6-3 細胞分化 -...
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生物の基礎Ⅱ(B)②
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「形を決める遺伝子(形態形成遺伝子)」により,「形を決めるタンパク質」の合成が起こり,体全体のデザイン(ボディプラン)ができる。
単一の受精卵から特殊化した細胞タイプへの発生
1. 細胞質の分離 cytoplasmic segregation2. 胚誘導 embryonic induction
細胞質決定因子の影響が強く,細胞が自律的分化
をする発生
比較的早くから細胞間相互作用の影響が現れる
発生
モザイク的発生 調節的発生
・
P123
細胞質決定因子
mRNAまたはタンパク質
種類や濃度が異なる
細胞の運命が決定
P124
卵子
濃度
高い
低い
・
ショウジョウバエの卵では,受精前に母性効果遺伝子によって主要な極性が決まる。頭尾極性と背腹極性の確立は,その後の胚の発生におけるすべての遺伝子発現に影響を与える。
胚や成体の形態形成やパターン形成の根幹
P128ー30
どのように頭尾軸が決定され,各分節が生じるのか?
卵母細胞と濾胞細胞とによって,背腹軸がどのように決定されるのか?
2つの体軸に沿って,それぞれの器官がどのように形成されるのか?
生物の基礎Ⅱ(B)②
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卵母細胞は卵室の後方へ移動し,哺育細胞は前方に位置する。卵母細胞の核は末端濾胞細胞側に移動する。
図6・13(a)P123
ほとんどの昆虫卵は表割で,多量の卵黄が卵中央にあるため卵割は表層に限定される。この卵割様式の特徴は中央部で核分裂が先行して起こり,核が表層に移動した後で細胞質分裂が起こる(第14分裂周期)。
図6・13(b)P123
表層に移動
合胞体胚盤葉
極細胞256個の核
ショウジョウバエのボディプランは胚,幼生ならびに成体で同じである。それぞれが明確な頭部端と尾部端をもち,それらの間には分節が繰り返し見られる。
図6・13(c)P123
図6・14P124-5(A)
(B)
(C)
(A)胚の前端におけるbicoid mRNAの局在
(B)受精直後のBicoidタンパク質の濃度勾配-その濃度は前端で最も高く,後端にいくに従い低くなる。また, Bicoidタンパク質は核に局在している。
(C)Bicoidタンパク質濃度勾配の密度測定結果-上の曲線は野生型胚のBicoidタンパク質濃度を示す。下の曲線はbicoid変異体から生まれは胚内のBicoidタンパク質濃度を示す。
前部:BICOID 後部:NANOS 図6・14P125
ビコイドビコイド ナノスナノス
図1,P124
bicoid欠損体と野生型胚の表現型を左に示す。bicoid欠損体にbicoid mRNAを注入すると,注入部位に頭部構造が形成される。初期胚の後部に注入すると,頭部構造が前部と後部の両方に形成される。
生物の基礎Ⅱ(B)②
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図6・15P125
(A)ショウジョウバエ胚側面から見た予定運命図
腹部のほとんどが中胚葉になり,そのすぐ上部が神経(腹側)外胚葉となる。側
部と背側は外皮で区別がつき,最も背側は胚体外層となり,胚周囲を囲む。
(B-D)Dorsalタンパク質の局在を示す抗体で染色された胚の横断面(暗色部)。
(B)正常胚-腹側の細胞核にDorsalタンパク質が局在する。
(C)背側化胚-どの細胞核にもDorsalタンパク質が存在しない。
(D)腹側化胚- Dorsalタンパク質がすべての細胞核に侵入している。
図6・16P125
ホメオティック遺伝子体節に特徴をもたせる
セグメンテイション(分節)遺伝子
分節に分ける(分節化)
母性効果遺伝子体軸を決定する
P125 P125-
ギャップ遺伝子(ギャップ遺伝子(gap genesgap genes))
ペアルール遺伝子ペアルール遺伝子((pairpair--rule genesrule genes))
セグメントポラリティー遺伝子セグメントポラリティー遺伝子((segmentsegment--polarity genespolarity genes))
図6・17P126
卵割期の胚と幼生におけるギャップ遺伝子,ペアルール遺伝子,セグメントポラリティー遺伝子が転写される部域をカラーで示す。右側には,カラー部域が欠損した変異体を示す。
ギャップ遺伝子の発現
図6・18(a)P126
生物の基礎Ⅱ(B)②
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(疑似体節)
図6・17(b)P126
ペアルール遺伝子はセグメントポラリティー遺伝子の発現を調節し,各分節から2個のパラセグメントを形成させる。
注)パラセグメントの2個分という意味でペアルールという。
(A)頭尾軸は,形態形成タンパク質の勾配と分布範囲を特定する母性効果遺伝子群によって確立される。これらがHunchbackタンパク質勾配をつくり,ギャップ遺伝子の活性を調節
する。そして,ペアルール遺伝子の発現と,その後にセグメントポラリティ遺伝子とホメオティック遺伝子が作用する。
(B)母性効果遺伝子群。胚前部がBicoidタンパク質の勾配によっている(黄色から赤色部分)。(C)ギャップ遺伝子,Hunchbackタンパク質(オレンジ色)の領域とクルッペルタンパク質(緑
色)の領域が重なって,両者の翻訳因子が共存する領域を示す(黄色)。(D)fushi tarazuペアルール遺伝子産物が胚に7つの領域を形成している。(E)セグメントポラリティ遺伝子engrailedの産物が胚条期に認められる。
P130-32
「節足らず」(または単にftz「ファッツ」)
(A)野生型胚側面の走査電研像(B)同時期の fushi tarazu 欠損変
異胚白線が分節遺伝子帯の相同部分を示す。
(C)野生型の胚の分節斜線部分は変異体で欠損した胚条のパラセグメントを示す。
P126-7
ペアルール遺伝子は,ギャップ遺伝子群のはたらきによって大まかに分けられた各部域に体節構造を作り上げる。たとえば,ftz(fushi tarazu)の突然変異によって奇数番の体節を欠いた胚が生じ,eve(even-skipped)遺伝子の突然変異によっては偶数番の体節を欠いた胚が生じる。左の図で,AからDはftzの発現がしだ
いに限局され,7本のバンドになる様子を示している。Eは青いeveタンパク質と茶色のftzタンパク質がバンド状に隣り合って発現している様子を示す。こうして卵に体節構造ができあがる。
P127
細胞化が起きた胚の各細胞に,前後軸に沿った細胞の位置
特性を与える遺伝子群。この遺伝子発現を誤ると,その体節
に身体の別な構造(奇形)が形成される。
例:アンテナペディア遺伝子
バイソラックス遺伝子
図6・20P128
(A)アンテナペディア遺伝子の突然変異によって,触角の位置に肢が生えてくる。
(B)バイソラックス遺伝子の突然変異によっては,胸部が二つできる。
A
B
生物の基礎Ⅱ(B)②
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ショウジョウバエで見つかったこの配列は,マウスの例にあるように生物に共通した配列である。
ホメオボックスを含む遺伝子をホメオボックス遺伝子という
図6・21P128
ハエのHOM遺伝子は8つだが,ヒトのHox遺伝子は13あり,さらに,A,B,C,Dの4つのクラスターに分かれている。
ショウジョウバエのeyeless (Pax6)遺伝子は,場所がどこであれ,複眼をつくらせることのできる遺伝子である。さらに,ラットのPax6遺伝子をハエで発現させてもやはり肢や触覚に「ハエの眼」ができる。
遺伝子名 解 説
dorsal(dl)* 背側化遺伝子と名付けられた腹側化遺伝子の活性化遺伝子。dorsalの欠損で,腹側のない背側化奇形ができるのでこの名が付いた。
Toll * 背腹軸形成を制御する遺伝子。Tollの産物は膜結合型受容体であり,欠失すると腹側の背側化が起こる。
cactus (cac) * cacをもつ胚は腹側化ができる。
bicoid (bcd) * 前後軸を決定する。
nanos (nos) * Nanosタンパク質はBicoidタンパク質とは逆に,後部に濃く,前部で薄い濃度勾配で分布する。Hunchbackタンパク質の阻害作用あり。
torso (tor)* 胚の末端の形成に関与する。
*,母性効果遺伝子=母親の遺伝子産物が子供の表現型に影響を与える遺伝子。
遺伝子名 解 説
ギャップ遺伝子群 母性遺伝子群に次いで発現し,連続する体節の形成に関与する。
ペアルール遺伝子群 ギャップ遺伝子産物に活性化され,分節化に関与する。
セグメントポラリティ遺伝子群
分節遺伝子群。ペアルール遺伝子群に活性化され,擬体節(分節化,区画化)を確立する。
ホメオティック遺伝子群
前後軸に沿った細胞の位置特性を与える。発現がうまくいかないと,その体節に体の別な構造物が形成される。
hunchback (hb) ギャップ遺伝子群の1つ。bioidと協調して,頭部形成と他のギャップ遺伝子の制御を行う。
Krüppel (Kr) ギャップ遺伝子群の1つ。
knirps (kni) ギャップ遺伝子群の1つ。
fushi tarazu (ftz) ペアルール遺伝子群の1つ。7本のバンドの偶数番目の擬体節を発現する。
engrailed (en) セグメントポラリティ遺伝子群の1つ。擬体節の前部区画を確定し,同じ分節遺伝子のhedgehog (hh)を活性化する。
アンテナペディア遺伝子群
ホメオティック遺伝子群の1つ。頭部,前胸,中胸の形成を支配する。
バイソラックス遺伝子群
ホメオティック遺伝子群の1つ。後胸,腹部,(尾部)の形成に関与する。