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カレント・トピックス No.17-11 1 平成296217-11カレント・トピックス 独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 アジアのインフラニーズと中国の取り組み(3) ―電力インフラ整備と銅需要― <調査部 金属資源調査課 小嶋吉広 報告> はじめに 1 回報告(http://mric.jogmec.go.jp/public/current/17_08.html)では、アジア開発銀行 ADB)によるアジアのインフラニーズに係る分析レポートの内容を紹介し、インフラ資金ニーズ 2030 年まで)の 58%は中国での資金需要であり、セクター別では電力セクターが 56%を占める ことを報告した。第 2 回目(http://mric.jogmec.go.jp/public/current/17_09.html)では、アジ アでのインフラ投資に関し、ADB や世銀等の国際開発金融機関を今後補完する可能性のある AIIB (アジアインフラ投資銀行)や新開発銀行(NDBNew Development Bank)等新たな国際開発金融 機関の資金支援動向について報告した。また、これら中国主導で設立された国際開発金融機関に 加え、中国輸出入銀行および国家開発銀行も、一帯一路政策に関連する資金支援を拡大させてい ることを述べた。 最終回となる今回は、インフラ投資によるベースメタル需要への影響について、主に発電能力 と銅消費量の関係を例として考察する。中国の銅消費量は、経済成長や都市化に伴うインフラ整 備により直近 10 年で急激に拡大し、2016 年は世界全体の需要の約 51%となり(図 1 参照)、もは やマーケットにおいて圧倒的なシェアを占めるに至っている。 1.銅消費量の推移 出典:WBMS 3,614 21.7% 11,451 50.3% 11,642 50.8% 16,670 22,776 22,930 0 5,000 10,000 15,000 20,000 25,000 (単位:千tその他 ロシア イタリア 韓国 日本 ドイツ 米国 中国

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カレント・トピックス No.17-11

1

平成29年6月2日 17-11号

カレント・トピックス 独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構

アジアのインフラニーズと中国の取り組み(3)

―電力インフラ整備と銅需要―

<調査部 金属資源調査課 小嶋吉広 報告>

はじめに

第 1 回報告(http://mric.jogmec.go.jp/public/current/17_08.html)では、アジア開発銀行

(ADB)によるアジアのインフラニーズに係る分析レポートの内容を紹介し、インフラ資金ニーズ

(2030 年まで)の 58%は中国での資金需要であり、セクター別では電力セクターが 56%を占める

ことを報告した。第 2回目(http://mric.jogmec.go.jp/public/current/17_09.html)では、アジ

アでのインフラ投資に関し、ADB や世銀等の国際開発金融機関を今後補完する可能性のある AIIB

(アジアインフラ投資銀行)や新開発銀行(NDB:New Development Bank)等新たな国際開発金融

機関の資金支援動向について報告した。また、これら中国主導で設立された国際開発金融機関に

加え、中国輸出入銀行および国家開発銀行も、一帯一路政策に関連する資金支援を拡大させてい

ることを述べた。

最終回となる今回は、インフラ投資によるベースメタル需要への影響について、主に発電能力

と銅消費量の関係を例として考察する。中国の銅消費量は、経済成長や都市化に伴うインフラ整

備により直近 10年で急激に拡大し、2016年は世界全体の需要の約 51%となり(図 1参照)、もは

やマーケットにおいて圧倒的なシェアを占めるに至っている。

図 1.銅消費量の推移

出典:WBMS

3,614 21.7%

11,451 50.3%

11,64250.8%

16,670

22,776 22,930

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

(単

位:千

t)

その他

ロシア

イタリア

韓国

日本

ドイツ

米国

中国

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カレント・トピックス No.17-11

2

1.ベースメタル需要への影響

1.1 発電設備容量と銅消費との関係

中国の銅需要の用途別内訳を図 2 に示す。銅需要の 41%は電力セクターが占めており、このた

め電力インフラの整備と銅消費は密接な関係を有する。以下、発電設備容量と銅消費の関係につ

いて見てみたい。

図 2.中国の銅需要(用途別内訳、2016年)

出典:中国有色金属工業協会

1.2 日本の発電設備容量と銅消費との関係

図 3 は日本の発電設備容量の電源別推移と銅消費量を示しており(データが取れる 1969~2014

年度を対象)、両者の関係について考察してみる。1952 年の銅消費量 96.3 千 t を基準とし、当該

期間の銅消費量のピーク(1991 年の 1,613.2 千 t)の差をまず出す(1,613.2 千 t-96.3 千 t=

1,516.9千 t)。次に、当該期間の発電設備容量の増加分(167,475㎿)で割り、1㎿増加当たりの

銅消費量を算出すると 9.05t となった。換言すると、(銅の電力以外の用途は敢えて考慮せず簡

便的に見ると)発電能力が 1㎿増加すると 9.05tの銅消費が増加したこととなる。しかしながら、

1952 年は日本国内の電化がまだ十分に普及しておらず、現在の電力事情や生活様式とやや異なる

点も多いため、基準年を日本経済が安定成長に入りつつあった 1970 年として同様に試算すると

6.62t となった(1970年の銅消費量 820.6千 t、発電設備容量の増加分 119,640㎿)。

電力

41.3%

耐久消費財(冷蔵

庫、エアコン、家

電等)

15.2%

電気通信

15.1%

機械(機関車、建

機、重機等)

10.1%

運輸

7.8%

建築

3.2%その他

7.3%

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カレント・トピックス No.17-11

3

図 3.日本の発電設備容量と銅消費量の推移

出典:エネルギー白書

1.3 中国の発電設備容量と銅消費との関係

図 4に中国の発電設備容量と銅消費の関係を示す(データが取れる 1996~2016年を対象)。1.2

の方法と同様に中国について発電設備容量と銅消費量の増加の関係を計算すると、1996 年(1,260

千 t)と 2016年(10,620千 t)の差(9,360千 t)を当該期間の発電設備容量の増加分(1,409,208

㎿)で除した結果、6.64t となった。これは中国の場合、発電能力が 1 ㎿増加すると 6.64t の銅消

費が増加したこととなる。

図 4.中国の発電設備容量と銅消費量の推移

出典:CRU、CEIC Data等を基に JOGMEC作成

1952年96.3 千t

1970年820.6 千t1991年1,613.2千t

0

200

400

600

800

1,000

1,200

1,400

1,600

1,800

0

50,000

100,000

150,000

200,000

250,000

300,000

銅消

費量

(千t)

発電

設備

容量

(MW

)

新エネ等

原子力

石油等

LNG

石炭

揚水

一般水力

銅消費量

2016年10,620 千t

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

0

500,000

1,000,000

1,500,000

2,000,000

銅消

費量

(千t)

発電

設備

容量

(MW

)

火力 水力 原子力 風力 太陽光 その他非化石 銅消費量

計画

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1.4 中国の電力分野での銅需要見通し(試算)

IMFの世界経済見通し(2017年 4月)によれば、中国の経済成長率の予測値は 2017年が 6.6%、

2018 年が 6.2%、2022 年が 5.7%と成長が減速したとは言え、6%前後の高い成長率が今後数年間

は見込める。本項では、このように今後数年、中国の堅調な経済成長が持続するという前提に立

ち、電力整備による銅消費への影響について試算してみる。

2016 年 11 月に発表された「電力発展の第 13 次 5 カ年計画」で中国政府は、2020 年の発電設備

容量を 200 万㎿(20 億㎿)へ拡大させる計画である。2016 年の発電量が 165 万㎿であるので、計

画どおりに 35 万㎿の発電設備容量が拡大され、また前述の 1 ㎿増加当たりの銅使用量増加分

(6.64t)が今後も当てはまるのであれば、6.64t/㎿×35万㎿=2,324千 t の銅需要の増加が 2020

年までに見込めることとなる。2020 年までの 4年間で単純に割った場合、毎年 58.1万 tの需要増

加が試算できる(2016年の消費量の約 5%に相当)1。

中国の電力消費状況を国際的に比較するため、人口一人当たりの電力消費量を図 5 に示す。中

国の人口一人当たりの電力消費量は日本の半分以下の水準であるので(2013 年時点)、中長期的

に見ても電力インフラ整備による銅消費量は成長の余地があると言える。

図 5.人口一人当たりの電力消費量

出典:世銀データ

1.5 太陽光発電と銅消費

このように、今後も堅調な経済成長が持続する限り、中国の銅消費量は増加の余地が見込める

が、銅消費量の増加に作用する他の要素として、太陽光発電の拡大が挙げられる。前述の「電力

発展の第 13 次 5カ年計画」では、新エネルギーの拡大に重点が置かれ、太陽光や水力発電等の非

化石エネルギーの発電設備容量を 2020年までに約 7.7 ㎿増加させる予定である。

発電設備 1㎿当たりの銅消費量は、BGRIMM Lilan Consulting によれば、太陽光発電の場合

5.8t/㎿、その他の発電方式(火力発電等)の場合 3.9t/㎿であり、太陽光発電の方が銅を約 1.5

倍消費する。また、CRUによれば太陽光発の場合 6t/㎿、風力で 2.5t/㎿、水力発電は 0.9t/㎿と

1 本試算は銅価上昇によるアルミニウムへの代替は考慮しておらず、また簡便的な試算である点に留意頂きたい。参考

まで、CRUは 2020年の中国の銅消費量を 11,340千 tと予測している。

3,762

765

7,836

10,428

12,988

0

2,000

4,000

6,000

8,000

10,000

12,000

14,000

16,000

(kW

h/人)

米国

韓国

日本

中国

インド

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5

なっている 2。

BGRIMM Lilan Consultingの数値(太陽光:5.8t/㎿、その他方式:3.9t/㎿)を用い、中国の太

陽光発電に係る今後の増加を試算すると、2016年の発電設備容量が 77,420㎿であるため、2020年

の計画値(11 万㎿)を達成するためには 32,580 ㎿の設備増加か必要となる。これに太陽光発電と

その他の方式の原単位の差(5.8t/㎿-3.9t/㎿=1.9t/㎿)を乗じると 61,902tの銅消費増加が見込

まれると試算される。

2.電力セクター以外のインフラ投資によるベースメタル需要への影響

2.1 電力セクター以外のベースメタル需要への効果

本シリーズの第 1回(http://mric.jogmec.go.jp/public/current/17_08.html)で、アジア開発

銀行による 2030 年までのアジアのインフラ投資ニーズ分析を報告したが、セクター別に見ると

(図 6参照)、電力に次いでインフラ投資ニーズの大きなセクターは運輸インフラとなっている。

図 6.2030年までに必要なインフラ投資のセクター別内訳

出典:「Meeting Asia’s Infrastructure Needs」より JOGMEC作成

2.2 道路インフラ投資によるベースメタル需要への影響

運輸インフラの内、道路インフラ整備によるベースメタル需要への寄与としては、ガードレー

ルに用いられる亜鉛めっき鋼板の需要拡大に貢献するほか、間接的ではあるが道路の路盤材とし

てのスラグ需要が拡大することが期待される。また高速道路の整備によるモータリゼーションの

発達は乗用車の普及を一層促進させる。参考まで、乗用車 1 台当たりの金属使用量は、銅で約 20

~30 ㎏(電気自動車の場合は約 50~60 ㎏)、亜鉛は約 14~18 ㎏、鉛は約 10~11㎏と言われてい

る 3。世界最大の自動車生産国である中国の、自動車生産台数の推移と亜鉛使用量を図 7 に、また

2 他の文献では、Sydney 大学の Warren Centre が 2016 年に International Copper Association と共同で行った調査

「The Copper Technology Roadmap 2030」2によれば、太陽光発電の場合 4~5t/㎿の銅を使用するとのこと。

3 CRUによる推定値。亜鉛は溶融めっき用途の他、ダイカスト用途も含む。

52%35%

10% 3%

電力56%

運輸32%

通信9%

水利3%

内側:ベースライン予測

(計22兆5,510億US$)

外側:気候変動調整済み予測

(計26兆1,660億US$)

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6

亜鉛の用途を図 8に示す。

図 7.中国における自動車生産台数と亜鉛消費量

出典:WBMS、CEICデータより JOGMEC作成

図 8.中国における亜鉛の用途

出典:中国有色金属工業協会

2.3 鉄道インフラ投資によるベースメタル需要への影響

運輸インフラの内、鉄道インフラに関しては、車両に用いられるアルミニウムやステンレスの

需要増加に繋がる他、架線(トロリ線)や信号システムに銅が使用されていることから銅の消費

量増加にも寄与する。中国における 2015 年の鉄道新規建設距離は 9,531 ㎞であり、既存路線の電

化を含めると、鉄道セクターにおける銅消費量は 189 千 t(同年の中国の消費量 10,162 千 t の約

0

1,000

2,000

3,000

4,000

5,000

6,000

7,000

0

5,000

10,000

15,000

20,000

25,000

30,000

亜鉛消費量(千

t)

自動車生産台数(千台)

自動車生産台数 亜鉛消費量

60%22%

11%

6% 1%

溶融めっき用

合金

酸化亜鉛

電池

その他

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1.9%)であった(内訳は図 9参照)。

図 9.中国における鉄道セクターの銅消費内訳(2015年)

出典:CRU

2.4 海外のインフラ整備による中国への裨益効果

中国国内への効果だけでなく、一帯一路政策によるインフラ整備等の経済協力を通じ、アジア

地域の経済成長が促進され、将来的に同地域におけるベースメタル需要の開拓・喚起に繋がるこ

とも期待できる。また特に機械やプラント等の輸出案件の場合、中国の工業標準や基準を途上国

へ普及させることにも役立ち、運転開始後のメンテナンス需要や運転技術等の研修を通じた技術

協力の推進といった効果も期待でき、将来における中国企業の進出基盤整備・環境整備にも役立

つ。

おわりに

これまで 3 回に亘って報告したように、中国は、その経済力と膨大な人口を背景にこれまで積

極的なインフラ投資を行い、また今後もインフラ投資の需要が見込める。さらに、第 2 回で報告

したように海外、特に一帯一路地域でのインフラ整備プロジェクトも積極的に行っている。積極

的なインフラ投資に対応するため、銅の製錬能力拡大を図ってきており、近年では、中国の急激

な製錬能力拡大による TC/RCの低下など、国際的な鉱石の買鉱条件にも影響を与えている。

また外に目を転じると、シルクロード基金や中国輸出入銀行を通じた経済協力により中国は、

相手国との友好関係強化だけでなく、中国企業の海外展開支援、中国製資機材の輸出促進という

裨益効果を享受できる。ベースメタルの一大消費国である中国の国内政策と対外動向を把握する

ことは、ベースメタル需給を分析する上で極めて重要である。

新規建設に係る架線、信号シス

テム等55%

車両7%

既設路線の電化、駅建設等に

よる需要38%

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おことわり:本レポートの内容は、必ずしも独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構としての見解を示すものではありません。正確な情報をお届けするよう最大限の努力を行ってはおりますが、本レポートの内容に誤りのある可能性もあります。本レポートに基づきとられた行動の帰結に

つき、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構及びレポート執筆者は何らの責めを負いかねます。なお、本資料の図表類等を引用等する場合には、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構資料からの引用である旨を明示してくださいますようお願い申し上げます。