社会的敗北ストレスモデルラットを用いた増体および摂食行...

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社会的敗北ストレスモデルラットを用いた増体および摂食行 動に関する研究 誌名 誌名 栄養生理研究会報 ISSN ISSN 02864754 著者 著者 飯尾, 恒 塚原, 隆充 小川, 恭喜 長南, 茂 豊田, 淳 巻/号 巻/号 61巻1号 掲載ページ 掲載ページ p. 27-34 発行年月 発行年月 2017年3月 農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センター Tsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research Council Secretariat

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社会的敗北ストレスモデルラットを用いた増体および摂食行動に関する研究

誌名誌名 栄養生理研究会報

ISSNISSN 02864754

著者著者

飯尾, 恒塚原, 隆充小川, 恭喜長南, 茂豊田, 淳

巻/号巻/号 61巻1号

掲載ページ掲載ページ p. 27-34

発行年月発行年月 2017年3月

農林水産省 農林水産技術会議事務局筑波産学連携支援センターTsukuba Business-Academia Cooperation Support Center, Agriculture, Forestry and Fisheries Research CouncilSecretariat

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栄養生理研究会報 Vol.61, No.1 2017

社会的敗北ストレスモデルラットを用いた増体および摂食行動に関する研究

飯 尾恒1,2.4 .塚原隆充3.小川恭喜1,2・長南茂1,2 .豊田淳1,2

(I茨城大学農学部、 2東京農工大学大学院連合農学研究科、 3栄養・病理学研究所、 4茨城県農林水産部畜産課)

1. はじめに

家畜が慢性的なストレスに曝されると、飼料摂取

量の低下や成長低下、筋肉分解の増加、免疫能の低

下などを引き起こすことが知られている 1,2)。その

ため、ストレスを可能な限り排除した飼育管理を行

うことで、家畜の健康維持および生産性向上が望め、

畜産経営からも重要である。家畜の飼育方法には、

単飼と群飼、また、舎内やパドック(運動場)、放

牧飼育など様々あるが、現在の日本の畜産現場では

家畜を高密度で舎内飼育するケースが多く、それに

伴ったストレス暴露による生産性の低下や疾病率の

上昇などの問題が存在する 2)。家畜が慢性的にスト

レスに曝されると、飼料摂取量の低下や成長の低下、

筋肉分解の増加が見られ、それに伴い生産物の品質

劣化や出荷日数の延長により、畜産農家の経営的負

担が生じる 3,4)。そのため、畜産学においてもスト

レスに関する研究は重要で、ある。しかし、ウシやブ

タなどの家畜でストレスモデルを作製し、行動学や

分子生物学など多角的な手法を駆使して研究を行う

のは、ラットやマウスを対象とした研究と異なり、

研究規模の面、または研究手法やツールが限られて

いるため実施が困難で、ある。

世界保健機関の報告によると、ストレスに起因す

ると考えられるうつ病患者は、世界人口の約5%に

当たる 3億5000万人も存在している。さらに世界に

おける年間自殺者数は 100万人を超えており、その

半数以上がうつ病などの精神疾患を患っていたと報

告されている。そのため、ヒトのストレス研究やう

つ病研究は重点化されるべき研究分野のーっとなっ

ている。ヒトのストレス研究においては、ヒトの代

替としてラットやマウスなどの実験動物をストレス

モデルとして利用しており、様々なストレス暴露や

薬物投与などにより、数多くのストレスモデルが作

製されている 58)。

実験動物を用いたストレスモデルにおいて、体重

変動は数多く報告される症状の一つで、ある 5,7)。家

畜における増体抑制は経営悪化を引き起こす要因の

一つである。そのため、ストレス暴露による増体抑

制メカニズムの解明は畜産においても重要な課題で

ある。そこで、家畜を用いた検討が困難な慢性的な

社会的敗北ストレス暴露による増体抑制メカニズム

を、社会的敗北ストレスモデルラットを用いて検討

した。

なお、本稿は筆者らが原著論文として投稿した成

果9-12)を元に記述した。

2. 社会的敗北ストレスが増体および摂食行動、海

馬分子機構に及ぼす影響

ストレス暴露には、雌との同居や単飼により縄張

り意識を持たせた Resident(攻撃者)のホームケー

ジに、 Intruder(侵入者)を導入することにより人

為的に社会的闘争を引き起こし、 Intruderに社会的

敗北ストレスを暴露する Resident-Intruder-Paradigm

を用いた。一般的にResidentには攻撃的、または、身

体が大きい異系統のラットやマウスを用いるが5,6)、

日本の畜産現場では同種同系統の家畜飼育が基本で

あることから、同系統のラットを Residentおよび

Intruderに用いた社会的敗北ストレスモデルの作出

を試みた。

Intruderにはストレス暴露開始時に9週齢になる

Proceedings of Japanese Society for Animal Nutrition and Metabolism 61(1): 27 34, 2017.

Study on Body Weight Gain and Food Intake in Chronic Social Defeat Stressed Rats l,2,4 3 l 2 1,2 l,2 Wataru Iio , Takamitsu Tsukahara , Yasuki Ogawa’, Shigeru Chohnan , Atsushi Toyoda

(1College of Agriculture, lbaraki University, 2United Graduate School of Agricultural Science, Tokyo University of Agriculture and Technology, 3Kyoto Institute of Nutrition and Pathology Inc., 4Livestock Industry Division, Department of Agriculture, Forestry and

Fisheries, Ibaraki Prefectural Government) 円

iつ臼

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用いて分析した。その結果、試験区において海馬

MAPK経路活性の低下が示唆された (図 lB)。

Activity SensorおよびFoodIntake Monitor (小原

医科産業)を用いてホームケージ内の自発活動量お

よび摂食量を経時的に測定した結果、ラットの活動

期である暗期において、試験区は対照区に比べ自発

活動量および摂食量が共に有意に低下していること

が示された(図2)。 社会的敗北ストレスモデルにお

さら

Wis tar系雄ラットを用いた。

トレス暴露開始時に 12週齢になる Wistar系雄ラッ

トを卵管結繋した同週齢の Wistar系雌ラットとラー

ジケージ (L45cm×W60cm×H45cm)

ストレス暴露開始前に雌ラットをラージケージか

Residentにはス

で飼育した。

また、

その後、ラージケージに Intruderを導

入した。Residentが侵入してきた Intruderに攻撃し、

ら移動させ、

けるホームケージ内の自発活動量の低下は、攻撃性

が低い Residentによる社会的敗北ストレス暴露では

起こらないが、攻撃性の高い Resid巴ntによる社会的

敗北ストレス暴露だと起こることが知られている17.

Intruderが服従姿勢を示したら、 Intruder・をワイヤー

メッシュケージ (Ll7cm×W22cm×H23cm)に導

その後1時間ラージケージ内に設置した。l入し、

時間後、 Intrud巴rを自身のホームケージに戻し、雌

ラットをラージケージに戻した。以上を試験区とし

た。対照区には同時刻にハンドリングを施した。上 また、摂食抑制もヒトのうつ病診断における一

つの診断基準であり、ストレスモデルにおいても認

められるうつ様症状の一つである 13.19)。

述の方法にて5週間毎日社会的敗北ストレスを暴露

した 9)。 こ ~'l らの

Wis tar系雄ラ ット間の Resident-Intruder-

Paradigmにおいても、

量を低下させる程度の攻撃性があり、

ことか ら、

ホームケージ内の自発活動

これまで報告

されているストレスモデルで報告されている増体抑

その結果、試験区は対照区に比べ、増体が有意に

抑制されることが示された (図 IA)。激しい体重変

動は、ヒトのうつ病診断における一つの診断基準で

ストレスモデルにおいても認められるうつ様

症状の一つである 5.7. 13)。 セロトニンや脳由来神経

あり、

制および海馬 MAPK経路活性の低下が示唆された。

Activity SensorおよびFoodIntake Monitorの

結果から、社会的敗北ストレスモデルラットにおけ

る増体抑制は、ホームケージ内の自発活動量の増加

に伴うエネルギー消費量増加によるものではなく、

また、栄養因子(BDNF)の下流である分裂促進因子活性化

タンパク質キナーゼ(MAPK)経路は、これまでのス

トレスモデルや自殺者の海馬において、その活性が

低下することが報告されている14 16)。 そこで、社会

摂食抑制が主要因であることが示唆された。的敗北ストレスモデルラットにおける、海馬 MAPK

経路タンパク質のリン酸化割合を Westernblot法を

対照区試験区

同町圃酬W暢剛咽聞岬

咽圃’ 1・剛圃酢

・圃.. , ..... .. 開園・・聞園田

p恥1EKl/2

MEKl/2

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0.6

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160

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p恥1EK

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。(遡)5 4

F、.) 2

合試験区

図1. 社会的敗北ストレス暴露が増体および海馬 MAPK経路に及ぼす影響

(A)ストレス暴露開始前を基準とし、基準から各週の増体量を算出した。繰り返しのある二元配置分散分析の結果、ストレス (p<0.001)およびストレス×時間(p<0.001)が有意であった。***p<0.001 (Bonferroni法)。 データは平均値±標準誤差 (n= 8/ group)で示した。

(B) Western blot法を用いて、海馬 MAPK経路タンパク質のリン酸化比を解析した。対照区を l

とした時のリン酸化比を示した。*p<0.05、料p<0.01(Student’s f検定)。データは平均値±標準誤差 (n=4/group)で示した。

引用文献9、IOから改変して転用した。

-28 -

G 対照区

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A

5000

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目liffl 3000 掘tlil 2000

話1000

。試験前 2 3 4 5 (遇)

世対照区 合試験区

B ζ

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1

i

I

(叫)酬制服

六** ** * 十

5

0 試験前 1 2 3 4 5 (逓)

骨 対 照 区 企試験区

図2.社会的敗北ストレス暴露がホームケージ内自発活動量および摂食量に及ぼす影響

(A) Activity Sensorを用いて、暗期ホームケージ内の自発活動量を測定した。日音期ホームケージ内の自発活動量を繰り返しのあるこ元配置分散分析の結果、ストレス(p<0.01)およびストレス×時間 (p<0.001)が有意で、あった。キp<0.05、料p<O.Ol(Bonfe1rnni法)。

(B) Food Intake Monitorを用いて、日音期摂食量を測定した。日音期摂食量を繰り返しのある二

元配置分散分析の結果、ストレス (p<0.05)およびストレス ×時間(p<0.001)が有意であった。tp<O.l、*p<0.05、料p<0.01 (Bonferroni法)。 データは平均値±標準誤差(対象区 11=8、試験区 ・n=7)で示した。

引用文献 IOから改変して転用した。

3. 社会的敗北ストレスが視床下部マロニルーCoA

合成経路に及ぼす影響

動物のエネルギー恒常性は主に中枢神経系により

支配されており、なかでも視床下部が重要で、あるこ

とが知られている。視床下部では様々な摂食関連ペ

プチドが発現しており、摂食促進ペプチドである

ニューロペプチド Y (NPY)やアグーチ関連ペプチ

ド(AgRP)、メラニン凝集ホルモン(MCH)、また

摂食抑制ペプチドである αーメラニン細胞刺激ホル

モン (α-MSH)やコカイン・アンフェタミン調節

転写産物 (CART)などにより摂食行動が制御され

ている。これらの摂食関連ペプチドもまたストレ

スとうつ病に関係していることが知られている 20)。

脂肪酸生合成に関与するマロニル CoA 濃度は、マ

ロニルーCoA合成の上流分子である AMP活性化キ

ナーゼ (AMPK)およびアセチル-CoAカルボキシ

ラーゼ (ACC)の活性に依存している。視床下部に

おいてはマロニルーCoA 濃度の増減により摂食関連

ペプチドの発現が変動し、摂食行動を制御すること

が知られている 21)。 上述の結果より、社会的敗北

ストレスモデルラットにおける増体抑制は摂食抑制

が主要因であることが示唆されたことから、慢性的

な社会的敗北ストレスが視床下部マロニル CoA合

成経路へ与える影響を解析した。

マロニル CoAはACCによりアセチル CoAか

ら合成される。ACCは脱リン酸化することで活性

化する分子であり、 AMPKにより活性を制御され

ている 21)。 そこで、社会的敗北ストレスモデルラッ

トの視床下部における、 AMPKおよびACCのリン

酸化割合を Westernblot法を用いて分析した。その

結果、試験区において AMPKおよび ACCのリン酸

化割合の有意な低下が示された(図3A)。 これらの

ことから、社会的敗北ストレスモデルラットの視床

下部 AMPKは不活性化状態、 ACCは活性化状態に

なっていることが示唆された。さらにアシルーCoA

サイクリング法を用いて、視床下部マロニルーCoA

濃度を測定した結果、試験区において視床下部マロ

ニル-CoA濃度が対照区と比べ有意に高いことが示

された(図3B)。この結果は、視床下部 AMPKお

よび ACCのWesternblot法の結果と一致している。

これらの結果より、社会的敗北ストレスモデルラ ッ

トの摂食抑制は、視床下部において AMPKおよび

ACCのリン酸化割合が低下したことによる、マロ

ニルーCoA濃度の上昇により引き起こされたことが

示唆された。

-29 -

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A B 戸む画』、D

1.2 きg 0.5 百~* *** 対照区試験区 音量

語 1.0 p品 1PKf-.-, e oA まま 4ぞ8 0.8

AMPK a園田盲目副 ~ 。~ 0.3 よJ0.6 凶 pACC 、-- ~ー

ー崎、

盟~ 0.4 0.2

寂 0.2 ACC ~き ー一ロfY 。 Actin E二コ・陣容4日~a 0.1

}ムpAMPK pACC

低。

/AMPK /ACC 車E 対照区 試験区

図3. 社会的敗北ストレス暴露が視床下部マ口ニルーCoA合成経路に及ぼす影響

(A) Western blot法を用いて、視床下部マロニルーCoA合成経路分子のリン酸化比を解析した。対照区を lとした時のリン酸化比を示した。料p<0.01、料*p <0.00 I (Student’s f検定)。

データは平均値±標準誤差(n=4/group)で示した。(B)アシルーCoAサイクリング法を用いて、視床下部マロニルーCoA濃度を解析した。ら<0.05

(Student's t検定)。データは平均値±標準誤差 (11=3/group)で示した。引用文献10から改変して転用した

4. 社会的敗北ストレスがレプチンの発現に及ぼす

影響

レプチンは強力な摂食抑制作用を持つペプチドホ

ルモンである。レプチンもまたうつ病と関係が報告

されており、海馬へのレプチン投与により抗うつ作

用を示し22.23)、うつ病患者においても血中レプチン

濃度の低下が報告されている 24)。 AMPKの上流因

子と して、細胞内 AMP/ATPの濃度比や肝臓キナー

ゼBl(LKBl)などの AMPKKが知られているが、

レプチンもまた AMPKの上流因子のーっ として知

られている 21.25)。 上述の結果より、社会的敗北ス

トレスモデルラットの摂食抑制は、視床下部マロニ

ルーCoA合成経路の変調により引き起こされたこと

が示唆されたことから、慢性的な社会的敗北ストレ

スがレプチンの発現に与える影響を解析した。

社会的敗北ストレスモデルラットの血柴中レプチ

ン濃度は、腹部大動脈より採血 ・処理した血紫を用

いて、 ELISA法にて測定した。その結果、試験区に

おいて血紫中レプチン濃度が対照区と比べ有意に低

いことが示された(図4A)。また、精巣上体周囲白

色脂肪でのレプチン mRNA発現および視床下部シ

グナル伝達性転写因子3 (STAT3)リン酸化割合も

分析したが、血紫中レプチン濃度の結果と矛盾して

いなかった (図4B,C)。 これらのことから、社会

的敗北ストレスモデルラ ットでは、末梢組織のレプ

チン濃度が低下し、視床下部にレプチン濃度低下の

シグナルが伝達されているにも関わらず、何らかの

メカニズムで視床下部 AMPKのリン酸化が充進さ

れないため、マロニルーCoA 濃度が上昇することが

示唆された。つまり、慢性的な社会的敗北ストレス

の暴露により、末梢組織のエネルギー低下シグナル

が視床下部 AMPKを活性化できず、その結果、摂

食行動が抑制されていることが考えられる。社会的

敗北ストレスモデルラットにおける、末梢組織のエ

ネルギー状態に関するシグナルが視床下部 AMPK

に伝達されない点については、今後さらなる研究が

必要である。

5. 制限給餌による増体および摂食関連シグナルに

及ぼす影響

上述の研究から、社会的敗北ス トレスモデルラッ

トにおける増体および摂食抑制は、末梢組織の低エ

ネルギー状態が、視床下部マロニルーCoA合成経路

に伝達されないためであることが示唆された。そ

の一方で、視床下部マロニルーCoA 濃度が上昇する

と、エネルギー消費量が増加することが知られて

nu q可U

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A B c

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対照区試験区

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謀吾長 。 。。対照区詰験区 対照区試験区

対照区試験区

図4. 社会的敗北ストレス暴露がレプチンの発現に及ぼす影響

(A) ELISA法を用いて、血禁中レプチン濃度を測定した。本p<0.05(Student’s t検定)。データ

は平均値±標準誤差(対象区 11=8、試験区田 n=7)で示した。

(B)リアルタイム PCR法を用いて、精巣上体周囲白色脂肪中のレプチン 11武NA発現量を測定し

た。データは平均値士標準誤差(対象区 n=8、試験区 n=7)で示した。

(C) Western blot法を用いて、視床下部 STA.T3のリン酸化比を解析した。対照区を lとした時

のリン酸化比を示した。料p<0.01(Student’s t検定)。データは平均値士標準誤差 (n=4/

group)で示した。

引用文献llから改変して転用 した。

いる 21)。実際に、脂肪酸合成酵素(FAS)活性阻害

剤である C75の腹腔内投与により視床下部マロニ

ルーCoA 濃度を上昇させたマウスでは、ペアフィー

デイングしたマウスに比べ体重が軽く、自由摂食マ

ウスに比ベカロリー消費量が増加することが知られ

ている 26.27)。これらのことから、社会的敗北ス ト

レスモデルラットにおける増体抑制も視床下部マロ

ニル CoA 濃度の増加がエネルギー消費量の増加を

引き起こしている可能性が考えられる。しかしなが

ら、健常ラットにおいて、社会的敗北ストレスモデ

ルラットと同程度の摂食量条件下の視床下部マロニ

ルーCoA合成経路の分子挙動は未だ確認されていな

い。これらのことから、社会的敗北ストレスモデル

ラットと同程度の摂食量条件の制限給餌モデルラッ

トを用いて、この社会的敗北ストレスモデルラ ット

における増体抑制の主要因特定および摂食関連シグ

ナルを4食言すした。

制限給餌モデルラットには、社会的敗北ストレス

モデルラットと同週齢である制限給餌開始時に9週

齢になる Wistar系雄ラ ットを用いた。制限給餌量

は、社会的敗北ストレスモデルラットの摂食量から、

自由摂食に対して第1週目 91.6%、第2週目 87.1%、

第3週目 81.9%、第4週目 88.1%、第5週目 92.3%と

定めた。対照区は自由摂食とし、試験区の給餌量は

対照区の前日の摂食量から算定し、上述の給餌量に

調整した 12)。

その結果、本制限給餌モデルラットの増体は社会

的敗北ストレスモデルラットと同じような増体抑制

が認められた(図5)。このことから、社会的敗北ス

トレスモデルラ ットにおける増体抑制の主要因は、

摂食抑制によるものであることが示唆された。次に、

制限給餌が視床下部マロニルーCoA合成経路に及ぼ

す影響を評価した。その結果、制限給餌により視床

下部 AMPKおよびACCはそれぞれリン酸化比が高

いことが示唆された(図6A)。さらに、制限給餌に

より視床下部マロニル CoA 濃度が低下することも

示唆された(図6B)。これらの結果から、健常ラ ッ

トに社会的敗北ストレスモデルラットと同程度の給

餌を行った場合、視床下部 AMPKの活性化および

ACCの不活性化をもたらし、マロニルーCoA 濃度

が低下することが明らかになった。これらの結果は、

社会的敗北ストレスモデルラットにおける視床下部

マロニル CoA合成経路の分子挙動と逆であった。

また、血柴中レプチン濃度は、制限給餌モデルラッ

トにおいては視床下部マロニルーCoA合成経路の分

子挙動と矛盾なく、血紫中レプチン濃度の低下とい

司自

iqu

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A B c "e・~、

2.5 制限ち冨 0.6 15 ‘!.~・ 対照区 制限区

説 2.0ー,困冨・h、

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pA恥1PK pACC 低。 4ヨ。

/AMPK !ACC 眠-N- 制限対照区 制限区 制限対照区 制限区

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~ 100 +モ 80 空F 60

40

20 。試験前 l 2 3 4 5 (週)

令 対照区 丑制限対照区

〈〉ストレス区 合 制限区

図5.社会的敗北ス トレス暴露および制限給餌が増

体に及ぼす影響

ストレス暴露開始前、または制限給餌開始前

を基準とし、基準から各週の増体量を算出し

た。繰り返しのある二元配置分散分析の結果、

群間 (p<0.001)および群問x時間 (p<0.001)

が有意であった。データは平均値±標準誤差

(対象区.n=8、制限対照区:n=8、ストレス区:

n=7、制限区: n=8)で示した。

引用文献10、12から改変して転用した。

図6. 制限給餌が視床下部マロニルーCoA合成経路および血禁中レプチン濃度に及ぼす影響

(A) Western blot法を用いて、視床下部マロニルーCoA合成経路分子のリン酸化比を解析した。

対照区を lとした時のリン酸化比を示した。*p<0.05、村p<0.01 (Student’s t検定)。 デー

タは平均値±標準誤差 (n=4/group)で示した。

(B)アシルーCoAサイクリング法を用いて、視床下部マロニルーCoA 濃度を解析した。*p<0.05

(Student’s t検定)。 データは平均値±標準誤差 (11=4/group)で示した。

(C) ELISA法を用いて、血紫中レプチン濃度を測定した。**p<0.01 (Student’s t検定)。 データ

は平均値±標準誤差(対象区: n=8/group)で示した。

引用文献12から改変して転用した。

う正常な反応が確認された(図6C)。 これらのこと

から、社会的敗北ストレスモデルラットにおける視

床下部マロニル-CoA合成経路の分子挙動は、健常

ラットの摂食制限条件下では起こりえず、異常な状

態であったことが示唆された。

以上のことから、同種同系統聞の慢性的な社会的

敗北ストレス暴露による増体抑制は、社会的敗北ス

トレス暴露が直接、あるいはレプチンシグナル以外

の未知の因子を介して視床下部マロニルーCoA合成

経路の機能異常を引き起こした結果、摂食抑制が主

要因となり起こったことが示唆された。

6.おわりに

近年の畜産を取り巻く情勢は、国内外の産地間競

争の激化や生産者の高齢化、飼料価格の高止まりな

ど、非常に厳しい状況となっている。このため、生

産性の低下や疾病率の上昇を防ぐことがより求めら

れてきている。

本稿は、家畜におけるストレス暴露による増体抑

制メカニズムの解明を目的とし、同種同系統聞の社

会的敗北ストレスモデルを作成および分析を行っ

た。本稿の結果は、慢性的な社会的敗北ストレス暴

露による増体抑制メカニズムの基礎的知見である。

ストレス暴露による増体抑制メカニズム全体を明ら

つ臼qJ

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かにするには、今後さらなる研究が必要となるが、

このメカニズムの解明は畜産経営における負担軽減

のためとなる飼養管理方法の開発に貢献できると考

えられる。

[引用文献1

1)扇元敬司他 1992.動物生産学概論. 149-168.

川島書店.東京.

2)阿部亮他 2008. 家畜飼育の基礎.新版.

16 19. 農山漁村文化協会.東京.

3)野附巌他 1991. 家畜の管理. 9-33. 文永

堂出版.東京.

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