洗口剤併用 口腔内細菌 コントロール...歯肉縁下細菌数:invader plus変法...

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第56回秋季日本歯周病学会学術大会 ランチョンセミナー エッセンシャルオイルを用いた 3 ステップケアの臨床・疫学評価 2013年9月22日(日) 前橋市民文化会館 中川 種昭 先生 慶應義塾大学医学部 歯科・口腔外科教室 教授 両⻆ 俊哉 先生 新潟大学医歯学総合病院 歯周病科 助教 第56回秋季日本歯周病学会学術大会 ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 共 催 座長 演者 洗口剤併用 による 口腔内細菌 コントロール テーマ1

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Page 1: 洗口剤併用 口腔内細菌 コントロール...歯肉縁下細菌数:Invader PLUS変法 総菌数 Porphyromonas gingivalis ( P. gingivalis ) Prevotella intermedia ( P

第56回秋季日本歯周病学会学術大会 ランチョンセミナー

エッセンシャルオイルを用いた 3ステップケアの臨床・疫学評価

2013年9月22日(日) 前橋市民文化会館

中川 種昭 先生慶應義塾大学医学部 歯科・口腔外科教室 教授

両⻆ 俊哉 先生新潟大学医歯学総合病院 歯周病科 助教

第56回秋季日本歯周病学会学術大会 ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社共 催

座長

演者

洗口剤併用による口腔内細菌のコントロール

テーマ1

Page 2: 洗口剤併用 口腔内細菌 コントロール...歯肉縁下細菌数:Invader PLUS変法 総菌数 Porphyromonas gingivalis ( P. gingivalis ) Prevotella intermedia ( P

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口腔内細菌の伝播と増殖図 1

病原菌は口腔内全体に生息している!

 「口腔内細菌」という言葉から、多くの方は歯肉縁上や縁下のプラークを連想すると思われる。しかしながら、口腔内細菌の生存を可能にする諸条件がそろっている場所(niche ; ニッチ)は、歯肉溝/歯周ポケットのほかにも、口蓋扁桃や舌など様々あり、細菌はそれらに定着・増殖し、ニッチ間を互いに移動(伝播)している(図1)。したがって、除菌の際には一部位のみでなく、口腔内全体を病原菌の生息域と捉えて対処することが必要となる。 口蓋扁桃は、口蓋垂の斜め両奥にあるアーモンド状のリンパ上皮性器官で、唾液を介して口腔内細菌が付着すると考えられている。また、舌には、微生物や唾液糖タンパク、剝離上皮、食物残渣などからなるバイ

オフィルム状の凝集塊である舌苔が付着しており、舌苔の付着量と口臭との関連がこれまでに報告されている。その口臭は、硫化水素、メチルメルカプタンなどからなる揮発性硫黄化合物(volatile sulfur compounds ;

VSCs)が主な原因として知られている。 このような口腔内環境に対し、近年、従来の機械的歯面清掃法であるブラッシングやフロッシングに、洗口剤によるリンシングを組み合わせた「3ステップケア」の臨床効果が注目されている。洗口剤には様々な種類があるが、とりわけエッセンシャルオイル含有洗口剤(商品名:リステリンⓇ)に関しては、これまで多角的に基礎的・臨床的研究が行われ、我々もその有用性について報告している 1、2)。細菌の細胞壁を破壊し、酵素活性を阻害することにより幅広い微生物を殺菌すること3、4)や、バイオフィルムに浸透して内包された微生物を殺菌する 5)ことなどは重要な特徴であり、臨床的にも大きく影響していると考えられる。 以上のような背景に基づき、慢性歯周炎患者の口腔内ニッチにおける歯周病原細菌数およびVSCs濃度に対する3ステップケアの臨床効果について、エッセンシャルオイル含有洗口剤を用いて検討した。

慢性歯周炎患者40症例でエッセンシャルオイル含有洗口剤の浸透・殺菌作用を検討

 本研究は、藤の丘歯科医院(富山県砺波市)の協力を得て実施された。対象は、同院を初診来院して同意が得られた 35~70歳の中等度以上の慢性歯周炎患者 40

名である。残存歯20歯以上、各1/4口腔に4mm以上の歯周ポケットが 3ヵ所以上存在する条件を満たし、過

座 長

中川 種昭 先生慶應義塾大学医学部歯科・口腔外科教室 教授

演 者

両⻆ 俊哉 先生新潟大学医歯学総合病院歯周病科 助教

 2013 年 9 月 22 日(日)前橋市民文化会館で行われた第 56 回秋季日本歯周病学会学術大会ランチョンセミナー II では、2 つのテーマを掲げることで「エッセンシャルオイルを用いた 3 ステップケアの臨床・疫学評価」について確認していった。小山圭子先生(一般財団法人 日本口腔保健協会 常務理事)の講演とともに行われた本講演では、エッセンシャルオイル含有洗口剤(商品名:リステリンⓇ)の浸透・殺菌力に着目してデザインした対象 40 症例の臨床研究の結果などをもとに、現在、注目を浴びているブラッシング、フロッシング、リンシングによる 3 ステップケアの臨床効果に対して、エッセンシャルオイル含有洗口剤が寄与する可能性を検証したので紹介する。

歯肉溝 / 歯周ポケット

口蓋扁桃

頬粘膜

洗口剤併用による口腔内細菌のコントロール

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本研究のスケジュール

測定・サンプリング方法

硫化水素とメチルメルカプタンの陽/陰性数図 2

図 3

表 1

統計解析:マクネマーテスト

去6ヵ月以内に歯周治療を受けた者、過去3ヵ月以内に抗菌剤または抗炎症剤を内服した者、殺菌作用を有する洗口剤を日常的に使用している者、重篤な全身疾患を有する者、は除外された。無作為に2群に分け(図2)、両群に歯肉縁上スケーリングとブラッシング指導を行った後、プラークコントロールが確立したところで1回目の測定・サンプリングを行ってベースラインとした。測定・サンプリングの方法は、図3のとおりである。 実験群には1日3回のブラッシングと1日1回のフロッシング、1日2回のリンシングを実施してもらい、対照群には1日3回のブラッシングのみを実施してもらった。リンシングの方法はガラガラ含嗽で、リステリンⓇ フレッシュミントを用いた。 本検討のデザインでは、ブラッシングとフロッシングで破壊されたバイオフィルムに対してはエッセンシャルオイル含有洗口剤が直接に殺菌し、破壊されなかった

バイオフィルムに対しては浸透したうえで殺菌作用を示すことが期待された。

3ステップケアは口蓋扁桃の細菌数を減少させることが示唆された

 VSCsの測定では、実験群においてメチルメルカプタンの臭覚閾値を超える症例数が有意に減少した(表1)。また、口蓋扁桃拭い液においては総菌数(P=0.0312)、P. intermedia(P=0.0057)、T. forsythia(P=0.0337)の数が(図 4)、歯周ポケットにおいては総菌数(P=0.0288)、

T. forsythia(P=0.0282)の数が実験群において有意に減少した。舌苔においては両群とも有意な変化は認めなかった。 実験群の口蓋扁桃拭い液中で細菌数が有意に減少したのは、通常のリンシングでなくガラガラ含嗽であったことが影響しているだろう。歯周ポケットにおいては、フロッシングの影響が大きかったと思われる。また、

ベースライン

実験群(n=20)

対照群(n=20)

陽性

7 313 17 0.289

9 811 12 0.250

7 113 19 0.031

8 1012 10 1.000

H2S

H2S

CH3SH

CH3SH

H2S: 硫化水素、 CH3SH: メチルメルカプタン

<臭気閾値> H2S; 1.5 ng/10mL、 CH3SH; 0.5 ng/10mL

陽性陰性 陰性4 週後

P 値初診来院

群分け

歯肉縁上スケーリング + ブラッシング指導

1 〜 2 週間

4 週間

2nd 測定・サンプリング

1st 測定・サンプリング ( ベースライン)

3 ステップケア ・ ブラッシング(3 回 / 日、スクラビング法) ・ フロッシング(1 回 / 日) ・ リンシング(ガラガラ含嗽、 2 回 / 日      リステリン ® フレッシュミント)

ブラッシングのみ(3 回 / 日)

実験群 対照群

歯周ポケット内プラークプロービングポケットデプス5〜6mm部位1箇所ペーパーポイント

歯肉縁下細菌数:Invader PLUS 変法総菌数Porphyromonas gingivalis (P. gingivalis)Prevotella intermedia (P. intermedia)Tannerella forsythia (T. forsythia)

VSCs 濃度オーラルクロマにて硫化水素とメチルメルカプタン濃度を測定

舌苔有郭乳頭付近から舌尖までの領域を縦に5回擦過超音波粉砕、懸濁

口蓋扁桃拭い液左側扁桃を 2 回擦過

第56回秋季日本歯周病学会学術大会 ランチョンセミナー  テーマ1

(藤岡ら 文献 6)

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口臭については、舌苔中の細菌数に有意な変化が見られなかったことから、口腔内全体における細菌数の減少のほうが寄与したのではないだろうか。本研究において舌苔の除去は初回に1回行ったのみであった。口臭との関連が強いといわれる舌苔を定期的に除去していたら、口臭はさらに改善していた可能性はある。 以上、3ステップケアは口蓋扁桃や歯周ポケットの細菌数の減少およびメチルメルカプタン濃度を低下させるのに有用であることが示唆された。

日本人の洗口剤の選定基準と合致しうる「やさしさと、殺菌力。」を有した洗口剤

 小島らは、日本人の洗口剤の選定基準として、う蝕・歯周病予防効果や殺菌効果への期待とともに、味や使用感も重要な要素であることを指摘している 7)。また、竹中らは、エタノールが含有されていないエッセンシャルオイル含有洗口剤であるリステリンⓇゼロ(本邦未販売)を in vitroで調べ、エタノールを含有しているリステリンⓇ フレッシュミントと効果に違いがないことを報告している 8)。このたび本邦で発売されたリステリンⓇナチュラルケアは、「やさしさと、殺菌力。」をコンセプトにしたエタノールが含まれていない洗口剤である。清涼感を出すために緑茶成分を含んでおり、使用感を向上させつつも殺菌効果は保持している。日本

人の洗口剤の選定基準と合致しうる本剤が、3ステップケアの実施率の向上に寄与することを期待したい。 本剤は、診療室の清潔を保持することにも寄与する可能性を有する。当院では、ディスペンサー(図5)を用いて、診療前の患者さんにリステリンⓇで洗口をしていただいている。歯周治療により飛散した口腔内細菌が診療室内の気流により部屋中に拡散すること、リステリンⓇ洗口によりその拡散する細菌数を大幅に減少できること、は既に知られている 9)。これは、そのエビデンスに則った対策であり、使用例の一つである。しかしながら、患者さん全員に実施していただかないと、効用が弱くなってしまう。その意味でやさしい味は重要であり、より多くの患者さんに実施していただくことで、診療室にいる者への菌の付着を減少させることが期待できる。

ジョンソン・エンド・ジョンソン株式会社 コンシューマー カンパニー〒101-0065 東京都千代田区西神田3-5-2 http://www.listerine-jp.com/

リステリンⓇディスペンサー図 5

実験群における口蓋扁桃の細菌数の変化図 4

統計解析:ウィルコクソン符号付順位和検定

総菌 P. intermedia

T. forsythiaP. gingivalis

ベースライン

ベースライン

ベースライン

ベースライン

7

3.5

0

2

1

0

3

1.5

0

2

1

0

log1

0 /

mL

log1

0 /

mL

log1

0 /

mL

log1

0 /

mL

4 週後

4 週後

4 週後

4 週後

P=0.0312

P=0.1411

P=0.0057

P=0.0337

【文献】1) Morozumi T, et al.: J Periodontol 81: 1555-1563, 2010.

2) Morozumi T, et al: Int J Dent: 146479, 2013.

3) Ouhayoun JP: J Clin Periodontol 30 Suppl 5: 10-12, 2003.

4) Stoeken JE, et al.: J Periodontol 78: 1218-1228, 2007.

5) Dennison DK, et al.: Oral Surg Oral Med Oral Pathol Oral Radiol  Endod 79: 442-448, 1995.

6) 藤岡陽介 , 両⻆俊哉 他 : 日本歯科保存学雑誌 56:  551-559, 2013.

7) 小島千奈美 他 : 日本歯周病学会会誌 55: 148-155, 2013.

8) 竹中彰治 他 : 日本歯科保存学雑誌 56: 105-112, 2013.

9) Fine DH, et al.: J Am Dent Assoc 124: 56-58, 1993.

(藤岡ら 文献 6)