3.微視的非線形現象』 3-2波馴と粒子の非線形相...

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3.微視的非線形現象』 3-2波馴と粒子の非線形相耳作相 松本 (京都大学超高層電波研究センタr) (1991年5月23日受理) Nonlinear’Wave-Partiele Interactioh Hiroshi Matsum⑩ (Ree¢ived May23,1991) ALstraet Thereseareh,償eld・f“n・nlinearwave-par偵eleinteracti・nsヲ’、 by a sing艮e岡eview papeL lns重£ad of giving a general review,r①les of par伽 study of n①nlinear wave-particle interaction(WPl)ih a p豆asma are example in this papeL The example adopted was taken from a spac essence of which does not differ from th註t in fusion◎lasma p痘en①me is nonlinear wave-waマe-particle interaetions causedもy an intense mo ene聯,坤準 Keywords: 『nOnlinear scattering,intense monochrOmatic wave,Plasma he nonlinear three wave coupling,nonlinear wave-waveっarticle in 11はじめに ごく一般的な言い方をすれば,物理現象の理解 の方法には理論的手法と実験的手法がある』理論 研究の多くは,未解決の・(もしくは新たに発見し た)問題を既知の普遍的基礎方程式系(またはそ の変形)の組み合わせで記述する努力をし,その 解を解析的又は数値的に解き,物理的解釈を与え よう・という仕事である.筆者の専門分野であるス ペース・プラズマ物理学においては,一理論的研究 の多くはこの傾向が強い.実験事実の説明に行き 詰り,既存の物理法則にない「新法則」が発見・ 提案される事は稀である,スペース・プラズマ現 象は多くの場合,同時進行または競合進行する物 理プロセスが多いため,選ばれる仮説又は抽象化 R励・孟伽卿h傭S伽・6Cε漉ろκγ・オ・碑惚s歪ちζのi61ヱ・ 119

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   3.微視的非線形現象』

3-2波馴と粒子の非線形相耳作相

       松本  紘

   (京都大学超高層電波研究センタr)

      (1991年5月23日受理)

Nonlinear’Wave-Partiele Interactioh

 Hiroshi Matsum⑩

(Ree¢ived May23,1991)

ALstraet

  Thereseareh,償eld・f“n・nlinearwave-par偵eleinteracti・nsヲ’、ist・・vas伽㎞covered

by a sing艮e岡eview papeL lns重£ad of giving a general review,r①les of par伽豆e simulation for the

study of n①nlinear wave-particle interaction(WPl)ih a p豆asma are・stressed・by a speeific

example in this papeL The example adopted was taken from a space pla即a experiヌnent,the

essence of which does not differ from th註t in fusion◎lasma p痘en①menal The se嚢6cted topic

is nonlinear wave-waマe-particle interaetions causedもy an intense monochromatic e且ectromagnet量c

ene聯,坤準

Keywords:

『nOnlinear scattering,intense monochrOmatic wave,Plasma heating,particle simulatlon,

nonlinear three wave coupling,nonlinear wave-waveっarticle interactior㌧

11はじめに

 ごく一般的な言い方をすれば,物理現象の理解

の方法には理論的手法と実験的手法がある』理論

研究の多くは,未解決の・(もしくは新たに発見し

た)問題を既知の普遍的基礎方程式系(またはそ

の変形)の組み合わせで記述する努力をし,その

解を解析的又は数値的に解き,物理的解釈を与え

よう・という仕事である.筆者の専門分野であるス

ペース・プラズマ物理学においては,一理論的研究

の多くはこの傾向が強い.実験事実の説明に行き

詰り,既存の物理法則にない「新法則」が発見・

提案される事は稀である,スペース・プラズマ現

象は多くの場合,同時進行または競合進行する物

理プロセスが多いため,選ばれる仮説又は抽象化

R励・孟伽卿h傭S伽・6Cε漉ろκγ・オ・碑惚s歪ちζのi61ヱ・

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核融合研究 第66巻第2号  1991年8月

プロセスに自由度が多すぎて,複数の理論的解釈

が可能となる。そのため,自然界の物理像は混沌

としていることが多い.一方,宇宙プラズマに関

しては,実験的研究も一部の能動実験の場合を除

き,初期値や境界値などをコントロールした状態

で行える実験は少なく,殆どの場合,自然まかせ

の観測研究が主流である。孕宙空間という自然界

への人問の挑戦レベルはまだまだ低いと言わざる

を得ない.従ってこれまで物理学的研究の一般的

指針とされてきた「枝葉をばっさり落とし,幹と

根という本質(基本法則)のみを提出する」とい

う研究手法は大変困難となっている.しかも,実

騨観測の多くは空間的に限られた観測地点で限ら

れた時問内にのみ行われるため,十分な実験とは

なり得ず,理論的研究と同様に,実験結果にも多

様な説明が行われてきた.

 本講座の第1講で佐藤哲也氏はプラズマ物理学

においては「より細かく分解することを止め,よ

り現実に近く多くの柑互作用を含んだ系をあるが

ままに追求する」という発想を提案されている.

コンピュータ・シミュレーションはこの発想に基

グいており,その役割が近年次第に重要視されて

きている.宇宙プラズマ研究においてはその重要

性はますます高い,理論や実験(観測)に不確定

性が多く,推論の余地が大きすぎるため,コン

ピュータ・シミュレーションによる定量的研究が

多くの場合,理論や実験(観測)の不足分を補っ

てくれるからである.

 本稿では具体的な例を引きながら,粒子シミュ

レーションが果たす役割を示したい,具体例とし

ては「大振巾の電磁波が引き起こすプラズマの非

線形効果」を取り上げ,実験と理論とシミュレー

ションの相互関係を示すこととする.

2.理論と実験とシミゴレーションの

  組み合わせ

 宇宙空間とくに太陽系空間は,単に知的好奇心

の対象O;とξまらず,我々の子孫のコスモ・ホモ

サピエンス(新宇宙人)と呼ばれる(遠くない未

来の)人間の生活空間である.こう考えた場合,

プラズマ環境中の種々の相互作用を充分に研究

し,現解しておくことが現在の宇宙科学の重要な

任務の1つであることに気付く.

 21世紀初頭には宇宙基地・月面基地をベースと

して,宇宙工場や宇宙農場に加え,宇宙太陽発電

所(SPS)が建造されるであろう.宇宙での電気エ

ネルギーは,太陽光や太陽熱を利用して比較的容

易に得られる.得られる電気エネルギーは地球上

へ返送されたり,他の衛星や宇宙都市・工場・農

場へ送電される.その際,マイクロ波無線送電が

必要と考えられている』使用される電波の周波数

(>2GHz)は宇宙空間プラズマの特性周波数(プ

ラズマ周波数,サイクロトロン周波数等〉に比べ

2~3桁以上も高いため,一見マイクp波とプラ

ズマとの相互作用は非常に小さい’と考えられる.

しかし,通信や放送に用いられる電波とは異な

り,エネルギー伝送媒体としての電波の電界強度

は,通信等で行われるもの比べると5~6桁も大

きい.その結果,マイクロ波といえども電離層や

磁気圏プラズマに与える影響は無視できないこと

が予想できる。

 理論的にSPS用のマイクロ波が電離層に与える

影響についての研究は1980年前後に開始された.

下部電離層のオーム加熱や,プラズマ波励起によ

120

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講座 波動と粒子の非線形相互作用 松 本

るマイクロ波散乱(ブリロアン散乱やラマン散乱)

の研究であった1)一3).散乱は非線形三波相互作用

理論によって予測されたが,散乱波の強度につい

ては理論的には確定されず,主に散乱波のスペク

トルが議論されただけであった.

 我々は理論的予測に基づいて,実際に宇宙空間

でマイクロ波エネルギーを放射してプラズマの非

線形応答を観測する目的でMINIX(Microwave-

Ionosphere Nonlinear Interaction Experiment)

と呼ばれるロケット実験を1983年に実施した4)一6).

親ロケットに搭載した830ワットのマイクロ波送電

機から子ロケットに向けてマイクロ波を照射し,

プラズマの非線形応答を観測した.しかし,実験

結果は三波共鳴の理論で予測されたものとは一致

せず,新たな研究の展開が必要となった.図1の

儀菰鰻熱            Ω   esuits

誠『   Model藤ng    a“d -   Simu濫atioo

            H.鰍3u皿06  4

図1.理論研究と実験研究とシミュレーション  研究の関係を示す漫画.

漫画に示されるように,実験結果を予測し,その

結果を待ち望んでいる理論家にとって,実験結果

のそのまま入手し理解し,楽しむには,あまりに

理論に実験のギャップ(谷間)が大きくそして深

いことが多い,その谷間を橋渡しし,実験結果を

理論的に解釈しやすいようにし,物理的考察を助

け,研究の前進に役立つのがコンピュータ・シ

ミュレーションの役割である,MINIX実験に関

しても粒子モデルを用いたコンピュータ・シミュ

レーションが,このようにして開始された.以

下,第3節に非線形散乱理論の予測,第4節に

MIMXロケット実験,第5節にシミュレーショ

ンモデルと結果について述べる.第6節にシミュ

レーション結果とロケット実験結果を比較し,考

察を加える.

3.非線形三波共鳴珪論に基づく理論的予測

 エネルギーを運ぶ大振巾マイクロ波は,基本的

に単色波であるため,理論的に予測される最も起こ

り易い非線形現象は,プラズマ中の非線形三波相

互作用による静電プラズマ波励起と,それに伴う

マイクロ波の散乱と考えることができる.励起さ

れる静電プラズマ波が減衰を殆ど受けずに伝搬し

うる場合に最もこの非線形プロセスが起こり易い.

従って,マイクロ波,散乱波および励起される静

電プラズマ波の全てが,外部磁界(地球磁場)に

平行に伝搬する場合と垂直に伝搬する場合を考察

すれば良いことになる.

 送電マイクロ波に相当する大振巾単色電磁波,

その後方散乱電磁波および励起静電プラズマ波に

関係する物理諸量をそれぞれ0,1,および2と

いう添字で表すとする.非線形三波共鳴が最も起

こり易いのは,次のエネルギー及びモーメンタム

の保存が満足される時である.

ωo=ω1+ω2

斥0=託1+左2

(1)

(2)

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核融合研究 第66巻第2号  1991年8月

3つの互いに共鳴する波動の電界Eガ(貯0,1,2)の

時間発展は次の結合係数方程式で記述される.た

だし,βガは結合係数である.

、dEo(∂

    篇iβo E1(孟)E2(云)

 d渉

dE1(∂・    一ぎ幅(施2*(∂

、d∫

dE2(∂

    ニガβ2E:0(!)E1*(つ

(3)

(4)

(5)

〃z罵

 免・(o)

       馬(o>+馬(o)

F1

7

(11)

瑞が大きくd瑞/d杵0と見奪すことができ,、E1,

E2がまだ小さいときの励起静電波の初期の成長率

γは(5),(9)式よ・り容易じご求めることができ,

次式で表される.

d渉

I Eo!》i EI I,l E21≧!反定すれば(3)~(5)

の方程式は近似的に次の解で表されることが知ら

れている.

Eo(∂=Eo(0)sn[β(卜渉o)na圭ぞm]

    凋,E1(云)=

    嬬

(6)

xEo〈0){1-sn2[β(∫プo)na壱,m]1去(7)

・γ一席IIE。1 (12)

 上記の結合方程式の精合係数β,ゴ(卜0,1,2)

は,マックスウエル方程式とプラズマの運動方程

             ご式と連続の式を,、散郵波と静電波の電界の二次の

オーダーまで考慮して解くことにより求めること

ができる.垂直伝搬の場合,大振巾電磁波,散乱

波が0モ」ド渤起静電波が,SXモ」ドという

三波の組合わせ(0-0-SX)1之対し結合係数は

次のよケになる.

       2    2       馬(o) 馬(o)

,E2(∂ヂ厩[ *+ *       β    β        2       2

   9諦2βo=   解s4ω1

    9s海21β1=」

   解s4ω1

    9s  2β2=一  π      S   ,”Zs 1

%{1一(、1:汀

(13潮

×11-ln2[β(H。)na去,m]1]}(8)

ここで

        βニ1β0β1β2「才

          κa=免(o)+星2(o)

(9)

(14)

×

h2

(10〉 ※l/1(1:)2}+、(割 ω0ω1

(15)

122

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講座 波動と粒子の非線形相互作用 松 本

但し,ここでπはプラーズヌ角周確数,9は電子サ

イクロトロン角周波数である.平行伝搬の場合は

組合わせR-R-L(R:Rモrド電磁波,L;ラン

グミュア波)に対し

β0=

9S

π     (6ゐ1)2 2ω2た1

計懸画,ω1脚曜]

 10uO 8⊃ 16ヒ

」 4ユ

Σ一2く

 0

’ P 、 、

        2      慌列                 (16)

㌘,

署[幅轡畷瞭ll箒]・

0    100  200   300   400   500   600

       、Ωet

図2.非線形波動一波動相互作用理論から計  算されるきつの波の振巾の時間変化.

  β・篇q・023,β1=-0・014,.β2富rO・004・

   

,慌列.

     2P 』2

磯ド鵠ご噛判

(17)IF

(18)・、

び得られる・(1$)](15即11)㌻(18聯合係

数はコr腔・乃ズマを仮定して求められたも

のである・「わ、ト,ヅラ,ズマ廟してもプラゾフ

方程式で記述される粒子の速度分布関数を散乱

波,静電波電界で展開し,二次のオーダーまで取

れば,結合係数が得られる.結果は複雑な表式に

なるのでここでは省くこととする.,結合係数が求

まれば(3)~(5)の結合方程式を解くことにより,

大振巾送信電磁波,散乱波,静電波の電振界巾

Eぢ(ぢ=0,1,2)の時間変動を求めることができる。

図2はその一例を示すものである,Manley-Rowe

の関係式も,こうして得られることは卑く知られ

ている7).・

 以上のぷ、うな理論的手法で予測できるごとは以

下のようになる.

(1)大振巾単色の電磁波は,非線形三波共鳴を通

 じ1(1)陳(2)式とプラズァの分教式とを満足す

 る周波ω2と波数亀を峙つ単色の静電波を励起

 する.1

(2)そ1?初期成長率γは(12)式で示されるはずのも

 あである.

(3)離電波励起と共に後方に散乱さμる電磁波も現

 れる.その周波数ω1,波数、々1も(1),(2)式を

 満足しかつプラズマ中の分散関係を満たす..

(4)3つの波動は初期の静電波および散乱波の成長

 期のあとは,Manley Rowe関係式を満たすよ

 うに互いにエネルギー交換を繰り返す.(、図2

 参照)

(5)3つの波の最大振巾の比は嬬:研:珂

 となる.

注意すべきことは,(1),(2)の共鳴条件を満足する

(ω1,ω2), (海1,た2)は,場合によっては複数

組存在することもあり得ることである.

 以上の理論的研究からマイク白波送電に使われ

る2.45GHzの単色電磁波が電離層プラズマを通過

した場合,電子プラズマ波(ラングミュア波)を励

起するラマン散乱過程と,SXモード,UHRモー

↓23

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核融合研究 第66巻第2号  1991年8月

ド含む電子サイクロトロン高調波を励記する散乱

過程の2つの非線形現象が同時に起こることが予

想される.いずれの場合も励起される静電波は単

色波であり,その周波数は,(1),(2)とプラズマ

分散関係式から決定できる.電離層プラズマの場

合,励起され』る静電波の強度は(13)7(15)と(16)

~(18)の結合係数を用いて理論的に予測すると図

3のようになり,電子プラズマ波が電子サイクロ

ドロン波に比べて強度が強いことが予測された.

1.O

O.8

  0.6

週1剣O.4

0,2

0.0

1‘11max

I石o』ax

lξ21max

I三〇lmax

1.o

!イー「ぞ1i胆x〆   i‘。1_

4.MINIXロケット実験

 前説に述べた理論的研究に基づき,観測ロケッ

トを用いたマイクロ波エネルギービーム放射実験

が行われた.マイクロ波一電離層非線形相互作用

実験(MINIX)と呼ばれる実験は1983年8月に行わ

れた.SPS(宇宙太陽発電所)に関する最初の宇宙

実験であった.マイクロ波(2.45GHz)は830Watts

出力のマグネトロンにより,図4に示されるよう

に親ロケッドから子ロケットに向けて放射され

た.マイクロ波は放射は5秒間放射,5秒間停止

の繰り返しで行われた,プラズマの非線形応答は

子ロケットに搭載されたプラズマ波動受信機で観

測された.

0.8

剛06園α4

O.2

O.0

\ 塵怖olmax

  0      10   ’  20

      ω /ρ      o   e

図3.非線形波動一波動相互作用理論から

  計算される3つの波の振巾の時間変  ’化と励起静電波の振巾予測.

図4.・MINIXロケット実験.

実験の結果の要約は以下のとおりであった.

(1)ブリロアン散乱によるイオン音波の励起は確認

 されなかった.

(2)ラマン散乱と思われる電子プラズマ波(EわWニ

 ラングミュア波)と電子サイク白トロン高調波

 (ECHW)の励起が確認された,図5はHF周

 波数帯で観測された波動の電界成分のスペクト

 ルを示す.図には,マイクロ波の送信時と停止

124

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講座 波動と粒子の非線形相互作用 松 本

(V)

 5回

o=》

」住Σく

u>くタ

Microw苧veON’

 ヨロめ お  ロドド  コ

 PLASMA FREQU亡N6Y

{       1O/1、5FR一&ENC》15(M晩)FH 2FH 3FH

図5.MINIXロケット実験で計測されたHF  帯波動(電界成分)のスペクトル.マ

  イクロ波送信のON-OFF時のスペク  トル比較が示されている.

 時と停止時のスペクトルの両者が示され,その

 両者の差にハッチが施されている.この差はマ

 イクロ波送信によって新たに励起されたプラズ

 マ波成分と思われる.約1。5MHzおよび約3MHz

 にピークを持つIMHzから3.5MHz帯の波動は

 電子サイクロトロン高調波,5MHzから7MHz帯

 の波動は電子プラズマ波である.電子サイクロ

 トロン周波数および電子プラズマ周波数は図中

 に示されている.

(3)理論的予測とは異なり,励起レベルは電子サイ

 ,クロトロン高調波の方が電子プラズマ波より高

 かった.

(4)観測された励起プラズマ波のスペクトルは前説

 で述べた非線形波動相互作用理論の予測する

 “線スペクトル”でなく広いバンド巾を持つも

 のであっ左.電子サイクロトロン波のスペクト

 ルには,2~3ケのピークが見られ左が,電子

 プラズマ波スペクトルはピークのない広帯域な

 ものであった.

5.コンピューター・シミュレーション

 理論的予測とロケット実験結果とが一致せず,

実験結果の理解のためにコンピュータ・シミュレー

ションの出番となった.もともと非線形波動波動

相互作用理論には数々の仮説があり,実験結果を

完全に予測できるものでないことは明らかである.

しかし,この問題に関しては両者の違いは大きす

ぎ,理論の仮説にとどまらず理論の枠組に戻って

考え直す必要があると思われた,多くの場合がそ

うであるように,コンピューター・シミュレー

ションのデータの理論と実験のギャップを埋める

のに大きい役割を果たす.我々は粒子モデル・シ

ミュレーションでこの問題に取り組むことにし,

理論的考察の足場とすることとした.

 シミュレーションは,超粒子モデルを用いた京

都大学電磁粒子コード(KEMPQコード8)yで行わ

れた.境界条件としては,周期境界あ場合と開放

境界の場合の両者が試みられた.更に取り扱われ

たモデルの次元は一次元(1-2/2次元)と二次元

(2-1/2次元)の両方である.ここでは紙面の都合

上,1次元開放境界条件で行ったシミュレーショ

ンの結果を主に議論をすることとする.

 開放境界シミュレーションでは,シミュレー

ション空間(物理空聞〉に単色の大振巾電磁波を

送信するために,左側の境界で周波数ωの電流が

励振される.シミュレーション空問(物理空間)

の両端(二次元シミュレーションでは四方向の外

側)では,電磁波,静電波や粒子が反射しないよ

うに境界の外側に余分の減衰領域が設けられてい

る.一次元のシミュレーションでは外部磁界の方

向を任意の方向にとることができるが,励起され

る静電波が最も減衰を受けずに伝搬できる二方

125

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核融合研究 第66巻第2号  『ig91年8月

向,即ちタ平行伝搬方向と垂直伝搬方向が取り上

げられた.

5-1.0一モード放射(垂直伝搬)による電子サイ

  クロトロン波励起のシミュレーション『』

 表1にシミュレーションに用いられたパラヌー

タを示す.励振用高周波電流の周波数は電子サイ

クロトロン周波数の約玉3倍に選ばれた.・これは

(1),(2)の条件を満たす後方散乱波及び静電波

が,シミュ・レーションモデルの中で許されるよう

に注意深く選ばれたものである.図6は』E成分                  zを52eピ~60までκ一渉空問にプロットしたもので

ある。図7は・9渉~320までの0モード電磁波の電      e界エネルギーが時空商発展をπ』渉空問に濃淡図

として表示したものである1殆ど光速で波頭が劣

表1.計算機実験で用いたパラメータ   (1次元垂直伝搬)

プラズマ

光速 C 100.

真空の誘電率 ε0 1.0

電子プラズマ周波数 πe 4.0

電子サイクロトロン周波数 9e 一1.α

外部磁場 βO 1.0

   一1ξ×10ミ 6・04  」0.02心 一6.08

   0.O

図6.

322.56

241,92

Ωef1161.28

80.64

0.OO O.OO}

51,20

38.40

  ね  ぜ25.60

”12。80’丁

 5.1    10.2   15.3   20』4

      -1   ■/89e

垂直伝搬シミュレーションで得られた電磁波の電界尾,の空間渥形め時問変化.

0,00

       MAX=O.250            -8       MIN=2.90×10

            -1   2          ×10(』rz/σβo)

図7.

 5,12  10124  15,36  20,48

     -1   ■/σΩe

垂直伝搬シミュレーションで得られた電磁波の電界成分ε。の二乗の時空問分布.-

2.50

2』19

1,87

1,56

1.25

9・94

0.62’0.3f、

O.OO

システム

タイム・ステップ幅 ∠ f 0.01

単位グリッド長 4 X 1.00

物理領域のグリッド数 ’VX 2048

超粒子

電子の電荷質量比 σ/m 一1.0

超粒子数 ’Vρ 32768

熱速度(垂直方向) ひ『th十 1.0

熱速度(平行方向) ひthノ 1.0

放射電磁波

励振周波数 ω0 約13.20

波数(モード数) κ0 41

放射磁場と外部磁場の比 β/βW  O 約0.5

の正方向に伝搬している.59e云~80から、9,!~150

に電流源に近い(冗の小さい領域)場所を除き,

殆ど全空間にわたり0モードの土ネルギーが減少

しているのが見られる』一方ごの減衰領域の左側

(電流源に近い側)では送信電磁波の電界強度を

上回る電磁解強度を示す時空問領域が見られる.

この領域でフーリエ解析を行ったところ,そこに

は左方へ伝搬する(即1ち後方散乱された)電磁波

が重畳されていることが明らかにされた.

126

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講 座 波動と粒子の非線形相互作用 松 本

 放射電磁波めエネルギーが減少したのが理論的

に予測される非線形三波共鳴によるものだとする

と,伝搬方向(劣方向)の電界成分Eエを持つ静

電波がその領域に発生しているはずである。図8

及び図9は盈及び(Eズ)の2乗の時空間分布を

ポ×1♂ミ 4.OO♂一2:88

   0.O

図8.

307.20

256,00

、204,80

  ね15a60Cギ

102,40

51,20

              0,00 5.1    10.2   15,3   20,5

      一↑   π/oΩe

垂直伝搬シミュレーションで得られた

静電電気サイクロトロン波の電界ε。

の空間波形の時聞変化.

(だκ∠‘β。)2

MAX=0.0720      -6MIN=5,39×10

      -2    ×10  322,56『一

  241能  ∵∵躍

唯幽ll〆.  80.64         .F一鞘7

 2,00

 1,75

 1.50

納、,1.25

i1,00

 0,75

 0.50

 0.25

 0。00

示すものである.これらの図から読み取れるよう

に,放射電磁波のエネルギーが大きく失われた

.9eオ~70に,放射電磁波の波長のおよそ半分の波

長を持つ静電波が励起されていることがわかる.

E、をフーリエ変換し,ω一hダイヤグラム上に示

すと図10のようになり励起された静電波は実線で

.6.00

ω/Ωe  4・OO

2.00

0.OO

図10.

MAX雷,0・Q383

               々0         48         96 Mode

   彫ph/‘ニ0・1985

垂直伝搬シミュレーションで得ら・れたEx

のフーリエ解析によって得られた静電波の

ω一kダイヤグラム.実線は線形分散関係

式より得られる理論分散曲線

0,00

 O,00  5.12  10,24τ 15.36 20,48

     ・/1‘ρe-1

図9 垂直伝搬シミュレーションで得られた

  静電電子サイクロ・トロン波の電界εx

  の二乗の時空間分布.

示された49へ漸近する電子サイクロトロン高     e調波の分散曲線上に乗っていることがわかる.放

射電磁波,後方散乱波およびこの電子サイクロト

ロン高調波の3つの波動の周波数及び波数は(1),

(2)式を満足していることも確認された.

 しかし,計算機シミュレーションの結果は,理

論の予測とは異なり,静電電子サイクロトロン波

は初期成長の後,減衰してしまい再び強度を上げ

ることはなかった,この原因は種々考えられる

が,理論の仮説となった物理条件が静電波の励起

と共に変わってしまったためである.理論におい

ては,励起される静電波の振巾が充分大きくなっ

127

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核融合研究・第66巻第2号  1991年8月

た時に生じるプラズマ加熱は全く考慮されていな

かった.しかし,振巾の大きい静電波は波動一粒

子相互作用の結果,.プラズマを非共鳴加熱,共鳴

加熱することがありうる一.、図11は,シミュレー

ythx/σ

MAX翠0.309

MIN雷O.001911NITIAL・=0,010

     -2    ×10                  8,00  325,12

                  7,02                  6,05  243.84

                  5.07

ρe-63於                 .阿4.09

                 -3.12                 .一a笠4  81、28

                  1.,6   0.OO                    _.一〇.19    0.OO  5,12  10,24  15.36 20.48

        淫/ρ∫2e-1

  図習.垂直伝搬シミュレーションで得られた

    電子の熱速度の時空間分布.

ション結果に現れたプラズマの電子の熱速度の時

空間分布を示す.静電波によって加熱される電子

は外部磁界に垂直方向に加熱されるため波動の伝

搬方向(北方向)には加熱領域を離れることはな

い.従って》静電波が減衰した後(、9e!>80)で

もプラズマ電子温度の低下は見られない.

 加熱の結果,プラズマ中の電子サイクロトロン

高調波の分散関係が変化し,最初に励記された電

子サイクロトロン高調波はノーマ.ルモードでなく

なり減衰してしまう,同時に加熱されたプラズマ

中では三波共鳴の結合係数が変り身静電波励起の

成長率は低下するため,最初の静電波励起・減衰

のあとはもはや第2回目の静電波励起が起こらな

いのである.しかし,プラズマ電子加熱が本シ

ミュレーションに見られた程強くない場合(例え

ばMINIXロケット実験のように放射電磁波の周波

数が電子プラズマ周波数や電子サイクロトロン周

波数に塊べすっと筒い場合)・には,加熱後り新し

い分散を満たすように異なった周波数,波数を持

つ電子サイクロトロン高調波が次々と励起益れる

はずである.しかし,この場合でも電子サイクロ

トロン芦調脚揖合叫分散特悔礎生され

蕪轡弊聯1キほないと考

5一之RrLモード鮒鮪酬儲る電子

  プラズマ波励起㊦シ》吻ン

表2にPシミ地酒饗用いラう煙パラメー

ターを示す㌧聯源は垂直轍ρシミP三レーショ

ンの場合と向じよ『うに.物理領域の左端に置かれ

た.励振周波数抵プラぢマ周波数の14.4倍に取←

れた.

表2.計算機実験で用いたパラメータ

    (1次元平行伝搬)

・ブうズマ

光速 0 100.

真空の誘電率 ε0 1.0

電子プラズマ周波数 πe 4.0

電子サ{クロトロン周波数 9e 一1,0

外部磁場 80 1.0

システム

タイム・ステップ幅 ∠ 2 0.01

単位グリッド長 ∠1 x 1.00、

物理領域のグリッド数 lVX :2048

超粒子

電子の電荷質量比、 q/m 一1.0

超粒子数、〈1ρ 32768

熱速度(垂直方向) ひth十 1.0

熱速度(平行方向) ひth■ 10

放射電磁波

励振周波数 ω0 約14.41

波数(モード数) ko 45

放射磁場と外部磁場の比 8/8『W   O 約0,5

128

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講座 波動と粒子の非線形相互作用 松 本

 E之成分を主とする直線偏波が放射されたが,R

モー・ドとLモ」ド波の群速度が微妙に異なるため

システムの右半分ではE成分も現れる.図12に          ツE2+E2の時空間分布を示す.垂直伝搬の場合とy   z

同様に,電磁界エネルギーが吸収される時問『と場

所が見られる,F ge∫~85,220,300の3回にわたり

電流源付近で放射電磁波が弱められ,そのままシ

ステムの右に向って伝搬している.

       MAX霜39.8             -32      、,M附=4,07×10(5ノ.+5ノ)/828。2  ×1・一1

 2.oO

 1.75

 辱.50

 肇.25

 1.00

臨 0,75

、0,50

 0.25

 0.OO

322,56

24肇,92

Ωef 161.28

      MAX=0,0732      MIN=3.67×10-6

(へ/‘8.y21  ×1ぺ

.8064、

0,00

O.00

図13、

駆’I     a60-f                 、1.75      餐~            1.50       ず・ 藁ピ.尭、、      1925

・2,継灘1:ll

            l:碧

            0.OO F5,12  10,24  15,36  20.48

      -1   イ/‘Ωe

平行伝搬シミュレーションで得られた

静電電子プラズマ波の電界E、の二乗の時空間分布.

317.44’

238,08

ρeβ58・72

79.36

oo200

図12.

,MAX一=0,0258

 5.12   10.24  15.36  20,48 ‘

     一1   Jr/‘Ωe

平行伝搬シミュレーションで得られた電磁波の電界成分の二乗(εy2十εz2)

の時空間分布」

 Eズを持つ静電電子プラズマ波(ラングミュア

波)が,この場合にも理論の予測通り励起されて

いる。図13に電子プラズマ波の電界(E.)の二乗

の時空間分布を示す.この電界の最も強い領域で

E、をフーリエ変換し,ω一kダイヤグラム上に示

すと図14のようになる.図の中の実験は線形理論

から計算される電子プラズマ波の分散関係を示し

ており,解析結果はシミュレーションで励起され

た静電波は電子プラズマ波であることを示してい    \る.ただし,E、の波形を吟味することによって明

らかにされた事であるが,システムの右方[x>12

6.OO

ω/ρ14,00

  e

2.00

0.OO

図14.

              々     48         96 Mode  骸ph/‘=0・1727

平行伝搬シミュレーションで得られた

Ex,のフーリエ解析によっで得られた静

電波のω一kタイヤグラム,実線は線形

分散関係式より得られる電子プラズマ波・

の理論分散曲線.

(o/9e)]を比較的速く伝搬している旦成分は波

形がくずれており,電子プラズマ波ではない.シ

ステムの左半分レ<10(o/.9e)]シ特に電流源付

近で非常に緩やかに伝播する成分の波形はきれい

な正弦波状を保っているもので,1後述する低温プ

ラズマ領域を伝搬する電子プラズマ波である.ま

た,図14の電子フ。ラズマ波のフーリエ成分と図10

』129

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核融合研究 第66巻第2号  1991年8月

に見られた電子サイクロトロン高調波のフーリエ

成分を比較してわかるように,平行伝搬モードの

電磁波で勤起された電子プラズマ波の強度は垂直

伝搬の電磁波で励記される電子サイクロトロン高

調波の強度より低い.これは理論の予測と異なる

が,MINIXロケット実験の結果と一致する.

 図15はシミュレーションで得られた電子の熱速

MAX霜0.263

MIN=O.001331NITIAL=0,010

    -2   ×10       暁hx/o.

蒸騨灘-                 5,00

                 4.39                 3.78

                 3,17                 2,56

団28講.箪騨・・f                 1.96

                 1.35                 0.74                 一ρ・13  0,00   0.00  5.12  10.24 15.36 20,48  ’…

          一1       イ/¢ρe

  図15、平行伝搬シミュレーションぞ得られた

    電子の熱速度の時空間分布,

度の時空問分布を示す.電子の加熱は静電波が励

起されている電流源近くで52!~85と220に見ら            eれ,加熱された電子群は外部磁場方向(罪方向)

へ流れ出している.加熱は第1回目が最も強く,

2回目以降は次第に弱くなっている.電子プラズ

マ波の場合,加熱されたプラズマ中の分散関係は

大きく変化し,すぐに(1)式と(2)式の関係を満た

さなくなり,波動波動相互作用は停止してしまう。

しかし,磁力線方向に加熱が生じるため加熱され

た電子はすぐに加熱領域から脱出し,電磁波の励

起電流源付近のプラズマの温度は下がり電子プラ

ズマ波の分散関係も元に戻り,再び2回目以降の

非線形三波共鳴の条件が満たされ静電波励起が起

こるのである.図15の熱電子の空問分布と図13の

電界分布とはシステムの右半分において良く一致

している.このことはシステムの右の方で見られ

る強い電界は電子プラズマ波でなぐ温度の高いプ

ラズマ中の熱ゆらぎ電界であることを示している.

6.ロケット実験結果とシミュレーション

  結果の比較

 前節に粒子シミュレーションの結果の一部を紹

介したが,シミュレーション結果は,なぜ理論結

灘轡嚇1矛騨を明らかに

電子プラズヌ踏電子解㌍、トマン波よりも

弱かづたのは・励起静軍波轡青合亥程式で決まる励

起静電波の慰廊聯ま讐跨町プラズマの状態が加熱忙より変化じ,励起されたプラズマ

波がノーマルモードでなくなり,波動一波動相互

作用が早々と停止してしまうからである,このこ

とが粒子シミュレーションで明らかにされた.ま

た,この波動一粒子相互作用による波動一波動相

互作用の妨害は励起される静電波の分散関係が電

子温度の変化に対していかに大き』いか,小さいか

・によることも明らかにされた.電子温度の上昇に

対し,電子サイクロトロン波の分散が比較的小さ

い変化しか示さないの比べ,電子プラズマ波のそ

れは大きいからである.

 また本稿では紙面の都合上示されなかったが,

もっと弱い放射電磁波の起こす波動一波動相互作

用のシミュレーションを周期境界の下で行った.

いくつかの興味ある結果が得られている.システ

ム長を充分長く取った垂直伝搬の場合のシミュ

130

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講座 波動と粒子の非線形相互作用 松 本

レーションでは,電子サイクロトロン高調波の分

散曲線の複数のブランチ上さ,三波共鳴条件を満

たす(ω0,ω1,ω2),(々0,々1,ゐ2)の複数の組み合

わせが存在し,,大振幅単色の電磁波はぞれぞれの

組み合わせに対応して,複数の散乱波と複数の電

子サイクロトロン波を励起することが確認され

た.このプロセスは並列型三波共鳴と呼ぷことが

出来る.MmIXロケット実験でも1つのマイクロ

波に対し,複数の電子サイクロトロン波が励起さ

れたのは,この並列型三波共鳴が起こったと説明

できる.シミュレーションでは,さらに直列型三

波共鳴と呼ぶべきプロセスも見いだされた,これ

は最初に起こった三波共鳴で散乱される後方に

向って伝搬をする子供の電磁波が,新たに親の電

磁波としての次の三波共鳴を引き起こし,孫の静

電波と散乱波を生み出すプロセスである.しか

し,この直列型共鳴による電子サイクロトロン波

励起においても,電子サイクロトロン波の分散曲

線の特性から,その周波数は大きく変ることな

く,サイクロトロン周波数の奇数高調波付近に留

まることも確認され,ロケット実験の結果がうま

,く理解された.

 一方,平行伝搬の周期境界条件シミュレーショ

ンおい七は,電子プラズマ波の分散が非常に敏感

に電子温度によって変るため,励起される静電波

の強度はあまり強くならない.しかし,加熱後の

新しい分散関係と(1),(2)式により決まる次の三波

共鳴が生じ,結果として広い周波数帯にわたり電

子プラズマ波が見いだされるこということが,こ

のシミュレーションによって明らかにされた.

7、おわりに

 我々が行ってきたマイクロ波エネルギー送電に

関する宇宙ロケット実験の結果が,プラズマの非

線波動理論ではほとんどうまく説明出来なかった.

本稿では,その矛盾を明らかにするために行った粒

子シミュレーションの例を示した,シミュレ7

ションがいつもうまくゆくとは限らないが,人間

の思考の隙間を埋めてくれ為事び多い.特に,粒

子シミュレーションでは,プラズマの基本方程式

とマックスウェル方程式を組み合わせ,できるだ

け人工的な因子を排除して計算を進めるため,シ

ミュレーションは計算機による「実験」としての

色彩を強く持つ.もちろん,境界条件や初期値,

超粒子の限界,差分の精度など充分注意を要する

ことも多いが,シミュレーションの中では最も実

験に近い手法であろう.筆者個人は「シミュレー

ション」という言葉は「実際の物理過程の単なる

模擬的再現」という響きを持つため,あまり好ん

で使っていない.むしろ,我々の理論的思考の欠

如する部分を補い,実験室実験や宇宙実験のデー

タの不足を補う「計算機実験」と呼んでいる.粒

子モデル計算機実験では,実際の宇宙実験では到

底得られない詳細なプラズマ粒子情報,電磁界の

情報が得られる.このため,理論的背景を持てば

持つほどそれに応じて,計算機実験からうまく情

報を引き出せる.その意味で,計算機実験は単に

計算をするだけでは不十分で,充分な物理的洞察

力を伴ったモデルのデザインと1データ解析が必要

とされる.

 シミュレーションは理論も実験も明らかにできな

い物理過程の側面を我々の前に示してくれる可能

性を秘めた新しい研究の道具である.理論と実験

.131

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核融合研究 第66巻第2号  199玉年8月

とシミュレーションの三つをうまく使うことによ

り,プラズマの示す複雑な非線形現象,多体問題

を解決してゆくことが今後の研究者に期待される

であろう,

謝辞本講座で例として示したシミュレーションは,

研究室の大村善治助教授,大学院学生の平田尚志,

橋野嘉孝君,矢代裕之君の協力で得られたもので

ある.また,MINIXロケット実験では神戸大学の

賀谷信幸助教授,電気通信大学の宮武貞夫氏らの

協力を得た.紙面を借りて謝意を表したい.

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1.、

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