agile baseball science - アジャイル脳によく効く野球のハナシ
TRANSCRIPT
Agile Baseball Scienceアジャイル脳によく効く野球のハナシ (はじめてのセイバーメトリクス)
Shinichi Nakagawa@shinyorke 2015/9/12 XP祭り2015「俺も!!」
このSessionの対象者
• Agile(手法問わず)を実践中or勉強中の方※初心者大歓迎
• 最低限の野球用語とルールを理解している
草野球をプレーしたり高校・プロ野球が楽しめればOK
• とにかく野球が好きだ!!!マニアな必要はありませんが、プロ野球の選手を知ってると楽かも
最低限の野球用語&ルール
• 9回表裏で点を多くとったほうが勝ち(1回3アウト)
• 3つストライクを取られたら三振
• 4つボールを出したら四球
• 打率,本塁打,打点,防御率,勝利,敗北,出塁率,長打率etc..、TVやスポーツ新聞で出てくる指標の意味がわかる
(ググって調べてもOKです)
お前だれよ• Shinichi Nakagawa(36)
• Recruit Sumai Company, Ltd.(入社1年)
• Web Engineer(Server sideなら何でも屋)
• Agile/Python/Infrastructure as a codeが大好き
• 北海道日本ハムファイターズ &オークランド・アスレチックスの大ファン
• 中島卓也(日)、ソニー・グレイ(OAK)、ココ・クリスプ(OAK)推し
• “野生の野球アナリスト”活動
Other…
• Manaslinkで野球+αネタの不定期連載 ※開店休業中
• MLBオープンデータの紹介と活用例紹介(自分のブログにて)
• 野球データベース&解析用のライブラリをGithubで公開
(ほとんどがPython)
• データドリブン野球解説(New!)
Agileな野球(事例)
• 野村克也(ノムさん)現役・監督時代共に、試合前のシミュレーション(見積もり)と、試合後の振り返りと改善を大切にしていた(ID野球の始まり).
• 岩隈久志(シアトル・マリナーズ) イニングごとに投球を振り返り、その場で改善(著書より)
• マネー・ボール(オークランド・アスレチックス)
野球統計学「セイバーメトリクス」を駆使した球団運営.
仮説→検証→振り返りを行いながらチームを継続的に改善.
【例】マネー・ボールとAgile
• 「セーブは意味ある指標か?」「出塁率で得点力を担保できるか?」等の仮説を選手交換(FA/トレード)を通して検証・学習
→Lean Startupの元祖かもしれない
• 個々の選手の価値(残すかクビか)を客観的に把握した上での補強
→データ駆動でのトレード/ドラフトで迅速かつ適応的なチーム運営
• 単年契約もしくはフラッグディール(事実上のレンタル移籍)を活用して選手の流動性を確保→リーグ・チームの変化を常に受け入れる
セイバーメトリクス is 何
“セイバーメトリクス(SABRmetrics,
Sabermetrics)とは、野球においてデータを統計学的見地から客観的に分析し、選手の評価や
戦略を考える分析手法である。”
-Wikipedia「セイバーメトリクス」https://ja.wikipedia.org/wiki/セイバーメトリクス
掘り下げると…
• 野球における通貨、「勝利」を得るための統計学であり経営学である
• 選手のプレー,監督の采配,トレード,FA,ドラフトetc…、「成功より失敗が多い」活動の成功率を高める為、 「データ」を元に「科学的手法で客観的」に分析を行う
• チーム・選手の成績(安打,本塁打,三振,etc…)および、
ビッグデータ(投球・打球・野手の記録と行動ログ)を元に分析
• Lean Startupの元祖とも言える(Agile文脈的な意味で)
→野球の各データを科学的アプローチで客観的に分析、学びを得る
事例(たくさんあり〼)• マネー・ボール(小説/映画)
2000年代のMLBオークランド・アスレチックスが舞台、後ほど詳しく解説.
• もしドラ(小説/映画)
ドラッカー本を読んだ女子マネがデータを元にした客観的な采配でチームをサポート.
• MLB(Major League Baseball)マネー・ボールの影響でほぼ全球団がセイバーを駆使したチーム経営.
ボストン・レッドソックスのワールドシリーズ制覇に貢献(2004,2007,2013).
• 日本プロ野球
楽天ゴールデンイーグルス、北海道日本ハムファイターズ他がセイバーメトリクスを活用.
特に日ハムは一軍⇔二軍の選手の入れ替えにセイバーメトリクスを活用している(らしい)
主なセイバーメトリクス指標
• OPS(後ほど解説)
• ピタゴラス勝率(後ほど解説)
• QS(Quality Start)先発投手が6回以上を投げて自責点3以内に抑えた回数
• WHIP(Walks plus Hits per Inning Pitched)投手が1回あたりに許した走者の平均人数
セイバーメトリクスの基本(チーム)
• シーズン中に予想される総得点と総失点を元にチームの行く末を予想
• 打者・走者は得点能力で評価
• 投手・野手はDIPS(後述)という概念で評価
※例外もありますが、上記の観点が基本
セイバーメトリクスの基本(打撃)
• 得点能力 = アウトにならず、前の塁に出る能力!
• 出塁する、長打・走塁で前の塁に出るのが基本得点期待値を上げる生産的活動が基本中の基本
• 得点期待値を上げる活動(=出塁する、前の塁に出る)四球、二塁打、三塁打、本塁打など
• 得点期待値を下げる活動(=アウトになる確率が高い活動)犠牲バント(諸悪の根源)、無茶な走塁・盗塁
セイバーメトリクスの基本(投手)
• 投手本人がコントロールできる能力でアウトを稼ぐかどうかで評価
• コントロールできる = 投手の責任・義務の範囲
• 奪三振
• 四球
• 二塁打以上の長打、特にホームラン
• コントロールできない = 投手に義務が無い、責任を負わない
• インプレー打球 ※のちほど解説
セイバーメトリクスの基本(守備)
• インプレー打球をさばいてアウトにする能力を評価
• インプレー打球 is 何?
• 本塁打を除く、グラウンド内に飛んだ打球
• 安打、ゴロ、フライ、バントなど.本塁打は含まれない.
• インプレー打率(BABIP)という指標も存在する.
• 守備範囲・エラー・肩のレベルをポジション毎に指標化して評価する事が多い(UZR,+/-システムなど)
DIPS(投手&守備評価のまとめ)
• 投手は奪三振・四球・長打,野手はインプレーに責任を
この概念をDIPS(ディーアイピーエス)と呼ぶ
• 投手・守備のメトリクスでは以下を無視する
• 防御率,エラー,QS etc…,自責点が絡む指標
• WHIP(安打は投手だけでコントロールできない)
ピタゴラス勝率
• “チームの総得点と総失点が等しい場合、勝率は5割(貯金・借金共にゼロ)である” という仮説を元に生み出された指標
• セイバーメトリクスの父、ビル・ジェイムズが生み出した
• チーム単位でのセイバーメトリクスの基本
パ・リーグ順位表(本物)
順位 チーム 勝 負 得点 失点 得失点差 勝率
1 ソフトバンク 81 37 583 413 170 0.6862 日本ハム 70 53 545 503 42 0.5693 西武 62 62 558 516 42 0.5004 ロッテ 59 63 476 513 -37 0.4845 楽天 50 69 396 505 -109 0.4206 オリックス 51 72 442 478 -36 0.415
※2015/9/11現在の順位
セ・リーグ順位表(本物)
順位 チーム 勝 負 得点 失点 得失点差 勝率
1 ヤクルト 65 59 503 461 42 0.5242 阪神 65 60 426 501 -75 0.5203 巨人 64 62 432 404 28 0.5084 広島 60 62 457 420 37 0.4925 DeNA 57 69 457 525 -68 0.4526 中日 55 71 430 466 -36 0.437
※2015/9/11現在の順位
パ・リーグ順位表(ピタゴラス)
順位 チーム 勝 (予)
負 (予) 得点 失点 得失点差 ピタゴラス
勝率順位 (現世)
1 ソフトバンク 81 41 583 413 170 0.666 12 日本ハム 68 57 545 503 42 0.540 23 西武 70 59 558 516 42 0.539 34 ロッテ 57 66 476 513 -37 0.463 45 オリックス 58 67 442 478 -36 0.461 66 楽天 46 76 396 505 -109 0.381 5
※2015/9/11の得失点を元に算出、引分は考慮していない
セ・リーグ順位表(ピタゴラス)
順位 チーム 勝 (予)
負 (予) 得点 失点 得失点差 ピタゴラス
勝率順位 (現世)
1 ヤクルト 68 57 503 461 42 0.543 12 広島 67 57 457 420 37 0.542 43 巨人 68 59 432 404 28 0.533 34 中日 59 70 430 466 -36 0.460 65 DeNA 55 72 457 525 -68 0.431 56 阪神 53 73 426 501 -75 0.420 2
※2015/9/11の得失点を元に算出、引分は考慮していない
OPS(と出塁率、長打率)
• “アウトにならず、前の塁にでる”という能力をシンプルに可視化する指標
• 二つの指標の和で求められる
• 「アウトにならない率」を表す「出塁率(On-base)」
• 「一つでも前の塁に出る」能力を表す「長打率(Slugging)」
• OPSと得点能力には相関関係がある by ビル・ジェイムズ
• MLBでは打撃成績として制式採用されている
OPSランキング(パ・リーグ)
順位 選手名 (チーム) OPS 出塁率 長打率 備考
1 柳田悠岐(ソ) 1.098 0.465 0.633 日本で一番の強打者2 李大浩(ソ) 0.955 0.386 0.569 テラス弾あっ(察し3 中村剛也(西) 0.943 0.368 0.575 おかわり君4 秋山翔吾(西) 0.930 0.419 0.511 意外と長打率高い5 松田宣浩(ソ) 0.903 0.352 0.551 テラス弾あっ(察し
※2015/9/11現在の成績を元に算出
OPSランキング(セ・リーグ)
順位 選手名 (チーム) OPS 出塁率 長打率 備考
1 山田哲人(ヤ) 1.030 0.413 0.617 歴史に残る強打の二塁手2 筒香嘉智(D) 0.912 0.404 0.508 今年急成長の長距離砲3 ロペス(D) 0.888 0.361 0.527 元メジャーリーガー4 福留孝介(神) 0.837 0.363 0.474 突然の打棒復活5 平田良介(中) 0.832 0.378 0.454 攻守揃った万能外野手
※2015/9/11現在の成績を元に算出
WAR(ダブリューエーアール)
• “同じポジションの代替可能選手に比べてどれだけ勝利数を上積みしたか”を表す.
• 代替可能選手 = 平均以下の実力で簡単に獲得できる選手二軍選手もしくは他球団からタダ同然で獲得可能な「勝敗に影響しない」選手
• 代替可能選手(Replacement)を基点に、何勝上積みできるかを数値化するWARが高ければ高いほど、置き換えが不可能な選手!!なお、マイナスもあり得る模様
• 余談ですが、北海道日本ハムファイターズのBOS(Baseball Operating System)は、WARの考え方を活用しているフシがある
→選手を「主力」「控え」「育成」「在庫」の4つに分類、一二軍の入れ替えに活用
WARの読み方評価 WAR
(基準) 注釈
MVPクラス 8.0 以上
主要タイトル(首位打者、本塁打王など)+MVP候補に入るレベルの選手.
オールスタークラス (現役屈指レベル)
5.0 以上
リーグ/チームを代表するレベル. オールスター選出クラス.
スタメンクラス (日常的にスタメン出場)
2.0 以上
チーム内の主力、スタメン当たり前. ここまでが主力といえる.
控えクラス (たまに出場レベル) 0-2.0 常時スタメンが厳しい選手. ルーキー、劣化したベテランetc…Replacement (放出対象) 0未満 チームの為、早々にクビにすべき選手.
要するにゴミ.
参考:https://ja.wikipedia.org/wiki/WAR_(野球) Baseball Reference版のWAR(rWAR)基準
WARランキング(MLB 2014)順位 選手名(チーム) WAR 注釈
1 クレイトン・カーショウ (ドジャース)
8.0 MLB最強サウスポー. 投手三冠タイトルの常連.
2 マイク・トラウト (エンジェルス)
7.9 走攻守揃ったスター外野手. MVPなども受賞.
3 ジョシュ・ドナルドソン (アスレチックス)
7.4 強打&好守の万能三塁手. 実力より過小評価されている.
参考 田中将大 (ヤンキース)
3.3 ルーキーイヤーとして◯. 故障離脱が無ければ…
参考 ダルビッシュ有 (レンジャーズ)
3.2 2013年は5.8、先発として◎. 2014年は登板が少ない分割引.
参考 イチロー (ヤンキース)
1.0 控え起用は正しい(悲しい). なお、最高記録は9.1(2004年)
所属チームは2014年シーズン終了時.
データはBaseball Reference(http://www.baseball-reference.com/)のrWAR
2004年イチローは首位打者他タイトル総なめの上、シーズン最多安打のMLB新記録達成(262本)
アダム・ダン is 誰?
• 元メジャーリーガー(2014年引退)で、三振が非常に多く、四球と本塁打も多かった名選手(又は迷選手)
• 実働14年間で2379三振、1317四球、462本塁打(打率.237、1631安打)
• Wikipedia「三振」ページのモデル
Wikipedia「三振」 ※2015/9/12現在 https://ja.wikipedia.org/wiki/三振
この人
アダム・ダン率
• ”全打席の中で三振と四球、本塁打が多い打者はアダム・ダンっぽい”という”事実”に基づき誕生したセイバーメトリクス指標
• なんJにて誕生、作者は不明
• アダム・ダン率が高い野手はバットをよく振る”扇風機”か、ボールをじっくり見る”地蔵”の可能性が高い
• “扇風機”および”地蔵”は相手野手の守備機会を奪う
→(例)アダム・ダン率57% = 野手に打球が飛ぶ確率43%
アダム・ダン率ランキング(パ)
順位 選手名 (チーム)
ダン率 HR 四球 三振 備考
1 中村剛也(西) 45.5 36 61 154 三振王かつ本塁打王2 メヒア(西) 43.5 25 42 136 去年の本塁打王3 ペーニャ(楽) 40.3 15 60 103 典型的な地蔵タイプ4 森友哉(西) 38.7 15 41 130 イメージ以上に三振多い5 松田宣浩(ソ) 37.2 32 47 112 フリースインガー
※2015/9/11現在の成績を元に算出
アダム・ダン率ランキング(セ)
順位 選手名 (チーム)
ダン率 HR 四球 三振 備考
1 丸佳浩(広) 39.8 16 82 120 貫禄の四球王2 ゴメス(神) 36.5 14 62 117 安定した三振と四球3 梶谷隆幸(D) 35.2 11 50 119 三線の多さが深刻4 山田哲人(ヤ) 34.6 34 65 96 思ったより三振多い5 筒香嘉智(D) 31.8 19 62 79 巧打者っぽい成績
※2015/9/11現在の成績を元に算出
私から皆さんへ
• 贔屓球団、好きな選手のプレーに一喜一憂する野球とは違う、データを元に楽しむ野球の楽しみ方もあるんだぜっ!
• “野球の統計学はAgileに通ずる”
Agileの実践・勉強に疲れたら野球の統計学をやってみるのも手かと
※私が事実そうでした(Lean Startupの勉強してた頃)
皆さんにお願い
• 質問・疑問・他の楽しみ方ないの?etc… 思ったことをこの後の質疑応答・懇親会で語りましょう!(やきう・Agile談義大歓迎!)
• 個人的にはセイバーメトリクスからAgileの何かに結びつくヒントが得られると嬉しいです! (特にメトリクス文脈で)
Wikipedia「野球の各種記録」
• ほぼすべての指標が網羅.
• 日本語版でも十分読み応えアリ.
• 概念や数式の詳しい解説アリ(ページによる).
• https://ja.wikipedia.org/wiki/野球の各種記録
Lean Baseball
• 私のblogです(汗)
• 実験中の事、学んだ事を
まとめています.
• MLBネタ中心.
http://shinyorke.hatenablog.com/