交絡因子を考える - 青森県庁ウェブサイト ... · 交絡因子とは= •...
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1
交絡因子を考える
Sir Richard Doll
医師、疫学者(1912-2005)
Sir Austin Bradford Hill
疫学・統計学者(1897-1991)
防衛医科大学校 防衛医学研究センター
感染症疫学対策研究官 教授 加來浩器
平成26年1月24日09:15-12:15
平成25年度 感染症リスクマネジメント作戦講座
曝露(exposure)
喫煙
結果(Outcome)
肺がん
これをどのように証明するか?
当時のロンドンでは、女性でたばこを吸うのは珍しい状況でした。
2
-約4年間の研究
-肺がん患者(男性)と非肺がん患者(男性)の喫煙状態を比較
対照の喫煙状態
非肺がん患者
比較
危険因子への曝露
症例の喫煙状態
研究1( 1948年 4月~ 1952年 2月)
肺がん患者
結果
ロンドン市内の病院に入院中の男性患者
対照をどのように選定するかが問題!
① 症例の親類又は友人
② 症例の近隣の住人
③ 症例と同じ病院に他の疾患で入院中の者
④ 症例と同じ地区の住民台帳から無作為に抽出された者
非肺がん患者には、その人が肺がんでないことを確認するため
に検査を受けてもらう必要がある。喫煙の有無についてもしっ
かりと聞き取りをしなければならない。
DollとHillは、③症例と同じ病院に他の疾患で入院中の患者を
対照として選定することにした。その理由は・・・・
3
利点利点利点利点
欠点欠点欠点欠点
対照を同じ病院から選択する場合の利点と欠点して、
• 対照を経費をかけずに簡単に選ぶことができる
• 同じ方法で肺がんで無いことの確認が行われる
• 症例と同じ地域から入院してくる
• 症例と経済状況が似通っている
• 症例と生活環境が似通っている
• 一般人に比して、喫煙者が多く含まれる可能性があるために得られる結果が過小評価となっているかもしれない
対照を選択する際のこのような系統的な歪みのことを“選択バイアス”という。
• DollとHillは、「年齢」をどう取り扱うべきかを考えた。
• 当時のロンドンでは、喫煙は社会ステータスの1つであり、年齢
が増すほど喫煙率が高いという状況であった。
• 一方で、加齢により肺がん罹患率が高まることは知られていた。
曝露(exposure)
喫煙
結果(Outcome)
肺がん
・ 加齢により肺がん率が高くなる
年齢
・ 加齢により喫煙率が高くなる・ 実際に喫煙している人は高齢者に多い。
• そこで「年齢」の影響を排除するために、「対照」は「症例」と同性で
同年齢の者とした。
4
• 交絡因子を調整する方法として、以下の方法がある。
1. マッチング(matching)
それぞれの症例に対して、マッチングで交絡因子の等しい
対照を選ぶ場合、研究開始時点であらかじめ決めておく必
要がある。→ 「マッチさせた症例対照研究」
2. 層化(stratification)
症例と対照の間の交絡因子をそろえて比較する統計的解析
法。交絡因子のレベルに応じてサブグループ化し、各層毎
に曝露因子と結果を検討する。
→ 「マンテル-ヘンツェル法を用いたオッズ比」
マッチさせた症例対照研究
症例1 ○対照1 ×
症例2 ○対照2 ○
症例3 ×対照3 ○
症例15 ○対照15 ×
・・・・・
危険因子A
症例
対照
曝露 W XXXX(+)
曝露 Y Z(-)
曝露 曝露(+) (ー)
XXXX
YYYY
オッズ比=X/Y
症例と対照を因子でマッチさせた組み合わせは15組で、・・・・
5
解析疫学(関連性の強さを検討)
• ある因子に曝露された結果、結果としてある疾病を発症
曝露(exposure)
因子
結果(Outcome)
疾病
?倍
• 10倍の関連性があるとの結果が出た場合の解釈
・ 偶然にその結果が出ただけ
・ 誤りの可能性はないか?(本当は5倍、15倍かもしれない)
・ バイアスにより結果が歪められた可能性もある
・ 選択バイアス・ 情報バイアス
・ 調査者のエラーが無いか
・ 交絡因子の関与はないか?
・ 真に10倍の関連性があった。
交絡因子とは?
• 調査したい因子以外で、結果に影響を与える第3の因子
第3の因子
曝露(exposure)
因子
結果(Outcome)
疾病
?
交絡因子(Confounding factor)
条件1「結果」の原因となりえる
条件2「曝露」の因子と関連がある
ただし、その因子の結果であってはならない
6
交絡因子とは?
• 調査したい因子以外で、結果に影響を与える第3の因子
第3の因子
曝露(exposure)
因子
結果(Outcome)
疾病
?
交絡因子(Confounding factor)
飲酒 がん
喫 煙
喫煙は、ガンの原因の一つである
喫煙者は、より多く飲酒する傾向にある。
条件1「結果」の原因となりえる
条件2「曝露」の因子と関連がある
ただし、その因子の結果であってはならない
喫煙は、飲酒の結果としておこるわけではない。
• サルモネラ食中毒の調査を行ったところ、患者の多くがあるチェーン店を利用していることが判明した。
• その店は、自家製クリームを使ったシュークリームが人気の店だった。そこで、症例対照研究行うことにした。
• 症例は50名で、症例にその店を利用した時に同席した者を2名以内で紹介してもらい、そのうちから50名を対照として選定した。
• 症例のうちシュークリームを食べたのは40名だったのに対して、対照では20名だった。
問1 オッズ比、95%信頼区間を求め、結果を解釈せよ。
7
オッズ比=6 95%信頼区間=2.5~14.7
シュークリーム 症例 対照
曝露 40 20
非曝露 10 30
表1 シュークリームの2×2表
• その店では、カフェラテも人気の店だった。
• そこでカフェラテについても同様に症例対照研究をおこない、表2の結果を得た。
問2 表2からオッズ比、95%信頼区間を求め、解釈せよ。
オッズ比=3.9 95%信頼区間=1.7~9.2
カフェラテ 症例 対照
曝露 37 21
非曝露 13 29
表2 カフェラテの2×2表
8
• すなわちオッズ比は、シュークリームで( 6 )倍、カフェラテで( 3.9 )倍であった。
粗オッズ比 6倍
粗オッズ比 3.9倍
• また以前から、カフェラテを注文するヒトは、シュークリームを同時に注文する傾向が多かったそうである。
• シュークリームとカフェラテはともに真の原因なのか?• カフェラテは、シュークリームの交絡因子にすぎないのか?
関連あり
• 因子Aが真の因子で、因子Bが交絡因子であれば、因子B
の有無別に層化させても、因子Aによるオッズ比が有意になるであろう。
• まずはシュークリームのオッズ比を、カフェラテ有無別に求めてみた。
因子A
関連あり
因子B
9
カフェラテ有の層 カフェラテ無の層
シュークリーム 症例 対照
曝露 36 18
非曝露 1 3
層化オッズ比=6
95%信頼区間=0.59~61.8
層化オッズ比=6
95%信頼区間=0.94~38.4
シュークリーム 症例 対照
曝露 4 2
非曝露 9 27
層の総数=58 層の総数=42
問3 それぞれの層化オッズ比、95%信頼区間を計算せよ。
粗オッズ比 6倍
• K層における2×2表を下図のようにした場合
k層におけるオッズ比=ak×dk
bk×ck
k 層 症例 対照
曝露あり
曝露なし
ak bk
ck dk
Nk(k層の総数)=ak+bk+ck+dk
ORMH=Σ(akdk/Nk)
Σ(bkck/Nk)
• 調整したオッズ比は、マンテル-ヘンツェル要約オッズ比ORMH
として、下記の計算法で推定できる。
10
調整オッズ比ORMH
58
36×3 + 42
4×27
58
1×18 +
42
9×2 = 6=
カフェラテ有の層 カフェラテ無の層
シュークリーム 症例 対照
曝露 36 18
非曝露 1 3
シュークリーム 症例 対照
曝露 4 2
非曝露 9 27
層の総数=58 層の総数=42
問4 調整オッズ比を計算せよ。
粗オッズ比 6倍
• 次にシュークリーム有無別のカフェラテのオッズ比を求めてみた。
粗オッズ比 3.9倍
シュークリーム有の層 シュークリーム無の層
カフェラテ 症例 対照
曝露 36 18
非曝露 4 2
層化オッズ比=1
95%信頼区間=0.17~5.98
層化オッズ比=1
95%信頼区間=0.09~10.87
カフェラテ 症例 対照
曝露 1 3
非曝露 9 27
層の総数=60 層の総数=40
問5 それぞれの層化オッズ比、95%信頼区間を計算せよ。
11
• 次にシュークリーム有無別のカフェラテのオッズ比を求めてみた。
粗オッズ比 3.9倍
シュークリーム有の層 シュークリーム無の層
カフェラテ 症例 対照
曝露 36 18
非曝露 4 2
60
36×2 + 40
1×27
60
4×18 + 40
9×3 = 1=調整オッズ比MH
カフェラテ 症例 対照
曝露 1 3
非曝露 9 27
層の総数=60 層の総数=40
問6 調整オッズ比を計算せよ。
粗オッズ比 6倍
関連あり粗オッズ比 3.9倍
調整オッズ比 6倍
シュークリームのオッズ比は、カフェラテの有無で層化しても6
倍であった。シュークリームが真の因子である。カフェラテはシュークリームの交絡因子である。
結論
調整オッズ比 1倍
カフェラテは、シュークリームの層化によって発症との関連性が見られなくなった。(3.9倍→1倍)すなわち、カフェラテは真の因子ではない。
12
• コホート研究でも同様にK層における2×2表を下図のようにした場合
RRMH=Σ(ak×(ck+dk)/Nk)
Σ(ck×(ak+bk)k/Nk)
• 調整したリスク比は、マンテル-ヘンツェル要約リスク比RRMH
として、下記の計算法で推定できる。
k層におけるリスク比
=ak×(ck+dk)
ck×(ak+bk)
k 層 症例 健康 計
曝露あり
曝露なし
ak bk
ck dk
Nk(k層の総数)=ak+bk+ck+dk
ak+bk
ck+dk
カキ、飲酒とA型肝炎の関係
このケーススタディは、EPIETで作成されたものをAIRIS教育用に編集したものである。
疫学ケーススタディ16
A型肝炎ウイルス
13
本ケーススタディの目的
• 交絡因子の概念を理解する
• データ解析の際の交絡因子の調整法について学ぶ
• マンテル‐ヘンツェル法(Mantel-Haenszel method )
を用いて関連性の強さを評価する
• アウトブレイク調査の目的は、事例の概要を明らかにし、感染
源・感染経路に関する危険因子を特定することであるが、症
例数が多い場合には、さまざまな付帯事象を検討する絶好の
機会ともいえる。
• 食品由来感染症の場合には、原因となる食材を摂取すること
が曝露(exposure)であり、食中毒症状の発症が結果
(outcome)となるが、ある種の飲食物や添加物の中には発症
を促進させたり抑制させたりするものがある。
曝露(exposure)
原因食材の摂取
結果(Outcome)
食中毒の発症
14
• 例えば、胃酸分泌とコレラの発症の関係である。胃酸分泌に
影響を与える食品又は医薬品が、コレラ発症にどのような影
響を及ぼすか等を、アウトブレイク調査に合わせて実施でき
るのである。
• 本ケーススタディーは、汚染された食事と同時に摂取した場
合のアルコールの効果について検証したもので、1988年米
国でのA型肝炎アウトブレイク調査中に行われた研究である。
アルコール摂取
曝露(exposure)
原因食材の摂取
結果(Outcome)
食中毒の発症
• 1988年8月、フロリダ州のメキシコ湾側にあるパナマ市でA型
肝炎のアウトブレイクが発生した。
• あなたは、米国CDCからフロリダ州に派遣された実地疫学
専門家として、この事例を担当することになった。
米国CDC
パナマ市
• 予備的な調査によって、フロリダ州の住民とその近隣州
(ジョージア州、アラバマ州、
テネシー州)からパナマ市へ
旅行した者などから、少なく
とも50名がA型肝炎を罹患し
ていることがわかった。
15
• フロリダ州で調査をすすめていくと、多くの患者がパナマ市内
のレストランなどで生カキを喫食していた事が判明した。
• そこで、本事例では症例を「1988年7月1日から8月20日までの
間にA型肝炎を発症しかつ発症の10~50日前にパナマ市で
のシーフード喫食に関連がある者」とした。
米国CDC
パナマ市
問1a どのように症例を探査するか?グループで討議せよ。
(1)地域住民に、発熱、全身
倦怠感、黄疸の症状を有する者は指定する医療機関を受診するように広報する。(2)医療機関を対象に症例定
義に該当する者がいるかどうか電話で問うか、訪問して確認する。
問1b 症例に対する質問事項をグループで検討せよ。
氏名、住所、年齢、性、職業(職場、学校)、連絡先
発症の有無(有の場合は発症日)、入院の有無(有の場合は入院日)、臨床症状(発熱の程度、黄疸の有無)、検査結果(AST、ALTの最高値、T.Bilの最高値)、合併症の有無、基礎疾患、
カキの喫食の有無、喫食日、喫食量、調理法(生、フライ)、レストラン名飲酒の有無、種類、量
個人属性情報
結果(発症)に関する情報
曝露因子に関する情報
情報収集者に関する情報
予防因子に関する情報
既往歴(A型肝炎、その他の疾患)、予防接種の有無など
質問者名、日時
16
0
2
4
6
8
10
12
14
症例
発症日(3日間隔)
新規発生数
人
61名
図1 フロリダ州におけるA型肝炎発症の推移~1988年7月1日~8月20日~
7月 8月
問2 発症曲線を解釈せよ。
• フロリダ州保健当局は、積極的症例探査の結果61名の症例
を検出した。
• 記述疫学の結果、症例の多くが発症の1か月以内に複数の
パナマ市内のシーフードレストランを利用し、生カキを喫食し
ていることが分かった。
• あなたは、研究デザインについて協議するためにCDC本部
の上司に連絡した。
• すると、「折角の機会なので、このアウトブレイク調査で飲酒
とA型肝炎の発症との関連についても検討してみてはどう
か?」との提案を受けた。
17
• あなたは、まず、症例のうち“パナマ市内のレストランでの
シーフード喫食に関連ある者53名”を用いて症例対照研究を
行うことにした。
• 対照は、症例にシーフード喫食を共にしながら発症しな
かったものを3名以内で紹介してもらうように依頼し、その
中から選定した。
問3 対照をどのように選定するかグループで考察せよ。
• 対照としては64名を選定し、標準化された質問票を用いて電
話インタビューを行った。その結果、症例と対照のシーフード
消費についての検討を表1にまとめた。
シーフード症例(53名)
対照(64名)
オッズ比 95%信頼区間
生カキ 51 33 24.0 5.4-106.9
フライ又は焼きカキ 7 13 0.6 0.2-1.6
カキ蒸し 1 5 0.2 0.03-2.0
生エビ 3 1 3.8 0.4-37.5
フライ又は焼きエビ 17 30 0.5 0.3-1.1
あさり蒸し 1 3 0.4 0.04-3.9
魚 17 18 1.2 0.5-2.7
問4a 表1を完成させよ。
表1 症例と対照におけるシーフードの消費についての検討
18
生カキ喫食量症例(53名)
対照(64名)
オッズ比 95%信頼区間
12個以上 44 12 56.8 11.9-272.1
1~11個 7 21 5.2 1.0-27.3
なし 2 31 - -
問4b 表2を完成させ、結果を解釈せよ。
表2 症例と対照における生カキ喫食量についての検討
• 生カキの喫食量毎に症例対照研究を行った。
• これらの結果から、本事例は生カキ喫食に強い関連(オッズ
比=24倍)があり、しかも量依存関係があること、統計学的
に有意であることが判明した。
曝露(exposure)
生カキ
結果(Outcome)
A型肝炎
関連性:オッズ比24倍
統計学的有意差あり
量依存関係あり
• ただし対照は、症例に比して年配である(平均32.2歳:27.5歳)
ことや、男性が少なかった(39%:81%)という状況であった。
19
• 次に、飲酒がA型肝炎の発症や重症度にどのような影響を与
えるかを検討することにした。
• この検証には、生ガキを喫食した者(症例51名、対照33名)を
用いることにした。
飲酒 A型肝炎?
生カキを食べた者(84名)
アルコールでウイルスが浄化されて発症を予防できる?
アルコールで胃液がうすめられたり、食べ物が胃に停留している時間が短くなり発症を促進させる?
問5a 表3のオッズ比及び95%信頼区間を計算し、解釈せよ。
正しく解釈するためには、バイアス(選択バイアス、情報バイアス、誤分類バイアス)の有無や交絡因子の可能性を考慮しなければならない。
飲酒 A型肝炎
交絡因子
飲酒症例(51名)
対照(33名)
粗オッズ比 95%信頼区間
あり 36 201.6 0.6~3.9
なし 15 13
表3 生カキ喫食例における症例及び対照の飲酒との関係
症例は対照に比べて、飲酒の関与が1.6倍であったが、統計学的な有意差はない。
1.6倍
統計学的有意差なし
20
飲酒症例(51名)
対照(33名)
粗オッズ比 95%信頼区間
10%以上 4 9 0.4 0.1-1.6
10%未満 32 11 2.5 0.9-6.9
なし 15 13 ‐
表4 生カキ喫食例における症例及び対照の飲酒との関係
• 次に、飲酒をアルコール濃度(10%以上と未満)で分けて検討
してみたところ、表4の結果となった。
問5b 表4を完成させて、解釈せよ。
アルコール濃度が高い場合は、オッズ比は0.4倍であり負の相関(A型肝炎の発症を抑制)があるが、アルコール濃度が低い場合は、オッズ比が2.5倍となり正の相関(A型肝炎の発症を促進)となる。ただし、統計学的な有意差は認めない。
問6 生カキ喫食者において、生カキの消費量は、飲酒とA型肝炎の関連における交絡因子といえるか?
• 米国では、毎年、各州ごとに、電話を用いた行動危険因子
(喫煙、飲酒、シートベルト使用、血圧、運動など)の調査が
行われている。1988年フロリダ州では、生カキの喫食が行動
危険因子として追加され、1481名が対象となり調査された。
その結果、生カキを食べる人は、同時に飲酒する傾向にあ
ることが判明した。
第3の因子
飲酒 A型肝炎オッズ比1.6倍
生カキ消費量生カキとA型肝炎の発症には、統計学
的に有意で強い正の相関があり、量依存関係があり
1988年、フロリダ州での行動危険
因子調査で、生カキを多く食べる人は同時に飲酒する傾向にある。(飲酒をすると生カキの消費量がふえるわけではない)
21
• 交絡因子を調整するためには、一般的に以下のような方法をとることができる。これらは、1つだけでなく、複数を組み合わせることができるが、調整には限界がある。
1. マッチング(matching)
– それぞれの症例に対して、マッチングで交絡因子の等しい対照を選ぶ場合、研究開始時点であらかじめ決めておく必要がある。
2. 層化(stratification)
– 症例と対照の間の交絡因子をそろえて比較する統計的解析法。交絡因子のレベルに応じてサブグループ化し、各層毎に曝露因子と結果を検討する。マンテル-ヘンツェル法を用いてオッズ比を計算する。
3. 制限(Restriction)
– あらかじめ特定の交絡因子を持つ(あるいは持たない)人だけを対象とする方法。対象者を限定してしまうために一般化可能性がそこなわれ、必要な症例数を得る事が困難となる。
4. 統計学的補正(adjustment)– 条件付きロジステック回帰分析conditional logistic regressionを用いた多変量解析を行うと、多数の交絡因子を同時に補正できる。
• あなたは、交絡因子の影響を取り除く方法のひとつである層
化分析(生カキ喫食量ごとに層化)して検討した。
問7a 表5を完成させて、解釈せよ。
層分類 飲酒 症例 対照層化オッズ比
95%信頼区間
1~11個あり 2 10
0.4 0.1-2.8なし 5 11
12個以上あり 34 10
0.7 0.1-3.6なし 10 2
表5 生カキ喫食量の層化による症例及び対照の飲酒との関係
層化オッズ比は、1以下なので、飲酒は何らかの抑止因子となっている可能性がある。12個以上群の方が1~11個群に比べて、飲酒によるA型肝炎の抑止効果が少ない傾向にある。しかしながら、統計学的な有意差はなかった。
22
飲酒症例(51名)
対照(33名)
粗オッズ比 95%信頼区間
あり 36 201.6 0.6~3.9
なし 15 13
表3 生カキ喫食例における症例及び対照の飲酒との関係
層分類 飲酒 症例 対照層化オッズ比
95%信頼区間
1~11個あり 2 10
0.4 0.1-2.8なし 5 11
12個以上あり 34 10
0.7 0.1-3.6なし 10 2
表5 生カキ喫食量の層化による症例及び対照の飲酒との関係
問7b 表3と表5のオッズ比を比較して考察せよ。
粗オッズ比(1.6)では正の関連が、層化オッズ比(0.4~0.7)では負の関連があるように示された。(いずれも統計学的な有意差はないが・・・)
• 粗オッズでは、飲酒とA型肝炎には正の関連(1.6)があるよう
に見えていたものが、第3の因子で層化することによって飲
酒とA型肝炎には負の関連(0.4と0.7)があるような結果が得
られた。これは第3の因子が交絡因子として作用したために、
飲酒とA型肝炎とに関係があるように見えたためである
飲酒 A型肝炎
粗オッズ比1.6倍
生カキ消費量
層化オッズ比生ガキ小:0.4
生ガキ大:0.7
23
• 本事例における調整したオッズ比は、マンテル=ヘンツェル
要約オッズ比(ORMH)として、下記の計算法で推定できる。
k層におけるオッズ比=ak×dk
bk×ck
k 層 症例 対照
曝露あり
曝露なし
ak bk
ck dk
Nk=ak+bk+ck+dk
ORMH=Σ(akdk/Nk)
Σ(bkck/Nk)
層分類 飲酒 症例 対照
1~11個あり 2 10
なし 5 11
12個以上あり 34 10
なし 10 2
表5 生カキ喫食量の層化による症例及び対照の飲酒との関係
計=28
計=56
ORMH = =Σ(akdk/Nk)
Σ(bkck/Nk)
28
2×11 +
56
34×2
28
5×10 +
56
10×10 = 0.56
生カキ喫食量は、飲酒とA型肝炎との関連の交絡因子であり、調整オッズ比は0.56倍である。
問8 表5からORMHを求め、その結果を解釈せよ。
24
これまでの研究の結果をまとめてみると表7になる。
生カキ喫食 飲酒症例(53名)
対照(64名)
オッズ比 95%信頼区間
12個以上あり 34 10 52.7 10.7-259.5
なし 10 2 77.5 9.6-623.8
1~11個あり 2 10 3.1 0.4-25.0
なし 5 11 7.0 1.2-41.7
無し 2 31 ― ―
表7 生カキの喫食量、飲酒の有無別に見たA型肝炎の発生状況
問9 本研究における生カキ、飲酒、A型肝炎の関連について
結論を延べよ。
• 生カキの喫食で、A型肝炎のリスクが高まる。• 喫食量が増えると、そのリスクは増大する。• 生カキの喫食と同時に飲酒することで、A型肝炎のリスクが減少するが、消え去るわけではない。
• 年齢と性も、飲酒とA型肝炎の発症の関連において他の交
絡因子となりえる。
• このことは、症例対照研究の結果(症例は、対照に比して
若いことや、男性が多い)ことが示されたことと、1988年のフ
ロリダ州での行動危険因子調査結果から飲酒者はより若
年者(46.5歳 vs 52.8歳、P=0.00001)で男性(50.2% vs
36.6%、P=0.000001)に多かったことが判明したからであ
る。飲酒 A型肝炎
オッズ比1.6倍
年齢、性
交絡因子(Confounding factor)
症例対照研究の結果1988年のフロリダ州行動危険因子調査結果
25
エピローグ
• その後、関連があるカキと同じ水槽にいたカキを検査した
ところ、A型肝炎ウイルス遺伝子がPCRによって検出された。
• 本ケーススタディでは、交絡因子が本当は存在しない人工
的な関連性を作り上げ、真の関連性を隠してしまうというこ
とを確認することができた。
• したがって研究者は、研究プロトコルを作成する際に、可
能性のある交絡因子を注意深く見直して、データ採取や解
析を行うときに考慮しなければならない。
エピローグ
• 飲酒とA型肝炎との間の負の相関は、本当だろうか?
• 確かに、調整オッズ比では強い関連性をみることができ
た。しかし、飲酒は同じ食事の間に取られたとされている
が、質問票ではアルコールが先なのか、同時なのか、後
なのかまでは聴いていいない。
• バイアスや他の交絡因子は、可能性のある説明として除
外されていない。
26
エピローグ
• 負の相関関係は、生物学的には本当らしいのだろうか?
細菌(サルモネラ菌、赤痢菌、カンピロバクター菌)では、
疫学的に実験的に同時の飲酒が胃酸の分泌増加をもた
らすことによって、その疾患の発生のリスクが減少するこ
とが確認されている。しかしながら、A型肝炎ウイルスに
そのデータは適用することはできない。
• 結論として、若干の因果関係の基準には合致するもの
の、汚染された食事と同時に飲酒することがA型肝炎の
発症を抑止すると確信して結論付けることはできない。
おわり
Simpson’s Paradox
発症 健康
飲酒 有 71 52
飲酒 無 29 48
計 100 100
飲酒と心筋梗塞発症との関連を調べるために、
心筋梗塞患者100名と健康人100名を使って症例対照研究を行った。
粗オッズ比=8.6倍
曝露(exposure)
飲酒
結果(Outcome)
心筋梗塞
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Simpson’s Paradox
発症 健康
飲酒 有 71 52
飲酒 無 29 48
計 100 100
喫煙の有無で層化分析を行った。
粗オッズ比=8.6倍
曝露(exposure)
飲酒
結果(Outcome)
心筋梗塞
喫煙 発症 健康
飲酒 有 8 16
飲酒 無 22 44
計 30 60
オッズ比=1倍
非喫煙 発症 健康
飲酒 有 63 36
飲酒 無 7 4
計 70 40
オッズ比=1倍
層化分析
ORMH=1
粗オッズ比と層化オッズ比とに乖離がある。これが“パラドックス”
喫煙が交絡因子だから