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各種神経系疾患 における髄液

免疫 グロブ リンE (IgE)動 態

岡山大学医学部神経精神医学教室(主 任:大 月三郎教授)

早 原 敏 之

(昭和52年1月24日 受稿)

緒 言

Immunoglobulin E (IgE)は1966年Ishizakaら1)

に よ って 命 名 され, 1968年Johansenら2)に よ るE

型 骨 髄 腫 患 者 の 発 見 に よ って 脚 光 を浴 び,基 礎 的 研

究 が急 速 に進 ん だ.臨 床 的 に は,ア レル ギ ー現 象 と

関 連 を有 し,ア レル ゲ ン とIgE抗 体 が 結合 す る こ と

に よ っ て 白 血 球 よ り ヒ ス タ ミンやslow reacting

substance of anaphy laxisが 遊 離 され,局 所 の血

管 透 過 性 亢 進3)が お こ る.神 経 系 疾 患 の 中 に も,接

種 後 脳 炎 や 多 発 性 硬 化 症 の如 き脱 髄 性 疾患 や, 4) Gui

11ain-Barre症 候 群 な ど, 5) 6)そ の 病 因 を アレルギ ー現

象 よ り説 明 しよ う と され て い る疾 患 も少 な くな く, 7)

食 物 ア レ ル ギ ー に よ って 多彩 な神 経 精 神症 状 を呈 す

る こと も知 られ て い る. 8)

一 方 ,今 や 神 経 系 疾 患 の 理 解 にお い て免 疫 現 象 は

欠 くこ との 出来 な い一 面 で あ り,そ の 解 明手 段 の 中

心 として 髄 液 免 疫 グ ロ ブ リンの 研 究 が 行 な わ れて い

る.そ の大 部 分 はImmunoglobulin G (lgG)に 関 す る

もの で あ り, Kabatら9) 10)以後Hartleyら, 11)Sch

neckら, 12)本邦 で も岩 下, 13)矢吹, 14) 15)高瀬 ら16)の詳 細 な

研 究 が あ り,基 礎 的 な もの の み な らず,臨 床 上 疾 患

的 意 義 もほ ぼ確 立 され て 来 に.し か しな が らIgG以

外 の 髄 液 微 量 免 疫 グ ロ ブ リン,す な わ ちIgA, IgM,

IgD, IgEはsingle radial immunodiffusion法 や,

electroimmunodiffusion法 を用 いて もその 測 定 が 容

易 で な く,未 だ 充 分 な 検 討 は な され て い な い.特 に

IgEに いた って は,髄 液 中 で の存 在 す ら確 認 され て

いな い. l7)

そ こで著 者 は,髄 液 中 のIgE測 定 を試 み,血 清IgE

お よ び髄 液IgG, IgAな ど他 の免 疫 グ ロブ リン との

関連 に つ い て検 討 し,更 に各 種 神 経 系 疾 患 にお け る

髄 液IgE動 態 を調 べ,そ の臨 床 的意 義 につ いて 報 告

す る.

方 法

1)IgEの 測 定 はradioimmunoassay法 を利 用 し

たPhadebas IgE Test (Pharmacia)を 用 い た.詳

細 は原 著18)に ゆず るが原 理 を要 約 す る と,既 知 量 の

標 識 され たIgEと 未 知 検 体 のIgEと は,抗IgE抗 体

に競 合 して結 合 す る.従 っ て結 合 したsephedax粒

子 の放 射 能 量 は標 識 してい な いIgE量 に反 比 例 すろ,

こ とよ り濃度 を決 定 す る.

2) 髄 液 中 の 総 蛋 白量(CSF-TPと 略 す)の 定 量

はbiurette法 で, IgE以 外 の 免 疫 グロブ リンはsin

gle radial immunodiffusion法 を 利 用 し たL-C

Partigen (Behringwerke, A. G.)を 使 用 した が,そ

の詳 細 は別 紙14) 15)にゆず る.

3) 髄 液 の 濃 縮 は,低 温 下 に てcollodion bag

(Sartorius-Membranefilter Gm bH)で 陰 圧 吸 引

し, 10cc以 上 の髄 液 を約0.5ccに 濃縮 した.濃 縮 度

の検 定 は, Lowry法19)に て濃 縮 前 後 の 総 蛋 白量 測 定

に よ り決 定 した.

4) 検 索 対 象:昭 和47年 よ り50年 春 ま で に岡 大 病

院 ・精 神 神 経 科 あ る い は関 連 病 院 に入 院 した患 者 で

(多 発 性 硬 化 症 の3例 は,九 州 大 学 ・神 経 内科 の協

力 を得 に),そ の 内 分 け は,神 経 系 疾 患84名,精 神 病

30名,神 経 症4名 の計118名 で あ る.こ れ らの 中か

ら下 記 の条 件 に適 うもの を対 照 群 と した.す な わ ち,

正 常 健 康 者 の髄 液 採 取 は実 際 上 不 可 能 で あ り,ま た

10cc以 上 の量 を 要 す るの で外 来 患 者 や神 経 症 患 者

で は お のず か ら制 限 され る.そ こ で,神 経 症 ・ヒス

テ リー ・精 神 病 質 ・躁 うつ 病 ・精 神 分 裂 病 患 者 の う

ち何 ら神 経 学 的 徴 候 を示 さな い38例 を対 照 例 と看 な

した.こ の 中 か ら さ らに各 種 血 清 学 的 検 査,髄 液 一

般 調 査(細 胞 数, CSF-TP, acrylamide gelに よ

るdisc泳 動, IgG, IgAの 定 量)で 異 常 を示 した も

の は除 外 し,残 り23例(年 令 ま18-65才,男13例,

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女10例)を 対照群 とした.な おCSF-TP, IgGお よ

びIgAの 当教室 における正常上限 は,各 々69mg/dl,

4.3mg/dl, 0.5mg/d1で ある.な お一部 の患者 では

複数 回測定 し,ま たで きるか ぎり血清IgEの 測定 も

併せ行な った.髄 液 は全例,腰 椎穿刺 にて随時採取

し,-20℃ にて冷凍保存 した.な おCSF-TPとIgG

は原 液 で測 定 可能 で あ るが,そ の他 のIgA, IgM,

IgD, IgEは 前記の如 く濃縮が必要で あった.血 清 は

髄液採取 と同時 に採血 し,血 清分離後同様 に保存 し

た.血 清IgE測 定 に際 しては,高 蛋 白濃度 による影

響 を避 け るため,緩 衝 液にて10倍 希釈 を行 なった.

5)測 定 条 件:使 用 した各kitに お け る摂取率

(加えた総放 射能量 に対す る,抗IgE抗 体給合sep

hadex粒 子 に結 合 した放 射能量のmaximum%)は

11.3-25.9%で あった.ま た同一検体 を繰 り返 し測定

した場合 の変動 係数 は4.35%で あった.標 準曲線作

製用および未知検体 からは2本 づつ同様 に操作 して,

著 しく相違 しない場合両者の平均値 をとった. Incu

bation timeは 約40時 間 とした.測 定値に及ぼす検

体 の蛋 白量,温 度およ びincubation timeに よる影

響 な どの基礎 的研究 は既に報告20)があ り,こ こで は

省略 した. IgEの 濃度 にU/mlで 表 わ したが,濃 縮

髄液のIgE量 が1U/ml以 下の場合は測定 値が示 し

得ず,実 際には多 くの場合10-20倍 に濃縮 されてい る

ので,お そ らく0.1U/m1以 下 と思 われN. D. (not

d etectable)と 表記 した.血 清の場合は,10倍 希釈で

の値が1U/ml以 下であればく10U/mlと 表 わした.

結 果

I. 測 定 可 能 例:髄 液 は 数CCか ら十 数CCを 約

0.5ccま で 濃縮 した が,最 終 蛋 白量 はLowry法 で

240mg/d]-4480mg/dlで あ った.濃 縮 髄 液 で のIgE

量 が1U/ml以 上 の, IgE定 量 可 能 な の は118例 中

102例86.4%で あ り,測 定 不 能 で あ った の は,最 終

蛋 白 量 が240-700mg/dlで あ っ た.従 って,濃 縮 が

充 分 で あ れ ば全 例 で定 量 が可 能,と 思 われ る.

II. 対 照 群 のIgE

(1) IgE値: 23例 で,最 低0.03U/m1,最 高0.71U/

mlで 平 均0.28U/m1(標 準 偏 差S.D.: 0.22)で あ る

(Fig. 1, 2, 3,).個 体 間 の ば らつ きが大 きい が,

一 応 平 均 値+2× 標 準 偏 差 を 正 常 上 限 とす る と,

0.8U/ml未 満 で あ り, 0.8U/ml以 上 を異 常 とみ な

し得 る.

(2) 性 別 ・年 令 別 値:性 別 に 平 均 値 を求 め る と男

0.32U/ml,子0.23U/mlと 特 に差 はな く,年 令 別 に

煮一定 の 傾 向 は うか がわ れ な い(Fig. 1).

Fig. 1. 対 照 群 の 性 別 ・年令 別 の髄 液IgE値

Fig. 2. 対照群 にお ける髄液IgE値 と髄液

総 蚤白量 との関係

(3) IgE/TP比: IgEの 絶 対 量 を示 す こ とが 困 難 な

こ とか らU/ml表 示 が 一 般 的 に 行 な わ れ て い る様

に, CSF-TPとIgEの 単 位 が 異 な るた めパ ーセ ン

トで は 示 せ な い が,CSF-TP100mgに 対 す るIgE

値 をIgE/TP比 とす る.対 照 群 のTPは 最 低22mg/

dl,最 高62mg/dlで 平 均47mg/dl (S. D.: 11.4)で

あ るが, IgE値 との 関 係 はFig. 2に 示 す如 く特 に

相 関 し な い(r=0.2336).個 々 例 のIgE/TP比 は

0.06-1.52で 平 均0.61 (S. D.: 0.46)で あ り, IgE値

の場 合 と同様 に 算 出す る と, 1.6以 上 を 異 常 と み な

し得 る.

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各種神経系疾患 における髄液免疫 グ ロブ リンE  (IgE)動 態9  15

(4) IgEの 髄 液/血 清 比:対 照 群23例 中12例 に お い

て 血 清IgEを 測 定 して お り,そ の 値 は最 低10U/ml,

最 高420U/mlで 平 均243U/ml(S.  D.:124)で あ り

(Fig.  3),髄 液 と同 様 に算 出 す る と500U/ml以 上

を異 常 と み な し得 る.髄 液IgEと 血 清IgE量 の比

を,両 群 の平 均 値 よ り求 め る と0.12%,個 々 の 例 で

の両 者 の比 率 よ り平 均 す る と0.08%,で あ り,い つ

れ の 方 法 で 算 出 して も, IgEの 髄 液/血 清 比 は0.08-

0.12%で あ る.

Fig. 3. 全 対象 側 の血 清 お よ び髄 液IgE測 定 値

Fig. 4. 髄液IgE増 加 と他蛋 白成分の増加_??_:各成分 における増加例頻度%(旦 し, IgM, IgDの 場合 は検出率)棒 グラフ

の下 の数字 は各 々の群 の平均値 ±標 準偏差(mg/dl)*はt検 定 にて1%以 下**はX検 定 にyatesの 修正 を加 えて1%以 下,***はX検 定 にyatesの 修正 を加 えて

2%以 下 の危険率 でIgE正 常群 との間 に有意差 を認 めた もの.

(5) 髄 液 中 の 他 成 分 との 関 係(全 症 例 に つ い て):全

症 例 を 髄 液IgE増 加 例 と 正 常 例 と の2群 に分 け,

CSF-TR, IgG. IgA, IgM, IgDの 各 成 分 に つ い て,

両 群 の平 均 値 お よ び異 常 増 加 例 の 頻度 を 調 べ た の が

Fig. 4で あ る. CSF-TP, IgG, IgAに お い て は平

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916  早 原 敏 之

均値 および増加例 の頻度 のいつれ もで,両 群 の間に

統計学的有意差 を認 めた. IgMの 増加例 の頻度 で も

同様 に有意差 を認 めた.す なわ ち,髄 液IgEは 他 の

蛋 白成分,殊 にCSF-TP, IgG, IgA, Igと 相伴

な って増 加す る,と いえる.し か し, IgDと は一定

の関係 を認 めなかった.

Table 1. 各疾患群の髄液総蛋 白量,免 疫 グロブ リンの測定 値お よび検出率

*X2検 定 にYatesの 修 正 を加 えて1%以 下,**t検 定 にて5%以 下,

***Cochran -Cox近 似 法にて5%以 下の危 険率 で,正 常対 照群 との間 に

有意 差 を認 めた もの.

Table 2. 各種神 経系疾患 における髄液IgE, IgE/TP比 および各々の異常例数

*: Cochran-Cox近 以法 にて,5%以 下の危 険率 を もって正常対 照群 との間 に有意差 をみ とめた もの.

III. 各 種 神 経 系 疾 患 に お け るIgE

神 経 系 疾 患84例 中,髄 液IgEが 最 大 値 を示 し たの

は 反 復 性 の 多 発 性 神 経 根 炎 の8.4U/mlで あ る.全

症 例 に つ い て み る と, 5U/ml以 上2例, 5U/ml

未 満2U/ml以 上7例, 2U/ml未 満1U/ml以 上6

例, 1U/m1未 満0.5U/ml以 上17例,0.5U/ml未

満52例 で,こ の う ち12例 が定 量 不 能 で あ っ た. IgE

値 が0.8U/m1以 上の異 常 高 値 を示 したのは19例22.6

%, IgE/TP比 が1.6以 上 の 異 常 高 値 を示 したのは13

例15.4%で あった(Fig. 3 Table 2)対 象 と した 全

症例 を,非 神経系疾患,脱 髄性疾患,炎 症性疾患,

(脳炎 ・髄 膜 炎.神 経 系 梅毒 な どの他, virus感 染

症 後 に発症す るGuillain-Barre症 候群な ど多発性

神経根 炎や,中 枢 神経系 には炎症がな くて も全身性

に炎症 を認 めた ものや,自 己免疫疾患 を含 めた),非

炎症性疾患 の各群に分 けた(Fig. 3, Table 1, 2).

炎症性疾患 や非炎症性疾患群 で増加傾 向が うかがわ

れるが,個 々の疾患別 にみる と,脳 萎縮 を来 たす初

老期痴呆,多 発性神経根炎,中 枢神 経系炎症性疾患,

脊椎疾患な どで高値 を示 し,筋 萎縮性側索硬化症 な

ど変性疾患やてんかんで も軽度 なが ら増加傾向 を示

した.全 身性 にのみ炎症 を認め る疾患や 自己免疫疾

患では著変な く,多 発性硬化症や球後 視神経炎な ど

脱髄 性疾患 では全 く正常 であ った.臨 床 的には極め

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各種神経系疾患 における髄液免疫 グ ロブ リンE (IgE)動 態  917

て類似す る多発 性 神経 根 炎 と多発 性 神 経 炎であ る

が,前者 が高値であるのに対 し後者 は低値 であった.

異常高値 を示 した頻度 は,中枢神経 系炎症性疾患,

多発性神経根 炎で はいつれ も7例 中3例 と高頻度で

あ るのに, 6例 の全身性 にのみ炎症 を認め る疾患で

は1例 もな い.ま た初老期痴呆や脊椎疾患で は多い

の に,変 性疾患やて んか んで は少 な く,多 発性神経

炎や脳血管障害で は全 く認 めない.一 般 に異常例出

現頻度が高 い疾患 ではIgEの 平均値 も高 い.

IgE/TP比 は,非 炎症性疾 患,特 にてん かん,変

性疾患,初 老期痴呆 な どで高 値 を示 すのに対 し,多

くの場 合CSF-TP増 加 を伴な う炎症性疾 患では逆

に低値を示す. IgE/TP比 異常高値例の頻度 は,変

性疾患においてのみ高率 であ り,多 発性硬 化症 も多

くはない.

(1) 各症例の検討

中枢神経系炎症性疾患 でIgE増 加例 はいつれ も急

性の根炎 ・脳膿瘍で あるの に対 し,非 増加 例は慢 性

経過 の梅毒感染症, Neuro-Behcet病 であ り,脳 膿

瘍 を合併 した1例 を除 きいつれ もIgEの 増加 を伴な

っていない.脊 髄 クモ膜 炎の1例 は,薬 物 によって

顆粒球減少症 を合併 し,血 清IgEの 著明な増加 を伴

なっていたが髄液IgEも 増加 して いた.全 身性にの

み炎症 を認 め る疾患 はいつれ も正常 であったが,こ

の中には膠原病所 見を伴 な う多発性筋炎(す なわ ち

Walton & Adamsの 分類 によるII型)の 他,甲 状腺

炎に伴 な う小脳 障害例 も含んでいる.

脊椎疾患 でIgE増 加 の2例 は,髄 外腫瘍の1例 と

頚椎 症を伴 な ったアテ トーゼ型脳性小児麻痺の1例

であ る.い つれ も明 らかな髄 液通過障害 を認 めた例

であ り, IgE増 加 を伴 なわない頚椎症3例 は根症状

を主体 とした症例で ある.

多発性神経炎 は,ア レ ビアチン中毒 による もの,

膀胱 癌に伴な ういわゆ るcarcinomatous neuropa

thy,遺 伝性 の もの,細 胞免 疫能 が低下 し血管炎 を基

礎 に もつ末梢神経 障害 な ど,種 々の もの を含んで い

るが,い つ れ も正常 であ った.

筋疾患 で高値 を示 した1例 は,重 症筋無力 症(20

才,男)で,血 清 ・髄 液 いつ れのIgEと も常 に高値

を示 したが,本 例 では胸腺腫 は認 めなか った.

脳血管障害 の3例 は,い つれ も閉塞性病変 で急性

期 を過 ぎた時期の もので ある.

その他の疾患群で異常高値 を示 したの は,一 酸化

炭素中毒間歌型で脳萎縮 と痴呆 を残 した症例 と,軽

い髄液通過障害 を認めた脊髄空洞症であ る.

(2) Guillain-Barre症 候群 を中心 とす る多発 性

神経根 炎(Table 3)

Table 3. Polyradiculoneuritisに お け る 髄 液 所 見

GBS: Guillain-Barre syndrome, PRN: polyradiculoneuritis, N. D.: not detectable,

最高 値を示 したNo. 2を は じめ として3例 で高 値 を

示すの に対 し, 2例 は低値,残 る2例 は測定不能,

とば らつ きが大 きい.検 体採取時期 をみる と,初 期

の増悪期の2例 中, 1例 は高値,他 の1例 は測定不

能で ある.回 復の悪 い2例 中1例 は高値だ が,他 の

1例 は低値で ある.感 冒様症状あ るいは下痢な ど前

駆症状 を呈 した症例 が3例 あ るが,こ れ らはいつれ

も高値 を示 した.他 の髄液所 見 と比較 してみ ると,

CSF-TP増 加 を認 めた4例 中3例 でIgE高 値 を示.

した. IgGに ついて も同様 である.細 胞数増 多の1

例 ではIgEは 測定不能 であった.神 経症状以外の合

併症 を呈 した2例 の うち,皮 膚炎 を呈 した症例 は高

値であった.ま た神経学 的所 見からみてforme pse

udomyopathique, Fisher症 候群 とい った非典型例

はいつれ も高値 を示 し,後 者 は血清IgEも 高 値であ

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918  早 原 敏 之

った. 8.4U/mlの 高値 を示 したNo. 2は 反復性の多発

性神経根 炎であ る.

Table 4. 多発 性硬化症にお ける髄液所見

RBN: retrobulbar neuritis

R: remission, E: exacerbation

大:大 脳半 球,視:視 神経,幹:脳 幹部,小:小 脳,脊:脊 髄.

重 症度 の等級化 は次の基 準に従 った.0:日 常生活 に支障 を認め ない.-1:一 部 を除 いて

日常生活 は独力 で可能,-2:大 部 分は他人 の介助 を要す る,-3:日 常生活 は全面的 に他

人 の介助 を要す る.

Table 5. 髄 液IgEの 増 加 した 炎 症性 疾 患 の髄 液 測定 値

(3) 多発 性硬化症(以 下MSと 略す)

15症例, 17検 体で検査 したが(Table 4),高 値 を

示 したのは3例,測 定 不能が4例,時 期 を違 えて再

検 した2例 はいつれ も低値 と測定不能 であ った.病

気 の時期 よ りみ ると増悪 期の2例 ではいつれ もほぼ

正常値 であ り,寛 解期 の13例, 15検体 で3例 の高値

を認 めてい る.推 定病巣部位 および重症度 よ り検討

して みて も有意 な関係 は認め られな い.他 の髄液成

分 との関 係 をみ ると, CSF-TPの 増 加は2例 であ

るがIgE増 加例 とは一致 せず, IgG増 加4例 中1例

のみでIgEが 高値 を示 した.血 清IgEは2例 で上昇

を示 す が いつれ もpossible MSで あ り, 1例 には

関節 リウマチを合併 してい るが,髄 液IgEは いつれ

も正常 である.

球後視神経炎の2例 は,共 に1回 目のattack時 に

採取 した もので,そ の後2-3年 経過 してい るが,

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各種神経 系疾患 におけ る髄液免 疫 グロブ リンE (IgE)動 態  919

MSへ の移 行 を思 わせ る症状は出現 していない. 2

例 とも髄 液所 見には全 く異常 を認めていない.

(4) IgE以 外の髄液蛋 白成分 および血清IgEと の

関係

髄 液IgEの 増加 を認 めたのは19例 であるが, CSF-

TPの 増 加 を伴な うのが10例,そ の うち9例 でIgG

が, 7例 でIgAが 高値 を示 した.す なわち,脳 炎 ・

クモ膜炎.脳 膿瘍 とい った中枢神経系炎症性疾患3

例,多 発性神経根炎3例,脊 髄腫瘍.頚 椎 症 ・脊髄

空洞症 とい った髄液通過障害3例 な どであ る.他 方

CSF-TPの 増加 を伴なわないのが9例 であ るが,こ

の うちIgGは5例, IgAは4例 で高値 を示 している.

これ らの症 患は多岐にわた るが, MS3例,筋 萎縮

性側索硬化症2例,初 老期痴呆2例 な どであ る.

血清IgEの 測定 は49例 で行 なったが(Fig. 3),

特 に目立 った傾向 は認 め られ なか った.対 照群の12

例 より求 めた正常上 限500U/ml以 上は, 13例 であ っ

た.こ の うち6例 では髄液IgEも 上昇 してお り,重

症筋無力症, Fisher症 候群,筋 萎縮性側索 硬化症,

初老期痴呆,一 酸化炭 素中毒 間歌型 である.髄 液IgE

増加19例 中,血 清IgEは,前 記6例 で増加 し, 4例

(筋萎 縮性側 索硬化 症, MS,多 発性神経根炎)は 正

常, 9例 は施行 してい ない.

考 察

全身的血液循環系か ら血液-脳 関門によって隔絶

・保護 されてい る中枢神経系は,直 視下 に観察 した

り,生 検 した りす ることも事実 上不可能 である.従

って,髄 液か ら得 られ る情報 は臨床神経学 において

極めて重 要であ ることはい うまで もない.中 で も髄

液中の免 疫 グロブリンの測定 は盛 んに行 なわれてい

る検査の1つ であ る.免 疫グ ロブリンは側鎖の違い

か らIgG, IgA, IgM, IgD, IgEと 現在5種 類が確

認 されているが,髄 液中 の大部分 がIgGで あ り,分

子量 の大 きいIgMな どは存在 しな いと考 えられてい

た.し か し極 く最近 になってIgE以 外の,い わゆ る

微量成分 につ いて も研究 が進んで来た,14 16) 17) 21) 22) 23)

現在免疫 グロブ リンの測定 は,精 度や手技 の煩雑

さな どによ り,臨 床 検査 の 目的 か らはelectroimm

unodiffusion法 とsingle radial immunodiffusion

法が主流 となって いる.こ れ らの方 法で髄液IgGは

容易 に測定出来 るが,他 成分は濃縮 しなければ満足

出来 る結果 が得 られない ことが多い, IgEに つ いて

も,種 々の方法で, 24)血清のみな らず関節液 ・尿 ・鼻

汁�汗 ・唾液 ・涙 ・腸液 ・肋膜滲 出液 な ど各種体液

で測定 されているが,髄 液中 には極 めて低濃度 である

ところか らIgEの 存在す ら確認 されて いなか った17)

しか し,我 々が既 に報 告 し, 25)又Nerenbergら26)が

その可能性 を述べた様 に,最 も鋭敏 なradioimmun

oassay法 を利用 すれば可能であったが,な お十数倍

以上 の濃縮 を必要 とす る.

濃縮 によってい くらかの免疫 グロブ リンが破壊 さ

れ る可能性が ある. 11)今回の測定 に先立 って十数例の

各種 疾 患 患者 の髄液 を原液 のまま, radioimmuno

assay法 でIgE測 定 を試みたがすべて1U/ml以 下

であ った.そ こで,標 準IgE液 を更に希釈す ること

によ って標 準曲線を よ り低濃度 まで作 製 したが,放

射能 量に充分な差が生 じず,結 局,原 湾の ままでの

IgE定 量は成功 しなか った.そ こで髄 液 を濃縮 して

測定 す る方 法 を選 んだ.そ の結果118例 中102例,

86.4%に おいて定 量 が可能 であ り,又1U/m1以 下

の髄 液は濃縮 した最 低蛋 白量が低 か った ことよ り,

充分 濃縮すれば全例 で定 量が可能 であ った と考 えら

れ,「正 常 髄 液中 に もIgEは 存 在 す る」とい える.

正常髄 液で平 均0.28U/mlが 得 られ,一 応0.8U/m1

以下 が正常 値 と考 えられた.た だ今回 の濃縮 した髄

液の最終蛋 白量が最高4480mg/d1で あったこ とは,

血清IgE測 定の際血清 の高蛋 白量 が測定結果 に影響

を与 え るため10倍 以上 に希釈 して いる様 に,高 蛋 白

量下 ではIgE値 は高 く出 る傾向が あるので, 20) 27) IgE

測定の ための髄液濃縮の程度 に関 して今後更 に検討

の余地 が残 されて いる.

髄 液 中 の免 疫 グ ロプ リンの大 部分 は血清成分 が

blood-brain-CSFbarrierを 通過 した ものであり, 28)

その構成 も血清蛋 白に類似 してい る.そ して分子量

の大 き さによって透過性が異な る野)と考 えられてい

る. IgEの 場 合,髄 液/血 清比は算出方 法 をか えて

も0.08-0.12%で ある.矢 吹14)によると夫 々の髄液/

血清比はIgG: 0.24%(分 子量15×104), IgA: 0.16

%(18×104), IgM: 0.04%以 下(95×104)で あるが,

今回のIgEに お ける値は,ち ょうどIgAとIgMの

中間 に位置 し, IgEの20×104の 分 子 量 ともよ く合

致 す る結果で ある.こ の様 に分子量 によ って透過 性

がおのずか ら決ま ることは,髄 液 の場合 に限 らず関

節 液な どにおいて も確認 されてい る. 30) 31)

髄液免 疫グ ロブ リンは種 々の病態 において増加 す

るため,そ の絶対値 だけでは必ず しも充分 とはい え

ず, CSF-TPに 対 す る比 が重要視 され る. IgEの

場合,単 位 が異 な るので百分率 では表 わせないが,

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920  早 原 敏 之

そ の 比 を求 め る と, CFS-TP100mgに 対 して0.61

(S. D.: 0.46)で あ っ た が, IgE値 と同様,症 例 間 で

の 差 異 が 大 きい.

又,髄 液 中 の 他 成 分 との 関 係 をみ る と,IgEが 増

加 した症 例 で はCSF-TP, IgGが 増 加 して いる こと

が 多 く(p<0.01),又IgA, IgMも 同 様 で あ る(p<

0.02). IgE増 加 の19例 を み ると, CSF-TP, IgG,

いつれ もの増 加 を伴 な ったの が9例 で あ るの に対 し,

いつれ の増 加 もな くIgE単 独 増 加 は3例 に過 ぎない.

こ う した 関係 は他 成分 で も同様 に観 察 され て お り,

IgA, IgM増 多 も多 くの場 合, CSF-TPやIgGの 増

加 を 伴 な って お り,11) 14) 21) 32) IgDの 数 少 な い報 告14)23)

に お い て も,や は りCSF-TPやIgGの 増 加 と関 連

を有 して い る.す な わ ち,髄 液 中 の微 量 免 疫 グ ロ ブ

リンはいつれ も, CSF-TP又 免 疫 グ ロブ リン の大 部

分 を占 め るIgGの 増 加 した症 例 で高 頻 度 に増 加 して

お り, Schneckら12)は 「髄 液IgA, IgMの 測 定 は 意

義 が 少 な い 」と結 論 して い る.し か し,各 々 の比,

IgG: IgA: IgM比 を求 め る こ とに よ っ て,梅 毒 性

疾 患 や 免 疫 異常 疫 患 の 中 に,こ の比 の異 常 が 目立 つ

症 例 が あ る こ と も認 め られ て い る. 14) lgEの 場 合,同

様 に 比 を求 め る こ とは 困 難 で あ るが, IgGとIgEと

を対 比 させ て み る と,特 にIgE増 加 が著 明 な症 例 は

寛解 期 のMS2例,多 発 性 神 経 根 炎,初 老 期 痴 呆 な

どで あ り, IgGの 増 加 がよ り著 明 な もの は進 行麻 痺,

増 悪 期 のMS2例, Guillain-Barr6症 候 群 な ど で

あ る.そ して 両 者 が 共 に 著 し い 増 加 を示 したの は

Guillain-Barre症 候 群,脊 髄 クモ膜 炎,脳 炎,脊 髄

腫 瘍 な どの症 例 で あ る.こ れ ら疾 患 の違 い に,髄 液

IgEの 意 義 をみ る こ とが 出 来 るか も しれ な い.

神 経 系 疾 患84例 中19例 で髄 液IgE増 加 を認 め た

が,こ の う ち10例 で 血 清IgEも 測 定 し, 6例 で増 加

して い た.こ れ ら血 清IgEの 増 加 は 当然 な が ら髄 液

濃度 に も反 映9)す る もの と思 わ れ る.一 方,矢 吹14)は

高 免 疫 グ ロブ リン血 症 お よび低 免 疫 グ ロブ リン血 症 患

者 の血 清 ・髄 液 を検 べ,髄 液 成 分 の変 化 は あ って も

軽 微 で あ り,少 な く と も定量 的 観察 に 際 して は血 清

の異 常 は無 視 し得 る,と して い る.逆 に,血 清IgE

4例 であ るが, CSF-TPも 増 加 して い るGuillain-

Barre症 候 群 の 他 は寛 解 期 のMS2例,筋 萎 縮 性 側

索 硬 化 症 で あ る.血 清IgEの 異 常 は ア トピ ー性 気 管

支 喘息,ア レル ギ ー性 鼻 炎,蓴 麻 疹 な ど1型 ア レル

ギ ー の他, IgE産 生 細 胞 の 多 い 呼 吸器 系,消 化 器 系

疾 患 に お い て 注 目 され て い るが, 3)神 経 系 疾 患 につ い

て の報 告 は ほ とん どな い.わ ず か に,膠 原 病 で は著

増 は な いこ とヨ,3 3) ataxia telangiectasiaで はIgAと

共 に低 下 してい ること, 34)重症筋無力症 で上昇 してい

ることがあ る, 35)などの報告 をみ るに過 ぎない.

-疾 患別の動態-

(1) 炎症性疾患

炎症 性患 者20例 の うちIgE増 加 を認 めたのは6例

であ る.中 枢 神経 系の炎症 によって血液 ・脳関 門の

透 過 性 亢進 が起 こ る22) 36) 37)ので当然 と思 われる.

Tab1e 5にIgE増 加 を示 した炎症性疾患例の各々の

測定値 を揚 げたが, CSF-TP, IgG, IgA, IgMな ど

すべ てが全例 において上 昇 してお り,上 記の機序が

推測 され る.し か し,中 枢 神経 系炎症性疾患お よび

多発性神経根 炎の14例 中, IgE増 加例 は6例 と多い

のに対 し, IgE/TP比 の増加 は2例 と少 な く,こ れ

ら疾患 においてはTP増 加 の方 がよ り著明であると

い えよ う.

全 身性にのみ炎症 を認 める群のIgEは ほぼ正 常値

であ ったが,こ れ ら4例 中3例 がいわゆ る自己免疫

疾患 である.多 発性筋炎の1例 では, CSF-TPが 軽

度 に増加 していたが,い ず れ も中枢神経 系の症状は

認 めなか った し,一 般的 に も血 液.脳 関門の障害 は

ない と理解 すべ き疾患 であ る.し か し,血 清IgGの

増 多 と共 に髄 液IgG%の 上昇を同疾患 の特徴 的所見

とす る意見14)もあ る.

中枢神経系 炎症性疾患7例 の うち4例 が梅毒 感染

症(3例 が進 行 麻痺, 1例 が 脊髄〓)で あ る.進 行

麻痺 は,病 理学的 には慢性 の脳膜脳炎 であ り,そ の

髄液所 見は, CSF-TP,細 胞数 の増加以上 に著明な

IgG増 加 が特徴的 である. 14) 16)今回検索 した症例 で も

2例 に この所 見 が認 め られ たが,IgEの 増加 はみ ら

れず,4例 中わずか1例 に軽度 のIgE増 加 をみるが,

これ も脳膿瘍 を合併 し著 しくCSF-TPとIgGが 増

加 して い た症例 で あ る.同 じ く慢性経過 を とった

Neuro-Behcet病 のIgeも ほぼ正常 であった.こ れ

に対 して,脳 炎 ・クモ膜炎 ・脳膿瘍の急性炎症 の3

例 はいつれ もIgEの 増 加 が, CSF-TPや 他成 分 の

増加 を伴 な って示 されて いる.

(2) 多発性神経根 炎と多発性神経炎

Guillain-Barre症 候 群は特 徴的髄 液所見を有す る

疾患 であ り,原 因 は不明 ではあるがア レルギー説 が

強 く野)その疾患 モデル としてexperimental aller

gic neuritisが 考 え られてお り,抗 神経抗体 を認め

る症例 も多い三)この特徴 的髄 液所 見の機序 として, 7) 39)

神経根 の腫脹 によ りradicular blockを 生 じ,髄 液

がよ どむ とい うGovaerts説,血 液 ・髄 液関門の蛋

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各種神経系疾患 における髄液免疫 グロブ リンE (IgE)動 態  921

白透 過 性の亢進 とい うAustin説 とがあ る.近 年 の

RISAを 用 いた研究 では, 39) 40)髄液 蛋白の吸収亢進 は

ほぼ一致 した見解だが,排 泄 については一定 した結

果が得 られていな い.し か し,脳 室や脳槽のCSF-

TPは 正常 かわずかな増 加 に過 ぎないの に,脊 髄 ク

モ膜下腔で は著明 に増加 しているのは事実41)である。

免疫 グロプ リンで は, IgGの 他IgA, IgMも 増加 し

て いるが, IgG%は 上昇 していて も軽度 であ り, IgG

: IgA: IgM比 も正常 で あ る. 14)全症例 の 測定 値 を

Table 3に 掲 げたが, IgEは, CSF-TP増 加の4例

中3例 で高値 を示 し,対 象 の全症例中最大値 を示 し

たの もこの群 であ る.こ の症例 は再発例で2回 目の

増悪期 の髄液 であ るが,こ の様 な再発例で は,そ の

発生機序 が非再発例 と異 なった免疫学的基盤 を もつ

可能性 があ る. 6) 42)前駆 症 状のは っきりした症例はい

つれ もIgE高 値 を示 し,皮 膚症状 を合併 した1例 も

高 値であ った.髄 液採取時期 とIgE値 との間 には一

定 の傾 向を見い出せなか った.神 経学的所見の異な

るforme pseudomyOpathiqueやFisher症 候群 と

い った非典型例 の2例 はいつれ も高値 を示 し,再 発

例 で述べた と同様 に,典 型例 とは異 なった免疫学的

基盤 をもつ ものか もしれない.

多発性神 経根 炎 と臨床的には類似 す る多発性神経

炎 に は多 種 多様 な原 因 が あ るが,こ れ ら症例 で も

CSF-TPが 上 昇 す る こ とが あ る. 43)今回の結果で も

Table 2のIgEお よびIgE/TP比 よ りわ か る様 に

CSF-TPの 平 均 は85.3mg/dlと 高 く, 4例 中3例

まで高値 を示 してい る.と ころがIgEは1例 の増加

もな く多発性神 経根炎 とは対 照的であ る.両 者に は

CSF-TP増 加 の機序 に相異 があるもの と考 え られ る

が,多 発性神経 炎 は種々の原 因 ・病態 があ り一様で

はな い.

(3)多 発性硬 化症

MSの 髄液所見 に関す る研 究は多いが, 10) 11) 12) 13) 14)

16) 17) 32) 44) 45) 16)最も一般 的 な変化 はIgGの 選択的増加

であって, CSF-TPや 細胞数 の著明な増加 はむしろ

例 外的 で あ る,と 考 え られてい る.し か し本邦 の

MSで はこの特徴的所見 を呈す る頻度 が欧米のMS

に比 して低 く, 44)本邦 と欧米 のMSの 違 いが議論 され

る.臨 床経過 上でみる と, IgGは 症状増悪期 に増加

し,以 後 あま り減少 しないと考 え られてい る. IgA,

IgMな ど につ いて の報 告 は一定せず11) 22) 46)逆の結

果 もみ られ る. IgEは 平 均値 としては高 くないが,

probable MS11例 中1例, possible MS 4例 中2

例 で高値 を示 した.こ の増加 した3例 中1例 で はIgG

の増加 を伴な うがCSF-TPや 他 の免 疫 グ ロブ リン

はすべて正常 である.逆 にCSF-TPやIgGな どが

増加 した症例 ではいつれ もIgEが 正常 であ り,炎症

性 疾患 では共 に変動 していたの と全 く異 にす る点 が

注目 され る。増悪期 の2例 はいつれ もIgE値 は正常

であ る.経 過 を追 って反復検査 した2例 では, 1例

はいつれ も症状 固定期 であ るが特 に変化 な く,他 の

1例 では増悪期 はほぼ正常 で,寛 解期 は測 定不能で

あ った.MSの 脱髄 巣 は脳 梁 と尾 状 核 の間の隅 角

(SteinerのWetterwinke1)な ど髄腔 に接 した部 に

病巣 を形成 しやす く,こ れが髄液所見 とも関係 があ

ると考 えられているが, 47)今回の結果 では推定病 巣部

位 との間には一定 の傾向 は認 め られない.又 臨床 的

重 症度 とCSF-lgGと の関係 を見い出 して いる報 告

もあ るが, 10) IgEで 同様 の関係 は認 め難 い.

球後視神経 炎はMSに おける重要且つ特異的 とも

い える一 徴候 であ り,MSの 前段階 と してその髄 液

所見が注目 されてい る. 48) 49)我々 も, 50)球後視神経 炎患

者 の髄 液は,程 度 ・頻度共 にやや低いが, MSの そ

れに類似性があ ることを認 めている.し か し今 回の

IgEに つ いては全 く異常 を認めなかった.

MSの 病 因は未 だ不 明であるが,ア レルギー説 と

virus説 とが有力 である1)特に狂犬病 ワクチン接種後

脳炎や,中 枢神経組織のbasic proteinに よる感作

で出現 す るexperimental allergic encephalomy

elitis(EAEと 略す)が,病 理組織学的 にMSに 類似

してい ることか ら,遅 延性 アレル ギーに基因す る も

のであ って,従 ってその発生 に液性免疫 は関与 しな

い もの と考 えられている. 5) 51)しか し最近の研究52)で

はEAEに お いて,血 中 に皮 膚結 合性heat-labile

な抗体 の存在 が認 め られた.直 接 の因果 関係 がある

かどうか不 明だが,こ の抗体 がIgEに 属す るreagin

であ ることも証 明 きれている.

Schultze & Heremans 28)は髄液蛋 白増加 を,(1)

血 漿蛋 白の過剰 混入(I)毛 細血管透過性 のrL進(II)

機械 的閉塞,(2)異 常血漿蛋白の髄液移行,(3)免 疫

グロブ リンの局 所産生,(4)変 性疾患 によるもの,と

大 きく四つの機序 に分 類 しているが,中 枢神経系 内

には リンパ組織 はない. 36) 45)しか し, MSの 場合, I)

I131によ る検査 にてCSF-IgGの 一部は 血清 成分 と

は異 な る代謝 を行な う53) II)髄 液 中 リンパ球 が免 疫

グロブ リン産生能力 をもってい る54) III)白 質脱髄 巣

には,正 常値 に比 して3倍 のIgG濃 度 があ る, 45)など

の結果 よ り, MSに おけるIgG増 多は中枢神経 系内

の免疫過 程に由来す るものであ って,脱 髄 巣の細胞

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922  早 原 敏 之

成分 によって産生 され る ものと考 え られ る. 45, MSに

おけ るIgG, IgA以 外 の免 疫 グロプ リンの局所産生

についての報告 はないが,同 様 に産生 され る可能性

はあ る. IgEに 関 して有 意な増加 は認 められなか っ

たが, 3例 の高 値 例 があ り, CSF-TP や IgGと は

全 く異な った動態 を示 した. EAEでreaginが 証明

された こと,ネ フローゼ症候群において血清IgEの

上昇が血清IgGの 低下 に関与 している, 55)といった知

見 を考 え合 わせ る と, MSの 場合の髄液IgEに は,

他の患者の場合 とは異 なった独 自の意味 を もつ可能

性 も否定 出来 ない.

(4) その他の疾患

初老期痴呆 あ るいは大脳萎縮 の患者 において髄液

変化 を認 める ことは稀 ではない. 14) 16) 43)その原因 とし

て,脳 萎縮 に関連 した血 液.脳 関門の透過性亢進14)

あるいは脳実質 の崩壊 による もの43)と考 え られて い

る.し か し最 近,石 井56)は蛍光免疫酵素抗体 法にて,

Alzheimer病 患者 の 老人 斑の中 にIgGの 存在 を見

い出 し,こ の疾患 におけ る免疫学的過程の可能性 を

示 した.ま た,報 告57)初老期痴呆で ステロイ ド治療

が有効 であった症例 の報告 もあ る.髄 液IgEは 平均

値 も高 く, 6例 中2例 で増加 を認 めて いる.ま た今

日その発現機序 が未 だ明 らか でない一酸化炭素中毒

間歇型 の症例 において も高値 を示 したことは興味 あ

る結果 であ る.こ れ ら脳萎縮 にお ける髄液IgEの 増

加 は,他 蛋 白成 分 増 加 を伴 な うものであった.

Parkinson症 候群で も,進 行 性経過 を とり,筋 強剛

・アキネジア ・精神症状 な どが高度で,気 脳写 で著

しい大脳萎縮 の症例では, CSF-TPの 増多 を多 く認

め ることを既 に報 告 したが, 58)IgEは1例 についての

み検索 したが異常 はみ られなか った.て んかんにお

いて も同様 で,性 格 変化 や痴 呆の高度 な例 では γ-

globulinの 増加 を認め て いる. 16) 59)これ も,透 過 性の

亢進 あるいは脳実質の崩壊 に基づ くもの と考 えられ

てい る. 59)IgEで は10例 中1例, IgE/TP比 は2例 で

増加 を認 めたに過 ぎないが,て んかん とア レルギー

を結 びつ ける報告 も4) 60)みられ る.筋 萎 縮 性側索硬

化症 を中心 とす る系統的変性疾患中,Parkinson症

候 群 の1例 を除 い た11例 中2例 でIgEが, 4例 で

IgE/TP比 の増加 を認 めた.こ れ ら変 性症患 で も髄

液 に変化 を来 たす ことは知 られてい るし, 16) 28)今回の

対象患者で も,他 の蛋 白成分に も軽度 の異常 は少 な

か らず認め られて いる.

変形性頚椎症 による神経症状の出現機序 について

は,機 械的圧迫のみな らず,循 環障害,局 所 の炎症

な どいろいろ考 えられてい る.脊 髄症状 を呈す る も

のはCSF-TP や IgGが 高値 であ るのに対 し,根 症

状の みの症例 では髄 液異常 は認 め られず,こ れ らの

所見 は髄液 の通過 障害 に基因す るもの と考 え られて

いる. 14)IgEも 髄外腫瘍 の1例 を加 えた5例 で,脊 髄

症状主体 の2例 はいつれ も高値 を示 し,根 症状 を主

体 とす る3例 にいつれ も低値 であ り,髄 液通 過障害

の有無 とよ く一致 した結果 である.又 脊髄空洞症の

1例 も軽 い通 過 障害 があ り, CSF-TPと 共IgEの

増 加 を認めた.こ れ らはいつれ もCSF-TPやIgG

な ど他成分 も同様 に増加 してお り,炎 症性疾患 にお

ける と類似のIgE動 態 である.

脳血管障害 はいつ れ も閉塞性病変で あ り,又 急性

期 を過 ぎた時期で ある為脳浮腫 はほとん どない もの

と考 え られ るが,髄 液所見はIgEを 含 めて全 く異常

を見 い出 さなか った.

筋 疾 患(多 発性 筋炎は 自己免疫疾患 と し,こ こで

は除 く)も種 々の ものを含 むが,異 常 を認 め たのは

重症筋無力症の1例 のみで ある.本 例 は,血 清 ・髄

液共 に再度の検査で もIgE高 値 を示 したが,本 疾患

の血清IgEの 増加 は有森 らによって も報告 されてい

る.本 例 で はCSF-TPは 正 常 で あ るの に, IgG,

IgMも 高値で あ り,血 中のみな らず中枢神経系内 に

も免疫過程 を示唆す るものか もしれない.

免疫不全の症例は今回の対 象にはなか った.抗 痙

弯剤 の服 用 に よ り低IgA血 症を来 たす ことが ある

が, 61)今回のてんかん10例 中には認めなかった.ま た,

筋 萎縮 性 ミオ トニアではcataboiismの 亢進62)より

血清IgG低 下がみ られ ることが あるが,検 索 した1

例の髄液IgEは 測定不能であ った.

以上,種 々の病態 における髄液IgEの 動態 を総括

す る時,炎 症 性症患群で みられた様 にCSF-TPの

増加やIgE以 外の免疫 グロブリンの増加 を伴な った

IgEの 増加例がある一方 で, CSF-TPやIgGの 増加

が明 らかであ って もIgEの 増加 がみ られなか った り

(進行麻 痺をは じめ とす る神経系梅毒 な ど), CSF-

TPやIgGの 増 加を伴 なわないIgE増 加 例(寛 解期

のMSな ど)等, IgEの 変化 と他 の蛋 白成分 との間

に,い わゆ る解離を示す症例 があ ることが明 らかに

な った.ま た血清IgEと 髄液IgEと の間 に も解 離

を示す症例(MSな ど)があ ることも示 された.こ れ

らの結 果は,髄 液IgE増 加の機序 が単純 に血 液 成分

の髄 液へ の移 行だ けでは説 明 し得ず, IgG, IgAや

IgM63) 64)に確 認 されてい る様に,中 枢神経 系に髄液

IgEを 増 加 させ る独 自の機序 が存在 し得 る可能 性を

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各種神経系疾患 にお ける髄液免疫 グロブ リンE (IgE)動 態  923

残す ものであ る.

結 論

濃縮髄液 を用 い, radioimmunoassay法 によ って

髄液IgEの 定量法 を確立 した.こ れ を用 いて,各 種

神経系疾患患者の髄液IgEを 測定 し,検 討 した.

(1) 髄液中 にIgEは 存在 し,定 量可能で ある.

(2) 対照群 における濃度 は平均0.28U/ml,髄 液総

蛋 白100mg比 は0.61で,そ れぞれ0.0U/ml, 1.6以

上 を異常 とみな し得 る.

(3) IgEの 髄 液/血 清 濃 度比 は0.08-0.12%で,

IgAとIgMの 値の 中間 に位 置 し,透過性は各々の分

子量 に反比例す る.

(4) 髄液IgEは,髄 液総蛋白量, IgG, IgA, IgM

の増 加 と相伴 って増加す る傾向 を示すが, IgDと は

相関 しない.

(5) 疾患別 では,中 枢神経系の急性炎症において,

髄 液IgEは 増加 す るが,慢 性炎症 では増加 しない.

その他,多 発性神経根 炎,髄 液通過障害 を有す る脊

椎 ・脊髄疾患 およ び脳萎縮 性疾患にお いて も高値 を

示 した.こ れ らの疾患では他蛋 白成分の増加 を相伴

っていた.

(6) 多発性硬化症 の少数例 で増加 していたが,病

期 ・病 巣部 位 ・重 症 度 な ど とは関連 しない.又,

IgE増 加例 は他成分 の増加 を伴 っていない.こ の こ

とは,炎 症性疾患 や髄液通過障害例 における増加 と

は異 なった機序の可能性 を示 した.

なお本研究 は,厚 生省特定疾患 「多発性硬化症」

調査研究費 によって援助 され た もので あ り,本 論文

の主 旨の一部 は,第15回 日本神経学会総会(昭 和49

年5月,横 浜),第16回 日本神経学会総会(昭 和50

年5月,大 阪)に て発表 した.

稿を終わるにあたり1御校閲いただいた大月三郎教授,

および種々教示・御 協力をいただいた岡山大学神経精神

医学教室 ・池田久男助教授,高 知県立中央病院神経科 ・

矢吹聖三先生,岡 山大学第Ⅲ内科 ・大口義人先生 に感謝

いたします.

文 献

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各神経系 疾患 における髄液免疫 グ ロブ リンE (IgE)動 態  927

Dynamics of immunoglobulin E in cerebrospinal fluid in patients

with various neurological diseases

Toshiyuki HAYABARA

Department of Neuro-Phychiatry Okayama University Medical School, Okayama Japan

(Director: Prof. Saburo Otsuki)

Immunoglobulin E was measured in concentrated cerebrospinal fluid (CSF) of controls

and patients with various neurological disorders, including multiple sclerosis (MS). The radioimmunoaasay method was used for IgE and the single radial immunodiffusion method was used for other immunoglobulins.

IgE in CSF was able to quantify in 86.4% of 118 cases, and then, it is thought that there is quantitative IgE component in normal CSF. In controls (N=23) IgE contents ranged from 0.03 to 0.71 U/ml (M: 0.28 U/ml). IgE /100mg of total protein ratio in CSF ranged from 0.06 to 1.52 (M: 0.61 ). Then, it is suspected that normal value of IgE and IgE% is below 0.8 U/ml and 1.6.

The CSF/serum ratio of IgE was about 0.1% (0.08-0.12%). This value is larger than

that of IgM, and smaller than that of IgA and suggests immunoglobulin permeability through the blood-brain-CSF barrier in reverse proportion to molecular weight.

In pathological CSF, the increase of IgE was related to the increase of total protein, IgG, IgA and IgM levels but IgD. IgE level was increased in 19 of 84 cases (22.6%), especially high IgE level was seen in acute inflammatory diseases of central nervous system but in chronic

disorders (for example dementia paralytica). Otherwise, polyradiculoneuritis and diseases with abnormality of CSF dynamics or brain atrophy, revealed the tendency of high IgE levels. In these disorders, the increase of IgE was parallel with total protein level, IgG and other

immunoglobulins in most cases.The incidence of high IgE level in MS was 3 of 15 cases, but these increases of IgE were

not corelated with abnormalities of other components in CSF and it was revealed the possibility of another pathophysiological process of IgE from IgG and other immunoglobulins in central nervous system. No relationship was present between the incidence of high CSF IgE level and various factors such as clinical stage, suspected lesion and severity of disturbance in MS.