熱風供給温度90℃を実現した高効率空気熱源 ヒート...

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特 集 1 No. 214 2017 特集:乾燥工程のエレクトロヒート技術 1. はじめに 資源エネルギー庁から出されている「長期エネル ギー需給見通し」では、2030 年に原油換算で約 5,030 万 kl のエネルギー削減を目指しており、2013 年度対 比で約 13%の省エネルギー化が必要である。これは、 COP21の約束草案にて、温室効果ガスの排出量を 2030 年度に 2013 年対比 26%削減する目標から設定さ れたものである。 このような状況の中、ヒートポンプは地球温暖化対 策の切り札と期待されており、家庭用や業務用の分野 ではエコキュートなどのヒートポンプが普及してい る。一方、産業分野ではヒートポンプの普及が進んで おらず、この産業分野に高効率であるヒートポンプを 普及させることができれば、大きな省エネルギー化お よび低炭素化が実現できる。 ヒートポンプは太陽で温められた空気等を利用する ことから、再生可能エネルギーを取り出す技術に分類 されており、日本国内では「エネルギー供給構造高度 化法」で空気の熱を再生可能エネルギー源と位置付け られている。EU では既に再エネルギー導入実績の約 5%はヒートポンプが占めている。 1) ここで、この産業分野における乾燥工程に注目する と、化石燃料を使用した蒸気ボイラーや熱風発生装置 といった乾燥装置が広く使われており、ヒートポンプ システムによる省エネ化が可能である。この乾燥工程 に適用されてきた高温ヒートポンプの多くは,工場の 廃温水から熱回収する水熱源式の熱風ヒートポンプ、 又は、温水を生成するヒートポンプであるため、冷温 水を循環させる水配管や温水から温風を生成する熱交 換器を設置する必要があり、コスト面や設置スペース の確保が困難という課題があった。 今回、三菱重工サーマルシステムズ株式会社と関西 電力株式会社、東京電力ホールディングス株式会社、 中部電力株式会社の 4 社が共同開発した“熱 Pu-ton” (ねっプートン)では、通常のエアコンと同様に、大 気から熱を取り込む室外機(熱源機)と、熱風を直接 生成できる室内機(熱風発生装置)のセパレート方式 で構成しており、空気熱源ヒートポンプとしては日本 最高の 90℃熱風を生成し、COP3.5 ※1※2 の高効率を 達成した。これにより、工場などの熱風を利用する工 程に直接室内機を設置することが可能となり、更に、 室外機は屋外に自由に設置することができ、より簡単 にヒートポンプシステムを産業分野へ適用することが 可能となった商品である。 ※ 1  COP は、Coefficient Of Performance の略であり、熱 風を供給する加熱能力を消費電力で除した値。 この値が高い程、高効率であることを示す。 ※ 2  外気温:25℃(相対湿度は 70%)、室内機吸込み 20℃、 吹出し 80℃の条件における値。 2. 熱Pu-tonの特徴 “熱 Pu-ton”は、空気熱源ヒートポンプとしては日 本で初めて熱風 90℃吹出しを可能とし、需要の多い 100℃以下の乾燥工程に適した製品である。更に、既 設の乾燥装置の給気を“熱 Pu-ton”で予備加熱する ハイブリッド方式とすることで、90℃より高温の熱風 熱風供給温度 90℃を実現した高効率空気熱源 ヒートポンプ式熱風発生装置“熱 Pu-ton” 吉 田   茂  (よしだ しげる) 三菱重工サーマルシステムズ株式会社 空調機技術部 ヒートポンプ設計グループ 要約 産業分野における乾燥工程の省エネルギー化のニーズに応えるものとして、日本で初めて空気熱 源にて 90℃の熱風供給が可能な高効率空気熱源ヒートポンプ式熱風発生装置“熱 Pu-ton”を開発した。 “熱 Pu-ton”では、室外機と室内機を分離したセパレート方式を採用することで熱風が必要な工程に直 接室内機を設置することが可能となり、設置工事費の低減が図れる。今後、この“熱 Pu-ton”を産業分 野に広めることで、エネルギー使用量及び CO 2 排出量を削減させ、地球環境保全を推進させていく。本 稿では、“熱Pu-ton”の特徴、乾燥装置への適用方法および今後の展開等について紹介する。

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Page 1: 熱風供給温度90℃を実現した高効率空気熱源 ヒート …¨¿では、“熱Pu-ton”の特徴、乾燥装置への適用方法および今後の展開等について紹介する。

特 集 1No. 214 2017

特集:乾燥工程のエレクトロヒート技術

1. はじめに

資源エネルギー庁から出されている「長期エネルギー需給見通し」では、2030 年に原油換算で約 5,030万 kl のエネルギー削減を目指しており、2013 年度対比で約 13%の省エネルギー化が必要である。これは、COP21 の約束草案にて、温室効果ガスの排出量を2030 年度に 2013 年対比 26%削減する目標から設定されたものである。このような状況の中、ヒートポンプは地球温暖化対策の切り札と期待されており、家庭用や業務用の分野ではエコキュートなどのヒートポンプが普及している。一方、産業分野ではヒートポンプの普及が進んでおらず、この産業分野に高効率であるヒートポンプを普及させることができれば、大きな省エネルギー化および低炭素化が実現できる。ヒートポンプは太陽で温められた空気等を利用することから、再生可能エネルギーを取り出す技術に分類されており、日本国内では「エネルギー供給構造高度化法」で空気の熱を再生可能エネルギー源と位置付けられている。EUでは既に再エネルギー導入実績の約5%はヒートポンプが占めている。1)

ここで、この産業分野における乾燥工程に注目すると、化石燃料を使用した蒸気ボイラーや熱風発生装置といった乾燥装置が広く使われており、ヒートポンプシステムによる省エネ化が可能である。この乾燥工程に適用されてきた高温ヒートポンプの多くは,工場の廃温水から熱回収する水熱源式の熱風ヒートポンプ、

又は、温水を生成するヒートポンプであるため、冷温水を循環させる水配管や温水から温風を生成する熱交換器を設置する必要があり、コスト面や設置スペースの確保が困難という課題があった。今回、三菱重工サーマルシステムズ株式会社と関西電力株式会社、東京電力ホールディングス株式会社、中部電力株式会社の 4社が共同開発した“熱 Pu-ton”(ねっプートン)では、通常のエアコンと同様に、大気から熱を取り込む室外機(熱源機)と、熱風を直接生成できる室内機(熱風発生装置)のセパレート方式で構成しており、空気熱源ヒートポンプとしては日本最高の 90℃熱風を生成し、COP3.5※ 1 ※ 2 の高効率を達成した。これにより、工場などの熱風を利用する工程に直接室内機を設置することが可能となり、更に、室外機は屋外に自由に設置することができ、より簡単にヒートポンプシステムを産業分野へ適用することが可能となった商品である。※ 1 �COP は、Coefficient�Of�Performance の略であり、熱

風を供給する加熱能力を消費電力で除した値。   この値が高い程、高効率であることを示す。※ 2 �外気温:25℃(相対湿度は 70%)、室内機吸込み 20℃、�

吹出し 80℃の条件における値。

2. 熱 Pu-ton の特徴

“熱 Pu-ton”は、空気熱源ヒートポンプとしては日本で初めて熱風 90℃吹出しを可能とし、需要の多い100℃以下の乾燥工程に適した製品である。更に、既設の乾燥装置の給気を“熱 Pu-ton”で予備加熱するハイブリッド方式とすることで、90℃より高温の熱風

熱風供給温度90℃を実現した高効率空気熱源 ヒートポンプ式熱風発生装置“熱 Pu-ton”吉 田   茂 (よしだ しげる)�三菱重工サーマルシステムズ株式会社 空調機技術部 ヒートポンプ設計グループ

要約 産業分野における乾燥工程の省エネルギー化のニーズに応えるものとして、日本で初めて空気熱源にて 90℃の熱風供給が可能な高効率空気熱源ヒートポンプ式熱風発生装置“熱Pu-ton”を開発した。“熱Pu-ton”では、室外機と室内機を分離したセパレート方式を採用することで熱風が必要な工程に直接室内機を設置することが可能となり、設置工事費の低減が図れる。今後、この“熱Pu-ton”を産業分野に広めることで、エネルギー使用量及びCO2 排出量を削減させ、地球環境保全を推進させていく。本稿では、“熱Pu-ton”の特徴、乾燥装置への適用方法および今後の展開等について紹介する。