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講座 核融合装置における過渡電磁解析五 3.核融合装置における電磁気解析手法 亀有昭久 (サイエンスソリューションズ株式会社) 福本英士 (株式会社日立製作所) 橋爪秀利 (東北大学工学部) (1996年10月7日受理) Methods of Electromagnetic Analyses in Fusion De KAMEARI Akihisa,FUKUMOTO Hideshi*and HASHIZUME Hidet S6勿π06Sol曜ガonsノ魏召7磁琵o郷J Lの07厩oη,Zπo.,To勿oヱ53ノφ魏 *∫五如oh乞1~8s召α70h五αわo名8!o耽y,π席召ohぎ,L渉紘,∫δα70為23ヱ942,ノ砂α% **勲6%1妙oゾ’E%g初667初g,Toho々z6乙存z乞zフ6鴬づ砂,S6フz4漉980-7Z/iのα% (Receive(170ctober1996) Abstract Methods of electromagnetic analyses in fusion devices are reviewed。Va analyses are reinvestigate(l on a basic stand.point.The potential represent dlmensinal electromagnetic field,the gauge problem an(i the role of edge and t1豆n conductor approximation are describe(1.Computer Ai(led Enginee current analyses are also explained。New trend of electromagnetics of s duced from the view point of the皿merical analysis based on the critical state Keywords:F ed(iy curren七CAE system,superconductor,A一φmethod,丁一Ωmethod,T method, edge element,thin conductor approximation,electromagnetic force,high- critical state mo(ie1 3.1導体の渦電流解析 3.1.1 はじめに 核融合装置の渦電流解析においては,プラズマやコイ ルの発生する磁場変動に対し,導体構造材中の渦電流を 求め,それによる誘導磁場,電磁力や発熱が解析される. これらの解析は,プラズマの位置形状等制御,真空容器 やブランケット等の構造や超伝導クライオスタット内の 発熱等を評価,設計する上で重要である.核融合の渦電 流解析においては,非磁性導電性材料が多く用いられる こと,全体構造に比べ薄い構造物が多いこと,磁場の広 がりが大きく開領域の問題となることが特徴としてあげ られる.核融合においては,一般の電磁気装置,たとえ ば変圧器やモーター等における解析手法と共通する手法 が多く用いられているが,上の特徴を生かした解析手法 が開発されており,特異な点も見受けられる. ここで,筆者の一人(亀有)の経験から核融合での渦 電流解析の開発の経緯について若干述べてみたい.また, 文献[1]に1986年当時の現状をレビューしており,また 1223

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聾講座 核融合装置における過渡電磁解析五

3.核融合装置における電磁気解析手法

    亀有昭久(サイエンスソリューションズ株式会社)

    福本英士   (株式会社日立製作所)

    橋爪秀利    (東北大学工学部)

   (1996年10月7日受理)

Methods of Electromagnetic Analyses in Fusion Devices

KAMEARI Akihisa,FUKUMOTO Hideshi*and HASHIZUME Hidetoshi**

 S6勿π06Sol曜ガonsノ魏召7磁琵o郷J Lの07厩oη,Zπo.,To勿oヱ53ノφ魏

 *∫五如oh乞1~8s召α70h五αわo名8!o耽y,π席召ohぎ,L渉紘,∫δα70為23ヱ942,ノ砂α%

 **勲6%1妙oゾ’E%g初667初g,Toho々z6乙存z乞zフ6鴬づ砂,S6フz4漉980-7Z/iのα%

          (Receive(170ctober1996)

Abstract Methods of electromagnetic analyses in fusion devices are reviewed。Various methods of eddy current

analyses are reinvestigate(l on a basic stand.point.The potential representations(A一φan(1T一Ω)of the3-

dlmensinal electromagnetic field,the gauge problem an(i the role of edge elements,and the T-methods

and t1豆n conductor approximation are describe(1.Computer Ai(led Engineering(CAE)systems in ed(1y

current analyses are also explained。New trend of electromagnetics of superconductors is also intro-

duced from the view point of the皿merical analysis based on the critical state mo(1eL

Keywords:Fed(iy curren七CAE system,superconductor,A一φmethod,丁一Ωmethod,T method,gauge problem,

edge element,thin conductor approximation,electromagnetic force,high-Tc superconductor,

critical state mo(ie1

3.1導体の渦電流解析3.1.1 はじめに

 核融合装置の渦電流解析においては,プラズマやコイ

ルの発生する磁場変動に対し,導体構造材中の渦電流を

求め,それによる誘導磁場,電磁力や発熱が解析される.

これらの解析は,プラズマの位置形状等制御,真空容器

やブランケット等の構造や超伝導クライオスタット内の

発熱等を評価,設計する上で重要である.核融合の渦電

流解析においては,非磁性導電性材料が多く用いられる

こと,全体構造に比べ薄い構造物が多いこと,磁場の広

がりが大きく開領域の問題となることが特徴としてあげ

られる.核融合においては,一般の電磁気装置,たとえ

ば変圧器やモーター等における解析手法と共通する手法

が多く用いられているが,上の特徴を生かした解析手法

が開発されており,特異な点も見受けられる.

 ここで,筆者の一人(亀有)の経験から核融合での渦

電流解析の開発の経緯について若干述べてみたい.また,

文献[1]に1986年当時の現状をレビューしており,また

1223

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プラズマ・核融合学会誌 第72巻第11号  1996年11月

関連の論文を参照しているので参考にしていただきた

い.1970年代前半に世界三大トカマク(TFTR,JT-60,

JET)の設計が開始され,真空容器等に発生する渦電流

の電磁力による構造強度やプラズマの位置形状制御に対

する評価のため,渦電流の数値解析の必要性が認識され,

各所で開発が進められた.特に,プラズマディスラプシ

ョンは必至であると予想されていたため,その時におけ

る電磁力評価は緊急の課題であった.日本でも鈴木康夫

(原研)を中心として開発が進めらた.70年代後半にな

ると,その成果が発表されるようになった.亀有等によ

る有限要素回路法,高橋孝夫や小林朋文等(日立製作所)

による差分法丁法,高野一郎等(東芝)による有限要素

法,D.W.Weissenburger等(米国プリンストン大)に

よるネットワーク法等が開発され,これらは今日に至る

まで核融合の渦電流解析の基礎となっている.(ここで

手法名は筆者が勝手につけたもので,詳細は原論文を見

ていただきたい[1].)

 前者3手法は鈴木(原研)の下で競って開発されたも

ので,筆者にとっても貴重な体験であった.当時計算機

の性能が低く計算容量の節減が大変で,有限要素法をや

っておられた高野等はファイル入出力に非常に苦労され

ていた.有限要素法による解析は当時としては先駆的な

ものであり一定の成果は出たものの,実用的になったの

はその10年以上後になった.当時からゲージ条件の議論

が有り,盛んに議論を交わした記憶がある.有限要素法

以外は薄板近似を使ったシェル解析であり,その後の実

用化に適したものであった.特に,有限要素回路法によ

るEDDYTORUSコードとネットワーク法によるSPARKコードやその変形,改良されたものは広く使わ

れて来ている.両手法は要素内の電流分布の設定が若干

異なるものであるが,定式はほとんど同じと見てよい.

 その後,80年代後半になって,三次元解析が行われる

ようになり,橋爪秀利等P(東大)による丁法,松岡不識

等(三菱重工)によるA一φ法による有限要素境界要素

結合法の開発があった.両手法とも空間メッシュの分割

がいらないものであり,核融合における解析には適した

ものであったと思われる.ヨーロッパでは,A.Bossa-

vitやR Albanese等により,今でいう辺要素を用いた

渦電流解析手法が発表された.筆者も当時有限要素法に

よる三次元解析を進めており,辺要素の出現はショック

であり直ちに導入し,高次要素への拡張等に努めた.辺

要素を用いると従来問題となっていたゲージ不定性につ

いての議論がすっきり解決でき,また数値解析的にも

ICCG法(前処理付き共役勾配法)との相性がよく低容

量,高速な解析が可能となった.Albanese等が発表し

た辺要素による電流ベクトルポテンシャルTを用いた

定式は,筆者等が進めてきた有限要素回路法の二次元か

ら三次元への直接の拡張になっていた.そこではグラフ

理論を用いtreeとco-treeへの分解により,三次元にお

いて実質的には二成分の変数を解析すればよいことを示

した.これは,常々三次元への拡張について考えていた

筆者の目を開かせるものであった.付言するならば,辺

要素に等価なものは,菊池文雄(東大)や波野光夫(山

口大)等がそれ以前に高周波領域において考案されていた.

 さて,以下において,上の経緯を踏まえ,渦電流解析

手法について筆者なりに概観するとともに,核融合で用

いられている各種の手法がどのような位置にあり,また,

各手法がどのような関係を持っているかを考えてみたい.

3.1.2 渦電流解析における基礎方程式

 渦電流解析を基本から考える場合,(1)どのように

電磁場を表現し,どのような方程式系を解くか,(2)

どのように離散化し,数値解析をするかが重要である.

(1)に関しては,A一φ,T一Ω,その他のポテンシャルの

選択やゲージ条件の入れ方があり,(2)に関しては,

有限要素法,境界要素法,積分法,差分法等種々な離散

化数値解析手法の選択,行列解法の選択があり,それら

の選択の違いにより多くの解析手法が開発されている.

ここでは,(1)の観点に重点を置き渦電流解析手法に

ついて概観する.

 渦電流解析においては,Maxwell方程式より変位電

流を無視した,いわゆる準静磁場方程式が解かれる.微

分形式で次のように表される.

▽×E=一み

▽×π=1▽・B=0

▽・1=0

(1)

(2)

(3)

(4)

ここで,Eノ;Bおよび丑はそれぞれ電場強度(V/m),電

流密度(A/m2),磁束密度(T,Wb/m2)および磁場強度

(A/m)であり,三成分ベクトル量であり位置および時問

の関数である.▽×および▽・は位置に関する回転およ

び発散の微分演算子,上付きのドットは時間に関する微

分を表す.Eと∫および丑とBの間の関係は次の構成

方程式で与えられる.

∫=招

B=、μ丑

(5)

(6)

ここで,σおよびμは電気伝導率と透磁率であり,一般

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講  座 3.核融合装置における電磁気解析手法 亀有,福本,橋爪

には位置および時聞の関数であり,非等方性材料の場合

はテンソル量である.鉄材等の磁性材の場合,透磁率は

磁場に対して非線形でヒシテリスを含む複雑な関係とな

る.真空あるいは空気領域では電気伝導率はゼロで,透

磁率は仰(麟4π×10一7)に等しい.(1)から(6)の

方程式を適当な初期条件と境界条件の下に解く.

 ここで重要なことは,(3),(4)は(1),(2)式

に含まれていることである.すなわち,初期条件として

(3)が満たされると,(1)の発散をとることにより,

以後の時刻においても(3)が満たされる.同様に,(4)

は,(2)が満たされれば,満たされる.数値解析上は

手法によって異なってくるが,(3),(4)を束縛条件

とし,(1),(2)を解くことが多い.

 非導電性領域や電流分布が決まっている励磁コイル領

域では,(2),(3)のみが解かれ,(1),(4)は一般

には解かれない.すなわち,(4)に対しては,∫は強

制電流で入力として満足するものが与える必要があり,

(1)は解かれずEは決定されない.このことは空気領

域等非導電性領域に電場が存在しないことを意味しな

い.誘導電場はもちろんあるし,電荷による静電場もあ

るはずである.ただ,この電場は導体内電流への効果が

非常に小さいことを意味している.また,電荷がこれら

の式には含まれないが,実際は電荷が導体表面や導電率

が非均一なところに分布し,電流密度が(4)を満たす

ように強制していると考えることができる.

3.1.3ポテンシャルとゲージ条件

 準静磁場方程式(1〉~(6)を解くにあたって,多く

の場合ポテンシャルが導入される.代表的なものは,磁

気ベクトルポテンシャル且と電気スカラーポテンシャ

ルφを用いるA一φ法と電流ベクトルポテンシャルTと

磁気スカラーポテンシャルρを用いるT一Ω法がある.

A一φ法においては

Bニ▽×践Eニーふ▽φ

とおかれ,T一Ω法においては,

1=▽×丁丑=少一▽ρ

(7)

(8)

とおかれる.

 すぐわかるように,A一φ法では(1),(3)が自動

的に満たされるようにしており,(2),(4),(『5),(6)

より解くべき方程式は,

   1∀×一▽×A=一σ(.4+▽φ)    』(9)   μ

一▽・σ(且+▽φ)鷺0       (10)

となる.一方丁一Ω法では,まったく同様に,(2),(4)

が自動的に満たされるようにしており,(1),(3),(5),

(6)より解くべき方程式は,

  1▽×了▽×丑一一μ(肇▽ゆ)

▽tμ(T一▽イ2)=0

(11)

(12)

となる.

 ここで,いくつか論点を述べると,一つは,A一φ法

とT一Ω法は,構造解析でいう応力場と歪み場をそれぞ

れ変数とする定式と同様に,双対関係にあることである

[2,3].このため,静磁場解析における全磁気エネルギー

や定常解析におけるジュール発熱量等に対し,両方法で

解かれた値が上下限値を与える.過渡渦電流解析のよう

な場合もその傾向があるが,理論的には明らかになって

いないと思う.

 次に,前にも述べたことから(10),(12)は(9),(11)

に含まれることである.しからば,4値の場(一つのベ

クトル場と一つのスカラー場)を解くのに,一つのベク

トル式しかなく解けないのではないかという疑問が湧

く.実際,従来の有限要素法では(9),(10)および(11),

(12)はそれぞれ連立して解かれる場合が多かった.こ

れを矛盾無く理解するには,ゲージ変換と場を近似する

関数空間を考える必要がある.

 (7),(8)は次のゲージ変換に関して不変,すなわ

ちゲージ変換しても物理量は変化せず,(9)~(12)は

変換されたポテンシャルでも成り立つ.ゲージ変換は,

任意のスカラー場πに対して,A一φ法では,

盆=且一▽乃φ’=φ+濯

T一Ω法では

TニT+▽X,ρ’ニρ+濯

(13)

(14)

である.このことは,(9),(10)あるいは(11),(12)

の解が不定であることを示しており,実際,独立な未知

数ポテンシャルの自由度は3であり,独立な式の数と

一致する.この不定性をなくすためには,ポテンシャル

間に関係を与え,これをゲージ条件と呼ぶ.例えば,

▽・A=0はクーロンゲージと呼ばれよく使用されている.

 A一φ法においてクーロンゲージを課すと,一且は電流

の時間変化による誘導電場,一▽φは電荷による静電場と

解釈することができる.しかし,一般には,このような

分解は意昧を持たず,各ポテンシャルは数値解析上の意

味しか持たない.すなわち,.(7),(8)により,電場,

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プラズマ・核融合学会誌 第72巻第11号  1996年11月

磁場に焼き直して初めて物理的意昧を持つ.

3.1.4節点要素と辺要素

 有限要素法等の数値解析においては,空間を要素に離

散化し,要素内にある形状関数を設定し,空間内の場を

その形状関数の和で近似する.従来,Aの三成分およ

びφを同じ形状関数(連続で離散的に微分可能な関数)

で展開する手法が多く取られてきた.このとき,一般に

はその関数空間内では(13),(14)のゲージ変換ができ

なくなる.このことは,たとえば(13)の第一式で且

は連続な関数であるが,▽πは不連続な関数であること

からすぐわかる.πは(13)の第二式よりφと同じ連続

性を持たなければならない.このことが,且とφが独

立なものとし,それを解く場合も(9),(10)の両方の

式が必要となった理由である.この時,クーロンゲージ

等のゲージ条件を課す場合が多いが,数値解析の安定性

を増すようではあるが,その理論的意味は不明確である

[4]..T一Ω法の場合も全く同様なことがいえる.

 一方,且に対してφと異なった形状関数を用いる方

法が取られるようになってきている.(9)を解く場合,

且の要素境界での連続性は境界面の接線成分のみの連

続性が要求され,法線方向の連続性は要求されない

(T一Ω法の場合も同様).このことより,接線成分の連

続性のみを持つ形状関数が考案され,最近多く用いられ

成果が出ている[5-7].この方法では,要素の辺に変数

が割り当てられることが多く、辺要素法と呼ばれる.こ

れに対して,前の方法は節点に変数が割り当てられるた

め,節点要素法と呼ばれている.接線成分のみの連続性

を仮定することは,Eが導電性が不連続な面で,また

πが透磁率が不連続な面でその法線成分が不連続にな

ることを考えても合理的である.

 辺要素法においては,数学的には自明な関数関係(回

転がゼロのベクトル関数空問とスカラー関数の勾配で表

される関数空間が一致する)が,離散関数空問の中でも

成立し,ゲージ変換が可能となる。このため,例えばφ

を零とするようなゲージ条件が可能であり,変数として

.4のみを用いるA*法がある[6,8].この場合,(9)に

おいてφを無くした式のみが解かれる,T一Ω法の場合

には,導体中でρを零とするゲージ条件が可能であり,

この時変数はTすなわち丑のみを用いるH法とも呼べ

る方法がある[5].

 それでは,φやρのスカラポテンシャルは不要だ,

ということになるが,これらは電磁場の非回転場を表現

しており,これらを残しておくことは意昧がある.定常

電流場はφのみで,静磁場(渦電流解析の場合も非導

電性領域の磁場)はρのみで表現でき,(10)で且を

あるいは(12)でTを除いた式が解かれる.また,φ

の使用は導体への電圧印加や電流流入等を与える場合に

便利である[9,10].

3、1.5 丁法について

 核融合の渦電流解析においては,T一Ω法や0を消去

した丁法が多く用いられる.かつ,導体のみを離散化し,

空気領域の磁場は積分法や境界要素法で解かれる場合が

多い.Tを用いるのは,Tは(8)の第一式からわか

るように電流を直接表現しており,核融合においては電

流自体に力点が置かれていること,また電流を変数とす

るとインダクタンスと抵抗からなる電気回路系との対応

づけができることが要因になっていると思われる.また,

積分法等が用いられるのは,核融合構造物が複雑で空問

領域を要素分割するのが容易でないこと,開領域に対す

る解法であること,薄板近似が容易であることによると

考えられる.これらの定式は,非磁性導体のみを扱う.

 さて,簡単な場合として,非磁性導体の単閉領域領域

をV1とし,その外の領域をV2とする.、V1およびV2

の両領域において透磁率は仰であり,一定である.そ

れらの境界面をS,導体から外向きの単位法線ベクトル

をπで表す.

 T一Ω法の定式において,(12)はV1において

一▽2ρ篇一▽・T

となり,V2において,

一▽2ρ瓢0

(15)

(16)

となる(非導電性領域では磁場はρのみで表現可能).

また,境界Sにおいては,ρは連続でT×η=0とし

(■π篇0と(8)のゲージ変換により可能),磁束密度

の法線成分が連続なことより,

(T一▽ρ)・πIl=一▽9・π12 (玉7)

が満足される.添字はV1とV2の両領域での値を示す.

(15)から(17)は、Ωに対して解析的に解けて,

ρ㈲一一凱1器d7・疑[舞ldS・囎

                    (18)

となる.ここで,ダッシュは積分点における値および微

分演算であり,ρは座標点,T。(ニ丁切は表面SでのT

の法線成分である.また,0、は,V1以外からの印加磁

場を表す.

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講  座 3.核融合装置における電磁気解析手法 亀有,福本,橋爪

 丁法の一つの定式[11](以下丁法一1と呼ぶ)はここで,

導電性領域でクーロンゲージ条件▽・Tニ0を課す.・そ

のとき,(18)の右辺第一項は消去され,(11)式に代入

すると,

▽×÷▽×磁舞1券1醸一・(19)

が得られる。ここで,&ニμo恥=一▽、Osである.本

式を,導電性領域のみの有限要素法で解く場合が多い.

クーロンゲージが必要なため,要素境界でTの法線方

向の連続性が必要とされ辺要素法を用いることは困難

で,三成分が連続な節点要素法が用いられる.クーロン

ゲージ条件はペナルティ法等で課せられる場合が多い

が,数値解析上厄介な面が多い.導体内部の変数と表面

の変数が結合しており,離散化した後の方程式の行列は

かなり密なものとなる.表面上の変数はT。のみであり,

T.と導体外部の磁場とは(18)右辺第一項を消去した

式の関係があり,(19)もT。がわかれば一意的にTが

解ける形になっており,逆解法に有利であり,渦電流探

傷(ECT)の解析に多く用いられている[12].

 一方,ゲージ条件を課さない定式[13](以下丁法一2

と呼ぶ)があり,この時,(18)を変形すると,

…▽ρ一岩▽・左謡d凪 (20)

と表される.本式はビオ・サバール則に他ならない.こ

れを,(11)に代入すると,

▽×蓄×略▽×ん噺蔽一・(21)

が得られる.ここで,左辺第一項を有限差分して解く差

分法丁法がある.また,有限要素法的に,本式に重み

関数Nを掛け,変形すると次の弱形式が得られる.

ゐ      1 ▽×ノV・▽×一▽×Td『V      6 1

・瓠▽×1評一・ゐ    1  コ     ロ  ▽×ハ!・且sd7ニO

 l

(22)

ここで,Asは印加磁場による磁気ベクトルポテンシャ

ルであり,ビオ・サバール則により求まる.(21),(22)

はゲージ変換(14)に対し不変であり,辺要素法を用い

ると不定性がある.この不定性を除くため,グラフ手法

により要素辺をtreeとco-treeに分解する.この手法は

回路網の独立変数を決定する方法と同様であり,独立な

変数を決定できる.co-treeに割り当てられた変数が独

立変数となり,tree辺に割り当てられた変数は零と置

くことができ方程式から除ける.このため,三次元解析

においては基本的に2方向の場を解けばよいことになる.

 (22)を有限要素で離散化し,行列形式で表すと,

魚+厩二e (23)

となる.この形は,一般のLR回路の方程式と同じであ

り,κは電流ベクトル,cは起電力ベクトル,Rは抵抗

行列およびLはインダクタンス行列と考えることがで

きる.実際,卑の各変数は辺上のTの辺方向成分の積

分値であり,辺を回転して分布している電流の大きさを

表しており,R,Lはそれらの要素電流の間の自己およ

び相互抵抗とインダクタンスを表している.ノ~,Lは共

に正値対称行列であり,Rは疎行列であるが,Lは密行

列となる.(23)は時間に関して一階の微分方程式であり,

ルンゲ・クッタ法等で解くこともできるが,固有値展開

の方法もとることができる[14].すなわち,

L銑=λnノ~錫 (24)

の固有値方程式を解き,駕を銑で展開する.錫はそれ

ぞれ独立な電流固有モードを表現し,固有値は電流モー

ドの減衰時定数となる.このように展開すると,(23)

はそれぞれ独立な一変数の方程式になり,簡単に解ける

(固有値解析が必要であるが).

 ネットワーク(メッシ兵)法があるが,その手法は上

の方法に近く,ただ要素電流の分布に対する仮定がが異

なるだけで,例えば極端には導体内の電流分布を線電流

の集まりで表現する場合がある.この場合,キルヒホッ

フの第一則に相当する電流保存則を課す必要がある(T

で表現した場合は自動的にこの条件は満足される).

 以上の丁法は,初めの仮定より磁性体を含む場合に

は使えない.この場合は有限要素法,あるいはその境界

要素法との結合手法が使われる.また,最近は積分法の

定式化により解くことが提案されている.この場合,密

行列を解く必要があり,大次元の間題を解く場合間題が

あり,ベクトルあるいはパラレル計算機による高速化が

重要である.高寿命の磁性構造体が将来炉には使われる

可能性があり,磁性体を含めた渦電流解析手法の実用化

が期待される.

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3、1、6薄板近似

 薄板近似は,印加磁場の時間変化が,導体板の表皮電

流の時定数よりも充分遅く,表皮効果が無視でき,渦電

流の分布が厚さ方向に一定と考えられる場合に適用され

る.すなわち,τ《μoσ♂の場合である.ここで,τは

印加磁場の特徴時間,4は板厚である.核融合装置にお

いては,この近似で十分な場合が多くよく用いられる.

この近似は,三次元の定式に対し,面導電率亀二磁を

与えられるものとし,4を零にする極限のものと考えら

れる.このとき,導体板内の電流面密度(A/m)は9V=

Tn4のみで表現できる.ここで,T.はTの薄板面法線

方向成分である.

 丁法一2の薄板近似からの変形は簡単で,(22)の中で

▽×盟=▽s7×π(▽,は面内での勾配)と置き換え,

体積積分を面積積分に置き換えるだけでよい[15].三次

元で一層の有限要素分割を考えると,板を裏面から表面

に横切る辺が,薄板の場合になると点に縮退すると考え

ると,三次元と二次元の解析は全く同じと見てよい.

 一方,丁法一玉を考える≧,(19)の表面積分は導体板

の表裏両面の積分の差となる.このとき,板厚が小さく

なるほど被積分関数の特異性が大きくなり,また(19)

の左辺第2項と第3項は互いに打ち消すようになり,基

本的に板厚が零の極限は取れず,有限の板厚を仮定する

必要がある.板厚が非常に小さい場合,表面積分の精度

が厳しく,解析上困難な場合があるようである[16].

 薄板近似の解析は比較的自由度が少なく計算負荷が小

さいため初期の頃から多く用いられ,実用化されて来た.

しかし,自ずと限界があり表皮効果が現れる場合には適

用できない.また,磁性材の場合は,表皮厚さが小さく,

薄板近似そのものが使えない場合が多い.かつ,面方向

の磁場が重要となり,面法線方向の磁場しか考えない

丁法薄板近似の単純な拡張には疑間がある.

3.1.7 おわりに

 以上,準静磁場方程式から,ポテンシャルの導入,三

次元解析におけるゲージの問題およびそこにおける辺要

素の役割,丁法およびその薄板近似への展開について

述べた.実際の渦電流解析の開発過程においては,むし

ろ逆方向に進んでおり,薄板近似が最初に実用化され,

三次元解析が実用になってきたのは最近のことである.

筆者なども有限要素回路法を開発するに当たっては,抵

抗とインダクタンスの概念しか無かった次第である.本

稿では,今から思えばこういうことであったのか,とい

う気持ちで書かせていただいた.

 さて,1980年代に三大トカマクが稼働を始め,いろい

ろ渦電流や電磁力に関わる結果が出た訳であるが[17],

その中でJETにおいてディスラプション時に真空容器

が変形し,それが従来の考えられていた誘導渦電流によ

る電磁力では無く,ハロー電流に起因するものであるこ

とが報告されたのは予想外のことであった.これは,従

来の渦電流解析手法では評価することは困難であり,筆

者などは始めは半信半疑であり,他の装置でも見られる

ことが解り当惑させるものであった.その後,徐々にそ

の機構が明らかになり評価もかなり進んだことと思われ

るが,いまだ十分な解析評価手法が確立したとは言い難

い.この解析には,プラズマとの連成を考える必要があ

り,今後の重要な課題と思われる.

 現在に至り,渦電流解析手法は種々開発され,三次元

の解析も計算機の発達やCAEシステムの高度化と相ま

って実用のレベルに達している.しかし,いまだ核融合

においては二次元シェル解析が主流であり,三次元解析

が現実レベルで実用的になっているとは言い難い.三次

元解析においては,計算容量や計算時間が膨大になるだ

けでなく,計算メッシュの生成や膨大なデータの処理等

が問題となり設計現場での採用がなかなか難しいと思わ

れる.しかし今後これらの問題が解決され,より高度な

解析が可能なものとなることが期待される.

 今後,実験炉や実証炉の解析評価が重要となってくる

が,装置構造がより複雑になってくることが予想され,

単純な解析の大規模化だけでは対処できない可能性もあ

る.今でも大型真空容器内のリミターや配管にどのよう

な電流が流れ,どのような電磁力が働くかを評価するの

は容易い問題ではなく,ブランケット等の複雑構造各部

の解析評価をすることの困難さが伺われる.ここにおい

ては,構造体のモデル化や解析手法の一層の高度化が必

要となろう.             (亀有昭久)

3.2 CAEシステム これまでに述べてきたように解析手法の高度化と計算

機能力の大幅な向上とにより,1970年代のJT-60設計

当時には高々真空容器の単純トーラスモデルを解析する

ことで精一杯だったものが,今ではJT-60U,ITERなど

を対象に真空容器,ブランケット,トロイダルコイル,

遮蔽体等の複雑形状をほぼ忠実に扱う解析が可能となっ

ている.このように扱うモデルが複雑大規模化するにつ

れ,CAEシステムの重要性が増大している.

 核融合装置電磁解析のCAEシステムの大きな役割

は,複雑大規模な装置モデルを効率よく生成するだけで

なく,渦電流解析で得られた発熱や電磁力分布をそれぞ

1228

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講  座 3.核融合装置における電磁気解析手法 亀有,福本,橋爪

れ温度解析や構造解析に受け渡し,装置の温度分布,応

力分布等を評価し,構造設計に反映することにある.特

に後者の目的のためには,渦電流解析や温度解析,構造

解析等の間で入出力データを標準化し,形状入力から応

力評価まで一貫して効率よく計算できるようにする必要

がある.そのため,これまでに様々な解析システムが提

Geometry Data Generation

一Boundary and Calculation ConditionData Generation

一欝難鰯羅灘轟癖、

一Electromagnetic Force Distributionto Load Condi重ion Data.Conversion

鰭嚢欝呼姻

一Stress and Defbrmation Distribution

Fig.1 CalcuIation fbw in eddy current induced

   stress and deformation evaluation.

案されてきた[18-22].これらのシステムは使用するプ

ログラムは違うがシステム構成,データの流れはほぼ同

じである.特に渦電流解析は全て薄板近似による二次元

シェル解析を基本としている.最近,薄板近似によらな

い体積要素による三次元解析が盛んになってきたが,前

節でも触れたようにまだ計算時間などの観点から核融合

装置の標準的な設計ツールとはなり得ていない.

 ここ数年の計算機性能の飛躍的な向上に伴い,渦電流

解析,応力解析とも大部分はスーパーコンピュータから

ワークステーションに舞台を替え,さらにグラフィック

インターフェイス技術の向上もあいまってCAEシステ

ムは前掲文献が執筆された当時からその姿を急速に変え

つつある.以下では,その中でも最も核融合電磁設計

CAEシステムとして固有かつ基本なる事項について述

べる.

 Fig.1に核融合装置設計におけるCAEシステムの流

れを示す.また,Fig.2に解析の流れに沿った途中経過

の表示例を示す.渦電流解析の形状入力データ作成では,

複雑構造物の形状入力のしやすさ,構造解析とのメッシ

ュの共通化などの観点から構造系の汎用メッシュ生成プ

ログラムが多く使用される.その際,渦電流解析と構造

解析とでそれぞれの解析の特徴を生かしつつデータの共

有を図るために,節点は両者で共通にするが渦電流解析

Ohgin田

Defomed

Sur£ace      ’inte疋S㏄ti・n争ノ

    .4

Cut lines

Periodic

boundades

・∫∫鯉く

4θ. 噸  ρ  ら、

縫ら9779馳

  り、、 、 馬 、∂、 bO64    .㌧ も、

8翌・.・≧

篭も覧  剛

7㌔騒,

ρ伽隔∂

Cut lines

(a)FiniteElementMesh         (c)Eddy CurrentFlownnes    (e)De撚omationDistribution

         (b)Boundary Conditions        (d)Nodal For㏄Distribution

Fig、2 Various plots in CAE system.

1229

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プラズマ・核融合学会誌 第72巻第11号  1996年11月

では三角形1次要素,構造解析では四角形1次または2

次要素というように要素種別を使い分ける工夫などがな

される.

 形状入力と並んで境界条件設定の効率化が大変重要で

ある.構造系汎用メッシュ生成プログラムでは構造解析

のための機械的拘束条件や荷重条件等は扱えるが,渦電

流特有の境界条件や計算条件は扱えないため別に専用プ

ログラムを用意する必要がある.渦電流計算で課すべき

境界条件としては,トーラスの周期対称性や面対称性な

どの対称条件の他,ポート穴部や絶縁端部等の導体端部

条件,ポートやリブなどの複数導体接合条件等がある.

さらに最も広く用いられている薄板近似丁法による解

析では,曲面上のスカラーポテンシャルを未知数としそ

の勾配で渦電流を表現するため,トーラスのような多重

連結曲面では未知数の多価性が間題となる.これを除去

するためには,この解析特有の境界条件として領域を単

連結曲面に分割するカットを設け,カットに沿って多重

節点を設定する必要がある.このような多種の境界の同

定,多重節点の設定等の作業は,メッシュ生成作業と並

んで最も時問を要し,その自動化,効率化の度合いで扱

えるモデルの複雑さが左右されるといっても過言ではな

い.特に,多重連結曲面のカットはモデルの形状ではな

く位相構造によって決まるため,手作業での設定には経

験と時間を要する.そこで曲面の位相幾何的構造を解析

し必要十分なカットを自動生成するアルゴリズムが提案

されている[23-25].

 以上の他,渦電流の計算条件としてソース条件の設定

が重要である.ソース条件は,プラズマのデイスラプシ

ョンやポロイダルコイルの電流変化など多種多様の条件

を扱う必要があり,場合によってはプラズマ動特性解析

プログラムや磁場解析プログラムとの連成インターフェ

イスが必要になることもある.

 渦電流解析の結果,渦電流密度分布やジュール発熱分

布と合わせて電磁力分布が出力される.この電磁力分布

を入力に次に構造解析を走らせることになる.渦電流解

析で求まる電流分布は分布荷重であるのに対し,構造解

析の入力は節点集中荷重の形を取るのが普通であるの

で,それらの間のデータ変換が必要である.節点物理量

から要素分布量へは有限要素法の内挿関数により簡単に

変換できるが,その逆は必ずしも容易ではない.このデー

タ変換の精度が十分でないと渦電流は対称でも非対称な

変形が生じる等の問題が起きる.この問題は幾何学を計

算機で解かせる地理情報処理の世界で発達したボロノイ

内挿法などの応用で解決できる[26].

 以上,核融合装置の構造を決める上では渦電流解析と

構造解析が必要不可欠な設計ツールとなっているが,そ

の高効率化,高精度化に必要なCAE関連技術について

述べた.これらは華々しい発展を遂げている解析技術の

陰に隠れた裏方的技術であり,その泥臭さのゆえに取り

上げられることは少ないが,設計効率を直接左右する重

要性を握っている.ますます大型化,複雑化する核融合

装置の設計の成否を決める重要技術であるばかりでな

く,今後の三次元解析による設計実用化に向けてさらな

る技術開発が待たれている.       (福本英士)

3.3超伝導体の電磁解析

 核融合炉・SMES・磁気浮上列車等で使用されるマ

グネットは,超伝導マグネットであり,電磁・熱・構造

連成解析もこの比較的大きな体系に対して実施されてい

る.一方,マグネットの大型化・使用環境の過酷化に伴

って,超伝導マグネットの設計・製作が非常に困難な状

況になりつつあり,高信頼性・高経済性を有するマグネ

ットを製作するためには,超伝導体における電磁場解析

を実施し,素線単位での設計が不可欠となってくる.

 超伝導体における電磁場の解析を実施する場合には,

量子力学が対象としているような微視的解析か巨視的な

解析か,対象とする超伝導体の種類(第ユ種超伝導体・

第2種超伝導体),印加される磁場の大きさ・変動速度

の大きさによって,異なった理論が必要となる.ここで

は,これらの中で核融合炉に特に関係の深い,第2種超

伝導体内での巨視的な電磁場解析に焦点をあてて説明する.

3.3.1微視的理論から巨視的な取り扱いへ

 超伝導現象を説明する微視的な理論としては,BCS

理論が有名である.この理論では,電子一フォノンー電

子相互作用によって,電子間に働くクーロン反発力に打

ち勝つ引力が電子間に働き,クーパー対が生成されるこ

と,さらに,この対を形成した状態の方が全体のエネル

ギー状態が下ること(エネルギーギャップの存在)を説

明している.すなわち,常電導状態では電気抵抗となる

電子の散乱は,このクーパー対を壊すことになるため,

逆にエネルギーが必要となり,超伝導状態では電子の散

乱がなく電気抵抗がゼロとなると説明される.より詳し

く知りたい方は例えば文献[27-29]を参照して頂きたい.

よりマクロな理論として,GL理論がある.この理論は,

BCS理論から導出できる理論であり,マイスナー効果

を説明するロンドン方程式や,複連結の第1種超伝導体,

第2種超伝導体で見られるフラクソイドの概念を説明し

ている.なお,歴史的には,ロンドン方程式(1935年),

1230

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講  座 3.核融合装置における電磁気解析手法 亀有,福本,橋爪

Ha 輸

楓 血《竣

  Fluxoid

Φ/』

 血  α幽幽d論

ノノ

 

ヒ   X

Shielding cun!ent

 Fig.3 Schematic view of fluxoid distribution.

Bz

0

Bz

『0

9

3

GL理論(1950年),BCS理論(1957年)と,巨視的な

理論から,微視的な理論へと発展してきている.

3.3.2第2種超伝導体を取り扱うモデル

 第2種超伝導体では下部臨界磁場(πc1)と呼ばれてい

る磁場以下の磁場が印加されている時には第1種超伝導

体と同様にマイスナー効果を示す.しかし,それ以上の

磁場が印加された場合には,Fig.3に示すように,超伝

導体内部に常電導の核を持ったフラクソイドが現われ,

上部臨界磁場(π、2)まで超伝導状態を保つ.すなわち,

超伝導体は遮蔽電流によって外部磁場から遮蔽されてい

るが,内部にソレノイドコイルのようなものができ,磁

場が通り抜けるトンネルのようなものを作っている状態

が現われる.このような状態を直接取り扱って工学的に

意味のある体系での電磁場解析を実施することは,非現

実的である.そこで,この状態を巨視的に取り扱うモデ

ルを導入する.フラクソイドは超伝導体表面から発生し,

外部磁場の磁気圧によって徐々に内部に侵入し,超伝導

体内のピン止め中心と呼ばれる通常不純物等による常電

導部分にエネルギー的に安定となるためにピン止めされ

捕捉されると考えられる.その結果,内部に行くにした

がって徐々にフラクソイドの密度が減少して行くと考え

られる.したがって,Fig。3で劣方向に流れる電流を求

めると,密度の差から,負の劣方向に流れる正味の電流

が現われる.一方,表面部では,劣の正の方向に流れる

電流が存在するため,結局,詫方向に流れる正味の電流

は無くなる.これは,もともと閉じたループ電流の集ま

りであり,ある方向への正味の電流は存在しないのだか

ら当然のことである.しかし,Fig.3に示したように超

伝導体表面には,遮蔽電流が負のx方向に流れており,

この電流と,正の冗方向に流れる電流とがちょうどキャ

ンセルすることになる.以上より,超伝導体内部に負の

劣方向に流れる正味の電流が存在し,この電流値より巨

視的な電流密度が計算できる.より定量的なことは文献

Jx

y

一Jc

y

Jc

Jx

ly=一

9 9 ●       01 9 一       .

1 o 1       ・一       〇〇        書

J陰 1 .

1■

o1oo1,

118

y

Jc

・Jc

(a)in ca6e of Held inc爺ease  (b)in case of丘eld decrease

Fig.4  Changes of averaged current density and

   magnetic field intensity、

[30]を参照して頂きたい.この電流密度が臨界電流密度

ゐと等しいとおいたモデルが臨界状態モデルであり,

臨界電流密度が磁場の強さに依存しないとするモデルが

ビーンモデル,依存性を考慮したモデルの1つにキムモ

デルがある.

 ビーンモデルでは,フラクソイドの密度勾配が磁場の

影響を受けず,一定とするモデルであり,したがって,

超伝導体内の巨視的電流分布と磁場分布は外部磁場がゼ

ロの状態から増加する時,Fig.4(a)に示されるように

なる.しかし,外部磁場が増加から減少に転じた時には,

フラクソイドの運動を考えれば,Fig.4(b)に示してあ

るように,全体的に磁場分布が降下せず複雑な分布にな

る.これはピン止め力はフラクソイドの内部への移動に

対してだけではなく表面への移動に対しても作用するた

め,表面近傍のフラクソイドの表面への移動が超伝導体

内部のすべてのフラクソイドの表面への移動を引き起こ

さないためである.このように,第2種超伝導体は磁場

の上げ下げに対してヒステリシスを示し,エネルギー損

失の原因となる.

3.3.3 臨界状態モデルに基づく電磁場解析

 Fig.4で説明した臨界状態モデルと等価な構成方程式

は[30-32]

1231

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プラズマ・核融合学会誌 第72巻第11号  1996年11月

  孟∫=  E=σ、E IEI≠O  IEl

∂1

一二〇 IEl=0∂!

(25)

(26)

となる.ここで,孟は臨界電流密度,瓜は超伝導体の

仮想的な導電率である.すなわち,磁場が増加している

時は,磁場変化によって電界が誘起され,式(25)によ

って臨界電流密度に等しい電流が流れ,その後,磁場が

減少する場合には,磁場変化がある領域では式(25)に

よって電流が流れ,磁場が遮蔽され磁場変化のない領域

では式(26)によって以前の時間に流れていた電流密度

で電流が流れることになる.

(1)丁法による数値解析アルゴリズム

 構成方程式が得られたので,巨視的超伝導電流分布を

求めることが可能となる.まず,電流ベクトルポテンシ

ャル法(丁法)に基づく解析について述べる.丁法に

基づく支配方程式は[31],

  1     ∂▽×万▽×丁講一∂渉(昂+乱)

B一制▽・×豚▽R孟が)醐、

・(27)

(28)

で与えられ,Boは外部磁場を,Rはゑガ問の距離を意

味する.通常の常電導体内での解析では,その物質のσ

を用,い,超伝導体内での解析では式(25),(26)を満足

するように以下の数値解析スキームを用い収束解が得ら

れるまで反復計算を繰り返す[31,33].

1)砿の初期値を十分大きく仮定する.

2)得られた電流密度1淵が∫。より大きい場合には

      111砿(π一継1)需ゐ砿(%吻

(29)

が,このスキームの場合には砿の初期値が十分大きく

なっているので,電界がゼロで導電率が大きい導体中で

は電流密度が時間変化しないことを考えれば,式(26)

は自動的に満足される.このように,超伝導体を特殊な

構成方程式を持つ導体として扱うことによって,超伝導

体内を流れる電流分布の評価が可能となる.また,キム

モデルに基づく解析用の改良スキームも提案されている

[30].これらのスキームを利用して,2次元・3次元超

伝導体のヒステリシス損失・結合損失の評価[30-31,33-34],クエンチ伝播の解析[35,36],などが行

われている.なお,上のスキームはT一Ω法にも適用

可能である.

 一例として,Fig。5に安定化材の銅に挟まれた超伝導

体でのクエンチ伝播の解析の結果を示す[36].対称性を

考慮して全体の1/4の領域を解析しており,図中の原点

近傍に人為的に発熱を与え,その後の電流分布,並びに,

磁束流・ジュール発熱によるエネルギー発生密度分布と

温度場の解析を実施している.この場合には,超伝導部

の磁束流による発熱が非常に大きくなっていることがわ

かる.

(2)A法による数値解析アルゴリズム

 次に,A法に基づく解析手法について説明する.支配

50

37.5

篭 25

h

12.5

∋25。

ゆ い ,P レ ■ ママ 暫鴫( 噸q可 ゆひ◆←←◆→・ひ・レワ,ケ←ひ◆・ひ○・ひ曜曜弓F◎ゆ◆つウ,

4444φφメ ◎←  々ゆ●φ◎・レ◆メ〆刃ゆ9令⇔◆  6いひ’レ・●ゆ◆

→ヰ→ →一ひ一レヰヰ‡顧ひ騨レ→ ゆ聖ノ『

ア召々プ チ

ゆゆレ   レレ    レ 一ひゆ噛レ路詑5ゆレレ レ’ ,  レレ ,

レ  レ レ  レレレレ)レレレレレ

...藁轟レひレレ亀協rゴ『■

。200 ・150

x(μm)

・IOO

(a) Current distribution

・50 o

とする.ただし添え字の〃は反復回数を表す.

3)全ての評価点で式(29)が満足されるまで反復計算

  を行う.

厳密な臨界状態モデルでは電流密度の絶対値が0かゐ

であるのに対して,このスキームでは,0と∫cとの問

を連続的に取ることを許しているが,数値解析において

ポテンシャルTの微分から得られる電流分布が不連続

になりうるのは,一般にこの不連続面が要素分割面と一

致する場合のみであり,連続的な変化を許す方が数値解

析には適していると言える.また,式(26)では電界の

絶対値がゼロであるかどうかの判断が要求されている

50

37.5

篭 25

12。5

0

25000

20000

15000

loooo

5000

0

4.5

\\

解車250 ・200 騨150         。雪00

 x(μm)

昌50

(b) Distribution of Joule heat with temperature field

 Fig.5 Numerical result for quech propagation.

0

1232

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講  座 3.核融合装置における電磁気解析手法 亀有,福本,橋爪

50

_ 40乙

し』 30

e 2Q3ゆ.≧ 10竺

a& 0

一IO

AnGMicoI1、

NumerlCGl                2一登一Joo司.OE8Alm・Jco昌8.OE7A/m2

、、 、

庵 ¥ h

、、 、

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erimen曾ol

0 5    10   15   20   25   30

  Di s曾once,d l mml

Fig.6 Numerical and experimental results of

   eleCtrOmagnetiC fOrCe,

方程式は

   1 ▽× ▽×。4隣1        (30)   陶

となる.ここで,以下に示すアルゴリズムによって式

(25),(26)を満足させる[32].

IEI>εの時

   ∫c 1ニ  E   iEIl矧≦εの時

 ∂1 一二〇  ∂!

(31)

(32)

このスキームを基に,近年注目を集めている高温超伝導

体と永久磁石との間に働く電磁力の数値解析による評価

が行われている.一例として,永久磁石を高温超伝導体

に近づけ,その後,遠ざけた時に得られる電磁力をFig.

6に示す[32].数値解析による結果は,電磁力のヒステ

リシスを再現しており,実験結果とよく一致している.

3.3.4最後に

 数値電磁場解析技術の進歩とともに,従来は不可能と

考えられていた超伝導体内の巨視的電磁場解析手法が開

発されてきている.この手法を利用して,核融合炉超伝

導マグネットのようにポロイダル磁場・トロイダル磁場

が存在する複雑な磁場環境下で使用される場合の最適な

超伝導線材の数値解析による設計が可能となると考えら

れる.                 (橋爪秀利)

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