産業の成長を促進する 新しい中小企業支援策 12...isfj2016 最終論文 2 要約...

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ISFJ2016 最終論文 1 ISFJ2016 政策フォーラム発表論文 産業の成長を促進する 新しい中小企業支援策 12 ~中小企業新事業活動促進法に代わる政策の提言~ 日本大学 鶴田大輔研究会 経済産業分科会② 佐藤美夢夏 3 峰岸燦 4 面田勇人 5 栗原里奈 6 河合大輔 7 2016 11 1 本稿は、2016 12 10 日、11 日に開催される、ISFJ 日本政策学生会議「政策フォーラム 2016」のために作成し たものである。当然ながら、本稿にあり得る誤り、主張の一切の責任はいうまでもなく筆者たち個人に帰するものであ る。 2 本稿の執筆にあたり、西野偉彦氏(松下政経塾研究員)、杉島理一郎氏(埼玉県議会議員)、久礼亮一氏(株式会社ケーロッ ド代表取締役)、鶴田大輔氏(日本大学教授)など多くの方々から有益且つ熱心なご意見を賜った。特に杉島理一郎議員、 久礼亮一代表取締役をはじめ、ヒアリング調査にご協力いただいた企業の方々、また鶴田大輔教授には実証分析の具体 的手法、文章校正など多岐にわたり惜しまぬご協力を頂戴し、本稿は完成に至った。ご協力いただいたすべての方に深 い感謝の意を申し上げ、ここに記す。 3 日本大学経済学部金融公共経済学科3年 4 同上 5 同上 6 日本大学経済学部産業経営学科3年 7 日本大学経済学部金融公共経済学科2年

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ISFJ2016 最終論文

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ISFJ2016 政策フォーラム発表論文

産業の成長を促進する 新しい中小企業支援策 12

~中小企業新事業活動促進法に代わる政策の提言~

日本大学 鶴田大輔研究会 経済産業分科会②

佐藤美夢夏 3

峰岸燦 4

面田勇人 5

栗原里奈 6

河合大輔 7

2016 年 11 月

1本稿は、2016 年 12 月 10 日、11 日に開催される、ISFJ 日本政策学生会議「政策フォーラム 2016」のために作成し

たものである。当然ながら、本稿にあり得る誤り、主張の一切の責任はいうまでもなく筆者たち個人に帰するものであ

る。 2本稿の執筆にあたり、西野偉彦氏(松下政経塾研究員)、杉島理一郎氏(埼玉県議会議員)、久礼亮一氏(株式会社ケーロッ

ド代表取締役)、鶴田大輔氏(日本大学教授)など多くの方々から有益且つ熱心なご意見を賜った。特に杉島理一郎議員、

久礼亮一代表取締役をはじめ、ヒアリング調査にご協力いただいた企業の方々、また鶴田大輔教授には実証分析の具体

的手法、文章校正など多岐にわたり惜しまぬご協力を頂戴し、本稿は完成に至った。ご協力いただいたすべての方に深

い感謝の意を申し上げ、ここに記す。 3日本大学経済学部金融公共経済学科3年 4同上 5同上 6日本大学経済学部産業経営学科3年 7日本大学経済学部金融公共経済学科2年

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要約 本稿は、中小企業新事業活動促進法の経営革新に着目し、中小企業のイノベーションを

促す、新しい政策を提言する論文である。経営革新とは、中小企業者が事業環境などの変

化に対応する支援のために作られた制度である。しかし、我々が行ったヒアリング調査か

ら本法が目的に沿っていないこと、支援策が有効的に機能していないこと、また情報量が

極めて少ないことが判明した。支援策が有効的であるかの疑問を解決するために、以下の

実証分析を行う。 ①現状の政策が対象としている高い付加価値を達成した企業(産業)は信用保証を利用して

いるのか? ②高い付加価値を達成した企業(産業)では、金融機関から借入をしているか? ③高い付加価値を達成した企業(産業)においては、減税の効果が限定されるのではないか? これらの内容を踏まえ、金融機関のパネルデータを用いて分析を行った。分析の結果は

以下の①~③の通りである。 ①付加価値の高い企業は信用保証をより多く利用しているとはいえない。

②付加価値が高いもしくは向上している中小企業における金融支援はあまり有効とは言え

ない。 ③付加価値の高い企業において、減税による支援策の効果が限定されてしまう可能性が示

唆される。 これらの結果は中小企業新事業活動促進法の対象が適切ではなく、支援内容が十分でな

いことを示しており、法律本来の目的を果たしているとは言い難い。そこで我々は現行の

中小企業新事業活動促進法に変更を加えた新たな法律について提言を行った。 1. 中小企業新事業活動促進法の対象をイノベーションを生み出す企業に変更 2. 中小企業新事業活動促進法の支援内容の拡充 3. 中小企業新事業活動促進法の施行状況と結果に関する情報の開示 以上3つの政策提言から、中小企業新事業活動促進法の改善を図ることで、我が国の中小

企業全体の発展を期待する。

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目次 はじめに

第1章 現状分析・問題意識 第1節 中小企業の定義

第1項 中小企業の重要性 第2項 日本経済における中小企業の位置づけ

第2節 中小企業政策の概要 第1項 中小企業政策の目的 第2項 市場の失敗

第3節 中小企業新事業活動活動促進法 第1項 中小企業新事業活動促進法の目的と定義 第2項 中小企業新事業活動促進法の政策 第3項 中小企業新事業活動促進法の現状

第4節 中小企業新事業活動促進法の課題 第1項 ヒアリング内容 第2項 法律の形骸化 第3項 支援策の不完全性

第4項 不完全な情報公開 第2章 問題意識 第3章 先行研究及び本稿の位置づけ

第1節 中小企業支援施策に対する現状認識と分析 第2節 本稿の位置付け

第4章 実証分析 第1節 高い付加価値を達成した企業(産業)は信用保証を利用しているか?

第1項 仮説 第2項 パネルデータ分析

第2節 高い付加価値を達成した企業(産業)では、金融機関から借入をしている

か? 第1項 仮説 第2項 パネルデータ分析

第3節 高い付加価値を達成した企業(産業)においては、減税の効果が限定される

か? 第1項 仮説 第2項 パネルデータ分析

第5章 政策提言

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第1節 中小企業のデータ開示

第2節 イノベーションを促す新しい中小企業新事業活動促進法の提案

第1項 政策の課題 第2項 現状の特許制度 第3項 新しい中小企業新事業活動促進法の概要

第3節 政策提言と本稿のまとめ

先行研究・参考文献・データ出典

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はじめに 本稿では、現在までの中小企業新事業活動促進法の支援内容の有効性が低いことを実証

的に分析し、中小企業が産業においてのイノベーションに資する存在となる政策を提言す

る。本法が中小企業政策として経済学的意義を持つ必要がある。本稿では、企業の研究開

発費などの私的便益と産業を活性化させるイノベーションから生み出される社会的便益の

乖離を市場の失敗の具体的な事象と選定し、これを改善することを目的とした。 中小企業新事業活動促進法とは、中小企業の新たな事業活動の促進を図ることを目的に

施行された法律である。本法の内容は、「創業及び新たに設立された企業の事業活動促進」、

「中小企業の経営革新」、「異分野の中小企業の連携による新事業分野開拓」の大きく 3 つ

に分類される。その中でも我々は、本法の主軸となる二番目の「中小企業の経営革新」に

注目した。この制度は中小企業者が経営革新計画を提出し、承認を受けると低利子融資な

どの様々な支援措置を利用することが可能となるものである。しかしながら、経営革新計

画を提出する際に設定した付加価値額、経常利益の経営目標を達成した企業は 3 割にも満

たず、中小企業の新事業活動を促進させているとは言い難い。 我々は、本法の課題を明らかにするために、平成 27年度の経営革新計画の承認件数が全

国で1番多かった埼玉県の産業支援課実務担当者、埼玉県議会議員、実際に承認された中

小企業数社へのヒアリング調査、中小企業庁への問い合わせを行った。その結果、3つの課

題が見つかった。第一に、経営革新計画が申請されたもの全てが承認されており法律が形

骸化していることである。第二に、経営革新計画が承認をされたにも関わらず支援策を利

用しなかったという調査結果から承認企業にニーズにそぐわない支援策が行われているこ

とである。第三に、承認企業に関する調査や情報開示が十分に行われていないことである。

これらの課題が中小企業の新事業活動の促進を妨げていることが判明した。

ヒアリング調査から以下のような本法の問題点が導かれた。 1.第三者が政策評価を行うことが難しく、改善すべき点が明らかにならないのではないか 2.承認企業が必要としている支援策であるか 3.行政が承認企業を把握しきれていないのではないか 現状では本法の目的が達成されているとは言えず、支援策が十分に機能していない。そ

こで我々は、支援策が有効的に機能しているかを実証的に分析し、先行研究を踏まえたう

えで、以下の問題を分析する。 第一に高い付加価値を達成した企業(産業)は実際に信用保証を利用しているかどうか、

中小企業新事業活動促進法に信用保証の枠を設ける有効性が高いのかどうかを分析する。

中小企業新事業活動促進法では承認企業の付加価値の上昇の目標を年率 3%以上としてい

るが、これを達成する企業は付加価値の高い企業(産業)、または向上した企業と考えられ

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る。しかしこのような企業では中小企業新事業活動促進法の保証付き融資を利用しなくて

も、プロパー融資などにより低いコストで資金調達ができるのではないかと考えられる。

第二に高い付加価値を達成した企業(産業)では、金融機関から借入をしているかを分析す

る。 中小企業新事業活動促進法では承認企業の付加価値の上昇の目標を年率 3%以上としてい

る。そのために信用保証の利用を拡大しているが、付加価値が高い企業(産業)はキャッシュ

フローが潤沢であるので、金融機関からの借入をあまり利用しない可能性がある。この場

合、中小企業新事業活動促進法による信用保証の拡大を通じた企業への金融支援の有効性

は低いと考えられる。 第三に高い付加価値を達成した企業(産業)において、減税の効果がどの程度有効的に働い

ているかを分析する。付加価値が高い企業は、経常利益といった利益水準が高い企業であ

ると考えられる。経常利益が多い企業は保有する現預金が上昇している企業であるため、

必然的に付加価値が高い企業(産業)は現預金を多く保有していると考えられる。現預金が多

いとすでに投資のための資金を保有しているので、減税によりキャッシュフローが増え、

現預金が増えてもその効果が限定されてしまうと考えられる。 全国信用保証協会連合会による「業務要覧」の信用保証における業種別および協会別保

証承諾状況(件数および金額)と法人企業統計の(資本金一億円未満を対象とした)産業別のパ

ネルデータを用い、実証分析を通じて以下の結果が導出された。 第一に、付加価値が高い企業(産業)は信用保証を多く利用しているとは言えない。この

結果から中小企業新事業活動促進法の信用保証の枠を増やすことの有効性が低いと考えら

れる。

第二に、付加価値が高い企業(産業)は金融機関借入依存度が高いとは言えずキャッシュ

フローが潤沢であることから、金融支援は有効的でない。

第三に、付加価値が高い企業(産業)は現預金を多く持っていることが分かった。これに

より、減税によって企業のキャッシュフローを増やしたとしても、そもそも支援企業は投

資制約に直面していないため、あまり大きな効果を見込むことはできない。つまり、減税

による支援策の効果が限定されてしまう可能性が示唆される。 以上の現状分析と実証分析から我々は以下 3 つの政策提言を行う。 1.中小企業新事業活動促進法の施行状況と結果に関する情報の開示 2.中小企業新事業活動促進法の対象をイノベーションを生み出す企業に変更する 3.中小企業新事業活動促進法の支援内容の拡充 我々の問題意識は、現状の中小企業新事業促進法に対するニーズが低いだけではなく、

そもそも政策の対象が適切ではないというものである。市場の失敗を是正するために、イ

ノベーションを生み出す企業に支援対象を変更することは、私的便益と社会的便益の乖離

を是正するものであり、現状の制度よりも社会的に有益であると考えられる。また、イノ

ベーションを生み出す企業に対しては、情報の非対称性の問題より、資金供給が過少にな

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るため、支援の有効性が高まることが予想される。政策の結果、産業全体のイノベーショ

ンが促進され、中小企業単体ではなく経済全体の底上げが期待できるであろう。

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第1章 現状分析

第1節 中小企業の定義 中小企業基本法上の中小企業とは、図表 1-1の通りであり、4 業種に区分されそれぞれの

資本金か従業員のいずれか一方を満たせば中小企業となる。また中小企業のうち小規模企

業者とは、同じく 4 業種に区分され、図表 1-1に示されたそれぞれの従業員を満たせば小

規模企業者となる。

図表 1-1 中小企業の定義

出典:中小企業基本法 第 2 条

第1項 中小企業の重要性 第 3節で詳しく説明するが、中小企業新事業活動促進法は、創業及び新規中小企業の事

業活動の促進、中小企業の経営革新及び異分野連携新事業分野開拓(新連携)の促進等を目的

とし、平成 28 年に改正された中小企業等経営力強化法は中小企業の経営強化を図られてい

る。 また中小企業庁は『2016 年版中小企業白書』において中小企業の収益力を向上させる必

要性を述べており、収益力が高く稼げる企業や潜在的成長可能性の高い企業の実態把握の

ため分析を行った。その背景には、図表 1-2で示した通り日本の企業全体に占める中小企

業の割合が 99.7%であり、中小企業が日本経済において非常に重要な存在であることがあ

げられる。中小企業が現在の労働力人口の減少、企業間の国際的な競争の活発化等の経済

社会情勢の変化に対応し活性化させることで日本の景気回復への最も有効な手段であると

言えよう。

製造業・ その他 卸売業 サービス業 小売業

資本金 3億円以下 1億円以下 5,000万円以下 5,000万円以下

従業員 300人以下 100人以下 100人以下 50人以下

う ち

小規模企業者従業員 20人以下 5人以下 5人以下 5人以下

中小企業

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図表 1-2 平成 26年企業全体に占める中小企業の割合

※1 全規模とは、大企業と中小企業・小規模事業者の合計である。

※2 企業数は、2014 年 7 月時点のものである。

※3 中小企業・小規模事業者の区分には、中小企業基本法以外の中小企業関連法令において中小企業又

は小規模企業として扱われる企業が反映されている。

次に、業況判断 DI による景況感より中小企業の現状を確認する。下記の図表 1-3で示す

通り、大企業の景況感は 2013 年後半から好転の見通しであるが、中小企業及び小規模企業

は「中小企業景況調査」において、2007 年から常に悪化の状況にある。前項で日本の企業

全体に占める中小企業の割合が 99.7%であると述べたように、多くの企業が悪い景況感を

持っていることは根本的な景気回復にいたっていないと言えよう。本法を改善し、中小企

業の創意ある成長発展が経済の活性化へと繋がると考える。

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図表 1-3 企業規模別業況判断DIの推移 8

出典:中小企業庁『平成 28 年版中小企業白書』『第 1 部平成 27 年度の中小企業の動向 第 2 章中小企業の動向』において、中小企業庁・(独)中小企業基盤整備機構「中小企業景況

調査」より中小企業庁作成

※1 景況調査の業況判断 DI は、前期に比べて、業況が「好転」と答えた企業の割合(%)から、「悪化」

と答えた企業の割合(%)を引いたもの。

※2 日銀短観では、大企業とは資本金 10 億円以上の企業、中小企業とは資本金 2 千万円以上 1 億円未

満の企業をいう。

※3 日銀短観の業況判断 DI は、最近の業況について、「良い」と答えた企業の割合(%)から「悪い」と

答えた企業の割合を引いたもの。景況調査の業況判断 DIは、前期に比べて、業況が「好転」と答えた企

業の割合(%)から、「悪化」と答えた企業の割合(%)を引いたもの。

8 中小企業と大企業の景況感を比較するために、比較的規模の大きい企業のみを対象としているという特徴がある日銀

短観と、調査対象の約 8 割が小規模企業であるという特徴がある景況調査の両者を用いる。

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第2項 日本経済における中小企業の位置づけ 中小企業は日本経済において影響力がない、大企業の下請企業、というように考えられ

ている傾向にある。しかし本稿では中小企業を「弱者」として扱うマイナスのイメージで

捉えない。後藤(2013)の調査では、中小企業のネガティブなイメージとして下請、資金面の

弱さが挙げている。しかし、同時にポジティブな中小企業としてイメージとして、日本経

済・地域経済を支える専門性が挙げられた。我々はこのポジティブなイメージに着目し、

中小企業の強みを生かす政策を議論する。 具体的には、中田(2003)では 1999年の中小企業基本法の改正の議論の中で、中小企業を

「イノベーションの担い手」と捉えており、本稿も同様に考える。イノベーションは、小

さな工夫や改善に取り組む中小企業が数多く裾野に広く存在することにより可能となり、

事業活動に対する積極的な取り組みや、さらには企業としての取り組み姿勢を変えること

によって、その中から従来とは異なる、枠にとらわれない企業が創出される。そのような

企業のイノベーションが多様な財・サービスの提供を可能とし、柔軟で機動的な分野構造

を形成することができると考える。よって、中小企業のイノベーションを後押しすること

は日本経済活性化のために重要な意義があると言える。

第2節 中小企業政策 前節にて中小企業が日本経済に与える影響力、またイノベーションの担い手であること

について述べた。しかし中小企業の業況が悪く、経営革新への障壁が存在する状況であっ

ても、常に中小企業政策の社会的な便益が費用を上回ると断言できない。本節では、中小

企業政策の経済学的意義について述べたうえで、どのような場合において中小企業政策が

正当化されるのかを述べる。

第1項 中小企業政策の目的 後藤(2014)では、中小企業政策の有効性について Storey(2003)に基づき「中小企業政策

は、市場の失敗の状況下において正当化される。」(P5)と述べている。また、市場の失敗に

ついて、横倉(1984)は「市場の失敗(市場の不完全性)とは、規模の経済性、人的資源・資

金面での制約、情報市場の不完全性から由来するもの。」(P450)、そして、Mankiw(2003)は

「市場の失敗とは、技術の外部波及(スピルオーバー)などの正の外部性が市場において企

業に直接恩恵がもたらされない状況である。」(P277)と述べている。つまり中小企業政策と

は、企業規模による格差によって発生する市場の失敗(市場の不完全性)を改善することを

目的とした政策でなければならない。つまり、市場の失敗が発生していない状況では、中

小企業政策は経済学的に正当化されず、社会的な政策の費用が便益を上回るとは言えない。

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第2項 市場の失敗 市場の失敗とは、市場が不完全にしか機能しない状況において、社会全体の厚生水準が

最大化されず、厚生損失が発生している経済の状態である。後藤(2014)において、市場の

失敗を発生させる具体的な要因として、不完全競争、生産要素移動の不完全性、情報の不

完全性、外部性、の 4つを挙げているが、本稿では情報の不完全性と外部性に着目する。

(1) 情報の不完全性(情報の非対称性)

中小企業が資金を調達する際、資金提供者は中小企業についてのリスクを完全に把握し

ていないことが多い。また、資金提供後に資金提供者は中小企業の行動を把握することが

困難であるため、期中のモニタリングにコストがかかる。一方、大企業の場合、多くが上

場企業であり、借り手が株価や財務指標を入手することができるため、情報の非対称性の

問題はそこまで深刻ではない。情報の非対称性の問題が存在すると、逆選択やモラルハザ

ードの問題が発生するため、市場の効率性が低下し、市場の失敗が発生する。資金調達面

で資金提供者と中小企業との間で情報の非対称性が大きいと、中小企業の資金調達が困難

となり活動が大きく制約される。

(2) 外部性(技術的外部性)

外部性とは、ある経済主体の活動が他の消費者の効用関数、他の企業の生産関数に対し

て、市場を経由しないで直接に与える影響である。外部性が発生している状況では、社会

的費用と社会的便益とが一致せず、市場において社会的に最適な状態が実現できない。具

体的には中小企業政策において、R&D(研究開発)の支援が外部性対策として該当する。

ある企業が研究開発を行うと、その企業の研究開発によるノウハウが特許権などの公開を

通じて、他の企業にスピルオーバーするので、正の外部性が存在する。ただし、企業はこ

のスピルオーバーによる他の企業への影響を考慮せず、R&Dの水準を決定するため、社

会的に最適な研究開発水準よりも過小になる可能性がある。政策により、中小企業のR&

Dを援助することは、中小企業のR&Dによる私的便益と社会的便益を一致させる効果を

生み出すため、経済厚生を向上させると考えられる。

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第3節 中小企業新事業活動促進法 第1項 中小企業新事業活動促進法の目的と定義 中小企業新事業活動促進法は平成 17 年 4 月 13 日公布、施行された法律である。それ以

前にも中小企業支援に関わる法律はあり、中小企業経営革新支援法、中小企業の創造的事

業活動の促進に関する臨時措置法、新事業創出促進法などこれらの似たような名前の法律

が数多く存在し、支援策もバラバラであったため、利用者である中小企業にとって、わか

りにくく、使い勝手の悪い状況になっていた。 利用者にとって分かりやすい施策体系を実現するために、3 法律を整理統合するとともに、

新たに異分野の中小企業がお互いの「強み」を持ち寄り連携して行う新事業活動「新連携」

の支援を加え、昨今の経済社会環境の変化を踏まえた施策体系の骨太化を図ったものが中

小企業新事業活動促進法である。

1.目的

中小企業新事業活動促進法逐条解説(p1)によれば 「本法は中小企業の創意ある成長発展が経済の活性化に果たす役割の重要性にかんが

み、創業及び新たに設立された企業の事業活動の支援並びに中小企業の経営革新及び

異分野の中小企業の連携による新事業分野開拓の支援を行うとともに、地域における

これらの活動に資する事業環境を整備すること等により、中小企業の新たな事業活動

の促進を図り、もって国民経済の健全な発展に資することを目的とする。」 と記されている。

2.概要 本法の内容は、 1. 創業及び新たに設立された企業の事業活動促進 2. 中小企業の経営革新 3. 異分野の中小企業の連携による新事業分野開拓

の大きく 3 つに分類される。我々が今回注目したのは、2 番目の中小企業の経営革新につい

てである。この経営革新が本法の主軸となるもので、中小企業者が事業環境などの変化に

対応する支援のために作られた制度である。中小企業が自社の現状、課題を見極め、業績

アップにつなげ、経営の向上を図るために、本法は従来の「中小企業経営革新支援法」を

さらに強化して引き継いだものである。 経営革新の支援を受けるためには、中小企業は計画期間が 3 年から 5 年の経営革新計画

を提出し、承認を受ける必要がある。経営革新計画について承認を受けるためには、その

内容が、「新事業活動」を行うことにより、中小企業の「相当程度の経営の向上」を図るも

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のであることが条件となる。 「新事業活動」とは、

1. 新商品の開発又は生産 2. 新役務の開発又は提供 3. 商品の新たな生産又は販売の方式の導入 4. 役務の新たな提供の方式の導入その他の新たな事業活動

の 4 つのことをさす。 「相当程度の経営の向上」とは 2 つの経営指標を判断基準としている。 1 つ目が、中小企業の付加価値額の向上についてである。企業全体の付加価値額(=営業

利益+人件費+減価償却費)又は、従業者 1 人当たりの付加価値額(=付加価値額÷従業者数)のいずれかについて、3 年計画の場合、3 年後の目標伸び率が 9%以上、4 年計画の場合、4年後の目標伸び率が 12%以上、5 年計画の場合、5 年後の目標伸び率が 15%以上の目標を

立てることが必要となる。 2 つ目が、中小企業の経常利益についてである。3 年計画の場合、3 年後の目標伸び率が

3%以上(計画終了年度の利益は黒字)、4 年計画の場合、4 年後の目標伸び率は 4%以上(計画

終了年度の利益は黒字)、5 年計画の場合、5 年後の目標伸び率は 5%以上(計画終了年度の

利益は黒字)の目標を立てることが必要となる。 図表 1-4 経営目標

計画終了時 付加価値額または一人当た

り付加価値額の伸び率 経常利益の伸び率

3 年計画 9% 3% 4 年計画 12% 4% 5 年計画 15% 5%

データ出典:「中小企業新事業活動促進法」より筆者作成

第2項 中小企業新事業活動促進法の政策 経営革新計画を申請した都道府県の知事から承認を受けると、中小企業は計画期間中に、

以下の幅広い支援措置を利用することが可能となる。 1.政府系金融機関による低利融資

2.信用保証の特例

3.税の優遇措置

4.販路開拓の支援措置

5.特許関係料金減免制度

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6.その他支援措置

なお、知事の承認は、各種支援措置を利用するための必要要件であり、中小企業がそれぞ

れの支援措置を受けるには、経営革新計画の承認とは別に支援機関による審査を受ける必

要がある。また、都道府県ごとに支援策が異なる。

第3項 中小企業新事業活動促進法の現状

経営革新の承認件数は図表 1-5のようになっている。ここ数年は 1 年で約 4000 件ずつ増

えており、昨年で累計承認数が 6 万件を超えた。

図表 1-5 経営革新計画承認件数(平成 28 年 3 月末時点)

データ出典:中小企業庁(2016)「経営革新計画承認件数」より筆者作成 図表 1-6は、付加価値額・一人当たり付加価値額・経常利益の目標達成割合を示した表で

ある。中小企業が承認を申請する際に、付加価値額または一人当たり付加価値額のどちら

かが年率 3%以上達成かつ経常利益が年率 1%以上達成する計画を立てているにも関わらず、

この調査によれば計画を達成した企業は 3割にも満たないことがわかる。

4542048948

5222455545

5910663213

0

10000

20000

30000

40000

50000

60000

70000

11~22年 23年 24年 25年 26年 27年

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ISFJ2016 最終論文

16

図表 1-6 付加価値額・一人当たり付加価値額・経常利益の目標達成割合

付加価値額または一人当

たり付加価値額のどちら

かが年率 3%以上達成

経常利益が年率

1%以上達成

付加価値額または一人当たり付加

価値額のどちらかが年率 3%以上達

成かつ経常利益が年率 1%以上達成

回答数 構成比 回答数 構成比 回答数 構成比

目標達成企業 109 50.9% 76 35.5% 57 26.6%

目標未達成企業 105 49.1% 138 64.5% 157 73.4%

合計 214 100.0% 214 100.0% 214 100.0%

データ出典:中小企業庁平成 20 年度経営革新の評価・実態調査報告書より筆者作成

第4節 中小企業新事業活動促進法の課題 前節において中小企業新事業活動促進法の政策として経営革新計画の承認件数が増加し

ているものの、計画を達成した企業は少ないことを示した。このことから、中小企業新事

業活動促進法が、実際に中小企業を活性化させているとは言い難いといえる。

我々は、本法の課題を明らかにするため、平成 27年度経営革新計画承認件数が全国で 1

番多かった埼玉県の産業支援課実務担当者、埼玉県議会議員、実際に承認された中小企業

数社へのヒアリング調査を行った。また、本法の成果などを明らかにするために、中小企

業庁への問い合わせを行った。

図表 1-7は、埼玉県の経営革新計画承認件数の推移である。平成 27年には承認件数が前

年の 3 倍になっているのがわかる。これは、この年から申請の相談、計画の作成、そして

承認までの過程を商工会議所がバックアップを始めたからである。よって、平成 27年度の

経営革新計画承認件数は埼玉県が全国 1位であった。

そこで、我々はヒアリングから、法律の形骸化、支援策の不完全性、不完全な情報公開

の 3つの課題があると考える。

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17

図表 1-7 埼玉県経営革新計画承認件数の推移割合

データ出典:中小企業庁(2016)「経営革新計画承認件数」

第1項 ヒアリング内容

まず、以下にそれぞれに対するヒアリング内容の概略を示す。

〈埼玉県議会議員 杉島理一郎氏、埼玉県産業支援課へのヒアリング内容〉

・この法律の現状として、申請件数のデータはないものの、現在のスキームでは、まず中

小企業が商工会議所へ相談をして、承認に向けた計画づくりを一緒に進めて申請を出す

ため、申請数=承認数となっている。よって、申請を出す前に諦めた企業は潜在的な非

承認となるが、数としてはカウントされないため、実際は承認率が 100%という状況にな

っている。

・申請する企業も、「他の既存事業を組み合わせたものだけ」という計画や、1 人か 2 人し

かいない零細企業のようなところもある。そのためか、行政側も申請する企業の承認件

数を稼いで、行政の取り組みの表向きのアピールをする方向に動いてしまっている。

・今の法律では、埼玉県・静岡県・東京都の 3 つの都県のみ各商工会議所と連携してフォ

ローアップを行っている。そのため、承認件数はこの 3都県がトップ 3となっている。

〈埼玉県で承認された中小企業数社へのヒアリング内容〉

・中小企業 A 社は本法の経営計画の審査に通ったものの、経営革新計画促進融資の融資利

率が、既存取引先金融機関よりも高く設定されていたため優遇措置を受けなかった。本

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ISFJ2016 最終論文

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法の経営革新の支援策の 1 つである低利子融資の利率は、埼玉県では 1.1%で設定されて

いる。しかし A 社の場合、信用力が高く、既に金融機関から 0.8%の利率で融資を受けら

れる状態にあったためである。

下の図は県の支援により軽減される事業者の利子負担額の例である。現状として、県が

金融機関に利子を補助することで、図のようなケースでは事業資金(一般貸付)において約 4

万円、経営あんしん資金において約 7万円、経営革新計画促進融資において約 18万円の事

業者の利子負担額軽減の取り組みが行われている。

図表 1-8 県の支援により軽減される事業者の利子負担額の例

出典:埼玉県「平成 28年度下半期 中小企業制度融資のご案内」より著者作成 ・埼玉県には経営革新計画を促進するために、中小企業が計画作成時に商工会議所や、商

工会がサポートする制度があるが、「サポート制度を利用した事がなく、この取組自体

の存在すら知らず当社の顧問税理士から勧められた。」という中小企業も存在する。ま

た、「商工会議所や商工会等の機関から何らかの会報等で案内があったのかもしれない

が、それら機関がその様な事を行っているという実態も把握していなかった。」との声

もあった。

・現在、埼玉県は「さいたま商工会議所業務本部」を窓口として計画策定後のフォローア

ップ支援により、目標に到達するためのサポートを行っているが、このモニタリングは、

「承認された全企業対象のモニタリングを実行されているのであれば十分なサポートと

言えると思う。しかしサポートを行うにあたり窓口相談を設置しただけは『あとは企

業にお任せ』と言った受け身での対応となってしまうので積極的なヒアリングが必要だ。」

< 融資条件> 金額:1,000 万円 期間:7 年間

7 年総額 約 54 万円

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ISFJ2016 最終論文

19

と感じている中小企業がある。

望んでいる支援策として、利用者側である中小企業から以下のような意見があった。

・承認企業への進捗状況確認や直接ヒアリングを行うべき

・企業側からのアクションを待つのではなく県や商工会議所、商工会などが積極的に状

況を把握し、現況に応じて中間アドバイスをすべき

・県から承認証を企業側に渡すため、承認後の仕組みを確立させ機関が把握に努めるべ

・専門家に頼るのではなく、それぞれの機関が勉強し自ら発信出来る体制づくりを行う

ことが望ましい

・モニタリングと言うより承認後の優遇措置や特典を充実させ、経営革新計画承認企業

の成功例を発信すべき

〈中小企業庁へ電話での問い合わせ内容〉

我々は、埼玉県議会議員へのヒアリングから経営革新計画の申請が簡単に承認されて

いるのではないかと考え、経営革新計画の承認率を調べた。また埼玉県の中小企業への

ヒアリングにおいて、ヒアリング先の中小企業は承認されたにも関わらず支援措置を利

用していなかったことから、他の承認された中小企業がどれだけ支援措置を利用してい

るのか調べた。しかしながら、そのような情報は中小企業庁のホームページでは掲載さ

れていなかったため、電話で中小企業庁へ問合わせを行った。

その結果、

・経営革新計画の承認率や承認企業がどのような支援措置をどれくらい利用している

のかなどのデータを公開することができない。

・最後に承認企業の調査を行ったのが平成 20年度の「経営革新の評価・実態調査報告

書」であり、それ以降は調査を行っていない。

ということが分かった。

第2項 法律の形骸化

本法の目的は、主に中小企業が経営革新を行い、中小企業の新たな事業活動の促進を図

ることである。そのためには、中小企業側から主体的に経営計画を策定し、行政が経営革

新を推進する必要がある。

しかし、埼玉県議会委員 杉島理一郎氏、埼玉県産業支援課への「商工会議所がバック

アップを行うことによって、経営革新計画が申請されたもの全て通っている。また、行政

側も申請する企業の承認件数(ノルマ)を稼いで、行政の取り組みの表向きのアピールをする

方向に動いている。」というヒアリング結果から、申請されたものが全て通っているという

ことは、申請をすれば誰でも承認を受けられる状況にあり、本来承認されるべきでない企

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ISFJ2016 最終論文

20

業が承認され、支援を受けているのではないかと考えられる。そこで我々は、本法が形骸

化しているのではないかと考えた。

第3項 支援策の不完全性

埼玉県で承認された中小企業数社の中で、中小企業 A社の「本法の経営計画の審査に通

ったものの、経営革新計画促進融資の融資利率が、既存取引先金融機関よりも高く設定さ

れていたため優遇措置は受けなかった」というヒアリング結果から、本法の支援策が中小

企業にとって魅力的でないのではないかということが考えられる。下の図表 1-9は貸出約

定平均金利の推移を示している。図表 1-8の県の支援により事業者の利子負担額の例を見

てみると利率は年 1.0%である。(計画期間が 5年超 10年以内の利率は年 1.1%以内とされ

ている。)一方、図表 1-9では近年、貸出約定平均金利が 0.6%~0.8%台で推移しており、

これらを比べてみると、本法の支援策の 1つである低利融資の必要性が乏しいことが分か

る。よって、本法の支援策は多くの中小企業にとって魅力的ではないと考えられる。

図表 1-9 貸出約定平均金利(新規)推移

出典:日本銀行(2016)『金融経済統計月報市場金利』

0.824

0.661

0.891

0.663

0.804

0.938

0.680 0.706 0.660 0.680

0.657 0.657 0.681

0.991 0.954

0.857

0.975 1.038

0.920 0.939

0.867

0.705

0.794

0.695

0.822 0.778

1.1 1.1 1.1 1.1 1.1 1.1 1.1 1.1 1.1 1.1 1.1 1.1 1.1

0.600 0.700

0.800 0.900 1.000

1.100

1.200 短期 長期 埼玉県制度融資

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ISFJ2016 最終論文

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第4項 不完全な情報公開

本法の目的は経営革新の承認を受けさせることではなく、承認企業が支援措置などを用

いて事業活動の促進を図ることである。そのため、中小企業が承認を受けて、実際に事業

活動を促進させることができたのか調査し、どのような支援措置を活用したかなどの情報

を公開する必要がある。しかし中小企業庁への電話での問い合わせ結果から、承認企業に

関する調査や情報開示が十分に行われていないという事実が明らかとなった。 図表 1-5から承認企業数が増えていることはわかるが、実際に支援措置をうまく活用で

きていなければ意味がない。情報公開があまりなされていないために、ヒアリングを行っ

た中小企業 A社は、事前に支援措置についての詳しい情報を知らなかったため承認を受け

たにも関わらず、支援措置を利用しなかったという問題も起きている。また、承認を受け

れば必ず支援措置を活用できるというわけではなく、希望した支援措置を使うことができ

なかった承認企業も存在する。

承認企業がどのような支援措置を用いたのかなどの多くの情報を調査し、公開すること

でこれから申請する中小企業が承認を受けるだけでなく、支援措置を活用し、事業活動が

促進されやすいようにしていくべきである。

また平成 20 年度の「経営革新の評価・実態調査報告書」以降、中小企業庁による承認企

業への大規模な調査は行われていないことから、行政側は承認するだけで、その後の承認

企業の現状を把握しておらず、政策効果や政策の問題点が見えにくく改善しづらい状態に

なっている。

以上のことから承認企業の調査や情報公開が不十分であり、中小企業の事業活動の促進

を妨げていると考えた。

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第2章 問題意識 第 1章で述べた通り、中小企業新事業促進法は「中小企業の新たな事業活動の促進を図

り、もって国民経済の健全な発展に資すること」を目的としている。ただし、本法は新事

業活動の促進により、単一の中小企業の付加価値の向上を目標としており、社会的便益を

向上させるイノベーションの向上を目的としているわけではない。一方、中小企業をイノ

ベーションの担い手として位置づけ日本経済活性化を目指すという考え方は、本稿が考え

ている中小企業の方向性と合致している。

また、第 1章第 4節で述べた、中小企業数社へのヒアリング調査、中小企業庁への問い

合わせで明らかになった課題から、本法が健全に機能してないと考えられる。整理すると

以下 3点である。

1. 行政による承認企業に対して十分な事後的な調査が行われず、政策評価が十分とは

言い難い。また、政策評価に必要な情報が十分に公開されているとはいえない。

2. 「本法の経営計画の審査に通ったものの、経営革新計画促進融資の融資利率が、既

存取引先金融機関よりも高く設定されていたため優遇措置は受けなかった。」とい

う調査結果から、承認企業のニーズにそぐわない施策がなされている。

3. 一部の都道府県において行政のアピールの手段として本法の承認件数が用いられ、

政策支援が必要な企業に対して支援がされているとは言い難い。つまり、法律の機

能が形骸化している。

以上を踏まえて以下 3点の問題意識を持った。

第一に、本法の対象企業が増加し、都道府県庁による承認企業に対するモニタリングや

事後評価が不十分になっているのではないかと考えた。前述したとおり、全国的に承認件

数がさらに伸びている現状を鑑みれば、今後においても行政が 1社 1社の実情を把握しき

れてないのではないか。

第二に、中小企業新事業促進法による支援策が、承認企業のニーズとミスマッチを起こ

しているのではないかと考えた。ヒアリング調査から付加価値が向上している企業は金融

機関から十分なプロパー融資を受けられることが明らかになった。また、減税といった他

の支援策も効果が限定されていると考えられる。そこで我々は、実証分析を用いてこの仮

説を明らかにしようと試み、以下 3点を分析する。

1. 高い付加価値を達成した企業は実際に信用保証を利用しているかどうか、中小企業

新事業活動促進法に信用保証の枠を設ける有効性が高いか

2. 高い付加価値を達成した企業が金融機関からの借入に依存しているかどうか、中小

企業新事業活動促進法の金融支援の有効性が高いか

3. 高い付加価値を達成した企業に減税政策は効果的なのか.中小企業新事業活動促進

法の減税政策の有効性が高いか

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ISFJ2016 最終論文

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第三に、承認企業への調査が不十分であり、本法の情報が少ないことが問題として挙げ

られる。最後に承認企業の調査を行ったのが平成 20年度であることは、政策評価の公開と

いう観点から深刻な問題であるといえる。本法の実態を行政が捉えきれていないのではな

いかという点は、第三者が現状を評価できないという問題につながる。承認された企業の

実情が明らかにならなければ、改善すべき本法の問題点が放置される危険性がある。

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第3章 先行研究及び本稿の位置付け

第1節 中小政策情報の中小企業への認知普及 安田(2014)は、中小企業が中小企業支援施策の認知をどの程度されているか WEB アンケ

ートで調査するとともに、認知度を決定する要因を検証した論文である。近年の中小企業

政策が小規模企業にウェイトを移しつつあることを意識し、このような層がどの程度政策

認知をしているかに焦点をおいて実証的に分析している。

結論から述べると以下 2点のことが分かった。

① 企業規模によって経営資源の格差から施策受入能力にも格差がある。

② 企業規模によって政策への期待感が異なり、施策の認知度が低い。

図表 3-1 主要中小企業政策の認知度(上段%、下段実数、総数 1030)

出典:安田(2014)「中小企業政策情報の中小企業への認知普及-小規模企業を対象にした考

察-」p5より筆者作成

図表 3-1 は安田(2014)から抜粋、筆者作成した、認知度についてのアンケート結果であ

る。本稿のテーマである経営革新に至っては、2割程度の認知である。

次に分析では、中小企業者のうち、どのような者がより円滑に施策情報を把握し、どの

ような者で把握に滞りが出るのかを企業属性から分析した。被説明変数には表 1 で紹介し

た各施策への不認知度を用いている。説明変数にはアンケートで得られたデータから経営

者属性として、性別、年齢(10 代区切り)、経営形態(経営者・役員か、自営業者か)に係る

ダミー変数、従業員規模、企業年齢、収支、そしてコントロール変数としての業種(建設業、

製造業、卸売業、小売業、サービス業他)の各ダミー変数を用いている。

分析の結果、以下 3点が観察できた。

内容を詳しく知っている 内容を大体知っている内容をあまり知らないが、

名前は聞いたことがある

名前を聞いた

ことがない

2.1% 8% 24.8% 65.1%22 82 255 671

1.4% 4.4% 16.4% 77.9%14 45 169 802

1.4% 6.5% 20.7% 71.5%14 67 213 736

1.1% 5.2% 20.3% 72.5%11 54 211 754

1.6% 7.8% 33.3% 56.3%17 81 346 586

6.3% 14.3% 37.8% 40.7%65 149 393 423

1.3% 7.7% 26.8% 63.2%14 80 279 657

セーフティネット保証制度

事業継承支援

経営革新

新連携支援

地域資源活用支援

農商工連携支援

中小企業再生支援協議会

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ISFJ2016 最終論文

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① 自営業者の回答者に比して、経営者・役員の回答者の方が、いくつかの政策で認知

度が高い傾向にあること。

② 支援政策の内容にかかわらず、広く規模間認知度格差が存在すること、つまり、企

業規模が小さいほど、認知度が高い傾向にあること。

③ セーフティネット保証制度のような企業存続に係る金融面の支援策については企業

規模による認知度の差が小さいこと。

これらの結果から、安田(2014)は③の結果に注目した。中小企業のほとんどは金融機

関につながりを持つことから、金融機関が政策利用を含むワンストップサービスの中核

となることを期待した。

第2節 本稿の位置付け 以上の先行研究で経営革新に関する中小企業政策の認知度が低いことが明らかになった。

この結果は、我々のヒアリング調査結果と整合的である。このような状況では中小企業新

事業促進法の目標を達成することできず、政策が有効的に機能していないと考えられる。

先行研究では認知を拡大させることで政策を有効的に機能させるとし、認知度に対して実

証分析を行っている。しかし我々は、そもそも政策の対象企業が適切でないでない、もし

くは効果が限定されているから認知されていないのではないか、という疑問を抱いた。政

策内容が魅力的であるならば、自ずと政策の認知度が拡大されていくと考えられる。そこ

で本稿では、テーマである経営革新の支援策が対象企業に対し有効的に機能しているかを

実証的に分析していく。

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ISFJ2016 最終論文

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第4章 実証分析

第1節 高い付加価値を達成した企業(産業)は信用保証を利用しているか?

第1項 仮説 第 1 章第 3 節第 3 項で述べたように、承認企業の付加価値の上昇の目標を年率 3%以上と

しているが、そもそも高い付加価値を達成した、又は付加価値が向上した企業は信用保証

付き融資を利用する必要がない可能性がある。ヒアリング調査から判明した通り、このよ

うな企業はそもそも信用力が高く、保証付き融資を利用しなくてもプロパー融資などによ

り低いコストで資金調達を行うことができ、投資などを実行できると考えられるからであ

る。この仮説が支持された場合、政策的に信用保証の枠を増やすことは、有効ではないと

考えられる。この仮説を検定するために以下のような分析を行った。

第2項 パネルデータ分析 ・ 使用データの説明 分析に使用したデータは全国信用保証協会連合会による「業務要覧」の信用保証におけ

る業種別および協会別保証承諾状況(件数および金額)と法人企業統計の(資本金一億円未満

を対象とした)産業別のパネルデータである。本項では 2000 年から 2005 年分までのデータ

を用いた。この期間のデータを利用したのは、「業務要覧」の 2006 年以降のデータが公開

されておらず、分析に利用できないためである。

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ISFJ2016 最終論文

27

・ 基本統計量 図表 4-1 基本統計量

各変数の基本統計量は図表 4-1 の通りである。各変数の最大値、最小値の値を見ると、大

きく外れた値は観察されないため、ここでは外れ値の問題は特に重要ではないと思われる。 ・ 推定式 分析する式は下記の通りである。

一件あたり保証承諾件数i,j,t = 𝛼0 + 𝛼1付加価値率j,t + α2𝑋𝑗,𝑡, + µi + 𝜆𝑗 + ϵi,j,t 【1】

i は保証協会、j は産業、t は年を表す添え字である。ϵi,j,tは標準正規分布に従う誤差項で

ある。µiは 52 ある保証協会ごとの固定効果、𝜆𝑗は産業ごとの固定効果を表す。推定には固

定効果モデルを利用し、産業・地域の状況、その他の観察されない固有の効果をコントロ

ールした。ハウスマン検定を行った結果、固定効果モデルを利用して推定を行った。1 件当

たりの保証承諾額は業務要覧に記載されている(保証承諾金額/保証承諾金件数)とする。もし、

付加価値率が高い企業がより多くの保証を利用しているのであれば、𝛼1はプラスであると

予想される。

X に含める説明変数として、法人企業統計より以下の変数を採用する。

現預金比率=(現金預金/総資産合計)

有形固定資産比率=(有形固定資産/総資産)

総資産回転率=(売上高/総資産)

社債比率=(社債/総資産)

借入金利子率=(支払い利息/(金融機関借入金【前期末流動負債】+その他の借入金【前

期末流動負債】+金融機関借入金【前期末固定負債】+その他の借入金【前期末固定

負債】))

その他借入金比率=((その他の借入金【前期末流動負債】+その他の借入金【前期末固

定負債】)/総資産)

として各説明変数とする。今回使用するデータは 2000 年から 2005 年までの 6 年分である

Variable Obs Mean Std.Dev Min Max

1件当たりの保証承諾額 7840 12.309 5.584 0.012 39.821

総資産経常利益率 6758 0.023 0.013 -0.004 0.054d総資産経常利益率 5260 0.000 0.011 -0.028 0.029付加価値率 6758 30.266 14.839 9.500 87.900d付加価値率 5260 -0.495 4.553 -23.400 13.600現預金比率 6758 0.159 0.047 0.035 0.291有形固定資産 6758 0.398 0.136 0.182 0.831総資産回転率 6758 1.108 0.385 0.231 2.141社債比率 6758 0.004 0.004 0.000 0.020借入金利子率 6758 0.023 0.004 0.007 0.049その他借入金比率 6758 0.090 0.067 0.015 0.464

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ISFJ2016 最終論文

28

ため 2001-2002、2002-2003、2003-2004、2004-2005 の増加率を算出した。2006 年以降の

データは業務要覧が発行されていないため、利用できなかった。

図表 4-2 1 件当たりの保証件数を用いたパネルデータ分析の推定結果

列⑴には付加価値率の代理変数として、(経常利益/資産合計)と定義した総資産経常利益率

として採用し、列⑵には総資産経常利益率の前年との差分である d 総資産経常利益率を加

えたものである。列⑶には法人企業統計に記録されている付加価値率を説明変数として使

用し、列⑷には付加価値率の前年との差分である d 付加価値率を加えている。

列⑴⑵⑶⑷のすべての結果において総資産経常利益率(付加価値率)の値が統計的に有意

ではない。よって付加価値の高い企業は信用保証をより多く利用しているとはいえない。

また、コントロール変数である現預金比率や有形固定資産比率の係数はプラスで 1%の水準

で有意にゼロと異なる。無担保保証制度の保証付き融資は、8000 万円が限度であるため、

担保となる資産を多く保有しているほど 1 件当たりの保証承諾金額が大きくなっていると

解釈できる。そのほか説明変数が有意になっており、結果が妥当であることから、この分

析の精度に妥当性があると考えられる。

(1) (2) (3) (4)1件当たりの保証承諾額 1件当たりの保証承諾額 1件当たりの保証承諾額 1件当たりの保証承諾額

総資産経常利益率 -3.45274

(6.14447)d総資産経常利益率 -3.69332

(4.68088)付加価値率 -0.02301

(0.01547)d付加価値率 -0.00951

(0.01243)現預金比率 5.07966*** 0.54067 6.82432*** 1.23428

(1.80353) (2.35713) (2.17789) (2.56257)有形固定資産 5.03152*** 3.43644*** 5.72431*** 3.42208***

(1.08941) (1.21739) (1.19963) (1.21524)総資産回転率 0.83939*** 0.59615 0.63060** 0.37884

(0.30461) (0.38052) (0.30246) (0.39008)社債比率 28.22832* 36.69814** 24.54477 33.61810**

(15.32541) (15.69093) (15.46797) (16.20048)借入金利子率 50.15742*** 48.67837*** 51.83021*** 50.08762***

(13.10722) (14.15653) (13.15882) (14.25884)その他借入金比率 -10.76616*** -12.54738*** -10.55017*** -12.49597***

(1.10756) (1.14897) (1.11320) (1.14471)year==2001 -1.44363*** 0.00000 -1.44238*** -0.50886***

(0.13334) (0.00000) (0.13113) (0.11881)year==2002 -0.93528*** 0.52179*** -0.92904*** 0.00000

(0.13404) (0.12129) (0.13186) (0.00000)year==2003 -0.39809*** 1.03846*** -0.39429*** 0.52183***

(0.14190) (0.12757) (0.14049) (0.12781)year==2004 -0.81310*** 0.65141*** -0.82581*** 0.14224

(0.15499) (0.14252) (0.15521) (0.14346)Prefecture Fixed Effects YES YES YES YESIndustry Fixed Effects YES YES YES YES

Observations 6,758 5,260 6,758 5,260

R-squared 0.07 0.07 0.07 0.07Standard errors in parentheses* significant at 10%; ** significant at 5%; *** significant at 1%

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ISFJ2016 最終論文

29

第2節 高い付加価値を達成した企業(産業)は、

金融機関から借入をしているか? 第1項 仮説 本法では、承認企業の付加価値の上昇の目標を年率 3%以上としており、そのために信用

保証の利用を拡大しているが、そもそも高い付加価値を達成した企業(産業)はキャッシュフ

ローがより潤沢であるので、金融機関からの借入をあまり利用しない可能性がある。もし、

このような企業が金融機関からの借入金に依存していなければ、中小企業新事業活動促進

法による信用保証の拡大を通じた企業への金融支援の有効性は低いと考えられる。

第2項 パネルデータ分析 ・ 使用データの説明 本分析に使用したデータは法人企業統計の(資本金一億円未満を対象とした)産業及び企

業規模 3 区分(1 千万円未満、1 千万円以上-5 千万円未満、5 千万円以上 - 1 億円未満)別の

パネルデータである。分析期間は本項では精度を高めるため、バブル崩壊後の 1991 年から

2015 年分までのデータを用いた。 ・ 基本統計量

図表 4-3 基本統計量

各変数の基本統計量は図表 4-1 の通りである。各変数の最大値、最小値の値を見ると、大

きく外れた値は観察されないため、ここでは外れ値の問題は特に重要ではないと思われる。

Variable Obs Mean Std.Dev Min Max

金融機関借入金依存度 3002 0.377 0.146 0.000 1.124

総資産経常利益率 3002 0.022 0.031 -0.359 0.282d総資産経常利益率 2843 0.000 0.036 -0.310 0.386付加価値率 3002 30.311 13.386 -16.500 266.500d付加価値率 2843 -0.114 10.519 -223.700 213.300借入金利子率 3001 0.038 0.030 0.000 0.376その他借入金比率 3002 0.125 0.125 0.000 1.966社債比率 3002 0.005 0.011 0.000 0.229総資産回転率 3002 1.210 0.542 0.014 4.711有形固定資産 3002 0.389 0.142 0.003 0.930現預金比率 3002 0.173 0.069 0.006 0.542流動比率 3002 0.499 0.146 0.039 0.897

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ISFJ2016 最終論文

30

・ 推定式 上記の仮説を検証するために、以下の式を推定する。

金融機関依存度j,k,t = 𝛽0 + 𝛽1付加価値率j,k,t + 𝛽2𝑋𝑗,𝑘,𝑡, + µj + 𝜆𝑘 + ϵj,k,t 【2】

j は産業、k は企業規模区分、t は年を表す添え字である。ϵi,j,tは標準正規分布に従う誤差項

である。µjは産業ごとの固定効果、𝜆𝑘は企業規模区分ごとの固定効果を表す。この分析にも

推定には固定効果モデルを利用し、産業・地域の状況、その他の観察されない固有の効果

をコントロールした。ハウスマン検定を行った結果、固定効果モデルを利用して推定を行

った。 金融機関借入金依存度は(金融機関借入金/当期総資産)として定義した。X に含める説明変

数として、法人企業統計より以下の変数を採用した。

現預金比率=(現金預金/総資産合計)

有形固定資産比率=(有形固定資産/総資産)

総資産回転率=(売上高/総資産)

社債比率=(社債/総資産)

借入金利子率=(支払い利息/(金融機関借入金【前期末流動負債】引当金+その他の借入

金【前期末流動負債】+金融機関借入金【前期末固定負債】+その他の借入金【前期

末固定負債】))

その他借入金比率=((その他の借入金【前期末流動負債】+その他の借入金【前期末固

定負債】)/総資産)

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ISFJ2016 最終論文

31

図表 4-4 金融機関借入依存度を用いたパネルデータ分析の推定結果

(1) (2) (3) (4)金融機関借入金依存度 金融機関借入金依存度 金融機関借入金依存度 金融機関借入金依存度

総資産経常利益率 -0.62443***

(0.06457)d総資産経常利益率 -0.22272***

(0.05004)付加価値率 -0.00084***

(0.00022)d付加価値率 -0.00015

(0.00017)借入金利子率 0.41510*** 0.50739*** 0.41083*** 0.49625***

(0.11146) (0.12244) (0.11305) (0.12288)その他借入金比率 -0.24178*** -0.22679*** -0.21501*** -0.21906***

(0.01889) (0.01985) (0.01903) (0.01984)社債比率 -0.46000** -0.44834** -0.41045** -0.42496**

(0.18598) (0.19115) (0.18844) (0.19180)総資産回転率 -0.00999* -0.01351** -0.02227*** -0.01710***

(0.00535) (0.00556) (0.00542) (0.00558)有形固定資産 0.33076*** 0.34375*** 0.33396*** 0.34329***

(0.02245) (0.02332) (0.02277) (0.02340)year==1992 0.01810 0.01214 0.02177* -0.00989

(0.01253) (0.01513) (0.01269) (0.01517)year==1993 0.02224* 0.02475* 0.03109** 0.00254

(0.01307) (0.01408) (0.01321) (0.01411)year==1994 0.04488*** 0.05030*** 0.05528*** 0.02657**

(0.01365) (0.01346) (0.01379) (0.01351)year==1995 0.03928*** 0.04442*** 0.04753*** 0.01940

(0.01423) (0.01310) (0.01439) (0.01315)year==1996 0.03682** 0.04015*** 0.04260*** 0.01492

(0.01492) (0.01290) (0.01511) (0.01294)year==1997 0.02554* 0.02726** 0.03083** 0.00195

(0.01518) (0.01282) (0.01539) (0.01288)year==1998 0.02811* 0.03342*** 0.03939** 0.01086

(0.01530) (0.01281) (0.01547) (0.01284)year==1999 0.02791* 0.03598*** 0.03811** 0.01047

(0.01545) (0.01279) (0.01562) (0.01283)year==2000 0.00693 0.01050 0.00920 -0.01758

(0.01561) (0.01279) (0.01582) (0.01282)year==2001 0.01895 0.02329* 0.02570 0.00000

(0.01593) (0.01304) (0.01613) (0.00000)year==2002 -0.00486 0.00000 0.00192 -0.02541*

(0.01573) (0.00000) (0.01593) (0.01308)year==2003 -0.01500 -0.01133 -0.01424 -0.03873***

(0.01599) (0.01280) (0.01622) (0.01284)year==2004 -0.03680** -0.03255** -0.03912** -0.05911***

(0.01576) (0.01283) (0.01599) (0.01287)year==2005 -0.05239*** -0.05455*** -0.05452*** -0.07996***

(0.01579) (0.01241) (0.01601) (0.01245)year==2006 -0.04026** -0.04312*** -0.04364*** -0.06876***

(0.01570) (0.01244) (0.01593) (0.01249)year==2007 -0.04122*** -0.04363*** -0.04413*** -0.06857***

(0.01587) (0.01246) (0.01610) (0.01251)year==2008 -0.04428*** -0.04203*** -0.04179*** -0.06522***

(0.01596) (0.01252) (0.01619) (0.01257)year==2009 -0.04851*** -0.04081*** -0.03870** -0.06436***

(0.01593) (0.01278) (0.01611) (0.01284)year==2010 -0.04640*** -0.03942*** -0.04474*** -0.06858***

(0.01612) (0.01249) (0.01634) (0.01253)year==2011 -0.05372*** -0.05312*** -0.05658*** -0.08048***

(0.01601) (0.01245) (0.01624) (0.01250)year==2012 -0.05127*** -0.05240*** -0.05543*** -0.07876***

(0.01613) (0.01245) (0.01636) (0.01251)year==2013 -0.04869*** -0.05009*** -0.05287*** -0.07592***

(0.01627) (0.01251) (0.01651) (0.01258)year==2014 -0.05012*** -0.05169*** -0.05608*** -0.07785***

(0.01639) (0.01251) (0.01664) (0.01257)year==2015 -0.04339*** -0.04625*** -0.05167*** -0.07289***

(0.01647) (0.01252) (0.01673) (0.01259)Prefecture Fixed Effects YES YES YES YESFirm Size Fixed Effects YES YES YES YES

Observations 3001 2842 3001 2842

R-squared 0.34 0.33 0.32 0.32Standard errors in parentheses* significant at 10%; ** significant at 5%; *** significant at 1%

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ISFJ2016 最終論文

32

列⑴⑵⑶において経常利益率、d 経常利益率、付加価値率で測った付加価値の係数がマイ

ナスであり、統計的に 1%水準で有意である。これは付加価値が高い企業(産業)ほど金融機

関借入金依存度が低くなっているということである。また、列(4)において、d 付加価値率

の係数は有意にゼロと異ならない。よって付加価値が高い企業(産業)は金融機関借入金依存

度が高いといえない。この結果は付加価値が高い企業(産業)ほど、キャッシュフローが潤沢

であり、金融機関からの借入金が低いという仮説と整合的であり、付加価値が高いもしく

は向上している中小企業における金融支援はあまり有効とは言えないといえる。

第3節 高い付加価値を達成した企業(産業)においては、減税の効果が限定されるか?

第1項 仮説 前述したとおり、本法で定義されている付加価値が高い企業は、経常利益といった利益

水準が高い企業である。多くの場合、経常利益が多い企業は保有する現預金が上昇してい

る企業であるため、必然的に高い付加価値を達成した企業(産業)は現預金を多く保有してい

ると考えられる。現預金が多いとすでに投資のための資金を保有しているので、減税によ

りキャッシュフローが増え、現預金が増えてもその効果が限定されてしまうのではないか。

つまり、付加価値の高い企業(産業)はすでに現預金をより多く保有しているので、中小企業

新事業活動促進法の減税政策の有効性が低いと言えるのではないか。

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ISFJ2016 最終論文

33

第2項 パネルデータ分析 ・ 使用データの説明 第 2 節と同様のものを用いた。 ・ 基本統計量

図表 4-5 基本統計量

各変数の基本統計量は図表 4-1 の通りである。各変数の最大値、最小値の値を見ると、大

きく外れた値は観察されないため、ここでは外れ値の問題は特に重要ではないと思われる。 ・ 推定式 分析する式は下記の通りである。

現預金総資産比率j,k,t = 𝛽0 + 𝛽1付加価値率j,k,t + 𝛽2𝑋𝑗,𝑘,𝑡, + µj + 𝜆𝑘 + ϵj,k,t 【3】

j は産業、k は企業規模区分、t は年を表す添え字である。ϵi,j,tは標準正規分布に従う誤差項

である。µjは産業ごとの固定効果、𝜆𝑘は企業規模区分ごとの固定効果を表す。この分析にも

推定には固定効果モデルを利用し、産業・地域の状況、その他の観察されない固有の効果

をコントロールした。ハウスマン検定を行った結果、固定効果モデルを利用して推定を行

った。 現預金総資産比率は(現金預金/総資産)として定義した。X に含める説明変数として、法人

企業統計より以下の変数を採用した。

有形固定資産比率=(有形固定資産/総資産)

総資産回転率=(売上高/総資産)

流動比率=(流動資産/総資産)

Variable Obs Mean Std. Dev Min Max

現預金総資産比率 6758 12.637 5.568 0.012 39.821

総資産経常利益率 6758 0.023 0.013 -0.004 0.054d総資産経常利益率 5260 0.000 0.011 -0.028 0.029付加価値率 6758 30.266 14.839 9.500 87.900d付加価値率 5260 -0.495 4.553 -23.400 13.600現預金比率 6758 0.159 0.047 0.035 0.291有形固定資産 6758 0.398 0.136 0.182 0.831総資産回転率 6758 1.108 0.385 0.231 2.141社債比率 6758 0.004 0.004 0.000 0.020借入金利子率 6758 0.023 0.004 0.007 0.049その他借入金比率 6758 0.090 0.067 0.015 0.464

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ISFJ2016 最終論文

34

図表 4-6 現預金総資産比率を用いたパネルデータ分析の推定結果

(1) (2) (3) (4)現預金総資産比率 現預金総資産比率 現預金総資産比率 現預金総資産比率

総資産経常利益率 0.09867***

(0.02931)d総資産経常利益率 0.02485

(0.02215)付加価値率 0.00065***

(0.00010)d付加価値率 0.00020***

(0.00007)総資産回転率 0.00121 0.00339 0.00528** 0.00459*

(0.00253) (0.00258) (0.00251) (0.00258)有形固定資産 -0.00851 -0.00978 -0.01126 -0.01118

(0.01524) (0.01561) (0.01514) (0.01558)流動比率 0.29617*** 0.29185*** 0.29600*** 0.28960***

(0.01576) (0.01621) (0.01566) (0.01619)year==1992 -0.00148 -0.01622*** -0.00206 -0.01655***

(0.00563) (0.00576) (0.00560) (0.00576)year==1993 -0.00227 -0.01709*** -0.00381 -0.01734***

(0.00564) (0.00576) (0.00559) (0.00575)year==1994 0.00120 -0.01483*** -0.00019 -0.01480***

(0.00567) (0.00573) (0.00561) (0.00572)year==1995 -0.00232 -0.01809*** -0.00393 -0.01806***

(0.00566) (0.00575) (0.00561) (0.00574)year==1996 -0.00723 -0.02275*** -0.00866 -0.02268***

(0.00565) (0.00575) (0.00561) (0.00574)year==1997 -0.00563 -0.02079*** -0.00812 -0.02116***

(0.00566) (0.00575) (0.00563) (0.00574)year==1998 0.00219 -0.01351** -0.00114 -0.01374**

(0.00569) (0.00575) (0.00564) (0.00573)year==1999 -0.00003 -0.01618*** -0.00249 -0.01584***

(0.00571) (0.00574) (0.00565) (0.00574)year==2000 0.01016* -0.00503 0.00907 -0.00460

(0.00566) (0.00575) (0.00563) (0.00573)year==2001 0.00901 -0.00649 0.00782 -0.00648

(0.00581) (0.00586) (0.00576) (0.00585)year==2002 0.01568*** 0.00000 0.01425** 0.00000

(0.00568) (0.00000) (0.00563) (0.00000)year==2003 0.00618 -0.00895 0.00647 -0.00840

(0.00569) (0.00574) (0.00565) (0.00574)year==2004 0.00804 -0.00709 0.00838 -0.00707

(0.00546) (0.00575) (0.00543) (0.00574)year==2005 0.00863 -0.00580 0.00881 -0.00590

(0.00545) (0.00556) (0.00542) (0.00555)year==2006 0.01181** -0.00249 0.01266** -0.00242

(0.00545) (0.00556) (0.00542) (0.00555)year==2007 0.01151** -0.00271 0.01252** -0.00274

(0.00543) (0.00555) (0.00540) (0.00555)year==2008 0.01503*** -0.00001 0.01557*** -0.00016

(0.00546) (0.00556) (0.00542) (0.00554)year==2009 0.02548*** 0.00694 0.02460*** 0.00673

(0.00549) (0.00570) (0.00542) (0.00569)year==2010 0.03081*** 0.01603*** 0.03033*** 0.01615***

(0.00545) (0.00555) (0.00541) (0.00554)year==2011 0.02785*** 0.01394** 0.02822*** 0.01420**

(0.00545) (0.00554) (0.00542) (0.00554)year==2012 0.02852*** 0.01499*** 0.02939*** 0.01519***

(0.00545) (0.00555) (0.00542) (0.00555)year==2013 0.03370*** 0.02020*** 0.03471*** 0.02033***

(0.00544) (0.00555) (0.00540) (0.00555)year==2014 0.03288*** 0.01940*** 0.03486*** 0.01974***

(0.00544) (0.00555) (0.00542) (0.00555)year==2015 0.03481*** 0.02177*** 0.03729*** 0.02195***

(0.00546) (0.00556) (0.00544) (0.00555)Prefecture Fixed Effects YES YES YES YESFirm Size Fixed Effects YES YES YES YES

Observations 3002 2843 3002 2843

R-squared 0.32 0.32 0.32 0.32Standard errors in parentheses* significant at 10%; ** significant at 5%; *** significant at 1%

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ISFJ2016 最終論文

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列⑴⑶⑷において、付加価値率の係数がプラスであり、統計的に 1%水準で有意である。 これは付加価値率が高くなるほど現預金総資産比率も高くなっているということである。

つまり、付加価値が高い企業(産業)は現預金をより多く持っているということであり、投資

への制約に直面していないといえる。減税により企業のキャッシュフローを増やしたとし

ても、そもそも支援企業は投資制約に直面していないため、あまり大きな効果を見込むこ

とはできない。つまり、減税による支援策の効果が限定されてしまう可能性が示唆される。

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ISFJ2016 最終論文

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第5章 政策提言

第1節 中小企業のデータ開示 第 1 章で述べた通り、現状の中小企業新事業活動促進法に関する情報公開が不十分で

ある、という点が問題である。これは、我々が全国及び都道府県別の承認率等の詳細な

データを中小企業庁に問い合わせたところ、単純なデータでさえ公開していなかったと

いうことから情報公開を促進すべき、という提言を行う。具体的には、経営革新計画書

の承認率や、承認企業がどのような支援措置をどれくらい利用しているのかなどの中小

企業のデータを公開するべきと考える。このように中小企業庁が幅広い情報を公開する

ことで、第三者による政策の評価の促進を図ることが可能となり、より良い政策を実施

することができる。

第2節 イノベーションを促す新しい中小企

業新事業活動促進法の提案

第1項 政策の課題

第 4章における実証分析より、3つの分析結果が提示され、そこから以下の 3つが明らか

になった。

・第1節の結果から付加価値の高い企業(産業)は信用保証を多く利用しているとは言えな

い。

・第 2 節の分析結果から付加価値の高い企業(産業)は金融機関借入依存度が高いとは言え

ずキャッシュフローが潤沢であることから、金融支援があまり有効でないと言える。

・第 3 節の分析結果から付加価値の高い企業(産業)は現預金を多く持っていることが分か

った。これにより、減税によって企業のキャッシュフローを増やしたとしても、そもそ

も支援企業は投資制約に直面していないため、あまり大きな効果を見込むことはできな

い。つまり、減税による支援策の効果が限定されてしまう可能性があることが示

唆される。 以上の分析結果、中小企業政策に対する経済学的な正当性、ヒアリング結果を踏まえ、

3つの政策課題が挙げられる。

第一に、現状の中小企業新事業活動促進法は中小企業の私的便益の向上を目的としてお

り、市場の失敗に伴うものではない。そのため、政策のターゲットはイノベーションを生

み出すことにより社会的便益を発生する企業に重点的に置くべきである。

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ISFJ2016 最終論文

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第二に、現状の中小企業新事業活動促進法では、中小企業の付加価値の向上を目標とし

ており、付加価値向上企業に対して信用保証枠の拡大や減税などの措置が講じられている。

しかし、インタビュー調査や実証分析結果から、付加価値が向上している企業は金融機関

から有利な借り入れを行えるため、信用保証へのニーズが小さい。また、十分な現預金を

保有しているため、減税によりキャッシュフローを増やしたとしても、現預金増加による

効果は小さいと言える。

第三に、中小企業数社へのヒアリング結果から「モニタリングと言うより承認後の優遇

措置や特典を充実させ、経営革新計画承認企業の成功例を発信すべき」という意見が得ら

れた。現状では、中小企業新事業活動促進法のターゲットは非常に大きいため、行政が支

援を受けた中小企業が目標を達成しているかどうかをモニタリングするのが困難であるだ

ろう。

これらの政策課題を踏まえて、我々は次のように考える。

第一の問題を解決するために、政策の目的を中小企業の新事業を促進し付加価値を高め

るためではなく、中小企業のイノベーションによるスピルオーバーを促進することとすべ

きである。政策のターゲットを、中小企業の付加価値を向上させうる企業、ではなく、イ

ノベーションを生み出し社会的な便益を生み出す中小企業とすべきである。

第二の問題を解決するために、政策の必要性が小さい付加価値が向上した企業ではなく、

研究開発投資といったイノベーションを行っている企業を対象とし、情報の非対称性の問

題により資金制約に直面し、政策サポートのニーズに限定すべきである。

第三の問題を解決するために、政策のターゲットをイノベーションを生み出す、また、

スピルオーバー効果が期待できる中小企業に限定し、支援対象を狭めるべきである。対象

を限定することで今まで課題であった対象企業数が減少するため、重点的な対象企業への

モニタリングや政策評価が可能となる。そのため、行政のモニタリングを重点的に行うべ

きである。

これらの問題を解決するために、我々は特許制度を活用しながら、中小企業のイノベー

ションを促進すべきであると考えた。次節以降では、特許政策の概要を述べた上で、具体

的な政策を提言する。

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ISFJ2016 最終論文

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第2項 現状の特許制度 (1) 特許出願から登録までの流れ 現行の特許制度における、出願から登録までの流れはおおよそ図表 5-1のとおりである。

図表 5-1 現在の特許制度の出願から登録までの流れ

出典:特許庁 HP「特許を取るには?」より筆者作成 ①出願人、発明の内容を記載した「明細書」や出願人及び発明者の氏名や住所などを記載

した「特許願」などの出願書類を特許庁に提出する。 ②特許庁は、出願から 1 年 6 か月を経過すると、出願書類を公開する。 ③出願人は、出願から 3 年以内に審査請求を行う必要がある。 ④特許庁の審査官は、審査請求があった出願について審査する。 ⑤審査に通れば出願人は、特許査定後に所定の特許料を納付する。そして、特許権が設定

登録される。特許権の設定登録が行われれば、特許公報が発行される。

(2)特許出願から登録にかかる費用・期間 図表 5-2 の他の権利と比べると、特許費用は高く、出願料や審査請求額、審判関係手数

料など出願から登録まで約 15 万円費用がかかることが分かる。さらに特許出願を弁理士に

依頼する場合もあり、多額の費用がかかる。また、権限を存続させていくのにも 1 年ごと

に維持費がかかり、出願から最長 20 年間権限の存続が可能である。 出願から登録までにかかる期間は約 1 年半から 2 年半程度である。

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図表 5-2 権利の違い 特許 実用新案 意匠 商標 保護対象 物、方法、物

を生産する方

法の発明

物品の形状、

構造に関する

考案

物品のデザイ

ン 商品、サービス

のマーク、名前

審査 ある なし ある ある 権利の続く期間 出願から最長

20年 出願から最長 10年

登録から最長 20年

登録から10年

更新が可能 費用 出願から登録

まで(3年分まで) 約15万円 約2万円 約4万円 約5万円 (登録

10年分まで) 出典:特許庁(2016)「平成 24 年 4 月現在の特許関係料金」より筆者作成 (3)特許庁で行われている中小企業支援

現在、特許庁で行われている中小企業支援として主に次の 3 つがある。1 つ目は早期審査・

早期審理である。これは資本力の乏しい中小・ベンチャー企業等の市場での競争力をいち

早く確保すべく、中小企業等の特許出願は、早期に審査・審理を行うというものである。

流れとしては、早期審査に関する事情説明書を提出し、対象となれば速やかに審査が開始

されるというものである。2 つ目は特許料の減免制度である。この制度によって、審査料や

特許料などが 3 分の 1 程度減免される。3 つ目は知財総合支援窓口の設置である。全国に無

料で専門家に相談できる窓口が設置されている。 (4)中小企業新事業活動促進法で行われている特許支援

経営革新計画承認企業の支援措置として特許関係料金減免制度がある。承認された経営

革新計画のうち技術開発に伴う研究開発事業の成果に係る特許申請等を行う中小企業者を

対象とした制度である。「審査請求料(又は特許料)軽減申請書」と「添付書類(経営革新計画

承認証等)」を経済産業局に提出し承認されると、審査請求料と特許料(第 1 年から 3 年分ま

で)が半額に軽減される。 (5)中小企業の特許出願割合 先に述べたような特許支援が行われてはいるが、図表 5-3 からわかるように、中小企業の特

許出願割合はわずか 14%である。年々中小企業の出願数は増加してはいるが、日本の企業

全体に占める中小企業の割合が 99.7%であることからすると、中小企業の出願割合は低い

と言える。

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図表 5-3 2015 年度特許出願件数に占める中小企業の割合

データ出典:特許庁「2016 年版特許行政年次報告書」

第3項 新しい中小企業新事業活動促進法の概要

我々は正の外部性により社会的便益を発生させている中小企業に対して重点的な支援が

必要だと考えた。そこで、我々が考える中小企業のイノベーションを促す新しい中小企業

新事業活動促進法として、経営革新計画終了までの支援は従来の政府系金融機関による低

利融資、信用保証の特例、税の優遇措置、販路開拓の支援措置、特許関係料金減免制度な

どのままとし、計画終了時からの支援の仕組みを従来のものに加え、以下に示す。

3-1:支援企業の対象

現状の中小企業新事業活動促進法は、中小企業者が事業環境などの変化に対応するため

の支援を行っており、非常に広範な中小企業が支援企業の対象となる。本稿では、支援内

容の拡充のために支援対象を狭め、研究開発などを行いイノベーションの創出が期待でき

る企業に限定する。その理由として、新しい中小企業新事業活動促進法では、市場におい

て企業による技術の外部波及による社会的便益と研究開発費などの私的便益が一致してい

ないことを改善することを目的としており、本法に経済学的意義を持たせるためである。

具体的には、経営革新計画において技術革新を生み出し特許制度での公開を通じて技術の

外部波及によるイノベーションによって社会的な便益を生み出すことが期待できる中小企

業に支援を行う。また中小企業のイノベーションを生み出す姿勢が高まることを狙いとす

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る。対象企業をイノベーションを生み出し特許権の取得が期待できる企業に限定すると、

そもそも特許権の取得が困難な産業が対象から外れ、公平性の問題が生じる恐れがある。

ただし、図表 5-4のように様々な産業において特許出願されており特定の産業に支援企業

が偏ることはないと考えられる。

図表 5-4 中小企業の業種別出願比率

出典:特許庁「平成 26 年中小企業の知財出願状況」

3-2:支援内容

従来の中小企業新事業活動促進法の支援内容は政府系金融機関による低利融資、信用保

証の特例、税の優遇措置、販路開拓の支援措置、特許関係料金減免制度などがある。しか

し、第 4 章の実証分析の結果、従来の中小企業新事業活動促進法の支援内容は付加価値が

高い企業(産業)において有効性が低いということが明らかになった。新しい中小企業新事

業活動促進法で対象を従来の経営革新計画において、イノベーションを生み出す企業にす

ることで、従来の支援措置が意味のあるものとなる。それはR&Dは収益などの結果が出

るまでに時間がかかるためである

さらに、従来のものに加えて特許取得に関する支援を行うこととする。まず、現在の特

許制度を見ると、中小企業向けに特許料の減免制度はあるものの、特許出願から登録まで

にかかる費用は中小企業にとって負担になると言えよう。そのため、イノベーションを発

生させ、社会的便益を生み出した中小企業が大きな私的費用を負担している。そこで、我々

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は本法で承認された企業に対する特許出願の支援として、出願から登録までにかかる費用

を国が負担する仕組みを提案する。ただし、単純に出願前に補助金を供与すると、企業が

特許を出願せずに補助金のみを受け取ることや、出願取り下げや放棄を行う、といった問

題が生じることから、出願時には中小企業に対して出願料を貸与という名目で援助する。

特許権を取得した企業に対して、この債権を政府は放棄し、実質的に補助金と同じ効果を

持たせることとする。もし、当初の計画通り、中小企業が特許を出願し特許権を得ていな

ければ、受けた資金を中小企業は後に返済する義務が発生する。このような仕組みを作る

ことで、中小企業が特許権取得に向けて努力するインセンティブが生まれ、実効性が高ま

ると考えられる。 また、特許を登録した企業に対して、法人税減税や政府からの認証を得ることができる

ものとする。この認証を得ることで企業は知名度や広告効果も得ることができる。よって、

企業の信用や名誉も上昇することが期待できる。

そして、イノベーションを生み出す中小企業は、R&D投資に対する融資には、借り手

と金融機関の間に情報の非対称性が存在するので、金融機関からの資金供給過少になる。

従来通りの信用保証や政策融資は情報の非対称性の問題を緩和するため、これらの支援を

行うことにより中小企業がR&Dを通じたイノベーションの実現を促すことが出来る。つ

まり、従来の政策的な融資が対象をイノベーションを生み出す企業に変更することで、有

効になると言える。

3-3:支援の流れ

まず、商工会議所が経営革新計画書の相談・申請時にこの仕組みがあることを中小企業

に説明する。そして、本法に承認され、計画が終了した中小企業が、新事業で培ったもの

のみを対象として特許出願を行うとした時、特許出願から登録までにかかる費用を国が貸

し出す。 無事特許権を取得した企業に対しては、法人税減税と政府のお墨付きによる広告効果ま

た名誉の 2 つの支援を受けることができる。ただし、支援が受けられるのは特許権が適用

されている期間のみとする。

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図表 5-5 イノベーションを促す新しい中小企業新事業活動促進法の仕組み

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ISFJ2016 最終論文

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第3節 政策提言と本稿のまとめ 本稿では、法律の形骸化、支援策の不完全性、不完全な情報公開を問題視してきた。 これらの問題を解決するため、我々は以下の政策を提言した。 1. 中小企業新事業活動促進法の対象をイノベーションを生み出す企業に変更する 2. 中小企業新事業活動促進法の支援内容の拡充 3. 中小企業新事業活動促進法の施行状況と結果に関する情報の開示

以上 3 つの提言により、中小企業のイノベーションを促進することが可能であり、それ

により、本法の目的である国民経済の健全な発展に資することが期待できる。図表 5-6 は、

第 4 章での実証分析の結果、問題点、本章での政策提言を対応させたものである。

表 5-6 問題点および政策提言のまとめ 従来の中小企業新事業活動促進法 新しい中小企業新事業活動促進法 支援対象 事業内容や経営目標を盛り込んだ

経営革新計画を作成し、中小企業新

事業活動促進法に基づいて都道府

県の承認を受けた企業

従来の経営革新計画において、イノ

ベーションを生み出す企業

支援内容 ・政府系金融機関による低利融資

・信用保証の特例

・税の優遇措置

・販路開拓の支援措置

・特許関係料金減免制度 等

・政府系金融機関による低利融資

・信用保証の特例

・税の優遇措置

・販路開拓の支援措置 等

に加えて、

特許取得に関する支援

・国による出願から登録までにかか

る費用の貸与型補助金 ・特許公開により社会的便益を向上

させた企業に対して法人税の減税

処置と政府からの認証 有効性 第4章の実証分析の結果、従来の支援

内容は付加価値が高い企業(産業)にお

いて有効性が低いということが明らか

になった。

イノベーションを生み出す企業を

支援対象とし支援内容の拡充によ

り中小企業の特許出願へのインセ

ンティブが高まり、社会的便益の向

上につながる。よって、本法が経済

学的に高い有効性が見込まれる。

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ISFJ2016 最終論文

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透明性 ・経営革新計画書の承認率や承認企業

がどのような支援措置をどれくらい利

用しているのかなどのデータは公開し

ていない。

・最後に承認企業の調査を行ったのが

平成 20 年度の「経営革新の評価・実態

調査報告書」であり、それ以降は調査

を行っていない。

・経営革新計画書の承認率や、承認

企業がどのような支援措置をどれ

くらい利用しているのかなどの中

小企業のデータの公開を行う。

・中小企業庁が幅広い情報を公開す

ることにより、第三者からの政策の

評価の促進を図ることが可能とな

り、より良い政策の実施が期待でき

る。 しかしながら、産業によって特許権取得における格差が生じることが予測されるため、

支援内容の定期的な見直しが必要と考える。よって、上記の提言の実行後においても、中

小企業庁が開示したデータを用いて中小企業のニーズに答える支援内容を模索し続けるこ

とが、中小企業新事業活動促進法が中小企業のイノベーションを促進する法律として機能

する最適な方法だと考える。本法が我々の思惑通り機能することによって、中小企業が自

主的にイノベーションを生み出し、産業全体が活性化することで日本経済の更なる発展に

寄与することを願って止まない。

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ISFJ2016 最終論文

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先行研究・参考文献・データ出典 先行研究

・ 安田武彦(2014)「中小企業政策情報の中小企業への認知普及-小規模企業を対象

にした考察-」

参考文献

・ 後藤康雄 (2014)『中小企業のマクロ・パフォーマンス』日本経済新聞社

・ 埼玉県(2016)『中小企業制度融資のご案内』

(https://www.pref.saitama.lg.jp/a0805/seidoyushi/documents/rishihokyu2810.pdf)

・ 中小企業庁経営支援課 経営革新計画承認者に対する支援策 (http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kakushin/2005/download/050830shienkeikaku.pdf)

・ 特許庁 HP(http://www.jpo.go.jp/beginner/beginner_06.html) ・ 特許庁(2016)「平成 24 年 4 月現在の特許関係料金」 ・ 中田哲雄(2003)「中小企業基本法の改正」『通商産業政策史 1980-2000中小企業政策』

第 12巻

(http://www.jpo.go.jp/beginner/beginner_07.html) ・ 横倉尚(1984)「中小企業」小宮隆太郎・奥野正寛・鈴村興太郎編『日本の産業政策』

東京大学出版会

・ N. Gregory Mankiw著、足立英之・石川城太・小川英治・地主敏樹・中馬宏之・柳川隆

訳 (2000) 『マンキュー経済学Ⅰ ミクロ編』東洋経済新報社

・ Storey, D. J. (2008)” Entrepreneurship and SME Policy” pp.5-7

(http://www.world-entrepreneurship-forum.com/content/download/1698/39646/version/1/file/Storey_Entrepreneurship and SME Policy.pdf)

引用文献 ・ 「中小企業基本法」(2016 最終改正)

(http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S38/S38HO154.html) ・ 中小企業庁(2006)「中小企業新事業活動促進法逐条解説」

(http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/shinpou/chikujou_kaisetu/download/11sousoku(1_3).pdf)

・ 特許庁(2014)「平成 26 年中小企業の知財出願状況」 (http://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/kenkyukai/pdf/chusho_chizai_shien_haifu01/shiry

ou04.pdf)

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ISFJ2016 最終論文

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データ出典 ・ 総務省「法人企業統計」

(http://www.mof.go.jp/pri/reference/ssc/) ・ 中小企業総合事業団、全国信用保証協会連合会(2000-2014)「業務要覧」 ・ 中小企業庁(2016)「経営革新計画承認件数」

(http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kakushin/shouninkensuu.pdf) ・ 特許庁(2016)「第1部知的財産をめぐる動向 第3章中小企業・地域における知的財産

活動」『特許行政年次報告書 2016 年版~イノベーション・システムを支える知的財産

~』 (https://www.jpo.go.jp/shiryou/toushin/nenji/nenpou2016/honpen/0103.pdf)

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