平成29年度中小企業の成長期待値評価モデル の実 …まず、crd...

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平成29年度中小企業庁委託事業 平成29年度中小企業の成長期待値評価モデル の実証調査事業 報告書 平成30年3月 一般社団法人CRD協会

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平成29年度中小企業庁委託事業

平成29年度中小企業の成長期待値評価モデル

の実証調査事業

報告書

平成30年3月

一般社団法人CRD協会

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目次

はじめに ................................................................................................................................. 1

I. 事業概要 .......................................................................................................................... 3

(1) 本事業における実施体制 ......................................................................................... 3

(2) 本事業の流れ............................................................................................................ 5

II. 成長期待値評価モデルの構築について ........................................................................... 7

(1) 平成 28 年度事業におけるプロトタイプモデルの概要 ........................................... 7

〔補論〕複数のアプローチの検討 ................................................................................ 19

(2) 平成 29 年度事業におけるモデル実用化への取り組み ......................................... 20

(3) 試験運用モデル構築結果 ....................................................................................... 29

(4) 統合指標の検討 ...................................................................................................... 33

(5) 試験運用モデルを用いた個社事例 ......................................................................... 35

(6) 試験運用モデルの有用性検証結果 ......................................................................... 39

(7) 第Ⅱ章まとめ.......................................................................................................... 48

III. ユーザ試験による情報還元内容について ................................................................. 49

(1) ユーザ試験の進め方 ............................................................................................... 49

(2) 個社評価結果に基づく情報還元 ............................................................................ 50

(3) ポートフォリオ分析結果に基づく情報還元 .......................................................... 60

(4) 今後のモデル・ツールの活用についての情報還元 ............................................... 62

(5) ツールを利用した感想の情報還元 ......................................................................... 65

(6) その他の情報還元 .................................................................................................. 67

(7) 第Ⅲ章まとめ.......................................................................................................... 68

最後に ................................................................................................................................... 70

≪資料 1≫研究会開催日時及び議題一覧 ............................................................................. 71

≪資料 2≫指標定義詳細 ....................................................................................................... 72

≪資料 3≫精度向上に向けた取り組み ................................................................................. 75

≪資料 4≫成長期待値評価モデル搭載ツールについて ....................................................... 80

≪資料 5≫ユーザ試験 回答用紙雛形 ................................................................................. 86

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はじめに

本調査事業の目的

本調査事業は、実質的に「平成 28 年度中小企業等の事業性評価に向けたモデル構築調査

(http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000683.pdf)」事業の継続事業である。本

事業主である中小企業庁事業環境部金融課より提示された『仕様書』には、平成 28 年度の

調査事業の目的も併せた事業目的が示されており、以下『』で引用する。

『中小企業・小規模事業者(以下「中小企業」という。)の持続的な成長・発展のために

は、金融機関から成長資金が円滑に供給されていくことが重要である。

現在、金融機関の融資審査等では、デフォルトリスク予測(以下「信用評価モデル」とい

う。)による企業評価が広く行われている。

一方、信用評価モデルでは相対的に低い評価となってしまう企業群の中にも高成長が期

待できる中小企業は存在する。

このため、本事業においては、成長企業に対するリスクマネーの供給を円滑化していくこ

とを目的として、中小企業の評価手法の多軸化に向けた中小企業の成長期待値を評価する

モデル(以下「成長期待値評価モデル」という。)の実証調査を実施していく。』

上記の事業目的をイメージ化すると、下図のようになる。すなわち、従来の主な融資対象

企業は、信用力の評価でほとんど決まっていた。信用力の高低の重要性は変わらないが、そ

こに成長性というもう一つの軸を加えることで、信用力が相対的に低い評価であったとし

ても、高成長が期待できる中小企業は、新たな融資対象と成り得るのではないか、と考える

ものである。そのために必要な、期待される成長性の高低を評価するモデルを構築すること

が本事業の主な目的となる。

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事業内容

本調査事業の内容に関する詳細は本文中に記載するが、『仕様書』に基づき箇条書きに

すると、以下のようになる。

1. 成長期待値評価モデルの汎用性検証

(1) 評価軸としての有用性の検証(第Ⅱ章(5)(6))

(2) 精度水準の検討(第Ⅱ章(2))

2. 実務者向け成長期待値評価モデルの構築及びユーザ試験調査

(1) 試験運用モデルの構築(第Ⅱ章(2)~(4))

(2) 試験運用モデルのユーザ試験(第Ⅲ章)

(3) ユーザによるカスタマイズに向けた変数等の整理(第Ⅲ章(2))

箇条書きの右端に示している章節番号は本報告書のそれであり、事業を実施する中で濃

淡はあるものの、本事業では上記の項目を全てカバーし、本報告書に記載している。その

上で、本事業の成果が将来的に社会で広く活用いただけるように仕上げることを目標に、

成長期待値評価モデルの使い勝手向上、精度向上に取り組んだ。

報告書の構成

本報告書は、三章に分かれている。第Ⅰ章では、本事業全体の実施体制や流れについて

概要を説明する。第Ⅱ章では、昨年度に引き続く成長期待値評価モデルの精度向上及び使

い勝手向上に向けた取り組みと、その結果について報告する。第Ⅲ章では、第Ⅱ章で説明

する成長期待値評価モデルを搭載した Excel ツールについての説明、及び、そのツールを

試験的にご利用いただいた複数機関からのフィードバック内容について報告する。また、

ユーザ試験を依頼した機関のうち、CRDへ事前にデータ提供いただいている機関について

は、ツールとは別途、ポートフォリオ分析の結果についてお示しするとともに、フィード

バックいただいている。第Ⅲ章ではその内容についても記す。

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I. 事業概要

(1) 本事業における実施体制

本事業の実施体制の大枠(【図表 1】参照)は、平成 28 年度の事業と同様であるが、一

部改編されている。

【図表 1】事業実施体制図

まず、CRD協会1が中小企業庁より業務委託を受け、中小企業の成長期待値評価モデルの

構築を行い、みずほ第一 FT(株)に協力会社として分析作業を依頼した点は、前年度と同

じである。また、平成 28年度事業においてアドバイザリーボードの位置づけで開催した「中

小企業における成長予測のための研究会」については、本年度も引き続き開催した(開催日

時等は巻末「≪資料 1≫研究会開催日時及び議題一覧」参照)。ただし、本年度の研究会に

1 CRD(Credit Risk Database)は、中小企業の経営データ(財務・非財務データおよび

デフォルト情報)を集積する機関として、全国 52の信用保証協会を中心に任意団体 CRD

運営協議会として 2001年 3月にスタート。設立の趣旨は、データから中小企業の経営状

況を判断することを通じて、中小企業金融に係る信用リスクの測定を行うことにより、中

小企業金融の円滑化や業務の効率化を実現することをめざしたもの。その後、会員、蓄積

データも増え、中小企業の経営関連データを集積する金融インフラとしての地歩が固ま

り、2005年 4 月有限責任中間法人として法人格を取得。さらに、一般社団法人及び一般

財団法人に関する法律の施行に伴い、2009年 6月に名称を「一般社団法人 CRD協会」と

変更。

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は、昨年度の研究会委員 11 名のうち、金融機関実務に携わられている 5 名2の方に継続して

ご参加いただき(【図表 2】参照)、研究会の名称も「中小企業の成長期待値評価モデル実証

調査研究会」と改めた。委員を金融機関実務者に絞り込んだ理由は、本年度事業が、モデル

構築後の活用を念頭に置いた検証を重視したものであり、想定ユーザ(主に金融機関)によ

る助言を必要としたからである。このような事業目的に沿って、本年度の研究会では、主に、

モデル評価結果及びツールの利用を想定した具体的な意見交換をお願いした。

【図表 2】「中小企業の成長期待値評価モデル実証調査研究会」委員

荒川 研一 株式会社りそな銀行 リスク統括部

金融テクノロジーグループ グループリーダー

香山 隆 株式会社池田泉州銀行 融資部 主任調査役

竹内 清 株式会社日本政策金融公庫 中小企業事業本部 事業企画部 副部長

馬場 慎一 株式会社滋賀銀行 システム部 システム企画グループ 課長

森口 雅和 京都信用金庫 理事 経営管理本部副本部長 兼 リスク統括部長

(五十音順・敬称略・役職は平成 30年 3 月末日時点)

この他、本年度事業では、モデル構築だけでなく、構築されたモデルを試験的にご利用

いただくユーザ試験までが仕様に含まれている。ユーザ試験については、上述の研究会委

員の皆様がご所属されている金融機関 5 機関を始め、その他の 5 機関(金融機関、信用保

証協会、再生支援協議会、格付機関)にもご協力いただき、全 10 機関に実施をお願いし

た(【図表 3】参照)。ユーザ試験協力機関には、成長期待値評価モデルを搭載したツール

を、実在の企業の評価に試験的にご利用いただき、モデル評価結果と実際の成長度合を比

較衡量の上、モデルを活用する際の有効性や留意事項について、CRDへ情報還元いただい

た。また、事前に CRDにデータ提供いただいているユーザ試験協力機関向けには、成長

期待値評価モデルを用いたポートフォリオ分析結果をお示しし、それらの情報に基づく成

長期待値評価モデルの活用可能性についても CRDへ情報還元いただいた。これらの情報

還元の内容については、CRD事務局にて一旦取り纏めた上で、第 III 章に記載している。

なお、ユーザ試験で利用したツールは、若干の機能の違いはあるものの、中小企業庁へ納

品するツールであり、本報告書と同時に公開される予定である。

2 平成 28年度事業においてご参加いただいていた京葉銀行様は、異動等のご事情により、

平成 29 年度事業の研究会には不参加であったが、ユーザ試験にはご協力いただいた。

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【図表 3】ユーザ試験協力機関一覧(全 10 機関)

大阪信用保証協会 株式会社池田泉州銀行

株式会社格付投資情報センター(R&I) 株式会社京葉銀行

株式会社滋賀銀行 株式会社日本政策金融公庫 中小企業事業本部

株式会社りそな銀行 京都信用金庫

東京信用保証協会 千葉県中小企業再生支援協議会

(五十音順・敬称略)

最後に、統計数理研究所の山下智志教授には、昨年度に引き続き、モデル構築に際して

の技術アドバイザーをお願いした。本事業では、平成 28 年度で構築した試作モデルを、

最終モデルに精緻化することが必須であり、その過程で、適宜助言を頂戴した。

(2) 本事業の流れ

本年度の事業は、大別すると前半と後半のフェーズに分けられる。前半(概ね平成 29

年中)は、平成 28年度の事業で構築したプロトタイプモデルを実用化に近づけたモデル

(以下、仕様書に従い“試験運用モデル”と呼ぶ)を構築するフェーズである。後半(概ね

平成 30 年中)は、構築した実用化モデルのユーザ試験実施フェーズである(【図表 4】参

照)。

【図表 4】事業スケジュール

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試験運用モデル構築フェーズでは、試作モデルを構築しながら検証を実施し、改良の方

向性を検討した。この間、研究会委員の方々とは、最終的にモデルが実用に資するために

はどのようなアウトプットが必要で、モデル精度はどの程度必要となるのかについて、個

別または研究会において、ご助言いただいた。第 2 回研究会(10 月 23日開催)までに試

作モデルの構築・検証は終え、第 2 回研究会における議論を踏まえ、試験運用モデルの最

終版の仕様がほぼ固まった。その後、第 3回研究会(12 月 8 日開催)では最終モデル構

築・検証結果の報告を行うとともに、最終モデルの仕様が固まった。これにより、最終モ

デルの構築と並行して、モデルを搭載したツールの開発が始まった。試験運用モデル構築

フェーズに関する詳細は、第 II 章において説明する。

ユーザ試験実施フェーズでは、2月初めに試験運用モデルを搭載したツールを、前述の

10 機関に配布し、2 月の 1 カ月間をかけて、実在の企業のモデル評価結果と実際の成長度

合いを比較の上、その結果を CRDへ情報還元いただいた。情報還元の際は、CRDが準備

した回答用紙の形式に沿ってご回答いただいたが、その結果を第Ⅲ章にまとめている。

この個社評価試験の他、事前に CRDへデータ提供いただいているユーザ試験協力機関

向けには、2 月の個社評価試験の前に、成長期待値評価モデルを用いたポートフォリオ分

析結果をお示しし、各機関のポートフォリオ評価の状況について共有した。その結果に基

づく成長期待値評価モデルの活用可能性についても、アンケート形式で CRDへ情報還元

いただき、第Ⅲ章にまとめている。

なお、ユーザ試験用に開発した、試験運用モデルを搭載したツールについては、本報告

書と同じく中小企業庁への納品物となっており、経済産業省 HP3にて、本報告書と同時に

公開される予定である4。

3 「平成 28 年度中小企業等の事業性評価に向けたモデル構築調査」の最終報告書は、経済

産業省 HP(http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000683.pdf)を参照。

4 ただし、後段で詳述するが、ユーザ試験用ツールのうち、信用リスク評価モデル部分の

機能は公開されない仕様となっている。

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II. 成長期待値評価モデルの構築について

本章では、本事業の第一の柱である成長期待値評価モデルの構築について説明する。そ

の際、まず、平成 28 年度事業で構築したプロトタイプモデルについて簡単に説明した

後、平成 29 年度事業において新たに取り組んだ内容およびその結果について詳細に説明

する。

(1) 平成 28年度事業におけるプロトタイプモデルの概要

既述のとおり、本事業は実質的に昨年度(平成 28 年度)からの継続事業である。昨年度

の事業では、まず、成長企業とは何かを定義し、その定義された企業の成長性を予測するモ

デル構築が可能かどうかを、CRD データを用いて調査した。その調査のためにプロトタイ

プモデルを構築し、ある程度の成長性予測が可能であることが分かった。その結果、中小企

業庁が本年度の事業継続を決定し、入札を経て CRDが受注したものである。本節では、昨

年度の事業内容とその結果について、本年度事業に関連する点について重点的に説明する。

昨年度事業の詳細は昨年度の最終報告書を参照されたい。

a) 成長企業の定義

平成 28年度事業における研究会では、まず、企業の成長性を、何をもって定義するか議

論が行われた。その中では、意味が明確な指標ではなく、複数の指標を組み合わせた総合成

長指標についても検討したが、最終的に、意味が明確な 5 つの財務指標で企業の成長性を

計測する、という結論に至った。研究会では、その 5つの財務指標のどれを重視するかにつ

いて、ユーザの裁量の余地があった方が良い、という意見が大勢を占めた。5つの財務指標

とは、以下のとおりである。

【図表 5】企業成長性指標定義式一覧

目的変数名 目的変数定義

売上高成長率 = 100 * { z05_(t+5) - z05_(t+1) } / z05_(t+1)

売上高対比付加価値額成長率 = 100 * { k15_(t+5) - k15_(t+1) } / (z05_(t+1) * 1000)

売上高対比営業CF成長率 = 100 * { k18_(t+5) - k18_(t+1) } / (z05_(t+1) * 1000)

使用総資本対比純資産成長率 = 100 * { z01_(t+5) - z01_(t+1) } /z04_(t+1)

売上高ボラティリティ = Rss / AVERAGE(X)※

※Rssは残差自乗和、Xはt+1期の売上高(z05_(t+1))で規格化した各期の売上高(z05)。

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前記定義式中におけるコードの意味は、以下のとおり(コード表中の定義式詳細は、巻末

「≪資料 2≫指標定義詳細」参照)。

【図表 5】で示した 5 指標のうち、上から 4 指標は成長性に関する指標であり、最後の売

上高ボラティリティは、高成長先でもボラティリティが大きい企業はリスクも大きいと考

えられるというご意見も考慮して、追加したものである。ただし、後述するように、本年度

の事業における二軸評価という用途を想定すると、売上高ボラティリティを本事業におい

てモデル化する必要性は低いことから、売上高ボラティリティについては、本年度のモデル

構築対象指標から外している。

この他、成長性に関する 4 指標については、企業の成長性を測る視点として、以下のよう

なポイントを考慮して採用した。

〔コード表〕指標コード 指標名

k01(千円単位),z04(百万円単位) 使用総資本

k15 付加価値額k18 営業キャッシュフローz01 自己資本z05 売上

※kで始まる指標は千円単位、zで始まる指標は百万円単位を表す。

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前記各成長性指標のポイントから、企業評価の目線として比較的独立した意味付けが可

能であることをご理解いただけるであろう。昨年度事業においては、このような指標解釈に

よる意味付けだけでなく、実際のデータを用いた因子分析により、上記 4 指標がそれぞれ

意味付けできることを確認した。

さて、【図表 5】の指標定義式から分かるように、各成長性指標は観測時点から 5 年間の

成長率を計算している。これを成長観測期間と呼ぶが、この点について、議論の当初は、各

委員共通の考え方として「短かすぎず長すぎず」というものがあったが、そのスパンは 3年

から 10 年と比較的幅があった。最終的に、研究会の議論を通して、実用面を考慮すると、

5 年程度が妥当という結論に落ち着いた。

一方、企業評価に用いる過去の情報として、どの程度の期間(要因観測期間)を利用する

か、という点については、研究会の議論も踏まえて、観測時点から 3年前まで遡った情報と

決めた。これは、当該企業の過去の動向を可能な限り遡ることで、その後の企業成長を推測

できる情報は増えると考えられるが、実用面を考慮すると、要因観測期間は 3 年間程度に

限定した方が良いという結論になった。一般的に、金融機関が取引先中小企業から取得する

決算書数は 3 年分が多く、企業評価に必要な決算書が 4 期分以上となることは敬遠される

と考えられる。

以上をまとめると、基準年を t として、t-2 年から t年までの情報を用いて t+1 年から t+5

年の成長性を観測することとなる(【図表 6】参照)。

【図表 6】要因観測期間と成長観測期間

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b) プロトタイプモデル構築段階において検討し、本事業に引き継がれたもの

b-1) 分析対象

分析対象となるデータであるが、CRDが本事業を受託した段階で、CRDデータを主デ

ータとして利用し、必要があれば他のデータを副次的に活用することが既定路線となっ

た。結果的に、平成 29年度事業においても同様の路線となり、本年度事業最終モデルの

検証用データとして外部データを用いた以外は、全て CRDデータを用いて、分析及びモ

デル構築を行った。

本事業では、CRD データから、さらに使用データの絞り込みを行った。というのも、

一般的に、モデル構築の際は、どのような企業を評価したいかが固まると、その企業群に

合わせたデータを抽出してモデルを構築することで、評価対象とする企業群に対するモ

デルのフィット感は向上するからである。そこで、本事業では、モデルの想定する評価対

象企業群を研究会等でまず固め、分析対象となるデータを順次決定した。

まず、モデルの想定する評価対象企業群として、情報量の多い企業データを用いるため、

財務諸表の項目を相対的に多くCRDへ提供している会員のデータを用いた。これにより、

成長性指標の一つとして、細項目を多く使用する“付加価値額”を採用することができるよ

うになった。また、成長要因の指標(すなわち説明変数)としても、人件費等の細項目を

利用した指標を多数取り込むことができた。

この他の評価対象条件としては、成長性を確認するために、長期時系列で決算書が存在

する(8 期連続決算書等)ことを条件としている。また、研究会における金融機関委員の

方々や中企庁から、個人商店のような極めて零細な企業や、財務情報自体の情報量が相対

的に少ない業歴の浅い企業は、本事業とは異なるアプローチで評価するべきであろう、と

いうご意見をいただいた。そこで、本事業における評価対象としては、基準時点において

売上高 3000万円以上で業歴 7 年目以降の企業を、モデル構築用データから抽出した。こ

れらの結果、分析で利用した対象範囲は分析によってそれぞれ異なるが、概ね全データの

3 分の 1程度のデータが利用されることとなった。

なお、一般的に、モデル構築の対象となった企業群以外の企業評価に、構築されたモデ

ルが全く使えないというわけではない。この点は、本年度事業で構築したモデルでも同じ

である。例えば、モデル構築には、基準時点以降の長期時系列で実績成長率が必要となる

が、構築後のモデルによる企業評価には、基準時点以前の 3 期分の決算書だけで充分で

ある。規模の小さい企業や業歴の浅い企業についても、モデル予測力の低下はあるものの、

それほど大きい低下ではない。また、データ項目が少ない場合は、評価に偏りが出るもの

の、欠損項目に代替的に 0 値を代入するなどの代替的な方法で評価結果は算出される。

このように、モデル用途によっては、モデル構築対象企業群から外れる企業でも、それほ

ど問題なく評価できることを付言しておく。

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b-2) 予測する目的変数の加工方法

予測する目的変数は、前節 a)で述べた 5 指標であるが、これらの指標の 5 年間成長率

の数値を、モデルでそのまま予測するわけではない。というのも、景気変動の影響を受け

て、企業の成長率は大きく変動するからである。条件が同じであれば同じような成長率と

なる企業も、基準年から 5年後に景気の山に当たった企業と景気の谷に当たった企業で、

成長率は大きく異なるであろう。

この景気サイクルの影響をモデル推計時に緩和するため、目的変数として成長率その

ものを利用するのではなく、各基準年における成長順位を目的変数とした。成長順位につ

いては、いくつかの議論を経て、全 7 ランク(売上高ボラティリティは 5ランク)で表す

ような設計となった(【図表 7】)。この 7 ランクについては、まず、成長性指標毎に成長

領域と非成長領域で 2分割し、その後さらに、成長領域を 5 分割(件数等分)、非成長領

域を 2 分割(件数等分)するように定義した。売上高ボラティリティについては、正負値

の別が無いため、単純に 5 分割(件数等分)した。なお、【図表 7】の閾値設定は、本年

度事業における試験運用モデルでも同じものを用いている5。

【図表 7】成長企業と非成長企業の閾値設定とその設定理由

成長性指標 閾値 設定理由

売上高

5 年間成長率

各年の上位

40%以上

10 年平均で見た時に、概ね上位 40%がプラス成長であり、

プラス成長先を成長企業群と考える。

付加価値

5 年間成長

各年の上位

40%以上

10 年平均で見た時に、概ね上位 40%がプラス成長であり、

プラス成長先を成長企業群と考える。

営業 CF

5 年間成長

各年の上位

50%以上

10 年平均で見た時に、概ね上位 50%がプラス成長であり、

プラス成長先を成長企業群と考える。

純資産額

5 年間成長

各年の上位

50%以上

純資産額の成長値はマイナス値が少ないため、真ん中(中央

値)以上のグループを成長企業群と考える。

5 ただし、厳密には、モデル構築用データに含まれる債務者が、プロトタイプモデル構築

時と試験運用モデル構築時で異なるため、閾値に該当する各指標の成長率は、それぞれの

モデル構築時で異なる数値となっている。

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b-3) 多段階モデルの検討

上述のように、本事業では、成長率ではなく成長ランク(順序)を推定するという目的

が設定された。それに合わせ、モデル形式として「順序ロジットモデル」を採用した6。

ただし、この最終的なランクを推定する前に、もう一段階の推定モデルを加えた二段階モ

デルも検討した。【図表 8】には、1 段階モデルと 2 段階モデルの構造イメージを示して

いる。2段階モデルは、1段階目で成長群と非成長群を判別するモデルを通した上で、成

長群と非成長群でそれぞれ成長性の大きさと説明変数との関係性を定式化するモデルで

ある。一般的に、2段階モデルは、成長/非成長フラグと説明変数の関係と、成長性の大き

さと説明変数の関係が大きく異なっている、という状況のもとで高い効果が期待される

モデルである。

【図表 8】1段階モデルと 2 段階モデルの構造概念図

このような多段階モデルは、平成 29年度事業においても精度向上の一つの手段として

検討の俎上には乗ったが、最終的に、両年度とも、様々なトライアルを試行でき、モデル

構築の工数や結果の解釈が比較的少なくて済む 1段階モデルを採用した。

b-4) 説明変数候補の作成

CRD が信用リスク評価モデルを構築する際に候補として用いた指標は、評価時点から

過去 2 期分の情報しか使っていない。しかしながら、本事業のモデル構築では、長期先の

成長性を予測するため、より過去に遡った 3 期分の成長性や変動を表す指標を、説明変

数候補として多数追加した。また、研究会において、企業の成長に寄与しそうな要素を助

言いただけたため、それに基づき、“資金調達方法に注目した指標”、“企業間信用に注目

した指標”、“人件費の変動に注目した指標”というコンセプトで、8指標が追加された。最

6 この他、深層学習モデルや潜在変数モデル(状態空間モデル、共分散構造分析)もモデ

ル候補として検討(詳細は p.19〔補論〕参照)し、最終的に順序ロジットモデルを採用し

た。

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終的に、説明変数候補としては 218 指標を作成した(説明変数候補一覧は平成 28 年度事

業最終報告書巻末資料参照)。プロトタイプモデル及び試験運用モデルは、この説明変数

候補から統計的に有効な指標を選択し、構築された。試験運用モデルで最終的に選択され

た説明変数は、【図表 17】及び本報告書巻末「≪資料 2≫指標定義詳細」を参照されたい。

c) プロトタイプモデルから得られる示唆

平成 28 年度事業では、プロトタイプモデルを構築し、その予測精度を確認することで、

そもそも将来の企業成長性を主に財務情報から予測できるかどうか、予測できたとしてそ

の活用はどのようなものになるかを確認することが目標であった。その上で、平成 29年度

の事業継続可否を中小企業庁が判断することとなっていた。結果的に、企業成長性を予測す

ることが、ある程度可能であることが確認でき、その用途も、後段で説明する信用力評価と

組み合わせた二軸評価というコンセプトが概ね固まったことから、事業継続が中小企業庁

で決定された。本節では、プロトタイプモデルの構築結果及びその予測精度を示し、次節で

はその活用面について研究会の議論をまとめる。

なお、プロトタイプモデル構築の際の、説明変数の加工方法や説明変数の選択手法、選択

された説明変数とその推計パラメータ等については、平成 28 年度事業最終報告書 p.29~

p.31 に詳細を説明しているため、そちらを参照願いたい。説明変数の加工方法や説明変数

の選択手法に関して、平成 29年度事業の試験運用モデル構築でも引き続き採用している方

法論等について、Ⅱ.(2)以降で随時説明する。

事業継続に重要な要素であった、プロトタイプモデルの評価結果の確からしさ、予測精度

としては、【図表 9】を用いて、実績ランク包含率という示し方をまず説明する。【図表 9】

は、5種類の成長性指標に関するプロトタイプモデルの各実績ランク包含率表である。この

表は、モデル構築用データにおいて、各推計ランクに分類された企業のうち、実際の成長ラ

ンクの各ランク以上にどの程度存在していたかを示している。これはすなわち、【図表 9】

の上から 4 番目(純資産成長)の表において、ある企業が推計ランク 7 にモデルで評価さ

れた時、実績ランクも 7(純資産 5年間成長率 19.0%以上が期待されるランク)となる可能

性が 36%、実績ランクが 6 以上(純資産 5年間成長率 10.6%以上が期待されるランク)と

なる可能性が 52%、実績ランクが 3 以上(すなわち成長領域)となる可能性が 71%である

ことを示している。予測の確からしさという視点では、推計ランク 7の時に実績ランク 7が

大きければ大きいほど確からしさが高く、同様に実績ランク 3 以上の成長領域の割合が大

きければ大きいほど確からしさは高いと言える。【図表 9】でこの点を確認すると、純資産

成長モデルは、その他の成長性に関する 3指標モデル(売上高成長、付加価値額成長、営業

CF 成長)と比較して、確からしさが高いと言えよう。また、もう一つの視点として、横方

向の推定ランク 7 と推定ランク 1 の間で、実績ランクが含まれる割合の差が大きい場合、

各ランクの確からしさにメリハリが付いていて良いと考えられる。この点でも、純資産成長

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14

モデルが最も確からしさが高いと言える。一方、営業 CF 成長モデルについては、他のモデ

ルと比較してメリハリがあまり効いていないことが確認される。

【図表 9】プロトタイプモデル実績ランク包含率一覧

◆売上高成長

1 2 3 4 5 6 7

7 53.9% 4% 7% 9% 10% 12% 14% 18%6以上 28.6% 9% 14% 18% 20% 22% 25% 30%5以上 15.6% 15% 23% 27% 29% 31% 34% 38%4以上 6.9% 23% 31% 35% 37% 39% 41% 45%

3以上(成長領域) 0.4% 32% 40% 43% 44% 46% 48% 51%

◆付加価値額成長

1 2 3 4 5 6 7

7 22.9% 2% 6% 9% 11% 12% 15% 21%6以上 11.1% 7% 14% 19% 21% 23% 26% 32%5以上 5.8% 14% 23% 27% 29% 32% 35% 41%4以上 2.7% 22% 31% 35% 37% 39% 42% 47%

3以上(成長領域) 0.6% 32% 39% 42% 44% 46% 48% 53%

◆営業CF成長

1 2 3 4 5 6 7

7 17.6% 3% 6% 9% 11% 13% 18% 27%6以上 9.2% 9% 16% 20% 23% 26% 31% 39%5以上 5.0% 18% 26% 31% 34% 37% 40% 47%4以上 2.2% 31% 38% 41% 43% 45% 48% 52%

3以上(成長領域) 0.1% 45% 48% 50% 52% 53% 54% 57%

◆純資産成長

1 2 3 4 5 6 7

7 19.0% 2% 5% 7% 9% 13% 19% 36%6以上 10.6% 7% 13% 18% 22% 29% 37% 52%5以上 6.4% 13% 24% 30% 36% 43% 50% 61%4以上 3.6% 22% 37% 42% 48% 53% 59% 67%

3以上(成長領域) 1.6% 35% 49% 53% 57% 61% 65% 71%

◆売上高ボラティリティ

1 2 3 4 5

5 0.03 4% 9% 16% 27% 43%4以上 0.05 13% 26% 38% 53% 70%3以上 0.08 29% 48% 62% 75% 86%2以上 0.14 56% 75% 84% 91% 95%

実績ランク

売上高ボラティリティ

(通期閾値〔参考〕)

実績

ランク

実績ランク

純資産5年間成長率

(通期閾値〔参考〕)

付加価値額5年間成長率

(通期閾値〔参考〕)

実績ランク

営業CF5年間成長率

(通期閾値〔参考〕)

実績ランク

売上高5年間成長率

(通期閾値〔参考〕)

推計ランク毎の実績ランク包含率

推計ランク

非成長領域 成長領域

推計ランク

推計ランク

非成長領域 成長領域

推計ランク

非成長領域 成長領域

推計ランク

非成長領域 成長領域

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この実績ランク包含率という指標に基づき、モデル推計結果を確認すると、企業の成長率

を正確に予測するとまでは言えないが、成長しやすい企業と成長余地の小さい企業の色分

けは、ある程度できていると言えよう。すなわち、プロトタイプモデルの結果から、ある程

度の予測力のあるモデルが構築できそうである、という結論が導かれる。

さて、実績ランク包含率というモデルの確からしさを確かめる指標の他、金融機関の信用

力評価モデルの予測精度を確認することに一般的に使われている AR 値も、参考指標とし

て計算している(【図表 10】参照)。AR値(Accuracy Ratio)とは、AR 値は原則として 0

以上 1 以下の指標で、1 に近いほどモデル評価の順に実際に成長したことを示している。信

用力評価モデルの場合は、評価の悪い順にデフォルト企業が並ぶ程度を示しており、AR値

の水準自体に絶対的な意味は無いが、実用の際には 0.6という水準が一応の目安となってい

る。

【図表 10】の結果を見ると、0.6より比較的低い水準となっているが、信用力評価モデル

は 1 年先のデフォルトを判別するのに対して、プロトタイプモデルは 5 年先の成長性を見

ており、不確実性が高まることも影響して AR 値は全体的に低めになっている。また、スト

ック指標である純資産の 5 年間成長モデルは AR 値が比較的高い一方、フロー指標である

売上高、付加価値額、営業 CF の各成長モデルの AR 値は、評価に利用した 5 年間のうち、

二時点の比較にしか過ぎないため、偶然の要素が入りやすく、予測が難しくなっていること

が見て取れる。ただし、それでもある程度の成長性を判別する能力が認められた。

【図表 10】目的変数別プロトタイプモデル精度一覧

判別用AR値

目的変数 全サンプル売上高5年間成長率 0.163

付加価値額5年間成長率 0.158営業CF5年間成長率 0.086純資産5年間成長率 0.317

ランク用AR値

目的変数 全サンプル 成長サンプルのみ売上高5年間成長率 0.182 0.232

付加価値額5年間成長率 0.188 0.310営業CF5年間成長率 0.161 0.361純資産5年間成長率 0.372 0.435

売上高5年間ボラティリティ 0.495

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本節の最後に、「判別用 AR値」と「ランク用 AR 値」の違いについて説明しておく。

判別用 AR(Accuracy Ratio)値

推定モデルのスコアの序列どおりに“成長・非成長の 2値の判別”ができているかどう

かを確認する指標。

完全予測モデルの時に 1、ランダムモデルの時に 0 となる指標。

金融機関のリスク管理モデル(デフォルト・非デフォルトの判別)の精度評価におい

て一般的に使われる指標。なお、デフォルト判別モデルの場合は一般的に「AR 値」

という名称で使われるが、本事業のモデルは判別ではなくランク付を目的とした順序

ロジットモデルであり、ランク付精度評価に用いられる下記“ランク用”AR 値と区別

するため、“判別用”AR 値と名付けた。

ランク用 AR(Accuracy Ratio)値

推定ランクの序列どおりに実際の“ランク付け”がされているかどうかを確認する指

標。

完全予測モデルの時に 1、ランダムモデルの時に 0 となる指標。

このうち、ランク用 AR 値については、全データに対する精度だけでなく、成長企業サン

プルのみを対象にした精度確認結果も示している。これは、本事業では成長企業の成長度合

いを正確に予測することを目標としており、非成長企業の成長度合いについてはそれほど

重要視されなかったことによる。すなわち、複数のモデルを比較した際には、成長サンプル

に対する予測精度が高いモデルを優先して選択することになる。ただし、売上高 5 年間ボ

ラティリティについては成長企業群・非成長企業群の区別を設けていないことから、「成長

サンプルのみ」の計算はできない(判別用 AR 値も計算できない)。

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d) モデルの用途

前節のようにモデル構築は実施されたが、その推計結果及び予測精度も踏まえて、研究会

では活用面についても議論を行った。その結果、企業の成長性を評価するモデルと、信用力

評価モデルを組み合わせた二軸評価により、従来信用力評価にばかり目が向いていた融資

審査に多面的な視点を提供できるのではないか、という方向でまとまった。CRD モデル評

価で低評価(信用力が低い)企業であっても、本事業のモデルにより成長の可能性が高いと

評価される企業の存在が確認されれば、従来の信用力に基づいた保証・融資とは異なる目線

での評価軸を提示することができる。すなわち、新たな保証・融資の枠組みの可能性につい

て示すことができるというものである。

プロトタイプモデルの段階では、信用力の指標として、一般に広く利用されていて多くの

方に感覚的に馴染みがあると考えられる、信用保証協会の保証料率区分を採用した。保証料

率区分は、原則として、CRDモデル 3 累積 3年モデルから算出されるデフォルト確率を用

いた信用力序列に基づき決定されている。ここで、「信用力の高い企業≒成長企業」であれ

ば、本事業の意味があまり無いことになってしまうが、評価の異なる企業がある程度存在し

て、成長性評価モデルの予測精度が確認できれば、本事業で当初から想定していた二軸評価

が実現味を帯びることになるだろう。

【図表 11】では、純資産成長モデルを例に、縦軸に保証料率区分(信用力評価)、横軸に

プロトタイプモデル推計ランク(成長性評価)をとって、決算書数を集計したクロス集計表

を作成している。保証料率区分は、1 ランクから 9 ランクまであり、9 ランクが最も良い信

用力評価ランクである。一方、横軸の推計ランクは 1ランクから 7ランクまであり、7ラン

クが最も良い成長性評価ランクである。このうち、保証料率区分 5 ランク以下の企業は、概

ね金融機関の債務者区分では正常先最下位以下に相当すると考えられ、財務面での信用力

がそれほど高くない企業群と考えられる。また、保証料率区分 1 ランク及び 2 ランクにつ

いては、成長性を加味した新たな保証・融資の枠組みの可能性を示すという観点からは信用

力が低すぎるため、企業再生等の枠組みで議論されるべきものであり、ここでの着目企業群

から外している。すなわち、保証料率区分 3 ランクから 5 ランクという信用力があまり高

くない先であり、かつ、推計ランク 3 ランクから 7 ランクという成長性高評価先が、ある

程度存在しているかどうか、という点がここでは重要である。

低信用力評価かつ高成長性評価企業に該当する企業数は、【図表 11】の黄色枠内の数字で

確認できる。【図表 11】から明らかなように、対角線上に債務者が集中しておらず、プロト

タイプモデルによる成長力評価は信用力評価と別の評価軸を提示できていることが確認で

きた。他の成長性指標についても同様の結果となったが、ここでは割愛する(平成 28年度

最終報告書参照)。

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【図表 11】二軸評価の例:純資産 5 年間成長

e) 平成 28 年度事業における残課題

平成 28年度事業では、成長性指標を定義した後、それを予測するプロトタイプモデルを

構築し、そのモデルは二軸評価に活用できそうである、という結論になったが、いくつかの

課題が残った。

まず、モデルの使い勝手の良さの改善である。実務での利用を想定した場合、「利用者の

分かりやすさ」や、「結果の納得性」が必要と考えられる。その意味では、実用を意識した

場合、精度を維持しつつも利用者が使いやすいようにモデルをカスタマイズしていく必要

がある。

次に、モデル精度の改善である。5年後という、中期的な将来成長可能性を予測するモデ

ルのため、通常の1年後のデフォルトを予測するような精度を求めることはできないが、幾

つかの手法で精度向上の可能性が見えており、更なる「予測の確からしさ」を求める取組み

が必要である。

3 つ目がツール化、システム化である。最終的に金融機関や保証協会での利用を想定した

場合、完成したモデルを実用に供するようなシステム化が必要と考えられる。また、実際に

利用を促す意味では、利用マニュアル作成や研修等の普及活動への対応や、メンテナンス体

制等も構築していく必要がある。

このような残課題について、平成 29 年度事業において取り組むこととなった。

1 2 3 4 5 6 7 合計

9 39,742 39,099 40,346 50,002 62,452 79,229 95,368 406,238

8 70,285 46,624 41,348 45,591 48,739 48,544 37,028 338,159

7 119,155 61,445 49,351 49,581 47,368 42,212 29,167 398,279

6 116,034 47,991 35,369 32,996 29,822 24,985 20,410 307,607

5 247,001 74,573 50,130 44,014 37,997 32,368 35,077 521,160

4 191,673 37,446 23,010 18,876 15,933 14,551 19,831 321,320

3 79,199 11,445 6,700 5,702 4,810 4,834 7,255 119,945

2 53,907 6,184 3,722 3,258 2,927 3,205 5,169 78,372

1 10,255 984 632 589 560 680 1,304 15,004

927,251 325,791 250,608 250,609 250,608 250,608 250,609 2,506,084合計

成長領域非成長領域

CRDモデル3

累積3年デフォルト確率

による保証料率区分

◆純資産5年間成長率

推計ランク

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19

〔補論〕複数のアプローチの検討

平成 28 年度事業では、CRD事務局のアプローチとは別に、研究会委員となっていい

ただいた京都大学青山教授及び兵庫県立大学藤原教授との共同研究、統計数理研究所山

下教授への委託研究で異なるアプローチによる分析を実施・依頼した。これは、本事業

における取組み自体、全く新しい取組みであり、できる限り幅広い知見を取り込み、考

え得る様々な取組みを行う必要性から、CRDの本プロジェクトでは手が回らないいく

つかのポイントを補完いただくために御協力いただいた。各研究の詳細内容については

平成 28 年度事業の別冊 1~3 の報告書に詳しい。

青山委員及び藤原委員との共同研究は二通り存在する。まず、景気変動と各評価指標

の関係性を明確化する分析を行った。その結果、マクロ経済指標により財務指標分布の

一部統計量(中央値、四分位点)を、ある程度予測できることが示された。しかしなが

ら、この方法論を CRD事務局のアプローチに適用するには、より詳細な分布推定の実

施と、予測結果の頑健性確認のための経過観察を実施する必要性があるため、継続して

中長期的に取り組むべき内容とし、平成 29年度事業に適用するには時期尚早として見

送った。

この分析と並行して、青山委員及び藤原委員には、人工知能、特に深層学習(Deep

Learning)を用いた分析も実施いただいた。本事業の計画立案の当初より、幅広い可

能性を求めるため、研究会における理論的裏付けのある統計的アプローチの他に、純粋

に大量のデータ分析により試行錯誤を繰り返し、予測精度向上だけを求めるアプローチ

にもトライすることを検討していた。この点に知見のある青山・藤原両委員に手掛けて

いただいた結果、現段階における精度は CRD事務局のアプローチと同程度の水準とな

り、CRD事務局のアプローチの内容の妥当性を裏付けるものとなった。深層学習によ

るアプローチではモデルがブラックボックス化し、成長性の要因を説明できないことを

考慮すると、実用版モデルについては CRD事務局のアプローチを進めることが妥当と

考え、平成 29年度事業では深層学習のアプローチ採用は見送った。

山下委員への委託研究では、CRD事務局のアプローチのような成長性(目的変数)を

明確に定義した上で、それを説明する財務・非財務指標との関係性を目に見える形で定

式化する方式ではなく、成長性(目的変数)を事前に明確に定義せず、データから成長

性を表す要素(因子)を特定するアプローチである共分散構造分析を実施していただい

た。その結果、利用可能な計算環境の問題から一部データを用いた計算であったため限

定的な結果となったが、モデル化の可能性については示された。しかしながら、実用時

の解釈可能性を重視して、平成 29 年度事業では CRD事務局アプローチを採用すること

となった。

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20

(2) 平成 29年度事業におけるモデル実用化への取り組み

前節での説明のとおり、平成 28 年度事業においては、プロトタイプモデルを構築し、そ

の用途として二軸評価を主に活用方法として想定した。本節では、平成 29年度事業におい

て、二軸評価への活用を念頭に、プロトタイプモデルから実用化により近い試験運用モデル

の構築過程について、「中小企業の成長期待値評価モデル実証調査研究会」における議論を

中心に説明する。

a) 活用面における議論

活用面については、本年度第一回研究会やそれに先立つ各委員との個別の意見交換にお

いて議論を行い、必要とされるモデル構造やアウトプット等の要素について、取りまとめを

行った。その結果、最も有力な活用方法としては、やはり、平成 28年度の最後の研究会で

まとめられた二軸評価が想定されるという方向でまとまった。二軸評価は、p.17 で説明し

ているように、信用力判定モデルの評価だけでなく、成長期待値評価モデルの評価も企業評

価の一つの軸として加える、というものである。ただし、その目的は、信用力判定モデルの

ような融資先の絞り込みに使うのではなく、従来の信用力評価だけでは信用力評価が高く

なく融資対象となりにくかった企業に対して、新たな評価軸を加えることで、融資のアベイ

ラビリティを高めたり、経営支援のために情報収集する先を効率良く見つけ出したりする

ことへの活用が想定される。

二軸評価以外の活用として、金融機関独自の企業評価ツールを用いた評価と本事業にお

ける成長期待値評価モデルの評価を比較して、評価の相違点をチェックしたり、補完したり

するためのツールとしても想定できるというご意見をいただいた。近年、信用リスク管理の

視点で用いられている信用力評価に加えて、融資審査では対象企業の市場環境、取引先関係、

自機関との過去の取引関係などを定量化して加味しているケースも多い。そのような信用

力評価と異なる評価目線に対して、成長期待値評価モデルの評価や構造が何らかの示唆を

もたらすのではないか、というものである。この活用を想定すると、成長期待値評価という

総合的な評価だけでなく、どのような評価に基づいて総合評価につながったのか、という評

価過程についても分かりやすいことが重要となる。また、評価過程が分かりやすいものとな

れば、どのようにすれば成長可能性が高くなるか、という視点も示すことができるようにな

る。その結果、再生支援協議会や創業支援関連の機関もユーザとして想定されるのではない

か、というご意見も頂戴した。

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b) 活用を想定したモデル化要件

a)で説明したような活用を想定すると、成長期待値評価モデルに必要な二つの要件が浮か

び上がってくる。一つが企業の成長性を総合的に判断できる数値であり、もう一つが、成長

評価過程が比較的分かりやすい構造とすることである。

ここで言う総合的判断とは、平成 28 年度に定義した 4つの成長性指標(売上高成長、付

加価値額成長、営業 CF 成長、純資産成長)を統合した何らかの指標、という意味ではない。

4 つの成長性指標のそれぞれで、100 点満点の点数や 10 ランク等の単一の数値で評価した

もの、という意味である。最終的に、4 つの成長性指標の結果を何らかの形式で統合して数

値化する、という点は視野に入れつつ、まずは 4 つの成長性指標をモデル化することが求

められる。

成長評価過程が分かりやすい、という点については、4つの成長性指標をモデル化する際、

どの説明変数が重視されているのかが明確に数値化しやすい、ということにつながる。その

ためには、平成 28 年度事業で検討した p.12 で説明したような、二段階モデルのようなア

プローチは馴染まない。一段階モデルでは(標準化係数を基に)説明変数の寄与度を計算す

ることで、説明変数の重視度合が明示しやすいが、二段階モデルでは解釈が非常に難しくな

るからである。また、p.19 で述べたような機械学習によるモデル化も、説明変数と成長性

評価との関係性がブラックボックスもしくは意味付けが難しくなるため、平成 29 年度事業

では採用しないこととなった。

最終的に、平成 28年度事業のプロトタイプモデルで採用した順序ロジットモデルが、想

定される活用方法からモデル構造としては最適である、という結論に達し、引き続き順序ロ

ジットモデルを中心に、試験運用モデル構築作業を進めることとなった。

なお、二軸評価としての利用という点を考慮すると、成長性評価の他に、信用力評価も存

在していることが前提となっている。この前提に基づけば、平成 28 年度事業において 4つ

の成長性評価指標に加えて想定していた売上高ボラティリティという指標の意味付けが小

さくなる。この売上高ボラティリティは、成長性指標だけで企業評価を行った場合、成長性

の高い企業の一部は変動が大きく、デフォルトもしやすいのではないか、という指摘で作成

し、本事業のモデル化構想に加えた経緯がある。言い換えると、信用力評価という別軸が別

途想定されるのであれば、信用リスク評価でも一つの見方に過ぎない売上高ボラティリテ

ィという指標をわざわざモデル化する必要もないのである。この見方については研究会で

も異論なく、平成 29 年度事業においては、平成 28 年度事業で作成した売上高ボラティリ

ティという指標を、モデル化対象から除外することとなった。

Page 25: 平成29年度中小企業の成長期待値評価モデル の実 …まず、CRD 協会1が中小企業庁より業務委託を受け、中小企業の成長期待値評価モデルの

22

c) 精度水準の検討

平成 29 年度事業の仕様書には、次のような記述がある。「従来利用してきた信用評価モ

デル(デフォルトリスク計算)の精度は AR値 0.6 以上がひとつの相場となっているが、成

長期待値評価モデルについてはどの程度の精度水準が期待されるか、業として企業の審査

を行うもの 3名(機関)以上から意見を聴取する。聴取した意見(中略)をもとに成長期待

値評価モデルの精度水準を設定、上述の5モデルの妥当性を検証していく。」この仕様に基

づき、【図表 2】で示した研究会委員の方々に、第一回研究会の前に個別に意見交換をお願

いし、求められる予測精度について確認した。

その結果、まず、「利用用途によるため、当初の段階で目安を設けることは難しい」とい

うご意見が多かった。審査基準として使うのであれば、例え 5 年後の成長性という長期先

の予測であったとしても、ARならやはり 0.6程度が望まれるが、元々審査対象となりにく

い企業の中から事業性評価対象先を新たに見つけ出すような使い方であれば、外れても大

きな問題はなく、それほどの精度は求められないというものであった。初めから二軸評価と

いう活用を想定されている委員からは、「このモデルを融資審査に直接利用することは想定

しておらず、精度自体は概ね昨年度のプロトタイプモデル程度でも、分かりやすいモデルで

あれば問題ない」とのご意見もあった。

以上のようなご意見を踏まえ、活用方法については本年度の研究会の議論の中でも詰め

ていくものとし、必要な予測精度は事前に定めないこととした。その一方で、でき得る限り

モデル精度の向上に取り組んだ。モデル精度向上については、シンプル化とのトレードオフ

の面もあるため、平成 29年度事業では、シンプルな分かりやすさ・使いやすさを追求しつ

つ、プロトタイプモデル程度の予測精度確保を目標に進めた。

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d) 試作モデルにおける様々な試行

【図表 4】で示したスケジュールに基づき、試験運用モデルの最終モデルを構築するまで、

約 4 カ月に渉り、分かりやすさと使いやすさを考慮しながら精度向上を目指し、様々な手

法を試した試作モデルを構築し、最終モデルの構造を固めた。以下では、その試行について

順次紹介する。

d-1)デフォルトデータの取り込み

平成 28 年度の分析では、基準年(評価対象時点)から 1 年後と 5 年後に財務データが

存在する企業のみをモデル構築データとして抽出したため、期中にデフォルトした企業

は、ほとんど排除されていた。そのため、【図表 12】に見られるように、財務の健全性が

低い企業で成長率が高くなる傾向が散見された。【図表 12】では、純資産成長率を例に取

り、自己資本額がマイナスのランクにおいて、左図のプロトタイプモデル構築時データ

(平成 28年度使用サンプル)では成長率が高くなっている一方、右図のデフォルトサン

プルを加えたデータでは成長率が低くなっていることが確認できる。

この結果を受け、今年度の最初の取り組みとして、デフォルトデータを最も成長率の低

いランクとみなして、モデル構築用データとして取り入れる分析を行った。これにより、

財務の健全性が低い企業の成長率は低いという関係性が確保される財務指標が増え、直

感的な解釈がしやすくなった。すなわち、これは、予測精度向上と分かりやすさの両方を

目的とした取り組みであると言えよう。なお、【図表 12】では、純資産成長率を例示して

いるが、その他の成長性指標でも、類似の傾向がある指標が複数見られたことを付記して

おく。

【図表 12】自己資本額と純資産成長率順位の関係 (製造業のみ)

この取り組みにより、モデルの予測精度がどのように変わったのかについて、【図表 13】

に示している。その結果を見ると、デフォルトデータを取り込んだとしても、モデル精度

はほとんど改善しなかった。これは、信用力の評価と成長性の評価が必ずしも強い相関を

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持っていないことによるものと推察される。しかし、評価対象としてデフォルトデータを

含めた方が、サンプルとしての偏りがないこと、直感的な解釈も容易となることなどから、

平成 29 年度の分析対象として、デフォルトデータを取り込むこととした。

【図表 13】デフォルトデータを含む前後の純資産成長モデルの AR 値

(上段:後、下段:前)

d-2)業種要素の取り込み検討

企業の決算書を見ると、業種によって決算書各項目の合計欄に対する構成比に特徴が

見られることが多い。例えば、製造業をはじめとする装置産業では、総資産に占める固定

資産の割合が大きいなどの傾向が見られる。一方、兼業している企業や分類が明確でない

企業の業種の特定は、主観の入り込む余地が大きく、中小企業の評価に業種という要素を

重視することに否定的な考え方もある。また、企業評価に業種の特定が必須となれば、企

業評価に必要な情報が増えることを意味しており、使い勝手が悪くなるという側面も有

する。このように、業種要素の活用には様々な側面が存在するが、今次分析では、業種要

素を取り込んだ場合と取り込まない場合で、予測精度がどの程度変化するかを確認の上、

納得感や使い勝手と比較衡量して、業種要素を取り込むか取り込まないかを決定した。

モデルへの業種要素の取り込みには、様々な方法論が考えられる。業種別にモデル推計

を行う(各成長性指標でモデル式は業種の数だけ必要)、全業種共通モデルとするが業種

フラグを入れて成長率水準を調整する(各成長性指標でモデル式は 1 本)、業種に特徴的

な指標だけを採用するような交差項を入れる(各成長性指標でモデル式は 1 本)、これら

の複合化などである。今次分析では、最も構造が簡単で解釈しやすく、精度向上も期待し

やすい、業種別のモデル推計を試行した。

業種別モデルの推計については、試作モデルの初期段階で一部モデルのみの推計を実

施しながら、その結果を研究会で議論を行ったところ、最終の試験運用モデル推計の段階

で、全パターンの業種別モデル推計を実施することとなった。その最終段階における業種

別モデルの推計結果と、全業種共通モデルの推計結果との比較が、【図表 14】である。

ランク用AR値

デフォルトサンプル全

サンプル

成長サン

プルのみ

含(今次推計結果) 0.363 0.405

無(プロトタイプモデル) 0.372 0.435

判別用AR値

デフォルトサンプル全

サンプル含(今次推計結果) 0.318

無(プロトタイプモデル) 0.317

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【図表 14】業種別モデルと全業種共通モデルの精度比較(試験運用モデル段階)

【図表 14】について解説する。左表に業種別モデルの AR 値、右表に全業種モデルの

AR 値を、成長性指標毎に示している。AR値は 3種類示しているが、p.16 で説明したも

のと同じである。左表の業種別モデルでは、業種毎に AR 値を示している。業種について

は、理由は後述するが、サービス業、卸売業、小売業、製造業に絞り込んでいる。一方、

右表の最左列には、全業種モデルの全データに対する AR 値を基準値として示している。

右表のその他の列は、全業種モデルを利用した時の、各業種データに限定して AR 値を確

認したものである。左表の赤文字になっているところは、右表の対応する業種データに対

する全業種モデル AR 値と比較して、10%以上大きい AR 値となっているところを赤文

字にしている。すなわち、業種別モデルにより比較的大きく精度向上が見られたケースを

意味する。

【図表 14】から言えることとして、全般的に業種別モデルにすることによって目覚ま

しい精度向上が見られるわけではない、ということである。特に、成長サンプルに対する

ランク用 AR 値では、全業種モデルの方が各業種データに限定した時の予測精度が高い、

というケースが多く見られており、成長企業の中でも高い成長が期待できる企業を特定

したい、というニーズには望ましくない結果となった。この AR値の変化の程度と、業種

要素をモデルに取り入れた際の使い勝手の側面、ツール化する際の期間及び予算の制約

等を総合的に勘案し、研究会でも議論を行った結果、最終的に試験運用モデルは全業種共

通モデルを採用することとなった。

売上高成長 売上高成長

サービス業 卸売業 小売業 製造業 全業種 内サービス業 内卸売業 内小売業 内製造業

0.216 0.196 0.314 0.152 0.213 0.226 0.204 0.274 0.155

0.228 0.213 0.313 0.162 0.222 0.236 0.217 0.278 0.165

0.238 0.208 0.150 0.154 0.185 0.212 0.207 0.187 0.152

付加価値成長 付加価値成長

サービス業 卸売業 小売業 製造業 全業種 内サービス業 内卸売業 内小売業 内製造業

0.223 0.159 0.243 0.125 0.155 0.175 0.153 0.183 0.109

0.232 0.194 0.259 0.149 0.181 0.192 0.174 0.195 0.135

0.192 0.327 0.237 0.230 0.300 0.199 0.304 0.241 0.237

営業CF成長 営業CF成長

サービス業 卸売業 小売業 製造業 全業種 内サービス業 内卸売業 内小売業 内製造業

0.097 0.083 0.080 0.114 0.070 0.067 0.070 0.069 0.077

0.150 0.148 0.139 0.156 0.131 0.120 0.135 0.127 0.123

0.288 0.338 0.300 0.241 0.312 0.276 0.332 0.301 0.257

純資産成長 純資産成長

サービス業 卸売業 小売業 製造業 全業種 内サービス業 内卸売業 内小売業 内製造業

0.322 0.390 0.384 0.274 0.299 0.278 0.351 0.312 0.274

0.364 0.428 0.414 0.337 0.356 0.340 0.402 0.362 0.328

0.405 0.431 0.404 0.408 0.431 0.424 0.451 0.441 0.395

業種別モデル 全業種モデル

評価指標 評価指標

判別用AR値 判別用AR値

評価指標 評価指標

判別用AR値 判別用AR値

ランク用AR値 (全) ランク用AR値 (全)

ランク用AR値 (成長) ランク用AR値 (成長)

判別用AR値 判別用AR値

評価指標 評価指標

ランク用AR値 (全) ランク用AR値 (全)

ランク用AR値 (成長) ランク用AR値 (成長)

評価指標 評価指標

ランク用AR値 (全) ランク用AR値 (全)

ランク用AR値 (成長) ランク用AR値 (成長)

ランク用AR値 (全) ランク用AR値 (全)

ランク用AR値 (成長) ランク用AR値 (成長)

判別用AR値 判別用AR値

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d-3)モデル推計対象から不動産業及び建設業を除外

業種別にモデル推計を実施する他、業種要素については、不動産業及び建設業をモデル

構築対象から外すことで納得感が高まる、という議論があった。というのも、不動産業の

中でも特に不動産取引業は、金融機関が融資できる環境があれば成長する業種で、金融が

引き締まると一気に景況が落ちる業種である、という傾向が見られる。建設業も、金融機

関の支援があって工事を受注していくという、プロジェクト単位で売上を積み上げてい

くケースが多く、財務上の傾向から成長予測を行う対象ではないという議論があった。

実際に、試作モデル段階の売上高成長モデルに関し、不動産業及び建設業を除くことに

よるモデル精度向上の効果を確認(【図表 15】)したところ、これらの業種を除くことで

成長サンプルのみのランク用 AR 値以外の AR 値は向上しており、実務的な感覚にある程

度合致した結果であった。

【図表 15】不動産業・建設業を除くモデルの精度(試作モデル段階)

上述のようなモデル構築上の精度向上に加え、活用面でも、営業施策を考えて商品を企

画する際、建設業と不動産業を除くことが多いという議論もあり、試験運用モデル構築の

対象データとして、不動産業と建設業は除くこととなった。この結果、試験運用モデル構

築用データには、【図表 14】で示したサービス業、卸売業、小売業、製造業及びその他業

種に分類される企業を含むこととなった。

ところで、モデル構築用データに含まれない業種の企業はモデル評価できないか、とい

うとそうではない。試験運用モデルは、全業種共通モデルとして構築しており、不動産業

や建設業でもスコアを算出することは可能である。また、それらの業種に対しても、それ

ほど精度が悪化するわけではない。なお、この種の論点は業種に限らない。試験運用モデ

ル構築用データは、平成 28 年度のプロトタイプモデルと同様、基準年時点に売上高 3000

万円以上、業歴 7 年以上という制約を置いたが、精度はやや見劣りするものの、売上高

3000万円未満、業歴 6年未満という企業でもスコア計算は可能である。

判別用AR値

モデルパターン 全サンプル 全サンプル成長サンプル

のみ全業種

(不動産業&建設業除く)0.222 0.231 0.180

全業種 0.192 0.203 0.192

ランク用AR値

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d-4)その他の精度向上に向けた取り組み

精度向上や使い勝手の良さを追求した上述のような取り組みの他、採用には至らなか

ったものの、精度向上に向けた下記のような取り組みを行った。ここでは一覧のみ示すこ

ととし、詳細は巻末「≪資料 3≫精度向上に向けた取り組み」を参照されたい。

イ) 高成長期待ランク先へ加重したモデル推計

ロ) 説明変数に対する非線形性の取り込み検討

ハ) 成長外れ値サンプルへの対応

いずれも採用に至らなかった主な理由は、想定したほどモデル精度が改善しなかった

こと、採用した場合はモデル構造が複雑になり解釈が難しくなること、などが挙げられる。

e) 試験運用モデル推計時の実施内容

最終的な試験運用モデルの構造は、前節 d)で説明したような試作モデルにおける予測精

度向上や分かりやすさ・使い勝手良さの向上に向けた取り組みを踏まえ、平成 28 年度事業

におけるプロトタイプモデルをベースに決定した。その主な点は、以下のとおり。

企業成長性を4種類の財務指標で個々に表現

(売上高 5 年間成長、付加価値額 5年間成長、営業 CF5年間成長、純資産 5年間成長)

成長性指標毎に推定成長ランクを算出

(全7ランク、うち成長領域 5 ランク、非成長領域 2ランク)

モデルは順序ロジットモデルを採用

推定成長ランク毎に期待成長率を表示

全業種モデル

説明変数の数はこだわらないが、凡そ 30 指標程度が目安

最終的なモデル評価に対する個別説明変数の重要度を明示

個社評価において個別説明変数の良し悪しを 5ランク(A:良~E:不良)で表示

モデル推計用データに基準時点以降でデフォルトした企業を含む

モデル推計用データから不動産業、建設業を除く

モデル推計用データから基準時点で売上高 1000万円未満、業歴 6年以下の企業を除く

上記のようなポイントを踏まえると、モデル構造のイメージは【図表 16】のようになる。

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【図表 16】試験運用モデルの構造イメージ

ここで、【図表 16】における 4 つの成長性指標のモデル式推計は、以下のような手順で行

った。

制約条件付最尤法※にて符号条件が合致する説明変数に絞り込み。

※:制約条件付最尤法はみずほ第一FT社の特許技術(特許第6069460号)

p値基準(5%, 1%, 0.1%, 1e-6%, 1e-16%)で絞り込み。

実績ランク包含率、AR値等の評価指標の低下の程度及び選択指標数を勘案して、

絞り込みのp値水準を決定。

多重共線性のVIFによるチェックを経て、残った説明変数の顔ぶれを個々にチェック。

VIFの値が大きいケースは無く、p値基準の結果をそのまま採用。

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(3) 試験運用モデル構築結果

前節までで説明した内容に基づき推計された試験運用モデルのパラメータは、【図表

17】のとおりである7。前述のとおり、説明変数の選択は、制約条件付き最尤法及び p 値

基準で行っており、当然ながら、最終的に選択された変数は p値が極めて小さくなってい

る。選択された説明変数の数は、売上高成長、付加価値額成長、純資産成長が 33 指標、

営業 CF 成長が 30指標となり、概ね目安として想定していた程度の数に収まった。

【図表 17】試験運用モデル推計パラメータ一覧

7 【図表 17】では、有効桁数を小数点以下 3 桁として表示しているが、実際にはより大き

な桁数まで計算している。詳細は別途公表資料参照。

◆売上高成長 ◆付加価値額成長

no 説明変数名 指標カテゴリ 推計値 p値 no 説明変数名 指標カテゴリ 推計値 p値

1 業歴(年) 属性 -0.010 <1e-06% 1 一人当り付加価値 生産性 -0.226 <1e-16%

2 買入債務回転日数 効率性 -0.081 <1e-06% 2 棚卸資産回転日数 効率性 -0.081 <1e-16%

3 (絶対値)売上高増減率 成長性 0.113 <1e-06% 3 業歴(年) 属性 -0.008 <1e-16%

4 売上債権回転日数 効率性 0.066 <1e-06% 4 総資本総利益率 収益性 0.101 <1e-16%

5 買入債務 安全性 0.044 <1e-06% 5 その他営業外収益売上高比率 調達構造 0.139 <1e-16%

6 人件費平均成長率(3期使用) 過去成長性 0.034 <1e-06% 6 (絶対値)キャッシュフローマージン1 収益性 0.099 <1e-16%

7 (絶対値)売上高平均成長率(3期使用) 過去成長性 0.069 <1e-06% 7 現預金売上高比率 安全性 0.080 <1e-16%

8 営業運転資本回転期間1_2 効率性 -0.087 <1e-06% 8 売上高平均成長率(3期使用) 過去成長性 0.026 <1e-16%

9 設備投資額(無形含)翌期売上高増減比率 効率性 0.010 <1e-06% 9 キャッシュフロー2(3期平均) 規模 0.029 <1e-16%

10 有形固定資産回転率 効率性 -0.034 <1e-06% 10 (絶対値)売上債権対買入債務比率 安全性 0.037 <1e-16%

11 手元流動性比率 安全性 0.041 <1e-06% 11 流動負債キャッシュフロー倍率 安全性 0.057 <1e-16%

12 棚卸資産回転日数 効率性 -0.028 <1e-06% 12 固定負債キャッシュフロー2倍率 安全性 0.044 <1e-16%

13 減価償却率(3期平均) 安全性 0.049 <1e-06% 13 (絶対値)人件費増加率 成長性 0.049 <1e-16%

14 キャッシュフロー2(3期平均) 規模 0.022 <1e-06% 14 (絶対値)キャッシュフローマージン3 収益性 0.051 <1e-16%

15 (絶対値)現預金比率差分 安全性 0.051 <1e-06% 15 固定比率 安全性 0.038 <1e-16%

16 売上高純金利負担率(3期平均) 安全性 -0.082 <1e-06% 16 (絶対値)売上高経常収支比率 資金繰り 0.047 <1e-16%

17 (絶対値)純運転資本/使用総資本比率3期増減 効率性 0.042 <1e-06% 17 売上高増減率 成長性 0.016 <1e-16%

18 代表者年齢 属性 -0.006 <1e-06% 18 (絶対値)売上高当期利益率 収益性 0.044 <1e-16%

19 固定比率 安全性 0.033 <1e-06% 19 経常利益増減 成長性 -0.017 <1e-16%

20 売上高総利益率(粗利益率) 収益性 -0.047 <1e-06% 20 売上債権回転日数 効率性 0.025 <1e-16%

21 有利子負債利子率 安全性 -0.087 <1e-06% 21 その他営業外収益売上高比率(3期平均) 調達構造 -0.056 <1e-16%

22 (絶対値)固定資産回転率3期増減 効率性 0.015 <1e-06% 22 キャッシュフロー償還年数3 安全性 0.036 <1e-16%

23 純運転資本額 規模 0.009 <1e-06% 23 減価償却率(3期平均) 安全性 0.036 <1e-16%

24 自己資本比率増減 安全性 0.013 <1e-06% 24 債務償還年数1(3期平均) 安全性 -0.025 <1e-16%

25 売上高設備投資比率 効率性 0.021 <1e-06% 25 (絶対値)人件費平均成長率(3期使用) 過去成長性 0.031 <1e-16%

26 売上高投資CF比率(2期平均) 積極性 0.017 <1e-06% 26 (絶対値)売上高営業利益率(3期平均) 収益性 0.040 <1e-16%

27 デットキャパシティレシオ2(DCR2) 安全性 -0.018 <1e-06% 27 設備投資効率(3期平均) 生産性 -0.013 <1e-16%

28 売上債権対買入債務比率 安全性 0.013 <1e-06% 28 現預金増加調整後借入金増加率 調達構造 0.013 <1e-16%

29 (絶対値)売上高人件費比率3期増減 効率性 0.017 <1e-06% 29 代表者年齢 属性 -0.004 <1e-16%

30 人件費増加率 成長性 0.008 <1e-06% 30 有利子負債利子率 安全性 -0.070 <1e-16%

31 自己資本当期利益率(3期平均) 収益性 0.007 <1e-06% 31 売上高投資CF比率(2期平均) 積極性 0.019 <1e-16%

32 買入債務回転日数増減 安全性 -0.008 <1e-06% 32 従業員数 規模 0.001 <1e-16%

33 キャッシュフロー償還年数4 安全性 -0.014 <1e-06% 33 純運転資本額 規模 0.008 <1e-16%

推計パラメータ 推計パラメータ

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【図表 17】試験運用モデル推計パラメータ一覧(続き)

上記のように推計されたパラメータ値を基に、個々の企業 i は、30~33 種類の指標値を

用いてスコア評価され、そのスコアを基に推定ランクが計算される。成長性指標α(α=売

上高 5 年間成長,付加価値額 5 年間成長,営業 CF5 年間成長,純資産 5 年間成長)に関す

るスコア(SCORE𝛼𝑖)は以下の計算式で定義される。

SCORE𝛼𝑖 =∑𝑑𝛼𝑗 × 𝑥𝛼𝑗

𝐽𝛼

𝑗=1

= 𝑑𝛼1 × 𝑥𝛼1 + 𝑑𝛼2 × 𝑥𝛼2 +⋯+ 𝑑𝛼𝐽𝛼 × 𝑥𝛼𝐽𝛼

dαj:成長性指標αモデルの説明変数 jの推計パラメータ

xαj:成長性指標αモデルの説明変数 jの指標値(加工後)

Jα:成長性指標αモデルの説明変数の数

◆営業CF成長 ◆純資産成長

no 説明変数名 指標カテゴリ 推計値 p値 no 説明変数名 指標カテゴリ 推計値 p値

1 現預金売上高比率 安全性 0.157 <1e-16% 1 固定長期適合率 安全性 0.198 <1e-16%

2 (絶対値)キャッシュフローマージン4 収益性 0.089 <1e-16% 2 総資本総利益率 収益性 0.179 <1e-16%

3 純金利負担額 規模 -0.069 <1e-16% 3 (絶対値)総資本当期利益率 収益性 0.177 <1e-16%

4 (絶対値)売上高経常収支比率 資金繰り 0.071 <1e-16% 4 (絶対値)総資本事業利益率(3期平均) 収益性 0.203 <1e-16%

5 負債比率 安全性 0.049 <1e-16% 5 業歴(年) 属性 -0.008 <1e-16%

6 流動負債キャッシュフロー2倍率 安全性 0.051 <1e-16% 6 (絶対値)固定比率 安全性 -0.095 <1e-16%

7 自己資本比率 安全性 0.019 <1e-16% 7 (絶対値)負債比率 安全性 -0.082 <1e-16%

8 (絶対値)売上高販管費率3期増減 効率性 0.057 <1e-16% 8 (絶対値)自己資本増減率 成長性 0.059 <1e-16%

9 経常収支比率 資金繰り 0.394 <1e-16% 9 (絶対値)経常利益増減 成長性 0.065 <1e-16%

10 (絶対値)売上高営業利益率(3期平均) 収益性 0.059 <1e-16% 10 (絶対値)自己資本経常利益率 収益性 0.064 <1e-16%

11 純運転資本/使用総資本比率3期増減 効率性 -0.020 <1e-16% 11 減価償却率(3期平均) 安全性 0.095 <1e-16%

12 流動負債キャッシュフロー倍率 安全性 0.047 <1e-16% 12 手元流動性比率 安全性 0.062 <1e-16%

13 純運転資本額 規模 -0.014 <1e-16% 13 有利子負債利子率 安全性 -0.185 <1e-16%

14 (絶対値)キャッシュフローマージン3 収益性 0.049 <1e-16% 14 流動資産対その他流動資産比率 安全性 -0.045 <1e-16%

15 (絶対値)キャッシュフローマージン3(2期平均) 収益性 0.051 <1e-16% 15 売上高販管費率 効率性 -0.076 <1e-16%

16 (絶対値)現預金増加調整後借入金増加率 調達構造 -0.044 <1e-16% 16 (絶対値)売上高営業利益率(3期平均) 収益性 0.071 <1e-16%

17 買入債務回転日数 効率性 -0.023 <1e-16% 17 固定長期適合率(3期平均) 安全性 -0.067 <1e-16%

18 (絶対値)売上高原価率3期増減 効率性 0.038 <1e-16% 18 営業運転資本回転期間1_2(3期平均) 効率性 -0.078 <1e-16%

19 (絶対値)売上債権対買入債務比率 安全性 0.021 <1e-16% 19 売上高平均成長率(3期使用) 過去成長性 0.020 <1e-16%

20 有利子負債増加フラグ フラグ 0.061 <1e-16% 20 買入債務回転日数 効率性 -0.034 <1e-16%

21 人件費平均成長率(3期使用) 過去成長性 0.013 <1e-16% 21 棚卸資産回転日数 効率性 -0.031 <1e-16%

22 現預金増加調整後資本増加率(2期平均) 調達構造 -0.017 <1e-16% 22 キャッシュフロー1 規模 0.020 <1e-16%

23 自己資本営業利益率 収益性 0.011 <1e-16% 23 (絶対値)現預金増加調整後資本増加率(2期平均)調達構造 0.055 <1e-16%

24 現預金比率差分 安全性 0.016 <1e-16% 24 売上債権回転日数 効率性 0.030 <1e-16%

25 売上高特別損益率3期増減 収益性 0.030 <1e-16% 25 (絶対値)総資本利払後事業利益率 収益性 0.039 <1e-16%

26 人件費増加率 成長性 0.010 <1e-16% 26 売上債権対買入債務比率 安全性 0.023 <1e-16%

27 キャッシュフロー3 2期連続-600万円以下 フラグ -0.094 <1e-16% 27 売上高増減率 成長性 0.014 <1e-16%

28 キャッシュフロー償還年数3 安全性 0.021 <1e-16% 28 その他営業外収益売上高比率 調達構造 0.051 <1e-16%

29 キャッシュフロー3増減率 成長性 0.004 <1e-16% 29 人件費平均成長率(3期使用) 過去成長性 0.013 <1e-16%

30 (絶対値)売上高人件費比率3期増減 効率性 0.020 <1e-16% 30 経常収支比率 資金繰り 0.222 <1e-16%

31 設備投資額(無形含)翌期売上高増減比率 効率性 0.004 <1e-16%

32 一人当り経常利益 生産性 0.034 <1e-16%

33 設備投資(無形含)借入依存度(2期平均) 調達構造 -0.004 <1e-16%

推計パラメータ 推計パラメータ

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31

ここで、スコアは大きければ大きいほど、高い成長が期待できることを意味している。

すなわち、【図表 17】に示した推計パラメータ値は、正値であれば、当該説明変数が大き

ければ大きいほど成長に寄与し、逆に負値であれば、当該説明変数が小さければ小さいほ

ど成長に寄与することを意味している(具体的なイメージは「(5)試験運用モデルを用いた

個社事例」を参照)。

上式のように計算されたスコアを基に、推定ランクが計算されるが、推定ランク毎のスコ

ア閾値は【図表 18】のようになる。

【図表 18】試験運用モデル推定ランクとスコア閾値

さらに、成長性指標モデル毎の推定ランクのそれぞれで、どの程度の成長率が期待でき

るのかについても、モデル構築時データを基準にして確認できる。モデル構築時データは

基準年として 2000 年から 2009年までの 10 年間の数値を使っているが、各基準年の翌年

から 5 年間の実績成長率を 10年間の期間全体で見た時に、【図表 7】に示した方法で 7 ラ

ンクに分けている。この時の閾値は、10 年間という長期間を観測期間とした 5年間成長率

であり、景気の 1循環も含んでいることから、期待成長率と考えることができるであろ

う。【図表 19】には、推定ランク毎の期待成長率を示している。

なお、【図表 7】でも説明したとおり、ランク 3~7は成長領域として売上高成長モデ

ル、付加価値額成長モデル、営業 CF 成長モデルはプラス成長が期待されるランクと考え

られる。一方、純資産成長もランク 3~7 は成長領域と呼んでいるが、プラス成長となっ

ているのはランク 2 以上である。

■売上高成長モデル ■付加価値額成長モデルランク ランク

7 0.599627 以上 7 1.517059 以上6 0.434389 以上 0.599627 未満 6 1.347470 以上 1.517059 未満5 0.322755 以上 0.434389 未満 5 1.232272 以上 1.347470 未満4 0.233275 以上 0.322755 未満 4 1.140058 以上 1.232272 未満3 0.154960 以上 0.233275 未満 3 1.059500 以上 1.140058 未満2 -0.107924 以上 0.154960 未満 2 0.793846 以上 1.059500 未満1 -0.107924 未満 1 0.793846 未満

■営業CF成長モデル ■純資産成長モデルランク ランク

7 3.782085 以上 7 3.229084 以上6 3.614948 以上 3.782085 未満 6 2.891518 以上 3.229084 未満5 3.503921 以上 3.614948 未満 5 2.650122 以上 2.891518 未満4 3.414530 以上 3.503921 未満 4 2.451549 以上 2.650122 未満3 3.335794 以上 3.414530 未満 3 2.274861 以上 2.451549 未満2 3.148042 以上 3.335794 未満 2 2.093518 以上 2.274861 未満1 3.148042 未満 1 2.093518 未満

スコア スコア

スコア スコア

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32

【図表 19】試験運用モデル推定ランク毎の期待成長率

◆売上高成長率評価ランク

7 売上高成長率が 49.62 %以上

6 売上高成長率が 26.43 %以上 49.62 %未満

5 売上高成長率が 14.49 %以上 26.43 %未満

4 売上高成長率が 6.43 %以上 14.49 %未満

3 売上高成長率が 0.21 %以上 6.43 %未満

2 売上高成長率が -19.66 %以上 0.21 %未満

1 売上高成長率が -19.66 %未満

◆付加価値額成長率評価ランク

7 付加価値額成長率が 21.98 %以上

6 付加価値額成長率が 10.44 %以上 21.98 %未満

5 付加価値額成長率が 5.31 %以上 10.44 %未満

4 付加価値額成長率が 2.42 %以上 5.31 %未満

3 付加価値額成長率が 0.54 %以上 2.42 %未満

2 付加価値額成長率が -5.90 %以上 0.54 %未満

1 付加価値額成長率が -5.90 %未満

◆営業CF成長率評価ランク

7 営業CF成長率が 14.82 %以上

6 営業CF成長率が 7.84 %以上 14.82 %未満

5 営業CF成長率が 4.30 %以上 7.84 %未満

4 営業CF成長率が 1.92 %以上 4.30 %未満

3 営業CF成長率が 0.04 %以上 1.92 %未満

2 営業CF成長率が -5.35 %以上 0.04 %未満

1 営業CF成長率が -5.35 %未満

◆純資産成長率評価ランク

7 純資産成長率が 19.44 %以上

6 純資産成長率が 10.84 %以上 19.44 %未満

5 純資産成長率が 6.48 %以上 10.84 %未満

4 純資産成長率が 3.62 %以上 6.48 %未満

3 純資産成長率が 1.60 %以上 3.62 %未満

2 純資産成長率が 0.13 %以上 1.60 %未満

1 純資産成長率が 0.13 %未満

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(4) 統合指標の検討

前節で説明したように、4 種類の成長性指標に関し、それぞれの予測ランク及び成長期

待値を計算できるモデルを構築した。これは、p.21 のⅡ(2)b)で説明したように、分かりや

すさを重視して、まずは 4 成長性指標を個別にモデル化するという方針に基づいたもので

ある。その結果、ある成長性指標では高成長が期待されるという評価になったとしても、

他の成長性指標では成長期待値が低いという評価になることもまま起こりうる。また、4

成長性指標それぞれの評価は分かるが、最終的に当該企業の成長性はどうなのか、という

点については何も言っていない。これらの論点については、4 成長性指標の予測結果を統

合して総合判断に用いる指標を検討したが、最終的に、研究会での議論等も踏まえ、明示

的な統合指標は作成しないこととなった。本節では、この議論について説明する。

まず、統合指標の必要性に関しては、“そもそも企業の成長性とは何か”という議論が平

成 28年度事業からあり、それ以来の論点でもある。当初の議論から、“具体的な単一の指

標(例えば売上高成長率)で測る”という考え方もあれば、“抽象的な企業成長性という潜

在的な指標を因子分析等で定義し、その抽象的な企業成長性を予測する”という考え方も存

在した。しかしながら、平成 28 年度事業では、“企業の成長性を複眼的に評価し、評価結

果を具体的な制度・枠組みに落とし込むためには、複数の具体的な指標が必要”という考え

方に基づき、4種類の成長性指標8を採用したものである。したがって、平成 28年度事業

の検討結果も踏まえると、統合指標に何らかの意味付けを求めることは、そもそも“企業の

成長性とは何か”という議論に戻ってしまうことを意味している。したがって、平成 29 年

度事業では、統合指標そのものに意味を持たせるという方向性は追求せず、統合過程で何

を重視するか、ということを明示する方針とした。

統合過程については、様々な方法論を検討したが、大別すると以下 A)~C)の 3種類にま

とめられる。

8 平成 28年度事業では、成長性指標ではないが「売上高ボラティリティ」も検討範囲に残

っていた。

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この検討過程でも様々な議論があったが、最終的に次のような結論となった。

企業の成長性に対する見方は金融機関、人によって異なるため、成長性指標を 4 種類

の用意したものであり、どこを重視するかについてはあらかじめ決めない方が良く、

統合指標というものを用意する必要はない。

ただし、パッと見て企業の評価が良いか悪いかはあった方が良く、それは統合指標と

いう名称ではなく、単純な平均値(すなわち A案)が、サマリーシートのような帳票

に表示されていれば良い。

検討した統合指標作成方法

A) 成長性指標を平等と考えた場合の方法:単純平均

〔例〕統合ランク=(売上ランク+付加価値ランク+営業 CF ランク+純資産ランク)÷4

B) 関連性の強い指標同士の重みを小さくすると考えた場合の方法

:相関による加重平均(下左表参照)

〔例〕統合ランク=(0.5×売上ランク+0.5×付加価値ランク+営業 CF ランク+純資産ランク)÷3

C) 予測精度の高い指標を重視すると考えた場合の方法

:予測精度による加重平均(下右表参照)

〔例〕統合ランク= 0.3×売上ランク+0.3×付加価値ランク+0.03×営業 CF ランク+0.37×純資産ランク

【成長性指標(実績値)間の相関係数】

売上高成長

付加価値額成長

営業CF成長

純資産成長

売上高成長 1付加価値額成長 0.71 1営業CF成長 0.18 0.06 1純資産成長 0.11 0.11 0.11 1

売上高成長

付加価値額成長

営業CF成長

純資産成長

(a)計測値 50% 50% 51% 65%(b)期待値 40% 40% 50% 50%

(c)(a÷b)-1 0.24 0.24 0.03 0.30(d)ウェイト 0.30 0.30 0.03 0.37

実績ランク包含率(推計7⇒成長領域)

【精度(実績ランク包含率)に基づいたウェイト例】

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(5) 試験運用モデルを用いた個社事例

本節では、試験運用モデルを用いた個社(X社)の評価結果を例示し、合わせてモデル

評価の解釈事例等について説明する。

X 社の評価事例

X 社の基本情報

(ア) X 社の基準年 T時点(2009 年)の属性情報

業種:製造業

売上高:約 3億円、資本金:300万円

従業員数:約 20 人

業歴:10年以上 20 年未満

(イ) X 社の主要財務情報( 図表 20】参照)

X 社はリーマンショックの影響か、2009 年期にいったん売上が減少している。X 社

の基準年前の財務状況の動きを見ると、売上はやや大きく変動しており、営業利益が安

定して出ているとは言い難い。2009年期には営業赤字となっており、最終当期利益も

大幅な赤字となっている。その結果、2009年期の資本合計(純資産)がマイナス、す

なわち債務超過に陥っている。一方、現・預金はそれほどひっ迫しているわけではなく、

有形固定資産(設備)投資もしっかり行われているようである。これらの財務的要素を

総合して、基準年である 2009 年期の信用力モデルによる評価区分(CRD モデル判定

に基づく保証料率区分)は 5となっている。

この X 社の 5年後の財務状況については、【図表 20】の右端列で確認できる。売上

は 5年間で凡そ 50%増加し、最終利益も大幅な黒字である。【図表 20】には表れてい

ないが、人件費は順調に増え、複数年連続で営業黒字に良化し、安定した黒字体質に

転換している。その結果、5 年後には債務超過は解消され、企業間信用による取引も

増加しているようである。この 5年間の成長に関し、本事業で定義した成長性指標の

実績値ランク(7~1:7が最も高成長)は、以下のように高い数値が並んでいる。

売上高 5年間成長 : ランク 7

付加価値額 5年間成長 : ランク 7

営業 CF5 年間成長 : ランク 5

純資産 5年間成長 : ランク 7

また、5 年後の信用力評価である保証料率区分は 9 と最高評価となっている。

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【図表 20】X 社の財務状況推移

貸借対照表 T-2 T-1 基準年T T+5

2007/2末 2008/2末 2009/2末 2014/2末

流動資産合計 87 114 94 198

現金・預金 28 66 66 78

売掛金 40 32 13 87

棚卸資産合計 2 2 1 8

固定資産合計 114 103 169 143

有形固定資産合計 111 102 166 131

資産合計 201 218 263 341

流動負債合計 55 42 81 140

買掛金 19 7 4 25

短期借入金 15 23 67 63

固定負債合計 101 139 184 140

社債・長期借入金 101 139 184 140

負債合計 156 181 265 280

資本合計 46 37 -2 61

資本金 3 3 3 3

負債・資本合計 201 218 263 341

(単位:百万円)

損益計算書等 T-2 T-1 基準年T T+5

2007/2期 2008/2期 2009/2期 2014/2期

売上高・営業収益 317 431 388 580

売上原価・営業原価 162 263 239 315

売上総利益 155 167 149 264

販売費および一般管理費 155 163 178 232

営業利益 -1 4 -29 32

受取利息・配当金 0 0 0 0

支払利息・割引料 2 2 3 3

経常利益 -3 -0 -29 31

当期利益 -2 -9 -39 23

受取手形割引高 0 0 0 0

受取手形裏書譲渡高 0 0 0 0

減価償却実施額 16 18 23 15

(単位:百万円)

成長要因の観測期間5年後

保証料率区分:5 保証料率区分:9

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(ウ) X 社の成長性評価

さて、結果だけを見ていると、X社は基準年時点で一旦苦境に陥った後、高成長した

典型的な企業であるが、業績が低迷していた 2009 年時点において、試験運用モデルは

どのように X 社の成長性を評価したのであろうか。【図表 21】にその評価を示し、参

考として、右列には実績成長ランクも示している。【図表 21】を見ると、売上高と付加

価値額は、若干の過少評価であるが、6ランクが比較的高成長ランクであることを考慮

すると、実績に近く、そしてかなりの高評価をしていることが分かる。

【図表 21】X 社(2009 年)の成長性評価

では、このような高評価をした要因は何であろうか。【図表 17】で示したモデルの

推定パラメータ一覧のうち、評価が高かった指標を確認し、成長性指標毎に特徴を列

挙しておく。

売上高 5年間成長

高評価であった指標は、効率性カテゴリに多く、棚卸資産回転日数や営業運転

資本回転期間が相対的に短いことが成長に寄与するという評価であった。ま

た、しっかりと設備投資が行われている、という点も高評価であった。

その他のカテゴリにおける指標では、人件費が伸びていること、有利子負債利

子率が低く抑えられていること、過去の売上高の変動が比較的大きいこと等

の点がモデル評価の特徴となっている。

付加価値額 5年間成長

基本的には売上高 5 年間成長と同じような点が評価されているが、そのほか

にも、借入金の増加を現預金として留保するのではなく、しっかりと設備投資

に活用できているという点も評価されている。

6 7

6 7

5 5

7 7

営業CF 評価

純資産 評価

成長期待値モデル

評価ランク

参考】

実績成長ランク

売上高 評価

付加価値額 評価

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営業CF5 年間成長

過去の営業 CF の動きが高評価となっている。利益は赤字が続いていたもの

の、営業 CF は黒字を確保していたこと、現預金もある程度確保していたこと

等が、モデルでは営業 CFに対する経営者の認識の表れと評価されたものと考

えられる。

その他、売上規模成長に関連する評価が高い点なども評価されている。

純資産 5年間成長

過去 3 年間に売上や利益が大きく変動していて、直近期に大きな赤字を計上

しているという点が、その後に成長するポテンシャルを有していると評価さ

れたようである。

その他、金利負担(有利子負債利子率)が小さいこと、効率的な経営が行われ

ている(棚卸資産回転日数や買入債務回転日数が短い)こと等が合わせて評価

されている。

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(6) 試験運用モデルの有用性検証結果

本節では、(3)節で説明した試験運用モデルの有用性検証について説明する。検証方法は

a)成長期待値評価モデルが信用力評価モデルと異なる軸を示していて二軸評価として活用

できるか、b)成長期待値評価モデルの予測精度は二軸評価としての利用に問題ないか、

c)CRDデータを用いて構築された成長期待値評価モデルが外部データでもあまり変わらな

い結果を示すか(頑健性検証)、の 3 点である。以下では、順次説明する。

a) 二軸評価としての活用

成長期待値評価モデルが二軸評価として利用できるためには、信用力評価モデルと異

なる軸を示している必要がある。企業の成長性と信用力には、ある程度の相関があると

考えられるが、成長期待値評価モデルが信用力評価モデルと同じような説明変数で同じ

ような評価をしていた場合、本事業において構築したモデルは、従来存在する信用力評

価モデルに加えられる要素はあまりない。すなわち、縦軸と横軸でそれぞれモデル評価

をプロットした時、対角線上にほとんどの債務者が存在していた場合、成長期待値評価

モデルと信用力評価モデルが同じような評価をしていることを意味している。

この点については、幸い、平成 28年度事業におけるプロトタイプモデルの段階で、

両モデルの評価が比較的異なる結果を生むことが分かっている。したがって、ここで

は、試験運用モデルでも同様の結果が得られていることを確認すればよい。その結果が

【図表 22】及び【図表 23】である。【図表 22】には、分析用データで最新年の 2015 決

算年データ9を用い、縦軸に信用力評価、横軸に成長期待値評価をとった時の決算書数を

示している。一方、【図表 23】にはその概略化した構成比を示している。信用力評価と

しては、平成 28 年度事業と同じく、CRDモデル 3期間 3 年モデルに基づいた保証料率

区分 9 区分を使っており、9 ランクが最も高評価であり、ランクが下がるほど信用力評

価としては低い評価となる。

【図表 22】を見ると、対角線上に決算書が固まっておらず、明らかに成長期待値評価

モデルと信用力評価モデルは比較的異なる評価となることが分かる。したがって、試験

運用モデルについても、プロトタイプモデルと同様、二軸評価に利用することが十分可

能であると言えよう。

9 他の決算年の状況については、景気変動の影響等もあり、多少の変動は見られるもの

の、ここでの結論に変化は無い程度である。

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【図表 22】CRD2015年データに対する二軸評価(件数)

◆売上高5年間成長率(2015年)

1 2 3 4 5 6 7 合計

10,444 15,301 4,896 5,591 6,075 7,006 8,869 58,1829,484 10,626 3,182 3,361 3,575 3,790 4,700 38,718

11,633 11,361 3,415 3,425 3,638 3,881 4,322 41,675

11,131 8,914 2,495 2,539 2,653 2,808 3,144 33,68423,756 15,515 4,004 3,957 3,996 3,918 4,254 59,40017,719 7,951 1,818 1,701 1,640 1,498 1,495 33,8227,434 2,300 479 464 435 354 324 11,7905,586 1,310 230 223 196 152 116 7,8131,281 225 41 33 22 13 5 1,620

98,468 73,503 20,560 21,294 22,230 23,420 27,229 286,704

◆付加価値額5年間成長率(2015年)

1 2 3 4 5 6 7 合計

14,867 15,479 4,844 5,101 5,620 6,148 6,123 58,18212,841 10,033 2,811 2,986 3,175 3,334 3,538 38,71813,675 10,485 3,104 3,224 3,447 3,744 3,996 41,675

10,316 8,528 2,523 2,656 2,847 3,104 3,710 33,68418,447 14,923 4,306 4,435 4,912 5,258 7,119 59,40012,397 8,082 2,219 2,278 2,341 2,532 3,973 33,8224,858 2,767 679 708 716 791 1,271 11,7903,477 1,711 398 418 499 480 830 7,813

742 297 95 84 98 118 186 1,620

91,620 72,305 20,979 21,890 23,655 25,509 30,746 286,704

◆営業CF5年間成長率(2015年)

1 2 3 4 5 6 7 合計

10,012 11,661 5,586 6,288 6,980 8,295 9,360 58,1828,494 8,396 3,742 3,990 4,355 4,815 4,926 38,7189,844 9,021 3,906 4,230 4,484 4,838 5,352 41,675

8,940 7,322 3,103 3,286 3,398 3,617 4,018 33,68417,580 12,877 5,366 5,389 5,548 5,858 6,782 59,40011,736 7,189 2,737 2,820 2,798 2,889 3,653 33,8224,854 2,503 872 848 850 807 1,056 11,7903,475 1,589 593 527 517 514 598 7,813

759 344 107 108 90 109 103 1,620

75,694 60,902 26,012 27,486 29,020 31,742 35,848 286,704

◆純資産5年間成長率(2015年)

1 2 3 4 5 6 7 合計

6,108 3,945 4,819 6,166 8,115 11,011 18,018 58,1828,935 3,841 4,180 4,596 5,279 5,839 6,048 38,718

13,024 4,407 4,358 4,655 5,036 5,131 5,064 41,675

11,555 3,335 3,214 3,444 3,635 3,887 4,614 33,68421,567 5,276 5,009 5,405 5,933 6,780 9,430 59,40014,181 2,867 2,698 2,700 2,906 3,293 5,177 33,8225,233 873 911 967 1,014 1,111 1,681 11,7903,661 639 567 614 627 719 986 7,813

727 132 127 128 135 167 204 1,620

84,991 25,315 25,883 28,675 32,680 37,938 51,222 286,704

推計ランク

非成長領域 成長領域

推計ランク

非成長領域 成長領域

非成長領域 成長領域

非成長領域 成長領域

合計

321

1

合計

合計

CRDモデル3累積3年デフォルト確率による保証料率区分

654

987

43

CRDモデル3累積3年デフォルト確率による保証料率区分

2

7

65

98

32

CRDモデル3累積3年デフォルト確率による保証料率区分

1

654

987

推計ランク

推計ランク

21

合計

543

CRDモデル3累積3年デフォルト確率による保証料率区分

987

6

Page 44: 平成29年度中小企業の成長期待値評価モデル の実 …まず、CRD 協会1が中小企業庁より業務委託を受け、中小企業の成長期待値評価モデルの

41

さて、二軸評価の際に関心事項となるのは、信用力としてあまり高くない先で、成長期

待値の高い先がどの程度存在するか、という点である。二軸評価をしても、従来と変わら

ない融資対象にしか成長期待値の高い企業が存在しないということであれば、本モデルの

コンセプトに合わない。その点は、【図表 23】の黄色枠部分として確認できる。これを確

認すると、いずれの成長指標でも、全評価対象企業のうち、おおよそ 10%から 20%程度

が中低リスク先であるが成長領域(概ねプラス成長)に存在していることが分かる。この

うちの高成長期待先に限定すれば、更に絞り込まれることになるが、それでもある程度の

ボリュームは存在することが確認できる。二軸評価で融資拡張先に目星を付け、事業性評

価につなげられる企業を、ある程度の件数で発掘できるのではないだろうか。

なお、第Ⅲ章で紹介するユーザ試験では、ご協力いただいた CRD正会員の保証協会、

金融機関には、CRDへご提供いただいているデータを基に、同様の集計を行い、各機関で

どの程度の黄色枠部分が見られるかを確認した。その結果、保証・融資先規模やリスクテ

イクの度合いにより、ある程度の相違は出たものの、最も少ない黄色枠でも 8%程度とな

った。この結果と後段で説明する全くの外部データである TSR データに対する集計結果

を鑑みると、いずれの機関でも【図表 23】と大きく変わらない程度の黄色枠は確保できる

のではないかと考えられる。

【図表 23】CRD2015年データに対する二軸評価(構成比)

◆売上高5年間成長率(2015年)

1 2 3 4 5 6 7

29.1%

10.6%

0.4%

60.0%654321

推計ランク

成長領域非成長領域

CRDモデル3累積3年デフォルト確率による保証料率区分

987

◆付加価値額5年間成長率(2015年)

1 2 3 4 5 6 7

15.2%

1.1%

26.5%

57.2%CRDモデル3

累積3年デフォルト確率による保証料率区分

654321

推計ランク

成長領域非成長領域

987

◆営業CF5年間成長率(2015年)

1 2 3 4 5 6 7

34.4%

47.6%16.8%

1.1%

321

推計ランク

成長領域非成長領域

CRDモデル3累積3年デフォルト確率による保証料率区分

7

654

89

◆純資産5年間成長率(2015年)

1 2 3 4 5 6 7

40.8%

38.5%19.2%

1.5%1

7

65432

98

推計ランク

成長領域非成長領域

CRDモデル3累積3年デフォルト確率による保証料率区分

Page 45: 平成29年度中小企業の成長期待値評価モデル の実 …まず、CRD 協会1が中小企業庁より業務委託を受け、中小企業の成長期待値評価モデルの

42

b) 試験運用モデル評価の確からしさ

ここまでに説明した試験運用モデルについて、その評価結果がどの程度確信を持って利

用できるのか、モデルの確からしさについて説明する。モデルの確からしさについては、

まず、p.14 で説明したように、実績ランク包含率という指標を用いる。その結果は【図表

24】のとおりである。

【図表 24】試験運用モデル評価の実績ランク包含率

試験運用モデルの【図表 24】とプロトタイプモデルの【図表 9】を比較すると、ほとん

ど変化していない。すなわち、実績ランク包含率という精度面に関しては、目立った変化

が無いことを意味している。精度面の向上という点について、主なものだけでもデフォル

◆売上高5年間成長

1 2 3 4 5 6 7

7 49.6 %以上 4% 6% 8% 9% 11% 13% 17%6以上 26.4 %以上 8% 14% 17% 19% 20% 23% 28%5以上 14.5 %以上 14% 21% 26% 27% 30% 32% 36%4以上 6.4 %以上 20% 29% 34% 36% 38% 40% 43%

3以上(成長領域) 0.2 %以上 27% 37% 42% 43% 45% 47% 49%

◆付加価値額5年間成長

1 2 3 4 5 6 77 22.0 %以上 3% 6% 9% 10% 12% 14% 19%

6以上 10.4 %以上 7% 14% 18% 19% 22% 24% 30%5以上 5.3 %以上 13% 21% 26% 28% 30% 32% 37%4以上 2.4 %以上 21% 29% 33% 35% 36% 39% 43%

3以上(成長領域) 0.5 %以上 30% 36% 39% 41% 42% 44% 48%

◆営業CF5年間成長

1 2 3 4 5 6 7

7 14.8 %以上 4% 7% 9% 10% 12% 15% 23%6以上 7.8 %以上 10% 16% 19% 21% 23% 27% 34%5以上 4.3 %以上 19% 26% 29% 30% 33% 36% 41%4以上 1.9 %以上 30% 36% 38% 39% 41% 43% 46%

3以上(成長領域) 0.0 %以上 42% 45% 46% 47% 47% 49% 51%

◆純資産5年間成長

1 2 3 4 5 6 7

7 19.4 %以上 2% 6% 7% 10% 13% 19% 31%6以上 10.8 %以上 7% 14% 18% 22% 28% 35% 45%5以上 6.5 %以上 13% 25% 30% 35% 41% 47% 53%4以上 3.6 %以上 22% 36% 41% 45% 50% 54% 58%

3以上(成長領域) 1.6 %以上 33% 47% 50% 53% 56% 59% 62%

推計ランク

非成長領域 成長領域

推計ランク

非成長領域 成長領域

実績ランク

売上高5年間成長率

(通期閾値[参考])

実績ランク

営業CF5年間成長率

(通期閾値[参考])

推計ランク

実績ランク

付加価値額5年間成長率

(通期閾値[参考])

推計ランク

実績ランク

純資産5年間成長率

(通期閾値[参考])

非成長領域 成長領域

非成長領域 成長領域

Page 46: 平成29年度中小企業の成長期待値評価モデル の実 …まず、CRD 協会1が中小企業庁より業務委託を受け、中小企業の成長期待値評価モデルの

43

トデータ、業種要素取り込み、高ランク先の加重、非線形性の検討等、多くの取り組みを

行ったが、想定していたような改善が見られなかった。その一方、試験運用モデルでは、

分かりやすさや使い勝手の良さを考慮し、若干の精度低下を甘受した上で、プロトタイプ

モデルから説明変数を大幅に絞り込んだ。これらのことから、試験運用モデルの最終的な

実績ランク包含率から見た予測精度は、プロトタイプモデルとほとんど変わらないという

結果となったものである。

この点については、p.15【図表 10】で示した AR 値という精度指標でも同様である。

【図表 25】には試験運用モデルの AR 値を示しているが、【図表 10】と比較して改善して

いる指標もあれば、低下している指標もあり、全体として大きな水準間の相違は見られな

い。

【図表 25】試験運用モデル精度(AR 値)一覧

このように、試験運用モデル評価の確からしさについては、高精度で成長が期待できる

企業を判別し、どの程度の成長率になるかを予測できる、という結果ではないことが分か

るであろう。しかし、ある程度の序列付けや成長しやすい企業かどうかという視点では見

極められる、と考えて問題ないであろう。したがって、試験運用モデル評価の結果のみで

融資可否を判断するものではなく、従来優先順位を付けられなかったところに成長性とい

う軸を加えて優先順位を付け、更に情報収集に取り組む企業を見つけ出すという活用を想

定すると、このような確からしさでも十分活用できると考えられる。

c) 外部データを用いた試験運用モデルの頑健性確認

平成 29年度事業の仕様書では、CRD以外の外部データによる信用力評価を用いて二軸

評価を実施し、CRDデータと同様に、中低信用力のグループで成長期待先がある程度存

在していることを示すことが求められている(いわゆる頑健性検証)。そこで、外部デー

タ提供先として東京商工リサーチ(TSR)様にご協力いただき、TSR が収集されている

企業データのうち、5000件をサンプリングして検証を行った。なお、主なサンプリング

条件は、企業評価期間と予測期間で決算書情報が取得できること、全期間において中小企

業の定義に属すること、企業評価時点である 2010 年の財務情報において小規模事業者を

成長指標判別用AR値

ランク用AR値(全)

ランク用AR値(成長)

売上高5年間成長率 0.213 0.222 0.185

付加価値額5年間成長率 0.155 0.181 0.300

営業CF5年間成長率 0.070 0.131 0.312

純資産5年間成長率 0.299 0.356 0.431

Page 47: 平成29年度中小企業の成長期待値評価モデル の実 …まず、CRD 協会1が中小企業庁より業務委託を受け、中小企業の成長期待値評価モデルの

44

20%以上含んでいること、CRDモデル構築用データの業種構成比に概ね合致しているこ

と、という下で、ランダム・サンプリングで抽出いただいた。

検証当初、二軸評価に用いる信用力評価として、TSR の“信用評点区分”(「警戒不要」

「無難」「多少注意」「一応警戒」「警戒」の 5 区分)を用いて集計を行ったが、中位ラン

クの「多少注意」に約 75%の企業が集中しており、「一応警戒」は約 9%、「警戒」は 0%

であった。この結果を見ると、「多少注意」には一般的な金融機関で正常先最下位や要注

意先に該当する先だけでなく、もう少し高い評価の企業も多く含まれていると想定される

ため、それらの企業を抽出できるよう、さらに細分化された評価区分を用いる必要がある

と考えられた。そこで、TSR の信用評点(0点~100 点)を 9 区分し、構成比が概ね【図

表 22】と同程度となるように閾値を設定して二軸評価を行った。その結果は【図表 26】

のとおりである。

【図表 26】TSR 信用評点を用いた二軸評価

1 2 3 4 5 6 7 合計 1 2 3 4 5 6 7 合計

176 245 69 53 46 38 15 642 371 164 38 30 26 10 3 642152 183 36 41 25 21 11 469 280 102 20 26 21 12 8 469189 251 60 55 51 47 19 672 365 168 32 28 32 34 13 672228 225 46 46 52 38 12 647 318 190 36 27 35 26 15 647387 363 86 86 73 54 22 1,071 512 294 65 52 60 49 39 1,071393 291 60 53 65 43 22 927 409 285 56 52 57 27 41 927148 92 21 21 19 16 10 327 156 77 21 18 17 9 29 32778 47 12 16 9 6 5 173 71 41 10 15 8 14 14 17333 21 1 7 2 4 4 72 21 18 6 6 7 7 7 72

1,784 1,718 391 378 342 267 120 5,000 2,503 1,339 284 254 263 188 169 5,000

1 2 3 4 5 6 7 合計 1 2 3 4 5 6 7 合計

216 117 52 45 56 66 90 642 179 74 88 65 92 96 48 642

193 86 45 33 39 31 42 469 225 44 62 44 39 29 26 469292 133 46 53 54 48 46 672 336 65 65 62 49 48 47 672240 136 60 49 55 47 60 647 376 60 51 52 50 34 24 647414 225 99 97 77 69 90 1,071 672 106 87 73 54 38 41 1,071313 209 78 84 82 86 75 927 640 75 48 50 42 37 35 927101 76 28 32 25 24 41 327 238 21 19 15 13 12 9 32741 30 22 22 18 12 28 173 114 13 15 8 6 8 9 17315 9 7 9 9 10 13 72 39 6 7 5 6 6 3 72

1,825 1,021 437 424 415 393 485 5,000 2,819 464 442 374 351 308 242 5,000

1 2 3 4 5 6 7 1 2 3 4 5 6 7

1 2 3 4 5 6 7 1 2 3 4 5 6 7

非成長領域 成長領域

非成長領域 成長領域

推計ランク

非成長領域 成長領域

推計ランク

非成長領域 成長領域

推計ランク

非成長領域 成長領域非成長領域 成長領域

非成長領域 成長領域

◆売上高5年間成長率

推計ランク ◆付加価値額5年間成長率

TSR評点区分(保証料率区分

と同構成比)

63 - 100点

TSR評点区分(保証料率区分

と同構成比)

63 - 100点60 - 62点 60 - 62点57 - 59点 57 - 59点55 - 56点 55 - 56点

44 - 46点 44 - 46点

43 - 0点 43 - 0点

52 - 54点 52 - 54点49 - 51点 49 - 51点47 - 48点 47 - 48点

合計 合計

◆営業CF5年間成長率

推計ランク ◆純資産5年間成長率

非成長領域 成長領域

推計ランク

TSR評点区分(保証料率区分

と同構成比)

63 - 100点

TSR評点区分(保証料率区分

と同構成比)

63 - 100点

60 - 62点 60 - 62点57 - 59点 57 - 59点55 - 56点 55 - 56点

44 - 46点 44 - 46点

43 - 0点 43 - 0点

52 - 54点 52 - 54点49 - 51点 49 - 51点47 - 48点 47 - 48点

合計 合計

◆売上高5年間成長率

推計ランク ◆付加価値額5年間成長率

47 - 48点 47 - 48点44 - 46点 44 - 46点

55 - 56点 55 - 56点52 - 54点 52 - 54点49 - 51点 49 - 51点

TSR評点区分(保証料率区分

と同構成比)

63 - 100点60 - 62点 60 - 62点57 - 59点 57 - 59点

16%

13%

1%

70%

TSR評点区分(保証料率区分

と同構成比)

63 - 100点

TSR評点区分(保証料率区分

と同構成比)

63 - 100点60 - 62点

43 - 0点 43 - 0点

◆営業CF5年間成長率

推計ランク ◆純資産5年間成長率

TSR評点区分(保証料率区分

と同構成比)

63 - 100点

44 - 46点 44 - 46点

43 - 0点 43 - 0点

57%20%

3%

55 - 56点 55 - 56点52 - 54点 52 - 54点49 - 51点 49 - 51点47 - 48点

60 - 62点57 - 59点 57 - 59点

47 - 48点

20% 21%

66%11%

1%

9%

77%12%

2%

Page 48: 平成29年度中小企業の成長期待値評価モデル の実 …まず、CRD 協会1が中小企業庁より業務委託を受け、中小企業の成長期待値評価モデルの

45

この結果を見ると、TSR 信用評点 54 点以下(全体の約半数)を中低信用力のグループ

とした場合、全体比の 12%から 23%程度が試験運用モデルで評価した時の成長領域にあ

り、それなりの割合が TSR データでも存在することが確認された。すなわち、試験運用

モデルの頑健性、有効性が示されたと言えるだろう。

なお、TSR データで非成長領域の企業割合が高くなっているが、この主な理由は、

TSRデータにおいて規模の大きい企業が多く、モデルでは成長余力が小さいと評価したも

のと考えられる。この点に関する参考として、【図表 27】では TSRデータと CRDデータ

の売上高及び業歴の分布を比較しているが、明らかに TSR データの方が売上規模の大き

い企業が多いことを確認できる。業歴に関しても、TSR データの方が若干長くなってい

る。これらの結果から、成長期待値評価モデルでは、TSRデータの方が成長余地の小さい

という評価になる企業が多く、結果的に【図表 26】において非成長領域の割合が大きく

なったものと考えられる。

【図表 27】TSR データと CRD データの基礎統計量比較

25%点位 中央値 75%点位

TSR 408,021 1,234,519 3,363,170

CRD 73,829 207,469 645,160

TSR 25 39 52

CRD 23 33 46

売上高(千円)

業歴(年)

TSR CRD

(億円)

TSR CRD

(年)

75%点位

中央値

25%点位

Page 49: 平成29年度中小企業の成長期待値評価モデル の実 …まず、CRD 協会1が中小企業庁より業務委託を受け、中小企業の成長期待値評価モデルの

46

d) 5 年後の信用力評価の動き

成長期待値評価モデルは、5年後の成長性指標がどの程度伸びる可能性を有しているか

を示しているが、それらの指標が伸びた時に信用力評価はどう変化しているか、という点

も関心のあるところであろう。付加価値額のように、金融費用も含まれる成長性指標につ

いては、付加価値額が上昇したとしても必ずしも信用力が良化するとは限らないが、純資

産額の増加は信用力の良化につながるのではないか、などと想定される。この論点につい

ては、本来の成長期待値評価モデルの目標ではないが、平成 29年度事業の仕様の一部に

入っていることもあり、以下では、成長期待値評価と 5 年後の信用力評価の変化を確認し

ている。

検証データはモデル構築用データ(基準年 1999 年~2010 年)とし、基準年時点の保証

料率区分とその 5年後の保証料率区分を比較した。企業データ毎に変化区分(=〔5年後

保証料率区分〕-〔基準年時点保証料率区分〕)を計算し、二軸評価のセグメント毎に変

化区分の平均値を計算したものが【図表 28】である。

まず、表から確認できることとして、基準年時点で高い保証料率区分であった企業は、

5 年後には下がる方向が多いのでマイナス傾向になり、逆に低い保証料率区分であった企

業はプラス傾向になっているが、これは当然の事象である。表の見方としては、横方向に

数値を見て、各保証料率区分で成長期待値モデルの推計ランクが高い方(ランクの大きい

方)で平均変化保証料率区分の値が大きくなっていれば、当該成長性指標モデルの評価が

高い(実際に成長した企業が多い)場合に信用力が良化したと言える。

この考え方に基づき【図表 28】を確認すると、基準年時点の保証料率区分 4 以下(概

ね要注意先以下に相当)では、いずれの成長性指標でも、推計ランクの高い方が信用力は

良化しており、やはり各成長性指標が成長すると、信用力が良化していく傾向にあること

が確認できた。一方、売上高 5 年間成長や付加価値額 5 年間成長では、保証料率区分が基

準時点で高い区分にあった企業は、成長性評価が高い方が信用力の低下が大きい傾向が見

られる。これは、企業体力以上の規模拡大を図り、信用力を悪化させた企業が多い可能性

を示唆している。純資産 5 年間成長や営業 CF5 年間成長では、その傾向は小さいように

見受けられる。

以上で確認したように、成長性評価と信用力評価の間には、興味深い関係が見られる部

分もあるが、全体としては明確な関係性はそれほど見られないと言ってもよいであろう。

Page 50: 平成29年度中小企業の成長期待値評価モデル の実 …まず、CRD 協会1が中小企業庁より業務委託を受け、中小企業の成長期待値評価モデルの

47

【図表 28】基準年から 5 年後の信用力評価の平均変化保証料率区分

1 2 3 4 5 6 7

9 -1.0 -1.0 -1.0 -1.0 -1.1 -1.2 -1.4

8 -0.6 -0.6 -0.7 -0.7 -0.8 -0.9 -1.2

7 -0.3 -0.3 -0.3 -0.4 -0.4 -0.5 -0.7

6 0.0 0.1 0.1 0.0 0.0 -0.1 -0.2

5 0.2 0.3 0.4 0.4 0.4 0.3 0.3

4 0.4 0.6 0.6 0.7 0.7 0.7 0.6

3 0.7 0.9 1.0 1.0 1.1 1.1 1.2

2 1.1 1.4 1.5 1.5 1.6 1.6 1.8

1 1.4 1.7 1.9 1.9 2.0 2.0 1.9

◆売上高5年間成長

推計ランク

成長領域 非成長領域

基準時点

CRDモデル3

累積3年

デフォルト確率

による

保証料率区分

1 2 3 4 5 6 7

9 -1.0 -1.0 -1.1 -1.1 -1.2 -1.2 -1.4

8 -0.6 -0.7 -0.7 -0.8 -0.8 -0.8 -0.9

7 -0.3 -0.4 -0.4 -0.4 -0.4 -0.4 -0.4

6 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.0 0.1

5 0.2 0.3 0.3 0.3 0.3 0.4 0.5

4 0.4 0.5 0.5 0.6 0.6 0.6 0.8

3 0.7 0.9 0.9 1.0 1.0 1.1 1.2

2 1.1 1.3 1.4 1.4 1.4 1.5 1.6

1 1.4 1.6 1.7 1.7 1.7 1.7 1.8

推計ランク

成長領域 非成長領域◆付加価値額5年間成長

基準時点

CRDモデル3

累積3年

デフォルト確率

による

保証料率区分

1 2 3 4 5 6 7

9 -1.0 -1.1 -1.1 -1.1 -1.1 -1.2 -1.2

8 -0.7 -0.7 -0.8 -0.8 -0.8 -0.8 -0.7

7 -0.3 -0.4 -0.4 -0.4 -0.4 -0.4 -0.3

6 0.0 0.0 -0.1 0.0 0.0 0.0 0.1

5 0.3 0.2 0.3 0.3 0.3 0.3 0.4

4 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5 0.5 0.7

3 0.8 0.8 0.8 0.8 0.9 0.9 1.1

2 1.2 1.2 1.2 1.3 1.3 1.3 1.5

1 1.5 1.6 1.5 1.6 1.6 1.7 1.7

◆営業CF5年間成長

推計ランク

成長領域 非成長領域

基準時点

CRDモデル3

累積3年

デフォルト確率

による

保証料率区分

1 2 3 4 5 6 7

9 -1.1 -1.1 -1.1 -1.1 -1.0 -1.1 -1.1

8 -0.7 -0.7 -0.7 -0.7 -0.7 -0.7 -0.9

7 -0.4 -0.3 -0.3 -0.3 -0.3 -0.3 -0.5

6 0.0 0.1 0.1 0.1 0.0 0.0 -0.1

5 0.2 0.4 0.4 0.4 0.4 0.4 0.3

4 0.4 0.6 0.6 0.6 0.6 0.6 0.7

3 0.8 0.9 1.0 1.0 1.0 1.1 1.1

2 1.1 1.4 1.4 1.4 1.5 1.6 1.6

1 1.4 1.6 1.7 1.7 1.8 1.9 2.0

◆純資産5年間成長

推計ランク

成長領域 非成長領域

基準時点

CRDモデル3

累積3年

デフォルト確率

による

保証料率区分

Page 51: 平成29年度中小企業の成長期待値評価モデル の実 …まず、CRD 協会1が中小企業庁より業務委託を受け、中小企業の成長期待値評価モデルの

48

(7) 第Ⅱ章まとめ

本章では、平成 28 年度事業で実施した成長企業に関する定義とそれに基づくプロトタ

イプモデルの構築結果を説明し、その成果を踏まえて平成 29 年度事業において実施した

試験運用モデルの構築結果について説明した。また、試験運用モデルの有用性の検証とし

て、信用リスク評価モデルとの対比、予測評価の確からしさ、外部データに対する当ては

まりの良さについて確認を行った。

プロトタイプモデルの段階では、使い勝手の良さや解釈のしやすさについては後順位と

し、予測精度としてどの程度のものができるのか、という点に注目して構築した。試験運

用モデルは、そのプロトタイプモデルの精度の維持・向上を目指しながら、使い勝手の良

さや解釈のしやすさを向上させることを目標に取り組んだ。使い勝手の良さ、解釈のしや

すさとしては、説明変数の数をプロトタイプモデルの段階から半数以下の 30~33 に絞り

込んだ。また、デフォルトデータをモデル推計に利用して、プロトタイプモデルでは違和

感のあった安全性指標と成長性の関係を整合的にした。更に、成長企業のコンセプトに合

いにくい不動産業や建設業をモデル構築用データから除き、それらの業種の特徴が最終評

価に表れにくくして、解釈のしやすさを向上させた。この他、二軸評価としての活用を想

定しにくい売上高ボラティリティについては、平成 29年度事業のモデル構築対象から外

した。

以上のような使い勝手の良さ、解釈のしやすさを目的にした取り組みの結果、プロトタ

イプモデルと同程度の予測精度を確保した試験運用モデルの構築が実現した。予測精度の

向上に向けた取り組みについては、業種別モデル構築を始め、様々な取り組みを行った

が、いずれもそれほど精度向上が見られなかったため、解釈のしやすさを重視して、採用

には至らなかった。しかしながら、二軸評価としての活用を想定すると、本事業で構築し

た試験運用モデルの予測精度でも問題にはならないと考えられる。また、外部データに対

する頑健性検証でも、特段の問題点は見られなかった。

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49

III. ユーザ試験による情報還元内容について

本章では、本事業における第二の柱である、試験運用モデルのユーザ試験について説明

する。まず、ユーザ試験の目的、内容について示した後、その結果について説明する。

(1) ユーザ試験の進め方

本事業のユーザ試験は、モデルを搭載したツールを開発した後に実施する仕様となって

いることから、ユーザ試験結果を、本事業の範囲内で、モデル改良やツール改良に反映す

ることはできない。したがって、モデル及びツールの細部が確定していることを前提とし

て、利用するに当たっての活用イメージ、そのイメージの下での当てはまりや使い勝手の

良い点、利用に際して留意した方が良い点などを情報還元いただいた。すなわち、本事業

のユーザ試験は、情報還元内容を本報告書にまとめることで、今後、本モデル及びツール

の利用を検討される方々に、事前に情報提供することを目的としている。

ユーザ試験にご協力いただいたのは、前掲【図表 3】の 10 機関である。研究会委員の皆

様がご所属されている金融機関 5機関及びユーザ試験からのご協力先 5機関である。ユー

ザ試験からのご協力先のうち、京葉銀行は、平成 28 年度の研究会委員にご参加いただい

ていたが、異動等の事情により、平成 29 年度事業ではユーザ試験のみにご協力いただい

た。この他にご協力いただいた 4機関は、本事業において当初想定した主な利用機関では

ないものの、金融機関以外の活用の余地は考えられないか、という中小企業庁の問題意識

をご説明したところ、快く引き受けてくださったものである。なお、情報還元内容につい

ては原則として機関名を匿名化して本報告書にまとめているが、千葉県中小企業再生支援

協議会の還元内容の一部は、匿名化できない内容となっているため、ご了解いただいた上

でそのまま掲載している。

さて、上述の 10 機関のうち、CRD正会員で CRDへデータ提供いただいている 8 機関

については、ご提供いただいているデータに対して、試験運用モデルの評価結果を付与

し、各機関ポートフォリオで二軸評価を行った時、どのような特徴が見られるか等の集計

結果を還元し、それに対して情報還元いただいた。この内容について、(3)節で紹介する。

それに先立つ(2)節では、各機関のポートフォリオ分析ではなく、各機関の実際の取引先

について、試験的に個社単位でご評価いただき、モデル評価と実際の成長度合いを比較衡

量し、モデルの有用性・留意点についてご確認いただいた結果を紹介する。この際、ユー

ザ試験協力機関には、成長期待値評価モデルを搭載したツールを配布したが、そのツール

の使い勝手についてもご評価いただいている。なお、ツールの詳細仕様については、別途

納品するツールの解説シートで説明することとし、本報告書では、巻末「≪資料 4≫成長

Page 53: 平成29年度中小企業の成長期待値評価モデル の実 …まず、CRD 協会1が中小企業庁より業務委託を受け、中小企業の成長期待値評価モデルの

50

期待値評価モデル搭載ツールについて」において、ユーザ試験の情報還元内容を理解する

ために必要な程度の、概要のみ紹介する。

ユーザ試験の情報還元に際しては、p.86「≪資料 5≫ユーザ試験 回答用紙雛形」のよ

うな回答用紙を用意し、概ねその内容に沿った情報還元を頂戴した。回答用紙は 2種類作

成した。一つはユーザ試験全体を通した自由記入形式とし、もう一方は個社評価の結果を

選択式で回答できるようにしたものである。

前者のユーザ試験全体を通した回答用紙の項目は以下の 5点であり、本章はその構成に

基づいている。

I. 個社別のモデル評価結果を踏まえて((2)節)

II. ポートフォリオ分析結果について((3)節)

III. 今後のモデル・ツールの活用について((4)節)

IV. ツールを利用した感想について((5)節)

V. その他((6)節)

後者の個社評価に関する回答用紙は、前者の全体を通した回答のⅠ.を記入しやすくする

ことを目的として、以下のような項目立てとしている。

Q1. モデル評価(推定ランク)は実際の成長率(実績ランク)の一致性

ア.一致⇒質問終了 イ.推定ランクが大きい⇒Q2 ウ.推定ランクが小さい⇒Q3

Q2. 合致しなかった要因

ア. モデル(財務的)評価の違和感⇒Q3 イ. モデル外(非財務的)の要因⇒Q4

Q3. 財務的評価の違和感の側面(複数回答可)

ア.規模 イ.安全性 ウ.収益性 エ.効率性 オ.生産性 カ.成長性 キ.その他

Q4. 非財務要因とは何か(複数回答可)

ア.取引先要因 イ.営業力 ウ.技術力 エ.経営者の素質 オ.その他

なお、Q3.及び Q4 については、詳細の自由記入欄も設けている。

(2) 個社評価結果に基づく情報還元

本節では、個社評価の選択式の回答用紙に基づいて情報還元された内容を集計するとと

もに、全体の回答用紙で情報還元いただいた内容をまとめ、両者を統合し、個社評価の際

の試験運用モデルの特徴についてまとめる。

まず、個社評価の対象企業であるが、各機関の取引先企業である。さらに、評価時点か

ら 5年後10の成長結果が分かっていて、その間の事情をある程度把握していることが最低

10 一部の機関では、評価時点から 5年後の決算情報を取得できない場合がある。その場

合、取得可能な範囲で評価時点から後の年限の実績値をご確認いただいた。

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51

限の条件である。これより細かい抽出条件については、想定されるモデル利用方法は各機

関で異なると想定されるため、条件を細かく限定せず、各機関が評価してみたい企業を抽

出いただくよう依頼した。したがって、業種、業歴、規模等の何らかのセグメントについ

ての指定はしていない。ただし、推計成長と実績成長が一致していない先だけでなく、可

能であれば一致している先も評価対象としていただき、フィット感の高い企業の傾向を可

能な範囲でご回答いただくこととした。推計成長と実績成長の一致・不一致については、

1 ランク異なれば不一致とする、などの厳密な決めは原則として設けず、ある程度感覚的

な一致・不一致の実感という点も含むようにしていただいた。これは、活用の際に、1 ラ

ンクの違いはそれほど重要な違いを意味しないと考えられ、二軸評価としての活用を念頭

におくと、「ある程度合っている」という感覚が重要であろうと想定されたからである。

回答数については、事前に 1機関につき 10~20先程度と依頼したところ、最終的に

108件11の回答を得られた。回答いただいた 108件は、全ての項目について何らかの形で

回答されており、全て有効回答としてカウントできた。したがって、後述の集計結果は、

全てこの 108件をベースにした数値である。

a) 個社評価回答用紙の選択肢集計結果

ここでは、選択肢方式でご回答いただいた個社評価回答用紙の集計結果について説明

する。ユーザ試験全体を通した回答用紙の内容については、後段 b)で説明する。

業種に関する偏り

今次ユーザ試験では、セグメントを特に指定しなかったことから、対象となった企

業の業種に偏りが出ることが想定された。そこで、業種の偏りについて確認したとこ

ろ、【図表 29】のようになった。

その結果を見ると、製造業がやや多くなったが、ユーザ試験機関全体の取引先の業

種構成比とそれほど大きな相違はなく、結果的に比較的万遍なく抽出いただいたと言

えよう。また、不動産業及び建設業については、モデル構築時の対象企業ではないた

め、少なかったが、比較的多くのユーザ試験機関で少しずつ対象として抽出された。

これらの結果を勘案すると、今次ユーザ試験で得られる結論は、一部業種にのみ当て

はまるものではなく、ある程度一般性を持った結論になると考えられるだろう。

なお、業種以外の業歴や規模等の偏りについては、回答いただいた内容から正確に

把握できないケースが多かったため、ここでは確認していない。

11 回答は 111 件受領したが、このうち 3件はモデル予測結果と担当者の感覚的な成長性を

比較したものである。非常に参考になる目線であるが、ユーザ試験の内容とは離れるた

め、該当する 3 件は集計対象から除外した。

Page 55: 平成29年度中小企業の成長期待値評価モデル の実 …まず、CRD 協会1が中小企業庁より業務委託を受け、中小企業の成長期待値評価モデルの

52

【図表 29】ユーザ試験対象企業の業種内訳

推定値と実績値の一致性及び不一致の要因

個社評価回答用紙 Q1,Q2の結果を集計すると、【図表 30】のようになった。【図表

30】では、左側に「Q1.推定値と実績値の一致性」の集計結果を、右側に「Q2.不一致

の要因」の集計結果を、各成長性指標別に示している。ここで、不一致とは、Q1の

“イ:推計値の方が実績値より大きい”場合と“ウ:推計値の方が実績値より小さい”場合

の両方を含む。これを合算したのは、Q2の結果に関して、Q1のイ、ウの違いで有意

な差が見られなかったことから、得られる含意に変化は無いと考えられたからであ

る。

さて、【図表 30】からは、次のようなことが分かる。まず、「Q1.推定値と実績値の

一致性」については、いずれの成長性指標も、40%前後が“ア:一致”しているという

回答であった。ユーザ試験の事前に、一致している企業もある程度織り交ぜてご回答

いただくよう依頼したことや、1 ランク、2ランク違いでも実感に合っていれば“ア:

一致”と回答されたケースも混じっており、この結果だけで何かを語ることは難しいと

考えられる。

しかし、不一致(Q1でイ、ウ)の要因を Q2 で確認した結果を見ると、少なくとも

60%以上が非財務要因であることが確認される。さらに言えば、不一致(Q1.イ or

ウ)かつその要因がモデル(財務)要因(Q2.ア or 両方)であるという割合は、最も

大きい純資産 5 年間成長で、全体の 21%である。すなわち、『モデルの分析結果が的

外れである』という回答はせいぜい 2割程度で、それ以外は『モデルが実感に合って

いる』もしくは『モデルが外した理由は非財務的な要素であった』と解釈される。特

に売上高 5 年間成長については、『モデルの分析結果が的外れである』という割合は約

5%であるが、ユーザ試験全体の回答用紙 Q1.において、“モデルの当てはまりが良い

点”として、「売上高モデルについては、入力時期の 3 期と、その 5 期後の傾向が同じ

場合は、当てはまりが良いと感じた。売上高の当てはまりは、相応に良好であると思

われる。また、入力時期の 3 期は飛躍的な伸びはないものの、その後の売上高の増加

をほぼ予想したケースもあった。」という回答にも表れている。

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53

【図表 30】推定値と実績値の一致性及び不一致の要因

左図:Q1.推定値と実績値の一致性 右図:Q2.不一致の要因

売上高 5 年間成長

付加価値額 5 年間成長

営業 CF5年間成長

純資産 5 年間成長

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なお、「Q1.推定値と実績値の一致性」に関する不一致の大小関係としては、売上高

5 年間成長ではほぼ同数であったが、その他の成長性指標では、“ウ:推定値が実績値

より小さい”という方が、“イ:推定値が実績値より大きい”より多かった。この点につ

いては、成長した企業が評価対象に多く選ばれたことが要因と推測される。成長した

企業が評価対象に多く含まれている場合、実際の成長以上にモデルが成長を予想する

可能性は低くなるため、このような結果になりやすい。

不一致のモデル要因の要素

個社評価回答用紙の Q1で推計値と実績値が不一致となり、その要因として Q2でモ

デル要因(もしくは両方)という回答の場合、Q3では、モデル構成要素(安定性、効

率性、過去成長性等)のどの部分に違和感があるのかを問いとしている。しかしなが

ら、上述のように、そもそも Q3 に該当する企業数は少なく、回答もほぼ分散してお

り、この集計結果をもって何らかのことを言うことは難しいため、グラフを示してい

ない。

ただし、営業 CFと純資産成長については、複数の機関から次のようなコメントを

いただいており、留意事項として示しておく。

≪営業 CF≫

イ.安全性:安全性で現預金売上高比率を重視している点に違和感。営業 CF が成

長するためには、現預金残を維持すれば良いのか?直接的な関係が説明しづらい。

≪純資産≫

カ.成長性:本業とは別に、不動産賃貸業を行っており、借入負担が重く期待ラン

クが低く出ていると思われる。

キ.その他:繰延資産の償却や特別利益・損失等で、評価時点の利益が大きく変動

し、その影響で将来の純資産成長が過大・過小評価となっている。

不一致の非財務要因の要素

個社評価回答用紙 Q1で推計値と実績値が不一致となり、その要因として Q2で非財

務要因という回答の場合、Q4 でその要因を問いとしている。この点については、財務

以外の要因で企業の成長性を把握する要素として、事業性評価の際に非常に重要なポ

イントと考えられる。すなわち、「なぜこの企業は想定以上の成長をしたのか」もしく

は「なぜこの企業は想定していたよりも成長しなかったのか」という要因を把握して

おくことで、企業の将来性に関して見ておくべきポイントとなる要素が浮かび上がっ

てくると考えられる。そこで、ここでは選択肢の集計結果だけでなく、ご回答いただ

いた記述内容を可能な範囲で列挙しておくこととしたい。

まず、【図表 31】には、非財務要因の選択肢を集計した結果を示す。なお、各成長

性指標で、Q4 の回答件数が異なるため、回答件数を成長性指標名横の()内に記載して

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おく。この結果を見ると、いずれの成長性指標も、選択肢に無い要素(オ.その他)の

構成比が最も高い。その次にいずれの成長性指標でも、“ア.取引先”となっている。そ

れ以外の要素は比較的少ない。このことは、信用力評価の時でも同様であるが、取引

先ネットワーク把握の重要性がうかがわれる結果となっている。

【図表 31】非財務要因の選択肢集計結果

売上高 5 年間成長(62件) 付加価値額 5 年間成長(47 件)

営業 CF5年間成長(44件) 純資産 5 年間成長(42件)

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次に、【図表 31】の各要素の内容について具体的に記述していただいたものを、可能な

範囲で列挙しておく(【図表 32】)。記述内容が正の成長に寄与するものであった場合は末

尾に(+)を、逆に成長にマイナスの影響を与えた場合は(-)を、両方のケースがあった場合は

(±)をそれぞれ記載している。なお、原回答のカテゴリ分けの中で、異なるカテゴリに分

類した方が良いようなケースは、CRDの判断でカテゴリを変えている。

【図表 32】非財務要因の視点

ア.取引先 主力取引先の業績変動の影響。

⁃ 自然災害(タイ洪水、東日本大震災等)(±)

⁃ 海外移転(-)

受注先の分散化による売上安定化、利益率重視(-)。

主受注先の変更、拡大(+)。

別事業への参入(+)。

既に市場シェアが高く、売上は頭打ち(-)。

イ.営業力 社員教育に力を入れ、顧客属性に合わせた営業で、顧客の取りこぼしが

少ない(+)。

競合増加(-)。

積極的な営業(+)。

ウ.技術力 新商品開発に時間を要した(-)。

技術力を背景として、安定した事業基盤を築いており、売上の大幅な増

減がない(守備範囲の中で専門性を高めている)(-)。

エ.経営者

の素質

営業エリア内における同業者の信頼度が厚く、案件情報を早期に入手(+)。

社長自らが広告体となり営業展開(+)。

オ.その他 自然災害(タイ洪水、東日本大震災、暖冬)の影響(±)。

業界全体が縮小傾向。当社も工場集約等で売上減での利益確保(-)。

取扱商品が補助金対象となり、需要旺盛(+)。

取扱商品の価格高騰、業界全体の市場拡大(+)。

計画見直しに伴う新規開設凍結により売上增加の鈍化(-)。

不採算事業、店舗撤退(-)。

ニッチな分野で業界上位であり、売上拡大余地が少ないもの(-)。

新商品の想定外のヒット(+)。

当初計画が過大(-)。

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【図表 32】非財務要因の視点(続き)

ア.取引先 安定した受注先である一方、取引先との価格交渉が困難(-)。

※ その他は売上高と重複している内容が多いため、割愛(以下の各項目も

同様)。

イ.営業力

ウ.技術力 既存技術を新分野へ転換し、参入。付加価値額が同業種以上(+)。

機能性に特化した商品に特化することで高い粗利率を確保(+)。

熟練技術者の高齢化が進み、付加価値額伸びず(-)。

エ.経営者 特殊な仕入れ方法の導入により高付加価値を実現(+)。

オ.その他 取扱商品、ニッチなマーケット、特殊技術、居抜きによる低コスト化等

により高付加価値化の実現(+)。

設備未更新に伴う減価償却費の減少(-)。

業界全体が好調で利益率が大幅改善(+)。

CF

ア.取引先 取引先との取引条件変更により利益率上昇(下落)(±)。

利益率低下傾向なるも、在庫の資金化で一時的に CF 改善(+)。

※ その他は売上高と重複している内容が多いため、割愛(以下の各項目も

同様)。

イ.営業力

ウ.技術力

エ.経営者

の素質

都市部を中心に積極的な出店をする戦略で利益率改善(+)。

社長方針による積極仕入により棚卸資産大幅増加(-)。

オ.その他 工場集約等で売上減少ながら、利益確保方針で CF 改善(+)。

実質給与である前渡金の大幅増加(-)。

売上増加に伴う在庫の大幅増加(-)。

特別損失、特別利益(本社売却等)による利益の変動(±)。

事業再編、固定費削減等により利益率を改善(+)。

ア.取引先 ※ 売上高と重複している内容が多いため、割愛(以下の各項目も同様)。

イ.営業力

ウ.技術力 利益率の高い商品に特化(+)。

エ.経営者

オ.その他 長期借入金増加に伴う総資産額の大幅増加により純資産成長率鈍化(-)。

特別利益、特別損失による利益の大幅な変動(±)。

支払利息・減価償却費の減少に伴う当期利益増加、純資産積み上げ(+)。

評価時点の利益が異常値(±)。

事業再編に伴う一時的な大幅赤字、債務超過(-)。

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b) ユーザ試験全体回答用紙の回答

ここでは、ユーザ試験全体回答用紙の回答内容のうち、個社評価に関する「I.個社別の

モデル評価結果を踏まえて」について、まとめた内容を説明する。Ⅱ.~Ⅴ.については、

後段の(2)~(4)節で説明する。

「I.個社別のモデル評価結果を踏まえて」では、①“当てはまりが良い場合”と②“利用

に留意が必要な場合”について、主にご回答いただいている。以下では、①②に分類する

形式で、各ユーザ試験機関のコメントをできる限り原文のまま、匿名で列挙しておく。

ただし、千葉県中小企業再生支援協議会様のコメントを匿名化すると、その真意が伝わ

らなくなるため、協議会様の了解を得てそのまま掲載している。

なお、複数機関から類似したコメントをいただいている場合は箇条書きスタイルを➣

とし、そうでない場合は・としている。また、③として、その他のコメントもまとめて

おいた。

① 当てはまりが良い場合

スコアリングに用いる足元 3期の決算財務において、成長の傾向が見られる先。

本業の製品あるいはサービスのシェアが高く、しっかりと稼げている先。

仕入や販売ルートに強みがあり、コストの削減等により効率化が図れている先。

モデルに投入する直近期の売上・利益の増加が、経営方針や商品力等定性的な評

価でも説明できる企業。

4 つの評価軸全てにおいてフィットするケースは殆ど見られなかったが、比較的

規模の小さい先の売上高成長率については、尤度が高いと感じた。

純資産成長率は評価期間中の増資有無等によって左右されるため、モデル外要因

を排除すれば概ね期待通りの評価結果となっていた。

売上高モデルについては、入力時期の 3 期と、その 5 期後の傾向が同じ場合は、

当てはまりが良いと感じた。売上高の当てはまりは、相応に良好であると思われ

る。また、入力時期の 3 期は飛躍的な伸びはないものの、その後の売上高の増加

をほぼ予想したケースもあった。

② 利用に留意が必要な場合

評価時点以降の外的要因(経済環境、主要取引先、競合先、材料価格の変化等)

に変化が生じた場合は、当然異なった結果となることから、評価にあたっては、

業界全体の先行き見通しや市況などの変動要因を合わせて見ておく必要がある。

不動産(賃貸)業、調剤薬局業など、国の規制や法改正の影響を受けやすい業界。

賃貸物件を所有している場合は、借入が大きくなり自己資本が相対的に低くなる傾

向があり、こうした先については純資産成長率の判定がはまりにくい。複数の事業

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を経営している事業者については賃貸物件を所有している先も多く、推計値と実績

値が乖離する可能性が高いのではないかと推測される。

ホールディングス会社は、相対的に評価が高くなる傾向にある。

利幅が薄い小売業や卸売業は、全体的に評価ランクが厳しい傾向にある。

合併や M&A(企業買収)によって、成長性(売上高成長率)が一時的に引き上が

ってしまう。

会計ルール(売上計上基準等)の変更により、実態は変わらなくても評価に影響

が出る。

売上利益ともに成長後、安定して推移した場合、あてはまりがよくないように思

われる(成長期待ランクは高いが、実績ランクは低い)。成長の実績は低いが、一

方で安定した業績を確保しているとも言える。

売上高等が急激に上昇したりする場合。売上急上昇の要因として、新規事業の展

開・販売チャンネルの拡大・ビジネスモデルの転換を行っている企業があったこ

とから(全体的な傾向とは言えないとは思うが)、チャレンジ型の経営姿勢を持っ

た企業にはフィットしにくいかもしれない。

同じ先で1期ずつずらして検証した結果、期によって推計値が大きくぶれる先が

見られた(評価が緩やかな変化となっていないと感じる)。

一般的に安定推移している企業は、4 つの成長性指標がバランスよく成長してい

く傾向があるが、4指標のモデル評価結果のばらつきが大きい企業ほど、当ては

まりが悪いとの印象。特に、付加価値額成長は規模が大きい方が、営業 CF は規

模が小さい方が評価は高くなるというモデル特性があるため、ある程度の規模が

ある先が安定推移(成長基調 or 低調基調)している場合には当てはまりが悪いよ

うに感じる。

直近 3 期の変動が大きい先については高評価となる傾向があるが、直近決算の変

動要因は個別企業によって大きく異なり、その内容がモデルの当てはまり度合い

を左右すると考えられるため、実態として成長傾向にあるのか、特別な要因で変

動したのかという点には注意して運用することが必要となると考えられる。

付加価値モデルについては、推計結果がやや保守的な結果となった。

営業 CF モデルは、ばらつきが大きいと感じた。企業のスタンスで運転資金など

がかさむ年があるなど、個別要因が多いのは否めなかった。

〔再生支援協議会様〕再生支援協議会では、窮境に陥っている事業者の再生支援

を行っており、また今回のユーザ試験では過去のデータから現在の成長の期待値

を算出しているため、評価ランクは同業種平均よりも低い結果が多く見られた。

このことから評価結果と実際が一致しているケースが多いといえる。また、過去

のデータ入力時の状況から当該企業が再生支援を行ったことにより、現時点では

過去データ時よりも実際が良い状態となったことから、結果的に評価結果ランク

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60

が小さいといった面も多く見られた。また、協議会の支援先の中には、簿価と実

態が乖離しているケースも少なくないため、簿価だけでの分析では不十分である

とも感じた。一方、売上高が微増での売上高評価や、営業利益マイナスでの営業

CF 評価、債務超過が拡大している中での純資産評価が高い結果が出るなど、協議

会が対象とする支援先で想定される内容と評価結果に一部乖離が見られた。

③ その他

「成長期待」は代表者の年齢や後継者の有無によって、値が変化すると考えるが、

多くのデータが欠損値であったため、当社のデータ取得方法などを含め、改善が必

要だと感じた。

外的要因のうち、取引先などの要素は考慮できないかもしれないが、オプションと

して分析企業の属性に応じて、経済環境や資源価格などの要素をモデルに組み込め

ると、面白いかもしれないと感じた(先行きの見通しは難しいが)。

以上が「I.個社別のモデル評価結果を踏まえて」への回答をまとめたものである。基本

的には、“評価時点の直近期における財務の動きがそのまま続けば納得感のある結果であ

るが、5年先までの間には外的要因の影響が大きいため、それらを注意してみる必要があ

る”というのが大方の感想であったと考えられる。外的要因等の注意すべき点として、上

記①②には、業界シェアや不動産賃貸業との兼業等、多くのヒントが含まれているのでは

なかろうか。モデルの用途として、成長のポテンシャルの高い企業を見つけ出し、事業性

評価につなげるという想定であることを考慮すると、非常に有用なコメントを情報還元い

ただけたものと考えている。

(3) ポートフォリオ分析結果に基づく情報還元

本事業では、CRDにデータ提供いただいているユーザ試験対象機関には、ユーザ試験の

一環として、各機関別に、試験運用モデルで提供データを評価したポートフォリオ分析結

果を還元した。その主な目的は、各機関で二軸評価を行った時に、どの程度の対象企業が

存在するのかを確認するとともに、モデルの当てはまり具合に特徴が見られるかどうかを

確認するためである。ユーザ試験全体の回答用紙では、その分析結果に対しても情報還元

いただいた。ここでは、各機関特有の事象については取り上げないが、一般的な情報とし

て有用なコメントについて、可能な限り原文のまま、匿名で列挙しておく。

なお、CRDから各機関へ還元した分析内容は、概ね「第Ⅱ章(6)試験運用モデルの有用

性検証結果」で示した項目を各機関データで分析したものと同じである。また、分析に用

いた元データも還元したところ、自機関内で独自に分析されたケースがあり、以下ではそ

のコメントも含まれている。

Page 64: 平成29年度中小企業の成長期待値評価モデル の実 …まず、CRD 協会1が中小企業庁より業務委託を受け、中小企業の成長期待値評価モデルの

61

ポートフォリオ分析結果に基づくコメント一覧

信用リスクの高いグループ、所謂低格付先(正常下位先あるいは要注意先)ゾー

ンにおける高成長期待先は、想定よりも多いと感じた。信用リスクが高いと判断

しているため与信ライン(与信限度額の上限値)が低く設定され、取引先への資

金供給(貸出ボリューム)が十分とはいえず高成長も抑制されてしまっているの

ではないかと考えていた。しかしながら、低格付先であっても高成長が見込める

先が相当数存在するならば与信ラインを引き上げる好材料となって、取引方針も

消極的から現状維持あるいは積極的へ方針転換できることにつながっていくこと

になる。

信用リスクの低い先ほど、成長期待企業の割合が高い傾向がある点については、

信用リスクと成長性は相反する面があると思っていたため意外であった。また、

売上高、付加価値額について当社取引先の半数近くが非成長領域となる点につい

ては、地域経済の活性化を図ろうとする地域金融機関にとっては、危機感を抱か

せる結果であった。他エリアでの比較を見てみたいと個人的には感じている。

分析結果の「成長領域」としての分布より、非成長領域の集団が多いことが気に

なった。こうした先でも信用リスクが低い(保証料率区分が高い)先も多く分布

している。また、予実確認表を見ると、推計ランクが非成長領域としている先の

約 30%が実績ランクで成長領域(売上高成長)となっている。こうした先がどの

ような姿をしているのかを調査したいと感じた。

領域的中率をみると、「非成長⇒成長」「成長⇒成長」の領域の予測精度が高く、

特に、「成長⇒成長」のうち、「純資産成長モデル」の的中率が 70%を超えている

ことについては、精度の高さを感じた。

信用リスクの高いグループから、高成長期待先を想定するものの割合が全体平均

より高い理由は、当社利用先に小規模事業者が多く、比率が変動しやすいことに

よると思われる。付加価値額成長評価は、ポートフォリオ分析結果及び個社別評

価ともにやや信頼性が欠ける印象である

ポートフォリオ分析結果のとおり当社は CRD会員データと比較して、成長可能

性のある企業が多く潜在していることから、本モデルが高成長期待先や経営改善

を要する先を選定するためのきっかけとなるような活用が出来れば良いと考えて

いる。一方、指標や業歴によって成長性評価の結果に大きな偏りがあることや、

成長性評価と業況の良し悪し(デフォルト有無等)とに強い相関性が確認できなか

ったこと等、モデルの特性や限界に留意して、本モデルの活用方法や評価結果の

見方について引き続き、検討を行う必要性があると感じた。

<留意すべきモデルの特徴>

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62

⁃ 評価ランク(1~7)の分布状況を見ると、全体的に業歴が浅い先の評価は高評

価層(ランク 6~7)にテータが集中し、業歴が長い先の評価は低評価層(ランク

1~2)に集中するといった偏った分布となっている印象を受ける。特に、「売

上高」「付加価値」の 2 指標については推計ランクと実績ランクの乖離が大き

い印象を受けた。

⁃ 成長性評価が低い場合はもちろん、高すぎる場合にも実績デフォルト率が高

くなる傾向が見られる指標もあり、単に「高い成長性評価=業況が良い傾向

となる」という図式にはならないことが確認できた。

(4) 今後のモデル・ツールの活用についての情報還元

本事業の企業成長性を新しい軸とした二軸評価という考え方は、従来にない新しい考え

方であるため、成長期待値評価モデル(及びモデルを搭載したツール)が利用されるため

には、従来の仕組みを活用しながらいかに新たな制度・枠組みを構築するのか、という点

が重要なポイントとなる。地に足の着いた制度・枠組みとするには、モデルやツールを活

用する現場のイメージを可能な限り具体化しておく必要がある。そこで、ユーザ試験のア

ンケートでは、今後、モデル・ツールを活用するとした場合、どのような部署でどのよう

に利用されるのかについて、可能な限り具体的に回答いただいた。本報告書を読まれてい

る方の中にも、モデル及びツールの活用を検討されている方も多いと思われる。ユーザ試

験で情報還元いただいた内容が、そのような方々の参考となるのではないかと考え、以下

に列挙する。

なお、具体的な部署・利用方法を示すために、以下の内容は、ユーザ試験機関の業態別

(金融機関、信用保証協会、格付機関、再生支援協議会)に示すこととする。

金融機関

主に事業承継や新規開拓を支援する部署や審査を行う部署などが想定できる。

モデル、ツールとしては、一次審査を行う営業店、二次審査を行う審査部、また検

証を行う資産部署及び監査部署で広く活用できるものと考える。企業審査は、信用

度評価だけでなく取引評価も行って取引方針を決定する体系であるが、低格付先で

あれば取引評価軸判定に成長期待値評価モデルを用いて見直しをし、高成長期待先

は信用度評価に依存せず取引方針を積極的とすることができ、より柔軟に資金供給

が可能になる。そして、成長期待値評価モデルを営業店、審査部、査定部署のコミ

ュニケーションツールとして位置づけ、事業性評価と合わせることで取引先の将来

性を見据えた中小企業支援につなげることができるものと考える。

モデル結果のみに依存した活用はできないが、例えば、営業推進部門がミドルリス

ク層にターゲットにした営業施策を実施する際、対象となる顧客の選定に活用する

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ことが想定される。ターゲット層が相当多数ある場合、1先1先を見極めていくこ

とは不可能であり、このツールを活用して、成長性が高いと評価される企業をフィ

ルタリングすることにより、見極めるべき先を効率的に絞り込むことができる可能

性がある。

成長可能性を加味した融資商品の開発、格付取得時に成長可能性を考慮する仕組み

を取り入れる、事業性評価時の項目として成長期待性を確認する等の使い方が考え

られる。

単独の業種なのか複数業種の事業体なのか、経営姿勢が積極的か現行踏襲かなどに

よってモデルの動きが変わってくる印象。もともと成長ゾーンをとらえての利用に

限定されることから(ピンポイントの信用力判定ではない)、融資部などブレーキ

部門での利用は、出力値を妄信してしまう懸念が高く、運用上難しい。一つの参考

値としての利用に留まると思われるが、例えば内部格付等の運用部門が、その検証

時の指標の一つとして利用することなどが考えられる。

可能性として、リスク管理関係部署による信用リスク管理全般、信用格付モデルへ

の活用、審査関係部署による融資業務における審査支援ツール、企画関係部署によ

る自機関の収支見込み、顧客支援関係部署による顧客支援ツール、等が考えられ

る。

信用保証協会

審査部署において、企業の信用リスクは比較的高めだが、将来成長性が期待できる

先か否か判断に迷うようなケースで、稟議の参考資料等に供することが想定される。

期中管理や経営支援の部門において、モニタリングの対象先や経営支援先の選定等

を行う上で活用することを想定している。(金融機関会員と同様に信用力と成長性の

マトリックス評価による企業分類がわかりやすいのではないかと考える。)今後の検

討にはなるが、業況の変化が大きく、財務状態が不安定な時期である創業期~拡大

期(比較的業歴の浅い)の企業への金融支援・経営支援を適切かつタイムリーに実施

する為に、該当する企業の成長性や事業性を評価する上での一つの参考情報として

活用することを想定して分析を進めていきたい。

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格付機関

企業の信用調査を行う部門が、当該企業の事業計画を検討する際の、分析の補助資

料として利用できると考えられる。具体的には、事業計画が非常に楽観的であった

場合、過去のトレンドを踏まえたモデルの推計結果との乖離はどのような点で生じ

るのか検討し、調査や分析に生かす―などのケースが想定される。

企業の子会社や事業の(企業)価値を分析する際の参考資料となり得ると考えた。

例えば、過去の趨勢からどの程度の成長性や純資産が見込めるのかを推測し、企業

や事業の買収、売却、及び事業承継等の際の検討に、一次スクリーニングの資料と

して使えると思われる。

再生支援協議会

個社評価の結果を踏まえると、協議会の支援対象先への活用では、当ツールは十分

な機能発揮がしにくいと考えられるが、事業再生支援を必要としない事業者を支援

対象とする支援機関等であれば有効であると想定される。

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(5) ツールを利用した感想の情報還元

本事業では、成長期待値評価モデルを搭載したツールを作成し、ユーザ試験の個社評価

でご利用いただいた。ユーザ試験でご利用いただいたツールは、本報告書の公開と同時

に、経済産業省 HPより公開される予定である12。ツールの概要は巻末の『≪資料 4≫成

長期待値評価モデル搭載ツールについて』を、仕様は別途納入するツールの解説シートを

参照いただくこととし、ここでは、そのツールを用いた感想について、情報還元いただい

た内容を列挙しておく。なお、重複している内容については、適宜編集の上、統合してい

る。また、ツールというよりモデル評価への感想コメントもあったが、ここではそのまま

掲載している。

ツールを利用した感想コメント一覧

操作は容易であり非常に使いやすい。県外店では金融機関が競合しているが、自

機関にとっての新規先に対して自機関の信用リスクツール(もしくは CRDモデ

ルツール)と成長期待値評価モデル・ツールの両方を有効活用すれば、低信用ラ

ンクとなって他機関が積極的でないと想定される先でも高成長ランクと評価され

た先は新規アタックとしての検討が十分にできる。

操作は簡単で誰でも使えるものになっている。ただし、3期分の財務データをツ

ールに入力する場合、手入力では相当手間がかかるため、自機関の財務データベ

ースをツール用に編集するツールを作らないと運用は難しい(自機関の財務デー

タベースには無い項目もある)。また、上記の活用を実現しようとした場合、1

先ずつの評価でなく1万社単位で一斉に評価するツールが必要となってくる。ま

た、McSS13との連動機能の追加や一括評価ツールの拡充等、データの入出力が容

易となるような機能強化を図っていただきたい。

4 つの指標は少なからず相関関係があるように思われ、同じ方向に動きやすい。1

つ 2つの成長期待性が高くても必ずしも良いとは言えないように思われる(売上

12 なお、ユーザ試験用ツールでは、二軸評価用に CRDの信用力評価モデルが搭載されて

いたが、公開用ツールでは搭載していない。これは、CRD信用力評価モデルが、CRD会

員の限定利用になるためである。一般に、信用力評価は、金融機関であれば自機関の内部

格付等の利用が想定される。

13 McSSは、CRD協会が提供する中小企業の経営診断ツールの略称で、CRD協会が保有

する登録商標。CRDの信用力評価モデル及び CRDデータベースに蓄積された全国 100万

社以上の中小企業情報をベースにした、財務の現状診断、将来シミュレーション機能を有

している。2017 年には、経済産業省のローカルベンチマークで公開されている Excel シー

トをツールに取り込み、事業性評価機能も追加されている。

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が増加しても、利益が伴わない等)。4 つの指標において特に重視すべき点・内容

等がわかると、利用しやすいように思われる。

結果帳票はグラフ等が多く使用され、評価結果が視覚的にも確認できることか

ら、ユーザにとってもわかりやすい仕様であると感じた。

景気変動など、企業の決算に表れない部分について、どのようにモデル内で検討

され、結果として考慮されているのかが知りたいと考えた。実際にモデルを使用

して、決算入力の 3 期とその 5 期後では、変動が少なからずあり、どの時期を

始期にするかで結果が大きく異なりうると感じた。同じ 1 社でも始期を変えて、

テストしたが、純資産モデルは結果があまり変わらなかったが、他の 3 つのモデ

ルはブレが相応にあった。特に中小企業は、規模が小さいだけに振れ幅が大きい

ケースが少なくないとみられる。

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(6) その他の情報還元

本節では、ユーザ試験全体を通した回答用紙で、最後の「Ⅴ.その他」で情報還元いただ

いた内容を紹介する。なお、前節までで紹介した内容と重複しているケースも多かったた

め、ここでは重複していない内容のみ紹介することとしたい。

その他のコメント一覧

科目明細(表)と連携し、長時間滞留をしている売掛金の有無や金融機関ごとの貸

出残高などの情報を、見ることができると良いと思った。

財務データと業歴等わずかな定性情報という制約の中で企業の成長性を評価する仕

組みを構築することは、非常に難しかったと思う。逆にそれだけ、企業の成長性の

評価というものは、財務だけでなく、経営方針、業界の流れ、商品・技術力をいか

に見極められるかも重要になってくる、ということを認識することができた。

企業の設立時期、経営者の年齢など、定性的な項目を入力したが、これらの時期や

水準に応じて、様々な指標の、成長性への影響度が異なるのか、と感じた。例え

ば、設立から時期の浅い企業とそれ以外では、純資産比率や収益の変動性などの説

明力が変わりうるかと思えた。

経営者の定性情報について、一般的に、統一的に入手できる情報は限られるなか

で、年齢はどの程度説明力があるのか、背景となるデータ、推計があれば知りたい

と感じた。

モデル精度の維持・向上を図る為、定期的なメンテナンス(定期検証を含む)も実

施していく必要もあるのではないかと考える。

中小企業庁により適切に公表がなされ、今後本ツールの活用が進むことを期待する。

モデルの活用事例やモデル特性(癖)等の情報の情報還元をお願いしたい。

どの指標を重視すれば良いか判断が難しい。4 つの指標を基に更に一つの成長可能

性をスコア化すると、わかりやすく利便性が向上するように思われる。

以上がその他の情報還元内容である。内容としては、モデルの精緻化(主に現有データ

以外の情報を用いて)、定期的なメンテナンス等、似通った結果になったことが特徴と思

われる。信用リスク評価でも、財務以外の情報を用いた高度化が始まっており、現有デー

タ以外の情報を収集・蓄積していくために参考となるご意見を多数頂戴できたと考えてい

る。モデルの精緻化、メンテナンスは今後のモデルの普及状況次第であるが、データ収集

のような正の外部効果を有する活動については、ある程度の公的な後押しが必要であろう

と考えられる。

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(7) 第Ⅲ章まとめ

本章では、第Ⅱ章で説明した試験運用モデルをユーザ試験機関 10機関に試験運用いた

だき、その結果の感想を情報還元いただいた内容についてまとめた。モデルを利用するに

際し、個社のモデル評価を行うために、モデルロジックを組み込んだ Excel の試験運用ツ

ールを構築し、ユーザ試験機関にご利用いただいた。また、CRDへのデータ提供機関につ

いては、提供データ内容をベースにしたポートフォリオ分析を CRDで実施し、各機関に

還元した。それらの結果は、項目立てした回答用紙で情報還元いただき、本章ではその項

目立てに合わせた形で結果をまとめている。情報還元内容を簡単にまとめると、次のよう

になる。

〔個別評価の実感〕集計結果から、第Ⅱ章(6)節でモデル評価の確からしさはそれほど

高くないことが示しているように、評価時点の直近期における財務の動きがそのまま

続けば納得感のある結果であるが、5 年先までの間には外的要因の影響が大きいた

め、それらを注意してみる必要がある、というのが大方の感想であったと考えられ

る。外的要因等の注意すべき点として、業界シェアや不動産賃貸業との兼業等、記述

式で回答いただいたコメントの中に多くのヒントが含まれていた。モデルの用途とし

て、成長のポテンシャルの高い企業を見つけ出し、事業性評価につなげるという想定

であることを考慮すると、非常に有用なコメントを情報還元いただけたと考えられ

る。

〔ポートフォリオ分析の感想〕業歴のかなり長い先やかなり短い先の評価に偏りが見

られる等の課題は見られるが、概ね二軸評価としての活用に十分な分布であったとの

感想がほとんどであった。また、成長期待値評価モデルを通して、まだまだ成長余地

の高い企業が中高リスク先でも存在していることが確認でき、モデル活用に非常に前

向きに考えておられる回答が複数見られた。

〔モデル・ツールの活用想定〕モデルやツールをどの部署がどのように利用するかに

ついては、特に金融機関において多様な活用想定を具体的に回答いただいた。モデル

の評価をそのまま何らかの判断に用いることは無く、主に営業推進部門が商品企画の

参考指標に用いる(すなわち二軸評価)などの意見が主であったが、それ以外にも多

様な利用方法をご提案いただいた。ここには書ききれないため、本文を参照願いた

い。金融機関以外の機関でも、保証協会では十分な検証が必要であるが、審査部門等

での活用が想定できる、という回答であった。格付会社では企業の信用調査を行う部

門が当該企業の事業計画を検討する際の補助資料、企業の子会社や事業の(企業)価

値を分析する際の参考資料として使えるなどの評価をいただいた。一方、千葉県中小

企業再生支援協議会様からは、再生支援協議会では難しいが、その他の支援協議会等

での活用は考えられるのではないか、とのご意見をいただいた。その理由は、再生支

援協議会で取り扱う案件は、元来が直近期で評価が悪かった企業で、そこから再生に

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取り組んでいることから、モデル評価が完全に過小評価になってしまうからである。

そのような企業が対象でないその他の支援協議会では、十分に活用余地があるのでは

ないか、とご提案いただいた。

〔その他〕モデルの精緻化(主に現有データ以外の情報を用いて)、定期的なメンテ

ナンス等、似通った内容になったことが特徴と思われる。信用リスク評価でも、財務

以外の情報を用いた高度化が始まっており、現有データ以外の情報を収集・蓄積して

いくために参考となるご意見を多数頂戴できたと考えている。モデルの精緻化、メン

テナンスは今後のモデルの普及状況次第であるが、データ収集のような正の外部効果

を有する活動については、ある程度の公的な後押しが必要であろうと考えられる。

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最後に

本事業は、実質的に「平成 28年度中小企業等の事業性評価に向けたモデル構築調査」

事業の継続事業としてスタートし、平成 28年度に定義した企業の成長性期待値を計算す

るモデルの実用化、精緻化を目標として実施された。事業は、中小企業庁から提示されて

いる仕様書に沿って進められ、仕様書の内容を全てカバーしていることは言うまでもな

い。

事業成果として、最終的に、平成 28 年度事業で構築されたプロトタイプモデルより納

得感があり、説明変数が少なくなるなど使い勝手の良い中小企業の成長期待値評価モデル

が構築できた。モデルの予測精度自体は前年度並みであったが、モデルの用途として何ら

かの絞り込むための判断基準として用いるのではなく、二軸評価のような、新たな融資対

象先を見つけ出すような用途であれば、問題ないレベルである。

構築されたモデルを用いたユーザ試験では、10機関に協力いただき、100社以上の個社

評価を行っていただくとともに、CRDへの提供データを利用した各機関のポートフォリオ

分析も実施し、その感想を CRDへ情報還元いただいた。その結果、評価時点の直近期に

おける財務の動きがそのまま続けば納得感のある結果であるが、5 年先までの間には外的

要因の影響が大きいため、それらを注意してみる必要がある、という、まさに事業性評価

につながるようなご意見を主に頂戴した。注意すべき外的要因について、非常に具体的に

多数の情報還元を頂けた点も特筆すべきことであろう。

この個別評価の結果やポートフォリオ分析結果に基づく情報還元内容を踏まえると、成

長期待値評価モデルと信用リスク評価モデルによる二軸評価を行って、新たな融資対象先

を見つけ出すという点については、十分な成果が出たのではないかと考えられる。ユーザ

試験における情報還元によると、金融機関では営業推進部門での利用が主に想定される

が、その他多くの部署でも参考指標として活用が想定できるとの意見をいただいた。ま

た、保証協会や格付機関など、金融機関以外でも参考指標として活用の余地は考えられそ

うな結果となっている。

最後に、研究会委員として弊協会の知見を補っていただいた方々、ユーザ試験に快くご

協力いただいた方々を始め、ここに書ききれない多くの関係者の方々に、改めて感謝の意

を表したい。そして、本報告書の内容が、中小企業金融の円滑化、ひいては我が国経済の

活性化に少しでも資すれば、幸甚の至りであるである。

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≪資料 1≫研究会開催日時及び議題一覧

本事業の研究会は、一般社団法人 CRD協会会議室にて、以下の日時で開催された。

第 1回研究会:平成 29年 9月 12日(火)11:00~13:00

第 2回研究会:平成 29年 10月 23 日(月)11:00~13:00

第 3回研究会:平成 29年 12月 8日(金)11:00~13:00

各研究会の議題は以下のとおり。

【第 1 回研究会】

(1) CRD協会事務局報告:『第 1回研究会資料』についてのご説明

(2) 意見交換

【第 2 回研究会】

(1) CRD協会事務局報告:『第 2回研究会資料』についてのご説明

(2) 意見交換

【第 3 回研究会】

(1) CRD協会事務局報告:『第 3回研究会資料』についてのご説明

(2) 意見交換

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≪資料 2≫指標定義詳細

【基礎指標一覧】

# 記号 指標名 定義 特に断りが無い場合は当期決算部の項目を用います

1 k01 使用総資本 [資産合計] + [受取手形割引高] + [受取手形裏書譲渡高]

2 k02 使用総負債 [負債合計] + [受取手形割引高] + [受取手形裏書譲渡高]

3 k03 使用流動負債 [流動負債合計] + [受取手形割引高] + [受取手形裏書譲渡高]

4 k05 純運転資本 ( [流動資産合計] + [受取手形割引高] - [現金預金] ) - ( [流動負債合計] - [短期借入金] )

5 k06 月商 [売上高営業収益] / 12

6 k07 有利子負債 [短期借入金] + [社債長期借入金] + [受取手形割引高]

7 k10 事業利益 [営業利益] + [受取利息割引料配当金]

8 k11 利払後事業利益 [営業利益] + [受取利息割引料配当金] - [支払利息利子割引料]

9 k12 売上債権 [売掛金] + [受取手形] + [受取手形割引高] + [受取手形裏書譲渡高]

10 k13 買入債務 [買掛金] + [支払手形] + [受取手形裏書譲渡高]

11 k14 純金利負担額 [支払利息利子割引料] - [受取利息割引料配当金]

12 k15 付加価値額[営業利益] + [減価償却実施額] + [うち労務費] + [うち賃借料(原価)] + [うち租税公課(原価)] + [うち人件費] + [うち賃借料(販管費)] + [うち租税公課(販管費)]

13 k16 設備投資額 [有形固定資産合計](差分) + [減価償却実施額]

14 k18 営業キャッシュフロー

[当期利益] + [減価償却費実施額] + [特別損失] - [特別利益] - [受取手形](差分) - [売掛金](差分) - [棚卸資産合計](差分) - [その他流動資産合計](差分) + [支払手形](差分) + [買掛金](差分) + [その他流動負債合計](差分) + [その他固定負債](差分) + [特別法上の準備金](差分)

15 k19 経常収入[売上高営業収益] + [受取利息割引料配当金] - [売上債権(k12)](差分) - [未収入金](差分) - [未収収益](差分) + [前受金](差分) + [前受収益](差分)

16 k20 経常支出

[売上原価営業原価] + [販売費および一般管理費] + [支払利息利子割引料] + [棚卸資産合計](差分) - [買入債務(k13)](差分) - [減価償却実施額] - [未払金](差分) - [未払費用](差分) + [前渡金](差分) + [前払費用](差分) - [貸倒引当金(流動資産)](差分) - [貸倒引当金(固定資産)](差分)

17 k21 財務キャッシュフロー [短期借入金](差分) + [社債長期借入金](差分) + [資本金](差分) + [資本準備金](差分) - [株主配当金]

18 k22 投資キャッシュフロー [現金預金](差分) - [営業キャッシュフロー(k18)] - [財務キャッシュフロー(k21)]

19 k23 フリーキャッシュフロー [現金預金](差分) - [財務キャッシュフロー(k21)]

20 k24 運転資金 [売上債権(k12)] + [棚卸資産合計] - [買入債務(k13)]

21 k25 設備投資額(無形含) [有形固定資産合計](差分) + [減価償却実施額] + [無形固定資産](差分)

22 k26 人件費 [うち労務費]+[うち人件費]

23 k27 従業員数 Max([期末従業員数],3)

(差分)は、対象項目の当期‐前期で定義。ただし、貸倒引当金(流動資産)及び貸倒引当金(固定資産)は、入力値がマイナスの値となる前提である為、絶対値変換処理を行ってから算出する。すなわち、[貸倒引当金(流動資産)](差分) = Abs([(当期)貸倒引当金(流動資産)]) - Abs([(前期)貸倒引当金(流動資産)])[貸倒引当金(固定資産)](差分) = Abs([(当期)貸倒引当金(固定資産)]) - Abs([(前期)貸倒引当金(固定資産)])

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【モデル利用指標一覧①】

# (参考:カテゴリ)記号 名称 定義

1 A_規模 z03 純運転資本額 [純運転資本(k05)]

2 A_規模 z06 キャッシュフロー1 [事業利益] + [減価償却実施額]

3* (A_規模) z07 キャッシュフロー2 [当期利益] + [減価償却実施額]

4 A_規模 z111 キャッシュフロー2(3期平均) Ave( [キャッシュフロー2(当期)],[キャッシュフロー2(前期)],[キャッシュフロー2(前々期)] )

5 A_規模 z09 純金利負担額 [純金利負担額(k14)]

6 A_規模 z10 従業員数 [従業員数(k26)]

7 B_安全性 z11 自己資本比率 [資本合計] /[使用総資本] ×100

8 B_安全性 z12 負債比率 [使用総負債(k02)] / [資本合計] × 100

9 B_安全性 z13 現預金売上高比率 [現金預金] / [売上高・営業収益] × 100

10 B_安全性 z14 手元流動性比率 ( [現金預金] + [有価証券] ) / [月商(k06)] × 100

11 B_安全性 z19 売上債権対買入債務比率 [売上債権(k12)] / [買入債務(k13)] × 100

12 B_安全性 z20 買入債務 [買入債務(k13)]

13 B_安全性 z21 有利子負債利子率 [支払利息・割引料] /[有利子負債 (k07)] ×100

14* (B_安全性) z23 売上高純金利負担率 [純金利負担額(k14)] / [売上高・営業収益] × 100

15 B_安全性 z23_avg 売上高純金利負担率(3期平均) Ave( [売上高純金利負担率(当期)],[売上高純金利負担率(前期)],[売上高純金利負担率(前々期)] )

16 B_安全性 z34 キャッシュフロー償還年数3 [有利子負債(k07)] / [営業キャッシュフロー(k18)]

17 B_安全性 z36 固定比率 [固定資産合計] / [資本合計] × 100

18 B_安全性 z37 固定長期適合率 [固定資産合計] /( [固定負債合計] +[資本合計] ) × 100

19 B_安全性 z37_avg 固定長期適合率(3期平均) Ave( [固定長期適合率(当期)],[固定長期適合率(前期)],[固定長期適合率(前々期)] )

20* (B_安全性) z101 減価償却率 [減価償却実施額] / ([有形固定資産合計] + [無形固定資産] - [土地] - [建設仮勘定] + [減価償却実施額] ) × 100

21 B_安全性 z101_avg 減価償却率(3期平均) Ave( [減価償却率(当期)],[減価償却率(前期)],[減価償却率(前々期)] )

22 B_安全性 z102 流動資産対その他流動資産比率 [その他流動資産合計] / ([流動資産合計] + [受取手形割引高] + [受取手形裏書譲渡高]) × 100

23 B_安全性 z105 流動負債キャッシュフロー倍率 [使用流動負債 (k03)] / [キャッシュフロー1(z06)]

24 B_安全性 z120 フリーキャッシュフロー償還年数 [有利子負債(k07)] / [フリーキャッシュフロー(k23)]

25 B_安全性 z122 流動負債キャッシュフロー2倍率 [使用流動負債 (k03)] / [キャッシュフロー2(z07)]

26 B_安全性 z123 固定負債キャッシュフロー2倍率 [固定負債合計] / [キャッシュフロー2(z07)]

27* (B_安全性) z124 債務償還年数1 ( [有利子負債(k07)] - [運転資金(k24)] ) / [キャッシュフロー1(z06)]

28 B_安全性 z124_avg 債務償還年数1(3期平均) Ave( [債務償還年数1(当期)],[債務償還年数1(前期)],[債務償還年数1(前々期)] )

29 B_安全性 z126 デットキャパシティレシオ2 [有利子負債(k07)] / ( [現金預金] + [有形固定資産合計] ) × 100

30 B_安全性 z151 有利子負債増加フラグ[有利子負債(当期)(k07)]-[有利子負債(前期)(k07)]>0 の場合 : 1それ以外の場合 : 0

31 C_収益性 z44 総資本総利益率 [売上総利益] / [使用総資本(k01)] × 100

32* (C_収益性) z47 総資本事業利益率 [事業利益(k10)] / [使用総資本(k01)] × 100

33 C_収益性 z47_avg 総資本事業利益率(3期平均) Ave( [総資本事業利益率(当期)],[総資本事業利益率(前期)],[総資本事業利益率(前々期)] )

34 C_収益性 z48 総資本利払後事業利益率 [利払後事業利益(k11)] / [使用総資本(k01)] × 100

35 C_収益性 z50 総資本当期利益率 [当期利益] / [使用総資本(k01)] × 100

36* (C_収益性) z51 自己資本当期利益率 [当期利益] / [資本合計] × 100

37 C_収益性 z51_avg 自己資本当期利益率(3期平均) Ave( [自己資本当期利益率(当期)],[自己資本当期利益率(前期)],[自己資本当期利益率(前々期)] )

38 C_収益性 z52 自己資本営業利益率 [営業利益] / [資本合計] × 100

39 C_収益性 z53 自己資本経常利益率 [経常利益] / [資本合計] × 100

40 C_収益性 z54 売上高総利益率(粗利益率) [売上総利益] / [売上高・営業収益] × 100

41* (C_収益性) z55 売上高営業利益率 [営業利益] / [売上高・営業収益] × 100

42 C_収益性 z55_avg 売上高営業利益率(3期平均) Ave( [売上高営業利益率(当期)],[売上高営業利益率(前期)],[売上高営業利益率(前々期)] )

43 C_収益性 z57 売上高当期利益率 [当期利益] / [売上高・営業収益] × 100

44 C_収益性 z58 キャッシュフローマージン1 [キャッシュフロー1(z06)] / [売上高・営業収益] × 100

45 C_収益性 z60 営業キャッシュフローマージン [営業キャッシュフロー(k18)] / [売上高・営業収益] × 100

46 C_収益性 z60_avg 営業キャッシュフローマージン(2期平均) Ave( [営業キャッシュフローマージン(当期)],[営業キャッシュフローマージン(前期)] )

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【モデル利用指標一覧②】

# (参考:カテゴリ)記号 名称 定義

48 C_収益性 z170 売上高特別損益率3期増減{([特別利益(当期)]-[特別損失(当期)])/[売上高・営業収益(前々期)(z05)]×100}-{([特別利益(前々期)]-[特別損失(前々期)])/[売上高・営業収益(前々期)(z05)]×100}

49 D_資金繰り z61 経常収支比率 [経常収入(k19)] / [経常支出(k20)] × 100

50 D_資金繰り z62 売上高経常収支比率 ( [経常収入(k19)] - [経常支出(k20)] ) / [売上高・営業収益] × 100

51 E_効率性 z65 有形固定資産回転率 [売上高・営業収益] / ( [有形固定資産合計] - [建設仮勘定] ) × 100

52 E_効率性 z67 棚卸資産回転日数 [棚卸資産合計] / [売上高・営業収益] × 365

53 E_効率性 z68 売上債権回転日数 [売上債権(k12)] / [売上高・営業収益] × 365

54 E_効率性 z69 買入債務回転日数 [買入債務(k13)] / [売上高・営業収益] × 365

55 E_効率性 z71 売上高販管費率 [販売費および一般管理費] / [売上高・営業収益] × 100

56 E_効率性 z73 売上高設備投資比率 [設備投資額(k16)] / [売上高・営業収益] × 100

57 E_効率性 z149_2 営業運転資本回転期間1_2 ([売掛金] + [受取手形] + [棚卸資産合計]-[買掛金] -[支払手形])/[月商(k06)]

58 E_効率性z149_2_avg

営業運転資本回転期間1_2(3期平均) Ave( [営業運転資本回転期間1_2(当期)],[営業運転資本回転期間1_2(前期)],[営業運転資本回転期間1_2(前々期)] )

59 E_効率性 z132 設備投資額(無形含)翌期売上高増減比率 ([売上高・営業収益(差分)]/ [設備投資額(無形含)(k25)(前期)]) × 100

60* (E_効率性) z64 固定資産回転率 [売上高・営業収益] / ( [固定資産合計] - [建設仮勘定] ) × 100

61 E_効率性 z162 固定資産回転率3期増減 [固定資産回転率(当期)(z64)]-[固定資産回転率(前々期)(z64)]

62 E_効率性 z163 売上高人件費比率3期増減([人件費(当期)(k26)]/[売上高・営業収益(当期)(z05)]×100)-([人件費(前々期)(k26)]/[売上高・営業収益(前々期)(z05)]×100)

63 E_効率性 z164 売上高販管費率3期増減 [売上高販管費率 (当期)(z71)]-[売上高販管費率(前々期)(z71)]

64* (E_効率性) z70 売上高原価率 [売上原価・営業原価] / [売上高・営業収益] × 100

65 E_効率性 z166 売上高原価率3期増減 [売上高原価率 (当期)(z70)]-[売上高原価率(前々期)(z70)]

66 E_効率性 z171 純運転資本/使用総資本比率3期増減([純運転資本(当期)(z03)]/[使用総資本(前々期)(k01)]×100)-([純運転資本(前々期)(z03)]/[使用総資本(前々期)(k01)]×100)

67 F_生産性 z77 一人当り経常利益 [経常利益] / [従業員数(k26)]

68 F_生産性 z80 一人当り付加価値 [付加価値額 (k15)] / [従業員数(k26)]

69* (F_生産性) z83 設備投資効率 [付加価値額 (k15)] /( [有形固定資産合計] -[建設仮勘定] ) × 100

70 F_生産性 z83_avg 設備投資効率(3期平均) Ave( [設備投資効率(当期)],[設備投資効率(前期)],[設備投資効率(前々期)] )

71 G_成長性 z84 売上高増減率 Sgn([売上高・営業収益(差分)] ) × Abs( [売上高・営業収益(差分)] / [売上高・営業収益(前期)] )× 100

72 G_成長性 z88 自己資本増減率 Sgn([資本合計(差分)] ) × Abs( [資本合計(差分)] / [資本合計(前期)] ) × 100

73 G_成長性 z128 経常利益増減 [経常利益(差分)]

74 G_成長性 z127 営業キャッシュフロー増減率Sgn( [営業キャッシュフロー(k18)(差分)] ) × Abs( [営業キャッシュフロー(k18)(差分)] ) / [営業キャッシュフロー(k18)(前期)]) × 100

75 G_成長性 z175 人件費増加率 Sgn( [人件費(差分)] ) × Abs( [人件費(差分)] / [人件費(前期)]) × 100

76 G_成長性 z115 営業キャッシュフロー_2期連続-600万円以下フラグ[営業キャッシュフロー(k18)(当期)] ≦-600万円 かつ、 [営業キャッシュフロー(k18)(前期)] ≦-600万円の場合 : 1それ以外の場合 : 0

77 H_安定性 z90 自己資本比率増減 [自己資本比率(z11)(当期)] -[自己資本比率(z11)(前期)]

78 H_安定性 z109 買入債務回転日数増減 ([買入債務回転日数(当期) (z69)] - [買入債務回転日数(前期) (z69)])

79* (B_安全性) z130 現預金比率 [現金預金] / [使用総資本(k01)]×100

80 H_安定性 z130_diff 現預金比率差分 [現預金比率 (z130)(当期)] -[現預金比率(z130)(前期)]

81 I_属性 z96 業歴 Value(Left([決算年月],4)) - Value([設立年])

82 I_属性 z99 代表者年齢 Value(Left([決算年月],4)) - Value([代表者生年])

83 K_過去成長性 z135 売上高平均成長率(3期使用) {([売上高・営業収益(当期)] + [売上高・営業収益(前期)]) / ( 2 ×[売上高・営業収益(前々期)])-1}×100

84 K_過去成長性 z140 人件費平均成長率(3期使用) {([人件費(当期)(k26)] + [人件費(前期)(k26)]) / ( 2 ×[人件費(前々期)(k26)])-1}×100

85* (L_積極性) z141 売上高投資CF比率 (-1×[投資キャッシュフロー(k22)] )/[売上高・営業収益]×100

86 L_積極性 z141_avg 売上高投資CF比率(2期平均) Ave( [売上高投資CF比率(当期)],[売上高投資CF比率(前期)] )

87 O_調達構造 z159 その他営業外収益売上高比率 [その他営業外収益] / [売上高・営業収益]×100

88 O_調達構造 z159_avg その他営業外収益売上高比率(3期平均) Ave( [その他営業外収益売上高比率(当期)],[その他営業外収益売上高比率(前期)],[その他営業外収益売上高比率(前々期)] )

89 O_調達構造 z155 現預金増加調整後借入金増加率 ( [有利子負債(k07)](差分)+[現金預金](差分) ) / [使用総資本額(前期)(z04)]×100

90* (O_調達構造) z156 現預金増加調整後資本増加率 ([資本合計](差分) - [現金預金](差分)]) / [使用総資本額(前期)(z04)]×100

91 O_調達構造 z156_avg 現預金増加調整後資本増加率(2期平均) Ave( [現預金増加調整後資本増加率(当期)],[現預金増加調整後資本増加率(前期)] )

92* (O_調達構造) z160 設備投資(無形含)借入依存度 [有利子負債(k07)](差分) / [設備投資額 (無形含)(k25)]×100

93 O_調達構造 z160_avg 設備投資(無形含)借入依存度(2期平均) Ave( [設備投資(無形含)借入依存度(当期)],[設備投資(無形含)借入依存度(前期)] )

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≪資料 3≫精度向上に向けた取り組み

イ) 高成長期待ランク先へ加重したモデル推計

二軸評価という活用面を考えた場合、成長領域にある企業の中でも、特に高成長が期待

できる企業を抽出できることが、より重要になると考えられる。信用力が十分でない企業

であっても、高成長の余地が大きいのであれば、余地が小さい企業と比較して、事業性評

価の対象として検討しやすい。そのような視点から、高成長期待ランク先を重点的に予測

しやすいよう、高成長期待ランク先に加重してモデル推計を行った(下図参照)。

結果的に、想定どおりの結果は得られず、この手法の採用は見送ることとなった。その

主要因は、重みを付けた推計では、高成長先に重点を置いてパラメータ推計を行ったため、

成長・非成長の判別精度が低下したことによるものと考えられる。そのため、成長領域の

中の予測精度は向上したが、そもそもの成長領域の予測精度が下落したため、最終的に高

成長ランクの精度が改善しなかったようである。

【重み付け無し推計】■推計ランク毎の実績ランク包含率

3 4 5 6 7

7 33.30 %以上 8.3% 9.2% 10.3% 12.1% 15.8%6以上 14.28 %以上 17.0% 18.3% 20.0% 22.3% 26.4%5以上 4.27 %以上 25.3% 26.9% 28.8% 31.1% 34.7%4以上 -2.68 %以上 33.4% 34.8% 36.7% 38.7% 41.6%

3以上(成長領域) -8.51 %以上 41.2% 42.3% 43.9% 45.4% 47.6%

【重み付け有り推計】■推計ランク毎の実績ランク包含率

3 4 5 6 7

7 52.96 %以上 8.4% 9.6% 10.8% 12.6% 15.5%

6以上 28.46 %以上 16.7% 18.0% 19.4% 21.0% 23.4%

5以上 15.76 %以上 24.1% 25.3% 26.4% 27.8% 29.2%4以上 7.16 %以上 30.9% 31.8% 32.6% 33.4% 33.9%

3以上(成長領域) 0.51 %以上 37.3% 37.8% 38.3% 38.5% 38.0%

売上高5年間成長率

(実績閾値)

推計ランク

実績ランク

売上高5年間成長率

(通期閾値[参考])

推計ランク

成長領域

実績ランク

成長領域

重み付け推計を

実施しても

改善せず。

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ロ) 説明変数に対する非線形性の取り込み検討

“規模の大きい企業は自己資本の大きい方が高成長率となり、規模の小さい企業は借入

の大きい方が高成長率となる”など、指標を組み合わせる(合成変数化する)ことで、単

指標だけでは見られなかった傾向が出てくる可能性がある。一方、合成変数を取り入れる

ことは、モデルの構造を複雑にするため、解釈のしやすさや使い勝手が悪くなる。

合成変数には上記のようなメリットとデメリットが考えられるため、まず、合成変数と

いう非線形性をモデルに取り入れた場合、どこまでモデル精度が向上する可能性がある

かを、非線形性の取り扱いに適した機械学習手法(XGBoost という決定木分析の発展的

手法)で確認した。これにより大幅な精度向上が見られる場合、非線形性の採用方法を具

体的に検討することとした。その結果は以下のとおりである。

上の表を見ると、若干の精度向上が確認され、合成変数を取り入れることで、多少の精

度向上が図られる可能性が示されたが、大幅な改善というほどではなかった。したがって、

合成変数の取り込み試行は工数が多くかかり、解釈が難しくなることを勘案して、工数に

余裕があった場合に取り組むこととした。最終的に、試行のための工数を確保できなかっ

たことから、非線形性の取り込みについては、本事業では断念することとなった。

判別用AR値モデル手法 全サンプル 全サンプル 成長サンプルのみ

順序ロジット 0.196 0.205 0.177

XGBoost 0.222 0.235 0.216

ランク用AR値

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ハ) 成長外れ値サンプルへの対応

実際の成長率から推定値が大きく外れた企業の属性に関するセグメントを確認し、そ

れに対して何らかの手当を行うことで、モデル精度向上を図った。最終的に、いくつかの

セグメントで特徴が出たものの、合理的な対処方法の範囲内では精度向上がほとんど見

られなかったため、一部の方法を除き、何らかの対応を採用することは無かった。

まず、属性の確認は、以下のセグメントで行った。

業種(製造業、サービス業、小売業、卸売業、その他業種)

地域(北海道・東北、関東、中部、近畿、中国・四国、九州・沖縄)

デフォルト、非デフォルトの別

決算年(基準年 1999年~2010 年の 1 年毎)

売上規模区分(1千万円超 2千万円以下、3 千万円以下、1億円以下、3億円以下、

5 億円以下、10 億円以下、100 億円以下、100億円超)

業歴(7 年以上 10年未満、10年以上 70 年未満までの 10 年刻み、70 年以上)

前記セグメントのうち、“実際の成長率から推定値が大きく外れた企業”の割合が高いセ

グメントを確認し、そのセグメントに対して、その特徴に応じた分析を実施した。具体的

には、以下のような定義である。

【超過大評価先】実績ランク 1(最低成長ランク)のサンプルの内、モデルスコア上位

1000件※(超高成長予想先)

【超過小評価先】実績ランク 7(最高成長ランク)のサンプルの内、モデルスコア下位

1000件※(超低成長予想先)

※全体は約 316 万 5 千件。

確認は、【超過大評価先】と【超過小評価先】の企業の割合が高いセグメントを探索する

方法で行った。

結果的に、①業種×売上規模区分、②業歴、という 2セグメントにおいて、一部の成長

性指標に関して特徴が見られた。以下、その結果を示す。

① 業種×売上規模区分

“小売業の売上規模 3千万円以下”というセグメントについて、他のセグメントより超

過小評価先が比較的多く見られた(下図)。

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上記セグメントの評価水準を調整するため、“小売業売上規模 3千万円以下フラグ”を作

成し、それを説明変数候補に加えた。その他の成長性指標で特徴が見られたセグメント

に対しても同様に、以下のようにフラグを作成した。

前記フラグ化変数を加えてモデル推計を行った結果、モデルの予測精度はほとんど変

化しなかった(下表)。精度改善はほとんど見込めない一方、フラグ化変数は説明変数の

解釈を難しくすることから、この取り込みは最終的に見送った。

◆売上高成長

全サンプル 成長サンプル

無 0.222 0.230 0.181 49.28%有 0.222 0.230 0.181 49.26%

◆付加価値額成長

全サンプル 成長サンプル

無 0.177 0.205 0.310 49.16%有 0.178 0.205 0.310 49.14%

◆営業CF成長

全サンプル 成長サンプル

無 0.088 0.147 0.309 52.09%有 0.088 0.147 0.310 51.90%

実績ランク

包含率

フラグ変数

有無判別用AR値

ランク用AR値 実績ランク

包含率

フラグ変数

有無判別用AR値

ランク用AR値 実績ランク

包含率

フラグ変数

有無判別用AR値

ランク用AR値

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② 業歴

業歴については、営業 CF 成長モデルを除く 3 つの成長性指標で、“業歴の短い先で

超過大評価先が多く、業歴の長い先で超過小評価先が多い”という傾向が見られた(下

図)。

この理由は、業歴の数値そのものを線形でモデルに取り込んでいることによる影響と

考えられたため、業歴を対数変換することで超過大評価、超過小評価を緩和することが

期待された。この点は、業歴だけでなく、代表者年齢、従業員数でも同様の傾向が見ら

れたため、対数変換した後、モデル推計を実施した。その結果、下表のようにほとんど

変化しなかったため、この取り込みは最終的に見送った。

全サンプル 成長サンプル

対数変換有 0.196 0.206 0.178 16.01%

対数変換無 0.196 0.205 0.177 15.78%

判別用AR値ランク用AR値

実績ランク包含率

業種、代表者年齢、従業員数

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≪資料 4≫成長期待値評価モデル搭載ツールについて

ツール構造

ユーザ試験で利用したツール※は、Excel2007 以上で動作する Excelツールであり、

比較的シンプルな構造となっている。入力画面でデータを入力した後、成長性評価実行

ボタンを押せば、5枚の帳票が出力される。帳票の 1枚はサマリーシートであり、他の

4 枚は成長性指標毎の個別評価結果である。

※ 公開用ツールは、主に信用リスク評価結果の表示部分で、ユーザ試験用ツールと仕様

が異なる。詳細は、別途納入するツールの解説シートを参照。

成長性評価

実行ボタン

Page 84: 平成29年度中小企業の成長期待値評価モデル の実 …まず、CRD 協会1が中小企業庁より業務委託を受け、中小企業の成長期待値評価モデルの

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ツールイメージ:トップ画面(入力画面)

ツールのトップ画面は、データの入力画面となっており、以下のようなイメージにな

る。①②部分を入力した後、③の成長性評価実行ボタンを押すと、個社評価が実行され

る。評価結果は④の 5シートに出力される。評価結果を確認するには、確認したいシート

タブをクリックすれば良い。

① 属性項目

属性項目は6項目。

業種は、製造業・建設業・卸売業・小売業・サービス業・不動産業・その他の

業種の7分類から選択。業界平均値及び信用力の評価としてCRDモデル3に

よる成長性評価結果算出に利用。入力作業の効率化を図るため、中業種以下の

分類は考慮しない。

設立年は業歴の算出に、代表者生年は代表者年齢の算出に利用。

決算年月は、入力する3期分の財務データの中で一番新しい年月を入力。

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② 決算項目

決算項目は 62項目。

左から、前々期・前期・当期の順に各項目の数値を入力。

シート上でグレーアウトし斜線が引かれている部分は、入力不要。入力シート

のレイアウトの関係で、欄だけを設けているもの(例:#18 投資等合計)もあ

るが、数値の入力は不要。それ以外の項目は、全項目必須入力(ブランクの項

目はゼロで置き換えられて計算される)。

一部の項目は、他の項目から算出可能となっているため、数式を埋め込んでい

る(例:#1 流動資産合計)。手入力作業の効率化のために埋め込んでいるもの

であり、上書き可。

入力される数値は、3期分とも12カ月決算であることを想定。変則決算には

未対応。変則決算のデータを入力したい場合は、PL項目の 12カ月換算が必

要。ただし、成長性評価結果はあくまで参考値の扱い。

ツールイメージ:出力帳票

出力帳票は 5 枚。1 枚は個社評価のサマリーシート、残り 4枚は成長性指標毎の個社評

価詳細シートとなっている。次ページには、それぞれのイメージを、帳票の簡単な見方と

ともに示している。なお、後者の個別成長性指標のイメージは、売上高成長のみ例示して

いる。

① サマリーシートの見方

評価結果は、4つの評価軸とする数値(売上高成長率・付加価値額成長率・営

業CF成長率・純資産成長率)について、1~7のランクで示される。

1~7のランクは基本的に、1~2の2区分は非成長、3~7の5区分は成長

と予測することを示す。数値が大きいほど高い成長を見込めるという評価であ

るため、7が最高(最良)の評価となる。評価軸ごとの、各ランクの具体的な成長

イメージは本編【図表 19】参照。また、推計ランクの確からしさについては、

本編【図表 24】参照。

参考として、以下の数値も記載。

⁃ 4つの評価軸の単純平均

⁃ 4つの評価軸それぞれの業種(入力時の7分類ベース)での平均評価値

⁃ 信用力評価:CRDモデル3により算出する PDから定義する保証料率区分

※保証料率区分は、1→9となるほど”信用力が高い”という評価。

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帳票の左下のグラフでは、4つの評価軸のランクをレーダーチャートで示す。

破線は、業種ごとの平均値。4つの各軸について、外側に行くほど成長期待値

が高いということを示す。

帳票の中央から右側にかけての4つのグラフは、横軸に成長力評価の4つそれ

ぞれのランクを、縦軸には信用力評価の値として信用保証料率を示す。星印

が、入力した企業に対する評価であり、業種ごとの平均値を縦横それぞれ破線

で示している。

★印が右上にある場合は、成長期待値も信用力評価も高い。

★印が右下にある場合は、成長期待値は高いが、信用力評価は低い。

★印が左上にある場合は、成長期待値は低いが、信用力評価は高い。

★印が左下にある場合は、成長期待値も信用力評価も低い。

② 個別成長性指標詳細帳票の見方

個別詳細帳票の左側は、その評価軸における全体的な評価を示す。各種数値・

グラフいずれも、意味は全体評価帳票と同じ。

帳票の中央から右側にかけては、評価の詳細内訳を示している。

⁃ 『カテゴリ』・『財務指標名』は、モデルで利用している財務指標を示す。

財務指標の定義は「≪資料 2≫指標定義詳細」参照。

⁃ 『単位』は、財務指標の値の単位。

⁃ 『指標算出値』は、今回入力したデータにおけるその財務指標の値。

モデルの構造上、極端に大きい値/小さい値は、それぞれ上限/下限を設

けている。ここで示している値は、上限と下限の処理を行ったものである

ため、定義式に基づいて入力した数値から算出したものと相違が出るケー

スがある。

⁃ 『符号』は、その財務指標の評価方法を示す。

符号が +】であれば、その値が大きいほど高く(良く)評価。

符号が -】であれば、その値が小さいほど高く(良く)評価。

符号が 絶対値+】となっている場合は、その値がゼロよりも離れるほど

高く(良く)評価。

符号が 絶対値-】となっている場合は、その値がゼロに近づくほど高く

(良く)評価。

⁃ 『指標別評価』は、各指標についての評価をA~Eで示している(A:良

い/E:不良)。モデル構築に用いたデータにおいて、

各指標の上位 20%に該当する場合はA、

各指標の上位 20~40%に該当する場合はB、

各指標の上位 40~60%に該当する場合はC、

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各指標の下位 20~40%に該当する場合はD、

各指標の下位 20%に該当する場合はE、としている。

⁃ 『重要度(寄与度)』は、モデル内部における評価のウエイトを示している。

重要度が高い値である指標ほど、最終的な評価ランクに対する影響が大き

いことを意味する。

⁃ 『備考』には、各指標の算出結果における注意点を示す。指標の値が上限

や下限に達した場合は、その旨を備考に示す。また、指標の定義において

分母がゼロだった場合なども、その旨を示す。その際に示されている指標

算出値は、モデル構築時のデータより、評価するにあたって妥当と思われ

る値に置き換えて表示されており、留意が必要。

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≪資料 5≫ユーザ試験 回答用紙雛形

全体回答用紙

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個社評価回答用紙

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平成29年度中小企業の成長期待値評価モデルの実証調査事業

作 成 :平成 30 年3月

委託者 :中小企業庁事業環境部金融課

受託者(調査実施者) :一般社団法人CRD協会