表面波励起マイクロ波プラズマを利用した奥行きのある 凹面 ...dielectric εd...

6
表面波励起マイクロ波プラズマを利用した奥行きのある 凹面形状に対するスパッタコーティング法の開発 名古屋大学大学院工学研究科 機械理工学専攻 生産プロセス工学グループ 助手 上坂 裕之 (平成 15 年度奨励研究助成 AF-2003024) キーワード:凹面コーティング,プラズマ,マイクロ波,表面波 1.研究の目的と背景 産業上幅広く活用されてきた材料表面のプラズマ 表面改質・コーティング技術は,主に平面や凸面を 加工対象としており,プラズマの輸送に難のある円 筒内面や凹面の加工には不向きである場合が多い (図 1).これは外部で生成したプラズマを内部へ輸 送する際に内壁への拡散損失が生じ,コーティング が不均一となるためである.よって円筒内面や凹面 を処理するためには被加工面近傍でプラズマが生成 される必要があり,一般にそのような用途には直流 グロー放電が用いられる(図 2).円筒内面へのスパ ッタリング成膜を例に取ると,円筒内にターゲット 棒を挿入し,被加工円筒との間に直流電圧を印加し て得られるグロー放電を利用する.この場合ターゲ ット表面はすべて等電位,同じく円筒内面もすべて 等電位(典型的には接地)であることから,円筒端部 を除いて軸方向に非常に均一なプラズマが生成され る.すなわち軸方向に均一に成膜が行われる.印加 電圧を高周波(~数十MHz)とする場合も同様である. しかしながら直流または高周波の電圧印加によって 得られるプラズマの密度は一般に低く(10 9 ~10 10 cm -3 ), 高速成膜を望むことは出来ない.そこで本研 究では表面波励起マイクロ波プラズマを利用して, 高密度プラズマをターゲット表面近傍で直接かつ均 一に生成する技術を開発する.本技術は,ピストン シリンダーや軸受け等の円筒面,金型上に形成され た凹面への固体潤滑薄膜高速成膜技術として応用可 能であると考えている.また耐食性が必要な配管内 面への高速コーティング技術としての応用も期待さ れる 加工面近傍でのプラズマ生成の必要性 加工面近傍でのプラズマ生成の必要性 l 円筒内面 円筒内面 (l/d»1) 凹形面 凹形面 d 凸形面、平面 凸形面、平面 従来のプラズマ 生成法及び装置 加工面近傍でのプラズマ生成の必要性 加工面近傍でのプラズマ生成の必要性 高アスペクト比 高アスペクト比(奥行き長/開口径≫1)の 円筒内面や凹形面 円筒内面や凹形面 の処理は困難。 加工面近傍でのプラズマ生成の必要性 加工面近傍でのプラズマ生成の必要性 l 円筒内面 円筒内面 (l/d»1) 凹形面 凹形面 d 円筒内面 円筒内面 (l/d»1) 凹形面 凹形面 d d 凸形面、平面 凸形面、平面 従来のプラズマ 生成法及び装置 凸形面、平面 凸形面、平面 凸形面、平面 凸形面、平面 従来のプラズマ 生成法及び装置 図 1 典型的なプラズマ表面処理/コーティング 装置とその問題点 円筒内面に均一に処理するには? 円筒内面に均一に処理するには? マイクロ波による高密度化 円筒内面に均一に処理するには? 円筒内面に均一に処理するには? DC DCRF RF放電型 放電型 (原理的に均一しかし低密度プラズママイクロ波による高密度化 図 2 電圧印加型グロー放電による円筒面の均一処理法 Amplitude of Surface Waves Dielectric ε d Plasma ε p z x y Amplitude of Surface Waves 図 3 表面波の概略 表面波とは誘電体と高密度プラズマとが接する境 界に沿って伝播する電磁波のモードである(図 3). 表面波励起プラズマ生成法は磁場との共鳴効果を利 用せずに高密度プラズマを生成することが出来る方 法として知られ,2.45 GHzのマイクロ波を用いた場 合は 10 11 cm -3 以上の高密度プラズマが生成可能であ る.表面波励起プラズマは誘電体近接領域において 電磁波からパワーを吸収するため,一般に誘電体部 材が必要である.しかし負にバイアスされた金属表 面のシース層を誘電体層として機能させ,シース-

Upload: others

Post on 19-Oct-2020

1 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

  • 表面波励起マイクロ波プラズマを利用した奥行きのある

    凹面形状に対するスパッタコーティング法の開発

    名古屋大学大学院工学研究科 機械理工学専攻 生産プロセス工学グループ

    助手 上坂 裕之

    (平成 15 年度奨励研究助成 AF-2003024)

    キーワード:凹面コーティング,プラズマ,マイクロ波,表面波

    1.研究の目的と背景

    産業上幅広く活用されてきた材料表面のプラズマ

    表面改質・コーティング技術は,主に平面や凸面を

    加工対象としており,プラズマの輸送に難のある円

    筒内面や凹面の加工には不向きである場合が多い

    (図 1).これは外部で生成したプラズマを内部へ輸

    送する際に内壁への拡散損失が生じ,コーティング

    が不均一となるためである.よって円筒内面や凹面

    を処理するためには被加工面近傍でプラズマが生成

    される必要があり,一般にそのような用途には直流

    グロー放電が用いられる(図 2).円筒内面へのスパ

    ッタリング成膜を例に取ると,円筒内にターゲット

    棒を挿入し,被加工円筒との間に直流電圧を印加し

    て得られるグロー放電を利用する.この場合ターゲ

    ット表面はすべて等電位,同じく円筒内面もすべて

    等電位(典型的には接地)であることから,円筒端部

    を除いて軸方向に非常に均一なプラズマが生成され

    る.すなわち軸方向に均一に成膜が行われる.印加

    電圧を高周波(~数十MHz)とする場合も同様である.

    しかしながら直流または高周波の電圧印加によって

    得られるプラズマの密度は一般に低く(109~1010

    cm-3), 高速成膜を望むことは出来ない.そこで本研

    究では表面波励起マイクロ波プラズマを利用して,

    高密度プラズマをターゲット表面近傍で直接かつ均

    一に生成する技術を開発する.本技術は,ピストン

    シリンダーや軸受け等の円筒面,金型上に形成され

    た凹面への固体潤滑薄膜高速成膜技術として応用可

    能であると考えている.また耐食性が必要な配管内

    面への高速コーティング技術としての応用も期待さ

    れる

    表面波とは誘電体と高密度プラズマとが接する境

    界に沿って伝播する電磁波のモードである(図 3).

    表面波励起プラズマ生成法は磁場との共鳴効果を利

    用せずに高密度プラズマを生成することが出来る方

    法として知られ,2.45 GHzのマイクロ波を用いた場

    合は 1011 cm-3以上の高密度プラズマが生成可能であ

    る.表面波励起プラズマは誘電体近接領域において

    電磁波からパワーを吸収するため,一般に誘電体部

    材が必要である.しかし負にバイアスされた金属表

    面のシース層を誘電体層として機能させ,シース-

    高アスペクト比高アスペクト比(奥行き長/開口径≫1)の円筒内面や凹形面円筒内面や凹形面の処理は困難。

    →→加工面近傍でのプラズマ生成の必要性加工面近傍でのプラズマ生成の必要性

    l 円筒内面円筒内面(l/d»1)

    凹形面凹形面

    d

    凸形面、平面凸形面、平面

    従来のプラズマ生成法及び装置

    高アスペクト比高アスペクト比(奥行き長/開口径≫1)の円筒内面や凹形面円筒内面や凹形面の処理は困難。

    →→加工面近傍でのプラズマ生成の必要性加工面近傍でのプラズマ生成の必要性

    高アスペクト比高アスペクト比(奥行き長/開口径≫1)の円筒内面や凹形面円筒内面や凹形面の処理は困難。

    →→加工面近傍でのプラズマ生成の必要性加工面近傍でのプラズマ生成の必要性

    l 円筒内面円筒内面(l/d»1)

    凹形面凹形面

    d

    円筒内面円筒内面(l/d»1)

    凹形面凹形面

    dd

    凸形面、平面凸形面、平面

    従来のプラズマ生成法及び装置

    凸形面、平面凸形面、平面凸形面、平面凸形面、平面

    従来のプラズマ生成法及び装置

    図 1 典型的なプラズマ表面処理/コーティング 装置とその問題点

    円筒内面に均一に処理するには?円筒内面に均一に処理するには?

    DCDC,,RFRF放電型放電型(原理的に均一しかし低密度プラズマ)

    マイクロ波による高密度化

    円筒内面に均一に処理するには?円筒内面に均一に処理するには?

    DCDC,,RFRF放電型放電型(原理的に均一しかし低密度プラズマ)

    マイクロ波による高密度化

    2 電圧印加型グロー放電による円筒面の均一処理法

    Dielectric εd Plasma εp

    z

    x

    y

    Amplitude of Surface Waves

    Dielectric εd Plasma εp

    z

    x

    y

    Amplitude of Surface Waves

    図 3 表面波の概略

  • プラズマ

    誘電体層シース(ε≒1)

    誘電体有り 誘電体無し

    金属面

    石英(ε=3.7)

    従来型 新型

    プラズマ

    誘電体層シース(ε≒1)

    誘電体有り 誘電体無し

    金属面

    石英(ε=3.7)

    従来型 新型

    図 4 導電体近接領域で生成される表面波プラズマ

    金属アンテナ(ターゲット)金属アンテナ(ターゲット)

    シース層

    表面波表面波

    DCPECVD Sputtering

    DC:低密度

    SWPSWP(+DC):高密度

    金属アンテナ(ターゲット)金属アンテナ(ターゲット)

    シース層

    表面波表面波表面波表面波

    DCPECVDPECVD SputteringSputtering

    DC:低密度

    SWPSWP(+DC):高密度 図 5 表面波励起マイクロ波プラズマを用いた表面改質・

    コーティング装置の概念

    Microwave2.45 GHz

    DC POWER DC POWER SUPPLYSUPPLY

    500 40

    Insu

    lato

    r

    188

    100

    Φ150

    Metal rod

    Quartz Plate

    z

    r

    A A’

    LangmuirProbe

    Section A-A’

    Quartz tube

    Magnetic probe

    Metal rod

    Microwave2.45 GHz

    DC POWER DC POWER SUPPLYSUPPLY

    500 40

    Insu

    lato

    r

    188

    100

    Φ150

    Metal rod

    Quartz Plate

    z

    r

    A A’

    LangmuirProbe

    Section A-A’

    Quartz tube

    Magnetic probe

    Metal rod

    図 6 実験装置図

    プラズマ境界面に沿って表面波を伝搬させれば,導

    電体近接領域でもパワー吸収が可能となる(図 4:特

    願 2002-201025).生成されるプラズマ中のイオンは

    バイアスによってターゲットに衝突し,ターゲット

    原子をスパッタする.バックグラウンドガス圧力が

    十分に低圧であれば,このターゲットを奥行きのあ

    る凹面内に挿入することにより,その内壁にターゲ

    ット原子を効果的にスパッタ蒸着できると考えられ

    る(図 5).本原理によるスパッタ装置を表面波同軸

    スパッタ装置と称する.ガス圧力が高い場合スパッ

    タは抑制されるものの,内壁でCVDや窒化等を行うた

    めのプラズマ源として利用可能ではないかと期待さ

    れる.

    2.実験と考察

    2.1 導電体近接領域で表面波励起プラズマが生

    成されることの実証 導電体近接領域で表面波励起プラズマを生成する

    原理は,これまでにない独創的な方法であり,我々

    による予備実験を除いてはその特性を明らかにした

    研究は存在しない.よってまずは本原理を計測によ

    り物理的・定量的に実証する必要である.

    図 6 に本実験用に開発した表面波励起マイクロ波

    プラズマ源の概略図を示す.コーティング対象とな

    る長尺物(奥行きのある凹面,円筒部品等)を配置で

    きるよう直径 150 mm,長さ 500 mmの高真空チャンバ

    ーを用いた.チャンバー内の圧力は接続された油拡

    散ポンプによって 10-4 Pa台まで排気可能である.チ

    ャンバーの一端にはWX-39D同軸導波管が接続されて

    おり,真空をシールする石英窓を通して 2.45GHzマ

    イクロ波がチャンバー内に投入される.直径 1 cmの

    グラファイトターゲットがチャンバーの中心軸に沿

    って挿入され,その一端はマイクロ波導入部石英窓

    に接している.ターゲットのもう一方の端には高電

    圧を印加するための配線が接続されている.また図

    に示すようにターゲットの一部は絶縁体で覆われ,

    プラズマにさらされる有効ターゲット長は 188 mmと

    なっている.マイクロ波導入部から下流に 100 mmの

    位置に計測ポートが設けられ,半径 40 mmの位置に

    固定されたラングミュアプローブと半径方向に稼動

    可能な磁気プローブとが同時に 90°異なる方向か

    ら挿入されている.

    Ar ガス流量 20 sccm,圧力 4.5 Pa,投入マイクロ

    波パワー200 W にてプラズマ点火を行った.図 7(a)

    にターゲットにバイアスを印加しない場合のチャン

    バー内部写真を示す.図中 Bottom View によるとプ

    ラズマが点火していることが明らかであり,Side

    View(z=100 mm)からは生成されているプラズマが入り口側に局在していることが明らかである.この場

    合入り口の石英窓部を伝播する表面波によってプラ

    ズマが生成され,そのプラズマが下流へ拡散してき

    ていると考えられる.図 7(b)はターゲットに-240V

    のバイアスを印加した場合のチャンバー内の様子を

  • Gas: Ar 20sccmPressure: 4.5 PaMicrowave: 200WTarget: Carbon(Φ10mm)

    Bottom View

    Side View

    Target Voltage: Target Voltage: VVtt=0 V=0 V Target Voltage: Target Voltage: VVtt==--240 V240 V(Target Current: 0.54 A)(Target Current: 0.54 A)

    Microwave

    DC POWER SUPPLY

    500

    LangmuirProbe

    Target

    40

    Insu

    late

    or

    188

    100

    Φ150

    Microwave

    DC POWER SUPPLY

    500

    LangmuirProbe

    Target

    40

    Insu

    late

    or

    188

    100

    Φ150

    VVtt

    Increase VVtt

    Gas: Ar 20sccmPressure: 4.5 PaMicrowave: 200WTarget: Carbon(Φ10mm)

    Bottom View

    Side View

    Target Voltage: Target Voltage: VVtt=0 V=0 V Target Voltage: Target Voltage: VVtt==--240 V240 V(Target Current: 0.54 A)(Target Current: 0.54 A)

    Microwave

    DC POWER SUPPLY

    500

    LangmuirProbe

    Target

    40

    Insu

    late

    or

    188

    100

    Φ150

    Microwave

    DC POWER SUPPLY

    500

    LangmuirProbe

    Target

    40

    Insu

    late

    or

    188

    100

    Φ150

    VVtt

    Microwave

    DC POWER SUPPLY

    500

    LangmuirProbe

    Target

    40

    Insu

    late

    or

    188

    100

    Φ150

    Microwave

    DC POWER SUPPLY

    500

    LangmuirProbe

    Target

    40

    Insu

    late

    or

    188

    100

    Φ150

    VVtt

    Increase VVtt

    図 7 プラズマ点火.(a)ターゲットバイアス無し,(b)バイアス有り.

    示している.Side View からは生成されているプラ

    ズマが入り口側に局在せず,ターゲット全体を覆う

    ように存在していることが確認できる.電圧印加時

    には表面波がグラファイトターゲットに沿ってチャ

    ンバー内に深く伝播・進入している,即ちプラズマ

    の生成領域がターゲットに沿ってチャンバー内に伸

    展してきたと考えられる.このことを電磁波の分布

    から実証するため磁気プローブを用いてマイクロ波

    磁界強度の直接測定を行った.図 8に z=100 mm における磁界強度の半径方向分布を示す.黒線(●)はマ

    イクロ波が投入されているもののプラズマが点火し

    ていない場合の分布であり,プラズマ不在時は図の

    ようにチャンバー全体にマイクロ波が分布している

    ことがわかる.プラズマ点火直後(図 7(a)写真)は赤

    線(▽)が示すように,磁界がゼロでありマイクロ波

    がz=100 mmの位置までは進入していないことがわかる.これはマイクロ波導入部石英窓近傍に局在する

    高密度プラズマのカットオフ効果により,マイクロ

    波の進入が阻害されているためである.これに対し

    てバイアスを印加した場合(図 7(b)写真)のマイク

    ロ波磁界分布は緑色の線(□)であり,1 cm 程度の特

    性減衰長をもつ電磁界分布の存在を示している.こ

    のような指数関数的減衰傾向は表面波の最大の特徴

    であり,ここでは金属面に存在しかつバイアスによ

    って拡大されたシースと高密度プラズマとの境界に

    伝播する表面波に起因すると考えられる.

    ターゲットに沿って表面波が存在するのであれば,

    同様にターゲットに沿って高密度プラズマが生成さ

    れていなければならない.そこで同じz=100 mmでr=40 mmの位置に固定したラングミュアプローブにより電子密度計測を行った.図 9 に電子エネルギー

    分 布 (EEDF: Electron Energy Distribution

    Function)の測定結果を示す(電子密度はEEDFより算

    出).電圧を印加しない場合はne=4.37×1010 cm-3と低

    密度である.これは石英窓部で生成されたプラズマ

    が拡散によって下流に輸送されてきたためである.

    Electron Energy ( eV) 0 5 10 15 20 25 30 35

    EED

    F (c

    m−3

    eV−3/2

    )

    105

    106

    107

    108

    109

    1010

    1011

    1012

    VT=0 Vne=4.37x10

    10 cm−3

    kTe=1.82 eV

    VT=−240 V (IT=0.54 A)ne=2.46x10

    11 cm−3

    kTe=1.79 eV

    Ar, 4.5 Pa, Microwave Power 200 W

    Electron Energy ( eV) 0 5 10 15 20 25 30 35

    EED

    F (c

    m−3

    eV−3/2

    )

    105

    106

    107

    108

    109

    1010

    1011

    1012

    VT=0 Vne=4.37x10

    10 cm−3

    kTe=1.82 eV

    VT=−240 V (IT=0.54 A)ne=2.46x10

    11 cm−3

    kTe=1.79 eV

    Ar, 4.5 Pa, Microwave Power 200 W

    図9 プラズマ中の電子エネルギー分布測定(ターゲ

    ットバイアス電圧有無での比較).

    r (mm)0 20 40 60 80 100 120

    |Bθ|

    (rel

    . uni

    ts)

    0.0

    0.1

    0.2

    0.3

    0.4

    0.5

    Without plasmasVt=0 VVt=−240 V

    Rod Surface (r=5 mm)

    Chamber Wall (r=75 mm)

    r (mm)0 20 40 60 80 100 120

    |Bθ|

    (rel

    . uni

    ts)

    0.0

    0.1

    0.2

    0.3

    0.4

    0.5

    Without plasmasVt=0 VVt=−240 V

    Rod Surface (r=5 mm)

    Chamber Wall (r=75 mm)

    図 8 プラズマ中の電磁波成分Bθの分布.

  • これに対してターゲットにバイアスを印加した場合

    はne=2.46×1011 cm-3と高密度のプラズマが計測され

    た.これはターゲットに沿って表面波が伝播し,プ

    ローブ計測位置近傍でプラズマが生成されるように

    なったためである.(ここまでの結果は,参考文献1

    として学会発表,参考文献2として論文発表されて

    いた.)

    2.2 生成されるプラズマ柱の圧力依存性

    導電体近接領域で表面波励起プラズマを生成する

    原理によって生成されるプラズマを奥行きのある凹

    面コーティングへ応用するには,プラズマ中の空間

    分布を明らかにする必要がある.またガス圧力は非

    常に重要なパラメーターであり,例えばスパッタリ

    ングに適用する場合は低圧(数 Pa 未満)で望ましい

    プラズマ特性が得られなければならない.本研究の

    ように長尺物に対するスパッタを目的とすれば,低

    圧でプラズマ柱が軸方向に均一になることが望まれ

    る.

    はじめにマイクロ波投入パワー300 W,Ar 流量 10

    sccm でガス圧力を 1.0, 3.1, 6.2, 18, 63 Pa と変

    化させた場合のプラズマ柱の特性変化を調べた.図

    10 にそれぞれの圧力時のターゲット電圧とターゲ

    ット電流の関係を示す.いずれのガス圧力時にも印

    加可能な最大電圧が存在し,それ以上の電圧を印加

    するとプラズマ生成が不安定となった.また電圧印

    加とともにプラズマ中が伸長することも視認により

    確認された.図 11 に 1.0, 6.2, 63 Pa におけるプラ

    ズマ柱最大進展時(最大電圧印加時)の写真を示す.

    図 11 アルゴンガス圧力 1.0, 6.2, 63 Pa における表面

    展時(最大電圧印加時)の写真.

    Target Voltage, Vt (V)0 100 200 300 400 500 600 700

    Tage

    t Cur

    rent

    , It (

    A)

    0.0

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    63 Pa18 Pa6.2 Pa3.1 Pa1.0 Pa

    39 W

    121 W

    Target Voltage, Vt (V)0 100 200 300 400 500 600 700

    Tage

    t Cur

    rent

    , It (

    A)

    0.0

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    63 Pa18 Pa6.2 Pa3.1 Pa1.0 Pa

    39 W

    121 W

    低ガス圧力時にはマイクロ波導入石英窓から離れる

    にしたがって発光が弱まっていることが確認できる.

    それに対して高ガス圧力になると発光が比較的軸方

    向に均一になる.図 10 からは 63 Pa で最大伸張時に

    39W の DC 電力を要したことがわかり,高ガス圧力時

    には低電圧,低電力で均一性の高いプラズマ柱が得

    られることを示唆している.

    図 10 ターゲット電圧とターゲット電流の関係

    上記の傾向を実測によって確認するため,軸方向

    に稼動可能なラングミュアプローブを用いてターゲ

    ットに沿ったプラズマの分布を計測した[(a)低圧

    力条件:1.0 Pa,マイクロ波パワー100 W.(b)高圧

    力条件:33 Pa,マイクロ波パワー200 W.両条件と

    もに Ar ガスを流量 5 sccm で使用].図 12 にそれぞ

    れのガス圧力においてバイアス量とプラズマ分布と

    波励起マイクロ波プラズマ柱.いずれも最大進

  • z (mm)0 50 100 150 200 250 300

    Nor

    mal

    ized

    Ion

    Den

    sity

    -0.2

    0.0

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1.0

    1.2

    1.4

    1.6

    1000V700V500V300V100V50V25V0V

    z (mm)0 50 100 150 200 250 300

    Nor

    mal

    ized

    Ion

    Den

    sity

    -0.2

    0.0

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1.0

    1.2

    1.4

    1.6

    1000V700V500V300V100V50V25V0V

    z (mm)0 50 100 150 200 250 300

    Nor

    mal

    ized

    Ion

    Den

    sity

    0.0

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1.0

    1.2

    1.4

    45V35V25V0V

    z (mm)0 50 100 150 200 250 300

    Nor

    mal

    ized

    Ion

    Den

    sity

    0.0

    0.2

    0.4

    0.6

    0.8

    1.0

    1.2

    1.4

    45V35V25V0V

    図 12 ターゲット電圧とプラズマの軸方向分布の関係.

    アルゴンガス圧力,(a)1.0 Pa, (b)33 Pa.

    0

    0.1

    0.2

    0.3

    0.4

    0.5

    0.6

    10 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200

    position(mm)

    thickness(μ

    m)

    250W/5sccm/0.8Pa/250V

    200W/20sccm/6.1Pa/65V

    0

    0.1

    0.2

    0.3

    0.4

    0.5

    10 20 40 60 80 100 120 140 160 180 200

    position(mm)

    Depo

    sito

    n r

    ate (

    μm

    /h)

    図 13 (a)ターゲット軸方向のカーボン膜圧分布及び

    (b)成膜速度分布(スパッタ成膜,直径 1 cm グラファイ

    トターゲット,基板:ガラス,ターゲット-基板間距離

    6.5 cm).成膜条件,(1)0.8 Pa,マイクロ波投入パワー

    250 W,アルゴン流量 5 sccm,ターゲットバイアス電圧

    -260 V,(2)6.1 Pa,マイクロ波投入パワー200 W,アル

    ゴン流量 20 sccm,ターゲットバイアス電圧-65 V.

    の関係を示す.1Pa においては 0-1000 V においてほ

    とんどプラズマ分布が変化せず,いずれのバイアス

    量においてもプラズマは指数関数的減衰傾向を示し

    ていた.これは上流でのみプラズマ生成が行われ,

    拡散によって輸送されてきたプラズマが計測されて

    いるからである.このことは 1.0 Pa 付近においては

    バイアスによって表面波プラズマ柱を伸張させる効

    果が低いことを示している.高ガス圧力の 33 Pa に

    なるとバイアス量の増加によってプラズマ柱が伸張

    する様子が強く見られた.-45V の印加電圧において

    は入り口から 200mm 程の領域で入り口付近と変わら

    ないプラズマ密度を達成できた.

    2.3 スパッタ成膜試験

    奥行きのある凹面形状への成膜特性を調べるため,

    トライアルとしてカーボン膜の成膜実験を行った.

    成膜基板としてガラスを用い 11 枚の基板をターゲ

    ット軸に沿って配列した.ターゲットと基板との距

    離は 6.5 cm とした.圧力条件として 0.8, 6.1 Pa

    を選び,前者ではマイクロ波投入パワー250 W,アル

    ゴン流量 5 sccm,ターゲットバイアス電圧-260V,

    後者ではマイクロ波投入パワー200 W,アルゴン流量

    20 sccm,ターゲットバイアス電圧-65 V で成膜を行

    った.いずれの印加電圧もプラズマ柱の最大伸張時

    の値である.図 13にターゲット軸方向の膜圧分布

    を示す.いずれの圧力時も z=60 mm までは比較的均一な,膜厚分布であるものの,z=60 mm 以降は顕著な減衰傾向を示した.これは前節で計測されたプラ

    ズマ分布の軸方向不均一に起因している.成膜速度

    で見ると,低圧時のマイクロ波導入部近傍(z=10-40 mm)では 0.4 μm/h と比較的高い成膜速度が得られ

    た.これは表面波によって生成された高密度プラズ

    マにより高速成膜が可能であることを示している.

    3.結論及び今後の予定

    出願特許(特願 2002-201025,導電体近接領域にお

    いて表面波励起プラズマを生成する方法)を利用し,

    棒状金属ターゲットに沿って高密度表面波プラズマ

    柱を生成する装置を新規設計,開発した.当該装置

    を用い,円筒内に挿入された棒状グラファイトター

    ゲット周囲で安定的にプラズマが生成されることを

    確認した(ワーキングガスAr,圧力 0.1-100 Pa).こ

    の時ターゲット面に沿って伝搬するマイクロ波が表

    面波モードであることを高周波電磁界測定により明

    らかにした.さらに得られたプラズマが 1011 cm-3以

    上の高密度であることも実証した.(しかしながら得

    られたプラズマの軸方向分布が不均一であり,現状

    では奥行のある凹面内壁を均一にコーティングする

    ことは難しいと判断される.)ここで試験的にArガス

    1 Paの雰囲気下で, Cターゲットを用いたガラス基

    板へのカーボン膜スパッタ成膜実験を行った(投入

    マイクロ波パワー250 W,スパッタ電圧 250 V).プ

    ラズマ分布の軸方向不均一に起因して膜厚分布も同

  • 様の軸方向不均一性を示したが,最高 0.4μm/hの成

    膜速度が得られた.

    (今後の予定)

    設計した装置において生成されるプラズマの軸方向均一化を計る.ターゲットの両端間で表

    面波の定在波を立てることが重要であると考

    え,ターゲットの電圧負荷側にμ波を反射させ

    る構造を取り入れることを考えている.

    プラズマ分布の均一化を達成した後,長さや径の異なるSUS管に対してカーボン膜スパッタ成

    膜を行い,膜特性(膜厚,硬度,密着強度,摩

    擦係数等)分布を測定する.

    高ガス圧力(>10 Pa)の方がプラズマ分布の軸方向均一性が良いという結果が得られている.こ

    のことから低圧(10 Pa)で行う CVD 成膜による内壁コ

    ーティングにもトライする.

    謝辞

    本研究はH15 年度NEDO産業技術研究助成事業及び

    平成15 年度天田金属機械加工技術振興財団,奨励研

    究助成の援助を受けて遂行されました.

    参考文献・発表

    [1] Hiroyki Kousaka, Noritsugu Umehara, Kouichi

    Ono, and Junqi Xu: Proc. Plasma Science

    Symposium 2005 / 22th Symposium on Plasma

    Processing (2005.01) Nagoya, Japan. [2] Hiroyuki Kousaka, Junqi Xu, Noritsugu Umehara,

    and Kouichi Ono: Proc. 52st Spring Meeting ofthe Japan Society of Applied Physics and Related Societies (2005.03) Saitama, Japan [in Japanese].

    [3] Hiroyuki Kouaka, Noritsugu Umehara, Kouichi

    Ono, Junqi Xu: submitted to Applied Physics

    Letters.

    /ColorImageDict > /JPEG2000ColorACSImageDict > /JPEG2000ColorImageDict > /AntiAliasGrayImages false /DownsampleGrayImages true /GrayImageDownsampleType /Bicubic /GrayImageResolution 300 /GrayImageDepth -1 /GrayImageDownsampleThreshold 1.00000 /EncodeGrayImages true /GrayImageFilter /DCTEncode /AutoFilterGrayImages true /GrayImageAutoFilterStrategy /JPEG /GrayACSImageDict > /GrayImageDict > /JPEG2000GrayACSImageDict > /JPEG2000GrayImageDict > /AntiAliasMonoImages false /DownsampleMonoImages true /MonoImageDownsampleType /Bicubic /MonoImageResolution 2400 /MonoImageDepth -1 /MonoImageDownsampleThreshold 1.00000 /EncodeMonoImages true /MonoImageFilter /CCITTFaxEncode /MonoImageDict > /AllowPSXObjects true /PDFX1aCheck false /PDFX3Check false /PDFXCompliantPDFOnly false /PDFXNoTrimBoxError true /PDFXTrimBoxToMediaBoxOffset [ 0.00000 0.00000 0.00000 0.00000 ] /PDFXSetBleedBoxToMediaBox true /PDFXBleedBoxToTrimBoxOffset [ 0.00000 0.00000 0.00000 0.00000 ] /PDFXOutputIntentProfile (None) /PDFXOutputCondition () /PDFXRegistryName (http://www.color.org) /PDFXTrapped /False

    /Description >>> setdistillerparams> setpagedevice