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2013/11/29 FA/Tohoku_U 「無線伝送工学」 1 8DS-CDMA 8.2 フェージング対策 通信工学専攻 安達文幸 「無線伝送工学」 2013/11/29 FA/Tohoku_U 「無線伝送工学」 3 目次 8.2.1 周波数選択性フェージングチャネル 8.2.2 Rake合成 8.2.2.1逆拡散 8.2.2.2 積分器出力のSNR 8.2.2.3 Rake合成 8.2.2.4 平均誤り率 8.2.3 アンテナダイバーシチとRake合成の併用 8.2.4 マルチレート伝送を可能とするOVSF符号 8.2.5 送信電力制御 2013/11/29 FA/Tohoku_U 「無線伝送工学」 4 8.2.1 周波数選択性フェージングチャ ネル 2013/11/29 FA/Tohoku_U 「無線伝送工学」 5 伝搬路のモデル 無線チャネルは,送受信点間に存在する多数の散乱体によって生 成された離散的な遅延時間を持つ多重伝搬路である.このような無 線チャネルは線形フィルタで表現できる. 線形フィルタはインパルス応答,またはそのフーリエ変換である伝達 関数によって記述することができる.時刻tで印加された単位インパ ルスに対するインパルス応答h(, t)は次式のように表される. 時間 送信インパルス 振幅 遅延時間 振幅 t 無線チャネル t

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2013/11/29 FA/Tohoku_U 「無線伝送工学」 1

第8章DS-CDMA8.2 フェージング対策

通信工学専攻

安達文幸

「無線伝送工学」

2013/11/29 FA/Tohoku_U 「無線伝送工学」 3

目次

8.2.1 周波数選択性フェージングチャネル

8.2.2 Rake合成

8.2.2.1逆拡散

8.2.2.2 積分器出力のSNR8.2.2.3 Rake合成

8.2.2.4 平均誤り率

8.2.3 アンテナダイバーシチとRake合成の併用

8.2.4 マルチレート伝送を可能とするOVSF符号

8.2.5 送信電力制御

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8.2.1 周波数選択性フェージングチャネル

2013/11/29 FA/Tohoku_U 「無線伝送工学」 5

伝搬路のモデル

無線チャネルは,送受信点間に存在する多数の散乱体によって生成された離散的な遅延時間を持つ多重伝搬路である.このような無線チャネルは線形フィルタで表現できる.線形フィルタはインパルス応答,またはそのフーリエ変換である伝達関数によって記述することができる.時刻tで印加された単位インパルスに対するインパルス応答h(, t)は次式のように表される.

時間

送信インパルス振

遅延時間

振幅

t

無線チャネル

t

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受信信号は,次式のようにインパルス応答と送信信号との畳み込みで与えられる.

時変FIRフィルタh(, t)

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電力遅延プロファイル

このような多重伝搬路を記述するときによく使われるのは電力遅延プロファイル()である.

よく知られたプロファイルは一様プロファイル(uniformprofile)と指数プロファイル(exponential profile)である.

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()

012 L-130

1/L

一様プロファイル

()

01 2 L-130

指数プロファイル

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8.2.2 Rake合成

8.2.2.1 逆拡散

8.2.2.2 積分器出力のSNR

8.2.2.3 Rake合成

8.2.2.4 平均誤り率

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DS-CDMA通信では,rakeやアンテナダイバーシチ受信がフェージング環境下での伝送特性を改善する技術として用いられる.これらについて動作原理を述べる.

8.2.2節と8.2.3節では,他ユーザ干渉を考えていない.すなわち,1ユーザが通信している場合である.基本的な伝送特性を理解するためである.

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逆拡散

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受信信号の等価低域表現r(t)に,l番目のパスを伝搬してきた信号に同期した拡散符号系列c(t-l)の複素共役を乗積し,逆拡散する.

このあと積分して得られたベースバンド信号成分l,kを用いてデータ復調する.

この過程を下図に示す.

2cos(2fct)搬送波発生器

低域通過フィルタ

Re[r(t)]

搬送波発生器 2sin(2fct)

Im[r(t)]受信信号の等価低域表現r(t)= Re[r(t)]+j Im[r(t)]

c*(t-l)

t=(k+1)T+l

積分器 l,k

l(t)r (t)

PN発生器

l番目のパスに同期した逆拡散と積分

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第1項が信号成分,第2項がパス間干渉成分,そして第3項が雑音成分である.

パス間干渉の分散を求める.

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積分フィルタタ出力の信号対雑音電力比SNR

第5章で,周波数選択性チャネルでは符号間干渉が発生することを説明した.CDMAでは拡散符号系列を乗積して積分することにより(これを相関受信という),異なる遅延時間を有する複数の受信信号に分離できる.

積分器出力に現れる,他のパスを経由した受信信号は無視できるくらい小さくなるから(ただし,これは拡散率が大きい時にのみ成立することに注意),積分器出力端から伝搬路を見たときには周波数非選択性チャネル(つまり,L=1)と等価になる.

それでは,積分器出力の信号対雑音電力比SNRはどのように表せるか?これを以下で述べる.

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Rake合成

1つのパスを経由した信号だけを用いて復調すると,総受信電力のうちの一部しか利用しないため,伝送特性が劣化する.そこで,全てのパスの信号を利用して復調する.これがRake受信(熊手受信)である.

各パスに同期して逆拡散,積分する回路はフィンガ(指)と呼ばれる.Rake合成器の構成は下図のとおりである.

l,k

Rake合成

受信データ

dkディジタル復調器

他フィンガより

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Rake合成器出力

J. G. Proakis, Digital communications, 2nd ed., McGraw-Hill, 1995. 2013/11/29 FA/Tohoku_U 「無線伝送工学」 23

一様電力遅延プロファイルのとき,は平均値で指数分布するL個のランダム変数の和になる.

の確率密度関数は自由度2Lの2-分布で表わされ,次式のようになる(導出略).ただし,BPSK変調(Es=Eb)を仮定した.

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/[2(Eb/N0)]の確率密度関数

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誤り率

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J. G. Proakis, Digital communications, chap. 7, second edition , McGraw Hill.

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8.2.3 アンテナダイバーシチとRake合成の併用

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チャネルのパス数Lが増えるにつれて平均BER特性が改善する.しかし,パス数は拡散帯域幅に依存する.

拡散帯域幅一定という条件のもとで等価的にパス数を増加させるもっとも効果的な方法は,アンテナダイバーシチをRake合成と併用することである.M個のアンテナを用いれば等価パス数をML個にできる.

Lフィンガrake合成

Lフィンガrake合成

Lフィンガrake合成

MLフィンガrake合成

受信データ

dkディジタル復調器

アンテナ#0

アンテナ#M-1

アンテナ#m

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8.2.4 マルチレート伝送を可能とするOVSF符号

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直交可変拡散率(OVSF)符号

最近の移動通信では多様な伝送レートの通信(マルチレート通信)が要求されている.

チップレート一定(すなわち拡散帯域幅一定)のもとで干渉を発生せずにマルチレート伝送を行うユーザを多重するためには,異なる拡散率の拡散符号間の直交性を保証しなければならない.

このような性質を持つ拡散符号が,次式のように再帰的に生成される直交可変拡散率(OVSF: orthogonal variable spreading factor)符号であり,次のように再帰的に生成できる[Adachi].

ここで,CN(2n)およびCN(2n+1),n=0~N/2-1,は±1を要素に持つN次元の行ベクトルであり,C1=C1(0)=1である.

下りリンクでは全てのユーザの信号が時間同期しているので,にOVSF符号を用いることができる.

CN/2(n)

CN(2n)=[CN/2(n), CN/2(n)]

CN(2n+1)=[CN/2(n), -CN/2(n)]

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このようなOVSF符号の生成は符号の木構造を用いると理解しやすい.

生成された各符号はHadamard Walsh符号になっている.

C1(0)=1

C2(0)= (1,1)

C4(0) = (1,1,1,1)

C4(1) = (1,1,-1,-1)

C4(2) = (1,-1,1,-1)

C4(3) = (1,-1,-1,1)

C2(1)= (1,-1)

N= 1

N = 2

N = 4N = 8

C8(0) = (1,1,1,1,1,1,1,1)

C8(1) = (1,1,1,1,-1,-1,-1,-1)C8(2) = (1,1,-1,-1,1,1,-1,-1)

C8(3) = (1,1,-1,-1,-1,-1,1,1)C8(4) = (1,-1,1,-1,1,-1,1,-1)

C8(5) = (1,-1,1,-1,-1,1,-1,1)C8(6) = (1,-1,-1,1,1,-1,-1,1)

C8(7) = (1,-1,-1,1,-1,1,1,-1)

F. Adachi, M. Sawahashi, and K. Okawa, “Tree-structured generation of orthogonal spreading codes withdifferent lengths for forward link of DS-CDMA mobile radio,” IEE Electron. Lett., vol. 33, pp. 27-28, Jan.1997.

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拡散率Nが同じN個の符号は互いに直交している.これらの符号は拡散率がそれより小さい符号(それより左側の符号)と,また直交している.

しかし,ある符号とそれに到達する枝を左に遡った親符号とは直交関係にない.例えば,N=8の8個の符号は互いに直交しているが,C8(2)符号はその親であるC4(1)符号,C2(0)符号,C1(0)符号とは直交関係にない.

OVSF符号木を用いれば,異なる伝送レートのユーザを直交させるための拡散符号を簡単に見つけ出すことができる.

例えば,シンボルレートがチップレートの1/8(つまりN=8)のユーザ#0とシンボルレートがチップレートの1/4(つまりN=4)のユーザ#1を直交多重する.このとき,もしユーザ#0にはC8(2)符号を割り当てたなら,ユーザ#1にはC4(1)以外の符号を割り当てればよい.

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8.2.5 送信電力制御

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高速送信電力制御移動局の移動につれて伝搬損失が変動するばかりか,シャドウイングによって短時間平均受信電力も変動する.さらに,マルチパスフェージングによって受信電力が激しく変動する.

PN符号を拡散符号に用いる上りリンクでは,PN符号間の相互相関が零でないために他ユーザの信号からの干渉を受ける.このため,(伝搬損失とシャドウイングによる)遠近問題とマルチパスフェージングとによって伝送特性が劣化する.

アンテナダイバーシチとrake受信を組み合わせて用いれば,フェージングによる受信電力の変動を低減できるが,空間的制約アンテナ本数を多くはできないし,分離可能なパス数にも限界があるから,完全にフェージングの影響をなくすことはできない.これを解決するのが高速送信電力制御(TPC)である.

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高速TPCでは,基地局で受信品質(受信電力,SNR,ビット誤り率,またはフレーム誤り率)を測定し,目標品質と比較し,受信品質が常に目標値になるよう,送信電力を制御するTPCコマンドを移動局へ送信する.

そして移動局では,受信されたTPCコマンドをもとに送信電力を増減する.

制御Ttpc

+上りリンク

移動局

品質測定

比較

目標品質

TPCコマンド生成

下りリンク

基地局

送信電力P(n) dB

P(n-1)dB

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目標値として用いられるのは,所要平均ビット誤り率を確保するために必要な信号電力対(雑音+干渉)電力比SNRである.

高速フェージングによる受信電力の変動を補正するために,TPCコマンドを1秒間あたり800~1500回送信することが必要である.

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1パスレイリーフェージング環境における受信電力の瞬時変動の様子

レイリーフェージング(fD=4Hz)

RBW300 kHz

VBW300 kHz

SWP2.0 s

CENTER 1.990500000 GHz SPAN 0 Hz

0.4sec

10dB

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送信電力の変動の様子.

RBW300 kHz

VBW300 kHz

SWP2.0 s

レイリーフェージング(fD=4Hz)

CENTER 1.990500000 GHz

0.4 sec

10 dB

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受信電力変動が抑えられほとんど一定値になる.

300 kHz

300 kHz

レイリーフェージング(fD=4Hz)

RBW

VBW

SWP2.0 s

CENTER 1.990500000 GHz SPAN 0 MHz

0.4 sec

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高速TPCは伝搬損失およびシャドウイングによる受信電力の緩慢な変動のほか,マルチパスフェージングによる受信電力の高速変動を抑えることができる.

MアンテナダイバーシチとLフィンガRake合成を併用したときの瞬時SNRは次式で与えられる.

これより,TPCを用いたときの移動局送信電力Ptはパス利得の変動につれて次式のように瞬時変動することになる.

2013/11/29 FA/Tohoku_U 「無線伝送工学」 49

一様電力遅延プロファイルを仮定すると,

は平均が1/LのML個の指数分布する確率変数の和になる.

これより,アンテナダイバーシチなし(M=1)でフェージングなし(L→∞に相当)ときの送信電力で正規化した平均送信電力を求めることができて,次式のようになる[大野,1996].

上式より,パス数Lが多ければ,アンテナ数Mに反比例して移動局の平均送信電力を減少させることができる.

もし周波数選択性が弱くL=1となるような伝搬環境下であれば,アンテナダイバーシチを用いないと理論的には平均送信電力が無限大になってしまう.拡散帯域幅を広くし常にL>1 とすれば,これを避けることができる. 大野,安達, “DS-CDMAの上りリンク容量と送信電

力,” 信学論, vol. J79-B-II, pp.17-25, Jan. 1996.

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参考文献

[1] A.J. Viterbi, CDMA: Principles of spread spectrumcommunication, Addison-Wesley, 1995.

[2] J. Proakis, Digital communications, Chap. 7, Second edition,McGraw Hill.

[3] F. Adachi, M. Sawahashi, and K. Okawa, “Tree-structuredgeneration of orthogonal spreading codes with differentlengths for forward link of DS-CDMA mobile radio,” IEEElectron. Lett., vol. 33, pp. 27-28, Jan. 1997.

[4] 大野,安達, “DS-CDMAの上りリンク容量と送信電力,” 信学論, vol.J79-B-II, pp.17-25, Jan. 1996.

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演習問題8.2.1単一セル方式およびセルラ方式について,TDMA,FDMAとCDMAリンク容量をBTの関数として表わせ.ここで,Bは全帯域幅,1/TはBPSKデータ変調信号の帯域幅である.計算に当たっての条件は下記のとおり.

伝搬指数=4,シャドウイングはないがレイリーフェージングあり

符号化なしで所要BER=0.01送信フィルタ:ロールオフファクタ=0.5の自乗余弦フィルタ

受信アンテナ数M=1(アンテナダイバーシチなし)

TDMAのクラスタサイズFの計算にあたっては,周辺6局からの干渉を考えよ.

CDMAでは,他セル干渉対自セル干渉電力比f=0.7とせよ.また, 3セクタ基地局を考えよ.