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282. トリクロロ酢酸
別 名:TCA
PRTR 政令番号:1-282 (旧政令番号-)
C A S 番 号:76-03-9
構 造 式:
・トリクロロ酢酸は、医薬品原料、腐食剤、角質溶解剤や塗装はく離剤などとして使われています。
・2010 年度の PRTR データでは、環境中への排出量は約 0.49 トンでした。すべてが事業所から排出さ
れたもので、すべて河川や海などへ排出されました。
■用途 トリクロロ酢酸は、常温で白色の固体です。水に溶けやすい物質で、空気中の水分を吸って容
易に水溶液になる性質(潮解性)があり、その水溶液は強酸性と強い腐食性を示します。
医薬品の原料、腐食剤、角質溶解剤、塗装はく離剤、除たんぱく剤や生体内たんぱく・脂質の
分画剤に使われています。また、水道では、水道原水中の有機物質と臭素や消毒剤(塩素)とが
反応して生成される副生成物のひとつです。
■排出・移動 2010 年度の PRTR データによれば、わが国では 1 年間に約 0.49 トンが環境中へ排出されたと見
積もられています。すべてが中小などの事業所から排出されたもので、すべて河川や海などへ排
出されました。この他、化学工業の事業所から廃棄物として約 0.43 トンが移動されました。
■環境中での動き 環境中へ排出されたトリクロロ酢酸は、大気中へ排出された場合は、蒸気として存在すると考
えられます 1)。大気中では化学反応によって分解され、31 日で半分の濃度になると計算されてい
ます 1) 。光による分解は受けないと想定されます 1)。
水中に入った場合は、水中の懸濁物質(水中の粒子)や水底の泥に吸着されることはないと予
想されます。また、大気中への揮発したり、加水分解されることも想定されません。化審法の分
解度試験では、微生物分解はされにくいとされています 2)。
■健康影響 毒 性 ラットに体重1 kg当たり1日364 mgのトリクロロ酢酸を2年間、飲み水に混ぜて与えた実験
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では、肝臓重量の減少などが認められています3)。このラットの実験結果から、TDI(耐容一日摂
取量)は体重1 kg当たり1日0.0325 mgと算出され、これに基づいて水道水質基準が設定されていま
す3)。
体内への吸収と排出 人がトリクロロ酢酸を体内に取り込む可能性があるのは、飲み水によると
考えられます。体内に取り込まれた場合は、ラットの実験では、ほとんどが尿に含まれて排せつ
され、8 時間で投与量の半分の濃度になったと報告されています 1)。
影 響 水道水や河川からは水道水質基準を超える濃度のトリクロロ酢酸は検出されておらず、
飲み水を通じて口から取り込むことによる人の健康への影響は小さいと考えられます。
■生態影響 現在のところ、わが国では水生生物に対する信頼できる PNEC(予測無影響濃度)は算定され
ていません。
性 状 白色の固体 水に溶けやすい 潮解性がある
生産量
(2010 年)
国内生産量:公表データなし
排出・移動量
(2010 年度
PRTR データ)
環境排出量:約 0.49 トン 排出源の内訳[推計値](%) 排出先の内訳[推計値](%)
事業所(届出) 1 大気 -
事業所(届出外) 99 公共用水域 100
非対象業種 - 土壌 -
移動体 - 埋立 -
家庭 - (届出以外の排出量も含む)
事業所(届出)における
排出量:約 0.006 トン
業種別構成比(上位 5 業種、%)
化学工業 100
- -
- -
- -
- -
事業所(届出)における
移動量:約 0.43 トン
移動先の内訳(%)
廃棄物への移動 100 下水道への移動 -
業種別構成比(上位 5 業種、%)
化学工業 100
- -
- -
- -
- -
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PRTR 対象
選定理由
経口慢性毒性
環境データ 水道水
・原水・浄水水質試験:水道水質基準超過数;原水0/289地点,浄水0/5804地点;[2009年度,
日本水道協会] 4) 5)
公共用水域
・要調査項目存在状況調査:検出数 29/76 地点,最大濃度 0.0065 mg/L;[2000 年度,環境
省]6)
・化学物質環境実態調査:検出数 0/21 検体(検出下限値 0.005 mg/L);[1984 年度,環境省]7)
地下水
・要調査項目存在状況調査:検出数 0/15 地点(検出下限値 0.0001 mg/L);[2000 年度,環
境省] 6)
底質
・化学物質環境実態調査:検出数 0/21 検体(検出下限値 0.02~0.05 mg/kg);[1984 年度,
環境省]7)
適用法令等 ・水道法:水道水質基準値 0.2 mg/L 以下
注)排出・移動量の項目中、「-」は排出量がないこと、「0」は排出量はあるが少ないことを表しています。
■ 引用・参考文献 1)TOXNET「Hazardous Substances Data Bank」TRICHLOROACETIC ACID
http://toxnet.nlm.nih.gov/cgi-bin/sis/search/r?dbs+hsdb:@term+@rn+@rel+76-03-9 2)(独)製品評価技術基盤機構「既存化学物質安全性点検データ」
http://www.safe.nite.go.jp/jcheck/direct.do?table_name=bunchiku&k_no=0674 3)厚生労働省「水質基準の見直しにおける検討概要」トリクロロ酢酸
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/dl/k29.pdf 4) (社)日本水道協会「水道水質データベース」平成 21 年(2009 年)水質分布表・原水
http://www.jwwa.or.jp/mizu/pdf/2009-b-01gen-02avg.pdf 5)(社)日本水道協会「水道水質データベース」平成 21 年(2009 年)水質分布表・浄水(給水栓水等)
http://www.jwwa.or.jp/mizu/pdf/2009-b-04Jyo-02avg.pdf 6)環境省「要調査項目存在状況調査結果(平成 12 年度)」
http://www.env.go.jp/water/chosa/h12.pdf 7)環境省「平成 22 年度(2010 年度版)化学物質と環境」(化学物質環境実態調査)化学物質環境調査結
果概要一覧表 http://www.env.go.jp/chemi/kurohon/2010/shosai/4_2.xls
■ 用途に関する参考文献
・ 厚生労働省「水質基準の見直しにおける検討概要」トリクロロ酢酸
http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/kenkou/suido/kijun/dl/k29.pdf ・ 化学工業日報社『16112 の化学商品』(2012 年 1 月発行)