数学的な見方・考え方が成長する 算数科学習指導法の研究 ·...

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数学的な見方・考え方が成長する 算数科学習指導法の研究 -学習過程の三つの段階に位置付ける振り返りの工夫を通して- 福岡市教育センター 算数,数学科研究室 平成 30 年度 研究報告書 (1051 ) G3-02 平成 29 年3月に新学習指導要領が告示され,児童が各教科の見方・考え 方を働かせることの必要性が述べられている。算数科の目標にも,数学的 な見方・考え方を働かせることが明記されている。 そこで,本研究室では,学習過程の三つの段階に振り返りを位置付ける ことで,本時の学習に必要な見方・考え方を既習から引き出し,働かせ, 新たな見方・考え方を深めることを目指した。 学習過程の「みつける段階」では,問題の提示の工夫や,掲示物等の効 果的な活用を行ったことで,既習の中から本時の問題解決に必要な見方・ 考え方を選び,見通しをもつ児童の姿が見られた。「つくる段階」では, 見方・考え方を強調する板書の工夫や視点を明確にした交流を仕組んだこ とで,問題を解決し,よりよい解決方法について考察する姿が見られた。 「まとめる・つかう段階」では,既習や見通しとつないだ振り返りを行っ たことで,既習と本時の学習を関連付けながら,統合的・発展的に考える 児童の姿が見られた。

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Page 1: 数学的な見方・考え方が成長する 算数科学習指導法の研究 · を対象に行ったアンケートでは,「数学的な見方・考え方についてご存知ですか。

数学的な見方・考え方が成長する

算数科学習指導法の研究

-学習過程の三つの段階に位置付ける振り返りの工夫を通して-

福岡市教育センター

算数,数学科研究室

平成 30 年度

研究報告書

(第 1051 号)

G3-02

平成 29 年3月に新学習指導要領が告示され,児童が各教科の見方・考え

方を働かせることの必要性が述べられている。算数科の目標にも,数学的

な見方・考え方を働かせることが明記されている。

そこで,本研究室では,学習過程の三つの段階に振り返りを位置付ける

ことで,本時の学習に必要な見方・考え方を既習から引き出し,働かせ,

新たな見方・考え方を深めることを目指した。

学習過程の「みつける段階」では,問題の提示の工夫や,掲示物等の効

果的な活用を行ったことで,既習の中から本時の問題解決に必要な見方・

考え方を選び,見通しをもつ児童の姿が見られた。「つくる段階」では,

見方・考え方を強調する板書の工夫や視点を明確にした交流を仕組んだこ

とで,問題を解決し,よりよい解決方法について考察する姿が見られた。

「まとめる・つかう段階」では,既習や見通しとつないだ振り返りを行っ

たことで,既習と本時の学習を関連付けながら,統合的・発展的に考える

児童の姿が見られた。

Page 2: 数学的な見方・考え方が成長する 算数科学習指導法の研究 · を対象に行ったアンケートでは,「数学的な見方・考え方についてご存知ですか。

算-1

1 主題について

(1) 主題設定の理由

① 算数科の教科の特質から

平成29年3月に新学習指導要領が告示された。算数科の目標には「数学的な見方・考え方を働

かせ,数学的活動を通して,数学的に考える資質・能力を(中略)育成する」(小学校学習指導

要領 算数)とある。冒頭にあるように,数学的に考える資質・能力を育成するために,数学的

な見方・考え方を働かせることが極めて重要である。学習指導要領解説算数編では「数学的な見

方・考え方」のうち「数学的な見方」については,「事象を数量や図形及びそれらの関係につい

ての概念等に着目してその特徴や本質を捉えること」,「数学的な考え方」については「目的に

応じて数,式,図,表,グラフ等を活用しつつ,根拠を基に筋道立てて考え,問題解決の過程を

振り返るなどして既習の知識及び技能等を関連付けながら,統合的・発展的に考えること」とし

ている。つまり,見方・考え方を働かせるためには,着目する視点を明確にすること,学習の過

程を振り返ることなどの授業改善が求められていると考える。

② 福岡市の児童の実態から

研修員が担任をしている児童を対象に行ったアンケートでは,「算数の学習は前に学習したこ

とが使えますか。」の質問項目で,「はい」または「どちらかといえばはい」と答えた児童の割

合は95%にのぼる。一方「算数の学習の時に問題を見て,見通しを持てますか。」の質問項目で

「いつも」と答えた児童の割合は32%であった。このことから,算数が既習を生かして学習を進

めていくものであるという意識はほとんどの児童にあるものの,毎回の授業の中で見通しを持つ

ことができる児童は3人に1人であり,見方・考え方を働かせ,統合的・発展的に考えていくた

めには,既習を想起することが大事であることがわかっているにも関わらず,実際の授業の中で

は見通しをもつことに課題があることが分かった。また,平成29年度全国学力・学習状況調査の

福岡市の結果を見ると,「学級の友達との間で話し合う活動を通じて,自分の考えを深めたり,

広げたりすることができていると思いますか。」の質問項目で肯定的な回答をした児童は,全国

平均を3.2ポイント下回っている。「基礎的・基本的な数量や図形の性質などを見いだし統合的・

発展的に考察する力」を高めるためには,授業の展開段階でも,考えの深まりや広がりを実感す

るような振り返りの工夫を行う必要があると考えた。

③ 福岡市教員の日頃の実践から

平成29年度全国学力・学習状況調査の福岡市の結果の中で,学校質問紙の「調査対象学年の児

童に対して,前年度までに,様々な考えを引き出したり,思考を深めたりするような発問や指導

をしましたか」の質問項目で全国平均を8.0ポイント下回っている。また,研修員の所属校の教員

を対象に行ったアンケートでは,「数学的な見方・考え方についてご存知ですか。」という質問

項目で「あまり知らない」「知らない」と答えた割合は,合わせて84%にのぼることが分かった。

新学習指導要領で「数学的な見方・考え方」の重要性が示されているにも関わらず,実際に見方・

考え方について知っている教員はまだ多くはない。また,「算数の授業で振り返りの時間を設定

していますか。」の質問項目では,「あまりしていない」「していない」と答えた割合は合わせ

て56%と半数を超え,授業中の振り返りがあまり行われていないことが明らかになった。「いつ

していますか。」の質問項目では,「授業の初め」に既習の振り返りをしている教員や「授業の

終わり」に本時学習の振り返りをしている教員に比べ,「展開段階」で振り返りを行っていると

答えた教員は少数だった。児童が考えを深めたり,広げたりするための手だてが十分でないこと

が分かった。

以上①~③から,教師が数学的な見方・考え方について正しく理解した上で授業を計画するこ

とは,児童が自ら既習から必要な見方・考え方を取捨選択し,学習課題を主体的に解決したり事

後の学習に生かしたりして深い学びに向かう上で重要であると考え本主題を設定した。

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算-2

(2) 主題及び副主題の意味

➀ 主題について

「数学的な見方・考え方」は学習指導要領解説算数編では「算数の学習において,どのような

視点で物事を捉え,どのような考え方で思考していくのかという,物事の特徴や本質を捉える視

点や,思考の進め方や方向性を意味する」と述べられている。

これを踏まえ,本研究室では「数学的な見方・考え方が成長する」とは,あるところで使えた

数学的な見方・考え方を新しい場面でも働かせ,よりよい考えを創造し,解決した結果や方法を

既習事項と関連付けながら,統合的・発展的に考える力が育つことであると定義する。それまで

に児童が身に付けている数学的な見方・考え方からさらに多面的で多様な見方・考え方ができる

ようになったり,二つの事象を関連付けられるようになったりすることを目指している。

② 副主題について

「学習過程における三つの段階」とは,1単位時間の学習におけるみつける段階,つくる段階,

まとめる・つかう段階のことである。それぞれの段階で適切な「振り返り」を設定することで,

数学的な見方・考え方が成長していくと考える。

ここでの「振り返り」には,児童がすでに身に付けている数学的な見方・考え方を引き出すた

めの「既習の振り返り」,引き出した見方・考え方を働かせて新たな問題に向かい,その過程を

振り返ってよりよい解決方法を考察する「解決過程の振り返り」,本時の学習によって見方・考

え方が深まったことを実感する「働かせた見方・考え方の振り返り」がある。

2 研究の目標

学習過程の三つの段階に位置づける振り返りの工夫を通して,数学的な見方・考え方が成長する算

数科学習指導法を明らかにする。

3 研究の仮説

学習過程のみつける,つくる,まとめる・つかうの三つの段階に,掲示物などを使った本時で必要

な「既習の振り返り」,友達の考えと比べたり,自分の考えをより深く見たりする「解決方法の振り

返り」,本時でできるようになったことと既習の見方・考え方をつなぐ「働かせた見方・考え方の振

り返り」を位置付ければ,児童の数学的な見方・考え方が成長するであろう。

4 研究の構想

(1) 内容

本研究では,既習内容の中から新たな問題を解決するために必要な数学的な見方・考え方を引き

出し,働かせ,深めていく児童を目指している。そこで,そのように数学的な見方・考え方を成長

させるためには,以下の三つの姿を高めることを意識しながら,学習を展開していくことが必要と

考えた。

① 引き出す姿 … 本時の問題を解決するためには,既習の中からどの数学的な見方・考え方を

使えばよいのかを自分自身で引き出す姿 ② 働かせる姿 … 必要だと判断した数学的な見方・考え方を働かせ,問題を解決し,よりよい

解決方法について考察する姿 ③ 深める姿 … 既習と本時の学習をつなぎ,統合的・発展的に考える姿

深めた見方・考え方を既習として次時以降の学習で新たな問題を解決するために活用する。これ

を繰り返すことで,児童の数学的な見方・考え方が成長することを目指す。 (2) 手だて

① 既習の振り返り

問題の解決に必要な数学的な見方・考え方を引き出すために,前学年までの学習や前時までの

学習を振り返り,見通しにつなげる。

ア 見方・考え方に特化した掲示物の作成と効果的な活用

本時必要な見方・考え方につながる既習を掲示物にまとめて提示し,その中から児童が選択で

きるようにする。その掲示物を見通しだけでなく,考えをつくる際やまとめる際に活用するこ

とで,既習とのつながりを児童が意識できるようにする。

イ 見方・考え方を顕在化する問題提示の工夫

本時の問題解決のために働かせる見方・考え方に児童が気付くように,本時の問題を段階を

追って提示したり,活動を仕組んだりすることで児童の問題把握の手助けになるようにする。

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算-3

ウ 見通しにつなげるための半具体物の作成と効果的な活用

本時問題と見通しをつなげるために,問題場面を表す半具体物を作成し,効果的に活用する

ことで,見通しをもつことができるようにする。

② 解決過程の振り返り

引き出した数学的な見方・考え方を働かせるために,つくった自分の考えを「もっといい解決

方法はないか」「本当にこれでいいのか」と振り返る。

ア 見方・考え方を働かせるための視点を明確にした交流の設定

考えの深まりや広がりを実感できるために,どのような見方・考え方を働かせて本時の問題

を解決したのかが分かるように,考えの共通点や相違点などの視点を与えて交流活動を行う。

イ 見方・考え方を意識づける板書の工夫

交流によって気付いた見方・考え方を顕在化するために,本時で身に付けさせたい見方・考

え方を強調する板書の工夫を行う。

ウ 自分の考えを深めたり,広げたりする活動の工夫

児童が考えをつくる際に,自分の考えを振り返ることができるようにするために,学習プリ

ントを工夫したり,交流を適宜入れたりする。

③ 働かせた見方・考え方の振り返り

働かせた数学的な見方・考え方を深めるために,既習と本時の学習を関連付けて統合的・発展

的に考え,一般化したり,別の学習に生かしたりする。

ア 見方・考え方の深まりを実感するための見通しとつないだ本時学習の振り返り

既習の学習を生かして,本時の問題を解決することで見方・考え方が深まったことに気付く

ように視点を明確にした振り返りの記述を行う。

イ 本時身に付けた見方・考え方を振り返り,生かすための適用問題の交流

本時で身に付けた見方・考え方を確かなものにするために,誤答を提示し,解決する適用問

題を設定する。

(3) 過程

① みつける

既習の中から,本時の問題解決に必要な数学的な見方・考え方を引き出し,どこに着目し,ど

のように思考していくのかといった問題を解決する見通しをもつ。

② つくる

見通しを基に数学的な見方・考え方を働かせて問題を解決し,交流や板書によってその過程を

振り返り,よりよい解決方法や多様な解決方法を考察する。

③ まとめる・つかう

既習と関連付けながら働かせた数学的な見方・考え方を振り返り,新しい問題でもその見方・

考え方が使えるようになったことを確かめる。本時学習したことを以後の学習に生かして使って

いく。

(4) 検証方法

① 事前事後のアンケート

検証授業の前後に「算数の学習は前に学習したことが使えると思いますか」などのアンケート

を実施し,学習間のつながりに対する児童の意識の変容を見取る。

② 授業中の様相やノート記述の様子(変容)の評価

年間を通して児童の学習中の様相やノート記述の様相を観察し,既習との関連を意識して学習

問題を解決できているか,新しく身に付けた見方・考え方を実感できているかを見取る。

③ 未習問題の記述の変容による評価

単元毎に実施している市販テストの他に,見方・考え方の成長を見取るために未習問題を使用し

た調査を実施し,記述内容に変容があるか見取る。

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算-4

5 研究構想図

児童の実態

働かせる

図-1 研究構想図

働かせる

引き出す

学習過程

まとめる・つかう段階

・学習のまとめをする

・適用問題に取り組む

・本時学習を生かす

つくる段階

・自分の考えをつくる

・少人数交流

・全体交流

みつける段階

・問題に出会う

・既習学習から本時必要

なものをみつける

・見通しをもつ

深める

数学的な見方・考え方が成長する児童

引き出す

働かせた見方・考え方をも

とに統合的・発展的に考え

る姿

深めた見方・考え方を生活

や学習に生かす姿

働かせる

身に付けている数学的な

見方・考え方の中から問題

解決に必要な見方・考え方

を想起する姿

引き出した数学的な見方・

考え方を働かせて問題を

解決する姿

よりよい解決方法につい

て考察する姿

手だて

振り返りの工夫

既習の振り返り

・見方・考え方に特化し

た掲示物の作成と効果

的な活用

・見方・考え方を顕在化

する問題提示の工夫

・見通しにつなげるため

の半具体物の作成と効

果的な活用

解決過程の振り返り

・見方・考え方を働かせ

るための視点を明確に

した交流の設定

・見方・考え方を意識づ

ける板書の工夫

・自分の考えを広げたり

深めたりする活動の工

身に付けた見方・考え方

の振り返り

・深めた見方・考え方を

実感するための見通し

とつないだ本時学習の

振り返り

・本時身に付けた見方・

考え方を生かすための

誤答の交流

・数学的な見方・考え方

を振り返る適用問題の

設定

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算-5

(1) 小学校第6学年の指導の実際

比と比の値 「部分と全体の比の関係に着目し,部分にあたる量を求めること」

① 研究の実際

【本時において働かせる数学的な見方・考え方】

ア 「引き出す」ための既習の振り返り

本時において,部分と全体の比の関係に着目し,線分図を用いながら,全体がどれくらいの

割合にあたるかを捉え,全体を1と見たり,等しい比の性質を使ったりすればよいという見通

しをもつことを「引き出す」姿とし,次のような手だてをうった。

〇 前時の問題との比較

本時の問題は,全体の量と部分の比の両方が分かっ

ており,一方の比にあたる量を求める問題であった。

まず,本時の問題を板書した後,前時の問題(資料-

1)と比べるように促した。文章のままでは答えられ

ない児童が多かった。教師が,「どうやったら分かり

やすくなるか。」と問うと,代表児童が「線分図を使

う。」と発言した。線分図を描いた後,もう一度前時

の問題と比べるように促した。すると,「分かってい

る量が違う。」と反応があり,本時の問題が前時と同

じで,部分の比は両方分かっていることや,分かっている量は全体の量だけという点が違っ

ていることに気付く発言が他の児童からも挙がった。これらの反応や発言から「分かってい

る量に目をつけて牛乳の量を求めよう。」という本時のめあてにつなげることができた。

〇 数学的な見方・考え方に絞った掲示物の活用

通常の授業の足跡の掲示物と別に,単元を通して「算

数バンク」という,単元ごとの見方や考え方に絞った

カードを使った掲示物(資料-2)を参考に解決の見

通しを考えさせるようにした。児童は,「1が何にあ

たるか考えて」や「等しい比の性質を使って」といっ

た見通しをもち,ノートに書くことができていた。全

体でも,代表児が「1が何にあたるか考えて」「等し

い比の性質を使って」「比の値」というカードを用い

ながら見通しを発表した。

イ 「働かせる」ための解決過程の振り返り

本時において,全体の比と全体の量,部分の比に着目し,線分図や式を使って,部分の量を

求めることを「働かせる」姿とし,次のような手だてをうった。

〇 見通しとつないだ交流

代表児の発表でどの見方・考え方が使われたか板書

からも分かるように算数バンクのカードで考え方を

示しながらの発表を行った。代表児は,「1が何にあ

たるか考えて」「等しい比の性質を使って」「比の値」

というカードを選択し,それぞれ働かせた数学的な見

方・考え方を明確にしながら発表することができた。

〇 解法の考察を促す発問

全体交流の終盤,全体の「今日の解き方でみんな似ているところはどこだったか。」と発

問を行った。「8をみんな使っている。」や「3と5を足している。」などの発言があり,

児童は全体の比に着目することが大切であることに気付いていた。そこで,本時どの考え方

でも出てきた8は,全体の比を表していることと,3や5は部分の比を表していることを線

部分と全体の比の関係に着目し,線分図を用いながら,全体がどれくらいの割合に当た

るかを捉え,全体を1と見たり,等しい比の性質を使ったりして,部分にあたる量を筋道

立てて考えること

資料-1 比較した前時の問題

資料-2 見方や考え方に絞った掲示物

資料-3 全体交流後の板書

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算-6

分図で確認し,「部分の比」と「全体の比」というカードを今までの算数バンクに追加した。

ウ 「深める」ための働かせた見方・考え方の振り返り

本時において,部分と全体の場面でも比の性質を使うと,分からない量を求めることができ

ることを実感することを「深める」姿とし,次のような手だてをうった。

〇 視点を与えた振り返りの記述

働かせた見方・考え方をもとに今後の学習に生かせる

ように毎時間,「分かったこと」「どんな考え方をした

か」という視点で振り返りを記述させた。本時も同じよ

うに記述させると,「全体の比を使うと解けた。」や「前

と同じで1が何にあたるかを考えると解けた。」などの

本時働かせた数学的な見方・考え方を意識した記述が多

く見られた。

〇 誤答の交流の設定

本時働かせた数学的な見方・考え方を深めるために,

練習問題を解いた後,次時に練習問題の誤答を示し,交

流を行った。誤答(資料-5)については,ペア交流と全

体交流を行った。どちらの交流でも,全体の比や部分の

比といった言葉を使ったり,線分図と照らし合わせなが

ら間違いを指摘したりしながら,説明し合う児童が多く

見られた。

② 考察

「みつける段階」では,前時の問題と本時の問題を比較させたことで,児童は自然と前時まで

も使った線分図を用いながら,分かっている数(本時では全体の量や部分それぞれの比)に着目

することができた。また,算数バンクを参考に見通しを考えさせたことで,「1が何に当るか考

えて」や「等しい比の性質」,「比の値の考え方」といった3つの考え方に目を向けることがで

きていた。さらに,苦手な児童も見通しの段階で自分がやってみようという解決方法の見通しを

1つは持つことができていた。このことから,問題提示の工夫や掲示物の工夫によって既習の振

り返りを行うことで,児童は,身に付けている数学的な見方・考え方の中から課題解決に必要な

見方・考え方を想起することができたと考える。

しかし,見通しの最初の段階では本時は使わない数学的な見方・考え方を選んでいる児童や自

力解決になると選んだ数学的な見方・考え方をどうしたらいいのか戸惑う児童も数名いた。今後,

算数バンクの中身の精選や通常の掲示物やノートとつないだ活用が必要だと感じた。

「つかう段階」では,板書でどの見方・考え方かカードを用いて代表児童に発表させたことで,

自力解決が上手くいかなかった児童も自分がどの児童と考え方が一緒なのかすぐに分かり,板書

や発表を参考に自力解決の続きを行うことができていた。また,全体交流後のそれぞれの考えの

共通点に目を向けさせる問いかけを行ったことで,改めて板書上でそれぞれの考えに目を向ける

ことにつながり,自然と本時はどの考え方も全体の比に着目していることに気付くことができて

いた。このことから,板書の工夫や発問の工夫によって解決過程の振り返りを行うことで,引き

出した数学的な見方・考え方を働かせて課題を解決する姿やよりよい解決方法について考察する

姿につながったと考える。

「まとめる・つかう段階」では,「分かったこと」「どんな考え方をしたか」という視点で振り

返りを記述させた。本時出てきた,「全体の比」という見方・考え方に触れた以外にも,「前の

時間の考え方が使えた。」や「友達の発表を聞いて他のやり方でもできると分かった。」と以前

の見方・考え方や他の見方・考え方とつながる記述(資料-7)も見られた。さらに,練習問題を

ただ解くだけではなく,誤答を提示し交流を行ったことで,式の中の数値やその誤りの理由を具

体的な数値や本時出てきた全体の比などの数学的な見方・考え方を使いながら言葉で説明するこ

とができていた。このことから,振り返りの工夫や誤答の交流によって身につけた見方・考え方

の振り返りを行うことは,深めた見方・考え方を学習に生かす姿につながったと考えられる。

資料-4 児童の振り返りの記述

資料-5 提示した練習問題の誤答

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算-7

資料-6 既習掲示物

(2) 小学校第6学年の指導の実際

拡大図と縮図「基本図形について,拡大図,縮図の関係を調べること」

※ 教科書では,直感で拡大図か縮図か判断するのみにとどまっているが,本時においては,

拡大図,縮図の関係になっている理由を,根拠を基に筋道立てて説明するようにした。ま

た,段階的に見方・考え方を働かせ,成長できるように学習問題3まで設定し,各学習問

題に振り返る場面を設定した。

① 研究の実際

【本時において働かせる見方・考え方】

ア 「引き出す」ための既習の振り返り

本時において,対応する図形の辺の長さの比と角の大きさの相等に着目できるようにするこ

とを「引き出す」姿とし,次のような手だてをうった。

〇 見方・考え方に特化した掲示物の作成

対応する図形の辺の長さの比と角の大きさの相等に

着目するために,数学的な見方・考え方「辺の長さの

比と角の大きさの相等に着目する」ことに特化した既

習掲示物を作成し(資料-6),振り返りを行った。児

童が本時学習の見方・考え方が視覚的に分かるように,

と言葉を繋いだり,辺は黄色,角は赤で統一して表現

したりした。

〇 学習問題1で解決方法のモデルをつくる

学習問題1(正三角形同士と二等辺三角形同士)で

は,対応する図形の辺の長さの比と角の大きさの相等に

着目」できるように,穴埋め形式の学習プリントを準

備し児童と共に図と言葉を対応しながら,穴埋めを行

い,解決方法のモデルをつくった。

イ 「働かせる」ための解決方法の振り返り

図形の構成を考察し,図形が常に拡大図・縮図の関係に

なるかを筋道立てて考え,言葉で説明することを「働かせ

る姿」とし,次のような手立てをうった。

〇 学習問題1を振り返る

学習問題2(正方形同士と平行四辺形同士),(長

方形同士と正五角形同士)では,見方・考え方を働か

せられるように,学習問題1を振り返りながら,考え

を書くように促した。学習問題2も穴埋めとしたが,

自分の考えがある場合は筋道立てて書けるように,学

習プリントに自由記述の欄(資料-7)も設けた。

〇 各図形の構成を振り返り,その考えを視点におき交流する

前時学習で各図形の辺や角の構成について振り返り

を行っていた。その構成を基に,見方・考え方「図形

の構成の仕方を考察する」ことで,「全ての辺の長さ

の比や角の大きさを測らなく」ても,拡大図・縮図の

関係と言えることに気付き,そこで次のような考えを書いた児童がいた。

『正方形同士や正五角形同士は,辺の長さは等しいことから,「対応する辺の長さの比は

等しい」,角の大きさは等しいことから,「対応する角の大きさは等しい」ので,全ての辺

の長さの比や角の大きさを測らなくても拡大図と縮図の関係と言える』という考えを書いて

おり,その考えを視点とした発表を代表児が行い,確認をした。

また,『平行四辺形と長方形は,辺の長さは等しくないことから,「対応する辺の長さの

比は等しくない」,角の大きさは等しくないことから,「対応する角の大きさは,等しくな

い」ので,「全ての辺の長さの比や角の大きさを測らなくてもよい」こと』も,児童の考え

を基に交流した。

対応する図形の辺の長さの比と角の大きさの相等に着目し,図形の構成を考察することで,図

形が常に拡大図・縮図の関係になるかを筋道立てて考え,言葉で説明すること

資料-7 学習問題2の学習プリント

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算-8

ウ 「深める」ための働かせた見方・考え方の振り返り

正多角形は常に拡大図・縮図の関係になるかを気付くようにすることを「深める」姿とし,

次のような手立てをうった。 資料-8 学習問題3の学習プリント

○ 学習問題2を振り返る

学習問題3(正六角形同士とひし形同士)では,見方・

考え方が成長できるように学習問題2までの解決方法を

振り返りながら考えを書くようにした後,全体交流を仕

組んだ。学習プリントは自由記述とした(資料-8)。

〇 3つ目の図形を提示する

自分の考えが,書ける段階 になった学習問題3では,

さらに見方・考え方を働かせ,成長できるようにするた

めに,各図形が「常に拡大図・縮図の関係になる」かを

考えるようにした。そのために,学習問題1~3に提示

した図形にさらに大きさの違う3つ目の図形(資料-9)

を提示した。児童と大きさの違う各図形3つの図形を比

較しながら,正多角形のみが「常に拡大図と縮図の関係

になる」ことを確認した。

② 考察

「みつける」段階の学習問題1では,まず,掲示物を確認

しながら見通しを持つ児童も見られ,児童が対応する図形の辺の長さの比と角の大きさの相等

に着目した見通しを持つことができた。本時学習の見方・考え方を共通理解するのに,見方・

考え方に特化した既習掲示物は,有効であったと捉える。

「つくる」段階の学習問題2では,学習問題1を振り返りながら,考えを書くように促した。

児童は考えを書くことができ,学習問題1を設定したことで,段階的に振り返ることが効果的

だった。その際,机間指導中,「全部測って書く必要はないと思う。」という声が聞かれた。

その考えを言葉で書いてみるように促すと,それぞれの図形の特徴を基に,「図形の特徴から

全ての辺の長さの比や角の大きさを測らなくてもよい」ことに着目し,考えを書く児童が6名

いた。代表児がその考えを発表し,その価値を認め,共有した。各図の構成を事前に振り返っ

ていたこと,見方・考え方を働かせ,成長することができたと考える。

「まとめる・つかう」段階の問題3では,学習問題1・2の見方・考え方を振り返りながら

考えを書くようにした。学習問題3では,全ての辺と角の長さを測らなくてもよいという考え

を書いた児童が,6名から11名に増えた。(資料-10)また,各図形3つ目の図形を提示し,

比較する際,正多角形は「常に拡大図・縮図の関係になる」ことを確認できた。最後の振り返

りの記述からもその理解が深まったことと捉える。(資料-11)また,見方・考え方を働かせ,

成長できるように,学習問題3まで設定したことで,考えを書くことができたと考える。

ただし,各図形大きさの違う3つ目の図形も「対応する図形の辺の長さの比と角の大きさの

相等に着目」した考えを書いた方が,「常に拡大図と縮図になること」を,より実感できたの

ではないかということが課題として残った。また,1時間での指導の内容であったが,次時で

10 分程度授業を行った。時間配分も課題として残った。

資料-10 考えの変容の例

資料-11 振り返りの記述

学習問題1 学習問題3

資料-9 大きさの違う3つ目の図形

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算-9

(3) 小学校第5学年の指導の実際

単位量あたりの大きさ「面積も数も違う時に混み具合の比べ方を考えること」

① 研究の実際

【本時において働かせる見方・考え方】

ア 「引き出す」ための既習の振り返り

本時において,うさぎの数と面積に着目し,混み具合を比べるには,一方の量をそろえればよ

いという見通しをもつことを「引き出す」姿とし,次のような手だてをうった。 〇 導入での混み具合の理解を深める発問の工夫

本時は混み具合の学習の導入であるため,本時問題を提示す

る前に、「混み具合を考えるときには一箇所に片寄らず、均して

考えること」「人数が同じ場合は面積がせまいほうが混んでいる

こと」「面積が同じ場合は人数が多いほうが混んでいること」を

児童が共通理解できるよう,三つの場面の挿絵を用いてどちら

が混んでいるか発問した。 〇 2つの数量に着目させる問題提示の工夫

本時問題はうさぎ小屋の混み具合を比べるというものである

が,4つのうさぎ小屋の面積と人数を表にして提示した。その

際,表の「面積」と「うさぎの数」の部分を隠して提示した。

そして「知りたい数は何か」発問した。児童の「面積」「数」と

いう反応を受けて隠していた部分を提示した(資料‐12)。 〇 見通しにつなげるための数量の関係の探求の工夫

問題を提示した後,最初に面積が同じでうさぎの数が違うう

さぎ小屋ではどちらが混んでいるかを発問した。二番目にうさ

ぎの数が同じで面積が違ううさぎ小屋ではどちらが混んでいる

か発問した。そこで出てきた考えを板書に残しておくことで,

本時問題解決の助けになるようにした。三番目に,面積とうさ

ぎの数が比例の関係にある2つのうさぎ小屋ではどちらが混ん

でいるか発問した。これにより比例の関係にあるものは同じ混

み具合といえることを共通理解できた。最後に面積もうさぎの

数も違う2つのうさぎ小屋の混み具合を比べるよう発問し,本

時のめあてにつないだ。 〇 問題把握を助ける半具体物の工夫 問題把握の際に,動かして考えることができる半具体物

を用いた。1㎡を意識できるように線を入れることで,単

位量あたりの大きさにそろえる見通しにつなげるようにし

た(資料‐13)。 イ 「働かせる」ための解決過程の振り返り 本時において,式や言葉などの表現を用いて,面積か人数

をそろえる方法考え,混み具合を比べることを「働かせる」

姿とし,次のような手だてをうった。 〇 解決過程を振り返り,よりよい考えを考察できるような

自力解決の工夫 自力解決の時間を2つに分けて,前半が終了した後,友

だちと話し合ってもよい時間を設定した。考えが途中で行

き詰っていたり,考えが1つしか見つけられていなかった

り自信がなかったりする児童は,友だちと話すことで,後

半の自力解決での自分の考えをより確かなものにすることができた(資料‐14)。

資料‐13 うさぎの半具体物

資料‐14 児童のノート記述

資料‐12 問題提示の工夫

うさぎの数と面積に着目し,公倍数や単位量当たりの大きさを使って,一方の量をそろえて

混み具合を比べる方法を筋道立てて考えること

隠して提示

した部分

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算-10

〇 視点を明確にした交流活動の設定 自力解決の後,「どちらが混んでいるのか」という視点でペア交流を行った。ペア交流では,

面積と数に注目し,数が同じときは面積がせまいほど混んでいることを説明し合う姿が見ら

れるなど,活発に交流している姿が見られた。 〇 本時の見方・考え方に気付く板書の工夫

代表児の発表に問い返しを行うことで,

式の意味を説明できるようにした。答えに,

「1㎡で~匹」のように付け加えをするこ

とで,視覚的に分かりやすいようにした(資

料‐15)。 ウ 「深める」ための働かせた見方・考え方の振り返り 本時において,比例を使って,どちらかをそろえる

と混み具合が比べられることを確かめることを「深め

る」姿とし,次のような手だてをうった。 〇 視点を明確にしたまとめと振り返りの記述

できるようになったことを確かめるために,本時

のまとめと学習の振り返りを記述させた。「まとめ」

には,うさぎの数か面積のどちらかをそろえればよ

いことを記述している児童が多かった(資料‐16)。

振り返りでは「今日新しく分かったこと」「前の学習

のここが使えると思ったこと」などの視点で書くよ

うにした。「面積か人数が違うときにも混み具合を比

べることができること。」「比例や公倍数など前の学

習が使えること」などを書いている様子が見られた

(資料‐17)。

② 考察

「見付ける」段階で問題提示を丁寧に行ったり,本時において必要な見方・考え方につながる

大事な部分をあえて隠して提示したりしたことで,全ての児童が自分の考えをかくことができた。

問題提示の工夫は,本時に必要な既習の見方・考え方を引き出すのに効果的だった(資料‐15)。

「つくる」段階での,自力解決や交流の工夫により,引き出したい言葉をまとめに記述するこ

とができた。このことから本時に必要な見方・考え方を働かせる姿につながったと考える。

児童が記述した「まとめ」からも,混み具合を比べるには面積か数のどちらかをそろえればよ

いことに気づいていることが分かる(資料‐16)。ほとんどの児童は,まとめに「そろえる」と

いう言葉を記述することができていた。本時に新しく身に付けた見方・考え方につながる大事な

言葉を強調するような板書の工夫を行うことは,本時ねらいを達成するために有効だったと考え

る。また,「今日の学習で」の記述を見ると,ペア交流によってより理解が深まったこと,既習

の見方・考え方を使って問題解決ができたことに気づいていることが分かる(資料‐17)。これ

らのことから「つくる」段階にも振り返りの活動を仕組むこと

が,児童のより深い理解につながった。

本時学習は「単位量当たりの大きさの」の2時間扱いの導入

のうちの第1時であったが,第2時では,本時まとめたことを

使って数値の異なる問題に取り組んだ。その際の代表児童のノ

ート記述を見ると,既習である「比例」や「公倍数」「1人あ

たりを求めるわり算」「1㎡あたりを求めるわり算」を用いて

「面積」か「人数」をそろえればよいことを筋道立てて説明す

ることができていることが分かる(資料‐18)。またいくつか

の考えを書くことができている児童も多かった。このことから,

第1時の三つの振り返りを行ったことで,新しく身に付けた数

学的な見方・考え方が深まっていることが分かる。

資料‐15 全体交流後の板書

資料‐16 児童が記述したまとめ

資料‐17 児童が記述した本時振り返り

資料‐18 第2時の児童のノート記述

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算-11

資料-21 児童のノート(考え方)

資料-20 算数コーナー

資料-19 枚数を用意する児童

(4) 小学校第6学年の指導の実際

比例と反比例「画用紙 300 枚を数えないで用意する方法を考えること」 ① 研究の実際

【本時において働かせる見方・考え方】

ア 「引き出す」ための既習の振り返り 本時において,枚数に比例する数量に着目し,数量の関係を調べるために表に整理したり,

表を横や縦に見たりすればよいという見通しをもつことを「引き出す」姿とし,次のような手

だてをうった。 〇 見方・考え方を顕在化するための問題提示の工夫

枚数に比例する数量に着目させるために,問題提示の前

に,10 枚・20 枚と段階的に紙を数えて用意する活動を代

表児に行わせた(資料‐19)。その後,「今日は 300 枚を準

備する。」ということを伝え,「画用紙 300 枚を数えないで

用意しましょう。」という問題を提示した。そして,「最初

に枚数が 10 枚・20 枚と増えたときに,それに伴って他に

増えていた量はないかな。」と発問すると,「重さ」という

発言が多数あったため,10 枚のときの重さが 46gという

情報を与え,「比例の関係を使って,300 枚のときの重さを

考えよう。」というめあてにつなげることができた。

〇 掲示物と見通しをつなぐ板書の工夫

数学的な見方・考え方を引き出すために,児童がこれま

でに身に付けてきた「見方・考え方」を青枠でくくり,ホ

ワイトボードにまとめた掲示物(算数コーナー)(資料‐20)

を使って,見通しを考えさせた。その際,板書の「見通し」

の箇所に空白にした青枠カードを貼り,カードにはどんな

言葉が入るかを考えさせ,算数コーナーとつないだ見通し

を書くことができるようにした。見通しを発表する中で,

「表に整理する」や「表を横に見る」「表を縦に見る」など

という既習の見方・考え方が挙がった。

イ 「働かせる」ための解決過程の振り返り 本時において,数量を表に整理したり,表を縦や横に見たりする活動を通して,表・式を使

って重さから枚数を求めることを「働かせる」姿とし,次のような手だてをうった。 〇 板書やノート指導の工夫

既習の見方・考え方と本時学習とのつながりを意識で

きるようにするために,自力解決でも算数コーナーの青枠

カードを用いた。考えを書く前に,見通しと同様に板書の

「考え」の箇所にも,青枠カードを貼ったり,ノートにも

同じように,「見通し」から見方・考え方を選んで青枠の中

に書いたりするように促した。児童は,自分が選んだ見方・

考え方をノートの青枠に書いた上で,自分の考えを記述す

る様子が見られた(資料‐21)。また,枚数と重さの関係を

自分なりに表に整理して,考えをつくる姿が見られた。

〇 視点を明確にしたペア交流

見通しの「どの見方・考え方」を「どのように使ったか」を振り返るためのペア交流では,

自分がどんな見方・考え方を使って考えたかを表や式を指し示しながら説明する姿が見られ

た。また,ノートに青枠で「見通し」から選んだ見方・考え方は記述していたが,それに基

づいた考えを書けていなかった児童は,ペアの説明を聞いて,自分が青枠に書いた見方・考

枚数と重さの2つの数量の関係に着目し,数量を表に整理したり,表を縦や横に見たりす

る活動を通して,重さから枚数を求める方法を筋道立てて考えること

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算-12

資料-22 見通しと考え方をつなぐ板書

資料-23 児童の学習感想

え方に基づいた考え方を書き足す姿が見られた。 〇 既習とつなぐ板書の工夫

既習のどんな見方・考え方を使って問題解決したか

を振り返ることができるようにするために,全体交流

では,児童の発言を基に,見通しが書かれた青枠カー

ドを考えのタイトルに移動したことで(資料‐22),

既習とのつながりを視覚的に分かりやすいようにし

た。

ウ 「深める」ための働かせた見方・考え方の振り返り 本時において,他の場面でも,比例の関係を使えば,量りにくい数量を量ることができるこ

とを実感することを「深める」姿とし,次のような手だてをうった。 〇 「分かったこと」「できるようになったこと」という視点による振り返りの記述

児童は,「比例の関係を使えば量りにくい量も量るこ

とができるようになった。」などという本単元で身に

付けた数学的な見方・考え方を生活に生かせることに

気付くような記述が多く見られた(資料‐23)。

〇 見方・考え方を振り返るような適用問題の設定

適用問題として「ダンボールで作った手形の面積を

求める問題」を次時で設定した。児童は,段ボールの

面積と重さが比例していることに比較的容易に気付

き,本時で活用した「表に整理する」「表を横に見た

り縦に見たりする」といった見方・考え方を使って直接測ることのできない面積を求めるこ

とができていた。

② 考察

「みつける段階」では,実際に代表児に 10 枚・20 枚を数える活動を設定した上で,「画用紙 300

枚を数えないで用意しましょう。」という問題を提示したことで,既習の「比例の関係」や「枚数に

伴って重さも変わる」などといった着目させたい見方を児童から引き出すことができた。また,算

数コーナーを基に見通しを考えさせたことで(資料‐20),本時解決に必要な見方・考え方を児童全

員が見通しの段階でノートに書くことができていた。このことから,問題提示や掲示物の工夫によ

って既習の振り返りを行うことで,比例の関係にある2つの数量の関係に児童自ら着目することが

でき,自分なりに見通しをもった上で,自力解決へとつなぐことができたと考えられる。

「つくる段階」では,ノートの「考え方」に,自分が見通しから選んだ既習の見方・考え方に基

づき,自分なりの考えを表・式・言葉を用いて記述していた児童は,27 人中 22 人であった。考え

を記述できなかった児童5人のうち5人とも,どんな見方・考え方を使えばいいかはノート青枠に

記述していたが,選択した見方・考え方をどのように使えばよいかが分かっていない様子であった。

しかし,ペア交流を通して,5人中4人は,ペアの説明を聞いて,青枠に書いた見方・考え方に合

った考え方を書き足す姿が見られた。これは,どんな見方・考え方を使えばいいかはノートの青枠

に記述していたため,ペアの児童がその見方・考え方に合った的確な助言をすることができたから

だと考える。このことから,見通しとつなぐ板書やノート指導の工夫や視点を明確にしたペア交流

の設定といった,解決過程の振り返りを行うことは,比例の性質を活用し,表,式,などを使って

考える姿につながったと考えられる。

「まとめる・つかう段階」では,「分かったこと」「できるようになったこと」という視点からの

振り返りを記述させた。その結果,本時の見方・考え方が日常生活に生かせるといった記述をした

児童は,27 人中 24 人であった。また,次時で設定した適用問題では,段ボールの面積と重さが比

例していることに比較的容易に着目する姿が見られ,27 人中 26 人が,本時の見方・考え方に基づ

き,自分なりの考えを記述することができていた。このことから,「分かったこと」「できるように

なったこと」という視点からの振り返りを記述したり,見方・考え方を振り返るような適用問題を

設定したりするといった,身に付けた見方・考え方の振り返りを行うことは,他の場面でも,比例

の関係を使えば,量りにくい数量を量ることができることを実感する姿につながったと考えられる。

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算-13

7 研究のまとめ

(1) 研究の成果

① みつける段階での既習の振り返りの工夫

問題と出会い,問題を解決する見通しをも

つために,問題解決に必要な数学的な見方・

考え方を引き出す手だての工夫を行った。「本

時視点の言葉をあえて隠し問題提示をする工

夫」や「発問の工夫」「数学的な見方・考え方

が書かれた掲示物」などのような既習を振り

返る工夫である。

児童アンケートの調査から,「算数の学習の

時に問題を見て,見通しをもてますか」とい

う質問に対し,「いつも」「時々」の結果が 77%

から 86%へと9ポイント上がったことが分

かる(図‐2)。

これらのことから,既習を振り返る手だて

を打つことで,児童が自ら,本時で必要な数学的な見方・考え方を引き出し,見通しをもつこと

ができたと考える。

② つくる段階での解決方法の振り返りの工夫

児童は,既習の振り返りから立てた見通しを基に自力解決を行う。その際,引き出した数学的

な見方・考え方を働かせて問題を解決したり,よりよい解決方法について考察したりするために,

解決方法の振り返りの工夫を行った。

第5学年では,自力解決の途中に交流活動を設定することで,解決の途中だった児童は,自分

の考え方を付加修正することができた。また,自分の考えがつくれていない児童に対し,筋道立

てて説明しようとする児童の姿も見られた。

第6学年では,見通しとつなぐ板書やノート指導を手だてとした。見通しで児童が提案した数

学的な見方・考え方を簡潔なタイトルとして言語化することで,児童の考えが見通しの見方・考

え方とつながっていることを,実感させることができた。

これらのことから,見通しに沿って自力解決を行い,交流や板書の工夫を行うことで,数学的

な見方・考え方を働かせた問題解決をすることができた。

③ まとめる・つかう段階での働かせた見方・考え方の振り返りの工夫

本時学習を振り返り,できるようになっ

たことを記述させたり,見方・考え方を振り

返るような適用問題を設定したりした。

学習後の感想では,「次の学習でも前の学

習を思い出して取り組みたいです」や「分数

や比例など,前の勉強とつながっているなと

思いました」と書かれている(資料‐24)。

また,「算数の学習は前に学習したことが使え

ると思いますか」という質問に対し,「はい」

「どちらかといえばはい」の結果が 95%から

99%へと4ポイント上がり,「いいえ」と回答

した児童が0人であった(図‐3)。

これらのことから,算数学習において,学

年間のつながりを意識し,既習を生かした学

習展開を実感する児童が増えたことが分かる。

さらに,未習の問題を提示し,「これまでに

学習したどんなことが使えそうですか」と尋

ねたところ,6月実施の未習問題では何も書

くことができなかった児童が,11 月実施の未

資料‐24 児童の学習後の感想

今日の学習で

図‐2 児童のアンケートの結果②

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算-14

習問題では,前の学習を生かした気付きを書くことができていた(資料‐25)。このことは,単元

ごとに身に付けた数学的な見方・考え方が深まったことの現れであると考える。

(2) 研究の問題

● どの学年や教材においても,教師が教材研究の際に,必要な数学的な見方・考え方は何かを検

討する必要がある。

● 数学的な見方・考え方に特化した掲示物を活用する際,見通しを絞れず,考えをつくる際に戸

惑う児童がいた。掲示するものの精選や本時の学習に必要な見方・考え方に焦点化する際の手だ

てが必要である。

● 児童自ら数学的な見方・考え方を深めていく数学的活動の工夫

引用文献

1 福岡市教育委員会 全国学力・学習状況調査における福岡市の結果について (平成 29 年)

2 文部科学省 小学校学習指導要領解説 算数編 (平成 29 年)

参考文献・参考資料

1 文部科学省 論点整理 (平成 27 年)

2 文部科学省 次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ

(平成 28 年)

3 清水美憲・斎藤一弥編著 小学校新学習指導要領ポイント総整理 算数 東洋館出版社

(平成 29 年)

4 筑波大学附属小学校算数研究部 算数授業論究 今,育てたい「数学的な見方・考え方」

東洋館出版社 (平成 30 年)

研究指導員

清水 紀宏 (福岡教育大学 教授)

非常勤研修員

今村 明裕 (今 宿小学校 教諭) 原 典子 (西高宮小学校 教諭)

宮本 邦彦 (美和台小学校 教諭) 徳永 繁 (賀 茂小学校 教諭)

馬場 祐樹 (席 田小学校 教諭) 城間 浩史 (城 南小学校 教諭)

担当主事

井元 尚史 (研修・研究課 主任指導主事)

図‐3 児童のアンケートの結果③ 資料‐25 未習問題での気付き