業績評価と“戦略‐情報伝達”のカタストロフィ・モ url doi...d.p....

20
Meiji University Title �-R.N.Anthony�BSC�- Author(s) �,Citation �, 30: 275-293 URL http://hdl.handle.net/10291/7275 Rights Issue Date 2009-02-28 Text version publisher Type Departmental Bulletin Paper DOI https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

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Meiji University

 

Title業績評価と“戦略‐情報伝達”のカタストロフィ・モ

デル-R.N.AnthonyのフレームワークとBSCから-

Author(s) 菊地,智美

Citation 商学研究論集, 30: 275-293

URL http://hdl.handle.net/10291/7275

Rights

Issue Date 2009-02-28

Text version publisher

Type Departmental Bulletin Paper

DOI

                           https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/

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商学研究論集

第30号 2009.2

業績評価と“戦暗情報伝達”のカタストロフィ・モデル

R.N. AnthonyのフレームワークとBSCから

Performance Measurement and a“Strategy-Communication”

               Catastrophe Model:

On R. N. Anthony’s Framework and the Balanced Scorecard

博士後期課程

    菊

商学専攻 2008年度入学

 地  智  美

KIKUCHI, Tomomi

【論文要旨】

 本稿はR.N. Anthonyのフレームワークとキャッシュ・フロー情報を参照し, R. S. Kaplan and

D.P. Nortonによる業績評価システムの変遷をたどりながら,日本企業に適合する戦略と業績評価

モデルの組合せについて考察する。BSCを媒介にしてME. Porterと藤本隆宏による戦略の評価

モデルを考察した場合に,日本型モデルには権限委譲に伴う現場の自立的な水平的コーディネーシ

ョソによる強みが見られる反面,トップ,ミドル,ロアー各階層の情報の分断が問題となる。これ

について,日米企業2社のBSCの採用事例を参照しながら,日本企業にふさわしい戦略の方向性

とそれを記述,測定,評価する業績評価モデルの情報伝達能力との非対称性に注目したモデルを構

築することによって,日本企業と相性のよい戦略と必要とされる業績評価モデルの能力を考察する。

【キーワード】BSC,内部プロセス重視,創発戦略,情報伝達,カタストロフィ・モデル

1.はじめに

 管理会計の系譜を概観すると,1950年代以前には原価決定と財務管理に重点が置かれていたが,

1960年代には巨大化する企業組織に対応したマネジメソト・システムが必要になった。また国際

間競争が激化する1980年代にはプロセス効率が追求され,経済のグローバル化が加速する1990年

論文受付日 2008年10月1日  掲載決定日 2008年11月12日

一275一

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代には,企業価値創造を指向する戦略システムが求められるようになり,このような背景のもとで

今日までに様々な業績評価モデルが開発されている(Ittner and Larcker,2001)。

 本稿では,複雑化する企業環境を踏まえ,企業の戦略とその実行を支援する業績評価システムの

考察を行う。戦略に対しては様々な定義が存在するが,ここではPorterのポジショニング戦略

と,日本発の水平的コーディネーショソによる継続的改善とを取り上げる。これらの戦略をAn-

thonyの伝統的フレームワークとKaplan and Nortonの業績評価システムに照らしながら,日米2

つの企業のBSC採用事例の分析を行い,日本企業への戦略適用上の問題を考察する。

2.Anthonyのフレームワークとキャッシュ・フロー情報

 (1) 3つのシステムの定義

 組織体における決定には,「あらかじめ決定手順の定められた決定」と「あらかじめ決定順序の

定められていない決定」が存在し,両者の間で様々な決定問題が発生する(Cyert et al.,1959, p.

202)。Branch(1962, p.26)は,「総合的計画(comprehensive planning)」と「職能別計画

(functional planning)」という2つの計画の型を識別している。これに対してAnthony(1965, pp.

5-6)は,計画活動において「コントロールのプロセスと関連する計画」と「方針決定,目標決定,

トップ・マネジメントの計画」の2つを識別し,以下で説明するストラテジヅク・プランニング,

マネジメント・コントロール,オペレーショナル・コントロールの三システムで構成されるフレー

ムワークを構築している1。

①ストラテジック・プランニンゲ(SP)

 SPは「コントロールのプロセスと関連する計画」の計画活動に該当する組織の目的,目的の変

更および目的達成のために用いられる諸資源並びに資源の取得・使用・処分に際し準拠すべき方針

を決定するプロセスと定義される(Anthony,1965, pp.15-16)。 Barnard(1956, p.169)は,戦

略的計画の立案は具体的行動に加えて発明的思考を含むことを指摘し,Branch(1962, p.52)は

総合的計画をコーポレート・プランニソグと呼んで,「目標を定め,計画を立て,総合的に決定を

下し,最大の成果を上げるように実施する」という相互依存性のある循環的な性格を付している。

AnthonyのSPシステムは長期的な製品や事業戦略を策定するトップ・マネジメントの領域であ

り,戦略に必要な投資計画を立てるシステムと捉えられるが,創造性が重視される一方で,コント

ロール機能は相対的に軽視されている2。

1Anthony(1988)では, operational controlがtask controlへと変更されている。また, Anthony and Govin-

darajan(2007)ではstrategic planningがstrategic formulationに変更されており,現在の呼称は, strateg-

ic formulation, management control, task contro1となっている。しかし,基本的な概念はAnthony(1965)

 から大きな変更は見られないため,基本的に本研究ではフレームワークとして最も明快であるAnthony

 (1965)を引用している。

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②マネジメント・コントロール(MC)

 MCは方針決定や目標決定と関係するが, Anthony(1965, pp.16-17)は,計画とコソトロール

を組み合わせた概念を採用している3。コソトロールについてBranch(1962, p.132)は,業績の

測定と比較の機能を果たすべきと述べているが,MCは中期および年度計画の策定に携わり,長期

的経営戦略に沿って事業の最適化を検討し,予算や事業計画を通して最適な資源配分を決定する事

業計画策定を含むミドル・マネジメソトの領域と考えられる。

 このようなMCをAnthony(1965, pp.16-17)は,目的達成のために資源を効果的かつ能率的

に取得し使用するためのプロセスと定義している。さらにAnthony and Govindarajan(2007, pp.

6-7)では,MCは戦略の実行のシステムと定義され4,組織に所属するメンバーの目標と組織目標

とを一致させる機能(goal congruence)にも目が向けられるなど,その重要性が強調されている。

③オペレーショナル・コントロール(OC)

 プロセスにおける活動についてAnthony(1965, pp.17-18)は,あらかじめ手順の定めがある

活動と定めのない活動を区別しているが,後者に該当するOCは,特定の課業の効率的かつ能率的

な遂行を確実にするプロセスと定義されている。このシステムは具体的な予算や事業計画に沿って

日々の業務を効率的かつ能率的に実行するように管理するものであり,日次・月次などの短期的か

つ個別的な計画と管理がこれに該当するため,現場に近いロワー・マネジメントの領域になると考

えられる。MCでは計画と実施の両方が注目されるのに対し, OCではもっぱら実施に注目が集ま

っている(Anthony,1965, pp.17-18)。

 ② キャッシュ・フロー情報の三視点から見た各システムの関与

 上記のAnthony(1965)のフレームワークは「SP→MC→OC」の順番に沿って,上位の計画

(命令)から下位の管理(実行)という流れを形成している。各システムの責任範囲を営業,投資,

財務の各キャッシュ・フロー(CF)情報の視点から捉えたものが,図表1である。

 SPの投資・財務の方針への関与は,企業の中長期的な将来のCFに関わる意思決定に影響を与

2Drucker(1954, pp.323-44)は,マネジャーの仕事として①目標の設定,②組織設計,③動機付けと意思の

疎通,④測定,⑤人材の育成をあげる一方で,コントロールの概念を暖昧なために除外している。Anthony

 (1965)も同様の観点から重要性を低くしたと考えられるが,Anthony(1988, p.29)ではSPにおけるコソ

 トロールの相対的重要性が2割程度示されていて,SPにも一定のコントロール機能を負わせている。

3MCはAnthony(1988)の中でも重要性が増しているが,さらにウエイトが大きくなるAnthony and Govin-

darajan(2007, pp.2-4)では,①プロセスの中で発生したことを測定する発見者または感覚器官,②発生し

た事象を検証する査定者,③必要であれば行動者にフィードバックを行う実行者,④発見者と査定者の間の

情報を媒介するコミュニケーショソ・ネットワークとしての4つの要素を含む複合的なディバイスと説明さ

 れている。

4具体的には組織の,①計画②複数の活動のコーディネート,③情報の伝達,④情報の評価,⑤採るべき行

動の指示し,⑥部下の行動の変化を促す,活動が列挙されている(Anthony and Govindaraj an,2007, pp.6-7)。

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図表1:AnthonyのフレームワークとCF情報との関係(一例)

ストラテジック・プランニング マネジメント・コン鴎一ル オペレーショナル・コントロール

営業CF O組織計画 ○スタッフ人事計画 O標準原価の計画

O人事方針決定 O運転資本、広告等の計画 ▲雇用のコントロール

○営業方針決定 O予算の編成 ▲営業方針等のコントロール

○新商品採用決定 O商品改善の選択 ▲生産スケジュール作成

▲予算の承認 ▲人事手続の制定 ▲在庫管理

▲OCのコントロール規則作成 ▲作業員能率の測定、評価、改善

▲経営実績の測定、評価、改善

設資CF O組織計画 O具体的な計画の策定 ▲各方針にそった実施

O研究開発方針決定 0研究開発計画○組織、設備などの取得 O設備配置換えの決定

○臨時的資本支出決定 O経常的支出の決定

▲投資事後監査 ▲予算の編成

財務CF O財務方針決定 ▲予算の編成 ▲各方針にそった実施

▲財務実績の測定、評価、改善 ▲信用拡張のコントロール

▲信用拡張のコントロール

出所:Anthony(1965, p.19)を基本に筆者が作成。○はプランニング,▲はコントロールを示す。

える。MCは,投資・財務活動の実施に関わる一方で,営業活動の基本的な計画の設計にも携わる

ため,企業の中長期的なCFの生成に関わるとともに,短期的業績の設計図を描く。OCは,専ら

営業活動の実行に携わり,営業活動の効率性に主導的な役割を果たす。特に1990年代以降の議論

はMCの充実に焦点が当てられているが,環境の変化が激しい中にあって企業が中長期的な成長

と短期的な業績とのバランスを図るには,MCシステムの機能が最も強い影響を与える。 MCシス

テムの重要性は,今後もますます強調されると考えられる。

3.Kaplan and Nortonの業績評価システムと戦略

 (1)Kaplan and Nortonの業績評価システムの沿革

 ここではAnthony(1965)に依拠しながら, Kaplan and Nortonの業績評価システムを三段階に

分けて,その変遷をたどる。

第一段階:BSCシステム

 4つの視点によって財務とオペレーショソのバランスをとり,同時に複数分野の指標の把握を可

能にするバランスト・スコアカード(Balanced Scorecard:BSC)が, Kaplan and Norton(1992)

によって提案された。Kaplan and Norton(1996)では,4つの視点の呼称と順序は「成長と学習

→ビジネス・プロセス→顧客→財務」に固定されたが5,戦略計画と予算プロセスがBSCによって

統合されることによって,組織変革を管理するフレームワークへとつながっている。

5初期(~1996年)のBSCにおける4つの視点の名称は固定されていない。詳細は菊地(2008)を参照され

 たい。

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第二段階:戦略マップとBSC

 やがて1990年代後半には組織の無形資産(顧客との関係,革新的な製品・サービス,従業員の

技術や能力,品質やプロセスの優秀さなど)が業績を決定するようになり,Kaplan and Norton

(2001a)でも,戦略マップによる戦略仮説の因果関係が重視されるようになる。無形資産の改善

は複数の中間的な因果関係の連鎖を通して財務成果に影響を及ぼすが(Huselid,1995),無形資産

の価値は組織的環境と戦略に依存し,研究開発などの支出は,内部において組織的に結合されたプ

ロセスを経て有形の価値へと変換される(Kaplan and Norton,2001a)。

 戦略マップは戦略を記述するアーキテクチャを包摂し,戦略をBSCに転換する。トップ・ダウ

ソから構築される戦略マップは,ミッション・ステートメントを基点に,企業の全ての組織および

従業員に発信される(Kaplan and Norton,2001a)。会社が戦略実行の組織へと変貌するためには,

戦略を全ての従業員に理解ならしめるトップ・ダウンによるコミュニケーショソが必要であり,

BSCは実績と相互関係を持ちながら継続的に戦略の実施を支援する(Kaplan and Norton,2001b)。

第三段階:循環型マネジメント・システム

 循環型マネジメント・システム(closed-loop management system)は,①戦略を開発する,②

戦略を具体的な目標とイニシアチブに落とし込む,③戦略と業務とを連動させる,④戦略の進捗度

に合わせた検討を行う,⑤戦略の検討評価と修正を行う,という5段階から成る。マネジメント

 システムは企業が戦略を立案し,一連の事業活動に落とし込み,戦略と業務の改善度をモニター

するためのプロセスとッール全般を含むのである(Kaplan and Norton,2008)。

 またKaplan and Norton(2008)では,戦略と業績を連動させる「業務計画」までの段階が戦略

実行の鍵を握る。特に「戦略の落とし込み」には戦略目標の達成に向けた資源の特定と承認という

機能が含まれ,体系化された戦略を全社員に明確に伝えることが必要であり,戦略マップやBSC

はその一手段とされる。業務計画では,主要プロセスの改善,販売計画,資源配分,予算などの具

体的なアクションプラソが計画されるが,これはAnthony and Govindaragan(2007)が想定する

強化されたMCのシステムの範疇と考えられる。

 (2)Anthonyのフレームワークから見たBSCの変遷と戦略の意義

 図表2は,Kaplan and Nortonによる経営管理システムの変遷と, Anthony(1965)のシステム

との関係をまとめたものである。上段のKaplan and Norton(1996, pp.31-33)では, BSCは,ビ

ジョンと戦略を明確にした後にコソセソサスを得て,戦略計画,目標設定,戦略プログラムを整合

させることに重点が置かれる。ここではAnthony(1965)におけるSPの役割が大きいと考えら

れ,投資CFと財務CFの情報に重点が置かれると考えられる。

 中段の戦略マップでは,BSCの中の4視点間相互の階層構造と因果関係が強調される。 Kaplan

and Norton(2001a)は,戦略マップは組織におけるBSCの不備を明らかにする診断上の手段と

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 図表2:Kaplan and Nortonのマネジメント・モデルの変遷とAnthonyのフレームワーク

窮「1囎’850システA

        ⑤

     、!  \

(一顧客一) ・・c 艦

     \  ノ

       ③

〈システムの特徴〉

・戦略は、ミッション⇒ビジョンを経由して4視点

から業務への関連付けを行う。

・4視点は平面的な相互関係をもつ。

・トップ・ダウン式のシステム。

・戦略を立案するSPが重視される。

・CF区分では投資と財務に重点が置かれる。

.第2賭ノ鐵硲マッソZBSC

財務

顧客

内部プ費セス

禦習と戒長

〈システムの特徴〉

・戦略以外のマネジメント・プロセスと関連付

けて戦略を位置付ける必要がある。

・4つの視点の因果関係に重点を置く。

・無形資産を重視し、学習と成長からスタートする。

・OCのエンパワーメントが鍵となり、MCの仲介能力

の重要性が高くなる。

・CF区分では営業を重視する。

窮3囎!循環型マネジメンんシステA

        戦略の

        開発

落とし

込み

業務計

 画

戦賂欝画く協S◎・戦

賂マツプ)

検証と

調整

監視と

学習

〈システムの特徴〉

・戦略の実行を重視する。戦略の実行を確実

にし、継続的なプロセスにする。

・BSC、戦略マップは「落とし込み」段階の

ツールの1つである。

・戦略は戦略イニシアティブを決定した後、

戦略別に販売計画、資源配分計画、業務

予算、設備投資予算が作成される。

・実行とフィードバックの両面から、MCが鍵となる。

・CF区分では3区分のバランスが重要である。

出所:Kaplan and Norton(1996, p,30),(2004, p.35),(2008, p.65)を基に筆者が作成。

述べているが,この背景には日本やドイッの生産方式や,IT技術による情報伝達の変容による

1990年代の無形資産の重要性への高まりがあると考えられる。無形資産を考慮し学習と成長の視

点からスタートする戦略マップは,Anthony(1965)におけるMCの仲介によるOCのエンパワー

メソトを意識したモデルであり,特に営業CFの生成に重点を置いたものと考えることができる。

これに対し循環型マネジメント・システムにおける戦略マップとBSCの位置付けは,システム

中の第二段階における一手段である。循環型マネジメント・システムは,企業戦略の実行性に焦点

を当てており,各戦略テーマを担当する執行役員が戦略イニシアチブのポートフォリオを立案し,

一280一

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実行責任を負う(Kaplan and Norton,2008)。これはMCの領域の仕事であり,伝統的なMCよ

りも戦略性が重視されているが,Anthony and Govindarajan(2007, pp.6-7)の視点とも整合し,

CFの全体パラソスに重点が置かれている。吉川(2006,31-32ページ)は, Anthonyのシステム

が主に財務的視点を中心に経営を管理しようとするのに対し,BSCは顧客,業務プロセス,人材

の変革などの非財務的視点にまで経営管理の幅を広げた点を評価している。

4.二つの戦略と業績評価システムとの関係

 (1)Porterのポジショニングによる戦略モデル

 企業の経営にとって戦略は重大な問題であるが,ここでは相対する二つの戦略を取り上げる。

Porter(1979)によれば,戦略策定の本質とは競争への対応であり,競争の状況は5つの基本的要

因(新規参入の脅威,強力な供給業者,顧客の交渉力,代替製品,業界内のポジション争い)によ

って決定される。競争に勝つためには三つの基本戦略(コストリーダーシップ,差別化,集中)が

存在するが(Porter,1980, p.35),三つの基本戦略は異なるリーダーシップを必要とするため6,

主力とする戦略によって企業の文化が異なる(Porter,1980, pp. 40-41)。その一方で競争優位は,

製品の設計,製造,マーケティング,流通チャネル,アフター・サービスの提供という多くの行動

から生成される(Porter,1985, p.33)。自社の重要な価値連鎖を定義し,価値連鎖と調和する組

織構造によって競争優位を創造し,維持する能力を向上させることが重要である(Porter,1985,

P.61)。

 日本企業のオペレーショソの優位性を認めながらもPorter(1996)は,オペレーショソ効率だ

けでは戦略にはつながらず,産業や業界において収益の上がるポジショニングを探索し,最適な資

源配分を行うべきであると主張する。5つの基礎要因の力関係は絶えず変化しており,技術の変化

や顧客のニーズなどの不測の変化に対し適切な調整をし続けることが重要である(Porter,2008)。

Porterが意図する戦略は,5つの基礎要因によって説明されるポジショニソグが決定する普遍的な

ものと考えられる。

1

 ② 日本発の水平的コーディネーション・モデル

 ヒエラルキー的仕事組織は効率性の観点から優れており,Williamson(1985, pp.206-239)は

その利点として,集中的コーディネーションによる取引費用の節約,経営と作業の分業による専門

化の経済性,外部ショックに対する情報と意思決定の集中化による経済性を指摘する。青木

(1989,31-32ページ)は,ヒエラルキー効率の前提であるスケール・メリットが何らかの理由で失

われた場合には,競争的効率性に対する局所的または体系的なショックに対応するため,伸縮的か

6例えば,コストリーダーシップ戦略では長期投資,資金源探索,労働力の綿密な監督などの資源が必要とさ

 れるが,差別化戦略ではマーケティソグ能力,製品エンジニアリソグ,創造的直感などが重要となる。詳細

 はPorter(1980, pp.40-41)を参照されたい。

一281 一

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つすばやい適応が必要となるに伴い,ヒエラルキー的意思決定は問題を含むと述べる。

 このような中で青木(1989,36ページ)は,日本の製造業の特徴である半水平的コーディネーシ

ョンと曖昧かつ流動的な仕事組織上の優位性を指摘する。半水平的コーディネーションは,予備的

な中央生産計画が水平的な情報フローに対する一般的な枠組みとして先行し,変化する市場需要に

関する情報を集権的なオフィスの介在なしに直接的に生産システムに伝播するが,これによって多

様な市場需要に迅速かつ正確に対応することが可能となる。また,日本の職場慣行である曖昧かつ

流動的な職務区分では,職長に率いられた労働者のチームが職場をローテーショソし,これによる

労働者の多機能性が,生産物の組成と配達速度の変化に対する伸縮的な対応を可能とする。こうし

た暗黙的知識は,局所的な緊急状態を確認し,半自生的にそれを解決し,製品の品質管理を改善さ

せる(青木,1989,31-32ページ)。米国型企業では職場での職務専門化とヒエラルキー的な調整機

構が対になり,調整業務と通常業務が明確に分離されているが,日本型企業では統合される傾向に

ある(Aoki,1988, p.20)。

 日本の競争力について藤本(2004, 44-55ページ)は,①組織能力,②深層のパフォーマンス,

③表層のパフォーマンス,④収益性から成る多層構造として捉えている。組織能力は多くのルーチ

ンが束になった複雑なシステムであり模倣も困難である点が,日本企業の深層のパフォーマンスを

支えている。模倣の困難性を持つ無形資産は競争能力上,経済的レントをもたらし,その産業への

参入障壁を築く。日本企業は米国起源の戦略をそのまま移入するのではなく,自前の組織や製品の

基本設計における要素が競争優位の決定要因となるフィールドで競争すべきなのである。

 (3)戦略からのフローと内部プロセスからのフロー

 図表3はPorter, Kaplan and Norton,藤本の三者による価値創造フローを比較している。まず

PorterはBSCの4つの視点を階層として捉えるべきとし,「イノベーション→顧客→内部プロセ

ス→財務」の連鎖によって,上層の事業目的から最下層の個別的施策までを階層的に捉える思考プ

ロセスを可視化している(DIAMONDOハーバード・ビジネス・レビュー,2006,145ページ)。

これに対し藤本他(2007)のフローでは,企業の資源の効率性を測定する情報転写の速度と質を

高めることが効率的な営業CFの改善につながると考えられる。これは一見するとKaplan and

Norton(2004)の戦略マップと類似している7。

 次に戦略の担い手という視点から3つのフローを眺めると,Porterのフローでは,戦略企画者

の関心が階層化されている。Porter(2002)は, BSCとの関連の中で,長期的展望に立った戦略

実行の重要性を強調しているが,Porter(2008)では,5っの要因は経営者が長期視点から戦略を

継続的に見直すために重要であると再認識されている8。最近の戦略プラソニソグは大局的目的か

7藤本(2004,44ページ)もKaplan and Nortonの4つの視点との類似性を指摘している。両者の同異,およ

 びCF情報との整合性にっいての詳細は菊地(2008)を参照されたい。

8Porter(2008)では,戦略の重要性は戦略コンサルタント,企業経営者および株主に向けられている。

                   -282一

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図表3:Porter, Kaplan and Norton,藤本のフロー比較

Porter

顧客の視点イノベーション

フ視点階層

階層

社内プロセス

フ視点階層

財務の視点

2の腱}一一____◎L一   MCの関与: 0   0Cの関与: x

1K1alll!1!Laug-Dl dNorton

     学習と成長の

     視点

Ox

リンケー

Ox

内部プロセス

の視点

SPの関与  △

OCの関与: ◎         ◎

リンケ

顧客の視点

リンケ

財務の視点

          ◎

△             ×

塾組織能力

情報転写

深層のパフォ

ーマンス 情報転写

表層のパフォ

ーマンス 情報転写

利益のパフオ

ーマンス

   SPの関与,△   △    O    ◎   MCの関与  △        △      〔:::口:::コ

   ー一〔:=コ     ×        x出所:Kaplan and Norton(2004, p.62),DIAMONDOハーバード・ビジネス・レビュー(2006,145ページ)お

  よび藤本他(2007,154ページ)を基に筆者が作成。

ら離れ,競争ゲームに罎小化されているという批判があるが,戦略には継続的なリーダーシップが

必要なのである(Montgomery,2008)。

 これに対しKaplan and Norton(1996, p.31)のBSCでは,ビジネス・ユニットのミッション

や戦略に基づきトップ・ダウンで決定が行なわれるが,Kaplan and Norton(2008)では, BSCや

戦略マップは循環型マネジメント・システムの一手段となっている。このシステムの主役は戦略を

立案する経営者と各戦略テーマの担当役員である。米国大企業の多くは事業環境の変化,組織構造

の複雑化,イノベーションの創造などに対応するために最高戦略責任者(chief strategy oficer)

を設けているが,CSOは権限と幅広いスキルを必要とし,戦略を創発させる役割を持つ。これを

裏付けるように実際のCSOも行動するベテラン・リーダーとして,多種多様なオペレーションの

経験を積んでいる(Breene et al.,2008)。米国においても,戦略実行には経験に長けた実務者の仲

介が必要であり,現場の創発を必要としていると考えられる。       ,

 一方で藤本のフローは,製造現場によって醸成された企業文化が効率的な内部プロセス(深層の

競争力)と連携し,市場(表層の競争力)を通して利益に結実する。藤本(2004,42ページ)は,

1990年代の日本企業には,組織能力や競争力と収益力とを重層的に捉える測定・評価の体系が確

                   一283 一

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立されていないことを問題視しているが,この課題はAnthonyの枠組みによって,はっきりとす

る。

 図表3におけるPorterの4つの基本要因は全てSPから発信され,詳細をMCが管理すること

で戦略の一貫性が保たれている。Kaplan and Nortonの戦略マップではビジョンとミッションの明

示の前提があり,OCがMCによる管理システムを通してSPの意図に沿った行動を要求するシス

テムを前提とすることで,投資CF情報と営業CF情報が連結している。これに対し,藤本のモデ

ルでは深層の競争力(OC)と表層の競争力(MC)の間に断層が存在し,投資CFと営業CFとの

間が断絶しているため,日本の強みである深層の競争力が表層の競争力には直接関与せず,表層も

情報の断絶によって深層の競争力が有効活用できていない。この断層がシステムの一貫性を欠く原

因となるため,情報の断絶を補うシステムが業績評価の機能に求められる。

 創発的システムを重視するMintzberg(1994)は,戦略プランニソグが秩序による統制である一

方で,戦略策定は創発的思考を促進させることを指摘し,後者のシステムを扱うには有効な戦略を

プログラミングするコミュニケーション手段,管理手段としてのプランが必要であると述べてい

る。日本企業では,内部プロセスの優位に関する情報がOCに存在し,組織のケイパビリティを正

しく知ることによってはじめて戦略性の方向性が見えてくる。マネジャーはケイパビリティと市場

性を仲介し,企業の無形資産に関する造詣を活用すべきである(Mintzberg,1987)。

 分権化された組織における投資決定のプロセスは,戦略計画と同様にボトム・アップのプロセス

としても記述され得る(Bower,1970, pp. 42-44)。現場の経営者によって定義された投資プロジ

ェクトはミドル・マネジャーによって担われ,投資が実現するか否かは組織内の政治力に依存す

る。分権化によって権限委譲がなされている場合には,現場によるボトム・アップの戦略も成立し

得る。日本企業の場合には,深層の競争力に対しては創発的な活動を妨げないよう支援のプログラ

ミングが適切である一方で,表層の競争力に関わるマーケティングや,収益性に対するコントロー

ルも重要となる。権限委譲を条件にボトム・アップからの戦略の有効性を主張するBowerの枠組

みは,大きな示唆を与えるものである。日本企業には自社のビジョンとミッショソを明確にし,全

社的に共有することが肝要であるが,そのためにはSPとMCの連携に加えて,戦略策定の際に,

自社の無形資産情報をSPへ伝達することと,戦略を正確に浸透させるためMCとOCの連携を強

化することが重要である。MCが重要な鍵を握る点は日米共通であるが, MCに求められる機能の

方向性は日米の組織特性の違いを反映して異なると考えられる。

5.事例研究と議論

 (1)経営管理システムに関する先行的実証研究

 ここでは日米のBSC成功事例について, Anthony(1965)のフレームワークを踏まえて分析を

行うが,それに先立ち企業の投資やオペレーションと業績評価の関係について実証研究を参照し,

業績評価システム上の戦略の取り扱いに関して分析する。SPは,資本予算(capital budgeting)

                   -284一

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という重要性の高い意思決定を含んでいる(Anthony,1965;Mintzberg et al.,1976;.Larker,1981)。

Simon(1957, p.204)は,経営的意思決定プロセスに影響する潜在的要因は選択を行なう機構

(組織)および組織の外部的環境の特質であると述べるが,Gordon and Miller(1976)はこれらの

環境適応変数は経営管理システム上,重要なルールを演じると説明する。Larker(1981)は,資

本予算において選好される情報の性格は三つの意思決定段階(問題認識,代替案開発,選択)に依

存し,問題認識と代替案開発の段階では社内外の情報に眼が向けられるが,選択段階では社内情報

が重視されるため,社内情報の収集精度を高める必要があることを指摘する。

 これに対し戦略的投資決定からの考察は,SPとMCの両システムが単純には区分されないこと

を示す。Bulter et al.(1991, p.396)は戦略的投資決定の具体的な特徴として,意思決定プロセス

の複雑性と政治性を挙げているが,政治性の側面からは,戦略的投資決定プロセスには多くの組織

構成員が様々な段階でコミットするため,意思決定が複雑なものとなる(Carter,1971)。 Marsh

et al.(1988, p.108)によれば,投資決定におけるトップ・マネジメソトの役割は,実質的な意思

決定を直接的に行うことではないものの,単なる儀式には留まらず意思決定プロセスを株主の利益

にとって望ましい方向に誘導する役割を担っている。Noda and Bower(2005, p.258)は,企業の

全体戦略の方向性はトップ・マネジャーの粗い戦略意図を反映した各部門の営業レベルにおける事

業の発展に相当のインパクトを持ち,予備的な戦略の方向性は,詳細で堅実な戦略分析の形成に強

い影響を与えることを示唆している。山本(1998,146-47ページ)は,戦略的投資決定プロセスに

おけるSPとプロジェクト認識との関係はより相互依存的なものであり,戦略はそうした関係の中

で創発的に形成され得ると説明する。トヅプ・マネジメソトは戦略的決定の全てのサブプロセスに

関与しながら,望ましい方向へとプロジェクトを誘導するのである。

 オペレーションに関してはBrowell and Hirst(1986)カs,高度に標準化された製品(マス・プ

ロダクト)の場合は,経験による学習を経ることによって経験が業績に影響を及ぼすが,対照的に

標準化の低い製品(ミックス・プロダクト)では,スタッフの経験よりもマネジャーと上司が持つ

経験と知識を蓄積する手段の提供によって,不確実性の解決が支援されることを指摘する。また

Browell and Merchant(1990)は,製品の標準が低い場合には,高い予算参加および予算の使用

が部門業績の向上において有効性が高いことを指摘し,コントロールの複雑な側面を示唆している。

 (2)戦略ポジションを重視した企業改革一サウスウエスト航空のBSC

 戦略の本質は差別化であり,競争者とは異なる一連の活動によって独自の価値を提供することで

ある(Porter,1996)。ここでは差別化により成功を手にした米サウスウエスト(SW)航空の事例

を取り上げる。同社は,1967年に会社設立の申請を行い,1971年に一号機のフライトを実現させ

た(Freiberg and Freiberg訳書,1997,28ページ)。 SW航空は,低い料金と高い顧客満足を提供

する国内専用線として知られ,現在では米国の国内線を運行する会社の中で最も優れた営業原価構

造を誇っている(Anthony and Govindarajan,2007, p.114)。

                   -285一

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図表4:サウスウエスト航空のBSC

戦略マップ;効率的経営 戦略目標 重要成功要因 業績評価指標 数値目標 実行計画

財務の視点        収益性 ・利益率

E低コスト

・市場の評価

E少ない機種

・株価

E飛行機の

・30%UP

E20%DOWN

・低コストで

э繿搴ュ.・売上拡大 ・顧客の拡大 リースコスト

低コスト 禿上拡大・1座席あたり ・10%UP

売上高

顧客の ・定刻離 ・スケジュール ・定刻離着陸 ・30分以内 ・業務品質管      定刻視点           低晒格     離着陸

着陸

E低価格

遵守

E常連客確保

・顧客定着率 ・90%以上 理と顧客定

?tPのプロ

グラム開発

業務プロ ・実稼動 ・時間の厳守 ・定刻着陸率 ・90%以上 ・サイクル

セスの視点  案稼動時間 時間の ・定刻離陸率 ・90%以上 タイムの

のアツプ アップ 最適化

人材と変革 ・地上クル ・従業員のモ ・地上クルーの ・第1年度70% ・ストックオ

の視点     地上クルーの

@      チームワーク一のチー

?潤[ク

チベーション

E教育

持株比率

E地上クルーの

・第2年度90%

E第3年度100%

プション

E地上クルー

訓練制度 ・年4回 の教育訓練

出所:吉川(2003,90ページ)

 SW航空は「価格や利便性に敏感な旅行客にサービスを提供する」ことをスローガソとし,フル

・サービスの航空会社との差別化を図るために,大都市の二番手空港と中規模都市を結ぶ近距離・

低価格・目的地直行型の国内フライトを提供する。同社は主要空港を避け,長距離路線には参入し

ないことで可能となった発着枠の低コスト化および自由度の確保によって,増便と運賃の引き下げ

を実現している(Porter,1996)9。 SW航空の差別化戦略は図表4のBSCにも表現される通り,低

コストと売上高の拡大によって収益性を確保するという財務目標を立てている。例えば低コストの

実現については,「少ない機種での運用」が大きな重要成功要因としてあげられる(吉川,2003,

120ページ)。これらの取り組みによって2004年時点での飛行機一機あたりのクルーは,2003年の

85人から74人へ減少している(Anthony and Govindarajan,2007, p.115)10。

 またFreiberg and Freiberg(訳書,1997,70-87ページ)によれば, SW航空は,ニッチ市場に

合わないセグメントには参入せず,短距離・直行便に徹し,混雑の回避,機種(ボーイソグ737に

統一)やサービスの絞込み(機内食やファーストクラス廃止,自動チェックイソ)によって飛行機

をフル稼働させ,低価格と正確な運行を顧客に提供している。さらに従業員に対しては,従業員持

ち株制度を充実させながら最高の従業員生産性を実現させるなど,従業員の帰属意識とモチベーシ

9直行便によって顧客の80%はノンストヅブとなり,その結果顧客の飛行距離758マイル(料金に換算して

 91,15ドル)が節約される計算となる(Anthony and Govindarajan,2007, p.115)。

10飛行機の準備時間と準備のためのクルーの数(20~25分,地上係員4人+ゲート要員2人)も競合他社(35

 分,地上係員12人+ゲート要員3人)と比較して圧倒的に少なくなっている。また,売上の60%がコストの

 安いオンライソ予約システムによって行われ,使用燃料の85%にデリバティブを適用して4億5500万ドルの

 削減効果をあげるなど,様々な工夫で営業費の削減を実施している(Anthony and Govindarajan,2007, p.

 115)。

一286一

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ヨソを高め,オペレーショソ上の権限委譲を行っている。

 これらの活動の源泉は経営者の強いリーダーシップと戦略であり,SW航空ではトップの優れた

戦略が従業員の隅々にまで浸透している。同社は28ページのミッショソ・ステートメントを公表

しているが,冒頭には「SW航空のミッションは,温かみ,親しみ,従業員のプライドと会社の精

神によって築かれる最高品質の顧客サービスを献呈すること」と記されている11。SW航空は,こ

のミッションを実行に移すことで,卓越した財務業績,高い安全性と顧客満足度および高い従業員

の固定率と満足度を実現させている(Freiberg and Freiberg訳書,1997,17-22ページ)12。

 (3)社内プロセスとコミュニケーションの重視一関西電力のBSC

 関西電力は,1951年に設立された主要電力会社の一社である。従来の電力会社は地域独占的な

規制産業であったが,2000年の電力自由化にともなっ.て競争市場に移行し,価格下落と顧客離脱

のリスクによる脅威が増加した(櫻井,2003,503-04ページ)。彌園(2003)は顧客戦略の重点化

および資本市場を意識した収益構造への方向転換に対応するため,同社には「計画・実行・検証」

のサイクルを着実にする経営管理システムが必要であったと述べている。

 関西電力の従前の組織形態は,バリュー・チェーンごとの事業部門と管轄地域をエリアで分割す

る支社・支店・センターから成るマトリクス構造だった(森沢,2001,67ページ)。まず1998年に

組織単位での総合的な業績把握の仕組みを作ることを目指し,電気事業のバリュー・チェーン(発

電,送電,配電・販売)単位毎に収益が管理された。また2000年にはEVA⑧13の類似指標である

PCA(Profit after Cost of Asset)が採用されると同時に, BSC導入も着手された(彌園,2003)。

 図表5は関西電力のBSC(戦略マヅプ)採用前後の経営指標を比較したものである。同社の

BSC導入理由としては,①画一的な業績評価指標では競争環境を反映しにくい,②戦略目標の整

合がとれる,③TQM14では焦点が絞りきれない,④収益性,公共性,成長性のバラソスを取る点

があげられる(櫻井,2003,511ページ)。彌園(2003)は,戦略マップを採用することによって,

11詳細はSW航空の下記HPを参照されたい(参照:2008年9月16日)。

 〈http://www.southwest.com/about_swa/customer_service_commitment/customer_service_commitment.

 pdf>

12財務業績では,利益率は平均5%以上,米国航空会社トップの売上純利益率,成長率は年20~30%などの業

 績を誇る。顧客満足度では,1988年に業界初の運賃引き下げ,ノンストップ市場でのシェア60%以上,米国

 運輸省による顧客サービス調査で三冠王を達成,従業員関連では,従業員一人当たりの顧客数2400人(他社

 の2倍以上)の生産性を誇る一方で,米国で最も働きがいのある会社トップ10に入るなどの実績をあげてい

 る。詳細はFreiberg and Freiberg(訳書,1997,17-22ページ)およびhttp:〃www.southwest.com/investor

 _relations/fs_financials.html(参照:2008年9月16日)を参照されたい。

13Economic Value Added(EVA)はスターソ・スチュアート社により開発された指標で,同社の登録商標で

 ある。

14Total Quality Managementの略であり,企業・組織における経営の質向上に貢献する管理技術,経営手法

 のことをいう。

一287 一

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図表5:関西電力の従来の経営指標からBSCへの移行

 症芙の溜営搬

投下資源    資産効率

   お客さま満足度

市場シェア

負荷平準化度

    従業員満足度

850‘鯛マツンクのイメージ

   :饗翻杢 鯉難

業務プロセスの視点

・品質の向上

・サイクルタイム短縮

      など

 人材と変革の視点

・従業員のスキルアップ

・研究開発の成果など

お客さまの視点

・満足度の向上

・サービスレベ

ル向上 など

有機的

に運用

出所:櫻井(2003,512ページ)

最終的な財務目標までの仮説が可視化でき,中長期的な施策やプロセスの要素が視野に入ること,

およびリンケージによって重要な施策のみに焦点をあてられたことを評価している。

 関西電力ではBSC戦略マップを核とする成果契約制度が導入され,全プロフィット・センター

には戦略マップ作成が義務付けられたため,組織長は自ら立案した重点戦略の全体にコミットし,

これに基づいて評価,報酬を受けることとなった。BSCの導入によって,経営企画事務局に対す

る被評価者の納得性の向上や,議論の活発化などの効果があがり,組織長については課題の絞込み

による達成意識の共有,PCAの理解の促進,目標への納得性などの向上が見られた(彌園,

2003)。これが課題であった総資産利益率(ROA)の向上へとつながったのである15。

 (4) 日本の製造業の戦略と業績評価システムに関する考察

 上記事例の中でSW航空は,米国航空業界の中で画期的とも言えるポジショニソグをとり,大

きな成功を収めている。これを可能としたのはトップの首尾一貫した戦略である。Porter(1996)

の中で指摘される差別化は,第二空港利用や特定機種の集中購入などトップ・マネジメソトの戦略

的な判断が大きな源泉になっており,トップのドラスチックな英断なしにはSW航空の成功はあ

り得ないであろう。これに対して関西電力のBSCでは,現在の業務の効率化が課題となった。こ

れは財務的には資産収益率の向上という単純なものであるが,支店長クラスのエンパワーメントを

強化することによって,財務成果へとつながった。

15関西電力のROAは2002年度の1.71→2007年度の2.16に改善するとともに,2006年度からは電力9社平均値

 を上回るようになった。詳細は関西電力(2008)を参照されたい。

                     -288一

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 オペレーショソ効率は十分条件にすぎないとして,Porter(2008)は,戦略の継続的な見直しを

伴う5つの基本要因による戦略ポジショソの差別化の有効性を主張している。複雑化する企業環

境に際しては,戦略の選択性が重要である。Simon(1996, pp.193-96)は,選択性には「様々な

進路が試みられ,結果が記録され,その情報が次の探索の指針になる場合」と,「以前の類似する

経験に照らし合わせ,大掛かりな試行錯誤を削減する場合」が存在すると述べている。Porterが

主張するポジショソの変更を伴う探索には,大掛かりな試行錯誤が必要であろう。

 企業にとって技術革新は重要であるが,継続的改善(incremental improvement)も不可欠であ

る(Hamel,2001)。継続的改善はSimonの言う「経験を活かした探索」の典型であり,コストが

相対的に少なく,迅速な対応も可能である。山下(2005,138-44ページ)は,企業における改善・

イノペーションに対する従業員の貢献度の非対称性を記述する「改善一イノベーションのカタスト

ロフィ・モデル」を提案している。ここではこのモデルに依拠して日本企業における戦略の質と業

績評価モデルの情報伝達に注目し,戦略実行における有効性の非対称性の記述を試みる。

 SW航空のBSCは差別化による経営戦略の大きな質の変化を伴うものであるが,関西電力の

BSCは内部プロセス効率化と社内コミュニケーションに重点を置いたもので,戦略的な質の変化

は相対的に少ない。またPorterのモデルはSPが鍵となる情報を持ち, Kaplan and Nortonのモデ

ルでも情報の中心はMCであるが,これに対し日本企業では,深層のパフォーマンスの情報は

OC,表層はMC,財務はSPと情報が分断されている。

 日本企業に質の変化が大きい戦略を導入し,全社一丸で改革に取り組む場合には,戦略を「SP

→MC→OC」の順番に従って,現場の業務レベルでの理解を促すように伝達することが重要とな

る。また,成果の測定と戦略の継続的な見直しでは「SP←MC←OC」の順に,鍵となる情報の要

素が伝達される必要がある。MC-OC間の情報の分断によって,異質な戦略が無作為に流布される

場合には,日本の製造業の強みである現場の改善を支える組織能力による経済的レントが,組織の

混乱というネガティブ効果をもたらす恐れを孕む。戦略ポジション指向のシステムは成功すれば企

業に巨大な富をもたらす反面,先行する投資が営業CFに結びつかないハイリスクな側面を持って

いる。これに対して内部プロセスの改善は現在の延長線上にあり,関西電力のBSC導入でも指摘

されるように,適切な業績評価システムの導入によって職場のモチベーションが上がり,企業の業

績は向上する可能性が高い。業績評価システムが未熟の場合でも,内部プロセスの改善は営業CF

の改善であるためわかりやすく,社内的反発は少ないと考えられる。

 これらの仮説を単純化したものが図表6の左側の図である。横軸の経営戦略は質の違いを示

し,戦略自体は適切であるという前提を置く。これに対して縦軸の業績評価システムにおける「情

報伝達能力」は,システムの適性の差異を包摂する。図表6右の図は,以上の関係を山下(2005,

p.144)のモデルに依拠して記述した「“戦略一情報伝達”のカタストロフィ・モデル」の概念図で

ある。図表6右図中のK-Gの断面で表現される経営戦略の質の変化(分裂要因v)が小さい場合

(内部プロセス改善)には,情報伝達能力(平常要因u)の増加とともに戦略の成功度(y)は漸増

                   一289一

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図表6:“戦略一情報伝達”の力タストロフィ・モデル

情報伝達能力の

        (

  小    経営戦略の質の変化(v)  大

出所:筆者が作成。

業務改善 イノベーション

現状維持 組織の混乱

G

改善

現状維持戦略の質の変化

1

的に増加する。システムの情報伝達能力が未熟の場合でも,組織内の従前からの権限委譲のため,

オペレーショソは粛々と行われると考えられる。

 これに対して1-Sの断面で表現される経営戦略の質の変化(v)が大きい場合(ポジショニソグ

戦略)には,業績評価システムが卓越し,システム問の情報伝達を速やかに行える(uが高い)な

らば,革新的戦略によって大きな成功(y)を収める。反対に情報伝達能力(u)が低い場合には

企業内部の混乱を招き,従前の無形資産である組織能力は大きな埋没コストと化し,戦略の失敗

(y)で業績は悪化する。1-S断面の遅れの部分は組織慣性が働く領域であり,帰属意識の高さや経

験によって一定の範囲内では戦略実行の努力がなされると期待される。しかし,情報伝達能力のジ

ャンプ・ポイントを超えた場合には,戦略の実行は実務上の混乱を引き起こす可能性が高い。この

ため,K-G断面に対して,1-S断面における経営戦略の成功度合いは,「イノベーション→組織の

混乱」という急激な変化を示す非対称性を持っており,上記関係を数式で示すと次の通りとなる。

y3-vy-u=0

 創発的な要素が強い日本企業の場合には,質が大きく変容するポジショニング戦略が効果的に実

行されればリターンは巨大であるが,業績評価システムの情報伝達能力が上手く機能しない場合に

は,組織の混乱を招く恐れがある。これに対し,内部プロセス型の改善は,成功時のリターンこそ

小さいものの,業績評価システムの機能が未熟な場合でも,現状維持にとどまり組織が混乱に陥る

可能性は少ない。Mintzberg(1987)は,戦略を管理することよりもむしろ安定を管理することに

比重を置き,既存の戦略を追求することで自社が最大限の効果を創出できるように努めるべきだと

主張する。多くの日本企業には,深層の競争力を内部プロセス重視の戦略で改善しながら,OCか

らMCを経由しSPへ有効的な情報移転を行うことによって投資・財務計画を充実させ,表層の競

争力と財務成果につなげるシステムの方が適していると思われる。これらの投資,財務,営業の各

                    一290一

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情報の連携は,投資CFおよび財務CFと営業CFとの連携と表裏一体であり,その結合が企業業

績の鍵となるのである。

6.むすび

 本研究は,AnthonyのモデルとCF情報に着目しながら, Kaplan and Nortonによる業績評価シ

ステムの変遷について考察した。企業組織や企業をめぐる環境の変化に伴いAnthonyのフレーム

ワークの三システムにどのような機能が期待され,それがどのように業績評価システムに反映され

るのかについて検討した。また,Kaplan and Nortonのシステムについて,トップ・ダウソ戦略の

代表としてPorterのモデルと,ボトム・アップ戦略の代表としての藤本のモデルの同異を検討

し,日本企業の戦略実行における強みと問題点を業績評価と情報の側面から検討した。さらに,

Porterと藤本のモデルの違いを参考に, BSCを採用した米国SW航空(ポジショニソグ戦略主導

型)と日本の関西電力(内部プロセス改善主導型)の事例を分析した。ここから日本企業の企業戦

略の実行に際し,経営戦略の質の変化,情報伝達能力,および戦略の成功度合いを記述する「“戦

略と情報伝達”のカタストロフィ・モデル」を提案するとともに,日本型の水平コーディネーショ

ソによる継続的な改善に代表される内部プロセス主導の戦略を採る方が,イノベーションを伴うポ

ジショニング主導の戦略よりもローリスクであることを示した。反対に大きな成功を求めて革新的

な戦略を行う場合には,業績評価システムの情報伝達能力が鍵となるのである。

 日本企業の強みは,英米企業に比べると社内の階層において下位にあるため,そのパワーと情報

をミドルおよびトップがいかに活用するかが重要である。このためには,欧米発の戦略モデルをそ

のまま導入するのではなく,日本の組織特性に合わせて改良する必要があると思われる。その際に

鍵となるのは,社内の情報共有であり,業績評価システムなどの情報伝達能力であると考えられ

る。本研究では既に存在する研究の事例を2件取り上げたが,今後新しい事例を発掘すること

で,このフィールドに関する考察がより深いものになることが期待される。

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