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Clinical Forum 新規連合印象用アルジネート印象材の 特性 新規連合印象用アルジネート印象材の 特性 神奈川歯科大学大学院歯学研究科口腔科学講座 クリニカル・バイオマテリアル学分野        二瓶智太郎、黑田哲郎、和田悠希、片山裕太、大橋 桂 はじめに 近年、歯科用CAD/CAMシステムの発展により、口腔内ス キャナーも同時に発達し、光学印象採得が臨床に取り入れられ るようになった。しかしながら一般診療においては、従来から使 用されているアルジネート印象材単独による印象採得や、寒天 印象材との連合印象法による精密印象採得の術式が頻用され ている。これは、アルジネート印象材や寒天印象材の原料が海 藻であり安価であること、線状ポリマーである寒天印象材の精 密性と網状ポリマーであるアルジネート印象材の物性を有する こと、取り扱いが簡便であること、さらにアルジネート印象材と 寒天印象材に接着性があることなどが理由として挙げられる。 国内では、歯冠修復や可撤(義歯)装置を製作する際の支台 歯には寒天印象材、その周囲をアルジネート印象材で印象採得 する連合印象法が多い。寒天印象材は機械的強度が低いため、 硬化後の撤去時にアルジネート印象材から剥離したり、寒天印 象材自体の破壊が生じる場合がある。また、ボイリングしてゲル 状で操作するため、流動性が加熱状態に左右されやすく、口腔 内での操作中に硬化してしまう場合もある。さらに体温よりも高 温で使用するため、生活歯では歯髄刺激の原因にもなると考え られる。 そこで、寒天印象材にかわるペーストタイプのアルジネート 印象材を連合印象用として使用することで、前述の懸念される 問題の回避は可能と考えられる。また、練和操作なく使えるカー トリッジ化することで、均一な性状と、操作時間の短縮が得られ、 臨床上で非常に有用と考えられる。 今回、連合印象用アルジネート印象材「アローマインジェク ション」が発売され、寒天印象材と比べた引裂き強さ、ベースア ルジネート印象材との接着強さの検討を行い学会で発表したの で、そのデータをもとに紹介する 1-3) 試験には、精密印象材としてアローマインジェクション(ARI と寒天印象材のアローマロイド(ARL)、ベースアルジネート印 象材としてアローマファイン プラス(AFP)を使用した。 ■引裂き強さ試験 各印象材の引裂き強さは、 JIS T 6512:2016 (寒天印象材) 5.7引裂き強さ試験に準じて評価した。精密印象材の強度を確 認するために、 ARI ARLを試験した(図1)。その結果、連合印象 用アルジネート印象材のARIの引裂き強さは0.9N/mmであり、 ARL と比較して有意に高い値を示した(p<0.05図2)。 図2 精密印象材の引裂き強さ試験の結果 1.1 0.8 0.6 0.3 0.0 引き裂き強さ( N/mm ARI ARL Different superscript letters represent significant results p < 0.05b a ●試験方法 1.金型に練和した印象材を流し込み、金属平板で圧接し、金型を35℃恒温水 槽に入れ口腔内保持時間保持 2.恒温水槽から金型を取り出し,硬化した試験片をオートグラフにセットし、 500mm/minで矢印方向に引張り、測定した破断荷重(N)より引裂き強さ N/mm)を求めた 19 ±0.05mm 102 ±0.5mm 厚さ4.00mm 試験片寸法 図1 JIS T 6512:2016 (寒天印象材) 5.7引裂き強さ試験に準じた評価

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Page 1: 歯科医師会員入会受付中 新規連合印象用アルジネート印象材 …...Clinical Forum 新規連合印象用アルジネート印象材の 特性 神奈川歯科大学大学院歯学研究科口腔科学講座

Clinical Forum

新規連合印象用アルジネート印象材の特性新規連合印象用アルジネート印象材の特性神奈川歯科大学大学院歯学研究科口腔科学講座クリニカル・バイオマテリアル学分野        二瓶智太郎、黑田哲郎、和田悠希、片山裕太、大橋 桂

はじめに 近年、歯科用CAD/CAMシステムの発展により、口腔内スキャナーも同時に発達し、光学印象採得が臨床に取り入れられるようになった。しかしながら一般診療においては、従来から使用されているアルジネート印象材単独による印象採得や、寒天印象材との連合印象法による精密印象採得の術式が頻用されている。これは、アルジネート印象材や寒天印象材の原料が海藻であり安価であること、線状ポリマーである寒天印象材の精密性と網状ポリマーであるアルジネート印象材の物性を有すること、取り扱いが簡便であること、さらにアルジネート印象材と寒天印象材に接着性があることなどが理由として挙げられる。 国内では、歯冠修復や可撤(義歯)装置を製作する際の支台歯には寒天印象材、その周囲をアルジネート印象材で印象採得する連合印象法が多い。寒天印象材は機械的強度が低いため、硬化後の撤去時にアルジネート印象材から剥離したり、寒天印象材自体の破壊が生じる場合がある。また、ボイリングしてゲル状で操作するため、流動性が加熱状態に左右されやすく、口腔

内での操作中に硬化してしまう場合もある。さらに体温よりも高温で使用するため、生活歯では歯髄刺激の原因にもなると考えられる。 そこで、寒天印象材にかわるペーストタイプのアルジネート印象材を連合印象用として使用することで、前述の懸念される問題の回避は可能と考えられる。また、練和操作なく使えるカートリッジ化することで、均一な性状と、操作時間の短縮が得られ、臨床上で非常に有用と考えられる。 今回、連合印象用アルジネート印象材「アローマインジェクション」が発売され、寒天印象材と比べた引裂き強さ、ベースアルジネート印象材との接着強さの検討を行い学会で発表したので、そのデータをもとに紹介する1-3)。 試験には、精密印象材としてアローマインジェクション(ARI)と寒天印象材のアローマロイド(ARL)、ベースアルジネート印象材としてアローマファイン プラス(AFP)を使用した。

■引裂き強さ試験 各印象材の引裂き強さは、JIS T 6512:2016(寒天印象材)5.7引裂き強さ試験に準じて評価した。精密印象材の強度を確認するために、ARI・ARLを試験した(図1)。その結果、連合印象用アルジネート印象材のARIの引裂き強さは0.9N/mmであり、ARLと比較して有意に高い値を示した(p<0.05)(図2)。

図2 精密印象材の引裂き強さ試験の結果

1.1

0.8

0.6

0.3

0.0

引き裂き強さ(

N/m

m)

ARI ARL

Different superscript letters represent significant results( p < 0.05)

b

a●試験方法1.金型に練和した印象材を流し込み、金属平板で圧接し、金型を35℃恒温水槽に入れ口腔内保持時間保持

2.恒温水槽から金型を取り出し,硬化した試験片をオートグラフにセットし、500mm/minで矢印方向に引張り、測定した破断荷重(N)より引裂き強さ(N/mm)を求めた

19±0.05mm

102±0.5mm

厚さ4.00mm試験片寸法

図1 JIS T 6512:2016(寒天印象材)5.7引裂き強さ試験に準じた評価

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Clinical Forum

《 略 歴 》●2003年 博士(歯学)取得●2017年 神奈川歯科大学大学院歯学研究科 教授●2018年 関東学院大学材料・表面工学研究所 客員教授

二瓶智太郎 Dental Materials Senior Advisor、  歯科保存治療専門医・指導医、接着歯科治療認定医( )

《 略 歴 》●2000年 神奈川歯科大学卒業●2008年 博士(歯学)取得●2016年 神奈川歯科大学附属病院 診療科講師●2018年 神奈川歯科大学大学院歯学研究科 准教授

大橋 桂 Dental Materials Senior Advisor、  歯科保存治療認定医( )

図4 ベースアルジネート印象材との接着試験の結果

図3 JIS T 6512:2016(寒天印象材)7.7引張接着強さ試験に準じた評価

■引張接着試験 連合印象では、精密印象材とベースアルジネート印象材との確実な接着が、印象材として必要となる正確な印象採得や、再現性の高い作業模型に繋がる。精密印象材とベースアルジネート印象材との接着強さは、JIS T 6512:2016(寒天印象材)7.7引張接着強さ試験に準じて評価した(図3)。 その結果、連合印象用アルジネート印象材のARIとAFPとの接着強さは有意に高い値を示し(p<0.05)、精密印象材を流し込んだ30秒後に圧接した群でも高い接着強さであった(120kPa)(図4)。試験後の破断面は、ARIとAFPでは精密印象材を流し込んだ直後ならびに30秒後に圧接した群に関わらず、すべての試料で精密印象材内あるいはベースアルジネート印象材内の凝集破壊であった(図5)。

■症例 アローマインジェクションを用いて連合印象採得した症例写真を以下に示す。 寒天印象材ではアンダーカットに流れなかったり、撤去時にベースアルジネート印象材から剥がれたり、あるいは粘膜との移行部に段差が生じるなどの採得不良が生じる場合がある。

 印象範囲が広い場合、アローマインジェクションは寒天印象材と比較して操作時間が長く、ベースアルジネート印象材を口腔内に挿入するタイミングにも余裕があるため、支台歯周囲や粘膜との移行部も滑らかな印象が得られ、石膏を注入した作業模型も精密性が得られている。

図5-1 接着試験後の破断面   (精密印象材:ARI、ベースアルジネート印象材:AFP)

図5-2 接着試験後の破断面   (精密印象材:ARL、ベースアルジネート印象材:AFP)

直後接着

30秒後接着

直後接着

30秒後接着

図6 パーシャルデンチャー症例

図7 ブリッジ症例

140

120

100

80

60

40

20

0

引張接着強さ(k

Pa)

ARI-0 s ARI-30 s ARL-0 s ARL-30 s

Different superscript letters represent significant results( p < 0.05)(n=5)

b

B

a

A

●参考文献1.二瓶智太郎ら,2020年度春季第75回日本歯科理工学会学術講演会,日歯理工誌39,43,2020.2.二瓶智太郎ら,日本歯科保存学会2020年度春季学術大会プログラム,89,2020.3.二瓶智太郎ら,日本補綴歯科学会第129回学術大会プログラム・抄録集,102,2020.

●試験方法1.ベースアルジネート印象材を練和し、型2つに流し込み、一方に精密印象材を流すためのくぼみを作る

2.くぼみに精密印象材を流し込み、上下の型を直後、または30秒後に圧接する3.35℃恒温水槽でベースアルジネート印象材の口腔内保持時間を保持後に取り出し、オートグラフにセット後、500 mm/minで矢印方向に引張り、測定した破断荷重(N)を試験片開口部断面積で除し、引張接着強さ(kPa)を求めた

6 欠損。支台歯歯頸部および粘膜移行部が明瞭に印記されている。寒天印象材の場合、支台歯の欠損側歯頸部の形態再現性が不明瞭な場合があるが、本症例では印象で得られた形態が的確に再現されており、石こう模型の面荒れも認められない。

6 が保存不可能となったため、抜歯し1週間後に印象採得。7 4 支台歯でのプロビジョナルブリッジを製作予定。

無圧排にて印象採得した支台歯マージン部や、ポンティック部の粘膜面も明瞭である。

試験片開口部内径:19±0.05 mm

■連合印象用アルジネート印象材の優位性 連合印象用アルジネート印象材の「アローマインジェクション」は、寒天印象材と比較して高い引裂き強さであった。これは、アルジネート印象材が網状の高分子であり、線状高分子の寒天印象材と比べて強度が高いため、臨床において印象採得撤去時に寒天印象材で生じやすい切り裂かれる危険性は低いと示唆された。また、ベースアルジネート印象材との接着性において

は、アローマインジェクションは流し込んだ30秒後に圧接しても精密印象材内あるいはベースアルジネート印象材内の凝集破壊であったことから、化学的にベース印象材と結合したと考えられ、臨床においても寒天印象材のような早急な操作は必要なく、ある程度余裕をもった操作(約30秒間)でもベース印象材から剥離する危険性は低いと示唆された。