第9回08.4.21 1 第9回 都市デザインの手法 (2) (1)デザインサーヴェイ...

6
08.4.21 1 第9回 都市デザインの手法 (1)デザインサーヴェイ 都市デザイン 1.デザイン・サーベイの意味 (1)目的 地域の空間的な固有性の再発見 建築・都市の設計における考え方やデザイン ソースの解明 (2)方法 聞き取り調査、歴史的史料等の分析・考察 都市や街並みの実測や図面化 =フィールド・ ワーク 記号化による分析あるいは景観等の実証的分 2.我が国におけるデザイ ンサーヴェイの背景 (1)1960年代後半以降 ・近代都市計画や近代建 築に対する反省 ・アノニマスな形態への関 心の高まり 民家調査から 自然発生的な集落等の サーベイへ 塩田町塩田津の景観 鹿島市肥前浜宿のフィールド調査 2)デザインサーヴェイの移入 欧米ではもともと普遍的な一般名詞 •1965年、オレゴン大学による 金沢市幸町 の調査 (調査抄録:『国際建築』,11月号1966学術的な一手法として我が国に定着 調査地選定の条件 (1)調査研究の意義 空間構造的または景観的な魅力があること 調査し資料化すべき学問的意味があること 学生にとって教育的効果が期待できること 1)研究者の立場:民家調査の延長 2)計画者の立場:設計ソース 3)中間の立場:修景計画策定(修景基準) 4)その他 3.調査の方法 (1)準備 予備調査(本調査に必要な情報の収集) 空間構成、戸数、規模、交通状態、協力組織などの確認 仮説の設定とその確認 調査対象リストと工程表の作成 調査用具類(測量器具、文具類、写真など)の準備

Upload: others

Post on 22-Sep-2020

0 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 第9回08.4.21 1 第9回 都市デザインの手法 (2) (1)デザインサーヴェイ 都市デザイン 1.デザイン・サーベイの意味 (1)目的 • 地域の空間的な固有性の再発見

08.4.21

1

第9回

都市デザインの手法 (1)デザインサーヴェイ

都市デザイン

1.デザイン・サーベイの意味

(1)目的 •  地域の空間的な固有性の再発見 •  建築・都市の設計における考え方やデザインソースの解明

(2)方法 •  聞き取り調査、歴史的史料等の分析・考察 •  都市や街並みの実測や図面化 =フィールド・ワーク

•  記号化による分析あるいは景観等の実証的分析

2.我が国におけるデザインサーヴェイの背景 (1)1960年代後半以降 ・近代都市計画や近代建  築に対する反省 ・アノニマスな形態への関  心の高まり   →民家調査から     自然発生的な集落等の サーベイへ

塩田町塩田津の景観

鹿島市肥前浜宿のフィールド調査

(2)デザインサーヴェイの移入

• 欧米ではもともと普遍的な一般名詞

• 1965年、オレゴン大学による 金沢市幸町の調査 (調査抄録:『国際建築』,11月号1966)

  → 学術的な一手法として我が国に定着

調査地選定の条件 (1)調査研究の意義 •  空間構造的または景観的な魅力があること •  調査し資料化すべき学問的意味があること •  学生にとって教育的効果が期待できること

1)研究者の立場:民家調査の延長 2)計画者の立場:設計ソース 3)中間の立場:修景計画策定(修景基準) 4)その他

3.調査の方法 (1)準備 •  予備調査(本調査に必要な情報の収集)

– 空間構成、戸数、規模、交通状態、協力組織などの確認 – 仮説の設定とその確認

•  調査対象リストと工程表の作成 •  調査用具類(測量器具、文具類、写真など)の準備

Page 2: 第9回08.4.21 1 第9回 都市デザインの手法 (2) (1)デザインサーヴェイ 都市デザイン 1.デザイン・サーベイの意味 (1)目的 • 地域の空間的な固有性の再発見

08.4.21

2

(2)調査

•  平面図、立面図、断面図、配置図等の作成 – 方眼用紙(5mm) 1/50~

1/100 •  各構成部材のスケッチ、寸法測定

•  写真撮影

(3)整理 •  野帳と写真の対応づけと整理

•  実測図のリライト      ⇒ 分析へ

基準線(見通し線)を決めておく。

目測・歩測などで平面の輪郭を 書く。

付属物(塀・柵・溝など)を記入する。

屋根の形、葺き材の名称などを 記入する。

4.我が国における先進事例 (1960~80年代の取組み) (1)武蔵野美術大学 •  調査観点:民俗学的な視点 •  方法:実測図の作成、住民生活の観察記録    → 住民と生活を共にした地域密着型の調査

(2)明治大学・神代研究室 •  目的:コミュニティの仕組みの解明

•  方法:祭り(非日常的行事)の分析を通して

•  調査対象:漁村など

(3)法政大学・宮脇檀研究室 •  目的:集落の空間構造と景観の解明 •  方法:実測による客観的資料の作成

例1:倉敷 ⇒ 町並み景観の解明 (宮脇檀研究室(法政大学))

•  立面材料エレメント別グラフ •  縦方向と横方向の縮尺を変えることによるエレメントの強調

Page 3: 第9回08.4.21 1 第9回 都市デザインの手法 (2) (1)デザインサーヴェイ 都市デザイン 1.デザイン・サーベイの意味 (1)目的 • 地域の空間的な固有性の再発見

08.4.21

3

例2 馬籠宿→ 住まいの空間構成の解明 •  「宿」:本来の宿駅で旅客中心の集落

– 奥行が深い町家型

•  「峠」:控えの宿場であり牛馬を提供する牛方宿 – 間口が広い農家型

   牛馬の小舎を内蔵した大きな土間(ニワ)

「峠」の空間構成

「宿」の空間構成

5. 長崎県平戸市的山大島神浦の 歴史的町並みについて

(1)連続平面を読む •  目的:連続している町家の関係を知る •  方法:連続平面図(現況)の作成   → 町ごとの分析 •  前提:改造されても平面的な造りは変わらない

的山大島神浦連続平面図

本町(上本町、中本町、下本町) □例(本町)

•  町並み形成の経緯: – 中世…陸側に町並みの形成 – 江戸初期…浜側の埋立て、鯨業(井元家)の屋敷や網工場 –  18世紀 …井元家の廃業  → 浜側敷地の分割、町家の建設  → 浜側は一列三室、陸側は一列二室の町家 – 表は通り側、間口は陸側と浜側で均等  ☞ 通りに平等、海の公有(公界としての水辺)

・土間の位置

•  陸側…土間が必ずしも同じ側にはない

→通りの上手下手が意識されていない – 部屋同士が背中合わせで、1階の外壁を省略

   → 工費を抑える工夫?

•  浜側…概ね西側を上手、東側に通り土間

→ 陸側と浜側とで異なる町並みの成立時期

本町連続平面図

Page 4: 第9回08.4.21 1 第9回 都市デザインの手法 (2) (1)デザインサーヴェイ 都市デザイン 1.デザイン・サーベイの意味 (1)目的 • 地域の空間的な固有性の再発見

08.4.21

4

 2棟の町家を一棟として改築(平松國家住宅など)       → 狭小な住戸の解消、店舗の拡大

・敷地の合筆(明治期)

•  目的:神浦地区における町家の様式とその特質を明らかにすること

•  方法:町家の復原を通した立面構成要素の分析

1) 構造形式の区分 •  中二階町家( 単窓) •  中二階町家( 連窓) •  本二階町家( 連窓)

(2)立面構成を読む

2) 建築年代と復原年代(建築史調査)

•  建築年代  ← 構造形式、材料、 改造の程度、 経年感など •  復原年代 (基本的に建設当初) ←増改築の程度で判断

根太

3) 復原立面図の作成 1.  現況立面図の作成  ← 現況立面の実測 および写真 2. 復原平面図の作成  ←  痕跡図・現況平面図・ 断面図・配置図 3. 復原立面図の作成  ← 現況立面図 復原平面図と痕跡図

改造で不明の部分: 類例調査(古写真や同年代の町家を参考)

Page 5: 第9回08.4.21 1 第9回 都市デザインの手法 (2) (1)デザインサーヴェイ 都市デザイン 1.デザイン・サーベイの意味 (1)目的 • 地域の空間的な固有性の再発見

08.4.21

5

4) 立面の分析

■ 中二階町家(単窓): 11 棟(うち2棟は建築当初には復原できず)

–  2 階の改造:通りと反対側に座敷 (海や中庭への眺望)    → 屋根高は他の町家より高い  –  1 階開口部:摺揚戸 → 通りに対して開放的 –  付庇の支持:持送りから方杖へ、 線絵様から複雑な絵様へ

中二階町家(単窓) 井崎良雄家、明治7年建設

中二階町家(単窓)の立面構成要素 持ち送りと方杖

■中二階町家(連窓):

 9棟(うち3棟は建築当初には復原できず) –  2階開口部:引き違い戸           板戸 もしくは障子戸+戸袋 –  1階開口部:大正期まで摺揚戸           昭和期は引き違いの硝子戸 –  庇の支持 :持送りから方杖へ           戦後は吊庇へ

中二階町家(連窓) 大浦正安家、18世紀前期建設

Page 6: 第9回08.4.21 1 第9回 都市デザインの手法 (2) (1)デザインサーヴェイ 都市デザイン 1.デザイン・サーベイの意味 (1)目的 • 地域の空間的な固有性の再発見

08.4.21

6

■本二階町家(連窓): 19棟(うち7棟は建築当初には復原できず) •  2階開口部:大正期まで引き違い障子戸が卓越     明治期の中頃から大正にかけては手摺付き •  1階開口部:大正期まで摺揚戸が卓越 •  1階板戸と2階障子戸はセット      (関東治家だけは例外) •  引き違い硝子戸で、外側に摺揚戸を設ける町家も存在(雨戸)

•  庇の支持:付庇は全て方杖、一部吊庇 本二階町家(連窓)

川崎セツ子家、明治後期建設

◆ 1960年代後半移行、近代化への反省 – 自然発生的・アノニマスな形態への関心の高まり – 歴史的町並みの保存 – 新たなデザインモチーフの探求

◆ 現代都市のあり方に関する様々な示唆 (1)町の固有性の再発見(地域性)

• 生活共同体の大切さ • 空間構造と生活との関わり

(2)建築・都市設計の手法の発見

まとめ(デザイン・サーベイ)