されているが,やはり利用さ

    れている亜鉛の種類は同じではない。

    亜鉛の吸収亜鉛は十二指腸から回腸で吸収され,空腸が最大の吸

    収能を有している。胃では吸収されないが胃酸の分泌は

    吸収に影響を及ぼすため,胃疾患の有無に注意が必要で

    ある。

    吸収はイオンでの単純拡散のほか,金属結合たん白質

    や膵液および腸管粘膜に存在するピコリン酸との結合,

    その他のアミノ酸,ペプチドや糖類など有機物との結合

    による能動的な機構が存在しており1),単純拡散に比し

    吸収性が高いとされている。

    吸収率は15~30%程度とする報告もあるなど高くな

    い2)。亜鉛は排泄経路が限定されており過剰時に排泄を

    飛躍的に増加させることが難しく,体内動態の安定のた

    めに吸収のハードルが高くなっているものと考えられ,

    亜鉛欠乏状態での経消化管的補充には時間が必要とな

    る。

    亜鉛の種類(表1)1.無機亜鉛

    無機化合物としての亜鉛は溶解性が高く,経腸栄養剤

    に利用されている。消化管内でイオン化されての能動的

    吸収のほか,消化管内で金属結合たん白質,ピコリン酸

    やペプチドなどと結合し,吸収されている。

    2.酵母亜鉛

    亜鉛など特定のミネラルを豊富に含む培地で培養して

    取り込ませた酵母は食品としての利用ができるため,濃

    厚流動食のほか亜鉛サプリメントにも添加されている。

    独特の酵母臭があるほか,取り込まれた亜鉛は酵母のま

    まではほとんど吸収されないので,熱処理を施し細胞壁

    を分解した後に利用する必要があり,メーカーの処理技

    術による差異が生じる可能性もある。溶解しイオン化さ

    れた亜鉛だけでなく,分解された細胞壁由来のグルカン

    やマンナンなどの糖類と結合して吸収される。

    3.有機亜鉛

    グルコン酸亜鉛が化合物としてよく知られている。分

    子量が約509Daと小さく溶解性も高いため,他の有機化

    合物以上に高い吸収性が期待される。従来は粉ミルクに

    のみ添加されていたが,保健機能食品としてのグルコン

    酸亜鉛および銅の利用が可能となった。臭いがなく,酵

    母に比べて調整しやすいため流動食にも応用され始めて

    おり,今後グルコン酸亜鉛と利用した亜鉛強化製品が増

    えるものと思われる。

    アミノ酸との化合物では動物飼料としてメチオニンが

    利用されていたが,ペプチドであるL-カルノシンと亜鉛

    亜鉛の種類 使用製品 特徴

    無機化合物経腸栄養剤母乳代替食品

    薬品として使用溶解性高い

    酵母濃厚流動食亜鉛サプリメント

    食品として利用可能臭いあり

    グルコン酸化合物

    母乳代替食品保健機能食品・亜鉛サプリメント・濃厚流動食

    溶解性高い臭いなく調整しやすい

    アミノ酸化合物 胃潰瘍治療薬 欠乏症への有効例報告あり

    食品由来 牡蠣肉エキスなど 吸収性が高い

    CCCCCCCCCCCCCCCCUUUUUUUUUUUUUUUURRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRREEEEEEEEEEEEEEEENNNNNNNNNNNNNNNNTTTTTTTTTTTTTTTT TTTTTTTTTTTTTTTTOOOOOOOOOOOOOOOOPPPPPPPPPPPPPPPPIIIIIIIIIIIIIIIICCCCCCCCCCCCCCCCSSSSSSSSSSSSSSSS

    亜鉛の種類による吸収の差について

    京浜会京浜病院 副院長 志越 顕

    表1 亜鉛含有製品と亜鉛の種類

    9

  • 200�

    150�

    100�

    50�

    0

    血清銅値�(μg/dL)�

    0 1 2 3(月)�

    Mean±SD

    銅�

    血清亜鉛値�(μg/dL)�

    亜鉛�

    p<0.05

    100�

    80�

    60�

    40�

    20�

    00 1 2 3(月)�

    Mean±SD

    p<0.05

    酵母由来亜鉛のみ(n=10)�

    酵母と無機亜鉛併用(n=7)�

    との化合物で胃潰瘍治療薬であるポラプレジンクが応用

    されるようになっており,適応外であるが亜鉛補充が必

    要な病態時などにも処方され,有効例の報告も多い。し

    かし,常用量投薬時の亜鉛含有量は1日あたり約34mg

    で,2005年度より使用されている新食事摂取基準での亜

    鉛の許容上限量の30mgを超えている。

    4.食品由来亜鉛

    食品中の亜鉛は有機物との結合のほか,多種の酵素構

    造への関与もあり,きわめて多岐な形態で存在している

    と考えられ,吸収にも有利な状態といえる。特に亜鉛を

    多く含む食品として牡蠣が知られ,肉エキスを用いた加

    工食品も製品化されている。安価でなく,牡蠣の臭いも

    気になるため一部の利用にとどまっているが,亜鉛欠乏

    状態の際に使用したい製品の1つである。また,吸収効

    率の点からも,経口摂取可能な場合はサプリメント類に

    依存せず,食事にも配慮するよう指示したい。

    吸収に影響を及ぼす因子(表2)吸収を阻害する物質としてはフィチン酸や食物繊維の

    ほか,カルシウムや鉄など栄養素として推奨量が決めら

    れているミネラルも知られており,ともにサプリメント

    での利用機会が多いため注意が必要である。特に3価鉄

    はピコリン酸との結合が亜鉛より強いため,鉄の補充を

    併用する際はヘム鉄の利用が推奨される。

    経管栄養下での亜鉛の吸収は拮抗作用のある銅との含

    有比率にも影響される。2000年度に策定された旧食事摂

    取基準では,新基準に比べて銅に対する亜鉛の所要量(新

    基準での推奨量とほぼ同義)比が低く,準じた流動食で

    は亜鉛が吸収されにくいことが経験されていた。新基準

    では銅の推奨量が減じられて相対的に亜鉛の含有量比が

    高く変更され,準じた流動食も製品化されている。旧基

    準対応の流動食も広く流通しており,使用している流動

    食の亜鉛と銅の含有量比にも注意しておきたい。

    降圧薬や利尿薬などの薬剤もキレート形成により亜鉛

    の吸収を阻害するが,変更や中止が難しいため,亜鉛サ

    プリメントと併用する際には服薬との時間をずらして対

    応している。また,胃酸分泌抑制薬の使用も鉄の2価へ

    の還元が減じ,ピコリン酸の3価鉄との結合量が増加し

    て結果的に亜鉛の吸収量が減じてしまう。このように,

    亜鉛吸収の阻害が医原的に生じている場合も少なくない

    ものと思われる。

    亜鉛吸収を促進する物質としてはビタミンC,クエン

    酸が知られているほか,ホタテ貝外套膜やフルクトース

    由来の二糖類であるツイントースの有効性も報告され,

    サプリメントとの併用も行われている。

    種類による吸収の違いラットにおける亜鉛欠乏食投与時と比較した硫酸亜

    鉛,酵母由来亜鉛,牡蠣抽出亜鉛の4週間にわたる各負

    荷食での検討では,組織濃度においては,脳における酵

    素活性では血清アルカリホスファターゼでの有意差が観

    察されているが,肝内アルコールデヒドロゲナーゼ活性

    の比較では酵母由来群に比して牡蠣抽出群で活性が有意

    に高くなるなど,種類による差も一部認められている3)。

    亜鉛量を増すことによって吸収の増加を期待できるが,

    ・食物繊維・ミネラル(カルシウム,鉄,銅など)・薬剤(降圧薬,利尿薬など)・フィチン酸・リン酸化合物(食品添加物類)

    表2 亜鉛の吸収を阻害する物質

    図1 経管栄養例での血清銅および亜鉛値の変化

    10

  • 200�

    150�

    100�

    50�

    0

    血清銅値�(μg/dL)�

    0 1 2 3(月)�

    n=7�Mean±SD

    銅�

    120�

    100�

    80�

    60�

    40�

    20�

    0

    血清亜鉛値�(μg/dL)�

    0 1 2 3(月)�

    n=7�Mean±SD

    亜鉛�

    p<0.01

    p<0.05

    酵母や無機由来といった単一種類の利用での吸収性は,

    牡蠣由来のように多岐にわたった存在形態の亜鉛を有す

    るものより低いことが考えられる。しかし,体重増加作

    用に関しては,他群に比し硫酸亜鉛群でより促されてお

    り,必ずしも吸収性と体内利用が結びついていない可能

    性もある。また,硫酸亜鉛をはじめとする無機亜鉛は医

    薬品経腸栄養剤に添加されており,利用しやすい。この

    ため,各種疾患への対応や長期使用の際は,無機亜鉛が

    第一選択として適切である。

    亜鉛含有製品の併用吸収経路の違いに注目し,複数種の亜鉛を併用するこ

    とによって吸収率を改善できないか検討したところ,特

    に経管栄養患者においては同一の流動食が継続して使用

    されがちで,亜鉛も一種のみでの補充となっており,併

    用による好影響も期待できると考えられた。

    亜鉛と吸収が拮抗する銅との含有量比率は症例ごとに

    若干異なるが,酵母由来の濃厚流動食のみの使用と,無

    機亜鉛を利用した経腸栄養剤と濃厚流動食併用での血清

    値を観察したところ,併用群での増加傾向を認めた(図

    1)。褥瘡治癒が短期間で得られた併用症例も経験して

    おり,創傷部位への効率的な集積も推測され4),異なる

    種類の亜鉛併用によって吸収を増すことが可能なものと

    思われる。

    同様に,酵母由来の濃厚流動食にポラプレジンクを併

    用しても有意な血清亜鉛値の増加が得られるが(図2),

    経過を観察したところ,血清銅値が低下し銅欠乏に起因

    したと思われる貧血を認め,併用中止を余儀なくされた

    症例も経験している。亜鉛補充としてのポラプレジンク

    の利用は半分量であっても適応の問題が生じ,かつ経管

    栄養下において配慮が必要な銅との含有量比に及ぼす影

    響が大きいため,許容上限量を超えないように計算した

    うえで,流動食中の亜鉛と種類の異なる亜鉛サプリメン

    トを併用するようにしている。

    おわりに亜鉛サプリメントは欠乏状態への対応を容易にしてい

    るが,経口摂取例では依存しすぎず亜鉛を豊富に含有し

    た食品の摂取を心がけ,かつ併用薬剤への配慮を忘れな

    いことが必要である。一方,経管栄養例では亜鉛の種類

    が単一となりがちであり,摂取量や銅との含有量比のほ

    かにも種々の形態が存在することを把握し,補充時には

    種類の異なった製品を選択することも必要であろう。

    文 献

    1)高木洋治,岡田 正,根津理一郎:亜鉛の生体内代謝.消臨2:20-28,1999

    2)赤木一夫:ミネラルの吸収を助けるサプリメント.臨病理レビュー 135:54-62,2006

    3)Matsuda Y,Abe M,Komura N,et al:Influence of zinc fromoyster extract on enzyme activity and tissue zinc concentra-tions.Biomed Res Trace Elements 14:307-315,2003

    4)志越 顕:経腸栄養剤エンシュア�・Hを併用し短期で治癒を得た褥瘡症例.Nutrition Support Journal 15:24-25,2005

    図2 ポラプレジンク併用による血清銅および亜鉛値の変化

    11

  • はじめに魚油にはエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキ

    サエン酸(DHA)といった長鎖n-3系多価不飽和脂肪酸

    (Ln-3PUFA)が多く含まれており,これらの脂肪酸の大

    腸癌予防効果について in vitro や動物での研究結果が複

    数報告されている。しかし,疫学研究からの結果は一致

    をみない。

    本稿では,Ln-3 PUFAの大腸癌抑制作用について考

    えてみるとともに,日本でのLn-3 PUFAと大腸癌に関

    するコホート研究の結果を紹介し,また,海外でのコホ

    ート研究の結果をまとめてみたい。

    n-3脂肪酸による大腸癌発癌抑制の作用機序大腸腫瘍ではシクロオキシゲナーゼ2(COX-2)の発現

    が上昇しており,プロスタグランジンE2(PGE2)の生成

    が高まっている。Ln-3 PUFAはCOX阻害作用をもち,

    PGE2の産生を抑える。また,Ln-3 PUFAによりPGE2前

    駆体であるアラキドン酸のレベルが減少することも,

    PGE2の産生抑制に寄与する。COX-2の発現上昇やPGE2

    の産生増加は,大腸発癌においてアポトーシスの抑制や

    細胞増殖の亢進に関与しており,これらを阻害すること

    が発癌に対して抑制的に働くと考えられている。

    大腸発癌のイニシエーション期では,Ln-3 PUFAは

    発癌物質の代謝活性化阻害や活性化された発癌物質の不

    活化に関与している。したがって,Ln-3 PUFA摂取に

    より活性化型発癌物質の生成が抑制され,その結果,

    PhIPなどのDNA付加体レベルが減少し,大腸腫瘍の発

    生個数の減少に寄与すると示唆されている。

    一酸化窒素(NO)の過剰な生成は,DNA損傷を引き起

    こしたり,血管新生を誘導するなどして,発癌を促進す

    ると考えられる。Ln-3 PUFAはマクロファージ細胞に

    おけるNO合成酵素の誘導を抑制することから,大腸発

    癌過程においても,NO合成酵素誘導を抑制することに

    よってNO産生を阻害し,発癌に対して抑制的に働く可

    能性がある。

    また,Ln-3 PUFA投与によりコレステロールのレベ

    ルも低下するので,ステロイドホルモンや胆汁酸の産生

    も抑制する。その他,Ln-3 PUFAは細胞膜の流動性を

    変えたり,サイトカインに誘導される細胞膜表面抗原や

    接着分子の発現を抑えることも報告されている。これら

    の作用もLn-3 PUFAの発癌抑制機構に関与している可

    能性がある1)。

    日本におけるコホート研究日本における魚,Ln-3 PUFA摂取と大腸癌に関する

    前向きコホート研究はほとんど報告されていない。私た

    ちは,厚生労働省癌研究助成金による指定研究班「多目

    的コホートに基づくがん予防などの健康の維持・増進に

    役立つエビデンスの構築に関する研究」のデータを用い

    て,Ln-3 PUFA摂取と大腸癌罹患との関係について検

    討した(表1)2)。

    1990年と1993年に,岩手県二戸,秋田県横手,長野

    県佐久,沖縄県中部(以上,コホート�),茨城県水戸,新潟県柏崎,高知県中央東,長崎県上五島,沖縄県宮古

    (以上,コホート�)という9地域に在住で,40~69歳の男性42525名と女性46133名を対象とした,食事や喫煙

    などの生活習慣に関するアンケート調査を実施した。そ

    の後コホート�は10年間,コホート�は7年間追跡し,1999年12月31日までの追跡期間中に705人の大腸癌(結

    腸癌;456人,直腸癌;249人)の罹患者を同定した。

    アンケート調査より得られた魚の摂取頻度から,IPA

    やDHAなどのLn-3 PUFA摂取量が計算された。Ln-3

    PUFA摂取量を四分位に分類し,最小四分位群を基準と

    する他の群の相対危険度をCox比例ハザードモデルにて

    算出した。大腸癌罹患,Ln-3 PUFA摂取量と関連のあ

    る要因として,年齢,地域,大腸癌家族歴,BMI,運動,

    飲酒,喫煙状況,ビタミン補助剤の使用,総エネルギー

    摂取量,穀物,野菜,肉摂取量で調整した解析を行った。

    その結果,EPAの摂取量の最小四分位群に対する最

    大四分位群の相対危険度(95%信頼区間)は男性では,結

    腸癌が1.06(0.71~1.58),直腸癌が1.37(0.81~2.32)であ

    った。女性では,結腸癌が1.04(0.60~1.80),直腸癌が0.57

    CCCCCCCCCCCCCCCCUUUUUUUUUUUUUUUURRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRREEEEEEEEEEEEEEEENNNNNNNNNNNNNNNNTTTTTTTTTTTTTTTT TTTTTTTTTTTTTTTTOOOOOOOOOOOOOOOOPPPPPPPPPPPPPPPPIIIIIIIIIIIIIIIICCCCCCCCCCCCCCCCSSSSSSSSSSSSSSSS

    n-3脂肪酸と大腸癌の関連について

    大妻女子大学家政学部食物学科公衆栄養研究室 准教授,国立がんセンターがん予防・検診センター予防研究部 部長* 小林 実夏,津金昌一郎*

    12

  • (0.29~1.15)であった。男女ともEPAの摂取量と大腸癌

    罹患との関連がみられなかった。DHAの摂取量でも同

    様の解析を行ったが,男性では,結腸癌が0.98(0.66~

    1.46),直腸癌が1.17(0.70~1.96)であった。女性では,結

    腸癌が1.08(0.63~1.87),直腸癌が0.66(0.33~1.33)であ

    った。男女ともDHAの摂取量と大腸癌罹患についても

    関連がみられなかった。

    n-6系多価不飽和脂肪酸(Ln-6 PUFA)の過剰摂取は発

    癌リスクを上昇させるという報告もあり,また,Ln-6

    PUFAとLn-3 PUFAは互いに拮抗作用があり,相互交

    換ができない。そこで,Ln-3 PUFAとLn-6 PUFAの脂

    肪酸の比(n-3/n-6)と大腸癌との関連を調べた。しかし,

    n-3/n-6が高いグループでも結腸癌・直腸癌のリスクは

    高くも低くもならなかった。

    Ln-3 PUFA摂取量が多く,摂取量の変動が大きい日

    本人を対象とした前向きコホート研究の結果,Ln-3

    PUFA摂取と大腸癌リスク低下との関連は認められなか

    った。しかし,わが国の魚の摂取量は欧米のみならず他

    のアジアの国と比べても非常に高いという特徴があるた

    め,最も摂取量の低いグループでも他の国より摂取して

    いる可能性がある。したがって,Ln-3 PUFAをほとんど

    摂取しない場合の大腸癌リスクについては不明である。

    n-3PUFAと大腸癌に関するエビデンス表2に,現在までに報告されているn-3 PUFA摂取と

    大腸癌罹患に関するコホート研究の結果を示すが,n-3

    PUFA摂取が大腸癌に予防的であることを示す研究は1

    つもない。6つのコホート研究のうち,フィンランドと

    日本の研究はn-3 PUFA摂取量が高いコホート集団での

    結果であり,この2つのコホートでは,最も摂取量の少

    ないグループのn-3 PUFA摂取量は,他の4つの研究で

    最も摂取量の多いグループの摂取量より多いという特徴

    がある。

    しかし,最近日本から報告された血清n-3 PUFA値と大

    腸癌罹患に関するコホート内症例対照研究によると,男

    性では,血清n-3 PUFA値の最も低いグループ(<7.74%

    総血清脂質)に比べた最も高いグループ(≧12.04%総血

    清脂質)の相対危険度(95%信頼区間)は,0.24(0.08~

    0.76)であった。女性では有意な関連は観察されなかっ

    た3)。

    結腸癌 直腸癌

    1(低)

    2 3 4(高)

    トレンドP値

    1(低)

    2 3 4(高)

    トレンドP値

    男性

    EPAb

    人年罹患者数RRa(95%信頼区間)

    81751611.00

    8174470

    1.09(0.75~1.60)

    8171479

    1.19(0.81~1.74)

    8336390

    1.06(0.71~1.58)0.74411.00

    361.01(0.61~1.68)

    260.76(0.43~1.33)

    511.37(0.81~2.32) 0.28

    DHAc

    人年罹患者数RRa(95%信頼区間)

    81956651.00

    8163967

    0.97(0.66~1.41)

    8202577

    1.09(0.75~1.58)

    8295291

    0.98(0.66~1.46)0.93431.00

    350.91(0.55~1.50)

    280.74(0.43~1.27)

    481.17(0.70~1.96) 0.61

    Ln‐3/n‐6PUFAd

    人年罹患者数RRa(95%信頼区間)

    82037611.00

    8184068

    1.05(0.73~1.51)

    8196278

    1.15(0.80~1.64)

    8273393

    1.08(0.74~1.56)0.65401.00

    310.88(0.53~1.47)

    340.99(0.60~1.64)

    491.26(0.77~2.05) 0.29

    女性

    EPAb

    人年罹患者数RRa(95%信頼区間)

    91349371.00

    9056537

    1.09(0.66~1.80)

    9144136

    1.02(0.60~1.71)

    9214746

    1.04(0.60~1.80)0.87301.00

    180.63(0.33~1.18)

    280.90(0.49~1.63)

    190.57(0.29~1.15) 0.27

    DHAc

    人年罹患者数RRa(95%信頼区間)

    91175371.00

    9091433

    0.98(0.59~1.63)

    9117541

    1.21(0.73~2.00)

    9223845

    1.08(0.63~1.87)0.59291.00

    190.67(0.36~1.27)

    270.98(0.54~1.78)

    200.66(0.33~1.33) 0.47

    Ln‐3/n‐6PUFAd

    人年罹患者数RRa(95%信頼区間)

    91224351.00

    9019839

    1.02(0.62~1.68)

    9119941

    1.16(0.72~1.87)

    9216241

    0.92(0.55~1.54)0.84281.00

    230.90(0.51~1.60)

    250.95(0.57~1.69)

    190.61(0.31~1.19) 0.20

    表1 長鎖n-3系多価不飽和脂肪酸摂取量と大腸癌罹患の関係:JPHC Study

    a:年齢,地域,大腸癌家族歴,BMI,運動,エタノール摂取量,喫煙状況,ビタミン補助剤の使用,総エネルギー摂取量,穀物,野菜,肉摂取量で調整して算出した相対危険度,b:EPA(エイコサペンタエン酸),c:DHA(ドコサヘキサエン酸),d:Ln-3/n-6 PUFA(長鎖n-3系多価不飽和脂肪酸摂取量と長鎖n-6系多価不飽和脂肪酸摂取量の比)。

    13

  • おわりにこれまでの前向き研究から得られたエビデンスをまと

    めると,n-3 PUFAが大腸癌に予防的に働くという報告

    は少ない。しかし,n-3 PUFA摂取量の非常に少ない対

    象者から多い対象者といったバリエーションのあるコホ

    ート研究の報告はない。また,血清n-3 PUFA値と大腸

    癌との関連も男性では観察され,女性では観察されない

    という矛盾がある。n-3 PUFAと大腸癌との関連を明ら

    かにするためには,さらなるエビデンスの蓄積が必要で

    ある。

    文 献

    1)Rose DP, Connolly JM:Omega-3 fatty acids as cancer che-mopreventive agents.Pharmacol Ther 83:217-244,1999

    2)Kobayashi M,Tsubono Y,Otani T, et al:Fish,long-chainn-3 polyunsaturated fatty acids,and risk of colorectal cancerin middle-aged Japanese:the JPHC study.Nutr Cancer 49:32-40,2004

    3)Kojima M,Wakai K,Tokudome S,et al:Serum levels of poly-unsaturated fatty acids and risk of colorectal cancer:a pro-spective study.Am J Epidemiol 161:462-471,2005

    論文著者・発行年 国追跡期間(年)

    症例/コホート人数

    性年齢

    食事評価法(食品数)

    比較摂取量(g)

    相対危険度(95%信頼区間)

    Bostick, et al :Cancer Causes Control5 :38‐52,1994

    米国 4 212/35215女

    55~69FFQa

    (127食品)下位20% vs上位20%<0.03 >0.18

    n‐3脂肪酸と結腸癌,0.70(0.45~1.09)

    Pietinen, et al :Cancer Causes Control10 :387‐396,1999

    フィンランド 8 185/27111男

    50~69FFQ

    (276食品)下位25% vs上位25%0.2 0.7

    長鎖n‐3脂肪酸と大腸癌,1.2(0.8~1.9)

    Terry, et al :Cancer Epidemiol Biomarkers Prev10 :913‐914,2001 スウェーデン 9~12 460/61463

    女40~74

    FFQ(67食品)

    下位25% vs上位25%0.03 0.09

    EPAと結腸癌,0.85(0.60~1.21)EPAと直腸癌,1.25(0.75~2.06)

    下位25% vs上位25%0.08 0.18

    DHAと結腸癌,0.88(0.61~1.26)DHAと直腸癌,1.03(0.62~1.71)

    Lin, et al :Am J Epidemiol160 :1011‐1022,2004

    米国 8.7 202/37547女>45

    FFQ(131食品)

    下位20% vs上位20%0.03 0.21<0.01 0.070.02 0.14

    n‐3脂肪酸と大腸癌,1.11(0.73~1.69)

    EPAと大腸癌,0.79(0.51~1.24)DHAと大腸癌,1.09(0.71~1.66)

    Kobayashi, et al :Nutr Cancer49 :32‐40,2004

    日本 7~10 705/88658男女40~69

    FFQ(44食品)

    下位25% vs上位25%0.09 0.46

    EPAと結腸癌,1.06(0.71~1.58)EPAと直腸癌,1.37(0.81~2.32)

    0.18 0.71 DHAと結腸癌,0.98(0.66~1.46)DHAと直腸癌,1.17(0.70~1.96)

    0.05 0.19 n‐3/n‐6比と結腸癌,1.02(0.83~1.25)n‐3/n‐6比と直腸癌,1.26(0.77~2.05)

    Oh, et al :Cancer Epidemiol Biomarkers Prev14 :835‐841,2005

    米国 18 1719/34451女

    30~55FFQ

    (61食品)

    下位20% vs上位20%0.03 0.180.006 0.04

    n‐3脂肪酸と大腸腺腫,1.04(0.84~1.27)

    n‐3/n‐6比と大腸腺腫,1.02(0.83~1.25)

    表2 n-3系多価不飽和脂肪酸摂取量と大腸癌罹患に関するコホート研究

    a:FFQ(食物摂取頻度調査法)

    14

  • Nutrition Support Journal 20

    はじめに近年,癌,感染,糖尿病,漢方,そして精神科などさ

    まざまな領域における専門薬剤師の必要性が問われてい

    る。1人の薬剤師がこれらの知識をすべて身につけるこ

    とはほとんど不可能であるが,1人でも多くの薬剤師が

    集まれば薬学的情報量はそのぶん増えていく。栄養に関

    しても同様に専門性が求められているが,栄養管理を行

    ううえで,患者の病態をよく理解する必要があると思わ

    れる。われわれはこのような視点に立ち,NST(Nutrition

    Support Team)として活動している。

    また,他職種とのNSTラウンドのなかで,薬剤師に

    求められる業務の1つとして輸液処方の見直しがある。

    当院では,オーダリング端末に付属した表計算ソフト(エ

    クセル)を利用し,現処方の問題点と薬剤師が設計した

    輸液処方の提案・報告を行っている。

    本稿では,当院薬剤部におけるNSTへのかかわり方

    と,輸液処方設計報告書の内容を紹介する。

    NST構成医師4名(外科,呼吸器科,皮膚科,耳鼻科),薬剤師

    4名,看護師3名,管理栄養士4名,臨床検査技師1名,

    言語聴覚士1名,作業療法士1名,医事課1名の計19名

    で構成される。このほか各病棟に,看護部NST委員が

    2~3名ずつ存在する。当院のNSTは委員会として活

    動しており,事務局を薬剤部に置いているため,NST

    対象患者および新規依頼患者は薬剤部ですべて把握して

    いる。

    NST参加への経緯とラウンド方法当院は250床,薬剤師8名,5つの病棟をもつ中小総合

    病院である。薬剤管理指導を1997年より開始してきたが,

    少人数のため病棟薬剤師を配置できず,各領域の専門性

    を高めた診療科担当制の薬剤管理指導を行ってきた。そ

    のような状況下で,2005年9月よりNSTが稼動を開始

    した。当初,薬剤師の参加は1名で,毎週1回のラウン

    ドや症例検討など,1人でこなす業務としては多忙であ

    った。それと同時に,今まで診療科別の薬剤管理指導を

    行ってきたため,担当分野以外の病識が不十分であるこ

    とを再認識し,さらに薬剤師として,患者の栄養管理や

    幅広い薬剤管理に対し,適切な判断をすることが困難で

    あることを自覚した。その後,薬剤部内の協力が得られ,

    現在では薬剤師個々の得意分野を活かしながら,4名の

    薬剤師がラウンドに参加するまでに至った。この規模の

    病院では,全職員がNSTメンバーとなる持ち寄りパー

    ティー方式(Potluck Party Method;PPM)‐�が推奨されている1)が,当院でのNSTが委員会活動であることや,

    院内での認知度が低いことなどから,このような形態で

    の運用がまだ困難である。そのため一部のメンバーが

    NSTのメンバーとなり,一般業務と兼任しながら活動

    している。このことは薬剤師においても同様である。

    ラウンドは4グループに分かれ,各グループに薬剤師

    が1名ずつ参加している。各グループが持ち回りで週1

    回のラウンドを行うため,実質1人の薬剤師がラウンド

    を行うのは4週に1回となる。ラウンド後はその薬剤師

    がNST回診記録を作成し,次週担当の薬剤師にラウン

    ド内容の申し送りを行って,患者の状況やNSTとして

    の今後の方針,問題点や注意点などを報告する。また,

    そのラウンドを行った薬剤師にとって不得意な診療領域

    や学術分野では,随時その担当薬剤師に相談したり,

    NSTミーティングとは別に薬剤部内ミーティングを開

    くことで,問題の解決ならびに薬剤師個々の知識向上に

    努めている(写真1)。

    輸液処方設計報告書ラウンド中に,他職種のメンバーから輸液内容の確認

    NNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS PPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPPHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHHAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAARRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMMAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAACCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCCIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIISSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTT薬剤師のNSTへのかかわり方

    独立行政法人労働者健康福祉機構旭労災病院薬剤部,同 部長*

    中尾 耕治,田邊聖委子,松本 哲哉,丹羽 寿,藤井 広久*

    写真1 薬剤部内ミーティング15

  • 8.22.5

    3.6

    5.014.9

    3.5

    6�

    5�

    4�

    3�

    2�

    1�

    0

    16�

    14�

    12�

    10�

    8�

    6�

    4�

    2�

    0

    29

    1.3

    139

    250

    27

    143

    250 5.2300�

    250�

    200�

    150�

    100�

    50�

    0

    6�

    5�

    4�

    3�

    2�

    1�

    0

    128.5

    3.9

    0.71

    193.1

    0.86

    4.75.0�4.5�4.0�3.5�3.0�2.5�2.0�1.5�1.0�0.5�0

    250�

    200�

    150�

    100�

    50�

    0現在の処方� 提案する処方� 現在の処方� 提案する処方� 現在の処方� 提案する処方�糖質(g/kg/日)� 糖速度(mg/kg/分)�糖濃度(%)�

    アミノ酸(g/kg/日)� 窒素(g/日)�NPC/N

    Na+(mEq)�P(mg)�

    K+(mEq)�Zn(mg)�

    糖濃度(%)� Zn(mg)�NPC/N

    135�

    35�

    40.095

    1.2�

    1.2

    Activity,F�

    Stress,F�

    1800�

    1239

    身長(cm)�

    現体重(kg)�

    理想体重(kg)�

    体重法にて必要な輸液量(mL/日)�

    計算にて必要な投与熱量(kcal/日)�

    サイン�

    2006/6/12

    必要な熱量� 糖質� たん白質� 脂質�必要な熱量�現在の熱量�提案する熱量�

    アミノ酸�(kcal)�12%�

    脂質�(kcal)�20%�

    糖質�(kcal)�68%�

    提案する�処方構成�

    アミノ酸�(kcal)�17%�

    脂質�(kcal)�0%�

    糖質�(kcal)�83%�

    現在の�処方構成�

    500

    10001239

    700

    120

    200

    1400�

    1200�

    1000�

    800�

    600�

    400�

    200�

    0

    三大栄養素�

    電解質など�

    総容量(mL)�総熱量(kcal)�総熱量(kcal/kg/日)�糖質(kcal)�糖質(g)�糖質(g/kg/日)�糖濃度(%)�糖速度(mg/kg/分)�アミノ酸(kcal)�アミノ酸(g)�アミノ酸(g/kg/日)�脂質(kcal)�脂質(g)�脂質(g/kg/日)�NPC(kcal)�N(g)�NPC/N�窒素平衡�BCAA含有率(%)�

    ユニカリック N〈1000mL〉�ビタジェクト 注�エレメンミック キット(2mL)�10%NaCl注〈34.2mEq/20mL〉�[20%]イントラリポス〈100mL〉�

    1�1�1�3�1

    Na+(mEq)�K+(mEq)�Cl-(mEq)�Lactate-(mEq)�Acetate-(mEq)�Mg2+(mEq)�Ca2+(mEq)�SO42-(mEq)�Gluconate-(mEq)�Citrate3-(mEq)�P(mg)�Zn(mg)�Fe(μmol)�Mn(μmol)�Cu(μmol)�I(μmol)�滴定酸度(mEq)�VitB1(mg)�

    139.2�29�

    143.7�49�10�6�7.5��6��

    250�1.3�����

    43.32

    142.6�27�

    161.6�35�10�6�6��6��

    250�5.2�35�1�5�1�

    48.1�3

    1172�1020�29.143�700�175�5�

    14.932�3.4722�120�30�

    0.8571�200�20�

    0.5714�900�4.66�

    193.13�4.8�31

    1520�600�

    17.143�500�125�

    3.5714�8.2237�2.4802�100�25�

    0.7143����

    500�3.89�

    128.53�4.0�

    31.04

    薬品�

    提案する処方内容�

    本数�ユニカリック L〈1000mL〉�10%NaCl注〈34.2mEq/20mL〉�ラクテック〈500mL〉�

    1�1�1

    薬品�

    現在の処方内容�

    本数�

    コメント�

    現在600kcalしか投与していません。�1000kcalは必要と考えます。�HGB低下に対しエレメンミック でFeを投与し,褥瘡に対してZnを増やしました。�ビタミン剤もしっかり入れたいので,ユニカリック とビタジェクト で組み立てました。�ラクテック を抜いたため,NaClは3本にして下さい。�提案した処方は,ブドウ糖が多いため,血糖値上昇に注意して下さい。�総熱量を上げたいため,脂肪乳剤を加えました。�イントラリポス は4時間で投与して下さい。�

    図1 輸液設計報告書

    16

  • 患者�

    内服・外用�担当�

    呼吸器科�担当�

    化学療法�担当�

    内分泌内科�担当�

    TDM�担当�

    消化器科�担当�

    注射�担当�

    小児科�担当�

    製剤�担当�

    循環器科�担当�

    や是正を求められる場面がよくある。輸液カロリーの計

    算だけであれば薬剤師以外のコメディカルでも可能であ

    るが,その患者(病態)に即した輸液内容の確認や,副作

    用・治療効果からみた輸液製剤の適正使用となると,各

    輸液製剤の特徴を理解しているわれわれ薬剤師でなけれ

    ば,その判断は容易ではない。また,われわれがせっか

    く輸液を見直し,提案しても,単にカルテに記載するだ

    けでは担当医が気づかないこともある。そこでわれわれ

    は,A4版1枚に輸液処方設計報告書(図1)を作成し,

    それをカルテの医師記録用紙にはさむことで,提案した

    輸液処方内容を主治医に確認してもらう手段をとってい

    る。この報告書は,医師が処方している現在の輸液内容

    と,われわれ薬剤師が作成・提案した輸液内容とを容易

    に比較できるように,その比較内容をグラフに示すこと

    で,視覚的に医師へ訴えるインパクトのあるものに仕上

    げている。グラフで示した内容としては,糖質・アミノ

    酸・脂質の現処方熱量と提案処方熱量の比較やそれらの

    処方構成比,さらに糖質については糖速度や糖濃度,ア

    ミノ酸については窒素量やNPC/N比,他にNa,K,P,

    Zn量などもグラフとして比較した。これら以外に,輸

    液量,BCAA含有率,他の電解質量やビタミン量などは

    数値で比較している。

    また,この報告書を作成するファイルはエクセルで作

    られており,特殊なデータベースソフトを使用していな

    いため誰もが簡単に使いこなせる。そして,エクセルが

    インストールされたパソコンであれば,病棟にあるオー

    ダリング端末でも利用できる。院内LANで接続された

    共有ファイルにプログラムファイルを保管しておくこと

    で,薬剤部内だけでなくどこの場所でも作成・提案する

    ことができ,ラウンドの最中でもその場で対応できるメ

    リットがある。

    おわりに日本における多くの施設は,NSTの運営方式として,

    メンバーのほとんどが一般業務を兼任するPPM方式1)を

    採用している。このPPMでは各病棟に配属された病棟

    薬剤師の存在意義が大きく,患者の情報収集能力や病態

    に関する知識の豊富さなど,NSTにおける貢献度は大

    きい。しかしながら,当院のように薬剤師数の少ない中

    小総合病院では,このような病棟薬剤師を配置すること

    は困難である。このため,病棟薬剤師の役割を補う目的

    で,当院では薬剤師8名中その半数もの4名がNSTに

    参加している。これにより,病棟へ他の患者の薬剤管理

    指導で出向いたときに,NST対象患者の情報収集が可

    能となること,また,1人の患者に対してさまざまな専

    門知識をもった薬剤師による評価が可能なこと(図2),

    さらには,今まで個々で勉強してきた専門知識を皆で共

    有することで,NSTへの参加のみならず,薬剤師一人

    ひとりのレベルアップが図れることも期待している。

    輸液については,処方を提案しても内容が変更されな

    い場合もある。これは,医師が報告書を読まないことが

    大きな要因と考えられるが,われわれ薬剤師の不適切な

    薬剤選択や処方提案による信頼性の低さの現れなのかも

    しれない。最近,数多くの成書も出版されており,独自

    に学ぶことも可能ではあるが,独学では何かと行き詰ま

    りやすいことはよく経験するところである。今後は,薬

    剤部内や院内における勉強会で,特に輸液栄養療法を今

    まで以上に充実させて,知識の向上に努めたい。

    文 献

    1)東口�志:栄養サポートチームの役割と組織.東口�志 編,NST完全ガイド栄養療法の基礎と実践.東京,照林社,44-46,2005

    図2 各専門知識をもった薬剤師による患者へのかかわりTDM;Therapeutic Drug Monitoring

    17

  • .........................................................................................................................................................................

    .......................................................................................................................................

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    ........

    ...............................................................................................................................................

    Nutrition Support Journal 20

    はじめに悪性腫瘍の末期になると,食事が摂れなくなり,痩せ

    が進行する。これは癌悪液質の日常臨床で非常によく経

    験する状態である。しかしながら癌病巣は他臓器遠隔転

    移,局所再発と多様である。また,小さな肺転移のみし

    かみられない患者が体重減少を契機に発見されることも

    あれば,巨大な肝転移巣を有しているのに悪液質がみら

    れない患者もいる。つまり,悪液質の出現と腫瘍量(tu-

    mor load)の増加は必ずしも一致しない。腫瘍側だけで

    なく,宿主側の要因がその形成にかかわると推測される。

    癌悪液質の本体は体重減少,あるいは痩せとそれに伴

    う栄養障害であり,米国の国立癌研究所のKernらは「宿

    主の消耗状態から体重減少を引き起こす混合代謝異常と

    栄養摂取,吸収,利用障害を示す臨床症候群」としてい

    る。その病態には宿主の免疫担当細胞と腫瘍のかかわり

    が重要で,マウスでは多くのサイトカインによる悪液質

    の形成が証明され,ヒトでもその深い関与が認められて

    いる。最近では単一の宿主細胞がこれにかかわるのでは

    なく,多種類の細胞が同時に多くのサイトカインと反応

    して形成された病態と考えられ,“cytokine storm”の

    状態と表現される1)。

    本稿では,これまでわれわれがかかわってきた免疫機

    構との関連を述べ,さらに悪液質の治療法としての栄養

    療法と免疫療法の選択について触れたい。

    癌悪液質の臨床像癌悪液質は食欲不振,体重減少,貧血,電解質異常,

    免疫異常などの多因子の複合によって成り立っている。

    それによってQOLの低下を招き,各種の癌治療の開始

    や継続を困難にし,効果を減弱する。さらに進行すると,

    全身の消耗状態へと移行して“癌死”に至る。

    まず,“痩せ”と体重減少である。しばしば早期に発

    見され,予後とも相関するきわめて重要な症状の1つで

    ある。さまざまな抗腫瘍治療や経過観察を行う際,体重

    を定期的に観察することは重要である。特に消化器癌患

    者では食物の摂取,消化吸収の障害を伴うことが多く,

    高頻度に出現するが,肺癌など消化器以外の癌でも同様

    に認められる。これは急速に増殖する癌細胞による宿主

    の栄養奪取,萎縮した消化管粘膜による吸収障害,癌細

    胞あるいは宿主から産生される各種メディエーターの働

    きによる代謝異常や食欲不振に起因するところが多く,

    体重減少は多様な病態の総合的な結果である。

    代謝障害としては,まず骨格筋や内臓の萎縮,低蛋白

    (低アルブミン)血症などとしてみられる体蛋白質の分

    解,異化の亢進である。また脂質に関しても,蛋白質代

    謝と同様に分解の亢進や合成の低下がみられる。その中

    心は高脂血症と貯蔵脂肪の低下であり,体脂肪の喪失と

    して観察される。貧血も高い頻度でみられ,末期では赤

    血球数とヘモグロビン値の低下がさらに高度となること

    Profile しばた まさひこ

    ’85年日本大学大学院を修了,同第1外科入局。UCLA腫瘍外科への留学,’02年日本大学助教授を経て,’04年より現職。専門は消化器外科,癌の進行に伴う免疫能の変化と癌に対する免疫化学療法と栄養治療。

    癌悪液質は食欲不振,体重減少,貧血,電解質異常,免疫異常などの多因子の複合によって成り立っている。それによってQOLの低下を招き,各種の癌治療の開始や継続を困難にし,効果も減弱する。さらに進行すると,全身の消耗状態へと移行して“癌死”に至る。この背景には,癌の進行に伴って変化する宿主側の要因が密接に関連する。特に細胞性免疫能は,活性化と抑制の相反する機構が互いに影響して混在し,病態の完成に導かれる。

    癌悪液質 免疫抑制

    癌免疫療法 痩せ・栄養障害 細胞性免疫能

    RRRRRRRRRRRRRRRRRRRREEEEEEEEEEEEEEEEEEEEVVVVVVVVVVVVVVVVVVVVIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEWWWWWWWWWWWWWWWWWWWWNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUTTTTTTTTTTTTTTTTTTTTRRRRRRRRRRRRRRRRRRRRIIIIIIIIIIIIIIIIIIIITTTTTTTTTTTTTTTTTTTTIIIIIIIIIIIIIIIIIIIIOOOOOOOOOOOOOOOOOOOONNNNNNNNNNNNNNNNNNNN &&&&&&&&&&&&&&&&&&&& DDDDDDDDDDDDDDDDDDDDIIIIIIIIIIIIIIIIIIIISSSSSSSSSSSSSSSSSSSSEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEAAAAAAAAAAAAAAAAAAAASSSSSSSSSSSSSSSSSSSSEEEEEEEEEEEEEEEEEEEE癌悪液質の病態─特に免疫能の関与と免疫療法の可能性─

    公立阿伎留医療センター外科*,同センター NST研究会**

    柴田昌彦*,**,平野智寛*,矢嶋幸浩*,**,阿部英雄*,山本秀行**

    Key Words

    Summary

    18

  • が多い。このほか,癌悪液質では神経症状や後に述べる

    免疫能の異常も出現し,静脈栄養をはじめとするさまざ

    まな治療によって修飾され,全体像としてはきわめて多

    様な病像を呈する。

    診断に関してはいまだに統一した基準がなく,これま

    での報告によると,体重減少と低蛋白血症の2点を基準

    とする報告が多い。これらを考慮してわれわれは,癌悪

    液質を「転移,再発,原発巣などの癌病巣を有し,3ヵ

    月以内に健常時の10%以上の体重減少と3.0g/dL以下の

    低アルブミン血症を呈する症例」と定義し検討を行って

    きた。

    癌悪液質の病態研究の変遷癌悪液質は1960年代までは生化学,特に酵素化学を中

    心に癌患者の代謝異常について,その後アミノ酸,蛋白

    質などについて研究され,今日の癌患者の栄養補給にお

    ける基礎が形成された。また癌組織が産生する悪液質誘

    導物質について注目され,免疫学の知識や手技が応用さ

    れた。このうち,マクロファージが産生する腫瘍壊死因

    子(tumor necrosis factor;TNF)がすでに精製されてい

    た悪液質誘導物質であるカケクチンと同一物質であるこ

    とが明らかになり注目された。さらにインターロイキン

    (interleukin;IL)‐1,6,インターフェロン(interferon;

    IFN),顆粒球コロニー刺激因子にも同様な作用がある

    とされ,癌悪液質がこれら宿主細胞から産生されるサイ

    トカインによって誘導されることが明らかになった。ま

    たこれらのサイトカインのうち,IL‐1,TNF,IFNなど

    は神経伝達物質としての働きもあり,視床下部の食欲中

    枢に作用して食欲不振をもたらす。このように,宿主の

    細胞を主体としたサイトカインの変動によって神経,内

    分泌,代謝,免疫が密接に関連し合うと考えられるよう

    になった。

    癌悪液質の代謝異常高度進行癌患者では,腫瘍の局在による消化管の通過

    障害とこれに基づく栄養障害に加えて,サイトカインの

    視床下部における作用,あるいは癌性疼痛やそれに伴う

    精神的ストレスが原因となって食欲不振が出現し,栄養

    摂取量が低下する。その結果,さまざまな栄養障害をき

    たすことになる。蛋白質代謝に関して最も顕著なのは低

    蛋白血症,低アルブミン血症である。アミノ酸代謝の変

    化としては,血中では一般にはアラニン,グリシン,ス

    レオニン,グルタミンが低下し,セリン,チロシン,ア

    スパラギン酸が上昇する。分岐鎖アミノ酸は変化しな�