社会運動の動態・その理論的把握hasegawa/_src/sc468/...2...

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1 社会運動の動態・その理論的把握 5. 資源動員論の展開( 2 2015.5.14 長谷川 公一 東北大学大学院文学研究科教授 [email protected] © K. HASEGAWA 無断での引用・改変 ・配布等を禁じます

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社会運動の動態・その理論的把握  5.資源動員論の展開(2)  2015.5.14       長谷川 公一    東北大学大学院文学研究科教授  k-­‐[email protected]

© K. HASEGAWA

無断での引用・改変 ・配布等を禁じます

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組織・資源・戦略こそがキーワード

• 社会運動組織(SMO)レベルを分析すべし • 社会運動インダストリー(業界) • 動員可能な資源量が、社会運動の活発さを規定する

•  「相対的にわずかしか勢力をもたない集団(relative powerless group)の勝利をどのように説明するのか」(Lipsky,M. 1968)

主な源流となったのは • C. Tilly らの歴史社会学的な社会運動研究 •  M. Zald らの経営組織論的な社会運動研究

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© K. HASEGAWA

長谷川公一(1985)

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資源動員過程

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長谷川公一(1985)

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資源動員論の意義 • 集合行動論からのパラダイム革新—→社会運動論の研究の隆盛 •  「連帯」の発見—→社会関係資本(social capital)論の先駆 • 組織論的な研究中心に、NGO/NPO隆盛に • 日常的な政治活動と社会運動との連続性    「社会運動の制度化」    「社会運動社会へ」

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社会運動の成功の程度(Gamson, 1975)

敵対者による受容

完 全 なし

要求の実現 多い 完全な応答 封じこめ

なし 併 呑 (cooptation)

失 敗

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建設反対運動の例 敵対者による受容

完 全 なし

要求の実現 多い 完全な応答       建設阻止

封じこめ  問題の社会的認知

なし 併 呑 (cooptation)   条件闘争化による           和解

失 敗   建設阻止を断念

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護憲運動の例 敵対者による受容

完 全 なし

要求の実現 多い 完全な応答       改憲阻止

封じこめ   問題の社会的認知

なし 併 呑 (cooptation)   条件付き改憲容認

失 敗   改憲阻止を断念

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どういう組織構造が目標達成しやすいか?

• 官僚制的構造か? 非官僚制的構造か?   非官僚制的の例    多頭的・網状的(ゆるやかな水平的つながり、ネットワーク型)      ——社会統制に強い    官僚制的——効率的意志決定(手段的)       非官僚制的——成員満足度・コミュニケーション重視(表出的)  参考 PM理論(三隅二不二)      Performance重視 鬼軍曹型 Maintenance重視 人情家型  

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社会運動の戦略・戦術の基本問題

1. 敵対者との勢力格差をどう克服するのか? 2. いかにして支援者を拡大するのか? 3. いかにしてマスコミ、公衆からの支持を拡大するのか? 4. 社会統制をどのように克服するのか?                    ——政治的機会構造とフレーミング

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社会運動組織の基本的ジレンマ 組織構成に関して 1. 適規模は?      規模拡大か? 内部のコミュニケーション重視か? 2. 集権化か? 分権化か? 3. トップダウンか? ボトムアップか? 4. リーダーを固定するか? 交代するか? 運動目標に関して 1. 単一目標(シングル・イッシュー)か?              多元的目標(マルティプル・イッシュー)か? 2. ラディカルな目標か? 穏健な目標か? 3. 体制変革志向か? 制度改革志向か? 4. エリートへの影響力行使か? エリートへの編入か?

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暴力の使用は効果的か?

• コンフリクトが限定的で、2行為者モデル(運動体+敵対者)の場合には、暴力の使用は有効←—敵対者側からの譲歩を引き出しやすい           バーゲニング効果・顕示効果

  • コンフリクトの影響の範囲がひろく、コンフリクトの解決に公衆が関与している場合には、暴力の使用は逆効果←—第三者からの支持の抑制・離反を招いてしまう

                              非正当化効果    Shumaker, 1978

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マスメディアの役割とリスク

• The Whole World is Watching, Gitlin, 1980 • 公衆や敵対者へのイメージ形成 • 運動の社会的認知の機会 • モラールを高め、運動の自己イメージを形づくる • マスメディアのリスク    単純化  「絵になる」    やっかみ    内部対立のタネにも

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社会運動組織の組織類型 (Curtis &Zurcher,1974)

      目標志向性

   表出型   混合型    手段型

成 員 資 格

排他型

連帯的誘因 高度に限定的環境 指示的リーダー 同質的成員

連帯的で目的的誘因 高度に限定的環境 指示的リーダー 同質的成員

目的的誘因 高度に限定的環境 指示的リーダー 同質的成員

混合型

連帯的誘因 中程度に限定的環境 指示的で説得的リーダー 中程度に同質的成員

連帯的で目的的誘因 中程度に限定的環境 指示的で説得的リーダー 異質的成員

連帯的で目的的誘因 中程度に限定的環境 指示的で説得的リーダー 異質的成員

包括型

連帯的誘因 広範な環境 説得的リーダー 中程度に異質的成員

連帯的で目的的誘因 広範な環境 説得的リーダー 異質的成員

目的的誘因 広範な環境 説得的リーダー 異質的成員

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社会運動組織の組織類型の例

      目標志向性

   表出型   混合型    手段型

成 員 資 格

排他型

少数精鋭化、仲良しグループ化のリスク 例 日本の社会運動

混合型

包括型

ゆるやかにはばひろく動員、大規模化志向、休眠化のリスク

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どのような組織が成功しやすいか?

•  1)集権的で、官僚制的な組織構造を持つ •  2)選択的誘因を提供する •  3)単一目標を志向し、敵対者との権力の交替等は求めない •  4)暴力的な手段をも探る •  5)社会が政治的危機の期間に要求をまとめる      Gamson (1975)ほか

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資源動員論への批判                ——不満の位置づけ • 不満は定数的なものか? • イッシューによって異なる   —→定数的な例 長期的で安定的な不満                例.公民権運動、女性解放運動   —→変数的な例 急激な変化                例. 災害・事故 • 剥奪をどのように意味付与するのか?   「認知的解放」(McAdam)——変革可能なものと意味づける

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資源動員論への批判             ——意味・価値の等閑視

• 意味付与や価値、イデオロギー、感情などが軽視されている   —→フレーミング論、「社会運動と文化」研究へ   —→新しい社会運動論との接合へ    資源動員論は社会運動を単なるデータと見ている    資源動員論は how を論じているが why を論じていない       Melucciによる批判

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