総義歯の咬合採得手順と注意事項について教えてく...

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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College, Available from http://ir.tdc.ac.jp/ Title Author(s) �, Journal �, 113(5): 546-548 URL http://hdl.handle.net/10130/3205 Right

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Posted at the Institutional Resources for Unique Collection and Academic Archives at Tokyo Dental College,

Available from http://ir.tdc.ac.jp/

Title総義歯の咬合採得手順と注意事項について教えてくださ

い。

Author(s) 櫻井, 薫

Journal 歯科学報, 113(5): 546-548

URL http://hdl.handle.net/10130/3205

Right

総義歯の咬合採得の難しさは残存歯が一本もないので,咬合高径など有歯顎のときの状態が不明な点にあります。ゼロからのスタートです。また咬合採得とは不動の上顎に対して,可動の下顎の位置を採得することです。下顎は簡単にいうと頭蓋骨や上顎骨に筋肉によって,ブランコのように吊り下げられています。したがって,体位や頭位によって,下顎位は影響を受けます。これも咬合採得を難しくする要因の一つです。

上記のことを念頭に置いて,咬合採得の手順(図1)と注意事項を述べます。

1.咬合床の確認

咬合床がきちんとできていないと咬合採得がうまくいきません。咬合床を口腔内に挿入し,維持が良好であるかを確認します。例えば維持が悪いと下顎安静位をとれなかったり,咬合させた時に咬合床が離脱したりします。印象が精密に行われているのに,維持が悪いということは基礎床の適合が悪いので,その場合には粉末状粘着剤を基礎床内面に振り掛けて維持を得るようにします。また口腔内に挿入して疼痛があると,患者はそれを避けようとして下顎位がずれてしまうので,疼痛の有無を確認します。疼痛がある場合には,基礎床の調整を行います。

2.前歯部豊隆の決定と上顎咬合堤の前歯部切端の位置の決定

咬合平面の決定を行う前に,前歯部の豊隆を調整します。これは咬合堤を人工歯選択と排列の基準に利用するからです。上顎前歯の豊隆を決定してか

臨床のヒント

Q&A35

有床義歯補綴系

Q&Aコーナーは,東京歯科大学の3病院の臨床研修歯科医から寄せられた質問に対しての回答です。回答は本学3施設の専門家にお願い致します。内容によっては基礎や臨床,あるいは歯科や医科と複数の回答者に依頼する場合もあります。毎号掲載いたしますので,会員の皆様もご質問がございましたら,ぜひ東京歯科大学学会までeメールかファックスで依頼していただきたいと存じます。必ずご期待に添えることと思います。今号は総義歯の咬合採得手順に関する質問です。

Answer

Question

総義歯の咬合採得手順と注意事項について教えてください。

図1 咬合採得の手順

546 歯科学報 Vol.113,No.5(2013)

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ら,上顎咬合堤の前歯部切端を通常は安静時の上唇下縁より約1から2mm 下方に設定します(図2)。このように上顎咬合堤の前歯部の高さを決めてから仮想咬合平面を決定します。

3.咬合平面の設定

仮想咬合平面の決定は,矢状面では Camper’sline と平行にし,前頭面では瞳孔線と平行にします。下顎の咬合平面の高さは,安静時の舌背の高さに合わせ,また頬舌的な位置に関しては舌房を阻害しないように咬合堤の幅を調整します。

平均値咬合器を用いる場合には不要ですが,半調節性咬合器を使用する場合には,フェイスボーを用いて頭蓋(通常は Frankfort 平面を基準とする)に対する上顎の位置を採得し,それを咬合器に移します。これにより術者が咬合器と対面した場合に,ちょうど患者が直立した状態で対面したのと同様の状態を再現できるので,特に前歯部の排列には重要です。

4.咬合採得

咬合採得,すなわち中心咬合位における上顎に対する下顎の位置を採得します。まず下顎安静位を利用する方法や Willis の顔面計測などによって垂直的顎位(咬合高径)を設定します(図3)。患者の姿勢は水平にせず,垂直坐位にし,頭位は Frankfort 平面を床と水平にします。そして上下顎の咬合床を口腔内に挿入したときに,術者が定めた咬合高径よりも

高ければ,下顎の咬合床の前歯部から中央付近まで,あるいは上顎の臼歯部から中央までのワックスを除去して,定められた咬合高径まで修正します。また低い場合には逆に下顎の咬合床の臼歯部にワックスを盛って咬合高径を修正します。

水平的顎位の決定を行う場合に,咬合堤を左右均等に軟化するのは難しいので,なるべく少ない部分を軟化した方が簡単です。私は臼歯部のみで咬ませる方法を利用するので,咬合堤の前後的中央,すなわち5番6番相当部のワックスのみ残して,後の部分,すなわち1番から4番および7番部から後方の咬合堤は2mm 程度除去しておく。あるいは咬合堤を低めに作っておき,必要な量だけ5番6番部にワックス等を足して,咬合させます。ワックスを削るよりも足す方が簡単なので,下顎の咬合堤は低く作った方がよいでしょう(図4,5)。

5.標示線の記入と人工歯選択

咬合床唇面に人工歯の選択や排列に利用する標示線(正中線,上唇線,下唇線,口角線)の記入(図6)を行います。歯科医師がこのことを忘れると歯科技工士は,ラボ作業を想像で行うことになり,試適時の修正が困難になります。標示線の記入が終了したならば,上下の咬合床を連結してから口腔外に取り出し,上下の咬合床の後縁が接触していないことを確認して,咬合採得を終了します。

咬合採得を行った診療日に人工歯選択を行います。これを忘れてしまうと歯科技工士は平均的な人

図2 上顎咬合床前歯切端相当部は,現状では上唇下縁より8mm 程度下方にあるので,修正が必要である。通常は安静時に上唇下縁より約1から2mm 下方に位置する。

図3 垂直的顎位の決定には様々な方法があるが,今回はWillis の顔面計測,すなわち瞳孔から口裂までの距離が,安静時の鼻下点からオトガイ底までの距離に等しいことを利用した。

歯科学報 Vol.113,No.5(2013) 547

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工歯を選択せざるを得ませんので,個々の患者にあったものが排列されません。人工歯選択は歯科医師の責任です。上顎の中切歯の形態は患者の正貌を参考に,上顎中切歯長径は標示線である上唇線よりも長いものを,また上顎6前歯は口角線を参考に,そして下顎前歯は水平被蓋の量によって決定します。臼歯部人工歯近遠心径は,犬歯の遠心から排列可能領域までの長さを計測し決定します。人工歯の色調は皮膚の色を参考にし,患者の希望も加味します。

Answer:櫻井 薫東京歯科大学有床義歯補綴学講座

図4 前方で咬合しないように,また咬合床の安定を考慮して5番6番相当部で咬合させる。

図5 低く設定した下顎の咬合平面の5番6番相当部に軟化したアルーワックスを置いて,咬合させる。

図6 人工歯選択や人工歯排列のために咬合床に標示線を記入する。上唇線,下唇線,正中線の記入が終了し,右側の口角線を記入している。

548 歯科学報 Vol.113,No.5(2013)

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