平成24年第2回日本科学教育学会研究会 北海道支部 発表内容
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幼児の食育と算数教育
下郡 啓夫(函館工業高等専門学校)平井由美子(大 阪 成 蹊 短 期 大 学)
平成24年度 第2回日本科学教育学会研究会( 2012.12.8 )
0 .はじめに
■ 『幼児教育要領』(文部科学省 . 平成 10 年)⇒ 「健康、安全な生活に必要な習慣や態度」と いった捉え方 (→特に食生活の内容についての記述はなし)
幼児期の食に関する教育
● 朝食の欠食率の低下● 幼児肥満の増加 などの状況
⇒ 早期によりよい食習慣を確立する必要性
0 .はじめに
「1.幼稚園は幼児が生涯にわたる人間形成の基礎を培う場であり、食材との触れ合いや食事の準備をはじめとする食に関する様々な体験を通じて、幼児期からの適切な食事のとり方や望ましい食習慣の定着、心と体の健康など豊かな人間性の育成等を図ること」
文部科学省『幼稚園における食育の推進について(通知)』(平成19年)
● 幼稚園での食育に関する実践の多くは 食への興味・関心を触発するだけのもの
● 人間性の育成⇒知育面の育成の視点の欠落
1 .幼児期の算数教育の基礎1)本研究で考える幼児期の教育の土台
① 事物教育
● 事物への働きかけ →メタ知識の形成・体系化● 働きかけによる試行錯誤 → 物事の関係づけを自ら発見
⇒ 完全な探究(=課題設定・計画作成・実施、まとめと発表の全行程を自分で行うこと)はできないため、指導側が導いて取り組ませる必要
0 .はじめに『教育並びに保育、介護その他の社会福祉、医療及び保健(以下「教育等」という。)に関する職務に従事する者並びに教育等に関する関係機関及び関係団体(以下「教育関係者等」という。)は、食に関する関心及び理解の増進に果たすべき重要な役割にかんがみ、基本理念にのっとり、あらゆる機会とあらゆる場所を利用して、積極的に食育を推進するよう努めるとともに、他の者の行う食育の推進に関する活動に協力するよう努めるものとする。
食育基本法 第十一条
食育と知育 ( 算数 ) を融合した 新たな指導内容の模索 ⇒ 論理的思考の育成へ
1 .幼児期の算数教育の基礎1)本研究で考える幼児期の教育の土台
① 事物教育
探究過程
すべて
一部
指導側による支援
多い少ない
A D
CB
① 指導側がどのような 位置の探究を行って いるのかを把握② 次回の探究で、幼児 にどの程度レベル アップさせた探究を させるか
1 .幼児期の算数教育の基礎1)本研究で考える幼児期の教育の土台
② 感情の共有
● 幼児の感動の受容・共有 →自己肯定感の芽生え● 自己肯定感の繰り返し → 主体的行動とともに、体験内容の豊かさ、思慮深さ、探究の姿勢を育む
1 .幼児期の算数教育の基礎2)幼児期の論理的思考を伸ばす着眼点
① 物事の特徴を捉える② 物事の比較③ 物事の序列④ 全体と部分の把握⑤ 規則性の発見⑥ 三段論法からの推理
1 .幼児期の算数教育の基礎2)幼児期の論理的思考を伸ばす着眼点
① 物事の特徴を捉える
● 触覚を頼りに同じものを取り出させ、その感触を言葉化させたり、絵を描かせる● 多視点による観察● いろいろな主題に基づく包含関係の作成 → 特徴を抽出し、表現
1 .幼児期の算数教育の基礎2)幼児期の論理的思考を伸ばす着眼点
② 物事の比較
⇒ 事物観察による類似点、相違点の比較
【幼児期の特徴】物事を絶対化して捉える傾向→● 2者比較はできても、3者関係等複雑な関係性の理解は困難 ●知っている事実に依拠して物事を思考するため、物事を相対化して捉えることは困難
1 .幼児期の算数教育の基礎2)幼児期の論理的思考を伸ばす着眼点
③ 物事の序列
● 数⇒『順序数』と『集合数』の2つの側面→ 数概念の成立だけでなく、論理的思考を伸ばす上で、この2つの側面の円滑な育成は 不可欠
・実際に物を動かす・指で数えるなどしながら、数の概念を頭の中で構築する訓練の必要性
1 .幼児期の算数教育の基礎2)幼児期の論理的思考を伸ばす着眼点
④ 全体と部分の関係の把握
⇒ 事物の同質性・異質性を元に、全体と部分の認識ができるよう育成する
(例)● パズルなどの図形構成において、1つの図形の中に含まれる部分的な特徴を発見● 生活用品などを用いた、その使途による分類分け
1 .幼児期の算数教育の基礎2)幼児期の論理的思考を伸ばす着眼点
⑤ 規則性の発見
⇒ 並び方、変化の法則性を考えさせる。(例)位置、数、方向などを変えた図形系列
【規則性の発見の重要性】● 物事の筋道をしっかりと捉える● 未知のものの予測する力(=類推能力) の育成→ 反復練習が、メタ知識を手掛かりに論理的に問題解決していく思考の育成に
1 .幼児期の算数教育の基礎2)幼児期の論理的思考を伸ばす着眼点
⑥ 三段論法からの推理
(例)「犬よりネズミが大きい。ネズミより猫が大きい。一番大きいものはどれですか。また一番小さいものはどれですか」
⇒ 思考の柱をつくるだけでなく 誤概念形成をいかに解消し、論理的に思考するか、までを包含
1 .幼児期の算数教育の基礎2)幼児期の論理的思考を伸ばす着眼点
【参考①】全米科学振興会 (AAAS) のプロセス スキル (=問題解決・探究の能力 )・観察する
・空間 /時間の関係を用いる・分類する・数を用いる・測定する・伝達する・予測する・推論する
・条件を制御する・データを解釈する・仮説を作る・操作を定義する・実験する
基本的なプロセス 総合的なプロセス
湊昭雄:プロセスアプローチ,日本理科教育学会編「現代理科教育大系 第3巻」, pp141-190,東洋館出版, 1978
1 .幼児期の算数教育の基礎2)幼児期の論理的思考を伸ばす着眼点
【参考②】科学的探究をするために必要な基 本的能力 (NRC)小学校(年長~第4学年)
■ 物体,生き物,環境の中で起こる現象について 質問する■ 簡単な実験を計画する■ 簡単な器具や道具を用いて,自分の五感だけで は捉えられないデータを集める■ 筋道の通った説明をするためにデータを用いる■ 実験・観察結果とその説明について議論する
NRC(National Research Council):”Inquiry and the National Science Education Standards:A guide for teaching and learning”, National Academy Press, 2000
2.具体的教育事例● 台所用品の分類
2.具体的教育事例● 台所用品の分類【質問】①名称が何かを質問する② 道具の使い方を質問する③一緒にペアで使う道具を挙げさせ、その理由を問う
●名称が分からなかったり、理由を論理 的に述べられない幼児でも、身振り手 振りで対応しようとする●母親の料理の様子から道具の選択を するケースが多い
2.具体的教育事例● おやつ配り【質問】幼児:「あめ玉が足りないの」教師:「それじゃあ、足りない分をあげるよ」
● 1つ1つの数認識はできる● 合成の認識がない●具体的操作から抽象的思考の訓練の 必要性
2.具体的教育事例●パズル
● 幼児はリンゴの絵の方のパズルはなかなかできず (写真のパズルはすぐ完成 )
● 幼児はまず具体的事物の知見から他 の事物を類推する傾向
3 .今後の教材開発の方向性●具体的から抽象,一般から特殊という学習 の段階的積み上げのモデル化 (特に事物への働きかけに留意)●母親,幼児同士との双方向のコミュニケー ションを取り入れた学習方略の開発 →・食習慣が保護者の意識に影響 ・共同的な学習の必要性● 論理的思考を伸ばしていく方法論 →・複合的な情報の関連付け、体系化など の効果的方法の開発● 食文化と算数のとの融合 (例)学校給食の三角ぐいと数学的規則性 →基礎的知識・習得と探究する力の育成