不動産をうまく活用した c reシンポジウム · 企業と不動産プロジェクト...

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調C RE使インカム・アプローチが重要 収益生み出す不動産へ転換を 本紙朝刊・1月22日(金)掲載・CRE特集・全8段 ポータルサイト「企業経営とCRE戦略」 http://land.nikkei.co.jp/cre/ プライスウォーターハウスクーパース パートナー(共同経営者) 田作朋雄

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企業と不動産プロジェクト

基調講演

第3回

CREシンポジウム

企業価値を高める資産戦略のあり方

 

企業が保有する不動産(CRE)をどう活用するかが、企業価値を大きく左右す

る時代になり、CRE戦略の重要性が年々高まっている。先般開催された「企業と不

動産プロジェクト

CREシンポジウム」(第3回)では、企業価値を高めるための資産

戦略のあり方や、2010年3月期以降の財務情報の開示とCRE戦略の関係につ

いて専門家が講演・パネル討論を行った(パネル討論の内容は2月中旬に掲載予定)。

根強い不動産所有意識

 

日本企業は、資産に占め

る不動産の割合が大きい。

不動産という資産がいかに

キャッシュフローを生むか

によって、企業価値が大き

く変わるといっても過言で

はない。だからこそ、企業

において不動産戦略が重要

になる。

 

ところが日本ではバブル

期まで、不動産についての

考え方は、まるで貴金属や

美術品のように「持ってい

ること自体に価値がある」

という思い込みが強かっ

た。担保といえば不動産で

あり、不動産さえ押さえて

おけば安心といった考え方

が流布していた。金融機関

は不動産の資産価値を過大

評価し、不動産を担保に積

極融資を行う。結果、不動

産バブルとその崩壊を招

き、多くの不良債権を生み

出す原因となった。

 

不動産の真の価値はどう

計るべきなのか。不動産の

バリュエーション(価格査

定)には主に3つのアプロ

ーチがある。

 

1つは、マーケット・ア

プローチ。隣の土地が1坪

いくらだから、この土地は

この程度の価格だろうと推

測する、市場価値的な判断

だ。2つ目は、コスト・ア

プローチ。たとえば、工場

を建設するとこの程度の資

金が必要になるので、担保

価値もそれと同じであろう

と推測する資産価値的な判

断だ。3つ目は、インカ

ム・アプローチ。当該不動

産がどう

使われて

いて、ど

のくらい

の収益を

生むのか

に着目す

る、キャ

ッシュフロー的価値判断

だ。

 

不良債権を生み出したバ

ブル期に重視された価値判

断はマーケット・アプロー

チとコスト・アプローチ

だ。インカム・アプローチ

が軽視されていたがため

に、担保不動産から資金が

回収できない事態に陥っ

た。

 

過去にもインカ

ム・アプローチが

なかったわけでは

ない。しかし、初

年度の賃料が永遠

に続くという永久

還元を前提にした

価値判断であった

ため、実際価値と

の乖離(かいり)

が大きかったと考

えられる。

 

企業価値向上の

ためにCRE戦略

が求められている

今、最も重要な価

値判断は、有期還

元的なインカム・

アプローチであろ

う。不動産を経営

資源の一つとして

有効活用し、不動

産から価値を生み

出すことによって、企業価

値を高めていかなければな

らない。だからこそ不動産

の価値は「所有」ではなく、

「機能」や「効用」が重視

されるべきなのだ。

ソフトを付加した不動産

 

不動産をうまく活用した

経営戦略の事例を、私の経

験から紹介したい。1つ目

の事例は建設業。ある建設

業の経営者は「ハコモノと

いう名のハードウエアを売

っていてはダメだ」と繰り

返していた。では何をして

いるかというと、介護サー

ビスといったソフトウエア

をつけて開発・販売を行っ

ている。ハードさえ作れば

売れるという時代は終わ

り、そこにどのような付加

価値を追加していけるかと

いうことが重要になってい

る。

 

2つ目は米国型の大衆向

けゴルフ場。かつて、ゴル

フ場といえば高い値段を払

ってキャディーを付けてプ

レーし、豪華なクラブハウ

スで食事をするの

が一般的なビジネ

スモデルだった。

しかし米国のゴル

フ場では、キャデ

ィーを付けず、顧

客自身がカートに

乗ってプレーする

代わりに、安い値

段でゴルフができ

るビジネスモデル

をいち早く作り上

げた。顧客にとっ

て大事なことはゴ

ルフをすることで

あって、そこで過

剰なサービスを受

けることではない

はずだ。利用価値

に目を向ければ、

これまで当たり前

とされてきたサー

ビスを見直すきっ

かけとなるだろう。

 

3つ目は動物園。広大な

敷地とライオンのような子

どもが喜ぶ動物だけ用意す

れば、来場者数は維持でき

ると考えていた。そのため

近年、動物園の経営が非常

に苦しくなった。しかし、動

物園の現場に行けば、あま

り動かないライオンより、

動きのあるサル山などに人

が集まっていることがわか

る。つまり顧客が求めてい

るのは、動物そのものでは

なく、動物が動くおもしろ

さにあることがわかる。

 

4つ目は商店街。郊外の

大型店舗に押されて、地方

の町の中心部にあった商店

街がシャッター通り化して

いく問題が各地で見られ

る。「大

型店舗にかなうわけ

がない」という声を聞く

が、本当にそうだろうか。

商店街を歩いているお年寄

りに話を聞くと、「郊外の

大型店舗で家電を買って

も、どうやって設置するか

がわからない。値段が多少

高くても、アフターサービ

スが充実している町の電器

屋さんの方がありがたい」

という声もある。こういう

ニーズを拾い上げれば、商

店街であっても生き残って

いける道はあるはずだ。

 

立地や広さといった不動

産価値だけに着目するので

はなく、顧客が求めている

機能や効用を取り入れれ

ば、不動産がもたらす収益

価値は大きく変わる。機

能・効用を重視した不動産

活用を考え、経営戦略に取

り入れていくことが、企業

価値向上につながってい

く。

インカム・アプローチが重要収益生み出す不動産へ転換を

本紙朝刊・1月22日(金)掲載・CRE特集・全8段

ポータルサイト「企業経営とCRE戦略」

http://land.nikkei.co.jp/cre/

プライスウォーターハウスクーパースパートナー(共同経営者)田作朋雄氏