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石油供給レジリエンスと 臨海コンビナート強靭化 平成27年1月14日 資源エネルギー庁 浅野 大介

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石油供給レジリエンスと臨海コンビナート強靭化

平成27年1月14日

資源エネルギー庁

浅野 大介

Page 2: 石油供給レジリエンスと 臨海コンビナート強靭化idmc.or.jp/file/20150114_lecture01.pdf2015/01/14  · 石油供給インフラへのダメージ (1) 製油所・油槽所・ガソリンスタンドの被害

緊急時石油供給における「重要インフラ」とは何か?

• 製油所 (23カ所)• タンカー/タンク貨車

• 油槽所 (150カ所)• タンクローリー

• ガソリンスタンド(34000カ所)

• 情報システム

• 企業BCP(系列BCP)

• 企業連携BCP(災害時供給連携計画)

• 省庁BCP• 省庁連携BCP

ハード ソフト

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平常時の石油サプライチェーンは以下の通り。しかし、緊急時には複数の重要パーツが機能不全に。

製油所(23)タンカー/タンク貨車

油槽所 (150)

タンクローリーガソリンスタンド(34000)/顧客

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1.  東日本大震災時の石油供給障害

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首都圏では、千葉の製油所においてLPGタンク崩落による火災・爆発が発生。

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仙台では、製油所は地震による津波に襲われて復旧に1年超を要した。

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避難民は停電したガソリンスタンドに行列し、暖をとるための灯油や、原発事故の発生した福島からの避難用のガソリンを求めた。

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石油供給インフラへのダメージ

(1) 製油所・油槽所・ガソリンスタンドの被害

→6 製油所が稼働停止

→仙台塩竈の4つのうち3 油槽所が稼働停止

→300 以上のタンクローリーが津波に飲まれた

→東北地方の60% 以上のガソリンスタンドが稼働停止

(2) 物流インフラの被害

→港湾は瓦礫で埋まり、タンカーはしばらく入港できず

→道路も瓦礫で埋まり、タンクローリーはしばらく走れず

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3.11前後で、どのように東北地方への石油供給は変化したのか?

平 時

八戸油槽所

盛岡油槽所

秋田油槽所

酒田油槽所

新潟油槽所

青森油槽所

製 品

HOKKAIDO HOKKADO

2

港湾使用不能

3.11以降

原油

WEST製 品

WEST製 品

製 品

WEST

WEST製 品製油所 製油所

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日本全国ワイドで、被災地へのバックアップ・オペレーションを実施した。

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瓦礫は国土交通省により除去され、その後、ついに3月17日に塩釜港の油槽所にタンカーが入港。他地域からの大規模バックアップ転送が可能に。

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ガソリンスタンドが停電・津波被害にあっていた地域においては、ドラム缶を空き地に並べた「簡易SS」による給油作業を、自衛隊や地元SSや地元消防団が中心となって実施。

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2. 解決すべき課題

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次なる巨大地震に備えて進めるべき対策は?

課題 1.  石油産業のBCPのレベルアップ•個別の石油会社のBCPは、①系列供給網全体を包含した、②明確な供給再開目標時間を定めたものであるべき。

課題 2.  省庁間協力の強化•事前に十分なコミュニケーションや調整がなかった。

課題 3.  製油所等インフラの強靭化・そもそものリスクが評価されていなかった。

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課題1

石油産業のBCPのレベルアップ

• 経産省は、石油会社のBCPを「運送会社や末端のSSも包含する系列全体のBCP」に改訂することを要請。

• 明確な供給再開目標時間の設定(平時の2分の1の出荷量まで●時間以内に戻す)

• 経産省は系列BCPの格付(S/A+/A/B/C)を毎年度実施し、補助金審査に反映

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被災地の製油所

タンクローリー・ドラム缶による陸上輸送

タンカーによる海上輸送

被災地外の製油所

本社等が機能しない場合に代替

本社サーバーセンター 受注・配車センター 支社

本社機能代替本社被災状況、在庫情報等の報告

復旧支援・タンクローリー配車等

営業・復旧支援等

被災状況収集

SS等

系列SS

望ましいBCPは、契約運送会社や特約店・販売店も含むものであるべき。価とレベルアップ

契約タンクローリー

契約タンカー

製油所油槽所

製油所油槽所

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被災地自治体

公正取引委員会への確認を事前にとった方法により、緊急時の円滑な企業連携を可能に

石油会社 石油会社 石油会社

燃料供給要請

共同オペレーションルーム(仕事の割り振りを実施)

20

石油会社

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内閣府

経産省防衛省

警察庁

国交省

消防庁

3.11の反省を踏まえ、関係

省庁による事前調整・準備を加速。

18

課題2省庁間協力の強化

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課題 2省庁間協力の強化

緊急時に必要になる「実力部隊の運用」や「規制の運用」について、平時から関係省庁間調整を進めている。

1. 製油所近辺の航路の優先的な啓開(がれき処理)

2. タンクローリーの緊急通行路通行許可の迅速化

3. 自衛隊による、ドラム缶や自衛隊車両を用いた石油輸送協力

4. 空き地等にドラム缶を並べた「簡易SS」設置に向けた自治体への要請と事前準備・訓練

5. 海外援助物資等の受入容易化に向けた燃料規格の規制緩和(プランB) ←今後の課題

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経産省・防衛省は2014年度より、燃料供給訓練を開始。

(「民生用の燃料」「自衛隊活動用の燃料」との両方について協力体制を構築すべく、全国訓練・地方訓練を展開中)

20

民生用燃料

自衛隊用燃料

自衛隊が製油所からSSへ、民間タンクローリーの代わりに輸送

自衛隊が自ら、活動用燃料を製油所に取りにいく

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課題 3製油所等インフラの強靭化

• 「コンビナート総点検」を実施し、その結果を受け、製

油所・油槽所の強靭化事業を開始(以下の3点を強

化)

1.  設備の安全停止

2.  液状化・側方流動防止策

3.  入出荷に必要な桟橋・ポンプ・配管等の機能の増

強(地域間バックアップを可能に)

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220 100m0 100m

NN

336189

189365338

365

189188

神戸市御影浜 285 298236235神戸市御影浜

神戸港のコンテナターミナル

神戸港のLPG基地

1995年の阪神大震災時には、液状化・側方流動が、神戸港の荷役・エネルギー供給機能を破壊。

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液状化と側方流動は、石油タンクや石油桟橋を破壊し、入出荷機能を失わせる。

停電・都市ガス供給停止が予想される中、これは社会にとっての致命傷になる。

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100kmGoogle地図に加筆

TOKYONAGOYA

OKINAWA

OSAKA

KYUSHU

CHUGOKU, SHIKOKU

2013年度に実施した「コンビナート脆弱性総点検」

は、首都直下地震・南海トラフ地震の被災想定地域のコンビナートの抱えるリスクの全貌を解明した初の調査。

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PL値の分布

PL=0

VERY LOW0<PL=<5

LOW5<PL=<15

HIGH15<PL

VERY HIGHTOTAL

首都直下地震

首都圏370points

914points

836points

707points

2,827Points

南海トラフ地震名古屋圏阪神圏

中四国、九州沖縄

589points

540points

757points

1,441points

3,327points

25

1.石油会社は、自社で保有する地盤データを提供2.経産省は、追加データを採取

3.①会社保有データと、②新たに採取した経産省データを合体させ、 新のinput‐motionを挿入。

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「コンビナート脆弱性総点検」の結果に基づき、製油所・油槽所対策を開始。今後5年程度で完了の予定。

ドラム缶出荷能力強化

非常用電源の強化

桟橋の能力強化(地域間バックアップの強化)

液状化・側方流動の防止

15

製油所設備の安全停止(二次被害防止)

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3.  さらに議論すべきポイント

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Governance と Leadership

‐日本政府の危機管理モデルの特徴は何か?

‐次なる危機に備えて準備すべき点は何か?

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“Lead Agency” か “Coordinating Agency”か?

‐Lead Agency Modelか?指揮官庁が目標設定をして、他省庁に

対して指示・指導をするモデル。

‐Coordinating Agency Modelか?指揮官庁は存在せず、調整官庁が各

省庁の調整のみを行うモデル。

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“Push‐type” か “Pull‐type”か ? 

‐“Push‐type” operation?中央政府は必ずしも被災自治体の要請を待た

ずして、自らの目測で支援を進める。

‐“Pull‐type” operation ?中央政府はあくまで被災自治体の要請に応じて支

援を進める。

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“No regret” か“No excess”か?

• “No regret” policy結果的には「やりすぎ」かもしれないが、十ニ

分な供給をする。

• “No excess” policy平時に戻った時に、「やりすぎ」「もったいな

い」との批判を受けないように控え目な供給をする。

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クライシス・マネジメントの今後(私見)

• 日本には、「独立した統合危機管理省庁」はない。

• 「各省庁の個性」が強く、競争が働くことは、

‐平時は →○ Positive impact ‐危機時には →× Negative impact

• “Lead Agency” に必要な条件は?‐よく訓練され、頻繁に出動している実力部隊を有している組織、

‐①独立した人事体系、②独立した予算を有している組織、 ではないか?