2.表面波とプラズマ生成...

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小特集 鱒欝 表面波励起プラズマの生成とその応用 2.表面波とプラズマ生成 概論一 2.2 表面波励起プラズマの最近の研究 藤正士 (静岡大学工学部) (1996年6月5日受理) Surface Waves and Plasma Production-Overvi Recent Studies on Surface Wave-Excited Plasma KANDO Masashi Z)砂α7≠規ωz渉oゾEJ66云7ぎoα1αフz4El60ケ07zづ6E7zg初687勿z畠Sh乞zz60々α研z初673ぢ砂,伽〃zσ〃z磁3%432, (Receive(i5June l996) Abstract The surface wave excited plasma which has been systematically de late seventies is recognized as a promising plasma source for the plasma pr views t虹e recent studies on the enlargement of the surface wave excited mo(leling of the surface wave excited plasma,which give the more preci mechanism of energy transfer from the surface wave to the plasma. Keywords= surface wave,surfaguide,cutoff density,slot antenna,tapered glass similarity laws,plasma resonance,electron energy distribution function 2.2.1 はじめに プラズマとガラス放電管の境界部に沿って伝搬する表 面波の基礎的な特性に関しては,1960年代に活発な研究 が行われているが,これをプラズマ生成に応用する研究 が,1970年代からフランスのMoisan等によって,系統 的に進められている.彼等は,径の細いガラス放電管の 一端に,局部的に管軸方向に強いRF電界を発生できる 素子を取り付けて表面波を励起し,遮断密度以上の高密 度プラズマの生成に成功している.この種の表面波励起 子は半同軸型共振器構造を基本として開発され,surfat- ron,surfaguideあるいはRo-box等が広く使用されている. 表面波励起プラズマは,外部磁界を使わなくても遮断 密度以上の高密度プラズマを生成できる上,使用する電 磁波の周波数範囲が200kHzから10GHzと広く,封入 ガスの圧力に関しては1,3×10’2Paから1.OMPaの広範 囲にわたっている.放電管の管径についても,当初の 0.5mm程度の細管から,今日では15cmまでの口径の 大きなプラズマの生成も可能となっている.このような 表面波プラズマの多様性に着目して,プロセス用プラズ マ源を始めとして,ランプ,レーザー,イオン源等の様々 な用途に向けた,実用性に重きを置いた研究が進展して いる.表面波に関する今日までの膨大な研究成果は,既 に総合報告[1-3]や著書[4-7]の形で系統的にまとめられ ている.詳細については,それらを参照願いたい. 表面波励起プラズマにおいても,最近では大口径化へ の要請が強まり,この方向での研究が報告されている. これらは,3つの方法に分類することができる.本稿で は,それらの代表的な例を紹介する. 629

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  小特集

鱒欝  表面波励起プラズマの生成とその応用

2.表面波とプラズマ生成 概論一 2.2 表面波励起プラズマの最近の研究

 神 藤正士 (静岡大学工学部)

(1996年6月5日受理)

Surface Waves and Plasma Production-Overview-

 Recent Studies on Surface Wave-Excited Plasmas

                KANDO MasashiZ)砂α7≠規ωz渉oゾEJ66云7ぎoα1αフz4El60ケ07zづ6E7zg初687勿z畠Sh乞zz60々α研z初673ぢ砂,伽〃zσ〃z磁3%432,∫のりσπ

               (Receive(i5June l996)

Abstract

 The surface wave excited plasma which has been systematically developed by Moisanε地乙since

late seventies is recognized as a promising plasma source for the plasma process.The present paper re-

views t虹e recent studies on the enlargement of the surface wave excited plasma and the works on the

mo(leling of the surface wave excited plasma,which give the more precise formula and explain the

mechanism of energy transfer from the surface wave to the plasma.

Keywords=surface wave,surfaguide,cutoff density,slot antenna,tapered glass tube,dispersion relation,

similarity laws,plasma resonance,electron energy distribution function

2.2.1 はじめに

 プラズマとガラス放電管の境界部に沿って伝搬する表

面波の基礎的な特性に関しては,1960年代に活発な研究

が行われているが,これをプラズマ生成に応用する研究

が,1970年代からフランスのMoisan等によって,系統

的に進められている.彼等は,径の細いガラス放電管の

一端に,局部的に管軸方向に強いRF電界を発生できる

素子を取り付けて表面波を励起し,遮断密度以上の高密

度プラズマの生成に成功している.この種の表面波励起

子は半同軸型共振器構造を基本として開発され,surfat-

ron,surfaguideあるいはRo-box等が広く使用されている.

 表面波励起プラズマは,外部磁界を使わなくても遮断

密度以上の高密度プラズマを生成できる上,使用する電

磁波の周波数範囲が200kHzから10GHzと広く,封入

ガスの圧力に関しては1,3×10’2Paから1.OMPaの広範

囲にわたっている.放電管の管径についても,当初の

0.5mm程度の細管から,今日では15cmまでの口径の

大きなプラズマの生成も可能となっている.このような

表面波プラズマの多様性に着目して,プロセス用プラズ

マ源を始めとして,ランプ,レーザー,イオン源等の様々

な用途に向けた,実用性に重きを置いた研究が進展して

いる.表面波に関する今日までの膨大な研究成果は,既

に総合報告[1-3]や著書[4-7]の形で系統的にまとめられ

ている.詳細については,それらを参照願いたい.

 表面波励起プラズマにおいても,最近では大口径化へ

の要請が強まり,この方向での研究が報告されている.

これらは,3つの方法に分類することができる.本稿で

は,それらの代表的な例を紹介する.

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プラズマ・核融合学会誌 第72巻第7号  1996年7月

 さて,表面波励起プラズマでは,表面波の電界強度は}

電離を生じさせるに十分な大きさを持ってはいるが,線

形理論が適用できないほどには強くないものとして,波

動の伝搬特性等が解析されてきた.実際に,このように

して求められた分散特性等は実験結果と良い一致を見て

いる[8].一般に,表面波励起プラズマを理論的に取り

扱う場合には,表面波の電磁界成分の電磁気学的取り扱

いと同時に,波動の電界による電離過程を含めた荷電粒

子の発生・消滅過程を考慮したプラズマ粒子の運動論的

取り扱いが必要になる上に,さらに放電管の管壁近くに

局在する遮断密度以上の高密度層による影響を組み入れ

た解析が必要となる.しかし,現実には解析の困難さを

軽減するために,必要に応じてこれらのどれかを無視ま

たは近似した解析が行われている.例えば,プラズマ密

度分布に関しては実験データを利用して近似し,波動の

電磁界成分については厳密な取り扱いを行って,表面波

の分散特性が導出される[9].一方,プラズマの密度分

布や放電維持に必要な電界に関する相似則等を必要とす

る場合には,運動論的側面を重視する理論が展開されて

いる[10].最近になって,これらの両面を自己無撞着的

に取り込んだ理論が報告されている[11].

 一方,表面波からプラズマ粒子へのエネルギーの輸送

機構に関しては,まだ不明な点が残されている.この点

に関して,管壁付近に存在する高密度層に注目して弱い

乱流理論を適用し,表面波からプラズマ中の電子へのエ

ネルギーの流れを説明する理論が提唱された[12].本稿

では,これらの表面波励起プラズマ理論に関する最近の

研究についても紹介する.

2.2.2 大ロ径表面波プラズマ発生装置

 surfatronやsur至aguideにより生成される表面波励起

プラズマの場合,励起子の構造から,長尺の円筒状ガラ

ス管が放電管として適当である.しかし,その直径は大

きなものでも15cm程度に止まり,30cm(12インチ)

クラスヘの大口径化には,特別の工夫が必要となる.こ

の点に関するこれまでの研究を,放電管への電磁波のエ

ネルギーの供給方法によって分類すると,次の3種類に

なる.その1つは,損失の少ない誘電体板を電磁波の伝

送路として利用するものである.伝送路の内部および表

面を伝わる表面波伝搬モードを利用すると,誘電体全面

にわたって強度が一様な電界を発生させ,放電室内に電

磁波を供給することができる.したがって,誘電体板を

大きくすることにより,プラズマの大口径化が図られる.

2つ目の方法は,スロットアンテナを放電室へのアプリ

ケータとするもので,スロットの個数や形状に融通性が

あり,種々の形状の大容積プラズマの生成が可能となる.

これらの2つの方法とは別に,surfatron型励起子の大

型化あるいはそれにより生成された表面波プラズマを,

テーパー状放電管で口径を拡げる方法がある.本節では,

この分類に基づいて,公表されている代表的なプラズマ

発生装置を紹介する.

(a)誘電体板の表面波伝搬モードを利用する方法

 Fig.1は小町[13,14]の用いた装置で,180×300mm2

の大口径プラズマが生成できる.図のように,ガラス板

で真空封じされたステンレス製放電室の上部に一定の空

間をおいて,幅200mm,長さ485mm,厚さ20mmのテ

フロンシートが設置されている.導波管からの2.45GH:z,300Wのマイクロ波は,シートを伝送路として

z方向に表面波を形成して伝搬するが,終端部で反射さ

Micmwave 一一>

aveguide

Fluorgcaのon     Glass polymershee!plate

AIplate

穿瞭・ 疲‘3  齢“三』b 隻鱒構撰聖 巴二σ諏÷ru雑営讐

1鍍

Gas→ X

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Z

Fig.1 Schematic diagram of surface-wave-plasma appli-

  cator[131.

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の こ’琵9,5u」≦i .

  O a ∈ の ≧ ε

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Fig.2

一200     -100      0       100      20Q

        Z(mm)

日ectric field,emission intensity and ion saturation

currentdenSityprofilesinthezdirection[13].

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小特集 2.表面波とプラズマ生成一概論一 神藤

れて定在波を生じる.波動電界の∫方向成分は,放電管

の中心軸方向(劣方向)に急速に減衰するが,ガラス板

を透過して放電室に入射し,プラズマを生成する.テフ

ロンシートは表面波プラズマアプリケータと呼ばれ,そ

の内部では表面波の減衰が少ないため,シート面内に一

様なマィクロ波電界が形成される.したがって,シート

の形状を大きくすることにより,口径の大きなプラズマ

を生成できる.Fig.2は,電界強度,プラズマ放射光お

よびプローブのイオン飽和電流の分布である。ここで,

電界強度はループアンテナをテフロンシートとガラス板

との空間内を移動させて測定している.またプラズマの

放射光については,ガラス板を透過してきた放射光を光

ファイバで拾って測定した.、この図から,z方向に波長

50mmの表面波定在波が励起されていること,放射光や

イオン飽和電流の測定値から,2方向に300mmにわた

って一様性の高いプラズマが生成されていることがわか

る.ガス圧を10Paから100Paまで上げると,取射光強

度はやや低下するものの一様性は良い.しかし,表面波

励起プラズマの特徴の1つであるガラス板との境界付近

の高密度層の存在が不明である.このプラズマの生成機

構とプラズマ表面波との関係を裏づけるデータの提示が

望まれる.

 木村,吉田および水口[15]はFig.3のようなテーパー

TEIOμW

Gas inlet

Rldge       U

O

in

一CoaxialWaveguideaxial-typeavity

dout   Din

μW     Outer     Conductor       lnner      Conducto

Pyrex Gbss

nletDout

do・

X-y$ PlasmaZ

1†Exhaust

Plunger

Fig、3 Components of the surface-wave-enhanced plasma

   source using coaxiaトtype open-ended dielectric   cavity[15]、

同軸導波管を用いて,マイクロ波出口の直径を拡大して,

大口径プラズマを生成した.マイクロ波回路は,導波管

一同軸変換器,外径21mmの内部導体,内径49mmの

外部導体から成る同軸導波管,45度の角度で広がるテー

パー管および外径199mmの内部導体,内径254mmの

外部導体の同軸型共振器で構成される.2。45GHzのマイ

クロ波は,これらのマイクロ波素子を経て共振器の開口

面のパイレックスガラス板に入射する.このガラス板は

放電室の真空封じを兼ねており,厚さは20mm,直径は

175mmである.マイクロ波はガラス板の外縁から中心

に向かって伝搬し,放電室側のガラス表面に一様な電界

分布を形成する.放電室ではこの電界により一様な大口

径プラズマが生成される.ガラス板から30mm離れた

位置の電子密度と電子温度がラングミュアプローブで測

定された.アルゴンi.3Pa~40Paにわたって,電子温

度が数eVの遮断密度以上の高密度プラズマが生成され

ている.また,電子密度の半径方向分布についても,

120mmにわたって均一な分布であることが測定されて

いる.

 木村等の装置でも小町の場合と同様,誘電体板表面を

伝搬する表面波により,均一な電界を放電室内に放射し

て電離させ,口径の大きなプラズマを発生させている.

いずれも,誘電体板が表面波の伝送路になっていること

は理解できるが,プラズマ表面に表面波が存在している

か否かに関しては,提供されているデータでは判明しない.

(b)スロットアンテナを利用する方法

 スロットアンテナのマイクロ波放電への応用は,1980

年代初頭からMendelsohn[16]やSlinko[17]らにより

試みられ,主にエキシマレーザ用の,高気圧で軸方向に

長い一様な放電の形成に利用されてきた.放電管は導波

管に形成されたスロット列に沿わせて設置され,スロッ

トから放射されるマイクロ波によりプラズマが生成され

る.この場合,導波管終端の無反射負荷でマイクロ波が

完全に吸収されるため,導波管内では進行波となっている.

 JiとGerling[18]は導波管を短絡板で終端して導波管

内に定在波を励起し,その振幅の節がスロットの位置に

来るように短絡板を調整することにより,放電管内への

電磁波の放射効率を改善した.その後,Sauv6,Moisan

およびZakrewski[19]は彼等の方法を発展させて,大

口径プラズマヘの応用を前提とした研究を行い,装置設

計の指針となるデータを収集している.

 Sauve等は,Fig.4に示される5個のスロット列を有

する導波管をアプリケータとして用い,Fig。5の装置で

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プラズマ・核融合学会誌 第72巻第7号  1996年7月

λ9/2

λo/2

憩ゆ

Fig.4 Schematic diagram of s[otted antenna applicator、

   The slot inclination angleθdefined with respect to

   the wall centerline is 75。,λo is the free-space

   waveIength,λg is the guide wavelength[19].

POWER」ENERATION

FIELDAPPLICATOR∈) つ 、 r 十

QUARTZ

CIRCU-DIRECTIONAL   COUPLERS

TO MATCHED TO POWER

 LOAD   METER

MOVEABLESHORT

T。VACUUM」

APPARATUS

MOVEABLELIGHT1)ETECTOR  AND RECORDER

WINDOW LONGITUDmAL  VIEWING   SLOTDISCHARGE

 CHAMBER

Fig,5 Schematic diagram of the experimental arrange-   menttotestthe slotted antenna apPlicator[19L

葭 葭

0.5

0.4

0.3

0.2

0.1

0.0

×

O

OXo

Pi、=700W

d=O

X

▽0

      ワ        ワ

    翫 ▽o loo      ワワワ          X Ox 200    x

o 400   0   騒       級▽ IOOO        xARGON,mtorr O    o        o o

oo

O

0.250    0.375    0,500    0.625

        尼S/λ9

0.750

Fig.6 Microwave power reflection characteristics of the

   appllcator when sustaining a discharge in Argon at

   various pressures with input power PF700W[19L

実験を行った.ここで,スロットの長さと間隔は,それ

ぞれλo/2およびλg/2に,導波管軸とスロット軸との

なす角度:θは75度に選ばれている.ただし,λoおよ

びλgは,自由空間および導波管内の波長である。Fig.5

に示されるように,アプリケータは,厚さ12mmの溶

融シリカ板の上に,間隔:4を隔てて配置される.溶

融シリカは,高さ62cm,縦,横それぞれ14および

15cmの放電室上部に真空封じを兼ねて取り付けられて

いる.なお,問隔づは,溶融シリカの空冷のための空

問である.マイクロ波周波数2.45GHz,出力3kWのマグ

ネトロンを用や,マイクロ波反射率が最小となる条件が

調べられている.

 始めに,1,を変化させながら,4とマイクロ波反射率

 P,/nを最小とする1、,およびP,/君の最小値:

(P,/君)ml.との関係が測定されている.ここで,lsは短

絡板とそれに最も近いスロットの問隔である.この測定

から,放電室にプラズマが存在する場合には,4<

6mmでは(P,/Pi)mi。は0.02程度と極めて小さく,マイ

クロ波のエネルギーが効率良くプラズマに注入されてい

ることが判明した.しかし,プラズマがない場合には,

(P,/君)mi、は,プラズマのある時の場合とは相違して,

4の小さなところで増大した.これは,アプリケータの

負荷の種類により整合条件が変わることを意味する.

 Fig.6は4上oに固定して,アルゴンガスの圧力をパ

ラメータとして測定されたP,/Piと1,/λgの関係であ

る.ガス圧に関係なくls~λg/2で最小になっているこ

とがわかる.これは,定在波の節がスロットの位置に一

致する時,放射が最良になることを意味する.このこと

から,プラズマが生成されていると,マイクロ波の反射

が最小となる条件は,プラズマのパラメータや性質には

強く影響されないことがわかる.

 この装置で生成されたプラズマ密度の一様性に関し

て,プラズマからの放射光強度の空問分布より調べられ

ている.溶融シリカ板から10,60,100および140mm

の位置で水平に切ったスリットで測定した放射光強度測

定から,一様性の良いプラズマが生成されていることが

確かめられた.

 Moisan,Zakrewski,GrenierおよびSauv6[20]は上記

のアプリケータをE面で湾曲させて,円筒状に変形し,

その内部に直径130mmの溶融シリカの放電管をセット

してプラズマの大口径化を狙った実験を行っている.

Fig.7に示すように,スロットの切ってある面が内部に

来るようにして,165mmの直径で円筒状に曲げ,その

終端に可動短絡板を取り付ける.スロットは6個で,6)

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小特集 2.表面波とプラズマ生成一概論一 神藤

FしANGE

    PRESSURE GAUGEGAS       TOVACUUMlNLET       APPARノヘTUS

DiSCHARGETUBE

Sし○τ

ARRAY

ANGULARWA〉EGUIDE

FLANGESTANDARDWAVEGUIDEWIYH PLUNGER

lNPUTTAPER

Fig.7 General view of the plasma source、The discharge

   tubeissurroundedbytheapPlicator[20].

 <rlcml

(a)

、層“竃鳳冠、

b

,9■goい■ひ■●●■◆Ooひ●■●←●●●Ooゆo..○       ◆               ・・.●●

.『∬照〔1

lan assefa∩asse    qua

10鳳

  cooli〆

一の.一 vacuum

z lcm】

plasma

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fa∩assembly grid

qua直z be蹟jar

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 base flange

導遭

ringcavity

 standing wa〉e  E-field paUern

α5

o/1

o、⊃

α2

o,1

0

ARGON      HELIUM

    UC灯     ●    1010fr    E

Pげ400W

ノ!

1

o

o ,

 ノ

〆!

o

o   購

 ○ノ厭・/

0 ω α2

2s/λ9

α」 04 05

Fig.8 Measured power reflection coefficient as afunctlon

   of the plunger position for a constant input powerρ1,

   attwo gas pressures in Argon(fu旧ine)and Helium   (broken line)[20]。

は2Z5。とし,円筒部の導波管の幅(E面の幅)は

2.45GHzの標準の導波管(幅109.2mm,高さ54.5mm)

のそれの1/3となっている.また,マイクロ波はテーパー

導波管で供給される.

 Fig.8はアルゴンおよびヘリウムを封入した場合に測

定されたマイクロ波反射率:一PR/PIと1、/λgの関係であ

る.いずれのガスに対しても,可動短絡板の位置1、を

調整すれば,PR/PI<O.02とすることができる.このよ

うにして生成されたプラズマの発光観測から,プラズマ

magnetron

 (b〉

Fig.9

circulator

ad1ustab!e

coupling Probe

coupllng

 slot

 middle-line ol

annularwaveguide

movablepiunger

Schematic diagram of the SLAN(sIot antenna plas-

ma source);(a)axial cross seCtion,(b)radial cross

section[22].

は方位角方向には対称であるが,径方向に一様性を欠く

こと,また,多くの場合,プラズマ内に表面波が観測さ

れること等が明らかにされている.

 K:orzec等[21-23]は,上記のMoisan等と類似の方法

で,口径の大きな円筒状プラズマ装置を開発した.この

装置では,Fig.9に示すように,環状導波管で構成され

たリングキャビティの内壁に,等間隔で管軸方向に長く

伸びた開口をもつ5個のスロットが円周方向に等問隔で

配列されている.2。45GHz導波管とはカプリングプロー

ブで結合され,マイクロ波電力がリングキャビティ内に

供給される.また,環状導波管内では,マイクロ波は

TEloモードで伝搬するように設計してある.リングキ

ャビティは,図示のように,定在波が丁度10個励起され

るような長さに決められており,カプリングプローブと

これに最も近いスロットの間隔はλg/4に選ばれてい

る.こうすることにより,各スロットと定在波の節が一

致し,前述のように,マイクロ波が効率よくスロットか

ら放電管内に放射される.なお,インピーダンスの整合

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プラズマ・核融合学会誌 第72巻第7号  1996年7月

は,カプリングプローブの深さと導波管終端部の短絡板

位置を調整して行う.高さ20cm,直径16cmのベルジ

ャー型石英ガラス放電管はリングキャビティの内側に置

かれている.さらに,この放電管の下部には,高さ

60cm,直径40cmの反応室が接続されている.この装置

は,動作原理にちなんで,SLAN(SLot ANtenna)と名

付けられている.Moisan等の方法と比べて,マイクロ

波電力の供給法とスロットの形状において相違している.

 プラズマの無い時のSLAN内部の放電管内電磁界分

布が計算され,測定値と良く一致することが確かめられ

ている.Fig.10に,リングキャビティの中心で輪切り

にした断面上の磁界分布の測定値を示す.比較のために,

10・0:             ’心  ロ      ヤ      ぬ  :  ・溺1   身擦 蝋σ      こ》メ・・熔   ,・一擦.宅’、    鷺曇甕解1・・一・♪㌧z

弩欝義講        秘.漁・,,.10.0.           一ガ

・10.〇    一5.0     0.O

       xlcm〕

5.O 10.0

Fig.llに,SLANと同規模のLisitanoコイル(直径

200mm,12の軸方向スロット)内の磁界分布の測定値を

示した.SLANではLisitano coi1に比べて,磁界分布の

軸対称性が優れていることがわかる.Fig.12は径方向

の電磁界強度分布の計算値であり,これより放電管の直

径を定めることができる.すなわち,電界強度の極小と

なる約7,5cmの位置にガラス管壁が来るようにすれば,

その内側の電界が最大となる付近で放電が開始するの

で,容器壁からの不純物の発生が抑制される.また,ガ

ラス管壁とリングキャビティ内壁との問に空間が形成さ

れ,電磁波がプラズマに影響されずに伝搬できる.放電

認5受AN

1

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O.8

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 コ £O.5£

 P ,曳o,4 _

 頓o .9 ロO.3 ¢

 句

0   2   4   6   8   10

   「ad鵬al Dosilion lcm】

O.2

O,1

Measured Iines ofequal zcomponent ofthemagnetic field amplitude in SLAN[21].

Fig.12

o

Calculated intensities of the electric and magnetic

fieldsasafunctionofaradiaIposition[21].

10,01

5・Ol

」O.0-

x

・5.0こ

・10.O=

    酷,・、

轄驚膨零1灘、慌蔚

Fig.11

・10,0   嚇5.O    O.O

       X〔cml

5,0 、0.O

Measured iinesofequal zcomponentoftわemagnetic fieId amp睦tude in Lisitano coil[21L

Fig.13 Pわotograph of the discharge with a view parallel to

the source axis,obtained at microwave power of1.6kW and the pressure of80Pa[22].

634

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小特集 2.表面波とプラズマ生成一概論一 神藤

はIPaから100Paの圧力範囲で点灯し,電磁波の反射

率は2%以下である.プラズマ密度はマイクロ波電力に

比例して増大し,最大でIO12cm-3に達する.プラズマ

密度および電子温度の半径方向分布測定から,ガス圧が

低いときは,管壁付近で生成されたプラズマが中心軸ま

で広がって密度の一様なプラズマが生成されるが,圧力

が高くなると,管軸上付近で密度が凹むことがわかった.

これは,放電管の外縁付近でプラズマが生成され,拡散

により内部に広がっていることを示している.Fig.13

は,プラズマからの発光を管軸方向から撮影した写真で

ある.この発光分布より,〃zニ5の表面波が励起され

ていることがわかる.

 彼等は引き続いてSLAN Hと呼ばれる,石英ガラス

放電管の直径が67cmの大型装置を製作している.装置

の構成は前とほぼ同様であるが,スロットの数は30,マ

イクロ波電力6kWで,プラズマ密度が1012cm一3,電離

度1%の大口径プラズマが生成されている.

 この他,永津と菅井等[24]もスロットアンテナによる

大口径表面波プラズマ発生装置を製作しているが,詳細

は本小特集の第6章で紹介されるので,参照願いたい.

105

104

 103( 102タ

( 10⊆

ε1

Eα 10響1

 10・2

 10卿3

m隅1

m冒0

ε984・52

P■100mYoπ

q-13mm b掴15mm

-n属nr

(c〉Surfatron型励起子を利用する方法

 Surfatron型励起子により生成された表面波プラズマ

においても,その大口径化への試みがなされている.こ

れには,励起子自体の大型化[25]に加えて,口径が次第

に拡大するテーパー型放電管の使用による大口径化が有

効となる.一般に表面波励起プラズマの場合,口径が大

きくなると,放電管の軸に対称な〃z=0のモードより

は,より高次の〃zニ1あるいは2のモードが励起され

やすくなる.このため,プラズマの大口径化を企図する

場合には,表面波モードならびにテーパー型放電管にお

ける表面波伝搬特性に関して,十分な関心が払われなけ

ればならない.これらの点に関して,Margot-Chaker,

Moisan等[26]は,円筒状プラズマに対して,〃z=Oお

よび挽=1の2つの表面波モードについて以下のよう

な詳細な検討を行っている.

 表面波プラズマを維持するのに必要な電磁波電力:

P煎.と表面波周波数:∫の関係が,〃z瓢Oおよび〃z=

1について計算されている,Fig.14は,アルゴン,

13Pa,パイレックスガラス放電管の内外径が13mmおよ

び15mmの場合の計算例である.Fig.15は,ガス圧と

放電管の内外径をパラメータとして〃z=1モードに対

して計算されたPmi。と∫の関係である.これらの図か

ら,〃z鷺1モードの場合には,∫の低下に伴いPmi、が

Fig.14

 O       l   ’   2       3       4

      Wqve froquency,1(GHz)

CaICωated Pmin(n)tO SUStai n a m=O and aノη=1

mode surface wave argo旨plasma at densityη,as

a function of the wave frequency五The fu旧ine is

for η= ηr and the dotted Iine is for η= 1.1ηr,

Whereηr meanS tわe CUtOff denSity.αand b are the

inner and outer diameter of tわe glass tube,εg is

thedielectricconstantoftheglassl26].

1ぴ1

104

( 105

X lo2ζ』

ユ10語

 1

Fig.15

10’思

10-2

        ε 冨4.52し                 9

鬼       一α蘭13mm p属10GmT㎝、   .。..。翼13mmp隅8。。mT㎝

!\

球し 二二ll舗1二麟1 \  マー}一一一 一輯一四一一”『~『『『~

 \\

0         1        2        3        4

      Wqvefrequency,f(GHz)

CaICulatedρmin(n)tO SuStain a1η=1mOde SUr-

face wave argon piasma at the CutOff de縞Sityηr,aS

a function of the wave frequency f for two plasma

radius and two gas pressure values.The crosses

ShOW the freqUenCy Where ρmin(ηr)ChangeS by

20%forthefrequency伽ctuationofO.5%[26].

30

詳.)2G

E氏\ 10≦

Eユ

0

ε 腫4.529

b!o翼1.15

00躍7.5mm

o q鳳13mm

oα冨32、5mm

Fig.16

0 2      3

1q(G闘zcm)

4 5

CalcuIated reIative chang e of Pmin(ηr)for廿1e m=

1mode plasma due to frequency fluctuatio貧s ofO.5%,as a function of fα,for t柄ree different values

of the tube rad ius,for constant rati o b/α[26].

635

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プラズマ・核融合学会誌 第72巻第7号  1996年7月

20

 16評

v 12ζ

一6Eα

ぺ三4∈

く 0

一4

Fig.17

 ε置4.52m冨0 9 0置13mm b竃15mm-n躍n『

…n翼nrx、Ll

下2「2

L

0 1 2     3     4

 1q(GHz cm)

5 6

CalCU lated reIatiVe Change Of Pmin(η)fOr the m=

O mode plasma due to frequency fluctuations ofO.5%,aS a funCtiOn Of fα.The full睦ne iS fOrη=ηr

and the dotted line is forη==1、1ηr[26].

COAXIALPLUNGER

RECTANGULARWAVEGUIDE

一COAXIAL LINE

一  

璽鼎R ↓

T2r1よ

〆PYREX TUBE

Fig.18

WAVEGUIDE PLUNGER

畢ド野

The schematic drawing of waveguide surfatron[26].

  iζ砺

zロハトー の  一1

Z.t IO一 ¢

ZコO oあ.≧

虫も=…でlo-2

田と,

田Zコ

10鴨葛

1〆‘ ,

18ぜ

1『        1竃‘       ’

1     1-i      lIl

           、 ヰ の トセ              ヤ

Arl549.6nm  闇・  、1           ぽ        ヤ         い m属1         ・     1           も     4MHz  、、   t         ヤ      コ    Ar I750.4nm  、          ヤ     m麗O     、          “、    一Φo    ’\・           ミ、    一一一Φ0+900   \

Fig.19

一1 一〇.5 Or/q

0.5

Observed radal profile of spectral iine intensity Ar,

at26Pa.The measurement is made at the twodifferent azimuthal angles ofφo andφo十90。.The

plasma diameter is26mm[26].

増大すること,増大し始める∫の値は管径が増すと低下

することがわかる.Pmi、が∫に対して大きく変化する

場合,放電の安定性が悪くなる.したがって,放電の安

定性を考える場合に,マイクロ波周波数の変動率に対す

るPmi.の変動率の関係が重要となる.Fig.16は,周波

数の変動率を0.5%として計算された.Pmi。の変動率であ

る.ここで,横軸に∫の代わりに∫と放電管内径αの積

 ヵをとると,管径:αの如何に拘わらず1本の曲線

にまとまることがわかる.同様の方法で,吻二〇の表

面波モードに対して計算した結果が,Fig.17である.

 Fig.16および17から,〃F oモードは管径が小さい

方が放電を維持しやすいが,〃zニ1のモードの場合は,

放電の維持には,ガス圧やガスの種類には依存しない

血のある最低値⑫)mi。以上であることを必要とするこ

とがわかる.これは,高次モードの表面波励起には,口

径がある程度大きいことが必要であることを意味する.

なお,〃z=Oの場合には,ヵが大きくなってもプラズ

マの密度が増すにつれてPml.の変動率は低下するので,

放電維持に関する条件において,血には制限はない.

 Fig.18は,表面波励起に使用されるwaveguide sur-

fatronで,半同軸型共振器の構造をしている.内部導体

の先端が共振器端面との間に微小な間隙を有し,ここに

生じる管軸方向の強いRF電界によって表面波が励起さ

れる.インピーダンスの整合は,同軸部および導波管部

のプランジャを調整して得ている.共振器の基本モード

はTEMであり,これにより規二〇の表面波が励起さ

れる.しかし,∫が,o/π(71+72)で与えられる九より

高くなると,共振器内にはTE11モードが励振され,〃z

=1の表面波を励起することができる.ここで,71と

72は,Fig.18中に示されるような,waveguidesurfat-

ronの内外部導体の半径であり,oは光速である.Fig。

19は,Ar Iの半径方向の発光強度分布である.表面波

周波数4MHzは九より低いため,規=0が励起されて

いるが,九より高い周波数の2.45GHzでは“F1モー

ドが励起されていることがわかる.このような実験を通

じて,〃z隣1モードに対する@)minの値が調べられ,

およそ2.0(GHz・cm)であることが明らかにされた.

 次に,テーパー放電管内部における表面波の伝搬特性

が調べられている.実験にはFig.20に示す形状を持つ

2種類のテーパー放電管が用いられた.なお,管径が遷

移する部分の長さl Lは150mmである.実験結果を要

約すると,1)内径26mmの小径部で励起された表面

波は規=0および挽需1の両モードとも,内径124mmの大径部に伝搬し,プラズマを維持するが,2)

636

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小特集 2.表面波とプラズマ生成一概論一 神藤

o)

WA粍しAUNCHER一\

PしASMA

b)

WAVE:

軌 HFPOWERlNPUT

卜 HFPOWERlNPUT

WAVE

嚇        \一   PしASMA        WAVEしAUNCHER・Fig.20 The schematic drawings of wave guide surfatron   [26].

内径215mmの管径部で励起された〃z=1モード表面

波は〃z躍0および〃z漏1の両モードとも,内径

124mmの大径部に伝搬し,プラズマを維持するが,2)

内径21.5mmの管径部で励起された〃zニ1モード表面

波は,5.5mmの小径部には伝搬できず,テーパー部で

反射される.しかし,勉二〇のモードではそのような

ことがなく,小径部でも〃2=0モードによりプラズマ

が維持される.

 一般に,フnニ0モードの表面波プラズマは軸対称性

が良好であり,プロセス用プラズマに向いている.また,

径を大きくすると〃z=1あるいはそれ以上の高次モー

ド表面波が励振されやすくなる.これらの事情を考慮す

ると,小径部で軸対称モードを励起し,テーパー管に伝

搬させることが有利であるように思われる.

 ところで,1960年代の表面波の研究では,陽光柱プラ

ズマのような別の手段で生成・維持されたプラズマが実

験に使われている.当時の〃zニ1モードの表面波の実

験データを血積の形に整理すると,0.4~0.5(GHz・

cm)の範囲に収まる.これは,上述の2D(GHz・cm)と

は大きく相違する.この理由は,表面波が電離を伴って

プラズマを維持しながら伝搬する場合と,既に存在して

いるプラズマ中を伝搬する場合とでは,表面波励起条件

が大きく相違するからである.

 surfatronを使った大口径プラズマの例として,

Bluem等[27]による直径120mmの表面波励起プラズマ

を紹介する.最大出力3kW,2。45GHzのマイクロ波によ

りFig.21に示す装置で,130PaのAr/02の混合ガス中

で表面波励起プラズマが生成されている.ガラス管は石

英で,内径と外径はそれぞれ120mmおよび125mmで

ある.管径が大きいため,Fig.22のように,挽=3のモー

ドが励起されている.

2.2.3表面波励起プラズマ理論に関する最近

  の研究 本章の冒頭でも述べたように,表面波励起プラズマの

理論は,表面波の電磁界成分を記述するマクスウェル方

程式とプラズマ粒子に対する輸送方程式とを自己無撞着

的に解くことが必要となる.しかし,これまでの理論で

は,径方向に一様な密度分布が仮定されている.このた

めに,適用条件は,御<1(α:放電管半径,β:表面

波の波数)となり,この理論により導出された成果の適

用が径の細い放電管または高い周波数の表面波に制限さ

れる.

 saとFerreira等[11]は,電磁界の管軸方向への弱い

減衰を仮定して,レ<ω(レ:電子の衝突周波数,ω:

表面波角周波数)の下で解析を行い,波動電界およびプ

yし

  ZFig.21

Azimuthal

    ウRing》

Longitudinal diagnostic〆    Metallic Cylinder

選::…=1

1……嚢麟「tzTube→

鳶Surfaguide

Slit:radial diagnos廿cHF Interferometry(30

Generator

2450MHz 寺

Short-Circuit

一一[>Pump

The schematic diagram of tれe surface wave plas-

ma source with a large diameter[271.

一+一Antenna二詐認1離:1::

Wave entry   一レ.90D…・

oo

goo

Fig.22

怯…甲いl LOngitU団al meaSUre

Radial

measure

Azimuthal measurement of an antenna and emis-

sion spectroscopy(Ar and O),Ar/02mixture flow

rate,pressure and incident power are fixed at2/98

sccm,65Pa and2.2kW[27].

637

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~~;~:7 ~;~~:i;~~~~--"*~ ~~72~~~~7~~ 1996~~ 7 ~j

Fig. 23

1.0

0.75

O ~~e)

¥Q)

~~ o. 5

~ ~ ~i'

i4

12

10

8

6

4

2

o

:. / ~l / : :l

:(: / / l: '

/ //:~ d,'

/ '(- -- - a:-

l

t: l ,

t :. . l : l l: " / ¥.: ;* l / ' :' l ~;/ ~r

/':

l' /

/_//'..t ~~ - - 'idL--

/ /

0.25 o 2 4 r (cm)

Calculated radial

wave electrc field: as in Fig. 24 [1l] .

~o

o o o. 5

r/a

1.0

Radial electron density distribution in the p]asma

for the pressure of 3.9 Pa, wave frequency of 433

MHz. The following values of electron density averaged over the radius: <n*) and that on the cen-tral axis: n* (O) in 1010 cm~3 correspond to each

curve; A...(ne> = 1.0 and n*(O) = 1.2, B...<n*) = I .25

and ne(O) = 1.70, C...(ne> = 2.2 and ne(O) = 3.3,

D...(n*> = 3.4 and n*(O) = 5.0, E...(n*) = 7.6 and

n*(O) = 10. Inner and outer diameter of the glass

tube are 76 and 80 mm, the metal tube diameter is 1.90 mm [1l] .

Fig. 25

10

8

~r6 {~

~ ~:4

2

O

6 o 8

variation of the

E= for the same

: :l

.;・ ;.: /: / :: ./ : * _

.' f:t l :;

i I :: l

l I :: l I :: l I ::

I ・:

l I :: l I ': l ,L:・ - -l ~'+-/ . / l / / /L;~~

~: ~c;1~~

axial

value

surface

of n*(O)

/ /

6 o 8

/

Fig. 26

o 2 4 r (cm)

Calculated axia]

wave electrc field: in Fig. 24 [1l] .

_.-~1:o

~~) ~c;1~:~

~

1.5

~ 1.25

Fi

a~

O rl

I~ ~~: 1.0

0.75 t t t , i

15 45 60 o 30 z (cm)

Calculated axial dependence of (ne)' 1 Olocm~3 at the exciter [1 I] .

75 go

variation of the radial surface E, for the same value of n*(O) as

os

C~ l¥~ O,$ ~¥

03

o ILt

A

B

C

ne(O) = I .5 X

Fig. 27

o

0.5 2O Is 10

pa

Dispersion relation for surface wave for the

ing ne(r) distribution: A...uniform, B...curve B

23, C...Bessel type Jo(2.15r/a) [1 I] .

2s

Fig. 24

fol I ow-

in Fig.

638

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小特集 2.表面波とプラズマ生成一概論一 神藤

ラズマ密度の半径方向分布および管軸方向分布ならび表

面波分敵関係等を導出している.ここで,ガス圧が低い

場合には,電子のエネルギー分布関数は,波動電界によ

り影響され,マクスウェル分布からずれることが予想さ

れる.これは,プラズマ粒子の輸送方程式中に含まれる

電離周波数を通じて,電子密度の空間分布に影響する.

この効果を考慮するためにここでは,電子に対して局所

熱平衡を仮定し,電子の各種衝突過程を考慮して,

Boltzmann方程式より電子エネルギー分布関数を求め,

その結果を用いて,電離周波数が評価されている.

 内径190mmの金属管によって囲まれた内外径がそれ

ぞれ76および80mmの石英放電管に励起された433MHzの〃z矯0モード表面波プラズマに対して,電

子密度:πeならびに波動電界の管軸および半径方向成

分:E、とE,の半径および管軸方向の分布および表面

波の分散関係が計算されている.これらに関する計算結

果をFig.23から27に示す.冗e(めは波動電界が強まる

と,Fig.23の曲線Bのようなフラットな密度分布にな

る.分散関係はπe(りの分布形状に影響され,この場合

にはFig.27の曲線Bに,%,(7)の分布が径方向に一様

な場合には曲線Aに,Bessel分布の場合には曲線Cと

なる.

 Fig.27の分散関係からわかるように,表面波の波長

はプラズマ密度の関数であるため,surfatronによる表

面波励起プラズマでは,通常,プラズマ密度の軸方向分

布は表面波の波長より算出される.したがって,%,を

正確に決めるには,正確な分散関係が必要になる.Fig.

27に示される分散関係を例に取ると,曲線Aを用いた

場合には15~20%程度過大に,またCを使うと過小に,

π。を評価することになる.

 数値解析における困難さを軽減するために,電子一電

子問衝突と累積電離過程が無視されている.しかし,こ

れが,電子1個が波動電界から吸収するパワーの平均値

 θに関する理論値と測定値との相違の主な要因であ

ることが明らかにされ,プラズマ維持機構におけるそれ

らの重要性が指摘されている.

 ところで,表面波励起プラズマにおいては,表面波か

らプラズマ中の電子へのエネルギーの輸送過程に関して

関心が持たれている.軸対称モード(吻瓢0)表面波

の場合,Fig.25および26に見られるような強い電界が

管壁近くに存在し,同時に,遮断密度以上の高密度層が

存在する.このような電界と密度分布に注目して,非線

形効果を取り入れて,エネルギーの輸送過程を取り扱っ

た理論的研究がAliev等[12]によって行われている.本

節の最後に,この理論の要点と主要な結果を紹介する.

 表面波励起プラズマの,管壁付近に見られるプラズマ

密度と波動電界の分布状況は,レーザープラズマの場合

と類似している.したがって,レーザープラズマのエネ

ルギー吸収機構が表面波プラズマでも参考になる.ここ

では,その要点を述べる.径方向の波動電界E,によっ

て,プラズマは密度の不均一のある径方向に揺さぶられ

る結果,プラズマ中に電子プラズマ波が励起される.こ

の電子プラズマ波は半径方向に伝搬してその周波数ω

がプラズマ周波数ωPと等しくなる地点でプラズマ共鳴

を起こし,径方向電界E,を増大させる.その後,Cere-

nkov効果により,この電子プラズマ波は電子との相互

作用を通してそのエネルギーを電子に与え,高エネル

ギー電子が生成される.Aliev等は,表面波からプラズ

マヘのエネルギー輸送において,EzとErによるJoule

加熱に加えて,このようなプラズマ加熱機構の重要性を

指摘している.彼等はこの加熱機構を考慮するために準

線形理論と弱い乱流理論[28]を適用して,表面波ブラズ

マの特性を解析している.

 上記の3つのプラズマ加熱機構を比較するために,電

子1個あたり波動から吸収するパワーの平均値,@。t、1

を,E、とE,のJoule加熱によるθ、と6),および電子プ

ラズマ波による電子の無衝突加熱θc。mとに分解して示

している.Fig.28に示されるように,ω/ωp~0.25以上

でθ、。mがθ、とθ,を上回ること,α。t、1はω/ωpに無

関係にほぼ一定となることがわかる.Fig。29は,θ。。m

を考慮した場合とそうでない場合の放電維持に必要なE

O。5

0.4

ミ・。5

O。2

O.1

2450MHzargon,1Torr

a=5mmb鷺6mm

θr

θc。IH.    _イ

 〆・ r

!θz

θt。田1

Fig.28

                         ア      10         10         θ(eVs謄1)

Power absorbed per average eIectronθヒ。tal.θz,θr

andθco”.less represent Ohmic losses via iεzl2

and lε,12and co川sionless contributionsvial年12.wave重requency is2.45GHz,inner and out-

erdiameter of tube are10and12mm,εg is4.5,argon pressure is130Pa D2]、

639

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O。5

プラズマ・核融合学会誌 第72巻第7号  1996年7月

0.4

寒o・5

O.2

0.1

2450MHzargon,1Torr

a=5mmb=6mm

覧㌧亀.

500 、OOO      1500      2000   Ez(r瓢0)(V/mノ

Fig.29 Maintenance voltage lだzl at plasma center(r=

   0)shown by the fu睦Iine for愉e same condition as

   in Fig、28.For comparison,the values in absence

   of the collisionless channeI are shown by the dot-

   ted line[12].

過程が重要となる高気圧の表面波プラズマに対しては,

プラズマ共鳴に代わる新たな共鳴機構等の導入が必要と

なる.このように,この問題に関しては未解明な点が多

く残されている.

1

  一1(10ミ?>

)  一2 100c\ Q   -5

)103)o

L 10脚4

10-5

vN

2450 MHzqrgon,0.5TorrO =  9 mm

、bl亭10mmω/σP=0・25

Fig.30

O 5 lOε(〉)

、5 20

Electron energy distribution function Fb,normaiized

to the electron densityηo at the center of the plas-

ma, calculated  by  incl uding  the  colIisi onless

absorption(fu潤curve).For the comparison,馬esti-

mated by excluding is shown by the dotted curve[12】.

を比較している.ω/ωp~0.25以上でθc。1Mが効いてく

るため,Fig.29に示されるようにJoule加熱に必要な

E,を弱くすることができる.Fig.30は,電子のエネル

ギー分布の計算値であるが,実線で示されるように,無

衝突加熱があると,電子の高エネルギー成分が増大する

ことがわかる.また,無衝突加熱効果は管径が大きいほ

ど,またガス圧測氏いほど顕著となることが知られている.

 この解析を実験的に検証をするには,電子のエネル

ギー分布測定[29,30]が重要となる.また,電子の衝突

2.2.4 おわりに

 近年,表面波励起プラズマの大口径化に向けた研究が

進み,様々な方法が提案され検証されている.しかし,

sur蚕atron形励起子により生成されたプラズマ以外は,

プラズマ生成に表面浪が如何なる形で関与しているかに

ついて,まだ不明確な点が多く残されているように思わ

れる.大口径化に伴って,高次モードの表面波が励起さ

れ易くなり,プラズマの性質が複雑化するばかりでなく,

軸対称性が悪くなり,プラズマの空間的な一様性を阻害

する要因になるため,・好ましいものとはいえない.

 一方,表面波プラズマの理論に関しては,自己無撞着

な理論解析の必要性が高まっている.しかし,プラズマ

の径が増すにつれて,その取り扱いが複雑化し解析が困

難となる.プラズマヘの表面波からのエネルギー輸送に

関しては,準線形理論による解析が進んで新たな局面が

拓かれてはいるが,適用範囲は低気圧のプラズマあるい

は高周波の表面波に限定されていて,まだ完全なものと

はいえない.表面波励起プラズマに関しては,今日まで

に20年余の長期にわたる研究の歴史があるものの,未解

明の間題も多く残されている.

 最後に,本稿をまとめるにあたっては,論文の収集や

討論において,本学部助手のIgor Odrobina氏(スロバ

キア,コメニウス大学)にご協力いただいた.ここに同

氏に対して,謝意を表する.

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