国税通則法第23条第2項第1号による更正の請求 (後発的事由...

1
23 ! 23 23 ! 23 " 調 23 # ! 23 23 23 23 守田 啓一[上野] 24 【5】 2012年〔平成24年〕8月1日〔水曜日〕 〔第三種郵便物認可〕 Volume No.667

Upload: others

Post on 23-Jan-2021

2 views

Category:

Documents


0 download

TRANSCRIPT

Page 1: 国税通則法第23条第2項第1号による更正の請求 (後発的事由 …国税通則法第23条第2項第1号による更正の請求 (後発的事由における判決の意義)

国国税税通通則則法法第第2233条条第第22項項第第11号号にによよるる更更正正のの請請求求((後後発発的的事事由由ににおおけけるる判判決決のの意意義義))

はじめに

国税通則法(以

下「国

法」という)第23条第2項

第1号における後発的事由

による更正の請求は、納税

者・税理士が考えているよ

りも遙かに適用範囲が限定

されていると思われる。

納税者・税理士の考える

後発的事由における判決と

は、判決全文に及ぶと考え

るのに対して、課税庁は、

「計算の基礎となった事実

に関する訴えについての判

決」をその文言通り狭義に

適用し、「判決には当たら

ない」という結論を導いて

いる。

この様な解釈が、納税者

の訴えを真摯に捉えている

か、救済規定としての役割

を果たしているか考える。

1�判決に見る国税通則法第23条第2項第1号

国法第23条第2項第1号

(以下「後発更正事由」と

いう)については、幾つか

の判決があるが、これから

示すものは、いずれも納税

者が結果的に敗訴してい

る。なお、紙面の都合上、

裁判所名、結果、TAIN

Sコードのみで表示し、内

容説明は私見である。

遺産分割に関する事件

(配偶者に対する税額軽減

の適用の有無)

熊本地裁(全部取消し)(被

告控訴)(納税者勝訴)コー

ド246-

8614

福岡高裁(原判決取消し)

(被

告)コ

250-

8878

最高裁(棄却)(確定)コー

ド253-

9333

熊本地裁は、客観的合理

的根拠を欠如しているとい

えない判決であれば、同条

項にいう「判決」に当たる

というべきと判断しさら

に、後発更正事由は、納税

申告時には予想し得なかっ

た事由が後発的に生じたた

め、課税標準又は税額等の

計算の基礎に変更をきた

し、税額の減額をすべき場

合に、法定申告期限から1

年を経過していることを理

由に更正の請求を認めない

とすると、帰責性のない納

税者に酷な結果となること

があるため、納税者に救済の

途を認めたものと解される。

計算の基礎と異なる事実

が後発的に発生したもので

あることを認定した判決で

あることなどの限定を加え

てはいないものであること

を考慮すると、当初の計算

の基礎となった事実と異な

る事実を認定する判決がな

されたこと、それ自体を後

発的事由と想定して規定し

たものと解するのが相当で

ある。つまり、判決それ自

体を「後発的事由」とし

て、判示された内容そのも

のが「計算の基礎となった

事実に関する訴えについて

の判決」と解された。

しかし、福岡高裁は、遺

産分割そのものを、相続人

間の通謀による虚偽、仮装

の合意を行ったものであっ

て、通謀虚偽表示により無

効であると認められ、ま

た、納税者は、本件申告

時、本件協議が通謀虚偽表

示により無効であることを

知っていたものと認められ

るから、国法第23条第2項

第1号に基づく更正の請求

を行うことはできないとさ

れ、さらに、更正を請求す

るためには、当該訴訟が基

礎事実の存否、効力等を直

接、審判の対象とし、判決

により基礎事実と異なるこ

とが確定されるとともに、

申告時、納税者が、基礎事

実と異なることを知らなか

ったことが必要である。後

に基礎事実と異なることが

判決で確定されたからとい

って、申告期限後におい

て、なお、その権利を救済

する必要はないといわざる

を得ない。

最高裁でも同様な判断か

ら棄却された。

後発更正事由について、

地裁判断より狭義に解さ

れ、申告に係る起訴事実と

異なる判決が確定したから

と言って、後発更正事由が

適用されるものではないと

判示した。

この判決により、後発更

正事由に該当するためには

次のような要件が必要と思

われる。

申告時、納税者が、基

礎事実と異なることを知ら

なかったこと。申告時には

予知し得なかった事態その

他やむを得ない事由がその

後において生じたこと。

基礎となった事実に関

する訴えが必要なこと。

判決において異なる事実

が確定しても、その訴訟

が、基礎事実の存否、効力

等を直接、審判の対象と

し、判決により基礎事実と

異なることが確定される必

要があること。

いわゆる「馴れ合い判

決」に該当しないこと。

不動産の所有権の帰属

松山地裁(棄却)(控訴)コ

ド251-

8996

高松高裁(棄却)(確定)コ

ード252-9077

本件は、共同相続人であ

る原告らが、亡丙の所有し

ていた土地は、丁が亡丙か

ら贈与を受けていたもので

あり、これを認めた所有権

確認等請求訴訟の判決が確

定したとして、被告に対

し、取得財産の価額を減額

するよう相続税の更正請求

を行ったにもかかわらず、

被告が、原告らに対し、更

正をすべき理由がない旨の

通知処分(以下「本件通知

処分」という。)を行った

ことから、これに不服があ

るとして、原告らが、本件

通知処分の取り消しを求め

た事案である。

松山地裁は、土地を取得

財産に含めた当初申告は、

原告らの調査・検討不足に

起因するものであり、当初

申告時において、土地が訴

外丁の所有地であることを

前提とする申告書を作成・

提出することは可能であっ

たというべきであるから、

「納税申告時には予知しえ

なかった事態その他やむを

得ない事由が後発的に生じ

た」と認めることは困難で

ある等として、国法第23条

第2項第1号の適用は否定

された。

さらに、「私人間の紛争

解決の手段としては十分で

あるとしても、本来客観的

かつ公平であるべき租税負

担の前提となる事実として

は、そこでの事実関係をそ

のまま取り入れることはで

きない。」と判示された。

この判決は、擬制自白に

より確定したものであるの

で、「馴れ合い」と解釈さ

れたかも知れないが、原告

が、相続財産に含めた土地

の所有権を判決により失っ

ているのは事実であり、納

税者にとっては非常に酷な

結果となっている。

この判決により、後発更

正事由に次のような留意が

必要である。即ち、私人間

の紛争を解決した確定判決

であっても、後発更正事由

に当たらない場合が有る。

借入金(相続時の借入

金の存在の有無)

横浜地裁(棄却)(原告控訴)

コード229-

8030

東京高裁(棄却)(確定)コ

ード237-

8202

横浜地裁は、金銭借用証

書は、被相続人の署名がな

く、その作成日付後に作成

されたものであることが明

らかであるとしながらも、

それだけで、直ちに、その

記載に係る借入金が架空の

もので、これらの書面がそ

れを実在するかのように装

うために作成されたもので

あるとはいい難い。として

借入金そのものの存在は認

めたものの、後発更正事由

は、「そ

ば、申告後に、課税標準等

又は税額等の計算の基礎と

なる事実について判決がさ

れた場合であっても、その

判決が、当事者がもっぱら

税金を免れる目的で、馴れ

合いによって得たものであ

るなど、客観的・合理的根

拠を欠くものであるとき

は、「判決」には当たらな

いと解すべきである。」と

判示した。しかし、東京高

裁は、借入金の存在そのも

のを「真実存在したと認め

ることはできない」と判示

した。

2�国税通則法第23条第2項第1号による

更正の請求の留意点

以上の各判決により、納

税者が実際に経済的損失を

被る判決が確定したからと

言って、後発更正事由が適

用されるとは限らず、後発

更正事由は極めて厳格に適

用されると判示されている。

法律を無制限に拡大解釈

し、馴れ合いによる判決や

擬制自白による判決まで、

救済せよという主張はしな

いが、納税者が申告期限後

に受けた経済的損失を税法

において救済する。という

趣旨からすれば、その適用

範囲はあまりに狭いと言わ

ざるを得ない。

条文の趣旨をもう少し柔

軟に解釈するか、条文その

ものを改正し、救済規定と

しての機能を充分に果たす

ようにすべきである。

たとえば、国法第23条第

2項第1号を「その申告、

更正又は決定に係る課税標

準等又は税額等の計算の基

礎となった事実に関する訴

えについての判決」から

「訴えについての」という

文言を削除するだけで、適

用範囲を相当に拡大するこ

とができると考える。そし

て、後発更正事由の要件を

次のように改めれば良いの

ではないか。

1つめの要件は、「当事

者間に権利関係の争いがあ

る」ことである。その訴訟

の予備的請求についても適

用範囲とし、納税者が直

接、訴えたものでない場合

であっても、当事者間の権

利関係の争いすべてを適用

範囲に含めるべきである。

2つめの要件は、当事者

間に存在した権利関係の争

いが、「その後、判決によ

り申告等があった当時の権

利関係と異なる事実関係」

となったことである。

その申告、更正又は決定

に係る課税標準等又は税額

等の計算の基礎となった事

実に関する訴えに該当しな

い場合であっても、判決に

より、納税者の経済的損失

が確定し、その事実を税額

計算に反映させた場合に

は、税額が減少するのであ

れば、その減少額は救済す

る必要がある。

3つめの要件は、申告期

限において納税者が知り得

た事実もその適用範囲に含

めることである。

最後に

国法第23条第1項は、そ

の適用範囲が1年から原則

5年(法人税で一定の場合に

は9年)に拡大されている。

そのことにより、国法第

23条第2項の適用範囲が

益々狭められるのか、拡大

されるのか不明であるが、

納税者の救済規定という本

来の趣旨に則り適用される

ことが望まれる。

守田 啓一[上野]

日本税務会計学会

平成24年5月月次研究会

【5】2012年〔平成24年〕8月1日〔水曜日〕 東 京 税 理 士 界 〔第三種郵便物認可〕 Volume No.667