6面ptcヒータ式「掘座卓」の加熱制御法 · 16 パナソニック電工技報(vol. 57...

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15 パナソニック電工技報Vol. 57 No. 1特集「住宅設備・建材技術」 1. ま え が き 夏を基準に作られていた日本の家屋は冬季に部屋全体を 暖めるには不向きであり,こたつは火鉢や行火などととも に古来より人体を直接温める局所暖房器具として身近で使 用され,50 年ほど前からは電気化が進んできた。 こたつには置きこたつと掘りこたつがあるが,こたつの 床部分を掘り下げ,足を曲げて楽な姿勢で座れ,夏はまっ たく普通の座卓として使用できる掘りこたつを当社では 「掘座卓」 1)として製造・販売している。 掘りこたつの市場は,近年のライフスタイルの変化に伴 う和室の減少や床暖房の普及とともに減少傾向にある。し かし,この減少傾向はユーザの嗜好ばかりに原因がある とは言いがたく,製品の機能における新しい魅力の付与や, その良さの訴求が十分なされてこなかった点も大きい。 また,こたつには部屋暖房の負荷を低減して少ないエネ ルギーで暖を採れる効果があるが,学会等での研究におい てもその暖房効果を検証した事例 1)~ 3は他の暖房器具な どに比べると少ない。 掘りこたつに求められる機能は採暖時に高い快適性を維 持することであり,かつそれがより少ないエネルギーで実 現することである。その手段としては,足を効率的に温め ることができるハードウェアと長時間使用しても快適性を 維持できるソフトウェアの両方を提供することである。 これまでの「掘座卓」のハードウェアとしては従来の赤 熱式ヒータを中央 1 箇所に置くタイプよりも,天面と底面 6面PTCヒータ式「掘座卓」の加熱制御法 Heating Control of 6 - Sided Sunken Kotatsu 木村 猛* ・ 遠田 正和* ・ 立田 美佳** ・ 上田 滋之* ・ 大岸 昌弘*** Takeshi Kimura Masakazu Toda Mika Tatsuta Shigeyuki Ueda Masahiro Ogishi 電気式掘りこたつにおいて,PTC ヒータを使用して天面,側面,底面の 6 面を個別に加熱制御する とともに,三つの生活シーンを想定した自動運転方式の開発によって,省エネルギーと快適感の持続を 実現した。この評価においては,人が掘りこたつで快適に感じる温熱要素を抽出し,モニタによる主観 評価と生理量(皮膚表面温度)の計測からその相関関係を見いだした。その結果,人は足全体が均一に 暖まると快適さを感じ,それには同じ投入電力であっても側面加熱でふくらはぎを強く温めることが有 効であることがわかった。 In the design of an electric sunken kotatsu, energy conservation and continued comfort was achieved by individual heating control of PTC heaters on the top, sides and bottom surfaces and developing an automatic operation method by assuming three types of living patterns. During the evaluation, comfort elements felt by the user in the sunken kotatsu were extracted, and their correlation was identified from subjective assessment and measured physiological characteristics (skin surface temperature). The result indicated that people feel comfort when the entire legs are warmed uniformly, and heating the calf from the side is effective if the same power is to be supplied. * 住建事業本部 住建総合技術センター General Technology Center, Building Materials and Housing Equipment Manufacturing Business Unit ** パナソニック電工解析センター(株) Panasonic Electric Works Analysis Center Co., Ltd. *** 住建事業本部 住宅部材事業部 Housing Components Division, Building Materials and Housing Equipment Manufacturing Business Unit 1 「掘座卓」

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15パナソニック電工技報 Vol. 57 No. 1

特集「住宅設備・建材技術」

1. ま え が き夏を基準に作られていた日本の家屋は冬季に部屋全体を暖めるには不向きであり,こたつは火鉢や行火などとともに古来より人体を直接温める局所暖房器具として身近で使用され,50年ほど前からは電気化が進んできた。こたつには置きこたつと掘りこたつがあるが,こたつの床部分を掘り下げ,足を曲げて楽な姿勢で座れ,夏はまったく普通の座卓として使用できる掘りこたつを当社では「掘座卓」( 1)として製造・販売している。掘りこたつの市場は,近年のライフスタイルの変化に伴う和室の減少や床暖房の普及とともに減少傾向にある。しかし,この減少傾向はユーザの嗜好ばかりに原因があるとは言いがたく,製品の機能における新しい魅力の付与や,その良さの訴求が十分なされてこなかった点も大きい。また,こたつには部屋暖房の負荷を低減して少ないエネルギーで暖を採れる効果があるが,学会等での研究においてもその暖房効果を検証した事例 1)~ 3)は他の暖房器具などに比べると少ない。

掘りこたつに求められる機能は採暖時に高い快適性を維持することであり,かつそれがより少ないエネルギーで実現することである。その手段としては,足を効率的に温めることができるハードウェアと長時間使用しても快適性を維持できるソフトウェアの両方を提供することである。これまでの「掘座卓」のハードウェアとしては従来の赤熱式ヒータを中央 1箇所に置くタイプよりも,天面と底面

6面PTCヒータ式「掘座卓」の加熱制御法Heating Control of 6-Sided Sunken Kotatsu

木村 猛* ・ 遠田 正和* ・ 立田 美佳** ・ 上田 滋之* ・ 大岸 昌弘***

Takeshi Kimura Masakazu Toda Mika Tatsuta Shigeyuki Ueda Masahiro Ogishi

電気式掘りこたつにおいて,PTCヒータを使用して天面,側面,底面の 6面を個別に加熱制御するとともに,三つの生活シーンを想定した自動運転方式の開発によって,省エネルギーと快適感の持続を実現した。この評価においては,人が掘りこたつで快適に感じる温熱要素を抽出し,モニタによる主観評価と生理量(皮膚表面温度)の計測からその相関関係を見いだした。その結果,人は足全体が均一に暖まると快適さを感じ,それには同じ投入電力であっても側面加熱でふくらはぎを強く温めることが有効であることがわかった。

In the design of an electric sunken kotatsu, energy conservation and continued comfort was achieved by

individual heating control of PTC heaters on the top, sides and bottom surfaces and developing an automatic

operation method by assuming three types of living patterns. During the evaluation, comfort elements

felt by the user in the sunken kotatsu were extracted, and their correlation was identified from subjective

assessment and measured physiological characteristics (skin surface temperature). The result indicated

that people feel comfort when the entire legs are warmed uniformly, and heating the calf from the side is

effective if the same power is to be supplied.

* 住建事業本部 住建総合技術センター General Technology Center, Building Materials and Housing Equipment Manufacturing Business Unit

** パナソニック電工解析センター(株) Panasonic Electric Works Analysis Center Co., Ltd.

*** 住建事業本部 住宅部材事業部 Housing Components Division, Building Materials and Housing Equipment Manufacturing Business Unit

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16 パナソニック電工技報 Vol. 57 No. 1

の 2面,あるいは側面も含めた 6面加熱のほうが温度むらが少なく快適であることはわかっていたが,どの面をどのように加熱すればより高い快適性を得られるかは明確でなかった。また快適性の維持という面では,これまでは運転はユーザまかせとなっており,ソフトウェア面での工夫はあまりみられなかった。そこで筆者らは,これらの問題の解決策を見いだすため,

6面加熱方式の優位性の検証と,快適かつ省エネルギーとなる加熱方法の検討を行い,6面加熱方式ならではの加熱方法やエネルギーの無駄を抑えて長時間の採暖に適した自動運転制御法を開発したので報告する。

2. 「掘座卓」の現状と技術課題2.1 加熱方式と問題点現在市販されている掘りこたつには加熱方式に 2種類あるが,どちらもこたつ布団を掛けて使用するのが一般的である。

この方式はもっとも普及しており,掘りこたつの一般的なイメージとして定着している。底面の中央にこたつ用ヒータを設置し,その上にすのこを敷いたものが主流である( 2)。1箇所からの加熱であるため,こたつ庫内の温度分布にむらが出やすく,ヒータ部も高温になる。

この方式は天面と底面,または天面と側面と底面にヒータがあり多面的に加熱するタイプである。天面には一般的な置きこたつ用のヒータをそのまま使用するものとパネル状のヒータを使用するものがある。また,底面および側面にはパネル状のヒータを使用することが多い。パネル状のヒータは大きな面積で熱を供給できるため,温度が低く安全で均一な温度分布を実現しやすい。当社は従来から天面,側面,および底面の 6面加熱方式を採用し,天面にパネルヒータ(コードヒータ式)を,側面と底面に PTC(Positive

Temperature Coefficient)ヒータを採用している。なお,側面と底面の PTCヒータは同時に動作する仕様としてい

る( 3)。PTCヒータは温度上昇に伴って抵抗値が増大し,発熱量が減少する特徴がある。したがって,ヒータ上に足などを乗せたままにしても,ヒータ自身が温度上昇とともに発熱量を減少させるため,火傷をしにくい設計が可能である。また,周辺温度が上がってくると発熱量を抑制するため,通常のヒータよりも省エネルギーである。

足元ヒータ方式と多面ヒータ方式では 4のように温度分布に明らかな違いがあり,均一性においては多面ヒータ方式が優れている。このことから,より高い快適性を実現するには,多面ヒータ方式のほうが適している。

2.2 温熱制御に関する技術課題快適性と省エネルギーを両立させるには,大きく二つの技術課題がある。(1)各ヒータの温度と快適性の関係の明確化 これまで 6面(天面,側面,底面)を自由に制御できる掘りこたつがなかった。そのため,6面ヒータのどの面をどのように昇温するのが快適性向上につながるのか,同一エネルギーならばどの面を昇温するのが効果的であるかの検証がこれまでになく,快適な加熱方法を明確にする必要がある。

(2)快適性と省エネルギーを両立する運転制御方法の開発 これまでの掘りこたつの運転制御は,ユーザによるマニュアル運転が基本であり,一定の発熱量を維持するための運転目盛りの選択で調整を行っていた。これは,比較的単純な加熱構造であった従来の掘りこたつではユー

底面

(a)構成

(b)こたつ用ヒータ

2

底面

側面

側面

側面側面

天面

3 6

(b)多面(6面)ヒータ方式(a)足元ヒータ方式

4

17パナソニック電工技報 Vol. 57 No. 1

ザの暖房感,季節,室温の影響など,さまざまな条件下において快適であるためには,ユーザ自身での調整が不可欠と判断していたためである。したがって,ユーザは最初の冷えている間は強めの運転を設定し,暑く(不快に)なってくると弱い運転に切り替える調整を行っていた。

そのため,最初の高い設定温度のまま運転し続けたり,暑いと不快感を感じるまで高い設定温度で運転してしまうことがあり,必要以上の電力を消費しているということが問題であった。

3. 快適性実現のための加熱方法3.1 アプローチ同一のエネルギーを使用しながらもっとも快適な運転を実現するため,一定の温度状態,一定の総消費電力でさまざまな加熱パターンの運転を行う。天面,側面,底面の 6面で発熱が可能な「掘座卓」において,快適性などの主観申告値とそのときの生理量の関係から,足のどの部分が快適性に関与しているのか,またどのような加熱が快適性向上に寄与しているかを検討する。

3.2 快適性と加熱方法(部位)の関係導出のための計測項目

主観評価は,以下に示す項目について 7段階もしくは 5

段階で被験者が評価する。(1)身体の 8部位における温冷感 7段階(- 2:とても寒い,- 1:寒い,0:中立,1:温かい,2:とても温かい,3:暑い,4:暑過ぎる)で評価する。なお部位は,①手,②大腿,③膝頭,④すね部,⑤ふくらはぎ,⑥足裏,⑦下半身,⑧全身である。

(2)快適度 7段階(- 3:非常に不快,- 2:かなり不快,- 1:やや不快,0:中立,1:やや心地良い,2:かなり心地良い,3:非常に心地良い)で評価する。

(3)設定温度への要望 5段階(- 2:もっと温度を下げてほしい,- 1:少し温度を下げてほしい,0:今のまま,1:少し温度を上げてほしい,2:もっと温度を上げてほしい)で評価する。

測定する生理量には温冷感ともっとも関係があると考えられる皮膚表面温度を選択する。皮膚表面温度は T型熱電対を使用し, 5に示す位置に貼り付けて 10秒ごとに計測する。測定が数日にわたるため,被験者の測定位置の皮膚にマークを付けて同一となるよう配慮する。

環境温度,「掘座卓」庫内温度,庫内各面の表面温度はT型熱電対を使用し,10秒ごとに計測する。また庫内の輻射温度測定のため,「掘座卓」中央にグローブ球タイプの輻射熱計測器を設置する。「掘座卓」の消費電力は各面ごとに電力計(HIOKI社製,

3330)を接続して測定する。

3.3 実験環境評価は二つの空調温度を制御できる環境試験室内に擬似室と擬似床を構成して行う。このときの内部のレイアウトを 6に示す。環境温度は室温を 20 ℃,床下温度を 10

℃に制御し,待機用の前室の温度も 20 ℃とする。評価風景を 7に示す。環境条件の変動要因を減らすため,空調装置の余熱運転開始時間,「掘座卓」の運転開始時間を毎回同一とし,実験は 2008年 1月から 4月にかけて行った。

床面ヒータ

側面ヒータ

天面ヒータ

大腿

膝頭

すね

足裏

手甲腰

背中

側面ヒータ

ふくらはぎ

5

床下

ポリスチレンフォーム貼付け

A

B

吹出口吸込口

床上(室内側) 床上(室内側)

B 断面A 断面

床上(室内側) 床上(室内側)

実験時被験者の着座位置

吹出口

吸込口(床下用)

吹出口(床下用)

出入口

床下

ポリスチレンフォーム貼付け

掘座卓

こたつ布団

吸込口吸込口

6

18 パナソニック電工技報 Vol. 57 No. 1

3.4 実験手順あらかじめ設定した総消費電力下において,天面,側面,底面の発熱量の組合せを変えた 9種類( 1)の運転パターンで評価を行う。そのおのおのにおいて主観評価と皮膚表面温度の測定を行う。それぞれの運転は天面,側面,底面のどの面をとくに昇温させるのかで差を設けている。各面の発熱量は 3種類程度に限定し,たとえば総発熱量と底面の発熱量を同じとしたうえで,天面と側面の発熱量割合が異なる場合の評価を行う。

実験手順を 8に示す。身体を慣れさせるために前室での待機時間を 45分,本評価時間を 60分とし,主観評価は入室から 15分間隔で実施する。実験は,午前に 1組と午後に別の 1組を同一条件で行う。また,体温の日内変動を考慮し,評価は 1日当り 1回のみで同一被験者は毎回同時刻に測定を行う。あらかじめ設定した総消費電力の値は,2時間入卓する

(こたつに入る)予備実験を行い,そのなかで快適とされる座卓温度安定時の消費電力を適用する。運転は被験者の入卓の 2時間前から開始し,庫内温度を十分に安定させた状態とする。実験用の「掘座卓」は,サイズが 790× 1080 mmで,天面,側面,底面の発熱量を自由に変えられるものを用意する。

3.5 被験者被験者は年齢が 20代,30代,40代,60代の各 1名で合計 4名の女性とする。被験者を女性とする理由は,一般に男性よりも女性のほうが基礎代謝量の違いから快適に感じる温度が高いかもしくは同等といわれていることから 4),

5),暖房感不足のリスクを少なくすることを考慮しているためである。服装は同一とし,上半身は長袖のシャツとジャケットで,下半身は服装の影響を排除するためスカートに素足である。なお,スウェットパンツと靴下着用時との差異評価を別途行い,素足時との官能差を把握して大きな差がないことを確認している。体調については毎回の自己申告から判断し,体調不良時には測定を行わない。

3.6 結果

足の各部位の温度と快適度との関係を調べ,その結果を2に示す。この結果から快適度と足裏の皮膚表面温度に

相関があることがわかる(全条件時の相関係数 0.41)。さらに,210 W条件のみでこの相関係数を算出すると数値が向上している。このことから,「掘座卓」全体への投入熱量が少ない場合,快適性が低下してどの部分で快適性を感知しているのかわかりにくくなるものと推定され,さらに大きい熱量を投入するとこの傾向は強くなるものと考えられる。実際に,予備評価でさらに大きい投入熱量を交えて実験したときは相関係数が 0.6を超えている。いずれにしても足裏は人間が「掘座卓」を使用する際に快適感を決定するもっとも重要な部分であるといえる。

7

主観評価

皮膚温度

600-45 15 30

着替え熱電対取付け

45

実験室前室待機

入室

安静値計測

時間(min)

8

底面側面天面合計

508080太腿重視1-1

808050足裏重視1-2

5011050ふくらはぎ重視1-3

805080太腿・足裏重視1-4

8011020ふくらはぎ・足裏重視1-5

305080太腿重視1-6

805030足裏重視1-7

3010030ふくらはぎ重視1-8

80080太腿・足裏重視1-9

210

160

運転型No.消費電力(W)

1

210 W 条件のみ全条件部位

0.270.23大腿

0.420.31膝頭

0.320.27すね

0.070.10ふくらはぎ

0.460.41足裏

2

19パナソニック電工技報 Vol. 57 No. 1

足裏温度と快適度の変化について 9に示す。足先が冷えた状態で入卓開始時から 30分までは足裏温度の上昇とともに快適度も上昇している。しかし,その後は足裏温度が上昇するものの快適度は頭打ちから下降傾向となる。この快適度がピークとなる点は 33~ 35 ℃付近である。これらのことから,運転開始時は短時間で足裏を温めるために大きな熱量を投入し,足裏が温まり安定し始める時点で,34 ℃程度に制御することが長時間の快適性を維持するために重要であると考えられる。

足裏と足の各部位との 2点間の皮膚表面温度差と快適度の変化の関係には相関がみられる。とくに大腿とふくらはぎにおいては相関が高く,温度差が小さいほど快適度が高い傾向がみられる( 3, 10)。また,足の主要な部位である大腿,ふくらはぎと足裏の温度差が小さければ良いということから,足全体が均一に温まると快適であるといえる。さらに,大腿だけでなくふくらはぎまで温めることは快適性の向上に寄与するといえることから,筆者らが提案する側面加熱ができる 6面ヒータ方式の「掘座卓」は快適性の向上に効果があるといえる。

ふくらはぎは第二の心臓と呼ばれるなど,心臓から遠い下半身の血液循環をサポートをする機能があるといわれており 6),足のむくみや冷えなどの対処法としてマッサージなどが行われている。そこで「掘座卓」によるふくらはぎの昇温は暖房感向上の効果があると仮定し,検証を行う。

1から,「掘座卓」の総発熱量と底面の発熱量が同じで,天面と側面の発熱量が異なる組合せを六つ抽出する。たとえば,実験 1- 3と 1- 1はどちらも総発熱量 210

W,底面発熱量 50 Wである。しかし,1- 3のほうの側面加熱は 110 Wで 1- 1の 80 Wより 30 W多く,その分天面の発熱量に違いがある。これらの組合せにおいて,前者をふくらはぎ加熱群,後者をふくらはぎ非加熱群として,実験開始時点からの足裏皮膚表面温度の上昇値を平均してグラフ化したものを 11に示す。結果として,ふくらはぎ加熱群のほうが非加熱群よりも加熱開始の初期段階で早い立上りをみせ,実験開始 5分後で約 0.6 ℃高く,しばらくの間その温度差を保っている。

このことから,同じ投入電力であっても側面加熱によりふくらはぎをよく温めるほうが足裏の昇温効果が得られるといえる。

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

1.5

383634323028262422

皮膚表面温度(℃)

→快適

快適度

不快

0分

15分後

30分後

45分後

60分後

線形(0分-30分)

線形(45分-60分)

9

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

2

86420-2-4-6-8

皮膚表面温度差(℃)

← 不快 快適度 快適 →

大腿多項式 (大腿)

-2

-1.5

-1

-0.5

0

0.5

1

2

86420-2-4-6-8

皮膚表面温度差(℃)

← 不快 快適度 快適 →

ふくらはぎ多項式 (ふくらはぎ)

(a)大腿との温度差と快適度 (b)ふくらはぎとの温度差と快適度

10

ふくらはぎ加熱群

ふくらはぎ非加熱群

0.00.51.01.52.02.53.03.54.04.55.05.56.06.57.0

1514131211109876543210

時間(分)

温度上昇値(℃)

11

0.66大腿

0.51ふくらはぎ

0.44すね

0.21膝頭

3

20 パナソニック電工技報 Vol. 57 No. 1

一般に皮膚表面温度と皮膚血流量には相関があるといわれている 5)ことを考慮すると,ふくらはぎを温めることでその部位の血流量が増大し,結果的に足裏の血流量も増大して足裏皮膚表面温度がより早く上昇するものと考えられる。また,このふくらはぎを温めることによる足裏の昇温効果は,足全体が温まってくる 30分以降では差がみられないことも確認している。

4. 自動運転の運転制御パターン導出技術課題で示したように,これまでは「掘座卓」における自動運転というものはなかった。今回,快適性と省エネルギーを両立するために自動運転制御方法を開発し,実際の使用条件想定下での評価を行う。

4.1 制御仮説の構築自動運転モードを提供するためには,季節差や地域差,使用人数,個人差等を高度にセンシングしてフル自動モードを開発することが必要である。しかし,これまでのユーザの声や被験者評価の知見から,個人差が非常に大きいことがわかっている。現段階の技術では個人の嗜好をセンシングすることは困難であり,またある程度センシングできたとしてもその微調整をユーザが行うのであれば現在のマニュアル運転となんら変りがなくなってしまう。そこで,いくつかの生活シーンを想定した自動運転モードを設定し,そのいずれかをユーザが最初に選ぶ方式を採ることが現状の課題解決にもっとも適切であると考える。筆者らはユーザの声などの検討結果から,生活シーンとして,①通常使用時,②厳寒期や標準よりも高い温度で運転したいとき,③春秋など中間期で比較的室温が高くほんのりと暖房感を得たいときやマイルドな運転をしたいときの三つのシーンに絞り込み,それぞれを「標準モード」,「あったかモード」,「ほんのりモード」とする。三つの自動運転の制御イメージを 12に示す。どの自動モードでも快適性を維持しながら省エネルギーを図るため,従来の最弱(目盛 1)で運転したときよりも低消費電力で運転可能であり,快適度が 2時間という長時間にわたって中立以上であることを目標としている。またこれを実現するため,「掘座卓」の断熱性能も大幅に向上させている。三つのモードに共通する基本の考え方は,最初の 30~

40分を強めに発熱させた後,徐々に発熱量を低下させ,後半の 1時間は弱めの発熱量で安定させる。2時間経過後は安定時の発熱量を保つようにしている。各面の発熱パターンにおいては,3章で得た発熱比率を採用し,立上げ時に足裏とふくらはぎを意図的に強く温める制御を採用している。

4.2 実験内容計測項目,実験環境,および被験者については基本的に

3章と同じであるが,実験環境において,自動運転モードのうち中間期を想定した「ほんのりモード」の実験時のみ評価室と前室の室温を 22 ℃とする。

4.3 評価手順実験手順と実験運転パターンを 13, 4に示す。運転は非運転時からの立上げ運転とし,被験者の入卓と同時に運転を開始する。実験開始時の状態を合わせるため,実験は 1日当り 1回とし,同時刻に実施する。実験用の「掘座卓」は,自動運転モードを再現できる試験機を用意する。また,省エネルギー性を比較するため,従来の 6面ヒータ品の最弱(目盛 1)運転も同様の方法で測定する。

4.4 評価結果被験者 4名の平均値を 14に示す。当初のねらいどおり,消費電力の異なる三つのモードにおいて,主観申告値(快適度,温度への要望)がほぼ中立以上を維持しながら

投入電力

時間2 h0

従来 6面ヒータ品(最弱)

「あったかモード」

「標準モード」

「ほんのりモード」

12

主観評価

皮膚温度

120150-45 6030

着替え熱電対取付け

90

実験室前室待機

入室加熱開始

安静値計測

時間(min)

13

運転モードNo.

「あったかモード」2-1

「標準モード」2-2

「ほんのりモード」2-3

従来 6面ヒータ品(最弱)2-4

4

21パナソニック電工技報 Vol. 57 No. 1

推移していることがわかる。また,各モード間で明確な違いが現れるかという点においては,「標準モード」では約 30分で皮膚表面温度がほぼ一定となり温度への要望もほぼ「今のまま」で推移するのに対し,「あったかモード」では 30分以降も皮膚表面温度がゆるやかに上昇を続け,温度への要望も「やや温度を下げてほしい」を若干下回るレベルで推移していることがわかる。さらに,「ほんのりモード」においては主観申告値もほぼ中立レベルで推移し,暖房感はあまり感じないが寒くも感じず必要最小の暖房運転ができていることを示している。一方,皮膚表面温度も「標準モード」で足全体が約 35

~ 36 ℃前後で推移しているのに対し,「あったかモード」で約 36~ 37 ℃,「ほんのりモード」では約 33~ 35 ℃となっている。このときの消費電力量(2時間運転時)を 5に示す。従来の 6面ヒータでの最弱運転時は 621 Whであるが,自動運転モードはそれよりも少ない消費電力で運転している

ことがわかる。たとえば「標準モード」で比較すると,約25 %の省電力を達成している。

-3

-2

-1

0

1

2

3

経過時間(時:分)

快適度

温度への要望

快適度温度への要望

非常に心地良い

非常に不快

かなり心地良いやや心地良い中立やや不快かなり不快

もっと上げてほしい

今のまま

もっと下げてほしい

少し上げてほしい

少し下げてほしい

0

1

2

-1

-2

20

25

30

35

40

2:001:451:301:151:000:450:300:150:00

経過時間(時:分)

皮膚表面温度(℃)

大腿部ふくらはぎ足裏

20

25

30

35

40

2:001:451:301:151:000:450:300:150:00

経過時間(時:分)

皮膚表面温度(℃)

大腿部ふくらはぎ足裏

20

25

30

35

40

2:001:451:301:151:000:450:300:150:00

経過時間(時:分)

皮膚表面温度(℃)

大腿部ふくらはぎ足裏

(a)「あったかモード」運転

(b)「標準モード」運転

(c)「ほんのりモード」運転

-3

-2

-1

0

1

2

3

2:001:451:301:151:000:450:300:150:00

2:001:451:301:151:000:450:300:150:00

経過時間(時:分)

快適度

温度への要望

快適度温度への要望

非常に心地良い

非常に不快

かなり心地良いやや心地良い中立やや不快かなり不快

もっと上げてほしい

今のまま

もっと下げてほしい

少し上げてほしい

少し下げてほしい

0

1

2

-1

-2

-3

-2

-1

0

1

2

3

2:001:451:301:151:000:450:300:150:00

経過時間(時:分)

快適度

温度への要望

快適度温度への要望

非常に心地良い

非常に不快

かなり心地良いやや心地良い中立やや不快かなり不快

もっと上げてほしい

今のまま

もっと下げてほしい

少し上げてほしい

少し下げてほしい

0

1

2

-1

-2

14

2時間の消費電力(Wh)運転モードNo.

507「あったかモード」2-1

467「標準モード」2-2

378「ほんのりモード」2-3

621従来 6面ヒータ品(最弱)2-4

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22 パナソニック電工技報 Vol. 57 No. 1

*参 考 文 献1)渡邊 慎一,堀越 哲美,三好 結城,宮本 征一,水谷 章夫:炬燵採暖が人体に及ぼす熱的影響とその評価方法,日本建築学会計画系論文集,第 497号,p. 39-45(1997)

2)渡邊 慎一,堀越 哲美,三好 結城,宮本 征一:炬燵採暖における人体の熱的快適性の影響とその温熱効果の定量化,日本建築学会計画系論文集,第 497号,p. 47-52(1997)

3)渡邊 慎一,堀越 哲美,石井 仁,鈴木 健次,宮本 征一:炬燵と電気カーペットの併用が人体に及ぼす影響と温熱効果-青年男子の場合-,日本建築学会計画系論文集,第 515号,p. 63-68(1999)

4)佐藤 方彦編:日本人の生理,朝倉書店,p. 45(1988)5)中山 昭雄編:温熱生理学,理工学社,p. 82-83, p. 563-564, p. 13(1981)6)石川 洋一:万病に効くふくらはぎマッサージ,マキノ出版(2002)

◆執 筆 者 紹 介

木村 猛 遠田 正和 立田 美佳 上田 滋之 大岸 昌弘 住建総合技術センター 住建総合技術センター パナソニック電工解析センター(株) 住建総合技術センター 住宅部材事業部 一級建築士

5. あ と が き電気式掘りこたつにおいて,PTCヒータを使用して天面,側面,底面の 6面を個別に加熱制御するとともに,三つの生活シーンを想定した自動運転方式の開発によって,省エネルギーと快適感の持続を実現した。この評価においては,人が掘りこたつで快適に感じる温熱要素を抽出し,モニタによる主観評価と生理量(皮膚表面温度)の計測からその相関関係を見いだした。その結果,人は足全体が均一に暖まると快適さを感じ,それには同じ投入電力であっても側面加熱でふくらはぎを強く温めることが有効であることがわかった。今後の課題として,ふくらはぎを始め,人体への温め方について医学的見地からもそのメカニズムの解明を進め,その効果を人間の健康との関連性からさらに考察検証を行うつもりである。