2014年度数学ii演習第1 - lecture.ecc.u-tokyo.ac.jpnkiyono/kiyono/14...第1 回解答 3 問題3...

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2014 年度数学 II 演習第 1 I 24, 28 4 15 日 清野和彦 数理科学研究科棟 5 524 号室 (03-5465-7040) [email protected] http://lecture.ecc.u-tokyo.ac.jp/~nkiyono/index.html 論理 問題 1. 三つの関数 f (x), g(x), h(x) に対し、命題 A f (x)= g(x)= h(x)=0 を満たす実数 x が存在する。 とする。A の否定命題を書け。 問題 2. a, b を実数、φ(x)= -x 2 + a, ψ(x)= x 2 - 2x + b とし、命題 B すべての実数 x に対して、φ(x) 0 ならば ψ(x) 0 が成り立つ。 とする。 (1) B の成り立つ a, b をすべて求めよ。 (2) B の否定命題をかけ。 問題 3. 実数 a, b, c に対する命題 a b, b c ならば a c が成り立つ。 の逆命題を書き、それが正しければ証明し間違っていれば反例をあげよ。 問題 4. 実数 a, b に対し、次の二つの命題 (1) 任意の実数 c に対して「『b c ならば a c が成り立つ』が成り立 てば a b が成り立つ」が成り立つ。 (2) 「任意の実数 c に対して b c ならば a c が成り立つ」が成り立 てば、a b が成り立つ。 はそれぞれ正しいか。正しければ証明し間違っていれば反例をあげよ。

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Page 1: 2014年度数学II演習第1 - lecture.ecc.u-tokyo.ac.jpnkiyono/kiyono/14...第1 回解答 3 問題3 逆命題は 任意の実数a, b, cに対し、a cならばa bとb cが成り立つ。

2014年度数学 II演習第 1回理 I 24, 28組

4月 15日 清野和彦

数理科学研究科棟 5階 524号室 (03-5465-7040)

[email protected]

http://lecture.ecc.u-tokyo.ac.jp/~nkiyono/index.html

論理

問題 1. 三つの関数 f(x), g(x), h(x) に対し、命題 A を

f(x) = g(x) = h(x) = 0 を満たす実数 x が存在する。

とする。A の否定命題を書け。

問題 2. a, b を実数、φ(x) = −x2 + a, ψ(x) = x2 − 2x+ b とし、命題 B を

すべての実数 x に対して、φ(x) ≥ 0 ならば ψ(x) ≥ 0 が成り立つ。

とする。(1) B の成り立つ a, b をすべて求めよ。(2) B の否定命題をかけ。

問題 3. 実数 a, b, c に対する命題

a ≤ b, b ≤ c ならば a ≤ c が成り立つ。

の逆命題を書き、それが正しければ証明し間違っていれば反例をあげよ。

問題 4. 実数 a, b に対し、次の二つの命題

(1) 任意の実数 c に対して「『b ≤ c ならば a ≤ c が成り立つ』が成り立てば a ≤ b が成り立つ」が成り立つ。

(2) 「任意の実数 c に対して b ≤ c ならば a ≤ c が成り立つ」が成り立てば、a ≤ b が成り立つ。

はそれぞれ正しいか。正しければ証明し間違っていれば反例をあげよ。

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集合と写像

問題 5. 12の倍数と 18の倍数の和全体の集合と、6の倍数全体の集合は一致することを示せ。つまり、

A = {12m+ 18n | m,n ∈ Z} B = {6k | k ∈ Z}

とするとき A = B であることを示せ。

問題 6. X を集合、A, B, C を X の三つの部分集合とするとき、

(A ∪B) ∩ C = (A ∩ C) ∪ (B ∩ C)

の成り立つことを証明せよ。

問題 7. 集合 X の部分集合 Y に対し、Y を Y の補集合

Y = {x ∈ X | x ̸∈ Y }

とする。X の二つの部分集合 A, B に対し次を示せ。(ド・モルガンの法則といいます。)

(1) A ∪B = A ∩B (2) A ∩B = A ∪B

問題 8. 次の議論のどこが間違っているか説明せよ。

x ≥ 3 ⇒ x ≥ 2。 x ≥ 2 ⇒ x の最小値は 2。 ゆえに x ≥ 3 ⇒ x の最小値は 2。

● 集合 X の部分集合 A、集合 Y の部分集合 C、写像 f : X → Y に対し、

f(A) = {f(x) ∈ Y | x ∈ A} f−1(C) = {x ∈ X | f(x) ∈ C}

と定義する。

問題 9. 写像 f : X → Y と X の二つの部分集合 A, B に対し、

(1) f(A ∪B) = f(A) ∪ f(B) (2) f(A ∩B) ⊂ f(A) ∩ f(B)

が成り立つことを示し、f(A ∩B) ̸= f(A) ∩ f(B) となる例を作れ。

問題 10. 写像 f : X → Y と Y の二つの部分集合 C, D に対し、

(1) f−1(C ∪D) = f−1(C) ∪ f−1(D) (2) f−1(C ∩D) = f−1(C) ∩ f−1(D)

が成り立つことを示せ。

問題 11. 写像 f : X → Y が単射(1対 1の写像)であることと

X の任意の部分集合 A に対し f−1(f(A)) = A が成り立つ

こととは同値(必要十分条件)であることを示せ。

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2014年度数学 II演習第 1回解答理 I 24, 28組

4月 15日 清野和彦

数理科学研究科棟 5階 524号室 (03-5465-7040)

[email protected]

http://lecture.ecc.u-tokyo.ac.jp/~nkiyono/index.html

目 次

1 論理の問題の解答 2

2 論理記号 3

2.1 論理とは . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

2.2 命題とは . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

2.3 数学の命題の実際 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

2.4 ∧ と ∨ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

2.5 ∀ と ∃ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

2.6 ∀ と ∃ の順序について . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 6

2.7 ¬ について . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

2.8 =⇒ について . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

2.9 ∃ と ∧、および ∀ と ∨ の組み合わせ:問題 1の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . 8

2.10 =⇒ の否定:問題 2の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

2.11 逆命題について:問題 3の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 10

2.12 係り受けについて:問題 4の解答 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

3 集合と写像の問題の解答 12

4 集合 15

4.1 二つの集合が等しいとは . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 15

4.2 ところで集合とは . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 16

4.3 集合と論理 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 17

4.4 変数を含む命題についての注意 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

5 写像 18

5.1 写像とは . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 18

5.2 写像の像 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

5.3 合成写像 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

5.4 逆像 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 20

5.5 単射と全射 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 21

5.6 全単射と逆写像 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 22

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第 1 回解答 2

1 論理の問題の解答

問題 1

「どの実数 x に対しても f(x), g(x), h(x) のうち少なくとも一つは 0でない。」

(注意. f(x), g(x), h(x) のうちの少なくとも一つが「0を値に持たない関数」だという意味で

はありません。f(x), g(x), h(x) のどれが 0でないかは x ごとに違って構いません。)

問題 2

(1) φ(x) = −x2+a なので、φ(x) ≥ 0 は x2 ≤ a ということです。よって φ(x) ≥ 0 を満たす x は

a < 0 のときは存在せず、a ≥ 0 のときは −√a ≤ x ≤

√a を満たす実数

となります。

一方、ψ(x) = x2 − 2x+ b ですので、ψ(x) ≥ 0 は判別式 1− b が 0以下のときはすべての x で

成り立ち、判別式が正のときは x ≤ 1−√1− b か x ≥ 1 +

√1− b を満たす x で成り立ちます。

「φ(x) ≥ 0 ならば ψ(x) ≥ 0 である」とは

x が φ(x) ≥ 0 を満たしていないときはどうでもよい。満たしているときは ψ(x) ≥ 0

を満たさなければならない。

といういう意味です。

a < 0 のときはどの x も φ(x) ≥ 0 を満たさないのですから、「φ(x) ≥ 0 ならば ψ(x) ≥ 0」は

任意の x について成立です。

a ≥ 0 のときは、−√a ≤ x ≤

√a を満たす x 全部が ψ(x) ≥ 0 を満たすような b を探すことに

なります。

判別式が 0以下、すなわち b ≥ 1 のときはすべての x で ψ(x) ≥ 0 が成り立っているので、も

ちろん −√a ≤ x ≤

√a を満たす x についても成り立っています。

判別式が正、すなわち b < 1 のときは −√a ≤ x ≤

√a を満たす x がすべて x ≤ 1−

√1− b か

x ≥ 1 +√1− b のどちらかを満たさなければなりません。−

√a ≤ x ≤

√a は 0を含む閉区間であ

り、1 +√1− b は正ですので、これが成り立つための必要十分条件は

√a ≤ 1−

√1− b です。今

b < 1 ですので 1−√1− b < 1 となっています。よって、a ≥ 1 のときは条件を満たす b は(1よ

り小さい範囲には)存在しません。a < 1 のときは√a ≤ 1−

√1− b を解くと b ≥ 2

√a− a が得

られます。

以上をまとめて、求める a, b は

「a < 0(b は任意)」または「0 ≤ a ≤ 1 かつ b ≥ 2√a− a」または「a ≥ 1 かつ b ≥ 1」

となります。

(2) 「φ(x) ≥ 0 と ψ(x) < 0 の両方を満たす x が存在する。」

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第 1 回解答 3

問題 3

逆命題は

任意の実数 a, b, c に対し、a ≤ c ならば a ≤ b と b ≤ c が成り立つ。

で、これは成り立ちません。たとえば a = 1, b = 3, c = 2 とすると、a ≤ c すなわち 1 ≤ 2 と

a ≤ b すなわち 1 ≤ 3 は成り立っていますが b ≤ c すなわち 3 ≤ 2 は成り立っていません。

問題 4

(1) 間違いです。たとえば a = 1, b = 0, c = 2 とすると、b ≤ c は 0 ≤ 2 で a ≤ c は 1 ≤ 2 でど

ちらも成り立っているので『b ≤ c ならば a ≤ c』は成り立っていますが、a ≤ b は 1 ≤ 0 となっ

てしまい成り立っていません。

(2) 正しいです。b ≤ c ならば a ≤ c が任意の c について成り立っているのですから、c として b

を選んでもこれは成り立っています。b ≤ b は正しいので a ≤ b が成り立つことになります。これ

で示せました。

2 論理記号

2.1 論理とは

数学を学ぶ上で必要な「論理」とは、「論理学」のことではなく、いくつかの命題から別のいく

つかの命題を導き出す手続きのことで、皆さんが日常的に使っているものをちょっと抽象的にした

という程度のものです。

そうはいっても、「命題」や「逆」などの普段あまり使わない言葉や「∀」や「∃」などの見たこともない記号を使うので、なんだか難しいことのように感じる人もいるかも知れません。しかし、

それは、なじみのない抽象的な表現にとまどわされているだけのことで、慣れれば何ということも

ありません。試みに、数学とは無縁の生活をしている妻に「『A(x) ならば B(x) が任意の x につ

いて成り立つ』の否定を言ってみて」と要求したら、「何それ? 全然わかんないわよ。」という答で

したが、「それじゃ、『全出席した人には単位をあげる』と言っていた教員はどういう場合にウソを

ついたことになる?」と訊いたら、「そりゃ、全出席したのに不可の学生がいた場合でしょ。」と即

座に返ってきました。つまり、そういう学生が一人でもいればウソをついたことになるし、また、

欠席したのに単位を取れた学生がいてもウソをついたかどうかには関係ないと自然に思っているわ

けです。このように、「A(x) ならば B(x) が任意の x について成り立つ」の否定が「A(x) なのに

B(x) でない x が一つでも存在する」だということは常識的に理解されているということで、単に

抽象的な表現方法に慣れていないだけのことなのです。

この節では、論理 (三段論法とか背理法とか)に付いて説明するのでなく (それこそ論理学です)、

日常の言葉では曖昧になりやすい論理を、誤解のないように明確にとらえるための記号について説

明します。

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第 1 回解答 4

2.2 命題とは

「いくつかの命題から別のいくつかの命題を導き出す」というからには「命題とは何か」をハッ

キリさせなければなりませんが、我々は論理学をやろうというのではないのですから、

命題とは、主観的な判断の入らない、意味のハッキリした文のことである。

という程度で十分です。「主観的な判断の入った文」とは、「とんぱた亭のラーメンは日本で一番お

いしい」のような文のことで、数学をやる上では出てこないので、結局、数学として意味のある

文、つまり

正しいとか間違っているとかを議論できる文

が命題だと言えます。例えば、「3は 2より大きい」とか「2は 3より大きい」とかが命題です。こ

の場合、前者は正しい命題、後者は間違った命題とすぐに分かりますが、フェルマ予想のように正

しいことが分かるまでに 350年かかった命題や、リーマン予想のように未だに正しいか間違いか分

からない命題も当然あります。

2.3 数学の命題の実際

ゴチャゴチャ言いましたが、実際の命題は、数学の対象として定義されたもの(数とか式とか集

合とか)と、記号

∀ ∃ ∧ ∨ ¬ =⇒

と、係り受けをはっきりさせる括弧(このプリントでは [ ] を使うことにします)で作ります。誤

解して欲しくないのですが、これらの記号で作らなければならないということではなく、日本語の

文のままでは意味を取りづらいようなときにこれらの記号で書き換えてみるとわかりやすくなるか

も知れない、という程度のものです。何度も言いますが、論理学ではないのですから、論理そのも

のに余り細かくこだわっても詰まらなくなってしまうだけです。これらの記号は論理に振り回され

ないための手だてだと思っておいて下さい。

それでは、それぞれの記号の意味を説明しましょう。

2.4 ∧ と ∨

どちらも二つの命題から一つの命題を作る操作を表す記号です。

∧の意味は andです。記号を使わず「and」や「かつ」と言葉で書いたり、省略して「,」で済すまし

たりすることもよくあります。例えば、命題「3 > 2」と「4 > 5」から一つの命題「[3 > 2]∧[4 > 5]」

という命題を作ります。意味は、「3は 2より大きく、しかも 4は 5より大きい」です。もちろん

この命題は間違っています。(ばからしい例ですみません。)

∨ の意味は or です。実際に「or」と書いたり「または」と書いたりもします。「or」であって

「either. . . or. . .」ではありません。例えば、上の二つの命題から一つの命題 「[3 > 2] ∨ [4 > 5]」

を作ります。意味は、「3は 2より大きいか、または、4は 5より大きい」ですが、もっと細かく言

うと「『3は 2より大きい』と『4は 5より大きい』の少なくとも一方が成り立つ」という意味で

す。だから、この例は正しい命題ということになります。

なお、∨ を「,」で書くことは絶対にありません。「,」は必ず ∧ を意味する約束になっています。

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第 1 回解答 5

2.5 ∀ と ∃

∀ は、この記号のすぐ後に付いた文字(変数といいます)が取りうる値のすべてについてその直後にある括弧で括られた命題が成り立つという意味です。例えば、R を実数全体として、

∀x ∈ R [x2 ≥ 0]

と書いて、意味は

任意の実数 x に対して x2 ≥ 0 が成り立つ

です。(∀ という記号は「任意の」を意味する英語 “arbitrary”、または、「すべての」を意味する

英語 “all”、または、「どれでも」を意味する英語 “any” の頭文字の大文字 A をひっくり返したも

のです。)

∃ は、この記号のすぐ後に付いた文字の取りうる値のうち少なくとも一つについてその直後にある括弧で括られた命題が成り立つという意味です。例えば、

∃x ∈ R [x2 ≤ 0]

と書いて、意味は

少なくとも一つの実数 x に対して x2 ≤ 0 が成り立つ

つまり、

x2 ≤ 0 の成り立つ実数 x が存在する

です。(∃ という記号は「存在する」を意味する英語 exist の頭文字の大文字 E をひっくり返した

ものです。)

なお、∀x や ∀y がどこまでに掛かっているのかが明らかな場合、直後の括弧は省くのが普通です。例えば、

∃x ∈ R [x2 < 2 ∧ x3 > 3]

∃x ∈ R x2 < 2 ∧ x3 > 3

と書いても誤読のおそれはないでしょう。また、∃については、「次のような」を意味する英語 “such

that” を省略した記号 s.t を使うことがよくあります。例えば

∃x ∈ R[x2 < 2 ∧ x3 > 3

]は

x2 < 2 と x3 > 3 を両方とも満たすような実数 x が存在する

という意味なので、括弧を使う代わりに「満たすような」の部分を such that を省略した記号 s.t

で置き換えて

∃x ∈ R s.t. x2 < 2 ∧ x3 > 3

と書くわけです。論理記号を使って書かれた命題の意味が取りづらいときには、自分で括弧を補っ

て係り受けをはっきりさせてみると分かりやすくなると思います。

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第 1 回解答 6

2.6 ∀ と ∃ の順序について

∀ と ∃ の両方が出てくる命題は注意が必要です。例えば、

∀x ∈ R[∃y ∈ R[(x2 + 1)y = 1]

](1)

∃y ∈ R[∀x ∈ R[(x2 + 1)y = 1]

](2)

は違う命題です。

(1)は

任意の実数 x に対して ∃y ∈ R[(x2 + 1)y = 1] が成り立つ

という意味です。つまり、∃y ∈ R[(12 + 1)y = 1] も成り立つし、∃y ∈ R[(e2 + 1)y = 1] も成り立

つし、∃y ∈ R[(π2 + 1)y = 1] も成り立つし、、、というように x のところに勝手な実数を代入した

命題がそれぞれすべて成り立つという意味です。ということは、

それぞれの x に対して別々の y があればよい

という意味になります。そして、この命題の場合、本当に各 x に対してそのような y があります

ので、命題 (1)は正しい命題です。

一方、(2)は

∀x[(x2 + 1)y = 1] の成り立つ y が存在する

という意味になります。つまり、

x に依らない実数 y で、x が何であっても (x2 + 1)y = 1 の成り立つものが存在する

ということです。そんな y はありませんので、この命題は間違った命題です。

いちいち上のように分析するのは面倒ですが、実際には

∀x が ∃y より先に出てきたときは(つまり左にあるときは)、y は x に依存してよい。

∃y が ∀x より先に出てきたときは、y は x に依存してはいけない。

と約束するのだと思っておけば十分です。不用意に日常語を使うと、(1)も (2)も

任意の実数 x に対して (x2 + 1)y = 1 を満たす y が存在する

となってしまい、意味が曖昧になってしまうので気を付けましょう。

∀ 同士、∃ 同士は順番を換えても意味が変わりませんので、括弧で囲わずに「∀x∀y」とか、もっと省略して「∀x, y」とかと書くのが普通ですが、∀ と ∃ の混在するときも、上のように約束してあるので、例えば

∀x∃y s.t. (x2 + 1)y = 1

などと括弧なしで書くのが一般的です。

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第 1 回解答 7

2.7 ¬ について

¬ はその後にある命題の否定を作るものです。言葉で言えば、もとの命題の最後に「でない」を付け加えるだけのことで、皆さんも対偶や背理法でよく使うものです。例えば、「3 > 2」という命

題からその否定「¬[3 > 2]」を作ります。意味は、当然「3 > 2 でない」、つまり「3 ≤ 2」です。

このように、具体的な命題の否定は意味を考えて作るしかないのですが、上に挙げた「∀、∃、∧、∨」の部分については、それぞれを「∃、∀、∨、∧」に機械的に置き換えるだけで否定を作ることができます。

具体例で検証しておきましょう。

例えば、実数を変数とする実数値関数 f(x) に対して

f(x) は常に 0以上である

という命題の否定は、意味を考えれば

f(x) が負となる x が存在する

となります。一方、もとの命題を記号で書けば

∀x ∈ R [f(x) ≥ 0]

です。これの否定を上に書いた規則を使って機械的に作ると

¬[∀x ∈ R [f(x) ≥ 0]

]⇐⇒ ∃x ∈ R

[¬[f(x) ≥ 0]

]⇐⇒ ∃x ∈ R [f(x) < 0]

となって、ちゃんと否定が作れました。(記号 ⇐⇒ は二つの命題が「同値」であること、つまり、

意味の同じ命題であることを表す記号です。命題を作るときに使う記号ではありません。)

そのほかの記号については皆さんで実例を作って試してみて下さい。

2.8 =⇒ について

=⇒ は二つの命題から一つの命題を作るもので、普通は「ならば」と読まれます。しかし、この読み方は慣れないと誤解を生みやすいので気を付けなければいけません。二つの命題 A, B に対し

A =⇒ B を [¬A] ∨B で定義

します。これはあくまでも記号 =⇒ の定義なのであって、日常語としての「ならば」がこういう

意味だといっているのではありません。日常語の「ならば」とか「なら」とか「たら」とか「ば」

とか「とき」とかは曖昧なのです。例えば、雨の日に「雨が降ってなければ出かけるのに」と言っ

た場合、これを記号 =⇒ を使って

“[雨が降っていない ] =⇒ [出かける ]”が成り立つ

と読んでしまうと、=⇒ の定義から

“[¬[雨が降っていない ]

]∨ [出かける ]”が成り立つ

つまり

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第 1 回解答 8

“[雨が降っている ] ∨ [出かける ]”が成り立つ

すなわち

[雨が降っている ]と [出かける ]の少なくとも一方が成り立つ

となってしまって「雨の中を出かける」というのもありということになってしまいますが、元々の

発言の本来の意味はもちろん「雨が降っているから出かけられない」、つまり「雨の中を出かける

のはなし」ということなのですから、全く違うことになってしまいます。一方、「全出席なら単位

をあげる」と言った場合、「全出席でなければ単位をあげない」という意味まで含んでいるとは言

えないでしょうから、=⇒ の定義とマッチします。

2.9 ∃ と ∧、および ∀ と ∨ の組み合わせ:問題 1の解答

ここから先は話が少し複雑になりますので、実例として問題 1から問題 4を引用しながら説明す

ることにします。

まず、この小節では問題 1を題材に、「∃ と ∧」の組み合わせ、および「∀ と ∨」の組み合わせについて考えます。論理記号なんか使わなくても解けるとは思いますが、練習のために論理記号を

使って解いてみましょう。

解答. 命題 A を記号で書くと

∃x ∈ R [f(x) = g(x) = h(x) = 0]

ですので、その否定は

∀x ∈ R[¬[f(x) = g(x) = h(x) = 0]

]です。ここで「f(x) = g(x) = h(x) = 0」の否定を考えるために等号をバラしましょう。このとき、

例えば「[f(x) = g(x)]∧ [g(x) = h(x)]∧ [h(x) = 0]」としても正しいのですが、関数と関数の間の等

式より関数と値の間の等式の方が簡単そうに見えますので、「[f(x) = 0]∧ [g(x) = 0]∧ [h(x) = 0]」

とバラすことにしましょう。すると、

¬[[f(x) = 0] ∧ [g(x) = 0] ∧ [h(x) = 0]

]⇐⇒ [f(x) ̸= 0] ∨ [g(x) ̸= 0] ∨ [h(x) ̸= 0]

となります。まとめて、A の否定は

∀x ∈ R[[f(x) ̸= 0] ∨ [g(x) ̸= 0] ∨ [h(x) ̸= 0]

]です。これを日本語の文に直すと

任意の実数 x に対し f(x), g(x), h(x) の少なくとも一つは 0でない

となります。 □

最後の日本語の文は少々曖昧になっていることに気付きましたか? その「あいまいさ」をはっき

りさせるために、問題 1の命題 A に似た次の 4つの命題

∃x[[f(x) = 0] ∧ [g(x) = 0]

](3)

∃x[[f(x) = 0] ∨ [g(x) = 0]

](4)

∀x[[f(x) = 0] ∧ [g(x) = 0]

](5)

∀x[[f(x) = 0] ∨ [g(x) = 0]

](6)

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第 1 回解答 9

と、∀ や ∃ を ∧ や ∨ に対して「分配」した命題[∃x[f(x) = 0]

]∧[∃x[g(x) = 0]

](7)[

∃x[f(x) = 0]]∨[∃x[g(x) = 0]

](8)[

∀x[f(x) = 0]]∧[∀x[g(x) = 0]

](9)[

∀x[f(x) = 0]]∨[∀x[g(x) = 0]

](10)

を比べてみましょう。意味を考えてみれば、命題 (4)と命題 (8)の組と命題 (5)と命題 (9)の組は

分配する前と後とで同値ですが、命題 (3)と命題 (7)の組と命題 (6)と命題 (10)の組は同値でない

ことが分かるでしょう。つまり「分配法則」は、∃ と ∧ の組み合わせ、および ∀ と ∨ の組み合わせに対しては成り立ちません。

例えば、

∃x ∈ R [x > 0 ∧ x < 0]

正でもあり負でもある実数が存在する

という意味なのでもちろん間違いですが、[∃x ∈ R [x > 0]

]∧[∃x ∈ R [x < 0]

]は

正の実数も負の実数も存在する

という意味(つまり、前側の x と後側の x は別な値で良い)なので正しい命題です。

問題 1の最後の日本語での答えは、「任意の実数 x に対し」が分配されているのかいないのかが

少し曖昧に感じられます。このようなときに命題を論理記号で表すと誤解を避けられるのです。

2.10 =⇒ の否定:問題 2の解答

解答. (1) 命題 B を記号で書けば

∀x ∈ R[[φ(x) ≥ 0] =⇒ [ψ(x) ≥ 0]

]です。ここで =⇒ を定義に従って書き換えると

∀x ∈ R[[φ(x) < 0] ∨ [ψ(x) ≥ 0]

](11)

となります。つまり、

任意の実数 x に対して φ(x) < 0 か ψ(x) ≥ 0 の少なくとも一方が成り立つ

となります。よって、(1)の答は

「a < 0」または 「0 ≤ a ≤ 1, b ≥ 2√a− a」または 「a ≥ 1, b ≥ 1」

となります 1。 □1計算は 2 ページの解答を参照してください。

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第 1 回解答 10

「φ(x) < 0 が任意の実数に対して成り立ってしまうときは、ψ(x) は何でもよい」というところ

が気持ちの悪いところだと思いますが、あくまでも論理における「ならば(=⇒)」の定義ですので、「全出席なら単位がもらえる」の例でも思い出して納得して下さい。「『3 < 2 =⇒ 100 = 1』も

正しい命題なのか」といった批判をする人がありますが、例えば「(石原慎太郎の弟の)石原裕次

郎が都知事になったなら逆立ちで世界一周してみせる」という約束をしたやつがいても、石原裕次

郎は故人なので絶対に逆立ちで世界一周をする羽目にはならないわけですから、こいつはウソをつ

いたことにはなりません。これは「なら (ば)」がナンセンスなのではなく約束の内容自体がくだら

ないだけなのです。「『3 < 2 =⇒ 100 = 1』が正しい」というのも、命題の内容がくだらないだけ

であって =⇒ の定義の問題ではありません。

解答. (2) 命題 B の否定も =⇒ の定義に戻ればできます。命題 B を記号で書くと (11)なのです

から、その否定は

∃x ∈ R[[φ(x) ≥ 0] ∧ [ψ(x) < 0]

]で、日本語で書くと

φ(x) ≥ 0 なのに ψ(x) < 0 であるような実数 x が少なくとも一つ存在する

となります。 □

このように

「A ならば B である」の否定は「A なのに B でない」

です。「全出席なら単位がもらえる」の例でも感じてもらえるように、これは納得しやすいことだ

と思います。

2.11 逆命題について:問題 3の解答

A =⇒ B という命題に対して B =⇒ A という命題を元の命題の逆命題、あるいは簡単に逆とい

います。「逆必ずしも真ならず」を具体例でみてもらうのが問題 3です。

なお、問題文はわざと曖昧に書いてあって、本当は「任意の実数 a, b, c に対して」が要ります。

しかし、実際にはこの問題のように「分かり切っていることは省く」のが普通なので、注意して補

いながら本やノートなどを読むようにして下さい。

解答. 問題の命題を記号で書くと (∈ R は面倒なので省きます。)

∀a∀b∀c[[[a ≤ b] ∧ [b ≤ c]

]=⇒ [a ≤ c]

]です。「逆」とは =⇒ の前後を入れ替えた命題のことですので、

∀a∀b∀c[[a ≤ c] =⇒

[[a ≤ b] ∧ [b ≤ c]

]]となって、日本語で書けば

(任意の実数 a, b, c に対して、) a ≤ c が成り立っているならば a ≤ b と b ≤ c の両

方が成り立つ

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第 1 回解答 11

です。これは間違った命題です。つまり、これの否定

∃a∃b∃c[[a ≤ c] ∧

[[a > b] ∨ [b > c]

]]日本語で書けば

a ≤ c であっても a > b か b > c の少なくとも一方の成り立つ実数 a, b, c が存在する

が正しくなります。例えば、a = 1, b = 3, c = 2 が例、つまり元の命題の逆命題の反例です。 □

2.12 係り受けについて:問題 4の解答

最後に「任意の c」がどこに係るかで意味が違ってしまう例を見ておきましょう。問題 4です。

問題 3と同様に「任意の実数 a, b に対して」が省かれていることに注意して下さい。

解答. (1) 論理記号を使って書くと

∀a∀b∀c[[[b ≤ c] =⇒ [a ≤ c]

]=⇒ [a ≤ b]

]です。例によって =⇒ を定義に従って書き換えると、

∀a∀b∀c[[[b ≤ c] ∧ [a > c]

]∨ [a ≤ b]

]日本語で書くと

任意の実数 a, b, c に対して、b ≤ c と a > c が同時に成り立つか、または a ≤ b が成

り立つ

となります。これは間違った命題で、例えば a = 2, b = 1, c = 3 が反例です。 □

(2) これも論理記号で書くと、

∀a∀b[[∀c[[b ≤ c] =⇒ [a ≤ c]

]]=⇒ [a ≤ b]

]で、=⇒ の定義で書き換えると

∀a∀b[[

∃c[[b ≤ c] ∧ [a > c]

]]∨ [a ≤ b]

]日本語で書くと

任意の実数 a, b に対して、b ≤ c と a > c が同時に成り立つ実数 c が存在するか、ま

たは a ≤ b である

となります。これは正しい命題です。なぜなら、a > b のときは c として b を選べるからです。□

(2)の場合は、「対偶」を考えた方がすっきりします。A =⇒ B の対偶とは

[¬B] =⇒ [¬A]

のことです。=⇒ の定義に従って対偶を書き換えてみると

[¬B] =⇒ [¬A] ⇐⇒[¬[¬B]

]∨ [¬A]

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第 1 回解答 12

となり、これは [¬A]∨B と同値ですので A =⇒ B と一致します 2。実際に (2)の(二番目の =⇒に対する)対偶を記号で書いてみると、

∀a∀b[[a > b] =⇒ ∃c

[[b ≤ c] ∧ [a > c]

]]日本語で書けば、

任意の実数 a, b に対して、a > b ならば、b ≤ c と a > c を同時に成り立たせる c が

存在する

となります。c として b を選べるので、これは正しい命題です。

3 集合と写像の問題の解答

問題 5

まず A ⊂ B であることを示しましょう。つまり、12m + 18n が 6の倍数であることを示しま

す。12m+ 18n = 6(2m+ 3n) であるので示せました。

次に B ⊂ Aであることを示しましょう。つまり、どんな 6k も 12m+18nと表せることを示しま

す。m = −1, n = 1 とすると 12m+18n = 6 ですので、m = −k, n = k とすれば 12m+18n = 6k

です。

A ⊂ B と A ⊃ B の両方が成り立っているので、A = B です。

問題 6

その 1

まず (A ∪ B) ∩ C ⊂ (A ∩ C) ∪ (B ∩ C) を示します。x ∈ (A ∪ B) ∩ C を任意に取りましょう。すると ∩ の定義より、x ∈ A ∪B と x ∈ C の両方が成り立ちます。更に ∪ の定義より x ∈ A か

x ∈ B の少なくとも一方が成り立っています。x ∈ A ならば、x ∈ A と x ∈ C の両方が成り立っ

ているので x ∈ (A∩C) です。よって、ことのとき x ∈ (A∩C)∪ (B ∩C) となっています。また、x ̸∈ A なら x ∈ B なので、x ∈ (B ∩ C) となり、やはり x ∈ (A ∩ C) ∪ (B ∩ C) です。次に (A ∩ C) ∪ (B ∩ C) ⊂ (A ∪ B) ∩ C を示します。x ∈ (A ∩ C) ∪ (B ∩ C) を任意に取ると、

x ∈ (A ∩ C) または x ∈ (B ∩ C) の少なくとも一方が成り立っています。x ∈ A ∩ C なら、x ∈ A

と x ∈ C の両方が成り立っており、A ⊂ A ∪B であることから x ∈ A ∪B も成り立っています。よって、この場合 x ∈ (A ∪ B) ∩ C となっています。一方、x ̸∈ A ∩ C なら、x ∈ B ∩ C ですので、x ∈ B と x ∈ C の両方が成り立っており、B ⊂ A ∪ B より x ∈ A ∪ B でもあります。よって、この場合も x ∈ (A ∪B) ∩ C です。以上で示せました。

2命題 A と ¬[¬A] が同じ命題であること、つまり「二重否定は何もしないのと同じ」というのは認めて下さい。これを無条件には認めない立場の論理学もあります。

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第 1 回解答 13

その 2

(A ∪B) ∩ C = ({x ∈ X | x ∈ A} ∪ {x ∈ X | x ∈ B}) ∩ {x ∈ X | x ∈ C}

= {x ∈ X | x ∈ A or x ∈ B} ∩ {x ∈ X | x ∈ C}

= {x ∈ X | (x ∈ A or x ∈ B) and x ∈ C}

= {x ∈ X | (x ∈ A and x ∈ C) or (x ∈ B and x ∈ C)}

= ({x ∈ X | x ∈ A and x ∈ C}) ∪ ({x ∈ X | x ∈ B and x ∈ C})

= ({x ∈ X | x ∈ A} ∩ {x ∈ X | x ∈ C}) ∪ ({x ∈ X | x ∈ B} ∩ {x ∈ X | x ∈ C})

= (A ∩ C) ∪ (B ∩ C)

です。

その 3

x ∈ (A ∪B) ∩ C ⇐⇒ x ∈ A ∪B and x ∈ C

⇐⇒ (x ∈ A or x ∈ B) and x ∈ C

⇐⇒ (x ∈ A and x ∈ C) or (x ∈ B and x ∈ C)

⇐⇒ x ∈ A ∩ C or x ∈ B ∩ C

⇐⇒ x ∈ (A ∩ C) ∪ (B ∩ C)

です。

問題7

どちらも似たようなものですので、(1)のみ証明します。「問題 6の解答その 3」のようなあっさ

りした書き方で書かせて下さい。

x ∈ A ∪B ⇐⇒ ¬(x ∈ A ∪B) ⇐⇒ ¬(x ∈ A or x ∈ B)

⇐⇒ ¬(x ∈ A) and ¬(x ∈ B) ⇐⇒ x ∈ A and x ∈ B

⇐⇒ x ∈ A ∩B

となります。二つの命題 P と Q に対し、

¬(P or Q) ⇐⇒ (¬P ) and (¬Q)

が成り立つことを使いました。

問題8

一行目をきちんと言葉を補って読むと、

任意の実数 x に対して、x ≥ 3 ⇒ x ≥ 2 が成り立つ。

となり、二行目も同様に読むと、

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第 1 回解答 14

x ≥ 2 を満たす最小の x は 2である。

つまり、

集合 {x ∈ R | x ≥ 2} の最小値は 2である。

となります。このように、一行目の x ≥ 2 は「x をひとつ持ってきたときに、その x が 2以上で

あるか否か」という x の性質を判定する文なのに、二行目の x ≥ 2 は {x ∈ R | x ≥ 2} という集合を省略して書いたものであって意味が違うから間違った結論が導かれてしまったのです。

問題9

(1) f(A ∪ B) に属する元 y を一つとります。すると、A ∪ B の元 x で f(x) = y を満たすも

のが少なくとも一つ存在します。もし x ∈ A ならば f(x) ∈ f(A) です。また、x ∈ B ならば

f(x) ∈ f(B) です。よって、f(x) ∈ f(A) ∪ f(B)、すなわち y ∈ f(A) ∪ f(B) が成り立っていま

す。これで f(A ∪B) ⊂ f(A) ∪ f(B) が示せました。

次に f(A) ∪ f(B) に属する y を一つとります。y ∈ f(A) だとすると、f(x) = y を満たす x で

A に属するものが少なくとも一つあります。また y ∈ f(B) だとすると f(x) = y を満たす x で B

に属するものが少なくとも一つあります。よって、y ∈ f(A) と y ∈ f(B) の少なくとも一方が成

り立っているなら、f(x) = y を満たす x が A ∪B に存在します。このことは y ∈ f(A ∪B) を意

味します。これで f(A) ∪ f(B) ⊂ f(A ∪B) が示せました。

以上で、f(A ∪B) = f(A) ∪ f(B) が示せました。

(2) f(A ∩B) に属する y をひとつとります。すると A ∩B の元 x で f(x) = y を満たすものが

少なくとも一つ存在します。x ∈ A ですので y = f(x) ∈ f(A) であり、また x ∈ B でもあるので

y = f(x) ∈ f(B) でもあります。よって、y ∈ f(A)∩ f(B) です。これで f(A∩B) ⊂ f(A)∩ f(B)

が示せました。

一方、例えば X = Y = R, A = {1}, B = −1, f(x) = x2 とすると、A ∩ B = ∅ なのでf(A ∩ B) = ∅ ですが、f(1) = f(−1) = 1 なので f(A) ∩ f(B) = {1} です。よって、この例ではf(A ∩B) ̸= f(A) ∩ f(B) となっています。

問題10

問題 9では言葉による説明を書いたので、ここではなるべくシンプルに式だけで書いてみます。

(1)x ∈ f−1(C ∪D) ⇐⇒ f(x) ∈ C ∪D ⇐⇒ f(x) ∈ C or f(x) ∈ D

⇐⇒ x ∈ f−1(C) or x ∈ f−1(D) ⇐⇒ x ∈ f−1(C) ∪ f−1(D)

なので f−1(C ∪D) = f−1(C) ∪ f−1(D) が成り立ちます。

(2)

x ∈ f−1(C ∩D) ⇐⇒ f(x) ∈ C ∩D ⇐⇒ f(x) ∈ C and f(x) ∈ D

⇐⇒ x ∈ f−1(C) and x ∈ f−1(D) ⇐⇒ x ∈ f−1(C) ∩ f−1(D)

なので f−1(C ∩D) = f−1(C) ∩ f−1(D) です。

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第 1 回解答 15

問題11

まず f : X → Y が単射ならば X の任意の部分集合 A に対して f−1(f(A)) = A が成り立つこ

とを示しましょう。

x ∈ f−1(f(A)) を一つとります。これは f(x) ∈ f(A) を意味します。よって、x′ ∈ A で f(x′) =

f(x) を満たすものが存在します。ところが f は単射ですので、f(x′) = f(x) となるなら x′ = x

です。ということは x = x′ ∈ A となります。これで f−1(f(A)) ⊂ A が示せました。

次に、x ∈ A を一つ取りましょう。すると、f(x) ∈ f(A) ですので x ∈ f−1(f(A)) です。これ

で A ⊂ f−1(f(A)) も示せました。(f が単射であることは使わなかったので、こちら向きの包含

関係は f がどのような写像であっても成り立ちます。)

以上で f : X → Y が単射ならば X の任意の部分集合 A に対して f−1(f(A)) = A が成り立つ

ことが示せました。

逆に、X の任意の部分集合 A に対して f−1(f(A)) = A が成り立つならば f : X → Y は単射で

あることを示しましょう。

X の元 x0 を一つ選びます。A = {x0} として条件を適用すると、

f−1(f({x0})) = f−1({f(x0)}) = {x0}

となります。(f({x0}) = {f(x0)} であることに注意して下さい。)これは f(x0) を像とする X の

元が x0 しかないこと、つまり、f(x0) = f(x1) ならば x0 = x1 が成り立つことを意味します。こ

れは f が単射であることの定義(あるいはその対偶)ですので、f は単射です。

4 集合

4.1 二つの集合が等しいとは

集合として、何の理屈もないような例を考えて見ましょう。例えば、大豆が 1000粒あって、な

んとそれらに 1から 1000までの番号がふってあり、それを袋に入れてぐしゃぐしゃっとかき混ぜ

て一掴み取ったとします。すると、その掴み取った大豆に書かれている自然数の集合が出来上がり

ます。それを A としましょう。同様に、小豆が 1000粒あって、それらにも 1から 1000まで番号

がふってあり、一掴み取って集合 B を作ります。A も B も自然数全体の集合 N の部分集合ですので比較してみることができます。どうやって比較するかというと、A に入っている数字を一つひ

とつ持ってきて B に入っているかどうか調べるわけです。

さて、ほとんど有り得ないとは思いますが、この比較作業の結果 A のどの数字を持ってきても

B に入っているという状況になっていたとします。つまり、x ∈ A⇒ x ∈ B が成り立っていると

いうことです。ただし、B の数字にあまりが出ているかも知れません。集合の元を使わずに集合の

記号だけでこのことを表すために用意されている記号が A ⊂ B です。だから、「A ⊂ B を示す」

とは「A の任意の元が B の元でもある」ということを示すことに他ならないわけです。

一方、これもほとんどあり得ないでしょうが、A の数字が B に入っているかどうか確認する作

業が終わったとき、入っていない数字があるかも知れないもののとにかく B の数字に余りが出な

いという状況だったとします。つまり x ∈ B ⇒ x ∈ A が成り立っているということです。このこ

とを集合の記号で表すと A ⊃ B となります。

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第 1 回解答 16

さて、もしも奇跡的に A = B が実現されていたとすると、この作業を終えたとき、A の数字が

B に入っていることが確認された上、B の数字に余ったものがないという状況になっているのだ

から、上の二つの状況と比較して、

A = B とは A ⊂ B かつ A ⊃ B という二つの事柄を一つの式で書いたもの

と見るべきだと言えるでしょう。だから、A = B を示す最も基本的な方法は

x ∈ A⇒ x ∈ B と x ∈ B ⇒ x ∈ A

を示すことだということになります。それを具体例でやったのが問題 5の解答です。

4.2 ところで集合とは

問題 6の解答は三種類書いておきました。もちろん、実質的な内容は同じです。それなのに三種

類も解答を書いた理由を説明しましょう。

「解答その 1」は大分ばかばかしい感じがするでしょう。それは、(あまりにも問題が簡単すぎ

るということもあるでしょうが、)集合の扱い方が「ぎこちなさ過ぎる」からだと思います。もち

ろん「解答その 1」は前節に書いた「A = B を示すことは A ⊂ B と A ⊃ B の両方を示すこと」

を愚直に実行したものです。「ぎこちなさ」の元はこの点にあるのではなく、集合そのものの扱い

にあるのかも知れないので、集合そのものについて少し考えてみましょう。

ある高校の教科書によると、集合とは、

(前略)奇数や偶数、あるいは自然数の全体、数直線上の点全体などのように、ある

条件を満たすものの集まりを集合といい、(後略)

とあります。この「条件」という言葉の意味は曖昧ですが、少なくとも微積分や線形代数で出会う

集合は、ここに挙げられている例のように、式や言葉でかけるような条件を満たすものの集合ばか

りです。前節の「一掴みの豆」の例のようなものは出て来ません。だから、例えば

{x ∈ R | x3 + 2x2 − 5x+ 1 > 0}

のように

ある分かり切った集合 X の元のうち条件 P を満たすもの全体

{x ∈ X | P (x)}

と書けるものばかりです。(P (x) は「x は条件 P を満たす」と読んで下さい。)すると、A ⊂ B

という関係も、

A = {x ∈ X | P (x)} B = {x ∈ X | Q(x)} (12)

と書けているとすれば

P (x) =⇒ Q(x)

という、ただの条件文になってしまいます。

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第 1 回解答 17

集合 X の部分集合 A, B が式 (12)によって定義されているなら、集合の共通部分や合併や補集

合も

A ∩B = {x ∈ X | P (x) and Q(x)}

A ∪B = {x ∈ X | P (x) or Q(x)}

A = {x ∈ X | ¬P (x)}

と、同じ形式で表せます。よって、A ∩B, A ∪B, A などの集合演算にかかわることも、P (x) と

Q(x) を使った論理関係に置き換えられます。

このように考えれば、問題 5は

自然数 xが 12m+18nと表せるための必要十分条件は xが 6の倍数であることを示せ。

という、いたって自然な問題になるわけです。と言うより、この自然な問題を無理矢理集合の問題

に書き換えたものが問題 5だったわけです。

さて、問題 6における A, B, C は、このように条件式で定義されていないので、一見この節の

考察は役に立たないように見えるかも知れません。しかし、例えば

A ∩B = {x ∈ X | x ∈ A and x ∈ B}

というように、「A の元である」といったことを条件式として ∩ や ∪ が書けることを考えると、集合の問題を論理のみの問題に変えてしまうことが出来ます。このことを直接使って集合のまま問

題 6を解いたのが「解答その 2」、論理だけを抽出したのが「解答その 3」です。「解答その 3」が

問題 6の最も「普通」の解き方だと思います。なお、「⇔」とは「⇐ かつ ⇒」という意味であり、「解答その 3」で ⇒ の向きだけをたどったものが (A ∪ B) ∩ C ⊂ (A ∪ C) ∩ (B ∪ C) の証明、⇐の向きだけをたどったものが (A∪B)∩C ⊃ (A∪C)∩ (B ∪C) の証明になっており、面倒なので⇒ と ⇐ をまとめて書いてしまってはいますが、第 4.1節に書いたとおり「A = B を示すことは

A ⊂ B と A ⊃ B の両方を示すこと」という方針に変わりはありません。

4.3 集合と論理

以上のように考えてくると、集合 X の部分集合 A, B, C が式 (12)のように定義されている

なら、

(A ∪B) ∩ C = (A ∩ C) ∪ (B ∩ C)

という集合の間の等式を示すことは

(P or Q) and R と (P and R) or (Q and R)

という二つの命題が同値であること示すことだ、ということを使って問題 6を解いていることにな

ります。

なんだかだまされたような感じがするかも知れません。示せと言われていることを使って問題を

解いてしまっているような、循環論法的な感じがするからだと思います。あるいは、「こんなので

解いたと言えるなら、ベン図でも良いのではないか?」と感じるのかも知れません。しかし、我々

がこれから数学を学んでいくとき

論理の分配法則は天与のものとして認め、集合の分配法則はそれから導かれるものである

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第 1 回解答 18

という態度をとります。確かに集合の分配法則はベン図を書いてみればほぼ明らかなのですが、そ

れは証明とは認めないのです。

論理の分配法則は、記号で書いただけだと分かりにくいかも知れませんが、例えば JR 上野駅か

ら駒場東大前に来る方法を説明するのに

山手線の内回りか外回りで渋谷に来て井の頭線に乗り換える

と言うのと

山手線の内回りで渋谷に来て井の頭線に乗り換えるか、外回りで渋谷に来て乗り換える

と説明するのが同じことだということにすぎません。論理は(少なくとも大学 1年生の皆さんが)

数学をする上で前提となる道具ですが、集合は数学上の概念です。よって、集合の分配法則を論理

の分配法則から導くことは立派な証明なのです。

分配法則以外の法則も、同様に論理の法則(つまり日常的な意味で当然同値だと認めている二つ

の命題を置き換えること)から導かれます。その練習のためにド・モルガンの法則を問題 7として

出題しておきました。

何だか随分理屈っぽいと感じるかも知れません。要は、自分のやっていることの根拠はどこまで

さかのぼれて何を当り前のことと認めているのかを意識して勉強して欲しいということです。

4.4 変数を含む命題についての注意

X の元のうちで条件 P (x) を満たすもの全体のなす部分集合を

{x ∈ X | P (x)}

というようにちゃんと書けばよいのですが、例えば X = R で条件 P (x) が 0 ≤ x ≤ 1 だったりす

ると

{x ∈ R | 0 ≤ x ≤ 1}

と書くのはなんだか面倒というかばからしいような気がしてきてしまうものです。そこで、条件式

0 ≤ x ≤ 1 と書いただけでその条件式で決まる部分集合を表してしまう、という手抜きをよくしま

す。そのことを注意したくて、とんちクイズのような問題を出してみました。

問題 8の中の議論の間違いは、A ⇒ B の「B」と B ⇒ C の「B」とが似て否なるものだった

こと、もっと言うと、「x ≥ 2 ⇒ x の最小値は 2」という文 3は「⇒」が一見入ってはいるものの、実は「集合 {x ∈ R | x ≥ 2} の最小値は 2」という ⇒ と無関係な文であることに原因があります。このような記号の乱用は避けるべきなのですが、便利なのでついついやってしまいますので気をつ

けて下さい。

5 写像

5.1 写像とは

X と Y を集合とします。「写像」とは「どの集合からどの集合へ」かを指定しないと意味のな

い概念なので、ここでは「X から Y への写像」で行きましょう。X から Y への写像とは、

3もちろん三つ目の「x ≥ 3 ⇒ x の最小値は 2」と言う文も。

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第 1 回解答 19

X のどの元にも Y の元がただ一つ対応している

という条件を満たす対応のことです。ただそれだけです。

写像のことを記号で

f : X −→ Y

と書きます。f が写像の名前で、X → Y の部分がどの集合からどの集合への写像かを表している

わけです。集合 X を写像 f の定義域、集合 Y を写像 f の値域 4と言います。上に書いた「写像

であるための条件」は X の元を一つ勝手に取ると Y の元がただ一つ定まるということなので、X

の元 x に写像 f で対応している Y のただ一つの元のことを「x と f によってただ一つに特定で

きる」という意味を込めて f(x) と書きます。もちろん f(x) ∈ Y です。また、f(x) が Y のある

元 y のとき、つまり y = f(x) のとき、

f : x 7−→ y

と、ちょっと特殊な矢印を使って表します。

具体例をあげましょう。私が大学生の頃「ねるとん紅鯨団」という「写像を作るテレビ番組」が

ありました。男女を数人ずつ募集し公開で合コンをさせて最後に男性が女性に「つきあってくださ

い」と「告白」する、というかなりしょーもない番組でした。この「告白」には次の三つのルール

が課せられているのですが、これが「男性の集合から女性の集合への写像」の定義そのものなの

です。

ルール 1. 「告白」できるのは男性のみであって女性はしてはならない。

ルール 2. 男性は必ず女性に対して「告白」しなければならない。気に入った人がいな

いから「告白」しないということは許されない。

ルール 3. 「告白」できる相手は一人だけである。二股をかけてはならない。

� �男性

一郎

二郎

三郎

四郎

女性

春子

夏子

秋子

冬子

図 1: 「告白」という名の写像。� �写像の定義に関しては、このイメージだけ持っていれば十分に事足ります。

なお、集合 X と集合 Y は同じ集合でも結構です。その場合 f : X → X ということになります。

これについて考えるときには、定義域としての X を考えているのか値域としての X を考えてい

るのか常にはっきりと意識するようにするとよいと思います。X から X への写像で、任意の元に

それ自身を対応させるという、いわば「なにも動かさない」写像のことを恒等写像と言います。4後に出てくる「写像 f の像」のことを値域と呼ぶ人もかなりいます。参考書などを読むときには注意して下さい。

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第 1 回解答 20

5.2 写像の像

X の元 x の写像 f X → Y による行き先 f(x) のことを「f による x の像」と言います。この

言い方は定義域の一つの元についてだけの言い方ですが、X の部分集合に対しても同じ言い方を

します。つまり、A ⊂ X に対し「A に属する元の像全体がなす Y の部分集合」

{f(x) ∈ Y | x ∈ A} (13)

を「f による A の像」と呼ぶのです。元の像は元であり、部分集合の像は部分集合であることに

気を付けて下さい。部分集合の像を表す記号を決めたいのですが、文字が増えると混乱するので、

写像の記号を流用して f(A) と書いてしまいます。本来は括弧の中に入れられるのは定義 X の元

だけなのですが、部分集合の像を表すのにいつもいつも式 (13)のように書くのはいかにも面倒な

ので、括弧の中に部分集合を入れることで表してしまえ、というわけです。誤解しないように気を

付けて下さい。

なお、X の特別な部分集合として X 自身があります。それの像 f(X) を「写像 f の像」と呼

びます。

5.3 合成写像

問題とは関係ありませんが、話の流れからここで説明したいので書いてしまいます。

もう一つ集合 Z があり、Y から Z への写像 g : Y → Z があったとき、写像 f : X → Y を

x ∈ X に施したもの f(x) は Y の元なのですから g を施すことができます。つまり、g(f(x)) と

いう Z の元が決まります。そこで、X の任意の元 x に対して Z の元 g(f(x)) を対応させること

により、新たに X から Z への写像ができあがります。これを f と g の(あるいは g と f の)合

成写像と言います。

この写像のことを記号でどう書けばよいでしょうか。g(f(x)) と書きたくなるかも知れませんが、

X から Y への写像を f(x) と書かずに f とだけ書いたように、「(x)」の部分を表に出さずに書く

記号を決めておくと便利です。そこで、f と g の合成写像のことを

g ◦ f : X −→ Z

と書くことにします。「g ◦ f で一文字」という気持ちです。もちろん g ◦ f(x) = g(f(x)) が g ◦ fという写像の定義です。g の方があとに施されるので g を左側に書きます。g(f(x)) の順序と合わ

せてあるわけです。

合成写像については特に理解しにくいところはないだろうと思います。g ◦ f という記号に馴染みさえすれば O.K.でしょう。

5.4 逆像

写像 f : X → Y とは 定義域 X の元を一つ決めるごとに値域 Y の元が一つ決まれば良いだけ

なので、Y の元を一つ決めても、それを像とする X の元があるかどうかわからないし、あっても

一つとは限りません。だから、写像 f が一つ決められたときに逆向きの対応は普通写像になりま

せん。しかし、f を使って値域 Y の部分集合に定義域 X の部分集合を一つ対応させることはで

きます。B ∈ Y に対し

{x ∈ X | f(x) ∈ B}

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第 1 回解答 21

� �男性

一郎

二郎

三郎

四郎

女性

春子

夏子

秋子

冬子

「告白」写像 f

男性

一郎

二郎

三郎

四郎

「密かな想い」写像 g

男性

一郎

二郎

三郎

四郎

男性

一郎

二郎

三郎

四郎

合成写像 g ◦ f

四郎だけが「告白」を受け入れられる

図 2: f と g の順序が上の図と合成写像の記号 g ◦ f で逆になることに注意。� �という部分集合、すなわち

f によって B の中に写される元全体

を対応させれば良いわけです。これのことを f による B の逆像と呼び、

f−1(B)

と書きます。f−1 は Y から X の写像ではないということに注意して下さい。あくまでも、A の

f による像を f(A) と書くことに似せて作った記号に過ぎません。

なお、f−1 という記号を使うに相応しい Y から X への写像(すなわち f の逆写像)について

はプリント最後の第 5.6節で少しだけ触れます。

5.5 単射と全射

集合 X から集合 Y への写像 f : X → Y が一対一の写像あるいは単射であるということと、上

への写像あるいは全射であるということについて説明します。

写像 f が単射であるとは、X の別な元は必ず Y の別な元に対応している、式で書けば、

x1 ̸= x2 =⇒ f(x1) ̸= f(x2)

が成り立っているときを言います。先ほどの「告白」の例では、三郎さんと四郎さんがどちらも同

じ夏子さんに「告白」しようとしているので単射ではありません。

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第 1 回解答 22

写像 f が全射であるとは、Y のどの元にも少なくとも一つの X の元が対応している、つまり、

任意の y ∈ Y に対し、f(x) = y となる x ∈ X が(少なくとも一つ)存在する。

が成り立っているときを言います。「告白」写像の例では、誰も秋子さんに「告白」しようとして

いないので全射ではありません。

5.6 全単射と逆写像

さて、写像 f : X → Y が単射でもあり全射でもでもあるとき f は全単射であると言います。全

単射においては、矢印 7→ の向きをすべて逆にすることによって Y から X への写像が得られま

す。なぜなら、f が全射であることから Y の任意の元に矢印が来ており、しかも単射なのでその

本数はすべて一本ですから、矢印の向きを一斉に逆さまにすると、Y のすべての元から一本ずつ

矢印が出ていることになり、これは写像の定義を満たすからです。こうして作った Y から X への

写像のことを f の逆写像と呼び、

f−1 : Y −→ X

と書きます。記号が増えないようにするために逆像の記号と同じものを使ってしまいますが、任意

の写像について考えられる逆像とは違って逆写像は全単射の場合にしか考えられないことに注意し

て下さい。

定義から

f(x) = y ⇐⇒ f−1(y) = x

なので、

f−1 ◦ f は X から X への恒等写像、

f ◦ f−1 は Y から Y への恒等写像

となります。逆に、g : Y → X で

g ◦ f は X から X への恒等写像であり、

f ◦ g は Y から Y への恒等写像である

を満たすものが存在するなら f は全単射であり g = f−1 が成り立ちます。

さて、先ほどの「告白」写像は一対一でも上への写像でもありませんが、X と Y をもっと小さ

い集合に取り替えることで全単射にしてしまうことができます。例えば、急な用事で三郎さんと秋

子さんが合コンから抜けたとすると、一郎、二郎、四郎の三人からなる X の部分集合 X ′ から、

春子、夏子、冬子の三人からなる Y の部分集合 Y ′ への「告白」写像は全単射になります。この

ように、もとの集合を適当な部分集合に取り替えて全単射にすることで逆写像を考えることができ

るようになります。X ′ から Y ′ への写像としての「告白」も逆写像を持ちます。(ただし、「夏子

7→四郎」の対応以外は女性の想いとは何の関係もありませんが。)