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1 4.半導体の発光 半導体の発光は通常、蛍光(ルミネッセンス:luminescence)と呼ばれている。これは 励起状態から基底状態への電子遷移によるもので、状態間に相当するエネルギーを光子と して放出する。 半導体の発光には図示するような幾つかの過程が存在する。励起状態や基底状態として は、伝導帯、価電子帯、不純物レベル(ドナ、アクセプタ)や欠陥準位がある。また、電 子と正孔がクーロン引力でお互いに引き合った状態である励起子も発光過程に寄与する

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Page 1: 4.半導体の発光 半導体の発光は通常、蛍光(ルミ …akitsu.ee.ehime-u.ac.jp › lect › m › optlect19.pdfNear-band-edge emission と総称することがある。

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4.半導体の発光

半導体の発光は通常、蛍光(ルミネッセンス:luminescence)と呼ばれている。これは

励起状態から基底状態への電子遷移によるもので、状態間に相当するエネルギーを光子と

して放出する。

半導体の発光には図示するような幾つかの過程が存在する。励起状態や基底状態として

は、伝導帯、価電子帯、不純物レベル(ドナ、アクセプタ)や欠陥準位がある。また、電

子と正孔がクーロン引力でお互いに引き合った状態である励起子も発光過程に寄与する

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4.1 バンド間遷移

伝導帯の電子が価電子帯の正孔と再結合することによる発光である。主に直接遷移形半

導体で主要な発光過程であり、発光デバイス応用としてのLEDや半導体レーザで重要な

再結合過程である。純粋で完全性の良い直接遷移の III-V 化合物半導体では、室温ではバ

ンド間遷移が支配的な発光過程である。低温で弱励起の条件では、自由キャリアは励起子

状態に緩和するか不純物に束縛される方が安定であるため、これらの遷移がバンド間遷移

に比べて優勢となる。バンド間遷移は kT>EB(EBは励起子や不純物の束縛エネルギー)の高

温領域では、これらが解離して生じる高濃度の自由キャリアの為のバンド間遷移が優勢と

なる。また、間接遷移形半導体では、運動量保存の法則より厳密な意味での(フォノンが

介在しない)バンド間遷移は観測されない。

発光エネルギーはバンドギャップエネルギーで決められる。発光スペクトルは伝導帯の

電子と価電子帯の正孔の再結合であるため、電子と正孔のエネルギー分布を反映する。ま

た発光強度は遷移確率(行列要素)に比例する。遷移には、エネルギー保存則と運動量保

存則が成り立つ。行列要素がエネルギーに依存せず、バンドの有効質量が波数に位存ぜず

一定であると仮定すると、バンド間遷移の発光スペクトルは次のように表される。

I(hν) ∝ ν2(hν-Eg)fefh

fe、と fhはそれぞれ電子と正孔の分布関数である。

電子と正孔の分布が Maxwell-Boltzmann 分布で近似でき

るならば、発光スペクトルは次式で表される。

I(hν) ∝ ν2(hν-Eg) exp[ - (hν-Eg)/kT]

発光ピークエネルギーは Eg+kt/2 であり、半値幅 FWHM は

1.8kT である。発光スペクトルの特徴は、スペクトルの形

状はキャリア分布を反映するために次のようになる。

(1) バンドギャップエネルギーを低エネルギーのしき

い値とする。

(2) ピークより低エネルギーでは状態密度を反映して

鋭く立ち上がる。

(3) ピークより高エネルギーは分布関数を反映して指

数関数的に減衰する。

(4) 発光のピークは、理論ではバンドギャップより

kT/2 高いエネルギーを持つ。

(5) 半値幅は温度に比例し、理論では 1.8kT である。

一般に観測される半導体のバンド間遷移による発光は図1

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上の(2)と(3)により特徴づけられる。しか

し、(1)に関して現実には、状態のすそや不純

物の関与した遷移の影響を受けるためにバンドギ

ャップよりやや低いエネルギーまで発光が存在す

る。また(4)に関しては、ピークエネルギーが

バンドギャップエネルギー付近にあることが多い

(図2)。これらの意味で、純粋なバンド間遷移

の同定は難しく、特に浅い不純物や励起子の関与

した発光との区別が難しい。従って、これらを

Near-band-edge emission と総称することがある。

フリーキャリアの再結合速度はキャリア濃度積

と行列要素に依存する因子に比例し、n2B で表され

る。定数Bは詳細平衡の原理により、逆過程であ

る光吸収に関係づけられる。キャリア寿命はτ=

1/nBで表され、キャリア濃度の増加に伴い減

少する。GaAsではB≒10-9 cm-3s-1であり、キャリア濃度を n=1016cm-3以下とすれば、バ

ンド間遷移の寿命は 10-7 s (100 ns)と見積もることができる。

図1に GaAs 基板に成長した In0.49Ga0.51P0.99As0.01 のフォトルミネッセンススペクト

ルを示す。バンド端付近の発光線(74-280K)は主にバンド間遷移によるものであり、上の

特徴(2)、(3)を持っている。また、低温では不純物準位の関与する発光と区別がつ

かない。これらは発光ピークエネルギーとバンドギャップを種々の温度により比較するこ

とにより発光起源の考察が可能である。また、半値幅は結晶の完全性を示す指標であり、

1,8kT からの広がりが完全性からのずれである。また、発光の半値幅が 1,8kT より小さい場

合、発光に励起子が関与する可能性がある。

図3に、基板の GaAs との室温の格子不整合

度の異なる In0.49Ga0.51P0.99As0.11 エピ層

のフォトルミネッセンススペクトルを示す。結

晶成長温度(800℃)で格子が整合するΔ

a/a=0.20%のものの半値幅が最も小さく、良い

結晶性であることがわかる。格子不整合の大き

な結晶性の低下した試料ではバンドギャップ

以下の(主にピークより低エネルギー)の発光

が顕著になることがわかる。 図3

図2

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4.2 バンドと不純物レベル間の遷移

伝導帯からアクセプタ準位、あるいはドナ準位から価電子帯への遷移である。自由なキ

ャリアの状態と不純物に束縛された状態の遷移であるので、free-to-bound transition

(F-B 遷移)と呼ばれることが多い。遷移はバンドと単一の準位の間の遷移であるので、発光

スペクトルは伝導帯あるいは価電子帯のキャリア分布を反映する。スペクトルを記述する

関数形はバンド間遷移の形状と同じであるが、不純物のイオン化エネルギー(Ea)だけ低エ

ネルギーにシフトする。)

I(hν) ∝ ν2(hν-Eg-Ea)exp[ - (hν-Eg-Ea)/kT]

図1に高純度の GaAs エピタキシャル層のフォトルミネッセンススペクトルを示す。図2は

発光スペクトルの形状は上式に良くフィットしている。図1ではピークより高エネルギー

の発光が発光エネルギーの増加に伴い exp[-(hν-Eg-Ea)/kT]を反映して指数関数的に減少

することがわかる。図2に Cd をドープしたp形 GaAs のフォトルミネッセンススペクトル

を示す。図2では、高エネルギーの理論式とのフィットは良いが、低エネルギーのフィッ

トが悪い。これは不純物ドーピングによりバンドの状態に裾が生じていることを示してい

る。また20K と80K を比較すれば20K で低エネルギーのフィットが非常に悪く、これ

は低温では状態に裾のみならず、低エネルギーに異なる発光帯が現れていることによるも

のと思われる。

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4.3 励起子発光

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4.4 自由励起子発光

自由励起子は、純粋な半導体にお

いて電子・正孔が最も低いエネルギ

ーを持つことができる真性励起状態

である。自由励起子発光は完全性と

純度の高い結晶において kT<EB(EB

は励起子の解離エネルギー)の低温

で観測される。発光エネルギーは

EPL = Eg-EB/n2

となる。光吸収スペクトルと同様に、

n=1 から始まる離散的な励起子の系

列(n=1, 2, …)の発光スペクトルが

観測される。図1に自由励起子によ

る光吸収と発光スペクトルの概要を

示す。光吸収では励起子吸収と半導

体のバンド間励起による基礎吸収の

両者が重なり n=3 以上の励起子吸収

ピークは重なり合ってバンドとなり

これがバンド間遷移の吸収帯と重な

り図1のような連続吸収帯となる。

自由励起子発光は、低温ではバンド

間遷移の発光が現れないために、n=3 以上の発光バンドは図1のように高エネルギー側に裾

を引くような形状を示す。

図1 自由励起子による光吸収と発光スペクト

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4.5 励起子ポラリトン

物質の基底状態から励起状態に光により励起された場合、励起に使われた光子は一回の

励起で消滅し、それ以降はこの消滅量が光減衰量となる立場で議論された。

しかし、光と電子の相互作用のハミルトニアンには、光子の吸収を表す消滅演算子の他

に、光子の放出を表す生成演算子が含まれている。従って、光子が吸収されて励起子がつ

くられれば、次はこの励起子が消滅して光子がつく

られ、この繰り返しにより励起が物質中を伝搬する

と考える立場がある。今、エネルギー損失が無いと

仮定する。入射光により励起が生じれば、入射光は

減衰せずに物質を透過し、全体として光吸収が無い

ことになる。光と励起子の間に順次に変換が起きて

いる状態、すなわち光と励起子の混合の状態を考え

ることにより物質中の励起子の正確な描像が得られ

る。

物質中での光の電磁場と、それがつくる分極波の

波動の連成波はポラリトンとして知られている。光

の電磁場と励起子の分極波の混合状態とそれらの連

成波を励起子ポラリトンと呼ぶ。また、光の電磁場

と横型光学フォノン(TOフォノン)のつくる分極波の連成波はフォノンポラリトンと呼

ばれ、励起子ポラリトンとは明確に区別される。

図1に光の分散関係と励起子の分散曲線を示している。この両者の交点付近では光子と

励起子が混合し両者を区別できない励起子ポラリトン

が形成される。交点よりも低波数では励起子の upper

poraliton branch (UPB)が形成され、k=0 において励起

子の縦波のエネルギーEL を持つ。もともとの励起子の

k=0 でのエネルギーは横波のエネルギーET である。同

時に、光子の性格を持つ lower polariton branch (LPB)

が形成される。交点付近では、光子と励起子が混合して

区別が付かないポラリトン状態である。交点より高波数

になると再び両者はそれぞれの分散関係に漸近し、光子

と励起子のそれぞれの性質を示すことが図1よりわか

る。

実際に非常に純粋な歪の無い完全性の高い半導体結

晶の低温の自由励起子発光ピークは、二つのピークに分裂して観測されることが多い。

図2は高純度 GaAs の低温(2K)でのフォトルミネッセンススペクトルを示している。

1.515eV に自由励起子発光が、それより低エネルギーの 1.514eV に強い束縛励起子発光がみ

図1

図2

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られる。1.515eV の自由励起子発光は約 0.3meV 異なる2つのピークに分裂しており、これ

が励起子ポラリトンの特徴である。ELより高エネルギーのピークはポラリトンの UPB からの

発光であり、ELより低エネルギーのピークはポラリトンの LPB からの発光である。

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4.6 束縛励起子発光

束縛励起子発光は、完全性の高い半導体結晶において低温で顕著な発光である。次にの

べるが、束縛励起子発光は非常に鋭い発光線である(半値幅は 0.1meV 程度)であるため、

高分解能の測定より 0.1meV の精度で発光線のエネルギーを求めることが可能である。束縛

励起子の発光エネルギーは、不純物およびその電荷状態(中性あるいはイオン化)により

異なる。従って、束縛励起子発光の測定により半導体に含まれる不純物の種類とその荷電

状態、および濃度を非常に高い感度で検出することが可能である。現在、著名な半導体(Si,

Ge, GaAs, Ga, CdS, ZnSe など)では励起子を束縛する不純物と束縛励起子発光のエネルギ

ーが詳しく調べられており、発光エネルギーにより不純物の同定ができる。しかし、この

同定には、低温測定(10K 以下)が必要であり、試料を歪無く低温に冷却すること、および

測定に用いる分光器の分解能と波長の校正は十分に慎重に行う(0.1meV 以下にする)こと

が重要となる。束縛励起子発光の特徴を以下に述べる。

自由なキャリアが無いため、発光線幅は非常に狭い。従って、低濃度の束縛励起子であ

っても発光線強度は大きくなる。束縛励起子遷移における振動子強度は非常に大きい

(giant oscillator strength と呼ばれる)。この理由は、振動子強度は R3に比例する、R

は束縛励起子の波動関数の広がりである。一般に励起子は弱く不純物に束縛される為、R

は大きく、従って振動子強度は大きくなる。不純物による励起子の捕獲確率は大きい為、

束縛励起子を介した再結合過程は効率的な過程である。

Hayns 則

束縛励起子における局在エネルギーEloc

と不純物のイオン化エネルギーEaの間に

は関係があり同一半導体では励起子局

在エネルギーElocは

Eloc=a + b Ea

と表される。シリコンでは a=0, b=0.1

であり励起子局在エネルギーは不純物

のイオン化エネルギーに比例する。間接

遷移の GaP では aはゼロでない。

このようにして、励起子局在エネルギー

を求めることにより、励起子を束縛する

不純物のイオン化エネルギーを見積も

ることができる。

GaP での中性ドナおよび中性アクセプタに束

縛された励起子の局在エネルギーと不純物の

イオン化エネルギーの関係。

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4.7 ドナ・アクセプタ対発光

ドナ準位からアクセプタ準位への電子遷移に伴う発光である。遷移前は、ドナには電子

が、アクセプタには正孔がある為、これらは中性である。遷移後、ドナは正にアクセプタ

は負に帯電する。これらのイオン化ドナとイオン化アクセプタ間にはクーロン引力が働く

為に、遷移後の状態すなわち基底状態のエネルギーはクーロンエネルギーだけ低くなる。

D-Aペアの遷移エネルギーは、

EPL=EG-(ΔED+ΔEA)+e2/4πεr

と表されるここでrはドナとアクセプタ間の距離である。

ここでrに注目する。結晶格子においてドナとアクセプタは母体の格子点に置換する。

したがってrは離散的であることがわかる。したがって、発光のエネルギーもドナとアク

セプタ間の距離rにしたがって離散的になる。近いペアの発光エネルギーは高く、遠いペ

アの発光エネルギーは低い。クーロンエネルギーは1/rの関数で変化するため、近いペ

アのrの変化に対する発光線のエネルギー間隔は大きいが、rが大きくなるにつれてエネ

ルギー間隔は小さくなり、大きなrではクーロンエネルギーがゼロに収束する。したがっ

て非常に遠いペアの発光エネルギーはEPL=EG-(ΔED+ΔEA)であり、これを遠いペ

図1(a)(b)

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ア r∞の遷移エネルギーと呼ぶ。このため高エネルギーにはエネルギー間隔の大きな近いペ

アによる発光線がみられるが、rの増加につれて発光線のエネルギーは低くなると同時に

線間隔が小さくなり次第に重なり始める。この為、低エネルギーに分離できない遠いペア

による発光帯が観測される。フォノンの影響を無視すれば、発光体の最も低エネルギーの

カットオフエネルギーを r∞のペアのエネルギーEG-(ΔED+ΔEA)とみなすことがで

きる。

図(a)1にはGaPのP格子点に置換したSドナと、P格子点に置換したSiアクセ

プタによるD-A対発光スペクトルを示す。高エネルギーには離散的な発光線が低エネル

ギーには発光帯がみられる。発光線の番号は最近接を1としたペアの近接番号であり、図

より第9近接から第89近接までの発光線がアサインされている。図2(a)に示すよう

にGaPのGaの同一副格子(面心立方)にドナとアクセプタがある。これを type I のD

-A対と呼ぶ。

図1(b)には、GaPのP格子点に置換したSドナと、Ga格子点に置換したZnア

クセプタによるD-A対発光スペクトルを示す。第8近接から第32近接までのペアの発

光線がアサインされているが、rの変化は type I と大きく異なる。これはドナはP副格子

の格子点に、アクセプタはGa副格子の格子点に置換形で存在するために(図2(b)を

参照)、近接順に対するrの変化が type I と異なる。これを type II 形のD-A対発光

と呼ぶ。

このように、近いペアが線スペクトルであらわれる場合は少なく、多くの場合、ブロー

ドな発光帯として観測される。

近いペアは、ドナの電子とアクセプタの正孔の波動関数の重なりが大きい為、再結合速

度が大きく、その為寿命が短い。逆に遠いペアでは再結合速度が小さく寿命が長い。

これらのペア間隔に依存する再結合速度の違いは、発光スペクトルの励起光強度依存性

図2(a)(b)

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や励起を中断した後の時間に対する発光スペ

クトルに大きく反映される。励起光強度を上げ

れば発光スペクトルは全体に高エネルギー側

へシフトする。また励起中断後は、時間と共に

発光スペクトルは全体に低ネルギー側へシフ

トする。励起光強度を上げれば遠いペアが飽和

し、再結合速度の大きい近いペアの遷移が増加

する。励起光中断後は、時間と共に再結合速度

の大きい(寿命の小さい)近いペアは早く減衰

する為である。したがって、ブロードなD-A

対発光帯のアサインには、PLスペクトルの励

起光強度依存性や時間分解PLスペクトルに

よる発光体のエネルギーシフトの解析が必要

である。また、D-Aペア発光の強度は、有限

のD-A対の為に励起光強度の増加に対して

強い励起に対して飽和する傾向を示す。

図3にGaPのD-A対発光をパルス光で

励起後のPLスペクトルを時間とともに測定した結果を示している。近いペアによる高エ

ネルギー側の発光が時間と共に減少し、時間がたつと遠いペアによる低エネルギーの発光

が主となることがわかる。したがって時間と共に、発光ピークのシフトだけでなく、発光

帯の形状が変化する様子がわかる。

GaAsに関してこれまでシ

ャープな離散的なD-A対発光

は観測されていない。GaAsに

おけるD-A対発光は殆どが1.

48eV付近に現れる発光帯で

ある。 図4に軽くドープしたp

形GaAsのD-A対バンドの

励起光強度依存性を示す。励起光

強度の増加に伴う発光帯の高エ

ネルギー(短波長)へのシフトが

みられる。図5には無添加のn形

GaAsでみられる1.49eV

の発光帯の時間分解PLスペク

トルを示す。時間経過に伴い発光

帯の低エネルギーシフトがみら

図3

図4

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れ、これがD-A対バンドの典型的な特徴である。

D-Aペアバンドのエネルギーはドーピングレベルにも依存する。高不純物濃度のD-

A対バンドは近いペアが多い為に低濃度のものより高エネルギーにピークを持つ。図6に、

異なる不純物濃度のGaAsのPLスペクトルを示す。ND=1017cm-3 に比べて ND=10

18cm-3 の

835nm の発光帯は約 5nm 短波長にあり、高エネルギーシフトを示している。また、ND=7 x

1014cm-3低濃度 GaAs では遠いペア r∞による発光ピーク Eg-(ED+EA)を同定することができる。

ブロードなD-A対発光帯に対して、励起光強度依存性よりドナおよびアクセプタのイ

オン化エネルギーを解析的に求める方法が提案されており、いくつかの半導体において解

析例がある。

励起光強度と発光ピークエネルギーの関係は次のように与えられている 10)。

J=D{(hνm-hν∞)3/(hνB+hν∞-2hνm)}exp{-2(hνB-hν∞)/(hνm-hν∞)}

(2)

ここでhνmはPLピークエネルギー、hν∞は遠いペアの遷移エネルギー(レベル間エネ

ルギー)、hνBはペア距離r=RB(RBは浅い方の準位のボーア半径)の遷移エネルギー

である。

図6

図5

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(2)式を実験データにフィットさせることによりドナとアクセプタのイオン化エネルギ

ーの和が次式で求められる

ΔED+ΔEA=Eg-hν∞ (3)

浅い方のレベルのイオン化エネルギーE1は

E1=EB/2=EB=e2/8πεRB=(hνB-hν∞)/2 (4)

で表される。(4)式より、ドナかアクセプタの浅いレベルのイオン化エネルギーが求ま

れば(3)式を用いて、もう一方のイオン化エネルギーが求められる。カルコパイライト

系ではZnドープMOVPE成長CuAlSe2のD-Aペア発光に対して、励起光強度依

存性を図に示す。

よりCuAlSe2:ZnのD-A対発光帯ピークエネルギーの励起光強度依存性を解析し

た。(3)式ΔED+ΔEA=Eg-hν∞ よりΔED+ΔEA=0.34 eV, (4)式より浅い方の

レベルは E1=0.11 eV と得られる。

図1 CuAlSe2:ZnのPLスペクトルの励起光強度依存性。

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時間分解スペクトルを図2に示す。

ピークエネルギーと時間との関係

を用いて hν∞ = 2.404 eV, W = 2 x 10

8 s-1 とすれば、図2の挿入図に示した時間とピ

ークエネルギーの関係より E1=0.10 eV となる。

従って D-A ペア発光に含まれる浅いレベルは 0.10 eV と求められる。これは励起光強度依

存性により得られた E1=0.11 eV と良く一致している。

E1=0.11 eV とすれば、ΔED+ΔEA=0.34 eV より、もう一つのレベルは 0.23eV と求め

られる。これらのうちの一方がドナレベルであり、他方がアクセプタレベルである。

Cu サイトを置換した Zn ドナによるドナレベルが 0.11 eV、アクセプタは Al サイトを置換

した Zn あるいは ZnCu-VAlペアと考えられ、そのレベルは 0.23 eV である。

図2 CuAlSe2:Znの時間分解PLスペクトル。

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4.8 アイソエレクトロニックトラップ

結晶の構成原子と同族の不純物のドーピングにより、電気陰性度の違いにより、励起子

が不純物に強く束縛されることがある。これをアイソエレクトロニックトラップと呼ぶ。

アイソエレクトロニックトラップにより間接遷移型半導体であっても輻射再結合確率を増

大させ、発光デバイスに利用できる場合がある。

不純物原子の価電子配置が母体原子のものと同じであれば、不純物は過剰キャリアを生

成しないので電気的に中性である。しかし電子は電気陰性度の大きい不純物原子には捕ら

えられて束縛される。GaP 結晶中の N原子は良く知られたアイソエレクトロニックトラップ

である。P原子と価電子配置が同じ N原子を P原子位置に置換することによってアイソエレ

クトロニックトラップが形成される。N原子の電気陰性度 3.00 と P 原子の 1.64 に比べて非

常に大きいことがわかる。結合に寄与する最外殻電子エネルギーが低いために大きな電気

陰性度により引きつけられた電子は N 原子周辺に強く束縛される(局在する)。電子を束

縛するポテンシャルは長距離クーロンポテンシャルではなく,不純物原子の近傍に働く短

距離ポテンシャルである。周期律

表の第2周期の原子が大きな電

気陰性度と低い最外殻電子エネ

ルギーを有し、アイソエレクトロ

ニックトラップとしての可能性

を持つ。

GaPはブリルアン帯の端のX点

に伝導帯が底となる間接遷移型

半導体である。その為に無添加の

GaP の発光効率は極めて低い。し

かし、アイソエレクトロニックト

ラップとしてN不純物をPサイト

に添加することにより、発光効率

は飛躍的に向上し、GaP:N は緑色

(やや黄色よりの)の発光ダイオ

ード材料として用いられてきた。

GaP:N ではNの大きな電気陰

性度により N 原子に束縛された

電子がクーロン引力により正孔

を捕らえ、その結果、励起子が N

原子に束縛された束縛励起子を

形成する。不確定原理により、N

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原子に強く局在する電子の波動関数は波数空間においてブリルアン帯全域に広がる。図1

に示すように、電子の波動関数はΓ点でも大きな存在確率を示している。したがってΓの

電子は価電子帯の正孔と運動量保存則を満足した遷移により輻射再結合することが可能と

なる。 GaP における Nアイソエレクトロニックトラップに束縛された励起子再結合の発光

波長は 565 nm(黄色がかった緑)である。

GaAs1-xPx:N では混晶組成 xの制御により,緑色から赤色に至る発光が得られる。また、

アイソエレクトロニックトラップの例として、GaP 中の Zn-O 対,Cd-O 対,Mg-O 対,S-Ge

や,GaAs,AlGaAs,AlAs,GaxIn1-xP 結晶中の Nなどがある。

元素の電気陰性度

Li Be B C N O F

1.00 1.50 2.00 2.50 3.00 3.50 4.00

Na Mg Al Si P S Cl

0.72 0.95 1.18 1.41 1.64 1.87 2.10

Cu Zn Ga Ge As Se Br

0.79 0.91 1.13 1.35 1.57 1.79 2.01

■参考文献

1) J. C. Phillips (小松原毅一訳), “半導体結合論,” 吉岡書店.

2) D. G. Thomas and J. J. Hopfield, Phys. Rev. no.150, p.680, 1966.

3) N. Holonyak, Jr., J. C. Campbell, and M. H. Lee, J. T. Verdeyen and W. L. Johnson,

M. G. Craford and D. Finn, J. Appl. Phys. vol.44, p.5517, 1973.

4) J. Endicott, A. Patanè , J. Ibáñez, L. Eaves, M. Bissiri, M. Hopkinson, R. Airey,

and G. Hill, Phys. Rev. Lett., vol.91, p.126802, 2003.

5) M. Ikezawa, Y. Sakuma, and Y. Masumoto, Jpn. J. Appl. Phys. vol.46, p.L871, 2007.

図 1・27 GaP 結晶中の N等電子トラップのエネルギー準位 3)

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4.9 深い準位の発光

これまではハンド端付近にみられる浅いレベルの発光を紹介した。これとは対照的に禁

制帯の中央付近の深い準位による発光を紹介する。重金属不純物や欠陥準位やこれらの複

合体が深い準位をつくることが知られている。一般的に深い準位はエネルギー帯と殆ど独

立に取り扱う。これを一般的には有効質量近似で取り扱えない準位であると表現する。深

い準位の波動関数はきわめて局在している。従って、深い準位は格子との結合が非常に強

く、深い準位の発光スペクトルにはフォノンレプリカが観測される。一般的に極低温では、

フォノンとの相互作用の無い発光線(ゼロフォノン線と言う)が現れ、その低エネルギー

にフォノンを放出した鋭い発光線(フォノンレプリカと言う)のシリーズおよびこれらが

重なり合った発光帯が現れる。しかしこれは、格子との結合が比較的弱い場合であり、格

子との結合が強くなるに従ってこれらの鋭い発光線は弱くブロードになり、格子との結合

がきわめて強くなると一つのブロードな発光帯になる。実際、多くの深い準位の発光は構

造の無いブロードなバンドである。

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4.10 発光の温度依存性

熱消光

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輻射遷移と非輻射遷移

非輻射遷移

半導体からの発光は励起されたキャリアの輻射再結合によるが,一方で光の放出を伴わ

ない非輻射再結合がある.非輻射遷移の過程は不明瞭であり,光子の放出を行わない全て

の過程を総称している。輻射遷移と非輻射遷移は競合過程であるため,発光効率ηは輻射

遷移の寿命τRと非輻射遷移の寿命τNR を用いてη=(1/τR)/( 1/τR+1/τNR) と表

される.発光効率ηは輻射遷移の速度 1/τRに比べて非輻射遷移の速度 1/τNRが大きく

なれば低下する.

半導体の発光は主に,(i)電子・正孔の再結合、(ii) 局在発光中心における電子遷移、

で生じるものに分類される。非輻射遷移は両者で異なるとらえ方がされる.

非輻射遷移には、エネルギーを結晶の格子振動に与える再結合過程(格子への熱的緩和),

再結合の際にエネルギーを他の電子を励起することにより失うオージェ効果や表面再結合

があげられる,不純物・格子欠陥や,これらの複合体が非発光再結合中心を形成することが

ある.これらは、深い準位を形成し,波動関数が局在している為に格子相互作用が強く,

キャリアの捕獲・放出過程は、エネルギーがフォノンの放出で消費されるため、非発光過程

である.

また半導体中の遷移金属や希土類不純物の発光では,バンド間励起で生成されたキャリア

は,エネルギー伝達過程を経て発光中心の励起準位に輸送され,光学遷移により発光が生

じる.母体の電子準位は1電子描像であるが,発光中心は原子の多電子系の多重項に由来

する準位である.エネルギー伝達および緩和過程には非輻射遷移が関与している.

オージェ再結合

キャリアの再結合によって放出されたエネルギーがフォトン

を放出することなく直接他のキャリアの励起により消費され

る非輻射過程はオージェ再結合とよばれている.オージェ再

結合には遷移の種類とキャリア濃度により多くの再結合過程

が存在する。代表的な過程であるバンド間オージェ過程を図

17 •1に示す。同図(ⅰ)に示すように伝導帯の電子Aが

価電子帯の正孔 A’と再結合するときに放出されるエネルギー

が光子の放出を伴わずに直接に伝導帯の他の電子 B に与えら

れ,電子Bが伝導帯の高い準位 B’に励起される.この為、電

子と正孔の再結合に際してフォトンの放出は無い.また、同

図(ⅱ)に示すように価電子帯の正孔が高い準位に励起され

ることもある。不純物を含む半導体では、不純物準位のキャ

リアの再結合により、他の不純物準位のキャリアやバンド中

○ ○

伝導帯

価電子帯

A‘

B‘

(ⅰ) (ⅱ)

図17 •1 バンド間オージェ

再結合過程

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のキャリアの励起が生じるオージェ過程が多数存在する.

キャリア間の相互作用に強く依存した過程は、キャリア密度に強く依存する.ここで、オ

ージェ再結合の寿命は,キャリア濃度の関数として求められており 1) ,キャリア濃度の大

きい半導体や高注入のデバイスでオージェ過程の影響が大きい.真性キャリア濃度の大き

い InAs 等のナローギャップ半導体ではオージェ再結合が顕著である.また温度上昇に伴い

キャリア濃度が増加するため InSb のようなナローギャップ半導体ではオージェ過程に強い

温度依存性が認められる.これに対しワイドギャップ半導体では,オージェ過程は不純物

添加によるキャリア濃度に依存し,特に縮退半導体では重要な過程である。半導体レーザ

では,オージェ効果はしきい値電流密度上昇の原因となる.集光型太陽電池のように過剰

キャリア濃度が大きいデバイスでは,オージェ過程による再結合寿命が過剰キャリア濃度

の逆数の2乗に比例して小さくなるため,オージェ効果が動作に影響を与える.

多重フォノン過程

非輻射遷移で余るエネルギーをフォノン放出により補償する過程を多重フォノン過程と呼

ばれている.この過程には多くの種類がある.ルミネッセンスの強度が温度上昇に伴い減

少する現象が発光の温度消光として知られているが,原因が温度上昇に伴う励起電子の格

子への緩和(フォノン放出)による非輻射過程の増大によると考えられている.深い局在

準位をつくる非輻射再結合中心への電子捕獲過程や、複数の近接した準位間のエネルギー

緩和過程においても多重フォノンの放出により非輻射遷移が生じる.

フォノン放出による発光の温度消光を説明するために、局在した発光中心を考える.この

場合,非輻射過程では多数のフォノンを放出してエネルギーが消費される.この説明には

配位座標モデル(configurational coordinate model)が用いられる.2) 結晶中の電子と発

光中心の原子核の運動を比べると電子の運動は非常に早い.原子核のそれぞれの位置に電

子の定常軌道が存在し,原子核はその電子状態のエネルギーによるポテンシャルの中で振

動している.配位座標は、電子状態についてこのポテンシャル(断熱ポテンシャル)を発

光中心の原子位置に対して示したものである.図17

•2にその一例を示す。発光中心の基底状態は配位座標

rAで極小値を、励起状態はrBで極小値を持ち、断熱ポ

テンシャルは点 C で交差するものと仮定する.A 点か

ら A’の上向きの矢印は発光中心の光励起を示す.励

起状態の A’の電子はフォノンを放出して励起状態の

最もエネルギーの低い B’点に状態を変える。輻射遷

移は B点から B’点への遷移で生じる(下向き矢印).

ここで遷移確率は Einstein の自然放出確率A

(Einstein のA係数)である。ここで B’点と断熱ポ

テンシャルの交点 C のエネルギー差をΔE とする.温 図17 •2 発光中心の配位座標モデル

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度 T が上昇すれば,発光中心の熱振動により,B’点の電子が C点へ状態を変える頻度が確

率 s・exp(-ΔE/kT)で増加する.ここで sは頻度係数(frequency factor) と呼ばれ、温度に

依存しない.C点の状態まで達した電子は基底状態の断熱ポテンシャルに沿って,フォノン

を放出しながら(非輻射)A点に到達する。従って発光効率ηは,発光強度は輻射遷移確率

Aと非輻射遷移確率 s・exp(-ΔE/kT)を用いて、

η= 1/(1+ s/A・exp(-ΔE/kT))

と表される。高温では分母の1が無視できるため温度上昇に伴い発光強度は急激に減少す

る.

この配位座標モデルでは,A’→B’, C→B,および B→A はフォノンの放出過程に B’ →C

はフォノンの吸収過程に対応する.

■参考文献

1) J. S. Barkemore: ”Semiconductor Statistics” (Dover Publications, inc, New York,

1962 and 1987) Chap. 6.

2) 前田敬二著 ”ルミネッセンス”(槇書店, 1963)p. 6.